説明

ICタグの固定方法

【課題】非接触方式のICタグを対象とする物品に固定するためのICチップの固定方法であって、廃液処理に手間とコストのかかるエッチング等の処理を行わず、簡単かつ確実にICタグを対象物品に取り付けることのできる固定方法を提供すること。
【解決手段】水溶性フィルムをベースとしてその表面に導電性インクを用いてスクリーン印刷によりICタグのアンテナパターンを印刷し、これにICチップを取り付けることにより前記水溶性フィルム表面にICタグを形成し、該形成されたICタグを水溶性フィルムごと対象物品に貼り付けることにより、対象物品にICタグを固定する。前記導電性インクが固化してから前記水溶性フィルムを水洗除去して、得られたアンテナを対象物品に取り付けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触方式のICタグを対象とする物品に固定するためのICチップの固定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近ICタグの用途は著しく増加し、例えば盗難防止用として商品に取り付けたり、キャッシュカード等の各種カード、カードキー、診察券、定期券等に取り付けたりするほか、建造物への進入、退出管理、在庫管理等の用途に広く使用されるようになっている。ICタグは、アンテナ回路にICチップを接続したものであり、樹脂フィルム等の基材に固定されているものが一般的である。
【0003】
ICタグは、絶縁基板上に導電性のアンテナパターンを形成し、これにICチップを接続することにより製作されるもので、上記アンテナパターンは、樹脂基板上に貼り付けられた金属箔をエッチングする方法で形成されるのが一般的である(例えば特許文献1参照)。特許文献1に開示されているアンテナ形成技術は、基材としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂を基材として用い、その上に金属箔を貼り付けたのち、該金属箔の上にレジストインキを用いてグラビア印刷で所定のパターンを形成し、これにエッチング処理を施して不用な金属箔部分を除去することによりアンテナパターンを形成するものである。
【0004】
この方法は実用的であり、広く採用されているが、金属箔を貼り付けたり、エッチングしたりするため、工程が長く、エッチング液の廃液処理に手間とコストがかかるという問題点がある。
【0005】
上記のようなエッチング処理をしない方法として、特許文献2に記載されているようなアンテナ印刷法が提案されている。この技術は、絶縁基板上に、酸化金属、有機金属化合物等を含む導電ペーストを用いてアンテナパターンを印刷するものであり、導電ペーストの具体例として藤倉化成(株)製導電ペーストが例示されている。そして、これに平均粒径が7μmの銀粉を加えたものも記載されている。また、上記印刷法としては、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法等が好ましいとされている。なお、基材の材質としては、ポリエチレンテレフタレートが例示されている。
【0006】
特許文献2に記載の技術によると、エッチング処理等を行わずに所望のアンテナパターンが得られるので経済的であると思われるが、ICタグを対象とする物品に取り付けたあとも基材の樹脂が残留するため、用途によっては好ましくない場合があると考えられる。
【0007】
一方、特許文献3には、2層以上の紙層を抄き合わせる際にICタグインレットを挿入してICタグを含むシートを製造する方法であって、ICタグインレットが連続して保持された水溶性フィルムからなるテープを抄紙機上の湿紙間に送り込む技術が開示されている。
【0008】
上記特許文献3に記載の技術は、ICタグが埋設された紙シートを連続的に製造するに適したものであると考えられるが、前記テープを二つ折りにしてICタグを挟み込み保持するか、テープにポケットを形成してICタグインレットを当該ポケット内に収容保持する必要があるから、ICインレットを正確な位置に保持するための水溶性フィルムの成形が難しく、手間もかかるという問題点がある。また、紙シート以外の他の物品にICタグを取り付けるには適していないと考えられる。
【0009】
【特許文献1】特開2006−4306号公報
【特許文献2】特開2004−180217号公報
【特許文献3】特開2009−144291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1〜3に開示されている技術は、いずれもそれぞれの目的に適したものであると理解されるが、それぞれに一長一短があり、対象とする物品、例えば書籍や面ファスナー等の物品にICタグを簡単に取り付けるために使用するには、必ずしも十分満足できるものではなかった。特に面ファスナーは、衣類やバッグ等の物品にICタグを取り付ける手段として実用上すぐれたものであるが、これにICタグをうまく取り付ける方法に対する要望が強いのが現状である。
【0011】
そこで、本発明は、ICタグを対象とする物品にうまく取り付けることができる経済的な方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は次のような構成を採用した。すなわち、本発明中請求項1にかかるICタグの固定方法は、水溶性フィルムをベースとしてその表面に導電性インクを用いてスクリーン印刷によりICタグのアンテナパターンを印刷し、これにICチップを取り付けることにより前記水溶性フィルム表面にICタグを形成し、該形成されたICタグを水溶性フィルムごと対象物品に貼り付けることにより、対象物品にICタグを固定することを特徴としている。
