説明

Fe浸食抑制鉛フリーはんだ合金

【課題】この発明は、はんだとしての特性を失わず、こて先やディップ槽の鉄喰われを抑制し、はんだの鉛フリー化にともなうこて先の消耗を低減し、コスト削減に効果的なやに入りはんだを提供する。
【解決手段】Snを主成分とする鉛フリーはんだ合金にFe0.01〜0.1質量%、Ge0.01〜0.1質量%を添加し、Feの浸食によるこて先やディップ槽の喰われを抑制する鉛フリーはんだ合金またはそれを用いたやに入りはんだである。さらに、PもしくはGeを含有させることで、より一層こて喰われを減少させることができ、さらにぬれ性も向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Snを主成分とし鉛を含まない鉛フリーはんだ合金に関係し、詳しくはFeの喰われを抑制したやに入りはんだ用鉛フリーはんだ合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子工業における接続、接合に用いられてきたはんだ合金は、従来Sn-Pb共晶はんだに代表されるSn-Pb系はんだが使用されてきた。しかし、近年鉛の毒性が問題視され、鉛を含まないはんだ合金(以下「鉛フリーはんだ」若しくは「鉛フリーはんだ合金」という。)が求められ、現在では多くの種類の鉛フリーはんだ合金が提案されている。その中でも例えば、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Ag-Cu系、Sn-Ag-Bi-In系などの鉛フリーはんだ合金はすでに実用化段階にある。
【0003】
しかしながら、鉛フリー合金は、マニュアルソルダリングにおいて使用するはんだごてのこて先のめっき部分のFeを浸食(「喰われ」ともいう)し、こて先が磨耗するためこて先の寿命を短くするという問題があった。
【0004】
その原因は、鉛フリーはんだの主成分であるSnがこて先のFeと反応しやすいということが挙げられる。従来のSn-Pb系のはんだでもこの現象は発生していたが、はんだ合金の鉛フリー化にともなうSnの含有量の増加により、こて先の磨耗速度が速くなったため、無視できない問題となってきている。
【0005】
また、鉛フリーはんだはSn-Pb系はんだに比べ融点が高く、こて先の温度を高く設定するため、こて先の浸食速度のさらなる増大につながる。特許文献1には、はんだによるこて先の磨耗はこて先の金属元素がはんだ中へ溶出するためであるとして、こて先に数μm厚のニッケルめっきを施す提案がなされている。
【特許文献1】特開2005−125349号公報(富士電機)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は、こて先の磨耗低減に関しては、こて先の強化を主とするもので、はんだ合金の組成で解決しようという提案はなかった。またFeの浸食ははんだのこて先だけでなく、はんだ槽(ディップ槽ともいう)のFeも浸食する。この場合ははんだ槽に孔があくといった問題まで発生することになる。すなわち、本発明は、鉛フリーはんだのFeの浸食性を抑制し、マニュアルソルダリングにおけるはんだごてのこて先やはんだ槽の寿命の延長に効果的な鉛フリーはんだ合金の提供を目的とする。なお、Feの浸食という意味で、はんだごてのこて先もはんだ槽も同じ意味であり、またこて先やはんだ槽だけに限定されない。そこで、以後これらを「こて先等」と呼ぶ。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Snを主成分とし、Feを0.01〜0.1質量%、Geを0.01〜0.1質量%の両方を含み、場合によりCoを0.1〜0.5質量%、Niを0.1〜0.5質量%、Inを0.1〜10.0質量%、Pを0.01〜0.05質量%、Gaを0.01〜0.05質量%のうち、少なくとも一種を含むことを特徴とするやに入りはんだ用鉛フリーはんだ合金である。
【発明の効果】
【0008】
Snを主成分とする鉛フリーはんだに、FeとGeの両方を同時添加元素として用いることで、Fe、Geを単体で用いる場合よりFeの浸食を抑制することができる。FeとGeは互いに金属間化合物を作成しやすく、こて先でのFeめっき層のバリアとなり、こて先等の磨耗の抑制に効果がある。
【0009】
またFe単体は、はんだ合金の製造時に、ドロスになりやすく安定して製造することが難しい。Geとともに用いることにより、安定してはんだ合金に添加でき、実用化もしやすくすることができる。
【0010】
