説明

HCVNS3プロテアーゼレプリコンシャトルベクター

本発明は、HCV感染患者の試料からHCVポリヌクレオチド配列をクローニングし、得られたレプリコンを薬物感受性について試験するのに有用な、新規なHCV NS3プロテアーゼレプリコンシャトルベクターを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HCV及び他のフラビウイルスのプロテアーゼ阻害剤をスクリーニングし、試験し、評価するのに有用である、新規なHCV NS3プロテアーゼレプリコンシャトルベクターに関する。
【0002】
C型肝炎は、世界中の主要な健康問題であり、また慢性肝疾患の第一原因でもある。(Boyer, N. et al. J. Hepatol. 2000 32:98-112)。HCVに感染した患者は、肝硬変、続いて肝細胞ガンを発症する危険性があり、従って、HCVは、肝移植の主要な適応症である。
【0003】
世界保健機構によれば、世界中に2億人を超える感染個体があり、毎年、少なくとも3〜4百万人の人々が感染している。一度感染すると、約20%の人はウイルスを排除するが、しかし残りの人は生涯にわたってHCVを保有し得る。慢性感染個体の10〜20%が、最終的に、肝破壊性の肝硬変又は肝ガンを発症する。このウイルス疾病は、汚染した血液及び血液製剤、汚染した針により非経口的に、又は、感染した母体もしくは保菌者の母体からその子供へと性的及び垂直的に伝染する。現在のHCV感染処置は、組換え体のインターフェロンαを単独で、又はヌクレオシド類似体のリバビリンと併用する免疫療法に限られており、その臨床的利益は特に遺伝子型1に限られている。慢性HCV感染を効果的に根絶する、改良された治療剤が早急に必要とされている。
【0004】
HCVは、属であるフラビウイルス属、ペスチウイルス属、及びヘパシウイルス属(C型肝炎ウイルスを含む)を含む、フラビウイルス科のウイルスの一員として分類されている(Rice, C. M., Flaviviridae: The viruses and their replication, in: Fields Virology, Editors: Fields, B. N., Knipe, D. M., and Howley, P. M., Lippincott-Raven Publishers, Philadelphia, Pa., Chapter 30, 931-959, 1996)。HCVは、約9.4kbのポジティブのセンス鎖の一本鎖RNAゲノムを含む、エンベロープを有するウイルスである。このウイルスゲノムは、5’非翻訳領域(UTR)、約3011アミノ酸のポリタンパク質前駆体をコードしている長いオープンリーディングフレーム、及び短い3’UTRからなる。5’UTRは、HCVゲノムの中で最も高度に保存されている部分であり、ポリタンパク質の翻訳の開始及び制御に重要である。
【0005】
HCVの遺伝子解析により、DNA配列が30%超の異なりを示す6つの主要な遺伝子型が同定された。各遺伝子型は、ヌクレオチド配列の20〜25%において多様性を示す、より密接に関連した一連のサブタイプを含んでいる(Simmonds, P. 2004 J. Gen. Virol. 85:3173-88)。30を超えるサブタイプが識別されている。米国では、感染個体の約70%が、1a型及び1b型の感染を有している。1b型はアジアにおいて最も流行しているサブタイプである(X. Forns and J. Bukh, Clinics in Liver Disease 1999 3:693-716; J. Bukh et al., Semin. Liv. Dis. 1995 15:41-63)。残念なことに、1型感染は、2型又は3型遺伝子型のいずれよりも、現在の療法に対する応答性が低いようである(N. N. Zein, Clin. Microbiol. Rev., 2000 13:223-235)。
【0006】
ペスチウイルス及びヘパシウイルスのORFの非構造的タンパク質部分の遺伝子構成及びポリタンパク質のプロセシングは、非常に似ている。これらのポジティブ鎖RNAウイルスは、ウイルス複製に必要とされる全てのウイルスタンパク質をコードしている単一の大きなオープンリーディングフレーム(ORF)を有している。これらのタンパク質は、ポリタンパク質として発現され、これは、細胞及びウイルスの両方によりコードされるプロテイナーゼにより翻訳と同時か及び翻訳後にプロセシングされることにより、成熟ウイルスタンパク質を生成する。ウイルスゲノムRNAの複製に関与するウイルスタンパク質は、カルボキシ末端側に位置している。ORFの3分の2が、非構造(NS)タンパク質と呼ばれている。ペスチウイルス及びヘパシウイルスの両方における、成熟非構造(NS)タンパク質は、非構造タンパク質コード領域のアミノ末端からORFのカルボキシ末端に向かって順番に、p7、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A、及びNS5Bから構成されている。
【0007】
ペスチウイルス及びヘパシウイルスのNSタンパク質は、特異的なタンパク質機能に特徴的である配列ドメインを共有している。例えば、両群のウイルスのNS3タンパク質は、セリンプロテアーゼ及びヘリカーゼに特徴的なアミノ酸モチーフを有している(Gorbalenya et al. Nature 1988 333:22; Bazan and Fletterick Virology 1989 171:637-639; Gorbalenya et al. Nucleic Acid Res. 1989 17.3889-3897)。同様に、ペスチウイルス及びヘパシウイルスのNS5Bタンパク質は、RNA指向性RNAポリメラーゼに特徴的なモチーフを有している(Koonin, E. V. and Dolja, V. V. Crit. Rev. Biochem. Molec. Biol. 1993 28:375-430)。
【0008】
ペスチウイルス及びヘパシウイルスのNSタンパク質がウイルスの生活環において果たす実際の役割及び機能は、まさに類似している。どちらの場合においても、NS3セリンプロテアーゼは、ORFにおけるその位置の下流におけるポリタンパク質前駆体の全てのタンパク質分解プロセシングに関与している(Wiskerchen and Collett Virology 1991 184:341-350; Bartenschlager et al. J. Virol. 1993 67:3835-3844; Eckart et al. Biochem. Biophys. Res. Comm. 1993 192:399-406; Grakoui et al. J. Virol. 1993 67:2832-2843; Grakoui et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993 90:10583-10587; Ilijikata et al. J. Virol. 1993 67:4665-4675; Tome et al. J. Virol. 1993 67:4017-4026)。どちらの場合においても、NS4Aタンパク質は、NS3セリンプロテアーゼと共に補因子として作用している(Bartenschlager et al. J. Virol. 1994 68:5045-5055; Failla et al. J. Virol. 1994 68: 3753-3760; Xu et al. J Virol. 1997 71:53 12-5322)。両方のウイルスのNS3タンパク質はまたヘリカーゼとしても機能している(Kim et al. Biochem. Biophys. Res. Comm. 1995 215: 160-166; Jin and Peterson Arch. Biochem. Biophys. 1995, 323:47-53; Warrener and Collett J. Virol. 1995 69:1720-1726)。最後に、ペスチウイルス及びヘパシウイルスのNS5Bタンパク質は、予測されているRNA依存性RNAポリメラーゼ活性を有している(Behrens et al. EMBO 1996 15:12-22; Lechmann et al. J. Virol. 1997 71:8416-8428; Yuan et al. Biochem. Biophys. Res. Comm. 1997 232:231-235; Hagedorn, PCT WO 97/12033; Zhong et al. J. Virol. 1998 72:9365-9369)。
