説明

Fcα/μレセプターに対する抗体

【課題】Fcα/μレセプターに対する抗体、及び該抗体を含む血液腫瘍治療又は診断用医薬組成物の提供。
【解決手段】本発明は、Fcα/μレセプターと特異的に反応する抗体、前記抗体を含む、血液腫瘍の治療又は診断用医薬組成物及び悪性腫瘍検出用キット、並びに、Fcα/μレセプターに対する抗体と生体から採取された試料とを反応させ、反応した抗体のシグナルを検出することを特徴とする血液腫瘍の検出方法を提供する。血液腫瘍としては、白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群、及び多発性骨髄腫からなる群から選ばれる少なくとも1つが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fcα/μレセプターに対する抗体、及び該抗体を含む血液腫瘍治療又は診断用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
白血病及び悪性リンパ腫に対する治療法として、従来、主として抗癌剤と放射線による治療が行なわれている。また、骨髄又は造血幹細胞移植などの治療法もここ数年めざましく進歩しており、骨髄非破壊性の幹細胞移植(ミニ移植という)も行なわれている。
【0003】
最近では、各種血液疾患に対し、モノクローナル抗体を用いた治療法が開発されている。例えば、悪性リンパ腫に対してはCD20を標的として、急性骨髄性白血病に対してはCD33を標的として、また慢性リンパ性白血病に対してはCD20又はCD53を標的として、モノクローナル抗体又はキメラ化抗体が使用されている(非特許文献1〜3)。
【0004】
しかしながら、抗体医薬は、正常細胞に発現する標的分子に結合することにより副作用が生じることが多く、また、マウス等の異種動物由来の抗体を使用すると、抗体に対する抗体ができてしまい有効性が認められなくなるなど、解決すべき問題は多数存在する。
【非特許文献1】Mclaughlin P., et al. J Clin Oncol 16:2825, 1998
【非特許文献2】Czuczman MS., et al. J Clin Oncol 17:268, 1999
【非特許文献3】Coiffier B., et al. N Eng J Med 346:235, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、IgMに対するFcレセプターであるFcα/μRを抗原として抗原抗体反応する抗Fcα/μR抗体、並びに当該抗体を含む血液腫瘍の治療又は診断用医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行なった結果、白血病細胞に発現しているFcα/μレセプター(Fcα/μRという)に着目し、このFcα/μRに対する抗体を用いると、白血病細胞の増殖を抑制できること見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
(1)Fcα/μレセプターに対する抗体。
上記抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である。また、本発明は、上記抗体のV領域を含む、キメラ抗体、ヒト型化抗体又はヒト抗体である。
(2)前記(1)に記載の抗体を含む、血液腫瘍の治療又は診断用医薬組成物。
本発明の医薬組成物は、血液腫瘍、例えば白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群及び多発性骨髄腫からなる群から選ばれる少なくとも1つに対して使用することができる。ここで、白血病としては、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病及び成人T細胞性白血病からなる群から選ばれる少なくとも1つが挙げられる。
(3)前記(1)に記載の抗体を含む、血液腫瘍の検出用キット。
本発明のキットは、前記血液腫瘍を検出するために使用することができる。白血病の例は前記の通りである。
(4)Fcα/μレセプターを含む血液腫瘍マーカー。
血液腫瘍は前記の通りである。
(5)Fcα/μレセプターに対する抗体と生体から採取された試料とを反応させ、反応した抗体のシグナルを検出することを特徴とする血液腫瘍の検出方法。また本発明は、Fcα/μレセプターに対する抗体と生体から採取された試料とを反応させて反応した抗体のシグナルを検出し、得られる検出結果を指標として血液腫瘍の状態を評価する方法も提供する。
【0008】
本発明の方法において、血液腫瘍の状態としては、腫瘍の有無、腫瘍の進行度、腫瘍の悪性度、腫瘍の転移の有無及び腫瘍の再発の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。血液腫瘍は前記の通りである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によりFcα/μRに対する抗体が提供される。本発明の抗体は、血液腫瘍細胞(例えば白血病細胞)の増殖を抑制することができるため、血液腫瘍治療剤として有用である。特に、慢性リンパ性白血病患者の白血病細胞にはFcα/μRが強く発現するが、健常血液細胞には発現しないため、健常細胞には細胞傷害を引き起こさず、白血病細胞のみを特異的に攻撃することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
Fcα/μレセプター(Fcα/μR)は、IgA及びIgMに対するFcレセプターであり、細胞外領域に免疫グロブリン(Ig)様ドメインを有するI型膜貫通タンパク質である。本発明は、このFcα/μRに対するモノクローナル抗体であり、Fcα/μR遺伝子を欠如するマウスを免疫することにより作製されたものである。
