説明

Gタンパク質キメラ体

【課題】キメラGタンパク質、その発現構築物、このような構築物を発現する酵母細胞、およびそれらの作成および使用法を提供する。
【解決手段】C−末端10アミノ酸内の少なくとも3アミノ酸位置を別の別のアミノ酸で置換することによって改質した酵母Gα(Gpa1p)アミノ酸配列を有するキメラGαタンパク質、このキメラGαタンパク質を含んでなる形質転換酵母細胞、および目的とする化合物を上記酵母細胞と接触させ、細胞の成長応答を観察しまたはレポーター遺伝子生成物の産生を観察することを含んでなる、レセプターと相互作用することができる化合物のスクリーニング法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、キメラGタンパク質、その発現構築物、このような構築物を発現する酵母細胞、およびそれらの作成および使用法に関する。
【0002】
Gタンパク質結合レセプターは、7つの膜貫通ドメインを特徴とする内在性膜タンパク質であり、ホルモンや感覚シグナルを細胞内部に送達する(総説については(1)を参照されたい)。これらのレセプターは、一般に7TMレセプターまたは7TMRと呼ばれている。これらのレセプターは、α、βおよびγサブユニットからなるヘテロトリマー性Gタンパク質を活性化することによってリガンド結合に応答する。Gαサブユニットは、Gタンパク質トリマー中でGDPに結合し、活性化(リガンド結合)したレセプターとの相互作用は、GDPのGTPでの置換を誘発する。付随するコンホメーション変化によりGα−GTPおよびGβ/Gγ粒子の解離し、これらはいずれもイオンチャンネルまたは酵素エフェクターを調節して、シグナル伝播を引起すことができる。シグナルは、GTPアーゼ活性を有するGαが結合したGTPを加水分解して、ヘテロトリマーの再組立するまで持続する。RGS(Gタンパク質シグナル伝達のレギュレーター)タンパク質ファミリーのGαサブユニットについてのGAP(GTPアーゼ活性化タンパク質)として作用することによってシグナル時間を調節する(38)(17)。Gタンパク質シグナル伝達系は、総ての真核生物によく見られると思われる。
【0003】
三量体性Gタンパク質シグナル伝達系の完全に特定された例は、発芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのフェロモン応答経路である(20)。MATa接合型の細胞は、STE2遺伝子によってコードされるレセプターを発現する。このレセプターは、逆(MATα)接合型の細胞によって分泌されるペプチドであるα−因子接合フェロモンの結合によって活性化される。酵母Gタンパク質は、GPA1(Gα)、STE4(Gβ)およびSTE18(Gγ)遺伝子の生成物から組立てられる。Ste2pレセプターの活性化によって放出されるGβ/Gγ(Ste4p/Ste18p)粒子は、シグナルをマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)モジュールに送達する。これによって、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤Far1pが活性化され、FUS1などの接合工程に関与している一組の遺伝子の細胞周期の阻止と転写誘導を引起す。この経路は、RGSファミリーの要素であるSst2pによって脱感作される。逆接合型(MATα)の細胞は、異なるレセプター(Ste3p)を発現し、これによりMATa細胞によって分泌されたフェロモン(a−因子)に応答し、そうでなければ、2つの接合型に用いられるシグナル伝達装置は同一である。
【0004】
現在のところ、少なくとも16個のGαサブユニット、5個のGβサブユニットおよび11個のGγサブユニットが哺乳類で同定されており、これらは極めて多様な三量体性Gタンパク質を組立てることができる。配列相同性に基づいて、Gαサブユニットは、Gα1、Gαs、Gαq、またはGα12に関連した少なくとも4つのファミリーに分けられる。典型的には、所定の7TMレセプターは、Gαサブユニットの単一または小さなサブセットのみを活性化する。従って、複数のGαサブユニットを発現する細胞でも、シグナル伝達は特定のGタンパク質およびその下流のシグナル伝達経路に特異的であることがある。様々な方法の組合せにより、レセプター/Gタンパク質特異性の重要な決定因子としてGαサブユニットの数個の特異的な領域が画定されている。これらには、N−末端の領域、主としてGβ/Gγの結合に関与するスイッチII−スイッチIII領域(21)、および特にC−末端の領域が挙げられる。例えば、GαのC−末端で起こる突然変異のクラスターは、レセプター共役(recepter coupling)に欠陥を引起すことが分かっている((29)(13)およびそれらに記載の文献)。また、Gαt(トランスデューシン)およびGαi2のC−末端で作成されたペプチドは、それぞれロドブシンおよびβ−アドレナリンレセプターへの結合を競争し(9)(30)(35)、GαのC−末端に向けられた抗体はレセプターとの相互作用を遮断することもできる(6)(10)(36)。培養哺乳類細胞(例えば、COS細胞)におけるアデノシンのAレセプターのアゴニスト刺激に対する正常な応答は、Gαiファミリータンパク質の活性化であり、アデニレートシクラーゼを阻害する。Gαq含有ヘテロ三量体は、対照的に通常はA活性化に応答しない。しかしながら、GαqのC−末端の4個のアミノ酸をGαi2の相当するアミノ酸に交換することによって、Gαqサブユニットを誘導してA1レセプターと相互作用させることができる(7)。従って、シグナル伝達をキメラGαサブユニットによって行うときには、ホスホリパーゼC(活性化Gαqのエフェクター)をアデノシンA1レセプターアゴニストによって活性化することができる(7)。ソマトスタチンSSTレセプターはGαsと不和合性であるが、Gαsの5個のC−末端アミノ酸をSSTレセプターと相互作用することが知られているGαi2またはGα16からの相当する残基に置換することによってCOS細胞におけるアデニレートシクラーゼの活性化に共役することができる(18)。Gα15およびGα16は広範囲の7TMレセプターと相互作用し(26)、これに関して例外的である。Gi1(41)およびG(19)三量体について解明されている結晶構造では、GαのC−末端の尾は、GαのN−末端およびGγのC−末端に共有結合した2個の脂質基をも含むGタンパク質三量体の平たい大部分が帯電していない表面上にある。この表面は膜に面しており、7TMレセプターの細胞内ループとの相互作用に関与していると思われる。
【0005】
幾つかの報告は、酵母Gタンパク質シグナル伝達系を、異種発現した哺乳類Gタンパク質共役(7TM)レセプターに共役することができることを示している。ラットソマトスタチンSSTレセプター(33)およびラットアデノシンA2aレセプター(34)など幾つかのレセプターは、酵母Gαタンパク質Gpa1pと直接相互作用することができるが、ヒト成長ホルモン放出ホルモンレセプター(GHPRHR)(12)などの他のレセプターはGpa1pと不和合性である。これらのレセプターを共役させるために、酵母Gαサブユニットを欠失させ、異種レセプターを完全長の哺乳類Gαサブユニットと同時発現させることができる。あるいは、Gpa1pのC−末端ドメイン(ペプチド配列の約1/3)が哺乳類Gαサブユニットで置換されているキメラGαサブユニットが用いられてきた。これらの方法については、WO95/21925号明細書(American Cyanamid Company)を参照されたい。キメラ体または他の改質または異種Gαサブユニットは、酵母共役系で用いるようにするには、幾つかの基準を満足しなければならない。最も重要なことは、それらは酵母Gβ/Gγに効率的に結合して、活性化7TMレセプターの非存在下でシグナル伝達を防止しなければならず、またシグナル増殖を可能とするには、それらはアゴニストに結合した活性化レセプターと効果的に相互作用しなければならない。
【0006】
