説明

GPC分析法、GPC分析の検出器のノイズ低減方法及びGPC装置

【課題】高温GPC分析において安価に分析精度を向上させるとともに日常の分析操作や装置メンテナンス時の操作性を維持すること。
【解決手段】GPC装置により高温GPC分析を行なう際に、検出用受光素子部を有する電子回路部が設けられた筐体内に温度の振れが±0.5℃以下、好ましくは±0.25℃以下の気体を1.5〜4.5m3/分で供給することを特徴とする分析方法。カラムオーブン及び検出用受光素子部を有する電子回路部が同一筐体内に設けられたGPC装置を用いた場合により大きな利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPC(Gel Permeation Chromatography)の検出器のノイズ、特に高温GPCの検出器のノイズを低減したGPC分析方法及びGPC装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GPCは高分子の平均分子量及び分子量分布の分析手段として、GPCが広く利用されている。
GPCは溶液中での試料分子の広がりにより分離することから高分子試料は溶剤に溶解する必要がある。ポリエチレンやポリプロピレン等の結晶性ポリオレフィンは室温の溶剤に溶解しないことから、80℃以上、さらには130℃以上で、溶剤の沸点以下の任意の温度に加熱溶解した、いわゆる高温GPCで分析される。
【0003】
GPCの一般的な装置は、(1)溶離液に溶存する気体を脱気する脱気装置、(2)溶離液を送液するポンプ、(3)試料溶液を流路に導入する試料溶液注入部、(4)分離カラム、(5)カラム温度を一定温度にするカラムオーブン、(6)検出器、(7)データ処理を行うとともに場合によっては構成機器を制御するパーソナルコンピューターからなり、溶離液は脱気装置、ポンプ、注入部、カラム、検出器の順に流れて装置外に排出される。
高温GPCに使用できる装置とは、試料溶液が流れる注入部、カラム、検出器、装置外への排出配管が80℃以上で溶離液の沸点以下の任意の温度に加熱することのできるGPC装置である。
【0004】
しかしながら、この高温GPCで測定した場合には、常温でGPC測定した場合に比べてベースラインが安定せず、ノイズの多いクロマトグラムとなるケースが多々あった。
ここで、GPCクロマトグラムの溶離液のみが溶出している際の検出量は同じであるから、溶出時間と検出量は一次相関式で表すことができ、クロマトグラムのノイズは溶離液のみが溶出している検出量が溶出時間と検出量との一次相関式より外れた部分であって、ノイズ周期は0.01分以上、分析時間の3倍以内のものを言う。
【0005】
一般に、GPC分析おいてクロマトグラムのノイズを低減させて分析精度を高める方法として、装置の温度制御が行なわれている。
例えば、試料調整を行う実験室とGPCを設置する実験室を個別にすることで、互いの影響を最小限にする方法が知られている。しかし、この方法では、分析時の作業性が悪くなると共に、GPCの台数が多くなると装置の換気量も多くなって室温の変動を引起こすものである。
【0006】
また、高精度高排気量のエアコンを用いる方法や、実験室に高精度な空調設備を設置するとともに実験室で排気した量の外気を取込む際に空調設備を用いて温度制御した空気を供給する方法も知られているが、これらの方法では空調設備に非常に高額の費用を要する問題がある。
【0007】
GPC装置をシート等で囲って、その中に一定温度の空気を供給してシートで覆った中を一定温度にする方法も知られている。しかしこの方法では日常の分析時や装置メンテナンス時の作業性を著しく低下する上、分析する際にGPC装置に分析試料溶液をセットするために覆いを開ける必要があるが、その度にシート内の温度が変わってGPC検出器の検出量を乱す要因となり、覆いを閉めてシート内の温度が一定化してGPC検出器の検出量が安定するのに時間を要するものであった。
【0008】
【非特許文献1】精密空調機・クリーン機器総合カタログ(株式会社アピステ社、2005年12月発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高温GPCでは、上記の方法を用いてもベースラインが安定せず、ノイズの多いクロマトグラムとなるケースが多く、発生したノイズはGPCによる平均分子量と分子量分布の分析精度を著しく低下させるものであった。
