説明

FcRnへの変異結合を有するFc変異体

本出願は、野生型ヒトFc領域と比べて少なくとも1つの修飾を含む変異Fc領域に関し、該修飾は、434S、252Y/428L、252Y/434S、および428L/434Sから成る群から選択され、付番はEUインデックスによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、35U.S.C.§119(e)に基づき、2007年12月26日に出願された第USSN61/016,793号、2008年2月25日に出願された第USSN61/031,353号、2008年4月18日に出願された第USSN61/046,353号、2008年5月2日に出願された第USSN61/050,172号、2008年7月10日に出願された第USSN61/079,779号、および2008年9月22日に出願された第USSN61/099,178号に対する利益を主張し、かつ2007年10月31日に出願された第USSN11/932,151号の一部継続出願であり、それは、2006年5月17日に出願された第USSN11/436,266号の一部継続出願であり、それは、35U.S.C.§119(e)に基づき、2007年7月24日に出願された第USSN60/951,536号に対する利益を主張し、かつ2005年11月14日に出願された第USSN11/274,065号の一部継続出願であり、それは、35U.S.C.§119(e)に基づき、2004年11月12日に出願された第USSN60/627,763号、2005年1月11日に出願された第USSN60/642,886号、2005年2月2日に出願された第USSN60/649,508号、2005年3月15日に出願された第USSN60/662,468号、2005年4月6日に出願された第USSN60/669,311号、2005年5月16日に出願された第USSN60/681,607号、2005年6月13日に出願された第USSN60/690,200号、2005年7月5日に出願された第USSN60/696,609号、2005年7月27日に出願された第USSN60/703,018号、および2005年10月12日に出願された第USSN60/726,453号に対する利益を主張し、すべて参照することによりその全体が組み込まれる。
【0002】
本出願は、最適化されたIgG免疫グロブリン変異体、それらを生成するための工学方法、および、特に治療目的のそれらの応用に関する。
【背景技術】
【0003】
抗体は、それぞれ特定の抗原に結合する免疫タンパク質である。ヒトおよびマウスを含むほとんどの哺乳動物において、抗体は、対になった重鎖および軽鎖のポリペプチド鎖から構築される。各々の鎖は、個々の免疫グロブリン(Ig)ドメインで形成され、したがって一般用語の免疫グロブリンが、このようなタンパク質に対して使用される。各鎖は、はっきりと異なる2つの領域から成り、これらは可変領域および定常領域と称される。軽鎖および重鎖の可変領域は、抗体間で顕著な配列多様性を示し、標的抗原の結合を担う。定常領域は、さほど配列多様性を示さず、重要な生化学的事象を誘起する数々の天然タンパク質の結合を担う。ヒトでは、5つの異なるクラスの抗体があり、IgA(サブクラスIgA1およびIgA2を含む)、IgD、IgE、IgG(サブクラスIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含む)、およびIgMが含まれる。V領域には微妙な違いが存在し得るが、これらの抗体クラス間を区別する特徴は、それらの定常領域にある。IgG抗体は、2つの重鎖および2つの軽鎖から構成される四量体タンパク質である。IgG重鎖は、N末端からC末端へ、それぞれ重鎖可変ドメイン、重鎖定常ドメイン1、重鎖定常ドメイン2、および重鎖定常ドメイン3を指す、VH−CH1−CH2−CH3の順で連結する、4つの免疫グロブリンドメインから構成される(それぞれ重鎖可変ドメイン、定常ガンマ1ドメイン、定常ガンマ2ドメイン、および定常ガンマ3ドメインを指す、VH−Cγ1−Cγ2−Cγ3とも称される)。IgG軽鎖は、N末端からC末端へ、それぞれ軽鎖可変ドメインおよび軽鎖定常ドメインを指す、VL−CLの順で連結する、2つの免疫グロブリンドメインから構成される。
【0004】
IgGでは、Fc上のCγ2ドメインとCγ3ドメインとの間の部位が、新生児の受容体FcRnとの相互作用を媒介する。FcRnへの結合により、エンドサイトーシスされた抗体がエンドソームから血流へ再利用される(Raghavan et al.,1996,Annu Rev Cell Dev Biol 12:181−220、Ghetie et al.,2000,Annu Rev Immunol 18:739−766、ともに参照することによりその全体が組み込まれる)。このプロセスは、完全長分子のサイズが大きいことによる腎臓ろ過の除外と対になって、1〜3週間の範囲の好都合な抗体血清半減期をもたらす。また、FcのFcRnへの結合は、抗体輸送において鍵となる役割を果たす。また、Fc上のFcRn結合部位は、細菌のタンパク質AおよびGが結合する部位でもある。これらのタンパク質による密接な結合は、典型的にはタンパク質精製中にタンパク質Aまたはタンパク質G親和性クロマトグラフィーを用いることにより、抗体精製の手段として活用される。故に、Fc上のこの領域の忠実度は、抗体の臨床的特性およびそれらの精製の双方にとって重要である。ラットFc/FcRn錯体(Burmeister et al.,1994,Nature,372:379−383、Martin et al.,2001,Mol Cell 7:867−877、ともに参照することによりその全体が組み込まれる)、およびFcとタンパク質AおよびGとの錯体(Deisenhofer,1981,Biochemistry 20:2361−2370、Sauer−Eriksson et al.,1995,Structure 3:265−278、Tashiro et al.,1995,Curr Opin Struct Biol 5:471−481、すべて参照することによりその全体が組み込まれる)の入手可能な構造は、Fcのこれらのタンパク質との相互作用への洞察を与える。FcRn受容体は、新生児の内臓および成人の腸管上皮の内腔へのIgGの輸送にも関与する(Ghetie and Ward,Annu.Rev.Immunol.,2000,18:739−766、Yoshida et al.,Immunity,2004,20(6):769−783、ともに参照することにより
その全体が組み込まれる)。
【0005】
ラットおよびヒトのFcドメインの研究によって、FcRnの結合に対する一部のFc残基の重要性が示されている。ラットおよびヒト配列は、Fc領域において約64%の配列同一性を有する(EUインデックスの付番で残基237〜443)。Fc、FcRn重鎖、およびFcRn軽鎖(ベータ−2−ミクログロブリン)のラット/ヒト整合については、図3、4、および5を参照されたい。ヒトのFc/FcRn錯体のモデルは、ラットのFc/FcRn錯体の既存構造から構築されている(Martin et al.,2001,Mol Cell 7:867−877、参照することによりその全体が組み込まれる)。ラットおよびヒト配列は、H310およびH435等の、FcRn結合に極めて重要ないくつかの残基を共有する(Medesan et al.,1997 J.Immunol.158(5):221−7、Shields et al.,2001,J.Biol.Chem.276(9):6591−6604、ともに参照することによりその全体が組み込まれる)。しかしながら、多くの位置において、ヒトおよびラットのタンパク質は異なるアミノ酸を有し、それにより、ヒト配列の残基にラット配列とは異なる環境、および恐らく異なる同一性を与える。この可変性は、1つの同族体から他の同族体へ特性を輸送する能力を制限する。
【0006】
マウスFcでは、T252、T254、およびT256の部位におけるランダム変異およびファージディスプレイ選択は、3.5倍増のFcRn親和性および1.5倍増の血清半減期を有するT252L/T254S/T256Fの三重変異体をもたらす(Ghetie et al.,1997,Nat.Biotech.15(7):637−640、参照することによりその全体が組み込まれる)。また、253、310、および435位での突然変異によるFc/FcRn相互作用の阻害は、生体内半減期の減少に通じる(Medesan et al J.Immunol.1997 158(5):2211−7、参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0007】
ヒトFcγにおける突然変異研究がFcRnへの結合に重要である一部の残基で行われ、血清半減期の増加を示した。ヒトFcγ1において、Hintonらは、3つの残基を個々に他の19個の通常アミノ酸に突然変異させた。Hintonらは、いくつかの点変異の二重変異が、FcRn結合親和性を増加させたことを見出した(Hinton et al.,2004,J.Biol.Chem.279(8):6213−6216、Hinton et al.Journal of Immunology 2006,176:346−356、ともに参照することによりその全体が組み込まれる)。2つの突然変異は、サルの半減期を増加させた。Shieldsらは、ほぼAlaのみに残基を突然変異させ、それらのFcRnおよびFcγRへの結合について研究した(Shields et al.,2001,J.Biol.Chem.,276(9):6591−6604、参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0008】
Dall’Acquaらは、ファージディスプレイを使用して、高い親和性を有するFcRnに結合するFc突然変異を選択した(Dall’Acqua et al.2002,J.Immunol.169:5171−5180、参照することによりその全体が組み込まれる)。選択したDNA配列は、主に二重および三重突然変異体であった。該参照文献は、それらの選択された配列の多くによってコード化されたタンパク質を発現し、野生型Fcよりもさらに強くFcRnに結合するいくつかのものを見出した。
【0009】
治療薬としての抗体およびFc融合タンパク質の投与は、タンパク質のクリアランスおよび半減期の特性に関する規定の頻度での注射を必要とする。より長い生体内半減期によって、注射をほとんど打たないこと、またはより低量の投与が可能になり、明らかに利点である。Fcドメインにおける過去の突然変異は、増加したFcRn結合親和性および生体内半減期を有するいくつかのタンパク質をもたらしたが、これらの突然変異は、最適な突然変異および増加した生体内半減期を特定しなかった。
【0010】
Fc領域の1つの特徴は、N297で生じる保存されたN連結グリコシル化である。この炭水化物、またはオリゴサッカライド(時としてこのように称される)は、抗体にとって決定的な構造的かつ機能的役割を果たし、哺乳動物発現系を使用して抗体を産生しなければならない主要な理由の1つである。 ADDIN ENRfu Umana et al.,1999,Nat Biotechnol 17:176−180、Davies et al.,2001,Biotechnol Bioeng 74:288−294、Mimura et al.,2001,J Biol Chem 276:45539−45547、Radaev et al.,2001,J Biol Chem 276:16478−16483、Shields et al.,2001,J Biol Chem 276:6591−6604、Shields et al.,2002,J Biol Chem 277:26733−26740、Simmons et al.,2002,J Immunol Methods 263:133−147、 ADDIN ENRfu Radaev et al.,2001,J Biol Chem 276:16469−16477、および ADDIN ENRfu Krapp et al.,2003,J Mol Biol 325:979−989、すべて参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0011】
治療用途のための抗体が開発されている。そのような療法に関連する代表的な刊行物には、 ADDIN ENRfu Chamow et al.,1996,Trends Biotechnol 14:52−60、Ashkenazi et al.,1997,Curr Opin Immunol 9:195−200、 ADDIN ENRfu Cragg et al.,1999,Curr Opin Immunol 11:541−547、Glennie et al.,2000,Immunol Today 21:403−410、 ADDIN ENRfu McLaughlin et al.,1998, J Clin Oncol 16:2825−2833、および ADDIN ENRfu Cobleigh et al.,1999,J Clin Oncol 17:2639−2648が含まれ、すべて参照することによりその全体が組み込まれる。現在抗癌療法については、死亡率におけるいかなる小さな改善も、成功と定義される。本明細書で開示する特定のIgG変異体は、抗体の、さらなる成長を制限するか、あるいは少なくとも部分的に標的癌細胞を破壊する能力を強化する。
【0012】
抗体の抗腫瘍作用は、ADCC、ADCP、およびCDC等の細胞傷害性エフェクター機能を媒介するそれらの能力の強化を介する。例には、 ADDIN ENRfu Clynes et al.,1998,Proc Natl Acad Sci U S A 95:652−656、Clynes et al.,2000,Nat Med 6:443−446および ADDIN ENRfu Cartron et al.,2002,Blood 99:754−758が含まれ、ともに参照することによりその全体が組み込まれる。
【0013】
ヒトIgG1が治療目的で最も一般的に使用される抗体であり、工学研究の大半は、この文脈において構築されている。しかしながら、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含む、IgGクラスのこれらの異なるアイソタイプは、独自の物理的特性、生物学的特性、および臨床特性を有する。当該技術分野において、改善されたIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4変異体を設計する必要性がある。さらに、FcRnへの結合を強化する、および/または天然IgGポリペプチドと比較して生体内半減期を増加するように、そのような変異体を設計する必要性がある。さらに、薬物動態特性を有する変異体と、修飾を有する変異体とを組み合わせて、変更されたFcガンマR結合を介して効率を向上させる必要性がある。本出願は、これらの必要性および他の必要性に対応する。
【発明の概要】
【0014】
本出願は、ポリペプチドのFc領域内の少なくとも1つの修飾を含む、親ポリペプチドのFc変異体を対象とする。さまざまな実施形態では、変異ポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して、FcRnへの変更された結合を呈する。特定の変異体では、修飾は、428L、434M、および434Sから成る群から選択され、付番は、KabatらのEUインデックスによる。
【0015】
別の実施形態では、Fc変異体は、252Y/428L、428L/434H、428L/434F、428L/434Y、428L/434A、428L/434M、および428L/434Sから成る群から選択される少なくとも2つの修飾を含む。
【0016】
別の実施形態では、Fc変異体は、M428L/N434S、V308F/M428L/N434Sから成る群から選択される少なくとも1つの修飾を含む。
【0017】
別の実施形態では、Fc変異体は、259I/434S、308F/434S、308F/428L/434S、259I/308F/434S、307Q/308F/434S、250I/308F/434S、および308F/319L/434Sから成る群から選択される少なくとも1つの修飾を含む。
【0018】
別の実施形態では、Fc変異体は、少なくとも1つの修飾を含む。
【0019】
別の実施形態では、本発明は、本出願に記載するFc変異体の有効量を投与するステップを含む、該治療を必要とする患者を治療する方法を含む。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、本出願に記載する修飾に従い、Fcを修飾して抗体またはイムノアデヘシンの半減期を増加させる方法を含む。
【0021】
別の変異体において、本発明は、エフェクター機能を調節するさらなるFc変異体との強化されたFcRn結合を持つFc変異体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1a】ヒトIgG定常重鎖の配列整合。灰色はIgG1との差異を示し、枠付きの残基は、ヒト集団における一般的なアロタイプ異形を示す。
【図1b】図1aの説明の通り。
【図2】(配列番号1〜6)本発明において使用される定常領域のアミノ酸配列。
【図3】(配列番号7〜12)例示的な変異定常領域のアミノ酸配列。
【図4】(配列番号13〜22)本発明において使用されるVHおよびVL可変領域のアミノ酸配列。
【図5a】(配列番号23〜29)例示的な変異抗体のアミノ酸配列。
【図5b】図5aの説明の通り。
【図6】WTおよび選択変異IgG1抗VEGF抗体による相対的VEGF結合。プロットは、抗体分析物が固定化したVEGF抗原へ結合する会合相の最後のBiacore反応単位(RU)を示す。負の対照として抗Her2 IgG1抗体を使用した。
【図7】低(6.0)pHおよび高(7.4)pHでの固定化ヒトFcRnに対するWTおよび変異IgG1抗体のBiacoreセンサーグラム。
【図8】Biacoreにより判定される、pH6.0でのヒトFcRnに対するWTおよび選択変異IgG1抗体のFcRn結合親和性。グラフは、対数目盛上の偽親和定数(Ka*)のプロットを示す。
【図9a】Biacoreにより判定される、変異IgG1抗VEGF抗体のヒトFcRnに対する相対的結合。表は、ヒトWT(天然)IgG1に対するそれぞれの変異体のKa*の倍数を示す。nはそれぞれの変異体が試験された回数を示し、平均値およびSDは、n回の結合実験にわたるそれぞれの変異体の、それぞれ平均および標準偏差を示す。それぞれの各結合実験内で、WT IgG1に対してFcRn倍数をすべての変異体について算出した。NBは、結合が検出されなかったことを示す。NDは、その特定の変異体について、結合が判定されなかったことを示す。NFは、結合データから近似することができなかったことを示す。
【図9b】図9aの説明の通り。
【図9c】図9aの説明の通り。
【図9d】図9aの説明の通り。
【図10a】Biacoreにより判定される、変異IgG2およびIgG1/2抗VEGF抗体のヒトFcRnへの相対的結合。表は、図9について記載したとおりである。
【図10b】図10aの説明の通り。
【図10c】図10aの説明の通り。
【図10d】図10aの説明の通り。
【図11a】相加的および相乗的な置換の組み合わせの分析。図11aは、単一変異体の産物により決定された予測FcRn結合倍数に対する、それぞれの変異体によるヒトFcRnへの実験的に決定した結合倍数のプロットを示す。変異体のデータ点を表示し、線は完全な相加性を表す。図11bは、各変異体組み合わせについての実験的倍数と予測倍数との間の差異を示す。図11cは、各変異体組み合わせの相乗作用を示す。相乗作用%は、100×[(実験的倍数/予測倍数)−1]]として算出される。
【図11b】図11aの説明の通り。
【図11c】図11aの説明の通り。
【図12a】Biacoreにより判定される、変異抗TNF、−CD25、−EGFR、および−IgE抗体のヒトFcRnに対する相対的結合。表は、図9について記載したとおりである。
【図12b】図12aの説明の通り。
【図12c】図12aの説明の通り。
【図12d】図12aの説明の通り。
【図13a】mFcRn−/−hFcRn+マウスにおける、WTおよび変異抗体の生体内薬物動態。グラフは、単回静脈内投与後の、時間に対する抗体の血清濃度をプロットする。図13aは、IgG1抗体(研究3)を用いて行われた4度の研究のうちの1つからのデータを示し、図13bは、IgG2抗体(研究5)用いて行われた研究からのデータを示す。
【図13b】図13aの説明の通り。
【図14a】変異抗体およびWT抗体を用いてmFcRn−/−hFcRn+マウスにおいて行われた、すべての生体内PK研究からの近似したPKパラメータ。Nは、1群当たりのマウスの数を表し、PKパラメータについて平均値および標準偏差(SD)データを提供する。半減期は、血清からの抗体の脱離により特徴分析されるベータ相を表す。Cmaxは、観測される最大血清濃度であり、AUCは、濃度時間曲線下面積であり、クリアランスは血清からの抗体のクリアランスである。半減期倍数は、それぞれの研究内で、WT IgG1またはIgG2の親のものに対する変異抗体の半減期として算出される。
【図14b】図14aの説明の通り。
【図15a】mFcRn−/−hFcRn+マウスにおけるIgG1(図15a)およびIgG2(図15b)変異抗体の半減期と、WT IgG1に対するFcRn結合倍数との相関関係。y軸上のデータは、図14からのものであり、x軸上のデータは、図9および10からのものである。選択変異体を表示し、反復実験からの変異体データには丸を付けた。図15cは、IgG1およびIgG2の両方の相関データを示し、黒色および灰色の線は、それぞれIgG1およびIgG2のデータの近似を表す。
【図15b】図15aの説明の通り。
【図15c】図15aの説明の通り。
【図16a】(配列番号30〜35)本発明において使用される変異および親抗TNF Fcイムノアドヘシンのアミノ酸配列。
【図16b】図16aの説明の通り。
【図17】Biacoreにより判定される、抗TNFイムノアドヘシンのTNF抗原への結合。
【図18】Biacoreにより判定される、変異FcイムノアドヘシンのヒトFcRnへの相対的結合。表は、ヒトWT(天然)IgG1に対するそれぞれの変異体のKa*の倍数を示す。nはそれぞれの変異体が試験された回数を示し、平均値およびSDは、n回の結合実験にわたるそれぞれの変異体の、それぞれ平均および標準偏差を示す。それぞれの各結合実験内で、それぞれのIgGの親に対して、FcRn倍数をすべての変異体について算出した。
【図19】mFcRn−/−hFcRn+マウスにおける、親および変異Fcイムノアドヘシンの生体内薬物動態。グラフは、単回静脈内投与後の、時間に対するFc融合の血清濃度をプロットする。
【図20】mFcRn−/−hFcRn+マウスにおける、Fc融合生体内PK研究からの近似したPKパラメータ。パラメータは、図14について記載したとおりである。半減期の増加%は、100×変異Fc融合の半減期÷WT IgG1またはIgG2の親の半減期として算出される。
【図21a】Biacoreにより判定される、変異IgG1抗VEGF抗体のカニクイザルおよびヒトFcRnへの相対的結合。図21aは、表形式でデータを示す。図の説明は図9にあるとおりであり、ヒトFcRnへの結合に関するデータは図9から取られている。図21bは、該データのプロットを示す。
【図21b】図21aの説明の通り。
【図22】カニクイザルにおけるWTおよび変異抗体の生体内薬物動態。グラフは、単回静脈内投与後の、時間に対する抗体の血清濃度をプロットする。
【図23】変異抗体およびWT抗体を用いた、カニクイザルにおける生体内PK研究からの近似したPKパラメータ。パラメータは、図14について記載したとおりである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、FcRn受容体への増加した結合を有し、抗体、Fc融合、および免疫接着に見られるものを含む、Fcドメインの新しい変異体の産生を開示する。本出願に記載するとおり、FcRnへの結合は、より長い血清の生体内の滞留がもたらされる。
【0024】
生体内のFcタンパク質の滞留を増加するために、約pH7.4で低い親和性を維持しながら、結合親和性における増加は、約pH6でなければならない。まだ実験中であるが、Fc領域は、エンドソ−ム内のpH6のFcRnへの結合は、Fcを封鎖するため、より長い生体内半減期を有すると考えられている(Ghetie and Ward,1997 Immunol Today.18(12):592−598、参照することによりその全体が組み込まれる)。次いで、エンドソ−ム区画は、細胞表面にFcを再利用する。区画が細胞外空間に開かれると、より高いpH(約7.4)は、血液中へFcを放出し戻すことを誘導する。マウスにおいて、Dall’Acquaらは、実際に、pH6およびpH7.4で増加したFcRn結合を有するFc突然変異が血清濃度および野生型Fcと同じ半減期を減少させたことを示した(Dall’Acqua et al.2002,J.Immunol.169:5171−5180、参照することによりその全体が組み込まれる)。pH7.4のFcRnに対するFcの親和性の増加は、血液にFcを放出し戻すことを防止したことによるものである。したがって、Fcの生体内半減期を増加させるFc突然変異は、高いpHでFcの放出を可能にしながら、低いpHでFcRn結合を理想的に増加させる。アミノ酸ヒスチジンは、6.0〜7.4の範囲のpHでその電荷状態を変更する。したがって、Fc/FcRn錯体内の重要な位置でHis残基が見られることは珍しくない(図6)。