このような異種またはキメラGα成分は、異種7TMレセプターの酵母シグナル伝達系(フェロモン応答経路)への共役を促進して、レセプター上の潜在的な新規薬剤分子のようなリガンドの効果が酵母細胞の表現型応答で観察できるようにすることができる。例えば、細胞を誘導して成長させ、シグナル伝達経路に下流のレポーター遺伝子をシグナル伝達経路に導入することによってレセプターアゴニストに応答して指示薬染料化合物転換することができる。しかしながら、WO95/21925号明細書に記載されているようなキメラ構築物は、一般に酵母Gタンパク質βγサブユニット対に対するアフィニティーが低く、またバックグラウンドシグナル伝達が増加している。所定のレセプターの1個または少数の既知Gαサブユニットに対する特異性により、様々なGα構築物が試験したレセプターの大半と機能的共役活性を示す必要があった。
【0007】
7TMレセプターを介して作用することができる新規薬剤の発見には、高い有効性としかも高特異性のスクリーンが必要である。現在は、酵母共役系は、レセプター/Gタンパク質特異性が、多種多様なGα構築物をそれぞれのレセプターを共役について試験するという要件を課することによって制約されている。共役を行うことができないレセプターについては、その失敗がレセプター/Gタンパク質不和合性によるものか、または例えば不適当なレセプターコンホメーションのような他の理由によるものか不確定である。単一のGα構築物を用いて多数の様々なレセプターを酵母Gタンパク質シグナル伝達経路に共役させることができることが望ましい。これは、レセプター/Gタンパク質特異性について全く知られていないオーファンレセプターの研究に役立つ可能性がある。あるいは、Gα構築物を用いてオーファンレセプターの研究を行うこともできる。
【0008】
意外なことには、本発明者らは、「移植体(transplant)」と呼ばれるある種のキメラGタンパク質は、哺乳類の7TMレセプターの酵母接合経路への共役における以前から知られているキメラ体より少なくとも10倍有効であることを見いだした。
【0009】
従って、第一の態様では、本発明は、C−末端10アミノ酸内の少なくとも3アミノ酸位置を別のアミノ酸で置換することによって改質した酵母Gα(Gpa1p)アミノ酸配列を有するキメラGαタンパク質を提供する。好ましくは、キメラ体は、少なくとも5個のこれらの置換を含んでいる。
【0010】
従って、体にの態様では、本発明は、C−末端の10アミノ酸内の少なくとも3アミノ酸位置を異種Gαタンパク質由来のアミノ酸で置換することによって改質した酵母Gα(Gpa1p)アミノ酸配列を有するキメラGαタンパク質を提供する。好ましくは、キメラ体は、少なくとも5個の置換を含んでいる。本発明のこの様相での好ましい態様では、キメラ体は、異種Gαタンパク質のC−末端の10アミノ酸由来のアミノ酸配列に相当する少なくとも3個の、望ましくは少なくとも5個の連続するアミノ酸を含んでいる。例えば、哺乳類Gαタンパク質、例えば恐らくは任意のGαを除くGα16のC−末端は、内在性酵母Gαタンパク質のC−末端の5個のアミノ酸に取って代わり、本発明のキメラ体を提供することができる。本発明者らは、これらのキメラ体を「移植体」または「移植キメラ体」と命名した。
【0011】
本発明のキメラGαタンパク質は、酵母タンパク質のC−末端ドメインを哺乳類Gαタンパク質のC−末端ドメインに替えた以前から知られているキメラ体よりも酵母でのシグナル形質導入と和合性であり(かつ天然酵母のGαコンホメーションにより近いと思われる)コンホメーションを採用していると考えられる。従って、本発明のキメラ体は、Gpa1p配列へごくわずか変化させることによってレセプターの特異性を変化させかつ様々なレセプターを酵母シグナル伝達経路へ共役させることができるという利点を有する。野生型Gpa1pと極めて類似していることから、これらのキメラGαサブユニットはGpa1pと同様なGβ/Gγに対するアフィニティーを保持しており、発現はGPA1プロモーターが指示してGαの化学量論を最適にすることができる。他の各種のプロモーターからの発現も、レセプター共役と和合性である。
【0012】
第三の態様では、本発明は、本発明によるキメラGαタンパク質をコードするヌクレオチド配列も提供する。また、上記ヌクレオチド配列を含んでなりかつ適当な形質転換の際に宿主細胞に発現させることができる発現ベクターも提供される。適当なプロモーター、転写終結配列およびマーカー遺伝子を含む発現ベクターの構築は、当業者には明らかであろう。宿主細胞は、Saccharomyces cerevisiae種の酵母細胞であるのが望ましいことがあり、本発明のもう一つの態様を表す。
【0013】
従って、本発明は、本発明によるキメラGαタンパク質をコードするヌクレオチド配列、例えばリガンドが知られていないレセプターなどの異種Gタンパク質共役レセプター、および酵母Gα(Gpa1p)アミノ酸配列と本発明によるGαタンパク質、例えば哺乳類Gα16タンパク質のような異種Gαタンパク質のC−末端の10個のアミノ酸のアミノ酸配列から誘導される少なくとも3個のアミノ酸とを含んでなるキメラGαタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含んでなる形質転換酵母細胞も提供する。異種レセプターは、7TMレセプターでよい。このようなレセプターとしては、アセチルコリン、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン、ヒスタミン、メラトニン、アンギオテンシン、プロスタグランジン、カンナビノイド、神経ペプチドY、サブスタンスP、オピオイド、グルカゴン、アンギオテンシン、ブラジキニン、ケモカイン、トロンビン、糖タンパク質ホルモン、アデノシン、ヌクレオチドおよびソマトスタチンのレセプターが挙げられる。
【0014】
本発明による形質転換酵母細胞は、Gタンパク質シグナル伝達経路に関与しているプロモーターと操作結合したレポーター遺伝子をコードするヌクレオチド配列を含んでなることができる。このようなレポーター遺伝子としては、HIS3または他の栄養要求性マーカー(例えば、URA3、LEU2、またはTRP1)、またはCYH2またはG418のような薬剤選択に対する耐性または感受性を与える遺伝子、またはβ−ガラクトシダーゼ(LacZ)およびルシフェラーゼのような細胞内酵素または緑色蛍光タンパク質(GFP)、をコードする他の遺伝子、またはPHO5のようなホスファターゼまたはキナーゼのような分泌酵素をコードする遺伝子を挙げることができる。酵母細胞は、FUS1−HIS3およびFUS1−lacZのような複数のレポーター遺伝子の組合せを含むことができるのが望ましい。好ましい態様では、形質転換酵母細胞は、GPA1、SST2またはSTE2遺伝子の少なくとも1個に突然変異も含む。好ましくは、このような突然変異は欠失である。望ましくは、レポーター遺伝子をGタンパク質シグナル伝達経路での活性の監視に用いるときには、FAR1も欠失される。これにより、成長は、フェロモン応答経路を活性化する条件下でも確実に継続することができる。本発明の別態様では、FAR1遺伝子は完全なままであり、シグナル伝達経路を活性化するアゴニスト刺激を、成長抑止を生じるときに監視することができるようにする。
【0015】
好ましい酵母株は、SST2およびGPA1(酵母Gα)の欠失を有し、前者はGTPアーゼのSst2p活性化によるシグナルのダウンレギュレーションを防止し、後者はGαがGβ/Gγに対して化学量論的過剰に存在するとき、活発にシグナル伝達するGβ/Gγ残基が速やかに再会合して不活性なヘテロ三量体となることによるシグナルクエンチング(signal quenching)を防止する。
【0016】
本発明者らは、Gpa1pのN−末端の467アミノ酸とGα16の5個のC−末端アミノ酸とのキメラ体をGpa1−Gα16移植体と命名した。同様に、GαqのC−末端の5個のアミノ酸を含むキメラ体をGpa1−Gαq移植片と命名し、GαsのC−末端の5個のアミノ酸を含むキメラ体をGpa1−Gαs移植体と命名した。また、下記の移植体も構築した。それらは上記のものと同一であり、すなわちGpa1pのN−末端の467アミノ酸とGαタンパク質由来の5個のC−末端アミノ酸とを含んでなり、次のようなものである:Gpa1−Gα12、Gpa1−Gα13、Gpa1−Gα14、Gpa1−Gαi1、Gpa1−Gαi3、Gpa1−Gα0およびGpa1−Gαz
【0017】
もう一つの移植体を、Gα、Gpa1p、および酵母Ustilago maydis由来のGαサブユニットであるGpa3とから調製した。この移植体は、Gpa1−Gpa3と命名されている。これらの移植体は、Gpa1の5個のC−末端アミノ酸を変えることによって、レセプターに対するGαサブユニットの特異性を変えることができることを示している。また、これらの結果は、酵母中の異種レセプターへの共役における「移植体」の有効性が、異種Gα領域が一層長いキメラサブユニットと比較して予想外に良好であることを示唆している。