このような実状において、高温GPC分析において安価に分析精度を向上させるとともに日常の分析操作や装置メンテナンス時の操作性を維持することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
結晶性ポリオレフィンのGPC分析では高温GPCが利用される。その場合の溶離液としてはo−ジクロロベンゼン(ODCB)や1,2,4−トリクロロベンゼン等が用いられ、カラム等の試料溶液が流れる流路は135〜175℃に加熱される。
【0011】
既存の高温GPCは、装置内に80℃以上であり溶離液の沸点以下の温度に加熱された流路、特にカラムオーブンや検出器は容積も大きく大きな熱容量を持っており、室温である装置外枠と、高温である前記カラムオーブン等との間に配設されている電子回路部は大きな熱勾配または熱分布が不均一な空間に置かれている。カラムオーブン等の加熱部分は保温材により保温されているものの、電子回路部への放熱量は無視できない。
電子回路部の温度上昇を防ぐために、装置外枠に通気孔、排気ファン等が設けられている。それでも、電子回路部の温度は揺らいでおり、電子回路の電気特性に悪影響を与える状況にある。
【0012】
また、GPCは有機溶剤を溶離液に用いることから試料を溶剤に溶解する等の試料調整操作は換気設備が整った実験室で行われるとともに、GPC装置の試料溶液注入部であるオートサンプラー等で発生する溶離液蒸気は換気設備により排出するようになっている。これらの換気設備は室温の安定性を悪化させてGPCの電子回路部の空間温度の揺らぎを大きくしている可能性がある。
【0013】
本発明者は、このような電子回路部、特に電子回路部にある検出用受光素子部における温度の揺らぎが検出量の変動を引起しクロマトグラムのノイズにつながっているのではないかと考え鋭意検討した結果、本発明が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[1]GPC装置により高温GPC分析を行なう際に、検出用受光素子部を有する電子回路部が設けられた筐体内に温度の振れが±0.5℃以下の気体を1.5〜4.5m3/分で供給することを特徴とする分析方法。
[2]カラムオーブン及び検出用受光素子部を有する電子回路部が同一筐体内に設けられたGPC装置を用いる前記1に記載の分析方法。
[3]カラムオーブンの温度を80℃以上で溶離液の沸点以下の温度にして分析する前記2に記載の分析方法。
[4]ポリオレフィンの平均分子量と分子量分布を分析する前記1〜3のいずれかに記載の分析方法。
[5]温度の振れが±0.25℃以下の気体を用いる前記1〜4のいずれかに記載の分析方法。
[6]気体が空気である前記1〜5のいずれかに記載の分析方法。
[7]カラムオーブン及び検出用受光素子部を有する電子回路部が同一筐体内に設けられたGPC装置により高温GPC分析を行なう際に、前記筐体内に温度の振れが±0.5℃以下の気体を1.5〜4.5m3/分で供給することによりGPC分析の検出器のノイズを低減する方法。
[8]試料溶液注入部、分離カラム、カラム温度を一定温度にするカラムオーブン、検出器及び検出用受光素子部を有する電子回路部を有するGPC装置であって、カラムオーブン及び検出用受光素子部を有する電子回路部が同一筐体内に設けられ、温度の振れが±0.5℃以下の気体を該筐体内に1.5〜4.5m3/分で供給することのできる気体供給手段を備えてなること特徴とするGPC装置。
[9]筐体の吸排気口のいずれか一方に前記気体供給手段を接続してなる前記7に記載のGPC装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の分析方法によれば、高温GPCを日常分析の操作性や装置メンテナンス時の操作性を維持しつつ、安価にノイズの少ないGPCクロマトグラムを得ることができ、より高精度のGPC分析を簡便に行うことができる。
また、一般的なGPC装置に簡単な改変を加えるだけで、本発明の分析方法を実施できるGPC装置とすることができ、利用価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の分析方法において使用するGPC装置は、一般的なものが特に制限なく使用でき、その構成は背景技術の欄に記載したとおりであるが、特にカラムオーブン及び検出用受光素子部を有する電子回路部が同一筐体内に配設されたGPC装置が望ましい。
このような装置を用いて高温GPC分析を行う際に、GPC装置筐体内に温度の振れが±0.5℃以下の気体を1.5〜4.5m3/分で供給する。
