説明

HCVのNS5Bタンパク質における変異

本発明は、以下の位置:配列番号1の262番目の残基に相当する位置;及び/又は配列番号1の265番目の残基に相当する位置;及び/又は配列番号1の316番目の残基に相当する位置の少なくとも1つに点変異を有する、複製に有効な、C型肝炎ウイルス(HCV)のNS5Bタンパク質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤブカ(Aedes)族の蚊で増幅するC型肝炎ウイルス(HCV)のNS5Bタンパク質に存在する新規変異の同定に関する。
【0002】
効果的な複製に関連する、その様な変異の同定は、特にレプリコンに有望である。
【背景技術】
【0003】
C型肝炎ウイルス(HCV)は、非A非B型で発症する肝炎に関与するものとして同定され、肝臓の肝硬変などの慢性の悪性病変又は幹細胞癌にまで発展することが多い。世界の人口の約3%がHCVに感染しており、1年毎に3から4百万人の感染者が増加していると推定されている(Neumayr et al.,2000)。
【0004】
HCVは、エンベロープを有する単鎖RNAウイルスであり、最も重要なもののみ述べると黄熱(YF)、デング熱(DEN)及びデング出血熱(DHF)、日本脳炎(JE)、セントルイス脳炎(SLE)、西ナイル熱(WN)などの主要な感染性疾患に関与するウイルスを含む、フラビウイルス(Flaviviridae)科のヘパシウイルス(Hepacivirus)属の一員である。
【0005】
フラビウイルスの大半は、非常に異なる疫学的方法によって、媒介昆虫により伝染する。ある疾患は、典型的にはヒトのものであり、動物には影響を与えない、DEN及びDHFなどのものである。他の感染症は、そうではなく、人畜共通感染性であり、多かれ少なかれヒトに影響を及ぼすことがある、JE、SLE、及びWNなどのものである。最後にあるフラビウイルスは、ヒト及び動物の集団の双方に流行して広がる(WN)。これらの異なる疫学的方法は、それにもかかわらず、昆虫細胞中におけるウイルス増幅などの共通の基礎的因子を有する。
【0006】
HCVに関しては、今日よく確立されている伝染経路は、本質的には、血液製品を介する伝染、薬物中毒を介する伝染、及び院内における伝染である。それにもかかわらず、30から40%の今日記録されるヒトHCV感染は、上記の条件には合致せず、起源が説明されていない(Neumayr et al.,2000)。
【0007】
HCVのゲノムは、約3000アミノ酸のポリタンパク質前駆体をコードする約9600塩基の単鎖RNAからなる。このポリタンパク質は、以下の順序:C−E1−E2−p7−NS2−NS3−NS4A−NS4B−NS5A−NS5Bのウイルスタンパク質からなる。
【0008】
非構造タンパク質のうち、NS5Bは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)であり、例えば、文献WO 96/37619に開示されている。
【0009】
細胞培養物中におけるHCVの効果的な複製は、複製の有効性を大きく増大させる、特にNS5Bをコードする遺伝子において同定される、適応変異と関連している。かくして、文献WO 2005/047463は、当該配列を組み込むレプリコンの有効性を増大する、遺伝子型2b HCVのNS5Bにおける3つの変異(24位におけるセリン、31位におけるイソロイシン、及び392位におけるロイシン)を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 96/37619
【特許文献2】WO 2005/047463
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、C型肝炎ウイルスに対しては、治療及び効果的なワクチンの開発を阻害する大きな障害として、インビトロにおけるウイルスの高度の複製を可能にする系が存在しないことがある。したがって、その系、とりわけ有効なレプリコンを開発することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本出願人は、ヤブカ属の蚊におけるC型肝炎ウイルス(HCV)のインビボ増殖を得ることに成功した。