【0018】
哺乳類細胞では、プリン作動性ヌクレオチドP2Yレセプターが、Gαqを介してホスホリパーゼCβ(PLCβ)の活性化に共役している。本発明者らは、Gpa1−Gαq移植体が、野生型Gpa1pで見られたアゴニストに対する弱い応答を実質的に改良することを見いだした。同様に、Gpa1−Gα16移植体を用いて得られたソマトスタチンSSTレセプターの共役は、野生型のGpa1pまたはGαi/0ファミリーのキメラと比較して10倍に増強されたが、このことはこのレセプターが哺乳類細胞のGαi/0タンパク質と相互作用することを考慮すれば注目に値する。また、5HT1Aレセプターは、MMY9酵母細胞中の野生型Gpa1pを刺激することができなくとも、それはGpa1−Gα16移植体と相互作用することができる。アミノ酸をごくわずか置換することにより、酵母Gpa1pに、キメラ体構築に対する以前に報告された方法ではできなかった遺伝子Gタンパク質の特性を賦与することができる。従って、本発明は、単一のGαサブユニットを含んでなりかつ広汎な7TMレセプターを共役させることができる系の可能性を初めて示している。
【0019】
更に、本発明者らは、Gpa1の5個のC−末端アミノ酸を置換して移植体を生成する方法が広汎に応用可能であることを見いだし、4種類総てのGαファミリーの代表的要素Gαi、Gαs、GαqおよびGα12の移植体を生成した。これは、キメラ体構築に対する以前に報告された方法ではできないことであった。更に、これらの移植体の総ては、GPA1遺伝子のプロモーターから発現させて、効率的共役のための最適化学量論を得ることができる。これらのキメラ体の幾つかは、Gpa1/Gα(文献12)の場合のように、より強力なプロモーターからの発現が必要であったので、キメラ体構築に対する以前に報告された方法ではできないことであった。最後に、フェロモン応答経路は、活性化レセプターの非存在下では移植体の組込みバージョン(integrated versions)を発現する細胞では活性化されない。このことは、C−末端アミノ酸に対する操作はGβ/Gγとの相互作用を干渉しないことを示唆しているが、これはキメラ体構築に対する以前に報告された方法では真実ではなかった。総合すれば、本発明者らのデータは、移植体の作成法を、任意の新たに発見された哺乳類Gα、または本明細書には記載されていないGαサブユニット(GαtまたはGαolf)、または任意の他の動物界の種由来のGαサブユニットに適用可能であることを示している。
【0020】
本発明を、図を用いて下記の実験例によって更に説明するが、実施例および例示のためのものであって、本発明を制限するためのものではない。
【0021】
材料および方法:
プラスミドおよび菌株
核酸操作は、標準的方法に準じて行った(24)。
【0022】
レセプター発現構築体
レセプター発現構築体は、高コピー数のエピソーム酵母−E. coliシャトルベクターpFL61(27)、YEp24およびpDT−PGK(図6(a)のプラスミドマップ参照)であってKang et al. (14)によって報告されたpPGKと同一であるものに基づいていた。未改質のヒトGタンパク質に共役したレセプターをコードする相補的DNA(cDNA)配列をPGK1遺伝子のプロモーターとターミネーター領域の間のこれらのベクター中に導入して、酵母細胞に強力な構成的発現を与えた。ソマトスタチンSSTレセプター(Genbank登録番号M81830)は、pFL61に導入した。メラトニンML1B(Genbank登録番号U25341)、ソマトスタチンSST(Genbank登録番号L14865)、セロトニン5HT1A(Genbank登録番号X13556)、およびセロトニン5HT1D(Genbank登録番号M81589)レセプターは、pDT−PGKに導入した。プリン作動性ヌクレオチドP2Yレセプター(Genbank登録番号S81950)およびアデノシンA2bレセプター(Genbank登録番号M97759)は、pDT−PGKに導入した。プリン作動性ヌクレオチドP2Yレセプターも、pDT−PGKに導入した。P2Yレセプターの配列は、コドン348が恐らくは系統発生的変異の結果としてGAA(Glu)でありGGA(Gly)ではないことを除き、Parr et al. (Genbank登録番号U07225)(32)(31)によって報告されたものに相当した。内在性酵母α−因子レセプターSTE2をコードする遺伝子は、構築体Yep24−STE2を用いてそれ自身のプロモーターから発現させた。
【0023】
α発現構築体
Gタンパク質αサブユニットをコードする配列を発現する構築体を作成するため、GPA1遺伝子(GPA1プロモーター)の1Kb上流の領域と、複合クローニング部位およびADH1遺伝子(ADHt)の転写終結領域とからなるカセットを動原体性プラスミドpRS314(Stratagene)に挿入して、pJW1を生成させた(図6(b))。GPA1オープンリーディングフレームをpJW1のNrul部位に挿入して、GPA1発現プラスミドpRS314−GPA1を作成した(図6(c))。
【0024】
Gpa1/Gαi3キメラ体
キメラGαサブユニットGpa1/Gαi3をコードする配列を、プラスミドpADC2−SCGi3から誘導した。このプラスミドによってコードされるキメラ体は、Gαi2の代わりにGαi3のC−末端を含むことを除き、Kang et al. (14)(スイッチIIドメインにBamHI部位を有する)によって報告されたものと同一構造のものである。この研究に用いられるGpa1/Gαi3発現構築体は、オリゴデオキシヌクレオチドプライマーを用いるPCR増幅でオープンリーディングフレームに隣接してNcoIおよびNotI制限酵素部位を組込むことによって作成した。
【0025】
Gpa1/Gαi3キメラ体をコードする配列をpJW1のNcoIおよびNotI制限酵素部位の間に挿入して、プラスミドpRS314−Gpa1/Gαi3(図6(d))を作成した。Gpa1/Gα0、Gpa1/Gαi1、Gpa1/Gαi2、Gpa1/Gαs、Gpa1/GαqおよびGpa1/Gα16キメラ体を発現する構築体は、pRS314−Gpa1/Gαi3から(BamHIおよびNotI制限酵素部位の間の)Gαi3由来の配列をGα0、Gαi1、Gαi2、Gαs、GαqおよびGα16の相当するC−末端領域をコードする配列に変えることによって誘導した。pRS314−Gpa1/Gα0、pRS314−Gpa1/Gαi1、pRS314−Gpa1/Gαi2、およびpRS314−Gpa1/Gα16のプラスミドマップを、それぞれ図6(e)、6(f)、6(g)および6(h)に示す。
【0026】
α移植体
アミノ酸改質である一番端のC−末端を有する「移植体」を、3段階で生成した。第一に、pRS314−GPA1のGPA1プロモーターに配置されたAflII部位をKlenowによる平滑末端形成および再連結によって除いた。次いで、GPA1のコドン467を位置指定突然変異誘発によってAAAからAAGへ変更し、これはQuik-changeキット(Stratagene)を用いて行った。このヌクレオチド変化により、コードしたタンパク質配列を変えることなくAflII部位を導入した。最後に、AflII/XhoI断片を、表1に示したオリゴデオキシヌクレオチドの対をアニーリングすることによって作成したオリゴデオキシヌクレオチドリンカーに替えた。
【0027】
【表1】

【0028】
生成するプラスミドは、Gpa1のアミノ酸1〜467と哺乳類Gαサブユニットの5個のC−末端酸の間のインフレーム融合体をコードした(図5C)。5個のC−末端酸を欠いているGpap1の切断型バージョンを発現するためのプラスミドは、上記と同様に(表1)リンカーの挿入によるコドン位置468における停止コドンの導入によって作成した。
【0029】
酵母株
