説明

FRP製防音壁の取付構造

【課題】防音壁と隣接して高圧ケーブルが設置されるような不燃性が要求される場所に設置可能で、FRP製防音壁を軽量のまま容易に施工可能で、ハンドリング時や施工時にぶつけても不燃材料が割れたりすることがない、軽量で施工性に優れたFRP製防音壁の取付構造を提供することにある。
【解決手段】少なくとも繊維強化プラスチックを用いてなる防音壁を建築物躯体に取り付ける構造であって、防音壁に設けられた取付部が建築物躯体に埋設されたアンカーボルトに固定されるとともに、防音壁に隣接するように配置された無機質ボードと接続された接続部材が前記アンカーボルトに固定されることにより防音壁と無機質ボードが固定されることを特徴とする防音壁の取付構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源からの騒音を遮音(防音を含む)するため、例えば鉄道用の高欄や道路などに設けられるFRP製防音壁を取り付ける、FRP製防音壁の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
高架橋や高速道路に設置される防音壁として、従来の場所打ち鉄筋コンクリート製に代わり、より軽量、高品質で、現場施工を短工期でおこなうことが可能な工場製品のコンクリート製防音壁(プレキャストコンクリート防音壁)が近年採用されるようになってきた。また、近年は都市の過密化により、鉄道や道路沿線の住宅も高層化しており、防音壁もより高くする必要に迫られているが、従来のコンクリート製や金属製の防音壁では強度設計の面からますます重量が増加することになり、高架橋躯体も含めた建設工事が一層困難になるという問題がある。
【0003】
それに対して最近では、より軽量な素材、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)などを用いた防音壁が採用される例が増えてきた。材料として繊維強化プラスチックなどを用いた防音壁は、軽量性ゆえの取付工事の容易さや、コンクリート製品でみられるひび割れ等の問題がなく、保守の簡素化が図れるという利点もあり(例えば、特許文献1参照)、今後も採用例が増加するものと考えられている。
【0004】
繊維強化プラスチックを防音壁の材料に用いる場合は、その取り扱い性や素材の管理観点から、また工事現場での作業時間を削減する観点から、工場で成形した成形品をそのまま工事現場に搬入して施工するのが一般的である。
【0005】
ここで、鉄道高架橋に設置される防音壁の場合、高架橋によっては防音壁の軌道側に設けられた溝に沿って高圧電気ケーブルが設置され、防音壁の下部と高圧ケーブルが隣接して配置される場合がある。この場合、万が一高圧電気ケーブルの短絡が起こると、発生した火花等によりケーブルが燃焼し、防音壁に延焼する可能性があるため、高圧電気ケーブルが隣接する防音壁の下部は不燃材料であることが要求されることがある。
【0006】
場所打ち鉄筋コンクリート製、プレキャストコンクリート防音壁は不燃材料であるため、このような高圧電気ケーブルが隣接する場所に設置することが可能である。しかし、繊維強化プラスチックは母材が樹脂であるため、難燃剤の母材樹脂への添加により難燃化可能であるが、不燃化することは現状の技術では不可能である。したがって、繊維強化プラスチックを用いた防音壁は、軽量、易施工性、保守の簡素化というメリットがあるにも関わらず、上述のような不燃が要求される場所には設置することができないという問題があった。
【0007】
なお、繊維強化プラスチックの表面を不燃化する方法としては、特許文献2や特許文献3に記載がある。特許文献2に記載の建物外壁用パネルは、FRP製外側面版の外表面に硅砂、大理石等の鉱物質粒子を塗布することにより耐熱性、耐火性を付与している。ここで、鉱物質粒子層は、硅砂等の粒子をFRP製外側面板の母材であるポリエステル樹脂が未硬化で粘性を失わない状態で散布し形成する。さらに、鉱物質粒子層の表面には、ポリエステル樹脂等の合成樹脂接着剤を塗布して鉱物質粒子層を覆う連続被膜を形成し、連続被膜とFRP製外側面板とを同材質結着とすることにより結合強度の強化を図り、連続被膜の内側に鉱物質粒子を包み込むことにより該粒子の脱落を阻止する構成としている。
【0008】
しかし、特許文献2に記載の構成では、最外層が樹脂からなる連続被膜であるため、完全な不燃とすることはできないという問題がある。また、十分な不燃仕様を達成するには鉱物質粒子の塗布厚みを十分厚くする必要があるが、この場合、FRP製外側面版の母材樹脂および鉱物質粒子の上に塗布する合成樹脂接着剤が鉱物質粒子間に入り込まず、鉱物質粒子がFRP製外側面版に結着、固定されないという問題がある。
【0009】