またNiやCo、PやGaを加えることによりぬれ性の向上に効果がある。さらにIn、P、Gaの添加はFeめっきの浸食抑制にさらに効果が上がる。FeやGeはこて先等の表面に偏析すると同時に酸素と結びつきやすいため、こて先等の表面から酸素の存在するはんだ表面に移動する。In、P、GaはFe、Ge同様酸素と結びつきやすく、Fe、Geの酸素との結びつきを緩和し、Fe、Geが安定してこて先等のFeめっき表面に存在しやすくさせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の鉛フリーはんだは、Snを主成分とし、Feを0.01〜0.1質量%とGeを0.01〜0.1質量%との両方を含む。FeとGeの両方用いることで、Fe、Geを単体で用いる場合よりFeの浸食を抑制することができる。
【0012】
公知の技術ではんだへのFeの添加は単体であってもこて先等のFeめっき浸食の抑制効果はある。しかしFeとGeを同時に添加することでその効果はさらに上がる。FeとGeは互いに金属間化合物を作成しやすく、こて先等の表面にはFe-Geの金属間化合物が偏析する。さらにこのFe-Geの金属間化合物は融点が高いため、一度こて先等のFeめっき表面にFe-Geが偏析すると、こて先等のFeめっき層のバリアとなり、Feめっきの浸食抑制に効果的である。
【0013】
またFe単体ははんだ合金の製造時、ドロスになりやすく安定して製造することが難しい。Geとともに用いることにより、安定してはんだ合金に添加でき、実用化もしやすくすることができる。
【0014】
FeとGeの含有率は0.01質量%未満ではFeめっきの浸食抑制に効果が少なく、0.1質量%を超えるとはんだ合金が黒く変色し、こて先等が炭化し、ぬれ性にも影響が出て、はんだとしての特性が失われる場合がある。浸食抑制効果を保ちつつ、従来使用しているはんだ合金としての特性を失わないために、両元素とも0.01〜0.05質量%が好ましい。
【0015】
またNiやCoを加えることによりぬれ性の向上に効果がある。さらにIn、P、Gaの添加はFeめっきの浸食抑制にさらに効果が上がる。FeやGeはこて先等の表面に偏析すると同時に酸素と結びつきやすいため、こて先等の表面から酸素の存在するはんだ表面に移動する。In、P、GaはFe、Ge同様酸素と結びつきやすく、Fe、Geの酸素との結びつきを緩和し、Fe、Geが安定してこて先等のFeめっき表面に存在しやすくさせることができる。
【0016】
NiとCoの含有率は0.1質量%未満ではぬれ性に効果が少なく、0.5質量%以上では融点が上昇してはんだ付け温度が上がり、またはんだ内にNi、Coの偏析が生じ、こて先等の喰われの効果も低下し、はんだとしての特性も失われる。Feめっきの浸食抑制効果とぬれ性の効果を保ちつつ、従来使用しているはんだ合金としても特性を失わないために、両元素とも0.1〜0.3質量%が好ましい。
【0017】
Inの含有率は0.1質量%未満ではこて先等の喰われ抑制の向上に効果がなく、10.0質量%を超えると、強度が低下してしまう。Feの浸食抑制効果の向上と強度のバランスを考えて、0.1〜10.0質量%が好ましく、0.1〜8.0質量%であればより好ましい。
【0018】
P、Gaの含有率は0.01質量%以下ではこて先等喰われ抑制の向上に効果が無く、0.05質量%以上でははんだ合金が黒く変色し、こて先等の炭化が起き、ぬれ性に影響が出る。浸食抑制効果が向上し、従来使用しているはんだ合金と比較しても特性を失わないために、両元素とも0.01〜0.05質量%が好ましい。
【0019】
これらの本発明においてAgを2.5〜4.0質量%、Cuを0.3〜1.0質量%を含んでも良い。これは一般的な鉛フリーはんだ合金で使用されており、これらの元素が含まれていても、本発明は、こて先等の喰われ抑制に関して効果がある。また、本発明のはんだ合金がやに入りはんだとして用いる事ができるのは言うまでもない。
【0020】
なお、本明細書において、Snは錫、Agは銀、Cuは銅、Feは鉄、Geはゲルマニウム、Coはコバルト、Niはニッケル、Inはインジウム、Pは燐、Gaはガリウム、Biはビスマス、Nは窒素を表す。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例ははんだごてのこて先の浸食を比較検討したもので説明する。しかしステンレスや鉄製のはんだ槽においてもFeの浸食という観点で、こて先と同様の結果が生じる。
【0022】
(こて喰われ試験)
下記表1に示す組成のはんだ合金を作成し、フラックスを充填してやに入りはんだとし、φ0.8の糸状に成形した。フラックスは石川金属株式会社製のATSを使用し、フラックス含有量は3質量%とした。こてロボットに試作のやに入りはんだとこて先をセットし、一定の速度、時間で、やに入りはんだを20000回こて先に供給した。
