説明

IBDとIBSとの区別、IBDの疾患タイプ間の更なる識別における使用する方法およびキット

排泄物または血液の試料を用いて、患者が過敏性腸症候群(IBS)を患っているか、炎症性腸疾患(IBD)を患っているかを正確に決定するのに、および生検を用いた追跡調査解析で、同患者が潰瘍性大腸炎(UC)に罹患しているか、クローン病(CD)に罹患しているかを決定するのに、いくつかの特定の遺伝子およびそれらの対応するタンパク質の発現レベルの定量化を利用することができる。この方法は、疾患の重度の決定、ならびに治療に対する患者の応答の観察における有用性も有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重遺伝子アプローチを用いた炎症性腸疾患の診断に使用する方法に関する。より詳細には、本発明は、少なくとも1つの特定のマーカー遺伝子(単数または複数)の発現を、例えば前記マーカー遺伝子を特異的に増幅するオリゴヌクレオチドを用いて決定するか、または対応するタンパク質の発現を、例えば前記特定のマーカー遺伝子(単数または複数)によってコードされるタンパク質を特異的に認識する抗体を用いて決定することによって、炎症性腸症候群(IBS, inflammatory bowel disease)から、炎症性腸疾患(IBD, inflammatory bowel syndrome)を診断および/または区別するのに使用をする方法およびキットに関する。改善された正確度および再現性により、これらの疾患の早期診断および区別において、この診断方法および対応するキットを有利に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(IBD)は、慢性再発性腸炎の状態を表す。疾患病因の現在の理解は、多様な環境および遺伝因子の複雑な相互作用を示唆する。それは、欧州を起源とする集団においてかなりの罹患率を引き起こし、2つの主要な形態、すなわち、クローン病(CD, Cronhn's disease)および潰瘍性大腸炎(UC, ulcerative coliteis)の合計した有病率は150〜250/10000である。IBDの両形態は、成人期早期の最高発生率を有するが、いずれの段階でも発症する可能性がある。それらは、およそ等しい程度で男女に影響を及ぼす。IBDの発症についての環境的危険因子ははっきりと明確にされていない。最も特徴付けられた因子は喫煙であり、明確でない理由で、クローン病を発症する危険性を明確に増加させるが、潰瘍性大腸炎に対しては保護している。
【0003】
現在、いずれの状態に対しても治療法がないため、疾患管理は、患者と医師の両方にとって長期のコミットメントである。およそ30%のIBD患者は、患者の生存期間中に外科的処置を受け、長期間のIBDを有する患者は、結腸直腸癌を発症する危険がかなりある。10人のIBD患者のうち3人は、かなりの副作用を引き起こす高投薬量を使用する場合でさえ、現在利用可能な最良の薬物療法にも応答しない。
【0004】
潰瘍性大腸炎は、典型的には、血性下痢および便意切迫の症状を引き起こす。炎症は直腸を冒し、近接結腸の一部、または全近接結腸に連続的に拡張し得る。組織学的試験を行うと、結腸粘膜の表層に限定されている慢性炎症性細胞の浸潤が明らかになる。肉芽腫は特徴ではない。クローン病は、ややより多形性である。クローン病は、貫壁性炎症の非連続的な病変によって病理学的に特徴付けられ、それらは、口から肛門の胃腸管のいずれの部分も冒し得るが、最も一般的には回盲部を冒す。肉芽種は組織学的な顕著な特徴であるが、臨床的特徴は、腸罹患部位に依存してやや変化し易い。結腸が炎症を起こしている場合、その症状は、潰瘍性大腸炎の症状を正確に模倣し得る。
【0005】
初期段階でUCを結腸CDから臨床的に区別する可能性が、患者と医師の両方に多大な利益を与えることは明らかである。それは、正確な治療処方計画の設計を可能にし、不要な薬物の使用を妨げ、治療費を削減する。
【0006】
炎症性腸症候群、すなわちIBSは、腸壁の平滑筋が、ストレスなどの誘因に対して、またはコーヒーにさえ、過敏となり、腫脹、吐き気、嘔吐および便秘または下痢を引き起こす胃腸障害でもある。残念なことに、多くの症状はIBDの症状と類似しているため、IBSは、多くの場合、誤診される。
【0007】
米国だけでIBSがおよそ500万件の症例がある。より重篤なIBD症例からIBSを区別することができれば、IBDであることが疑われるIBS患者による医師への不必要な訪問数を減少させることになる。また、医師が最も適切なタイプの処置を選択する手助けともなる。
【0008】
特許文献は、IBDの異なる形態を相互に識別するため、詳細には、UCとCDとを区別するために利用可能な方法が、上記に示した様々な検査手順の例を別にすれば、抗体に基づく方法に集中してきたことを示す。
【0009】
例えば、WO03/036262は、クローン病に対するマーカーとして排泄物の抗サッカロマイセス・セレヴィシエ抗体(ASCA, anti-Saccharomyces cerevisiae antibodies)の存在を用いて、UCおよびIBSなどの他の胃腸病からCDを区別するための方法およびキットが提供されることを報告している。キットは、ヒト排泄物試料中の総内因性ASCAを測定するための、ヒト免疫グロビンに特異的な抗体を利用する酵素統合イムノアッセイまたは他のイムノアッセイを含む。
【0010】
WO01/58927は、幹部組織におけるhTMに対する自己抗原応答と関連した疾患、および特にUCを検出するための診断方法を記載する。
【0011】
別の集中的に研究された抗体アプローチ(米国特許第5,691,151号、第5,830,675号および第6,033,864号参照)は、好中球に対する自己抗体(異型核周囲の抗好中球細胞質抗体)P−ANCA(atypical perinuclear anti-neutrophil cytoplasimc antibodies)である。それらは主にUC(50〜67%)に見出されるが、さらにCD(6〜15%)にも見出される。ANCAおよびASCAの組み合わせは、不確定な結腸炎の患者において良好な手助けとなると考えられる。しかし、注目すべき所見は、不確定な結腸炎を有する患者の約50%が血清反応陰性の患者であるということである。これは、彼らはASCAとANCAの抗体を作らず、したがって、平均して10年間は診断することができないことを意味する(Bossuyt X.,Clin Chem 2006,52:2,171−181)。
【0012】
WO2004/001073は、UCに対する診断マーカーとして本発明において言及されている7つの遺伝子を記載する。RNAレベルでのこれらのマーカーの発現は、結腸からの粘膜生検において決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】WO03/036262
【特許文献2】WO01/58927
【特許文献3】米国特許第5,691,151号、
【特許文献4】米国特許第5,830,675号
【特許文献5】米国特許第6,033,864号
【特許文献6】WO2004/001073
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】KS Bishnupuri LQ, N Murmu, C W Houchen, S Anant, B K Dieckgraefe. Reg IV activates the epidermal growth factor receptor/Akt/AP-1 signaling pathway in colon adenocarcinomas. Gastroenterology 2006; 130: 137-49.
【非特許文献2】Bossuyt X. Serologic Markers in Inflammatory Bowel Disease. Clin Chem. 2006; 52: 171 -181
【非特許文献3】Heller et al., Discovery and analysis of inflammatory disease-related genes using cDNA microarrays, Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Mar 18; 94(6): 2150-5.
【非特許文献4】Hirata I, Murano M, Nitta M, Sasaki S, Toshina K, Maemura K, Katsu K (2001 ). Estimation of mucosal inflammatory mediators in rat DSS-induced colitis. Possible role of PGE(2) in protection against mucosal damage. Digestion. 63 Suppl 1: 73-80
【非特許文献5】Isaacs KL, Sartor RB, Haskill S (1992). Cytokine messenger RNA profiles in inflammatory bowel disease mucosa detected by polymerase chain reaction amplification. Gastroenterology. 103: 1587-95
【非特許文献6】Keiichi Mitsuyama OT, Nobuo Tomiyasu, Koseku Takaki, Asuka Suzuki, Junya Masuds Hiroshi Yamasaki, Atsushi Toyonaga, Michio Sata. Increased Circulating Concentrations of Growth-Related Oncogene (GRO)-α in Patients with Inflammatory Bowel Disease. Digestive Diseases and Sciences 2006; 51: 173-77
【非特許文献7】Kohler and Milstein (Nature (1975) 256:495)
【非特許文献8】Lawrance IC, Fiocchi C, Chakravarti S (2001 ). Ulcerative colitis and Crohn's disease: distinctive gene expression profiles and novel susceptibility candidate genes. Hum Mol Genet. 10: 445-56.