【0013】
好ましくは、使用したウイルス量は、有利にはヒト起源、例えば、遺伝子型1bのHCVにより生じた慢性肝炎を有する患者の、血清に由来する。
【0014】
平均21日間にわたって継続する増殖の後に、効果的に複製したHCVのゲノムの分析によって、NS5Bにおける変異の存在を明らかにした。
【0015】
かくして、第一の態様によれば、本発明は、良好な複製性能を有する変異C型肝炎(HCV)のNS5Bタンパク質に関する。
【0016】
「HCVのNS5Bタンパク質」は、ウイルスゲノムをコードする領域の3’末端によってコードされるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を意味すると解される。
【0017】
変異する傾向があるが、当該タンパク質は、591残基又はアミノ酸からなるものとして特徴付けられた。このサイズは、特に、上述の先行技術文献において開示されている遺伝子型1b又は2bのウイルス由来のNS5Bタンパク質においても保存されている。
【0018】
EF507504の番号でデータベースにおいて得られる配列を、参考例として選択した。その配列は、遺伝子型1bの全ゲノムに相当する。対応するポリタンパク質のC末端領域は、本願の配列番号1のNS5Bタンパク質を含有する。
【0019】
かくして、本発明では、「HCVのNS5Bタンパク質」は、配列番号1に対して、有利には、少なくとも70%、有利には、80%、85%、90%、又は95%の同一性を有するタンパク質を意味する。そのタンパク質は、有利には、配列番号1の配列と機能的に同等であり、1997年に公開の文献であるLohmann et alに開示されている試験を使用して、その酵素活性は容易に試験することができる。
【0020】
かくして、本発明に係る目的のタンパク質は、以下の位置:
− 配列番号1の262番目の残基に相当する位置;及び/又は
− 配列番号1の265番目の残基に相当する位置;及び/又は
− 配列番号1の316番目の残基に相当する位置
の少なくとも1つに変異を有することを決定した。
【0021】
これらの変異は当該タンパク質の活性部位に位置するという特徴を有することに注意すべきである。事実、Lohmann et al(1997)は、HCVのNS5Bポリメラーゼの活性に必須の4アミノ酸パターンを示した。特に、220位のアスパラギン酸(Asp又はD)、283位のグリシン(Gly又はG)、又は318位のアスパラギン酸(Asp又はD)の置換は酵素活性を完全に破壊することが示された。本発明の対象とする3残基は、この重要な領域に位置していることが認められる。
【0022】
実際には、この定義は、
− 3つの変異(262;265;316);
− 3つの二重変異(262+265;262+316;265+316);
− 1つの三重変異(262+265+316)
を含む。
【0023】
有利には、配列番号1の262番目の残基に相当する位置におけるイソロイシンでの単一変異(I262)は除かれる。
【0024】
同様に、配列番号1の262番目の残基に相当する位置におけるイソロイシン(I316)及び配列番号1の316番目の残基に相当する位置におけるシステインでの二重変異(I262/C316)が除かれる。
【0025】
有利には、配列番号1の262番目の残基に相当する位置における残基は、以下の群:バリン(Val又はV)、ロイシン(Leu又はL)、イソロイシン(Ile又はI)、及びシステイン(Cys又はC)から選択されるアミノ酸、特にイソロイシン(Ile又はI)ではない。より有利には、配列番号1の262番目の残基に相当する位置の残基はアラニン残基(Ala又はA)である。
【0026】
有利には、配列番号1の265番目の残基に相当する位置の残基はプロリン(Pro又はP)ではない。より有利には、前記残基はセリン(Ser又はS)である。
【0027】