また、特許文献3に記載の複合防音パネルは、表面に凹凸面またはポーラス層を有する無機質ボードと、該無機質ボードに接合されたFRP層とからなり、FRP層のマトリックス樹脂が凹凸面またはポーラス層に入り込むことによって、FRP層と無機質ボードが一体化された構成としている。
【0010】
しかし、特許文献3に記載の方法において強度、剛性をFRP層で負担し、不燃化を無機質ボードで持たせた場合、パネル成形時にFRP層と無機質ボードを一体化するため、この方法を採用すると防音壁自体の重量が重くなり、施工性が悪くなるという問題や、ハンドリング時や施工時にぶつけたりすると表面の無機質ボードが割れたりするといった問題がある。
【特許文献1】特許第3628276号公報
【特許文献2】特公平2−57619号公報
【特許文献3】特開2003−232015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、防音壁と隣接して高圧ケーブルが設置されるような不燃性が要求される場所に設置可能で、FRP製防音壁を軽量のまま容易に施工可能で、ハンドリング時や施工時にぶつけても不燃材料が割れたりすることがない、軽量で施工性に優れたFRP製防音壁の取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
(1)少なくとも繊維強化プラスチックを用いてなる防音壁を建築物躯体に取り付ける構造であって、防音壁に設けられた取付部が建築物躯体に埋設されたアンカーボルトに固定されるとともに、防音壁に隣接するように配置された無機質ボードと接続された接続部材が前記アンカーボルトに固定されることにより防音壁と無機質ボードが固定されることを特徴とする防音壁の取付構造。
【0013】
(2)少なくとも繊維強化プラスチックを用いてなる防音壁を建築物躯体に取り付ける構造であって、防音壁に設けられた取付部が建築物躯体に埋設されたアンカーボルトに固定されるとともに、防音壁と、防音壁に隣接するように配置されたと無機質ボード間に充填されたコンクリートにより防音壁と無機質ボードが固定されることを特徴とする防音壁の取付構造。
【0014】
(3)前記防音壁と、前記無機質ボード間にコンクリートが充填されることを特徴とする(1)に記載の防音壁の取付構造。
【0015】
(4)前記無機質ボードの前記接続部材が接続される部分に少なくとも凹部を有することを特徴とする(1)に記載の防音壁の取付構造。
【0016】
(5)前記無機質ボードの前記コンクリートが充填される面に少なくとも凹部を有し、該凹部に該コンクリートが充填されていることを特徴とする(2)または(3)に記載の防音壁の取付構造。
【0017】
(6)前記無機質ボードに設けられた凹部が、該無機質ボードの全幅に亘って連続する一定断面の凹形状であることを特徴とする(4)または(5)に記載の防音壁の取付構造
(7)前記無機質ボードに設けられた凹部が、該無機質ボードの全幅に亘って連続する一定断面の凹形状であり、かつ前記接続部材が、前記無機質ボードに設けられた凹部の一端部側から挿入されることにより、接続部材と無機質ボードが接続されるように構成されていることを特徴とする(4)に記載の防音壁の取付構造。
【0018】
(8)前記無機質ボードの厚みが10〜100mmの範囲にあることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の防音壁の取付構造。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下に説明するとおり、FRP製防音壁の必要な部分に十分な不燃性能を付与することができ、かつ軽量なFRP製防音壁を、不燃材の料取り付けによる重量増なしで、容易に建築物躯体に取り付けることが可能なFRP製防音壁の取付構造を得ることができる。
【0020】
本発明の防音壁の取付構造は、FRP製防音壁と、十分な不燃性能を発揮可能な無機質ボードを該防音壁と隣接するように配置、固定することにより、高圧ケーブルが防音壁に隣接して配置されるような場所(例えば鉄道の沿線等)でも、軽量なFRP製防音壁を設置することが可能である。
【0021】
また、本発明の防音壁の取付構造は、建築物躯体に対し軽量なFRP製防音壁と、不燃材料である無機質ボードを別に取り付け可能な構造とすることにより、FRP製防音壁を軽量のまま容易に施工することが可能である。
【0022】
さらに、一般的に靱性が低い無機質ボードとFRP製防音壁を、別に施工可能な構造とすることにより、大型の防音壁の輸送、ハンドリング、施工時でも衝撃による無機質ボードの割れを防ぐことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明が、図面に記載された態様に限定される訳ではない。