酵母株MMY9を作成して、7個の膜貫通ヘリックスレセプターとGタンパク質の間の機能的相互作用を研究した。この株は、一般的な実験室株W303−1A(遺伝子型:MATa his3 ade2 leu2 trp1 ura3 can1)から誘導された。フェロモン応答経路の活性化は、それぞれFUS1およびleu2座に組込まれた2個のレポーター遺伝子FUS1−HIS3およびFUS1−lacZによって監視した。FAR1遺伝子をfar1Δ::URA3DNA構築体を用いる1段階遺伝子置換によって欠失し、フェロモン応答経路を活性化した条件下でも成長が継続するようにした。SST2遺伝子をsst2Δ::URA3DNA構築体を用いて1段階遺伝子置換によって欠失して、この遺伝子によってコードされたGTPアーゼ活性化機能によりGタンパク質シグナル伝達のダウンレギュレーションを防止した。これらの操作のそれぞれの後、ura3マーカーを、内部の243bp(EcoRV〜StuI)の欠失を有するURA3遺伝子からなるura3Δ断片を用いる形質転換によって回収した後、5−フルオロ−オロチン酸選択を行った。染色体GPA1(Gα)遺伝子は、gpa1Δ::ADE2DNA構築体を用いる1段階遺伝子置換によって欠失した。
【0030】
酵母株MMY11は、ste2Δ::G418DNA構築体を用いる1段階遺伝子置換によって誘導し、ジェネテイシン耐性コロニーを選択し、この耐性コロニーはSte2pアゴニストであるα−因子に応答できないことを確かめた。
【0031】
レポーター遺伝子発現のアッセイ
アゴニストであるソマトスタチン(S−14)、メラトニン、セロトニン、アデノシン5′−二リン酸(ADP)およびウリジン5′−三リン酸(UTP)は、Sigma社から入手した。α−因子は、Peptide and Protein Research, Exeter, 英国によって合成した。5′−N−エチルカルボキサミドアデノシン(NECA)は、Research Biochemicals Internationalから入手した。
【0032】
FUS1−HIS3発現のアッセイ
逆ハロアッセイは、トリプトファンおよびウラシルを欠いている液体SC−グルコース(2%)培地中でMMY9細胞を初期安定相(OD600≒4)まで成長させることによって行った。細胞(5×10)を、SC−グルコース寒天中22.5cm×22.5cmバイオアッセイ皿(Nunc)(1%)まで塗布し、50℃まで平衡にした。この培地はトリプトファン、ウラシルおよびヒスチジンを欠き、10mMの3−アミノトリアゾールを補足し、0.1Mリン酸ナトリウムで緩衝してpH7.0とした。抗生物質ディスクを固化寒天上に置き、一定量のアゴニスト溶液(1〜5μl)をそれぞれのディスクに加えた。プレートを30℃で3日間インキュベーションした。
【0033】
FUS1−lacZ発現のアッセイ
細胞抽出物中のβ−ガラクトシダーゼ活性を、2回のアッセイによって測定した。第一のアッセイ(ONPGアッセイ)では、細胞抽出物を、(37)に記載の基質ONPGを用いてインキュベーションした。単位は、(A420×1000)/(OD600×t×v)として定義した(25)。化学発光分析では、細胞を後期対数相まで成長させ、96穴マイクロタイタープレート中で1μMのα−因子の存在下または非存在下にて100μlSC−WH培地で0.02OD600まで希釈した。インキュベーション(30℃、6時間)の後、20μlを取出し、20μlアッセイ混合物(125mMリン酸ナトリウム,pH7.5、15mM MgSO、200μMGalacton-Starβ−ガラクトシダーゼ基質(Tropix)、10%(v/v)Sapphire II (Tropix)、1U/μlオキザリチカーゼ(Enzogenetics))と混合した。インキュベーション(30℃、1時間)の後、Top-countシンチレーションカウンター(Packard)で化学発光を測定した。
【0034】
組合わせたFUS1−lacZおよびFUS1−HIS3発現のアッセイ
レポーター遺伝子のイン・ビボアッセイでは、細胞をトリプトファン、ウラシルおよびヒスチジンを欠く200μlSC−グルコース(2%)中で0.02OD600まで懸濁することによって誘導(CPRGアッセイ)を行った。この培地にアゴニストと、更に10mMの3−アミノトリアゾールおよびβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)基質であるクロロフェノールレッド−β−D−ガラクトピラノシド(CPRG;Boehringer)を0.1mg/mlの濃度まで補足した。色変化反応を可視化するため、培地を0.1Mリン酸ナトリウムでpH7.0に緩衝した。アッセイは、96穴マイクロタイタープレートフォーマットで行った。プレートを攪拌せずに24時間インキュベーションし、570nmにおける吸光度をVictorマイクロタイタープレートリーダー(Wallac)を用いて測定した。EC50値(+/−標準誤差)は、Robosageソフトウェアパッケージを用いて曲線フィッティング(curve-fitting)によって計算した。
【0035】
本発明の研究で用いた酵母株

株 遺伝子型
W303−1A MATa his3 ade2 leu2 trp1 ura3 can1
MMY9 W303-1A fus1:FUS1-HIS3 FUS1-lacZ::LEU2
far1Δ::ura3Δ gpa1Δ::ADE2 sst2Δ::ura3Δ
MMY11 MMY9 ste2Δ::G418R
【0036】
実験1:酵母フェロモン経路を活性化するレセプター
この実験では、酵母フェロモン応答経路を活性化することができるレセプターの例として4個のヒトGタンパク質に共役したレセプターを用いた。4個のレセプターは、メラトニンML1Bレセプター、セロトニン5HT1Aレセプター、ソマトスタチンSSTレセプター、およびプリン作動性ヌクレオチドレセプターP2Yであった。これらのレセプターを、上記の酵母株MMY9で発現させた。この株は、SST2、FAT1およびGPA1を欠失していたが、STE2によってコードされる内在性α−因子レセプターは保持していた。フェロモン応答経路の活性化は、2つの組込みレポーター遺伝子、すなわちヒスチジンを欠く培地中で成長読み出しを行うFUS1−HIS1、およびβ−ガラクトシダーゼ読み出しを行うFUS1−lacZを用いて監視した。これらのアッセイは、本明細書に上記している。本発明者らは、最初に内在性酵母ヘテロ三量体Gタンパク質(Gpa1p/Ste4p/Ste18p)を介するこれらのレセプターのシグナル伝達を検討した。レセプターを、高コピー数エピソームベクターを用いて強力なPGKプロモーターから酵母株MMY9で発現させた。図1において、パネルA〜Fは、野生型GPA1遺伝子を発現するプラスミドpRS314−GPA1(パネルB〜F)および更にレセプター発現構築体またはベクター、例えばpDT−PGK(ベクター;パネルB);pFL61−SST(パネルC);pDT−PGK−ML1B(パネルD);pDT−PGK−P2Y(パネルE);pDT−PGK−5−HT1A(パネルF)と同時形質転換したMMY9細胞を用いて行った逆ハロアッセイを示す。FUS1−HIS3のアゴニスト依存活性化は、アゴニストをパネルAに示す配置のフィルターディスクに下記の量を加える逆ハロアッセイによって測定した:3nMソマトスタチン−14(S−14);40nMメラトニン(Mel);3nM α−因子;100nM UTP;40nMセロトニン(5−HT)。予想されたように、MMY9を酵母フェロモンであるα−因子で処理したところ、内在性酵母レセプターSte2pを刺激し、FUS1−HIS3の発現を増加させ、ヒスチジンの非存在下でのハロの細胞成長させることができた(図1、パネルB)。同様に、ML1Bレセプター(パネルD)を発現するMMY9細胞は、メラトニンに応答して並びにα−因子に応答してFUS1−HIS3を活性化した。SSTレセプターを発現する細胞(パネルC)はソマトスタチンに応答し、P2Yレセプターを発現する細胞(パネルE)はアゴニストUTPに応答した。図1における細胞成長のゾーンは大きさが匹敵するものであるが、それぞれのレセプターには異なるモル量のアゴニストが必要であった。従って、ML1B、SSTおよびP2Yレセプターは、内在性GαであるGpa1pの活性化によって酵母フェロモン応答経路に共役することができる。5−HT1Aレセプター発現構築体で形質転換したMMY9細胞は、アゴニストであるソマトスタチンに応答してFUS1−HIS3を活性化せず、このレセプターはGpa1pとほとんど相互作用しないかまたは機能的に相互作用することができないことを示していた。
【0037】
実験2:レセプターへの酵母/哺乳類キメラ体の共役