有利には、配列番号1の316番目の残基に相当する位置の残基は、以下の群:アスパラギン(Asn又はN)、システイン(Cys又はC)、及びヒスチジン(His又はH)から選択されるアミノ酸、特にシステイン(Cys又はC)ではない。より有利には、配列番号1の316番目の残基に相当する位置の残基は、アスパラギン酸又はアスパラギン酸塩残基(Asp又はD)である。
【0028】
配列番号1の配列では、262位の残基はバリン(Val又はV)であり、265位の残基はプロリン(Pro又はP)であり、316位の残基はアスパラギン(Asn又はN)であるようである。
【0029】
これらの残基は、位置の相違があるにしても、感染の0日目(D0)のウイルスゲノムによってコードされるNS5Bの216から345残基に相当する配列番号2の47、50、及び101位においても認められる。
【0030】
用語「残基に相当する位置」は、アミノ酸の正確な番号付けが配列に依存して変化し得ることを示す。かくして、相当する位置は、配列をアラインメントして、関連する位置の周囲で最も高い相同性を得ることによって同定することができる。
【0031】
事実、文献に報告があるNS5B配列は、確かに強い相同性を示すが、相違点も示すことに注意すべきである。
【0032】
かくして、参考文献WO 96/37619では、より正確には、NS5Bに相当する当該文献の配列番号1の配列では、265位及び316位の残基は、事実、プロリン及びアスパラギンの各々である。一方、262位はイソロイシンでありバリンではないが、本発明のようなアラニンではない。
【0033】
参考文献WO 2005/047463では、より正確には、遺伝子型2b HCV由来のNS5Bに相当する当該文献の配列番号1の配列では、262位及び265位の残基はバリン及びプロリンの各々である。一方、316位はシステインでありアスパラギンではないが、本発明のようなアスパラギン酸ではない。
【0034】
本出願人の知る限りにおいて、ここで同定した特定の位置における変異は本願が初めて報告したものである。
【0035】
有利な実施態様によれば、本発明に係るNS5Bタンパク質は、上述の3つの変異を有する。
【0036】
事実、NS5Bの216から345アミノ酸の領域を0日目(D0)と21日目(D21)とで比較すると、すなわち、配列番号2と配列番号3とを比較すると、これら3つの位置における3つの残基のみが相違する。
【0037】
かくして、好ましい実施態様によれば、本発明に係るNS5Bタンパク質は、配列番号3の配列を含有する。換言すると、「野生型」のNS5Bタンパク質から開始して、262、265、及び316位における残基をアラニン、セリン、及びアスパラギン酸の各々で置換するか、又は216から345の領域を配列番号3で置換することができる。
【0038】
NS5Bタンパク質の断片も本発明の対象であり、前記断片は、本発明について同定した3つの重要な位置の1つにおいて、少なくとも1つの点変異を含有する。有利には、前記断片は、1997年に公開された文献であるLohmann el alに開示されている試験を使用して容易に試験することができるRdRp活性を有する機能性断片である。
【0039】
本発明の他の態様は、上述のように変異したNS5Bタンパク質をコードする核酸の配列に関する。
【0040】
「核酸」は、DNA又はRNA分子のいずれかを意味すると解される。本発明に示す核酸配列はDNAに相当するが、対応するRNA配列は、UでTを置換することによって当業者に容易に推定される。
【0041】
さらに、本発明に係る核酸配列は、上述の変異を含有する完全HCVゲノムについては、NS5Bをコードする部分に厳密に対応する。
【0042】
有利には、NS5Bの262位に相当する残基をコードするコドンは、アラニンをコードする必要があり、したがって、GCA、GCC、GCG、又はGCTであり得る。
【0043】
有利には、NS5Bの265位に相当する残基をコードするコドンは、セリンをコードする必要があり、したがって、TCA、TCC、TCG、TCT、AGC、又はAGTであり得る。
【0044】
有利には、NS5Bの316位に相当する残基をコードするコドンは、アスパラギン酸をコードする必要があり、したがって、GAC又はGATであり得る。
【0045】
