説明

H.Pyloriによる感染に対する免疫化および処置

【課題】非粘膜投与を含むH.pyloriによる感染に対する防御または処置の方法を開発すること
【解決手段】本発明によって、一つ以上の、有効な量のH.pylori抗原の非粘膜投与を含むH.pyloriによる感染に対する防御または処置の方法が提供される。本出願は、H.pyloriに対するH.pylori抗原含有組成物が、非粘膜的に投与され得、そして依然としてH.pylori細菌が粘膜と結合するという事実にもかかわらず疾患からの有効な(全身的な)防御を生じるという知見に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、英国特許出願 GB 9809398.2(1998年4月30日出願)およびGB 9820976.0(1998年9月25日出願)(この出願は、参考としてその全体が本明細書において援用されている)に関連する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、H.pylori感染に対する防御または処置のための方法に関する。この方法は、1つ以上のH.pylori抗原の有効量の非粘膜投与を含む。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
H.pyloriは、Campylobacter jejuniを増殖させるために開発された微小好気性条件を用いて、B.MarshallおよびJ.Warrenにより1982年に単離された。H.pylori菌は、S字形状のグラム陰性棹菌で2〜3.5μmの長さでかつ0.5〜1μmの幅である(Blaser,M.J.およびJ.Parsonnet.1994.J.Clin.Invest.94:4〜8)。H.pyloriでの感染が世界で最も通常の感染であることは現在(つい最近になって)公知である。後進国では、人口の80%が20歳で細菌に感染しているが、先進国においては、H.pylori感染は年齢に応じて、30歳の人での20%未満から60歳の人での50%より大きくまで増加する(Axon,AT.1995.Pharmacol.Ther.9:585〜588;BlaserおよびParsonnet,1994)。この感染は、口−糞便経路または口−口経路のいずれかにより移される(BlaserおよびParsonnet,1994)。感染は、生後、初年に生じ、そして永続する。一旦樹立されれば、この感染は、慢性的であり、おそらく永続する。感染の危険性要因は、群がること、不衛生および宿主特異的な遺伝要因である。
【0004】
H.pyloriの完全なゲノム配列は、公表されている(Tomb,J.−F.ら、1997.Nature 388:539〜547)。この文献の簡略な概説およびH.pyloriの生物学の一般的概説は、Doolittle,R.F.1997.Nature 388:515〜516において見出され得る。
【0005】
H.pyloriによるヒト胃腸十二指腸粘膜の慢性感染は、しばしば、慢性胃腸炎、十二指腸潰瘍に関連し、そして腺癌および低級B細胞リンパ腫のような胃の悪性腫瘍の発現の危険性を上昇する(BlaserおよびParsonnet,1994;Parsonnet,Jら、1991.N.Engl.J.Med.325:1127〜1231;Parsonnet,J.ら、1994.N.Engl.J.Med.330:1267〜1271)。ほとんどの感染は、無症候性のままであるが、症候性の重篤な疾患は、H.pylori株のサブセット(I型と呼ばれる)による感染と疫学的に相関する(Blaser,M.J.ら、1995.Cancer Res.55:2111〜2115;Covacci Aら、1997.Trends Microbiol.5:205〜208;Covacci,A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:5791〜5795;Eck,Mら、1997.Gastroenterology.112:1482〜1486;Xiang,Zら、1995.Infect.Immun.63:94〜98)。株のこのサブセットは、インビトロおよびインビボにおいて胃の上皮細胞に対して細胞変性である、生物学的に活性な毒素(VacA)の発現(Ghiara,P.ら1995.Infect.Immun.63:4154〜4160;Harris,P.R.ら、1996.Infect.Immun.64:4867〜4871;Telford,J.L.ら、1994.J.Exp.Med.179:1653〜1658)、ならびにまた、胃の上皮細胞による好中球走化性サイトカインIL−8の合成の誘導(Censiniら、1996)に対して責任を追ういくつかの毒性因子をコードする遺伝子のセットを含む、cagと呼ばれる、病原性の島(PAI)の獲得(Censini,Sら、1996.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.93:14648〜14653)に起因して、増大した毒性を付与される。
【0006】
これまでに同定されたH.Pyloriの因子は、以下を含む:粘膜層をこえて移動するためにおそらく必要とされる鞭毛(例えば、Leyingら、1992.Mol.Microbiol.6:2863〜2874を参照のこと);胃の酸性環境を中和するため、そして初期コロニー化を可能にするために必要とするウレアーゼ(例えば、Cussacら、1992.J.Bacteriol.174:2466〜2473,Perez−Perezら、1992.J.Infect.Immun.60:3658〜3663,Austin,ら、1992.J.Bacteriol.174:7470〜7473,WO90/04030を参照のこと);H.Pylori細胞毒素(それが空胞形成を生じる場合、時にVacAといわれる)(例えば、WO93/18150,Telford,J.L.ら、1994.J.Exp.Med.179:1653〜1658、Coverら、1992.J.Bio.Chem.267:10570〜10575,Coverら、1992.J.Clin.Invest.90:913〜918,Leunk,1991.Rev.Infect.Dis.13:5686〜5689を参照のこと);H.Pyloriの熱ショックタンパク質(hsp)(例えば、WO93/18150,Evansら、1992.Infect.Immun.60:2125〜2127,Dunnら、1992.Infect.Immun.60:1946〜1951,Austinら、1992、を参照のこと);ならびに細胞毒素関連タンパク質であるCagA(例えば、WO 93/18150,Covacci,Aら、1993.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5791〜5795,Tummuru,M.K.ら、1994.Infect.Immun.61:1799〜1809を参照のこと)。
【0007】
現在、H.pylori株は、少なくとも2つの主要な群に分割され得る。これは、細胞毒素(VacA)およびCagAタンパク質を発現する(I型)か、または発現しない(II型)のいずれかである。I型株は、CagAおよび毒素遺伝子を含み、そしてこれらの抗原の活性な形態を産生する。II型株は、CagA遺伝子座を欠失し、そして細胞毒素を発現し得ない。CagA遺伝子の存在と細胞毒性との間の関係は、CagA遺伝子の産生が細胞毒素の転写、折り畳み、輸送または機能に必要であることを示唆する。疫学的分析は、I型細菌が十二指腸の潰瘍形成、胃潰瘍および活性な胃炎の重篤な形態に関連することを示す。