【0024】
図1は、本発明の一実施態様に係わる防音壁の取付構造における、FRP製防音壁の設置例を示す斜視図である。図2は、図1の取付構造におけるA−A矢視の縦断面図を、図3は、図2の部分拡大図を示す。
【0025】
実際の防音壁の設置に際しては、図16に示すように、FRP製防音壁1を複数体水平方向に併設して連接することにより、所望の防音壁を構成する。
【0026】
FRP製防音壁1は図14に示すように、防音パネル部2と、該防音パネル部2の高さLの2〜20%の奥行きWを有する取付部3とからなり、前記防音パネル部2はパネル面5と、該パネル面4を補強するスティフナ6とからなり、前記取付部3には固定用の貫通孔4が設けられている。FRP製防音壁1の縦断面構造は図15に示すように、取付部3は補強部材22とFRPスキン材21から構成され、FRPスキン材21は防音壁1の全体に亘って表面に存在している。FRPスキン材21は本発明に係わる防音壁の外表面を構成するもので、その強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が挙げられ、その繊度は100〜2000dtexの範囲内のものが好ましい。また、マトリックス樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
【0027】
補強部材22は、取付部3の強度と剛性を向上するための構造部材である。その構造、材質は特に限定されるものではないが、その役割上、構造部材としての機能を十分に発揮するために、高い強度と剛性を有すると同時に、FRPスキン材21と完全に一体化されていることが重要である。本実施態様においては、補強部材22およびFRPスキン材21は同じマトリックス樹脂を用いたFRP製としており、これらを一体的に成形することにより、構造的に完全に一体化されたものとしている。本実施態様では、補強部材22は図15に示すように、発泡プラスチック23を内包する構造としている。
【0028】
本実施態様における防音壁の建築物躯体8への取付構造では、図1、図2、図3に示すように防音壁1の取付部3に設けられた貫通孔4を建築物躯体8に埋設されたアンカーボルト9に挿入、固定するとともに、防音壁1に隣接して配置した無機質ボード7と接続された接続部材16を該アンカーボルトに固定することにより、防音壁1と無機質ボード7を建築物躯体8に固定する構造となっている。これにより、防音壁1の表面の一部が無機質ボード7で覆われる構造となり、FRP製の防音壁1の表面を不燃化することが可能となる。
【0029】
建築物躯体8に埋設されたアンカーボルト9と、防音壁1の取付部3を固定する手段は特に限定するものではないが、アンカーボルト9の軸力を取付部3に十分伝達し、かつ取付部3を構成する補強部材22およびFRPスキン材21に作用する応力集中を避けるため、図3に示すように座金プレート12を介してナット14a、14bで固定する方法が好ましい。
【0030】
無機質ボード7に接続された接続部材16とアンカーボルト9を固定する手段は特に限定するものではないが、無機質ボード7設置時の位置調整が容易とするため、図3に示すようにナット15を用いることが好ましい。無機質ボード7と接続部材16を接続する手段は、アンカーボルト、接着、勘合等、特に限定しないが、図3に示すように、無機質ボード7に設けられた凹部17に接続部材16を勘合する方法が、コスト、作業性の面から好ましい。
【0031】
無機質ボード7に設ける凹部17は、図4−a(a)に示すような無機質ボード7の幅方向に不連続な凹部17a、あるいは図4−b(b)に示すような無機質ボード7の全幅に亘って連続した一定断面の凹部17bのいずれであっても良い。無機質ボード7に設けられた凹部17が図4−b(b)に示す形状の場合、前記接続部材16を無機質ボード7の凹部17bの一端部側から挿入可能で、無機質ボード7表面の法線方向に外れにくい構造を採ることができる上に、無機質ボード7の凹部17bの加工を容易にできるのでより好ましい。ここで、全幅に亘って連続した一定断面とは、幅方向のいかなる箇所の断面の形状も一定であることを意味するが、前記目的を損なわない範囲内(例えば、幅方向の5%以下)で、形状が異なる箇所があっても差し支えはない。
【0032】
無機質ボードに設ける凹部17の断面形状は、勘合した接続部材16に無機質ボード7表面の法線方向に張力をかけた時に容易に抜けない形状としていればよく、加工性、コストを考慮すると図4−a(a)、図4−b(b)に示す鉤型形状であることがより好ましい。無機質ボードの材質は硅砂、パーライト、大理石等の鉱物質、セメント、石膏、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、セラミックス等、必要な不燃性能を発揮できるものであれば、特に限定するものではない。