また、請求項2にかかる発明は、水溶性フィルムの表面に導電性インクを用いるスクリーン印刷によりアンテナパターンを印刷し、インクが固化してから水溶性フィルムを水洗除去してアンテナパターンだけを取り出し、対象物品に取り付けることを特徴としている。
【0013】
上記対象物品としては、例えば面ファスナーが挙げられる。この場合、面ファスナーの裏面側にICタグを貼り付け、その上からさらに樹脂コーティングで被覆しておくのが好ましい。また、対象物品として紙を選ぶ場合は、当該紙を抄く工程でICタグを水溶性フィルムごと抄き込むことにより、紙中にICタグが埋設された状態とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかるICタグの固定方法は、従来基材として使用されてきた絶縁樹脂基材を必要としないので、対象とする物品に固定したときに当該樹脂が異物として残留しない。また、従来、エッチング等で形成されていたアンテナパターンをスクリーン印刷で形成するものであるから、工程が簡単であり、エッチング液の廃液処理も不要である。さらに、ベースとする水溶性樹脂に特別な加工は不要であるから、薄いフィルムを使用でき、この点でも工程が簡単である。対象物品に取り付けた後の水溶性樹脂フィルムは、水を供給して溶かしてもよく、場合によってはそのまま残留させてもよい。
【0015】
なお、水で濡らしたポバール等の水溶性フィルムは、接着剤として機能させることもできるので、ICタグの位置ズレ等を防止する上で効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について具体例を挙げて説明する。
【0017】
図1は本発明にかかるICタグの1例を表すもので、このICタグ1は水溶性フィルムからなるベース2の表面にループ状のアンテナパターン3が形成され、このアンテナパターン3にICチップ5が接続されている。アンテナパターン3としては、図示例のループ状のものに限らず、例えば社名等を表す文字や、各種図形をデザインしたアンテナもある。図示例では、水溶性フィルムからなるベース2は長尺のフィルムであり、このフィルムの表面に所定間隔で連続的にICタグ1が形成されている。ICタグ(もしくはアンテナパターン)が形成された後は、図の切断線6に沿って切断し使用する。
【0018】
上記ベース2を構成する水溶性フィルムは、水に溶解するフィルムで、このフィルムとしては市販のポバールフィルムを好適に使用することができる。フィルムの厚みは数十ミクロン、例えば40ミクロンであるのが好ましい。この厚みが薄すぎると強度が低下するため取り扱いが難しくなり、厚すぎると水で溶解するのに時間がかかるという問題点がある。
【0019】
この水溶性フィルムからなるベース2の表面には、導電性インクを用いる印刷によりアンテナパターン3を形成する。導電性インクとしては、酸化金属、有機金属化合物等を含有するペーストを使用することができる。この種の導電性ペーストとしては、例えば市販されているものを使用できる。なお、これら酸化金属、有機金属化合物に含まれる金属としては、導電性に富んだ種々の金属を採用することができるが、経済性、入手性等の観点から、銅、銀、アルミニウム等を含有するものが好ましい。これらのほかに例えば銀粉末等の金属粉末を添加したものでもよい。
【0020】
ベース2上に形成するアンテナパターン3としては、ICタグの用途に応じて適当なパターンを採用することができる。ただし、印刷によって形成することのできる形状のものでなければならない。アンテナパターン3を形成するための印刷法としては公知の種々の印刷法が考えられるが、ベース2が薄い水溶性フィルムであること等を考慮すると、スクリーン印刷(シルク印刷とも呼ばれる)を採用するのが最も好ましい。これ以外の印刷法はベース強度や能率の観点から好ましくない。したがって、本発明では、印刷法としてスクリーン印刷を採用する。ベース2上に所定パターンのアンテナが形成されたら、このアンテナに公知の方法でICチップ5を接続する。これにより、ICタグ1が完成するので、個々のICタグ1を切断線6で切り離して対象物品に取り付ける。
【0021】
なお、水溶性フィルム2上にアンテナパターン3を印刷し、導電性インクが固化したのち、前記水溶性フィルムを水洗除去してアンテナパターン3だけを取り出すことも可能である。このアンテナパターン3にはICチップ5を接続するが、この接続はアンテナパターン3が水溶性フィルムに保持されている状態で行ってもよく、アンテナパターン3をフィルムから取り出した後(例えば物品にアンテナパターンを取り付けた後)に接続してもよい。水溶性フィルムから取り外したアンテナパターンは極めて薄く脆弱であるから、その取扱いに特別の注意が必要であるが、大量生産に移行する場合は、これを効率よく行う装置を開発することは比較的容易であると考えられる。このように、水溶性フィルムのベース2から予めアンテナパターン3を取り外して使用する方法によれば、例えば、取り外したアンテナパターン3をセロハンテープ、シール、ラベル等の粘着面にそのまま貼り付けて、その状態で対象物品に簡単に取り付けることができるので便利である。
【0022】
