説明

HMBを含有するプラスチック包装栄養液剤

プラスチックパッケージと前記パッケージに収容された栄養液剤を含む栄養組成物を開示し、前記栄養液剤はβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸(HMB)と、脂質、蛋白質及び糖質の少なくとも1種を含有する。HMBは栄養液剤中に緩衝作用を提供するので、プラスチックパッケージ内に生じ易い酸性pH変化を最小限にし、従って、製品安定性を経時的に維持するのに役立つことが判明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸(HMB)を含有するプラスチック包装栄養液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトに経口投与するのに適した包装栄養液剤には多様なものがあり、このような組成物は典型的には多量養素と微量養素の各種組合せを含有する。これらの包装液剤の多くは単独又は補助栄養源用の牛乳又は蛋白質ベースの乳剤として製剤化されている。これらの包装乳剤は脂質、蛋白質、糖質、ビタミン及びミネラルを含有する水中油型乳剤として製造されることが多く、例をいくつか挙げると、米国オハイオ州コロンバスに所在のAbbott Laboratories製品であるENSURE(登録商標)栄養液剤とGLUCERNA(登録商標)シェイクが挙げられる。
【0003】
製造工程中に、これらの包装栄養組成物は組成物をヒト経口投与に適合させるために必要な程度まで微生物汚染を減らすように殺菌される。これらの工程は多くの場合にはレトルト殺菌や無菌法殺菌等の熱工程を含む。典型的なレトルト法は栄養組成物を適切な容器に導入し、容器を密閉後、密閉した容器とその内容物を殺菌に十分な時間と温度で加熱する。他方、無菌殺菌法は典型的には食品グレード容器の内側と栄養組成物を別々に殺菌後、殺菌した容器と殺菌した栄養組成物をクリーンルーム環境で合体させ、容器を密閉する。
【0004】
保存安定性栄養乳剤及び他の液剤等の栄養液剤を処理及び包装するのに適した容器及び容器材料には多様なものがある。このような容器は多様な殺菌法に伴う高い処理温度に対応するように設計されている。これらの容器としては、ガラス、アルミニウム又は他の金属、紙、プラスチック又は他のポリマー材料、各種ラミネート及びその組合せが挙げられ、その多くは所望の保存期間にわたって栄養液剤の安全で有効な包装を確保するために更に他の容器材料を併用している。これらの多くの選択肢のうちで、プラスチック容器は多様な栄養液剤に好適な費用効果的で軽量の容器として消費者及び製造業者に益々人気が高まっている。
【0005】
プラスチック容器は商業的に有利であり、レトルト処理法又は無菌処理法により製造された栄養乳剤を含む栄養液剤の包装に従来使用されているが、プラスチック包装には元々多くの欠点があるため、その使用は一般に制限されている。例えば、プラスチックパッケージ内の栄養液剤は金属、ガラス又は他の同等材料で包装した栄養液剤に比較して顕著な経時的pH低下を伴う。プラスチック容器内の製品のこの経時的pH低下は少なくとも3つの酸化促進因子に起因すると思われ、これらの因子はいずれもプラスチック容器に収容された栄養液剤の酸化を促進し、その結果、経時的pH低下をもたらすと考えられる。
【0006】
第1に、プラスチックは金属よりも熱伝導率が低いため、目的とする殺菌結果を達成するにはプラスチックのほうが高温を必要とするので、プラスチック容器はレトルト殺菌中に金属容器に比較して苛酷な熱処理を受けることが多い。この苛酷な熱処理の結果、特に栄養製品が脂質又は他の易酸化原料を含有している場合には、容器の内側に収容された栄養液剤の酸化を促進する恐れがある。
【0007】
第2に、プラスチック容器は多くの金属容器に比較してヘッドスペース容積が大きいことが多いため、金属容器に比較してプラスチック容器には多量の空気又はガスが存在している。一般に、プラスチック容器は同等寸法の金属容器に比較してヘッドスペース容積が約2〜3倍となることが多い。ヘッドスペース容積のこの空気又はガス増加の結果、容器内の栄養液剤の酸化を促進する恐れがある。
【0008】
第3に、プラスチック容器は金属容器に比較して環境空気を透過させ易い。空気はプラスチックを容易に透過し、栄養組成物マトリックスに侵入することができるため、栄養組成物中に酸化促進を生じる恐れがある。
【0009】
上記のような酸化による栄養液剤の経時的pH低下はパッケージの内側の栄養液剤に多くの有害な影響を与える可能性があり、(1)結合したミネラルの放出を促進し、イオン状のミネラルは沈殿により栄養液剤の安定性を損なう恐れがある;(2)特に鉄及び銅種の触媒酸化量が増加する;(3)蛋白質沈殿量が増加する;(4)ビタミンC不安定化が増すといった影響がある。これらの望ましくない影響のいずれか1つが生じても栄養液剤の商業的受容性は著しく低下し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、レトルト殺菌又は無菌殺菌してプラスチック容器又はパッケージに包装することができ、経時的に安定しており、pH低下しにくい安定な蛋白質又は牛乳ベースの液剤又は乳剤等の安定な栄養液剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はプラスチックパッケージと前記パッケージに収容された栄養液剤を含む包装栄養組成物に関し、前記栄養液剤はβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸と、脂質、蛋白質及び糖質の少なくとも1種を含有する。
【0012】
本発明は更に、プラスチックパッケージと前記パッケージに収容された栄養乳剤を含む包装栄養組成物に関し、前記栄養乳剤はβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸と脂質を含有する水中油型乳剤である。
【0013】
本発明は更に、プラスチックパッケージと前記パッケージに収容されたレトルト殺菌栄養組成物を含む包装栄養組成物に関し、前記栄養液剤は栄養液剤1キログラム当たり少なくとも約4.5グラムのβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸を含有しており、更に脂質、蛋白質及び糖質を含有しており、前記蛋白質は約35〜100重量%の本願に定義する可溶性蛋白質を含む。
【0014】
本発明は更に、プラスチックパッケージと前記パッケージに収容された無菌殺菌栄養液剤を含む包装栄養組成物に関し、前記栄養液剤は脂質、蛋白質、糖質、及び栄養液剤組成物1キログラム当たり少なくとも約4.5グラムのβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸を含有しており、前記蛋白質は液体組成物中の総蛋白質重量当たり約35%〜100%の可溶性蛋白質を含む。