この実験では、ある種のレセプターに対して、酵母フェロモン応答経路への共役の効率は、酵母と哺乳類Gαサブユニットとの間にキメラ体を作成することによって増強することができることを示す。一連のキメラGαサブユニットであって、Gpa1pのC−末端ドメイン(C−末端の142個のアミノ酸)をラットGα0、Gαi1、Gαi2、およびGαi3の相当する領域に置換した(図5(b))。Gタンパク質サブユニットの適当な化学量論を得るため、キメラ体を動原体プラスミド上でコードし、GPA1遺伝子のプロモーターから発現した。これにより、過剰のGαによるGβ/Gγによって伝達されたシグナルの消去が回避される(33)。これらの構築体を、実験に用いて、MMY9細胞を、一対のプラスミドであって、一方がGαサブユニットを発現し、第二のものがベクター(pDT−PGK)またはレセプター発現構築体pFL61−SST、pDT−PGK−ML1B、pDT−PGK−P2Y2またはpDT−PGK−5−HT1Aの一つであるもので動じ形質転換した。FUS1−lacZのアゴニスト依存性活性化を、発色性の細胞浸透性β−ガラクトシダーゼ(lacZ)基質であるクロロフェノールレッド−β−D−ガラクトピラノシド(CPRG;Boehringer Mannheim)を補足した培地で細胞をインキュベーションすることによって測定した。30℃で24時間インキュベーションの後のこの基質の転換率を、分光光度法によって測定し、酵母Gαおよび4個のキメラ体の結果を図2A〜Dに示す。2A Ste2pレセプター(pDT−PGK−形質転換細胞);2B SSTレセプター(pFL61−SST);2C ML1Bレセプター(pDT−PGK−ML1B);2D 5−HT1Aレセプター(pDT−PGK−5−HT1A)。
【0038】
予想されたように、α−因子は内在性Ste2pレセプターを刺激して、FUS1−lacZを誘導し、Gpa1pで最強の応答を誘導した(EC50;5.2±0.4nM)。この値は、α−因子ペプチドに対するSte2pの報告された親和性と一致している(K;17nM)(3)。Gpa1/Gα0およびGpa1/Gαi2キメラ体を発現するMMY9細胞も、高濃度のα−因子に応答してFUS1−lacZを誘導するが、用量−応答曲線は少なくとも2対数単位だけ上方に移動し、Ste2pレセプターは野生型Gpa1pと比較してこれらのキメラ体とは余り効率的に相互作用しないことを示していた。Gpa1/Gαi1またはGpa1/Gαi3を発現するMMY9細胞は、α−因子に応答してFUS1−lacZを誘導しなかった。対照的に、ソマトスタチンSSTレセプターは、総てのGαiキメラ体によってフェロモン応答経路に共役した(Gpa1p、Gpa1/Gα0、Gpa1/Gαi1、Gpa1/Gαi2、およびGpa1/Gαi3に対してそれぞれEC50値;430±44nM;300±38nM;650±65nM;300±22nM;および630±30nM)。これにより、キメラGαサブユニットは機能的であることが確かめられ、レセプターがフェロモン応答経路に共役することができないのはGαC−末端領域との不和合性によることを示している。本発明者らは、キメラタンパク質を、これらのタンパク質総てに共通のGpa1pのN−末端に指定されたポリクローン性抗体を用いて定量的ウェスタンブロット法(データは示さず)によって野生型Gpa1pに匹敵する量で産生することを確かめた。
【0039】
他のレセプターの中、5−HT1AおよびML1Bは、いずれもGpa1pを発現するものよりキメラGαサブユニットを発現する細胞中でのフェロモン応答経路により効率的な共役を示した。5−HT1Aレセプターは、Gpa1/Gα0を活性化することができる酵母中の配座を採用し、このレセプターがGpa1pと不和合性であるかまたはほとんど和合しないという実験1からの仮定を支持している。注目に値することは、これらのレセプターが特定のキメラ体に対して特異的であり、例えばML1BはGpa1/Gαi2を活性化するが、Gpa1/Gαi3は活性化せず、これらのキメラ体は調度14個のアミノ酸位置で異なっているが、発現の水準はそれぞれの場合に同様である。シグナル伝達を野生型Gpa1pによって行うときには、FUS1−lacZは他のレセプターと比較してP2Yによっては余り誘導されず(データは示さず)、逆ハロアッセイでの同様な成長ゾーンを得るにはアゴニストのモル量を大きくする必要があることと一致している(図1)。P2Y2アゴニスト応答は、Gαiキメラ体のいずれによっても増強されなかった(データは示さず)。
【0040】
実験3:Gα16のC−末端領域を有するキメラ体
α15/Gα16サブユニットは、Gαサブユニットについて典型的であるよりもずっと広範囲のレセプターと相互作用することが報告されており、Gαi、GαsまたはGαqと通常に相互作用するレセプターと共役する能力を有する(26)。Gpa1/Gα16のC−末端キメラ体が完全長のGα16と同様な特性を示すときには、様々なレセプターをフェロモン応答経路に共役させることが期待できる。本発明者らは、上記の機能的キメラ体の発現に用いたのと同じ動原体性ベクターから誘導されるGpa1/Gα16のC−末端ドメインキメラ体をコードするプラスミドを構築した(pRS314−Gpa1/Gα16;図5(b);図6(h))。Gpa1/Gα16キメラ体を発現するMMY9細胞でのFUS1−LacZ誘導の水準を、細胞抽出物を調製して、これらをLacZ基質であるo−ニトロフェニルβ−D−ガラクトピラノシド(ONPG;材料および方法を参照)と共にインキュベーションすることによって測定した。Gpa1/Gα16は、FUS1−LacZ発現を減少させ、β−ガラクトシダーゼ活性は79±8単位となった(表2)。この水準は、Gαが存在しないため経路が構成的に活性化されるベクターで形質転換した対照細胞の活性(239±30単位)と、野生型Gpa1pを産生する細胞での基礎活性(19±4単位)との中間であった。従って、フェロモン応答経路は部分的に活性化され、GPA1プロモーターからのGpa1/Gα16の発現を指定するこの構築体は、総ての遊離Gβ/Gγを隔絶することができないことを示している。
【0041】
【表2】

【0042】
本発明者らは、一層強力なTEF1およびGPD1プロモーターからGpa1/Gα16を発現するため、構築体を更に作成した。これらは、FUS1−lacZ発現をGpa1p産生細胞に匹敵する水準に減少させた(表1)。図3において、様々なGpa1/Gα16発現構築体で形質転換したMMY9細胞または対照プラスミドをヒスチジンを補足した非選択的寒天プレート(パネルA)およびヒスチジンを欠きかつ3−アミノトリアゾールを補足した選択的寒天プレート(パネルB)にストリークした。TEF−Gpa1/Gα16およびGPD−Gpa1/Gα16発現構築体は、FUS1−HIS3レポーター遺伝子発現を減少させ、野生型GPA1を発現するポジティブコントロールプラスミド(pRS314−GPA1)と同様にヒスチジン選択的培地上での成長を防止した。対照的に、GPA1プロモーターを用いるGpa1/Gα16発現構築体(pRS314−Gpa1/Gα16)は、ベクター形質転換細胞(対照)を用いる場合と同様にヒスチジン選択的条件下で成長を防止するのに十分にはFUS1−HIS3発現を減少させることはできなかった。この結果は、上表にまとめたONPGアッセイの結果と一致し、従って、2個のレポーター遺伝子、FUS1−lacZおよびFUS1−HIS3は同様な挙動を示す。
【0043】
しかしながら、Gpa1/Gα16発現構築体のいずれを用いても、Ste2pレセプターは、細胞をα−因子で処理してもFUS1−LacZを誘導しないので、フェロモン応答経路に共役するとは思われなかった(表1)。Gpa1/Gα16と組合わせて他のレセプター(ML1B、5−HT1A、P2YまたはSST)を発現するMMY9細胞も、FUS1−LacZのアゴニスト依存性誘導は示さなかった(データは示さず)。従って、Gpa1/Gα16は、酵母Gβ/Gγ粒子がフェロモン応答経路を活性化するのを、恐らくはGタンパク質三量体に構築することによって防止することができるが、活性化レセプターの存在下では遊離Gβ/Gγは放出されない。明らかに、Gpa1pのN−末端領域に融合した哺乳類Gαサブユニットから誘導される大きなC−末端ドメインを含むこの種のキメラ体を構築する方法は、一般的には総てのGαサブユニットには適用可能ではないが、幾つかのGαサブユニット(GαiファミリーおよびGαs)では上手く行くが、他のもの(例えば、Gα16)では上手く行かない。Gpa1/Gα16は、完全長Gα16の重要な特性、すなわち他のGαサブユニットよりずっと広範囲のレセプターと共役する特性を欠いている。この実験では、Gpa1/Gα16のC−末端ドメインキメラタンパク質が細胞中に産生され、従ってGタンパク質と共役したレセプターをフェロモン応答経路に共役することができないのは、レセプターとこのGαサブユニットとの不和合性によることが確かめられている。
