説明

IDタグ

【課題】インレットを被覆する被覆体の材質に拘わらず、電波の減衰をより少なくし、リーダライタ等との間で安定した通信を可能とするIDタグを提供する。
【解決手段】本発明によれば、インレット20を被覆する被覆体30に、部分的に開口部31が形成されているため、電波が当該開口部31を通過可能であり、電波の減衰が生じにくくなり、通信距離が短くなったり、動作が不安定になったりすることもなく、リーダライタとの間での通信も安定して行われる。これにより、被覆体として使用可能な材質の選択幅が広がり、ウレタン系、塩化ビニル系といった安価な樹脂を用いることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象の物品に取り付けて、当該物品の存在有無の検知や入出庫情報の収集、あるいは、搭載した電子回路チップのメモリに所定のデータを書き込むことによる当該物品に対する何らかの処理を施した際の処理内容などの履歴管理等に使用するIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水洗いやドライクリーニング等に供される衣類やリネン類に取り付けて、顧客、クリーニング品の種別、クリーニング内容などを記憶するIDタグが開示されている。このIDタグは、上記の各種情報を記憶するメモリや通信制御部を備えた電子回路チップと、電子回路チップに電気的に接続されたアンテナとを備えてなるIDラベル体(インレット)と、インレットを被覆する被覆体とを備えてなる。被覆体としては、厚み100〜500μmの可撓性のあるフッ素樹脂フィルムが用いられており、これにより、繰り返しのクリーニングやプレスに対して堅牢なIDタグを提供できることが記載されている。
【特許文献1】実用新案登録第3071033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、IDタグは、インレットそのままで用いられるのではなく、上記のようにフッ素樹脂フィルムなどの合成樹脂により被覆して使用される。合成樹脂によって被覆することにより、上記のような堅牢性が高まるなどの効果が得られることは確かであるが、アンテナが該合成樹脂に包まれてしまうため、被覆しない状態と比較して電波が減衰したり、読み取り感度が不安定になったりする。特に、堅牢性を高めるために、合成樹脂の厚みを上記特許文献1に記載のものよりもさらに厚くした場合にはなおさらである。また、倉庫出入り口における入出庫情報の収集などにおいて、従来のHF帯よりも長距離通信が可能なUHF帯の交信周波数を有するものが近年普及してきているが、このUHF帯の交信周波数を有するインレットは、合成樹脂により被覆した際の減衰や読み取り感度への影響がより大きいという問題がある。このため、減衰を小さくし又読み取り感度への影響を小さくするために、特殊な樹脂が用いられ、ウレタン系、塩化ビニル系といった安価に入手可能な樹脂は減衰の影響が大きいことからあまり用いられていない。
【0004】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、インレットを被覆する被覆体の材質に拘わらず、電波の減衰をより少なくすると共に、読み取り感度への影響を小さくしてリーダライタ等との間で安定した通信を可能とするIDタグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では、基材上に印刷されたアンテナを含む配線パターンとこの配線パターンに電気的に接続される電子回路チップを有するインレットと、前記インレットを被覆する被覆体とを備えてなるIDタグであって、前記インレットの少なくとも片面を被覆する被覆体に、部分的に開口部が形成されていることを特徴とするIDタグを提供する。
【0006】
前記被覆体の厚みは、0.2mm〜2mmであることが好ましい。また、前記被覆体は、前記インレットを両面から挟み込んで固着されてなる樹脂製のフィルム又は板状部材から構成することができる。さらには、前記被覆体が、布帛からなり、該布帛の繊維間又は糸間の空隙が、前記開口部として機能する構成とすることもできる。
【0007】