【0008】
消化性潰瘍におけるH.pyloriの病原的な役割の一般的概説については、Telford,J.L.ら(1994)TIBTECH 12:420〜426を参照のこと。
【0009】
H.pylori培養上清は、120kDa、128kDaまたは130kDaの分子量を有する抗原を含むことが種々の著者らにより示されている(Apelら、1988.Zentralblat fuer Bakteriol.Microb.Und Hygiene 268:271〜276;Crabtreeら、1992.J.Clin.Pathol.45:733〜734;Coverら、1990.Infect.Immun.58:603〜610;Figuraら、1990.「H.pylori,gastritis and peptic ulcer」(Malfrtheinerら編)Springer Verlag,Berlin)。記載された抗原のサイズの違いが、同じタンパク質の分子量を評価することにおける実験の間の差、同じ抗原のサイズ可変性、または実際の異なるタンパク質に起因するか否かは、明確ではなかった。このタンパク質は、感染したヒトにおいて非常に免疫原性である。なぜなら、特異的な抗体が、H.pyloriに感染した事実上すべての患者の血清において検出されるからである(Gersteneckerら、1992、Eur.J.Clin.Microbiol.11:595〜601)。
【0010】
I型株およびII型株の両方において見出される、NAP(好中球活性化タンパク質−Evans D.J.ら1995.Gene 153:123〜127;WO 96/01272およびWO 96/01273、特に配列番号6;WO 97/25429も参照のこと)として公知のタンパク質は、H.pyloriマウスモデルにおいて試験された場合、防御的であるようである(Marchetti、Mら、1995.Science.267:1655〜1658)。NAPは、15kDaサブユニットのホモ十量体であり、そして多量体の複合体が六方晶系の準結晶構造を自然に形成する環状構造を有することが提唱されている。アセンブルされたタンパク質は、ヒト好中球のスフィンゴ糖脂質レセプターと相互作用するようである。
【0011】
他の多数のH.pylori抗原が、WO 98/04702に記載されている。これには、ウレアーゼB(配列番号4)、HopX(配列番号21)、HopY(配列番号21)、36kDa(配列番号26)、42kDa(配列番号25)、および17kDa(配列番号27)が挙げられる。ウレアーゼはまた、例えば、EP−B−0367644(ウレアーゼ活性を有するタンパク質)、EP−A−0610322(ウレアーゼE、F、G、HおよびI)、EP−A−0625053(ウレアーゼタンパク質)およびEP−A−0831892(ウレアーゼのマルチマー性形態)に記載される。他のH.pylori抗原としては、EP−A−0793676に記載される、54kDa(配列番号2)タンパク質、および50kDa(配列番号1)タンパク質が挙げられる。
【0012】
H.pyloriの種々の毒性因子の考察は、例えば、EP−A−93905285.8およびEP−A−96908300.5に見出され得る。
【0013】
H.pyloriによる胃の粘膜のコロニー形成は、今日、ヒトにおける急性および慢性の胃十二指腸病理学の主要な原因として認識されている(BlaserおよびParsonnet,1994;Covacciら、1997)。病気の感染状態の認識は、抗H2ブロッカーによる症状の処置から抗菌性レジメによる細菌感染の根絶へと変化している、疾患の処置において主要な影響を有している。
【0014】
抗生物質処置で達成される疑う余地のない成功にもかかわらず、このような処置が、長期間の場合、抗生物質を無効とする耐性株の発生を必然的に導くということは記憶されるべきである。これは、分類的に、大集団において感染性疾患を予防および制御するのに最も有効な手段であるワクチン接種が、感染の予防に、および可能性としては疾患の処置にも用いられ得ることを示唆する。
【0015】
広範な種々の胃病理学の誘導におけるH.pyloriの重要性の増大は、効果的な予防的ストラテジーおよび/または治療的ストラテジーの開発のための主要なチャレンジを示している。細菌と宿主との間の相互作用をよりよく理解するために、多くの努力が天然のヒトの感染の局面を再現する適切な動物感染モデルの開発に対して集中している。
【0016】
感染および疾患のいくつかの動物モデルが、感染の病原因子、ならびに予防的ストラテジーおよび治療的ストラテジーの開発を研究する目的で開発されている。これらのモデルの多くは非常に非実際的である。なぜなら、サル(Dubois,Aら、1994.Gastroenterology.106:1405〜1417)または純粋隔離(すなわち、無菌)条件下で保持される種、例えば、無菌のイヌまたは仔ブタ(Krakowka,Sら、1987.Infect.Immun.55:2789〜2796;Radin,M.J.ら、1990.Infect.Immun.58:2606〜2612)を使用するからである。純粋隔離仔ブタのコロニー化(Krakowkaら、1987)は、胃十二指腸疾患を有する患者から単離されたH.pylori株を用いて報告されている。しかし、仔ブタは、主にその栄養要求に起因して、2ケ月をこえて無菌条件下で保持され得ない(Radinら、1990)。
【0017】
特定の病原体なしの(SPF)ネコの成功裏の感染は、従来のネコから単離された株を用いて記載された(Fox,J.G.ら、1995.Infection and Immunity.63:2674〜2681;Handt,L.K.ら、1995.J.Clin.Microbiol.33:2280〜2289)。純粋隔離のビーグル仔イヌがまた、ヒトH.pylori単離体で感染され、そして30日間、無菌条件下で保持された。しかし、このモデルにおいて、H.pyloriでの長期感染に対して利用可能なデータはない(Radinら、1990)。他の実験動物モデルとしては、無胸腺のnu/nuマウスまたは無菌マウスが挙げられる(Karita,Mら、1991.Am.J.Gastroenterol.86:1596〜1603)。
【0018】
しかし、これらの実験的感染の主な欠点は、洗練されかつ高価な収納系が必要とされ、そしてより重要なことには、純粋隔離宿主または免疫欠損宿主の特有の免疫学的状態が使用されることである。より近年では、ヒトの胃十二指腸の生検から新鮮に単離されたH.pyloriは、生体異物のマウスの胃粘膜を永続的にコロニー化するのに適合されている(Marchettiら、1995)。このモデルは、防御的ワクチン接種(Manetti、Rら、1997.Infect.Immun.65:4615〜4619;Marchettiら、1995;Marchetti,Mら、1998.Vaccine 16:33〜37;Radcliff,F.J.,ら、1997.Infect.Immun.65:4668〜4674)か、または治療的ワクチン接種(Ghiara,Pら、1997.Infect.Immun.65:4996〜5002)のいずれかの可能性を評価するために、ならびに抗−H.pyloriの抗菌剤のインビボのスクリーニング(Lee,Aら、1997.Gastroenterol.112:1386〜1397)のため、および感染の病原を研究(Sakagami,Tら、1996.Gut.39:639〜648)するために、特に有用であることが証明されている。しかし、胃の感染を評価するため、マウスは屠殺されなければならない;従って、慢性感染により誘導された病原学的変化および/または治療的レジメもしくは免疫化レジメの効果は、同じ個体動物において追跡され得る。