【非特許文献9】Newell KJ et al., Matrilysin (matrix metalloproteinase-7) expression in ulcerative colitis-related tumorigenesis, Mol Carcinog. 2002 Jun;34(2): 59-63.
【非特許文献10】Pitari G et al., Pantetheinase activity of membrane-bound Vanin-1: lack of free cysteamine in tissues of Vanin-1 deficient mice, FEBS Lett. 2000 Oct 20; 483(2- 3): 149-54
【非特許文献11】Silver DL, Wang N, Vogel S. Identification of Small PDZK1-associated Protein, DD96/MAP17, as a Regulator of PDZK1 and Plasma High Density Lipoprotein Levels. The Journal of Biological Chemistry 2003;278:28528-532.
【非特許文献12】Spandau et al., High expression of chemokines Gro-alpha (CXCL-1 ), IL-8 (CXCL- 8), and MCP-1 (CCL-2) in inflamed human corneas in vivo, Ophthalmol. 2003 Jun; 121 (6): 825-31.
【非特許文献13】Woessner JF Jr, Regulation of matrilysin in the rat uterus, Biochem Cell Biol. 1996; 74(6): 777-84.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
胃腸障害を報告する患者の正確、迅速かつ信頼できるスクリーニングを行い、IBD患者と非IBD患者、例えばIBSを患っている患者とを区別するための改善された方法に関する必要性が残されている。患者および病院の両方の観点から、とりわけ、患者が回腸結腸内視鏡検査に送られる前に、最初のスクリーニングを行うことができるならば、それが望ましいであろう。
【0016】
とりわけ、IBD患者における潰瘍性大腸炎とクローン病とを区別することに関連して、改善された潰瘍性大腸炎の診断も必要である。
【0017】
本発明の1つの目的は、これらの用途に供する方法およびキットを利用可能にすることである。1つの特定の目的は、疾患の早期段階で信頼性のある診断を達成できるようにする方法およびキットを利用可能にすることである。別の目的は、治療に対する応答を追跡し、治療を受けている患者において改善を確認する、信頼性があり、なお簡便であり、侵襲の少ない方法の方法を利用可能にすることである。
【0018】
別の目的は、通常使用される生検または回腸結腸内視鏡検査と対照的に、非侵襲的であるかまたは最小限に侵襲的である試料採取技術を用いて、第1のスクリーニングを行うことを可能にすることである。また、バリウム注腸検査はも、その検査が患者に与える非常な不快さと緊張により、侵襲的手法として分類されるべきである。臨床像が非常に類似し得る、IBDとIBSとを区別するため、および困難な症例におけるCDとUCとを区別するための方法およびキットを利用可能にすることも目的である。
【0019】
本発明の根底にある更なる目的、ならびに本発明によって与えられる解決および関連した利点は、本明細書、実施例および特許請求の範囲の検討に基づいて当業者に明らかとなろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、驚くべきことに人体から採取された試料、好ましくは患者の排泄物もしくは血液から採取された試料、または腸の炎症部分から得られた生検試料において遺伝子の発現プロフィールが検査される多重遺伝子アプローチによって、IBDとIBSとの区別、および、患者がIBDを患っていることが決定されている症例では、UCとCDとの更なる識別が可能となることを見出した。
【0021】
本発明は、共同で、単独でまたは部分集合的に、IBDとIBSとを識別するための基礎を形成する潜在的なマーカー遺伝子の同定に基づいている。
【0022】
実験的に確認されている、本発明の一実施形態は、排泄物または血液からの試料を用いて、患者がIBDを患っているかどうかを正確かつ簡便に決定するのに、および生検を用いた追跡調査解析で、患者がUCに冒されているか、CDに冒されているかを決定するのに、いくつかの特異的遺伝子および対応するタンパク質の発現レベルの定量化を利用することができることである。
【0023】
より具体的には、7つの異なるマーカーの発現レベルを定量するための遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドまたは抗体を用いて、単独でまたはその部分集合で上記マーカーの検出を可能にする方法が提供される。オリゴヌクレオチドまたは抗体は、対応する遺伝子配列またはマーカータンパク質を特異的に認識するように設計される。生物学的試料中の前記7つのマーカー遺伝子またはそのサブセットの発現状態を検出および監視するためのアッセイおよびキットが提供される。マーカー遺伝子(括弧内は受託番号)は以下の通りである:SLC6A14(NM 007231);SLC26A2(NM 000112);GRO−1(NM 001511);MMP−7(BC003635);MAP−17(NM 005764);RegIV(BC017089)、およびバニン−1(NM 004666)。
【0024】
本発明者らによって得られた結果は、血液試料中のRNAを解析する場合にはバニン−1が好ましいマーカー遺伝子であることを示す。また、マーカーSLC26A2、MAP−17も血液における有用性を示す。
【0025】
アッセイは、好ましくは、PCR法に基づいてRNAを定量するための方法およびキットである。
【0026】
あるいは、アッセイは、上記のマーカータンパク質を検出するための、培養しない、抗体に基づくアッセイである。
【0027】
したがって、本発明の別の実施形態は、人体から採取された試料中において、ヒト遺伝子SLC6A14、SLC26A2、GRO−1、MMP−7、MAP−17、RegIVおよびバニン−1によって発現されるタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、初期段階のUCまたはCDを効果的に検出するための方法、および同抗体を用いてUCおよびCDを診断するためのキットである。本発明者らによって得られた結果は、試料の採取源がヒト排泄物である場合にはGRO−1およびRegIVが好ましいマーカータンパク質であり、試料が血液である場合にはバニン−1、GRO−1およびMMP−7が好ましいマーカータンパク質であることを示す。
【0028】
本発明の別の実施形態は、SLC6A14、SLC26A2、GRO−1、MMP−7、MAP−17、RegIVおよびバニン−1をコードするヒト遺伝子から発現されたタンパク質に特異的に結合する抗体を用いた抗原−抗体結合反応によって、試料中のSLC6A14、SLC26A2、GRO−1、MMP−7、MAP−17、RegIVおよびバニン−1タンパク質の発現レベルを測定することにより、UCおよびCDを診断するための方法、ならびに同抗体を用いてUCおよびCDを診断するためのキットである。
【0029】
本発明の更なる実施形態は、治療に対する患者の応答を決定するための方法、治療中の改善の速度を決定するための方法、および回復の予後を評価するための方法である。
【0030】
本発明は、以下の記載、実施例および図面において詳細に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】排泄物標本のリアルタイム解析由来の、10例のIBS症例および10例のIBS症例の発現プロフィールを示す図である。7つの異なるマーカーは、x軸上にプロットされ、PCR解析の対応するデルタCt値はy軸上にプロットされている(1=SLC6A14;2=SLC26A2;3=GRO1;4=MMP−7;5=MAP17;6=GISP;7=バニン−1)。
【図2】リアルタイムPCR解析由来の、排泄物および生検試料における発現プロフィールを示す図である。7つの異なるマーカーは、x軸上にプロットされ、PCR解析の対応するデルタCt値はy軸上にプロットされている(1=SLC6A14;2=SLC26A2;3=GRO1;4=MMP−7;5=MAP17;6=GISP;7=バニン−1)。[bd=生検由来;fd=排泄物由来]
【図3】リアルタイム解析由来の、生検試料における発現プロフィールを示す図である。7つの異なるマーカーは、x軸上にプロットされ、PCR解析の対応するデルタCt値はy軸上にプロットされている(1=SLC6A14;2=SLC26A2;3=GRO1;4=MMP−7;5=MAP17;6=GISP;7=バニン−1)。