また、前記被覆体として、前記樹脂製のフィルム又は板状部材と、前記布帛とが併用されており、前記インレットを挟んだ一方が前記フィルム又は板状部材からなる被覆体からなり、他方が前記布帛からなる被覆体からなる構成とすることもできる。また、前記被覆体として、前記樹脂製のフィルム又は板状部材と、前記布帛とが併用されており、前記インレットを挟んだ少なくとも一方において、前記フィルム又は板状部材からなる被覆体と前記布帛からなる被覆体とを組み合わせたものを使用した構成とすることもできる。なお、前記樹脂製のフィルム又は板状部材からなる被覆体に形成された開口部が、円形、楕円形、多角形、長孔、点状、若しくはスリット状又はこれらの2種以上の組み合わせからなる構成とすることができる。また、本発明は、前記インレットが、UHF帯の交信周波数に設定されたものに適用すると好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インレットの少なくとも片面を被覆する被覆体に、部分的に開口部が形成されているため、電波が当該開口部を通過可能であり、電波の減衰が生じにくくなり、通信距離が短くなったり、動作が不安定になったりすることもなく、リーダライタとの間での通信も安定して行われる。これにより、被覆体として使用可能な材質の選択幅が広がり、ウレタン系、塩化ビニル系といった安価な樹脂を用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて更に詳しく説明する。図1は、本実施形態のIDタグ10の概略構成を示す図である。この図に示したように、IDタグ10は、インレット20と被覆体30とを備えて構成される。
【0010】
インレット20は、メモリや通信制御部等を備えた電子回路チップ21と、この電子回路チップ21に電気的に接続されるアンテナを含んだ配線パターン22と、配線パターン22が印刷される基材23とを備えてなる。電子回路チップ21としては、HF帯、UHF帯のいずれの交信周波数のものも用いることができる。但し、本実施形態では、電波の減衰を防ぐ効果が高いため、被覆体30による減衰の影響が大きい、UHF帯の交信周波数のものに適用すると効果的である。また、配線パターン22が印刷される基材23は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂製フィルムから形成される。
【0011】
被覆体30は、インレット20を両側から挟み、少なくともその周縁部30aを固着することによりインレット20を被覆する樹脂製のフィルム又は板状部材からなる。なお、固着部位は、被覆体30の周縁部30aだけではなく、インレット20と被覆体30との対向面の全面において相互に固着するようにすることが好ましい。また、被覆体30の大きさは、インレット20よりも一回り大きく周縁部30aがインレット20の周縁部よりも外方に突出するようなものであってもよいし、インレット20の大きさとほぼ同じ大きさのものであってもよい(図3参照)。被覆体30は、図1に示したように、フィルム状又は板状に形成したものを2枚用いてもよいし、1枚ものを二つ折りにして、インレット20の両側から被覆するようにしてもよい。固着方法は限定されるものではなく、熱圧着、高周波溶着、接着剤による接着(常温接着、ホットメルト等)などを用いることができ、これらは使用する材料やコスト等を考慮して適宜に選択される。
【0012】
被覆体30は、厚さ0.1mm〜3mmの範囲、好ましくは0.2mm〜2mmの範囲のものが用いられる。この範囲を下回る場合には、必要な強度を確保できず、また、上回る場合には取り扱いに不便を来す等のおそれがある。但し、本実施形態では、電波の減衰を抑制できるため、電波の減衰を考慮して厚みを薄くする必要がないことから、取り扱い上の問題がなければ、より厚いものであっても適用可能である。
【0013】
また、被覆体30を構成する樹脂としては、硬質タイプ、軟質タイプのいずれであってもよい。使用可能な樹脂としては、例えば、塩化ビニル系、ウレタン系、ポリウレタン系、PET系、シリコン系、フッ素樹脂系、ゴム系などが挙げられる。
【0014】
