説明

HIV感染を阻止する方法および組成物

本発明は、新規HIV相互作用性宿主因子を提供する。本発明はまた、HIV相互作用性宿主因子の使用によるHIV感染を阻害する化合物に関するスクリーニング方法を提供する。本方法では、まず、本明細書で開示したHIV相互作用性宿主因子のモジュレーターについて試験化合物をスクリーニングにかけ、次いでHIV感染の阻止能力について同定された調節性化合物をさらにスクリーニングにかける。さらに本発明は、HIV感染に関連した疾患および状態を処置する方法および医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条第(e)項のもと、2005年12月8日付、米国仮特許出願第60/748759号に対し優先権を主張するものである。優先権出願の開示をそのままあらゆる目的に関して出典明示で援用する。
【0002】
発明の分野
本発明は、概してHIV感染の阻止に関するものである。さらに具体的には、本発明は、新規HIV相互作用性宿主因子の同定、および上記宿主因子の使用による、HIV感染を阻止する新規化合物の同定方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、レトロウイルス科に属するレンチウイルスである。性的接触および妊娠中におけるHIVの伝染は、全世界でのAIDS症例の原因の90%に及ぶ割合を占めると推定された。この伝染は、感染した体液、例えば精液、膣分泌物または血液に暴露されたとき、生殖器または胎盤の粘膜バリアをウイルスが通り抜けることにより開始される。残りのAIDS症例は、HIV汚染血の輸血、静注薬物使用者間での注射針共用、侵襲的処置中におけるHIV汚染体液への偶発的暴露、および感染ウイルスが感受性ヒト組織との直接接触に至り得る他の状況に起因している。
【0004】
HIV感染およびAIDS処置用の現在利用可能な薬剤は満足のいくものではない。HIV感染処置用の一般的薬剤、例えばAZTまたはHIVプロテアーゼ阻害剤の毒性または望ましくない副作用は、有効な医薬濃度で使用した場合にそれらの抗ウイルス活性とは両立しがたいものである。ウイルスゲノムの突然変異性が高いため、現在利用可能な薬剤に対する耐性が急速に発生し、次いで集団全体に蔓延する。すなわち、当業界では、AIDSおよびHIV感染を予防および処置する優れた代替化合物および新規治療標的が依然として要望されている。本発明は、上記および他の要望に取り組むものである。
【発明の開示】
【0005】
発明の要旨
一態様において、本発明は、HIV感染を阻止する薬剤の同定方法を提供する。本発明方法では、試験化合物をスクリーニングにかけることにより、表2〜4に列挙した構成員から選択されるポリヌクレオチドによりコード化されるHIV相互作用性宿主因子の生物活性または発現レベルをダウンレギュレーションする1種またはそれ以上の調節性化合物を同定し、次いで同定された化合物をHIV感染の阻止能力について試験する。本発明方法の一部では、使用されるHIV相互作用性宿主因子は、テトラトリコペプチド反復配列1(IFIT1)、ホスファチジルイノシトール転移タンパク質アルファ(PITPNα)、または混合型(mixed lineage)キナーゼ3(MLK3)である。これらの方法の一部はMLK3を使用し、MLK3のキナーゼ活性またはその発現を阻害する能力について試験化合物をスクリーニングにかける。
【0006】
上記方法の中には、HIV感染細胞におけるHIV LTRプロモーターの制御下でのリポーター遺伝子の発現を調べることにより、調節性化合物によるHIV感染阻止能力を検査するものもある。例えば、HIV感染細胞は、ベータ−ガラクトシダーゼリポーター遺伝子を発現するHeLa−CD4−Bgal細胞であり得る。これらの方法の中には、細胞をHIV-IIIbウイルス株により感染させる場合もある。
【0007】
若干の他の方法では、調節性化合物と接触させた遺伝子操作によるHIV許容細胞でのHIV複製を、上記化合物と接触させなかった対照細胞におけるHIV複製と比較することにより、調節性化合物によるHIV−1感染の阻止能力を調べる。若干の方法では、使用するHIV許容細胞は、HeLa−T4−βGal HIV細胞である。方法によっては、HIV複製を、p24抗原ELISA検定法または逆転写酵素活性検定法により調べる場合もある。
【0008】
他の若干の方法では、化合物で処理した宿主細胞におけるシュードウイルス生産を、化合物で処理しなかった対照宿主細胞におけるシュードウイルス生産と比較することにより、化合物によるHIV感染阻止能力を検査する。これらの方法の中には、使用される宿主細胞が293T HEK細胞であるものもある。これらの方法の中には、細胞でHIVシュードウイルスを生産するシュードウイルスプラスミドで宿主細胞をトランスフェクションする場合もある。
【0009】
スクリーニング方法の中には、酵素であるHIV相互作用性宿主因子を使用するものもある。これらの方法では、検定される生物活性は、典型的にはその酵素活性である。これらの方法の中には、キナーゼ、例えばMLK3であるHIV相互作用性宿主因子を用いる場合もある。
【0010】
別の態様において、本発明は、対象におけるHIV感染の阻止方法を提供する。これらの方法では、HIV相互作用性宿主因子の生物活性またはその発現を阻害する化合物の有効量を含む医薬組成物を対象に投与する。HIV相互作用性因子は、表2〜4に列挙した構成員から選択されるポリヌクレオチドによりコード化される。これらの方法の中には、テトラトリコペプチド反復配列1(IFIT1)、ホスファチジルイノシトール転移タンパク質アルファ(PITPNα)、または混合型キナーゼ3(MLK3)の生物活性または発現を阻害する化合物を使用するものもある。これらの方法の中には、使用される治療用化合物がMLK3、例えばK252aまたはCEPI347のキナーゼ活性を阻害するものもある。
【0011】
本明細書の残りの部分および請求の範囲により、本発明の性質および利点に対する理解はさらに深められ得ると思われる。
【0012】
図面の簡単な説明
図1は、HeLaCD4βgal細胞のHIV感染に対するキナーゼ不活性MLK3(K144R)の影響を示す。HIV−LTRの制御下、ルシフェラーゼリポーターと一緒に野生型MLK3、キナーゼ不活性MLK3(L144R)をコード化するcDNA、または対照プラスミドにより細胞をコトランスフェクションし、次いで24時間後HIV−IIIbにより感染させた。3日後、Brite Glo を用いてルシフェラーゼ活性を測定することにより感染を評価した。キナーゼ不活性突然変異体は、感染を増大させ得なかったことから、野生型MLK3により見られた感染増強に関するキナーゼ機能の必要条件が強調された。データは、陰性対照プラスミドに対する増強倍率として示されており、各検定で繰り返し2回による独立した4検定の要約である。
【0013】
図2は、HIV転写に対するMLK3過剰発現の影響を示す。HeLaCD4βgal細胞を、HIV−LTRの制御下でのルシフェラーゼリポーター(LTRLuc)およびTat発現ベクター(Tat)または対照ベクターSport6−GFP(S6G)と一緒に野生型MLK3をコード化するcDNAまたは対照プラスミド(pcDNA3)でコトランスフェクションすることにより、Tat−依存的またはTat−非依存的転写を評価した。2日後、Brite Glo を用いてルシフェラーゼ活性を測定することにより、転写を評価した。MLK3の発現により、ルシフェラーゼのTat−依存的転写は高められたが、Tat−非依存的転写に対する影響はごく小さかった。データは、陰性対照プラスミド(例えば、pcDNA3/Tat/LTRLuc)に対するMLK3(例えば、MLK3/Tat/LTRLuc)による平均増強倍率として示されており、各検定で繰り返し2回による独立した2検定の要約である。
【0014】
図3A〜3Dは、HIV感染に対してMLK3をターゲッティングするsiRNAの効力を示す。A:HeLaCD4βgal細胞へトランスフェクションされた個々のMLK3 siRNAによるHIV感染に対する効果;B:MLK3をターゲッティングするsiRNAによるHeLaCD4βgal細胞における内因性MLK3レベルの顕著な枯渇;C:ジャーカット細胞へ電気穿孔された個々のMLK3 siRNAによるHIV感染に対する効果;およびD:MLK3をターゲッティングするsiRNAによるジャーカット細胞における内因性MLK3レベルの枯渇。データは、対照GL2 siRNA偏差値と比較した感染阻止または細胞傷害性パーセントとして示されており、1実験当たり12の複製ウェルによる少なくとも3独立実験の平均+/−標準偏差である。
【0015】
詳細な説明
I.概観
本発明は、一つには本発明者らによるHIV感染に関与する新規宿主因子の発見に基づいている。下記実施例で詳述している通り、本発明者らは、HeLa−CD4−βgal細胞およびHIV−IIIbを用いてフォーカスsiRNAライブラリー(Qiagen)および15000のユニーク遺伝子を表すcDNAライブラリー(Origene)の両方をスクリーニングした。ノックダウンの結果HIV感染が阻止されるsiRNAスクリーニングヒットからの96遺伝子を追跡試験用に選択した。これらは、2種の既知HIV相互作用性宿主因子、FurinおよびRad23を含む。スクリーニングから同定されたもう一つのヒットはPak3であり、これは米国仮特許出願第60/650789号に開示されている。選択されたほぼ全てのsiRNAは当初の検定で再確認されたが、62.5%は激しい細胞傷害性を有していた。初めの96ヒットから、再確認された36は、HeLa−CD4−βgal細胞においてそれらの細胞傷害作用よりもかなり大きいHIVに対する効力を呈していた。これらのヒットを表2に示す。cDNAスクリーンから、cDNAのさらなる調製物の試験および配列確認を含む追跡用に、HIV感染の89エンハンサーを選択した。89ヒットのうち、13は、再確認中終始HIV感染の増強を示し続けた。確認されたこれらのヒットを表3に示す。
【0016】
HIV感染においてある一定の役割を演じ得る追加的宿主因子もまた、本発明者らにより酵母2−ハイブリッドスクリーンから同定されている。下記実施例4で詳述しているところによると、本発明者らは、釣り餌としてHIV−1 HXB2 Vprを用いて、GAL4発現ベクター(Clontech)へクローン化したヒト白血球cDNAライブラリーをスクリーニングにかけることにより、新規相互作用性宿主細胞因子を同定した。Vprは、単球およびマクロファージにおけるウイルス複製に不可欠であり、T細胞およびT細胞株においてウイルス複製を増加させるHIV付属タンパク質である。タンパク質−タンパク質相互作用についてさらに確認するためのフィルターリフト検定法を用いて、スクリーニングからの陽性コロニーを、β−ガラクトシダーゼ活性について検定した。スクリーニングから同定された一Vpr相互作用性パートナーはイソペプチダーゼT(IsoT)であり、米国仮特許出願第60/673623号でさらに詳しく開示されている。他のスクリーンヒットを本明細書の表4に示す。
【0017】
siRNAスクリーニング、cDNAスクリーニングおよび酵母2−ハイブリッドスクリーニングから同定された宿主分子を、本明細書では「HIV相互作用性宿主因子」と称す。これらの宿主因子は、HIV感染の様々な段階で重要な役割を演じ得る。それらはまた、HIV感染を阻止する化合物についてスクリーニングするのに使用され得る新規標的を提供する。以下の項では、これらの宿主因子の使用による新規抗HIV剤の同定についてのさらなる指針を提供する。
