説明

IBIS補正ツール、IBIS補正方法および波形シミュレーション装置

【課題】例えば波形シミュレーション装置に組み込んで使用することのできるIBIS補正ツールであって、ある特定の電源電圧V0用のIBISデータを、従来よりも高い精度で、所望の電源電圧V1用のIBISデータに補正する。
【解決手段】データ入力部11にて電源電圧V0用のIBISデータをx−y座標の数値データとして読み込み、この数値データと電源電圧V1についてそのx−y座標上での数値データとの相対比(補正係数)を補正係数算出部12で求め、その補正係数に従って電源電圧V1用に補正した補正IBISデータを補正IBISデータ生成部13より得るように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は好適な一応用例として、半導体素子が呈する出力波形をシミュレートする波形シミュレーション装置に関し、特に該波形シミュレーション装置等に組み込まれるIBIS補正ツールならびにIBIS補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI等の半導体集積回路の回路規模は益々増大し、その回路設計や回路解析にはコンピュータを用いたシミュレータが不可欠になっている。本発明はこのようなシミュレータのうちで、特に上記半導体集積回路の基本構成素子である例えばCMOSデバイス等の半導体素子についてその出力波形をシミュレートする波形シミュレーション装置を、好適な一応用例とするものである。さらに詳しくは、該波形シミュレーション装置をなす主要構成部分の1つであるモデル作成部(後述)に対して、外部から提供するIBIS(I/O Buffer Information Specification)データを補正するためのIBIS補正ツールについて述べるものである。
【0003】
なお本発明に関連する公知技術として、下記の〔特許文献1〕がある。この特許文献1は、本発明と同様、回路シミュレーションにおいて所望の精度を得ることを目的とするものであるが、その目的達成のために、『半導体集積回路の回路シミュレーションに使用するSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)パラメータにおいて、SPICEパラメータは、電源電圧領域の全範囲を表現するSPICEパラメータを用いる手段と、ゲートソース間電圧であるVgsの低い領域を表現するSPICEパラメータを用いる手段、とに分割されたSPICEパラメータのセットを有する』ように構成する。この特許文献1の構成は、後述する本発明の構成とは相違する。
【0004】
【特許文献1】特開2003−271692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで上記IBISデータについて検討すると、このIBISデータはいわゆる素子モデルを表すデータであり、この素子モデルは、通常、各半導体素子毎に実測あるいはシミュレーションにより得られた出力電気特性、すなわち出力電圧−電流特性を表すデータからなる。この素子モデルをなす出力電圧−電流特性データは、当該半導体素子を製造する例えばLSIメーカから提供されるものである。
【0006】
この場合、その出力電圧−電流特性データは、ある特定の電源電圧を代表としてその電圧のもとで得られるデータ、すなわち1つの特定電源電圧だけに対応する出力電圧−電流特性データとして提供される。これは、近年の半導体素子においてはその使用可能電源電圧の範囲が大幅に拡大しており、上記LSIメーカとしては、その使用可能電源電圧の全範囲に亘って各電源電圧のもとでの出力電圧−電流特性データを提供することが困難になっているからである。
【0007】
そうすると、その半導体素子について上記特定の電源電圧(例えば3.3V)とは異なる、ユーザに所望の電源電圧(例えば2.8V)のもとでの出力電圧−電流特性を必要とするユーザにとっては、当該半導体素子について提供された特定電源電圧用のIBISデータをそのまま使うことができない。
【0008】
このため、従来、ユーザは提供された出力電圧−電流特性カーブを、上記の例の場合、単純に0.5(=3.3−2.8)Vシフトすることによって、所望の電源電圧用IBISデータの代用として使っていた(後に図を参照して説明する)。
【0009】