【0011】
免疫グロブリンは、液性免疫において中心的な働きをなす一方で、細胞性免疫を担う種々のエフェクター細胞(例えばリンパ球、顆粒球、マクロファージなど)に結合することにより、エフェクター細胞の活性化を制御し、炎症やアレルギー、自己免疫などの免疫反応の調節に重要な役割を担っている。免疫グロブリンにはIgG、IgA、IgD、IgE、IgMの5つのクラスが存在し、これらの免疫グロブリンとエフェクター細胞との結合は、エフェクター細胞に発現する受容体、すなわち免疫グロブリンFc領域に対する受容体(Fcレセプターという)を介して行われる。
【0012】
これまで同定されているFcレセプターとして、IgGに対するFcγR、IgE に対するFcεR、IgAに対するFcαRが知られており、その構造や機能の詳細な解析が行われてきた。
【0013】
本発明者は、IgMに対するヒトおよびマウスのFcレセプターであるFcα/μRを同定した(Shibuya A. et a;., Nat. Immunol (2000) 1: 441-446))。Fcα/μRは、細胞外領域に1つの免疫グロブリンドメインを有し、免疫グロブリンファミリーに属する70kDaの分子である。本発明者は、このFcα/μRに着目し、Fcα/μRに対する抗体を用いると、白血病などの血液疾患の治療又は予後改善に有用であり、また、血液疾患の診断にも使用し得ることを見出した。
以下、本発明の抗体及び該抗体を含む血液疾患治療又は診断剤について説明する。
【0014】
2.Fcα/μRに対する抗体の作製
(1)抗原の調製
マウス及びヒトのFcα/μRのアミノ酸配列情報は以下の通りデータベース等から得ることが可能であり、そのアミノ酸配列は配列番号2(マウス)及び配列番号4(ヒト)に示されるものである。
【0015】
マウスFcα/μR:アクセッション番号AB048834
ヒトFcα/μR:アクセッション番号E15470
そして、保存領域のポリペプチド配列は、マウスFcα/μRではGly Gly Ala Val Thr Ile His Cys His Tyr Ala Pro Ser Ser Val Asn Arg His Gln Arg Lys Tyr Trp (配列番号5)、ヒトのFcα/μRではVal Thr Ile Gln Cys His Tyr Ala Pro Ser Ser Val Asn Arg His Gln Arg Lys Tyr Trp (配列番号6)で表される。これらの全長又は保存領域のアミノ酸配列のうちの少なくとも一部(全部又は一部)を含むポリペプチド又はペプチド(単にペプチドともいう)を抗原として使用することができる。
【0016】
ここで、抗原に用いるペプチド配列において、「アミノ酸配列の少なくとも一部」とは、長さに特に限定されるものではない。例えば配列番号2又は4に示すアミノ酸配列のうち連続する8アミノ酸残基以上が挙げられる。また、選択する場所は、細胞外領域であれば特に限定されるものではない。
【0017】
抗原には、配列番号2、4、5又は6に示すアミノ酸配列の少なくとも一部を、単独で又は混合して用いることができる。
ペプチドの作製方法は、化学合成でも、大腸菌などを用いる遺伝子工学的手法による合成でもよく、これらは当業者に周知の方法を用いることができる。
ペプチドの化学合成を行う場合は、ペプチドの合成の周知方法によって合成することができる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置(島津製作所製PSSM-8など)を使用してもよい。
【0018】
ペプチドを遺伝子工学的に合成する場合は、まず、該ペプチドをコードするDNA(例えば配列番号1、3等)を設計し合成する。そして、上記DNAを適当なベクターに連結することによってタンパク質発現用組換えベクターを得、この組換えベクターを目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することによって形質転換体を得る(Sambrook J. et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)。
【0019】
ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドが使用される。さらに、動物ウイルス、昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。組換えベクターの作製は、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位等に挿入してベクターに連結すればよい。形質転換に使用する宿主としては、目的の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞又は昆虫が挙げられる。ヤギ等の哺乳動物を宿主として使用することも可能である。宿主への組換えベクターの導入方法は公知である。
【0020】
そして、前記形質転換体を培養し、その培養物から抗原として使用されるペプチドを採取する。「培養物」とは、(a)培養上清、(b)培養細胞若しくは培養菌体又はその破砕物のいずれをも意味するものである。
【0021】
培養後、目的ペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することによりペプチドを抽出する。また、目的ペプチドが菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、ペプチドの単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、目的のペプチドを単離精製することができる。
