説明

II−VI族系の発光素子への電圧印加方法および電圧制御装置

【課題】P形ドーピング層とN形ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子におけるP形ドーピング層に生じる点欠陥に基づく輝度劣化を防止あるいは抑制する。
【解決手段】発光素子1を発光させる動作電圧を発光素子1に印加した後に、動作電圧低下手段21により、発光素子1への印加電圧を、発光素子1の発光が停止する不動作電圧に低下させて、動作電圧の印加により発光素子1のP形ドーピング層114から活性層15へ点欠陥が拡散することにより活性層15での発光面に生じるダークスポットDSを、防止または抑制し、動作電圧低下手段21により1発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させた後に発光素子1への印加電圧を、再動作手段22により、発光素子1を発光させる動作電圧として発光素子1を再発光させるII−VI族系の発光素子への電圧印加方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、P形ドーピング層とN形ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子への電圧印加方法および電圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
II−VI族系の発光素子は、長時間の使用により輝度が低下し、輝度の観点での寿命が存在する。
【0003】
本件発明の発明者は、2003年に他の共同研究者と共に国際学会「学会名:第11回II-VI族化合物国際会議」で公表し、その論文にも掲載されているように、例えば、II−VI族系のZnSeベースの白色発光ダイオードにおける輝度低下メカニズムの研究成果を公表した。
【0004】
具体的には、過負荷状態下でのエージング(寿命試験)の過程における輝度劣化現象のメカニズムを研究し、P形ドーピング層に生じる小さな点状欠陥であるミクロ点欠陥(H0欠陥)が、発光領域である活性層に拡散し、その結果、活性層での発光面にダークスポット(暗黒点)が散在し始め、発光面における平均的輝度の低下の原因となることを発見し、公表した。
【0005】
この公表内容について詳述する。
【0006】
II−VI族系のZnSeベースの白色発光ダイオードは、例えば図11に示すように、p型電極、p型半導体層、活性層,n型半導体層,n型電極とで構成され、その製造工程は、先ず(1)n型ZnSeバルク単結晶基板を化学エッチングし、(2)次いで高真空チャンバーで表面処理を施し、(3)分子線エピタキシー法によって、図11の各層をエピタキシャル成長させ、(4)成長したウェハをプロセス加工しLEDチップ化することで作製される。
【0007】
前述のような製造工程で製造された図11に示す構造のII−VI族系のZnSeベースの白色発光ダイオードを、過負荷状態(例えば、20A/cm2,60℃)下でのエージング(寿命試験)の過程で、発光面(図11におけるダイオードの上面)の発光状態を顕微鏡で確認したところ、図12に示すように、活性層での発光面にダークスポット(暗黒点)DSが散在し始め、時間の経過に伴って、前記ダークスポット(暗黒点)DSの量が増加し、発光面における平均的輝度が低下する。なお、発光状態を顕微鏡で確認するには、発光ダイオードを発光させ、光学顕微鏡で金電極(Au electrode)越しに観察することで活性層(ZnCdSe/ZnSe層)の発光像が得られる。
【0008】
この輝度低下の原因は、前記製造工程「(プロセス加工)LEDチップ化する際に導入される加工歪」によって、P形ドーピング層、特にp-ZnMgSSe:N(日本語名:p型セレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶)の層に、原子オーダの欠陥:点欠陥(空孔,格子間原子)であるミクロ点欠陥(H0欠陥)が生じ、このミクロ点欠陥(H0欠陥)が、前記II−VI族系のZnSeベースの白色発光ダイオードの電圧印加による発光状態下において、発光層である活性層へ拡散し、この活性層へ拡散したミクロ点欠陥が、活性層での発光面にダークスポット(暗黒点)を生起する。
【0009】
【非特許文献1】第11回II-VI族化合物国際会議の論文「physicastatus solidi(b), 241, p.751 (2004)」(該当図6,7,及び該当説明欄:節3.2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の公表した研究では、前記過負荷状態下でのエージング(寿命試験)の過程で、発光面の発光状態を確認したのであるが、P形ドーピング層に生じるミクロ点欠陥が、発光領域である活性層に拡散し、その結果、活性層での発光面にダークスポット(暗黒点)が散在し始め、発光面における平均的輝度の低下の原因となるという研究成果から、定常使用状態においても、P形ドーピング層に生じるミクロ点欠陥の活性層への拡散に起因した輝度の低下が生じることになるので、その対策を講じることが好ましい。
【0011】