【0015】
本発明は更に、プラスチックパッケージ入りpH安定性栄養液剤の製造方法に関し、前記方法は脂質、蛋白質、糖質及びβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸を配合し、栄養液剤を形成する工程と、栄養液剤をプラスチックパッケージに導入する工程と、得られたプラスチック包装栄養液剤をレトルト殺菌する工程を含む。
【0016】
本発明は更に、プラスチックパッケージ入りpH安定性栄養液剤の製造方法に関し、前記方法は脂質、蛋白質、糖質及びβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸を配合し、栄養液剤を形成する工程と、栄養液剤を殺菌する工程と、プラスチックパッケージを殺菌する工程と、殺菌した栄養液剤を殺菌したプラスチックパッケージに導入する工程を含む。
【発明の効果】
【0017】
β−ヒドロキシ−β−メチル酪酸(HMB)を栄養乳剤等の栄養液剤に添加すると、予想外の緩衝作用が栄養液剤に付与され、栄養液剤は経時的な水素イオン濃度変化に伴うpH低下を生じにくくなることが発見された。HMBは栄養組成物に望ましい添加剤であり、今回の発見により栄養液剤に添加することが可能になったため、栄養液剤をプラスチック容器に包装することができ、得られる栄養液剤は液剤中に存在するHMBの緩衝作用によりpH安定性が高くなるという点でこの予想外の作用は有利である。プラスチックパッケージは上記のように本来経時的pH変化を生じ易いため、栄養液剤中のHMBの緩衝作用という予想外の発見は、プラスチックパッケージ内でレトルト殺菌される栄養液剤又は無菌殺菌してプラスチックパッケージに包装される栄養液剤に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の包装栄養組成物はプラスチック容器と、前記容器に収容されたHMBを含有する栄養液剤を含み、更に他の成分、特徴又は原料も含むことができる。栄養液剤の必須成分、特徴又は原料と、多くの非必須変形及び付加事項の一部について以下に詳細に記載する。
【0019】
本願で使用する「HMB」なる用語は特に指定しない限り、β−ヒドロキシ−β−メチル酪酸(別称β−ヒドロキシル−3−メチル酪酸、β−ヒドロキシイソ吉草酸)又はその資源(例えばHMBのカルシウム塩)を意味する。HMB源がカルシウムHMBであるとき、この特定資源は最も典型的には1水和物であるため、カルシウムHMBに関して本願で使用する全重量、百分率及び濃度は特に指定しない限り、カルシウムHMB・1水和物の重量に基づく。
【0020】
本願で使用する「栄養液剤」なる用語は特に指定しない限り、脂質、蛋白質及び糖質の少なくとも1種を含有する製剤であって、ヒト経口投与に適しており、最も典型的には約1℃〜約25℃の想定投与温度で飲用可能な粘度をもつ製剤を意味する。この文脈において、想定温度で飲用可能な粘度は典型的には約300cps未満、より典型的には約10cps〜約160cps、更に典型的には約20cps〜約70cpsとなろう。本願で使用する粘度値は特に指定しない限り、62番スピンドルを取付たB型粘度計(モデルDV−II+)を想定温度で使用して得られる値である。粘度は目盛を読むために可能な最高速度であるスピンドル速度で粘度計を運転させることにより測定される。粘度測定値は剪断応力と剪断速度の比に相当し、ダイン・秒/cm、又はポアズ、又はより典型的にはセンチポアズ(cps)ないし100分の1ポアズとして表される。
【0021】
本願で使用する「保存安定性」なる用語は特に指定しない限り、包装後に18〜25℃で少なくとも約3カ月間、例えば約6カ月間〜約24カ月間、例えば約12カ月間〜約18カ月間保存後に商業的に安定に維持することができる栄養液剤を意味する。
【0022】
本願で使用する「栄養乳剤」なる用語は特に指定しない限り、油中水型、水中油型及び複合型乳剤を含む水性乳剤、最も典型的には水中油型乳剤として製剤化された栄養液剤を意味する。
【0023】
本願で使用する「脂質」及び「油脂」なる用語は特に指定しない限り、植物又は動物から抽出又は調製された脂質材料の意味で同義に使用する。これらの用語は、ヒト経口投与に適するものであれば、合成脂質材料も包含する。
【0024】
本願で使用する「pH安定性」なる用語は特に指定しない限り、β−ヒドロキシ−β−メチル酪酸の緩衝作用によりpHが低下しにくいこと又は少なくともその不在下よりもpHが低下しにくいことを意味する。
【0025】
本願で使用する「プラスチック」なる用語は特に指定しない限り、米国食品医薬品局又は他の適切な監督機関により承認された食品グレードプラスチックを意味し、その非限定的な例をいくつか挙げると、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0026】
本願で使用する「滅菌」、「殺菌した」又は「殺菌」なる用語は特に指定しない限り、食品をヒト消費に適合させるために必要な程度まで食品中又は食品グレード表面上の真菌、細菌、ウイルス、胞子等の感染性病原体を減らすことを意味する。殺菌法としては、熱、過酸化物もしくは他の薬品、放射線、高圧、濾過、又はその組合せもしくは変形の適用を伴う各種技術が挙げられる。
【0027】
本願で使用する全百分率、部及び比は特に指定しない限り、組成物全体の重量に基づく。指定原料に関するこのような全重量は有効成分量に基づき、従って、特に指定しない限り、市販材料に含まれている可能性のある溶媒又は副生物を含まない。
【0028】
特に明記している場合又は文脈からそうでないことが明白な場合を除き、本発明の単数の特徴又は限定事項の全記載は対応する複数の特徴又は限定事項を包含し、また、複数の特徴又は限定事項の記載は単数の特徴又は限定事項の記載を包含する。
【0029】
特に明記している場合又は文脈からそうでないことが明白な場合を除き、本願で使用する方法又は製法工程の全組合せは任意順序で実施することができる。
【0030】
その他の栄養組成物が本願に記載する必要な全原料又は特徴を含むならば、本発明の栄養組成物の各種態様は本願に記載する非必須原料もしくは特徴又は選択された必須原料もしくは特徴を実質的に含んでいなくてもよい。この文脈において、特に指定しない限り、「実質的に含まない」なる用語は選択された組成物が非必須原料を機能的量未満しか含有しないことを意味し、このような非必須原料又は選択された必須原料は典型的には約0.5%重量%未満、例えば約0.1%未満であり、ゼロ重量%でもよい。
【0031】