ところが上述した単純な電圧シフトによって上記の補正を行うと、上記出力電圧−電流特性の一部において、実測あるいはシミュレーションによる出力電圧−電流特性から外れてしまう部分が生じここに誤差が現れて、上記所望の電源電圧に対応させた補正IBISデータを精度良く得ることができない、という問題がある。
【0010】
この場合、その所望の電源電圧用の出力電圧−電流特性データを、実測あるいはシミュレーションにより抽出することももちろん可能である。しかしそのような実測あるいはシミュレーションの実施には膨大な時間と費用とを必要とし、現実的ではない。
【0011】
したがって本発明は、上記問題点に鑑み、特定の電源電圧用のIBISデータをもとに、その特定の電源電圧とは異なる任意の所望の電源電圧に対応するように補正された補正IBISデータを、短時間でかつ高精度に生成することのできるIBIS補正ツールならびにIBIS補正方法と、このIBIS補正ツールを備えた波形シミュレーション装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
図1は本発明に係るIBIS補正ツールの基本構成を示す図である。本図において参照番号10がそのIBIS補正ツールを示し、基本的には図示するデータ入力部11と、補正係数算出部12と、補正IBISデータ生成部13とからなる。なお、その他補正要否判定部14と補正IBISライブラリ15については後述する。
【0013】
この補正ツール10は、ある半導体素子についてある特定の電源電圧(例えばV0)用として提供されたIBISデータ(V0)を、その半導体素子についてその特定の電源電圧とは異なる所望の電源電圧(例えばV1)に対応するように補正された補正IBISデータとするためのものである。そのIBISデータ(V0)は、データ入力部11に入力される。
【0014】
このデータ入力部11においては、上記のIBISデータ(V0)により規定される半導体素子の出力電気特性(出力電圧−電流特性)についての全データを、x−y座標の数値データとして読み込む。
次に補正係数算出部12は、上記特定の電源電圧V0についてデータ入力部11にて読み込んだ上記x−y座標の数値データと、上記所望の電源電圧V1について同一のx−y座標上で表される数値データとの相対比を補正係数として算出する。
さらに補正IBISデータ生成部13は、上記の算出された補正係数に従って、上記x−y座標上で、上記特定の電源電圧V0に対応するIBISデータを、上記所望の電源電圧V1に対応するように補正された補正IBISデータに変換する。
【0015】
図2は本発明に係るIBIS補正方法を表すフローチャートである。本フローチャートにより表されるIBIS補正方法は、既に述べたとおり、ある半導体素子についてある特定の電源電圧(V0)用として提供されたIBISデータを、その半導体素子についてその特定の電源電圧とは異なる所望の電源電圧(V1)に対応するように補正された補正IBISデータとするための方法である。ここに、
第1ステップS11では、上記IBISデータにより規定される半導体素子の出力電気特性(出力電圧−電流特性)についての全データを、x−y座標の数値データとして読み込む。
第2ステップS12では、上記特定の電源電圧について第1ステップS11にて読み込んだx−y座標の数値データと、上記所望の電源電圧V1について同一のx−y座標上で表される数値データとの相対比を補正係数として算出する。
第3ステップS13では、第2ステップS12にて算出された補正係数に従って、上記x−y座標上で、上記特定の電源電圧V0に対応するIBISデータを、上記所望の電源電圧V1に対応するように補正された補正IBISデータに変換する。
【0016】
図3は本発明に係るIBIS補正ツールを具備する波形シミュレーション装置を示す図である。本図において、参照番号20がその本発明に係る波形シミュレーション装置を示しているが、このうち、IBIS補正ツール10(図1)を除くと、既存の波形シミュレーション装置と実質的に同じである。なお、全図を通じて、同様の構成要素には同一の参照番号または記号を付して示す。
【0017】
すなわち、IBISデータ(出力電気特性)を収容するIBISデータファイル21からの出力データを、点線Rに沿ってモデル作成部24に直接入力すれば、上記既存の波形シミュレーション装置と実質的に同じである。なお、上記IBISデータファイル21と対をなして用いられるのが、配線データ(配線CAD)ファイル22である。