本件発明の発明者は、前述の輝度低下メカニズムの研究に引き続き、その後、輝度劣化抑制方法の研究を行い、それなりの成果を見出すに至り、当該発明を特許出願するものであり、特許出願後、国際学会「学会名:第12回II-VI族化合物国際会議(ワルシャワ)」で発表する計画であり、従って、この発明は、P形ドーピング層とN形ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子におけるP形ドーピング層に生じる点欠陥に基づく輝度劣化を防止あるいは抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るII−VI族系の発光素子への電圧印加方法は、P形ドーピング層とN形ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子への電圧印加方法であって、前記発光素子を発光させる動作電圧を前記発光素子に印加した後に、動作電圧低下手段により、前記発光素子への印加電圧を、前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させて、前記動作電圧の印加により前記発光素子の前記P形ドーピング層から前記活性層へ点欠陥が拡散することにより前記活性層での発光面に生じるダークスポットを、防止または抑制し、前記動作電圧低下手段により前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させた後に前記発光素子への印加電圧を、再動作手段により、前記発光素子を発光させる動作電圧として前記発光素子を再発光させることを特徴とするII−VI族系の発光素子への電圧印加方法である。
【0013】
また、この発明に係るII−VI族系の発光素子の電圧制御装置は、P形ドーピング層とN形ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子の電圧制御装置あって、前記発光素子を発光させる動作電圧を前記発光素子に印加した後に前記発光素子への印加電圧を、前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させる動作電圧低下手段、および前記動作電圧低下手段により前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させた後に前記発光素子への印加電圧を、前記発光素子を発光させる動作電圧として前記発光素子を再発光させる再動作手段、を備え、前記動作電圧の印加により前記発光素子の前記P形ドーピング層から前記活性層へ点欠陥が拡散することにより前記活性層での発光面に生じるダークスポットを、前記動作電圧低下手段により防止または抑制することを特徴とするII−VI族系の発光素子の電圧制御装置である。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、P形ドーピング層とN形ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子への電圧印加方法であって、前記発光素子を発光させる動作電圧を前記発光素子に印加した後に、動作電圧低下手段により、前記発光素子への印加電圧を、前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させて、前記動作電圧の印加により前記発光素子の前記P形ドーピング層から前記活性層へ点欠陥が拡散することにより前記活性層での発光面に生じるダークスポットを、防止または抑制し、前記動作電圧低下手段により前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させた後に前記発光素子への印加電圧を、再動作手段により、前記発光素子を発光させる動作電圧として前記発光素子を再発光させる
ので、P形ドーピング層とN形ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子におけるP形ドーピング層に生じる点欠陥に基づく輝度劣化を防止あるいは抑制することができる効果がある。
【0015】
また、この発明は、P形ドーピング層とN形ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子の電圧制御装置あって、前記発光素子を発光させる動作電圧を前記発光素子に印加した後に前記発光素子への印加電圧を、前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させる動作電圧低下手段、および前記動作電圧低下手段により前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させた後に前記発光素子への印加電圧を、前記発光素子を発光させる動作電圧として前記発光素子を再発光させる再動作手段、を備え、前記動作電圧の印加により前記発光素子の前記P形ドーピング層から前記活性層へ点欠陥が拡散することにより前記活性層での発光面に生じるダークスポットを、前記動作電圧低下手段により防止または抑制するので、P形ドーピング層とN形ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子におけるP形ドーピング層に生じる点欠陥に基づく輝度劣化を防止あるいは抑制することができるII−VI族系の発光素子の電圧制御装置を提供できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図1〜図により説明する。