【0044】
Gpa1/Gαsキメラ体は、酵母ホスホグリセレートキナーゼ(PGK1)遺伝子の強力な構成的プロモーターから発現されるときには、成長ホルモン放出ホルモンレセプター(12)と共役することが報告されている。本発明者らは、上記と同様なGpa1/GαsおよびGpa1/Gαqキメラ体を構築し(図5B)、それらをGPA1遺伝子のプロモーターからMMY9細胞中で発現させた。本発明者らは、上記のONPGアッセイの代わりに化学発光アッセイを用いてこれらの細胞中のFUS1−LacZ活性をアッセイした。結果を、表3に示す。前の実験から予想されるように、GPA1プロモーターからのGpa1/Gα16を発現する細胞は、Gpa1pを発現する対照細胞より著しく高い活性を示した。Gpa1/GαsおよびGpa1/Gαqキメラ体は、これらがGpa1pを発現する対照細胞より著しく高い活性を示す点でGpa1/Gα16と同様である。対照的に、GPA1プロモーターからのGpa1/Gα0、Gpa1/Gαi1、Gpa1/Gαi2、またはGpa1/Gαi3を発現する細胞は、予想されたように、Gpa1pを発現する対照細胞に匹敵する活性を含んでいた。この実験では、野生型Gpa1pおよびGpa1/Gα0キメラ体だけが、1μMのα−因子と共にインキュベーションした細胞中のFUS1−LacZ水準を増加させることによってSte2pレセプターと共役した。これは、上記のCPRGアッセイの結果と一致している。この実験では、更に、Gpa1/Gα0、Gpa1/Gαi1、Gpa1/Gαi2、またはGpa1/Gαi3キメラ体をGPA1プロモーターから発現させることができ、活性化レセプターの非存在下ではフェロモン応答経路の活性化を十分低くして、共役を検出することができるが、Gpa1/Gαs、Gpa1/GαqおよびGpa1/Gα16キメラ体は発現されないことが確かめられている。
【表3】

【0045】
実験4:移植体法
哺乳類GαサブユニットのC−末端に対する小さな改質によってレセプター特異性を変化させることができると仮定すれば、上記のキメラ体よりも長いGpa1pのN−末端領域および短い哺乳類Gαサブユニットの領域を用いる融合は、レセプターの特異性を更に変化させることができる(7)(40)(23)(18)。これにより、キメラ体がGβ/Gγに対するアフィニティーを減少させるという問題を回避することができる。本発明者らは、「移植体」と命名される精製した組のGpa1−Gα融合体を作成し、それらを哺乳類Gαのより長い領域を有するキメラ体と識別した(図5(B))。これらの融合体は、Gα16(EINLLCOOH)、Gαq(EYNLVCOOH)またはGαs(QYELLCOOH)の5個のC−末端残基によって置換されたGpa1pの5個のC−末端残基(468KIGIICOOH)を有していた(図5(C))。MMY9細胞を、移植構築体と、および更にpDT−PGK(異種レセプターを持たないベクター)またはレセプター発現構築体pDT−PGK−5−HT1A、pFL61−SSTまたはpDT−PGK−P2Yと同時形質転換した。実験2と同様に、FUS1−LacZのアゴニスト依存活性化を、CPRGを補足した培地で細胞をインキュベーションすることによって測定し、30℃で24時間インキュベーション後の生成物への転換率を分光光度法によって測定した。結果を、図4A〜Dに示す。この実験は、移植体が、MMY9細胞でのFUS1−LacZ発現をGPA1プロモーターから発現するときに基底水準にまで減少させるので、Gβ/Gγと効率的に相互作用することができたことを示している。実験2および3のC−末端ドメインキメラ体とは対照的に、Gpa1−Gα16、Gpa1−GαqおよびGpa1−Gαs移植体は総て、活性化Ste2pレセプターをフェロモン応答経路に共役させる能力を保持していたが、用量−応答曲線は、Gpa1pと比較して、移植体はSte2pと余り効率的に相互作用しなかった(Gpa1−Gαs、Gpa1−Gα16およびGpa1−Gαqに対して,それぞれEC50=257±13nM;75±2nM;102±5nM)(図4A)。酵母レセプターとは反対にヒトレセプターを用いると、移植体はGαサブユニット/レセプター相互作用を改良した。Gpa1−Gαq移植体は、Gpa1pに比較してP2Yレセプターの共役を著しく増強し、P2Yは哺乳類細胞中のGαqを介してそのエフェクターホスホリパーゼCβにシグナルを伝達するという知見と一致している。対照的に、Gpa1−Gαs移植体がP2Yをフェロモン経路に共役させる能力は、Gpa1pの能力と識別できなかった。
【0046】
Gpa1−Gα16は、4個のヒトレセプターの中3個を発現する(SST、5−HT1A、およびP2Yを発現するが、ML1Bは発現しない)細胞のアゴニスト応答を増強した。SSTレセプターと共にGpa1−Gα16移植体を動じ発現するMMY9細胞は、Gpa1pを産生する対照細胞に対して同様な応答を誘導するのに凡そ10分の1のソマトスタチンを必要とする(Gpa1−Gα16に対して、EC50=27±0.8nM;Gpa1pに対してEC50=430±44nM)。5−HT1Aレセプターは、野生型Gpa1pを介してMMY9細胞にシグナル伝達を行うことはできなかったが、Gpa1−Gα16移植体を介してかなり良好にシグナル伝達を行うことができた。SSTレセプターについては、Gpa1−Gα16移植体が最も効率的なGαであり、5−HT1AおよびP2Yレセプターについては、Gpa1−Gα16移植体は共役を支持することができたが、それぞれGpa1/Gα0キメラ体およびGpa1−Gαq移植体ほど効率的ではなかった。
【0047】
Ste2pα−因子レセプターをコードするSTE2遺伝子が欠失すると、異種発現レセプターの共役効率を増強することができることが報告されている(34)。これは、G−タンパク質三量体についてのレセプター間の競争によるものである可能性がある。本明細書に記載のレセプターとGαサブユニットの機能についてのレセプター競争の効果を検討するため、本発明者らはMMY9の誘導体であって、STE2遺伝子をG418耐性マーカーを用いる組込み分断によって欠失したものを構築した。新規な株を、MMY11と命名した。この株を、MMY9およびMMY11細胞をGpa1p発現構築体pRS314−GPA1(図6(c))で形質転換する実験に用いて、CPRGアッセイにおいて様々な濃度のα−因子と共にインキュベーションした(図7)。予想されたように、MMY11はα−因子へ応答することはできない。
【0048】
MMY11を、上記と同様に、細胞をプラスミドの対であって、一方がGαサブユニットを発現し、他方がレセプター発現構築体を発現するもので形質転換する実験に用いた。この実験は、本明細書で上記した4個のレセプター発現構築体(pFL61−SST、pDT−PGK−ML1B、pDT−PGK−P2Y、およびpDT−PGK−5−HT1A)、および4個の他のレセプター発現構築体pDT−PGK−SST、pDT−PGK−A2b、pDT−PGK−P2YおよびpDT−PGK−5−HT1Dを含んでいた。本発明者らは、他の移植構築体を構築して、C−末端の5個のアミノ酸がGα0(GCGLYCOOH)、Gαi1(DCGLFCOOH)、Gαi3(ECGLYCOOH)、およびGα14(EFNLVCOOH)のアミノ酸で置換したGpa1pの改質バージョンを発現させた。これらを、本明細書で上記したGαサブユニット発現構築体と共にこの実験で用いた。細胞にCPRGアッセイを施し、レセプターとGαサブユニットとのそれぞれの組合せについてアゴニストに対する濃度応答曲線を決定した。フェロモン応答経路活性化が検出される場合には、半最大応答(half-maximal response)を得るのに要するアゴニスト濃度(EC50±標準誤差;特に断らない限り総ての値はnMで示す)を曲線−フィッティング(curve-fitting)によって決定し、表4Aに示す。曲線フィッティングを行うには不十分な弱い活性化が検出される場合には、これを表4Aに示す(弱(weak))。共役が見られないときには、これもまた示しておく(NC)。
【0049】