【0019】
英国特許出願GB 9801000.2(1998年1月16日出願)および関連の国際特許出願 PCT/IB99/00217(1999年1月15日出願)において、ヒトにおけるH.pyloriでの感染の急性期に明白に関連した症状を再現し得る動物モデルが最初に記載されている(Marshall,B.J.ら、1985.Med.J.Australia.142:436〜439;Mitchell,J.D.ら、1992.Am.J.Gastroenterol.87:382〜386;Morris,A.,およびG.Nicholson.1987.Am.J.Gastroenterol.82:192〜199;Sobala,G.M.ら、1991.Gut 32:1415〜1418)。GB9801000.2およびPCT/IB99/00217に記載された発明は、H.pyloriが従来の生体異物イヌの胃粘膜に永続的にコロニー化し得るという発見、およびこのコロニー化が急性症状、組織病理学的な病変を生じ、そして特定の免疫応答を誘発するという発見に基づく。従って、GB9801000.2およびPCT/IB99/00217に提供された動物モデルは、H.pylori感染の処置の有効性を研究するために理想的である。
【0020】
H.pyloriは、細菌が周囲の宿主細胞には侵入しない、粘膜に関した感染なので、疾患に対するワクチンまたは処置を開発する試みは粘膜投与に、特に胃腸管への経口投与に集中していた。
【0021】
従って、H.pyloriの感染部位で局所(粘膜)処置が必要であると以前には考えられていたため、この領域における研究の趣旨は、予防剤/治療剤の粘膜投与による粘膜対応型の抗H.pylori抗体を開発することであった(例えば、以下を参照のこと:Chen,Mら、1992.Lancet 339:1120〜1121;Ferrero.R.L.ら1994.Infect.Immun.62:4981〜4989;Michetti,Pら、1994.Gastroenterology 107:1002〜1011;Lee,Aら、1994.Infect.Immun.62:3594〜3597;Doidge,Cら、1994.Lancet 343:974〜979;Marchettiら、1995.;Lee,C.K.ら、1995.J.Infect.Dis.172:161〜172;Corthesy−Theulaz,Iら、1995.Gastroenterology 109:115〜121;Cuenca,R.ら,1996.Gastroenterology 110:1770〜1775;Radcliff,F.J.ら1996.Vaccine 14:780〜784;Stadtlander,C.T.K.H.ら1996.Dig.Dis.Sci.41:1853〜1862;Ferrero,R.L.ら、1997.Gastroenterology 113:185〜194;Weltzin,R,ら、1997.Vaccine 15:370〜376;Radcliffら、1997;Ghiaraら、1997;Marchettiら、1998)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかし、本発明において、感染性H.pyloriでのチャレンジに対する全身的な防御効果が、非粘膜的に投与されたH.pylori抗原含有組成物を用いて予想外に達成され得ることが示されている。特に、例えば、全H.pylori細胞溶解物での筋肉内(i.m.)免疫化が感染性H.pyloriでのチャレンジに対してイヌを防御し得ること、および非粘膜経路の例としてのこのi.m.経路が、予想外に、この細菌に対するワクチン接種であると考えられ得ることが示されている。このような方法はまた、すでに樹立されたH.pylori感染の処置において治療上有用であり得る。
【0023】
本出願において言及されるすべての文献(特許、特許出願、研究論文および書籍を含む)は、参考としてその全体が本明細書に援用される。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する。
(項目1) 一つ以上の、有効な量のH.pylori抗原の非粘膜投与を含むH.pyloriによる感染に対する防御または処置の方法。
(項目2) 前記投与が、非経口である、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記投与が、筋肉内投与、経皮(transdermal)投与または経皮(transcutaneous)投与である、項目2に記載の方法。
(項目4) 前記1つ以上の抗原が別々にまたは組み合わせて、動物において防御的免疫応答を惹起する、項目1〜3のいずれか1項に記載の方法。
(項目5) 前記動物が哺乳動物、好ましくはヒトである、項目4に記載の方法。
(項目6) 前記抗原の少なくとも1つがH.pyloriの毒性因子である、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
(項目7) 前記H.pyloriの毒性因子がVacA、CagA、NAPまたはウレアーゼである、項目6に記載の方法。
(項目8) 前記1つ以上の抗原が精製された抗原または細胞全体の免疫原である、項目1〜7のいずれか1項に記載の方法。
(項目9) 前記細胞全体の免疫原がH.pyloriの細胞からの抽出により、好ましくは、H.pylori細胞の溶解または超音波により、調製される、項目8に記載の方法。
(項目10) 前記細胞全体の免疫原が不活化されたH.pylori細胞であるかまたは不活化されたH.pylori細胞を含む、項目8または9に記載の方法。
(項目11) アジュバントが1つ以上のH.pylori抗原と同時投与される、項目1〜10のいずれか1項に記載の方法。
(項目12) 前記アジュバントが水酸化アルミニウムまたはMF59TMである、項目11に記載の方法。
(項目13) 前記1つ以上の抗原が、1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤と結合している、項目1〜12のいずれか1項に記載の方法。
(項目14) H.pyloriによる感染に対する防御または処置のための非粘膜投与のための医薬の製造における、1つ以上の、有効量のH.pylori抗原の使用。
(項目15) 1つ以上のH.pylori抗原および1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤を含む、非粘膜投与のための薬学的組成物。
(項目16) 前記1つ以上の抗原が別々にまたは組み合わせて、動物において防御的免疫応答を惹起する、項目15に記載の薬学的組成物。
(項目17) 前記動物が哺乳動物、好ましくはヒトである、項目16に記載の薬学的組成物。
(項目18) 少なくとも1つの前記抗原がH.pyloriの毒性因子である項目15〜17のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
(項目19) 前記H.pyloriの毒性因子がVacA、CagA、NAPまたはウレアーゼである、項目18に記載の薬学的組成物。