図1は今回の研究で使用したII−VI族系の発光素子(ZnSeベースの白色発光ダイオード)の構造を示す図、図2は発光素子の電圧制御装置の印加電圧(電圧値および電圧印加幅等)可変の概略構成を示す図、図3は今回の研究における発光素子への基本的な印加電圧の波形を示す図で、その(a)は発光素子へ印加した動作電圧の電圧値が2.5V、動作電圧の電圧幅が100msec、不動作電圧の電圧値が2V、不動作電圧の電圧幅が5msecの場合、その(b)は、発光素子へ印加した動作電圧の電圧値が2.5V、動作電圧の電圧幅が200msec、不動作電圧の電圧値が2V、不動作電圧の電圧幅が5msec、の場合を、それぞれ例示してある。図4は発光面での発光状態を示す図で、その(a)は、発光素子へ図3(a)に例示の電圧を印加した場合の発光面の状態(ダークスポット(暗点)が無い状態)を示し、その(b)は、発光素子へ図3(b)に例示の電圧を印加した場合の発光面の状態(ダークスポット(暗点)が若干存在する状態)を例示してある。
【0017】
先ず、(1)今回の研究で使用したII−VI族系の発光素子(ZnSeベースの白色発光ダイオード)の構造およびその製造方法を、図1により説明し、その後、(2)発光素子への電圧印加と発光素子の発光面での発光状態との関係、および(3)製品(発光素子)への適用による製品長寿命化についての考察、につき図2および図3により説明する。
【0018】
(1)II−VI族系の発光素子(ZnSeベースの白色発光ダイオード)の構造およびその製造方法
【0019】
II−VI族系の発光素子(ZnSeベースの白色発光ダイオード)1の構造は、発明者等の研究に使用した事例として図1に示すように、基板(材料:ZnSe(セレン化亜鉛))11、塩素をドーパントとしたn型セレン化亜鉛層(n-ZnSe層)12、n型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶層(n-ZnMgSSe:Cl層)13、ノンドープ・セレン化亜鉛層(i-ZnSe層)14、セレン化カドミニウム・亜鉛層とセレン化亜鉛層の超格子層(ZnCdSe/ZnSe層)(活性層)15、ノンドープ・セレン化亜鉛層(i-ZnSe層)16、窒素をドーパントとして添加したp型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶層(p-ZnMgSSe:N層)17、p型セレン化亜鉛層(p-ZnSe層)18、p型セレン化亜鉛層とp型テルル化亜鉛層で構成される超格子層(p-ZnTe/ZnSe層)(多重量子井戸層)19、p型テルル化亜鉛層(p-ZnTe層)110、陽極側の電極(材料は仕事関数の大きい例えば金(Au))(Auelectrode)111、および陰極側の電極(材料はインジウム(In))(In electrode)112を有する構造となっている。
【0020】
なお、前記基板(材料:ZnSe(セレン化亜鉛))11、前記n型セレン化亜鉛層(n-ZnSe層)12、およびn型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの前記混晶層(n-ZnMgSSe:Cl層)13は、n型ドーピング層113と言われている。
【0021】
また、前記p型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶層(p-ZnMgSSe:N層)17、前記p型セレン化亜鉛層(p-ZnSe層)18、p型セレン化亜鉛層とp型テルル化亜鉛層で構成される前記超格子層(p-ZnTe/ZnSe層)(多重量子井戸層)19、および前記p型テルル化亜鉛層(p-ZnTe層)110は、p型ドーピング層114と言われている。
【0022】
図1に示される構造の発光素子1の製造方法は、例えば、以下の行程1〜10により製造される。
【0023】
行程1
基板(材料:ZnSe(セレン化亜鉛))11上に塩素をドーパントとしてn型のZnSe層12を形成する。
【0024】
行程2
連続して、前記n型セレン化亜鉛層(n-ZnSe層)12上に、n型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶層(n-ZnMgSSe:Cl層)13を形成する。
【0025】
行程3
連続して、前記n型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶層(n-ZnMgSSe:Cl層)13上に、ノンドープ・セレン化亜鉛層(i-ZnSe層)14を形成する。
【0026】
行程4
連続して、前記ノンドープ・セレン化亜鉛層(i-ZnSe層)14上に、セレン化カドミニウム・亜鉛層とセレン化亜鉛層の超格子層(ZnCdSe/ZnSe層)(活性層)15を形成する。
【0027】
行程5
連続して、前記セレン化カドミニウム・亜鉛層とセレン化亜鉛層の超格子層(ZnCdSe/ZnSe層)15上に、ノンドープ・セレン化亜鉛層(i-ZnSe層)16を形成する。
【0028】
行程6
連続して、前記ノンドープ・セレン化亜鉛層(i-ZnSe層)16上に、窒素をドーパントとして添加したp型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶層(p-ZnMgSSe:N層)17を形成する。