本発明の栄養液剤及び対応する製造方法は本願に記載する本発明の必須成分及び特徴と、本願に記載するか又は記載しないが、栄養用途で有用な任意の付加的又は非必須原料、特徴又は成分を含むことができ、あるいはこれらから構成することができ、あるいはこれらから本質的に構成することができる。
【0032】
製品形態
本発明の栄養液剤は脂質、蛋白質及び糖質の少なくとも1種を含有しており、ヒト経口投与に適しており、想定投与温度で飲用可能な粘度をもつ。これらの組成物は最も典型的には水中油型、油中水型又は複合型水性乳剤等の乳剤として製剤化され、更に典型的には連続水相と不連続油相をもつ水中油型乳剤として製剤化される。栄養液剤は保存安定性とすることができる。
【0033】
栄養液剤は即時摂取可能又は即時飲用可能な液剤として特徴付けることもでき、即ち、液剤は液状で包装され、液剤を収容する密閉プラスチック容器から取出すとすぐに消費するのに適している。換言するならば、本発明は調製又は別に再構成して調製又は再構成後24〜72時間以内に使用する必要がある栄養粉末又は他の組成物を想定しない。
【0034】
栄養液剤は最も典型的には保存安定性乳剤の形態であるが、これらの液剤は溶液、懸濁液(懸濁固形物)、ゲル等の非乳剤として製剤化してもよい。これらの栄養液剤は長期保存寿命を維持するために冷蔵を必要とする非保存安定性製品として製剤化してもよい。
【0035】
栄養液剤は典型的には栄養液剤重量当たり約95重量%までの水を含有しており、例えば約50%〜約95%、例えば約60%〜約90%、例えば約70%〜約85%の水を含有する。
【0036】
栄養液剤は単独、主要もしくは補助栄養源を提供するため、又は特定疾患もしくは病態に罹患している個体で使用する特殊栄養液剤を提供するために十分な種類及び量の栄養素を使用して製剤化することができる。これらの栄養組成物は種々の製品密度とすることができるが、最も典型的には約1.055g/mlを上回る密度であり、例えば1.06g/ml〜1.12g/ml、例えば約1.085g/ml〜約1.10g/mlである。
【0037】
栄養液剤は最終使用者の栄養の必要に合わせたカロリー密度とすることができるが、大半の場合には組成物は約100〜約500kcal/240mlであり、例えば約150〜約350kcal/240ml、例えば約200〜約320kcal/240mlである。これらの栄養組成物は更に本願に記載するようなHMBを含有しており、その量は最も典型的には約0.5〜約3.0g/240ml、例えば約0.75〜約2.0g/240ml、例えば約1.5g/240mlである。
【0038】
栄養液剤は約3.5〜約8の範囲のpHとすることができるが、約4.5〜約7.5の範囲が最も有利であり、例えば約5.5〜約7.3、例えば約6.2〜約7.2である。
【0039】
栄養液剤の1包量は多数の因子により変動し得るが、典型的な1包量は約100〜約300mlであり、例えば約150〜約250ml、例えば約190ml〜約240mlである。
【0040】
β−ヒドロキシ−β−メチル酪酸(HMB)
栄養液剤はHMBを含有しており、あるいは経口栄養製品用として適切であると共に他の点で栄養液剤の必須成分又は特徴に適合可能な任意HMB源を含有する。
【0041】
栄養液剤は最適にはHMBのカルシウム塩を含有しており、前記カルシウム塩は最も典型的には1水和物形態である。カルシウムHMB又はカルシウムHMB・1水和物が本願で使用するのに好ましいHMB源であるが、他の適切なHMB源としては、遊離酸、無水塩を含む他の塩形態、エステル、ラクトン、又はそれ以外で栄養液剤から生体利用可能な形態のHMBを提供する他の生成物形態としてのHMBが挙げられる。本願で使用するのに適したHMB塩の非限定的な例としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、クロム、カルシウムのHMB塩、水和物もしくは無水物、又は他の非毒性塩形態が挙げられる。カルシウムHMB・1水和物が好ましく、ユタ州ソルトレイクシティに所在のTechnical Sourcing International(TSI)から市販されている。
【0042】
栄養液剤中のHMB濃度(カルシウムHMB及び/又はカルシウムHMB・1水和物を本願のHMB源として使用する場合にはその濃度を含む)は栄養液剤重量当たり約10%までとすることができ、例えば約0.1%〜約8%、例えば約0.2%〜約5.0%、例えば約0.3%〜約3%、例えば約0.4%〜約1.5%、例えば約0.45%である。
【0043】
多量養素
栄養液剤はHMB以外に、脂質、蛋白質及び糖質の少なくとも1種を含有する。一般に、本願に定義する栄養液剤の必須成分に適合可能であるならば、栄養製品で使用するのに適切な公知又は非公知の任意脂質源、蛋白質源及び糖質源も本願で使用するのに適切であると思われる。
【0044】
脂質、蛋白質及び糖質の合計濃度又は量は対象使用者の栄養の必要によって変動し得るが、このような濃度又は量は最も典型的には本願に記載する任意の他の脂質、蛋白質及び/又は糖質原料を含む以下の例示範囲の1つに該当する。
【0045】
糖質濃度は最も典型的には栄養乳剤重量当たり約5%〜約40%、例えば約7%〜約30%、例えば約10%〜約25%であり、脂質濃度は最も典型的には栄養乳剤重量当たり約1%〜約30%、例えば約2%〜約15%、例えば約4%〜約10%であり、蛋白質濃度は最も典型的には栄養液剤重量当たり約0.5%〜約30%、例えば約1%〜約15%、例えば約2%〜約10%である。
【0046】
栄養液剤中の糖質、脂質及び/又は蛋白質の濃度又は量は上記の追加又は代用として、下表に示すように栄養組成物中の総カロリーの百分率として表すこともできる。
【0047】
【表1】

【0048】
本願に記載する栄養液剤で使用するのに適した脂質又は脂質源の非限定的な例としては、ヤシ油、分留ヤシ油、大豆油、コーン油、オリーブ油、サフラワー油、高オレイン酸サフラワー油、MCT油(中鎖トリグリセリド)、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、パーム油及びパーム核油、パームオレイン、キャノーラ油、魚油、綿実油並びに及びその組合せが挙げられる。
【0049】
本願に記載する栄養液剤で使用するのに適した糖質又は糖質源の非限定的な例としては、マルトデキストリン、加水分解又は改質澱粉又はコーンスターチ、ブドウ糖ポリマー、コーンシロップ、コーンシロップ固形分、コメ由来糖質、ブドウ糖、果糖、乳糖、高果糖コーンシロップ、蜂蜜、糖アルコール(例えばマルチトール、エリスリトール、ソルビトール)及びその組合せが挙げられる。
【0050】