【0018】
II.定義
特に断らなければ、本明細書で使用している技術および科学用語は全て、本発明が属する業界の者が一般的に理解しているのと同じ意味を有するものとする。以下の参考文献は、本発明で使用している用語の多くの一般的定義を当業者に提供している:Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology、Smith et al.(編)、Oxford University Press(改訂版、2000);Dictionary of Microbiology and Molecular Biology、Singleton et al.(編)、John Wiley & Sons(第3版、2002);および A Dictionary of Biology(Oxford Paperback Reference)、Martin および Hine(編)、Oxford University Press(第4版、2000)。さらに、本発明の実施に際し、読者の助けとなるように以下の定義を提供する。
【0019】
「薬剤」または「試験薬」の語は、物質、分子、要素、化合物、独立体またはそれらの組み合わせを全て包含する。この語は、限定するわけではないが、例えば、タンパク質、ポリペプチド、小有機分子、多糖類、ポリヌクレオチドなどを包含する。天然産物、合成化合物、または化学的化合物、または2種またはそれ以上の物質の組み合わせであり得る。特に断らなければ、「薬剤」、「物質」および「化合物」の語は互換的に使用され得る。
【0020】
本明細書で使用している「類似体」の語は、構造上基準分子と類似しているが、基準分子の特定置換基を代替置換基と置き換えることにより、標的化および制御された形で修飾された分子をいう。基準分子と比較して、類似体は、同じか、類似しているか、または改良された有用性を呈すると、当業者は予測している。類似体の合成およびスクリーニングにより、特性が改善された(例えば標的分子についての結合親和力が高い)既知化合物の変異型を同定する手法は、製薬化学でよく知られた方法である。
【0021】
本明細書で使用している「接触させる」は、その通常の意味を有し、2個またはそれ以上の分子(例えば、試験薬およびポリペプチド)を合わせるかまたは分子と細胞(例えば、試験薬および細胞)を合わせることをいう。接触は、インビトロで、例えば試験管または他の容器中において2種またはそれ以上の薬剤を合わせるか、または試験薬および細胞または細胞ライセートを合わせることにより達成され得る。接触はまた、細胞またはin situで、例えば2種のポリペプチドをコード化する組換えポリヌクレオチドの細胞における共発現により細胞で、または細胞ライセートで2種のポリペプチドを接触させることにより行われ得る。
【0022】
本明細書で使用している「異種配列」または「異種ポリヌクレオチド」は、特定宿主細胞にとって外来の供給源に由来するか、または同一供給源である場合、その原型に修飾が加えられているものである。すなわち、宿主細胞における異種ポリヌクレオチドは、特定宿主細胞にとっては内生であるが、修飾が加えられたポリヌクレオチドを含む。異種配列の修飾は、例えばポリヌクレオチドを制限酵素で処理して、プロモーターに機能し得るように結合され得るポリヌクレオチドフラグメントを作製することにより行われ得る。例えば位置指定突然変異導入といった技術はまた、異種ポリヌクレオチドの修飾にも有用である。
【0023】
「相同の」の語をタンパク質および/またはタンパク質配列についていうとき、それらが共通祖先のタンパク質またはタンパク質配列から天然にまたは人工的に誘導されていることを示す。同様に、核酸および/または核酸配列が共通祖先の核酸または核酸配列から天然に、または人工的に誘導されている場合、それらは相同である。相同性は、一般的に2種またはそれ以上の核酸またはタンパク質(またはその配列)間における配列類似性から推測される。相同性の確立に有用な配列間の類似性の正確なパーセンテージは、問題となっている核酸およびタンパク質により変動するが、僅か25%程度の配列類似性でも相同性の確立に常用される。また、例えば30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%またはそれ以上といった高レベルの配列類似性も、相同性の確立に使用され得る。
【0024】
本明細書で使用している「宿主細胞」は、異種ポリヌクレオチド(例えば、発現ベクター)が導入される原核生物または真核生物細胞をいう。異種ポリヌクレオチドは、例えばトランスフェクション、電気穿孔、リン酸カルシウム沈降、顕微注入、形質転換、ウイルス感染などといった手段により宿主細胞へ導入され得る。
【0025】
「HIV相互作用性宿主因子」の語は、本発明者らがHIV感染の促進または生命周期においてある一定の役割を演じることを確認した宿主遺伝子またはそれらのコード化ポリペプチドをいう。表2〜4に示したとおり、これらの因子は、ノックダウンされることによりHIV複製の抑制を招く宿主分子およびその過剰発現がHIV感染の増大を誘発する分子を含む。さらに、この語はまた、HIVウイルス感染には不可欠なHIV付属タンパク質Vprと物理的に相互作用する宿主因子を包含する。
【0026】
2つの核酸配列またはアミノ酸配列という状況における「配列同一性」の語は、特定された比較ウインドウ全面にわたって最大一致について整列させたときに同一である2配列における残基をいう。「比較ウインドウ」は、2配列を最適な配置で整列させた後、配列を同数の連続位置の基準配列と比較させ得る連続した少なくとも約20の位置、通常約50〜約200、さらに一般的には約100〜約150の位置を占めるセグメントをいう。比較するための配列の整列方法は当業界では公知である。比較に最適な配列の整列は、Smith および Waterman(1981)Adv.Appl.Math.2:482のローカルホモロジーアルゴリズム;Needleman および Wunsch(1970)J.Mol.Biol.48:443のアラインメントアルゴリズム;Pearson および Lipman(1988)Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.85:2444の類似性検索方法;これらのアルゴリズムのコンピューターによるインプリメンテーション(実装)(限定するわけではないが、PC/GeneプログラムにおけるCLUSTAL(Intelligentics、マウンテン・ビュー、カリフォルニア);および Wisconsin Genetics ソフトウェア・パッケージにおけるGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、またはTFASTA(Genetics Computer Group(GCG)、575サイエンス・ドライブ、マディソン、ウィスコンシン、米国)を含む)により実施され得る。
【0027】
「実質的に同一の」核酸またはアミノ酸配列は、標準パラメーターを用いた上記プログラム(例えば、BLAST)を用いた場合に基準配列と少なくとも90%の配列同一性を有する核酸またはアミノ酸配列をいう。配列同一性は、好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%である。好ましくは、実質的同一性は、少なくとも約50残基長である配列の一領域にわたって、さらに好ましくは少なくとも約100残基の領域にわたって存在し、最も好ましくは、配列は、少なくとも約150残基にわたって実質的に同一である。最も好ましい実施態様では、配列はコーディング領域の全長にわたって実質的に同一である。
【0028】
基準タンパク質またはそのフラグメントの生物活性に関する「調節する」の語は、タンパク質の発現レベルまたは他の生物活性の改変をいう。例えば、調節は、基準タンパク質の発現レベルの増減、タンパク質の酵素的修飾(例えば、リン酸化)、基準タンパク質の結合特性(例えば、標的ポリヌクレオチドへの結合)または他の生物学的、機能的または免疫学的特性の変化を誘導し得る。活性の改変は、例えば基準タンパク質をコード化する1個またはそれ以上の遺伝子の発現、タンパク質をコード化するmRNAの安定性、翻訳効率の増加または減少、または基準タンパク質の他の生物活性の改変から生じ得る。改変はまた、基準タンパク質を調節する別の分子(例えば、基準タンパク質をリン酸化するキナーゼ)の活性に起因し得る。基準タンパク質の調節は、アップレギュレーション(すなわち、活性化または刺激)またはダウンレギュレーション(すなわち、阻害または抑制)であり得る。基準タンパク質のモジュレーターの作用モードは、例えばタンパク質またはタンパク質をコード化する遺伝子への結合により直接的、または例えば他の形で基準タンパク質を調節する別の分子への結合および/またはその修飾(例えば、酵素的)による、間接的なものであり得る。
【0029】
「対象」の語は、哺乳類、特にヒトを含む。また、この語は、他のヒト以外の動物、例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サルを包含する。
【0030】
基準分子の「変異型」は、基準分子全体またはそのフラグメントと構造および生物活性が実質的に類似している分子をいう。すなわち、2分子が類似活性を有するならば、分子の一方の組成または二次、三次または四次構造が他方で見出されるものと同一ではない場合でも、またはアミノ酸残基の配列が同一ではない場合でも、それらは本明細書で使用している変異型の語に該当するものとみなす。
【0031】
III.HIV感染の新規モジュレーターについてのスクリーニング−全般的スキーム
本発明者らが同定したHIV相互作用性宿主因子は、HIV感染を阻止する化合物についてスクリーニングするための新規標的を提供する。当業界でよく知られている様々な生化学的および分子生物学技術または検定法は、本発明の実践に使用され得る。上記技術は、例えばHandbook of Drug Screening、Seethala et al.(編)、Marcel Dekker(第1版、2001);High Throughput Screening: Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology、190)、Janzen(編)、Humana Press(第1版、2002);Current Protocols in Immunology、Coligan et al.(編)、John Wiley & Sons Inc(2002);Sambrook et al.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press(第3版、2001);および Brent et al.、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons Inc.(ringbou版、2003)に記載されている。
【0032】
典型的には、まず、表2〜4に示したポリヌクレオチドによりコード化されるHIV相互作用性宿主因子の生物活性を調節する能力について試験薬をスクリーニングにかける(「第1検定段階」)。次いで、かくして同定された調節薬剤を、典型的にはHIV相互作用性宿主因子の存在下で、HIV感染阻害能についてさらなるスクリーニングにかける(「第2検定段階」)。本方法で使用するHIV相互作用性宿主因子によっては、HIV相互作用性宿主因子の異なる生物活性の調節を第1段階で検定することも可能である。例えば、試験薬をHIV相互作用性宿主因子への結合について検定することが可能である。HIV相互作用性宿主因子の発現、例えば転写または翻訳を調節する活性について試験薬を検定にかけ得る。また試験薬を、HIV相互作用性宿主因子の発現または細胞レベル、例えば翻訳後修飾またはタンパク質分解を調節する活性について検定することも可能である。