【0029】
行程7
連続して、前記p型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶層(p-ZnMgSSe:N層)17上に、p型セレン化亜鉛層(p-ZnSe層)18を形成する。
【0030】
行程8
連続して、前記p型セレン化亜鉛層(p-ZnSe層)18上に、p型ZnTe層とのバンド不連続を解消するためのp型セレン化亜鉛層とp型テルル化亜鉛層で構成される超格子層(p-ZnTe/ZnSe層)(多重量子井戸層)19を形成する。
【0031】
行程9
連続して、前記p型セレン化亜鉛層とp型テルル化亜鉛層で構成される超格子層(p-ZnTe/ZnSe層)19上に、p型テルル化亜鉛層(p-ZnTe層)110を形成する。
【0032】
行程10
次に、陽極側の電極(材料は仕事関数の大きい例えば金(Au))(Au electrode)111および陰極側の電極(材料はインジウム(In))(In electrode)112を取り付ける。
【0033】
(2)発光素子1への電圧印加と発光素子1の発光面での発光状態との関係
先ず、図3(a)の電圧、即ち動作電圧の電圧値が2.5V、動作電圧の電圧幅が100msec、不動作電圧の電圧値が2V、不動作電圧の電圧幅が5msecの電圧、を印加した場合、発光面での発光状態は、図4(a)に示すように、ダークスポット(暗黒点)が無い状態となることが研究の結果、確認された。
【0034】
また、図3(b)の電圧、即ち動作電圧の電圧値が2.5V、動作電圧の電圧幅が200msec、不動作電圧の電圧値が2V、不動作電圧の電圧幅が5msecの電圧、を印加した場合、発光面での発光状態は、図4(b)に示すように、ダークスポット(暗黒点)DSが存在する状態となることが研究の結果、確認された。
【0035】
発光素子1に、前記図3(a)の電圧や前記図3(b)の電圧を印加する電圧印加手段を、図2に示す電圧制御装置2とした。
【0036】
前記電圧制御装置2は、図2にその機能構成を示すように、動作電圧低下手段21、再動作手段22、動作電圧供給機能23、および不動作電圧供給機能24を有している。
【0037】
図2に示す前記電圧制御装置2により前記図3(a)の電圧を前記発光素子1に印加する場合、任意の値に設定される動作電圧の電圧値を2.5Vに設定した後、前記動作電圧供給機能23で動作電圧電圧幅100msecを設定し、更に前記発光素子1への印加電圧を、前記動作電圧低下手段21で前記発光素子1の発光が停止する不動作電圧2.0Vに低下させ、前記不動作電圧供給機能24で不動作電圧電圧幅5msecを設定する。不動作電圧電圧幅5msecが経過すれば、前記再動作手段22により動作電圧2.5Vが前記発光素子1に再度印加され、前記動作電圧供給機能23で動作電圧電圧幅100msecの間継続する。前記動作電圧電圧幅100msecが経過すれば、前記不動作電圧供給機能24により前記不動作電圧電圧幅5msecの間前記不動作電圧2.0Vが前記発光素子1に再度印加される。このように前記電圧制御装置2によって図3(a)に示すように、動作電圧および不動作電圧が発光素子1に交互に繰返し印加される。
【0038】
前記図3(b)の電圧、即ち動作電圧の電圧値、動作電圧の電圧幅、不動作電圧の電圧値、不動作電圧の電圧幅も、前述の図3(a)の電圧の場合と同様に、図2に示す前記電圧制御装置2により設定され、前記電圧制御装置2から前記動作電圧および前記不動作電圧が前記発光素子1に交互に繰返し印加される。
【0039】
(3)製品(発光素子)への適用による製品長寿命化についての考察
前述のように、前記発光素子1を発光させる動作電圧を前記発光素子1に印加した後に、動作電圧低下手段21により、前記発光素子1への印加電圧を、前記発光素子1の発光が停止する不動作電圧に低下させて、前記動作電圧の印加により前記発光素子1の前記p型ドーピング層114から前記活性層15へ点欠陥が拡散することにより前記活性層15での発光面に生じるダークスポットDSを、防止または抑制し、前記動作電圧低下手段21により前記発光素子1の発光が停止する不動作電圧に低下させた後に前記発光素子1への印加電圧を、再動作手段22により、前記発光素子1を発光させる動作電圧として前記発光素子1を再発光させるような製品とすることが必要。
【0040】
つまり、前述のように、P形ドーピング層114とN形ドーピング層113との間に活性層15が形成されるII−VI族系の発光素子の電圧制御装置2にあっては、前記発光素子1を発光させる動作電圧を前記発光素子1に印加した後に前記発光素子1への印加電圧を、前記発光素子1の発光が停止する不動作電圧に低下させる動作電圧低下手段21、および前記動作電圧低下手段21により前記発光素子1の発光が停止する不動作電圧に低下させた後に前記発光素子1への印加電圧を、前記発光素子1を発光させる動作電圧として前記発光素子1を再発光させる再動作手段22、を備え、前記動作電圧の印加により前記発光素子1の前記P形ドーピング層114から前記活性層15へ点欠陥が拡散することにより前記活性層15での発光面に生じるダークスポットDSを、前記動作電圧低下手段21により防止または抑制するようにすることにより長寿命化が可能となる。
【0041】
実施の形態2.