栄養液剤で使用するのに適した蛋白質又は蛋白質源の非限定的な例としては、牛乳(例えばカゼイン、ホエー)、動物(例えば肉類、魚類)、穀類(例えばコメ、トウモロコシ)、野菜(例えば大豆)又はその組合せ等の任意の公知又は非公知の適切な資源に由来し得る加水分解、部分加水分解又は非加水分解蛋白質又は蛋白質源が挙げられる。このような蛋白質の非限定的な例としては、乳蛋白質単離物、本願に記載するような乳蛋白質濃縮物、カゼイン蛋白質単離物、ホエー蛋白質、カゼイン酸ナトリウム及びカゼイン酸カルシウム、全乳、部分又は完全脱脂乳、大豆蛋白質単離物、大豆蛋白質濃縮物等が挙げられる。
【0051】
本願に記載する脂質成分は水性乳剤中で経時的に酸化し易く、経時的に増加する水素イオン濃度を生じる結果、HMB又は本願に記載する他の緩衝系を使用しないと、組成物pHが低下し、従って、製品安定性が低下する可能性があるため、栄養液剤はこのような脂質成分を加えて製剤化する場合に特に有用である。
【0052】
可溶性蛋白質
本発明の栄養液剤は製品安定性を改善し、経時的な苦い風味と後味の発生を最小限にするために、選択された量の可溶性蛋白質を含有することができる。
【0053】
可溶性蛋白質は栄養液剤中の総蛋白質重量当たり約35%〜100%とすることができ、例えば約40%〜約85%、例えば約60%〜約80%、例えば約65%〜約75%である。可溶性蛋白質の濃度は栄養液剤重量当たり少なくとも約0.5%とすることができ、例えば約1%〜約26%、例えば約2%〜約15%、例えば約3%〜約10%、例えば約4%〜約8%である。
【0054】
栄養液剤に含まれる可溶性蛋白質の量はHMBに対する可溶性蛋白質の重量比として表すこともでき、栄養液剤はカルシウムHMB及び/又はカルシウムHMB・1水和物を含むHMBに対して少なくとも約3.0、例えば約4.0〜約12.0、例えば約7.0〜約11.0、例えば約8.0〜約10.0の重量比の可溶性蛋白質を含有する。
【0055】
本願で使用する「可溶性蛋白質」なる用語は特に指定しない限り、(1)蛋白質を水に2.00%(w/w)で懸濁する段階と;(2)20℃で1時間激しく撹拌し、懸濁液を形成する段階と;(3)懸濁液を分取し、総蛋白質としての蛋白質濃度を測定する段階と;(4)懸濁液を31,000×g及び20℃で1時間遠心する段階と;(5)上清中の蛋白濃度(可溶性蛋白質)を測定する段階と;(6)可溶性蛋白質を総蛋白質の百分率として換算する段階を含む蛋白質溶解度測定試験に従って測定した場合に少なくとも約90%の溶解度をもつ蛋白質を意味する。
【0056】
本願に定義する溶解度要件を満たすものであれば、任意の可溶性蛋白質源が本願で使用するのに適しており、その非限定的な例をいくつか挙げると、カゼイン酸ナトリウム(蛋白質溶解度測定試験により測定した溶解度>95%)、ホエー蛋白質濃縮物(蛋白質溶解度測定試験により測定した溶解度>90%)及びその組合せが挙げられる。当然のことながら非可溶性蛋白質も栄養乳剤に加えてもよい。
【0057】
本願で使用するのに適した可溶性蛋白質は蛋白質中のホスホセリン含有量により表すこともでき、この文脈における可溶性蛋白質は蛋白質1キログラム当たり少なくとも約100mmol、例えば約150〜400mmol、例えば約200〜約350mmol、例えば約250〜約350mmolのホスホセリンを含有する蛋白質として定義される。
【0058】
可溶性蛋白質をホスホセリン含有量により定義する場合には、カルシウムHMBに対する(上記ホスホセリン含有量の)可溶性蛋白質の重量比を少なくとも約3:1、例えば少なくとも約5:1、例えば少なくとも約7:1、例えば約9:1〜約30:1にすればよいことが判明した。この文脈において、必要なホスホセリン含有量の蛋白質は最も典型的にはカゼイン酸ナトリウム、カゼイン酸カリウム及びその組合せ等の1価カゼイン酸塩の形態である。
【0059】
1態様において、可溶性蛋白質はカルシウムHMB・1水和物に対して少なくとも約0.2、例えば約0.2〜約2.0、例えば約0.25〜1.7の1価カゼイン酸ホスホセリンのモル比により表すこともできる。
【0060】
しかし、当然のことながら、必要なホスホセリン含有量をもち、比の計算に使用されるホスホセリンがカルシウムやマグネシウム等の多価カチオンと結合、錯形成又は他の方法で付着していない限り、任意のホスホセリン含有蛋白質が本願で使用するのに適切であると思われる。
【0061】
更に、可溶性蛋白質について本願に記載する代用定義としては、組成物の可溶性蛋白質画分がホスホセリンを含有する及び/又は含有しない可溶性蛋白質を含むことができるように、ホスホセリン含有量が殆ど又は完全にゼロの蛋白質が挙げられる。従って、本願で使用する可溶性蛋白質は可溶性蛋白質特性決定法の任意の1種以上を別々又は組合せて利用することにより定義することができる。
【0062】
従って、蛋白質内のホスホセリン部分は、可溶性蛋白質とカルシウムHMBの上記比が未結合ホスホセリン部分、未付着ホスホセリン部分又はそれ以外で製剤化中にカルシウムHMBからの可溶性カルシウムと結合するために利用可能なホスホセリン部分をもつ蛋白質の比となるように、カルシウムHMBから放出されたカルシウムとの結合に利用可能であると思われる。例えば、カゼイン酸カルシウムとカゼイン酸ナトリウムの混合物を組成物で使用することが可能であるが、ホスホセリン含有量により定義される蛋白質とカルシウムHMBの比はカゼイン酸ナトリウムに由来する蛋白質画分に加え、カルシウムと結合していないカゼイン酸カルシウム画分に由来する蛋白質に基づいて計算される。
【0063】
可溶性カルシウム結合能
本発明の栄養組成物は製品安定性を改善すると共に苦い風味と後味の経時的発生を最小限にするために、総可溶性カルシウムに対して選択された重量比の可溶性カルシウム結合能(SCBC)を含有する乳剤態様を含むことができる。
【0064】
乳剤態様の総可溶性カルシウムに対する(本願定義による)可溶性カルシウム結合能の比は重量比で少なくとも約2.3、例えば約2.3〜約12.0、例えば約3.0〜約8.0、例えば約4.0〜約6.5であり、前記比は下式:
比=SCBC/[可溶性カルシウム]
SCBC=(0.32×[可溶性クエン酸塩]+0.63[可溶性リン酸塩]+0.013×[可溶性蛋白質])
に従って求められる。
【0065】
栄養乳剤中の未結合カルシウム濃度を最小限にするか又は乳剤中のHMBに対するこのような未結合カルシウムの重量比を最小限にし、製品安定性を改善し、苦い風味と後味の経時的発生を減らすように、総可溶性カルシウム濃度に対するSCBCの重量比を調整することができる。
【0066】
カルシウム
本発明の栄養液剤は対象個体における健康な筋肉の成長又は維持用に望ましい場合には更にカルシウムを含有することができる。カルシウムHMB又はカルシウムHMB・1水和物をHMB源として使用する場合には、カルシウムの一部又は全部を提供することができる。しかし、栄養液剤の必須成分と適合可能であるならば、任意の他のカルシウム源を使用することができる。