【0023】
こて先の温度は400℃とした。またはんだの送り長さは1回につき、4.7mm、送り速度は9.4mm/secとした。こてロボットはジャパンユニックス製の型式番号「UNIX401P」を用い、こて先は同社製P3D-S(片面はんだめっき)を用いた。試験後のこて先を切断、中央断面まで研磨、鏡面出しし、写真を撮影した。そして、こて先の喰われた部分の面積を画像処理により算出した。本試験ではSn-3.0Ag-0.5Cuを用いた際のこて先喰われ率を100としたときの値を算出した。
【0024】
(ぬれ性)
試験基板にこてロボットではんだ付けを行い、はんだ付け後の基板の写真を撮影し、画像処理によってぬれ率を算出した。ぬれ率は以下の計算式から求めた。
ぬれ率(%)=100×(はんだの面積/ランドの面積)
条件はランド3×3mm、ランドの材質はCu、基板の材質はガラスエポキシ、こて先は3mmドライバー型、こて温度は290℃と320℃で評価した。はんだ供給条件は1次はんだが供給量1.0mm、供給速度20mm/sec、2次はんだが供給量2.0mm、20mm/secとした。こてロボットはジャパンユニックス製のUNIX401Pを用いた。
【0025】
(融点測定)
はんだ合金の融点を(株)リガク製の示差走査熱量測定(DSC:Differential scanning
Calorimetry)で測定した。試験条件は、はかりとり量を10mg、昇温速度を1℃/min、N2雰囲気で行った。実施例および比較例の組成比を表1に、またその評価結果を表2に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
比較例1はSn-Ag-Cu系の基本組成である。この比較例1のこて喰われ率を100%として各実施例を比較する。なお、融点とぬれ性についても実施結果を示した。融点において、固相線とは、固体だけの状態と、固体と液体が共存する状態の境界をいう。また液相線とは、固体と液体が共存する状態と、液体だけの状態の境界である。それぞれの融点は表2に示すとおりである。
【0029】
比較例2および3はFeとGeを別々に含有させた場合である。こて喰われ率はそれぞれ86%、81%と減少しており、これらの元素を含有させることがこて喰われ率の減少に効果があることが確認された。
【0030】
これに対して実施例1乃至11はすべてFeとGeを同時に含有させた場合である。全ての実施例が比較例2及び3よりも、こて喰われ率が減少している。すなわち、FeとGeの同時添加は、それぞれの元素を単独に添加する場合に比べ、こて喰われ率をさらに減少させる効果がある。
【0031】
実施例10と実施例11は、Sn-Cu系とSn-Ag-In-Bi系の組成系である。これらは添加元素がない場合はSn-Ag-Cu系のはんだとほぼ同じこて喰われ率を示す。
【0032】
この2つの場合もFeとGeを同時に添加するとこて喰われ率はSn-Ag-Cu系にFeとGeを個別に加えた場合の半分以下になっている。この結果はFeとGeを同時に添加した場合の効果が、単にSn-Ag-Cu系はんだ合金に特異的な効果を与えているのではなく、こて先のFeとの間の反応によって生じる効果であることを示している。つまり、FeとGeを同時に添加するということは、どのような組成のはんだ合金でもこて喰われの減少に効果があることを示すものである。
【0033】
次にその他の添加元素が存在する組成への効果を説明する。ぬれ性を向上させることで知られているCoを添加したはんだの場合を示す実施例3は、比較例1乃至3のぬれ性である60.1%〜64.9%に対して65.9%であり確かにぬれ性の向上に効果があった。
【0034】
一方こて喰われ率は79%であり、3つの比較例より低い値を示している。すなわち、Coが含有されてぬれ性が改善されているはんだに対してもFeとGeの同時添加によりこて喰われ率を減少させることができる。
【0035】
実施例4はNiを含有させているが、こて喰われ率は74%であり、Geを単体で含有させた比較例3より改善している。一方実施例4のぬれ性は、比較例3のぬれ性より少し改善している。
【0036】
比較対照をSn-Ag-Cu系の基本組成である比較例1にした場合、実施例4は、ぬれ性はほぼ同じであるものの、こて喰われ率は改善している。以上のことより、CoとNiは、ぬれ性の向上に効果があり、そのような組成系に対してもFeとGeの同時添加は、こて喰われの減少に効果があることがわかる。
【0037】