【0025】
本発明の付加的態様は、エンドソ−ム内のFc/FcRn結合を促進するために、特に低いpH(約pH6.0)で野生型上のFcRn結合における増加である。変性FcRn結合およびFc受容体の別のクラスへの変性結合を有するFc変異体も開示し、FcγRへの異なる結合、具体的には、FcγRIIIbへの増加した結合およびFcγRIIbへの減少した結合としてFcγR(FcガンマRと表記される場合もある)は、効率の低下をもたらすことがわかっている。
【0026】
定義
【0027】
本出願がより完全に理解され得るために、以下にいくつかの定義を説明する。そのような定義は、文法的な同等物を含むことを意図する。
【0028】
本出願に使用する「ADCC」または「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」とは、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合した抗体を認識し、標的細胞の溶解を実質的にもたらす、細胞媒介性反応を意味する。
【0029】
本出願に使用する「ADCP」または「抗体依存性細胞媒介性食作用」とは、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合した抗体を認識し、標的細胞の食作用を実質的にもたらす、細胞媒介性反応を意味する。
【0030】
本出願に使用する「修飾」とは、ポリペプチド配列におけるアミノ酸置換、挿入および/または欠失、またはタンパク質に化学的に結合した部分への変更を意味する。例えば、修飾は、変更された炭水化物またはタンパク質に付着したPEG構造であり得る。本出願に使用する「アミノ酸修飾」とは、ポリペプチド配列におけるアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を意味する。
【0031】
本出願に使用する「アミノ酸置換」または「置換」とは、別のアミノ酸を有する親ポリペプチド内の特定の位置におけるアミノ酸の置換を意味する。例えば、置換E272Yは、変異ポリペプチドを指し、この場合、位置272においてグルタミン酸がチロシンで置換されたFc変異体を指す。
【0032】
本出願に使用する「アミノ酸挿入」または「挿入」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置におけるアミノ酸配列の追加を意味する。例えば、−233Eまたは^233Eは、位置233の後で位置234の前のグルタミン酸の挿入をいう。さらに、−233ADEまたは^233ADEは、位置233の後で位置234の前のAlaAspGluの挿入をいう。
【0033】
本出願に使用する「アミノ酸欠失」または「欠失」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置におけるアミノ酸配列の欠失を意味する。例えば、E233−またはE233#は、位置233におけるグルタミン酸の欠失をいう。さらに、EDA233−またはEDA233#は、位置233で開始する配列GluAspAlaの欠失をいう。
【0034】
本出願に使用する「変異タンパク質」または「タンパク質変異体」、もしくは「変異体」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親タンパク質と異なるタンパク質を意味する。タンパク質変異体は、タンパク質そのもの、タンパク質を含む組成物、またはそれをコ−ド化するアミノ配列を指し得る。好適には、タンパク質変異体は、親タンパク質と比較して、少なくとも1つのアミノ酸修飾、例えば、親タンパク質と比較して、約1〜約70個のアミノ酸修飾、および好適には約1〜約5個のアミノ酸修飾を有する。好適には、本出願のタンパク質変異配列は、親タンパク質配列を有する、少なくとも約80%の相同性、最も好適には、少なくとも約90%の相同性、さらに好適には、少なくとも約95%の相同性を有する。変異タンパク質は、変異タンパク質そのもの、タンパク質変異体を含む組成物、またはそれをコ−ド化するDNA配列を指すことができる。したがって、本出願に使用する「抗体変異体」または「変異抗体」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親抗体と異なる抗体を意味し、本出願に使用する「IgG変異体」または「変異IgG」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親IgGと異なる抗体を意味し、本出願に使用する「免疫グロブリン変異体」または「変異免疫グロブリン」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって、親免疫グロブリン配列と異なる免疫グロブリン配列を意味する。本出願に使用する「Fc変異体」または「変異Fc」とは、Fcドメイン内の修飾を含むタンパク質を意味する。本発明のFc変異体は、それらを構成するアミノ酸修飾に従い定義される。したがって、例えば、N434Sまたは434Sは、親Fcポリペプチドと比べて、位置434に置換セリンを有するFc変異体であり、該付番はEUインデックスによるものである。同様に、M428L/N434Sは、親Fcポリペプチドと比べて、置換M428LおよびN434S.Aを有するFc変異体を定義する。WTアミノ酸の特定は、特定されなくてもよく、その場合、前述の変異体は、428L/434Sと称される。置換が提供される順番は、任意であることに留意されたい、つまり、例えば、428L/434Sは、M428L/N434Sと同一Fc変異体である。本発明において説明するすべての位置の付番は、EUインデックスに従う。EUイ
ンデックスまたはKabatのEUインデックスまたはEU付番スキ−ムは、EU抗体の付番を指す(Edelman et al.,1969,Proc Natl Acad Sci USA 63:78−85、参照することによりその全体が本出願に組み込まれる)。修飾は、追加、欠失、または置換であってもよい。置換は、自然発生のアミノ酸、非自然発生のアミノ酸を含むことができる。変異体は、非自然発生のアミノ酸を含んでもよい。例は、米国特許第6,586,207号、国際公開第WO98/48032号、第WO03/073238号、米国特許第2004−0214988A1号、第WO05/35727A2号、第WO05/74524A2号、J.W.Chin et al.,(2002),Journal of the American Chemical Society 124:9026−9027、J.W.Chin,&P.G.Schultz,(2002),ChemBioChem 11:1135−1137、J.W.Chin,et al.,(2002),PICAS United States of America 99:11020−11024、およびL.Wang,&P.G.Schultz,(2002),Chem.1−10を含み、すべて参照することによりその全体が組み込まれる。
【0035】
本出願に使用する「タンパク質」とは、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびペプチドを含む、少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味する。ペプチジル基は、自然発生するアミノ酸およびペプチド結合、またはペプトイド等の合成ペプチド模範体構造、つまり、「アナログ」を含んでもよい(Simon et al.,PNAS USA 89(20):9367(1992)参照、参照することによりその全体が組み込まれる)。アミノ酸は、自然発生または非自然発生のいずれかであってもよく、当業者に理解されるものである。例えば、ホモ−フェニルアラニン、シトルリン、およびノルロイシンは、本発明の目的に考えられるアミノ酸であり、D−およびL−(RまたはS)構造のアミノ酸を使用し得る。本発明の変異体は、Cropp&Shultz,2004,Trends Genet.20(12):625−30、Anderson et al.,2004,Proc Natl Acad Sci USA 101(2):7566−71、Zhang et al.,2003,303(5656):371−3、およびChin et al.,2003,Science 301(5635):964−7に記載の方法を含むが、これらに限定されない、例えば、Schultzと共同研究者とにより開発された技術を使用して導入される非天然アミノ酸の使用を含む修飾を含み得、当該文献は、すべて参照することによりその全体が組み込まれる。また、ポリペプチドは、1つ以上の鎖または末端の合成誘導体化、グリコシル化、PEG化、円順列、環化、他の分子へのリンカー、タンパク質またはタンパク質ドメインへの融合、およびペプチドタグまたは標識の追加を含んでもよい。
【0036】
本出願に使用する「残基」とは、タンパク質およびその関連するアミノ酸同一性における位置を意味する。例えば、アスパラギン297(Asn297またはN297ともいう)は、ヒト抗体IgG1内の位置297の残基である。
【0037】
本出願に使用する「Fab」または「Fab領域」とは、VH、CH1、VL、およびCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを意味する。Fabは、単離したこの領域、または完全長抗体、抗体フラグメント、またはFab融合タンパク質に関連するこの領域を指し得る。本出願に使用する「Fv」または「Fvフラグメント」または「Fv領域」は、単一抗体のVLおよびVHドメインを含むポリペプチドを意味する。
【0038】
本出願に使用する「IgGサブクラス修飾」とは、1つのIgGアイソタイプの1つのアミノ酸と異なり、整列したIgGアイソタイプの対応するアミノ酸に変換する、アミノ酸修飾を意味する。例えば、IgG1は、EU位置296にチロシンおよびIgG2aフェニルアラニンを有するため、IgG2におけるF296Y置換は、IgGサブクラス修飾と考えられる。
【0039】
本出願に使用する「非自然発生の修飾」とは、同形ではないアミノ酸修飾を意味する。例えば、IgGのいずれも位置434にセリンを含まないため、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4における置換434Sは、非自然発生の修飾と考えられる。
【0040】
本出願に使用する「アミノ酸」および「アミノ酸同一性」とは、20個の自然発生するアミノ酸の1つ、または特別に定義された位置で存在し得る、いかなる非天然アナログをも意味する。
【0041】
本出願に使用する「エフェクター機能」とは、抗体Fc領域のFc受容体またはリガンドとの相互作用から生じる生化学的事象を意味する。エフェクター機能は、ADCC、ADCP、およびCDCを含むが、それらに限定されない。
【0042】
本出願に使用する「IgG Fcリガンド」とは、IgG抗体のFc領域に結合して、Fc/Fcリガンド錯体を形成する、任意の有機体からの分子、好適には、ポリペプチドを意味する。Fcリガンドは、FcγR、FcγR、FcγR、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノ−ス受容体、ブドウ球菌タンパク質A、連鎖球菌タンパク質G、およびウイルスFcγRを含むが、それらに限定されない。Fcリガンドは、FcγRに同種であるFc受容体群であるFc受容体ホモログ(FcRH)も含む(Davis et al.,2002,Immunological Reviews 190:123−136、参照することによりその全体が組み込まれる)。Fcリガンドは、Fcを結合する未発見の分子を含んでもよい。具体的なIgGFcリガンドは、FcRnおよびFcガンマ受容体である。本出願に使用する「Fcリガンド」とは、抗体のFc領域に結合して、Fc/Fcリガンド錯体を形成する、任意の有機体からの分子、好適には、ポリペプチドを意味する。
【0043】
本出願に使用する「Fcγ受容体」、「FcγR」、または「FcガンマR」とは、IgG 抗体Fc領域を結合し、FcγR遺伝子によってコード化するタンパク質群の任意の成員を意味する。ヒトにおいて、この群は、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含む、FcγRI(CD64)、アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb−1およびFcγRIIb−2を含む)、およびFcγRIIcを含む、FcγRII(CD32)、およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIb−NA1およびFcγRIIIb−NA2を含む)を含む、FcγRIII(CD16) ADDIN ENRfu (Jefferis et al.,2002,Immunol Lett 82:57−65、参照することによりその全体が組み込まれる)、ならびに任意の未発見のヒトFcγRもしくはFcγRアイソフォームまたはアロタイプを含むが、それらに限定されない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルを含むが、それらに限定されない、いかなる有機体からであってもよい。マウスFcγRは、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、およびFcγRIII−2(CD16−2)、ならびにいかなる未発見のマウスFcγRもしくはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含むが、それらに限定されない。
【0044】
本出願に使用する「FcRn」または「新生児Fc受容体」とは、IgG抗体のFc領域を結合し、FcRn遺伝子によって少なくとも部分的にコード化されるタンパク質を意味する。FcRnは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、サルを含むが、それらに限定されない、いかなる有機体からであってもよい。当該技術分野において周知のとおり、機能性FcRnタンパク質は、2つのポリペプチドを含み、しばしば、重鎖および軽鎖と言われる。軽鎖は、β−2−ミクログロブリンであり、重鎖は、FcRn遺伝子によってコード化される。本出願に記載がない限り、FcRnまたはFcRnタンパク質は、ベータ−2−ミクログロブリンを有するFcRn重鎖の錯体を指す。FcRnの特定関心対象、特にヒト種の配列を図に示す。
【0045】
本出願に使用する「親ポリペプチド」とは、変異体を生成するために後で修飾される、未修飾のポリペプチドを意味する。親ポリペプチドは、自然発生するポリペプチド、もしくは変異体または自然発生するポリペプチドの操作された型であってもよい。親ポリペプチドは、ポリペプチドそのもの、親ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコード化するアミノ酸配列を指し得る。さらに、本出願に使用する「親免疫グロブリン」とは、変異体を生成するために修飾される、未修飾免疫グロブリンポリペプチドを意味し、本出願に使用する「親抗体」とは、変異抗体を生成するために修飾される、未修飾抗体を意味する。以下に記載するとおり、「親抗体」は、商業的に周知で、遺伝子組み換え技術で生成された抗体であることに留意されたい。
【0046】
本出願に使用する「位置」とは、タンパク質の配列内の場所を意味する。位置は、連続的、または確立したフォーマット、例えば、抗体付番のためのEUインデックスに従って付番されてもよい。
【0047】
本出願に使用する「標的抗原」とは、所与の抗体の可変領域によって特異的に結合する分子を意味する。標的抗原は、タンパク質、炭水化物、脂質、または他の化学物質であってもよい。
【0048】
本出願に使用する「標的細胞」という用語は、標的抗原を発現する細胞を意味する。
【0049】
本出願に使用する「可変領域」という用語は、Vκ、Vλ、および/またはそれぞれ、κ、λ、および重鎖免疫グロブリン遺伝子座を構成するVH遺伝子のいずれかによって実質的にコード化された、1つ以上のIgドメインを含む、免疫グロブリンの領域を意味する。
【0050】
本出願に使用する「野生型またはWT」とは、対立遺伝子変異を含む、野生にあるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味する。WTタンパク質は、意図的に修飾されていないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0051】
本発明は、野生型抗体に対し、FcRnへの増加された結合を呈する抗体を対象とする。例えば、いくつかの例では、結合の増加は、抗体の細胞の再利用をもたらし、それによって、半減期を増加させる。また、増加したFcRnへの結合、および変更された他のFc受容体(例えば、FcγR)への結合を呈する抗体は、本発明に役立つ。
抗体
【0052】
本出願は、FcRnへの結合を調節するアミノ酸修飾を含む、抗体を対象とする。特に関心対象は、低いpHで減少したFcRnへの結合親和性を示し、高いpHで結合の実質的な変化を呈さない、Fc領域またはその機能的変異体を最小限に含む抗体である。
【0053】
典型的に、従来の抗体構造単位は、四量体を含む。典型的に、それぞれの四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一対から構成され、それぞれの対は、1つの「軽」鎖(典型的に、約25kDaの分子量を有する)を有し、1つは、「重」鎖(典型的に、約50〜70kDaの分子量を有する)を有する。ヒト軽鎖は、κおよびλ軽鎖として分類される。重鎖は、μ、δ、γ、α、またはεとして分類され、それぞれ、IgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして抗体のアイソタイプを定義する。IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含むが、それらに限定されない、いくつかのサブクラスを有する。IgMは、IgM1およびIgM2を含むが、それらに限定されないサブクラスを有する。したがって、本出願に使用する「アイソタイプ」は、定常領域の化学的および抗原的特性によって定義された免疫グロブリンのサブクラスのいずれかを意味する。周知のヒト免疫グロブリンのアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM1、IgM2、IgD、およびIgEである。
【0054】
それぞれの鎖のアミノ末端部分は、約100〜110の可変領域、または主に抗原認識を担うさらなるアミノ酸を含む。可変領域では、3つのループは、重鎖および軽鎖のVドメインのそれぞれに集まり、抗原結合部位を形成する。ループのそれぞれは、アミノ酸配列内の変異が最も著しい、相補的決定領域(以下、「CDR」という)という。
【0055】
鎖のそれぞれのカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能を担う定常領域を画定する。Kabatらは、重鎖および軽鎖の可変領域の多くの一次配列を収集した。配列の保存程度により、彼らは、単独の一次配列をCDRおよびフレームワークに分類し、そのリストを作成した(SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST,5th edition,NIH publication,No.91−3242,E.A.Kabat et al.参照、参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0056】
免疫グロブリンのIgGサブクラスでは、重鎖内にさまざまな免疫グロブリンドメインがある。本出願に使用する「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」とは、異なる三次構造を有する免疫グロブリンの領域を意味する。本発明の関心対象は、定常重鎖(CH)ドメインおよびヒンジドメインを含む、重鎖ドメインである。IgG抗体では、IgGアイソタイプのそれぞれは、3つのCH領域を有する。したがって、IgGにおける「CH」ドメインは、以下のとおりである。「CH1」は、KabatのEUインデックスに従う、位置118−220で指す。「CH2」は、KabatのEUインデックスに従う、位置237−340を指し、「CH3」は、KabatのEUインデックスに従う、位置341−447を指す。
【0057】
重鎖のIgドメインの別の種類は、ヒンジ領域である。本出願に使用する「ヒンジ」または「ヒンジ領域」、もしくは「抗体ヒンジ領域」、または「免疫グロブリンヒンジ領域」は、抗体の第1と第2定常ドメインとの間のアミノ酸を含む、柔軟なポリペプチドを意味する。構造的に、IgGのCH1ドメインは、EU位置220で終端し、IgGのCH2ドメインは、EU位置237の残基で開始する。したがって、IgGでは、抗体のヒンジは、位置221(IgG1内のD221)〜236(IgG1内のG236)を含むように本出願で定義され、付番は、KabatのEUインデックスに従う。いくつかの実施形態では、例えば、Fc領域では、低いヒンジが含まれ、典型的に、「低いヒンジ」は、位置226または230を指す。
【0058】
本発明の関心対象は、Fc領域である。本出願に使用される「Fc」または「Fc領域」は、第1の定常領域免疫グロブリンドメイン、およびいくつかの例において、一部のヒンジを除く抗体の定常領域を含むポリペプチドを意味する。したがって、Fcは、IgA、IgD、およびIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、IgEおよびIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、およびこれらのドメインに柔軟なヒンジN末端を指す。IgAおよびIgMでは、Fcは、J鎖を含んでもよい。図1に図示するとおり、IgGでは、Fcは、免疫グロブリンドメインCγ2およびCγ3(Cg2およびCg3)、およびCγ1(Cg1)とCγ2(Cg2)との間の低いヒンジ領域を含んでもよい。Fc領域の境界は異なり得るが、通常、ヒトIgGの重鎖Fc領域は、残基C226またはP230をそのカルボキシル末端に含まれるように定義され、付番は、KabatのEUインデックスに従う。以下に記載するとおり、Fcは、単離するこの領域、またはFcポリペプチドにおけるこの領域を指し得る。本出願に使用する「Fcポリペプチド」は、すべてまたは一部のFc領域を含む、ポリペプチドを意味する。Fcポリペプチドは、抗体、Fc融合、単離Fc、およびFcフラグメントを含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、抗体は、完全長である。本出願に記載するとおり、本出願において使用する「完全長抗体」は、1つ以上の修飾を含む、変異および定常領域を含む、抗体の自然の生物学的形状を構成する構造を意味する。
【0060】
あるいは、抗体は、それぞれ、抗体フラグメント、単クローン抗体、二重特異性抗体、ミニボディ、ドメイン抗体、合成抗体(本出願において、「抗体模倣」という場合もある)、キメラ抗体、ヒト化抗体、抗体融合(本出願において「抗体共役体」と称される場合もある)、およびそれぞれのフラグメントを含むが、それらに限定されない、さまざまな構造であってもよい。
【0061】
抗体フラグメント
【0062】
一実施形態では、抗体は、抗体フラグメントである。Fc領域、Fc融合、および重鎖の定常領域(CH1−ヒンジ−CH2−CH3)を含み、定常重領域融合をも含む、抗体が、特に関心対象となる。
【0063】