【0018】
したがって、既存の波形シミュレーション装置は、
外部から提供される上記IBISデータおよび配線データを入力として、素子モデルおよび配線モデルを作成するモデル作成部24と、
このモデル作成部24にて作成された上記の素子モデルおよび配線モデルの各情報を入力として、当該半導体素子による出力波形をシミュレートする波形シミュレート部25と、
そのシミュレートされた出力波形をユーザに提供する波形表示部26と、から構成されるので、本発明に係る波形シミュレーション装置20は次の構成によって特徴づけられる。
【0019】
まずモデル作成部24を含むモデル生成ユニット23を形成してこのモデル生成ユニット23内のIBISデータの入力側にIBIS補正ツール10を導入する。ここにIBIS補正ツール10は、ある半導体素子についてある特定の電源電圧(V0)用として提供されたIBISデータを、その半導体素子についてその特定の電源電圧とは異なる所望の電源電圧(V1)に対応するように補正された補正IBISデータに変換する。
【発明の効果】
【0020】
前述したように従来は、例えば特定の3.3V電源電圧用のIBISデータが提供された場合であって、一方ユーザは、その特定の電源電圧とは異なる所望の例えば2.8Vの電源電圧に対応したIBISデータを必要とするときは、上記のIBISデータにより提供された出力電圧−電流特性カーブを単純に電圧方向に沿って0.5(=3.3−2.8)Vシフトした出力電圧−電流特性カーブに作り直してその2.8Vに対応させる、ということを行っていた(後述する図11参照)
【0021】
しかし上述の単純な手法によると、出力電圧−電流特性カーブの一部に誤差(Er)が生じてしまう(後述する図7参照)。
【0022】
本発明によれば、上記補正IBISデータによって、上記の例の場合、所望の2.8V電源電圧に対応させたより一層正確なIBISデータに変換でき、上記の誤差が解消される(後述する図7参照)。この場合、図1に示すような単純な算術演算(11,12,13)を導入するのみであるから、実測あるいはシミュレーションによってその2.8V電源電圧用のIBISデータを生成することに比べれば、遙かに短時間かつ低コストで、従来より一層正確な補正IBISデータを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明による効果を明確に理解するために、まず初めに、従来技術から説明する。
【0024】
図9は本発明の対象とする半導体素子の一例を示す図である。この一例による半導体素子はLSIの一般的な出力回路であり、CMOSデバイスである。なおこの他にも、例えばTTL(Transistor Transistor Logic)回路やECL(Emitter Coupled Logic)回路等の場合であっても、本発明は適用可能である。
【0025】
図9において、参照番号9は前述した半導体素子としてのCMOSデバイスを表しており、1はHigh側駆動用のPチャネルMOS FET、2がLow側駆動用のNチャネルMOS FETであって、これらP−MOS FET1およびN−MOS FET2によって出力バッファが形成される。
【0026】
この出力バッファ(1,2)の入力側には入力端子7を有し、その出力側には出力端子8を有してなり、また、前述した特定の電源電圧(V0)あるいは所望の電源電圧(V1)が印加される電源電圧印加用端子5とGND印加用端子6とを具備する。なお、参照番号3および4はそれぞれ、High側保護ダイオードおよびLow側保護ダイオードである。
【0027】
本発明は上記COMSデバイス9のIBISデータ、すなわちその出力端子8における出力電気特性(出力電圧−電流特性)を課題とするものであり、これを図示すると図10に示すとおりである。
【0028】
図10は本発明の課題である出力電圧−電流特性を示す図であり、図9のCMOSデバイス9について示す。特にHigh側駆動用PチャネルMOS FET1がONしたときの出力端子8における出力電気特性を、電源電圧(VDD)が3.3Vの場合について示している。なお横軸には出力電圧Voをとり、縦軸は出力電流Ioをとって示す。図9において、Low側駆動用NチャネルMOS FET2がONのとき(すなわちPチャネルMOS FET1がOFFのとき)は、出力端子8には電源電圧が現れないから、IBISデータの補正について考慮する必要はない。
