説明

IL−31アンタゴニストに対するアトピー性皮膚炎の治療応答を予測する方法

本発明は、皮膚リンパ球抗原陽性T細胞により媒介される痒みや掻痒症を患うアトピー性皮膚炎患者を治療する方法に関する。また、本発明は、治療応答を示す患者集団を予測する方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾病の検出、診断、及び治療、特に、皮膚リンパ球抗原(CLA)陽性T細胞により媒介される疾病の検出、診断、及び治療における、IL−31ポリヌクレオチド、ポリペプチド、及びアンタゴニストの新規な使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系において重要な役割を担う皮膚は、複数の層から構成される。循環Tリンパ球は、正常及び炎症状態では皮膚に遊走する。皮膚リンパ球抗原(cutaneous lymphocyte antigen:CLA)が、T細胞に皮膚への向性を与えるホーミング受容体であると考えられる。Santamaria-Babi, L., Eur. J. Dermatol. 14:13-18, 2004参照。CLAは、メモリーT細胞において発現される糖鎖構造であって、P−セレクチン糖タンパク質リガンド−1(PSGL−1)と名付けられた単一の細胞表面タンパク質のエピトープとして働き、血管内皮で発現する誘導性接着分子であるE−セレクチンに対するT細胞の結合を容易にする。Fuhlbrigge RC, et al, Nature 1997; 389:978-81参照。
【0003】
皮膚の疾病の中には、CLA+T細胞を高レベルに発現するものが幾つか知られている。例としては、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、薬物誘発性アレルギー反応、皮膚向性ウイルス及びウイルス関連掻痒、白斑、皮膚T細胞リンパ腫、円形脱毛症、酒さ性座瘡、尋常性座瘡、結節性痒疹、類天疱瘡等が挙げられる。こうした皮膚T細胞介在疾病の治療が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一部のサイトカインについて実証された生体内活性が示すように、他のサイトカイン、サイトカインアゴニスト、及びサイトカインアンタゴニストも、臨床上膨大な可能性を秘めており、強い要請がある。本発明はこれらの要請に応えるべく、新たに同定されたサイトカインであるIL−31の作用に干渉することにより、こうした疾病を治療する方法を提供するものである。IL−31は、マウスで過剰発現されると、掻痒及び皮膚炎様症状を引き起こす。皮膚ホーミングT細胞及び表皮角化細胞はともに、ヒトにおける皮膚病の病理に関与していることが示されている。
【0005】
本発明は、これらの用途や、本明細書の教示から当業者に明らかな他の用途に使用される、ポリペプチドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様によれば、本発明は、アトピー性皮膚炎に罹患した皮膚を治療する方法であって、前記罹患皮膚を有する哺乳類にアンタゴニスト分子を投与する工程を含んでなるとともに、前記罹患皮膚が、皮膚リンパ球抗原陽性T細胞により特徴付けられ、また、前記アンタゴニスト分子が、配列番号2又は配列番号4に表わされるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに特異的に結合し、前記アンタゴニスト分子の投与によって罹患皮膚を改善、予防、抑制又は低減する方法を提供する。別の実施形態によれば、前記アンタゴニストは抗体又は抗体断片である。更なる実施形態によれば、前記アンタゴニスト分子は、配列番号2に表わされるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに特異的に結合する。別の実施形態によれば、前記アトピー性皮膚炎罹患皮膚は、掻痒性である。
【0007】
別の態様によれば、本発明は、アトピー性皮膚炎に関連して生じる掻痒症を治療するための方法であって、前記掻痒症を有する哺乳類にアンタゴニスト分子を投与する工程を含んでなるとともに、前記掻痒症が、皮膚リンパ球抗原陽性T細胞により特徴付けられ、また、前記アンタゴニスト分子が、配列番号2又は配列番号4に表わされるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに特異的に結合し、前記アンタゴニスト分子の投与によって掻痒症を改善、予防、抑制又は低減する方法を提供する。更なる実施形態によれば、前記哺乳類はヒトである。更なる実施形態によれば、前記アンタゴニストは抗体又は抗体断片である。更なる実施形態によれば、前記アンタゴニスト分子は、配列番号2に表わされるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに特異的に結合する。
【0008】
別の態様によれば、本発明は、IL−31アンタゴニスト治療を要するアトピー性皮膚炎を患う個体における、IL−31アンタゴニストに対する治療応答を予測するための方法であって、患者から生体試料を取得する工程と、前記生体試料から循環皮膚リンパ球陽性T細胞を分離する工程と、分離された皮膚リンパ球陽性T細胞からのIL−31産生を検出する工程とを含んでなる方法を提供する。一実施形態によれば、前記IL−31はIL−31アンタゴニストに特異的に結合することにより検出される。更なる実施形態によれば、前記IL−31アンタゴニストは抗IL−31抗体又は抗体断片である。別の実施形態によれば、前記アンタゴニスト分子は、配列番号2に表わされるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに特異的に結合する。別の実施形態によれば、前記方法は、前記皮膚リンパ球抗原陽性T細胞を刺激又は活性化する工程を更に含んでなる。更なる実施形態によれば、前記IL−31はIL−31アンタゴニストに特異的に結合することにより検出される。別の実施形態によれば、前記IL−31アンタゴニスト分子は抗IL−31抗体又は抗体断片である。更なる実施形態によれば、前記アンタゴニスト分子は、配列番号2に表わされるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに特異的に結合する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の詳細な説明に先立ち、その理解を助けるために、以下の用語の定義を行なう。
【0010】
本明細書において「アフィニティータグ(affinity tag)」という語は、別のポリペプチドに結合してその別のポリペプチドの精製又は検出を可能とし、或いはその別のポリペプチドが基質に結合するための部位を提供し得るポリペプチドセグメントを指す意味で使用される。原則として、抗体又は特異的結合剤が使用可能なペプチド又はタンパク質であれば、任意のものをアフィニティータグとして使用できる。アフィニティータグとしては、ポリヒスチジントラクト(tract)、タンパク質A(Nilsson et al., EMBO J. 4:1075, 1985; Nilsson et al., Methods Enzvmol. 198:3, 1991)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(Smith and Johnson, Gene 67:31, 1988)、Glu−Gluアフィニティータグ(Grussenmeyer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:7952-4, 1985)、サブスタンスP、Flag(登録商標)ペプチド(Hopp et al., Biotechnology 6:1204-10, 1988)、ストレプトアビジン結合ペプチド、又は他の抗原エピトープ又は結合ドメインが挙げられる。概要はFord et al., Protein Expression and Purification 2: 95-107, 1991を参照のこと。アフィニティータグをコード化するDNAも、市場の供給業者から入手可能である(例えば、Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)。
【0011】
本明細書において「対立遺伝子多型(allelic variant)」という語は、同一の染色体座を占める一遺伝子の二以上の代替型(two or more alternative forms of a gene)の何れかを指す意味で使用される。突然変異により自然に生じる対立遺伝子変異によって、集団内に表現型多型が発生し得る。遺伝子突然変異は、サイレントである(即ち、コード化されるポリペプチドに何の変化も生じない)場合もあるが、コード化されるポリペプチドのアミノ酸配列が変化する場合もある。本明細書において対立遺伝子多型という語は、遺伝子の対立遺伝子多型によりコード化されるタンパク質を指す意味でも使用される。
【0012】
本明細書において「アミノ末端側(amino-terminal)」及び「カルボキシル末端側(carboxyl-terminal)」という語は、ポリペプチド内の位置を指す意味で使用される。文脈上許容される限り、これらの語は、ポリペプチドの特定の配列又は部位を基準とした近接性又は相対位置を指す意味で使用される。例えば、ポリペプチド内のある配列が基準配列に対してカルボキシル末端側に位置する場合、この配列は基準配列のカルボキシル末端の近傍に位置するが、必ずしもポリペプチド全体のカルボキシル末端に位置する訳ではない。
【0013】
「補体/抗補体対(complement/anti-complement pair)」という語は、適切な条件下で非共有結合により会合し、安定した対を形成する非同一の部分を指す。例えば、ビオチンとアビジン(又はストレプトアビジン)は、補体/抗補体対の典型的な一例である。他の補体/抗補体対の例としては、受容体/リガンド対、抗体/抗原(又はハプテン又はエピトープ)対、センス/アンチセンスポリヌクレオチド対等が挙げられる。補体/抗補体対を後に解離することが望ましい場合には、補体/抗補体対の結合親和性は109-1未満であることが好ましい。
【0014】
「ポリヌクレオチド分子の補体(complements)」という語は、基準配列に対して相補的な塩基配列を反対の向きで有するポリヌクレオチド分子を指す。例えば、配列5’ ATGCACGGG 3’は、5’ CCCGTGCAT 3’に対して相補的である。
【0015】
「コンティグ(contig)」という語は、別のポリヌクレオチドと同一又は相補的な配列が連なる領域(contiguous stretch)を有するポリヌクレオチドを指す。コンティグ配列は、所与のポリヌクレオチド配列の領域(stretch)と、その全体において、或いは前記ポリヌクレオチドの部分領域(partial stretch)において「重複する(overlap)」と言われている。
【0016】