温度の振れの小さな気体を筐体内に供給することにより、温度に対してノイズを拾いやすい検出用受光素子の温度変化を抑えることができる。特に高温GPCでは、通常カラムオーブンが150℃付近にまで加熱されることから、同一筐体内にある電子回路部中の検出用受光素子は大きな温度影響を受けることとなり、より多くのノイズを拾うこととなるが、温度の振れの小さな気体を筐体内に供給することで、カラムオーブン等からの温度の影響をほとんど無くすことが可能となり、その結果としてノイズの少ないクロマトグラムを得ることが可能となる。
【0017】
筐体内への気体の供給は、GPC装置の筐体に気体供給用の穴を開け気体供給装置を接続することにより行うことができるが、通常のGPC装置には、排熱処理用の吸排気口が設けられているため、そのいずれかに気体供給装置を接続すれば簡便である。
気体供給装置は、温度の振れを所定範囲に抑えた気体を所定量供給することのできるものであれば特に制限されず、例えば、精密スポットクーラー(株式会社アピステ製)を利用することができる。
【0018】
気体は、検出用受光素子の温度雰囲気に振れを生じさせないための、温度の振れと量を供給する必要がある
気体の温度の振れとしては±0.5℃以下が望ましく、さらに好ましくは±0.25℃以下である。供給量は通常1.5〜4.5m3/分、好ましくは1.5〜3.0m3/分で供給する。温度の振れまたは供給量がこれら範囲外であると、検出用受光素子の温度雰囲気にも振れが出てくることとなり、ノイズを拾いやすくなる。
気体の温度は特に制限はなく、用いる気体供給装置の機能も考慮し、20〜35℃の範囲内で適宜選択すればよい。
【0019】
気体の種類は特に制限されず、経済性を考慮すれば空気が好ましい。なお、気体の湿度も振れが大きいことは望ましくなく、0〜40%の範囲にあることが好ましい。
【0020】
本発明の分析方法が適用できる試料に特に制限はなく、GPCで分析されるものであれば同様に本発明の方法が適用できる。平均分子量や分子量分布を分析する場合のポリマーの代表例としてはポリオレフィンが挙げられ、例えば、エチレンまたはα−オレフィンの単独重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレンとα−オレフィン及び/または共役ジェンや非共役ジェン等の多不飽和化合物との共重合体が挙げられる。
【0021】
α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチル−1−ペンテン、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1等が挙げられる。
【0022】
多不飽和化合物としては、例えばジビニルベンゼン、ノルボルナジエン、シクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、ビニルノルボルネン、ビニルシクロヘキセン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。好ましくはノルボルナジエン、シクロペンタジエンである。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチル−ペンテン−1等の単独重合が挙げられる。
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−デセン−1共重合体等が挙げられる。
プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−4−メチルペンテン−1共重合体等が挙げられる。
エチレン−プロピレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキセン−1共重合体等が挙げられる。
【0024】
エチレンとα−オレフィン及び/または共役ジエンや非共役ジエン等の多不飽和化合物との共重合体としては、エチレン−プロピレン−ジビニルベンセン共重合体、エチレン−プロピレン−ノルボルナジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジェン共重合体等が挙げられる。
【0025】
本発明は、常温の溶離剤に溶解しないあるいは溶解しにくいポリマーの分析に適している。常温の溶離剤に溶解しないあるいは溶解しにくいポリマーとしては、結晶性ポリオレフィンを挙げることができる。ここで結晶性ポリオレフィンとは、60℃のODCBへの溶解成分量が140℃のODCBへの溶解成分量に対して95質量%以下であるポリオレフィンである。