実施例5乃至8はPとGaを添加した場合の実施例で、実施例5と6および実施例7と8は、それぞれPとGaの含有量が異なる場合を示す。実施例5乃至8のこて喰われ率は12%から24%の範囲であり、FeとGeの同時添加にPとGaをさらに添加するとより一層こて喰われ率を減少させる効果がある。
【0038】
より詳細に見てみると、実施例1と実施例5および実施例7はFeとGeがそれぞれ0.02質量%づつ含有されている。実施例5はさらにPが0.10質量%、実施例7はGaが0.30質量%含有されている。これらのこて喰われ率は、実施例1が65%であるのに対して実施例5が12%、実施例7は22%でありFeとGeの同時添加に対してさらに、こて喰われ率の減少に効果を示している。
【0039】
なお、実施例5と実施例7は、PとGaが0.05質量%以上含まれており、ぬれ性が比較例1よりも低くなっている。つまり、PとGaは0.05質量%を超えるとぬれ性に影響するということがわかる。
【0040】
また、実施例2と実施例6と実施例8は、Feを0.02質量%、とGeを0.05質量%をそれぞれ同時添加した系である。実施例6はさらにPを0.03質量%含有させ、実施例8はGaを0.04質量%含有させている。これらのこて喰われ率は、それぞれ26%、17%、24%であり、やはりPとGaの添加がこて喰われ率を低減させる効果を示している。
【0041】
一方、ぬれ性は同じくそれぞれ58.0%、64.8%、65.1%で、PやGeを0.05質量%以下の割合で添加させた場合は、ぬれ性を向上させ、さらにこて喰われ率も低下するという効果があることが確認できた。つまり実施例5及び7の結果を考慮すると、PやGeは好ましくは0.05質量%以下であるのがよい。もちろん、含有されてなければぬれ性の向上に効果はなく、下限は0.01質量%以上である。
【0042】
実施例9は実施例1にInを0.30質量%含有させたものである。こて喰われ率は65%から28%に減少している。また、実施例11ではInを3.0質量%含有させている。この実施例11もこて喰われ率は26%と非常に少なくなっている。すなわち、InもFeとGeの同時添加に加え、さらにこて喰われ率の減少に効果があることが示された。
【0043】
以上のように、本発明であるFeとGeを同時に添加するはんだ合金は、はんだこて喰われを減少させることができる。また、P、Ga、Inを含有させることにより一層こて喰われ率を減少させることができる。なお、PやGaは、ぬれ性の向上にも効果がある。
【0044】
また、Co、Ni、といった添加元素がふくまれていても、はんだこて喰われを減少させることができる。さらに、Sn-Cu系や、Sn-Ag-In-Bi系といったSn-Ag-Cu系とは異なるはんだ組成系でもはんだこて喰われを減少させることができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snを主成分とし、0.01〜0.1質量%のFeと、0.01〜0.1質量%のGeを含有する鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
0.01〜0.1質量%のP若しくは、0.01〜0.3質量%のGaを含有する請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項3】
Inを含有する請求項1に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項4】
0.1〜0.5質量%のCo若しくは、0.1〜0.5質量%のNiを含有する請求項1記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項5】
Agと、Cuを含有する請求項1記載の鉛フリー用はんだ合金。
【請求項6】
0.01〜0.1質量%のP若しくは、0.01〜0.3質量%のGaを含有する請求項5に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項7】
Inを含有する請求項5に記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項8】
0.1〜0.5質量%のCo若しくは、0.1〜0.5質量%のNiを含有する請求項5記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項9】
Cuを含有する請求項1記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項10】
AgとBiを含有する請求項1記載の鉛フリーはんだ合金。
【請求項11】
請求項1乃至8の鉛フリーはんだ合金を用いたやに入りはんだ。