(項目20) VacA、CagAおよびNAPの前記毒性因子を少なくとも含む、項目19に記載の薬学的組成物。
(項目21) CagAおよびNAPの前記毒性因子を少なくとも含む、項目19または項目20に記載の薬学的組成物。
(項目22) 前記1つ以上の抗原が精製された抗原または細胞全体の免疫原である、項目15〜21のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
(項目23) 前記細胞全体の免疫原がH.pyloriの細胞からの抽出により、好ましくは、H.pylori細胞の溶解または超音波により、調製される、項目22に記載の薬学的組成物。
(項目24) 前記細胞全体の免疫原が不活化されたH.pylori細胞であるかまたは不活化されたH.pylori細胞を含む、項目22または23に記載の薬学的組成物。
(項目25) アジュバントをさらに含む項目15〜24のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
(項目26) 前記アジュバントが水酸化アルミニウムである、項目25に記載の薬学的組成物。
(項目27) 1つ以上のH.pylori抗原および1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤を含む、非粘膜投与のための免疫原性組成物。
(項目28) H.pyloriによる感染に対する防御または処置のための項目15〜26のいずれか1項に記載の薬学的組成物または項目27に記載の免疫原性組成物の使用。
(発明の要旨)
それゆえ、本出願は、H.pyloriに対するH.pylori抗原含有組成物が、非粘膜的に投与され得、そして依然としてH.pylori細菌が粘膜と結合するという事実にもかかわらず疾患からの有効な(全身的な)防御を生じるという知見に基づく。
【0025】
本発明によって、一つ以上の、有効な量のH.pylori抗原の非粘膜投与を含むH.pyloriによる感染に対する防御または処置の方法が提供される。
【0026】
用語「〜を含有する」は、「〜を含む」および「〜からなる」を意味する。
【0027】
好ましくは、投与は、非経口、より好ましくは、筋肉内である。
【0028】
投与される一つ以上の抗原は、別々にまたは組み合わせで、動物において、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおいて防御免疫応答を惹起し得る。
【0029】
少なくとも一つの抗原は、H.pyloriの病原性因子であり得る。そのような病原性因子の例は、VacA、CagA、NAPまたはウレアーゼを含む。他の好ましい抗原は、HopX、HopY、36kDa、42kDa、および17kDaの抗原(WO 98/04702を参照のこと)または50kDaの抗原(EP−A−0793676を参照のこと)を含む。投与されるH.pyloriの病原性因子は、好ましくはVacA、CagA、NAPおよびウレアーゼを含む。より好ましくは、病原性因子は、VacA、CagA、およびNAPを含む。もっとも好ましくは、病原性因子は、CagAおよびNAPを含む。
【0030】
投与されるH.pylori抗原は、病原性因子のみからなっていてもよいし、あるいは以下のような病原性因子の特定の組み合わせのみからなっていてもよい:VacA、CagA、NAPおよびウレアーゼ;VacA、CagA、およびNAP;またはCagAおよびNAP。
【0031】
投与される抗原はまた、非H.pylori抗原を含み得る。
【0032】
一つ以上の抗原は、好ましくは、精製された抗原または細胞全体の免疫原である。用語「精製された」は、少なくとも一つの精製工程が実施され、その結果精製された抗原が、その天然の状況での同じ抗原よりも純粋であることを意味する。しかし、そのような精製された抗原と会合しているいくつかの夾雑物が存在し得る。用語「精製された」は、抗原が「単離される」状況を含む。この場合、抗原は、一般的にH.pyloriによる感染に対する防御能力または処置能力に有害に影響を与え得る任意の他の物質と会合していない。従って、用語「単離された」は、もっとも高い程度の精製を意味する。
【0033】
抗原は、種々の通常の方法(すなわち、細胞培養物からの精製/単離、組換え技術、または化学合成による)により得られる。細胞全体の免疫原は、好ましくはH.pylori細胞から抽出することにより調製される。抽出は、H.pylori細胞の溶解または超音波破壊あるいは任意の他の適切な方法により実行され得る。細胞全体の免疫原は、不活化H.pylori細胞であり得るか、またはそれを含み得る。
【0034】
アジュバントは、好ましくは、1つ以上のH.pylori抗原と同時に投与される。好ましくは、アジュバントは、水酸化アルミニウムまたはMF59TM(WO 90/14837;EP−B−0399843;Ottら、Vaccine Design:The subunit and adjuvant approach、第10章、PowellおよびNewman編、Plenum Press 1995を参照のこと)である。
【0035】
1つ以上の抗原はまた、1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤と会合し得る。
【0036】
本発明はまた、H.pyloriによる感染に対する防御または処置のための非粘膜的投与のための医薬の製造における有効な量の1つ以上のH.pylori抗原の使用を提供する。
【0037】
本発明は、1つ以上のH.pylori抗原および1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤を含む非粘膜投与のための薬学的組成物をさらに提供する。これは、好ましくは免疫原性組成物である。
【0038】
薬学的組成物の1つ以上の抗原は、別々に、または組み合わせで、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトにおいて、防御免疫応答を誘発し得る。
【0039】
好ましくは、抗原の少なくとも1つが、H.pyloriの病原性因子である。そのような病原性因子の例は、他の好ましい抗原の例と共に上記に提供される。
【0040】
薬学的組成物は、好ましくは、少なくともVacA、CagA、NAPおよびウレアーゼという病原性因子を含む。より好ましくは、薬学的組成物は、少なくともVacA、CagA、およびNAPという病原性因子を含む。最も好ましくは、薬学的組成物は、少なくともCagAおよびNAPという病原性因子を含む。
【0041】
薬学的組成物のH.pylori抗原は、病原性因子のみから、またはVacA、CagA、NAPおよびウレアーゼ、VacA、CagA、およびNAP、あるいはCagAおよびNAPのような病原性因子の特定の組み合わせのみからなり得る。
【0042】
薬学的組成物の抗原はまた、非H.pylori抗原を含み得る。
【0043】
1つ以上の抗原は、好ましくは上記のような、精製された抗原または細胞全体の免疫原である。
【0044】
薬学的組成物はまた、アジュバントをさらに含み得る。好ましくは、アジュバントは、水酸化アルミニウムまたはMF59TMである。
【0045】
本発明の薬学的組成物は、限定されないが、ワクチンのような免疫原性組成物であり得る。
【0046】
従って、本発明はまた、1つ以上のH.pylori抗原および1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤を含む、非粘膜的投与のための免疫原性組成物を提供する。