特定の抗体フラグメントは、(i)VL、VH、CL、およびCH1ドメインから成るFabフラグメント、(ii)VHおよびCH1ドメインから成るFdフラグメント、(iii)単一抗体のVlおよびVHドメインから成るFvフラグメント、(iv)単一変異から成るdAbフラグメント(Ward et al.,1989,Nature 341:544−546、参照することによりその全体が組み込まれる)、(v)単離したCDR領域、(vi)F(ab′)2フラグメント、2つの結合したFabフラグメントを含む二価フラグメント、(vii)VHドメインおよびVLドメインが、2つのドメインを抗体結合部位を形成するために結合可能にさせるペプチドリンカーによって結合される、単鎖Fv分子(scFv)(Bird et al.,1988,Science 242:423−426、Huston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:5879−5883、参照することによりその全体が組み込まれる)、(viii)二重特異性単鎖Fv(国際公開第WO03/11161号、参照することにより組み込まれる)、および(ix)「ダイアボディ」または「トリアボディ」、遺伝子融合によって構成される多価または多特異的フラグメント(Tomlinson et al.,2000,Methods Enzymol.326:461−479、国際公開第WO94/13804号、Holliger et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6444−6448、これらすべては参照することによりその全体が組み込まれる)を含むが、これらに限定されない。抗体フラグメントは、修飾されてもよい。例えば、分子は、VHおよびVLドメインを結合するジスルフィド架橋の組み込みによって安定化されてもよい(Reiter et al.,1996,Nature Biotech.14:1239−1245、参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0064】
キメラおよびヒト化抗体
【0065】
いくつかの実施形態では、足場成分は、異種からの混合物であってもよい。その場合、タンパク質が抗体である場合は、そのような抗体は、キメラおよび/またはヒト化抗体であってもよい。一般的に、「キメラ抗体」および「ヒト化抗体」の両方は、1つ以上の種からの領域を組み合わせる抗体を指す。例えば、従来、「キメラ抗体」は、マウス(または、いくつかの場合では、ラット)からの可変領域およびヒトからの定常領域を含む。一般的に、「ヒト化抗体」は、ヒト抗体に見られる配列を交換した変異体ドメインのフレームワーク領域を有した非ヒト抗体を指す。一般的に、ヒト化抗体では、CDRを除く、すべての抗体は、ヒト由来のポリヌクレオチドによってコード化され、そのCDR内を除く、そのような抗体に同一である。非ヒト有機体に由来する核酸によってコード化されたいくつかまたはすべてのCDRは、抗体を形成するためにヒト抗体可変領域のβシートフレームワークに移植され、その特異性は、移植されたCDRによって決定される。そのような抗体の形成は、例えば、国際公開第WO92/11018号、Jones,1986,Nature 321:522−525、Verhoeyen et al.,1988,Science 239:1534−1536に記載され、これらすべては、参照することによりその全体が組み込まれる。対応するドナー残基に選択したアクセプターフレームワーク残基の「復帰突然変異」は、しばしば、当初の移植された構築で失った親和性を回復する必要がある(US第5530101号、US第5585089号、US第5693761号、US第5693762号、US第6180370号、US第5859205号、US第5821337号、US第6054297号、US第6407213号、これらすべては、参照することによりその全体が組み込まれる)。最適に、ヒト化抗体は、少なくとも一部の免疫グロブリン定常領域、典型的には、ヒト免疫グロブリンも含み、したがって、典型的にヒトFc領域を含む。ヒト化抗体は、遺伝子操作された免疫系を有するマウスを使用して生成することもできる(Roque et al.,2004,Biotechnol.Prog.20:639−654、参照することによりその全体が組み込まれる)。非ヒト抗体をヒト化および再形成する、さまざまな技術および方
法は、当該技術分野において周知である(Tsurushita&Vasquez,2004,Humanization of Monoclonal Antibodies,Molecular Biology of B Cells,533−545、Elesevier Science(USA)、および本出願に引用した参考文献を参照し、これらすべては、参照することによりその全体が組み込まれる)。ヒト化方法は、Jones et al.,1986,Nature 321:522−525、Riechmann et al.,1988,Nature 332:323−329、Verhoeyen et al.,1988,Science,239:1534−1536、Queen et al.,1989,Proc Natl Acad Sci,USA 86:10029−33、He et al.,1998,J.Immunol.160:1029−1035、Carter et al.,1992,Proc Natl Acad Sci USA 89:4285−9、Presta et al.,1997,Cancer Res.57(20):4593−9、Gorman et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:4181−4185、O‘Connor et al.,1998,Protein Eng 11:321−8に記載される方法を含むが、これらに限定されず、これらは、参照することによりその全体が組み込まれる。ヒト化または非ヒト抗体可変領域の免疫原性を低下させる他の方法は、例えば、参照することにより組み込まれる、Roguska et al.,1994,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:969−973に記載されるとおり、最表面化する方法を含んでもよい。一実施形態では、親抗体は、当該技術分野で周知のとおり、親和性が成熟している。構造ベースの方法は、例えば、USSN第11/004,590号に記載するとおり、ヒト化および親和性成熟に使用してもよい。選択ベースの方法は、ヒト化および/または親和性成熟抗体の可変領域に使用してもよく、Wu et al.,1999,J.Mol.Biol.294:151−162、Baca et al.,1997,J.Biol.Chem.272(16):106
78−10684、Rosok et al.,1996,J.Biol.Chem.271(37):22611−22618、Rader et al.,1998,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:8910−8915、Krauss et al.,2003,Protein Engineering 16(10):753−759に、記載される方法を含むが、それらに限定されない。他のヒト化方法は、CDRの一部のみを移植するステップを伴い、第USSN09/810,510号、Tan et al.,2002,J.Immunol.169:1119−1125、De Pascalis et al.,2002,J.Immunol.169:3076−3084(参照することによりその全体が組み込まれる)に記載される方法を含むが、それらに限定されない。
【0066】
二重特異性抗体
【0067】
一実施形態では、本発明の抗体は、多特異的抗体および特に二重特異性抗体であり、「ダイアボディ」とも言われる場合もある。2つ(またはそれ以上)の異なる抗原に結合する抗体がある。ダイアボディは、当該技術分野において周知のさまざまな方法(例えば、ハイブリドーマ)で製造することができる(Holliger and Winter,1993,Current Opinion Biotechnol.4:446−449、参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0068】
ミニボディ
【0069】
一実施形態では、抗体は、ミニボディである。ミニボディは、CH3ドメインに結合したscFvを含む最小化された抗体様タンパク質である(Hu et al.,1996,Cancer Res.56:3055−3061、参照することによりその全体が組み込まれる)。いくつかの場合では、scFvは、Fc領域に結合することができ、いくつかまたはすべてのヒンジ領域を含んでもよい。
【0070】
抗体融合
【0071】
一実施形態では、本発明の抗体は、抗体融合タンパク質(本明細書において、「抗体共役体」と称する場合もある)である。抗体融合の1つの種類は、Fc領域を共役相手に結合させるFc融合を含む。本出願に使用する「Fc融合」は、1つ以上のポリペプチドが機能し得るようにFc領域に結合される、タンパク質を意味する。本出願において、Fc融合は、従来の技術(Chamow et al.,1996,Trends Biotechnol.14:52−60、Ashkenazi et al.,1997,Curr Opin Immunol.9:195−200、ともに参照することによりその全体が組み込まれる)に使用されるとおり、「イムノアドヘシン」、「Ig融合」、「Igキメラ」、および「受容体グロブリン」(ダッシュがつく場合もある)という用語と同義語である。一般的に、Fc融合は、免疫グロブリンのFc領域と、いかなるタンパク質または小分子であってもよい融合相手を組み合わせる。事実上、いかなるタンパク質または小分子も、Fcに結合して、Fc融合を生成してもよい。タンパク質融合相手は、抗体の可変領域、受容体の標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、ケモカインまたは別のタンパク質またはタンパク質ドメインをも含むが、それらに限定されない。小分子融合相手は、Fc融合を治療用標的に誘導するいかなる治療剤を含んでもよい。そのような標的は、いかなる分子、好適には、疾患を担う細胞外受容体であってもよい。したがって、IgG変異体は、1つ以上の融合相手に結合することができる。1つの代替的実施形態では、IgG変異体は、別の治療化合物に共役または機能し得るように結合する。治療化合物は、細胞毒性剤、化学療法剤、毒素、放射線同位体、サイトカイン、または他の治療的活性剤であってもよい。IgGは、さまざまな非タンパク質の性質のポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアリキレン、またはポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールの共ポリマーの1つに結合されてもよい。
【0072】
Fc融合の他に、抗体融合は、1つ以上の融合相手(ここでも、いかなる抗体の可変領域も含む)を有する重鎖の定常領域融合を含み、他の抗体融合は、融合相手と実質的または完全に完全長抗体である。一実施形態では、融合相手の役割とは、標的結合を介在することであり、したがって、機能的に、抗体の可変領域に類似する(および、実際類似してもよい)。事実上、いかなるタンパク質または小分子も、Fcに結合して、Fc融合(または抗体融合)を生成してもよい。タンパク質融合相手は、受容体の標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、キモカインを含むが、それらに限定されず、いくつかの他のタンパク質またはタンパク質ドメイン小分子融合相手は、Fc融合を治療標的に誘導するいかなる治療剤を含んでもよい。そのような標的は、いかなる分子、好適には、疾患を担う細胞外受容体であってもよい。
【0073】
共役相手は、タンパク質性質または非タンパク質性質であってもよく、一般的に、後者は、抗体および共役相手上の官能基を使用して生成される。例えば、リンカーは、当該技術分野において周知であり、例えば、ホモ−ヘテロ−二機能リンカーは、周知である(1994 Pierce Chemical Company catalog、technical section on cross−linkers,pages 155−200参照。参照することにより本出願に組み込まれる)。
【0074】
適切な共役体は、以下に記載する標識、細胞毒性剤(例えば、化学療法剤)を含むが、それらに限定されない、薬剤および細胞毒性剤、もしくは毒素またはそのような毒素の活性フラグメントを含むが、それらに限定されない。適切な毒素およびそれらの対応するフラグメントは、ジフテリアA鎖、外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、クルシン、クロチン、フェノマイシン、エノマイシン等を含む。細胞毒性剤は、放射性同位体を抗体に共役させる、または抗体に共有結合しているキレート剤への放射性核種の結合させることで、製造された放射化学も含む。付加的実施形態は、カリケアマイシン、アウリスタチン、ゲルダナマイシン、メイタンシン、およびデュオカルマイシン、ならびにアナログを使用し、後者については、米国第2003/0050331A1号を参照し、参照することによりその全体が組み込まれる。
【0075】
抗体の共有結合修飾
【0076】
抗体の共有結合修飾は、本発明の範囲内に含まれ、常にではないが、一般的に、翻訳後に行われる。例えば、抗体の共有結合修飾のいくつかの種類は、抗体の特異的アミノ酸残基を、選択した側鎖もしくはNまたはC末端残基と反応することが可能な有機誘導体化剤と反応させて分子に導入される。
【0077】
最も一般的なシステイニル残基は、クロロ酢酸またはクロロアセトアミド等のα−ハロアセテート(および対応するアミン)と反応させ、カルボキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体を得る。また、システイニル残基は、ブロモトリフルオロアセトン、α−ブロモ−β−(5−イミドゾイル)プロピオン酸、クロロアセチルリン酸、N−アルキルマレイミド、3−ニトロ−2−ピリジルジスルフィド、メチル2−ピリジルジスルフィド、p−クロロ安息香酸水銀、2−クロロ水銀−4−ニトロフェノール、またはクロロ−7−ニトロベンゾ−2−オキサ−1、3−ジアゾール等との反応によって誘導体化されてもよい。
【0078】
ジエチルピロカーボネートは、ヒスチジル側鎖に比較的特異的であるため、ヒスチジル残基は、pH5.5〜7.0でジエチルピロカーボネートとの反応によって誘導化される。パラーブロモフェナシルブロミドも有用であり、好適には、反応は、pH6.0の0.1Mのカコジル酸ナトリウム中で実施する。
【0079】
リジニルおよびアミノ末端残基は、コハク酸または他のカルボン酸無水物と反応させる。これらの薬剤との誘導体化は、リジニル残基の電荷を反転させる効果を有する。アルファアミノ含有残基を誘導体化するための他の適切な試薬は、メチルピコリンイミダート等のイミドエステル、ピリドキサルリン酸、ピリドキサル、クロロホウカ水素、トリニトロベンゼンスルホン酸、O−メチルイソ尿素、2,4−ペンダンジオン、およびグリオキシル酸とのトランスアミナーゼ触媒反応を含む。
【0080】
アルギニル残基は、1つまたはいくつかの従来の試薬、とりわけ、フェニルグリオキサール、2,3−ブタンジオン、1,2−チクロヘキサンジオン、およびニンヒドリンとの反応により修飾される。アルギニン残基の誘導体化には、グアニジン官能基のpKaが高いため、アルカリ性条件で実施されることが必要である。さらに、これらの試薬は、リジン基ならびにアルギニンエプシロンアミノ基と反応させてもよい。
【0081】
チロシル残基の特異的修飾は、分光標識をチロシル残基に導入させることに特に関心をもって、芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応によって行われた。通常、N−アセチルイミジゾールおよびテトラニトロメタンを使用して、それぞれ、O−アセチルチロシル種および3−ニトロ誘導体を形成する。チロシル残基は、125Iまたは131Iを使用して要素化され、ラジオイムノアッセイ、適切とされる上述のクロラミンT方法に使用するための標識タンパク質を調製する。
【0082】
カルボキシル側基(アスパルチルまたはグルタミン)は、カルボジイミド(R′−N=C=N――R′)との反応により、選択的に修飾され、RおよびR′は、1−シクロヘキシル基−3−(2−モルホリニル−4−エチル)カルボジイミド、または1−エチル−3−(4−アゾニア−4,4−ジメチルペンチル)カルボジイミド等の任意に異なるアルキル基である。さらに、アスパルチルおよびグルタミン残基は、アンモニウムイオンとの反応により、アスパラギニルおよびグルタミニル残基に変換される。
【0083】
二官能性物質との誘導体化は、抗体を、以下に記載する方法の他に、さまざまな方法に使用する不水溶性支持マトリックスまたは表面に架橋するのに有用である。通常使用される架橋剤は、例えば、1,1−ビス(ジアゾアセチル)−2−フェニルエタン、グルタルアルデヒド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(例えば、4−アジドサリチル酸を有するエステル、3,3′−ジチオビス(スクシンイミジルプロピオナート)等のジスクシンイミジルエステルを含む、ホモ二官能性イミドエステル、およびビス−N−マレイミド−1,8−オクタン等の二官能性マレイミドを含む。メチル−3−[(p−アジドフェニール)ジチオ]プロピオイミダート等の誘導体化剤は、光の存在下で架橋を形成することが可能な光活性化可能な中間体を産生する。あるいは、米国特許第3,969,287号、第3,691,016号、第4,195,128号、第4,247,642号、第4,229,537号、および第4,330,440号に記載し、参照することによりその全体が組み込まれる、シアン臭化物活性化炭水化物および反応基質等の反応性不水溶性マトリックスは、タンパク質固定化に使用される。
【0084】
グルタミニルおよびアスパラギニル残基は、それぞれ、対応するグルタミンおよびアスパルチル残基に頻繁に脱アミド化される。あるいは、これらの残基は、弱酸性条件下で脱アミド化される。これらの残基のいずれかの形状は、本発明の範囲内である。他の修飾は、プロリンおよびリジンの水酸化、セリルまたはトレオニル残基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン、アルギニン、およびヒスチジン側鎖のα−アミノ基のメチル化(T.E.Creighton,Protein:Structure and Molecular Properties,W.H.Freeman&Co.,San Francisco,pp.79−86[1983]、参照することによりその全体が組み込まれる)、N末端アミンのアセチル化、およびC末端カルボキシル基のいずれかのアミド化を含む。
【0085】
グリコシル化
【0086】
共有結合修飾の別の種類は、グリコシル化である。別の実施形態では、本出願に開示するIgG変異体は、1つ以上の改変糖鎖を含むように修飾することができる。本出願に使用する「改変糖鎖」は、IgGに共有結合する炭水化物組成物を意味し、該炭水化物組成物は、親IgGのそれと化学的に異なる。改変糖鎖は、エフェクター機能の増強または低減を含むが、それらに限定されない、さまざまな目的に有用であり得る。改変糖鎖は、当該技術分野において周知のさまざまな方法で生成してもよい(Umana et al.,1999,Nat Biotechnol 17:176−180、Davies et al.,2001,Biotechnol Bioeng 74:288−294、Shields et al.,2002,J Biol Chem 277:26733−26740、Shinkawa et al.,2003,J Biol Chem 278:3466−3473、US第6,602,684号、第USSN10/277,370号、第USSN10/113,929号、PCT第WO00/61739A1号、PCT第WO01/29246A1号、PCT第WO02/31140A1号、PCT第WO02/30954A1号、これらすべては参照することによりその全体が組み込まれる)(Potelligent(登録商標)技術[Biowa,Inc.,Princeton,NJ]、GlycoMAb(登録商標)グリコシル化工学技術[Glycart Biotechnology AG,Zurich,Switzerland]。これらの技術の多くは、例えば、さまざまな有機体または細胞株内にIgGを発現させるか、さもなければ操作するか(例えば、Lee−13CHO細胞またはラットハイブリドーマYB2/0細胞)、グリコシル化経路に伴う酵素を抑制するか(例えば、FUT8[α1,6−フコシルトランスフェラーゼ]および/またはβ1−4−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII[GnTIII])、またはIgGが発現した後に炭水化物を修飾することによって、フコシル化のレベルを制御する、および/またはFc領域に共有結合するオリゴ糖を分割することに基づく。典型的に、改変糖鎖は、異なる炭水化物またはオリゴサッカリドを指し、したがって、IgG変異体、例えば、抗体
またはFc融合は、改変糖鎖を含むことができる。あるいは、改変糖鎖は、異なる炭水化物またはオリゴサッカリドを含む、IgG変異体を指し得る。当該技術分野において周知のとおり、グリコシル化のパターンは、タンパク質の配列(例えば、以下に記載する特定のグリコシル化アミノ酸残基の有無)、もしくはタンパク質が産生される宿主細胞または有機体の両方によって異なってもよい。特定の発現系を以下に説明する。
【0087】
典型的に、ポリペプチドのグリコシル化は、N連結型またはO連結型のいずれかである。N連結型は、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を指す。トリ−ペプチド配列アスパラギン−X−セリン、およびアスパラギン−X−トレオニン(Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸である)は、炭水化物部分のアスパラギン側鎖への酵素結合の認識配列である。したがって、ポリペプチド内のこれらのトリ−ペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的グリコシル化部位を形成する。O連結グリコシル化は、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンも使用してもよいが、糖類であるN−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの1つのヒドロキシアミノ酸、通常セリンまたはトレオニンへの付着を指す。
【0088】
抗体へのグリコシル化部位の追加は、1つ以上の上述のトリ−ペプチド配列(N連結グリコシル化部位)を含むようにアミノ酸配列を変化させて簡便に達成される。変更は、1つ以上のセリンまたはトレオニン残基の(O連結グリコシル化部位の)開始配列への追加、または置換によって行われてもよい。容易にするために、抗体アミノ酸配列は、DNAレベルの変更を介して、特に、コドンが生成されるように事前選択し、所望のアミノ酸に変換される塩基で標的ポリペプチドをコード化するDNAを変化させることで、好適に変更される。
【0089】
抗体上の炭水化物部分の数を増加させる別の方法は、タンパク質への化学的または酵素的結合によるものである。これらの手段は、N−およびO連結グリコシル化のグリコシル化が可能な宿主細胞においてタンパク質の産生を必要としないため、有益である。使用する結合モードによって、糖類は、(a)アラジニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)システインの遊離スルフヒドリル基等の遊離スルフヒドリル基、(d)セリン、トレオニン、またはヒドロキシプロリンの遊離ヒドロキシル基等の遊離ヒドロキシル基、(e)フェニルアラニン、チロシン、またはトリプトファン、芳香族残基等の芳香族残基、または(f)グルタミンのアミド基に付着してもよい。これらの方法は、国際公開第WO87/05330号、およびAlpin and Wriston,1981,CRC Crit.Rev.Biochem.,pp.259−306に説明され、両方は、参照することによりその全体が組み込まれる。
【0090】
出発抗体上に存在する炭水化物部分の除去は、化学的または酵素的に達成されてもよい。化学的脱グリコシル化は、トリフルオロメタンスルホン酸または同等の化合物へのタンパク質の暴露を必要とする。この処理により、ポリペプチドを無傷のまま、連結する糖類(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)を除く、糖類のほとんど、またはすべての開裂がもたらされる。化学的脱グリコシル化は、Hakimuddin et al.,1987,Arch.Biochem.Biophys.259:52、およびEdge et al.,1981,Anal.Biochem.118:131に説明され、両方は、参照することによりその全体が組み込まれる。ポリペプチド上の炭水化物部分の酵素的開裂は、Thokakura et al.,1987,Meth.Enzymol.138:350に説明され、参照することによりその全体が組み込まれる、さまざまなエンド−およびエキソ−グルコシダーゼを使用して達成することができる。潜在的なグリコシル化部位におけるグリコシル化は、参照することによりその全体が組み込まれる、Duskin et al.,1982,J.Biol.Chem.257:3105に説明され、化合物ツニカマイシンの使用によって防止し得る。ツニカマイシンは、タンパク質−N−グリコシド連結の形成を阻害する。