比較のため、表4Bに、MMY9で得られた同様なデータを示す。従って表4Aと4Bの値の差は、異種発現レセプターによるシグナル伝達に対するSte2pの効果によるものと思われる。
【表4】

【表5】

【0050】
この実験は、実験2および3に記載のキメラGpa1/Gαサブユニットと比較しても、共役効率はこの「移植体」型の改質によって実質的に増強することができることも示している。Ste2pレセプターの共役は、総ての移植体によって支持されたが、半最大応答を誘導するには更に高濃度のα−因子が必要であることによって示されるように、いずれも野生型Gpa1pほど有効ではなかった(表4B)。しかしながら、移植体は、一般に半最大応答を誘導するのに要したアゴニストの濃度が低いことによって示されるように、野生型Gpa1p(表4A)と比較してヒトレセプターの共役を増強した。移植体は、野生型Gpa1pと余り変わらないGpa1−Gαsを除き、いずれもP2Yシグナル伝達を増強した。最も有効なものは、Gpa1−Gαi3移植体であった。同様に、移植体は、Gpa1pまたはGαi/oの長いC−末端ドメインを有するキメラ体と比較して、SST、SST、ML1B、5HT1DおよびA2bレセプターの共役効率を増強し、EC50が10分の1以下になることも多かった。P2Yレセプターは、移植体によってのみフェロモン応答経路に共役することができ、Gpa1−Gα14移植体が最も効率的であった。(Gαi1およびGαi2のC−末端の5個のアミノ酸は同一であるので)哺乳類Gα由来の配列の長さのみが異なるGpa1/Gαi2キメラ体とGpa1−Gαi1移植体とを比較することは有益である。ML1BおよびSSTについてのEC50値は、Gpa1−Gαi1移植体ではGpa1/Gαi2キメラ体でよりも10倍以上大きかった。同じ比較は、Gpa1/Gαi3キメラ体とGpa1−Gαi3移植体について行うことができる。明らかに、哺乳類Gαサブユニットの長さが短いキメラ体の方が、幾つかのレセプターの共役をより効率的に行うことができる。移植体が最適共役効率を示さなかった本研究における唯一のレセプターは、5HT1Aであり、最も効率的な移植体はGpa1−Gα0(MMY11でのEC50;1.0±0.1μM)であったが、最も効率的共役はGpa1/Gα0キメラ体で得られた(MMY11でのEC50;390±14nM)。これは、哺乳類レセプターの大半に対して、酵母での最も効率的共役はGαサブユニットの移植体型で得られることを示している。
【0051】
レセプターとGαサブユニットとの同一の組合せについてMMY9およびMMY11で得られたEC50を比較すると、Ste2pが含まれていないと、共役効率を約10倍だけ増強することができることを示している。更に、ある種の和合性に乏しいレセプター/G−タンパク質の組合せに対しては、共役はMMY11で見られたが、MMY9では見られず、例えば5HT1AとGpa1pであった。これは、Price et al. (34)によって報告されたSTE2遺伝子の欠失の以前観察された効果と完全に一致しており、上記の結論に影響を与えない。
【0052】
本発明者らは、5個のC−末端アミノ酸を欠いている切断型Gpa1p分子を発現させるためもう一つの構築体を作成した(図8D)。この切断突然変異体は、Gβ/Gγと結合するが、Ste2pをフェロモン応答経路に共役させることはできないことが報告されている(11)。予想されたように、この切断型Gpa1p突然変異体のMMY9またはMMY11細胞での発現により、低水準のFUS1−LacZ活性を生じ、切断型突然変異体がGβ/Gγと結合できることを示唆している(データは示さない)。CPRGβ−ガラクトシダーゼアッセイでは、この突然変異体はSte2pまたは他のレセプターをフェロモン応答経路に共役させることはできない(データは示さない)。これは、Hirsh et al. (11)の報告と完全に一致しており、G−タンパク質と共役したレセプターとの相互作用におけるGαサブユニットの5個のC−末端アミノ酸の重要性が確かめられる。
【0053】
本発明者らは、5個のC−末端アミノ酸がGαz(YIGLGCOOH)、Gα12(DIMLQCOOH)、およびGα13(QLMLQCOOH)のもので置換されたGpa1pの改質バージョンを発現させるためもう一つの構築体を作成した。pRS314−Gpa1−Gpa1−Gαz、pRS314−Gpa1−Gα13、およびpRS314−Gpa1−Gα12構築体から発現したGpa1−Gαz、Gpa1−Gα13、および余り多くはないがGpa1−Gα12移植体は移植体は、Set2pレセプターと共役することができたが、レセプター活性化の非存在下でもFUS1−LacZの基礎水準の増加と関連しているので、Gβ/Gγを完全に隔絶することはできなかった(図8)。おそらく、これはGβ/Gγとの相互作用の中断、または内在性酵母タンパク質またはプラスミド安定性の減少(下記参照)による活性化によるものと思われる。定量的免疫ブロッティングは、総ての移植体タンパク質が同様な水準にまで産生されることを示していた。本発明者らは、Gpa1−Gαz、Gpa1−Gα13およびGpa1−Gα12発現カセットがpRS304に含まれているプラスミドも作成した。プラスミドpRS304は組込みベクターであり、一方pRS314はエピソーム性の動原体ベクターである。pRS304−Gpa1−Gαz、pRS304−Gpa1−Gα13およびpRS304−Gpa1−Gα12構築体を、MMY11株のtrp1座への組込みを標的としてこの株へ形質転換した。生成する株は、遊離のエピソーム性プラスミド上に位置している遺伝子ではなく染色体上に位置した遺伝子からGpa1−Gαz、Gpa1−Gα13およびGpa1−Gα12移植体を発現した。図8に示した実験では、MMY11細胞をpRS304またはp314を基礎とした(それぞれ組込みおよびエピソーム性)プラスミドで形質転換して、Gpa1−Gαz(図8A)、Gpa1−Gα13(図8B)およびGpa1−Gα12移植体(図8C)を発現した。更に、細胞をYep24−STE2で形質転換して、STE2遺伝子を発現したが、これはMMY11株から欠失されたものであった。様々な濃度のα−因子に応答するFUs1−LacZの活性化は、CPRGアッセイで測定した。この実験は、移植体発現構築物を染色体へ組込むことにより、レセプター活性化の非存在下でFUS1−LacZ活性化の基礎水準を減少させることを示している。これにより、ヒトレセプター発現構築物を用いる実験においてGpa1−Gαz、Gpa1−Gα13およびGpa1−Gα12移植体が異種発現レセプターを共役させる能力について試験することができる(データは示さない)。
【0054】
本発明者らは、移植体発現カセットをpRS304プラスミドへ移し、MMY11のゲノムへ組込む同じ方法を他の移植体について行った。これにより、Gpa1−Gα0、Gpa1−Gαi1、Gpa1−Gαi3、Gpa1−Gα14、Gpa1−Gαs、Gpa1−Gαq、Gpa1−Gα16、Gpa1−Gαz、Gpa1−Gα13、およびGpa1−Gα12移植体の染色体コピーを発現する一連の株を得た。いずれの場合にも、本発明者らは、EC50には影響を与えることなくレセプター活性化の非存在下でFUS1−LacZ活性化の基礎水準を減少させる上記の現象を観察した。本発明者らは、この結果から、エピソーム性Gαサブユニット構築体は不安定であると結論する。本発明者らは、エピソーム性Gαプラスミドを含む細胞の個体群において、少数の細胞がこのプラスミドを喪失することがあると仮定している。これらの細胞は、URA3遺伝子を欠いているので、増殖しない。しかしながら、それらは総てのGαサブユニットを欠いているので、フェロモン応答経路は構成的に活性化され、LacZ酵素を蓄積する。従って、基礎FUS1−lacZ水準の上昇は全個体群で明らかであり、明らかなタンパク質水準の変化は見られない。Gαをコードする遺伝子の組込みコピーでは、これは起こらない。
【0055】
全範囲の組込み移植体を含む株の組は、薬剤発見に関連すると思われるあらゆる種類の既知哺乳類Gαサブユニットを表している(GαtおよびGαolf移植体は試験しなかった)。同じ移植体の構築法を、将来発見されるあらゆるGαサブユニットを用いて行うことができる。
【0056】