【0067】
栄養液剤中のカルシウム濃度は約10mg/Lを越えてもよく、約25mg/L〜約3000mg/L、例えば約50mg/L〜約500mg/L、例えば約100mg/L〜約300mg/Lの濃度でもよい。
【0068】
その乳剤態様における味と安定性の問題を最小限にするためには、カルシウムが乳剤中に可溶化される程度を最小限にするようにカルシウムを配合すればよい。従って、乳剤態様における可溶化カルシウム濃度は約900mg/L未満とすることができ、例えば約700mg/L未満、例えば約500mg/L〜約700mg/L、例えば約400mg/L〜約600mg/Lである。この文脈において「可溶化カルシウム」なる用語は20℃で測定した場合の栄養液剤中の上清カルシウムを意味する。
【0069】
液剤中のカルシウムは可溶化カルシウムに対して5.0以下、例えば4.0以下、例えば3.0以下、例えば約0.8〜約3.0の可溶化クエン酸の比(当量換算)により表すこともできる。この文脈において、「可溶化クエン酸」及び「可溶化カルシウム」なる用語は夫々20℃で測定した場合の栄養液剤の上清中に存在するクエン酸カチオンとカルシウムカチオンの当量を意味する。
【0070】
栄養液剤のカルシウム成分は栄養乳剤の900mg/L未満、例えば700mg/L未満、例えば600mg/L未満、例えば400mg/L〜700mg/Lに相当する可溶化カルシウム濃度により表すこともでき、可溶化カルシウムに対するカルシウムHMB又はその1水和物の重量比は約6〜約15、例えば約6〜約12、例えば約6〜約10、例えば約6〜約8である。
【0071】
ビタミンD
本発明の栄養組成物は対象使用者に健康な筋肉を維持し易くするために更にビタミンDを含有することができる。ビタミンD形態としては、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)及びビタミンD3(コレカルシフェロール)又は栄養製品で使用するのに適した他の形態が挙げられる。
【0072】
栄養液剤中のビタミンDの量は最も典型的には1包当たり約1000IUまで、より典型的には約10〜約600IU、より典型的には約50〜400IUである。
【0073】
非必須原料
栄養液剤は更に、製剤の物理的、化学的、快楽的又は加工特性を改変することや、対象集団で使用時に医薬成分又は付加栄養成分として機能することが可能な他の非必須原料を含有することができる。多数のこのような非必須原料が公知であり、又は公知ではないが、他の栄養製品で使用するのに適しており、このような非必須材料も経口投与に安全且つ有効であると共に選択された製品形態の必須原料及び他の原料と適合可能であるならば、本願に記載する栄養液剤で使用することができる。
【0074】
このような非必須原料の非限定的な例としては、防腐剤、酸化防止剤、乳化剤、他の緩衝剤、医薬有効成分、本願に記載するような他の栄養素、着色剤、フレーバー、増粘剤及び安定剤等が挙げられる。
【0075】
栄養液剤は更にビタミン又は関連栄養素を含有することができ、その非限定的な例としては、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンK、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ビタミンB12、カロテノイド、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ビタミンC、コリン、イノシトール、その塩及び誘導体、並びにその組合せが挙げられる。
【0076】
栄養液剤は更にミネラルを含有することができ、その非限定的な例としては、リン、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅、ナトリウム、カリウム、モリブデン、クロム、セレン、塩化物及びその組合せが挙げられる。
【0077】
栄養液剤は更に、液剤中に残留する苦い風味と後味の経時的発生を減らすため又は他の方法で隠すために1種以上の矯味剤を含有することができる。適切な矯味剤としては、天然及び人工甘味料、塩化ナトリウム等のナトリウム源、並びにグアーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ゲランガム及びその組合せ等のハイドロコロイドが挙げられる。栄養液剤中の矯味剤の量は選択される特定矯味剤、製剤中の他の原料、及び他の製剤又は製品対象因子に応じて変動し得る。しかし、このような量は最も典型的には栄養液剤重量当たり少なくとも約0.1%、例えば約0.15%〜約3.0%、例えば約0.18%〜約2.5%である。
【0078】
プラスチックパッケージ
本発明の栄養液剤は栄養製品又は食品用に適したプラスチックパッケージの内側に収容される。プラスチックパッケージは米国食品医薬品局又は他の適切な監督機関により承認された食品グレードプラスチックから製造すべきである。
【0079】
包装栄養液剤は滅菌製剤であり、即ち、包装液剤はこのような包装液剤をヒトによる経口消費に適合させるために必要な程度まで真菌、細菌、ウイルス、胞子等の感染性病原体の量又は濃度を低下させるように処理又は他の方法で加工されている。殺菌法としては、熱、薬品、放射線、高圧、濾過、又はその組合せもしくは変形の適用を伴う各種技術が挙げられる。
【0080】
プラスチック包装液剤は保存寿命中に消費前又は消費中に液剤を取り出すことができるパッケージの開口部を覆うように配置された取り外し可能な閉鎖手段を含む密閉システムである。これらのプラスチックパッケージは単回用量容器でも多用量容器でもよく、開口部を覆うように配置された薄箔密封部材等の密封部材を備えてもよいし、備えなくてもよい。プラスチック容器は無菌殺菌法、レトルト殺菌法又はその両者を含む殺菌処理に耐えることができる。プラスチックパッケージは再封可能なキャップを備えることができる。
【0081】
プラスチック容器は所定態様において押出成形プラスチック容器とすることができ、単層プラスチックから構成してもよいし、複数層のプラスチックから構成してもよく、中間層を配置してもしなくてもよい。適切なプラスチック材料の1例は高密度ポリエチレンである。適切な中間層はエチレンビニルアルコールである。1特定態様において、プラスチック容器は箔シールと再封可能なキャップを備える8オンス多層プラスチックボトルであり、前記多層ボトルは2層の高密度ポリエチレン層と、エチレンビニルアルコールの中間層を含む。別の態様において、プラスチック容器は箔シールと再封可能なキャップを備える32オンス単層又は多層プラスチックボトルである。
【0082】