【0033】
第1検定段階では、HIV相互作用性宿主因子の生物活性をアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションする能力について試験薬をスクリーニングにかけ得る。HIV相互作用性宿主因子を阻害する試験薬が同定されると、典型的には、HIV感染阻止能についてそれらをさらに試験する。このさらなる試験段階は、HIV相互作用性宿主因子に対するそれらの調節作用が実際にHIV感染の阻止を誘導することを確認するのに必要とされることが多い。例えば、上記調節の結果、HIV感染が抑制または低減化され得ることを確認するためには、表2〜4に示したHIV相互作用性宿主因子の生物活性を阻害する試験薬をさらに試験する必要がある。
【0034】
第1検定段階および第2試験段階の両方では、無傷のHIV相互作用性宿主因子またはそのフラグメントを使用し得る。HIV相互作用性宿主因子の配列と実質的に同一である配列をもつ分子もまた使用し得る。HIV相互作用性宿主因子の類似体または機能的誘導体もまた、スクリーニングで使用し得る。これらの検定法で使用し得るフラグメントまたは類似体は、通常HIV相互作用性宿主因子の生物活性(例えば、第1検定段階で使用するHIV相互作用性宿主因子がキナーゼである場合はキナーゼ活性)の一つまたはそれ以上を保持している。上記フラグメントまたは類似体を含む融合タンパク質もまた、試験薬のスクリーニングに使用し得る。HIV相互作用性宿主因子の機能的誘導体は、通常、生物活性の1つまたはそれ以上を維持しながらも、アミノ酸欠失および/または挿入および/または置換を有するため、本発明スクリーニング方法の実践においても使用し得る。機能的誘導体は、タンパク質分解的開裂、次いで当業者には公知の慣用的精製手順によりHIV相互作用性宿主因子から製造され得る。別法として、機能的誘導体は、それらの生物活性の1つまたはそれ以上を保持しているHIV相互作用性宿主因子のフラグメントのみを発現させることによる組換えDNA技術により製造され得る。
【0035】
IV.試験化合物
本発明方法によりスクリーニングにかけ得る試験薬または化合物には、ポリペプチド、ベータ-ターン模擬物質、多糖類、リン脂質、ホルモン、プロスタグランジン、ステロイド、芳香族化合物、複素環化合物、ベンゾジアゼピン、オリゴマーN−置換グリシン、オリゴカーバメート、ポリペプチド、サッカリド、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体またはそれらの組み合わせがある。試験薬には合成分子もあれば、天然分子もある。
【0036】
試験薬は、合成または天然化合物のライブラリーを含む広く多様な供給源から得られる。コンビナトリアルライブラリーは、段階的に合成され得る多くのタイプの化合物について作製され得る。化合物の大きなコンビナトリアルライブラリーは、国際公開第95/12608号、国際公開第93/06121号、国際公開第94/08051号、国際公開第95/35503号および国際公開第95/30642号に記載されたコード化合成ライブラリー(ESL)法により構築され得る。ペプチドライブラリーもまた、ファージディスプレー法により作製され得る(例えば、Devlin、国際公開第91/18980号参照)。細菌、真菌、植物および動物抽出物形態での天然化合物のライブラリーは、市販の供給源から入手または実地で収集され得る。既知薬理成分に、例えばアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化といった指定またはランダム化学的修飾を加えることにより、構造類似体を製造し得る。
【0037】
ペプチドまたは他の化合物のコンビナトリアルライブラリーは、完全にランダム化され得、いかなる位置にも配列優先性または定常性は無い。別法として、ライブラリーを偏らせることも可能であり、すなわち配列内の位置の中には一定に保たれるものもあれば、限られた数の可能性から選択されるものもある。例えば、場合によっては、ヌクレオチドまたはアミノ酸残基は、例えば疎水性アミノ酸、親水性残基、立体化学的偏向(小または大型)残基の特定された種類の中で、架橋についてのシステイン、SH−3ドメインに関するプロリン、リン酸化部位についてのセリン、トレオニン、チロシンまたはヒスチジンの生成に向けて、またはプリンに対してランダム化される。
【0038】
試験薬は、天然タンパク質またはそれらのフラグメントであり得る。上記試験薬は、天然供給源、例えば細胞または組織ライセートから入手され得る。ポリペプチド薬剤のライブラリーもまた、例えば市販のcDNAライブラリーから調製されるかまたは常法で作製され得る。試験薬はまた、ペプチド、例えば約5〜約30アミノ酸、好ましくは約5〜約20アミノ酸、特に好ましくは約7〜約15アミノ酸のペプチドであり得る。ペプチドは、天然タンパク質、ランダムペプチド、または「偏向」ランダムペプチドの消化物であり得る。方法によっては、試験薬がポリペプチドまたはタンパク質の場合もある。試験薬はまた、核酸でもあり得る。核酸試験薬は、天然核酸、ランダム核酸、または「偏向」ランダム核酸であり得る。例えば、原核生物または真核生物ゲノムの消化物も同様にタンパク質に関する上記要領で使用され得る。
【0039】
若干の好ましい方法では、試験薬は小分子有機化合物、例えば分子量が約1000以下または約500以下である化学的化合物である。好ましくは、上記小分子のスクリーニングには、高スループット検定法を適合させて使用する。若干の方法では、上記小分子試験薬のコンビナトリアルライブラリーは、HIV感染を阻止する小分子化合物についてのスクリーニングに容易に使用され得る。例えば、Schultz(1998)Bioorg Med Chem Lett 8:2409−2414;Weller(1997)Mol Divers. 3:61−70;Fernandes(1998)Curr Opin Chem Biol 2:597−603;および Sittampalam(1997)Curr Opin Chem Biol 1:384−91に記載されている、若干の検定法が上記スクリーニングに利用可能である。
【0040】
また、主張された本方法でスクリーニングにかけられる試験薬のライブラリーは、上記で検討したHIV相互作用性宿主因子またはそれらのフラグメントの構造試験に基づいて作製され得る。上記の構造試験により、HIV相互作用性宿主因子に結合すると思われる試験薬が同定され得る。HIV相互作用性宿主因子の三次元構造は、例えば結晶構造および分子モデリングといった若干の方法で試験され得る。x線結晶学を用いたタンパク質構造の試験方法は、文献により公知である。Physical Bio-chemistry、Van Holde,K.E.(Prentice-Hall、ニュージャージー、1971)、221−239頁、および Physical Chemistry with Applications to the Life Sciences, D.Eisenberg & D.C.Crothers(Benjamin Cummings、メンロパーク、1979)参照。HIV相互作用性宿主因子の構造のコンピューターモデリングは、HIV感染のモジュレーターについてスクリーニングするための試験薬の別の設計手段を提供する。分子モデリング方法は、文献、例えば「感受性因子を用いた分子モデリングに関するシステムおよび方法」と題する米国特許第5612894号、および「分子モデリング方法およびシステム」と題する米国特許第5583973号で報告されている。さらに、タンパク質構造はまた、中性子回折および核磁気共鳴(NMR)により測定され得る。例えば、Physical Chemistry、第4版、Moore,W.J.(Prentice-Hall、ニュージャージー1972)、および NMR of Proteins and Nucleic Acids, K.Wuthrich(Wiley-Interscience、ニューヨーク1986)参照。
【0041】
本発明のモジュレーターはまた、表2〜4におけるHIV相互作用性宿主因子に特異的に結合する抗体を含む。上記抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであり得る。上記抗体は、当業界で公知の方法を用いて作製され得る。例えば、非ヒト、例えばネズミまたはラットモノクローナル抗体の製造は、表2〜4のHIV相互作用性宿主因子またはそのフラグメントで動物を免疫化することにより達成され得る(Harlow および Lane、Antibodies, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、第3版、2000、参照)。上記免疫原は、天然供給源から、ペプチド合成または組換え発現により得られる。
【0042】
マウス抗体のヒト化形態は、組換えDNA技術によりヒト定常域へ非ヒト抗体のCDR領域を結合することにより生成され得る。Queen et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86、10029−10033(1989)および国際公開第90/07861号参照。ヒト抗体は、ファージ−ディスプレー方法を用いて得られる。例えば、Dower et al.、国際公開91/17271号;McCafferty et al.、国際公開第92/01047号参照。これらの方法では、構成員が外部表面で異なる抗体を提示するファージのライブラリーを製造する。抗体は、通常FvまたはFabフラグメントとして提示される。所望の特異性をもつファージディスプレー抗体は、表2〜4のHIV相互作用性宿主因子に対するアフィニティー精製により選択される。
【0043】
HIV相互作用性宿主因子に対するヒト抗体はまた、ヒト免疫グロブリン座の少なくとも1セグメントおよび不活化内因性免疫グロブリン座をコード化するトランスジーンを有する非ヒトトランスジェニック哺乳類から製造され得る。例えば、Lonberg et al.、国際公開第93/12227号(1993);Kucherlapati、国際公開第91/10741号(1991)参照。ヒト抗体は、特定マウス抗体と同じエピトープ特異性を有するように、競合的結合実験またはその他の方法により選択され得る。上記抗体は、特にマウス抗体の有用な機能特性を共有すると思われる。ヒトポリクローナル抗体はまた、免疫原物質により免疫化したヒトからの血清形態で提供され得る。所望により、上記ポリクローナル抗体は、HIV相互作用性宿主因子またはそのフラグメントを用いるアフィニティー精製により濃縮され得る。
【0044】
V.HIV相互作用性宿主因子のモジュレーターについてのスクリーニング
典型的には、まず本発明者らが同定したHIV相互作用性宿主因子の生物活性を調節する能力について試験薬をスクリーニングする。若干の検定システムがこのスクリーニング段階で使用され得る。スクリーニングは、インビトロ検定システムまたは細胞ベースの検定システムを使用し得る。このスクリーニング段階では、HIV相互作用性宿主因子への結合、HIV相互作用性宿主因子の発現レベルの改変、またはHIV相互作用性宿主因子の他の生物活性(例えば、酵素活性)の調節について試験薬をスクリーニングにかけ得る。