【0047】
本発明による免疫原性組成物およびワクチンは、予防的(すなわち、感染を妨害するため)、または治療的(すなわち、感染後に疾患を処置するため)のいずれかで有り得る。そのようなワクチンは、抗原を通常「薬学的に受容可能なキャリア」との組み合わせで含む。このキャリアは、それ自体は、組成物を受けた個体に有害な抗体の産生を誘導しない任意のキャリアを含む。適切なキャリアは、代表的に、大きく、ゆっくりと代謝される高分子(例えば、タンパク質、ポリサッカリド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、脂質凝集体(例えば、油滴またはリポソーム)、および不活性ウイルス粒子)である。そのようなキャリアは、当業者に周知である。さらに、これらのキャリアは、免疫刺激剤(「アジュバント」)のように機能し得る。さらに、抗原は、細菌トキソイドと結合され得る。
【0048】
組成物の有効性を増強する好ましいアジュバントは、以下を含むがそれらに限定されない:(1)アルミニウム塩(ミョウバン)、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなど;(2)水中油型エマルジョン処方物(ムラミルペプチドまたは細菌細胞壁成分のような特異的な他の免疫刺激剤を伴って、または伴わずに)、例えば、(a)MF59TM(マイクロフルイダイザーを用いてサブミクロン粒子中に処方される、5%スクアレン、0.5% TweenTM80および0.5% Span85を含む(必要に応じて、種々の量のMTP−PEを含有するが、必要ではない))、(b)SAF(サブミクロンエマルジョン中へマイクロフルイダイズされるか、またはボルテックスされてより大きな粒子サイズのエマルジョンを生成するかのいずれかの、10%スクアレン、0.4% Tween 80、5%のプルロニック(pluronic)ブロックポリマーL121、およびthr−MDPを含む)、ならびに(c)RibiTMアジュバントシステム(RAS)(2%スクアレン、0.2% Tween80、および以下からなる群由来の1つ以上の細菌細胞壁成分:モノホスホリルリピドA(monophosphorylipid A)(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)、好ましくはMPL+CWS(DetoxTM));(3)サポニンアジュバント(例えば、StimulonTMを用い得るかまたはそれから作製される(例えば、ISCOM(免疫刺激複合体)))(4)フロイント完全アジュバントおよびフロイント不完全アジュバント(CFAおよびIFA);(5)インターロイキン(例えば、IL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−12など)、インターフェロン(例えば、IFNγ)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)などのようなサイトカイン;ならびに(6)組成物の効力を増強する免疫刺激剤として作用する他の物質。ミョウバンおよびMF59TMが好ましい。
【0049】
上記のように、ムラミルペプチドは、以下を含むがそれらに限定されない:N−アセチル−ムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシ(huydroxy)ホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)など。
【0050】
代表的に、免疫原性組成物(例えば、抗原、薬学的に受容可能なキャリアおよびアジュバント)は、水、生理食塩水、グリセロール、エタノールなどのような希釈剤を含む。さらに、湿潤剤および乳化剤、pH緩衝化物質などのような補助物質は、そのようなビヒクル中に存在し得る。
【0051】
代表的に、免疫原性組成物は、注射可能物質として、液体溶液またはエマルジョンのいずれかとして調製される;注射の前に液体のビヒクル中に溶解または懸濁するのに適切な固体形態もまた、調製され得る。調製物はまた、上記のようなアジュバント活性の効果を増強するためにリポソーム中に乳化またはカプセル化され得る。
【0052】
ワクチンとして使用される免疫原性組成物は、免疫学的に有効な量の抗原性ポリペプチド、および必要な場合、上記の任意の他の成分を含む。「免疫学的に有効な量」とは、単回用量または一連のものの一部のいずれかでの、個体へのその量での投与が、処置または予防に有効であることを意味する。この量は、処置されるべき個体の健康状態および身体状態、処置されるべき個体の分類学的グループ(例えば、ヒト以外の霊長類、霊長類など)、個体の免疫系の抗体生成能、所望される防御の程度、ワクチンの処方、医療状況の処置医の評価、および他の関連因子に依存して変化する。この量は、慣用的な治験を通して決定され得、相対的に広範にわたることが予想される。
【0053】
免疫原性組成物は、非粘膜的に、より詳細には非経口的に(例えば、注射により)、皮下にまたは筋内にのいずれかで投与される。経皮投与(transdermal or transcutaneous administration)もまた用いられ得る。投薬処置は、単回用量計画または複数用量計画であり得る。ワクチンは、他の免疫調節剤とともに投与され得る。
【0054】
本発明により、上記のような薬学的組成物の使用または上記のような免疫原性組成物の使用が、H.pyloriによる感染に対する防御または処置のためにさらに提供される。
【0055】
(発明の詳細な説明)
(全細胞H.pyloriワクチン)
本発明の1実施態様として、全細胞H.pyloriワクチン(すなわち、H.pylori細胞溶解物)を用いて従来のイヌを免疫化することの実行可能性が、調査された。このような調製物は、感染性のH.pyloriを用いる、より遅いチャレンジに対する保護効果を提供する免疫性を誘発し得ることが、示される。
【0056】
免疫原性。全細胞H.pyloriワクチンの保護効果は、感染性のH.pyloriを用いてチャレンジされるイヌにおいて調査された。続く実験手順の詳細は後述される。時間0およびコントロールイヌに対して比較して、i.m.免疫化は、表1に示されるように非常に高力価の血清IgG抗体を誘導した。H.pylori溶解物を用いるi.m.免疫化はまた、抗原特異的な血清IgA抗体の産生を誘導した。
【0057】
症状。コントロールイヌ#2およびコントロールイヌ#3は、最後のチャレンジ後の第1週の間に下痢をした。コントロール#2は嘔吐もした。i.m.群において、H.pylori感染の症状は存在しなかった。
【0058】
胃(洞(antral))の生検および胃洗浄液に対するウレアーゼ試験。このアッセイは最後のチャレンジの10日後に採取された洞生検および胃洗浄液に対して実施され、このアッセイは、24時間後であっても、以下の表2で示されるようにコントロール群において陽性であり、そしてi.m.群において陰性であった。これらのデータはまた、チャレンジの42日後において確認された。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