【0033】
無機質ボードの厚みは、その材質により必要な不燃性能を満足するよう適宜選定可能であるが、易施工性のための軽量性と、設置場所のスペースを考慮して決定することが望ましい。無機質ボードの厚みが100mmを越えると、無機質ボード1枚の幅を防音壁1体の標準的寸法1m〜2mとした場合でも、数十キログラム〜百キログラムの重量となり、設置時の作業性が悪化する上、鉄道高架橋の防音壁として設置する場合は、防音壁の軌道側に設けられた高圧電気ケーブル設置のための溝幅が十分確保できない等、設置スペース上の問題が生じることがある。無機質ボードの厚みが10mmより小さいと、上述の凹部の加工が困難となったり、設置時の加力に耐えられず割れるといった問題の他、十分な不燃性を確保できないといった問題が生じることがある。従って無機質ボードの厚みはこれらの問題を勘案し、10mm〜100mmの範囲であることが好ましい。軽量性、強度、省スペース性、加工性、不燃性、全てを平均的に満足する厚みとして20mm〜70mmがより好ましい。
【0034】
接続部材16の材質は、無機質ボード7をアンカーボルト9に支持、固定できる剛性と強度を確保できるものであれば金属、プラスチック等特に限定しないが、雨水や紫外線等の屋外環境使用に対する耐食性、耐久性のある材質である溶融亜鉛メッキしたスチール、ステンレスがより好ましい。コスト面から溶融亜鉛メッキしたスチールがより好ましい。接続部材16の形状は、前述のとおり無機質ボード7の凹部17に勘合し、無機質ボード7表面の法線方向に張力をかけた時に容易に抜けない形状としていればよく、加工性、コストを考慮すると図5に示す鉤型形状であることがより好ましい。また接続部材16には所定の位置に上述のアンカーボルト9に固定するための取付孔18が設けられている。
【0035】
図6は、本発明の別の実施態様に係わる防音壁の取付構造における、FRP製防音壁の設置例を示す斜視図である。図7は、図6取付構造におけるB−B矢視の縦断面図を、図8は、図7の部分拡大図を示す。
【0036】
本実施態様における防音壁1は、図1、図2、図3に示すものと同一のものとしている。本実施態様における防音壁の建築物躯体への取付構造では、図6、図7、図8に示すように防音壁1の取付部3に設けられた貫通孔4を建築物躯体8に埋設されたアンカーボルト9に挿入、固定するとともに、防音壁1と隣接するように無機質ボード7を配置し、防音壁1と無機質ボード7間にコンクリート19を充填することにより、防音壁1と無機質ボード7を建築物躯体8に固定する構造となっている。これにより、防音壁1の表面の一部が無機質ボード7で覆われる構造となり、FRP製の防音壁1の表面を不燃化することが可能となる。
【0037】
本実施態様においても、建築物躯体8に埋設されたアンカーボルト9と、防音壁1の取付部3を固定する手段は特に限定するものではないが、前述の理由により、図8に示すように座金プレートを介してナットで固定する方法が好ましい。
【0038】
前記コンクリート19とアンカーボルト9とは、コンクリート19がアンカーボルト9のねじ部に入り込むことにより定着され、前記コンクリート19と無機質ボード7とは、コンクリート19が無機質ボード7に設けられた凹部20に入り込むことにより定着される。これによりアンカーボルト9に固定された防音壁1と無機質ボード7とが間接的に固定される。
【0039】
無機質ボード7に設ける凹部20は、図9−a(a)に示すような無機質ボード7の幅方向に不連続な一定断面の凹部20a、あるいは図9−b(b)、図9−c(c)に示すような無機質ボード7の全幅に亘って連続した一定断面の凹部20b、20cのいずれであっても良い。該凹部20a、20b、20cの断面形状は、充填されるコンクリート19と十分な定着力が得られる形状であれば特に限定しないが、図9(a)、図9(b)、図9(c)に示すように無機質ボード7の表面からある深さM1での厚み直交方向切断面における凹部の開口幅S1、M1<M2となる深さM2での凹部の開口幅S2としたとき、S2>S1となる形状であることがより好ましい。なお、全幅に亘って連続した一定断面とは、上述のとおり、幅方向のいかなる箇所の断面の形状も一定であることを意味するが、前記目的を損なわない範囲内(例えば、幅方向の5%以下)で、形状が異なる箇所があっても差し支えはない。
【0040】
また、前記無機質ボード7の前記コンクリート19が充填される面、および前記防音壁1の前記コンクリート19が充填される面には、コンクリート19との定着をさらに改善するために、コンクリート19充填直前に打ち継ぎ材としてエポキシ樹脂等を塗布してもよい。
【0041】