図3(b)の電圧、即ち動作電圧の電圧値が2.5V、動作電圧の電圧幅が200msec、不動作電圧の電圧値が2V、不動作電圧の電圧幅が5msecの電圧、を印加した場合、発光面の状態は図4(b)に示すように、ダークスポット(暗黒点)DSが存在する状態となったが、図5に示すように不動作電圧を0Vとした場合、発光面の状態は、図6(a)(素子劣化前)の状態)から、図6(b)(素子劣化後)に示す状態となり、発光面のダークスポット(暗黒点)DSは可成り減少する。
【0042】
不動作電圧を0Vとした場合、発光面のダークスポット(暗黒点)はかなり減少する現象は、論理的には、ダークスポットを形成するに必要な点欠陥H0中心の電子‐正孔再結合レートを制御したためと考えられる。それは,素子劣化を律速する点欠陥の欠陥反応(拡散,ダークスポットの形成)の駆動力には、点欠陥が存在するp型層での電子‐正孔再結合促進欠陥反応が必要となるが、その電子−正孔再結合には正孔捕獲が必要となる。前記、不動作電圧を前記プラス(+)の電圧2Vから0V、もしくは発光時とは逆極性のマイナス(−)の電圧-xVを積極的に印加することで、欠陥が捕獲していた正孔の放出割合が増加するため、素子駆動中において欠陥での電子‐正孔再結合割合は減少する。このため、不動作電圧を0Vにした場合,発光面のダークスポットは減少したと理解できる。
【0043】
不動作電圧を0Vに設定するのは、この発明の実施の形態1の場合と同様に、図2に示す前記電圧制御装置2により行い、前記電圧制御装置2から図5に示す電圧が発光素子1に印加される。
【0044】
実施の形態3.
図7に示すように不動作電圧を0Vとし更に不動作電圧の期間を200msec程度まで長くした場合、発光面の状態は、図8(a)(素子劣化前)から、図8(b)(素子劣化後)に示す状態となり、発光面のダークスポット(暗黒点)DSは発生しなくなる。
【0045】
不動作電圧を0Vとし更に不動作電圧の期間を200msec程度まで長くした場合、発光面のダークスポット(暗黒点)DSが無くなる現象は、論理的には前記段落[0042]の記載と同じことである。つまり、ダークスポットを形成するに必要な点欠陥H0中心の電子‐正孔再結合には、その欠陥での正孔捕獲が必要であるが、不動作中に正孔を積極的に放出させることで、電子-正孔再結合レートは制御できる。この場合、200msec駆動することで点欠陥がある程度正孔を捕獲しても、その後積極的に欠陥から正孔を放出させることで、この電子−正孔再結合レートを減少させることが可能となる。このため、200msecで駆動した後でも、不動作電圧を0Vにすることで、発光面のダークスポットは減少したと理解できる。
【0046】
換言すれば、図7に示す事例では、動作電圧印加時間(駆動時間)が200msecであるが、不動作電圧を電圧値0.0V、不動作電圧電圧幅を200msecとすることで、発生するダークスポットDSの数を更に減少させることが可能となる。これは、欠陥での正孔放出時間を長くしたことに起因するものと考えられる。
【0047】
不動作電圧を0Vとし更に不動作電圧の期間を200msec程度まで長く設定するのは、この発明の実施の形態1の場合と同様に、図2に示す前記電圧制御装置2により行い、前記電圧制御装置2から図7に示す電圧が発光素子1に印加される。
【0048】
実施の形態4.