本願に記載する栄養液剤で使用されるプラスチック容器又はパッケージは一般にその内側に存在するヘッドスペース容積を最小限にするような寸法及び構成に設計される。ヘッドスペース内の空気に由来する酸素は栄養液剤の各種成分の望ましくない酸化を生じる可能性があるので、一般にはヘッドスペース容積、従って、プラスチックパッケージ内に存在する酸素の量を制限することが好ましい。1態様において、プラスチックパッケージ又は容器は約13立方センチメートル未満のヘッドスペースを含む。別の態様において、プラスチックパッケージは約10立方センチメートル未満のヘッドスペースを含む。
【0083】
使用方法
本願に記載する栄養液剤は補助、主要もしくは単独栄養源を提供するため、及び/又は本願に記載するような1種以上の効果を個体に提供するために有用である。このような方法によると、必要に応じて所望レベルの栄養を提供するように液剤を経口投与することができ、最も典型的には1日1〜2包を1日1回又は2回以上に分けて投与し、例えば1包量は典型的には約100〜約300ml、例えば約150〜約250ml、例えば約190ml〜約240mlとし、1包当たり約0.4〜約3.0g、例えば約0.75〜約2.0g、例えば約1.5gのカルシウムHMBを含有する。
【0084】
このような方法は更に、このような製品の投与後、最も典型的には約1〜約6カ月間、例えば約1〜約3カ月間の長期間にわたる毎日服用後に、1)除脂肪体重持続の維持、2)体力及び/又は筋力の維持、3)筋細胞の蛋白質分解及び損傷の低減、4)運動又は他の外傷後の筋肉回復の助長、並びに5)運動後の筋蛋白質分解の低減の1種以上を個体に提供することを目的とする。
【0085】
このような方法は、1)サルコペニアの高齢者における除脂肪体重の持続及び維持、2)個体、特に高齢者に活動的で自立したライフスタイルを維持するための栄養補給、3)筋力回復の支援、4)筋肉再建及び体力回復の助長、並びに5)筋力を含む体力と運動能力の改善の1種以上を達成するためにも有用である。
【0086】
製造方法
栄養液剤は栄養乳剤又は他の栄養液剤の製造、最も典型的には栄養水性乳剤又は牛乳ベースの乳剤の製造に適した任意の公知又は非公知方法により製造することができる。
【0087】
適切な製造方法の1例では、例えば、脂質中蛋白質(PIF)スラリー、糖質−ミネラル(CHO−MIN)スラリー、及び水中蛋白質(PIW)スラリーを含む少なくとも3種類の別個のスラリーを調製する。PIFスラリーは選択された油類(例えばキャノーラ油、コーン油等)を加熱・混合後、連続加熱撹拌下に乳化剤(例えばレシチン)、脂溶性ビタミン、及び総蛋白質の一部(例えば乳蛋白質濃縮物等)を加えることにより形成される。CHO−MINスラリーは加熱撹拌下にミネラル(例えばクエン酸カリウム、リン酸二カリウム、クエン酸ナトリウム等)、微量及び超微量ミネラル(TM/UTMプレミックス)、増粘剤又は懸濁剤(例えばAvicel、ゲラン、カラギーナン)、並びにカルシウムHMB又は他のHMB源を水に加えることにより形成される。得られたCHO−MINスラリーを連続加熱撹拌下に10分間維持した後、他のミネラル(例えば塩化カリウム、炭酸マグネシウム、ヨウ化カリウム等)及び/又は糖質(例えばフラクトオリゴ糖、蔗糖、コーンシロップ等)を加える。その後、加熱撹拌下に残りの蛋白質(例えばカゼイン酸ナトリウム、大豆蛋白質濃縮物等)を水に混合することによりPIWスラリーを形成する。
【0088】
得られたスラリーを次に加熱撹拌下に相互にブレンドし、pHを所望範囲、典型的には6.6〜7.0に調整後、組成物を高温短時間(HTST)処理に供し、この間に組成物を熱処理し、乳化し、均質化後、冷却する。水溶性ビタミンとアスコルビン酸を加え、必要に応じてpHを所望範囲に調整し、フレーバーを加え、所望の総固形分濃度に達するように水を加える。次に組成物を無菌包装し、無菌包装栄養乳剤を形成するか、又は組成物をレトルト安定容器に加えた後、レトルト殺菌し、レトルト殺菌栄養乳剤もしくは液剤を形成する。
【0089】
レトルト殺菌法では、例えば、栄養液剤又は乳剤を予熱後、清潔な容器に充填し、密閉し、水蒸気チャンバーに入れ、標準的には約121℃で約15〜約45分間殺菌する。その後、バッチを冷却し、新しいバッチをレトルト釜に仕込む。仕込んだ後に殺菌するので、無菌操作の必要はないが、高温に暴露するので耐熱性プラスチック(又は別の耐熱性材料)を使用する必要がある。特定の1レトルト殺菌態様では、静水圧塔法を利用し、殺菌装置内の連続する加熱ゾーンと冷却ゾーンを通過するように密閉容器をゆっくりと輸送する。これらのゾーンは各種処理段階で必要な温度と保持時間に対応するような寸法に設計される。
【0090】
無菌殺菌法では、栄養液剤又は乳剤を殺菌し、容器を別に殺菌する。栄養液剤は例えば加熱法を利用して殺菌することができる。容器は容器の内壁に過酸化水素を噴霧後に内壁を乾燥することにより殺菌することができる。容器と栄養液剤の両方を殺菌後、栄養液剤をクリーンルーム環境で容器に導入し、容器を密閉する。
【0091】
無菌殺菌には一般に容器の内壁に殺菌剤として過酸化水素を使用する必要があるため、一般に無菌処理容器の内壁には過酸化水素が残留しており、液剤及び乳剤に侵入してpH変化を生じる可能性があるので、無菌殺菌容器に包装された無菌処理済み栄養液剤又は乳剤は経時的にpH変化を生じる可能性がある。従って、液剤又は乳剤の緩衝を助長し、製品に望ましくない経時的pH変化が生じるのを防ぐために、本願に記載するような栄養液剤又は乳剤にHMBを導入すると特に有益である。
【0092】
他の製造方法、技術及び上記方法の変形も本発明の趣旨と範囲から逸脱せずに栄養液剤又は乳剤の製造に使用することができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本発明の栄養液剤の特定態様及び/又は特徴を例証する。以下の実施例は例証のみを目的としており、本発明を限定するものと解釈すべきではなく、本発明の趣旨と範囲から逸脱せずにその多くの変形が可能である。例示する全数値は特に指定しない限り、組成物の総重量当たりの重量百分率である。
【0094】
(実施例1)
本実施例は再構成後のPediaSure(登録商標)粉末(栄養乳剤)におけるHMBの緩衝作用を例証する。PediaSure(登録商標)粉末(Abbott Laboratories,Columbus Ohio)の対照再構成サンプル(HMB非含有)と、再構成後の粉末1キログラム当たり5.17グラムのHMBを添加して強化したPediaSure(登録商標)粉末の再構成サンプルに室温で既知量の希塩酸を加える。HMB含有サンプルを強化するために使用するHMBはカルシウムHMB・1水和物からカチオン交換によりカルシウムを除去することにより製造する。遊離HMBをサンプルに加える前に、そのpHを水酸化ナトリウムで6.7に調整する。等モル量のナトリウムを塩化ナトリウムとして対照サンプルに加える。連続撹拌下で、塩酸添加から1分後に各サンプルのpHを測定する。pH読み値から水素イオン濃度(H+)を計算する。結果を下表に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