「縮重(degenerate)ヌクレオチド配列」という語は、(あるポリペプチドをコード化する基準ポリヌクレオチド分子と比較した場合に)1又は2以上の縮重コドンを含むヌクレオチド配列を指す。縮重コドンとは、異なるヌクレオチドのトリプレットを有するが、同一のアミノ酸残基をコード化するものである(即ち、GAU及びGACトリプレットは何れもAspをコード化する)。
【0017】
「発現ベクター(expression vector)」という語は、所望のポリペプチドをコード化するセグメントと、それに作動式に連結された、その転写に必要な別のセグメントとを含んでなる、直鎖又は環状のDNA分子を指す意味で使用される。この別のセグメントは、プロモーター及びターミネーター配列を含有する。更に、1又は2以上の複製開始点、1又は2以上の選択可能なマーカー、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル等を含有していてもよい。発現ベクターは通常、プラスミド又はウイルスDNAの何れかに由来するが、これら両方の要素を併せ持っていてもよい。
【0018】
「単離(isolated)」という語は、ポリヌクレオチドに用いられる場合、そのポリヌクレオチドがその天然の遺伝的環境から取り出されて、他の外来のコード配列や好ましからぬコード配列を伴わず、遺伝子組み換えタンパク質産生系内での使用に適した形態となっていることを指す。この単離分子は、その天然における環境から分離され、cDNA及び遺伝子クローンを有している。本発明の単離DNA分子は、通常ならそれらに関連する他の遺伝子を有していないが、天然の5’及び3’非翻訳領域、例えばプロモーターやターミネーター等を有していてもよい。関連領域の識別は、当業者には自明であろう(例えばDynan and Tiian. Nature 316:774-78. 1985参照)。
【0019】
「単離」ポリペプチド又はタンパク質は、その本来の環境以外の条件にある、例えば血液や動物組織から分離されているポリペプチド又はタンパク質である。好ましい形態におては、単離ポリペプチドは実質的に、他のポリペプチド、特に動物起源の他のポリペプチドを伴っていない。このポリペプチドは、高度に精製された形態で、即ち、95%以上の純度で、より好ましくは99%以上の純度で提供されることが好ましい。この文脈で使用する場合、「単離」という語は、同一のポリペプチドが異なる物理的形態で(例えば二量体として、或いはグリコシル化又は誘導体化された形態で)存在することを排除するものではない。
【0020】
「腫瘍性(neoplastic)」という語は、細胞に関して使用する場合には、細胞が新たに異常増殖すること、特に、組織内において非制御的且つ進行的に増殖し、ついには腫瘍(neoplasm)に至ることを指す。腫瘍細胞(neoplastic cells)は、悪性、即ち侵略性且つ転移性であっても、良性であってもよい。
【0021】
「作動式に連結される(operably linked)」という語は、DNAセグメントに関して使用する場合には、複数のセグメントがそれらの所望の目的に応じて協調して機能するように(例えば、転写がプロモーターにおいて開始され、コード化セグメントを経由してターミネーターへと進行するように)配置されることを指す。
【0022】
「オルソログ(ortholog)」という語は、ある生物種から得られるポリペプチド又はタンパク質であって、別の生物種由来のポリペプチド又はタンパク質の機能的な対応物に当たるものを指す。オルソログ間の配列の相違は、種分化の結果である。
【0023】
「パラログ(paralogs)」は、生物によって産生される複数のタンパク質であって、互いに異なるものの構造的には関連を有するものをいう。パラログは遺伝子重複から生じると考えられている。例えば、OC−グロビン、β−グロビン、及びミオグロビンは、互いにパラログの関係にある。
【0024】
「ポリヌクレオチド(polynucleotide)」は、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド塩基の一本又は二本鎖のポリマーであって、5’から3’末端へと読み取られるものである。ポリヌクレオチドとしてはRNA及びDNAが挙げられる。これらは天然原料から単離されたものでも、生体外で合成されたものでも、天然及び合成分子の組み合わせから調製されたものでもよい。ポリヌクレオチドのサイズは、塩基対(略称「bp」)、ヌクレオチド(「nt」)、又はキロベース(「kb」)で表わされる。文脈上許容される限り、後の二つの語は、ポリヌクレオチドが一本鎖でも二本鎖でも使用される。これらの語を二本鎖分子に適用する場合には、全長を指すために使用され、「塩基対」という語と同義であると解される。当業者であれば周知のように、二本鎖ポリヌクレオチドが有する二本の鎖は、長さが微妙に異なることがあり、また、酵素的切断の結果、それらの末端にずれが生じている(staggered)場合もある。よって、二本鎖ポリヌクレオチド分子が有するヌクレオチドの全てが対を形成しているとは限らない。
【0025】
「ポリペプチド(polypeptide)」とは、天然由来か合成されたかによらず、アミノ酸残基がペプチド結合で連結されたポリマーをいう。約10アミノ酸残基に満たないポリペプチドは、通常「ペプチド(peptide)」と呼ばれる。
【0026】
本明細書において「プロモーター(promoter)」という語は、本技術分野における意味としては、RNAポリメラーゼによる結合と転写の開始とに必要なDNA配列を有する遺伝子の部位を指す。プロモーター配列は、通常は遺伝子の5’非コード領域に存在するが、必ずという訳ではない。
【0027】
「タンパク質(protein)」とは、1又は2以上のポリペプチド鎖を含んでなる巨大分子をいう。また、タンパク質はペプチド以外の構成要素、例えば糖質基(carbohydrate groups)等を含んでいてもよい。タンパク質を産生する細胞により、糖質や他の非ペプチド置換基がタンパク質に付加される場合もあり、付加される基は細胞の種類によって様々である。本明細書において、タンパク質は、そのアミノ酸骨格構造により定義するものとする。糖質基等の置換基については通常は詳述しないが、これらが存在していても構わない。
【0028】
「受容体(receptor)」という語は、生理活性分子(即ち、リガンド)と結合して、細胞に対するリガンドの作用を媒介する、細胞結合(cell-associated)タンパク質を指す。膜結合受容体は、細胞外のリガンド結合ドメインと、通常はシグナル変換に関与する細胞内の効果ドメイン(effector domain)とをを含んでなる、多重ペプチド構造を有する。リガンドが受容体に結合すると、受容体の立体構造が変化し、これによって効果ドメインと細胞内の(一又は二以上の)他の分子との間に相互作用が生じる。この相互作用が、今度は細胞の代謝に変化を生じさせる。受容体−リガンド相互作用と関連する代謝性事象としては、遺伝子転写、リン酸化反応、脱リン酸化反応、サイクリックAMP産生の増大、細胞内カルシウムの動員、膜脂質の動員、細胞接着、イノシトール脂質の加水分解、及びリン脂質の加水分解等が挙げられる。通常、受容体は膜結合型、細胞質内、核内の何れでもよく、単量体型(例えば、甲状腺刺激ホルモン受容体、β−アドレナリン受容体)でも多量体型(例えば、PDGF受容体、成長ホルモン受容体、IL−3受容体、GM−CSF受容体、G−CSF受容体、エリスロポエチン受容体、及びIL−6受容体)でもよい。
【0029】
「分泌シグナル配列(secretory signal sequence)」という語は、より大きなポリペプチドの構成要素として、その大きなポリペプチドを、合成細胞の分泌経路を通じて誘導するポリペプチド(「分泌ペプチド(secretory peptide)」)をコード化するDNA配列を指す。通常、その大きなポリペプチドは分泌経路の通過中に開裂され、分泌ペプチドが除去される。
【0030】
本明細書において「スプライスバリアント(splice variant)」という語は、ある遺伝子から転写されるRNAの代替形を指す意味で使用される。スプライス変異は天然で、転写RNA分子内における選択的スプライシング部位を使用することにより、或いはより稀ではあるが、互いに個別に転写されたRNA分子間において生じ、その結果として、同一の遺伝子から転写された数種のmRNAが生じ得る。スプライスバリアントがコード化するポリペプチドは、異なるアミノ酸配列を有する場合がある。また、本明細書においてスプライスバリアントという語は、遺伝子から転写されたmRNAのスプライスバリアントがコード化するタンパク質を指す意味でも使用される。
【0031】
精度の低い分析方法(例えばゲル電気泳動)で決定されるポリマーの分子量及び長さは、概略値であると解される。このような値を「約(about)」X、又は「凡そ(approximately)」Xのように表わす場合、記載されたXの値の精度は±10%であると解される。
【0032】
本明細書に挙げられる文献は何れも、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0033】
本発明は、疾病の検出、診断、及び治療、特に、皮膚リンパ球抗原(CLA)陽性T細胞により媒介される疾病の検出、診断、及び治療における、IL−31ポリヌクレオチド、ポリペプチド、及びアンタゴニストの新規な使用方法に関する。本発明の一部は、既に同定されているサイトカインであるIL−31を、皮膚ホーミングT細胞は発現しているのに対し、腸ホーミングT細胞は発現していない、という知見に基づくものである。
【0034】
IL−31は近年発見されたタンパク質であり、4本ヘリックス束構造を有するサイトカインである。このサイトカインは既にIL−31として同定され、米国特許出願第10/352,554号(2003年1月21日出願)において十分に説明されている。公開された米国特許出願第2003−0224487号及びPCT出願WO03/060090を参照のこと。これらは何れも引用により本明細書に組み込まれる。また、Dillon, et al., Nature Immunol. 5:752-760. 2004も参照のこと。IL−31は受容体IL−31RAに高い特異性を示すリガンドであり、オンコスタチンM(Oncostatin M)受容体β(OSMRβ)を含んでなる少なくとも1つの追加のサブユニットを有する。ヒトIL−31のポリヌクレオチド及びポリペプチドの原配列を、それぞれ配列番号1及び2に示す。マウスIL−31のポリヌクレオチド及びポリペプチドの原配列を、それぞれ配列番号3及び4に示す。ヒトIL−31RAのポリヌクレオチド及びポリペプチドの原配列を、それぞれ配列番号5及び6に示す。マウスIL−31RAのポリヌクレオチド及びポリペプチドの原配列を、それぞれ配列番号7及び8に示す。ヒトOSMRβのポリヌクレオチド及びポリペプチドの原配列を、それぞれ配列番号9及び10に示す。
【0035】
IL−31の分泌シグナル配列は、配列番号2に示されるアミノ酸残基1(Met)ないし23(Ala)から構成され、成熟ポリペプチドは、アミノ酸残基24(Ser)ないし164(Thr)から構成される。293T細胞由来の精製IL−31について更にN末端配列決定分析を行なったところ、配列番号2に示される残基27(Leu)がN末端であり、成熟ポリペプチドは配列番号2に示されるアミノ酸残基27(Leu)ないし164(Thr)からなることが明らかになった。