【0022】
本発明においては、in vitro翻訳によるペプチド合成を採用することもできる。この場合は、RNAを鋳型にする方法とDNAを鋳型にする方法(転写/翻訳)の2通りの方法を用いることができる。in vitro翻訳システムは、市販のシステム、例えばExpresswayTMシステム(Invitrogen社)、PURESYSTEM(登録商標;ポストゲノム研究所)、TNTシステム(登録商標;Promega社)などを用いることができる。
【0023】
上記のようにして得られたペプチドは、適当なキャリアタンパク質、例えば牛血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン (KLH)、ヒトチログロブリン、ニワトリガンマグロブリン等に結合することも可能である。
【0024】
さらに、本発明においては、Fcα/μRを発現する細胞を抗原として用いることができる。上記形質転換体作製手法と同様にして、適当な宿主細胞に、Fcα/μRをコードする遺伝子を導入し、細胞にFcα/μRを発現させることができる。この場合、宿主細胞としては、例えばBa/F3細胞、BW5147細胞等を挙げることができる。Ba/F3細胞は、マウスのプロB細胞由来であり、BW5147細胞はマウス胸腺腫由来である。
【0025】
また、抗原は、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列又はこれらの部分配列において1又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であってFcα/μRとしての機能を有する変異型Fcα/μRであってもよい。例えば、配列番号2又は4に示すアミノ酸配列のうち1又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が欠失しており、1又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されており、あるいは、1又は複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))の他のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記Fcα/μRと同様の活性を有する変異型タンパク質を使用することもできる。
【0026】
本発明において、細胞に導入するためのFcα/μR遺伝子は、上記Fcα/μRタンパク質又は変異型タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。そのような遺伝子として、例えば配列番号1又は3に示す塩基配列又はこれらの部分配列を有するものを使用することができる。配列番号1又は3に示す塩基配列のうち、コード領域のみの塩基配列であってもよい。また、上記配列番号1又は3に示す塩基配列に相補的な配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、Fcα/μR活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を使用することも可能である。
【0027】
「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイズさせた後の洗浄時の条件であって塩(ナトリウム)濃度が150〜900mMであり、温度が55〜75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が500〜700 mMであり、温度が65℃での条件をいう。
【0028】
遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばGeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)を用いて行うことができる。
【0029】
(2)ポリクローナル抗体の作製
上記の通り作製した抗原を、免疫のため哺乳動物に投与する。哺乳動物は特に限定されものではなく、例えばラット、マウス、ウサギなどを挙げることができるがマウスが好ましい。
抗原の動物一匹あたりの投与量は、アジュバントの有無により適宜設定することができる。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント、等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、足蹠、皮下、腹腔内等に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは1週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜3回免疫を行う。そして、最終の免疫日から3〜7日後に酵素免疫測定法(ELISA又はEIA)、放射性免疫測定法(RIA)等で抗体価を測定し、所望の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0030】
(3)モノクローナル抗体の作製
(3-1)抗体産生細胞の採取
前記のように作製した抗原を、免疫のため哺乳動物、例えばラット、マウス、ウサギなどに投与する。抗原の動物一匹あたりの投与量は、アジュバントの有無により適宜設定することができる。アジュバントとしては上記と同様である。免疫手法も前記と同様である。そして、最終の免疫日から1〜60日後、好ましくは1〜14日後に抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞などが挙げられるが、脾臓細胞が好ましい。