内視鏡、組織学、および免疫組織化学の結果。保護されたイヌは、チャレンジの42日後での内視鏡試験において、光沢がありかつ滑らかな表面を有し、充血の兆候も水腫の兆候も有さない、正常な粘膜を示した(図1A)。逆に、コントロール(感染された)イヌにおいて、胃粘膜は、濃い赤色でかつ水腫状であり、そしてひだの外観を伴う波状の表面を有した(図1B)。これは、以前に観察され、そして特許出願GB9801000.2およびPCT/IB99/00217に記載される結節性(小胞性)胃炎を示唆した。
【0061】
組織学的に、保護されたイヌの胃粘膜は、表面および粘膜下組織の両方においてインタクトな構造を保存した(図2A)が、感染したイヌにおいては、充血(図2B、矢印)、水腫(図2B、アステリスク)、炎症性の細胞性湿潤(図2B、矢尻および図2C)の外観が存在した。H.pyloriはまた、粘液性の層において容易に同定された(図2D)。
【0062】
これらの全データは、抗VacAモノクローナル抗体を用いて免疫組織化学によって確認された。この抗体は、感染されたイヌの上皮細胞を濃く染色した(図3B、矢印)が、保護されたイヌの上皮細胞は濃く染色しなかった(図3A)。
【0063】
結論。これらのデータを合わせると、H.pylori溶解物を用いるi.m.免疫化が、イヌを、感染性のH.pyloriを用いるチャレンジに対して保護し得ること、およびi.m.経路がこの細菌に対するワクチン接種のために考慮され得ることを示す。
【0064】
(精製H.pylori抗原ワクチン)
本発明のさらなる実施態様において、精製H.pylori抗原での、従来のイヌの免疫の実行可能性もまた研究した。このような調製は、感染性H.pyloriを用いた後期チャレンジに対する防御効果を提供する免疫を誘発し得ることが示される。
【0065】
(免疫原性)精製H.pylori抗原(特に、VacA、CagAおよびNAP)の防御効果を、感染性H.pyloriでチャレンジされたイヌにおいて調査した。従った実験手順の詳細は、以降に記載する。これらの抗原での免疫は、たった2用量のみ後に、各抗原に特異的な、非常に強力な血清IgG抗体応答を誘導した。力価は、3回目の用量の後に増加した。50μgおよび10μgの用量の抗原は、高力価の抗原特異的抗体を誘導するのに、250μgと同じく良好であった。比較的に、より低い抗体力価が、H.pylori溶解物で免疫されたイヌにおいて検出可能であった(図5を参照のこと)。
【0066】
これらの抗原での免疫化はまた、高力価の、抗原特異的血清IgG1抗体およびIgG2抗体を誘導した。このことは、この免疫が、Th1型およびTh2型両方の免疫応答を誘導し、感染したマウスおよびイヌにおいてすでに観察されたこと(圧倒的なTh1型免疫応答が明らかである)とは異なることを示唆する(図6を参照のこと)。
【0067】
この様式で免疫されたイヌもまた、検出可能な力価の抗原特異的IgA抗体を血清中に有した(図7を参照のこと)。
【0068】
(内視鏡検査、組織学および免疫組織化学の結果)防御された動物において(表3を参照のこと−この表は、内視鏡検査(胃鏡検査)、組織学および免疫組織化学を含む、総合された全てのパラメーターに基づいて、防御に対する最終的結果を示す)、胃粘膜は、内視鏡検査で、組織学で、そして免疫組織化学で正常であった(図8A、9Aおよび10Aを、それぞれ参照のこと)。防御されていなかった(感染した)動物は、内視鏡検査で、充血性の、ひどくflogisticな胃粘膜の面を示し(図8B)、拡散した浸潤物が、リンパ様の小胞構造中に凝集された単核細胞を伴い、(図9B)、これにより正常な腺構造を破壊していた。図10Bは、抗VacAモノクローナル抗体を使用する免疫組織化学での強力な防御を示す。
【0069】
(結論)まとめると、これらのデータは、H.pylori抗原でのi.m.免疫化が、感染性H.pyloriでのチャレンジに対してイヌを防御し得ることを示す。
【0070】
【表3】

(実験)
H.pylori株。SPM326s(マウスに適合されたH.pylori
I型(CagA+/VacA+)のSPM326株のストレプトマイシン耐性誘導株)を、以前に記載(Marchettiら、1995)のように増殖させ、そしてイヌをチャレンジするために使用した。H.pyloriのCCUG株は、当該分野で周知である。
【0071】
動物。6匹の4〜6月齢の生体異物の(xenobiotic)ビーグル犬(全て雌)(Morini s.a.s.、S.Polo D’Enza、Italy)を、抗原として全細菌溶解物を使用するウェスタンブロット(WB)分析においてHelicobacter spp.に対する検出可能な血清IgGがないことに基づいて選択した(以下を参照のこと)。この選択された6匹のイヌを、標準的条件で飼育し、そして乾燥食料の食餌(MIL、Morini s.a.s)および水道水を自由に取らせて維持した。本研究者らの動物設備に到着した際に、血清に対するさらなるWB分析により、これらのイヌのH.pyloriの状態を確認した。これらのイヌを、個別のゲージで飼育し、そして1ヶ月間新しい環境に適応させた。この適応の月の間に、腸寄生生物または一般の腸内病原細菌の存在を評価するために、2つの試験を糞便サンプルに対して行った。
【0072】
H.pylori溶解物の調製。2つの5リットルファーメンター(Olivieri,Rら、1993、J.Clin.Microbiol.31:160〜162)から、H.pylori CCUG株の2つのペレットを得た。各ペレットを、50mlの超音波処理用緩衝液(50mM Na2HPO4・2H2O、300mM NaCl、pH7.8)中に再懸濁した後、この2つの再懸濁ペレットを混合した。この混合再懸濁物のOD530nmを測定し、細菌濃度を決定した(=3.2×1010CFU/ml)。この再懸濁物を、超音波処理用緩衝液で希釈して、濃度を2×1010CFU/mlにした。超音波処理の前に、顕微鏡下で観察すると、細菌は、古典的螺旋形態を有していた。次いで、この再懸濁された細菌の超音波処理を、氷上で以下のように行った:4分間を2サイクル、そして5分間を2サイクル、各サイクル間で1分間休止。超音波処理後、顕微鏡下で観察すると、全ての細菌は、破壊されたことを示した。次いで、Bradford法を使用して、タンパク質濃度を決定した(=57.5mg/mlタンパク質)。次いで、この細胞溶解物のアリコートを、調製し、そして使用するまで−80℃で凍結した。
【0073】
免疫化。3匹のイヌを、1mgの水酸化アルミニウム(Chiron Behring GmbH&Co.、Marburg、Germany;Lot No.277345)に吸収させた、調製したH.pylori溶解物(1010CFU/mlのH.pyloriの等価物(=28mg/用量))の1ml容量で0日目に筋肉内に(i.m.)免疫した。免疫化を、7日、14日、および22日に反復した。血清サンプルを、0日、21日(免疫後3)および43日目(免疫後4)に採取した。他の3匹のイヌを、コントロール群として、H.pylori溶解物の代わりに生理食塩水を使用したこと以外は同一に処置した。
【0074】