【0045】
1.HIV相互作用性宿主因子の結合活性の調節
方法によっては、HIV相互作用性宿主因子への試験薬の結合を、第1スクリーニング段階で測定する場合もある。HIV相互作用性宿主因子への試験薬の結合は、例えば標識インビトロタンパク質−タンパク質結合検定法、電気泳動移動度シフト検定法、タンパク質結合についての免疫検定法、機能的検定法(リン酸化検定法等)などを含む若干の方法により検定され得る。例えば、米国特許第4366241、4376110、4517288および4837168号;および Bevan et al.、Trends in Biotechnology 13:115−122、1995;Ecker et al.、Bio/Technology 13:351−360、1995;および Hodgson、Bio/Technology 10:973−980、1992参照。試験薬は、HIV相互作用性宿主因子への直接結合、例えばHIV相互作用性宿主因子へ指向した抗体によるHIV相互作用性宿主因子との共免疫沈降を検出することにより同定され得る。試験薬はまた、薬剤がHIV相互作用性宿主因子に結合していることを示すシグナルを検出すること、例えば蛍光消光またはFRETにより同定され得る。
【0046】
競合検定法は、HIV相互作用性宿主因子に特異的に結合する試験薬を同定するのに適切な形態を提供する。上記形態では、HIV相互作用性宿主因子に結合することが既知である化合物と競合させて試験薬をスクリーニングにかける。既知結合性化合物は合成化合物であり得る。また、これは、HIV相互作用性宿主因子を特異的に認識する抗体、例えばHIV相互作用性宿主因子に対して指向したモノクローナル抗体であり得る。試験薬がHIV相互作用性宿主因子と結合することが知られている化合物の結合を阻害する場合、試験薬もまたHIV相互作用性宿主因子と結合している。
【0047】
多数のタイプの競合的結合検定法が知られており、例えば、固相直接または間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素免疫検定法(EIA)、サンドイッチ競合検定法(Stahli et al.、Methods in Enzymology 9:242−253、1983参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Kirkland et al.、J.Immunol. 137:3614−3619、1986参照);固相直接標識検定法、固相直接標識サンドイッチ検定法(Harlow および Lane、Antibodies, A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、第3版、2000参照);125I標識を用いる固相直接標識RIA(Morel et al.、Mol.Immunol. 25(1):7−15、1988参照);固相直接ビオチン−アビジンEIA(Cheung et al.、Virology 176:546−552、1990);および直接標識RIA(Moldenhauer et al.、Scand.J.Immunol. 32:77−82、1990)がある。典型的には、上記検定法は、これら、非標識試験薬および標識基準化合物のいずれかをもつ固体表面または細胞に結合した精製ポリペプチドの使用を必然的に伴う。試験薬の存在下で固体表面または細胞に結合した標識の量を測定することにより、競合的阻害を測定する。通常、試験薬は過剰に存在する。競合的検定法により同定される調節薬剤は、基準化合物と同じエピトープに結合する薬剤および立体障害が生じるように基準化合物が結合したエピトープに十分近位の隣接エピトープに結合する薬剤を含む。通常、試験薬が過剰に存在する場合、それは、少なくとも50または75%の割合で一般的標的ポリペプチドへの基準化合物の特異的結合を阻害する。
【0048】
スクリーニング検定法は、不溶性または可溶性形態であり得る。不溶性検定法の一例は、HIV相互作用性宿主因子またはそのフラグメントを固相マトリックスに固定することである。次いで、試験薬を結合させるのに十分な時間間隔で、固相マトリックスを試験薬と接触させる。未結合物質を固相マトリックスから洗い流した後、固相に結合した試験薬の存在により試験薬が同定され得る。さらにこれらの方法は、固相マトリックスからの結合試験薬の溶離段階を含み、それにより試験薬は単離され得る。別法として、細胞性宿主因子を固定化する以外に、試験薬を固体マトリックスに結合させ、次いでHIV相互作用性宿主因子を加える。
【0049】
可溶性検定法は、上記コンビナトリアルライブラリースクリーニング法の幾つかを含む。可溶性検定形態下では、試験薬もHIV相互作用性宿主因子も固体支持体には結合されない。試験薬へのHIV相互作用性宿主因子またはそのフラグメントの結合は、例えばHIV相互作用性宿主因子または試験薬、またはその両方の蛍光の変化により測定され得る。蛍光は、内在性であるか、または発蛍光団で成分を標識することにより付与され得る。
【0050】
結合検定法には、HIV相互作用性宿主因子、試験薬または第3分子(例えば、HIV相互作用性宿主因子に対する抗体)が、一標識物体として提供され、すなわち検出可能な標識または基、または架橋基に共有結合的に付着または結合させることにより、所定の状況におけるポリペプチドの同定、検出および定量をし易くし得るものもある。これらの検出可能な基は、検出可能なポリペプチド基、例えば検定可能な酵素または抗体エピトープを含み得る。別法として、検出可能な基は、様々な他の検出可能な基または標識、例えば放射性標識(例えば、125I、32P、35S)または化学発光または蛍光基から選択され得る。同様に、検出可能な基は、基質、補因子、阻害剤またはアフィニティーリガンドであり得る。
【0051】
2.HIV相互作用性宿主因子の他の活性の調節
HIV相互作用性宿主因子への試験薬の結合は、試験薬がHIV相互作用性宿主因子のモジュレーターであり得ることの指標である。また、試験薬が、HIV相互作用性宿主因子に対して作用することによりHIV感染を阻止し得ることも示唆している。すなわち、HIV相互作用性宿主因子に結合する試験薬は、HIV感染関連活性に対する調節能力について試験され得る(すなわち、上記で概説した第2試験段階)。別法として、HIV相互作用性宿主因子に結合する試験薬をさらに調べることにより、それが実際にHIV相互作用性宿主因子の生物活性(例えば、酵素活性)を調節するか否かを測定し得る。上記調節の存在、性質および程度は、活性検定法により試験され得る。さらに多くの場合、上記活性検定法は、HIV相互作用性宿主因子の活性を調節する試験薬を同定するのに独立して使用され得る(すなわち、最初のHIV相互作用性宿主因子へのそれらの結合能に関する検定を実施しない)。
【0052】
概して、本発明方法では、HIV相互作用性宿主因子の生物活性(例えば、HIV相互作用性宿主因子が酵素である場合は酵素活性)を試験するのに必要な他の分子または試薬の存在または非存在下、HIV相互作用性宿主因子を含む試料に試験薬を添加し、HIV相互作用性宿主因子の生物活性の改変を測定する。HIV相互作用性宿主因子が既知の生物的または酵素的機能(例えば、キナーゼ活性またはプロテアーゼ活性)を有する場合、第1スクリーニング段階で調べた生物活性はまた、HIV相互作用性宿主因子の特異的な生化学的または酵素的活性であり得る。これらの例には、キナーゼ類(例えば、NTRK1、CCRK、PAK7、MAP3K14、MAPK14、TYK2およびMLK3)、プロテアーゼ類(例えば、CTSO)、ホスファターゼ類(例えば、LOC91443)、または表2〜4に示した他の酵素(例えば、NMT1、ALDH3A1、PDE1BおよびCAT)がある。これらの分子の中には第1スクリーニング段階で使用され得るものある。これらの分子の酵素活性の検定方法は、公知であり、当業界では常用的に実施されている。スクリーニングで使用される基質は、酵素(例えば、キナーゼ)により酵素的に修飾されていることが知られている分子、または所定の種類の酵素についての候補基質から容易に同定され得る分子であり得る。
【0053】
一例としての実施態様では、スクリーニングで使用するHIV相互作用性宿主因子は、MLK3キナーゼであり、まず、基質の自動リン酸化またはリン酸化におけるMLK3キナーゼ活性を調節する能力について試験薬をスクリーニングにかける。MLK3キナーゼ活性に対する試験化合物の効果は、例えば、Gallo et al.、J Biol Chem. 269:15092−100、1994;Leung et al.、J Biol Chem. 273:32408−15、1998;Zhang et al.、J.Biol.Chem. 276:45598−603、2001、および Durkin et al.、Biochemistry 43:16348−55、2004に記載された方法を用いて化合物の存在下でのMLK3自動リン酸化をモニターすることにより試験され得る。MLK3キナーゼ活性を阻害する化合物はまた、試験化合物の存在下でMLK3による基質のリン酸化をモニターすることにより同定され得る。例えば、化合物は、例えば Cha et al.、J.Cell Sci.117:751−60、2004記載のインビトロ検定法でゴルジン−160のMLK3リン酸化に対する効果について試験され得る。
【0054】
プロテインキナーゼ活性を調べる多くの他の検定法も文献に記載されている。これらには、例えば Chedid et al.、J.Immunol.147:867−73、1991;Kontny et al.、Eur J Pharmacol. 227:333−8、1992;Wang et al.、Oncogene、13:2639−47、1996;Murakami et al.、Oncogene 14:2435−44、1997;Pyrzynska et al.、J.Neurochem.74:42−51、2000;Berry et al.、Biochem.Pharmacol. 62:581−91、2001;Cai et al.、Chi Med J(Engl). 114:248−52、2001に報告された検定法がある。これらの方法のいずれかを使用し、修飾を加えることにより、キナーゼ、例えばNTRK1、CCRK、PAK7、MAP3K14、MAPK14、TYK2およびMLK3であるHIV相互作用性宿主因子に対する試験薬の調節効果を検定し得る。さらに、多くのキナーゼ基質が当業界では利用可能である。例えば、www.emdbiosciences.com および www.proteinkinase.de 参照。さらに、キナーゼの適切な基質は高スループット形式でスクリーニングされ得る。例えば、Kinase-Glo(登録商標)ルミネッセンスキナーゼアッセイ(Promega)または他のキナーゼ基質スクリーニングキット(例えば、Cell Signaling Technology(ビバリー、マサチューセッツ) が開発)を用いることにより、キナーゼの基質が同定され得る。
【0055】