【0009】
HCV NSタンパク質3(NS3)は、大半のウイルス酵素を処理するのを助けるセリンプロテアーゼ活性を含み、従って、ウイルスの複製及び感染力にとって必須であると考えられている。黄熱病ウイルスのN3プロテアーゼの突然変異により、ウイルス感染力が低下することが知られている(Chambers et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87:8898-8902)。NS3の最初の181アミノ酸(ウイルスポリタンパク質の1027〜1207残基)が、HCVポリタンパク質の4つ全ての下流部位をプロセシングする、NS3のセリンプロテアーゼドメインを含むことが示された(Lin et al., J. Virol. 1994 68:8147-8157)。HCV NS3セリンプロテアーゼ及びその関連する補因子であるNSA4Aは、全てのウイルス酵素のプロセシングを助け、従って、ウイルス複製に必須であると考えられている。このプロセシングは、ヒト免疫不全ウイルスのアスパルチルプロテアーゼ(これもまた、ウイルス酵素のプロセシングに関与している)により行なわれるプロセシングに類似しているようである。ウイルスタンパク質のプロセシングを阻害するHIVプロテアーゼ阻害剤は、ヒトにおける強力な抗ウイルス剤であり、このことから、ウイルス生活環のこの段階を阻害することにより、治療に有効な薬剤が得られることが示唆される。結果として、それは薬物を発見するための魅力的な標的である。
【0010】
現在、HCV感染の処置に現在利用可能である認可されている治療法の数は少ない。HCVの処置及びHCV NS5Bポリメラーゼの阻害のための新規及び既存のアプローチが概説されている:R. G. Gish, Sem. Liver. Dis., 1999 19:5; Di Besceglie, A. M. and Bacon, B. R., Scientific American, October: 1999 80-85; G. Lake-Bakaar, Current and Future Therapy for Chronic Hepatitis C Virus Liver Disease, Curr. Drug Targ. Infect Dis. 2003 3(3):247-253; P. Hoffmann et al., Recent patents on experimental therapy for hepatitis C virus infection (1999-2002), Exp. Opin. Ther. Patents 2003 13(11):1707-1723; F. F. Poordad et al. Developments in Hepatitis C therapy during 2000-2002, Exp. Opin. Emerging Drugs 2003 8(1):9-25; M. P. Walker et al., Promising Candidates for the treatment of chronic hepatitis C, Exp. Opin. Investig. Drugs 2003 12(8):1269-1280; S.-L. Tan et al., Hepatitis C Therapeutics: Current Status and Emerging Strategies, Nature Rev. Drug Discov. 2002 1:867-881; R. De Francesco et al. Approaching a new era for hepatitis C virus therapy: inhibitors of the NS3-4A serine protease and the NS5B RNA-dependent RNA polymerase, Antiviral Res. 2003 58:1-16; Q. M. Wang et al. Hepatitis C virus encoded proteins: targets for antiviral therapy, Drugs of the Future 2000 25(9):933-8-944; J. A. Wu and Z. Hong, Targeting NS5B-Dependent RNA Polymerase for Anti-HCV Chemotherapy Cur. Drug Targ.-Inf. Dis .2003 3:207-219。
【0011】
ウイルスのゲノム構成及びウイルスタンパク質の機能の解明が進展したにも関わらず、HCV複製及び病気発生の基本的な局面は依然として不明である。HCVの複製を実験的に行なう上での大きな挑戦は、感染性ウイルス粒子の産生を行なえる有効な細胞培養系がないことである。一次細胞培養及び特定のヒト細胞株の感染が報告されているが、このような系で産生されるウイルスの量及びHCV複製のレベルは低すぎて、詳細な分析が行なえない。
【0012】
ヒト肝細胞腫の細胞株Huh-7において最低の効率で複製する選択可能なサブゲノムHCV RNAの作製が報告されている。Lohman et alは、タンパク質コード領域のC−p7又はC−NS2領域を欠失させることにより、クローニングされた全長HCVコンセンサスゲノム(遺伝子型1b)から誘導されたレプリコン(I377/NS3−3’)の作製を報告した(Lohman et al., Science 1999 285: 110-113)。このレプリコンは、以下のエレメントを含んでいた:(i)キャプシドコード領域の12アミノ酸に融合したHCV5’−UTR;(ii)ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(NPTII);(iii)NPTII遺伝子の下流に挿入され、HCVタンパク質NS2又はNS3からNS5Bまでの翻訳を指令する、脳心筋炎ウイルス(EMCV)由来のIRES、及び(iv)3’−UTR。Huh−7細胞のトランスフェクション後、HCV RNAの複製を支持する細胞のみが、NPTIIタンパク質を発現し、薬物418に対する耐性を示した。このようなG418耐性コロニーから得られた細胞株は、かなりのレベルのレプリコンRNA及びウイルスタンパク質を含んでいたが、トランスフェクトされた10個のHuh−7細胞の中でHCV複製を支持していたのは唯1個であった。
【0013】
類似の選択可能なHCVレプリコンが、HCV-H遺伝子型1a感染性クローンに基づいて作製された(Blight et al., Science 2000 290:1972-74)。HCV−H由来レプリコンは、効率的なHCV複製を確立できなかった。このことから、もっと以前に作製された前記のLohmann (1999)のレプリコンは、そのような実験で使用された特定の遺伝子型1bのコンセンサスcDNAクローンに依存していたことが示唆される。前記のBlight et al.は、PCRに基づいた遺伝子アセンブリ手順を行なうことにより、前記のLohmann (1999)により作製されたレプリコンの構造物を再現し、G418耐性Huh-7細胞コロニーを得た。独立したG418耐性細胞クローンをシークエンスすることにより、高いレベルのHCV複製には、宿主細胞に対するレプリコンの適応が必要とされるかどうかを判定した。HCV非構造タンパク質NS5A中にクラスター形成する、複数の独立した適合突然変異が同定された。付与される突然変異により、インビトロでの複製能力は増強され、形質導入効率は、トランスフェクトされた細胞の0.2%〜10%であり、これに対して、当技術分野においてより以前に作製されたレプリコンでは、例えば、I377/NS3−3’レプリコンの形質導入効率は0.0001%であった。