【図4】分類アルゴリズムを用いた解析によって追跡された7つ全てのマーカーを用いた、18人の非IBD患者および63人のIBD患者のリアルタイム解析の結果であるROCプロットを示す図である。0.903のROC曲線下の面積(AUC)は、全てのマーカーはともに識別能力が高いことを示す。
【図5】分類アルゴリズムを用いた解析によって追跡された2つだけのマーカー(GRO−1およびRegIV)を用いた、18人の非IBD患者および63人のIBD患者のリアルタイム解析の結果としてのROCプロットを示す図である。0.892のROC曲線下の面積(AUC)は、これらのマーカーだけでも識別能力が高いことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明が開示および記載される前に、本発明が、目的を実行し、言及された目的物および利点、ならびに本明細書において固有の目的、目的物および利点を得るのに十分適合していることを当業者は容易に承認するであろうことを理解するべきである。本実施例、ならびに本明細書に記載された方法、手法、処置、分子、および特定の化合物は、現在、好ましい実施形態を代表するものであり、例示であり、本発明の範囲の限定としては意図されていない。当業者によって想起される、それらにおける変化および他の使用は、特許請求の範囲によって規定される本発明の精神に包含される。
【0033】
また、本明細書において使用される専門用語は、特定の実施形態だけを記載することを目的としたものであり、限定することを意図していないことも理解されなければならない。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるとき、単数形の「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」は、文脈が明確に他を指示していなければ、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば「配列(a sequence)」への言及は、1を超えるこのような配列を含み、他も同様である。
【0034】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、多数の用語に言及され、それらは以下の意味を有するように定義されている。
【0035】
本明細書中で使用するとき、用語「相補的DNAプライマー」とは、本明細書に記載された条件下で、生物学的試料における逆転写酵素の存在下で新生DNA鎖の合成を可能にする特定の方向でRNA鋳型(テンプレート)にアニーリングするオリゴヌクレオチドを意味する。
【0036】
また、本明細書中で使用するとき、DNA鎖が合成される「条件」は、逆転写酵素が逆転写酵素阻害薬物によって阻害されない場合、RNA鋳型とDNAプライマーがアニーリングし、オリゴヌクレオチドが合成されたDNA鎖に取り込まれるような量および温度でヌクレオチド、陽イオンおよび適切な緩衝剤が存在することを含む。例示的な条件は以下の実施例において記載される。記載された条件は、他の既知のRT/cDNA合成プロトコールから最適化されている。一般に、他の条件は、当業者に周知であるプロトコールに基づいて、特定の逆転写酵素反応の最適化のために規定され得ることは知られている。
【0037】
本明細書中で使用するとき、用語「プライマー対」とは、2つのプライマーを指し、センスおよびアンチセンス配列からなる二本鎖DNA分子上のそれらのそれぞれの方向に対して、一方はフォワードの名称を有し、他方はリバースの名称を有する。その結果、本明細書に記載される増幅条件下、フォワード・プライマーはセンス配列にアニーリングし、その配列を増幅させる準備をし、リバース・プライマーはアンチセンス配列にアニーリングし、その配列を増幅させる準備をする。プライマーは、(プライマーの二量体形成を最小にするために)反応において他のプライマーと最小の相補性を有すること、および増幅方法、好ましくはPCRに適切な反応温度の範囲であるTm値を有することに基づいて、増幅反応における使用のために選択することができる。さらに、プライマーは、RNA鋳型の特定の領域とアニーリングするように選択することができ、それにより、得られたDNA増幅産物は、長さにして100〜500塩基対、最も好ましくは長さにして約300塩基対の大きさに及ぶ。
【0038】
本明細書中で使用するとき、増幅されたDNAを「検出すること」または増幅されたDNAの「検出」とは、逆転写酵素がアッセイ混合物に添加された逆転写酵素阻害剤薬物に抵抗性である場合にだけ合成される、増幅されたDNA鎖の存在を定性的または定量的に決定することを指す。合成されたDNAの増幅は、当該技術分野において知られているDNAを検出するための任意の方法によって検出することができる。例えば、増幅されたDNAの検出は、サザン・ブロット・ハイブリダイゼーション・アッセイによって、臭化エチジウム染色されたアガロース・ゲル上で特定の分子量のDNA増幅産物の視覚化によって、オートラジオグラフィーまたはシンチレーション測定による、合成されたDNA鎖への放射線標識されたヌクレオチドの取り込みの測定によって行うことができる。
【0039】
本発明の方法では、PCR増幅は、全てのPCR試薬、ならびに適切な遺伝子特異的なプライマーおよび熱安定性ポリメラーゼ酵素の存在下で標的核酸を含む試料をプレインキュベートすることによって達成される。得られる反応混合物は、プライマー伸長生成物の形成および増幅を可能にする条件下で周期的に加熱される。
【0040】
PCRに必要とされる試薬は、当業者に知られ、一般には、標的核酸の保存領域にハイブリダイズさせるのに標的核酸の保存領域に十分に相補的である少なくとも2つのオリゴヌクレオチド・プライマー、4種の異なるヌクレオシド三リン酸、熱安定性重合試薬および重合試薬に対して場合によって必要な共同因子を含む。好ましいヌクレオシド三リン酸は、デオキシリボヌクレオシド三リン酸dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPまたはdUTPであり、まとめてdNTPと呼ぶ。ヌクレオシド三リン酸は市販されている。
【0041】
プライマーには、標的核酸にアニーリングし、適切な条件下で、すなわち、ヌクレオシド三リン酸、重合試薬、適切な温度、pHおよび緩衝液の存在下で核酸合成の開始点として作用することができる天然に存在するかまたは合成的に生成されるオリゴヌクレオチドが含まれる。プライマーは、標的核酸にハイブリダイズするのに標的核酸に十分に相補的な配列を有し、重合試薬の存在下で伸長産物の合成を準備するために、十分な長さであり、典型的には10〜60ヌクレオチドである。また、プライマーは、当業者に周知である方法によって自動合成によって合成的に生成することができる。
【0042】
プライマーのための設計検討は当該技術分野において周知である。プライマーは、増幅されるべき特異的核酸の鎖の配列に実質的に相補的であるように選択され、それにより、1つのプライマーから合成された伸長産物が、その相補体から分離されると、他のプライマーの伸長産物に対する鋳型として機能を果たすことができる。好ましくは、プライマーは、標的領域と正確に相補的である。本明細書、実施例および特許請求の範囲に与えられたプライマー対は、本発明の範囲から逸脱することなしに、マーカー遺伝子に対する特異性を示す機能的に同等なプライマーによって置き換えられることが強調される。
【0043】
本発明者らは、生検材料について記載されるUCとCDとを区別することができるかどうかを決定するために、リアルタイムPCRを用いた解析のために33個のUCおよび24個のCDの排泄物試料(糞便試料)を回収した。驚くべきことに、本発明者らは、これらのマーカーの発現プロフィールが、排泄物標本のUCとCDについても実質的に同じであることを見出した。対照試料として、いくつかのIBS症例を用いた。これらは、IBDの2つの主要な形態として遺伝子の異なる発現パターンを示した。本発明者らは、63例のIBD症例に対して、合計18例のIBS症例において解析した。図1の結果は、10例のIBS症例と10例のIBD症例についてのIBSとIBDの発現プロフィールにおける明確な相違を示す。
【0044】
別の驚くべき事実は、生検におけるUCについて上方制御された遺伝子が排泄物試料において、ここでは下方制御されたということであった(マーカー6、またある程度はマーカー5)。また、マーカー2(SLC26A2)は、元々はUCにおいて下方制御されたが、ここでは、マーカー1(SLC14A6)と比較して上方制御されたことが分かった。図2では、3人のIBS患者、3人のUC患者および3人のCD患者の排泄物および生検試料の発現プロフィールが示されている。
【0045】
IBS患者の症例では、遺伝子の発現プロフィールは、異なる標本間では変化しない。しかしながら、UC症例におけるプロフィールを比較すると、特にマーカー2、5および6の反対の発現の観点から2つの曲線の反対傾向を観察することができる。また、CDについては、発現パターンは、生検において変化する(図3を参照されたい)。