【0036】
上述した通り、米国特許公報第20030224487(引用により本明細書に組み込まれる)における用法と同様に、本明細書において使用される語、IL−31はZcytor17ligを意味し、IL−31RAはZcytor17を意味する。また、IL−31のヘテロ二量体受容体については、2003−0096339(本文献も引用により本明細書に組み込まれる)にもzcytor17(HUGO名IL−31RA)として記載されている。これは、オンコスタチンM受容体β(OSMRβ)を含んでなる少なくとも1つの別のサブユニットとともに、ヘテロ二量体を形成する。
【0037】
皮膚ホーミングT細胞及び表皮角化細胞は何れも、ヒトの皮膚病の病理との関連が指摘されてきた。本明細書に示すように、IL−31mRNA及びタンパク質の発現は、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)患者及び健常者の何れにおいても、皮膚ホーミングCLA+T細胞集団に限定されている。一方、IL−31受容体であるIL−31RAの免疫組織化学(immunohistochemistry:IHC)による分析によれば、健常者と比べてAD患者の方が、皮膚生検中の皮膚角化細胞におけるIL−31の発現が僅かに高いレベルを示している。
【0038】
IL−31がマウスで過剰発現されると、掻痒や、ヒトアトピー性皮膚炎(AD)に類似する皮膚炎の発症を引き起こす。本明細書に示される免疫組織化学(IHC)研究によれば、AD患者由来の皮膚生検において、IL−31RAタンパク質が皮膚角化細胞によって発現され、マクロファージを浸潤していることが示された。AD患者と健常者とを比較すると、ADサンプルの表皮角化細胞の方が、IL−31RAをより高いレベルで発現していることが示唆される。皮膚細胞浸潤は、健常者と比べてAD患者の皮膚の方が数多く存在し、IL−31mRNAを発現していた。これらの細胞を組織形態計測により分析したところ、過半数の細胞が染色により皮膚リンパ球抗原(CLA)及びCD3に陽性を示し、リンパ球系列であることを示唆していた。これは、皮膚において皮膚ホーミングT細胞がIL−31mRNAを発現していることを証明するものである。末梢血T細胞のIL−31、IL−31mRNA、及びタンパク質の発現について分析したところ、AD及び健常ボランティアの何れでも、概ねCD45RO+CLA+皮膚ホーミングT細胞に限定されていた。更に、患者サンプル間で大きなばらつきはあったものの、AD患者由来の循環CLA+T細胞は、健常者由来のCLA+T細胞と比べて、より高いレベルのIL−31産生能を有していた。これらの結果は、IL−31の発現が、ADにおける皮膚の炎症及び掻痒の発現に寄与している可能性を示す、強力な証拠となる。
【0039】
本明細書に示すように、IL−31は、皮膚において局所的に産生されるとともに、皮膚浸潤細胞によっても産生される。組織内でのT細胞によるサイトカインの局所的な産生は、ADにおける発病の主要機序であると考えられ、循環及び皮膚の双方におけるT細胞数の増加は、疾病と相関しているものと考えられる。
【0040】
AD患者及び健常対照の何れも、活性化されるとIL−31を発現する循環CLA+T細胞を有しているが、健常者由来の細胞と比べてAD患者由来のCLA+T細胞の方が、より活性化された状態で存在する旨が報告されている。Akdis M, J Immunol 159: 4611-4619, 1997を参照のこと。その結果、CLA+T細胞によるIL−31の産生に必要な刺激の閾値は、皮膚炎患者と対照者との間で異なる場合がある。本明細書に示されるように、抗CD28の不在の下、準最適濃度の抗CD3による刺激から24時間後において、AD患者由来の循環CLA+T細胞は、健常者由来の細胞と比べてより高いレベルのIL−31の産生能を有していた。個々のAD患者由来のCLA+T細胞が産生するIL−31のレベルにばらつきがあったため、AD及び健常者の循環CLA+T細胞からの平均IL−31産生量には有意差はなかった。それでもなお、AD患者の皮膚には健常者と比べてより多くのCLA+T細胞が局在していたことから、AD皮膚微小環境内においてIL−31活性が存在する可能性は高い。
【0041】
実施例8は、一部のAD患者由来の循環CLA+T細胞が、健常者由来の細胞と比べて、より高いレベルのIL−31を産生することを実証するものである。こうした集団の患者について、本明細書で説明するバイオアッセイを用い、或いは血液内の循環T細胞が産生するIL−31を検出する任意のアッセイによりIL−31の検出を行なえば、IL−31の存在が炎症を引き起こす疾病の治療にIL−31アンタゴニストが有効か否かを決定する上で、有用であるものと思われる。
【0042】
他の成長因子の不在下での生存及び成長経路に関連するOSMRβ及びIL−31RAに依存する細胞系を用いれば、IL−31の活性を測定することができる。こうした成長因子依存細胞系としては、BaF3、FDC−P1、及びMO7eが挙げられる。BaF3細胞系に関する情報は、Palacios and Steinmetz(Cell 41: 727-734, 1985)及びMathey-Prevot et al.(Mol. Cell. Biol. 6: 4133-4135, 1986)を参照のこと。FDC−P1細胞系に関する情報は、Hapel et al.(Blood 64: 786-790, 1984)を参照のこと。MO7e細胞系に関する情報は、Kiss et al.(Leukemia 7: 235-240, 1993)を参照のこと。
【0043】
OSMR及びIL−31受容体のアミノ酸配列は、コード化された受容体がクラスIサイトカイン受容体サブファミリーに属することを示している。このサブファミリーには、これらに制限されるものではないが、IL−2、IL−4、IL−7、Lif、IL−12、IL−15、EPO、TPO、GM−CSF、及びG−CSFの受容体が含まれる(概説としては、Cosman, "The Hematopoietin Receptor Superfamily" in Cytokine 5(2): 95-106, 1993を参照のこと)。IL−31RA受容体については、PCT特許出願第US01/20484号(WIPO公報第WO02/00721号)に詳述されている。IL−31RA受容体のmRNAの組織分布を分析したところ、活性化されたCDD4+及びCDD8+T細胞サブセット、CD14+単球の発現と、CD19+B細胞の弱い発現が見られた。更に、単球細胞系THP−I(ATCC番号TIB-202)、U937(ATCC番号CRL-1593.2)及びHL60(ATCC番号CCL-240)において、休止細胞及び活性化細胞の何れにもmRNAが存在していた。
【0044】
IL−31は4重αヘリックス構造(four-alpha-helix structure)であると考えられている。配列番号2に示されるヒトIL−31アミノ酸配列を参照すると、IL−31のヘリックスAはアミノ酸残基38〜52により、ヘリックスBはアミノ酸残基83〜98により、ヘリックスCはアミノ酸残基104〜117により、そしてヘリックスDはアミノ酸残137〜152により定義される。そして、IL−31内の保存システイン残基は、配列番号2のアミノ酸残基72、133、及び147、並びに本明細書記載の配列番号874、137、及び151に相当する。また、同様にIL−31内において保存性の高い残基が、配列番号2で残基43として示されるGlu残基である。
【0045】
IL−31のマウスオルソログのポリヌクレオチド配列も同定されている。その配列を配列番号3に示し、対応するアミノ酸配列を配列番号4に示す。配列番号4のIL−31マウスサイトカインアミノ酸配列において、ヘリックスAはアミノ酸残基38〜52により、ヘリックスBはアミノ酸残基85〜98により、ヘリックスCはアミノ酸残基104〜118により、そしてヘリックスDはアミノ酸残基141〜157により定義される。配列番号4に示すように、マウスIL−31の成熟配列はMet1から開始すると推測されるが、これは、配列番号2に示すように、ヒト配列におけるMet1に相当する。組織分析によれば、マウスIL−31の発現は、精巣、脳、CD90+細胞、前立腺細胞、唾液腺、及び皮膚において見受けられた。更に、293T細胞から精製されたIL−31のN末端配列決定分析を行なったところ、配列番号4に示すように、N末端は残基31(Ala)に存在し、成熟ポリペプチドはアミノ酸残基31(Ala)ないし163(Cys)を含んでいた。
【0046】
IL−31は12番染色体の12q24.31領域に存在する。従って、本発明はまた、診断的適用に使用し得る試薬を提供する。例えば、IL−31遺伝子、IL−31DNA若しくはRNA又はそのサブ配列を含んでなるプローブを使用することにより、IL−31遺伝子がヒト染色体上に、例えば12番染色体上に存在するか否か、或いは遺伝子突然変異が生じているか否かを決定することができる。検出可能なIL−31遺伝子座の染色体異常としては、これらに制限されるものではないが、異数性、遺伝子コピー数変化、ヘテロ接合性欠失(loss of heterozygosity:LOH)、転座、挿入、欠失、制限部位の変更及び再編成が挙げられる。こうした異常は、本発明のポリヌクレオチドを用い、制限酵素断片長多型(restriction fragment length polymorphism:RFLP)分析、PCR技術を利用した短小直列反復配列(short tandem repeat:STR)分析、及び本技術分野で知られている他の遺伝子連鎖分析技術(Sambrook et al., ibid.; Ausubel et. al., ibid.; Marian, Chest 108: 255-65, 1995)等の分子遺伝学的技術を利用して検出することができる。染色体異常の検出は特に、皮膚リンパ球抗原と高い相関を有する疾病にとって重要である。よって本発明は、IL−31遺伝子の上方及び下方調節を含めた、IL−31遺伝子の変化を検出する方法を包含する。
【0047】
本発明のタンパク質(又はそのポリペプチド断片)を、他の生理活性分子に、特に他のサイトカインに連結し、多機能分子とすることも可能である。例えば、IL−31由来の1又は2以上のヘリックスを他のサイトカインに連結し、その生物学的特性や産生効率を強化することもできる。
【0048】
また、本発明は、本明細書記載のIL−31ポリペプチドのエピトープ担持部位を含んでなる検出用ポリペプチド断片又はペプチドの、CLA陽性T細胞により媒介される疾病における使用を提供する。このような断片又はペプチドは、「免疫原性エピトープ」を含んでいてもよい。これは、あるタンパク質の一部分であって、そのタンパク質全体を免疫原として使用した場合に、抗体応答を誘発する部分である。免疫原性エピトープ担持ペプチドは、標準的な方法を用いて同定することができる(例えばGeysen et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 81:3998(1983)参照)。