本実施形態においては、このようにして形成される被覆体30に、該被覆体30の厚み方向に貫通する開口部31を部分的に形成したことを特徴とする。開口部31を有することにより、リーダライタ(図示せず)とインレット20のアンテナとの間での通信電波が該開口部31を通じてやり取りされることになるため、電波の減衰が生じにくい。図1においては、開口部31が、インレット20を挟んだ2枚の被覆体30の両方にそれぞれ部分的に形成されているが、いずれか少なくとも一方の被覆体30のみに形成するようにしてもよい。但し、被覆体30の一方のみに形成するよりも、2枚の被覆体30の両方に形成した方が好ましい。開口部31は、電波の通りをよくするものであるため、その形状等は全く限定されるものではなく、円形、楕円形、多角形、長孔、点状、又はスリット状、あるいは、これらの2種以上の任意の組み合わせ等、様々な形状で形成することができる。図2はその例を示したものであり、(a)は円形、(b)は三角形、(c)は四角形、(d)は点状(点線状)、(e)は長いスリット状、(f)は短いスリット状(破線状)に形成したものをそれぞれ示している。なお、本明細書でいう「スリット」には、所定の開口幅を有する長孔状のもののほか、いわゆる「切り込み」状のもの、すなわち、切り込みを挟んだ壁面同士が樹脂の弾性により常態においてほぼ接しており、外観上線状になっているものも含む意味である。
【0015】
被覆体30は、上記のように開口部31を有するフィルム状又は板状に成型したもののほか、布帛を用いることもできる。布帛としては、織布、不織布又は編物のいずれであってもよく、その繊維間又は糸間の空隙が、上記開口部31と同様、電波の通過を許容する機能を果たす。
【0016】
また、インレット20を挟んで一方側にはフィルム状又は板状の樹脂からなる被覆体を配設し、他方側には布帛からなる被覆体を配設する構成とすることもできる。この場合、一方側の樹脂からなる被覆体は開口部を備えているものが好ましいが、他方側の布帛からなる被覆体の繊維間又は糸間の空隙が開口部として機能するため、一方側の樹脂からなる被覆体は開口部を備えていないものを使用することもできる。また、フィルム状又は板状の樹脂からなる被覆体と布帛からなる被覆体とを適宜に組み合せて、すなわち、両者を積層して使用することも可能である。積層した被覆体は、インレット20を挟んだ両側に用いることもできるし、いずれか一方側のみに使用してもよい。このように布帛からなる被覆体と樹脂からなる被覆体とを積層する場合には、布帛からなる被覆体の繊維間又は糸間の空隙に連通するよう、積層対象の樹脂からなる被覆体は開口部を形成したものを使用することが好ましい。なお、これらの被覆体の積層数、積層順序は任意に設定できる。
【0017】
図3はその一例を示したものであり、インレット20を挟んだ一方側においては、フィルム状に成型した樹脂製の被覆体30を配置し、他方側においては、フィルム状に成型した樹脂製の被覆体30の上面にさらに布帛からなる被覆体301を積層した構造としている。また、図3では、一方側の樹脂製の被覆体30と、他方側の樹脂製の被覆体30及び布帛からなる被覆体301との積層体とを、いずれも、インレット20の外形とほぼ同じ大きさで形成し、各対向面間を全面的に固着している。なお、対向面間を接着剤で全面的に接着することにより、該接着剤層を耐水被膜として機能させることができる。
【0018】
本実施形態によれば、被覆体30,301が開口部31を有するため、電波が該開口部31を通過可能であり、被覆体30,301を有していながら、電波が減衰することを抑制でき、安定した通信、動作を確保できる。
【0019】
(試験例)
軟質塩化ビニルを、厚さ0.3mmに成型した開口部を有するフィルム(被覆体30)を2枚用い、該フィルム2枚間に、UHF帯の交信周波数を備えたインレット(エイリアンテクノロジー社製 ALN−9562)を挟み込み、各フィルムとインレットの各対向面の全面を熱可塑性接着剤により接着したIDタグを作製した(実施例1)。なお、試験例1のフィルムには、2枚とも、四角形及び円形の開口部が、合計で、全面積の約50%形成されていた。比較のため、開口部が形成されていないことを除いて実施例1と同じ大きさ、厚さ、材料のフィルムを被覆体として用いたIDタグを作製した(比較例1)。また、上記インレットを被覆体で被覆しないものを比較例2とした。
【0020】