HIV相互作用性宿主因子の酵素的または他の生物活性を調節する薬剤をスクリーニングする検定法に加えて、活性検定法はまた、HIV相互作用性宿主因子の発現レベルの改変についてのインビトロスクリーニングおよびインビボスクリーニングを包含する。HIV相互作用性宿主因子の発現の調節は、培養細胞株への発現ベクターの一時的または安定したトランスフェクションによる細胞に基づいた系で試験され得る。例えば、HIV相互作用性宿主因子の転写調節エレメント(例えば、プロモーター配列)の制御下でのリポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子)の発現を阻害する能力について試験化合物を検定し得る。表2〜4に示したHIV相互作用性宿主因子をコード化する遺伝子は全て、当業界では特性確認されている。これらの遺伝子の多くの転写調節エレメント、例えばプロモーター配列は全て詳細に描写されている。
【0056】
リポーター遺伝子に機能し得るように結合された転写調節エレメントを含むアッセイベクターは、プロモーター活性検定用に哺乳類細胞株へトランスフェクションされ得る。リポーター遺伝子は、典型的には宿主細胞に天然では存在しない、検定し易い酵素活性をもつポリペプチドをコード化する。真核生物プロモーターに関する典型的リポーターポリペプチドには、例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ホタルまたはウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ベータ−グルクロニダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、および緑色蛍光タンパク質(GFP)がある。HIV相互作用性宿主因子の転写調節エレメントの制御下でリポーター遺伝子を発現するベクターは、分子生物学の単なる常用技術および方法を用いて調製され得る(例えば、Sambrook et al.、前出;Brent et al.、前出参照)。リポーター遺伝子に加えて、ベクターはまた、宿主細胞での増殖または維持に必要なエレメント、および例えばポリアデニル化配列および転写ターミネーターといったエレメントを含み得る。アッセイベクターの例には、ルシフェラーゼ遺伝子のポリリンカー配列5'を含む、pGL3系列のベクター(Promega、マディソン、ウィスコンシン、米国特許第5670356号)がある。細胞培養、トランスフェクション、およびリポーター遺伝子検定の一般的方法については、文献、例えば Sambrook et al.、前出、および Transfection Guide、Promega Corporation、マディソン、ウィスコンシン(1998)に記載されている。容易にトランスフェクションされ得る哺乳類細胞株であれば、ベクターからのリポーター遺伝子の発現の検定に使用され得、例としてはHCT116、HEK293、MCF−7およびHepG2細胞がある。
【0057】
VI.HIV感染に対する阻害活性についての調節性化合物の試験
HIV感染の新規阻害剤を同定するため、上記のHIV相互作用性宿主因子を調節する化合物をさらに試験することにより、HIV感染に対するそれらの阻害作用を確認する。典型的には、HIV感染またはHIV複製を示す活性を調節する能力について、化合物をスクリーニングにかける。調節性化合物が作用するHIV相互作用性宿主因子の存在下でスクリーニングを実施する。調節薬剤が第1スクリーニング段階で同定される際のHIV相互作用性宿主因子は、細胞により内因的に発現されるかまたは第2発現ベクターから発現され得る。好ましくは、このスクリーニング段階を、HIV相互作用性宿主因子を内因的に発現する細胞を用いてインビボで実施する。対照として、HIV相互作用性宿主因子を発現しない細胞に対する調節性化合物の効果についても試験され得る。例えば、第1スクリーニング段階で使用するHIV相互作用性宿主因子(例えば、マウス遺伝子によりコード化)が細胞株(例えば、ヒト細胞株)により内因的に発現されない場合、ポリペプチドを発現する第2ベクターが細胞に導入され得る。調節性化合物の存在または非存在下でHIV感染関連活性を比較することにより、HIV感染に対する化合物の活性が同定され得る。
【0058】
化合物のHIV阻害活性を調べるのには多くの検定法および方法が利用可能である。この場合、通常、インビトロでのHIVウイルス複製またはHIV感染を示す生化学活性を阻害する能力について化合物を試験する。若干の方法において、HIV感染に対する調節性化合物の潜在的阻害活性は、当業界での常用的方法を用いることにより、インビトロでの培養細胞のHIV感染に対する上記化合物の効果を調べることにより試験され得る。例えば、上記化合物は、Seddiki et al.、AIDS Res Hum Retroviruses、15:381−90(1999)に記載された要領で一次マクロファージ培養物のHIV感染について試験され得る。それらはまた、Fujii et al.、J Vet Med Sci.、66:115−21(2004)で報告されているように、他のT細胞および単球細胞株のHIV感染についても試験され得る。HIV感染を観察するさらなるインビトロ系も文献で報告されている。例えば、Li et al.、Pediatr Res. 54:282−8、2003;Steinberg et al.、Virol.193:524−7、1993;Hansen et al.、Antiviral Res.16:233−42、1991;および Piedimonte et al.、AIDS Res Hum Retroviruses.6:251−60、1990参照。
【0059】
これらの検定法では、細胞のHIV感染は、例えば顕微鏡による細胞変性作用検定法(例えば、Fujii et al.、J Vet Med Sci.66:115−21、2004参照)により形態学的に観察され得る。また、これは、酵素的に、例えば細胞培養物の上清におけるHIV逆転写酵素(RT)活性を測定することにより評価され得る。上記検定法は、文献、例えばReynolds et al.、Proc Natl Acad Sci USA、100:1615−20、2003;および Li et al.、Pediatr Res.54:282−8(2003)に記載されている。他の検定法は、ウイルス核酸またはウイルス抗原の蓄積を定量することにより、HIV感染を観測する。例えば、Winters et al.(PCR Methods Appl.1:257−62、1992)は、HIV感染細胞培養物からHIV gag RNAおよびDNAを検定する方法について報告した。Vanitharani et al.は、ウイルス性p24抗原の産生を測定するHIV感染検定法について報告した(Virology 289:334−42、2001)。ウイルス複製はまた、例えば Chargelegue et al.、J Virol Methods. 38(3):323−32(1992);および Klein et al.、J Virol Methods. 107(2):169−75(2003)に記載されている、p24抗原ELISA検定法によりインビトロで観察され得る。これらの検定法は全て、本発明調節性化合物の抗HIV活性を評価するのに採用され、修正が加えられ得る。
【0060】
若干の方法では、HIV感染に対する調節性化合物の潜在的阻害作用を、HIV複製について許容性のある遺伝子操作を加えたリポーター細胞で調べ得る。これらの細胞で、HIV転写調節エレメント、例えばHIV−LTRの制御下におけるリポーター遺伝子の発現を調べることにより、HIV感染および複製を観察する。上記細胞の一例は、HeLa−T4−βGal HIVリポーター細胞である。下記実施例で説明しているところによると、HeLa−T4−βGalリポーター細胞を、調節性化合物で処理後HIV−IIIbにより感染させ得る。β−ガラクトシダーゼ活性を測定することにより観測される、化合物処理細胞からのウイルス感染力は、化合物で処理しなかった対照細胞の場合と比較され得る。調節性化合物で処理した細胞からのウイルス力価の低下または感染力の低下は、化合物が実際にHIV感染またはウイルス複製を阻害し得ることを確認するものである。
【0061】
本明細書で例として挙げたHeLa−T4−βGal細胞に加えて、多くの類似したリポーター検定法についても文献で報告されている。例えば、Gervaix et al.(Proc Natl Acad Sci USA、94:4653−8、1997)は、HIV−I LTRプロモーターの制御下で、ヒト化緑色蛍光タンパク質(GFP)をコード化するプラスミドを発現する安定したT細胞株を開発した。HIV−Iに感染させると、非感染細胞と比べた場合、感染細胞の蛍光の100〜1000倍の増加が観察され得る。これらの検定システムのいずれかを本発明で用いることにより、リアルタイムでHIV感染に対する調節性化合物の効果を観察することが可能である。また、これらのインビトロシステムにより、経時的な感染細胞の定量および化合物に対する感受性の測定が可能となる。
【0062】
若干の他の方法では、調節性化合物で処理した細胞におけるHIV−1シュードウイルスの生産を調べることにより、HIV複製に対する化合物の効果を検査することが可能である。細胞は、HIV相互作用性宿主因子を内因的または外因的に発現し得る。例えば、HIV相互作用性宿主因子をコード化する構築物を、HIV相互作用性宿主因子を内因的には発現しない宿主細胞へトランスフェクションさせ得る。米国仮特許出願第60/673623号のより詳細な記述によると、HIV−1シュードウイルスの生産は、リポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子)をコード化するpsi−陽性RNAを発現するリポータープラスミド、全構造タンパク質および調節的または付属タンパク質、例えばTat、Rev、VprおよびVifをコード化するデルタpsiパッケージング構築物、およびVSV−gエンベロープ発現プラスミドで生産的細胞(例えば、293T HEK細胞)をトランスフェクションすることにより達成され得る。生産的細胞で生産されるシュードウイルスは、リポーター遺伝子のみをコード化する。生産的細胞からの上清中シュードウイルスで標的細胞を感染させた後、標的細胞ゲノムへのレトロ転写および組み込み後にリポーター遺伝子が発現される。
【0063】
HIV複製の阻害剤についてスクリーニングするため、生産的宿主細胞は、シュードウイルスプラスミドによるトランスフェクションの前、それと同時に、またはそれに後続して、調節性化合物で処理され得る。好ましくは、化合物は、シュードウイルスプラスミドのトランスフェクション前に宿主細胞に投与され、検定過程全体を通して存在する。生産されたシュードウイルスの力価は、生産的細胞からの上清中でシュードウイルスにより標的細胞を感染させ、標的細胞におけるリポーターの活性(例えば、ルシフェラーゼ活性)を検定することにより測定され得る。対照として、化合物で処理しなかった生産的細胞からの上清で感染させた標的細胞におけるリポーター活性についても測定する。調節性化合物がウイルス出芽に対する阻害効果を有する場合、化合物で処理した生産的細胞からの上清と接触させた標的細胞は、対照細胞と比べてリポーター活性の低下を示している。
【0064】
VII.治療適用性
HIV感染を阻止することにより、上記HIV阻害性化合物は本発明の有用な治療適用性を提供する。それらは、様々な対象においてHIV感染並びにHIV感染に伴う疾患または状態(例えば、AIDS)を予防または処置するのに容易に使用され得る。さらに、本発明者らが同定したHIV相互作用性宿主因子のいずれかを阻害する当業界で公知の化合物もまた、治療適用で使用し得る。例としては、MLK3のキナーゼ活性を阻害するK252aおよびCEP1347がある(Roux et al.、J.Biol.Chem.277:49473−80、2002)。