【0031】
(3-2) 細胞融合
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。
【0032】
ミエローマ細胞としては、例えば、P3-X63.Ag8(X63)、P3-X63.Ag8.U1(P3U1)、P3/NS I/1-Ag4-1(NS1)、Sp2/0-Ag14(Sp2/0)等のマウスミエローマ細胞株を挙げることができる。ミエローマ細胞の選択に当たっては、抗体産生細胞との適合性を適宜考慮する。
【0033】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞用培地中で、1×106〜1×107個/mlの抗体産生細胞と2×105〜2×106個/mlのミエローマ細胞とを混合しする。抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比は、5:1であることが好ましい。次に、細胞融合促進剤存在の下で融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトン(D)のポリエチレングリコールなどを使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0034】
(3-3) ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を例えばウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などに適当に希釈後、マイクロタイタープレート上にまき、各ウェルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、Fcα/μRに反応する抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採集し、ELISA、EIA、RIAなどによってスクリーニングすることができる。
融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行う。Fcα/μRに強い反応性を示す抗体をフローサイトメトリー等により判定し、これをを産生するハイブリドーマを選択し、樹立する。
【0035】
(3-4) モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマを培養し、得られる培養物からモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法、又は腹水形成法等を採用することができる。「培養」とは、上記ハイブリドーマを培養皿又は培養ボトル中で生育させること、あるいは上記ハイブリドーマを下記のように動物の腹腔内で増殖させることを意味する。
細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5%CO2濃度)で7〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1×107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採集する。
上記抗体の採取方法において、抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0036】
(4)抗体断片、ヒト型化抗体又はヒト化抗体
上記の抗体の断片、及びV領域の一本鎖抗体も本発明の抗体に含まれる。抗体の断片としては、前記ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはFab、F(ab')2、Fv(variable fragment of antibody)等が挙げられる。
本発明の抗体は、ヒト型化抗体又はヒト抗体でもよい。
ヒト型化抗体を作製する場合は、マウス抗体の可変領域から相補性決定領域(complementarity determining region; CDR)をヒト可変領域に移植して、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものを、CDRはマウス由来のものからなる再構成した可変領域を作製する。次にこれらのヒト型化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。ヒト型化抗体の作製法は、当分野において周知である。
ヒト抗体は、一般にV領域の抗原結合部位である超過変領域(Hyper Variable region)、V領域のその他の部分及び定常領域の構造が、ヒトの抗体と同じ構造を有するものである。但し、超可変部位は他の動物由来であってもよい。ヒト抗体を作製する技術も公知であり、ヒトに共通の遺伝子配列については遺伝子工学的手法によって作製する方法が確立されている。
【0037】
(5)本発明の抗体の機能解析
本発明の抗体は、競合的結合試験、認識部位の解析等により、その特徴付けを行なうことができる。
本発明の抗体は以下の特徴を有するものであり、その認識エピトープの違いにより5つのグループに分類することができ、以下のような特徴を有する。
グループI: IgM/IgA抗体の結合を完全に阻害する。
グループII: IgM/IgA抗体の結合をまったく阻害しない。
グループIII: IgM/IgA抗体の結合を部分的に阻害する。 ヒト、マウスFcα/μR間で 交差反応する。