(感染性H.pyloriでのチャレンジ)次いでイヌを以下のように、マウスに適応したH.pyloriのSPM326株を用いて49、51および53日目にチャレンジした:それぞれのチャレンジの24時間前、イヌを絶食させた。細菌接種の2時間前、イヌに10mg/kgのシメチジン(Tagamet(登録商標)200;Smith Kline&French,USA)を筋肉内(i.m.)投与した。チャレンジの際には、イヌを40μg/kgのメデトミジンクロリデート(Domitor(登録商標);Centralvet−Vetem s.p.a.,Milano,Italy)および5mg/kgのケタミン(Ketavet(登録商標)、Gellini,Latina,Italy)の混合物で、静脈内(i.v.)麻酔した;次いで、胃洗浄を100mlの0.2M NaHCO3滅菌溶液で実施し、次に、接種手順の直前に調製した、滅菌生理食塩水中のH.pylori株SPM326(微好気的条件(以下参照)下で培養した)の109CFUの新鮮調製した3mlの懸濁液での経口チャレンジを実施した。細菌接種の終了時、200μg/kgの麻酔拮抗剤アチパメゾール(Antisedan(登録商標);Centralvet−Vetem s.p.a.,Milano,Italy)を投与し、次いで、再びイヌをシメチジンで処置し、そして2時間後給餌した。
【0075】
(チャレンジ後、追跡)最後のチャレンジから10日後および42日後、胃の内視鏡検査を、4.9mm直径のPentax小児用気管支鏡(Pentax Technologies,Zaventem,Belgium)を用いて実施した。同時に、胃の生検を、ウレアーゼ試験のためならびに細菌学分析、組織病理学分析および免疫組織化学分析のために、洞、本体底および噴門で、可撓性のピンチ−生検鉗子を用いて、内視鏡検査の間に採取した。それぞれの内視鏡検査の前に、装置全体および可撓性の鉗子を45分間、4%のグルタルアルデヒドに浸漬し、次いで、滅菌生理食塩水中ですすいだ。異なる部位で採取される生検の間の交差汚染を避けるため、鉗子を水道水で洗浄し、そしてそれぞれの生検サンプルの採集の前に軽度に火炎滅菌した。上記の実験プロトコールは、University of PisaのScientific and Ethical
Comiteeにより承認され、そしてItalian Ministry of Health(Department of Veterinary Health,Food and Nutrition)から公式の認可を受けた(DM No.21/97−C)。
【0076】
(迅速ウレアーゼ試験)洞の生検および胃洗浄からの液体を、リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)中1%フェノールレッド液(Sigma Chemical Co.,St.Louis,MO,USA)2滴を添加した、蒸留水中の1mlの10%尿素溶液中で24時間までインキュベートした。陽性の検定は培地の色の変化(オレンジ色から暗いピンクへ)により示される;色の変化に要する時間を記録する。0時点で、内視鏡検査を6匹のイヌに実施し、そして洞の生検をウレアーゼ検査のために採取した。6匹のイヌ全てにおいて、ウレアーゼ検査は、0時点で陰性であった。
【0077】
(組織病理学および透過型電子顕微鏡)組織学的、免疫組織学的および超微細構造的試験のためのサンプルを、微生物学的分析に利用されるものに隣接する部位の生検から採取した。このサンプルを、10%緩衝化ホルマリン中に固定し、そしてパラフィン中に包埋した。3μmの切片を、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)ならびにアルシアンおよび過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色を用いて、組織学的試験のための標準的な手順を使用して染色した。類似の切片もまた、H.pyloriに特異的なモノクローナル抗体(Mab)(Biogenesis Ltd,Poole,England,UK)または精製したネイティブのH.pylori VacAでBalb/cマウスを免疫化することによって得た抗VacAマウスモノクローナル抗体(C1G9)(BurroniおよびTelford、未公開の知見)を用いる、アビジン−ビオチン−複合体(ABC)−ペルオキシダーゼ技術を使用する、免疫組織学的分析のために使用した。ビオチン化ウマ抗マウス抗体を、二次抗体として使用した。この反応を、3−1−ジアミノベンジジン−クロルヒドレート(DAB)(Sigma)を用いて、細菌抗原の同定および位置決定のために発色させた。電子顕微鏡試験のために、他のサンプルを、Karnowsky中に固定し、OsO4中で後固定し、そしてEpon−Araldite(Polysciences Inc.Warrington,PA,USA)中に包埋した。半薄切片を、細胞損傷の評価のためにトルイジンブルーで染色し、一方、超薄切片を、ウラニルアセテートおよびクエン酸鉛で染色し、次いでPhillips EM301透過型電子顕微鏡(TEM)を80KVで操作して試験した。
【0078】
(抗H.pylori抗体の検出)H.pylory(SPM326s株)のSDS−PAGEおよび血清のWB分析を、以前に公開された手順(Marchettiら、1995)に従って行った。簡単に述べると、イヌ血清を、1:200に希釈し、そして室温にて2時間インキュベートした。次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合体化ウサギ抗イヌIgG抗体(Nordic Immunological Laboratories,Tiburg,The Netherlands)を、2時間、1:2,000希釈で添加し、そしてこの反応を、4−α−クロロナフトールを基質として用いて発色させた。H.pyloriに対する抗体のELISAによる検出を、免疫化に使用される調製されたCCUG株溶解物(5μg/ウェル)または精製したネイティブのCagAもしくはNAP(0.2μg/ウェル)を用いて、4℃にて一晩コートした96ウェルプレートにおいて行った。コートされたウェルを、5%脱脂粉乳を含むPBSでブロックした。二倍連続希釈の血清を、37℃にて2時間インキュベートし、次いでPBSで洗浄した。抗原特異的IgG力価を、1:4,000希釈のHRP結合体価ヤギ抗イヌIgG抗体(Bethyl Laboratories,Inc.Montgomery,TX,USA)を37℃にて2時間使用して決定した。抗原に結合した抗体を、o−フェニレンジアミンジヒドロクロリド(Sigma)を基質として添加することによって明らかにした。抗体力価を、以前に記載の記載されたように(Ghiaraら、1997)決定した。
【0079】
(精製H.pylori抗原を用いたイヌの筋肉内(i.m.)免疫化)VacAおよびCagAを、Ghiaraら、1997に記載されるように、発現させ、そして精製した。NAPを、初期の特許出願GB9807721.7およびPCT/IB/99/00695に記載されるように、発現させ、そして精製した。表4に示したように、4匹のイヌのグループを、以下を用いてi.m.免疫化した:
(i)水酸化アルミニウムに吸着された組換えVacA、CagA、およびNAP(250、50または10μgの各抗原)の混合物(1mg用量);
(ii)水酸化アルミニウムに吸着された、1用量当たり25または5mgの、CCUG溶解物(上記のように調製した)(1mg用量);
(iii)水酸化アルミニウム単独(1mg用量)。
【0080】
イヌを、1週間間隔で4回免疫化した。H.pyloriでのチャレンジを、既に記載したように、4週後に行った。サンプル(血液、生検など−以前に記載した)を、免疫化の前、第2回、第3回および第4回の免疫化の後、次いで最後のチャレンジの2〜3週および8週後に採取した。
【0081】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1A】図1は、H.pyloriを用いるチャレンジの42日後の保護されたイヌ(図1A)およびコントロール(感染された)イヌ(図1B)の洞領域(antral region)の内視鏡試験を示す。