【0091】
抗体の共有結合修飾の別の種類は、例えば、Nektar Therapeuticsの2005−2006PEGカタログ(Nektar社のウェブサイトで入手可能)、米国特許第4,640,835号、第4,496,689号、第4,301,144号、第4,670,417号、第4,791,192号、または第4,179,337号(すべては、参照することによりその全体が組み込まれる)に説明する方法で、さまざまなポリオール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、またはポリオキシアリキレン等)を含むが、それらに限定されない、さまざまな非タンパク質の性質のポリマーを含む。また、当該技術分野において周知のとおり、アミノ酸置換は、PEG等のポリマーの追加を容易にするように、抗体内のさまざまな位置で行われてもよい。例えば、参照することによりその全体が組み込まれる、米国広報第2005/0114037A1号を参照されたい。
【0092】
標識された抗体
【0093】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体の共有結合修飾は、1つ以上の標識の追加を含む。いくつかの場合では、これらは、抗体融合と考えられる。「標識基」という用語は、いかなる検出可能な標識も意味する。いくつかの実施形態では、標識基は、さまざまな長さのスペーサーアームを介して抗体に結合され、潜在的な立体傷害を減少する。タンパク質を標識するためのさまざまな方法は、当該技術分野において周知であり、本発明を実施する上で使用されてもよい。
【0094】
一般的に、標識は、それらが検出されるアッセイによって、さまざまなクラス、a)放射性または重同位体であってもよい同位体標識、b)磁気標識(例えば、磁気粒子)、c)レドックス活性部分、d)光学色素、酵素基(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、e)ビオチン化基、およびf)二次レポーター(例えば、ロイシンジッパー対の配列、二次抗体の結合部位、金属、結合ドメイン、エピトープタグ等)によって認識される所定のポリペプチドエピトープに分類される。いくつかの実施形態では、標識基は、さまざまな長さのスペーサーアームを介して抗体に結合され、潜在的な立体障害を低減する。タンパク質を標識するためのさまざまな方法は、当該技術分野において周知であり、本発明を実施する上で使用されてもよい。
【0095】
特異的標識は、発色団、発光体および蛍光体を含むが、それらに限定されない光学色素を含み、後者は多くの例において特異的である。蛍光体は、「小分子」蛍光または、タンパク質の性質の蛍光のいずれかであってもよい。
【0096】
「蛍光標識」は、その特有の蛍光特性を介して検出されてもよい、任意の分子を意味する。適切な蛍光標識は、フルオレセイン、ローダミン、テトラメチルローダミン、エオシン、エリトロシン、クマリン、メチル−クマリン、ピレン、マラカイトグリーン、スチルベン、ルシファーイエロー、カスケードブルーJ、テキサスレッド、IAEDANS、EDANS、BODIPY FL、LCレッド640、Cy5、Cy5.5、LCレッド705、オレゴングリーン、Alexa−Fluor染料(Alexa Fluor350、Alexa Fluor430、Alexa Fluor488、Alexa Fluor546、Alexa Fluor568、Alexa Fluor594、Alexa Fluor633、Alexa Fluor660、Alexa Fluor680)、カスケードブルー、カスケードイエローおよびR−フィコエリトリン(PE)(Molecular Probes,Eugene,OR)、FITC、ローダミン、およびテキサスレッド(Pierce,Rockford,IL)、Cy5、Cy5.5、Cy7(Amersham Life Science,Pittsburgh,PA)を含むが、それらに限定されない。適切な光学色素は、Richard P. HauglandによるMolecular Probes Handbook(参照することによりその全体が組み込まれる)に説明される蛍光を含む。
【0097】
また、適切なタンパク質の性質の蛍光標識は、緑色蛍光タンパク質(GFPのウミシイタケ、ウミエラ、またはオワンクラゲ種を含む(Chalfie et al.,1994,Science 263:802−805)、EGFP(Clontech Laboratories,Inc.,Genbank受託番号U55762)、青色蛍光タンパク質(BEP,Quantum Biotechnologies,Inc.,1801 de Maisonneuve Blvd.West,8th Floor,Montreal,Quabec,Canada H3H 1J9、Stauber,1998,Biotechniques 24:462−471、Heim et al.,1996,Curr.Biol.6:178−182)、強化黄色蛍光タンパク質(EYFP,Clontech Laboratoies,Inc.)、ルシフェラーゼ(Ichiki et al.,1993,J.Immunol.150:5408−5417)、βガラクトシダーゼ(Nolan et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2603−2607)、およびウミシイタケ(国際公開第WO92/15673号、第WO95/07463号、第WO98/14605号、第WO98/26277号、第WO99/49019号、米国特許第5292658号、第5418155号、第5683888号、第5741668号、第5777079号、第5804387号、第5874304号、第5876995号、第5925558号)を含むが、それらに限定されない。本項に引用した上述の参考文献のすべては、参照することにより明確に組み込まれる。
【0098】
IgG変異体
【0099】
一実施形態では、本発明は、変異IgGタンパク質を提供する。最低でも、IgG変異体は、重鎖のCH2−CH3領域を含む、抗体断片フラグメントを含む。また、適切なIgG変異体は、Fcドメイン(例えば、低いヒンジ領域を含む)、ならびに本発明にも有用である重鎖の定常領域を含むIgG変異体(CH1−ヒンジ−CH2−CH3)を含む、これらすべては、融合相手に融合することができる。
【0100】
IgG変異体は、親IgGポリペプチドに相対的、いくつかの場合では、野生型IgGに相対的な1つ以上のアミノ酸修飾を含む。IgG変異体は、1つ以上の最適化された特性を有することができる。IgG変異体は、少なくとも1つのアミノ酸修飾の理由から、アミノ酸配列においてその親IgGから異なる。したがって、IgG変異体は、親IgGと比較して、少なくとも1つのアミノ酸修飾を有する。あるいは、IgG変異体は、親IgGと比較して、1つ以上のアミノ酸修飾、例えば、約1〜50個のアミノ酸修飾、好適には、約1〜10個のアミノ酸修飾、最も好適には、親IgGと比較して、約1〜約5個のアミノ酸修飾を有してもよい。
【0101】
したがって、IgG変異体の配列および親Fcポリペプチドの配列は、実質的に同種である。例えば、本出願の変異IgGの変異体配列は、約80%の親IgGの変異体配列との相同性、好適には少なくとも約90%、および最も好適には少なくとも約95%の相同性を有する。修飾は、分子生物学を使用して、遺伝子的に行われてもよい、もしくは酵素的または化学的に行われてもよい。
【0102】
抗体の標的抗原
【0103】
事実上、いかなる抗原も、以下のリストの標的抗原(サイトカインおよび膜等の可溶性因子および膜貫通受容体等の結合因子の両方を含む)に属するタンパク質、サブユニット、ドメイン、モチーフ、および/またはエピトープを含むが、それらに限定されない、IgG変異体によって標的にされてもよい。17−IA、4−1BB、4Dc、6−ケト−PGF1a、8−イソ−PGF2a、8−オクソ−dG、A1アデノシン受容体、A33、ACE、ACE−2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK−2、アクチビンRIB ALK−4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、 ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン,aFGF、ALCAM、ALK、AlK−1、ALK−7、アルファ−1−抗トリプシン、アルファ−V/ベータ−1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF−1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗−Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7−1、B7−2、B7−H、B−リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE−1、Bad、BAFF、BAFF−R、Bag−1、BAK、Bax、BCA−1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b−ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL−CAM、BLK、BMP、BMP−2、BMP−2a、BMP−3オステオゲニン、BMP−4BMP−2b、BMP−5、BMP−6Vgr−1、BMP−7(OP−1)、BMP−8(BMP−8a、OP−2)、BMPR、BMPR−IA(ALK−3)、BMPR−IB(ALK−6)、BRK−2、RPK−1、BMPR−II(BRK−3)、BMP、b−NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE−DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD−8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンCDPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシン
H、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7−1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス菌毒素、ウェフシュキン毒素、CKb8−1、CLC、CMV、CMVUL、CNTF、CNTN−1、COX、C−Ret、CRG−2、CT−1、CTACK、CTGF、CTLA−4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCCDcR3、DC−SIGN、分解促進因子、デス(1−3)−IGF−I(脳IGF−1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM−1、Dナーゼ、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA−A1、EDA−A2、
EDAR、EGF、EGFR(ErbB−1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E−セレクチン、ET−1、因子IIa、因子VII、因子VIIc、因子IX、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN−1、フェリチン、FGF、FGF−19、FGF−2、FGF3、FGF−8、FGFR、FGFR−3、フィブリン、FL、FLIP、Flt−3、Flt−4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP−2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF−1、GDF−3(Vgr−2)、GDF−5(BMP−14、CDMP−1)、GDF−6(BMP−13、 CDMP−2)、GDF−7(BMP−12、CDMP−3)、GDF−8(ミオスタチン)、GDF−9、GDF−15(MIC−1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa−1、GFR−α1、GFR−α2、GFR−α3、GITR、グルカゴン、Glut 4、グリコタンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM−CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハパテン(NP−capまたはNIP−cap)、HB−EGF、HCC、HCMVgBエンベロープ糖タンパク質、HCMVgHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、HepB gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB−2)、Her3(ErbB−3)、Her4(ErbB−4)、単純ヘルペスウイルス(HSV)gBグリコタンパク質、HSVgDグリコタンパク質、HGFA、高分子量メラノーマ関連抗原(HMW−MAA)、HIVgp120、HIV IIIBgp120V3ループ、HLA、HLA−DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトロメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I−309、IAP、ICAM、ICAM−1、ICAM−3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF
−1R、IGFBP、IGF−I、IGF−II、IL、IL−1、IL−1R、IL−2、IL−2R、IL−4、IL−4R、IL−5、IL−5R、IL−6、IL−6R、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、IL−13、IL−15、IL−18、IL−18R、IL−23、インターフェロン(INF)−α、INF−β、INF−γ、インヒビン、iNOS、インスリンA−鎖、インスリンB−鎖、インスリン様成長因子1、インテグリンα2、インテグリンα3、インテグリンα4、インテグリンα4/β1、インテグリンα4/β7、インテグリンα5(αV)、インテグリンα5/β1、インテグリンα5/β3、インテグリンα6、インテグリンβ1、インテグリンβ2、インターフェロンγ、IP−10、I−TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト成長因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF−1)、潜在性TGF−1、潜在性TGF−1bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティー、ルイス−Y抗原、ルイス−Y関連抗原、LFA−1、LFA−3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L−セレクチン、LT−a、LT−b、LTB4、LTBP−1、肺表面活性剤、黄体形成ホルモン、リンホトキシンβ受容体、Mac−1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM,MCK−2、MCP、M−CSF、MDC、Mer、金属、LOPROTEASES、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA−DR)、MIF、MIGMIP、MIP−1−α、MK、MMAC1、MMP、MMP−1、MMP−10、MMP−11、MMP−12、MMP−13、MMP−14、MMP−15、MMP−2、MMP−24、MMP−3、MMP−7、MMP−8、MMP−9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N−カドヘリン、NCA90、NCAM、NCAM、ネプリリシン、ニューロトロフィン−3,−4,または−6、ニュートリン、神経細
胞成長因子(NGF)、NGFR、NGF−β、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG−3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P−カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK−1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、タンパク質C、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、レラキシンA−鎖、レラキシンB−鎖、レニン、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマチ因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF−1、SERINE、血清アルブミン、sFRP−3、Shh、SIGIRR、SK−1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP−II、TACE、TACI,TAG−72(腫瘍関連グリコタンパク質−72)、TARC、TCA−3、T−細胞受容体(例えば、T−細胞受容体α/β)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、精巣PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF−α、TGF−β、TGF−βパン特異性、TGF−βRI(ALK−5)、TGF−βRII、TGF−βRIIb、TGF−βRIII、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4、TGF−β5、トロンビン、胸腺Ck−1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRESS2、TNF、TNF−α、TNF−αβ、TNF−β2、TNFc、TNF−RI、TNF−RII、TNFRSF10A(TRAIL R1Apo−2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2DR5、KILLER、TRICK−2A、TRICK−B)、TNFRSF10C(TRAIL R3DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4DcR2、TRUNDD)、TNF
RSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13D(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55−60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75−80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo−1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4−1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRSF23(DcTRAIL R1TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo−3、LARD、TR−3、TRAMP、WSL−1)、TNFSF10(TRAIL Apo−2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo−3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF−コネクチン、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF−b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンドgp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンドCD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、
TNFSF6(FasリガンドApo−1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンドCD70)、TNFSF8(CD30リガンドCD153)、TNFSF9(4−1BBリガンドCD137リガンド)、TP−1、t−PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL−R1、TRAIL−R2、TRANCE、伝達受容体、TRF、Trk、TROP−2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現ルイスY関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR−1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM−1、VECAD、VE−カドヘリン、VE−カドヘリン−2、VEFGR−1(flt−1)、VEGF、VEGFR、VEGFR−3(flt−4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA、VLA−1、VLA−4、VLRインテグリン、フォン・ヴィレブランド因子、WIF−1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、ならびにホルモンおよび成長因子の受容体。
【0104】
当業者は、前述のリストの標的は、特異的タンパク質および生体分子だけでなく、生化学的経路またはそれらを含む経路も指すことを理解するであろう。例えば、標的抗原としてのCTLA−4への言及は、T細胞の共刺激経路を構成するリガンドおよび受容体(CTLA−4、B7−1、B7−2、CD28、およびこれらのタンパク質を結合する、任意の他の未発見のリガンドまたは受容体を含む)も標的であることを意味する。したがって、本出願に使用する標的は、特異的生体分子だけでなく、該標的およびその標的が属する生化学的通路の成員と相互作用する一連のタンパク質も指す。当業者は、前述の標的抗原、リガンド、またはそれを結合する受容体のいずれか、もしくはそれらの対応する生化学的経路の他の成員は、Fc融合を生成するために、機能し得るように本発明のFc変異体に結合されてもよいことをさらに理解するであろう。したがって、例えば、EGFRを標的とするFc変異体は、発見または未発見の、EGFRを結合するFc変異体をEGF、TGF−b、または任意の他のリガンドに機能し得るように連結させて構築することができる。あるいは、発見または未発見の、本発明のFc変異体は、EGFRを結合する、EGF、TGF−b、またはその他のリガンドを結合するFc融合を生じるためにEGFRに機能し得るように連結し得る。したがって、事実上、リガンド、受容体、もしくはその他のタンパク質またはタンパク質ドメイン(それらの対応する生化学的経路を含む前述の標的およびタンパク質を含むが、それらに限定されない)であれ、いかなるポリペプチドも、Fc融合を展開するために、本発明のFc変異体に機能し得るように連結されてもよい。
【0105】
適切な抗原の選択は、所望の適用に依存する。抗癌治療では、発現が癌細胞に制限される標的を有することが望ましい。抗体治療に特に適していることが証明されている、いくつかの標的は、シグナル伝達機能を有するものである。他の治療抗体は、受容体とその同種リガンドとの間の結合を抑制して、受容体の信号を阻害することで効果を発揮する。治療抗体の他の作用機構は、受容体下方制御をもたらすことである。他の抗体は、それらの標的抗原を介する信号伝達によって機能しない。いくつかの場合では、感染症の薬剤に向けた抗体を使用する。
【0106】