【0014】
本発明は、ユニーク制限酵素部位が、NS3遺伝子のプロテアーゼドメインの5’及び3’末端に導入されているため、HCV感染患者の試料から得られたNS3プロテアーゼ配列をシャトルベクターにクローニングすることができ、得られたレプリコンを、複製適応度及びHCV NS3プロテアーゼ阻害剤に対する感受性について評価することができるような、新規なHCVレプリコンシャトルベクターの開発を特徴とする。個々のHCV感染患者は、典型的には、NS5B RNAポリメラーゼのエラー頻度の高さから、遺伝子的に多様なウイルス集団を含んでいるため、本発明のシャトルベクターの使用により、特定の患者由来のNS3プロテアーゼ変異体の特徴、及び、薬物処理に対するこれらの変異体の感受性又は耐性を明らかにできるだろう。
【0015】
従って、本発明は、NS3タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の5’末端から5’へ10ヌクレオチドと、3’へ10ヌクレオチドとの間に配置されたユニーク(unique)制限酵素配列;NS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列;NS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列の3’末端から、5’へ10ヌクレオチドと、3’へ10ヌクレオチドとの間に配置されたユニーク制限酵素配列;NS3タンパク質のヘリカーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列;NS4Aタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列;NS4Bタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列;NS5Aタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列;NS5Bタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列をこの順番で含む、HCVポリヌクレオチド配列を含むHCVレプリコンシャトルベクターを提供する。本発明の1つの態様において、NS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列は、NS3タンパク質のプロテアーゼドメインが機能しないように改変又は欠失されている。
【0016】
本発明の別の態様において、NS3タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の5’末端におけるユニーク制限酵素配列は、EcoRVを認識し、NS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列の3’末端におけるユニーク制限酵素配列はAsiSIを認識する。本発明の更に別の態様において、HCVレプリコンシャトルベクターは、配列番号3又は配列番号6から選択されたHCVポリヌクレオチド配列を含む。
【0017】
本発明の更なる態様は、HCVに感染した被験体から試料を得る工程、ユニーク制限酵素配列を含むセンス鎖プライマー、及び異なるユニーク制限酵素配列を含むアンチセンス鎖プライマーを用いて、試料中に存在する複数のHCV疑似種からNS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列をPCR増幅する工程、前記のPCR増幅されたポリヌクレオチド配列をHCVレプリコンシャトルベクターにクローニングすることにより、キメラHCVレプリコンポジティブミドを作製する工程、前記のキメラHCVレプリコンポジティブミドを鎖状化し、前記の鎖状化されたポジティブミドをインビトロ転写にかけることにより、キメラHCVレプリコンRNAを作製する工程、及び、Huh7細胞株を前記のHCVレプリコンRNAでトランスフェクトし、HCV NS3プロテアーゼ阻害剤の存在下又は非存在下で前記のHCVレプリコンRNAの複製レベルを測定する工程を含む、被験体のHCV感染を制御するHCV NS3プロテアーゼ阻害剤の効力を評価するための方法を提供する。
【0018】
本発明の他の更なる態様は、HCVに感染した被験体から試料を得る工程、ユニーク制限酵素配列を含むセンス鎖プライマー、及び異なるユニーク制限酵素配列を含むアンチセンス鎖プライマーを用いて、試料中に存在する複数のHCV疑似種からNS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列をPCR増幅する工程、前記のPCR増幅されたポリヌクレオチド配列をHCVレプリコンシャトルベクターにクローニングすることにより、キメラHCVレプリコンポジティブミドを作製する工程、前記のポジティブミドを細胞内に形質転換することにより、複数の形質転換細胞のコロニーを作製する工程、前記のコロニーをプールし、プールされたコロニーからキメラHCVレプリコンポジティブミドを単離する工程、前記キメラHCVレプリコンポジティブミドを鎖状化し、前記の鎖状化されたポジティブミドをインビトロ転写にかけることにより、キメラHCVレプリコンRNAを作製する工程、及び、Huh7細胞株を前記のHCVレプリコンRNAでトランスフェクトし、HCV NS3プロテアーゼ阻害剤の存在下又は非存在下で前記HCVレプリコンRNAの複製レベルを測定する工程を含む、被験体のHCV感染を制御するHCV NS3プロテアーゼ阻害剤の効力を評価するための方法を提供する。
【0019】
本発明の前記及び他の利点及び特徴、並びに、それを達成するための方法は、例示的な態様を示す添付の実施例と併せて、以下の本発明の詳細な説明を考慮すればより容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、HCVレプリコンシャトルベクターの成分の図解である。
【図2】図2は、NS3プロテアーゼレプリコンシャトルベクター(A)pSC_1b_NS3/プロテアーゼ_EcoRV_AsiSI(配列番号3);(B)pSC_1b_NS3/プロテアーゼ/LacZ_EcoRV_AsiSI(配列番号6)のポジティブミド図を示す。
【図3】図3は、pSC_1b_NS3/プロテアーゼ_EcoRV_AsiSI、並びに、HCV遺伝子型1a又は遺伝子型1bに由来する患者由来のNS3プロテアーゼを含むレプリコンの複製能を示す。RLUは、トランスフェクションから96時間後に観察されたホタルルシフェラーゼシグナルのレベルを示す。
【0021】
本発明で使用される用語は、以下に定義されている。
【0022】
用語「HCVレプリコン」とは、自分自身のコピーの作製を指令することのできる、C型肝炎ウイルス由来の核酸のことをいう。本明細書で使用される用語「レプリコン」には、RNA並びにDNA、及びそのハイブリッドが含まれる。例えば、HCVレプリコンを構成する一本鎖RNA転写物を作製するために、二本鎖DNA形のHCVゲノムを使用することができる。HCVレプリコンには、完全長HCVゲノム、又はHCVサブゲノム構造物(これは「サブゲノムレプリコン」とも呼ばれる)が含まれ得る。例えば、本明細書で記載されたHCVのサブゲノムレプリコンは、ウイルスの非構造タンパク質に関する遺伝子の大半を含んでいるが、構造タンパク質をコードする遺伝子の大半を欠失している。サブゲノムレプリコンは、ウイルスサブゲノムの複製、サブゲノムレプリコンの複製に必要な、全てのウイルス遺伝子の発現を、ウイルス粒子を産生することなく、指令することができる。