図9に示すように不動作電圧を−10Vとした場合、発光面の状態は、図10(a)(素子劣化前)から、図10(b)(素子劣化後)に示す状態となり、発光面のダークスポット(暗黒点)DSは発生しなくなる。
【0049】
不動作電圧を−10Vとした場合、発光面のダークスポット(暗黒点)が無くなる現象は、論理的には前記[0042],および[0045]の記載と同じである。つまり、ダークスポットを形成するに必要な点欠陥H0中心の電子‐正孔再結合レートを減少させるために、その欠陥が捕獲した正孔を電界(発光時とは逆極性のマイナス(−)の電圧印加により生じる電界)により積極的に放出させることで、電子-正孔再結合レートを抑制することが可能となる。これにより、不動作電圧として発光時とは逆極性のマイナス(−)の電圧(例えば-10V)を印加することで、発光面のダークスポットDSはなくなった。
【0050】
換言すれば、図9に示す事例では、動作電圧印加時間(駆動時間)が200msecであり、不動作電圧を印加する時間は5msecと短いが、不動作電圧の電圧値を発光時とは逆極性の-10.0Vとすることで、発生するダークスポットDSの数を更に減少させることが可能となる。これは、欠陥での正孔放出レートを促進させたことに起因するものと考えられる。
【0051】
不動作電圧を発光時とは逆極性のマイナス(−)の電圧(例えば-10V)に設定するのは、この発明の実施の形態1の場合と同様に、図2に示す前記電圧制御装置2により行い、前記電圧制御装置2から図9に示す電圧が発光素子1に印加される。
【0052】
なお、素子劣化を引起す欠陥反応,つまり電子-正孔再結合促進欠陥反応の観点から、この発明の実施の形態1で例示したZnSe以外のII−VI族系の発光素子において、同等の効果を期待できる。
【0053】
また、点欠陥の欠陥種の観点から、窒素(N)以外のドーパント、例えば同じ原料供給法であるラジカル酸素を使用した発光素子においても、同等の効果を期待できる。
【0054】
また、素子構造の観点から、LED以外の例えばLD(レーザダイオーオ)等の発光素子においても、同等の効果を期待できる。検証したLED素子の構造は,LDのそれと同じである。
【0055】
また、前述のこの発明の実施の形態1〜4の何れの場合も、前記電圧制御装置2から前記発光素子1に印加する電圧として、動作電圧・不動作電圧を交互に繰り返す矩形波電圧の場合を例示したが、鋸歯状波,正弦波,三角波等の波状の電圧を印加しても同等の効果を期待できるものと考えられる。
【0056】
また、前記発光面のダークスポット(暗黒点)DSは一旦発生すると、その後に不動作電圧の電圧値を下げたり不動作電圧の電圧幅を広くしても消え難いので、発光素子の駆動開始時から発光面のダークスポット(暗黒点)DSが発生しないような電圧を印加する方が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明の実施の形態1を示す図で、事例としてII-VI族系化合物半導体からなるZnSeベースの発光ダイオードの場合を例示する発光素子の構造図である。
【図2】この発明の実施の形態1を示す図で、LED素子等の発光素子に発光動作させるために電圧を印加する電圧制御装置の機能構成図である。
【図3】この発明の実施の形態1を示す図で、図2に例示の電圧制御装置の出力電圧波形の事例を示し、その(a)は動作時間100msec,動作電圧2.5V,不動作時間5msec,不動作電圧2.0Vの出力電圧の事例を、(b)は動作時間200msec,動作電圧2.5V,不動作時間5msec,不動作電圧2.0Vの出力電圧の事例を、それぞれ示してある。
【図4】この発明の実施の形態1を示す図で、LED素子等の発光素子の発光面での発光状態の事例をイメージ図で示してあり、その(a)は上記図3(a)に例示の出力電圧を電圧制御装置から発光素子に印加した場合を、(b)は上記図3(b)に例示の出力電圧を電圧制御装置から発光素子に印加した場合を、それぞれ示してある。
【図5】この発明の実施の形態2を示す図で、図2に例示の電圧制御装置の出力電圧波形の他の事例を示し、動作時間200msec,動作電圧2.5V,不動作時間5msec,不動作電圧0.0Vの出力電圧の事例を示してある。
【図6】この発明の実施の形態2を示す図で、発光素子の発光面での発光状態の事例をイメージ図で示してあり、その(a)は素子劣化前の状態を、(b)は素子劣化後の状態を、それぞれ示してある。
【図7】この発明の実施の形態3を示す図で、図2に例示の電圧制御装置の出力電圧波形の更に他の事例を示し、動作時間200msec,動作電圧2.5V,不動作時間200msec,不動作電圧0.0Vの出力電圧の事例を示してある。
【図8】この発明の実施の形態3を示す図で、発光素子の発光面での発光状態の事例をイメージ図で示してあり、その(a)は素子劣化前の状態を、(b)は素子劣化後の状態を、それぞれ示してある。