一実施形態では、本発明のFc変異体は、サイトカインに対する抗体に組み込まれる。あるいは、Fc変異体は、サイトカインに融合または共役される。本出願に使用する「サイトカイン」は、一細胞群から放出され、細胞間媒介物質として別の細胞に作用するタンパク質を表す一般用語を意味する。例えば、Penichet et al.,2001,J Immunol Methods 248:91−101(参照することにより明確に組み込まれる)に記載のように、サイトカインを抗体に融合させて、一連の望ましい特性を提供することができる。そのようなサイトカインの例には、リンホカイン、モノカイン、および従来のポリペプチドホルモンが挙げられる。サイトカインには、成長ホルモン(ヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモン等)、副甲状腺ホルモン、チロキシン、インシュリン、プロインシュリン、リラキシン、プロリラキシン、糖タンパク質ホルモン(濾胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体形成ホルモン(LH)等、肝細胞成長因子、線維芽細胞成長因子、プロラクチン、胎盤ラクトゲン、腫瘍壊死因子−アルファおよび−ベータ、ミュラー管抑制物質、マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド、インヒビン、アクチビン、血管内皮成長因子、インテグリン、トロンボポエチン(TPO)、NGF−ベータ等の神経成長因子、血小板成長因子、TGF−アルファおよびTGF−ベータ等のトランスフォーミング成長因子(TGF)、インシュリン様成長因子−Iおよび−II、エリスロポエチン(EPO)、骨誘導(osteoinductive)因子、インターフェロン(インターフェロン−アルファ、ベータ、およびガンマ等)、コロニー刺激因子(CSF)(マクロファージ−CSF(M−CSF)、顆粒球−マクロファージ−CSF(GM−CSF)、および顆粒球−CSF(G−CSF)等)、インターロイキン(IL)(IL−1、IL−1アルファ、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−15等)、TNF−アルファまたはTNF−ベータ等の腫瘍壊死因子、C5a、ならびにLIFおよびキット(kit)リガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子が含まれる。本出願に使用する
サイトカインの用語は、天然の供給源由来または組み換え細胞培養由来のタンパク質、および天然配列のサイトカインの生物学的に活性な等価物が含まれる。
【0107】
TNFスーパーファミリーの成員等のサイトカインおよび可溶性標的は、本発明の変異体との使用に好適な標的である。例えば、抗VEGF、抗CTLA−4、および抗TNF抗体、またはそれらのフラグメントは、FcRn結合を増加させるFc変異体の使用に特に良い抗体である。これらの標的に対する治療は、しばしば、自己免疫疾患の治療を伴い、長い期間にわたって複数の注射を必要とする。したがって、本発明の変異体によってもたらされる、より長い血清半減期およびより頻度の少ない治療は、特に好適である。
【0108】
臨床試験または開発における使用に承認された多くの抗体およびFc融合は、本発明のFc変異体から効果を受け得る。本出願において、これらの抗体およびFc融合は、「臨床産物および候補」を指す。したがって、好適な実施形態では、本発明のFcポリペプチドは、臨床産物および候補の範囲において用途を見出し得る。例えば、CD20を標的とする多くの抗体は、本発明のFcポリペプチドから効果を受け得る。例えば、本発明のFcポリペプチドは、リツキシマブ(Rituxan(登録商標),IDEC/Genentech/Roche)(例えば、US第5,736,137号参照)、非ホジキリンパ腫を治療するために認可された、キメラ抗CD20抗体、HuMax−CD20、Genmabにより現在開発されている抗CD20、US第5,500,362号に記載される抗CD20抗体、AME−133(Applied Molecular Evolution)、hA20(Immunomedics,Inc.)、HumaLYM(Intracel)、およびPRO70769(「Immunoglobulin Variants and Uses Thereof」と題する、PCT/US第2003/040426号)と実質的に同様である抗体において用途を見出し得る。上皮成長因子受容体群の成員(EGFR(ErbB−1)、Her2/neu(ErbB−2)、Her3/neu(ErbB−3)、Her4/neu(ErbB−4)を含む)を標的とする多くの抗体は、本発明のFcポリペプチドから効果を受け得る。例えば、本発明のFcポリペプチドは、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標),Genentech)(例えば、US第5,677,171号参照)、乳癌を治療するために認可されたヒト化抗Her2/neu抗体、Genentechにより現在開発されているパーツズマブ(rhuMab−2C4,Omnitarg(登録商標))、US第4,753,894号に記載される抗Her2抗体、セツキシマブ(Erbitux(登録商標),Imclone)(US第4,943,533号、PCT第WO96/40210号)、さまざまな癌の臨床試験におけるキメラ抗EGFR抗体、Abgenix−Immunex−Amgenによって現在開発されているABX−EGF(US第6,235,883号
)、Genmabによって現在開発されているHuMax−EGFr(第USSN10/172,317号)、425、EMD55900、EMD62000、およびEMD72000(Merck KGaA)(US第5,558,864号、Murthy et al.,1987,Arch Biochem Biophys.252(2):549−60、Rodeck et al.,1987,J Cell Biochem.35(4):315−20、Kettleborough et al.,1991,Protein Eng.4(7):773−83)、ICR62(Institute of Cancer Research)(PCT第WO95/20045号、Modjtahedi et al.,1993,J.Cell Biophys.1993,22(1−3):129−46、Modjtahedi et al.,1993,Br J Cancer.1993,67(2):247−53、Modjtahedi et al.,1996,Br J Cancer,73(2):228−35、Modjtahedi et al.,2003,Int J Cancer,105(2):273−80)、TheraCIM hR3(YM Biosciences,Canada and Centro de Immunologia Molecular,Cuba(US第5,891,996号、US第6,506,883号、Mateo et al.,1997,Immunotechnology,3(1):71−81)、mAb−806(Ludwig Institue for Cancer Research,Memorial Sloan−Kettering)(Jungbluth et al.,2003,Proc Natl Acad Sci USA.100(2):639−44)、KSB−102(KS Biomedix)、MR1−1(IVAX,National Cancer Institute)(PCT第WO0162931A2号)、およびSC100(Scancell)(PCT第WO01/88138号)と実質的に同様である抗体において用途を見出し得る。別の好適な実施形態では、本発明のFcポリペプチドは、アレムツズマブ(Campath(登録商標),Millenium)
、B細胞慢性リンパ球性白血病の治療に現在承認されているヒト化モノクローナル抗体において用途を見出し得る。本発明のFcポリペプチドは、他の臨床産物および候補と実質的に同様であるさまざまな抗体またはFc融合において用途を見出し得、それらは、ムロモナブ−CD3(Orthoclone OKT3(登録商標))、Ortho Biotech/Johnson&Johnsonによって開発された抗CD3抗体、イブリツモマブ・チウキセタン(Zevalin(登録商標))、IDEC/Schering AGによって開発された抗CD20抗体、ゲムツズマブオゾガマイシン(Mylotarg(登録商標))、Celltech/Wyethによって開発された抗CD33(p67タンパク質)抗体、アレファセプト(Amevive(登録商標))、Biogenによって開発された抗LFA−3Fc融合、Centocor/Lillyによって開発されたアビシキシマブ(ReoPro(登録商標))、Novartisによって開発されたバシリキシマブ(Simulect(登録商標))、MedImmuneによって開発されたパリビズマブ(Synagis(登録商標))、インフリキシマブ(Remicade(登録商標))、Centocorによって開発された抗TNFアルファ抗体、アダリムマブ(Humira(登録商標))、Abbottによって開発された抗TNFアルファ抗体、Humicade(登録商標)、Celltechによって開発された抗TNFアルファ抗体、エタナーセプト(Enbrel(登録商標))、Immunex/Amgenによって開発された抗TNFアルファFc融合、ABX−CBL、Abgenixによって開発されている抗CD147抗体、ABX−IL8、Abgenixによって開発されている抗IL8抗体、ABX−MA1、Abgenixによって開発されている抗MUC18抗体、ペムツモマブ(R1549、90Y−muHMFG1)、Antisomaによって開発されている抗MUC1、Therex(R1550)、Antisomaによって開発されている抗MUC1抗体、Antisomaによって開発されているAngioMab(AS1405)、Antisomaによって開発されているHuBC−1、Antisomaによって開発されているチオプラチン(AS1407)、Ante
gren(登録商標)(ナタリズマブ)、Biogenによって開発されている抗アルファ−4−ベータ−1(VLA−4)およびアルファ−4−ベータ−7抗体、VLA−1mAb、Biogenによって開発されている抗VLA−1インテグリン抗体、LTBRmAb、Biogenによって開発されている抗リンホトキシンβ受容体(LTBR)抗体、CAT−152、Cambridge Antibody Technologyによって開発されている抗TGF−β2抗体、J695、Cambridge Antibody TechnologyおよびAbbottによって開発されている抗IL−12抗体、CAT−192、Cambridge Antibody TechnologyおよびGenzymeによって開発されている抗TGFβ1抗体、CAT−213、Cambridge Antibody Technologyによって開発されている抗エオタキシン1抗体、Lympho Stat−B(登録商標)、Cambridge Antibody TechnologyおよびHuman Genome Sciences Inc.によって開発されている抗Blys抗体、TRAIL−R1mAb、Cambridge Antibody TechnologyおよびHuman Genome Sciences Inc.によって開発されている抗TRAIL−R1抗体、Avastin(登録商標)(ベバシズマブ、rhuMAb−VEGF)、Genentechによって開発されている抗VEGF抗体、Genentechによって開発されている抗HER受容体群抗体、抗組織因子(ATF)、Genentechによって開発されている抗組織因子抗体、Xolair(登録商標)(オマリズマブ)、Genentechによって開発されている抗IgE抗体、Raptiva(登録商標)(エファリズマブ)、GenentechおよびXomaによって開発されている抗CD11a抗体、GenentechおよびMillenium Pharmaceuticalsによって開発されているMLN−02抗体(以前のLDP−02)、HuMaxCD4、Genmabによって開発されている抗−CD4抗体、HuMax−IL15、GenmabおよびAmgenによって開発されている抗IL15抗体、GenmabおよびMedarexに
よって開発されているHuMax−炎症、HuMax−癌、GenmabおよびMedarex、ならびにOxford GcoSciencesによって開発されている抗ヘパラナーゼI抗体、GenmabおよびAmgenによって開発されているHuMax−リンパ腫、Genmabによって開発されているHuMax−TAC、IDEC−131,IDEC Pharmaceuticalsによって開発されている抗−CD40L抗体、IDEC−151(クレノリキシマブ)、IDEC Pharmaceuticalsによって開発されている抗CD4抗体、IDEC−114、IDEC Pharmaceuticalsによって開発されている抗CD80抗体、IDEC−152、IDEC Pharmaceuticalsによって開発されている抗CD23、IDEC Pharmaceuticalsによって開発されている抗マクロファージ遊走因子(MIF)抗体、BEC2、Imcloneによって開発されている抗イディオタイプ抗体、IMC−1C11、Imcloneによって開発されている抗KDR抗体、DC101、Imcloneによって開発されている抗flk−1抗体、Imcloneによって開発されている抗VEカドヘリン抗体、CEA−Cide(登録商標)(ラベツズマブ)、Immunomedicsによって開発されている抗癌胎児性抗原(CEA)抗体、LymphoCide(登録商標)(エプラツズマブ)、Immunomedicsによって開発されている抗CD22抗体、Immunomedicsによって開発されているAFP−Cide、Immunomedicsによって開発されているMyelomaCide、Immunomedicsによって開発されているLkoCide、Immunomedicsによって開発されているProstaCide、MDX−010、Medarexによって開発されている抗CTLA4抗体、MDX−060、Medarexによって開発されている抗CD30抗体、Medarexによって開発されているMDX−070、Medarexによって開発されているMDX−018、Osidem(登録商標)(IDM−1)、および、MedarexおよびImmuno−Designed Moleculesによって開発されている抗Her2抗体、HuMax(登録商標)−CD4、Me
darexおよびGenmabによって開発されている抗CD4抗体、HuMax−IL15、MedarexおよびGenmabによって開発されている抗IL15抗体、CNTO148、MedarexおよびCentocor/J&Jによって開発されている抗TNFα抗体、CNTO1275、Centocor/J&Jによって開発されている抗サイトカイン抗体、MOR101およびMOR102、MorphoSysによって開発されている抗細胞内接着分子−1(ICAM−1)(CD54)抗体、MorphoSysによって開発されている抗線維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR−3)抗体、Nuvion(登録商標)(ビジリズマブ)、Protein Design Labsによって開発されている抗CD3抗体、HuZAF(登録商標)、Protein Design Labsによって開発されている抗γインターフェロン抗体、Protein Design Labsによって開発されている抗α5β1インテグリン、Protein Design Labsによって開発されている抗IL−12、ING−1、Xomaによって開発されている抗Ep−CAM抗体、およびMLN01、Xomaによって開発されている抗ベータ2インテグリン抗体を含むが、それらに限定されず、本項において上述に引用した参考文献のすべては、参照することにより本出願に明確に組み込まれる。
【0109】
本発明のFcポリペプチドは、前述の臨床候補および産物、またはそれらに実質的に同様である抗体およびFc融合に組み込まれてもよい。本発明のFcポリペプチドは、他の方法でヒト化、親和性の成熟、操作、または修飾された、前述の臨床候補および産物のバージョンに組み込まれてもよい。
【0110】
一実施形態では、本発明のFcポリペプチドは、自己免疫、炎症、または移植の兆候の治療に使用される。そのような疾患に関連する標的抗原ならびに臨床産物および候補は、LDP−02等の抗α4β7インテグリン抗体、LDP−01等の抗β2インテグリン抗体、5G1.1等の抗補体(C5)抗体、BTI−322等の抗CD2抗体、MEDI−507、OKT3等の抗CD3抗体、SMART抗CD3、IDEC−151等の抗−CD4抗体、MDX−CD4、OKT4A、抗CD11a抗体、IC14等の抗CD14抗体、抗CD18抗体、IDEC152等の抗CD23抗体、Zenapax等の抗CD25抗体、5c8等の抗CD40L抗体、Antova、IDEC−131、MDX−33等の抗CD64抗体、IDEC−114等の抗CD80抗体、ABX−CBL等の抗CD147抗体、CDP850等の抗E−セレクチン抗体、ReoPro/Abcixima等の抗gpIIb/IIa抗体、ICM3等の抗ICAM−3抗体、VX−740等の抗ICE抗体、MDX−33等の抗−FcR1抗体、rhuMab−E25等の抗−IgE抗体、SB−240683等の抗IL−4抗体、SB−240563等の抗IL−5抗体、SCH55700、ABX−IL8等の抗IL−8抗体、抗インターフェロンγ抗体、CDP571等の抗TNF(TNF、TNFa、TNFa、TNF−アルファ)抗体、CDP870、D2E7、インフリキシマブ、MAK−195F、およびAntegren等の抗VLA−4抗体を含むが、それらに限定されない。
【0111】
FcRnへの結合の増加を有するもの等の本発明のFc変異体は、向上した特性を提供するために、TNF阻害剤分子に使用されてもよい。有用なTNF阻害剤分子は、哺乳類のTNF−α作用を阻害するいかなる分子も含む。適切な例は、Fc fusion Enbrel(登録商標)(エタネルセプト)およびAntibody Humira(登録商標)(アダリムマブ)ならびにRemicade(登録商標)(インフリキシマブ)を含む。FcFn連結を増加させるために本発明のFc変異体を使用して操作されたモノクローナル抗体(RemicadeおよびHumira等)は、半減期の増加を介し、より優れた有効性につながり得る。
【0112】
いくつかの実施形態では、感染性疾患に対する抗体が使用される。真核細胞に対する抗体は、サッカロマイセス・セレヴィシエ、ハンゼヌラ・ゼニゴケ、クリュイベロミセスフラジリスおよびK.乳糖、ならびに、ピチア・グレリモンディー(guillerimondii)およびP.パストリス、シゾサッカロミセス・ポンベ、プラスモジウム・ファルシパリウム、ならびにヤロウィア・リポリティカを含むが、それらに限定されない酵母細胞を標的にする抗体を含む。
【0113】
とりわけ、カンジダ菌株(カンジダグラブラータ、カンジダアルビカンス、C・クルーセイ、C・ルシタニエ、およびC・マルトーサを含む)、ならびにアルペルギルス、クリプトコッカス、ヒストプラズマ、コクシジオイデス、ブラストミセス、およびペニシリウムの種に関連する標的抗原を含む、付加的な真菌細胞に対する抗体も有用である。
原虫に関連する標的抗原に対する抗体は、トリパノソーマ、ドノバン・リーシュマニアを含むリーシュマニア種、プラスモジウムspp.、ニューモシスティス・カリニ、クリプトスポリジウム・パルウム、ランブル鞭毛虫、赤痢アメーバ、およびサイクロスーポラ・カネタネンシスに関連した抗体を含むが、それらに限定されない。
原核抗原に対する抗体も有用であり、菌(炭疽菌、ビブリオ属(例えば、コレラ菌)、エシェリキア属(例えば、腸管毒素原性大腸菌)、シゲラ菌(例えば、S・ディゼンテリエ)、サルモネラ菌(例えば、チフス菌)、マイコバクテリウム(例えば、結核菌、ハンセン菌)、クロストリジウム属(例えば、ボツリヌス菌、破傷風菌、C・ディフィシレ、ウェルシュ菌)、コリネバクテリウム(例えば、Cジフテリア菌)、連鎖球菌(例えば、化膿連鎖球菌、肺炎連鎖球菌)、ブドウ球菌(例えば、黄色ブドウ球菌)、ヘモフィルス属(例えば、インフルエンザ菌)、ナイセリア(例えば、髄膜炎菌、淋菌)、エルシニア属(例えば、Y・ランブル鞭毛虫、Y・ペスト菌)、シュードモナス菌(例えば、緑膿菌、P・プチダ)、クラミジア(例えば、クラミジア・トラコマチス)、ボルデテラ属(例えば、百日咳菌)、トレポネーマ属(例えば、梅毒トレポネーマ)、炭疽菌、ペスト菌、ブルセラ菌種、野兎病菌、鼻疽菌、類鼻疽菌、鼻疽菌、類鼻疽菌、ボツリヌス菌、サルモネラ種、SEBコレラ毒素B、大腸菌O157:H7、リステリア菌種、トリコスポロン・ベイゲリ、ロドトルラ種、ハンセヌラ・アノマーラ、エンテロバクター種、クレブシエラ種、リステリア菌種、マイコプラズマ種等)を含むが、それらに限定されない、病原性および非病原性の原核生物等の適切な細菌に対する抗体を含む。
【0114】
いくつかの態様では、抗体は、ウイルス感染に対し、これらのウイルスは、オルトミクソ・ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、呼吸器合胞体ウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、レオウイルス、トガウイルス(例えば、風疹ウイルス)、パルボウイルス、ポックスウイルス(例えば、天然痘ウイルス、ワクシニアウイルス)、エンテロウイルス(例えば、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス)、ヘルペスウイルス(A、B、およびCを含む)、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、エスプタイン・バーウイルス)、ロタウイルス、ノーウォークウイルス、ハンタウイルス、アレナウイルス、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルス)、レトロウイルス(HIV、HTLV−IおよびIIを含む)、パポバウイルス(例えば、パピローマウイルス)、ポリオーマウイルス、およびピコルナウイルス等を含むが、それらに限定されない。
【0115】
最適化されたIgG変異体特性
【0116】
本出願は、さまざまな治療的に関連する特性に最適化されたIgG変異体も提供する。本出願において、1つ以上の最適化された特性を表示するように操作または予測されたIgG変異体は、「最適化されたIgG変異体」を指す。最適化されてもよい最も好適な特性は、FcRnの親和性の強化または低下、および生体内半減期の増加または減少を含むが、それらに限定されない。適切な実施形態は、通常の放出率でエンドソームへの取り込みの増加を可能にするように、高いpH(7.4等)で減少した親和性を維持しながら、エンドソームに関連するpH等、低いpH(例えば、pH6.0)でFcRnへの増加した結合親和性を呈する抗体を含む。同様に、変調されたFcRn結合を有するこれらの抗体は、第USSN11/174,287号、第11/124,640号、第10/822,231号、第10/672,280号、第10/379,392号、および出願第11/256,060号を有する、2005年10月21日に出願された、名称「IgG Immunoglobulin variants with optimized effector function」の特許出願に概略されるもの等の変調されたFcγR結合等、他の所望特性を任意に有してもよい。つまり、最適化特性は、FcγRの親和性の強化または減少を含むが、それらに限定されない。1つの任意の実施形態では、IgG変異体は、FcRn結合プロファイルの他に、ヒト活性FcγR、好適には、FcγRIIIaの強化された親和性を有するように、最適化される。さらに別の任意の代替的実施形態では、IgG変異体は、ヒト阻害受容体FcγRIIbの減少した親和性を有するように最適化される。つまり、具体的な実施形態は、FcRnへの増加した結合、およびFcγRIIIaへの減少した結合を示す抗体の使用を含む。他の実施形態は、FcRnへの減少した結合、およびFcγRIIIaへの増加した結合を示す抗体の使用を活用する。これらの実施形態は、ヒトの強化された治療的特性を有するIgGポリペプチド、例えば、強化されたエフェクター機能およびより高い抗癌作用を提供することが見込まれる。代替的実施形態では、IgG変異体は、FcRnの増加または減少した親和性、およびヒトFcγR(対立遺伝子変異のFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb
、FcγRIIc、FcγRIIIa、およびFcγRIIIbを含むが、それらに限定されない)の増加または減少した親和性を有するように最適化される。これらの実施形態は、ヒトの向上した治療特性、例えば、増加した血清半減期および減少したエフェクター機能を有する、IgGポリペプチドを提供することが見込まれる。別の実施形態では、IgG変異体は、FcRnの強化された親和性、および1つ以上のFcγRの強化された親和性、さらに、1つ以上の他のFcγRの減少した親和性を提供する。例えば、IgG変異体は、FcRnおよびFcγRIIIaへの強化された結合、さらに、FcγRIIbへの減少された結合を有してもよい。あるいは、IgG変異体は、FcRnおよびFcγRへの減少した結合を有してもよい。別の実施形態では、IgG変異体は、FcRnの減少した親和性、およびFcγRIIbの強化した親和性、さらに、1つ以上の活性FcγRへの減少した親和性を有してもよい。さらに別の実施形態では、IgG変異体は、増加した血清半減期および減少したエフェクター機能を有してもよい。