本実施態様においても、無機質ボードの材質は硅砂、パーライト、大理石等の鉱物質、セメント、石膏、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、セラミックス等、必要な不燃性能を発揮できるものであれば、特に限定するものではない。無機質ボードの厚みについては、前述のとおり軽量性、強度、省スペース性、加工性、不燃性を考慮し、10mm〜100mmの範囲であることが好ましく、20mm〜70mmがより好ましい。
【0042】
図10は、本発明のさらに別の実施態様に係わる防音壁の取付構造における、FRP製防音壁の設置例を示す斜視図である。図11は、図10の取付構造におけるC−C矢視の縦断面図を、図12は、図11の部分拡大図を示す。本実施態様における防音壁1は図1、図2、図3、図6、図7、図8に示すものと同一のものとしている。
【0043】
本実施態様における防音壁1の建築物躯体8への取付構造では、図11、図12に示すように防音壁1の取付部3に設けられた貫通孔4を建築物躯体8に埋設されたアンカーボルト9に挿入、固定するとともに、防音壁1に隣接して配置した無機質ボード7と接続された接続部材16を該アンカーボルト9に固定するとともに、防音壁1と無機質ボード7間にコンクリート19を充填することにより、防音壁1と無機質ボード7を建築物躯体8に固定する構造となっている。これにより、防音壁1の表面の一部が無機質ボード7で覆われる構造となり、FRP製の防音壁1の表面を不燃化することが可能となる。
【0044】
本実施態様においても、建築物躯体8に埋設されたアンカーボルト9と、防音壁1の取付部3を固定する手段は特に限定するものではないが、前述の理由により、図12に示すように座金プレートを介してナットで固定する方法が好ましい。
【0045】
無機質ボード7に接続された接続部材16とアンカーボルト9を固定する手段についても、特に限定するものではないが、無機質ボード7設置時の位置調整が容易とするため、図12に示すようにナット15を用いることが好ましい。無機質ボード7と接続部材16を接続する手段は、アンカーボルト、接着、勘合等、特に限定しないが、図12に示すように、無機質ボード7に設けられた凹部17に接続部材16を勘合する方法が、コスト、作業性の面から好ましい。無機質ボード7に設ける接続部材16との勘合のための凹部17は、本実施態様においても、図4−a(a)に示すような無機質ボード7の幅方向に不連続な凹部17a、あるいは図4−b(b)に示すような無機質ボード7の全幅に亘って連続した一定断面の凹部17bのいずれであっても良い。無機質ボード7に設けられた接続部材16との勘合のための凹部17が図4−b(b)に示す形状の場合、前記接続部材16を無機質ボード7の凹部17bの一端部側から挿入可能で、無機質ボード7表面の法線方向に外れにくい構造を採ることができる上に、無機質ボード7の凹部17bの加工を容易にできるのでより好ましい。なお、全幅に亘って連続した一定断面とは、上述のとおり、幅方向のいかなる箇所の断面の形状も一定であることを意味するが、前記目的を損なわない範囲内(例えば、幅方向の5%以下)で、形状が異なる箇所があっても差し支えはない。
【0046】
本実施態様においても、無機質ボード7に設ける凹部17の断面形状は、勘合した接続部材16に無機質ボード7表面の法線方向に張力をかけた時に容易に抜けない形状としていればよく、加工性、コストを考慮すると図4−a(a)、図4−b(b)に示す鉤型形状であることがより好ましい。無機質ボードの材質についても、硅砂、パーライト、大理石等の鉱物質、セメント、石膏、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、セラミックス等、必要な不燃性能を発揮できるものであれば、特に限定するものではない。無機質ボードの厚みについては、前述のとおり軽量性、強度、省スペース性、加工性、不燃性を考慮し、10mm〜100mmの範囲であることが好ましく、20mm〜70mmがより好ましい。
【0047】
接続部材16の材質は前述の通り、無機質ボード7をアンカーボルト9に支持、固定できる剛性と強度を確保できるものであれば金属、プラスチック等特に限定しないが、雨水や紫外線等の屋外環境使用に対する耐食性、耐久性のある材質である溶融亜鉛メッキしたスチール、ステンレスがより好ましい。コスト面から溶融亜鉛メッキしたスチールがより好ましい。接続部材16の形状についても、前述のとおり無機質ボード7の凹部17に勘合し、無機質ボード7表面の法線方向に張力をかけた時に容易に抜けない形状としていればよく、加工性、コストを考慮すると図5に示す鉤型形状であることがより好ましい。接続部材16には所定の位置に上述のアンカーボルト9に固定するための取付孔18が設けられている。
【0048】