【0046】
溶質担体(SLC, solute carrier)タンパク質は、エネルギー依存性輸送分子の非常に大きなファミリーを構成し、栄養素輸送における重要な生理学的役割を有し、薬物吸収を高めるためのメカニズムとして利用され得る。しかしながら、高解像度の結晶構造がないため、分子レベルでこれらのタンパク質を理解するには制限がある。
【0047】
全体で、腎臓結石を患っている1〜2%の成人、および6〜8%の小児が、尿中のシスチンが高濃度になる、アミノ酸の輸送欠陥であるシスチン尿症を有する。溶質担体ファミリー3、シスチン、塩基性および中性アミノ酸輸送体、アミノ酸輸送隊のシステムと関連したタンパク質をコードするメンバー1(SLC3A1)、および溶質担体ファミリー7、メンバー9(SLC7A9)の2つの遺伝子が関係していた。これらの両方の溶質担体は、最終的には尿路感染症、および結局は腎不全をもたらす場合がある結石形成に関与すると考えられる。
【0048】
ここで、本発明者らは、IBDにおいて発現が有意に変更する2つの既知の溶質担体(SLC6A14およびSLC26A2)を同定している。
【0049】
CXCケモカイン成長関連癌遺伝子−アルファ(Gro−アルファ、またはGRO1としても知られている)は、サイトカインと説明されており、それ自体、炎症の局所領域の多数の細胞型の移動応答を改変することができる。さらに、ヒトの炎症性角膜において過剰発現されることも報告され(Spandauら、2003年)、加えて、消化管の炎症を示すように化学的に誘導されたラットは、GRO1レベルの上方制御を示すことも示されている(Hirataら、2001年)。cDNAマイクロアレイ・アプローチを用いて、Hellerらは、1997年に、関節リウマチおよび炎症性腸疾患におけるケモカインGroアルファの新たな関与を報告している。Keiichiらは2006年に、IBDの患者において増殖関連癌遺伝子(GRO)−αの血中濃度の上昇を報告した。Isaacsらは1992年に、UCにおけるGRO1の発現はCDで見られる発現よりも高いことが報告されているが、ここでは、GRO1発現レベルに関して、UC対CDの逆相関があることが示された。最後に、Lawrenceらは2001年に、UCにおいて上方制御されるGRO1の同定について報告しているが、この研究の設計では、解析前に生検試料が貯蔵されるために、したがって、二人以上の患者においてGRO1が上方制御されたかどうかを知ることができなかった。
【0050】
マトリライシン(またはマトリックス・メタロプロテイナーゼ−7)は、黄体退行しているラットの子宮で最初に発見された。これは、子宮メタロプロテイナーゼ、推定のメタロプロテイナーゼ(Pump−1)、およびマトリックスメタロプロテイナーゼ7(MMP−7)としても知られている。それは、いずれも細胞外マトリックスの巨大分子のほとんどを分解することができる15種のMMPファミリーの最小のメンバー(28kDa)である。このファミリーは、簡単には以下のように概説される。全てのメンバーは、システインでブロックされた活性部位の亜鉛を有する酵素原の形態で生じる亜鉛メタロプロテイナーゼである。マトリライシンは、マトリックスの多種多様なゼラチン、プロテオグリカン、および糖タンパク質を分解させることができ、コラゲナーゼなどの他のいくつかのMMPを活性化することができる(Woessner、1996年に概説されている)。
【0051】
マトリライシンは、様々なタイプの癌、例えば結腸癌、胃癌、前立腺癌、および脳癌において頻繁に発現される。これまでの研究によれば、マトリライシンは結腸癌の進行および転移において重要な役割を果たすことが示唆されている。近年、Newellらは2002年に、UC関連の新生組織形成の様々な段階でマトリライシン発現が増加することを報告している。しかしながら、この研究は、このような発現の増加がUCの結果であるのか、またはむしろ新生組織形成の存在によるものなのかを決定していない。
【0052】
膜結合型タンパク質17(MAP−17)は、またはDD96としても知られているが、元々は癌腫において上方制御されるものとして同定され、細胞複製および腫瘍増殖の調節において潜在的な役割を有する。また、より新しい所見によれば、低分子PDZK1結合タンパク質について新たな名称SPAPとなるPDZK1を制御することによって、肝臓におけるスカベンジャー受容体クラスBタイプIの表面発現において役割を果たすことが示された(PDZK1および血漿高密度リポタンパク質レベルの調節因子として、低分子PDZK1結合タンパク質、DD96/MAP−17の同一性;Silverら、J Biol Chem 2003、278(31)、p28528−32)。
【0053】
RegIVは分泌性タンパク質であり、膵臓、肝臓および胃腸粘膜の再生、増殖および分化に機能的に関与しているReg多重遺伝子ファミリーのメンバーである。RegIVは、特に、消化管の悪性度において上方制御され、胃および胃癌腫(結腸直腸癌腫、結腸腺癌)の腸および神経内分泌分化と関連している;(RegIVは、結腸腺癌における上皮細胞増殖因子受容体/Akt/Ap−1シグナル経路を活性化する;Bishnupriら、Gastroenterology、2006年、130(1)、p137−49)。
【0054】
パンテテイナーゼ(EC3.5.1.)は遍在的な酵素であり、インビトロでパントテン酸(ビタミンB5)をリサイクルし、システアミン、有効な抗酸化剤を生成することが示されている。この酵素は、バニン−1遺伝子でコードされ、マウス組織で広く発現される。バニン−1は、GPIアンカーパンテテイナーゼであり、従って外酵素である。バニン/パンテテイナーゼは、恐らくは酸化的ストレスに対する応答の観点で、いくつかの免疫機能の制御に関与する可能性があることが示唆されている(Pitariら、2000年)。
【0055】
転写されたmRNAの性質および量を解析するための方法は、いくつかの実験室ハンドブック(例えば、SambrookおよびRussell、2001年)に記載され、当業者に周知である。これらの方法は、リボヌクレアーゼ保護、プライマー伸長、ノ・ザン・ブロッティング、ドット・ブロット・ハイブリダイゼーション、および慣用のまたはリアルタイムPCRを含む。
【0056】
伝統的には、生成された特定のmRNAの量、したがって遺伝子の活性化状態はノ−ザン・ブロッティングによって測定されている。試料から単離された総RNAは、アガロース・ゲル電気泳動によって分離され、対象遺伝子に特異的な相補的DNAプローブでプロービングされる。従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)では、解析されるべき細胞または組織から単離された総RNAは第1鎖cDNAに逆転写され(RT−PCR)、次にそれを鋳型として使用して、標的の特異的オリゴヌクレオチド・プライマーを用いて二本鎖のアンプリコンを増幅する。両方の技術では、検出は、蛍光色素または放射性同位体などの検出可能な標識に基づいている。また、DNAチップまたはマイクロ・アレイとして知られる最近開発された技術は、相補的な標的の特異的プライマーへの標的DNAのハイブリダイゼーション、未結合DNAの洗い出し、および結合した標的DNAの定量に基づいている。ハイブリダイゼーション反応に使用されるプローブおよびプライマーは、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列、またはマーカー遺伝子に対応する翻訳されたタンパク質のアミノ酸配列に基づいて設計されてもよい。発現したRNAの量の変化を決定するための便利な定量的ハイブリダイゼーション法は、WO2002/055734に記載されている。
【0057】
好ましくは、「マーカー遺伝子発現」は、定量的リアルタイムPCRとも呼ばれるリアルタイムPCRを用いて定量されてもよい。この方法はポリメラーゼ連鎖反応の一般的パターンに従うが、標的DNAの増幅領域は、蛍光色素、例えば、二本鎖DNAとインタカレートするSYBR Greenなどの蛍光色素、または相補的DNAとハイブリダイズしたときに蛍光を発する修飾されたDNAオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって、各ラウンドの増幅後に定量される。しばしば、リアルタイムPCRは、少量のmRNAを定量するために逆転写と組み合わせられる。Applied Biosystems 7500または7500 Fast Real Time PCR Systemsなどのコンピュータソフトウェアによってデータを解析し、いくつかの試料間の相対的な遺伝子発現、または標準曲線に基づいたmRNAのコピー数を計算することができる。通常、相対的な定量(RQ)を使用して、野生型の発現レベルと変異した対立遺伝子の発現レベルを比較し、または種々の組織における遺伝子の発現レベルを比較する。RQは、基底または較正の試料(比較結果の基準として使用される試料)と同じ配列と比較した、試験試料の標的遺伝子の発現における変化を決定する。較正試料は、経時的試験における時間ゼロでの未処理の対照または試料であり得る。内因性または内部対照を用いることによって、各反応に添加されたcDNAの量の相違についてcDNA標的の定量化を正規化することができる。典型的には、ハウスキーピング遺伝子、例えばβ−アクチン、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)およびリボソームRNAは、それらの発現レベルが比較的安定であるため、内因性対照として使用される。試料および内因性対照の反復反応は、統計的有意性を確保するために必要とされる。