【0023】
基本的なHCVレプリコンは、HCV5’非翻訳(UTR)領域、HCV NS3−NS5Bポリタンパク質コード領域、及びHCV3’−UTRを含む、サブゲノム構造物である。他の核酸領域、例えば、HSC NS2、HCV構造タンパク質、及び非HCV配列などの領域も存在し得る。
【0024】
HCV5’−UTR領域は、タンパク質翻訳のための内部リボソーム進入部位(IRES)、及び複製に必要とされるエレメントを提供する。HCV5’−UTR領域は、HCVコアコード領域中内に約36ヌクレオチド伸長している天然HCV5’−UTR、及びその機能的誘導体を含む。5’−UTR領域は、選択タンパク質、リポータータンパク質、又はHCVポリタンパク質をコードする配列より下流の部位などの様々な位置に存在し得る。
【0025】
HCV5’−UTR−PC領域の他に、レプリコン内には非HCV IRESエレメントが存在していてもよい。非HCV IRESエレメントは、HCVポリタンパク質をコードしている領域のすぐ上流を含め、様々な位置に存在し得る。使用できる非HCV IRESエレメントの例は、EMCV IRES、ポリオウイルスIRES、及びウシウイルス性下痢症ウイルスIRESである。
【0026】
HCV3’−UTRは、HCVの複製を補助する。HCV3’UTRは、天然HCV3’−UTR及びその機能的誘導体を含む。天然3’−UTRは、ポリUトラクト及び約100ヌクレオチドの追加領域を含む。
【0027】
NS3−NS5Bポリタンパク質コード領域は、細胞中で様々なタンパク質へとプロセシングされ得るポリタンパク質を提供する。適切なNS3−NS5Bポリタンパク質配列(レプリコンの一部であってもよい)には、NS3−NS5Bのプロセシングにより機能的な複製機械を生じるような、様々なHCV株に存在する配列及びその機能的等価体が含まれる。適切なプロセシングは、例えば、NS5B RNA依存性RNAポリメラーゼをアッセイすることにより測定することができる。
【0028】
「ベクター」は、ポジティブミド、ファージ、又はコスミドなどのDNA片に別の一片のDNAセグメントが付着し得、これにより、付着したDNAセグメントの複製、発現、又は組込みがもたらされるような、前記DNA片である。「シャトルベクター」は、DNAセグメントを、ベクター内の特定の制限酵素部位に挿入、又は同部位から切り出すことができるベクターのことをいう。シャトルベクターに挿入されたDNAセグメントは、一般に、対象のポリペプチド又はRNAをコードしており、この制限酵素部位は、転写及び翻訳のためにDNAセグメントが適切なリーディングフレーム内に確実に挿入されるように設計されている。
【0029】
様々なベクターを使用して、核酸分子を発現させることができる。このようなベクターには、染色体、エピソーム、及びウイルスに由来するベクター、例えば、細菌性ポジティブミド由来、バクテリオファージ由来、酵母エピソーム由来、酵母染色体エレメント由来(酵母人工染色体を含む)、バキュロウイルス、SV40などのパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ヘルペスウイルス、及びレトロウイルスなどのウイルスに由来するベクターが含まれる。ベクターはまた、これらの供給源の組合せ、例えばポジティブミドとバクテリオファージ遺伝的エレメントに由来するベクター、例えば、コスミドとファージミドに由来し得る。原核宿主及び真核宿主に適切なクローニングベクター及び発現ベクターは、Sambrook et al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd edn. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, USAに記載されている。
【0030】
適切な核酸分子を含むベクターを、公知の技術を使用して増殖又は発現させるための適切な宿主細胞に導入することができる。宿主細胞には、細菌細胞(これには、大腸菌(E. coli)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、及びサルモネラ菌(Salmonella typhimurium)が含まれるがこれに限定されるわけではない)、真核細胞(これには、酵母、昆虫細胞、例えばショウジョウバエ(Drosophila)、動物細胞、例えば、Huh−7、HeLa、COS、HEK293、MT−2T、CEM−SS、及びCHO細胞、及び植物細胞が含まれるがこれに限定されるわけではない)が含まれ得る。
【0031】
ベクターには、一般に、組換えベクター構造物を含む細胞の部分集団の選択を可能とする、選択マーカーが含まれる。マーカーは、本明細書で記載された核酸分子を含む同ベクターに含まれてもいても、又は、別のベクター上にあってもよい。マーカーには、原核宿主細胞ではテトラサイクリン又はアンピシリン耐性遺伝子、真核宿主細胞ではジヒドロ葉酸レダクターゼ又はネオマイシン耐性遺伝子が含まれる。しかしながら、表現型形質について選択性を与える任意のマーカーが有効であろう。
【0032】
「ポリヌクレオチド」又は「核酸分子」は、一般に、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドのことをいい、これは、修飾されていないRNA又はDNAであっても修飾されているRNA又はDNAであってもよい。「ポリヌクレオチド」には、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖と二本鎖領域の混合したDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、及び一本鎖と二本鎖領域の混合したRNA、一本鎖もしくはより典型的には二本鎖であり得るか、又は一本鎖と二本鎖領域の混合したDNAとRNAを含むハイブリッド分子が含まれるがこれに限定されるわけではない。更に、「ポリヌクレオチド」は、RNAもしくはDNA、又はRNA及びDNAの両方を含む、3本鎖領域のことをいう。「ポリヌクレオチド」はまた、比較的短いポリヌクレオチドも包含し、これはオリゴヌクレオチドとも呼ばれる。
【0033】
更に、用語「DNA分子」は、分子の一次構造及び二次構造だけのことをいい、任意の特定の3次元形態に限定されない。従って、この用語には、とりわけ鎖状DNA分子(例えば制限酵素断片)、ウイルス、ポジティブミド、及び染色体に見られる二本鎖DNAが含まれる。特定の二本鎖DNA分子の構造を議論する際に、本明細書では、DNAの非転写鎖(すなわち、mRNAと相同な配列を有する鎖)に沿って5’から3’の配列だけを示すという通常の慣例に従って、配列が記載され得る。
【0034】
「RNA分子」は、その一本鎖形態又は二本鎖ヘリックス形態におけるリボヌクレオチドの多量体形態のことをいう。特定のRNA分子の構造を議論する際に、本明細書では、5’から3’に配列を示すという通常の慣例に従って、配列が記載され得る。
【0035】
用語「制限酵素配列」は、細菌酵素により認識され切断される特定の二本鎖DNA配列のことをいい、その酵素の各々が、特定のヌクレオチド配列において又はその配列の近くにおいて二本鎖DNAを切断する。制限酵素「EcoRV」は、配列
【表1】


を認識し、指定されたヌクレオチド位置
【表2】


において二本鎖DNAを切断する。制限酵素「AsiSI」は、配列
【表3】


を認識し、認識配列上のT残基の後を切断する。
【0036】