【0026】
結晶性ポリオレフィン等のGPC分析において、カラムオーブン温度としては、試料が溶離液に溶解する温度以上で適宜設定すればよい。高温GPCとする場合、通常であれば80℃以上で溶離液の沸点以下、より具体的には135〜175℃の範囲で設定される。
【0027】
ポリスチレン(Standard Reference Material-706(National Institute of Standards & Technology)のGPC分析結果例(GPCクロマトグラム)を図6に示す。GPCのクロマトグラムは
(1) 試料溶液注入後にカラム等の流路の溶離液のみが溶出する部分(注入直後からB点)、
(2) 注入した試料溶液中の試料がカラムによって分離されて溶出する試料ピーク部分(図6のB点からC点)、
(3) 注入溶液作製に用いた溶離液中の微量の不純物や高分子試料の劣化を防ぐために溶離液に添加した安定剤等が溶出する溶媒ピーク部分(図6のC点からD点)、
(4) 注入した試料溶液が全て溶出して溶離液のみが溶出する部分(図6のD点以降)
からなる。
A〜D点は特定の溶出時間ではなく、クロマトグラムの大まかな区分点であり、各部分の時間は分析に使用した装置、カラム、溶離液の流量等により定まる。
【0028】
GPCのクロマトグラムにおいて、試料注入後から試料ピーク溶出前までの溶出時間帯における検出量は溶離液によるものであるから、試料注入後から試料ピーク溶出前までの溶出時間では検出量は同等であることが望ましい。あるいは試料注入後から試料ピーク溶出前までの溶出時間帯では試料の溶出がないことから試料濃度がゼロとしての検出量であるべきである。
【0029】
また、(1) 試料注入後の検出量または図6のA点、(2) 試料ピーク溶出前の検出量(図6のB点)、及び(3) 注入した試料溶液が全て溶出した後の検出量(図6のD点)は、溶離液のみが溶出していることから検出量は同じであるべきである。なお、C点の検出量もABD点の検出量と同じが望ましいが、C点付近は分析に用いたGPCカラムの分離特性や試料の低分子量成分量によりABD点の検出量とはズレが生じる場合がある。
【0030】
試料ピークにおける各溶出時間における試料濃度または試料濃度分率の算出は、図6のB点付近の立上がり点とC点付近で検出量がフラットになった点、またはB点付近の立上がり点とD点付近のフラットな点を結んだ直線を試料濃度ゼロとする検出量として実測の検出量との差より計算される。B点とD点を結んだ直線を用いる場合は試料の最も低分子量成分と認識されるC点付近以前までを試料ピークとする。
【0031】
これは試料ピーク部分での試料濃度ゼロの検出量は同等、または溶出時間と一次相関を持つことを前提としている。この前提は、試料濃度ゼロの試料ピーク前の溶離液が溶出する部分(注入直後または図6のA点からB点)の検出量で確認することができる。
このことから、試料濃度ゼロの試料ピーク前の溶離液が溶出する部分(注入直後または図6のA点からB点)の検出量の変動は試料濃度または試料濃度分率の算出の妥当性を示す指標と言える。
【0032】
したがって、クロマトグラムのノイズは試料濃度ゼロの試料ピーク前の溶離液が溶出する部分の最大検出量と最小検出量の差から定量的に判断することができる。具体的には、クロマトグラムにおけるノイズ量は下記式のノイズ比として評価が可能である。
ノイズ比(%)=〔(ノイズ)/(ピーク高さ)〕×100 ・・・(1)
ノイズ:注入直後または図6のA点からB点における最大検出量と最小検出量の差
ピーク高さ:試料ピーク(最大ピーク)の検出量とその垂直線が図6のBC点を結んだ直線と交差した検出量の差。
【0033】
本発明の分析方法によれば、高温GPCにおいても上記ノイズ比を4%以下、さらには3%以下に抑えることができる。
【0034】
以上のとおり、本発明を具体的に説明したが、本発明は上記の具体的な例示に限定されるものではなく、必要に応じて、適宜、種々の変更を行って実施することができる。
【実施例】
【0035】
実施例及び比較例は下記の分析条件でポリエチレンのGPC分析を行った。
・GPC装置:HLC−8121GPC/HT(東ソー株式会社製)
・溶媒脱気装置:SD−8022(東ソー株式会社製)
・分析カラム:TSKgelGMH6−HT カラム長=30cm 3本
・カラムオーブン温度:140℃、送液ポンプヘッド温度:40℃
・流量:1ml/min.