結論として、この方法は、i)広範囲のGαサブユニットに適用可能であり、ii)特に、Gα16に適用可能であり、iii)Gpa1−Gα16移植体は、少なくともある程度まで広範囲のレセプターと相互作用するGα16の特性を有しており、従って、生理学的に関連のあるGタンパク質標的が知られていないオーファンレセプターの共役に選択されるGαサブユニットであることができるので、以前に報告された手法に比較して著しい改良法である。
【0057】
参考文献一覧
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【0059】
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【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】改質酵母(S. cerevisiae)MMY9株のアゴニスト依存性成長。4種類のヒトGタンパク質に共役したレセプターの一つを発現する細胞は、これらのレセプターが内因性酵母Gαサブユニット(Gpa1p)と相互作用して、これを活性化することができることを示している。
【図2a】レセプターを発現する細胞と別種の改質Gαサブユニットを用いるレセプターアゴニストに応答するFUS1−lacZレセプター遺伝子の誘導。
【図2b】レセプターを発現する細胞と別種の改質Gαサブユニットを用いるレセプターアゴニストに応答するFUS1−lacZレセプター遺伝子の誘導。
【図2c】レセプターを発現する細胞と別種の改質Gαサブユニットを用いるレセプターアゴニストに応答するFUS1−lacZレセプター遺伝子の誘導。
【図2d】レセプターを発現する細胞と別種の改質Gαサブユニットを用いるレセプターアゴニストに応答するFUS1−lacZレセプター遺伝子の誘導。
【図3】Gpa1/Gα16キメラ体(Gα16由来の大きなC−末端ドメインを含む)を発現する構築体は、FUS1−HIS3レポーター遺伝子発現を基底水準まで減少させることを示す。
【図4a】C−末端の5個の残基が改質されたGpa1p(移植体)によって伝達されるレセプターアゴニストによるFUS1−lacZレポーター遺伝子のアゴニスト依存性活性化を示す。
【図4b】C−末端の5個の残基が改質されたGpa1p(移植体)によって伝達されるレセプターアゴニストによるFUS1−lacZレポーター遺伝子のアゴニスト依存性活性化を示す。
【図4c】C−末端の5個の残基が改質されたGpa1p(移植体)によって伝達されるレセプターアゴニストによるFUS1−lacZレポーター遺伝子のアゴニスト依存性活性化を示す。
【図4d】C−末端の5個の残基が改質されたGpa1p(移植体)によって伝達されるレセプターアゴニストによるFUS1−lacZレポーター遺伝子のアゴニスト依存性活性化を示す。
【図5】本発明の研究に用いたGαサブユニット構築体の模式的表現。スイッチドメインには、陰影を付けている。括弧内の数字は、野生型Gαサブユニットのアミノ酸数を表す。B)のGpa1/Gαキメラ体は、下記のようなC−末端領域(区画を設けた)を含んでいた:Gαi1(212〜354),Gαi2(213〜355),Gαi3(212〜354),Gα0(213〜354),Gα16(221〜374),Gαs(235〜394),Gαq(211−353)。
【図6a】本発明の研究に用いたある種のプラスミド構築体の模式的表現(プラスミドマップ)。
【図6b】本発明の研究に用いたある種のプラスミド構築体の模式的表現(プラスミドマップ)。
【図6c】本発明の研究に用いたある種のプラスミド構築体の模式的表現(プラスミドマップ)。
【図6d】本発明の研究に用いたある種のプラスミド構築体の模式的表現(プラスミドマップ)。
【図6e】本発明の研究に用いたある種のプラスミド構築体の模式的表現(プラスミドマップ)。
【図6f】本発明の研究に用いたある種のプラスミド構築体の模式的表現(プラスミドマップ)。
【図6g】本発明の研究に用いたある種のプラスミド構築体の模式的表現(プラスミドマップ)。
【図6h】本発明の研究に用いたある種のプラスミド構築体の模式的表現(プラスミドマップ)。
【図7】アゴニストであるα−因子を用いるインキュベーションに応答してpRS314−Gpa1で形質転換したMMY9(STE2)およびMMY11(ΔSTE2)細胞におけるFUS1−lacZレポーター遺伝子の活性を示す。
【図8a】移植体Gpa1−Gαz(図8a)、Gpa1−Gα13(図8b)、およびGpa1−Gα12(図8c)を発現するエピソーム性または組込み構築体を含む同質遺伝子的酵母株の比較を示す。細胞は、プラスミド(Yep24−STE2)で形質転換してSte2pを発現して、α−因子に応答してFUS1−lacZレポーター遺伝子の活性化を欠失することができるようにすること以外は内在性STE2遺伝子を欠失した。
【図8b】移植体Gpa1−Gαz(図8a)、Gpa1−Gα13(図8b)、およびGpa1−Gα12(図8c)を発現するエピソーム性または組込み構築体を含む同質遺伝子的酵母株の比較を示す。細胞は、プラスミド(Yep24−STE2)で形質転換してSte2pを発現して、α−因子に応答してFUS1−lacZレポーター遺伝子の活性化を欠失することができるようにすること以外は内在性STE2遺伝子を欠失した。
【図8c】移植体Gpa1−Gαz(図8a)、Gpa1−Gα13(図8b)、およびGpa1−Gα12(図8c)を発現するエピソーム性または組込み構築体を含む同質遺伝子的酵母株の比較を示す。細胞は、プラスミド(Yep24−STE2)で形質転換してSte2pを発現して、α−因子に応答してFUS1−lacZレポーター遺伝子の活性化を欠失することができるようにすること以外は内在性STE2遺伝子を欠失した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C−末端10アミノ酸内の少なくとも3アミノ酸位置を別のアミノ酸で置換することによって改質した酵母Gα(Gpa1p)アミノ酸配列を有するキメラGαタンパク質。
【請求項2】
アミノ酸配列が、C−末端の10アミノ酸内の少なくとも5アミノ酸位置を別のアミノ酸で置換することによって改質した、請求項1に記載のキメラGαタンパク質。
【請求項3】
C−末端の10アミノ酸内の少なくとも3アミノ酸位置を異種Gαタンパク質由来のアミノ酸で置換することによって改質した酵母Gα(Gpa1p)アミノ酸配列を有するキメラGαタンパク質。
【請求項4】
アミノ酸配列が、C−末端の10アミノ酸内の少なくとも5アミノ酸位置を異種Gαタンパク質由来のアミノ酸で置換することによって改質した、請求項3に記載のキメラGαタンパク質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のキメラGαタンパク質をコードするヌクレオチド配列。
【請求項6】
異種Gタンパク質結合レセプターをコードするヌクレオチド配列と、請求項5に記載のヌクレオチド配列とを含んでなる、形質転換酵母細胞。
【請求項7】
目的とする化合物を請求項6に記載の細胞と接触させ、細胞の成長応答を観察することを含んでなる、レセプターと相互作用することができる化合物のスクリーニング法。
【請求項8】
細胞が更にレポーター遺伝子を含んでなり、かつ、レポーター遺伝子生成物の産生を観察する段階を含む、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図6e】
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【図6f】
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【図6g】
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【図6h】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【公開番号】特開2010−279369(P2010−279369A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159611(P2010−159611)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【分割の表示】特願2000−511882(P2000−511882)の分割
【原出願日】平成10年9月11日(1998.9.11)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】