本明細書で使用された用語「プライマー」は、RNA又はDNAであり、一本鎖又は二本鎖であり、生物系に由来するか、制限酵素による消化により作製されるか、又は、合成的に作製された、オリゴヌクレオチドのことをいい、これは適切な環境に置かれると、鋳型依存性核酸合成の開始剤として機能的に作用することができる。適切な核酸鋳型、適切な核酸のヌクレオシド三リン酸前駆体、ポリメラーゼ酵素、適切な補因子、及び条件(例えば適切な温度及びpH)が提示されると、ポリメラーゼまたは類似の活性の作用によるヌクレオチドの付加によりその3’末端においてプライマーが伸長されて、プライマー伸長産物が生成される。プライマーは、適用される具体的な条件及び必要条件に応じて長さを変更してもよい。例えば、PCR反応では、プライマーは、典型的には、15〜25ヌクレオチド長又はそれ以上の長さである。プライマーは、所望の伸長産物の合成を開始させるためには、所望の鋳型に対して十分な相補性を有していなければならない、すなわち、ポリメラーゼ又は類似の酵素による合成の開始に使用するためにプライマーの3’−ヒドロキシル部分が適切に並置されるように、所望の鋳型鎖と十分にアニーリングできなければならない。プライマー配列が、所望の鋳型に対して正確な相補性を示す必要はない。例えば、非相補性ヌクレオチド配列(例えば、制限酵素認識配列)を、他の点では相補的なプライマーの5’末端に付着させてもよい。又は、プライマー配列が、所望の鋳型鎖の配列に対して十分な相補性を有しており、これにより伸長産物の合成のための鋳型−プライマー複合体が機能的であるならば、非相補性塩基がオリゴヌクレオチドプライマー配列内に散在されていてもよい。
【0037】
本明細書で使用された用語「キメラ」は、共に融合又はスプライシングされた2つ以上の異なる供給源のDNAから得られたDNA分子を意味する。
【0038】
本明細書で使用した「疑似種(quasispecies)」は、優性HCVゲノム配列(すなわち遺伝子型)の微小変異体の集合体を意味し、該微小変異体は、HCV複製中の高い突然変異率の結果として、1つの感染被験体において、又は更には単一の細胞クローンにおいて形成されている。
【0039】
本明細書で使用した「被験体」とは、脊椎動物、特に哺乳動物種のメンバーのことをいい、これには、げっ歯類、ウサギ、トガリネズミ、及び霊長類(ヒトを含む)が含まれるがこれに限定されるわけではない。
【0040】
用語「試料」は、被験体から単離された組織又は液体の試料のことをいい、これには、例えば、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、皮膚、呼吸器、腸管及び尿生殖器の外部切片、涙液、唾液、乳汁、血球、腫瘍、臓器、及びまた、インビトロの細胞培養構成成分の試料(これには、培養細胞の増殖から得られた馴化培地、推定ウイルス感染細胞、組換え細胞、及び細胞成分が含まれるがこれに限定されるわけではない)が含まれるがこれに限定されるわけではない。
【0041】
外来性又は異種性DNA又はRNAが細胞内に導入された時、そのような外来性又は異種性DNA又はRNAにより細胞が「形質転換」又は「トランスフェクト」される。形質転換又はトランスフェクトするDNA又はRNAは、細胞のゲノムを構成している染色体DNAに組み込まれていても(共有結合していても)組み込まれていなくてもよい。例えば、原核細胞、酵母、及び哺乳動物細胞では、形質転換DNAは、ポジティブミドなどのエピソームエレメント上に維持されていてもよい。真核細胞に関しては、安定に形質転換された細胞とは、形質転換DNAが染色体中に組み込まれ、これによりそのDNAが染色体の複製を通じて娘細胞に遺伝されるような細胞である。この安定性は、真核細胞が、形質転換DNAを含む娘細胞の集合からなる細胞株又はクローンを確立できることにより実証される。本発明に記載したような哺乳動物細胞を形質転換するHCVレプリコンの場合、RNA分子、例えばHCV RNA分子は、半自律的に複製する能力を有する。HCVレプリコンを有するHuh−7細胞は、レプリコン上に存在する選択マーカー又はリポーター遺伝子の存在により検出される。
【0042】
「クローン」は、一般的に有糸分裂の過程により、単一細胞又はコンセンサスの祖先から得られた細胞集団のことをいう。
【0043】
実施例
以下の調製物及び実施例は、当業者が、本発明をより明瞭に理解でき実践できるようにするために記載されている。それらは本発明を制限するものと捉えるべきではなく、単なる説明及び例示と捉えるべきである。
【0044】
実施例1
ポジティブミドの作製
NS3プロテアーゼレプリコンシャトルベクターは、HCV NS3レプリコンシャトルベクターpSC_1b_NS3_EcoRV_XbaIの作製に使用される中間体ベクターである、HCVレプリコンシャトルベクターpSC_1b_NS3_EcoRVから得られ、これは、2007年9月27日に提出された題名「HCV NS3レプリコンシャトルベクター」のChua et al.による米国特許出願USSN 60/995,558に開示されており、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。レプリコンシャトルベクターの成分が図1に示されており、これには5’−UTRから、NS3〜NS5Bタンパク質、及び3’−UTRまでのHCVポリヌクレオチド配列が含まれている。該ベクターはまた、ポリオウイルス内部リボソーム進入部位(IRES)が含まれており、これはホタルルシフェラーゼ遺伝子の翻訳を制御する。ホタルルシフェラーゼ遺伝子の下流にある、脳心筋炎ウイルス(EMCV)由来のIRESは、HCV非構造遺伝子(NS3、NS4A、NS4B、NS5A、及びNS5B)の翻訳を制御する。
【0045】
クイックチェンジ部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene, La Jolla, CA, USA)を使用して製造業者の指示に従って、突然変異をpSC_1b_NS3_EcoRV_XbaIに導入した。NS3遺伝子のプロテアーゼドメインの3’末端(アミノ酸位置Ser181に相当)にAsiSI制限酵素配列を導入するために、以下のプライマーを使用した:
【表4】


これらの突然変異は、NS3タンパク質のアミノ酸コード配列を変化させず、これにより、NS3プロテアーゼシャトルベクターpSC_1b_NS3/プロテアーゼ_EcoRV_AsiSI(配列番号3、図2A)が作製された。NS3遺伝子のプロテアーゼドメインをコードする配列を、pUC19(GenBankアクセッション番号M77789)由来のβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)コード配列により置換することにより、別のNS3プロテアーゼレプリコンシャトルベクターが作製された。lacZ遺伝子の5’末端にEcoRV制限部位を、3’末端にAsiSI制限部位を、以下のプライマー
【表5】


を使用してPCR増幅により導入し、ベクターpSC_1b_NS3/プロテアーゼ/LacZ_EcoRV_AsiSI(配列番号6、図2B)を作製した。
【0046】
NS3プロテアーゼレプリコンシャトルベクターの複製能は、実施例3に記載した(及び図3に示した)表現型アッセイを使用して評価した。
【0047】
実施例2
感染患者から増幅させたNS3プロテアーゼドメインPCR試料の、NS3プロテアーゼレプリコンシャトルベクターへのクローニング
NS3遺伝子のプロテアーゼドメインをコードするDNA配列を、SuperScript IIIシステム(Invitrogen)を使用して製造業者のプロトコルに従って、HCV遺伝子型1a及び遺伝子型1bに感染した患者から得られた血漿由来のRNAの逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により作製した。このRT−PCR工程に使用されたプライマーは、以下の通りであった:
【表6】

【0048】