【0117】
好適な実施形態は、ヒトFcRnおよびFcγRへの結合の最適化を含むが、代替的実施形態では、IgG変異体は、げっ歯類および非ヒト霊長類を含むが、それらに限定されない、非ヒト有機体からのFcRnおよびFcγRの強化または減少した親和性を有する。非ヒトFcRnへの結合に最適化されたIgG変異体は、実験において用途を見出し得る。例えば、マウスモデルは、所与の薬物候補の有効性、毒性、および薬物動態等の特性を試験することが可能なさまざまな疾患に使用可能である。当該技術分野において周知のとおり、癌細胞は、ヒトの癌を模倣するためにマウスに移植または注入することができ、プロセスは、異種皮膚移植という。FcRnに最適化されたIgG変異体を含む、IgG変異体の試験は、タンパク質のクリアランス特性、そのクリアランス機構等に関する有益情報を提供し得る。また、IgG変異体は、アグリコシル化された形態の向上した機能性および/または溶液特性に最適化されてもよい。Fcリガンドは、FcRn、FcγR、C1q、ならびにタンパク質AおよびGを含むが、それらに限定されず、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、またはサルを含むが、それらに限定されない、任意の源、好適には、ヒトから得てもよい。好適な実施形態では、IgG変異体は、親IgG変異体のアグリコシル化された形態よりも安定および/または可溶性になるように最適化される。
【0118】
IgG変異体は、FcRnおよびFcγRではなくFcリガンドとの相互作用を調節する修飾を含むことができ、補体タンパク質、およびFc受容体同族体(FcRH)を含むが、それらに限定されない。FcRHは、FcRH1、FcRH2、FcRH3、FcRH4、FcRH5、およびFcRH6を含むが、これらに限定されない(Davis et al.,2002,Immunol.Reviews 190:123−136、参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0119】
好適には、IgG変異体のFcリガンドの特異性は、その治療的実用性を決定する。治療目的の所与のIgG変異体の実用性は、標的抗原のエピトープまたは形態、および治療される疾患または兆候による。ほとんどの標的および兆候では、強化されたFcRn結合は、血清半減期の増加をもたらし得るため、強化されたFcRn結合は、好適であり得る。より長い血清半減期により、頻度の少ない投薬または低量の投薬が可能になる。これは、治療剤が反復投与を必要とする兆候に対して与えられるときに、特に好適である。いくつかの標的および兆候では、減少したFcRn親和性は、好適であり得る。これは、増加したクリアランスまたは減少した血清半減期を有する変異Fcが望ましいとき、例えば、造影剤または放射線治療薬として使用されるFcポリペプチドにおいて、特に好適であり得る。
【0120】
強化された活性FcγRを有するFcRnの強化された親和性および/または阻害FcγRの減少した親和性を提供するIgG変異体を含む、IgG変異体は、使用されてもよい。いくつかの標的および兆候では、異なる活性FcγRに異なる選択性を提供するIgG変異体を使用することがさらに有益であり得、例えば、いくつかの場合では、FcγRIではなく、FcγRIIaおよびFcγRIIIaへの増加した結合が所望であり得る一方、他の場合では、FcγRIIaのみへの増加した結合が所望であり得る。特定の標的および兆候では、FcRn結合を変更し、FcγR媒介および補体媒介エフェクター機能の両方を強化するIgG変異体を使用することが好適であり得る一方、他の場合では、FcRn結合または血清半減期、およびFcγR媒介および補体媒介エフェクター機能のいずれかを強化するIgG変異体を使用することが有利であり得る。いくつかの標的または癌の兆候では、例えば、C1q、1つ以上のFcγR、FcRn、または1つ以上の他のFcリガンドへの結合を不活性化させて、1つ以上のエフェクター機能を減少または除去するのに有利であり得る。他の標的および兆候では、阻害FcγRIIbへの増加した結合、さらに、WTレベル、活性FcγRへの小さくなった結合を提供するIgG変異体を使用することが好適であり得る。これは、例えば、IgG変異体の目標が、炎症または自己免疫疾患を抑制する、または何らかの方法で免疫系を調節することであるときに、特に有用であり得る。一般的に、自己免疫疾患は、長期にわたり、治療は、反復投与で行われるため、増加したFcRnからの増加した半減期を有するFc変異体でのこれらの治療は、好適である。
【0121】
修飾は、IgG安定性、可溶性、機能、または臨床使用を向上するために行われてもよい。好適な実施形態では、IgG変異体は、ヒトの免疫原性を減少するように修飾を含むことができる。最も好適な実施形態では、IgG変異体の免疫原性は、参照することによりその全体が組み込まれる、第USSN11/004,590号に記載される方法を用いて減少した。代替的実施形態では、IgG変異体は、ヒト化されている( ADDIN ENRfu Clark,2000,Immunol Today 21:397−402、参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0122】
IgG変異体は、免疫原性を減少させる修飾を含むことができる。免疫原性を減少させるための修飾は、親配列由来の処理されたペプチドのMHCタンパク質への結合を減少させる修飾を含むことができる。例えば、アミノ酸修飾は、高い親和性を有し、関連するMHC対立遺伝子へ結合することが予想される免疫エピトープもない、または最少数であるように操作されてもよい。タンパク質配列のMHC結合エピトープを特定するいくつかの方法は、当該技術分野において周知であり、IgG変異体のエピトープをスコアするために使用されてもよい。例えば、国際公開第WO98/52976号、第WO02/079232号、第WO00/3317号、第USSN09/903,378号、第USSN10/039,170号、第USSN60/222,697号、第USSN10/754,296号、PCT第WO01/21823号、およびPCT第WO02/00165号、Mallios,1999,Bioinformatics 15: 432−439、Mallios,2001,Bioinformatics 17:942−948、Sturniolo et al.,1999,Nature Biotech.17:555−561、第WO98/59244号、第WO02/069232号、第WO02/77187、Marchall et al.,1995,J.Immunol.154:5927−5933、およびHammer et al.,1994,J.Exp.Med.180:2353−2358を参照されたい、これらすべては参照することによりその全体が組み込まれる。配列ベースの情報は、所与のペプチド−MHC相互作用の結合スコアを決定するために使用することができる(例えば、Mallios,1999,Bioinformatics 15:432−439、Mallios,2001,Bioinformatics 17:p942−948、Sturniolo et al.,1999,Nature Biotech.17:555−561参照、これらすべては、参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0123】
IgG変異体の操作
【0124】
本発明の変異体は、さまざまな方法によって設計されてもよい。本出願に記載するとおり、変異体は、挿入、欠失、置換、他の修飾、またはそれらの組み合わせおよび他の変更であってもよい。本発明の特に新しい実施形態は、FcポリペプチドのFcリガンドへの結合を増加させるか、または減少させる挿入および欠失の設計である。本出願に開示するとおり、挿入または欠失は、FcポリペプチドのFcRnへの親和性を増加または減少させるように作成される。挿入および欠失は、合理的な方法、または使用またはランダムまたはセミランダムライブラリー作成またはスクリーニング等のランダム成分を含む方法によって設計されてもよい。代替的な実施形態では、FcポリペプチドのFcRnへの親和性を増加または減少する置換を開示する。
【0125】
骨格修飾:挿入および欠失
【0126】
変異Fcポリペプチドは、Fcポリペプチドの位置の親アミノ酸の代わりに、変異アミノ酸置換することによって形成されてもよい。Fcポリペプチド内の変異アミノ酸の1つ以上のアミノ酸を置換することによって、これらの位置の側鎖は、変更される。最も有用な置換は、Fc側鎖を変更することによってFc特性を修飾する。置換された側鎖は、Fc機能または特性と関連するFc結合相手と直接または間接的に相互作用し得る。少なくとも1つの置換は、親Fcポリペプチドの1つ以上の側鎖の共有構造を変更する。
【0127】
あるいは、親Fcポリペプチドの骨格の共有構造を変化する変異Fcポリペプチドは、形成されてもよい。タンパク質内の骨格原子は、ペプチド窒素、アルファ炭素、カルボニルまたはペプチド炭素、およびカルボニル酸素である。骨格の共有構造の変化は、Fcポリペプチドの特性を変更するための付加的方法を提供する。Fc骨格の共有構造は、骨格に原子を追加する(例えば、1つ以上のアミノ酸を挿入する)、または骨格から原子を取り除く(例えば、1つ以上のアミノ酸を欠失する)ことによって変更されてもよい。また、骨格の共有結合は、骨格の個別の原子を他の原子に変化させることによって変更されてもよい(Deechongkit et al.,J Am Chem Soc.2004.126(51):16762−71、参照することによりその全体が組み込まれる)。当該技術分野において周知であり、本出願に示すとおり、Fcポリペプチド内のアミノ酸の挿入または欠失は、DNAをコード化するFcポリペプチド内の対応するヌクレオチドを挿入または欠失することにより行われてもよい。あるいは、当該技術分野において周知のとおり、アミノ酸の挿入または欠失は、Fcポリペプチドの合成中に行われてもよい。
【0128】
Fcポリペプチドの1つ以上の結合相手(例えば、FcγR、FcRn、C1q)との相互作用を変更するアミノ酸の挿入または欠失の設計は、Fcポリペプチドの錯体の構造およびその結合相手を考慮して行われてもよい。あまり好適ではない実施形態では、設計は、Fcポリペプチドの構造および結合相手の結合に伴うFc領域の情報を考慮して行われてもよい。この情報は、突然変異誘導実験、相同性比較、コンピュータモデリングまたは他の手段によって得られてもよい。
【0129】
Fc結合相互作用に影響を及ぼすが、Fcポリペプチドの全体の構造、安定性、発現、または使用に影響を及ぼさない挿入または欠失のアミノ酸配列内の好適な位置は、Fc/Fc−結合相手の相互作用を担うループ内である。FcポリペプチドへのFcRn結合を変更するために、位置244−257、279−284、307−317、383−390、および428−435は、挿入または欠失の好適なループ位置である(KabatらのEUインデックスからの付番、Burmeister et al.,1994,Nature,372:379−383、Martin et al.,2001,Mol Cell 7:867−877、これらすべては、参照することによりその全体が組み込まれる)。FcポリペプチドへのFcγ受容体の結合を変更するために、位置229−239、266−273、294−299、および324−331は、挿入または欠失の好適なループ位置である(KabatらのEUインデックスからの付番、PDBコード1E4K.pdb Sondermann et al.,Nature.2000 406:267、これらすべては参照することによりその全体が組み込まれる)。ループは、アルファらせん構造またはベータシート構造に関与しないポリペプチドの領域である。ループ位置は、アルファらせん構造またはベータシート構造内のいずれかではない位置である(van Holde,Johnson and Ho.Principles of Physical Biochemistry.Prentice Hall,New Jersey 1998,Chapter 1 pp2−67、参照することによりその全体が組み込まれる)。ループ位置は、典型的に、骨格原子が、アルファらせんおよびベータシートの骨格原子と比較してより柔軟であり、水素結合を担うことが少ないため、好適である。したがって、1つ以上のアミノ酸の挿入または欠失によるループの延長または短縮は、安定性または他の問題を含む、Fcポリペプチドへの大きく、破壊的な変化につながることが少ない。
【0130】
挿入および欠失は、ポリペプチドの長さを変更するために使用されてもよい。例えば、ループ領域では、ループの長さを変更することによって、ループの柔軟性および配座エントロピーの変更が生じる。一般的に、ループへの挿入は、ループの配座エントロピーを増加させ、それは、可能な配座の数の自然対数によって乗じられたボルツマン定数として定義されてもよい(van Holde,Johnson and Ho.Principles of Physical Biochemistry.Prentice Hall,New Jersey 1998,pp78、参照することによりその全体が組み込まれる)。少なくとも1つのアミノ酸をポリペプチドに挿入することによって、ポリペプチドに可能な配座の総数は増加する。これらの付加的配座は、ポリペプチドがFc結合タンパク質を結合する上で付加的配座の1つを使用してもよいため、好ましいFc/Fc結合相手の相互作用を形成するのに有益であり得る。この場合、挿入は、より強いFc/Fc結合相手の相互作用をもたらし得る。付加的配座が結合接点に使用されない場合は、挿入は、付加的配座が結合するコンピテント配座と競合し得るため、より弱いFc/Fc結合相手の相互作用をもたらし得る。同様に、ポリペプチド断片の欠失は、より強いまたは弱いFc/Fc結合相手の相互作用のいずれかをももたらし得る。骨格配座の可能な数を減少させる断片の欠失が結合するコンピテント配座を除去する場合は、欠失は、より弱いFc/Fc結合相手の相互作用をもたらし得る。欠失が結合するコンピテント配座を除去しない場合は、欠失は、欠失が結合するコンピテント配座と競合する配座を除去し得るため、より強いFc/Fc結合相手の相互作用をもたらし得る。
【0131】
挿入および欠失は、Fcポリペプチド内のアミノ酸の位置および配向を変更するために使用されてもよい。挿入および欠失が骨格の共有構造に変化をもたらすため、それらは、骨格原子の位置の変化を必然的にもたらす。図7は、3つの異なる骨格において、L1〜L4と印された、いくつかのループ断片の骨格位置を比較する。参照骨格構造は、ループ断片を含むのに対して、欠失骨格は、断片L1が不足し、挿入断片は、断片L1の前、つまり、N末端に付加的断片を含む。欠失および挿入は、挿入または欠失の部位近くの骨格構造において最大の変化をもたらす。ループのN末端近くの断片、例えば、断片L1を除去することによって、ループは短くなり、残りの断片は、ループのN末端の末端に近い位置に移動する。これは、L2断片をL1断片の元の位置に向かい、またループのN末端の終端に向かって移動させる効果を有する。L1断片に向かったL2断片の位置のこの変更は、Fc/Fc結合相手の錯体の結合を強化し、アミノ酸またはL2に位置するアミノ酸がFc結合相手と好ましい相互作用を行うことを示唆する事前情報があるときに、好適である。例えば、L2がアラニンおよびチロシンを含み、以前にアラニンおよびチロシンの2つのL1アミノ酸の置換が、増加した結合を有するFc変異体をもたらす場合は、L1の欠失は、Fc結合相手の増加した親和性を有するFc変異体を形成し得る。
【0132】
同様に、ループのN末端側のFcポリペプチドへのポリペプチド断片の挿入によって、ループ断片の位置は、ループのC末端側へ移動される。図7では、断片L1の前、つまり、N末端側への1つ以上のアミノ酸の挿入は、骨格配座を変更し、L1断片のループのC末端の末端に向かった移動を含む。この種類の挿入は、挿入によって、より強いFc/Fc結合相手の相互作用をもたらされ得るため、断片L1に位置するアミノ酸がL2の位置にあるときに好ましい相互作用をするといわれる場合に、好適である。より弱いFc/Fc結合相手の相互作用が望ましい場合は、挿入を使用して、好ましくないアミノ酸を新しい位置へ移動してもよい。挿入された断片、欠失された断片、および参照断片(図7のL1〜L4)は、Fcポリペプチド内の1つ、または1つ以上のアミノ酸であってもよい。
【0133】
あるいは、挿入または欠失は、ループのN末端の終端の挿入または欠失と類似する方法で、ループのC末端の終端に使用されてもよい。ループC末端の挿入は、ループN末端に向かった挿入のN末端位置の移動をもたらし得る。ループC末端の終端の欠失は、ループC末端に向かった欠失のN末端位置の移動をもたらし得る。ループのN末端またはC末端の末端で挿入または欠失を使用する選択は、ループ内に位置するアミノ酸、増加または減少したFc/Fc結合相手の親和性、および所望の位置の移動による。
【0134】
挿入または欠失は、ループ、アルファらせん、およびベータシート領域を含む、Fcポリペプチドのいかなる領域で使用されてもよい。挿入および欠失の好適な位置は、ループ領域を含み、それらは、アルファらせんまたはベータシート領域ではないループ領域である。一般的に、ループは、アルファらせんまたはベータシートよりも骨格における変更により対応するため、ループは、好適である。より強いタンパク質/タンパク質相互作用をもたらす挿入または欠失の特に好適な位置は、ループのN末端またはC末端の端である。ループの側鎖がFc/Fc結合相手の相互作用を担う場合は、端の挿入または欠失は、結合相互作用において非常に有害な変化をもたらす可能性が低い。ループの正確な中央内の欠失は、Fc/Fc結合相手の接点において重要な残基を除去する可能性が高く、ループの正確な中央内の挿入は、Fc/Fc結合相手の接点において好ましくない相互作用を引き起こす可能性が高い。欠失または挿入された残基の数は、好適とされる15個以下の残基の挿入または欠失、より好適とされる10個以下の残基の挿入または欠失、および最も好適とされる5個以下の残基の挿入または欠失に所望な骨格の変化のサイズによって決定される。
【0135】
Fc欠失変異体の位置およびサイズが設計されると、全体のポリペプチド配列は、完全に決定され、ポリペプチドは、当該技術分野において周知の方法で構成されてもよい。
【0136】
しかしながら、Fc挿入変異体は、挿入される少なくとも1つのアミノ酸の配列を設計する付加的ステップを有する。Ser、Thr、Asn、Gln、Ala、Gly、Hisを含む、極性残基の挿入は、Fcポリペプチド内で暴露されると予想される位置で好適である。Ser、Thr、およびAlaを含む、より小さいアミノ酸は、小さいサイズがFc/Fc結合相手の相互作用と立体的に阻害する可能性が低いため、特に好適である。SerおよびThrは、Fc結合相手上の原子と水素結合する能力も有する。
【0137】
挿入は、より強いFc/Fc結合相手の結合が所望のときに所望であり得るように、挿入されたポリペプチドがFc結合相手と好ましい相互作用を行うように設計され得る、追加された柔軟性も有する。骨格挿入の長さは、挿入される単純な一般的配列を有する変異骨格をモデルとして決定されてもよい。例えば、異なる長さのポリセリン、ポリグリシン、またはポリアラミンの挿入は、構成されモデルにされてもよい。モデリングは、挿入を含む、同族体の周知の3次元構造に基づく相同性モデリングを含む、さまざまな方法、および、MODELLER(M.A.Marti−Renom et al.,Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.29,291−325,2000)およびROSETTA(Kuhlman et al.(2003).Science 302,1364−8)(ともに参照することによりその全体が組み込まれる)を含み、コンピュータモデリングによって行われてもよい。典型的に、さまざまな骨格配座は、最初に生成され、最終骨格構造は、側鎖の特定が確立した後に決定されてもよい。側鎖は、PDA(登録商標)アルゴリズムによって設計されてもよい(US第6,188,965号、第6,269,312号、第6,403,312号、第6,801,861号、第6,804,611号、第6,792,356号、第6,950,754号、および第USSN09/782,004号、第09/927,790号、第10/101,499号、第10/666,307号、第10/666311号、第10/218,102、これらすべては参照することによりその全体が組み込まれる)。
【0138】
挿入および欠失は、FcRn結合特性を変更するための説明した方法と類似する方法で、FcポリペプチドのFcγRへの結合を変更するために使用されてもよい。Fcドメインは、図1に示す位置で、FcγRに結合する。PDBコード1T89および1IIS(Radaev S et al.,J Biol Chem.v276,p.16469−16477、参照することによりその全体が組み込まれる)を含む、Fc/FcγR錯体の構造は、2つの構造との間の相互作用残基およびループを表す。US第11/124620号およびUS第6737056号(両方は、参照することによりその全体が組み込まれる)に見られるもの等、突然変異生成の結果は、すべて骨格の位置付けの決定された適切な移動における有用性を有する。
【0139】
挿入および欠失は、本出願に記載する方法によって、Fcポリペプチドの横のいかなるポリペプチド内に設計されてもよい。例えば、TNFスーパーファミリー成員、APRIL内の挿入または欠失は、その3次元構造を用いて設計されてもよい(PDBコード1XU1.pdb,Hymowitz,et al.,(2005)J.Biol.Chem.280:7218、参照することによりその全体が組み込まれる)。挿入または欠失は、APRILのその受容体、TACIへの結合を増加するように設計されてもよい。挿入または欠失部位として好適なループ残基は、Ser118−Val124、Asp164−Phe167、Pro192−Ala198、Pro221−Lys226である。これらのループは、APRIL/TACI錯体内のTACIと相互作用し、結合を介在する。
【0140】
ポリペプチドを組み込んだ変異体
【0141】
IgG変異体は、ヒトIgG配列に基づくことができ、したがって、ヒトIgG配列は、他の有機体からの配列(例えば、げっ歯類および霊長類の配列)を含むが、それらに限定されない、他の配列が比較される「塩基」配列として使用される。IgG変異体は、IgA、IgE、IgD、IgM等の他の免疫グロブリンクラスからの配列も含んでもよい。IgG変異体は、1つの親IgGとの関連で操作されるが、変異体は、別の第2の親IgGとの関連で操作される、または「転送」され得ると考えられる。これは、典型的に、配列またはIgGの配列との間の構造的相同性に基づき、第1と第2のIgGとの間の「等価」または「対応」残基および置換を決定して行われる。相同性を確立するために、本出願に概説する第1のIgGのアミノ酸配列は、第2のIgGの配列と直接比較される。配列を整合した後、当該技術分野において周知の1つ以上の相同性整合プログラムを使用して、(例えば、種との間の保存残基を使用して)、整合を維持するために必要な挿入および欠失を可能にしながら(つまり、任意の欠失および挿入を介する保存残基の除去を回避して)、第1のIgG変異体の1次配列内の特定のアミノ酸に等価する残基を定義する。好ましくは、保存残基の整合は、そのような残基を100%保存しなければならない。しかしながら、保存残基の75%以上またはわずか50%の整合は、等価残基を定義するのにも十分である。また、等価残基は、IgGの3次構造のレベルであり、その構造が決定されている、第1と第2のIgGとの間の構造的相同性を決定して定義されてもよい。この場合、等価残基は、親または前躯体の特定のアミノ酸残基の2つ以上の主鎖原子の原子座標(N対N、CA対CA、C対C、およびO対O)が整合後に0.13nm、好適には、0.1nm以内であるものとして定義される。整合は、最良のモデルがタンパク質の非水素タンパク質原子の原子座標の最大の重複を与えるように配向され、位置付けられた後に、達成される。どのように等価または対応残基が決定されるかどうかにかかわらず、また、IgGが形成される親IgGの特定にかかわらず、伝えるべきことは、発見されたIgG変異体は、IgG変異体との有意な配列または構造的相同性を有する、任意の第2の親IgGに操作することができるということである。したがって、例えば、