【0065】
本明細書で開示したHIV阻害性化合物による処置が奏効するHIV感染には、レトロウイルスのHIVファミリー(例えば、HIV−I、HIV−II、またはHIV−III)のいずれかによる対象、特にヒト対象の感染が含まれる。HIV阻害性化合物は、レトロウイルスのHIVファミリーのいずれかの構成員のキャリヤである対象を処置するのに有用である。それらは、活動性AIDSであると診断された対象の処置に使用され得る。上記化合物はまた、上記対象におけるAIDS関連状態の処置または予防にも有用である。HIV感染を有するものとして診断はされなかったが、HIV感染の危険に瀕していると考えられる対象もまた、本発明のHIV阻害性化合物による処置に応答し得る。
【0066】
AIDS関連状態のいずれかに罹患している対象は、HIV阻害性化合物での処置に適している。上記状態には、AIDS関連複合体(ARC)、進行性全身性リンパ節腫脹(PGL)、抗HIV抗体陽性状態、およびHIV陽性状態、AIDS関連神経病的状態(例えば、認知症または熱帯性不全対麻痺)、カポジ肉腫、血小板減少性紫斑病および関連日和見感染症、例えばニューモシスティス・カリニ肺炎、ヒト型結核、食道カンジダ症、脳のトキソプラスマ症、CMV網膜炎、HIV関連脳症、HIV関連るいそう症候群などがある。
【0067】
HIV感染およびAIDSへの進行をインビボで測定する標準的方法を用いることにより、対象が本発明のHIV阻害性化合物による処置に陽性応答を示すか否かを測定し得る。例えば、本発明のHIV阻害性化合物で処置後、対象のCD4T細胞数が測定され得る。CD4T細胞数の上昇は、抗ウイルス治療薬の投与が対象において奏功していることを示す。この方法および当業界で公知の他の方法を用いることにより、本発明化合物が対象におけるHIV感染およびAIDSの処置にどの程度まで有効であるかを測定することができる。
【0068】
本発明のHIV阻害性化合物は、処置される対象に無菌条件下で直接投与され得る。モジュレーターは、単独または医薬組成物の有効成分として投与され得る。また、本発明の治療組成物を、他の治療薬と組み合わせるかまたは配合して使用することも可能である。適用例によっては、第1HIV阻害性化合物を、第2HIV阻害性化合物と組み合わせて使用することにより、一HIV阻害性化合物を個々に使用したときには達成され得ないほどの十分な程度までHIV感染を阻害し得る場合もある。他の適用例の中には、本発明のHIV阻害性化合物が、既知抗HIV薬、例えばAZTと連係的に使用され得る場合もある。
【0069】
本発明医薬組成物は、典型的には1種またはそれ以上の許容される担体と一緒に少なくとも1種の有効成分を含有する。医薬上許容される担体は、組成物を向上または安定させるか、または組成物の製造を容易にする。医薬上許容される担体は、一つには投与される特定組成物(例えば、核酸、タンパク質または調節性化合物)、および組成物の投与に使用される特定方法により決定される。それらはまた、他の成分と適合し得、対象にとって有害ではないという意味で医薬上および生理学上の両方で許容されるものである。この担体は、例えば経口、舌下、直腸、鼻、静脈内または非経口投与に望ましい製品形態しだいで広く多様な形態をとり得る。例えば、HIV阻害性化合物を、投与前に担体タンパク質、例えば卵アルブミンまたは血清アルブミンと配合することにより、安定性または薬理学的特性を高めることが可能である。
【0070】
医薬組成物は、様々な形態、例えば顆粒、錠剤、丸薬、坐薬、カプセル剤などで製造され得る。製剤中の治療活性化合物の濃度は、約0.1から100重量%の範囲で変動し得る。製薬業界でよく知られた方法により治療剤は製造される。治療剤は、処置に使用され得る有効な手段により送達され得る。例えば、Goodman & Gilman’s The Pharmacological Bases of Therapeutics、Hardman et al.編、McGraw-Hill Professional(第10版、2001);Remington: The Science and Practice of Pharmacy、Gennaro 編、Lippincott Williams & Wilkins(第20版、2003);および Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, Ansel et al.(編)、Lippincott Williams & Wilkins(第7版、1999)参照。
【0071】
治療剤は、好都合には単位用量形態で提供され、適切な治療用量で投与され得る。適切な治療用量は、公知方法のいずれか、例えば最大許容量を測定するための哺乳類種に関する臨床試験および安全な投薬量を測定するための正常なヒト対象に関する臨床試験により決定され得る。高用量が要求され得るある種の環境下を除くと、HIV阻害性化合物の好ましい用量は、通常1日当たり約0.001〜約1000mg、さらに一般的には約0.01〜約500mgの範囲内である。
【0072】
HIV阻害性化合物の好ましい投与量および投与方法は、担当医により個々に検討され得る因子、例えば処置される状態(複数も可)、特定のHIV阻害性化合物を含む、投与される組成物の選択、個々の対象の年齢、体重および応答、対象の症状の重さ、および選択された投与経路によって対象ごとに変動し得る。一般規則として、投与されるHIV阻害性化合物の量は、対象の状態を有効かつ確実に予防または最小限度にする最低用量である。したがって、上記用量範囲は、一般的指針を提供し、本明細書における主張を立証することを意図したものであるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明について説明するが、限定を意図したものではない。
【0074】
実施例1.一般的材料および方法
細胞株および維持:Dr.Michael Emerman からのHeLaCD4βgal細胞を、AIDS Research and Reference Reagent Program、Division of AIDS、NIAID、NIH(Kimpton,J. Virol. 66:2232−9、1992)を通じて入手した。10%FBS、1Xペニシリン/ストレプトマイシン/L−グルタミン、0.2mg/mLのG418および0.1mg/mLのハイグロマイシンBを補ったDMEMで細胞を維持した。10%FBSおよび1Xペニシリン/ストレプトマイシン/L−グルタミンを補ったRPMI−1640でジャーカット細胞を維持した。細胞培養試薬は全て、Invitrogenから入手した。
【0075】
HeLaCD4βgal細胞におけるcDNAスクリーニング:Chanda et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:12153−8(2003)記載の要領でHeLaCD4βgal細胞の高スループットcDNAトランスフェクションを実施した。簡単に述べると、15000遺伝子を包含するサブゲノムライブラリー(コレクションの詳細はhttp://function.gnf.org )の個々のcDNA、陰性対照Sport6GFP cDNAおよび陽性対照Sport6−Tatプラスミドを、55白色不透明384ウェルプレート(Greiner)中40mg/ウェルでスポットした。血清不含有 Opti-MEM 培地(Invitrogen)中の1μg/mLのHIV−LTR−ルシフェラーゼリポータープラスミド(HxB2株のLTR配列のPCR増幅により誘導)を含む1%Gene Juice(Novagen)の溶液を、マルチドロップ装置(Titertek)を用いて各ウェルに添加し(10μL)、10分間複合体を形成させた。次いで、HeLaCD4βgal細胞(DMEM/10%FBS中の1000細胞/30μL/ウェル)を添加し、プレートを一晩インキュベーションし、HIV−IIIbのp24(Advanced Biotechnologies Inc.)200ng/mLを含む20μLのDMEM/10%FBSを加えた。72時間後、Brite Glo(Promega)を用いてルシフェラーゼ生産を測定し、CLIPR装置(Molecular Devices)で読み取ることにより、感染を評価した。ライブラリー全体をデュプリケイトで実施した。各cDNAに関するデータを、プレート全体の平均シグナルと比較し、平均活性化率(afa)を活性化率の調整標準偏差(mfa)で除したものである、afa/mfa比として表した。反復実験間の標準偏差が高い場合、mfaについて活性化率の値にペナルティーが課される。当初の検定法で試験することにより追加のcDNAを増大後にヒットを再確認し、配列決定することにより、それらの同一性を確認した(Eton Bioscience)。
【0076】
キナーゼ−不活性MLK3のcDNA試験:pcDNA3.1ベクター(Xu et al.、Mol.Cell.Biol. 21:4713−24、2001)におけるMLK3およびMLK3のキナーゼ−不活性突然変異体(K144R)を、スクリーン検定法の拡大バージョンを用いて、12ウェルのプレートでMLK3 Origene コレクションヒットと並行して試験した。簡単に述べると、1ウェルにつき1.28μg cDNA/0.32μg LTR−Luc/32μL、次いで320μLの1%Gene Juice/Optimemをスポットし、次いでDMEM/10%FBS1mL中の6x10HeLaCD4βgal細胞をスポットした。24時間後、培養物を90ngのHIV−IIIbのp24により感染させ、さらに3日間インキュベーションし、Brite Glo(Promega)を用い、CLIPR装置(Molecular Devices)で読み取ることにより感染レベルについて評価した。
【0077】
siRNA:GL2ルシフェラーゼsiRNA(カタログ番号D−001100−01−20)、およびPITPNα(受入番号NM_006224)、TRIM28(受入番号NM_005762)、IFIT1(受入番号NM_001548)、LYZ(受入番号NM_000239)、CORO1A(受入番号NM_007074)、およびDnaJC14(受入番号NM_032364)Smartpool siRNAを、Dharmacon から入手した。GL2 siRNAの場合、追加量の同配列をQiagen からも入手した。Tatに対する2つのsiRNAを合成し、HIV感染阻害の陽性対照として用いるためプールした。MLK3−1およびMLK3−2 siRNAを設計および合成し、MLK3−3 siRNAを Dharmaconから入手した(カタログ番号D−003577−03)。
【0078】