コンクリート19とアンカーボルト9とは、コンクリート19がアンカーボルト9のねじ部に入り込むことにより定着され、前記コンクリート19と無機質ボード7とは、コンクリート19が無機質ボード7に設けられた凹部20に入り込むことにより定着される。これによりアンカーボルト9に固定された防音壁1と無機質ボード7とが間接的に固定される。
【0049】
無機質ボード7に設けるコンクリート19が充填される凹部20は、図9−a(a)に示すような無機質ボード7の幅方向に不連続な一定断面の凹部20a、あるいは図9−b(b)、図9−c(c)に示すような無機質ボード7の全幅に亘って連続した一定断面の凹部20b、20cのいずれであっても良い。無機質ボード7のコンクリート19が充填される凹部20の断面形状は、充填されるコンクリートと十分な定着力が得られる形状であれば特に限定しないが、図9−a(a)、図9−b(b)、図9−c(c)に示すように無機質ボードの表面からある深さM1での厚み直交方向切断面における凹部の開口幅S1、M1<M2となる深さD2での凹部の開口幅S2としたとき、S2>S1となる形状であることがより好ましい。無機質ボード7に設けるコンクリート19が充填される凹部20、および接続部材16との勘合のための凹部17をどちらも無機質ボード7の全幅に亘って連続した一定断面の凹部とすることにより、無機質ボード7の凹部加工を容易にし、かつ接続部材16を該凹部の一端部側から挿入することで接続部材が無機質ボード7表面の法線方向に外れにくい構造とすることができる上、さらに充填されるコンクリート19と十分な定着力が得られる形状とすることができる。なお、全幅に亘って連続した一定断面とは、上述のとおり、幅方向のいかなる箇所の断面の形状も一定であることを意味するが、前記目的を損なわない範囲内(例えば、幅方向の5%以下)で、形状が異なる箇所があっても差し支えはない。
【0050】
本実施態様においても、前記無機質ボード7の前記コンクリート19が充填される面、前記防音壁1の前記コンクリート19が充填される面にはコンクリート19との定着をさらに改善するために、コンクリート充填直前に打ち継ぎ材としてエポキシ樹脂等を塗布してもよい。
【実施例】
【0051】
以上の本発明の防音壁の実施例について説明する。
【0052】
まず、図14および図15における防音壁1に対し、マトリックス樹脂として難燃剤である水酸化アルミニウムを30重量部添加した不飽和ポリエステル樹脂を用い、ハンドレイアップ成形法により取付部3の補強部材22を形成し、その後防音壁1を形成した。
【0053】
取付部3の補強部材22として発泡プラスチックを内包する構造で以下の構成で形成した。
【0054】
補強部材22の成形型に、補強繊維基材として(1)ガラスストランドマット基材、(2)ガラス0/±45°/ストランドマット基材、(3)ガラス0/90゜/ストランドマット基材、(4)ガラス0/±45°/ストランドマット基材、(5)ガラスストランドマット基材の順に配置し、樹脂を含浸した。次に、発泡プラスチック5として比重0.03の(6)硬質ウレタンフォームを配置した。
【0055】
ここで、(6)硬質ウレタンフォームには貫通孔4に相当する部分に事前に孔を開けておき、該孔部分に、予め成形、硬化しておいた円筒状のFRP製パイプを挿入しておいた。なお、該FRP製パイプはマンドレルに(10)ガラスストランドマット基材を1周、(11) ガラス0/90゜/ストランドマット基材を6周させて、樹脂を含浸させて硬化させた後、脱芯し、外径を加工しておいたものを使用した。
【0056】
次に、前記補強繊維基材を(5)、(4)、(3)、(2)、(1)の順に折り返し、(9)硬質ウレタンフォームを完全に覆い、樹脂を含浸した。最後に上型をセットし、樹脂を硬化させてFRP製の補強部材22を得た。そして、防音壁1を以下の構成で形成した。
【0057】
防音壁1の成形型に難燃性ゲルコート樹脂を塗布し、補強繊維基材としてガラスストランドマット基材、ガラス0/90゜/ストランドマット基材、一方向に引き揃えられた炭素繊維基材(防音壁鉛直方向に配置)、ガラスストランドマット基材の順に配置し、樹脂を含浸させFRP層12とした。その上に防音パネル部2には芯材11として比重0.3の木質系コアを、取付部3には先に成形した補強部材22を配置した。そして、さらにその上にFRPスキン材21として、ガラスストランドマット基材、ガラス0/90゜/ストランドマット基材、ガラスストランドマット基材を配置し、樹脂を含浸させ、最後に上型をセットし、防音壁1を成形した。
【0058】
以上のようにして得られた本発明のFRP製防音壁1は、防音部パネル部2の高さLが2000mm、幅1040mm、厚さが26mm、取付部3の奥行きWが200mm、高さが89mmで、重量は74kgであった。
【0059】