【0058】
タンパク質特異的な抗体は、好ましくは、動物で抗原タンパク質の免疫処置を行うことによって得られる抗血清から精製される。より好ましくは、タンパク質特異的な抗体は、ウサギで抗原タンパク質の免疫処置を行うことによって得られる血清から精製されるポリクローナル抗体である。
【0059】
タンパク質を特異的に認識する抗体を合成するために、始めにタンパク質を得る。このタンパク質は、既知のアミノ酸配列を用いて合成するか、遺伝子工学手法によって組換えタンパク質型で産生させることができる。例えば、組換えタンパク質は、NIHプログラムGenBankデータベースに記載された遺伝子の塩基配列を用いて、組換えタンパク質の形態でタンパク質を発現する発現ベクターを調製するステップ、発現ベクターでE.coliを形質転換することによって形質転換体を得て、組換えタンパク質を生成させるステップ、および形質転換体を培養してヒト組換えタンパク質を単離/精製するステップを含む方法によって調製することができる。
【0060】
本発明に含まれるタンパク質に対して特異的な抗体を用いた抗原−抗体結合反応によってIBD(例えば、UCおよびCD)を診断することは、試料中のこれらのタンパク質の発現を決定することによって行うことができる。発現レベルは、酵素結合免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、サンドイッチ・アッセイ、およびポリアクリルアミドゲル上でのウェスタン・ブロッティングまたはイムノブロッティング解析、ならびに免疫組織化学的アッセイを含む、当該技術分野において知られている技術によって検出することができる。
【0061】
試料(標本)として、組織、体液、最も好ましくは血液および排泄物が、好ましくは用いられる。
【0062】
本発明の一実施形態は、患者における炎症性腸疾患(IBD)と過敏性腸症候群(IBS)とを区別するのに使用する方法であって、少なくとも2つのマーカーの発現レベルが、前記患者から採取された試料において決定され、前記マーカーが下記の遺伝子およびそれらの対応するタンパク質(次の表1参照)を含む群から選択される方法である。
【0063】
【表1】

【0064】
本発明の別の実施形態は、炎症性腸疾患が指示される場合、潰瘍性大腸炎とクローン病との区別が、前記患者から採取された試料中の少なくとも2つのマーカーの発現レベルを決定することによって行われ、前記マーカーは上記表1に示される群から選択される方法である。
【0065】
さらに、本発明の実施形態によれば、疾患活性が監視され、潰瘍性大腸炎またはクローン病の活動期と非活動期との識別が、前記少なくとも1つのマーカー、すなわち遺伝子またはその断片の対応するタンパク質の発現パターンに基づいてなされる。好ましくはSLC6A14およびGRO−1が用いられ、またはその替りにもしくはそれと共にRegIVおよびバニン−1が用いられる。
【0066】
上記方法では、前記試料は、好ましくは糞便試料、血液、血漿、血清および生検試料であり、最も好ましくは糞便試料または血液試料である。
【0067】
好ましくは、IBSとIBDとを識別するために、最初に糞便試料において決定が行われる。IBDが指示される場合、UCとCDとを識別するために、更なる解析が生検試料で行われる。患者の疾患の進行または回復を監視するために、糞便試料および生検試料の両方の解析を繰り返すことができる。
【0068】
本発明の実施形態によれば、発現レベルは、前記少なくとも2つのタンパク質またはそれらの断片を同定することができる少なくとも2つの抗体を用いて、前記試料の少なくとも一部を前記少なくとも2つの抗体と接触させるステップおよび接触させた試料と抗体の反応の程度を監視するステップによって決定される。
【0069】
本発明の実施形態によれば、接触段階および監視段階は、試料からタンパク質を抽出し、アッセイを行って、前記試料中における、列挙したタンパク質の少なくとも2つの量を決定することによって実行される。
【0070】
好ましくは、抗原−抗体結合反応は、酵素結合免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、サンドイッチ・アッセイ、ウェスタン・ブロッティング、イムノブロッティング解析、または免疫組織化学的アッセイからなる群から選択されるいずれか1つの技術によって検出される。
【0071】
あるいは、接触段階および監視段階は、患者試料と抗体を免疫組織化学的に反応させ、試料中の反応物を検出することによって実行される。
【0072】
本発明によれば、抗体はポリクローナルまたはモノクローナルである。
【0073】
本発明の別の実施形態は、患者における炎症性腸疾患と過敏性腸症候群との区別における使用に適したキットであって、上記表1に示されたタンパク質を含む群から選択される少なくとも2つのタンパク質またはタンパク質断片を同定することができる少なくとも2つの抗体、および抗体と試料との反応の程度を検出するための手段を含むキットである。
【0074】
本発明の別の実施形態は、潰瘍性大腸炎とクローン病とを区別するのに適したキットであって、好ましくは、上記表1に示されたタンパク質を含む群から選択される少なくとも2つのタンパク質またはタンパク質断片を同定することができる少なくとも2つの抗体、および抗体とタンパク質との反応の程度を体液中で直接的に検出することを含み、上記抗体が固体マトリックスに結合され、さらに使用のための指示書を含むキットである。
【0075】
本発明の実施形態にかかるキットでは、潰瘍性大腸炎またはクローン病を患っている患者が、活動型の前記疾患を患っているか、受動型の前記疾患を患っているかを決定するために、前記少なくとも2つのタンパク質の発現パターンが標準的なパターンと比較される。
【0076】
さらに、キットは、既知量の対照として提供されるタンパク質、タンパク質断片、またはペプチドを含む。
【0077】
本発明の別の実施形態によれば、キットは、競合イムノアッセイにおける使用に適しており、固相をさらに含み、タンパク質、タンパク質断片またはペプチド断片が固相に結合される。前記固相は、好ましくは1または複数のニトロセルロース、セルロース、ガラス、プラスチック、マイクロタイター・プレートおよびウェル、例えばマイクロタイター・ウェルを含む。
【0078】
好ましい実施形態によれば、SLC6A14、SLC26A2、GRO−1、MMP−7、MAP−17、RegIVおよびバニン−1タンパク質に特異的な抗体を用いたELISA技術は、
1)試料と対照群でコーティングされたリアクター内に特異的抗体を入れて、抗原−抗体反応を誘導するステップ、
2)二次抗体−標識コンジュゲートおよび標識基質の発色基質溶液を用いて抗原−抗体反応生成物を検出するステップ、および
3)試料の検出結果を対照群の検出結果と比較するステップ
を通じて行われる。
【0079】
ELISA、生物学的マイクロチップまたは自動化マイクロアレイシステムなどの既知の技術を用いて、大量の試料を解析することができる。生物学的マイクロチップは、生物学的マイクロチップ上に特異的な抗体タンパク質を固定することによって、抗体タンパク質と個体から回収した試料の反応を引き起こして、特異的な抗体タンパク質に対する抗原を検出することができる。
【0080】
また、本発明は、選択された少なくとも2つの遺伝子と特異的に反応する抗体を用いて、これらの遺伝子の少なくとも2つの組み合わせを含む、UCおよびCDを診断するためのキットも提供する。
【0081】
本発明にかかる診断キットは、固相または担体、例えばウィッキング・メンブレンを含む。このようなウィッキング・メンブレンに適した材料の例には、限定されないが、ナイロン、ポリエステル、セルロース、ポリスルホン、ジフッ化ポリビニリデン、酢酸セルロース、ポリウレタン、ガラスファイバー、ニトロセルロースなどが挙げられる。また、固相は、マイクロキャリア、パーティクル、メンブレン、ストリップ、ペーパー、フィルム、パールまたはプレート、例えばマイクロタイター・プレートの形態であってもよい。
【0082】
診断キットは、抗原−抗体結合反応によって抗体タンパク質の抗原を定量的および定性的に解析することによりUCおよびCDを診断することができる。抗原−抗体結合反応は、ELISA、RIA、サンドイッチ・アッセイ、ポリアクリルアミド・ゲル上のウェスタン・ブロッティング、およびイムノブロッティング解析を含む当該技術分野において一般に知られている技術によって検出することができる。例えば、診断キットは、組換えモノクローナル抗体タンパク質でコーティングされた96ウェルマイクロタイター・プレートを用いたELISAで使用されるように提供され得る。別の例は、排泄物試料または血液試料用の診断用ディップスティックの使用である。