【0049】
一方、ポリペプチド断片又はペプチドが「抗原エピトープ」を含んでいてもよい。これは、タンパク質分子中における、抗体が特異的に結合し得る領域である。一部のエピトープは直列又は連続のアミノ酸の鎖から構成されるが、このようなエピトープの抗原性は変性剤によって破壊されない。本技術分野で知られているように、タンパク質のエピトープを模倣し得る比較的短い合成ペプチドを使用して、そのタンパク質に対する抗体の産生を刺激することができる(例えばSutcliffe et al., Science 219:660(1983)参照)。従って、本発明の抗原エピトープ担持ペプチド及びポリペプチドは、本明細書記載のポリペプチドと結合する抗体(例えば中和抗体)を産生させるのに有効である。Hopp/Woodsの親水性プロファイルを用いて、抗原となる潜在的可能性が最も高い領域を決定することができる(Hopp et al., 1981, ibid, and Hopp, 1986, ibid.)。例えば、ヒトIL−31における親水性領域としては、配列番号2のアミノ酸残基54〜59、配列番号2のアミノ酸残基129〜134、配列番号2のアミノ酸残基53〜58、配列番号2のアミノ酸残基35〜40、及び配列番号2のアミノ酸残基33〜38が挙げられる。例えば、マウスIL−31における親水性領域としては、配列番号4のアミノ酸残基34〜39、配列番号4のアミノ酸残基46〜51、配列番号4のアミノ酸残基131〜136、配列番号4のアミノ酸残基158〜163、及び配列番号4のアミノ酸残基157〜162が挙げられる。
【0050】
抗原性エピトープ担持ペプチド及びポリペプチドは、配列番号2又は配列番号4のアミノ酸のうち、少なくとも4から10のアミノ酸、少なくとも10から14のアミノ酸、又は約14から約30のアミノ酸を有していることが好ましい。このようなエピトープ担持ペプチド及びポリペプチドは、本明細書の記載のように、IL−31ポリペプチドを断片化することにより、或いは化学的ペプチド合成により、作製することができる。更に、エピトープの選択は、ランダムペプチドライブラリーのファージディスプレイによって行なうことができる(例えば、Lane and Stephen, Curr. Opin. Immunol. 5:268 (1993);及びCortese et al, Curr. Opin. Biotechnol. 7:616 (1996)参照)。エピトープを同定し、エピトープを含んでなる小さなペプチドから抗体を産生するための標準的な方法については、例えばMole, "Epitope Mapping," in Methods in Molecular Biology, Vol. 10, Manson (ed.), pages 105-116 (The Humana Press, Inc. 1992); Price, "Production and Characterization of Synthetic Peptide-Derived Antibodies," in Monoclonal Antibodies: Production, Engineering, and Clinical Application, Ritter and Ladyman (eds.), pages 60-84 (Cambridge University Press 1995), and Coligan et al. (eds.), Current Protocols in Immunology, pages 9.3.1-9.3.5 and pages 9.4.1-9.4.11 (John Wiley & Sons 1997)に記載されている。
【0051】
本発明のIL−31ポリペプチドは、全長ポリペプチド、機能性断片、及び融合ポリペプチドを含め、本技術分野でよく知られている方法により、公開された米国特許出願第2003−0224487号、及びPCT出願第WO03/060090号の記載に従い、作製、精製、及び再折り畳みすることができる。本発明のポリペプチドは、精製により、純度80%以上、より好ましくは純度90%以上、より一層好ましくは純度95%以上とすることが好ましい。特に好ましいのは、医薬的に純粋な状態、即ち、巨大分子による汚染、特に他のタンパク質及び核酸による汚染に関して、99.9%を上回る純粋さを有し、感染性及び発熱性の薬剤を含まない状態である。精製されたポリペプチドは、他のポリペプチド、特に動物由来の他のポリペプチドを、実質的に含まないことが好ましい。
【0052】
本発明は、抗IL−31抗体等のIL−31アンタゴニストを使用し、細胞微小環境における炎症を低減、抑制、又は予防する方法を提供する。ここで、この微小環境内における1又は2以上の細胞が、皮膚リンパ球抗原に陽性のT細胞である。更に、本発明は、抗IL−31抗体等のIL−31アンタゴニストを使用し、細胞微小環境における痒みや掻痒を低減、抑制、又は予防する方法を提供する。ここで、この微小環境における1又は2以上の細胞が、皮膚リンパ球抗原に陽性のT細胞である。
【0053】
IL−31抗原を動物に接種して生じた免疫応答による抗体は、本技術分野で公知の、本明細書に記載された方法で単離及び精製することができる。ポリクローナル及びモノクローナル抗体を調製及び分離する方法は、本技術分野で知られている。例えば、Current Protocols in Immunology, Cooligan, et al. (eds.), National Institutes of Health, John Wiley and Sons, Inc., 1995; Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor, NY, 1989; and Hurrell, J. G. R., Ed., Monoclonal Hvbridoma Antibodies: Techniques and Applications, CRC Press, Inc., Boca Raton, FL, 1982を参照のこと。
【0054】
本明細書で使用される「抗体」という語には、ポリクローナル抗体、親和性精製ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、並びに抗原結合断片、例えばF(ab’)2及びFabタンパク質分解断片が含まれる。また、遺伝子組み換え無傷抗体又は断片、例えばキメラ抗体、Fv断片、単鎖抗体等、並びに合成抗原結合ペプチド及びポリペプチドなども含まれる。また、非ヒト抗体は、非ヒトCDRをヒトフレームワーク及び定常領域に接合することにより、或いは非ヒト可変領域全体を組み込むことにより、ヒト化してもよい(任意に、露出された残基をヒト様表面で置換してこれらを「覆い隠し(cloaking)」てもよく、その結果として「化粧張り(veneered)」抗体が得られる)。場合によっては、ヒト化抗体は、適切な結合特性を強化するために、ヒト可変領域フレームワークドメイン内に非ヒト残基を保持していてもよい。抗体のヒト化により、生物学的半減期が延長され、ヒトへの投与時に有害な免疫反応を引き起こす可能性が低減される。更に、WIPO公開番号第WO98/24893号に開示のように、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するよう操作された遺伝子組み換え非ヒト動物を用いて、ヒト抗体を産生することも可能である。これらの動物の内在免疫グロブリン遺伝子は、相同組み換え等により不活性化又は除去しておくことが好ましい。
【0055】
抗体が特異的に結合すると判断されるのは、1)それらが閾値レベルの結合活性を示し、且つ、2)それらが関連ポリペプチド分子と顕著な交差反応を生じない場合である。結合性が閾値レベルであると判定されるのは、ここでいう抗IL−31抗体が、対照(非IL−31)ポリペプチドに対する結合親和性よりも10倍以上強い親和性をもって、IL−31ポリペプチド、ペプチド、又はエピトープに結合する場合である。抗体の結合親和性(Ka)は、106-1以上、好ましくは107-1以上、より好ましくは108-1以上、そして最も好ましくは109-1以上であることが好ましい。抗体の結合親和性は、当業者であれば、例えばスキャッチャード分析(Scatchard, G., Ann. NY Acad. Sci. 51: 660-672, 1949)により、容易に決定することができる。
【0056】
IL−31に対する抗体は、IL−31を発現する細胞のタギングに;親和性精製によるIL−31の分離に;IL−31ポリペプチドの循環レベルを決定する診断的アッセイに;潜在する病理又は疾病のマーカーとして、可溶IL−31の検出又は定量化に;FACSを用いた分析方法に;発現ライブラリーのスクリーニングに;抗イディオタイプ抗体の生成に;並びに、生体外及び生体内においてIL−31活性を阻止する中和抗体又はアンタゴニストとして、使用することが可能である。適切な直接タグ又は標識としては、放射性核種、酵素、基質、補因子、阻害剤、蛍光マーカー、化学発光マーカー、磁性粒子等が挙げられる。間接タグ又は標識としては、ビオチン−アビジン又は他の補体/抗補体対の中間体としての使用が主な例である。また、本明細書における抗体は、薬剤、毒素、放射性核種等に直接的又は間接的に複合されていてもよく、これらの複合体(conjugates)は生体内での診断的又は治療的適用に使用される。更に、IL−31に対する抗体又はその断片を、変性IL−31やその断片を検出するべく、生体外でのアッセイ、例えばウエスタンブロットや、本技術分野で知られている他のアッセイに供してもよい。
【0057】
適切な検出可能分子を、ポリペプチド又は抗体に対して直接的又は間接的に結合させてもよい。このような分子としては、放射性核種、酵素、基質、補因子、阻害剤、蛍光マーカー、化学発光マーカー、磁性粒子等が挙げられる。適切な細胞毒性分子を、ポリペプチド又は抗体に対して直接的又は間接的に結合させてもよい。このような分子としては、細菌又は植物毒素(例えば、ジフテリア毒素、サポリン、シュードモナス外毒素、リシン、アブリン等)が挙げられる。治療用放射性核種、例えばヨウ素131、レニウム188、又はイットリウム90等についても同様である(これらは直接的にポリペプチド又は抗体に結合してもよく、例えばキレート部分等を介して間接的に結合してもよい)。また、ポリペプチド又は抗体は、アドリアマイシン等の細胞毒性薬と複合されていてもよい。検出可能分子や細胞毒性分子を間接的に結合させるには、相補/反相補対(complemetary / anticomplemetary pair)の一方の要素に検出可能分子や細胞毒性分子を複合させ、他方の要素をポリペプチド又は抗体部分に結合させればよい。これらの用途において、ビオチン/ストレプトアビジンは相補/反相補対の例である。
【0058】
結合性ポリペプチドは、生体外及び生体内におけるIL−31結合及びシグナル変換(signal transduction)を阻止するIL−31「アンタゴニスト」としても機能し得る。これらの抗IL−31結合性ポリペプチドは、IL−31活性又はタンパク質結合を抑制するのに有効と思われる。
