説明

GPS装置

【課題】 マルチパスのある環境でも高精度のGPS測位を行うことが出来るGPS装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 この発明のGPS装置は、測位情報が重畳された電波を左旋偏波で送信するGPS衛星からの電波を受信して測位を行うものであって、左旋偏波及び右旋偏波を受信する第1のアンテナと、この第1のアンテナから所定の距離だけ離れた位置に設けられた左旋偏波及び右旋偏波を受信する第2のアンテナと、前記第1のアンテナが受信した左旋偏波及び右旋偏波の出力値と第2のアンテナが受信した左旋偏波及び右旋偏波の出力値とを比較することによりマルチパスの影響が少ないと判断された前記第1又は第2のいずれかのアンテナの左旋偏波の出力を選択する選択手段と、この選択手段により選択された左旋偏波の出力信号を用いて測位処理を行う処理手段とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS測位に関する技術、特に、マルチパスのある環境下でも高精度のGPS測位を行うことができるGPS装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のGPS装置では、GPS衛星が見通すことが可能な開けた場所では精度の高い測位が可能であるが、例えば街中などのように周囲が高い建築物に囲まれている場所ではマルチパス等に起因するフェージング現象の影響により、測位の精度が大幅に落ちてしまう。これを解決するために、例えば、特開平8−146117号では、2つの受信アンテナを所定の距離だけ離して設け、受信感度の良好な受信アンテナを選択的に用いることによりフェージングの影響を低減するダイバーシチ受信方式が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−146117号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、従来のダイバーシチ受信方式では、2つの受信アンテナの受信レベルに基づき、いずれかのアンテナを選択するというものであった。ところで、GPSシステムでは、GPS衛星からの送信電波は左旋の円偏波(以下「左旋波」という)である。この電波が建物等で反射すると、その偏波方向が反転し右旋の円偏波(以下「右旋波」という)となる。さらに、最初の反射で右旋波となった反射波が、再び建物等で反射されると(これを「再反射波」という)、その偏波方向が再び反転し元の左旋波にもどる。この再反射波は元の送信電波(「直接波」ともいう)と同じ左旋波であり、偏波方向だけでは直接波と再反射波とを識別できない。
【0005】
上記のような反射波や再反射波(まとめて「間接波」ともいう)は、直接波に対し、伝播遅延を有しており、GPS測位における誤差要因となる。従来のダイバーシチ受信方式では、偏波方向の識別までは行われておらず、反射特性まで考慮しマルチパス時の影響をより低減することに限界があった。
【0006】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたものであり、所望波である左旋波を検波するアンテナ素子と右旋波を検波するアンテナ素子とでペアのアンテナを構成し、このペアのアンテナを2組持つ構成とした。そして、常に左旋波が大きくかつ右旋波が小さい組のGPS信号を測位に利用することで、マルチパスのある環境でも高精度のGPS測位を行うことが出来るGPS装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明であるGPS装置は、測位情報が重畳された電波を左旋偏波で送信するGPS衛星からの電波を受信して測位を行うものであって、左旋偏波及び右旋偏波を受信する第1のアンテナと、この第1のアンテナから所定の距離だけ離れた位置に設けられた左旋偏波及び右旋偏波を受信する第2のアンテナと、前記第1のアンテナが受信した左旋偏波及び右旋偏波の出力値と第2のアンテナが受信した左旋偏波及び右旋偏波の出力値とを比較することによりマルチパスの影響が少ないと判断された前記第1又は第2のいずれかのアンテナの左旋偏波の出力を選択する選択手段と、この選択手段により選択された左旋偏波の出力信号を用いて測位処理を行う処理手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明のGPS装置によれば、ダイバーシチ受信方式において2組の各アンテナで左旋及び右旋の両円偏波を受信し、これら4つの円偏波の受信出力値の比較結果に基づき、間接波の影響の少ないアンテナを選択することにより、マルチパスの影響下でも高精度のGPS測位を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施例1.
図1に本発明のGPS装置のシステム構成図を示す。図において、1は第1のGPSモジュールである。このモジュール1は、GPS信号の所望波(左旋波)を受信する左旋波用アンテナ素子1a、このアンテナ素子1aが受信した信号を分析し情報(測位情報、SN比(信号対雑音比)等)を取り出すGPS信号処理部1b、及び、GPS信号の反射波(右旋波)を受信する右旋波用アンテナ素子1c、このアンテナ素子1cが受信した信号を分析し情報を取り出すGPS信号処理部1dから構成される。左旋波用アンテナ素子1aと右旋波用アンテナ素子1cをまとめて第1のアンテナという。
【0010】
2は第2のGPSモジュールである。このモジュール2も、モジュール1と同様に、左旋波用アンテナ素子2a、このアンテナ素子2aに続くGPS信号処理部2b、及び、右旋波用アンテナ素子2c、このアンテナ素子2cに続くGPS信号処理部1dから構成される。左旋波用アンテナ素子2aと右旋波用アンテナ素子2cをまとめて第2のアンテナという。3はGPSモジュール1,2の選択を行う選択処理部、4は選択処理部3により選択されたGPSモジュール1または2からの情報を上位のアプリケーション(例えばナビゲーションシステムなど)に必要な形式に選択・加工処理するプロセッサである。
【0011】
次に動作について説明する。まず、GPSモジュール1とGPSモジュール2は独立して測位を行う。また、本発明においても、GPSモジュール1とGPSモジュール2とを用いてダイバーシチ受信が行われる。従って、左旋波用アンテナ素子1aと2aの間の距離及び右旋波用アンテナ素子1cと2cの間の距離は、出来ればGPS受信電波の1/2波長程度離すのが望ましい。