【0083】
本発明にかかる診断キットに含まれる対照は、正の対照および負の対照を含む。
【0084】
種々の試料の診断に使用される抗体はポリクローナルでもモノクローナルでもよく、現在、当該技術分野において周知である方法によって作ることができる。例えば、実施例2または3の抽出物に対するポリクローナル抗体は、ウサギなどの動物を免疫化し、次に従来の慣例に従って抗体を精製することによって生成することができ、一方、前記抽出物に対するモノクローナル抗体は、例えば、KohlerおよびMilstein(Nature(1975)256:495)の方法に従い、周知の慣例に従って、マウスなどの動物を免疫化し、その脾臓から脾臓細胞を抽出し、それらをマウスミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを作り、ハイブリドーマをスクリーニングおよびサブクローニングすることによって作ることができる。
【0085】
好ましい実施形態では、本発明の方法に使用されるイムノアッセイは、ELISAサンドイッチ・タイプである。より好ましい実施形態では、ELISAサンドイッチ・イムノアッセイは、タンパク質の定量化における試料循環脂質の妨害を減少させるための膵臓性コレステロール・エステラーゼを含む特定の緩衝液(浄化緩衝液(clearing buffer))を用いた試料の前処理を伴う。別の好ましい実施形態では、イムノアッセイはウェスタン・ブロット・アッセイ(内部対照を用いることが特に好ましい)である。
【0086】
二次抗体標識基質として、発色を誘導する既知の標識基質が、好ましくは用いられ、本発明に有用な標識基質の例には、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、コロイド金、フルオレセイン、例えばポリL−リジン−フルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはローダミン−B−イソチオシアネート(RITC)、および色素が挙げられる。本発明では、例えば、ヤギ抗ウサギIgG−HRPコンジュゲート(IgG−HRPコンジュゲート)が用いられる。
【0087】
好ましくは、使用される色原体は発色を伴う標識基質に従って変化し、その使用可能な例には、3,3’5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)、2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)、およびo−フェニレンジアミン(OPD)が挙げられる。
【0088】
より好ましくは、色原体は緩衝溶液(0.1M NaAc、pH5.5)に溶解された状態で提供される。TMBなどの色原体は、二次抗体コンジュゲートの標識基質として使用されるHRPによって分解され、発色する沈殿物を生成する。発色する沈殿物の沈殿レベルは肉眼で観察され、それによってタンパク質抗原の存在を決定する。
【0089】
好ましくは、洗浄溶液はリン酸緩衝溶液、NaCl、およびTween 20を含み、より好ましくは0.02Mリン酸緩衝溶液、0.13M NaCl、および0.05%Tween 20を含む緩衝溶液である。抗原−抗体結合反応後、適量の洗浄溶液は、二次抗体と抗原−抗体コンジュゲートの反応を受けたリアクター内に供給される。洗浄溶液を用いた洗浄は、3〜6回繰り返して行われる。好ましくは、0.1%BSAを含むリン酸緩衝液はブロッキング溶液として使用され、好ましくは、2N硫酸溶液は酵素反応の停止溶液として使用される。
【0090】
ここでは、診断キットを用いて、標本試料中のSLC6A14、SLC26A2、GRO−1、MMP−7、MAP−17、RegIVおよびバニン−1抗原を検出することによって、初期段階のUCおよびCDを診断する方法が記載される。陽性および陰性対照群の抗体および標本試料はそれぞれ反応し、洗浄溶液で洗浄される。次に、基質との反応によって色を生じる標識基質で標識された二次抗体コンジュゲートを得られた生成物に添加し、洗浄溶液で再び洗浄される。その後、基質を含む溶液を得られた生成物に添加され、発色を誘導する。次に、吸光度450nmを測定する。ここで、標準抗原溶液Aの平均吸光度は、0.000以上であり、0.200以下でなければならない。標準抗原溶液Fの平均吸光度は、1.200以上であり、3.000以下でなければならない。標準抗原溶液AとFの吸光度値の平均値は、カットオフ値として設定され、正または負の試料として試料を決定するために用いられる。試料の吸光度が標準抗原溶液Fの吸光度よりも大きい場合、試料を希釈し、次にその吸光度を再度測定する。カットオフ値を上回る吸光度を有する試料を正であるとして特定し、カットオフ値を下回る吸光度を有する試料を負であるとして特定する。
【0091】
患者の血液または排泄物(生検)を用いた新規な免疫学的診断ツールである、本発明にかかるSLC6A14、SLC26A2、GRO−1、MMP−7、MAP−17、RegIVおよびバニン−1に対するヒト特異的抗体を含むUC/CD診断キットは、高い正確度と再現性を有していることが確かめられた。従来、内視鏡検査、組織学、病歴およびP−ANCA抗体の組合せがIBDの診断に使用されるが、しかしながら正確性があまり高くない(Bossuyt,X.、Clin Chem 52 2006)。しかしながら、本発明にかかるUCおよびCDの早期診断についての試験は、約95〜97%の診断正確度を示し、従来の試験よりも高い統計的有意性である。したがって、本発明にかかる診断方法およびキットは、高い正確度と再現性のために、UCおよびCDの早期診断、ならびにIBSの診断に非常に好都合に使用することができる。
【実施例】
【0092】
ここで、本発明は、いずれにおいても本明細書に記載される特定の実施形態に範囲を限定することなしに、以下の実施例によって詳細に例証される。
[実施例1]
【0093】
組織回収および保存
UC、CDまたはIBSを患っている患者、および健常なボランティアから結腸組織生検、排泄物試料および血液試料を採取した。
【0094】
1.1 RNA作業について:
UC、CDまたはIBSを患っている患者(各々、5〜10人の患者)から排泄物試料を採取した。排泄物試料をRNAlater(登録商標)溶液(Ambion Inc./Applied Biosystems)と1:1の比で混合し、使用するまでRTで維持した。
【0095】
1.2 タンパク質作業について:
UC、CDまたはIBSを患っている患者から排泄物試料を採取した。使用するまで−20℃で排泄物試料を直接凍結した。あるいは、適切な緩衝液と1:1の比で試料を混合した。
[実施例2]
【0096】
リアルタイムPCR解析用の排泄物試料からのRNA抽出
2.1 RNA単離:
全ての患者の排泄物試料からの総RNAは、Pellet Pestle Motor Homogenizerを用いて、製造業者のプロトコールに従って(Kimble/Kontes、Kimble Glass Inc.)、最初に生検試料をホモジナイズすることによって単離された。ホモジネートから、総RNAは、Qiagen RNeasy(登録商標)キットを用いて、製造業者のガイドラインに従って(Qiagen Nordic AB)単離された。
【0097】
2.2 cDNA合成:
2μgの各RNA試料は、10pMのオリゴ−dT−プライマーVN−T20(5’−TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTN V−3’)を用いて第1鎖のcDNA合成に使用された。緩衝液、デオキシヌクレオチド三リン酸(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)、ならびに酵素の逆転写酵素(Superscript II)はInvitrogenによって供給され、反応は製造業者のガイドラインに従って行われた。酵素を除いた第1鎖合成の反応混合物は、PCR機器(HybidのPCRスプリント)中で10分間、65℃でプレインキュベートされ、氷上で冷却され、次に酵素Superscript IIを添加し、PCR機器中で1.5時間、42℃でインキュベートした。
【0098】
2.3 排泄物試料由来のcDNAのリアルタイムPCR解析:
リアルタイムPCR解析は、各排泄物試料由来の1:10に希釈した第1鎖cDNA材料とApplied BiosystemsのSYBR Green Mastermixを用いて、製造業者の推奨に従ってApplied Biosystems 7500 PCR機器で行われた。プライマーは、7つのマーカー遺伝子と内部対照を増幅するように設計され、大きさにして106〜160bpの範囲の断片を得た。(400bpを超える断片は、確実なシグナルをほとんど与えない傾向にあるので、小さな断片が必要である)。リアルタイムPCR解析で使用するために提供されているソフトウェア(SDS 4.0;相対定量アッセイ)を用いて、いわゆる「デルタCt」値が、分析された各排泄物試料に対する全てのマーカーについて得られた。