【0059】
皮膚ホーミングT細胞及び表皮角化細胞は何れも、ヒトにおける皮膚病の病理との関連が指摘されている。本明細書の実施例1に示すように、T細胞サブセットのうち、IL−31のmRNA及びタンパク質の発現は、ヒトにおける皮膚ホーミングCLA+T細胞集団に限定されている。それゆえ、抗体又は受容体アンタゴニストを含む、IL−31に対するアンタゴニストは、CLA+T細胞により媒介される皮膚及び表皮の疾病の治療に有効であると思われる。このような疾病としては、例えば、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、乾癬、薬物性アレルギー反応、皮膚向性ウイルス及びウイルス関連掻痒症、白斑、皮膚T細胞リンパ腫、円形脱毛症、酒さ性座瘡、尋常性座瘡、結節性痒疹、類天疱瘡等が挙げられる。
【0060】
アトピー性皮膚炎
【0061】
アトピー性皮膚炎(atopic demartitis:AD)は、慢性的に再発する炎症性皮膚病であって、近世紀を通じてその発生率が劇的に増加している。臨床的に、ADを特徴付けるプラーク及び丘疹は、強い掻痒があり、多くは剥落性であって、慢性的に再発する経過を辿る。ADの診断は主に、大小各種の臨床知見に基づいている。Hanifin J.M., Arch Dermatol: 135, 1551 (1999)を参照のこと。組織病理によれば、急性期の病変において海綿状変化、過剰且つ局所性の不全角化が見受けられた。一方、過剰且つ不全角化を伴う顕著な表皮肥大、表皮肥厚/顆粒層肥厚、並びに、リンパ球及び大量のマスト細胞による真皮の血管周囲性浸潤が、慢性的な病変の特色であった。
【0062】
T細胞は、組織における局所免疫応答の開始に、中心的な役割を果たしている。特に皮膚浸潤性T細胞が、皮膚における調節不全(disregulated)免疫応答の開始及び持続に、主要な役割を果たしていることを示す証拠がある。皮膚炎症部位における浸潤性T細胞の凡そ90%が、内皮上の誘導性接着分子であるE−セレクチンに結合する、皮膚リンパ球関連Ag(cutaneous lymphocyte-associated Ag:CLA+)を発現している(概説はSantamaria-Babi L.F., et al., Eur J Dermatol: 14, 13, (2004) 参照)。AD患者では対照者と比べて、循環CLA+T細胞の顕著な増加が見られることが報告されている(Teraki Y., et al., Br J Dermatol: 143, 373 (2000) 参照)一方で、AD患者由来のメモリーCLA+T細胞が、CLA集団と比べて、アレルゲン抽出物に対し優先的に応答することを示した報告もある(Santamaria-Babi, L.F., et al., J Exp Med:18l, 1935, (1995) 参照)。ヒトにおいて、皮膚のアトピー性疾患の病因は、IL−5及びIL−13 9,10等のTh2型サイトカインを高いレベルで発現するCLA+T細胞の増加と関連付けられてきた。Akdis M., et al., Eur J Immunol: 30, 3533 (2000) 及び Hamid Q., et al., J Allergy Clin Immunol: 98, 225 (1996) を参照のこと。
【0063】
NC/Ngaマウスは、非特定病原体除去(non-specific pasogen-free:非SPF)条件下で飼育すると、6〜8週齢頃にAD様の病変を自然発症する。この病変は、臨床的な経過及び徴候、組織病理及び免疫病理を含む、多くの面でヒトADに類似している。これに対して、SPF条件下に維持したNC/Ngaマウスは、皮膚病変を発症しない。しかしながら、SPF施設で飼育されているNC/Ngaマウスに、未精製チリダニ抗原を毎週一回皮内注射することにより、自然発症性皮膚病変及び引っ掻き行動の開始を同期させることができる。Matsuoka H., et al., Allergy: 58, 139 (2003) を参照のこと。従って、NC/NgaにおけるADの発生は、ADの治療における新規な治療薬を評価するためのモデルとして有効である。
【0064】
自然発症性ADのNC/Ngaモデルの他に、OVAを用いてマウスの表皮を感作し、感作されたマウスの皮膚に、単核浸潤により抗原依存性の表皮及び皮膚肥厚を誘発するモデルを使用することもできる。通常はこれと同時に、総IgE及び特異的IgEの血清レベルの上昇が見られるが、このモデルでは一般に、皮膚バリアの機能不全や掻痒は生じない。Spergel J.M., et al., J Clin Invest, 101: 1614, (1998) を参照のこと。このプロトコルに変更を加えて、DO11.10 OVA TCR遺伝子組み換えマウスをOVAで感作することにより、皮膚バリアの調節不全や掻痒を誘発するようにしてもよい。感作抗原を認識し得る抗原特異的T細胞数を増加させることによって、皮膚の炎症レベルを上昇させ、目視可能な引っ掻き行動や皮膚の苔癬化/落屑を誘発することができる。
【0065】
NC/Nga自然発症性ADモデル及びOVA表皮性DO11.10モデルは、何れもADにおけるIL−31及びIL−31RAの発現を調べる目的で使用できる。実施例3を参照のこと。
【0066】
IL−31中和アンタゴニストは、アトピー性皮膚炎反応を抑制、低減、極小化、又は予防する上で、有効である可能性がある。
【0067】
接触皮膚炎
【0068】
アレルギー性接触皮膚炎は、皮膚に接触した抗原に対する、T細胞媒介性の免疫反応であると定義される。アレルゲン依存性T細胞応答の大部分がCLA+細胞集団に限定されていることから、CLA+T細胞集団は皮膚炎の開始に関与していると見なされている。(Santamaria-Babi, L.F., et al., J Exp Med: 181, 1935, (1995) 参照)。最近のデータによれば、接触過敏症の一般的なアレルゲンであるニッケルに対する応答時に、CDD8+ T細胞ではなく、メモリー(CD45RO+)CDD4+ CLA+のみが増殖して、1型(IFN−γ)及び2型(IL−5)双方のサイトカインを産生する。更に、CLA発現細胞は、CD4、CD45RO(メモリー)又はCD69とともに、ニッケル特異的刺激の後に増加し、ケモカイン受容体CXCR3、CCR4、CCR10を発現するが、CCR6は発現しない。Moed H., et al., Br J Dermatol: 51, 32, (2004) を参照のこと。
【0069】
動物モデルでは、アレルギー性接触皮膚炎がT細胞依存性であり、アレルギー反応性T細胞がアレルゲン投与部位に遊走することが示されている。概要については Engeman T.M., et al., J Immunol: 164, 5207, (2000); Ferguson T.A. & Kupper T.S. J Immunol: 150, 1172, (1993); and Gorbachev A.V. & Fairchild R.L. Crit Rev Immunol: 21, 451 (2001) を参照のこと。CLA+T細胞がIL−31を産生し、皮膚角化細胞のIL−31刺激が炎症促進性ケモカインを誘発し得ることから、IL−31が接触皮膚炎の病態生理に関与している可能性がある。接触皮膚炎の生体内モデルを用いた実施例2を参照のこと。
【0070】
IL−31中和アンタゴニストは、接触皮膚炎反応を抑制、低減、極小化、又は予防する上で、有効である可能性がある。
【0071】
薬物性遅延型皮膚アレルギー反応
【0072】
薬物性遅延型皮膚アレルギー反応は極めて不均質であり、多数の異なる病態生理学的事象を反映している可能性がある。Brockow K., et al., Allergy: 57, 45 (2002) を参照のこと。これらの反応に関与している免疫学的機構は、抗体又は細胞の何れかに媒介されていることが示されてきた。即時型薬物アレルギーにおいては、20分後の陽性皮膚穿刺及び/又は皮内試験によって、IgE媒介性の抗体反応が生じることが示されている。一方、薬物に対する非即時型反応は、最後の薬物摂取から1時間が経過した後にも生じる可能性があり、その多くがT細胞媒介性である。非即時型T細胞媒介性遅延型反応は、例えばペニシリンに対して有害薬物反応を示す患者に生じ得る。ペニシリンに対する増殖性T細胞応答は、ペニシリンアレルギー患者由来のメモリー(CD45RO+)CLA+T細胞亜集団に限定されていることが示されている。一方、CD45RO+ CLA−サブセットは増殖性応答を示さない。Blanca M., Leyva L., et al., Blood Cells Mol Dis: 31, 75 (2003) を参照のこと。遅延型過敏症(Delayed-type hypersensitivity:DTH)反応をマウスで人工的に再現することができ、これによってDTH応答の開始及び永続化に関与し得る因子を評価することが可能となる。IL−31中和アンタゴニストは、遅延型過敏症反応を抑制、低減、極小化、又は予防する上で有効である可能性がある。DTHの生体内モデルを用いた実施例4を参照のこと。
【0073】
中毒性表皮剥離症(Toxic epidermal ネクローシス:TEN)は、非常に稀ではあるが、極めて重篤な薬物反応であり、高度の水疱を伴う広範囲の表皮のアポトーシスを特徴とする。研究が示すところによれば、水疱を浸潤するリンパ球はCLA+T細胞であり、表皮角化細胞に対して細胞毒性を示し得る。Leyva L., et al., J Allergy Clin Immunol: 105, 157 (2000) 及び Nassif A., Bensussan A., et al., J Allergy Clin Immunol: 114, 1209 (2004) を参照のこと。マウスの表皮及び体毛の濾胞性角化細胞において、OVAがケラチン(keratin-5:K5)プロモーターの制御下で発現される遺伝子組み換えマウス系を作成することにより、TENのための動物モデルを構築した。OVA特異的CDD8+ T細胞は、K5−OVAマウスに養子導入される(adoptively transferred)と、皮膚排液リンパ節(skin-draining lymph nodes)において活性化されて増殖し、K5−OVAマウスの皮膚を標的とすることにより、TENを連想させる皮膚病変を発生させる。Azukizawa H., et al., Eur J Immunol: 33, 1879 (2003) を参照のこと。IL−31中和アンタゴニストは、TEN反応を抑制、低減、極小化、又は予防する上で、有効である可能性がある。
【0074】
類天疱瘡
【0075】