【0029】
図9のCMOSデバイス9に関し、特定の電源電圧(VDD)が3.3Vの場合のIBISデータ(出力電圧−電流特性)が、図10のようにLSIメーカ等から提供されている場合であって、一方、当該CMOSデバイス9のユーザが例えば電源電圧2.8Vでの使用を希望する場合、従来は、図10に示す出力電圧−電流特性カーブCを単純に電圧方向に0.5(=3.3−2.8)Vシフトするだけであった。これを図で示すと次のとおりである。
【0030】
図11は従来の方法による出力電気特性カーブの補正を説明するための図である。本図において、参照記号Cは、図10に示したのと同様、当該CMOSデバイス9についてLSIメーカ等より提供された、特定電源電圧(3.3V)用の出力電圧−電流特性カーブである。
【0031】
この特性カーブCを、所望の電源電圧(2.8V)用として変更して使用するために、従来ユーザは、そのカーブCを単純に0.5Vシフト(Vshift=0.5V)し、2.8V用として代用する出力電圧−電流特性カーブC′を得、このカーブC′に基づくデータを、モデル作成部24への入力データ(素子モデル)としていた。
【0032】
ところが図11から明らかなことは、出力電流Ioのうちショート電流Ishort(出力電圧Vo=0のときの電流)が、特性カーブC(3.3V)のときも特性カーブC′(2.8V)のときも変わらないことである。つまり、電源電圧3.3Vのときも2.8Vのときもショート電流Ishortの値がほぼ同じとなる。このようなことは実測ではあり得ないことであり、従来の補正方法では明らかに誤差を含んでおり、正確な補正IBISデータとなっていない。
【0033】
そこで本発明は、図11のグラフをx−y座標として見たとき、その第1象限は比較的正確に補正がなされている反面、その第4象限においては上記電圧シフト法(Vshift)では本質的に正確な補正は無理であるということに着眼し、まず出力電圧−電流特性を座標(x,y)の数値データとして扱い、電圧Vo=0V、電流Io=0A、すなわち当該x−y座標の原点に向かう3.3V時のベクトルと2.8V時のベクトルの各大きさの相対比を求め、この相対比に従う算術演算により、2.8V時の出力電圧−電流特性を算出することとする。この算出法について図を参照して説明する。
【0034】
図4は本発明に基づくIBISデータ補正のための算術演算を説明するための図である。本図において、出力電圧−電流特性カーブCは、前述した3.3VのもとでのIBISデータをx−y座標上にプロットしたものであり、その特性カーブC上の(x,y)数値データを(Vn,In)で表す。(Vn,In)はIBISデータから多数個(n=1,2,3…)提供されるが、簡単のためにそのうちの1つのみを図示している。
【0035】
本発明では、この(Vn,In)に対し、原点0を通る補助線Aを引く。そしてこの補助線A上に、3.3V時の(Vn,In)に対応する2.8V時の(Vm,Im)を、ベクトル演算して求める。なお、このときのベクトルの大きさは、(Vn,In)についてdnであり、(Vm,Im)についてdmであり、またそのベクトルの方向(角度)はθnである。
【0036】
このような3.3V時の(Vn,In)の1つ1つに対応させてそれぞれ補助線Aを引くと共に、2.8V時の(Vm,Im)を1つ1つ算術演算で求めて、プロットすれば正確な、2.8V時の出力電圧−電流特性データが順次算出される。この算出工程について、さらに具体的に説明する。
【0037】
上記図4と既述の図1とを参照すると、補正係数算出部12(図1)は、データ入力部11(図1)にて読み込んだx−y座標の多数の数値データを1つ1つ、該x−y座標の原点0を基点とする基準ベクトル(大きさdn、角度θn)として表すと共に、同一のx−y座標上での所望の電源電圧(2.8V)に相当するベクトルである所望ベクトルの大きさ(dm)と、該基準ベクトルの大きさとの相対比をもって補正係数とし、
補正IBISデータ生成部13(図1)は、その補正係数と、上記基準ベクトルの原点0に対する角度(θn)とに基づいて、特定の電源電圧(3.3V)に対応させたIBISデータを、所望の電源電圧(2.8V)に対応させた補正IBISデータに変換する。これらの算出工程をさらに詳細に説明すると、データ入力部11(図1)は、出力電気特性に関し、特定の電源電圧をVddn(3.3V)、その出力電圧をVn、その出力電流をInとしてそれぞれ読み込み、