最初に50℃でアニーリングが行なわれ、その後、94℃での変性、53℃でのアニーリング、及び68℃での伸長というPCRサイクルが行なわれた。その後、増幅産物を、Phusion(商標)高忠実度DNAポリメラーゼシステム(New England Biolabs)を用いて、NS3タンパク質のプロテアーゼドメインの5’及び3’末端にユニーク制限酵素配列を導入するプライマーを使用して2回目のPCRにかけた。患者のNS3遺伝子配列の5’末端近辺にEcoRV制限酵素配列を導入するために使用されるセンスプライマーは、以下の通りであった:
【表7】

【0049】
NS3遺伝子配列のプロテアーゼドメインの3’末端(アミノ酸位置Ser181に相当する)近辺にAsiSI制限酵素配列を導入するために使用されるアンチセンスプライマーは、以下の通りであった:
【表8】

【0050】
98℃での変性、53℃でのアニーリング、72℃での伸長を含むPCRサイクルにより増幅を行なった。次いで、増幅された患者のNS3プロテアーゼDNAを、Qiagen PCR精製カラムを使用して精製し、EcoRV及びSgfI(AsiSIのイソ制限酵素)を用いて消化した。
【0051】
NS3プロテアーゼシャトルレプリコンベクターpSC_1b_NS3/プロテアーゼ_EcoRV_AsiSI又はpSC_1b_NS3/プロテアーゼ/LacZ_EcoRV_AsiSIを、制限エンドヌクレアーゼEcoRV及びSgfIによる二重の消化により調製した。25ngのシャトルベクターを、16℃で1.5時間かけてMightMixライゲーションキット(Takara Bio Inc.)を使用して、消化された患者のアンプリコンとライゲートした。1:2から1:4のベクターと挿入断片の比が慣例的に使用された。5μlの反応液を、50μlのTop10セル(Invitrogen)中に形質転換し、37℃での1時間の表現型発現後に播種した。
【0052】
96個の独立したコロニーを拾い上げて、50μg/mlのアンピシリンを補充した200μlのテリフィック培地(TB)に接種した。この「ストック」96穴プレートを37℃で一晩インキュベートした。次の日、このプレートを使用することによりレプリカプレートを調製した。48ピンスタンプを使用して、100μg/mlのカルベニシリンを補充した2枚のLBプレートにレプリカ平板培養した。96個の個々の200μlの培養液もまた、50μg/mlのアンピシリンの補充された1.5mlのTB培養液に移され、DNA調製のために使用された。37℃で一晩インキュベートした後、レプリカプレートを、6mlのLBと共に広げて、96クローンの異種のプールを得て、これを使用してDNAのミニ調製を行なった。次いで、このDNA患者プールをその後のレプリコン表現型アッセイに使用した。37℃で一晩振とうした後、96個の個々の1.5mlのTB培養液を遠心分離器で沈殿させ、デカントし、ポジティブミドDNAをQiagen’s Qiaprep 96 Turbo Mini-DNAキットを使用して抽出した。レプリコン表現型アッセイに使用される複合性96プールに相当するこれらの個々の分子クローンを、シークエンス反応に使用した。
【0053】
異種クローンプールポジティブミドDNA又は個々の分子クローンをシークエンスにかけることにより、患者試料の同一性を確認、及び表現型レプリコンアッセイにおける阻害剤に対する感受性を調べた。
【0054】
実施例3
表現型レプリコンアッセイ
A.インビトロで転写されたRNAの調製
5μgのDNAポジティブミドを、ScaI制限酵素(Roche)により鎖状化した。37℃で一晩消化した後、DNAを、Qiagen PCR精製キットを使用して精製した。1μgの鎖状DNAを、製造業者のプロトコルに従ってT7 RiboMAX Express(Promega)を使用してインビトロでの転写に使用した。37℃で2時間インキュベートした後、DNaseでの処理を37℃で30分間行なうことにより、DNA鋳型を除去した。その後、インビトロで転写されたRNAを、製造業者のプロトコルに従ってRNeasy spin column(Qiagen)を使用して精製した。
【0055】
B.肝細胞腫細胞株
肝細胞腫Lunet Huh-7細胞株を、Glutamax(商標)及び100mg/mlのピルビン酸ナトリウムの補充されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中、5%COを含む加湿雰囲気中で37℃で培養した。培地には、10%(v/v)FBS及び1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシンが更に補充された。全ての試薬は、Invitrogen/Gibco製であった。
【0056】
C.一過性レプリコン複製レベルの測定
4百万個のLunet Huh7細胞を、電気穿孔法を使用して5μgのインビトロで転写されたRNAを用いてトランスフェクトした。次いで、細胞を、5%FBSを含む7.2mlのDMEMに再懸濁し、50000細胞/穴で96穴プレートに播種した(最終容量90μl)。阻害剤(使用した場合)を、3倍希釈して最終DMSO濃度1%でトランスフェクションの24時間後に加え、ホタルルシフェラーゼリポーターシグナルを、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を使用して阻害剤を添加してから72時間後に解読した。化合物を添加しなかった場合のホタルルシフェラーゼシグナルのレベルと比べて、ホタルルシフェラーゼリポーターのレベルの50%低下が観察された阻害剤の濃度であるIC50値について評価した。
【0057】
レプリコンシャトルベクターpSC_1b_NS3/プロテアーゼ_EcoRV_AsiSIの複製能力並びにHCV遺伝子型1a及び遺伝子型1b患者由来NS3プロテアーゼドメインを含むレプリコンの複製能力を、解読値としてルシフェラーゼシグナルを用いて試験し、結果を図3に示す。HCVプロテアーゼ阻害剤であるBILN2061、VX−950、及びNM107の阻害作用もまた、これらのレプリコンにおいて試験し、結果を表1に示す。
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(a)NS3タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の5’末端から、5’へ10ヌクレオチドと、3’へ10ヌクレオチドとの間に配置されたユニーク制限酵素配列;
(b)NS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列;
(c)NS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列の3’末端から、5’へ10ヌクレオチドと、3’へ10ヌクレオチドとの間に配置されたユニーク制限酵素配列;
(d)NS3タンパク質のヘリカーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列;
(e)NS4Aタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列;
(f)NS4Bタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列;
(g)NS5Aタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列;及び
(h)NS5Bタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列
をこの順番で含む、HCVポリヌクレオチド配列を含むHCVレプリコンシャトルベクター。
【請求項2】
NS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列が、NS3タンパク質のプロテアーゼドメインが機能しないように改変又は欠失されている、請求項1記載のHCVレプリコンシャトルベクター。