・溶離液:o−ジクロロベンゼン(和光純薬株式会社製、特級、安定剤(BHT)0.1%添加)
・試料:ポリエチレン Standard Reference Material-1475a(National Institute of Standards & Technology、以下、NIST1475と略す)
・試料溶液濃度:10mg/10ml
・試料溶解条件:140℃で2Hr加熱溶解した。
【0036】
比較例
図1及び2にGPC装置の概略図を示す。GPC装置1は本体及びオートサンプラー4からなり、本体筐体内には、カラム及び検出器フローセルが内蔵されたカラムオーブン2、プレオーブン3、ポンプ部5及び検出用受光素子部を有する電子回路部6が配設され、背面には換気ファン7が設けられている。
この装置によりNIST1475のGPC分析を6回繰返し行ない、得られたクロマトグラムを図3に示した(個々のクロマトグラムを分り易くするためにクロマトグラムを検出量方向にシフトして作図した)。得られたクロマトグラムは溶出時間19〜28分間に試料ピークは認められるものの、試料ピーク前の溶出時間での検出量の変化が大きいものであった。
【0037】
実施例
図4に示すように、比較例で用いた図1のGPC装置の本体背面の換気ファン7を取り外して、そこに下記の精密スポットクーラー8を接続し、下記の一定温度の空気を供給しながら分析を行なった。
・精密スポットクーラー:PUA−A800S(株式会社アピステ製)
・常温空気供給量:1.7m3/分
・供給空気温度:22℃±0.2℃、
PAU−A800Sの温度センサーを高感度タイプとするとともに温度制御法を調整して温度の振れを±0.2℃以下とした。
その他の分析条件は、比較例と同一条件でNIST1475のGPC分析を行った。
【0038】
この装置によりNIST1475のGPC分析を6回繰返し行ない、得られたクロマトグラムを図5に示した(個々のクロマトグラムを分り易くするためにクロマトグラムを検出量方向にシフトして作図した)。得られたクロマトグラムは溶出時間19〜28分間に試料ピークが明確に認められ、試料ピーク前の溶出時間での検出量の変化が少ないものであった。溶媒ピークの形状が比較例とは異なるが実施例と比較例に用いた溶離液のロットの相違により溶離液中の不純物が異なったことによるものである。
【0039】
実施例及び比較例で得たクロマトグラムのノイズ比を下記の方法で求めた。
ノイズ比(%)=〔(ノイズ)/(ピーク高さ)〕×100 ・・・(1)
ノイズ:図3及び図5の溶出時間3から18分における最大検出量と最小検出量の差
ピーク高さ:図3及び図5のピーク最大検出量とその垂直線が溶出時間19分付近のピーク起点と溶出時間29分付近のピーク終点を結んだ直線と交差した検出量の差
【表1】

ノイズ比の結果より、実施例は比較例に比べてノイズが少なく、安定したクロマトグラムが得られていることが分かる。すなわち、本発明によれば、高温GPC分析で得られるクロマトグラムのノイズを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例及び比較例で用いたGPC装置の概略図。
【図2】図1のGPC装置の平面概略図。
【図3】比較例の高温GPC分析により得られたクロマトグラム。
【図4】図1のGPC装置の装置背面換気ファン部に精密スポットクーラーを接続した平面概略図。
【図5】実施例の高温GPC分析により得られたクロマトグラム。
【図6】GPCクロマトグラムの一例。
【符号の説明】
【0041】
1:GPC装置、
2:カラム及び検出器フローセルが内蔵されたカラムオーブン、
3:プレオーブン、
4:オートサンプラー、
5:ポンプ部、
6:検出用受光素子部を有する電子回路部、
7:背面換気ファン、
8:精密スポットクーラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPC装置により高温GPC分析を行なう際に、検出用受光素子部を有する電子回路部が設けられた筐体内に温度の振れが±0.5℃以下の気体を1.5〜4.5m3/分で供給することを特徴とする分析方法。
【請求項2】
カラムオーブン及び検出用受光素子部を有する電子回路部が同一筐体内に設けられたGPC装置を用いる請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
カラムオーブンの温度を80℃以上で溶離液の沸点以下の温度にして分析する請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
ポリオレフィンの平均分子量と分子量分布を分析する請求項1〜3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
温度の振れが±0.25℃以下の気体を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項6】
気体が空気である請求項1〜5のいずれかに記載の分析方法。
【請求項7】
カラムオーブン及び検出用受光素子部を有する電子回路部が同一筐体内に設けられたGPC装置により高温GPC分析を行なう際に、前記筐体内に温度の振れが±0.5℃以下の気体を1.5〜4.5m3/分で供給することによりGPC分析の検出器のノイズを低減する方法。
【請求項8】
試料溶液注入部、分離カラム、カラム温度を一定温度にするカラムオーブン、検出器及び検出用受光素子部を有する電子回路部を有するGPC装置であって、カラムオーブン及び検出用受光素子部を有する電子回路部が同一筐体内に設けられ、温度の振れが±0.5℃以下の気体を該筐体内に1.5〜4.5m3/分で供給することのできる気体供給手段を備えてなること特徴とするGPC装置。
【請求項9】
筐体の吸排気口のいずれか一方に前記気体供給手段を接続してなる請求項7に記載のGPC装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−91474(P2010−91474A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263006(P2008−263006)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)