補正係数算出部12(図1)は、基準ベクトルの大きさdnをdn=√(Vn2+In2)として、該基準ベクトルの原点0に対する角度θnをθn=tan-1(In/Vn)としてそれぞれ算出すると共に、所望の電源電圧がVddm(2.8V)であるとき、上述の相対比をVddm/Vddnとして求める。
【0038】
さらに補正IBISデータ生成部13(図1)は、まず、所望のベクトルの大きさdmを
dm=(Vddm/Vddn)×dnとして算出し、所望の電源電圧(2.8V)に対応させた補正IBISデータとしての出力電圧Vmおよび出力電流Imをそれぞれ、Vm=dm×cosθnおよびIm=dm×sinθnとして生成する。以上の工程を図に表わして説明する。
【0039】
図5は本発明に基づく補正ツールの詳細な演算動作を表すフローチャートである。本図において、
第1ステップS21では、データ入力部11によるVddn,VnおよびInの読み込みが行われる。
【0040】
第2ステップS22では、補正係数算出部12においてVddm(図1のV1であって、上記の例で2.8V)が設定されるが、もし、そのVddmがVddnと等しいときは、補正が不要であるからそのまま補正ツールのプロセスを終了する(ルートQ)。
【0041】
第3ステップS23では上記補正係数算出部12により上記基準ベクトルについてその大きさdnと角度θnとが算出され、
第4ステップS24にて、相対比Vddm/Vddnが求められる。
【0042】
この第4ステップS24では、補正IBISデータ生成部13によって、所望の電源電圧(Vddm)のベクトルの大きさdmが、上記dnとVddm/Vddnとから求められ、
第5ステップS25にて、上記IBISデータ生成部13によりさらに、最終的に求めるべきVmおよびImがx−y座標上の数値データとしてそれぞれ、dm×cosθnおよびdm×sinθnから算出される。
【0043】
上記図4、図5および図1を参照して説明したIBIS補正ツール10の機能により得られた結果を図4のグラフ上において表すと図6のとおりである。すなわち図6は、本発明に係る補正ツール10により補正された出力電圧−電流特性カーブC′を示す図である。図11に示した既述の電圧シフトVshift(=0.5V)は、図6においては補助線A上におけるVshift(相対比)=2.8/3.3となる。
【0044】
この図6で注目すべき点は、前述した図11と対比して明らかなとおり、ショート電流Ishortは図6において、カーブCの場合とカーブC′の場合とでは明らかに異なった値を示しており、本発明による補正が従来より一層正確であることが理解される。そしてこのことは図7により確認することができる。
【0045】
図7は補正IBISデータを表す特性カーブC′を本発明と従来とを対比させて示す図である。前記の図11においてショート電流Ishortが不正確であることを述べたが、その不正確さを表す誤差は、図7においてErとして示される。なお、図7の第1象限においては、カーブC′(本発明)とカーブC(従来)との間に差異はなく、この第1象限に関する限りは、前述した従来の単純な電圧シフトで十分正確な補正が行えていることが分かる。
【0046】
以上詳述した補正ツール10は、種々のシミュレータに組み込むことができる。その一例は図3に示したとおりであり、波形シミュレーション装置20に組み込むことがでる。これを機能ブロックの形で図8に示す。
【0047】
図8は本発明に係る波形シミュレーション装置の機能ブロック図である。本図において、図1および図3に対応する構成要素については同一の参照番号または記号で示す。
【0048】
図8において、左端の「入力」のうちIBISデータファイル21を含む素子特性情報は、外部(例えばLSIメーカ)から提供される。一方、配線データ(配線CAD)ファイル22の内容は、ユーザ自身の設計に基づいて定める。
【0049】
上記「入力」からの各情報は、波形シミュレーションツール内のモデル生成ユニット23に入力され、モデル作成部24によるモデル作成の後、図3で述べたとおり、波形シミュレーション部(SPICE等)25にてシミュレーションが行われ、その結果が、ディスプレイ等の波形表示部26に表示され、ユーザに提供される。