説明のために、0日目(D0)のHCVのNS5Bの216から345位の部分をコードする配列を配列番号4として提示する。
【0046】
対して、21日目(D21)の同じ部分をコードする配列を配列番号5として提示する。
【0047】
(配列番号2及び3の配列の47位又は配列番号1の262位における残基をコードする)配列番号4及び5の139から141位において、バリンをコードするGTCコドン(配列番号4)が、アラニンをコードするGCCコドン(配列番号5)になることが認められる。
【0048】
同様に、(配列番号2及び3の配列の50位又は配列番号1の配列の265位における残基をコードする)配列番号4及び5の148から150位において、プロリンをコードするCCCコドン(配列番号4)が、セリンをコードするTCCコドン(配列番号5)になる。
【0049】
最後に、(配列番号2及び3の101位又は配列番号1の316位に相当する)配列番号4及び5の301及び303位において、アスパラギンをコードするAACコドン(配列番号4)が、アスパラギン酸をコードするGACコドン(配列番号5)になる。
【0050】
典型的には、本発明に係る核酸配列は、かくして、配列番号5の配列を含み得る。
【0051】
有利には、本発明に開示するタンパク質、核酸配列、及びそれらの断片は、ヒト起源である。
【0052】
本願では、HCV複製を改善する可能性がある3つの適応変異を開示する。開示した配列は、多数の用途、特にベクター又はレプリコンのための用途を有する。
【0053】
かくして、本発明の他の態様は、本発明に係る核酸配列を含むベクターに関する。有利には、当該配列は、発現を確実にすることができる調節配列、特にプロモーターの制御下に挿入する。特に、当該実施態様は、上述の少なくとも1、2、又は3つの変異すらも含有する変異NS5Bタンパク質を生産することを可能にする。
【0054】
他の態様によれば、それは本発明に係る配列を含むレプリコンである。HCVレプリコンは、細胞培養物中の自律複製及び検出可能なレベルの1又は複数のウイルスタンパク質の生産を可能にする核酸分子である。HCVレプリコンは、HCV由来の複製機構の成分を発現し、細胞培養物中における複製に必要とされる成分を含む。
【0055】
HCVレプリコンは、既に存在し、例えば、文献EP 1 666 598に開示されているものがある。したがって、上述の変異を使用して、前記位置で、当該レプリコンにおいてNS5Bをコードする配列を修飾することができる。代替的には、NS5Bをコードするレプリコンの領域は、本発明に係る配列によって置換することができる。次いで、キメラレプリコンが得られる。かくして、既に存在するレプリコンの有効性を増大することができる。
【0056】
上述のベクター又はレプリコンを含有する宿主細胞も本発明の対象である。好ましくは、これらの細胞は蚊に由来し、有利にはヤブカ属に由来する。いずれの理論に結びつけることを意図しないが、これらの変異は蚊における選択に由来するので、この宿主と本発明に係る変異NS5Bタンパク質の組み合わせが特に有利な複製系をもたらすはずであると思われる。
【0057】
インビトロ複製系は、多数の予期される用途を提供する。当該系によって、複製活性を阻害する化合物の能力を試験することができ、そのため、抗HCV治療分子のスクリーニングツールを作製することができる。
【0058】
本発明及び本発明による利益は、以下の実施例及び添付の図面を参照することによってよりよく説明される。しかしながら、これらの実施例は限定的なものではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、ウイルスを蚊に接触させた21日後の、HCV複製についての蚊の能力を示す。前記能力は、蚊の属に依存する。イエカ(Culex)属ではなく、ヤブカ属の蚊においてウイルスをインキュベートした21日後に、HCVゲノムをpRT−PCR21によって検出した。
【図2】図2は、蚊の体及び頭におけるウイルスゲノムの検出の進展を示す。全トランスクプトーム増幅(WTA)の後に、全RNA抽出物をpRT−PCR後に分析した。15日目から、WTA−pPCRの組み合わせによって、蚊の頭におけるHCVゲノムの存在が明らかになった。