グループIV: IgM/IgA抗体の結合を部分的に阻害する。
グループV: IgM/IgA抗体の結合をまったく阻害しない。
【0038】
3.医薬組成物
本発明の抗体は、血液腫瘍の治療又は診断用医薬組成物として有用である。本発明においては、前記分類された5つのグループに属する抗体のいずれをも医薬組成物として使用することができる。
本発明の医薬組成物は、本発明の抗体を有効成分として含み、さらに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の形態で提供することが好ましい。
本発明の医薬組成物の適用の対象となる疾患は、血液腫瘍であり、例えば白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫などが挙げられ、これらの疾患は単独であってもよく、2つ以上が併発してもよい。
【0039】
「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の一つ以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、1つ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に溶解または懸濁することにより製造することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは医薬組成物に含有される活性成分である抗Fcα/μR抗体の種類などにより異なるが、通常成人一人当たり、一回につき100μgから1000mgの範囲で投与することができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0041】
例えば注射剤により投与する場合は、血液疾患に罹患しているヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、10μg〜100mgの量を、1日あたり1回〜数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0042】
4.血液腫瘍検出方法、並びに血液腫瘍検出用又は診断用キット及びマーカー
本発明の抗体は、血液腫瘍の診断又は治療のための薬剤として有用である。
Fcα/μRは、血液腫瘍マーカーとして利用することができるため、本発明の抗体を生体試料と反応させ、反応した抗体のシグナルを検出することにより、血液腫瘍を検出することができる。抗体のシグナルは、生体試料中のFcα/μR量の指標となる。本発明の抗体を用いた血液腫瘍の検出は、検体として被験者から採取した生体試料、例えば血液等と本発明の抗体又はその断片とを抗原抗体反応によって結合させ、結合した抗体量に基づいて試料中の目的とする抗原(Fcα/μR)の量を測定することにより行う。抗原量の検出は、公知の免疫学的測定法に従って行えばよく、例えば、免疫沈降法、免疫凝集法、標識免疫測定法、免疫比懸濁法、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリー法などを用いることができる。標識免疫測定法では、抗体のシグナルは、標識抗体を用いて直接検出した標識量で表すほか、既知濃度あるいは既知抗体価の抗体を標準液として相対的に表してもよい。すなわち、標準液と検体を測定計により測定し、標準液の値を基準にして試料中の抗体シグナルを相対的に表すことができる。標識免疫測定法としては、例えばELISA法、EIA法、RIA法、蛍光免疫測定法(FIA)、化学発光免疫測定法(Luminescence immunoassay)などが挙げられる。特に、ELISA法が簡便かつ高感度という点で好ましい。
【0043】
本発明においては、上記検出方法により得られた検出結果を指標として血液腫瘍の状態を評価又は診断することができる。例えば、検出結果が所定の基準値を超えるものを血液腫瘍陽性、所定の基準値以下のものを血液腫瘍陰性とし、陽性の場合には、いずれかの血液腫瘍を発症している可能性があると判断し、腫瘍の状態を評価することができる。
【0044】
腫瘍の状態とは、腫瘍の罹患の有無又はその進行度を意味し、血液腫瘍の発症の有無、進行度、悪性度、転移の有無及び再発の有無等が挙げられる。上記評価に際し、これらの腫瘍の状態は1つを選択してもよく、複数個を適宜組み合わせて選択してもよい。腫瘍の有無を評価するには、前記検出結果に基づき、所定の基準値を境界として腫瘍に罹患しているか否かを判断する。腫瘍の悪性度は、癌がどの程度進行しているのかを示す指標となるものであり、前記検出結果に基づき、病期(Stage)を分類して評価したり、あるいは早期癌、進行癌を分類して評価することも可能である。例えば、上記検査結果を指標として早期癌又は進行癌であると評価することも可能である。腫瘍の転移は、前記検出結果を指標として、原発巣の位置から離れた部位に新生物が出現しているか否かにより評価する。再発は、間欠期又は寛解の後に検出結果が再び所定の基準値を超えたか否かにより評価する。
【0045】
本発明の抗体は、血液腫瘍診断用キットの形態で提供することができ、血液腫瘍の診断又は治療に使用することができる。本発明のキットは抗体を含むが、そのほかに、標識物質、あるいは抗体又はその標識物を固定した固相化試薬などを含めることができる。抗体の標識物とは、酵素、放射性同位体、蛍光化合物、または化学発光化合物によって標識されたものを意味する。本発明のキットは、上記の構成要素の他、本発明の検出を実施するための他の試薬、例えば標識物が酵素標識物の場合は、酵素基質(発色性基質等)、酵素基質溶解液、酵素反応停止液、あるいは検体用希釈液等を含んでいてもよい。