【請求項3】
NS3タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の5’末端におけるユニーク制限酵素配列はEcoRVを認識し、NS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列の3’末端におけるユニーク制限酵素配列はAsiSIを認識する、請求項1又は請求項2記載のHCVレプリコンシャトルベクター。
【請求項4】
配列番号3又は配列番号6から選択されるHCVポリヌクレオチド配列を含むHCVレプリコンシャトルベクター。
【請求項5】
被験体のHCV感染を制御するHCV NS3プロテアーゼ阻害剤の効力を評価するための方法であって、以下の工程:
(a)HCVに感染した被験体から試料を提供する工程;
(b)ユニーク制限酵素配列を含むセンス鎖プライマー、及び異なるユニーク制限酵素配列を含むアンチセンス鎖プライマーを用いて、試料中に存在する複数のHCV疑似種からNS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列をPCR増幅する工程:
(c)前記のPCR増幅されたポリヌクレオチド配列をHCVレプリコンシャトルベクターにクローニングすることにより、キメラHCVレプリコンポジティブミドを作製する工程;
(d)前記のキメラHCVレプリコンポジティブミドを鎖状化し、前記の鎖状化されたポジティブミドをインビトロ転写にかけることにより、キメラHCVレプリコンRNAを作製する工程;
(e)Huh7細胞株を前記のHCVレプリコンRNAでトランスフェクトし、HCV NS3プロテアーゼ阻害剤の存在下又は非存在下で前記のHCVレプリコンRNAの複製レベルを測定する工程
を含む方法。
【請求項6】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項1のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項5の方法。
【請求項7】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項2のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項5の方法。
【請求項8】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項3のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項5の方法。
【請求項9】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項4のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項5の方法。
【請求項10】
被験体のHCV感染を制御するHCV NS3プロテアーゼ阻害剤の効力を評価するための方法であって、以下の工程:
(a)HCVに感染した被験体から試料を提供する工程;
(b)EcoRVを認識する制限酵素配列を含むセンス鎖プライマー、及びAsiSIを認識する制限酵素配列を含むアンチセンス鎖プライマーを用いて、試料中に存在する複数のHCV疑似種からNS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列をPCR増幅する工程:
(c)前記のPCR増幅されたポリヌクレオチド配列をHCVレプリコンシャトルベクターにクローニングすることにより、キメラHCVレプリコンポジティブミドを作製する工程;
(d)前記のキメラHCVレプリコンポジティブミドを鎖状化し、前記の鎖状化されたポジティブミドをインビトロ転写にかけることにより、キメラHCVレプリコンRNAを作製する工程;
(e)Huh7細胞株を前記のHCVレプリコンRNAでトランスフェクトし、HCV NS3プロテアーゼ阻害剤の存在下又は非存在下で前記のHCVレプリコンRNAの複製レベルを測定する工程
を含む方法。
【請求項11】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項1のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項10の方法。
【請求項12】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項2のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項10の方法。
【請求項13】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項3のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項5の方法。
【請求項14】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項4のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項5の方法。
【請求項15】
被験体のHCV感染を制御するHCV NS3プロテアーゼ阻害剤の効力を評価するための方法であって、以下の工程:
(a)HCVに感染した被験体から試料を提供する工程;
(b)配列番号11又は配列番号12から選択されたヌクレオチド配列を含むセンス鎖プライマー、及び配列番号13又は配列番号14から選択されたヌクレオチドを含むアンチセンス鎖プライマーを用いて、試料中に存在する複数のHCV疑似種からNS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列をPCR増幅する工程:
(c)前記のPCR増幅されたポリヌクレオチド配列をHCVレプリコンシャトルベクターにクローニングすることにより、キメラHCVレプリコンポジティブミドを作製する工程;
(d)前記のキメラHCVレプリコンポジティブミドを鎖状化し、前記の鎖状化されたポジティブミドをインビトロ転写にかけることにより、キメラHCVレプリコンRNAを作製する工程;
(e)Huh7細胞株を前記のHCVレプリコンRNAでトランスフェクトし、HCV NS3プロテアーゼ阻害剤の存在下又は非存在下で前記のHCVレプリコンRNAの複製レベルを測定する工程
を含む方法。
【請求項16】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項1のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項15の方法。
【請求項17】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項2のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項15の方法。
【請求項18】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項3のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項15の方法。
【請求項19】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項4のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項15の方法。
【請求項20】
被験体のHCV感染を制御するHCV NS3プロテアーゼ阻害剤の効力を評価するための方法であって、以下の工程:
(a)HCVに感染した被験体から試料を提供する工程;