【0012】
GPS信号処理部1b、1d、2b、2dでは、それぞれのアンテナ素子で受信されたGPS電波の信号レベルを検出する。選択処理部3では、各アンテナ素子で受信された電波の信号レベルを比較する。この比較に基づき、GPSモジュール1,2のいずれのモジュールを選択するかを判断する。図2は選択処理部3での判断基準の一例を示すものである。各アンテナ素子の受信レベルの大きさにより、図に示すように4つのケースが存在する。基本的な考え方は、所望波である左旋波の受信レベルが大きく、反射波である右旋波の受信レベルが小さいモジュールを選択するというものである。
【0013】
ケース2では、左旋波レベルは、モジュール1の左旋波用アンテナ素子1aの受信レベルがモジュール2の左旋波用アンテナ素子2aの受信レベルより大きい。これは、モジュール1の左旋波用アンテナ素子1aが、モジュール2の左旋波用アンテナ素子2aに比べ、GPS電波の直接波をよりよく受信していることを示している。
【0014】
一方、右旋波レベルは、モジュール1の右旋波用アンテナ素子1cの受信レベルがモジュール2の右旋波用アンテナ素子2cの受信レベルより大きい。これは、モジュール2の右旋波用アンテナ素子2cが、モジュール1の右旋波用アンテナ素子1cに比べ、GPS電波の間接波(反射波)の影響を大きく受けていることを示している。従って、直接波の受信状態が良好で、間接波の影響の少ないモジュール1を選択するのが望ましい。同様に、ケース3では、モジュール2を選択するのが望ましい。
【0015】
ここで問題となるのが、ケース1、4の場合のように、一方のGPSモジュール内の左旋波用アンテナ素子及び右旋波用アンテナ素子で受信される左旋波の受信レベル及び右旋波の受信レベルが、他方のGPSモジュールに内の左旋波用アンテナ素子及び右旋波用アンテナ素子で受信される左旋波の受信レベル及び右旋波の受信レベルに比べ、ともに大きくなってしまう場合である。この場合には、間接波の影響を考慮したさらに細部の判断基準が必要となる。
【0016】
一つの考え方として、左旋波の受信レベルと右旋波の受信レベルの差が大きく,かつ左旋波の受信レベルが大きい方のGPSモジュールを選択するというものである。「左旋波レベル−右旋波レベル」が大きい方のモジュールを選択するという基準は、間接波(右旋波)の影響が少ない方のモジュールを優先的に選択することを示したものである。図3はこの細部判断基準を示すものである。図に示すように4つの細部ケースが存在する。ケース1−1、1−2は、図2のケース1の場合をさらに細分化した細部判断基準である。ケース4−1、4−2は、図2のケース4の場合をさらに細分化した細部判断基準である。
【0017】
上記考え方に従うと、例えば、ケース1−1、1−2の場合には、いずれのケースも、左旋波の受信レベルは、モジュール1の左旋波用アンテナ素子1aの受信レベルがモジュール2の左旋波用アンテナ素子2aの受信レベルより大きい。「左旋波レベル−右旋波レベル」は、ケース1−1の場合には、モジュール1の方がモジュール2より大きい。一方、ケース1−2の場合には、モジュール2の方がモジュール1より大きい。このとき、細部判断基準では「左旋波レベル−右旋波レベル」の大きい方のモジュールを選択するようにしている。従って、ケース1−1の場合にはモジュール1が選択され、ケース1−2の場合にはモジュール2が選択される。同様に、ケース4−1では、モジュール1が選択され、ケース4−2では、モジュール2が選択される。
【0018】
上記の選択判断処理の後、選択処理部3は、選択されたGPSモジュールの左旋波用アンテナ素子により受信されGPS信号処理された結果をプロセッサ4に出力する。
【0019】
プロセッサ4では、選択処理部3により選択されたGPSモジュールの情報を上位のアプリケーション(例えば、ナビゲーションシステムなど)に必要な形式に選択・加工処理し、処理結果を渡すこととなる。
【0020】
なお、上記説明では、「左旋波レベル−右旋波レベル」を間接波の影響の大きさを判断する算式としたが、「左旋波レベル/右旋波レベル」のように左旋波レベルと右旋波レベルの比率を基準としても構わない。
【0021】
なお、上記説明では、本発明の基本的な原理を説明するために、GPS信号処理部は各アンテナ素子の出力にそれぞれ設け、受信信号を並行して処理する構成としたが、システムのコスト削減のために、GPS信号処理部は左旋波、右旋波で共用し、時分割で処理を行うということもありうる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施例によるGPS装置のシステムブロック図である。
【図2】この発明の実施例によるGPS装置における選択処理部の選択処理の説明図である。
【図3】この発明の実施例によるGPS装置における選択処理部の細部選択処理の説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 第1のGPSモジュール、 2 第2のGPSモジュール、 1a,2a 左旋波用アンテナ素子、 1c,2c 右旋波用アンテナ素子、 1b,1d,2b,2d GPS信号処理部、 3 選択処理部、 4 プロセッサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位情報が重畳された電波を左旋偏波で送信するGPS衛星からの電波を受信して測位を行うGPS装置において、左旋偏波及び右旋偏波を受信する第1のアンテナと、この第1のアンテナから所定の距離だけ離れた位置に設けられた左旋偏波及び右旋偏波を受信する第2のアンテナと、前記第1のアンテナが受信した左旋偏波及び右旋偏波の出力値と第2のアンテナが受信した左旋偏波及び右旋偏波の出力値とを比較することによりマルチパスの影響が少ないと判断された前記第1又は第2のいずれかのアンテナの左旋偏波の出力を選択する選択手段と、この選択手段により選択された左旋偏波の出力信号を用いて測位処理を行う処理手段とを備えたことを特徴とするGPS装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−127497(P2007−127497A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319807(P2005−319807)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】