親抗体がヒトIgG1である変異抗体が、等価残基を決定するための上述の方法または他の方法を使用して生成される場合は、変異抗体は、異なる抗原、ヒトIgG2親抗体、ヒトIgA親抗体、マウスIgG2a、またはIgG2b親抗体等を結合する、別のIgG1親抗体内で操作されてもよい。上述のとおり、ここでもまた、親IgG変異体の関連は、IgG変異体を他の親IgGへ輸送する能力に影響を及ぼさない。
【0142】
IgG変異体を操作し、産生し、スクリーニングする方法を提供する。記載する方法は、動作のいかなる特定の応用または理論にも制限するように意図されていない。むしろ、一般的に、提供する方法は、1つ以上のIgG変異体を操作し、産生し、スクリーニングして、最適化されたエフェクター機能を有するIgG変異体を得てもよいことを説明するように意図されている。抗体およびタンパク質変異体を設計、産生、および試験するためのさまざまな方法は、第USSN10/754,296号および第USSN10/672,280号に記載され、両方は、参照することによりその全体が組み込まれる。
【0143】
さまざまなタンパク質を操作する方法は、最適化されたエフェクター機能を有するIgG変異体を設計するために使用してもよい。一実施形態では、入手可能な構造情報を使用して、置換、挿入または欠失を誘導する、構造ベースの操作方法を使用してもよい。い。好適な実施形態では、置換がコンピュータ計算におけるそのエネルギー適合性に基づいて設計される、コンピュータによるスクリーニング方法を使用してもよい。例えば、第USSN10/754,296号、および第USSN10/672,280号、および本出願に引用する参考文献を参照し、これらすべては、参照することによりその全体が組み込まれる。
【0144】
配列整合を使用して、特定した位置で置換を誘導してもよい。当業者は、配列情報を使用して、タンパク質構造に潜在的に有害である置換の導入を抑制し得ることを理解するであろう。配列源は、大きく異なり得、Kabatデータベース(Northwestern University)、Johnson&Wu,2001,Nucleic Acids Res.29:205−206、Johnson&Wu,2000,Nucleic Acids Res.28:214−218)、IMGTデータベース(IMGT、the international ImMunoGeneTics information system(登録商標)、Lefranc et al.,1999,Nucleic Acids Res.27:209−212、Ruiz et al.,2000 Nucleic Acids Res.28:219−221、Lefranc et al.,2001,Nucleic Acids Res.29:207−209、Lefranc et al.,2003,Nucleic Acids Res.31:307−310)、およびVBASEを含むが、それらに限定されず、すべては参照することによりその全体が組み込まれる、1つ以上の周知のデータベースを含む。抗体配列情報は、哺乳類を含むが、それらに限定されない、任意の有機体からの生殖細胞配列または自然発生抗体の配列の配列整合から得る、コンパイルする、および/または生成することができる。当業者は、ヒトまたは実質的にヒトである配列の使用は、ヒトに投与されたときに低い免疫原性であるという利点をさらに有し得ることを理解するであろう。より一般的な核酸またはタンパク質データベースである、他のデータベース、つまり、特に抗体に限定しないデータベースは、SwissProt、GenBank Entrez、およびEMBLヌクレオチド配列データベースを含むが、これらに限定されない。整合された配列は、VH、VL、CH、および/またはCL配列を含むことができる。当該技術分野において周知の多くの配列ベースの整合プログラムおよび方法があり、これらのすべては、配列整合の生成に役立つ。
【0145】
あるいは、ランダムまたはセミランダム突然変異生成方法を使用して、所望の位置でアミノ酸修飾を行ってもよい。これらの場合では、位置は、ランダムに選択されるか、またはアミノ酸の変化は、単純な規則を使用して行われる。例えば、すべての残基は、アラニンに変異されてもよく、それは、アラニンスキャンニングと言われる。そのような方法は、より高いレベルの配列多様性をスクリーニングするために選択方法を使用する、より高度な操作方法と連結されてもよい。当該技術分野において周知のとおり、例えば、以下に示すとおり、ファージ表示、リボソーム表示、細胞表面表示等の表示技術を含む、そのような方法に使用されてもよい、さまざまな選択技術がある。
【0146】
IgG変異体の産生およびスクリーニングするための方法は、当該技術分野において周知である。抗体の分子生物学、発現、精製、およびスクリーニングのための一般的な方法は、Antibody Engineering,edited by Duebel&Kontermann,Springer−Verlag,Heidelberg,2001、およびHayhurst&Georgiou,2001,Curr Opin Chem Biol 5:683−689、Maynard&Georgiou,2000,Annu Rev Biomed Eng 2:339−76に記載されている。第USSN10/754,296号、第USSN10/672,280号、ならびに第USSN10/822,231号および第11/124,620号に記載される方法も参照し、これらすべては、参照することによりその全体が組み込まれる。本発明の好適な変異体は、図8に見られる変異体を含む。あるいは、本発明の好適な変異体は、図9に見られる変異体を含む。また、あるいは、本発明の好適な変異体は、図10に見られる変異体を含む。これらの変異体は、実施例に示すとおり、Fc受容体、FcRnへの結合の増加を示した。
【0147】
IgG変異体の生成
【0148】
IgG変異体は、当該技術分野において周知の任意の方法によって形成することができる。一実施形態では、IgG変異体配列を使用して、メンバー配列をコード化し、次いで、所望により宿主細胞にクローン化、発現、および分析することができる核酸を形成する。これらの実践は周知の手法を使用して実行され、用途を見出し得る多様な方法が、Molecular Cloning−A Laboratory Manual,3rd Ed.(Maniatis,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,2001)、およびCurrent Protocols in Molecular Biology(John Wiley&Sons)に記載されており、ともに参照することによりその全体が組み込まれる。核酸IgG変異体をコード化する核酸を、タンパク質を発現するように発現ベクターに組み込むことができる。発現ベクターには、典型的に、制御もしくは調節配列と機能し得るように連結された、つまり、制御もしくは調節配列と機能的関係に置かれたタンパク質、選択可能なマーカー、任意の融合相手、および/または追加要素を含む。IgG変異体は、Fc変異体をコードする核酸を含有する核酸、好ましくは発現ベクターを形質移入された宿主細胞を、タンパク質の発現を誘発するかまたは引き起こすのに適切な条件下で培養することにより産生することができる。多岐にわたる、適した宿主細胞を使用することができ、それには哺乳動物細胞、細菌、昆虫細胞、および酵母が含まれるが、これらに限定されない。例えば、用途を見出し得るさまざまな細胞株が、American Type Culture Collectionから入手可能なATCC細胞株カタログに記載されており、これは、参照することによりその全体が組み込まれる。外来核酸を宿主細胞に導入する方法は、当該技術分野において周知であり、使用する宿主細胞によって異なる。
【0149】
好ましい実施形態では、IgG変異体は、発現後に精製または単離される。抗体は、当業者に周知のさまざまな様式で単離または精製することができる。標準的な精製方法には、クロマトグラフィー技法、電気泳動、免疫学、沈殿、透析、ろ過、濃縮、およびクロマト分画が含まれる。当該技術分野において周知であるように、さまざまな天然タンパク質が抗体、例えば細菌のタンパク質A、G、およびLに結合し、これらのタンパク質は、精製において用途を見出し得る。精製は、しばしば特定の融合相手により可能にすることができる。例えば、タンパク質は、GST融合体が用いられている場合はグルタチオン樹脂を、His−タグが用いられている場合はNi+2親和性クロマトグラフィーを、あるいは、flag−タグが使用されている場合は固定化抗flag抗体を使用して、精製することができる。適切な精製技術の一般的手引きには、Antibody Purification:Principles and Practice,3rd Ed.,Scopes,Springer−Verlag,NY,1994を参照されたく、該文献は、参照することによりその全体が組み込まれる。
【0150】
IgG変異体のスクリーニング
【0151】
Fc変異体は、生体外アッセイ、生体内および細胞をベースとするアッセイ、ならびに選択技法を使用するものを含むが、これらに限定されない、さまざまな方法を使用してスクリーニングすることができる。スクリーニングの手順において、自動化および高処理量スクリーニング技法を利用することができる。スクリーニングは、融合相手、または例えば、免疫標識、同位体標識、または蛍光もしくは比色染料等の低分子標識等を使用することができる。
【0152】
好適な実施形態では、Fc変異体の機能的および/または生物物理的特性は、生体外アッセイでスクリーニングされる。好適な実施形態では、タンパク質は、機能性、例えば、反応を触媒するその能力、またはその標的への結合親和性をスクリーニングされる。
【0153】
当該技術分野において周知のとおり、スクリーニング方法のサブセットは、ライブラリーの好ましい成員に選択されるものである。本出願において、方法は、「選択方法」を指し、これらの方法は、Fc変異体をスクリーニングするための本発明に役立つ。タンパク質ライブラリーが選択方法を使用してスクリーニングされるとき、好ましい、つまり選択基準を満たすライブラリーのこれらの成員のみが増殖、単離、および/または観測される。タンパク質ライブラリーをスクリーニングするための本発明において用途を見出し得る、さまざまな選択方法は、当該技術分野において周知である。本発明において用途を見出し得る、他の選択方法は、生体内方法等、表示に頼らない方法を含む。「定方向進化」方法という選択方法のサブセットは、選択中の好ましい配列の接合またはブレッディングを含み、しばしば、新しい得全変異を組み込むものである。
【0154】
好適な実施形態では、Fc変異体は、1つ以上の細胞をベースとする、あるいは生体内アッセイを使用して、スクリーニングされる。そのようなアッセイには、典型的に、細胞がライブラリーに属する個々の変異体または変異体のプールに暴露されるように、精製または未精製タンパク質を外来的に追加する。これらのアッセイは、典型的に、常にではないが、Fcポリペプチドの機能、つまり、Fcポリペプチドのその標的に結合し、一部の生化学的事象、例えば、エフェクター機能、リガンド/受容体結合抑制、アポトーシス等を媒介する能力に基づく。そのようなアッセイは、しばしば、例えば、細胞の生存、細胞の死、細胞形態の変化、細胞の天然遺伝子もしくはレポーター遺伝子の発現等の転写活性化等の、IgGに対する細胞の反応をモニターすることを含む。例えば、そのようなアッセイは、ADCC、ADCP、またはCDCを誘起するFc変異体の能力を測定し得る。一部のアッセイには、標的細胞に加えて、付加的細胞または成分、例えば、血清の補体、または末梢血単球(PBMC)、NK細胞、マクロファージ等のエフェクター細胞を追加する必要があり得る。そのような付加的細胞は、いかなる有機体由来でもよく、好ましくは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサル由来である。抗体は、抗体の標的を発現しているある細胞株のアポトーシスを引き起こし得るか、または、それらは、アッセイに追加された免疫細胞による標的細胞への攻撃を媒介し得る。細胞の死亡または生存度をモニターする方法は当該技術分野において周知であり、染料、免疫化学、細胞化学、および放射活性試薬の使用を含む。転写活性化も、細胞をベースとするアッセイにおいて機能をアッセイする方法として役立ち得る。あるいは、Fc変異体をコードする核酸で形質転換または形質移入された細胞を使用して、細胞をベースとするスクリーニングを実施する。つまり、Fc変異体は、細胞に外来的に追加されない。
【0155】
IgG変異体の生物学的特性は、細胞、組織および有機体全体での実験で特徴分析することができる。当該技術分野において周知であるように、薬物は、しばしば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、およびサルを含むが、これらに限定されない動物で、疾病または疾病モデルの治療に関する薬物の有効性を測定するために、または薬物の薬物動態、毒性、および他の特性を測定するために試験される。該動物は、疾病モデルと称されることがある。治療薬は、しばしば、ヌードマウス、SCIDマウス、異種移植マウス、および遺伝子組み換えマウス(ノックインおよびノックアウトを含む)を含むが、これらに限定されないマウスで試験される。このような実験は、治療薬として使用されるタンパク質の潜在能力の決定にとって意味のあるデータを提供し得る。任意の有機体、好ましくは哺乳動物を、試験に使用することができる。例えば、そのヒトとの遺伝的類似性のために、サルは、適した治療モデルであり得、したがってIgGの効力、毒性、薬物動態または他の特性の試験に使用することができる。薬物としての承認にはヒトにおける試験が最終的に必要とされ、したがって、当然これらの実験が考えられる。したがって、IgGをヒトで試験して、それらの治療有効性、毒性、免疫原性、薬物動態、および/または他の臨床的特性について判定することができる。
【0156】
IgG変異体の使用方法
【0157】
IgG変異体は、広範囲にわたる産物において用途を見出し得る。一実施形態では、IgG変異体は、治療薬、診断薬、または研究試薬であり、好適には、治療薬である。IgG変異体は、単クローンまたは多クローンである抗体組成物において用途を見出し得る。好適な実施形態では、IgG変異体は、標的抗原を有する標的細胞、例えば、癌細胞を死滅させるために使用される。代替的な実施形態では、IgG変異体は、標的抗原を阻害、拮抗、または刺激、例えば、サイトカインまたはサイトカイン受容体を拮抗するために、使用される。代替の好適な実施形態では、IgG変異体は、標的抗原を阻害、拮抗、または刺激し、標的抗原を有する標的細胞を死滅させるために使用される。
【0158】
IgG変異体は、さまざまな治療目的に使用することができる。好適な実施形態では、IgG抗体を含む抗体が、抗体関連疾患を治療するために、患者に投与される。該目的の「患者」は、ヒトおよび他の動物、好適には哺乳動物、最も好適にはヒトを含む。本出願における「抗体関連疾患」、または「抗体反応性疾患」、または「状態」、または「疾病」は、IgG変異体を含む医薬組成物の投与によって改善され得る疾患を意味する。抗体関連疾患には、自己免疫疾患、免疫疾患、感染性疾病、炎症性疾病、神経系疾病、ならびに癌を含む腫瘍学的および新生物疾患が含まれるが、これらに限定されない。本出願における「」および「癌性」は、典型的に、調節されていない細胞成長を特徴とする哺乳動物の生理的状態を指すか、またはこれを説明する。癌の例には、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫(脂肪肉腫を含む)、神経内分泌系腫瘍、中皮腫、シュワン腫、髄膜腫、腺癌、黒色腫、および白血病またはリンパ性悪性疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0159】
一実施形態では、IgG抗体が、患者に投与される唯一の治療活性剤である。あるいは、IgG抗体は、細胞毒性剤、化学療法剤、サイトカイン、増殖抑制剤、抗ホルモン薬、キナーゼ阻害剤、抗血管形成剤、心臓保護剤、または他の治療剤を含むが、これらに限定されない、1つ以上の他の治療剤と組み合わせて投与される。IgG変異体は、1つ以上の他の治療レジメンと併用して投与され得る。例えば、IgG変異体は、化学療法、放射線治療、あるいは化学療法と放射線治療の両方と一緒に患者に投与され得る。一実施形態では、IgG変異体は、IgG変異体であっても、そうでなくてもよい、1つ以上の抗体と併用して投与され得る。別の実施形態に従って、IgG変異体および1つ以上の他の抗癌療法を用いて、体内で癌細胞が治療される。そのような体内治療は、骨髄移植、特に自家骨髄移植に有用であることが考えられる。IgG変異体を、手術等のさらに他の治療手技と組み合わせて用い得ることが、当然考えられる。
【0160】
さまざまな他の治療剤は、IgG変異体との投与において用途を見出し得る。一実施形態では、IgGは、抗血管形成剤とともに投与される。本出願に使用する「抗抗血管形成剤」は、血管の成長をある程度まで遮断または阻害する化合物を意味する。例えば、抗血管形成因子は、小分子またはタンパク質、例えば、血管形成の促進を担う成長因子または成長因子受容体に結合する抗体、Fc融合、またはサイトカインであってもよい。本出願の好適な抗血管形成因子は、内皮増殖因子(VEGF)に結合する抗体である。代替的な実施形態では、IgGは、適応免疫反応を誘導または強化する治療剤、例えば、CTLA−4を標的にする抗体とともに投与される。代替的な実施形態では、IgGは、チロシンキナーゼ阻害剤とともに投与される。本出願に使用する「チロシンキナーゼ阻害剤」は、チロシンキナーゼのチロシンキナーゼ活性をある程度まで阻害する分子を意味する。代替的な実施形態では、IgG変異体は、サイトカインとともに投与される。
【0161】
医薬組成物は、IgG変異体および1つ以上の治療活性剤が製剤化されることを意図する。IgG変異体の製剤は、所望の程度の純度を有するIgGを、凍結乾燥製剤または水性溶液の形態の任意の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合して、保管用に製剤化される(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol.A.Ed.,1980,参照することによりその全体が組み込まれる)。生体内投与に使用される製剤は、好適には、無菌性である。これは、除菌膜または他の方法を介するろ過により容易に達成される。また、本出願に開示するIgG変異体および他の治療的活性剤は、免疫リポゾームとして、および/またはマイクロカプセルに封入して製剤化されてもよい。
【0162】
製剤の治療的活性IgG変異体の濃度は、約0.1〜100重量%で異なり得る。好適な実施形態では、IgGの濃度は、0.003〜1.0モルの範囲である。患者を治療するために、IgG変異体の治療有効量を投与してもよい。本出願の「治療有効量」は、それが投与される効果をもたらす投与量を意味する。正確な投与量は、治療目的によって異なり、当業者は、周知の技術を使用して確認することができるであろう。容量は、体重1kgまたはそれ以上当たり0.01〜100mgの範囲、例えば、体重1kg当たり0.01、0.1、1.0、10、または50mgであってもよく、1kg当たり1〜10mgが好適である。当該技術分野において周知のとおり、タンパク質分解の調整、全身対局所的送達、および新たなプロテアーゼ合成率、ならびに、年齢、体重、一般的健康、性別、食事、投与時間、薬物相互作用、および状態の重傷度が必要であり得、当業者は、定期的な実験で確認することができるであろう。
【0163】
好適には、無菌水性溶液の形態である、IgGを含む医薬組成物の投与は、経口、皮下、静脈内、非経口、鼻腔内、耳内、眼球内、直腸内、膣内、経皮、局所(例えば、ジェル、軟膏、ローション、クリーム等)、腹腔内、筋肉内、肺内(例えば、Aradigmから販売されるAERx(登録商標)吸入可能技術、またはNektar Therapeuticsから販売されるInhance(登録商標)肺送達システム等)を含むが、それらに限定されない、さまざまな方法で行われてもよい。本出願に記載する治療薬は、他の治療薬と同時に投与されてもよい、つまり、本出願に記載する治療薬は、たとえば、小分子、他の生物学的製剤、放射線治療、手術等を含む、他の治療または治療薬と同時に投与されてもよい。
【実施例】
【0164】
本発明を示すために、下記の実施例を提供する。これらの実施例は、本発明をいかなる特定の適用または操作理論に制限することも意味しない。本発明で説明するすべての位置について、付番は、Kabat(Kabat et al.,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,United States Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda、参照することによりその全体が組み込まれる)においてと同様、EUインデックスに従う。抗体の分野における当業者は、この慣習が、免疫グロブリン配列の特定領域における非連続的付番から成り、免疫グロブリンファミリー中で保存された位置への標準化された参照を可能にすることを理解するであろう。したがって、EUインデックスによって定義される任意の所与の免疫グロブリンの位置は、必ずしもその連続的配列に対応しない。
【0165】
実施例1:Fc変異体のDNA構築、発現、および精製
【0166】
新生児のFc受容体であるFcRnに対するそれらの親和性を改善するために、抗体のFc領域におけるアミノ酸の修飾を操作した。IgG1、IgG2、ならびにCH1およびIgG1の上ヒンジおよびIgG2のFc領域を含有する混成IgG配列を含む、多くの異なるヒトIgG定常鎖(図2)の関連において、変異体をスクリーニングした。当業者は、IgG1およびIgG2 Fc領域の、FcγRおよび補体との異なる相互作用のために、これらの異なる親Fc領域が、異なるFcγRおよび補体媒介エフェクター機能特性を有することを理解するであろう。これらの親IgG定常鎖の関連におけるFc変異体の例示的な配列を、図3に示す。
【0167】
血管内皮因子(VEGF)を標的とする抗体の関連において、Fc変異体を操作した。重鎖および軽鎖可変領域(VHおよびVL)は、抗体A4.6.1のヒト化型のものであり、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))とも称され、さまざまな癌の治療用に承認されている。該抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列を、図4に示す。
【0168】
哺乳動物発現ベクターpTT5中に、抗VEGF抗体の重鎖および軽鎖をコード化する遺伝子を構築した。ヒトIgG1およびIgG2定常鎖遺伝子をIMAGEクローンから取得し、pTT5ベクターにサブクローン化した。IgG1/2遺伝子は、PCR突然変異誘発を用いて構築した。抗VEGF抗体をコード化するVHおよびVL遺伝子を商業的に合成し(Blue Heron Biotechnologies,Bothell WA)、適切なCL、IgG1、IgG2、およびIgG1/2定常鎖をコード化するベクターにサブクローン化した。アミノ酸の修飾は、QuikChange(登録商標)部位特異的突然変異誘発法(Stratagene、La Jolla CA)を用いる部位特異的突然変異誘発を用いて、構築した。すべてのDNAを配列決定し、配列の忠実度を確認した。
【0169】
重鎖遺伝子(VH−Cγ1−Cγ2−Cγ3)を含有するプラスミドを、リポフェクタミン(Invitrogen,Carlsbad CA)を使用して、軽鎖遺伝子(VL−Cκ)を含有するプラスミドとともに、293E細胞に同時導入し、FreeStyle293培地中で成長させた((Invitrogen,Carlsbad CA)。5日間成長させた後、MabSelect樹脂(GE Healthcare)を使用し、タンパク質A親和性によって培養上澄から抗体を精製した。抗体濃度は、ビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Pierce)によって判定した。
【0170】
実施例2.Fc変異抗体は抗原への結合を維持する
【0171】
発現した変異抗体の忠実度は、それらが抗原に対する特異性を維持することを示すことによって確認した。VEGF結合は、Biacore3000装置を使用して実施される、表面プラズモン共鳴(SPR)(Biacore)を使用してモニターした。標準的な方法を用いて、N−ヒドロキシスクシンイミド/N−エチル−N’−(−3−メチルアミノ−プロピル)カルボジイミド(NHS/EDC)との結合により、組み換えVEGF(VEGF−165、PeproTech,Rocky Hill,NJ)をCM5チップ表面に付着させた。WTおよび変異抗体を分析物として注射し、共鳴単位(RU)で測定される反応を得た。解離相は遅すぎて正確な平衡定数を測定することができなかったため、相対的結合は、会合相の最後にRUを測定することによって判定し、これは、タンパク質濃度(実験中一定に保たれる)および会合速度計数に比例するはずであった。データ(図6)は、変異抗VEGF抗体が、VEGFに結合しない負の対照の抗Her2抗体とは対照的に、抗原への結合を維持することを示す。