【図1B】図1は、H.pyloriを用いるチャレンジの42日後の保護されたイヌ(図1A)およびコントロール(感染された)イヌ(図1B)の洞領域(antral region)の内視鏡試験を示す。
【図2A】図2は、H.pyloriを用いるチャレンジの42日後の保護されたイヌ(図2A、倍率=10倍)およびコントロール(感染された)イヌ(図2B、倍率=10倍;図2C、倍率=40倍;図2D、倍率=100倍)の洞領域から採取された生検の組織学的試験(ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色)を示す。
【図2B】図2は、H.pyloriを用いるチャレンジの42日後の保護されたイヌ(図2A、倍率=10倍)およびコントロール(感染された)イヌ(図2B、倍率=10倍;図2C、倍率=40倍;図2D、倍率=100倍)の洞領域から採取された生検の組織学的試験(ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色)を示す。
【図2C】図2は、H.pyloriを用いるチャレンジの42日後の保護されたイヌ(図2A、倍率=10倍)およびコントロール(感染された)イヌ(図2B、倍率=10倍;図2C、倍率=40倍;図2D、倍率=100倍)の洞領域から採取された生検の組織学的試験(ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色)を示す。
【図2D】図2は、H.pyloriを用いるチャレンジの42日後の保護されたイヌ(図2A、倍率=10倍)およびコントロール(感染された)イヌ(図2B、倍率=10倍;図2C、倍率=40倍;図2D、倍率=100倍)の洞領域から採取された生検の組織学的試験(ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色)を示す。
【図3A】図3は、H.pyloriを用いるチャレンジの42日後の保護されたイヌ(図3A)およびコントロール(感染された)イヌ(図3B)の洞領域から採取された生検の免疫組織学的試験を示す(倍率=40倍)。
【図3B】図3は、H.pyloriを用いるチャレンジの42日後の保護されたイヌ(図3A)およびコントロール(感染された)イヌ(図3B)の洞領域から採取された生検の免疫組織学的試験を示す(倍率=40倍)。
【図4】図4は、ビーグル犬が、i.m.で与えられた、精製された抗原を使用する、H.pyloriを用いるチャレンジに対して保護され得るか否かを決定するための実験のスケジュールを示す。
【図5A】図5Aは、精製された抗原または全細胞溶解物を用いる、i.m.の第1の免疫化の前、ならびに第2、第3、および第4の免疫化の後の、組換えVacA(図5A)に対する血清抗体力価(平均)を示す。水平の矢印は、陽性ELISAの結果についての下限を特徴付ける。
【図5B】図5Bは、精製された抗原または全細胞溶解物を用いる、i.m.の第1の免疫化の前、ならびに第2、第3、および第4の免疫化の後の、CagA(図5B)に対する血清抗体力価(平均)を示す。水平の矢印は、陽性ELISAの結果についての下限を特徴付ける。
【図5C】図5Cは、精製された抗原または全細胞溶解物を用いる、i.m.の第1の免疫化の前、ならびに第2、第3、および第4の免疫化の後の、NAP(図5C)に対する血清抗体力価(平均)を示す。水平の矢印は、陽性ELISAの結果についての下限を特徴付ける。
【図6A】図6は、上記(図5)と同時点における血清IgG抗体サブクラスIgG1およびIgG2の、CagA(図6A)およびNAP(図6B)への力価(精製された抗原または全細胞溶解物を用いてi.m.で免疫化された群あたりの平均力価)を示す。
【図6B】図6は、上記(図5)と同時点における血清IgG抗体サブクラスIgG1およびIgG2の、CagA(図6A)およびNAP(図6B)への力価(精製された抗原または全細胞溶解物を用いてi.m.で免疫化された群あたりの平均力価)を示す。
【図7−1】図7は、免疫化の前および第3の免疫化の後の精製された抗原(VacA、CagAおよびNAP)または全細胞溶解物を用いてi.m.で免疫化されたビーグル犬(一匹のイヌ−図7A〜7F)における、p95(組換えVacA)に対する血清IgA抗体力価を示す(同様の血清IgA抗体力価が、CagAに対して観察された)。
【図7−2】図7は、免疫化の前および第3の免疫化の後の精製された抗原(VacA、CagAおよびNAP)または全細胞溶解物を用いてi.m.で免疫化されたビーグル犬(一匹のイヌ−図7A〜7F)における、p95(組換えVacA)に対する血清IgA抗体力価を示す(同様の血清IgA抗体力価が、CagAに対して観察された)。
【図8A】図8は、チャレンジの約8週後に採取された保護されたイヌ(図8A)および保護されていない(感染された)イヌ(図8B)の内視鏡画像を示す。
【図8B】図8は、チャレンジの約8週後に採取された保護されたイヌ(図8A)および保護されていない(感染された)イヌ(図8B)の内視鏡画像を示す。
【図9A】図9は、チャレンジの約8週後に採取された保護されたイヌ(図9A)および保護されていない(感染された)イヌ(図9B)からの胃粘膜の組織学(HE染色、倍率=10倍)を示す。図9Aにおいて、正常の粘膜および粘膜下組織を示す。逆に、図9Bにおいて、大きなリンパ様小節、粘膜および粘膜下組織の構造の破壊が、示され得る。
【図9B】図9は、チャレンジの約8週後に採取された保護されたイヌ(図9A)および保護されていない(感染された)イヌ(図9B)からの胃粘膜の組織学(HE染色、倍率=10倍)を示す。図9Aにおいて、正常の粘膜および粘膜下組織を示す。逆に、図9Bにおいて、大きなリンパ様小節、粘膜および粘膜下組織の構造の破壊が、示され得る。
【図10A】図10は、チャレンジの約8週後に採取された抗VacAモノクローナル抗体を用いる免疫組織化学を示す(倍率=10倍)。保護されたイヌにおける陰性染色(図10A)および保護されていない(感染された)イヌにおける濃厚な陽性染色(図10B)を示す。
【図10B】図10は、チャレンジの約8週後に採取された抗VacAモノクローナル抗体を用いる免疫組織化学を示す(倍率=10倍)。保護されたイヌにおける陰性染色(図10A)および保護されていない(感染された)イヌにおける濃厚な陽性染色(図10B)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の、有効な量のH.pylori抗原の非粘膜投与を含むH.pyloriによる感染に対する防御または処置の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2006−151995(P2006−151995A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41638(P2006−41638)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【分割の表示】特願2000−547233(P2000−547233)の分割
【原出願日】平成11年4月30日(1999.4.30)
【出願人】(592243793)カイロン ソチエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (107)
【Fターム(参考)】