上記表のデータは栄養液剤中のHMBの存在に伴う測定可能な緩衝作用を示す。HMBを含有するサンプルの合計pH低下はHMBを含有しないサンプルのpH低下よりも少ない。また、HMBを含有するサンプルのほうがHMBを含有しないサンプルに比較して[H+]増加も少ない。従って、HMBは栄養液剤に緩衝作用を提供する。
【0097】
(実施例2)
本実施例は再構成後のPediaSure(登録商標)粉末(栄養乳剤)におけるHMBの緩衝作用を例証する。PediaSure(登録商標)粉末の対照再構成サンプル(HMB非含有)と、再構成後の粉末1キログラム当たり5.17グラムのHMBを添加して強化したPediaSure(登録商標)粉末の再構成サンプルに既知量の過酸化水素(再構成後の粉末1kg当たり1.32mg)を加える。HMBを含有するサンプルを強化するために使用するHMBはカルシウムHMB・1水和物からカチオン交換によりカルシウムを除去することにより製造する。遊離HMBをサンプルに加える前に、そのpHを水酸化ナトリウムで6.7に調整する。等モル量のナトリウムを塩化ナトリウムとして対照サンプルに加える。連続撹拌下に、室温で1時間後に各サンプルのpHを測定し、pH値から[H+]濃度を計算する。結果を下表に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
上記表のデータは栄養乳剤中のHMBの存在に伴う測定可能な緩衝作用を示す。HMBを含有するサンプルの合計pH低下はHMBを含有しないサンプルのpH低下よりも少ない。また、HMBを含有するサンプルのほうがHMBを含有しないサンプルに比較して[H+]増加も少ない。従って、HMBは栄養液剤に緩衝作用を提供する。
【0100】
(実施例3)
本実施例は栄養乳剤としての即時飲用可能な液剤におけるHMBの緩衝作用を例証する。市販品であるEnsure(登録商標)Plus(サンプル#1)(Abbott Laboratories,Columbus,Ohio)とサンプル#2(Ensure(登録商標)Plusに乳剤1キログラム当たり6.5グラムのカルシウムHMBと、乳剤1kg当たり2.380グラム(g)のリン酸塩を加えた液体栄養乳剤)の緩衝能を塩酸滴定と水酸化ナトリウム滴定により比較する。結果を下表に示す。
【0101】
【表4】

【0102】
上記表に示すように、カルシウムHMBを含有するサンプル#2はサンプル#1よりも著しくpH低下を生じにくい。このデータから明らかなように、HMBは(NaOH添加による)pH上昇よりも(酸添加による)pH低下を抑えることにより栄養液剤に選択的緩衝作用を付与する。この特性は、経時的にpH低下し易い結果として製品が不安定になり易い栄養乳剤及び他の栄養液剤で特に有用である。
【0103】
実施例1、2及び3のpHデータによると、栄養液剤中にHMBが存在する場合には、緩衝作用を発揮するため、栄養液剤は酸添加後にpH低下を生じにくい。この発見は、プラスチック容器に包装した栄養液剤を製剤化する場合に特に有用である。プラスチック容器、特に過酸化水素溶液で無菌処理したプラスチック容器は経時的にpH低下し易いため、HMBを栄養液剤に加えると、栄養的効果が得られるだけでなく、栄養液剤中のpH低下に伴う有害な影響から栄養液剤を防ぐ緩衝作用も得られる。
【0104】
(実施例:液体栄養剤)
以下の実施例は本願に記載する製造方法により製造することができる本発明の保存安定性栄養液剤のいくつかの例を例証し、例示する各組成物は特に指定しない限り、無菌処理態様とレトルト包装態様を含む。製剤はプラスチック容器に包装され、レトルト殺菌法又は無菌殺菌法により殺菌された保存安定性栄養液剤である。組成物は経時的に苦い風味又は後味を殆ど又は全く生じず、1〜25℃の保存温度で12〜18カ月間の保存期間中にpH安定及び物理的安定に維持される。
【0105】
例示する組成物は、選択された原料を配合して別個の糖質−ミネラルスラリー(CHO−MIN)と、別個の水中蛋白質スラリー(PIW)と、別個の脂質中蛋白質スラリー(PIF)を形成する方法として本願に記載する方法を含めて栄養液剤の製造に適した任意の公知又は非公知方法により製造することができる。スラリー毎に、選択された材料に適した温度及び剪断下で原料を混合後、各スラリーをブレンドタンクでブレンドし、超高温処理(UHT)後、約3000psiで均質化する。均質化した混合物に次にビタミン、フレーバー及び他の感熱性材料を加える。得られた混合物を必要に応じて所望濃度及び密度(一般に約1.085〜約1.10g/mL)に達するように水で希釈する。得られた栄養液剤を次に、再封可能な240mlプラスチックボトルを使用して無菌殺菌・包装又はレトルト殺菌・包装する。包装後の乳剤はpH3.5〜7.5である。
【0106】
(実施例4〜7)
実施例4〜7は下表に原料を示す本発明の栄養乳剤を例証する。原料の全数量値は特に指定しない限り、1000キログラム製品バッチ当たりのキログラムとして表す。
【0107】
【表5】

【0108】
(実施例8〜11)
これらの実施例は下表に原料を示す本発明の栄養乳剤を例証する。原料の全数量値は特に指定しない限り、1000キログラム製品バッチ当たりのキログラムとして表す。
【0109】
【表6】

【0110】
(実施例12〜15)
これらの実施例は下表に原料を示す本発明の栄養乳剤を例証する。原料の全数量値は特に指定しない限り、1000キログラム製品バッチ当たりのキログラムとして表す。
【0111】
【表7】

【0112】
(実施例16〜19)
これらの実施例は下表に原料を示す本発明の栄養乳剤を例証する。原料の全数量値は特に指定しない限り、1000キログラム製品バッチ当たりのキログラムとして表す。
【0113】
【表8】

【0114】
(実施例20〜23)
これらの実施例は下表に原料を示す本発明の栄養乳剤を例証する。原料の全数量値は特に指定しない限り、1000キログラム製品バッチ当たりのキログラムとして表す。
【0115】
【表9】

【0116】
(実施例24〜27)
これらの実施例は下表に原料を示す本発明の透明非乳剤型液剤を例証する。原料の全数量値は特に指定しない限り、1000キログラム製品バッチ当たりのキログラムとして表す。液剤はpHを4.5〜7.2に調整する。