ICタグを取り付ける対象物品としては、紙、書籍、ノート等の文房具、日用品、包装用品、各種カード、衣類、バッグ等の身の回り品、化粧品、電気製品、機械・工具、その他種々の物がある。これらの物品にICタグを直接貼り付けてもよく、紙の場合は抄造の過程で本発明のICタグを抄き込んでもよい。衣類や身の回り品の場合は、ICタグを面ファスナーに取り付けてから、当該面ファスナーを物品に取り付けるようにすると便利である。
【0023】
図2は面ファスナーにICタグを取り付ける例を表すもので、同図に示すように、面ファスナー10の裏面(係着面の反対側)に上記水溶性フィルムのベース2上に形成されたICタグ1をベースごと貼り付ける。面ファスナーの裏面は平滑(多少の凹凸があってもよい)であり、ベースは水と接したときに粘着性を発揮する水溶性フィルムであるから、面ファスナー10に対するICタグ1の取り付けは容易である。ICタグを貼り付けたあとの水溶性フィルムは水で溶解して除去してもよく、場合によってはそのまま残留させておいてもよい。水溶性フィルムが物品表面に残留すると、コーティングの妨げとなるおそれがあるので、通常はこれを除去しておくのがよい。なお、水と接触させた水溶性フィルムの粘着性を利用して、物品へのICタグの位置決めを行うと便利である。
【0024】
面ファスナー10にICタグ1を貼り付けたら、使用中に剥がれ落ちたり損傷したりしないように、その上から保護コーティング11を施しておくのが好ましい。コーティング11によってICタグを外から見えないように被覆しておくと、盗難防止にも効果的であり、美観上も優れたものとなる。このコーティングとしては、耐久性に優れた例えばウレタン樹脂等の樹脂コーティングが好ましいが、これに限らず、他の適当なコーティング材を採用することができる。
【0025】
つぎに、図3は紙にICタグを埋設する例を表すもので、紙は、原料であるパルプ20を水の中から網21等で抄いて紙を製造するが、このとき、ある程度パルプ層が形成された状態(a)で、上記水溶性フィルムのベース上に形成されたICタグ1を当該パルプ層の上に載せ、上からさらにパルプ層を形成する(b)。これにより、紙材の中にICタグが埋設された状態となり、これを乾燥することにより、ICタグを内臓する紙22が得られる(c)。この場合、水溶性フィルムのベースは水に溶けて除去される。なお、紙の原料には必要に応じて公知の各種添加剤を添加しておくことができる。この紙は、ICタグ1がその厚み内に内臓されているので、故意に取り外すことができず、物品の盗難防止に効果的である。
【0026】
上記特許文献3に開示されている技術は、同じ水溶性フィルムでICタグを保持して紙の中に抄き込むものであるが、この場合は水溶性フィルムにポケット等の収容空間を形成してICタグを収容した状態で紙の間に挟みこむものであるから、余計な手間がかかり、ICタグの位置決めも難しいと考えられる。これに対し、上記本発明の実施形態では、水溶性フィルムに印刷して形成するので、工程も簡単であり、ICタグの位置決めも容易である。
【実施例】
【0027】
水溶性フィルムとして、(株)クラレ製ポバールフィルム(商品名:VF−HP#4000,VF−HP#5000)と市販の導電性インクとを使用して、上記ポバールフィルム上にICタグをスクリーン印刷で形成し、これを面ファスナーの裏面に取り付けたところ、ICタグが取り付けられた面ファスナーを比較的簡単に得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の1実施形態をあらわす模式的平面図である。
【図2】面ファスナーにICタグを取り付ける方法を表す外観図である。
【図3】紙にICタグを埋設する方法を表す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ICタグ
2 ベース(水溶性フィルム)
3 アンテナパターン
5 ICチップ
10 面ファスナー
20 パルプ
22 紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性フィルムをベースとしてその表面に導電性インクを用いてスクリーン印刷によりICタグのアンテナパターンを印刷し、これにICチップを取り付けることにより前記水溶性フィルム表面にICタグを形成し、該形成されたICタグを水溶性フィルムごと対象物品に貼り付けることにより、対象物品にICタグを固定することを特徴とするICタグの固定方法。
【請求項2】
水溶性フィルムをベースとしてその表面に導電性インクを用いるスクリーン印刷によりICタグのアンテナパターンを印刷し、前記導電性インクが固化してから前記水溶性フィルムを水洗除去することにより得られたアンテナパターンを対象物品に取り付けることを特徴とするICタグの固定方法。
【請求項3】
対象物品が面ファスナーである請求項1に記載のICタグの固定方法。
【請求項4】
対象物品が紙であり、当該紙の抄造中にICタグを形成した水溶性フィルムを抄き込むことにより、紙内にICタグを埋設する請求項1に記載のICタグの固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−59757(P2011−59757A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205573(P2009−205573)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(501095107)有限会社イール (3)
【出願人】(501299141)辻プラスチック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】