【図3】図3は、NS5B増幅領域の配列のアラインメントを表わす。陽性の蚊のNS5Bの8228−8628領域は21日目(D21)に配列決定して、0日目(D0)の感染した蚊のものと比較した。EF407504配列に対応するNS5B配列を参考例として使用した。三角形は21日目に変異したアミノ酸(262 Val/Ala、265Pro/Ser、316 Asn/Asp)を示す。配列決定されることが多く、かつ、系統発生学的に情報が多いため、配列分析はウイルスゲノムの2つの領域に関する。5’UTR領域は非常に保存された領域であるが、NS5B遺伝子は、感染の急性期の間に適応変異によって特に影響を受けることが報告されている。
【実施例】
【0060】
(I)実験的感染
(1)試験する種の繁殖
試験する個体は、アカイエカ(Culex pipiens)種についてはマルセイユの市街地で回収し、キンイロヤブカ(Aedes vexans)及びアエデスカスピウス(Aedes caspius)についてはTour du Valet en Camargue保護地において回収した蚊(タマゴ、幼虫、及び成虫)から繁殖させた。繁殖は、Salon de ProvenceのDomaine du MerleにあるENSAM施設で実施した。繁殖は、繁殖の基準にしたがった古典的な昆虫飼育室で実施した。幼虫にパン酵母及び魚肉を餌として与え、成虫にはスクロース溶液を餌として与えた。イエカ及びヤブカの血液の食餌は、洗浄したヒツジの赤血球から構成されており、この洗浄の目的は血液成分による干渉を排除することであった。
【0061】
(2)安全な実験室(レベル2+)への蚊の導入
D−1の日に、メスの蚊を複数の群に分け、各ボックスに湿らせた脱脂綿を入れた飽血ボックスに入れて、安全な実験室に導入した。調節した温度及び湿度条件下に蚊を維持した(T=25℃±2、RH 80%±10)。
【0062】
(3)HCVのL2+実験室への導入
D0の日に、HCVウイルスを含むウイルス溶液(2コピー/mlの慢性肝炎を有する患者由来の血清)を、特別なキャリアによって、蚊を置いたL2+に持ち込んだ。前記ウイルス溶液は、GrenobleにあるAlbert−Michallon大学病院のウイルス学研究所によって提供された。ウイルス溶液は−80℃のL2+のフリーザーに維持した。
【0063】
(4)感染した血液溶液の調製
D0の日に、洗浄した非感染赤血球(ヒツジの血液)及びウイルス溶液を混合して、蚊を感染させるのに十分な力価を獲得した(〜1500コピー/蚊)。ATPを添加して、血液をより魅力的なものにして、それに対するメスの欲求を増大させた。各蚊は1回の血液の食餌あたりに3から5μlを摂取した。
【0064】
(5)メスの群の感染
D0の日に、37℃に温めた感染した血液を含有するエンゴルガー(engorger)を、24時間にわたってグルコース飢餓状態にしたメスに提供した。エンゴルガーを各ボックスに置いて、摂取する血液の食餌として約4時間にわたって放置した。同時に、非感染血液を含有するエンゴルガーをネガティブコントロールのメスのバッチに与えた。メスの飽血の期間が終わったら、それらをマウスアスピレーター(mouth aspirator)を使用して回収し、クロロホルム蒸気を使用して麻酔して、双眼顕微鏡で見ながら分類した。飽血したメスをカゴに戻した。産卵するメスのために各金属カゴの人工繁殖領域を放置した(ヤブカのメスのためには水おけ、及びイエカのメスには湿った土)。この日から、蚊が屠殺されるまで、飽血したメスを含有する金属カゴを開かず、かつ、触れなかった。
【0065】
(6)メスの群のケア
メスの群は、少なくとも70%の調整湿度で約28℃の一定温度に維持した。毎日、金属カゴにいれた10%グルコース溶液で湿らせた綿でメスに餌を与えた。繁殖領域は洗浄ビンでカゴを通じて湿気を与えた。
【0066】
(7)メスの処理
サンプルを回収する日に、金属カゴを冷やすことによって、蚊を屠殺した。次いで、蚊を別個に1.5mlチューブに移し、ラベルを貼付し、PCRの前のRNA抽出工程までフリーザーに入れた。ウイルスを含有していない血液で飽血させたネガティブコントロールの群も屠殺した。D0の日に屠殺して−80℃のフリーザーに入れた蚊の群は、飽血、ウイルスRNAの抽出及び増幅のD0のポジティブコントロールとした。