HeLaCD4βgal細胞におけるsiRNAスクリーニング:薬剤標的である可能性が最も高い異なる5000遺伝子に対してsiRNAライブラリーを指定し、各遺伝子を2つの異なるsiRNAにより表示させた。本質的に Aza-Blanc et al.、Molecular Cell 12:627−37(2003)記載の要領で、HeLaCD4βgal細胞のsiRNAレトロトランスフェクションを実施した。簡単に述べると、1ウェルにつき1つのsiRNA配列を含む白色不透明または白色透明底の384ウェルプレート(Greiner)に個々のsiRNAを14ng/ウェルでスポットした。血清不含有 Opti-MEM培地(Invitrogen)中の2%オリゴフェクタミン(Invitrogen)の溶液を各ウェルに加え(10μL)、15〜20分間複合体を形成させた。マルチドロップ装置(Titertek)を用いて、全384ウェルに分配した。次いで、HeLaCD4βgal細胞(血清不含有 Opti−MEM中1000細胞/30μL/ウェル)を加え、プレートを一晩インキュベーションし、200ng/mLのHIV−IIIb(Advanced Biotechnologies Inc.)を含む30%FBS/DMEM 20μLを加えた。72時間後、等量のGal Screen(Applied Biosystems)を用いてベータ−ガラクトシダーゼ生産を測定することにより、感染を評価した。CLIPR装置(Molecular Devices)を用いて、全384ウェルプレートの読み取りを行った。12回の反復実験を1個の384ウェルプレートについて実施し、データを陰性対照GL2 siRNAと比べた阻害パーセントとして表した。Cell Titer Glo(Promega)の1:4希釈物、等量を加え、CLIPR装置でのルミネッセンスを読み取ることにより、トランスフェクションの96時間後にsiRNAの細胞傷害性を測定し、データを再びGL2と比べた阻害パーセントとして表した。
【0079】
ウエスタンブロットによるsiRNA確認:siRNA(800ng)を、6ウェルプレート中の血清不含有 Opti−MEM(Invitrogen)250μLにスポットし、次いで血清不含有 Opti−MEM中の1.5%リポフェクタミン2000(Invitrogen)250μLを加えた。プレートを室温で20分間インキュベーションすることにより、複合体を形成させた。次いで、HeLaCD4βgal細胞(血清不含有 Opti−MEM1.5mL中3x10)を加え、一晩インキュベーションした後、1mLの30%FBS/DMEMを加えた。トランスフェクションの72時間後に細胞を削り取って採取し、氷上で1時間細胞溶解緩衝液(20mM Hepes pH7.2/10mMのKCl/1mMのEDTA/1%Triton X-100/1Xプロテアーゼ阻害剤:Sigma Chemical Co.)中で溶解させた。Micro-BCA キット(Promega)を用いてライセートの総タンパク質濃度を測定し、製造業者の指示にしたがって等タンパク質量を4〜12%NuPage Bis−Trisゲル(Invitrogen)にローディングし、電気泳動にかけた。ニトロセルロースに移した後、ブロットをPBST(0.05%Tween-20 含有リン酸緩衝食塩水)中の5%脱脂乳で遮断し、次いで以下の抗体による免疫ブロッティングにかけた:Santa Cruz Biotechnologyからのウサギポリクローナル抗MLK3およびヤギ抗チューブリン抗体、Sigma Chemical Co.からのHRPコンジュゲートヤギ抗ウサギ2次抗体、PromegaからのHRPコンジュゲートロバ抗ヤギ2次抗体。全抗体を製造業者が示す希釈率で使用し、PBST中5%脱脂乳で希釈した。ECLプラス検出試薬(Amersham)を用いてバンドを視覚化した。
【0080】
ジャーカットT細胞のsiRNAトランスフェクション:ジャーカットT細胞をPBS中で1回洗浄し、血清不含有 Opti−MEM(Invitrogen)に高密度(2.4x10/mL)で再懸濁し、50μLを、0.2cmギャップキュベット中の1nmolのsiRNA(20μMの50μL)に加えた。製造業者が示した条件下(140V、1000uF、指数的崩壊)、BioRad Gene Pulser Xcellモジュールを用いて、混合物に電気穿孔を実施し、次いで、24時間抗生物質不含有で10%FBSを補った12mLのRPMIに移した。次いで、細胞を沈降させ、生存し得る細胞をトリパンブルー排除により計数し、10%FBSおよび1Xペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを補ったRPMIに1.7×10/mLの密度で再懸濁した。感染試験については、siRNA処理細胞300μLを48ウェルプレートのウェルに加え、製造業者が提供したウイルス力価に基づきそれぞれ0.0005および0.000125のMOIに対応する2ngまたは0.5ngのHIV−IIIbを、各ウェルに添加した。さらに3日後、細胞を採取し、PBS中で3回洗浄し、溶解させ、細胞ライセートのp24 ELISAにより感染を測定した。細胞傷害性については、300μLのsiRNA処理細胞を、48ウェルプレートのウェルに加え、3日後、Cell Titer Glo(Promega)を用い、CLIPR(Molecular Devices)で読み取るか、またはAlamar Blue(TREK systems)を用い、Acquest(LJL Biosystems)で読み取ることにより、細胞の生存能力を測定した。siRNA効力を測定するため、電気穿孔の72時間後にHeLaCD4βgal siRNA確認試験の場合と同様に、細胞ライセートを調製し、分析した。
【0081】
実施例2.siRNAスクリーニングからの新規HIV相互作用性宿主因子の同定
我々は、HeLaCD4Bgal細胞におけるHIV LTRプロモーターの制御下でのリポーター遺伝子の発現を観察することにより、HIV感染に関与する宿主タンパク質についてサブゲノムsiRNAスクリーニングを実施した(Kimpton et al.、J Virol 66:2232−2239、1992)。HeLa−CD4−Bgal細胞を、AIDS Research and Reference Reagent Program、Division of AIDS、NIAID、NIHを通じて、Dr.Michael Emerman から入手した。陽性対照として使用したTatに対するsiRNAでの逆トランスフェクションプロトコルを用いて、細胞をトランスフェクションし、トランスフェクションの24時間後HIV−IIIbで攻撃した(Huang et al.、Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A. 101:3456−61、2004)。感染を3日間続行させることにより、侵入から放出および培養物全体への拡散に至る感染の全段階に対する効果が観察され得た。HeLa−CD4−Bgal細胞におけるリポーター遺伝子発現を調べることにより、このシステムでHIV感染に対するsiRNAの調節効果が検出され得る。
【0082】
化学発光基質を用いてウイルス性LTRプロモーターを介して生産されたベータ−ガラクトシダーゼの量を測定することにより、感染を評価した。全スクリーニングをデュプリケイトで実施し、各siRNAの効果および反復実験間の偏差値の両方を考慮した値である、平均活性化率(afa)対活性化率の調整標準偏差(mfa)の比としてデータを表した。afaが1未満である遺伝子(感染阻害剤)については、値をマイナス活性化率に変換した。
【0083】
実施例3.cDNAスクリーニングからのHIV相互作用性宿主因子の同定および特性確認
我々は、15000のユニーク遺伝子のcDNAライブラリーの高スループットスクリーンを実施することにより、過剰発現するとHIV−IIIb感染の増強をもたらす新規プロウイルス因子を発見した。それらはトランスフェクションし易いため、我々は、HeLa−CD4−Bgal細胞をスクリーニングに使用し、複製能型HIV−IIIbで攻撃した。陰性対照(Sport6−gfp)および陽性対照(Tat−Sport6)cDNAを、ライブラリーcDNAを含む384−ウェルプレートのウェルにスポットし(1ウェルにつき1遺伝子)、次いでHIV Tatに応答するLTR−ルシフェラーゼリポーター構築物を含むトランスフェクション試薬溶液を添加した。複合体形成後、細胞を加え、24時間後、各ウェルをHIV−IIIbにより感染させた。感染を3日間続行させることにより、侵入から放出および培養物全体への拡散に至る感染の全段階に対する効果が観察され得た。次いで、ウイルス性LTRプロモーターを介して生産されたルシフェラーゼの量を測定することにより、感染を評価した。
【0084】
陽性対照Tat cDNAウェルの大多数は、陰性対照および空のウェルと比べて増強を示した。全スクリーニングをデュプリケイトで実施し、各cDNAの効果および反復実験間の偏差値の両方を考慮した値である、平均活性化率(afa)対活性化率の調整標準偏差(mfa)の比としてデータを表した。ライブラリー全体のうち、315(2.1%)遺伝子は感染を増大させており、afa.mfaは追跡用に選択したカットオフである2またはそれ以上であった。HIV感染に関与していることが既に判明している幾つかの遺伝子、例えばエンハンサーS100A12、PP2A調節サブユニットBおよび核エクスポーチンCRM1が、スクリーニングによりエンハンサーとして同定されており、内部検証用に使用された。スクリーニングの実施結果および文献での検討の両方で決定された上位89の感染エンハンサーを追跡用に選択した。ヒットは様々な遺伝子ファミリーを表し、大多数は、ユビキチン経路およびRNAプロセッシング因子を含む、キナーゼ、他の酵素および転写因子を含め、HIV感染において重要であることが知られている経路からの薬剤標的としての可能性があるものであった。各cDNAヒットを mini-prep 規模で再増大させ、当初の検定法で試験したところ、ヒットの19が再確認された。次いで、これらを maxi-prep 規模で増大させ、当初の検定法で試験し、配列決定することにより適正なヒット同一性を確証した。この段階で、13配列確認ヒットは、陰性対照と比べて活性の増強を示し続け、Sport6−GFP陰性対照の1.7倍〜8.8倍の範囲であった。
【0085】
次に、我々は、siRNAを用いて内因性タンパク質を枯渇させることにより、最強のcDNAエンハンサーがHIV複製に不可欠であるか否かを調べた。対照の3倍またはそれ以上の機能を示す遺伝子のうちの6つについて、我々は、検証済のsiRNA Smartpoolを得、HeLaCD4βgal細胞におけるHIV−IIIb感染に対するそれらの効果を評価した。試験したもののうち、シャペロンDnaJC14、テトラトリコペプチド反復配列1を伴うインターフェロン誘導タンパク質(IFIT1)およびホスファチジルイノシトール転移タンパク質アルファ(PITPNα)に対するsiRNAは、HIV複製を減少させ、感染におけるそれらの役割をさらに強める顕著な毒性も伴わなかったが、他はウイルス複製または細胞生存能に対して全く効果を示さなかった(データは示さず)。興味深いことに、過剰発現すると感染を増強し、かつ枯渇すると感染を遮断する遺伝子の一つは、C型肝炎(HCV)を含む様々なウイルス感染および星状細胞のHIV感染においてアップレギュレーションされることが示されている、インターフェロン誘導タンパク質IFIT1であった。IFIT1の生物学的機能は未知であるが、Rho/Racグアニンヌクレオチド変換因子と相互作用し得ることが報告されており、したがってRhoタンパク質の活性化を助長し得ることになる。HIVがインターフェロン誘導タンパク質を利用してその複製を促進させ得るという発想は、興味深く、さらなる試験実施に値するものである。二相活性をもつ他の2遺伝子、シャペロンタンパク質DnaJC14および小胞輸送機構に関与する脂質輸送タンパク質であるPITPNαもまた、ウイルス生物学への洞察を深めさせ得るものである。
【0086】