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
モノクローナル抗体の作製及び機能解析
(1)細胞、マウス、抗体及びペプチド
マウスFcα/μRを安定発現するBa/F3細胞(マウスプロ-B細胞系)及びBW5147細胞(胸腺腫細胞)は、公知方法により樹立した(Shibuya A. et al., Nat. Immunol. 1 (2000) 441-446)。Fcα/μR遺伝子の欠損マウスは、ES細胞を用いた遺伝子ターゲティングにより作出した。
フルオレセイン-イソチオシアネート(FITC)結合ストレプトアビジン、マウスIgM及びIgAは、PharMingen(San Diego, CA)から購入した。マウスFcα/μRのIg-様ドメイン中のモチーフに基づいて生成したペプチド(VTIHCHYAPSSVNRHQRKYW:配列番号11)及びニワトリ卵オボアルブミン(OVA)(ISQAVHAAHAEINEAGR:配列番号12)は、Peptide Institute Inc. (大阪、日本)から購入した。
【0048】
(2)マウスFcα/μRに対するモノクローナル抗体の樹立
本発明者は、マウスFcα/μRを発現するBa3/F3トランスフェクタント細胞を用いてラットを免疫することにより、マウスFcα/μRに対するモノクローナル抗体の作製を試みたが、マウスFcα/μRに対する抗体は、わずか1つのクローンが生成されたに過ぎなかった(Shibuya A. et al., Nat. Immunol. 1 (2000) 441-446)。さらに、ヒトFcα/μR抗原を用いてマウスを免疫しても、抗ヒトFcα/μR抗体を製造することはできなかった。この理由は、Fcα/μRの細胞外ドメインのアミノ酸配列が、マウスとラットでは80.2%、マウスとヒトでは51.3%の相同性を有しており、ヒト、マウス及びラットの間で高度に保存されているためであると考えられる。また本発明者は、抗ヒト及び抗マウスFcα/μR抗体を樹立することができない原因はFcα/μR抗原に対する免疫寛容が起こっているためであると考えた。そこで本発明者は、マウスFcα/μR抗原に対する免疫寛容を避ける目的で、ラットや他種動物の代わりにFcα/μR遺伝子を欠損するマウスを免疫に用いた。
【0049】
Fcα/μRを発現している1x107個のBa/F3トランスフェクタント細胞と、完全フロイントアジュバント(シグマ社)とをよく混合させたものを、生後0日及び7日のFcα/μR欠損マウスの両足蹠に注入した。10日目に、フィルターを通したリンパ節細胞を回収し、このリンパ節細胞とマウスミエローマ細胞株Sp2/0細胞とを融合させた。ハイブリドーマは、製造業者の説明書に従ってメチルセルロースプレート培養皿(ClonaCell-HYR,Stem Cell Technologies, Seattle, WA)で培養した。
【0050】
マウスFcα/μRを発現するBa/F3トランスフェクタント細胞を免疫に使用することにより、12種類の抗マウスFcα/μR抗体を生成することに成功し、この抗体をTX57〜TX68と命名した(表1)。
【0051】
【表1】

【0052】
(3)抗マウスFcα/μR モノクローナル抗体による認識部位の特徴づけ
各抗マウスFcα/μRモノクローナル抗体(mAb)による認識部位を比較するために、マウスFcα/μRを発現するBW5147トランスフェクタントを用いて競合結合試験を行なった。
すなわち、マウスFcα/μRを発現する1x106個のBW5147トランスフェクタント細胞を、種々の濃度の抗マウスFcα/μR mAbとともに4℃で30分間培養した。
次に、このトランスフェクトした細胞をPBSで洗浄し、0.05μgのビオチン結合抗マウスFcα/μR mAb、続いてFITC結合ストレプトアビジンとともに培養した。これらのトランスフェクタントは、FACS CaliburR(BD, San Diego, CA)により解析した。
【0053】
フローサイトメトリーによる分析では、TX57を除くmAbはトランスフェクタントへの結合を妨げなかった(図1A)。同様に、TX64のトランスフェクタントへの結合は、TX64以外の他のmAbによって阻害されなかった(図1B)。これらの結果は、TX57及びTX64 mAbは、他のmAbによって認識されるエピトープとは異なるエピトープを認識することを示すものである。
これに対し、TX58、TX59、TX60、TX61、TX66、TX67及びTX68 mAbは、互いに、トランスフェクタントへの結合が完全に又は部分的に阻害された(図1C、D及び表2)。また、TX62、TX63及びTX65 mAbは、トランスフェクタントへの結合を互いに阻害した(図1E及び表2)。
【0054】
【表2】

【0055】
TX58、TX59、TX60、TX61及びTX66 mAbがヒトFcα/μRと交差反応したことは興味深いが(表1)、これらの結果は、mAbがヒトFcα/μRにおいても保存されているエピトープを認識することを示すものである。これらの結果に基づき、本発明者は認識部位の違いによりmAbを5つのグループに分類した(表1)。
【0056】
(4)抗Fcα/μR mAbによるFcα/μRに対するリガンド結合のブロッキング
次に本発明者は、マウスFcα/μRへのIgM及びIgA結合が抗マウスFcα/μR mAbによりブロックされるかどうかを試験した。
マウスFcα/μRを発現するBW5147トランスフェクタント(1x106個)をそれぞれの抗マウスFcα/μR mAb(0.5μg)とともに4℃で30分間培養し、さらにFITC結合IgM又はIgAとともにインキュベートした。