【0067】
(II)ウイルスRNAの検出
(8)感染起源についてのRNAの抽出
Roche社によって販売されている「High Pure RNA Tissue Kit」を使用して、蚊の組織に由来するHCV RNAの抽出をフードで実施した。
【0068】
(9)ウイルスRNAの増幅
使用するプライマー及びプローブ(qPCRのためのもの)は、ウイルスゲノムの5’非コード末端の保存領域を増幅するために設計した。ヌクレオチド−289とヌクレオチド−269との間に位置するセンスプライマー2CH(5’−AAC TAC TGT CTT CAC GCA GAA−3‘)(配列番号6)、及びヌクレオチド−70とヌクレオチド−90との間に位置するアンチセンスプライマー1TS(5’ GCG ACC CAA CAC TAC TCG GCT−3’)(配列番号7)を使用した。qPCRに使用したプローブは、ヌクレオチド−137とヌクレオチド−119との間に位置するTM416(5’−6Fam−AAC CCG CTC AAT GCC TGG A−Tamra−3’)(配列番号8)であった。
【0069】
古典的なRT−PCR及びqRT−PCRのための反応混合物の組成を下表にまとめている。
【表1】

【0070】
RT−PCRは、以下の条件:50℃で30分間にわたる逆転写、続いて逆転写酵素の失活工程(95℃で15分)、次いで伸長工程(63℃で1分)及び変性工程(90℃で30秒)を交互に実施する45のPCRサイクルで実施した。
【0071】
(10)D0及びD21における陽性の蚊から抽出したウイルスゲノムのIRESに相当する領域(52−271)及びNS5b遺伝子の一部に相当する領域(8228−8628)の配列決定
上記(8)に記載のプロトコールにしたがって、ウイルスRNAを抽出した。
【0072】
HCVゲノムを含有する、qRT−PCRによって同定した蚊に由来する全RNA抽出物から配列決定を実施した。
【0073】
配列決定工程は、以下の順序で実施した:
a)増幅:配列決定する領域をまずqRT−PCRによって適当なプライマーを使用して増幅した。IRESの53−271の領域については、上述のプライマー1TS(配列番号7)及び2CH(配列番号6)を使用した。NS5b遺伝子のヌクレオチド8228−8628の領域については、使用したプライマーは、2003年にSandres−Saune et alによって参考文献において開示された1PR及び2PRであった。
b)ゲル上の移動:増幅産物は1%アガロースゲルで分子量マーカーとともに移動させた。移動が終わったら、EtBrを使用して増幅産物を検出した。目的のバンドを切り出して、バンドに含まれる配列をゲルから抽出した。
c)クローニング:クローニングをpUC18ベクターで実施した。挿入を実施できるようにするために、pUC18ベクターに存在するが、増幅産物には存在しない制限酵素認識部位(制限酵素に相当するもの)を決定する必要があった。EcoRIとHindIII部位を選択した。新しいペアのプライマーを上述のプライマーから選択して、一方はEcoRi制限酵素認識部位を含み、他方はHindIII制限酵素認識部位である、2つの短い配列をその両端に付加して、増幅産物をベクターに導入し、開放し、脱リン酸化できるようにした。
d)形質転換:クローニング産物をTOP10コンピテント細菌に導入した。次いで、細菌をLBアガロース−アンピシリンを含有するペトリ皿に播種した。最後に、それらを一晩にわたって37℃でインキュベートした。
e)クローニングの品質管理:増殖した細菌が挿入を含んでいるか調べるために、細菌に直接PCRを実施した。10μlチップの先で増殖したクローンを移し、マスターミックス(上記組成参照)を入れたPCRチューブに予め浸して、次いで、LBアガロース−アンピシリン含有ペトリ皿に播種するために使用した。移す工程が終わったら、PCRを開始し、ペトリ皿を37℃で一晩にわたってインキュベートした。