【0050】
さて図8において本発明に係る部分を参照番号10にて示す。上述の補正ツールである。この補正ツール10内における「出力電気特性補正部」16は、図1の補正係数算出部12および補正IBISデータ生成部13を一まとめにして示すものであり、その動作は図4〜図7にて詳しく説明したとおりである。また図1において示した補正要否判定部14と補正IBISライブラリ15に相当する部分には、図8において同一の14および15を付して示す。
【0051】
図1および図8に示す補正要否判定部14は、データ入力部11と補正係数算出部12との間に設けられる。この補正要否判定部14は、所望の電源電圧(V1)が、データ入力部11にて読み込んだ出力電気特性を得たときの特定の電源電圧(V0)と不一致であるときのみ、補正要と判定し、補正係数算出部12および補正IBISデータ生成部13を起動する。一方、両電源電圧が一致したときは、出力電気特性の補正は不要であるから、これら補正係数算出部12および補正IBISデータ生成部13をバイパスして、そのままモデル作成部24にIBISデータを入力する。
【0052】
また図1および図8に示す補正IBISライブラリ15は、補正IBISデータ生成部13(図1)により生成された補正IBISデータを読み出し自在に保存し、外部からの利用に供することができるようにする。波形シミュレーション装置20を使用するユーザが一人のみだけでなく複数いるような場合、いずれか一人のユーザによって算出した補正IBISデータは、他のユーザとの共有データとして保管しておき、いつでもどのユーザも利用できるようにしておくことが得策である。この趣旨で補正IBISライブラリ15を設ける。
【0053】
以上説明した本発明の実施の態様は下記のとおりである。
【0054】
(付記1)
ある半導体素子についてある特定の電源電圧用として提供されたIBISデータを、その半導体素子についてその特定の電源電圧とは異なる所望の電源電圧に対応するように補正された補正IBISデータとするためのIBIS補正ツールであって、
前記IBISデータにより規定される前記半導体素子の出力電気特性についての全データを、x−y座標の数値データとして読み込むデータ入力部と、
前記特定の電源電圧について前記データ入力部にて読み込んだ前記x−y座標の数値データと、前記所望の電源電圧について同一のx−y座標上で表される数値データとの相対比を補正係数として算出する補正係数算出部と、
算出された前記補正係数に従って、前記x−y座標上で、前記特定の電源電圧に対応するIBISデータを、前記所望の電源電圧に対応するように補正された前記補正IBISデータに変換する補正IBISデータ生成部と、
からなることを特徴とするIBIS補正ツール。
【0055】
(付記2)
前記補正係数算出部は、前記データ入力部にて読み込んだ前記x−y座標の数値データを、該x−y座標の原点を基点とする基準ベクトルとして表すと共に、同一のx−y座標上での前記所望の電源電圧に相当するベクトルである所望ベクトルの大きさと、該基準ベクトルの大きさとの相対比をもって前記補正係数とし、
前記補正IBISデータ生成部は、前記補正係数と、前記基準ベクトルの前記原点に対する角度とに基づいて、前記特定の電源電圧に対応させたIBISデータを、前記所望の電源電圧に対応させた前記補正IBISデータに変換することを特徴とする付記1に記載のIBIS補正ツール。
【0056】
(付記3)
前記データ入力部は、前記出力電気特性に関し、前記特定の電源電圧をVddn、その出力電圧をVn、その出力電流をInとしてそれぞれ読み込み、
前記補正係数算出部は、前記基準ベクトルの大きさdnをdn=√(Vn2+In2)として、該基準ベクトルの前記原点に対する角度θnをθn=tan-1(In/Vn)としてそれぞれ算出すると共に、前記所望の電源電圧がVddmであるとき、前記相対比をVddm/Vddnとして求め、
さらに前記補正IBISデータ生成部は、まず、前記所望のベクトルの大きさdmを
dm=(Vddm/Vddn)×dnとして算出し、前記所望の電源電圧に対応させた補正IBISデータとしての出力電圧Vmおよび出力電流Imをそれぞれ、Vm=dm×cosθnおよびIm=dm×sinθnとして生成することを特徴とする付記2に記載のIBIS補正ツール。
【0057】