図2及び表1に示すように、フローサイトメトリー分析により、グループIのTX57 mAbは、トランスフェクタントに対するIgM及びIgAの結合を、両者とも完全に阻害することが示された。グループIII及びIVのmAb(TX58、59、60、61、66、67及び68)は、いずれも、リガンド結合を部分的に阻害した。これに対し、グループII及びVのmAbは、トランスフェクタントに対するIgM及びIgA結合に影響しなかった。これらの結果は、グループI、III及びIVに属するmAbにより認識されるFcα/μR中のエピトープは、Fcα/μRのIgA及びIgMのいずれかの結合部位であるか、あるいはリガンド結合部位と物理的に関連することを示すものである。
【0057】
(5)Fcα/μR及びポリ-IgRの両者に保存されているペプチドに対する、抗マウスFcα/μR mAb抗体による結合
本発明者は、以前、ヒト、マウス及びラットのポリ-免疫グロブリンレセプター(ポリ-IgR)の第一Ig様ドメインに保存されているヒト及びマウスFcα/μRのIg-様ドメインのモチーフを見出した(図3。先の報告では、このモチーフはポリ-IgRへのIgM及びIgAの結合に重要であることを示した(Bakos, MA, et al., J Immunol 147:3419, 1991))。従って、この領域はFcα/μRへのIgM及びIgA結合にも重要であることが予想できる。この可能性を評価するため、本発明者はこのモチーフ配列と同一のペプチド(モチーフペプチド)、及び競合結合解析用のコントロールとしてニワトリ卵オボアルブミン(OVA)と同一のペプチドを合成した(図3)。
【0058】
Fcα/μR及びpoly-IgRに保存されているモチーフペプチドに対する抗Fcα/μRモノクローナル抗体の結合能を調べるために、0.05μgのビオチン結合抗マウスFcα/μRモノクローナル抗体を、種々の濃度のモチーフペプチド又はコントロールペプチドのいずれかとともに、4℃で1時間培養した(プレインキュベーション)。
【0059】
次に、マウスFcα/μRを発現するBW5147トランスフェクタント細胞(1x106個)を、モノクローナル抗体とペプチドとの混合液に加え、4℃で30分間培養し、続いてFITC結合のストレプトアビジンとともに培養した。これらのトランスフェクタントは、FACS CaliburR(BD, San Diego, CA)により解析した。
【0060】
図4及び表1に示すとおり、グループI、III及びIVにおけるmAbをモチーフペプチドとプレインキュベーションすると、mAbのトランスフェクタントへの結合が有意に減少した。これに対し、グループII及びVに属するmAbは、いずれもトランスフェクタントへの結合についてモチーフペプチドのプレインキュベーションによって影響を受けなかった。これらの結果は、グループI、III及びIVに属するmAbは、Fcα/μRのIg-様ドメインのモチーフペプチド内のエピトープを認識することを示すものである。
【0061】
グループI、III及びIVに属するmAbは、ヒトFcα/μRにも保存されているモチーフペプチドへの競合結合試験の結果としてマウスFcα/μRへのIgA及びIgMの結合をブロックしたが、グループIIIのmAbのみがヒトFcα/μRと交差反応した(表1)。マウスFcα/μRとヒトFcα/μRとの間には1アミノ酸の相違が見られるが(図3)、これはグループI及びIV内のmAbにより認識されるエピトープと関係している可能性がある。マウス、ヒト及びラットのポリ-IgRにおいてモチーフペプチドは高度に保存されているが、グループI〜Vに属するmAbにおいてマウスポリ-IgRと交差反応するものがなかったことは注目に値する。
【0062】
(6)まとめ
以上をまとめると、本発明者は、Fcα/μR遺伝子を欠損するマウスを用いて、マウス、ヒト及びラットのFcα/μRに高度に保存されているペプチド内のエピトープを認識する抗マウスFcα/μR mAbを作製することに成功した。これらのmAbはマウスFcα/μRへのIgA及びIgMの結合を効果的にブロックする。このことは、Fcα/μR及びポリ-IgRのペプチド配列中にはIgA及びIgMの結合領域が存在することを示すものである。これらのmAbは、IgA及びIgMのFcα/μRとの相互作用の分子的及び機能的特徴付けに有用である。
【実施例2】
【0063】
マウス慢性リンパ性白血病(CLL)に対する治療効果
実施例1で作製したmAbであるTX61を用いて、マウス慢性リンパ性白血病細胞に対する細胞傷害試験を行なった。
【0064】
すなわち、マウスから脾臓細胞を採取し、RPMI1640培地に10%胎児牛血清とIL-2 (100 u/ml)を添加、37℃、5% CO2の環境下で1週間培養しEffector細胞とした。Target細胞としてマウスCLL細胞株(BCL-B20)を用いた。BCL-B20細胞を放射性同位元素51Crで標識し、96穴丸底プレートの中でFcα/μR mAbまたはコントロール抗体の存在下(10μg/ml)、37℃、5% CO2の環境下で4時間、BCL-B20細胞と20:1、10:1、5:1、2.5:1の割合で共培養した。その後、培養上精を採取し、放射性活性を測定し、Fcα/μR mAbの存在下におけるEffector細胞のBCL-B20細胞に対する細胞傷害活性(抗体依存性細胞傷害活性)を計算した。その結果、Fcα/μR mAbが存在するとEffector細胞が増加させるほど細胞傷害活性が増強したが、コントロール抗体の存在下では、細胞傷害活性はみられなかった。
【0065】