f)PCR産物を1%アガロースゲルで分子量マーカーとともに移動させた。移動が終わったら、EtBrを使用して増幅産物を検出した。正しいサイズのバンドを含有するバンドを含有するクローンを増幅させて、配列決定に十分なプラスミドを生産した。
g)少量調製:プラスミドを細菌から抽出した。
h)配列決定:配列決定はMWG社によって自動的に実施した。M13ユニバーサルプライマーを使用した。よりよい正確性及び信頼性のために読み取りは双方向から行った。
【0074】
結果
3つの実験を実施した。
【0075】
(i)実験1
メスのキンイロヤブカを幼虫の段階で回収して、10日齢未満で試験した。約20匹の蚊に1ミリリットルあたり10コピーのHCVの懸濁物を与えた。21日間にわたって成長させた後に、蚊を凍結して、RNAを抽出した。エンドポイントRT−PCRは、5匹のうち3匹の蚊において、HCVゲノムの存在に相当する陽性シグナルを有していた(結果示さず)。
【0076】
(ii)実験2
属特異性を試験するために、36匹のヤブカ種及び15匹のアカイエカに、1ミリリットルあたり8.3×10コピーのHCVを含有する懸濁物を与えて、21日間にわたって成長させた。21日目に相当する蚊の抽出物に実施したqRT−PCRは、ヤブカの蚊の33%(2/6)においてHCVゲノムの存在を示した。対照的に、HCV RNAはイエカの蚊では検出されなかった(図1)。
【0077】
RNAウイルス複製に共通の特徴は、適応変異の存在である。これを試験するために、感染後21日目(D21)の陽性の蚊から抽出したHCVのRNA配列を、0日目のサンプル(D0)と比較した。HCVゲノムの2つの領域:5’UTR領域(5’非翻訳領域)の220ヌクレオチド(領域52−271)及び非構造タンパク質5B(NS5B又はRdRp[RNA依存性RNAポリメラーゼ])をコードする部分の400ヌクレオチド(8228−8628領域)を選択した。5’UTR領域から分析した220ヌクレオチドでは変異が認められなかった。一方、活性部位に相当するRdRpの400ヌクレオチドには、3つの適応変異(262Val/Ala、265Pro/Ser、及び316Asn/Asp)を同定した(図3)。
【0078】
(iii)実験3
124匹のアエデスカスピウス及び85匹のキンイロヤブカに、1ミリリットルあたり1.2×10コピーのHCVを含有する懸濁物を与えて、15日間にわたって成長させた。全ての蚊を解体して、頭(唾液腺を含む)及び体(腸間膜を含む)に分けた。HCVの存在を0、4、8、及び15日目のサンプルで調べた。より大きい感度を得るために、定量RT−PCR(qRT−PCR)の前にWTA(全トランスクリプトーム増殖)を実施した。これらの条件下で、HCVのRNAが、15日目の蚊の頭でのみ検出された(図2)。WTA及びqPCRを使用しても、ウイルスゲノムが初日(D0)の蚊の頭にも存在しなかったため、残存するウイルスによる陽性シグナルはなかったのであろう。
【0079】
宿主において複製するために寄生体によって必要とされる時間として定義されるHCVの外因性サイクルは、25℃の環境温度で15日より長いと推定された。現段階では、摂取されたHCVは、i)蚊の腸間膜組織を通過し、ii)他の組織、特に唾液腺で複製すると仮説を立てることができる。
【0080】
同定した適当変異とともに考慮すると、これらの結果は、ある蚊、特にアエデスカスピウス及びキンイロヤブカにおける天然のHCVを複製する能力の初めての証拠を提供するものである。
(参考文献)
Kuntzen, T. et al. Viral Sequence Evolution in Acute Hepatitis C Virus Infection. J Virol. 81 (21), 11658-11668 (2007).
Lohmann, V. et al. Biochemical properties of Hepatitis C Virus NS5B RNA-dependent RNA Polymerase and identification of amino acid sequence motifs essential for enzymatic activity J. Virol. 71(11), 8416-8428 (1997).