【図9】この発明の実施の形態4を示す図で、図2に例示の電圧制御装置の出力電圧波形の更に他の事例を示し、動作時間200msec,動作電圧2.5V,不動作時間5msec,不動作電圧-10.0Vの出力電圧の事例を示してある。
【図10】この発明の実施の形態4を示す図で、発光素子の発光面での発光状態の事例をイメージ図で示してあり、その(a)は素子劣化前の状態を、(b)は素子劣化後の状態を、それぞれ示してある。
【図11】本件発明の発明者が、2004年に、他の共同研究者と共に国際学会「学会名:第11回II-VI族化合物国際会議」で公表したII−VI族系のZnSeベースの白色発光ダイオードの構造を示す図である。
【図12】本件発明の発明者が、2004年に、他の共同研究者と共に国際学会「学会名:第11回II-VI族化合物国際会議」で公表した発光面に存在するダークスポット(暗黒点)の事例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 発光素子、
11 基板(材料:ZnSe(セレン化亜鉛))、
12 n型セレン化亜鉛層(n-ZnSe層)、
13 n型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶層(n-ZnMgSSe:Cl層)、
14 ノンドープ・セレン化亜鉛層(i-ZnSe層)、
15 セレン化カドミニウム・亜鉛層とセレン化亜鉛層の超格子層(ZnCdSe/ZnSe層)(活性層)、
16 ノンドープ・セレン化亜鉛層(i-ZnSe層)、
17 p型のセレン化亜鉛と硫黄化マグネシウムの混晶層(p-ZnMgSSe:N層)、
18 p型セレン化亜鉛層(p-ZnSe層)、
19 p型セレン化亜鉛層とp型テルル化亜鉛層で構成される超格子層(p-ZnTe/ZnSe層)(多重量子井戸層)、
110 p型テルル化亜鉛層(p-ZnTe層)、
111 陽極側の電極(材料は仕事関数の大きい例えば金(Au))(Au electrode)、
112 陰極側の電極(材料はインジウム(In))(In electrode)、
113 n型ドーピング層、
114 p型ドーピング層、
2 電圧制御装置、
21 動作電圧低下手段、
22 再動作手段、
23 動作電圧供給機能、
24 不動作電圧供給機能、
DS ダークスポット(暗黒点)DS。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型ドーピング層とn型ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子への電圧印加方法であって、
前記発光素子を発光させる動作電圧を前記発光素子に印加した後に、動作電圧低下手段により、前記発光素子への印加電圧を、前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させて、前記動作電圧の印加により前記発光素子の前記p型ドーピング層から前記活性層へ点欠陥が拡散することにより前記活性層での発光面に生じるダークスポットを、防止または抑制し、
前記動作電圧低下手段により前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させた後に前記発光素子への印加電圧を、再動作手段により、前記発光素子を発光させる動作電圧として前記発光素子を再発光させる
ことを特徴とするII−VI族系の発光素子への電圧印加方法。
【請求項2】
p型ドーピング層とn型ドーピング層との間に活性層が形成されるII−VI族系の発光素子の電圧制御装置あって、
前記発光素子を発光させる動作電圧を前記発光素子に印加した後に前記発光素子への印加電圧を、前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させる動作電圧低下手段、
および前記動作電圧低下手段により前記発光素子の発光が停止する不動作電圧に低下させた後に前記発光素子への印加電圧を、前記発光素子を発光させる動作電圧として前記発光素子を再発光させる再動作手段、
を備え、
前記動作電圧の印加により前記発光素子の前記p型ドーピング層から前記活性層へ点欠陥が拡散することにより前記活性層での発光面に生じるダークスポットを、前記動作電圧低下手段により防止または抑制する
ことを特徴とするII−VI族系の発光素子の電圧制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−73911(P2007−73911A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262569(P2005−262569)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】