以上のことから、マウス慢性リンパ性白血病細胞(BCL-B20に対する抗体依存性細胞傷害活性が誘発されたことが確認された(図5)。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】抗マウスFcα/μRモノクローナル抗体間における競合結合試験の結果を示す図。データは、ビオチン化抗体単独で標識した抗体に対する本発明のmAbの平均蛍光強度(MFI)を示す。
【図2】IgA又はIgMと抗マウスFcα/μR モノクローナル抗体との間の競合結合試験の結果を示す図。影つきのヒストグラムは、トランスフェクタントの自己蛍光を示す。
【図3】Fcα/μR及びポリ-IgRの保存アミノ酸配列を示す図。Fcα/μRのマウス、ヒト、ラットのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5、配列番号6、配列番号7に示す。また、ポリIgRのマウス、ヒト、ラットのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号8、配列番号9、配列番号10に示す。
【図4】保存アミノ酸配列由来のペプチドと抗マウスFcα/μRモノクローナル抗体との間の競合結合試験の結果を示す図。
【図5】マウス慢性骨髄性白血病細胞(BCL-B20)に対する抗体依存性細胞傷害活性を示す図。
【配列表フリーテキスト】
【0067】
配列番号11:合成ペプチド
配列番号12:合成ペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fcα/μレセプターに対する抗体。
【請求項2】
ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗体のV領域を含む、キメラ抗体、ヒト型化抗体又はヒト抗体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体を含む、血液腫瘍の治療又は診断用医薬組成物。
【請求項5】
血液腫瘍が、白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群及び多発性骨髄腫からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
白血病が急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病及び成人T細胞性白血病からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体を含む、血液腫瘍の検出用キット。
【請求項8】
血液腫瘍が、白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群及び多発性骨髄腫からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項7に記載のキット。
【請求項9】
白血病が急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病及び成人T細胞性白血病からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項8に記載のキット。
【請求項10】
Fcα/μレセプターを含む血液腫瘍マーカー。
【請求項11】
血液腫瘍が、白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群及び多発性骨髄腫からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項10に記載のマーカー。
【請求項12】
白血病が急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病及び成人T細胞性白血病からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項11に記載のマーカー。
【請求項13】
Fcα/μレセプターに対する抗体と生体から採取された試料とを反応させ、反応した抗体のシグナルを検出することを特徴とする血液腫瘍の検出方法。
【請求項14】
Fcα/μレセプターに対する抗体と生体から採取された試料とを反応させて反応した抗体のシグナルを検出し、得られる検出結果を指標として血液腫瘍の状態を評価する方法。
【請求項15】
血液腫瘍の状態が、腫瘍の有無、腫瘍の進行度、腫瘍の悪性度、腫瘍の転移の有無及び腫瘍の再発の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項14に記載の方法。
【請求項16】
血液腫瘍が白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群及び多発性骨髄腫からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
白血病が急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病及び成人T細胞性白血病からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−56647(P2008−56647A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238783(P2006−238783)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年4月27日 インターネットアドレス「http.www.elsevier.com/locate/ybbrc」に発表
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】