Neumayr, G., Propst, A., Schwaighofer, H., Judmaier, G. & Vogel, W. Lack of evidence for the heterosexual transmission of hepatitis C. Q J Med. 92, 505-508 (2000).
Sandres-Saune K. et al. Determining Hepatitis C Genotype by analyzing the sequence of the NS5B region. J Virol. Methods 109 (2), 187-93 (2003).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の位置:
− 配列番号1の262番目の残基に相当する位置;及び/又は
− 配列番号1の265番目の残基に相当する位置;及び/又は
− 配列番号1の316番目の残基に相当する位置
の少なくとも1つに点変異を有する、C型肝炎ウイルス(HCV)のNS5Bタンパク質であって、
− 配列番号1の262番目の残基に相当する位置の残基がイソロイシンである場合;又は
− 配列番号1の262番目の残基に相当する位置の残基がイソロイシンであり、かつ、配列番号1の316番目の残基に相当する位置の残基がシステインである場合を除く、C型肝炎ウイルス(HCV)のNS5Bタンパク質。
【請求項2】
以下の位置:
− 配列番号1の262番目の残基に相当する位置において、配列番号1の262番目の残基に相当する位置の残基がイソロイシンでない;及び/又は
− 配列番号1の265番目の残基に相当する位置;及び/又は
− 配列番号1の316番目の残基に相当する位置において、配列番号1の316番目の残基に相当する位置の残基がシステインでない、
の少なくとも1つに点変異を有することを特徴とする、請求項1に記載のHCVのNS5Bタンパク質。
【請求項3】
− 配列番号1の262番目の残基に相当する位置の残基が、バリン、ロイシン、イソロイシン、若しくはシステインでなく;及び/又は
− 配列番号1の265番目の残基に相当する位置の残基がプロリンでなく;及び/又は
− 配列番号1の316番目の残基に相当する位置の残基が、アスパラギン、システイン、若しくはヒスチジンでない、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のHCVのNS5Bタンパク質。
【請求項4】
− 配列番号1の262番目の残基に相当する位置の残基がアラニンであり;及び/又は
− 配列番号1の265番目の残基に相当する位置の残基がセリンであり;及び/又は
− 配列番号1の316番目の残基に相当する位置の残基がアスパラギン酸塩若しくはアスパラギン酸である、
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のHCVのNS5Bタンパク質。
【請求項5】
− 配列番号1の262番目の残基に相当する位置におけるアラニン;及び
− 配列番号1の265番目の残基に相当する位置におけるセリン;及び
− 配列番号1の316番目の残基に相当する位置におけるアスパラギン酸、
を有することを特徴とする、請求項4に記載のHCVのNS5Bタンパク質。
【請求項6】
配列番号3の配列を含むことを特徴とする、請求項5に記載のHCVのNS5Bタンパク質。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に規定の少なくとも1つの変異を含む、HCVのNS5Bタンパク質の断片。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のHCVのNS5Bタンパク質又は請求項7に記載のタンパク質の断片をコードする、核酸配列。
【請求項9】
配列番号5の配列を含むことを特徴とする、請求項8に記載の核酸配列。
【請求項10】
ヒト起源であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のHCVのNS5Bタンパク質、又は請求項7に記載のタンパク質の断片、又は請求項8及び9のいずれか一項に記載の核酸配列。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載の核酸配列を含む、ベクター。
【請求項12】
請求項8から10のいずれか一項に記載の核酸配列を含む、レプリコン。
【請求項13】
請求項11に記載のベクター又は請求項12に記載のレプリコンを含む、宿主細胞。
【請求項14】
蚊、有利にはヤブカ属の蚊に由来する細胞であることを特徴とする、請求項13に記載の宿主細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−525803(P2011−525803A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515563(P2011−515563)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051222
【国際公開番号】WO2010/004176
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(502298435)ユニヴェルシテ・ジョセフ・フーリエ (9)
【出願人】(508029653)
【Fターム(参考)】