【0099】
このタイプの分析については、指示された断片サイズを与える特異的なリアルタイムPCRプライマーが使用された。
【0100】
【表2】

【0101】
次に、各マーカーについてのデルタCt値を各マーカーに対してプロットし、グラフを解析することによって発現プロフィールを決定した(結果を参照されたい)。
【0102】
実験に使用されたフォワード・プライマーおよびリバース・プライマーを表3に示す。
【0103】
【表3】

【0104】
RNAデータは、GRO−1およびRegIVが排泄物のRNAレベルでIBDとIBSとを区別するための良好な組み合わせであることを示す(例えば、図5を参照されたい)。さらに、血液試料からのRNAデータは、バニン−1が良好な区別の可能性を有することを示す。マーカーSLC26A2、MAP−17およびバニン−1が、RNAレベルで血液において十分に検出可能である。マーカーGRO−1、MMP−7およびRegIV.SLC14A6は検出可能であったが、RNAレベルで血液において発現された場合に低レベルであった。
【0105】
MMP−7、RegIVおよびGRO−1が分泌性タンパク質であるという事実から、本発明者らは、タンパク質レベルでの発現が検出するにはより容易であり、これは、血液のRNAデータの成績を確認するために使用され得ると結論付ける。
【0106】
血液のRNAについて、1つのマーカー、すなわちバニン−1のみを用いたIBDとIBSとの区別が、すでに信頼に足るものであったことに留意すべきである。AUCは0.867であった。
[実施例3]
【0107】
タンパク質抽出
3.1 生検試料からのタンパク質抽出
得られた固定された生検試料を遠心分離し、固定剤を除去し、PBSで洗浄しなければならない。次に、抽出緩衝液(100mMのリン酸カリウム、pH7.8;1mMのDTT;0.5mMのPMSF)を添加し、製造業者のプロトコールに従って、Pellet Pestle Homogenizerを用いて試料をホモジナイズした。その後、0.1〜0.2%のTriton−X−100を添加し、混合物を5分間4℃でインキュベートして細胞を溶解した。5分4℃の遠心分離後、上清(=抽出物)を新しいチューブに移し、抽出物を使用するまで、−80℃で急激に凍結した後に保存した。
【0108】
3.2 排泄物試料からのタンパク質抽出
抽出緩衝液(100mMのリン酸カリウム、pH7.8;1mMのDTT;0.5mMのPMSF)およびガラスビーズを排泄物試料に添加し、完全にボルテックスした。その後、0.1〜0.2%のTriton−X−100を添加し、5分間4℃でインキュベートして細胞を溶解した。5分間、4℃の遠心分離後、上清(=抽出物)を新しいチューブに移し、抽出物を使用するまで−80℃で保存した。
【0109】
3.3 血液からのタンパク質抽出
凍結された血清に同量の2×抽出緩衝液(200mMのリン酸カリウム、pH7.8;2mMのDTT;1mMのPMSF)+0.2〜0.4のTriton−X−100を添加し、混合物を5分間4℃でインキュベートして細胞を溶解した。5分間、4℃の遠心分離後、上清(=抽出物)を新しいチューブに移し、抽出物を急激に凍結し、使用するまで−80℃で保存した。
【0110】
血液または血清からタンパク質を抽出する代わりに、血清を直接用いて、ELISAプレートをコーティングすることができる。
[実施例4]
【0111】
ポリクローナル抗体を用いた標本試料のウェスタン・ブロット解析
各々の患者および標本試料について、タンパク質抽出物(10μgの総タンパク質/レーンに標準化される)を、12または15%の変性SDS−PAGEによって8回分離し、電気ブロッター(Bio−Rad)を用いたセミドライ・ブロッティングによってポリジフッ化ビニリデンメンブレン(Hybond−P;0.8mA/cm↑2、60分間;Amersham Pharmacia Biotech)に移された。次に、プロットID1〜7のタンパク質およびベータ−チューブリンに対する特異的抗体との反応のために、メンブレンを8片に切った。抗体をブロッティング緩衝液に希釈した。その後、メンブレンを洗浄し、ECL−Plus検出試薬とともにインキュベートし、Hyperfilm ECL(ともにAmersham Pharmacia Biotech)に曝した。RegIVおよびMMP−7に対して指向された一次抗体はAbcamから入手され、GRO−1はRDSから得られ、ならびにSLC6A14、SLC26A2、MAP−17およびバニン−1は商業的供給者によって合成された。タンパク質含有量は、アルファ−チューブリンに対する抗体を用いた並行ハイブリダイゼーションによって正規化された。全てのウェスタン・ブロットは、時間の長さを変えてフィルムに曝され、亜飽和レベルの強度を生じるフィルムだけが濃度的および統計的評価のために選択された。直線性は、様々な量の材料および複数回のフィルム露光を用いることによって独立した実験において確認された(データは示さず)。
【0112】
また、正の対照として、プロットID1〜7の組換えタンパク質(抗体として同じ供給源から入手される)を同じ方法で解析した。
[実施例5]
【0113】
マーカータンパク質に対して生じさせたポリクローナル抗体を用いたELISA解析
第一に、ウェルを試料でコーティングした。第二に、7つのタンパク質であるプロットID NO1〜7に対する特異的なポリクローナル抗体を用いてELISAプレートウェルをコーティングした。第三のステップは、試料における特異的な抗原−抗体結合の存在の検出であった。
【0114】
5.1 試料によるウェルのコーティング
結腸生検、排泄物試料および血液試料から得たタンパク質抽出物を標本試料として用いた。カットオフ値を測定するための標準曲線を得るために、標準抗原溶液1〜7を、それぞれ、0ng/ml、20ng/ml、40ng/ml、80ng/ml、160ng/ml、320ng/mlおよび640ng/mlの種々の濃度の希釈物A、B、C、D、E、FおよびGを用いて調製した。
【0115】
100μlの各標本タンパク質試料をそれぞれの96ウェルELISA平底プレートに分配し、37℃で4時間反応させ、洗浄緩衝溶液(0.05%Tween 20、pH7.4を含むPBS)で4回洗浄した。ここで、上記で調製された標準抗原溶液を正の対照群として使用し、正常なウサギ血清を負の対照群として使用した。
【0116】
5.2 ポリクローナル抗体の添加
標本試料でコーティングされた各ウェルにプロットID1〜7のタンパク質に対する特異的ポリクローナル抗体を入れ、蓋で覆い、4℃で16〜18時間放置した。ポリクローナル抗体は、5μg/mlの濃度で0.5M炭酸塩緩衝液(pH9.6)に希釈させ、希釈された溶液の100μlを各ウェルに添加した。対照群として、上記タンパク質に影響されない正常なウサギ血清を炭酸塩緩衝溶液で500倍に希釈し、各ウェルに分配した(100pl/ウェル)。
【0117】
次に、プレートのウェルを洗浄緩衝溶液で4回洗浄した。非特異的なタンパク質結合部位をブロックするために、ブロッキング溶液(2%BSAを含むPBS緩衝溶液(pH7.4))を各ウェル(300pl/ウェル)に分配し、37℃で2時間放置した。
【0118】
5.3 抗原−抗体複合体の検出
10,000倍希釈した、セイヨウワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートさせたヤギ抗ウサギIgG二次抗体の100μlを各ウェルに添加し、プレートを37℃で1時間放置し、洗浄緩衝溶液で4回洗浄した。その後、基質として1mgの3.3’,5.5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(Sigma Co.,USA)を10mlのクエン酸塩緩衝溶液(pH5.0)に溶解し、2μlの35%過酸化水素をそれに添加し、それにより基質溶液を調製した。100μlの調製された基質溶液を各ウェルに分配し、光に曝さずに室温で15分間反応させた。その後、50μlの2NのH2SO4溶液を添加し、反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。
【0119】
プロットID1〜7のタンパク質のうちの1つを用いて試験された各標本試料について、抗原による吸光度は、試料の吸光度から、正の対照群としてのタンパク質のみ、および負の対照群としてのPBSでコーティングしたウェルの吸光度を差し引くことによって得られる残り物として推定された。同じようにして、標準溶液の吸光度値を計算した後、各タンパク質についての標準抗原溶液A〜Fの吸光度値の平均値をカットオフ値として設定した。カットオフ値を上回る吸光度を有する試料を正として同定し、カットオフ値を下回る吸光度を有する試料を負として同定した。
【0120】
カットオフ値に基づいて、それぞれの試料の吸光度値は、それらが正であるかまたは負であるかを決定するために比較された。