FRP製防音壁1を複数体水平方向に並設するため、図12に示すように防音壁1の取付部3に設けられた貫通孔4と同一ピッチとなるよう、溶融亜鉛メッキ処理したアンカーボルト(M16)9を建築物躯体8に埋設した。
【0060】
次に、図10、図11、図12に示す取付構造となるよう、防音壁1の取付部3に設けられた貫通孔4をアンカーボルト9に通し、防音壁1を建築物躯体8上に複数体順次配置した。ここで防音壁1の取付部3の下面全周には発泡ポリエチレン製のせき止め材11を予め貼り付けておいた。
【0061】
併設された防音壁1は、高さ調整をおこなった後、各防音壁1の貫通孔4の上側からグラウト材10を注入し、建築物躯体8と取付部3の隙間、および貫通孔4とアンカーボルト9の隙間をグラウト材10で充填した。
【0062】
次に、取付部3の上側に座金プレート12を載せ、平座金13、緩止ナット14a、14bでアンカーボルト9に固定した。ここで、座金プレート12、平座金13、緩止ナット14a、14bすべて溶融亜鉛メッキ処理したものを使用した。
【0063】
次に、無機質ボード7に設けた接続部材16勘合用の凹部17に接続部材16を挿入し、該無機質ボード7を防音壁1に隣接するように配置し、前述のアンカーボルト9に接続部材16をナット15で固定した。
【0064】
ここで、無機質ボード7として、セメント、けい酸カルシウムおよび無機繊維を主原料とする押し出し成形セメント板(幅3000mm×高さ395mm×厚さ24mm、重量37kg)に図13に示すように幅方向に連続した凹部17b、20bを加工したものを使用した。無機質ボード7のコンクリート19が充填される面に設けられた凹部20bの寸法としてはSa=35mm、Sb=45mm、D=5mmとした。
【0065】
接続部材を勘合するための無機質ボードに設けられた凹部17bの寸法としては、図13に示すTa=3.5mm、Tb=5.5mm、Ha=5mm、Hb=3.5mmとした。
【0066】
接続部材16としては図5に示す寸法、E=8mm、F=100mm、G=50mm、t=3.2mm、J=60mm、K=17mmに鉄板を折り曲げ加工、孔開け加工した後、溶融亜鉛メッキ処理して製作した。
【0067】
最後に、防音壁1と無機質ボード7間に、無機質ボード7の上端までコンクリート19を充填し、30日間コンクリートを養生、硬化させ、図10、図11、図12の防音壁1の取付構造とした。
【0068】
施工した防音壁1の取付構造において、無機質ボード7は強固に防音壁1および建築物躯体8に固定され、FRP製防音壁1の表面の一部を覆うことにより不燃構造とすることが可能となった。また、無機質ボード7にひび割れ等の損傷なく、FRP製防音壁1を軽量のまま施工することができた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、鉄道用の防音壁や高欄、道路などに設けられる防音壁の他、屋内に設置される防音壁や、工事現場の騒音に対する防音壁、特に耐火、不燃が要求される環境で使用する防音壁に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施態様に係わる防音壁の取付構造における、FRP製防音壁の設置例を示す斜視図である。
【図2】図1の防音壁の取付構造におけるA−A矢視の縦断面図である。
【図3】図2の部分拡大図である。
【図4−a】本発明の一実施態様に係わる防音壁の取付構造における、無機質ボードの一例を示す斜視図である。
【図4−b】本発明の一実施態様に係わる防音壁の取付構造における、無機質ボードの一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施態様に係わる防音壁の取付構造における、接続部材の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の他の実施態様に係わる防音壁の取付構造における、FRP製防音壁の設置例を示す斜視図である。
【図7】図6の防音壁の取付構造におけるB−B矢視の縦断面図である。
【図8】図7の部分拡大図である。
【図9−a】本発明の他の実施態様に係わる防音壁の取付構造における、無機質ボードの一例を示す斜視図である。
【図9−b】本発明の他の実施態様に係わる防音壁の取付構造における、無機質ボードの一例を示す斜視図である。
【図9−c】本発明の他の実施態様に係わる防音壁の取付構造における、無機質ボードの一例を示す斜視図である。
【図10】本発明のさらに他の実施態様に係わる防音壁の取付構造における、FRP製防音壁の設置例を示す斜視図である。
【図11】図10の防音壁の取付構造におけるC−C矢視の縦断面図である。
【図12】図11の部分拡大図である。