類天疱瘡は表皮下の疾患であり、好中球及び好酸球を皮膚浸潤物とする表皮下水疱として現れる。診断の特徴となるのは、表皮及び皮膚表皮結合の特定の接着タンパク質に対する抗原特異的抗体の存在である。Jordon R.E., et al., JAMA: 200, 751 (1967) を参照のこと。PBL及び皮膚水疱T細胞の分析により、類天疱瘡の病因におけるT細胞の役割を分析した研究によれば、IL−4やIL−13等のTh2サイトカインを高レベルで発現するCLA+T細胞が支配的であることが明らかになった。Teraki Y., et al., J Invest Dermatol: 117, 1097 (2001) を参照のこと。全身性の副腎皮質ステロイド治療を受けた類天疱瘡患者では、CLA−ではなく、CLA+インターロイキン−13産生細胞の度数が顕著に減少していた。副腎皮質ステロイド治療に伴うCLA+細胞の減少は、臨床効果と関連している。Teraki, ibid を参照のこと。IL−31の中和が類天疱瘡の臨床成績を改善しているものと思われる。IL−31中和アンタゴニストは、類天疱瘡を抑制、低減、極小化、又は予防する上で有効である可能性がある。
【0076】
円形脱毛症
【0077】
円形脱毛症(alopecia areata:AA)は、リンパ球浸潤の持続的な活性のために濾胞活性が停止する、組織限定的な毛嚢の自己免疫疾患であると見なされている。AAによって、身体の任意の部位に斑状に体毛の完全脱落が生じるが、無毛病変においても実際の毛嚢の消失は生じない。炎症の臨床徴候は見られないが、疾病の活性部位の皮膚生検によれば、濾胞周囲における主としてCDD4+細胞のリンパ球炎症が、CDD8+濾胞内浸潤とともに見られた。Kalish R.S. & Gilhar A. J Investig Dermatol Symp Proc: 8, 164 (2003) を参照のこと。
【0078】
研究によれば、頭皮の皮膚に浸潤するCDD4+又はCDD8+リンパ球がCLAを発現しており、AA患者の末梢血中におけるCLA+CDD4+又はCDD8+リンパ球のパーセントは、健常対照と比べて有意に高かった。更に、重篤且つ進行性のAA患者は、疾病からの回復中の患者と比べて、遥かに高いCLA陽性を示しており、CLA+細胞のパーセントの減少は、良好な臨床経過と同様であった。Yano S., et al., Acta Derm Venereol: 82, 82 (2002) を参照のこと。従って、これらの研究は、CLA+リンパ球がAAにおいて重要な役割を果たしている可能性を示すものである。異種移植モデルによれば、活性化されたT細胞がAAの病因に関与している可能性が示されている。AA患者の病変頭皮をヌードマウスに移植すると、移植片からの浸潤リンパ球の消失と同時に毛髪が再生した。活性化された病変T細胞をSCIDマウスへ導入すると、SCIDマウス上のヒト頭皮外植片に毛髪脱落が生じた。Kalish R.S. & Gilhar A. J Investig Dermatol Symp Proc: 8, 164 (2003) を参照のこと。
【0079】
様々な免疫調節治療も本疾患に対する一般的な治療法となっているが、その何れも、一貫した効力が得られる治療法ではない。Tang L., et al., J Invest Dermatol: 120, 400(2003); Tang L., et al. (2004) 及び Tang L., et al., J Am Acad Dermatol: 49, 1013 (2003) を参照のこと。中和性抗IL−31抗体は、AAの発生による影響を制限、低減、抑制、又は予防する上で、有効である可能性がある。
【0080】
尋常性座瘡/酒さ性座瘡
【0081】
尋常性座瘡は毛嚢脂腺器の障害であり、青年期における最も一般的な皮膚の問題である。座瘡病変は濾胞角質化の異常により生じるものと考えられている。酒さ性座瘡が尋常性座瘡と違う点は、赤色丘疹、膿疱、嚢胞、及び広範な毛細血管拡張症が見られる一方で、面皰(白にきび)が見られない点である。皮脂腺からの皮脂排出の増加は、尋常性座瘡の病態生理における主要因子となっている。また、皮脂腺の他の機能も、座瘡の発生と関連しており、その例としては、皮脂腺性の炎症促進性脂質;局所的に産生されるサイトカイン;腺周囲のペプチド及び神経ペプチド、例えばコルチコトロピン放出ホルモン(これは脂腺細胞(sebocyte)から産生される);並びにサブスタンスP(これは座瘡患者の正常腺の近傍の神経終末において発現される)が挙げられる。Zouboulis CC. Clin Dermatol: 22, 360 (2004) を参照のこと。
【0082】
尋常性座瘡及び酒さ性座瘡の病態生理は未だに不明であるが、臨床知見や病理組織学的研究によれば、毛嚢脂腺濾胞の炎症が、酒さ性及び尋常性座瘡の病因の中心となっている可能性が示唆されている。酒さ性病変に浸潤するT細胞サブセットの分析に関する初期の研究は、T細胞の大部分がCD4を発現していることを示している。Rufli.T. & Buchner S.A. Dermatologica: 169, 1 (1984) を参照のこと。
【0083】
CDD4+ T細胞はIL−31を産生しており、皮膚のIL−31発現に関するIHC分析によれば、皮脂腺及び汗腺におけるIL−31の発現が示唆される。表皮角化細胞のIL−31刺激がケモカインの発現を誘発し、これが細胞浸潤を引き起こしている可能性が高いことから、皮膚の炎症促進応答に対するIL−31の寄与が示唆される。従ってIL−31は、酒さ性座瘡及び尋常性座瘡の病態生理に寄与していると考えられる。IL−31の中和によって、尋常性座瘡及び酒さ性座瘡の臨床成績が改善されるものと思われる。IL−31中和アンタゴニストは、尋常性座瘡及び酒さ性座瘡を抑制、低減、極小化、又は予防する上で、有効である可能性がある。
【0084】
結節性痒疹
【0085】
結節性痒疹は、治療困難な難治性掻痒により生じる、苔癬化又は剥脱性結節の発疹である。慢性的な摩擦によって苔癬化が生じ、引っ掻きによって線状の剥脱が生じる一方で、患者がその痒みのある、ヒリヒリする皮膚を摘んだり、抉ったりすると、痒疹性結節として知られる、極度に肥厚した丘疹が生じ易くなる。結節性痒疹はアトピー性皮膚炎に特有のものではないが、これらの結節を有する患者の多くはアトピー反応を有し、これはアレルギー性鼻炎、喘息、又は食物アレルギーとなって現れる。痒疹病変における浸潤細胞の大部分をT細胞が占めており、これらの病変は、アトピー患者において掻痒が最も強い皮膚病変にあたる場合が多い。
【0086】
カプサイシンは、皮膚の小感覚神経においてサブスタンスP等の神経ペプチドを除去することにより、掻痒や痛みの知覚を妨げる抗掻痒性アルカノイドであるが、このカプサイシンを用いた結節性痒疹の局所的治療が、皮膚病変の解消効果を有する有効且つ安全な措置であることが分かっている。Stander S., et al, J Am Acad Dermatol: 44, 471 (2001) を参照のこと。NC/Ngaマウスにカプサイシン治療を施し、その痒み応答を研究した結果によれば、皮膚炎病変の自然発生はほぼ完全に予防されることが示されている。更に、カプサイシン治療を受けたマウスでは、血清IgEレベルの上昇が著しく抑えられ、病変皮膚に浸潤する好酸球及びマスト細胞の数も低減された。Mihara K., et al., Br J Dermatol: 151, 335 (2004) を参照のこと。本グループの観察によれば、引っ掻き行動が様々な免疫学的応答を促進することにより、皮膚炎の発生に寄与していることが示唆された。従って、痒みの感覚及び/又は痒みによる引っ掻き行動の予防が、ADの有効な治療法となり得るものと推測される。Mihara K., et al., Br J Dermatol: 151, 335 (2004) を参照のこと。
【0087】
IL−31の慢性的な送達によって、マウスに掻痒症及び脱毛症が誘発され、続いて皮膚炎に類似した皮膚病変が発生することから、IL−31が掻痒を誘発していることが示唆される。Dillon S.R., et al., Nat Immunol: 5, 752 (2004) を参照のこと。IL−31治療マウスにおいてIL−31を中和することにより、掻痒症及び脱毛症を予防する試験を、実施例10で行なった。IL−31の中和が、結節性痒疹の臨床成績を改善しているものと思われる。IL−31中和アンタゴニストは、結節性痒疹を抑制、低減、極小化、又は予防する上で、有効である可能性がある。
【0088】
皮膚向性ウイルス及びウイルス関連掻痒症
【0089】
末梢血中の単純ヘルペスウイルス(Herpes Simplex Virus:HSV)特異的CDD8+ T細胞と、ヘルペス病変から回収されたHSV特異的CDD8+ T細胞が、高レベルのCLAを発現するのに対し、非皮膚向性ヘルペスウイルス特異的CDD8+ T細胞ではCLAの発現はみられない。Koelle D.M., et al., J Clin Invest: 110, 537 (2002) を参照のこと。HSV−2反応性CDD4+ Tリンパ球もCLAを発現するが、そのレベルは、CDD8+ Tリンパ球について既に観測されているレベルよりも低い。Gonzalez J.C., et al., J Infect Dis: 191, 243 (2005) を参照のこと。掻痒症はヘルペスウイルス感染との関連も指摘されているが(Hung K. Y., et al., Blood Purif: 16, 147 (1998) 参照)、HTV等の他のウイルス疾病も、掻痒性皮膚病変と関連付けられている。重篤な難治性の掻痒は、紅斑様丘疹状皮膚病変及び過好酸球増加症と関連付けられる場合が多いが、非アトピー性のHIV感染患者36にも観察された症状である。Singh F. & Rudikoff D, Am J Clin Dermatol; 4, 177 (2003) 及び Milazzo F., Piconi S., et al., Allergy: 54, 266 (1999) を参照のこと。
【0090】
皮膚向性ウイルスと掻痒症及びCLA+T細胞との関連は、IL−31産生T細胞がウイルス感染の病態生理に関与している可能性を示唆する。従って、IL−31中和アンタゴニストは、ウイルス関連掻痒症を抑制、低減、極小化、又は予防する上で有効である可能性があり、IL−31の中和は、ウイルス関連掻痒症の臨床成績を改善するものと思われる。
【0091】
IL−31が、正常ヒト表皮ケラチン生成細胞(normal human epidermal keratinocyte:NHEK)における、幾つかのケモカイン及びサイトカイン遺伝子を誘導することが示されてきた。例としては、GROα,(CXCL1)、TARC(CCl17)、MIP3β,(CCL19)、MDC(CCL22)、MIP−3(CCL23)、MIP−1β(CCL4)、及びI−309をコード化する遺伝子が挙げられる。Dillon S.R., et al., Nat Immunol: 5, 752 (2004) を参照のこと。TARC及びMDCはCCR4に結合する。CCR4はTh2型T細胞と関連し、末梢血中のCLA+T細胞により主として発現されているケモカイン受容体である。何れのケモカインも、AD患者皮膚へのT細胞動員への関与が指摘されていることから、ADの病因に関連する炎症プロセスにこれらのケモカインが寄与していることが示唆される。実施例9を参照のこと。これはCLA+T細胞介在疾病においてIL−31アンタゴニストを投与し、そのTARC及びMDCレベルの低下を測定したモデルである。
【0092】