(付記4)
補正要否判定部を前記データ入力部と前記補正係数算出部との間に設け、該補正要否判定部は、前記所望の電源電圧が、前記データ入力部にて読み込んだ前記出力電気特性を得たときの前記特定の電源電圧と不一致であるときのみ、補正要と判定し、前記補正係数算出部および前記補正IBISデータ生成部を起動することを特徴とする付記1に記載のIBIS補正ツール。
【0058】
(付記5)
前記補正IBISデータ生成部により生成された補正IBISデータを読み出し自在に保存し、外部からの利用に供する補正IBISライブラリを備えることを特徴とする付記1に記載のIBIS補正ツール。
【0059】
(付記6)
ある半導体素子についてある特定の電源電圧用として提供されたIBISデータを、その半導体素子についてその特定の電源電圧とは異なる所望の電源電圧に対応するように補正された補正IBISデータとするためのIBIS補正方法であって、
前記IBISデータにより規定される前記半導体素子の出力電気特性についての全データを、x−y座標の数値データとして読み込む第1ステップと、
前記特定の電源電圧について前記第1ステップにて読み込んだ前記x−y座標の数値データと、前記所望の電源電圧について同一のx−y座標上で表される数値データとの相対比を補正係数として算出する第2ステップと、
前記第2ステップにて算出された前記補正係数に従って、前記特定の電源電圧に対応させたIBISデータを、前記所望の電源電圧に対応するように補正された補正IBISデータに変換する第3ステップと、
を有することを特徴とするIBIS補正方法。
【0060】
(付記7)
外部から提供されるIBISデータおよび配線データを入力として、素子モデルおよび配線モデルを作成するモデル作成部と、
前記モデル作成部にて作成された前記素子モデルおよび配線モデルの各情報を入力として、当該半導体素子による出力波形をシミュレートする波形シミュレート部と、
そのシミュレートされた出力波形をユーザに提供する波形表示部と、を具備する波形シミュレーション装置において、
前記モデル作成部を含むモデル生成ユニットを形成して該モデル生成ユニット内の前記IBISデータの入力側にIBIS補正ツールを導入し、ここに該IBIS補正ツールは、ある半導体素子についてある特定の電源電圧用として提供された前記IBISデータを、その半導体素子についてその特定の電源電圧とは異なる所望の電源電圧に対応するように補正された補正IBISデータに変換することを特徴とする波形シミュレーション装置。
【産業上の利用可能性】
【0061】
上述したIBIS補正ツール10は、上述した波形シミュレーション装置20のみならず、出力電圧−電流特性をパラメータとして回路設計や回路解析を行う種々のシミュレーションツールに組み込んで利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係るIBIS補正ツールの基本構成を示す図である。
【図2】本発明に係るIBIS補正方法を表すフローチャートである。
【図3】本発明に係るIBIS補正ツールを具備する波形シミュレーション装置を示す図である。
【図4】本発明に基づくIBISデータ補正のための算術演算を説明するための図である。
【図5】本発明に基づく補正ツールの詳細な演算動作を表すフローチャートである。
【図6】本発明に係るIBIS補正ツール10により補正された出力電圧−電流特性カーブC′を示す図である。
【図7】補正IBISデータを表す特性カーブC′を本発明と従来とを対比させて示す図である。
【図8】本発明に係る波形シミュレーション装置の機能ブロック図である。
【図9】本発明の対象とする半導体素子の一例を示す図である。
【図10】本発明の課題である出力電圧−電流特性を示す図である。
【図11】従来の方法による出力電気特性カーブの補正を説明するための図である。
【符号の説明】
【0063】
5 電源電圧(Vdd)印加用端子
9 CMOSデバイス
10 IBIS補正ツール
11 データ入力部
12 補正係数算出部
13 補正IBISデータ生成部
14 補正要否判定部
15 補正IBISライブラリ
16 出力電気特性補正部
20 波形シミュレーション装置
21 IBISデータファイル
22 配線データ(配線CAD)ファイル
23 モデル生成ユニット
24 モデル作成部
25 波形シミュレート部