次に、その明白な生理学的役割および治療標的としての高い潜在能力故に、我々は、強力なcDNAエンハンサー混合型キナーゼ3(MLK3)に努力を結集させた。このセリン/トレオニンキナーゼは、JNK、p38およびERKを含む、下流Mapキナーゼの活性化に関与しており、HIV gp120が介在するものを含め、ニューロンアポトーシスにおいて重大な役割を演じることが示された。MLK3の化合物阻害剤、CEP−1347は、神経変性疾患の処置について臨床試験中であり、神経細胞死におけるその役割および薬剤標的としてのその適用性が強調された(Bodner et al.、Experimental Neurology 188:246−53、2004)。MLK3のキナーゼ活性がcDNAを用いて観察される感染の増大に関与しているか否かに取り組むため、我々は、キナーゼ不活性突然変異体(MLK3 KI)を入手し、HIV感染に対するその効果を試験した。野生型タンパク質とは異なり、MLK3 K1は感染を増大させ得ず、MLK3の機能が感染増大にとって重大であることを示唆していた(図1)。JNK活性化を通じたAP−1複合体の活性化におけるその役割ゆえに、我々は、MLK3が、HIV LTRに位置するAP−1部位を介してHIV転写を増大させることにより作用し得ると仮定した。これを試験するため、MLK3を、Tat発現ベクターまたは対照プラスミドによりLTRルシフェラーゼ構築物とコトランスフェクションし、LTRを介した転写に対するTat依存的およびTat非依存的効果の両方を評価した。MLK3の発現により、Tat依存的転写は対照の約3倍まで高められるが、Tat非依存的転写に対しては効果があまり示されない(図2)ことから、MLK3がウイルス特異的転写を通じて感染を増大させることが推測された。
【0087】
過剰発現データを考慮して、我々は、最後にMLK3に対するsiRNAがHIV感染を阻害するか否かを調べた。我々は、MLK3をターゲッティングする3つのユニークsiRNA配列を入手し、HeLaCD4βgal細胞またはジャーカット細胞におけるHIVに対するそれらの効力を評価した。個々のMLK3 siRNAを、HeLaCD4βgal細胞にトランスフェクションするか、またはジャーカット細胞に電気穿孔した。24時間後、細胞をHIV−IIIbにより攻撃した。HeLaCD4βgal細胞については、さらに3日後、化学発光基質(Gal Screen)を用いて細胞内で安定したLTR−βgalリポーターから生産されたベータ−ガラクトシダーゼを測定することにより感染を評価した。ジャーカット細胞については、インプットウイルスを感染の24時間後に除去し、さらに48時間後上清を集め、ELISAによりp24のレベルについて試験した。各siRNAの細胞傷害性についても、並行非感染培養物において Cell Titer Glo を用いることにより測定した。結果は、3つのsiRNAが全て、MLK3タンパク質枯渇に有効であり(図3B)、HeLaCD4βgal細胞において約40%の割合でHIV感染を減少させた(図3A)ことを示している。提案されたTat非依存的転写に影響を及ぼす機構と一致することに、MLK3タンパク質は、初期逆転写物または組み込まれたプロウイルスのレベルに全く影響を及ぼさなかった(データは示さず)。さらに、MLK3 siRNAはまた、ジャーカット細胞のHIV−IIIb感染を減少させたが、その度合はHeLaCD4Bgal細胞で見られるほどではなかった(図3C)。ウエスタンブロット分析は、ジャーカット細胞におけるタンパク質枯渇の量が、HeLaCD4βgal細胞で見られる量より少ないことを示していることから、観察された阻害レベルの低いことが説明された(図3D)。
【表1】

【0088】
【表2】

【表3】

【表4】

【0089】
【表5】

平均活性化率(afa)を活性化率の調整標準偏差(mfa)で除したもの、各cDNAの効果および反復実験間の偏差値の両方を考慮している。
陰性対照Sport6gfp、スクリーニングで使用したものと同じ。
【0090】
実施例4.酵母2−ハイブリッドスクリーニングにより同定されたHIV相互作用性宿主因子
酵母2−ハイブリッドスクリーニングを実施することにより、ヒト白血球cDNAライブラリーでコード化された新規相互作用性宿主細胞因子を同定した。酵母におけるタンパク質−タンパク質相互作用の検定を、GAL4およびLexA融合タンパク質で実施した。Vpr cDNAを、Vpr特異的プライマーを用いるPCRにより増幅した。cDNAをLexA DBD発現ベクターpSLANSへ挿入した。pSLANSは、pBTM116(Bartel et al.、Biotechniques 14:920−924、1993)の修飾バージョンである。NotI挿入体を受け入れ、LexAおよび釣り餌間にgly4−ser−gly4−serを配置させる修飾をそれに加えた。LexA DBD−Vpr融合タンパク質をコード化するcDNAを、L40 MATa酵母株へ形質転換した。Gal4 AD−白血球cDNA融合タンパク質をコード化するcDNAを、酵母株540 Matαへ形質転換した。2種の酵母株を交配し、両プラスミドを含む形質転換体をTHUKL−欠損合成培地から選択し、β−ガラクトシダーゼフィルター検定法によりタンパク質相互作用を分析した。
【0091】
約200万の二倍性形質転換体をスクリーニングにかけ、多数の陽性候補を単離した。タンパク質−タンパク質相互作用をさらに確認するため、フィルターリフト検定法を用いて、陽性コロニーをβ−ガラクトシダーゼ活性について検定した。表4に列挙したスクリーニングヒットは、候補cDNAクローンの配列決定および Genbank データベースとの比較により同定された。
【表6】

【0092】
本明細書に記載した実施例および実施態様は、説明を目的としているのに過ぎず、それに照らした様々な修正または変更は当業者であれば容易に想到できるものであり、本願の精神および範囲および添付の請求の範囲内に包含されるものとする。本明細書記載のものと類似または均等内容の方法または材料であれば、本発明の実践または試験で使用され得るが、好ましい方法および材料を記載している。
【0093】
本明細書で引用している全ての出版物、GenBank 配列、ATCC寄託物、特許および特許出願については、そのまま、あらゆる目的について各々個々に示されている場合と同様に出典明示で援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIV感染を阻止する薬剤の同定方法であって、
(a)試験化合物をスクリーニングにかけることにより、表2〜4に列挙した構成員から選択されるポリヌクレオチドによりコード化されるHIV相互作用性宿主因子の生物活性または発現レベルをダウンレギュレーションする1種またはそれ以上の調節性化合物を同定し、
(b)HIV感染の阻止能力について該調節性化合物を試験する
ことを含む方法。
【請求項2】
HIV相互作用性宿主因子が、テトラトリコペプチド反復配列1(IFIT1)、ホスファチジルイノシトール転移タンパク質アルファ(PITPNα)、および混合型(mixed lineage)キナーゼ3(MLK3)から成る群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
HIV相互作用性宿主因子がMLK3であり、MLK3のキナーゼ活性またはその発現の阻止能力について試験化合物をスクリーニングする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
調節性化合物によるHIV感染阻止能力を、HIV感染細胞におけるHIV LTRプロモーターの制御下でのリポーター遺伝子の発現を調べることにより検査する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
細胞がHeLa−CD4−Bgalである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
リポーター遺伝子がベータ−ガラクトシダーゼ遺伝子である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
細胞をHIV−IIIbにより感染させる、請求項4記載の方法。
【請求項8】
調節性化合物と接触させた遺伝子操作によるHIV許容細胞におけるHIV複製を、調節性化合物と接触させなかった対照細胞におけるHIV複製と比較することにより、調節性化合物によるHIV−1感染阻止能力を検査する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
HIV許容細胞がHeLa−T4−βGal HIV細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
HIV複製を、p24抗原ELISA検定法または逆転写酵素活性検定法により調べる、請求項8記載の方法。
【請求項11】
化合物によるHIV感染阻止能力を、化合物で処理した宿主細胞におけるシュードウイルス生産を、化合物で処理しなかった対照宿主細胞におけるシュードウイルス生産と比較することにより検査する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
宿主細胞が293T HEK細胞である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
宿主細胞を、細胞においてHIVシュードウイルスを生産するシュードウイルスプラスミドによりトランスフェクションする、請求項11記載の方法。
【請求項14】
HIV相互作用性宿主因子が酵素であり、検定される生物活性がその酵素活性である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
酵素がキナーゼである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
キナーゼがMLK3である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
対象におけるHIV感染の阻止方法であって、表2〜4に列挙した構成員から選択されるポリヌクレオチドによりコード化されるHIV相互作用性宿主因子の生物活性または発現を阻害する化合物の有効量を含む医薬組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項18】
HIV相互作用性宿主因子が、テトラトリコペプチド反復配列1(IFIT1)、ホスファチジルイノシトール転移タンパク質アルファ(PITPNα)、および混合型キナーゼ3(MLK3)から成る群から選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
HIV相互作用性宿主因子がMLK3であり、化合物がMLK3のキナーゼ活性を阻害する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
化合物がK252aまたはCEP1347である、請求項19記載の方法。

【公表番号】特表2009−518042(P2009−518042A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544531(P2008−544531)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/046866
【国際公開番号】WO2007/067737
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(503261524)アイアールエム・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (158)
【氏名又は名称原語表記】IRM,LLC
【Fターム(参考)】