乾癬は、7百万人を超えるアメリカ人に発症している慢性的な皮膚症状である。乾癬は新たな皮膚細胞が異常増殖した場合に発生し、古い皮膚の脱落が遅れた箇所に、炎症を起こして膨れた鱗状の皮膚変色部(patches)を生じる。プラーク状乾癬は最も一般的な種類の乾癬であり、その特徴は、炎症性の皮膚変色部(「病変」)の上部に銀白色の鱗屑が見られる点である。乾癬は少数のプラークに留まる場合もあるが、皮膚の中範囲から広範囲の領域に生じる場合もあり、特に頭皮、膝、肘、及び胴部に最も多く現れる。乾癬は非常に目立つ疾病ではあるが、伝染性の疾病ではない。この疾病の病因には、罹病組織の慢性的な炎症が関わっている。可溶性のヘテロ二量体及び多量体からなる受容体ポリペプチドである、本発明のIL−31RAポリペプチド、又は抗IL−31抗体又は結合パートナー等は、炎症を低減する有用な治療薬として機能し、乾癬、他の炎症性皮膚病、皮膚及び粘膜アレルギー、並びに関連する疾病において、病理学的効果を発揮する可能性がある。
【0093】
乾癬はT細胞により媒介される炎症性の皮膚疾患であり、著しい不快感を引き起こす場合がある。治療法が知られていない疾病の1つであり、あらゆる世代の人が罹病し得る。ヨーロッパ及び北アメリカの人口の凡そ2パーセントが乾癬に罹患している。軽度の乾癬であれば、患者は多くの場合、局所薬によって疾病を抑えることが可能であるが、世界中で百万人を超える患者が、紫外線や全身免疫抑制治療を必要としている。残念ながら、紫外線照射は不便で危険性もあり、また、治療の多くのは毒性を伴うことから、長期使用の妨げとなっている。更に、患者は通常、免疫抑制治療を止めると直ぐに乾癬を再発し、場合によってはより悪化してしまう。
【0094】
本技術分野で公知の方法や本明細書に開示の方法を用いれば、当業者であれば容易に、CLA+T細胞と高い相関を有する疾病において、IL−31を検出することが可能であろう。これらの方法は、患者から血液、唾液、生検等の生体試料を取得し、これを健常対照試料と比較する工程を伴う。組織学的手法、細胞学的手法、フローサイトメトリー、生化学的手法、及び他の方法を使用することにより、患者サンプルにおけるIL−31、或いはIL−31を発現する細胞、即ち単球の相対的なレベルや局在性を、健常対照との比較の下で決定することができる。対照に比べて、IL−31発現レベルの変化(増加又は減少)や、単球の数又は局在性の変化(例えば、単球細胞が通常は存在しない組織における単球細胞の増加又は浸潤)があれば、それが疾病の指標となり得る。更に、このような診断法には、例えばTARCやMDCの測定も含まれる。こうした方法は、本技術分野ではよく知られており、本明細書にも開示されている。
【0095】
IL−31RA受容体ポリペプチドに結合するIL−31ポリペプチドや、それに対する抗体は、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、薬物誘導性遅延型皮膚アレルギー反応、中毒性表皮壊死症、皮膚T細胞リンパ腫、類天疱瘡、円形脱毛症、白斑、酒さ性座瘡、結節性痒疹、及び単純ヘルペスウイルスの治療において、IL−31RAを含んでなる受容体を通じたシグナル伝達を拮抗又は遮断するのに有用である。
【0096】
また、IL−31は、CLA+T細胞により媒介される疾病について、リガンドの循環レベルを検出するための診断系や、そのような疾病の検出に使用してもよい。また、IL−31は、CLA+T細胞と高い相関を有する疾病について、リガンドの循環レベルを検出するための診断系や、そのような疾病の検出に使用してもよい。関連する一実施形態によれば、IL−31に特異的に結合する抗体又は他の薬剤を用いて、循環IL−31ポリペプチドを検出することができる。逆に、IL−31自体を用いることにより、循環又は局所作動性の受容体ポリペプチドを検出することもできる。リガンド又は受容体ポリペプチドのレベルの上昇又は低下が、炎症や掻痒症等の病理学的症状の指標となり得る。
【0097】
一般的に、IL−31抗体の投与量は、患者の年齢、体重、身長、性別、一般的健康状態、過去の病歴等の因子に応じて変化する。当業者であれば容易に、本技術分野で知られている方法を用いてこれらの投与量を決定し、更にはその投与量に調整を加えることが可能であろう。
【0098】
抗IL−31抗体の対象への投与は、局所的に、皮内に、吸入剤として、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、筋肉内に、皮下に、胸膜内に、くも膜下腔内に、局所カテーテルを通じた灌流により、或いは病変内への直接注射により行なうことが可能である。治療タンパク質を注射により投与する場合は、投与は持続点滴により行なってもよく、単回又は複数回のボーラス投与により行なってもよい。
【0099】
更に別の投与経路としては、経口、粘膜−膜(mucosal-membrane)、肺、及び経皮が挙げられる。経口デリバリーは、ポリエステルミクロスフェア、ゼインミクロスフェア、プロテイノイドミクロスフェア、ポリシアノアクリレートミクロスフェア、及び脂質ベースの系に好適である(例えば、DiBase and Morrel, "Oral Delivery of Microencapsulated Proteins," in Protein Delivery: Physical Systems, Sanders and Hendren (eds.), pages 255-288 (Plenum Press 1997) 参照)。実現可能な鼻腔内デリバリーの例としては、インシュリン投与と同様の態様が挙げられる(例えば、Hinchcliffe and Illum, Adv. Drug Deliv. Rev. 35:199 (1999) 参照)。IL−31を含んでなる乾燥又は液状粒子を、乾燥粉末分散器、液状エアロゾル発生器、又は噴霧器を用いて調製し、吸入することができる(例えば、Pettit and Gombotz, TIBTECH 16:343 (1998); Patton et al, Adv. Drug Deliv. Rev. 35:235 (1999) )。このアプローチの例としては、AERX糖尿病管理システム(AERX diabetes management system)が挙げられる。これは、エアロゾル化したインシュリンを肺に送達する、携帯型の電子式吸入器である。また、低周波超音波を用いることにより、大きさ約48,000kDaのタンパク質を皮膚経由で治療濃度となるように送達できることを示した研究もあり、経皮投与の実現可能性を証明している(Mitragotri et al, Science 269:850 (1995) )。エレクトロポレーションを用いた経皮デリバリーは、IL−31結合活性を有する分子を投与するための別の手段となり得る(Potts et al, Pharm. Biotechnol. 10:213 (1997) )。
【0100】
IL−31結合活性を有するタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含んでなる医薬組成物は、公知の方法に従い調合することが可能である。これによって治療タンパク質を、医薬的に許容し得る担体と組み合わせて混合物とした、医薬的に有用な組成物が調製される。ある組成物が「医薬的に許容し得る担体(pharmaceutically acceptable carrier)」であるとは、その投与が受容患者によって許容されることを言う。滅菌リン酸緩衝食塩水は、医薬的に許容し得る担体の一例である。他の好適な担体は、当業者には周知である。例えば、Gennaro (ed.), Remington's Pharmaceutical Sciences, 19th Edition (Mack Publishing Company 1995) を参照のこと。
【0101】
治療目的のためには、IL−31結合活性を有する分子、並びに医薬的に許容し得る担体を、患者に治療的に有効な量投与する。IL−31結合活性を有するタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドと、医薬的に許容し得る担体との組み合わせを、「治療的に有効な量」投与するとは、投与される量が生理学的に有意であることを言う。ある薬剤が生理学的に有意であるとは、その存在が受容患者の生理機能に対して、検出可能な変化を及ぼすことを言う。例えば、炎症の治療に使用される薬剤が、生理学的に有意であるとは、その存在によって炎症応答の少なくとも一部が緩和されることを言う。同様に、CLA+T細胞により媒介される疾病や、CLA+T細胞と高い相関を有する疾病に伴う痒みや掻痒の治療に使用される薬剤が、生理学的に有意であるとは、その存在によって掻痒又は痒み応答の少なくとも一部が緩和されることを言う。
【0102】
IL−31抗体を含んでなる医薬組成物は、液体形態、エアロゾル、又は固体形態の何れで供されてもよい。液体形態の例としては、注射用溶液、エアロゾル、液滴、トポロジカル溶液(topological solution)、経口懸濁液等が挙げられる。固体形態の例としては、カプセル、錠剤、放出制御製剤等が挙げられる。後者の形態は、小型浸透圧ポンプ(miniosmotic pumps)及びインプラントについて例証されている(Bremer et al, Pharm. Biotechnol. 10:239 (1997); Ranade, "Implants in Drug Delivery," in Drug Delivery Systems, Ranade and Hollinger (eds.), pages 95-123 (CRC Press 1995); Bremer et al., "Protein Delivery with Infusion Pumps," in Protein Delivery: Physical Systems, Sanders and Hendren (eds.), pages 239-254 (Plenum Press 1997); Yewey et al, "Delivery of Proteins from a Controlled Release Injectable Implant," in Protein Delivery: Physical Systems, Sanders and Hendren (eds.), pages 93-117 (Plenum Press 1997) )。他の固体形態としては、クリーム状、ペースト状、他のトポロジカルな(topological)適用等が挙げられる。
【0103】
IL−31結合活性を有するポリペプチドを、標準的なタンパク質マイクロカプセル化技術により、リポゾーム内に被包することも可能である(例えば、Anderson et al, Infect. Immun. 31:1099 (1981), Anderson et al, Cancer Res. 50:1853 (1990), and Cohen et al, Biochim. Biophvs. Acta 1063:95 (1991), Alving et al "Preparation and Use of Liposomes in Immunological Studies," in Liposome Technology, 2nd Edition, Vol. HI, Gregoriadis (ed.), page 317(CRC Press 1993), Wassef et al, Meth. Enzymol. 149:124 (1987) 参照)。上に述べた通り、治療的に有用なリポゾームは、種々の構成要素を含有していてもよい。例えば、リポゾームは、ポリエチレングリコールの脂質誘導体を含有していてもよい(Allen et al, Biochim. Biophvs. Acta 1150:9 (1993) )。