(b)ユニーク制限酵素配列を含むセンス鎖プライマー、及び異なるユニーク制限酵素配列を含むアンチセンス鎖プライマーを用いて、試料中に存在する複数のHCV疑似種からNS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列をPCR増幅する工程:
(c)前記のPCR増幅されたポリヌクレオチド配列をHCVレプリコンシャトルベクターにクローニングすることにより、キメラHCVレプリコンポジティブミドを作製する工程;
(d)前記のポジティブミドを細胞内に形質転換することにより、複数の形質転換細胞のコロニーを作製する工程;
(e)前記のコロニーをプールし、プールされたコロニーからキメラHCVレプリコンポジティブミドを単離する工程;
(f)工程(e)の前記キメラHCVレプリコンポジティブミドを鎖状化し、前記の鎖状化されたポジティブミドをインビトロ転写にかけることにより、キメラHCVレプリコンRNAを作製する工程;
(g)Huh7細胞株を前記のHCVレプリコンRNAでトランスフェクトし、HCV NS3プロテアーゼ阻害剤の存在下又は非存在下で前記HCVレプリコンRNAの複製レベルを測定する工程
を含む方法。
【請求項21】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項1のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項20の方法。
【請求項22】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項2のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項20の方法。
【請求項23】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項3のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項20の方法。
【請求項24】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項4のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項20の方法。
【請求項25】
被験体のHCV感染を制御するHCV NS3プロテアーゼ阻害剤の効力を評価するための方法であって、以下の工程:
(a)HCVに感染した被験体から試料を提供する工程;
(b)EcoRVを認識する制限酵素配列を含むセンス鎖プライマー、及びAsiSIを認識する制限酵素配列を含むアンチセンス鎖プライマーを用いて、試料中に存在する複数のHCV疑似種からNS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列をPCR増幅する工程:
(c)前記のPCR増幅されたポリヌクレオチド配列をHCVレプリコンシャトルベクターにクローニングすることにより、キメラHCVレプリコンポジティブミドを作製する工程;
(d)前記のポジティブミドを細胞内に形質転換することにより、複数の形質転換細胞のコロニーを作製する工程;
(e)前記コロニーをプールし、プールされたコロニーからキメラHCVレプリコンポジティブミドを単離する工程;
(f)工程(e)の前記キメラHCVレプリコンポジティブミドを鎖状化し、前記の鎖状化されたポジティブミドをインビトロ転写にかけることにより、キメラHCVレプリコンRNAを作製する工程;
(g)Huh7細胞株を前記のHCVレプリコンRNAでトランスフェクトし、HCV NS3プロテアーゼ阻害剤の存在下又は非存在下で前記HCVレプリコンRNAの複製レベルを測定する工程
を含む方法。
【請求項26】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項1のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項25の方法。
【請求項27】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項2のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項25の方法。
【請求項28】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項3のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項25の方法。
【請求項29】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項4のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項25の方法。
【請求項30】
被験体のHCV感染を制御するHCV NS3プロテアーゼ阻害剤の効力を評価するための方法であって、以下の工程:
(a)HCVに感染した被験体から試料を提供する工程;
(b)配列番号11又は配列番号12から選択されたヌクレオチド配列を含むセンス鎖プライマー、及び配列番号13又は配列番号14から選択されたヌクレオチドを含むアンチセンス鎖プライマーを用いて、試料中に存在する複数のHCV疑似種からNS3タンパク質のプロテアーゼドメインをコードするポリヌクレオチド配列をPCR増幅する工程:
(c)前記のPCR増幅されたポリヌクレオチド配列をHCVレプリコンシャトルベクターにクローニングすることにより、キメラHCVレプリコンポジティブミドを作製する工程;
(d)前記のポジティブミドを細胞内に形質転換することにより、複数の形質転換細胞のコロニーを作製する工程;
(e)前記コロニーをプールし、プールされたコロニーからキメラHCVレプリコンポジティブミドを単離する工程;
(f)工程(e)の前記キメラHCVレプリコンポジティブミドを鎖状化し、前記の鎖状化されたポジティブミドをインビトロ転写にかけることにより、キメラHCVレプリコンRNAを作製する工程;
(g)Huh7細胞株を前記のHCVレプリコンRNAでトランスフェクトし、HCV NS3プロテアーゼ阻害剤の存在下又は非存在下で前記HCVレプリコンRNAの複製レベルを測定する工程
を含む方法。
【請求項31】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項1のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項30の方法。
【請求項32】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項2のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項30の方法。
【請求項33】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項3のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項30の方法。
【請求項34】
工程(c)のHCVレプリコンシャトルベクターは、請求項4のHCVレプリコンシャトルベクターを含む、請求項30の方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−505159(P2011−505159A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536414(P2010−536414)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066417
【国際公開番号】WO2009/071488
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】