【図13】本発明のさらに他の実施態様に係わる防音壁の取付構造における、無機質ボードの一例を示す斜視図である。
【図14】本発明の防音壁の取付構造におけるFRP製防音壁の斜視図である。
【図15】図14のD−D矢視の縦断面図である。
【図16】本発明の防音壁の取付構造におけるFRP製防音壁を複数体併設した設置例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
1:FRP製防音壁
2:防音パネル部
3:取付部
4:貫通孔
5:パネル面
6:スティフナ
7:無機質ボード
8:建築物躯体
9:アンカーボルト
10:グラウト材
11:堰止め材
12:座金プレート
13:平座金
14a、14b:緩み止めナット
15:ナット
16:接続部材
17、17a、17b:接続部材固定用凹部
18:取付孔
19:充填コンクリート
20、20a、20b、20c:充填コンクリート定着用凹部
21:FRPスキン材
22:補強部材
23:発泡プラスチック
Ha、Hb、Ta、Tb:接続部材固定用凹部の寸法
E、F、G、K、J、t:接続部材の寸法
M1、M2:充填コンクリート定着用凹部の厚さ方向の位置
S1、S2:充填コンクリート定着用凹部のM1、M2の位置における寸法
Sa:充填コンクリート定着用凹部の表面における寸法
M:充填コンクリート定着用凹部の深さ
Sb:充填コンクリート定着用凹部のMの位置における寸法
L:防音壁の高さ寸法
W:防音壁取付部の奥行き寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも繊維強化プラスチックを用いてなる防音壁を建築物躯体に取り付ける構造であって、防音壁に設けられた取付部が建築物躯体に埋設されたアンカーボルトに固定されるとともに、防音壁に隣接するように配置された無機質ボードと接続された接続部材が前記アンカーボルトに固定されることにより防音壁と無機質ボードが固定されることを特徴とする防音壁の取付構造。
【請求項2】
少なくとも繊維強化プラスチックを用いてなる防音壁を建築物躯体に取り付ける構造であって、防音壁に設けられた取付部が建築物躯体に埋設されたアンカーボルトに固定されるとともに、防音壁と、防音壁に隣接するように配置されたと無機質ボード間に充填されたコンクリートにより防音壁と無機質ボードが固定されることを特徴とする防音壁の取付構造。
【請求項3】
前記防音壁と、前記無機質ボード間にコンクリートが充填されることを特徴とする請求項1に記載の防音壁の取付構造。
【請求項4】
前記無機質ボードの前記接続部材が接続される部分に少なくとも凹部を有することを特徴とする請求項1に記載の防音壁の取付構造。
【請求項5】
前記無機質ボードの前記コンクリートが充填される面に少なくとも凹部を有し、該凹部に該コンクリートが充填されていることを特徴とする請求項2または3に記載の防音壁の取付構造。
【請求項6】
前記無機質ボードに設けられた凹部が、該無機質ボードの全幅に亘って連続する一定断面の凹形状であることを特徴とする請求項4または5に記載の防音壁の取付構造
【請求項7】
前記無機質ボードに設けられた凹部が、該無機質ボードの全幅に亘って連続する一定断面の凹形状であり、かつ前記接続部材が、前記無機質ボードに設けられた凹部の一端部側から挿入されることにより、接続部材と無機質ボードが接続されるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の防音壁の取付構造。
【請求項8】
前記無機質ボードの厚みが10〜100mmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の防音壁の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−a】
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【図4−b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−a】
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【図9−b】
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【図9−c】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−74304(P2009−74304A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244861(P2007−244861)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】