26 波形表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある半導体素子についてある特定の電源電圧用として提供されたIBISデータを、その半導体素子についてその特定の電源電圧とは異なる所望の電源電圧に対応するように補正された補正IBISデータとするためのIBIS補正ツールであって、
前記IBISデータにより規定される前記半導体素子の出力電気特性についての全データを、x−y座標の数値データとして読み込むデータ入力部と、
前記特定の電源電圧について前記データ入力部にて読み込んだ前記x−y座標の数値データと、前記所望の電源電圧について同一のx−y座標上で表される数値データとの相対比を補正係数として算出する補正係数算出部と、
算出された前記補正係数に従って、前記特定の電源電圧に対応するIBISデータを、前記所望の電源電圧に対応するように補正された前記補正IBISデータに変換する補正IBISデータ生成部と、
からなることを特徴とするIBIS補正ツール。
【請求項2】
前記補正係数算出部は、前記データ入力部にて読み込んだ前記x−y座標の数値データを、該x−y座標の原点を基点とする基準ベクトルとして表すと共に、同一のx−y座標上での前記所望の電源電圧に相当するベクトルである所望ベクトルの大きさと、該基準ベクトルの大きさとの相対比をもって前記補正係数とし、
前記補正IBISデータ生成部は、前記補正係数と、前記基準ベクトルの前記原点に対する角度とに基づいて、前記特定の電源電圧に対応させたIBISデータを、前記所望の電源電圧に対応させた前記補正IBISデータに変換することを特徴とする請求項1に記載のIBIS補正ツール。
【請求項3】
補正要否判定部を前記データ入力部と前記補正係数算出部との間に設け、該補正要否判定部は、前記所望の電源電圧が、前記データ入力部にて読み込んだ前記出力電気特性を得たときの前記特定の電源電圧と不一致であるときのみ、補正要と判定し、前記補正係数算出部および前記補正IBISデータ生成部を起動することを特徴とする請求項1に記載のIBIS補正ツール。
【請求項4】
ある半導体素子についてある特定の電源電圧用として提供されたIBISデータを、その半導体素子についてその特定の電源電圧とは異なる所望の電源電圧に対応するように補正された補正IBISデータとするためのIBIS補正方法であって、
前記IBISデータにより規定される前記半導体素子の出力電気特性についての全データを、x−y座標の数値データとして読み込む第1ステップと、
前記特定の電源電圧について前記第1ステップにて読み込んだ前記x−y座標の数値データと、前記所望の電源電圧について同一のx−y座標上で表される数値データとの相対比を補正係数として算出する第2ステップと、
前記第2ステップにて算出された前記補正係数に従って、前記特定の電源電圧に対応させたIBISデータを、前記所望の電源電圧に対応するように補正された補正IBISデータに変換する第3ステップと、
を有することを特徴とするIBIS補正方法。
【請求項5】
外部から提供されるIBISデータおよび配線データを入力として、素子モデルおよび配線モデルを作成するモデル作成部と、
前記モデル作成部にて作成された前記素子モデルおよび配線モデルの各情報を入力として、当該半導体素子による出力波形をシミュレートする波形シミュレート部と、
そのシミュレートされた出力波形をユーザに提供する波形表示部と、を具備する波形シミュレーション装置において、
前記モデル作成部を含むモデル生成ユニットを形成して該モデル生成ユニット内の前記IBISデータの入力側にIBIS補正ツールを導入し、ここに該IBIS補正ツールは、ある半導体素子についてある特定の電源電圧用として提供された前記IBISデータを、その半導体素子についてその特定の電源電圧とは異なる所望の電源電圧に対応するように補正された補正IBISデータに変換することを特徴とする波形シミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−213247(P2007−213247A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31486(P2006−31486)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】