【0121】
本発明は、本発明者らに現在知られている最良の態様を構成する好ましい実施形態に関して記載されるが、当業者に明確となるであろう様々な変更および修飾は、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載される発明の範囲から逸脱せずに行うことができることは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における炎症性腸疾患(IBD)と過敏性腸症候群(IBS)とを区別するのに使用する方法であって、少なくとも2つのマーカーの発現レベルが、前記患者から採取された試料において決定され、前記マーカーが下記の遺伝子およびそれらの対応するタンパク質:
【表1】

を含む群から選択される方法。
【請求項2】
前記試料が、糞便試料、血液、血漿、血清および生検試料のうちの1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が糞便試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が血液試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも2つのマーカーの少なくとも1つがバニン−1である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
患者における炎症性腸疾患(IBD)と過敏性腸症候群(IBS)とを区別するのに使用する方法であって、IBDが指示される場合、潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)との区別が、前記患者から採取した試料中の少なくとも2つのマーカーの発現レベルを決定することにより行われ、前記マーカーが下記の遺伝子およびそれらの対応するタンパク質:
【表2】

を含む群から選択される方法。
【請求項7】
前記少なくとも2つのマーカーの発現パターンに基づいて、潰瘍性大腸炎またはクローン病の活動期と非活動期との識別がなされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記試料が、糞便試料、血液、血漿、血清および生検試料のうちの1つである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が糞便試料である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記試料が血液試料である、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも2つのマーカー遺伝子の前記発現パターンがPCRを用いて決定される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記発現レベルが、前記少なくとも2つのタンパク質またはそれらの断片を同定することができる少なくとも2つの抗体を用いて、前記試料の少なくとも一部を前記少なくとも2つの抗体と接触させるステップおよび前記接触させた試料と前記抗体の反応の程度を監視するステップによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記接触ステップおよび監視ステップが、前記試料からタンパク質を抽出し、アッセイを行って、前記試料中における、列挙した前記タンパク質のうちの少なくとも2つの量を決定することによって実行される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記抗原−抗体の結合反応が、酵素結合免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、サンドイッチ・アッセイ、ウェスタン・ブロッティング、イムノブロッティング解析または免疫組織化学法からなる群から選択されるいずれか1つの技術によって検出される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記発現レベルが、前記少なくとも2つのタンパク質またはそれらの断片を同定することができる少なくとも2つの抗体を用いて、前記試料の少なくとも一部を前記少なくとも2つの抗体と接触させるステップおよび前記接触させた試料と前記抗体の反応の程度を監視するステップによって決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記接触ステップおよび監視ステップが、前記試料からタンパク質を抽出し、アッセイを行って、前記試料中における、列挙した前記タンパク質のうちの少なくとも2つの量を決定することによって実行される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記抗原−抗体の結合反応が、酵素結合免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、サンドイッチ・アッセイ、ウェスタン・ブロッティング、イムノブロッティング解析または免疫組織化学法からなる群から選択されるいずれか1つの技術によって検出される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記接触ステップおよび監視ステップが、前記患者試料と前記抗体を免疫組織化学的に反応させ、その後、前記試料中の反応物を検出することによって実行される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
炎症性腸疾患の治療に対する患者の応答を監視する方法であって、前記患者から採取した試料中の少なくとも2つのマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、前記マーカーが下記の遺伝子およびそれらの対応するタンパク質:
【表3】

を含む群から選択される方法。
【請求項20】
試料が前記治療の過程中に採取され、前記発現パターンが比較される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
炎症性腸疾患の重度を決定する方法であって、前記患者から採取した試料中の少なくとも2つのマーカーの発現レベルを決定するステップを含み、前記マーカーが下記の遺伝子およびそれらの対応するタンパク質:
【表4】

を含む群から選択される方法。
【請求項22】
下記のタンパク質:
【表5】

を含む群から選択される少なくとも2つのタンパク質またはタンパク質断片を同定することができる少なくとも2つの抗体、および前記抗体と試料との反応の程度を検出するための手段を含むキット。
【請求項23】
患者における炎症性腸疾患と過敏性腸症候群とを区別するために前記キットを用いるための使用説明書を含む、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
患者における潰瘍性大腸炎とクローン病とを区別するために前記キットを用いるための使用説明書を含む、請求項22に記載のキット。
【請求項25】
潰瘍性大腸炎またはクローン病を患っている患者が、活動型の前記疾患を患っているか、受動型の前記疾患を患っているかを決定するために、前記少なくとも2つのタンパク質の発現パターンが標準パターンと比較される、請求項22に記載のキット。
【請求項26】
タンパク質、タンパク質断片、またはペプチドが、既知量の対照として提供される、請求項22に記載のキット。
【請求項27】
疾患の重度を決定するために前記キットを用いるための使用説明書を含む、請求項22に記載のキット。
【請求項28】
治療に対する患者の応答を決定するために前記キットを用いるための使用説明書を含む、請求項22に記載のキット。
【請求項29】
前記キットが競合イムノアッセイの使用に適合され、さらに固相を含み、前記タンパク質、タンパク質断片またはペプチド断片が前記固相に結合される、請求項22に記載のキット。
【請求項30】
キットが競合イムノアッセイの使用に適合され、さらに固相を含み、前記タンパク質、タンパク質断片またはペプチド断片が前記固相に結合され、前記固体マトリックスがニトロセルロース、セルロース、ガラス、プラスチック、マイクロタイター・プレートおよびウェルの中から選択される、請求項22に記載のキット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−507509(P2011−507509A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539353(P2010−539353)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/SE2007/051057
【国際公開番号】WO2009/082298
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510173317)
【Fターム(参考)】