【0117】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックパッケージと前記パッケージに収容された栄養液剤を含む組成物であって、前記栄養液剤がβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸と、脂質、蛋白質及び糖質の少なくとも1種を含有する前記組成物。
【請求項2】
栄養液剤がレトルト殺菌されている請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
栄養液剤が無菌包装されている請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
栄養液剤が栄養液剤重量当たり約0.1%〜約8%のβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
栄養液剤が脂質、糖質、蛋白質及びβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸を含有しており、前記蛋白質が約35〜100重量%の可溶性蛋白質を含み、ホスホセリン含有蛋白質1キログラム当たり少なくとも約100mmolのホスホセリンを含有するホスホセリン含有蛋白質を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
可溶性蛋白質がカゼイン酸ナトリウム、ホエー蛋白質濃縮物及びその組合せから構成される群から選択される請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
栄養液剤がβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸に対して約5:1〜約12:1の重量比の可溶性蛋白質を含有する請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
栄養液剤が約2.3〜約20.0の総可溶性カルシウムに対する可溶性カルシウム結合能の重量比をもつ請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
プラスチックパッケージが少なくとも約13立方センチメートルのヘッドスペースを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
プラスチックパッケージと前記パッケージに収容されたレトルト殺菌栄養液剤を含む組成物であって、前記栄養液剤が栄養液剤1キログラム当たり少なくとも約4.5グラムのβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸と、脂質と、蛋白質と、糖質を含有しており、前記蛋白質が約35%〜100%の可溶性蛋白質を含む前記組成物。
【請求項11】
可溶性蛋白質がホスホセリン含有蛋白質1キログラム当たり少なくとも約100mmolのホスホセリンを含有するホスホセリン含有蛋白質を含む請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
プラスチックパッケージが再封可能である請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
可溶性蛋白質がカゼイン酸ナトリウム、ホエー蛋白質濃縮物及びその組合せから構成される群から選択される少なくとも1種の蛋白質を含む請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
栄養液剤がβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸に対して約5:1〜約12:1の重量比の可溶性蛋白質を含有する請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
プラスチックパッケージが少なくとも約13立方センチメートルのヘッドスペースを含む請求項10に記載の組成物。
【請求項16】
プラスチックパッケージと前記パッケージに収容された無菌殺菌栄養液剤を含む組成物であって、前記栄養液剤が栄養液剤1キログラム当たり少なくとも約4.5グラムのβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸と、脂質と、蛋白質と、糖質を含有しており、前記蛋白質が約35%〜100%の可溶性蛋白質を含む前記組成物。
【請求項17】
可溶性蛋白質がホスホセリン含有蛋白質1キログラム当たり少なくとも約100mmolのホスホセリンを含有するホスホセリン含有蛋白質を含む請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
プラスチックパッケージが再封可能である請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
可溶性蛋白質がカゼイン酸ナトリウム、ホエー蛋白質濃縮物及びその組合せから構成される群から選択される請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
栄養液剤がβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸カルシウムに対して約5:1〜約12:1の重量比の可溶性蛋白質を含有する請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
プラスチックパッケージ入りpH安定性栄養液剤の製造方法であって、
脂質、蛋白質、糖質及びβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸を配合し、栄養液剤を形成する工程と;
栄養液剤をプラスチックパッケージに導入する工程と;
プラスチックパッケージ内の栄養液剤をレトルト殺菌する工程を含む前記方法。
【請求項22】
プラスチックパッケージ入りpH安定性栄養液剤の製造方法であって、
脂質、蛋白質、糖質及びβ−ヒドロキシ−β−メチル酪酸を配合し、栄養液剤を形成する工程と;
栄養液剤を殺菌する工程と;
プラスチックパッケージを殺菌する工程と;
殺菌した栄養液剤を殺菌したプラスチックパッケージに導入する工程を含む前記方法。

【公表番号】特表2013−517807(P2013−517807A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551326(P2012−551326)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2011/022938
【国際公開番号】WO2011/094551
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】