実施例1と比較例1のIDタグ及び比較例2のインレットについて、リーダライタ(オムロン社製v750)との通信状況を確認する試験を行った。リーダライタには、通信感度を測定するソフトウエアがインストールされており、リーダライタのアンテナ面とIDタグ(インレット)とが向かい合っている場合、アンテナ面とIDタグ(インレット)の向きとが90度の位置関係にある場合について、通信距離と受信感度を測定した。結果を表1及び表2に示す。表1は、アンテナ面とIDタグとが向かいあっている場合の結果であり、表2はアンテナ面とIDタグの向きとが90度の位置関係にある場合の結果である。なお、表中、「○」は、受信感度が一定感度以上で良好な場合、「△」は、受信状態が不安定で、受信できたりできなかったりする場合、「×」は、全く受信できない場合である。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1から、アンテナ面とIDタグとが向かいあっている場合、実施例1のIDタグは、比較例1よりも通信距離が約2倍になり、通信状況が大幅に改善されることがわかった。また、表2から、アンテナ面とIDタグの向きとが90度の位置関係にある場合においても、実施例1のIDタグは比較例1よりも通信状況が改善されている。しかも、比較例2の未被覆状態のインレットと比較しても、実施例1の通信状況の方が優れていることがわかった。従って、インレットを、開口部を設けた被覆体で被覆することは、通信状況の向上に極めて有効である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のIDタグは、倉庫出入り口における入出庫情報の収集、荷物の識別などの物流や流通分野、陳列商品の移動の検知、クリーニング時におけるクリーニング品の種別、クリーニング内容などの記憶など、種々の分野で用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一の実施形態に係るIDタグの構成を模式的に示す図である。
【図2】(a)〜(f)は開口部の種々の形状の例を示した図である。
【図3】フィルム状に成型した樹脂製の被覆体の上面にさらに布帛からなる被覆体を積層した態様のIDタグを説明するための図である。
【符号の説明】
【0026】
10 IDタグ
20 インレット
21 電子回路チップ
22 配線パターン
23 基材
30 被覆体
31 開口部
301 被覆体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に印刷されたアンテナを含む配線パターンとこの配線パターンに電気的に接続される電子回路チップを有するインレットと、
前記インレットを被覆する被覆体と
を備えてなるIDタグであって、
前記インレットの少なくとも片面を被覆する被覆体に、部分的に開口部が形成されていることを特徴とするIDタグ。
【請求項2】
前記被覆体の厚みが、0.2mm〜2mmであることを特徴とする請求項1記載のIDタグ。
【請求項3】
前記被覆体は、前記インレットを両面から挟み込んで固着されてなる樹脂製のフィルム又は板状部材からなることを特徴とする請求項1又は2記載のIDタグ。
【請求項4】
前記被覆体が、布帛からなり、該布帛の繊維間又は糸間の空隙が、前記開口部として機能するものであることを特徴とする請求項1又は2記載のIDタグ。
【請求項5】
前記被覆体として、前記樹脂製のフィルム又は板状部材と、前記布帛とが併用されており、
前記インレットを挟んだ一方が前記フィルム又は板状部材からなる被覆体からなり、他方が前記布帛からなる被覆体からなることを特徴とする請求項3又は4記載のIDタグ。
【請求項6】
前記被覆体として、前記樹脂製のフィルム又は板状部材と、前記布帛とが併用されており、
前記インレットを挟んだ少なくとも一方において、前記フィルム又は板状部材からなる被覆体と前記布帛からなる被覆体とを組み合わせたものを使用したことを特徴とする請求項3又は4記載のIDタグ。
【請求項7】
前記樹脂製のフィルム又は板状部材からなる被覆体に形成された開口部が、円形、楕円形、多角形、長孔、点状、若しくはスリット状又はこれらの2種以上の組み合わせからなることを特徴とする請求項3、5又は6記載のIDタグ。
【請求項8】
前記インレットが、UHF帯の交信周波数に設定されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のIDタグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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