【0172】
実施例3.ヒトFcRnに対する結合の測定
【0173】
変異抗体のヒトFcRnへの結合を、エンドソーム中で自然に結合されるpHである、pH6.0で測定した。ベータ2ミクログロブリンおよびFcRnのHisタグ付きアルファ鎖遺伝子をコード化するベクターを構築し、293T細胞に同時導入し、ニッケルクロマトグラフィーを使用して精製した。標準的なNHS/EDC化学反応を用いて、ヒトFcRnをCM5チップ表面に結合することにより、Biacore 3000装置でpH6.0でのヒトFcRn(hFcRn)の抗体親和性を測定した。WTおよび変異抗体を25〜100nMの濃度の移動相中で使用して、反応を共鳴単位で測定した。pH6.0で会合相および解離相を得、その後pH7.4のバッファを注入し、より高いpHでの受容体からの抗体の放出を測定した。抗体およびバッファのサイクルは、ベースライン反応のみを提供し、これを各試料のセンサーグラムから差し引いた。
【0174】
図7は、2つの関連するpHでの、天然IgG1および選択Fc変異抗体のヒトFcRnへの結合についてのBiacoreセンサーグラムを示す。データは、野生型および変異抗体がpH6.0でFcRnチップに容易に結合し、エンドソームにおいてと同様に、該pHでゆっくりと解離し、さらにエンドソーム膜への再利用、およびより高いpHの血清への暴露時と同様、pH7.4で急速に放出することを示す。
【0175】
FcRn会合/解離曲線は、恐らく抗体および受容体が多原子価であるか、またはチップが不均質であるために、単純なLangmuirモデルとは近似しなかった。偽Ka値(Kaと称される)は、0RUに固定した屈折率(RI)での変化を用いる配座変化モデルに近似させることにより判定した。選択変異抗体についてのこれらの値を図8にプロットする。それぞれの変異体のその親IgGと比較した相対的親和性を、等式、倍数=(WT Ka/変異体Ka)によって算出した。IgG1 Fc領域におけるすべてのFc変異体についての相対的結合データを図9に示し、IgG2 Fc領域(定常鎖IgG1およびIgG1/2)を持つ抗体における変異体についての結合データを図10に示す。多くの変異体について、結合実験を複数回(n)繰り返し、これについて、それぞれの特定の結合実験内でWT IgGの親を参照して、倍数を算出した。これらのデータの平均化により、図9および10に示す平均値および標準偏差が提供された。
【0176】
図9および10は、多くの操作された変異体が、WT IgG1と比べて、pH6.0でヒトFcRnにより高い親和性で結合することを示す。改善は、所与の位置における置換の同一性に大きく依存した。例えば、2倍を結合の改善の基準として用いると、IgG2の434位での多くの突然変異は、親和性を増加させ(A、S、Y、F、およびW)、一部は中立であり(WT IgG2の2倍以内)(G、H、M、およびT)、多くの置換は親和性を減少させた(<0.5倍)(D、E、K、P、RおよびV)。IgG1の関連におけるより強い結合が、必ずしもIgG2におけるより強い結合であるとは限らなかった(例えば、434TはIgG1では改善したが、IgG2では改善しなかった)。さらに、単一変異体によって提供された改善が、組み合わされると、常に相加的であるわけではなかった。図11aは、選択二重置換変異体による実験的FcRn結合倍数を、それらを構成する個々の単一変異体によるFcRn結合倍数の産物に対してプロットすることにより、これをグラフで示す。直線は、完全な相加性、つまり、単一置換の産物から予期または予測される値を表す。多くの二重変異体がこの線に該当するか、あるいはそれに近い(259I/319I、259I/428L、319I/428Lおよび308F/428L)。いくつかの変異体は、相加的よりも少ない(319I/308F、252Y/428Lおよび428L/434M)。これらの変異体について、特に最後の2つの場合(252Y/428Lおよび428L/434M)、単一置換の親和性の改善は、組み合わされると、互いに不適合となるように思われる。意外にも、変異体259I/308Fおよび428L/434SのFcRn親和性の改善は、それらのそれぞれ単一置換の親和性から予期されたよりも強かった。これらの特定の単一置換は、組み合わされると、予期しない相乗的改善を有した。実験的親和性と、単一変異体の親和性から予期されたものとの間の差異を、変異体をそれらの複合単一変異体によって分類して、図11bにプロットする(左に259I、308Fおよび319I、そして右に482Lとの組み合わせ)。相乗作用は、予測値に対する実験値の倍数を算出し、次いで1に標準化し、百分率に変換することにより、定量化することができる(相乗作用%=100x[(実験的倍
数/予測倍数)−1]]。この分析を、変異体をそれらの複合単一変異体によって分類して、図11bにプロットする。本グラフは、再度、一部の変異体、特に259I/308Fおよび428L/434Sの相乗作用を強調している。また、図11bおよび11cは、スクリーニングから、いくつもの最良の単一置換の組み合わせの、予測不可能な性質を強調している。例えば、428Lの、434Sおよび259Iとの組み合わせが相乗的な結合の改善を提供するのに対して、252Yまたは434Mは、428Lと組み合わされると否定的な影響がある。428Lの434Sとの組み合わせと、434Mとの組み合わせとの間の著しい差異は、所与の位置での置換の特定のアミノ酸同一性の重要性をさらに強調している。
【0177】
実施例4.他の抗体の関連における変異体の試験
【0178】
選択変異体は、TNF(TNFα)、CD25(TAC)、EGFR、およびIgEを含む、他の抗原を標的とする抗体の関連において構築した。図4は、本発明において使用された、これらの抗原を標的とする抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列を提供する。WTおよびFc変異体抗TNF抗体は、関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)、乾癬性関節炎(PsA)、強直性脊椎炎(AS)、およびクローン病(CD)の治療用に現在承認されている、完全ヒト抗体であるアダリムマブ(Humira(登録商標))の可変領域を含有する。WTおよびFc変異抗CD25抗体は、H1.8/L1抗TACと称される、抗TAC抗体のヒト化型である(Junghans et al.,1990,Cancer Research 50:1495−1502)。WTおよびFc変異抗EGFR抗体は、H4.42/L3.32 C225と称される、マウス抗体C225のヒト化型である。最後に、WTおよびFc変異抗IgE抗体は、アレルギー性喘息の治療用に承認されている、ヒト化抗体、オマリズマブ(Xolair(登録商標))の可変領域を含有する。
【0179】
WTおよび変異抗体は、前述のとおり構築、発現、および精製した。前述のとおりBiacoreによって、pH6.0で、ヒトFcRnへの結合について抗体を試験した。変異抗TNF、−CD25、−EGFR、および−IgE抗体のヒトFcRnへの相対的結合データを、図12に提供する。理解され得るように、変異体は、さまざまな抗原を標的とする抗体の関連において、FcRn親和性を改善する。
【0180】
実施例5.ヒトFcRnノックインマウスにおける薬物動態実験
【0181】
選択変異体が半減期を改善する能力を生体内で試験するために、マウスFcRnのヘテロ接合ノックアウト、およびヒトFcRnのヘテロ接合ノックイン(mFcRn−/−、hFcRn)である、B6マウス(本出願においてhFcRnまたはhFcRnマウスと称される)において、薬物動態実験を実施した(Petkova et al.,2006,Int Immunol 18(12):1759−69、参照することによりその全体が組み込まれる)。抗VEGF抗体の単回静脈内尾静脈注射(2mg/kg)を、体重によってランダム化した(20〜30gの範囲)、4〜7匹のメスマウスの群に行った。血液(約50ul)を各時間点で眼窩叢(orbital plexus)から抜き、血清に処理し、分析まで−80℃で保存した。研究期間は28日間または49日間であった。これらの研究期間中、動物を傷つけることはなかった。
【0182】
抗体濃度は、2回のELISAアッセイを使用して決定した。最初の2つの研究(研究1および研究2と称される)では、ヤギ抗ヒトFc抗体(Jackson Immuno research)をプレートに付着させ、ウェルをPBST(0.05%のTweenを含むリン酸緩衝食塩水)で洗浄し、PBST中3%のBSAでブロックした。血清または較正基準を添加し、次いでPBST洗浄、ユーロピウムで標識した抗ヒトIgG(Perkin Elmer)の追加、そしてさらにPBST洗浄を行った。時間分解蛍光シグナルを収集した。研究3〜5については、血清濃度を同様のELISAを使用して検出したが、組み換えVEGF(VEGF−165、PeproTech,Rocky Hill,NJ)を捕獲試薬として使用し、ビオチン化抗ヒトカッパ抗体、およびユーロピウムで標識したストレプトアビジンを用いて検出を行った。PKパラメータは、WinNonLin(Pharsight Inc、Mountain View CA)を使用して非区分モデルを用いて個々のマウスについて決定した。時間点の均一な計量とともに、公称時間および用量を使用した。使用した時点(ラムダZ範囲)は、4日目から研究の最後までであったが、より早く除去される突然変異体、P257NおよびP257Lについてはすべての時点を使用した。
【0183】
mFcRn−/−hFcRnマウスにおいて、5つの抗体PK研究を行った。図13は、それぞれWTおよび変異体のIgG1(研究3)およびIgG2(研究5)抗体の血清濃度データを示す。mFcRn−/−hFcRnマウスにおいて行われた、すべての生体内PK研究からの近似したPKパラメータを、図14に提供する。PKデータには、血清からの抗体の除去を特徴付けるベータ相を表す半減期、観測される最大血清濃度を表すCmax、濃度時間曲線下面積を表すAUC、および血清からの抗体のクリアランスを表すクリアランスが含まれる。また、各変異体について、IgG1またはIgG2親抗体に対する、半減期の改善または減少の算出倍数を提供する[半減期倍数=半減期(変異体)/半減期(WT)]。
【0184】
データは、強化されたFcRn親和性を有する多くの操作されたFc変異抗体が、pH6.0で生体内半減期を延ばすことを示す。図15aは、IgG1抗体のFcRn結合倍数に対する生体内半減期のプロットを、選択変異体を表示して示す。反復実験からの結果(図内で丸が付けられた)は、生体内モデルからのデータが再現可能であることを示す。最良の単一変異体は308Fおよび434Sを含み、最良の二重変異体は259I/308F、308F/428L、308F/434S、および428L/434Sを含み、最良の三重変異体は259I/308F/428Lである。FcRnに対する親和性と生体内半減期との間に一般的相関はあるが、完全に予測可能ではない。とりわけ、変異体257Lおよび257Nは、FcRn結合をそれぞれ3.4倍および3.5倍改善したが、生体内半減期をそれぞれ0.6および0.3減少した。また、プロットは、所与の位置での置換のアミノ酸相同性の重要性を再度強調し、一方、308F/434Sは実質的な半減期の改善を提供し、308F/434MはかろうじてWT IgG1よりも良かった。
【0185】
図15bは、IgG2変異抗体のFcRn結合倍数に対する生体内半減期のプロットを、変異体を表示して示す。IgG2生体内データをIgG1生体内データと比較すると(図15c)、意外な結果が得られた。変異体は、IgG1 Fc領域においてよりも、IgG2 Fc領域の関連において、生体内半減期に対して実質的に大きな改善を提供した。5つのすべての研究のうちのすべての抗体からの、単一変異体および二重変異体の最も長い半減期は、434S IgG2および428L/434S IgG2によって提供された、それぞれ12.2および16.5であった。IgG1と比べて、IgG2変異体の半減期の著しい改善は、IgG2における変異体による改善倍数が、IgG1においてと同等、またはさらに低かったにも関わらずであった(434S IgG1倍数=3.8、434S IgG2倍数=4.9、428L/434S IgG1倍数=17.3、428L/434S IgG2倍数=14.8)。したがって、予想外に、IgG2抗体が、哺乳動物における生体内半減期を改善するために、Fc変異体に対して最良の適用であり得る。
【0186】
実施例6.変異イムノアドヘシン
【0187】
本発明のFc変異体を、イムノアドヘシン(Fc融合とも称される)の半減期を改善するそれらの能力についても評価した。選択Fc変異体を、抗TNFイムノアドヘシン、エタネルセプト(Enbrel(登録商標))に操作した。エタネルセプトは、ヒトTNF受容体2(TNF RII)とヒトIgG1のFc領域との融合物であり、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、および乾癬の治療用に、臨床的に承認されている。このFc融合物のIgG2 Fc領域の形も構築し、選択Fc変異体をこの関連において構築した。本発明において特徴分析される抗TNFイムノアドヘシンのアミノ酸配列を、図16に提供する。再帰的PCRを用いて遺伝子を構築し、pTT5ベクターにサブクローン化し、Fc変異体は、QuikChange(登録商標)突然変異誘発法を用いて構築した。イムノアドヘシンを293E細胞において発現させ、前述のとおり精製した。
【0188】
精製したイムノアドヘシンの結合特異性を、Biacoreによって組み換えTNFへの結合を試験することにより確認した。イムノアドヘシンを、標準的な1級アミン結合を用いて精製した、固定化したタンパク質A/G(Pierce)CM5バイオセンサーチップ(Biacore)上に捕獲した。イムノアドヘシンをタンパク質A/Gの表面上に固定化し、連続希釈液中の組み換えTNFを抗体結合表面に注入し、その後解離相に移った。各サイクル後、表面をバッファで再生した。データは、注入による変化を説明するために、受容体の注入前の時間および反応をゼロに合わせ、参照チャネルから差し引いて処理した。動的データを1:1結合モデル(Langmuir)に近似させた。これらの近似から得られた平衡会合定数(Ka)を図17に提供する。結果は、変異イムノアドヘシンが、TNFに対して市販のエンブレルと同等の親和性を保持したことを示す。
【0189】
前述のとおりBiacoreを使用して、pH6.0でのヒトFcRnへの結合について、変異イムノアドヘシンを試験した。結果(図18)は、抗体の関連においてと同様、該変異体が、それらのIgG1およびIgG2親イムノアドヘシンタンパク質と比べて、FcRnへの結合を改善することを示す。
【0190】
変異イムノアドヘシンの半減期を、前述のmFcRn−/−hFcRnマウスにおいて試験した。1群当たり12匹のマウスに、2mg/kgの変異および親IgG1イムノアドヘシンを注射した。ヤギ抗ヒトTNF RII抗体を捕獲試薬として使用したことを除いて、前述のものと同様のELISAを用いて血清濃度を検出し、検出は、ビオチン化抗ヒトカッパ抗体、およびユーロピウムで標識したストレプトアビジンを用いて行った。図19は、WT IgG1 Fcおよび変異Fcイムノアドヘシンについての血清濃度データを示す。PK研究からの、前述の近似したPKパラメータを、図20に提供する。また、各変異体について、100×変異Fc融合物の半減期÷WT IgG1Fc親の半減期として算出される、半減期の算出増加%も提供する。結果は、変異体が、イムノアドヘシンの関連において、生体内半減期を延ばすことを示す。
【0191】
実施例7.非ヒト霊長動物における薬物動態実験
【0192】
非ヒト霊長動物における生物製剤のPK特性は、ヒトにおけるそれらの特性を予測するものとして十分に確立されている。非ヒト霊長動物における、変異抗VEGF抗体の血清半減期を改善する能力を評価するために、カニクイザル(macaca fascicularis)においてPK研究を行った。
【0193】
カニクイザルにおけるPK研究の準備として、pH6.0での変異抗体のカニクイザル(cyno)FcRn(cFcRn)への結合を測定した。ヒトFcRnについて前述したとおり、cFcRnを構築、発現、および精製した。変異抗VEGF抗体のcFcRnへの結合は、前述のとおりBiacoreを使用して測定した。データを図21に提供する。結果は、変異体は、ヒトFcRnについてと同様、cyno FcRnに対する親和性を改善することを示す。また、より高いpH(7.4)での解離も、ヒトFcRnに対する結合で観測されたと同様、非常に急速であった(データ図示せず)。これらの結果は、ヒトとcyno受容体との高い配列相同性を鑑みれば意外ではない(FcRnアルファ鎖96%、ベータ−2−ミクログロブリン91%)。
【0194】
変異体のPKを、非ヒト霊長動物の生体内で研究した。2.3〜5.1kgの重さのオスのカニクイザル(macaca fascicularis、カニクイマカクとも称される)を体重によりランダム化し、1群当たり3匹のサルの5群に分けた。サルには、4mg/kgの抗体を、単回で、1時間、末梢静脈注入した。注入の終了後、5分〜90日間、血液試料(1ml)を別個の静脈から抜き、血清に処理し、−70℃で保存した。これらの研究期間中、動物を傷つけることはなかった。
【0195】
前述のVEGF捕獲法を用いて、抗体濃度を決定した。マウスPK研究において行われたのと同様、濃度対時間を非区分モデルに近似させることによって、PKパラメータを決定した。しかし、PKパラメータの決定に、10日〜90日の時間点を用いた。PK結果を図22にプロットし、近似したパラメータを図23に提供する。結果は、変異体が最大3.2倍、抗体の生体内半減期を向上させたことを示す。最も良い事例では(428L/434S変異体)、半減期が9.7日から31.1日に延びた。カニクイザルにおいて得られたPK結果は、mFcRn−/−hFcRnマウスにおいて得られたものと一致し、変異体の生体内PK特性を評価するためのシステムとしてのhFcRnマウスモデルの正当性を確認し、それらの研究からの結論を支持する。
【0196】
本発明の具体的な実施形態を説明目的で上述したが、当業者は、付属の特許請求の範囲に記載される本発明から逸脱することなく、詳細の多くの修正を行い得ることを理解するであろう。本出願において引用されるすべての参考文献は、本出願にその全体が組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型ヒトFc領域と比べて少なくとも1つの修飾を含む変異Fc領域であって、前記修飾は、252Y/428L、252Y/434S、および428L/434Sから成る群から選択され、付番はEUインデックスによる、変異体。
【請求項2】
前記修飾は、428L/434Sである、請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
前記修飾は、252Y/428Lである、請求項1に記載の変異体。
【請求項4】
前記修飾は、252Y/434Sである、請求項1に記載の変異体。
【請求項5】
前記変異体は、抗体またはイムノアドヘシンを含み、前記Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4から成る群から選択される、請求項1に記載の変異体。
【請求項6】
前記変異体は、IgG1 Fc領域を含む、請求項5に記載の変異体。
【請求項7】
前記変異体は、IgG2 Fc領域を含む、請求項5に記載の変異体。
【請求項8】
前記変異体は、哺乳動物において、前記野生型Fc領域を持つ前記抗体またはイムノアドヘシンと比べて、より長い血清半減期を有する、請求項5に記載の変異体。
【請求項9】
前記哺乳動物は、ヒトFcRnを発現するマウスまたは非ヒト霊長動物である、請求項8に記載の変異体。
【請求項10】
前記哺乳動物は、ヒトである、請求項8に記載の変異体。
【請求項11】
前記抗体またはイムノアドヘシンは、血管内皮成長因子(VEGF)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、CD25、上皮成長因子受容体(EGFR)、およびIgEから成る群から選択される抗原に対する特異性を有する、請求項5に記載の変異体。
【請求項12】
IgG2 Fc領域の変異体を含む変異抗体または変異イムノアドヘシン、であって、前記変異抗体または免疫グロブリンは、野生型IgG2 Fc領域と比べて1〜5つの修飾を含み、前記修飾のうちの少なくとも1つは、434位においてであり、付番はEUインデックスにより、哺乳動物において、前記野生型IgG2 Fc領域を持つ前記抗体またはイムノアドヘシンと比べて、より長い血清半減期を有する、変異抗体または変異イムノアドヘシン。
【請求項13】
前記変異体は、434Sにおける少なくとも1つの修飾と、252位および428位から成る群から選択される位置に1つの修飾とを含む、請求項12に記載の変異体。
【請求項14】
前記哺乳動物は、ヒトFcRnを発現するマウスまたは非ヒト霊長動物である、請求項12に記載の変異体。
【請求項15】
前記哺乳動物は、ヒトである、請求項12に記載の変異体。
【請求項16】
野生型ヒトFc領域と比べて少なくとも2つの修飾を含む変異Fc領域であって、少なくとも1つの修飾は428Lであり、少なくとも1つの修飾は、252位または434位においてであり、付番はEUインデックスによる、変異体。
【請求項17】
前記Fc領域は、抗体またはイムノアドヘシンを含み、前記抗体またはイムノアドヘシンは、IgG1またはIgG2 Fc領域を含み、前記変異体は、哺乳動物において、前記野生型ヒトFc領域を持つ前記抗体またはイムノアドヘシンと比べて、より長い血清半減期を有し、前記哺乳動物は、ヒトFcRnを発現するマウス、非ヒト霊長動物、またはヒトである、請求項16に記載の変異体。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図9d】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図12a】
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【図12b】
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【図12c】
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【図12d】
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【図13a】
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【図13b】
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【図14a】
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【図14b】
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【図15a】
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【図15b】
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【図15c】
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【図16a】
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【図16b】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21a】
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【図21b】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2011−507963(P2011−507963A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540845(P2010−540845)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/088053
【国際公開番号】WO2009/086320
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(510089100)ゼンコア インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】