【0104】
当業者であれば、他の投薬形態についても案出し得るであろう。その例は、Ansel and Popovich, Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 5th Edition (Lea & Febiger 1990), Gennaro (ed.), Remington's Pharmaceutical Sciences, 19th Edition (Mack Publishing Company 1995), and by Ranade and Hollinger, Drug Delivery Systems (CRC Press 1996) 等に示されている。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を用いて本発明を更に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0106】
実施例1
刺激によりIL−31を発現するヒト一次T細胞型の決定
【0107】
A.被験者及び生検の選択
【0108】
12人のAD患者(疾病は中程度から重症、年齢の中央値32歳、皮膚の関与5〜45%),6人の乾癬患者(年齢の中央値は56歳、皮膚の関与10〜65%)及び12人の健常者(年齢の中央値34歳)を、説明及び同意の上で研究Aの被験者とした。何れの患者も、過去に如何なる全身性副腎皮質ステロイド治療も受けたことがなかった。何れの患者も、皮膚生検又は採血の1週間前から、局所的な副腎皮質ステロイド治療も受けないようにした。2mmのパンチ生検を、1)発症から3日未満の急性紅斑性AD病変、2)2週間を超えて持続している慢性苔癬化AD病変、3)慢性乾癬病変、及び、4)正常な皮膚から取得した。皮膚サンプルを直ぐに−70℃で冷凍し、免疫組織化学、又は、ウエスタン及びイムノ−ドットブロッティングに供した。
【0109】
B.一次ヒトT細胞サブセットの単離及び活性化:
【0110】
種々のT細胞サブセットを単離するために、標準的なフィコール(Ficoll)勾配遠心法を用いて、ドナーからのヒトPBMCを単離した。続いて、T細胞単離キットII(Miltenyi Biotec)を用いて、製造者の説明書に従い、全T細胞を単離した。標準的なフローサイトメトリーを用いて分離効率を評価したところ、>95%がT細胞であると判定された。CD45RA+「ナイーブ(naive)」T細胞をCD45RO+「メモリー(memory)」T細胞から分離するために、全T細胞集団を抗CD45ROマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)とともに、+4℃で15分間培養し、製造者の説明書に従い磁気的に分離した。フローサイトメトリーにより、ナイーブ及びメモリーT細胞集団は何れも>90%の純度であると判定された。
【0111】
CD45RO+メモリーT細胞は組織特異的である場合が多く、表面にα4/β7を発現している腸ホーミングT細胞から皮膚ホーミングT細胞を区別するために、皮膚リンパ球抗原(cutaneous Lymphocyte antigen:CLA)が使用される。これらの細胞型のうち何れがIL−31を産生しているかを決定するために、全T細胞からCLA+T細胞を単離し、活性化された馴化培地(activated and conditioned medium)を採取して、IL−31バイオアッセイに供した。このために、全T細胞を単離した後、1mLの1:50希釈の抗CLA−FITC抗体(PharMingen)中、氷上で20分間培養した。続いて、細胞を洗浄し、MACS緩衝液に再懸濁し、抗FITCマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)とともに+4℃で15分間培養した。次いで、細胞を洗浄、再懸濁し、LSカラムを用いて、製造者の説明書に従い磁気的に分離した。後に、標識されたT細胞の純度は>80%であり、CLA除去T細胞は>98%がCLA−であると判定された。CLA+及びCLA− T細胞の双方を採取し、同時に培養した。
【0112】
CD45RA+及びCD45RO+T細胞サブセットを活性化するために、2.0μg/mLの抗CD3抗体(Southern Biotechnology)で前処理した24ウェルの組織培養プレートを用いて、細胞を一晩培養した。細胞を組織培養液(RPMI、5%ウシ胎児血清、L−グルタミン及びピルビン酸ナトリウム(何れもGibco))中に2.5×106細胞/mLの濃度となるように蒔き、2.0μg/mLの抗CD28(Southern Biotechnology)を追加し、+37℃の培養器に入れた。4時間後、ウェルの半分を回収し、ペレット化細胞と馴化培地を、IL−31バイオアッセイの時まで−20℃で冷凍した。
【0113】
同様に、CLA+及びCLA− T細胞サブセットを、2.0μg/mLの抗CD3抗体(Southern Biotechnology)で前処理した48ウェルの組織培養プレートを用いて活性化した。細胞の活性化は、+37℃の培養器内で、6.25×105細胞/mLの濃度で、16時間又は24時間に亘って行なった。サンプルを採取し、ペレット化細胞と馴化培地を、IL−31バイオアッセイ時まで−20℃で冷凍した。準最適活性化のために、0.5μg/mlの抗CD3抗体で前処理したプレートを用いて、CLA+T細胞を培養した。
【0114】
C.ヒトIL−31バイオアッセイプロトコル:
【0115】
ML−31RA、hOSMRB、及びKZ134(シグナル伝達性転写因子−活性化ルシフェラーゼレポーター)によってトランスフェクトされたBAF3細胞を、5×105及び1×106細胞/mLとなるまで培養した。細胞をアッセイ溶媒(RPMI 1640、10%FBS、L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、及びPen/Strep(何れもGibco))で洗浄し、アッセイ溶媒中に3×105細胞/mLとなるよう再懸濁した。96ウェルの不透明のプレートに、hIL−31標準を力価測定に供すべく、アッセイ溶媒を用いて600pg/mLから9.38pg/mLまで、100μL/ウェルとなるよう、1:2ずつ二系列の段階希釈を行なった。このプレートに品質管理標準を、100μL中に350pg/mL及び35pg/mLとなるよう、二系列に加えた。試験サンプルを適宜1:2又は1:4に希釈し、サンプルウェルに二系列に加えた。続いて、100μLの洗浄済みBAF3細胞を各ウェルに、最終濃度が3×104細胞/ウェルとなるように加えた。その後、このプレートを+37℃、5%CO2の培養器中で、16〜24時間培養した。続いて、このプレートを1200RPMで5分間遠心分離し、溶媒を除去し、25μL/ウェル のリーシスバッファー(Promega)を各ウェルに加えた。10分間後、プレートをルミノメーター(Berthold)で測定した。ルミノメーターでは、40μL/ウェルのルシフェラーゼ基質混合物(Promega)を加え、4秒間のルミネッセンスを積分した。ルミネッセンス値をスプレッドシートにエクスポートし、値を分析して、106細胞当たり、容積mL当たりのピコグラム単位のIL−31量に変換した。データを表1に纏めて示す。
【0116】
D.IL−31バイオアッセイの結果:
【0117】
CD45RA+及びCD45RO+ T細胞サンプルについて得られた結果から、IL−31が主にCD45RO+メモリーT細胞の活性化によって産生されることが明らかとなった。何れのドナーに由来するCD45RA+及びCD45RO+ T細胞からも、未刺激時には、IL−31の産生は検出されなかった。しかしながら、ドナー#3及び#4から得られたCD45RO+ サンプルは、プレート結合抗CD3及び可溶性抗CD28による24時間の活性化後は、何れも有意なレベルのIL−31を生成していた(それぞれ110.4 pg/106細胞/mL及び145.6 pg/106細胞/mL)。反対に、ドナー#3及び#4由来のCD45RA+ T細胞を抗CD3及び抗CD28で活性化した場合には、極めて微量のIL−31しか産生しなかった(それぞれ13.1pg/106細胞/mL及び12.7 pg/106細胞/mL)。
【0118】
CLA+及びCLA− T細胞サンプルが示しているように、IL−31のほぼ全てが、活性化されたCLA+T細胞により産生されたものと思われる。何れのドナーT細胞のCLA−集団(これにはナイーブT細胞、α4/β7腸ホーミングメモリーT細胞、及び組織未分化(tissue uncommitted)T細胞)についても、時間や活性化条件に係わらず、検出可能なレベルのIL−31産生は見られなかった。一方、CLA+T細胞は、2.0μg/mLプレート結合抗CD3抗体により刺激した場合に、極めて高いレベルのIL−31を発現した。ドナー#5は、16時間で1385.7pg/106細胞/mLのIL−31を、24時間で>1920pg/106細胞/mLを生成した。ドナー#6は、16時間で121.3 pg/106細胞/mLのIL−31を、24時間で328.9pg/106細胞/mLのIL−31を生成した。これらの結果が明らかに示しているように、標準活性化条件下では、T細胞サブセットのうち特に皮膚(CLA+)T細胞によって、IL−31が作製されるものと思われる。
【0119】
【表1】

【0120】
実施例2
接触過敏症の開始及び永続化に対するIL−31の関与
A.方法I
【0121】
BALB/cマウスの背中中央部を剪毛する。0.5%DNFB(2,4−ジニトロフルオロベンゼン:2,4,dinitro-fluoro-benzene、Sigma、St. Louis、MO)をアセトン:オリーブ油(4:1)中に溶解させた溶液25μlを、ピペッターを用いて剪毛部に塗布する。ビヒクル対照群には25μlのアセトン:オリーブ油のみを塗布する。5日後、マウスを吸入チャンバー内で、イソフルランで麻酔し、実験及び対照動物の両耳介をエンジニア用マイクロメータ(engineer's micrometer)(ミツトヨ社)で測定し、ベースライン測定値を得る。続いて、全マウスの各耳の両側に0.25%DNFBのアセトン:オリーブ油(4:1)中溶液10μlを塗布し、マウスを抗原暴露する。24時間後及び48時間後、右耳(抗原暴露)と左耳(抗原未暴露)との差より、接触過敏性を測定する。エンジニア用マイクロメータでAU測定を行なう。ナイーブマウスの耳の膨化度(swelling)を抗原暴露した耳と抗原未暴露の耳とで比較することにより、バックグラウンド値を決定する。
【0122】
FACS及び/又はELISA分析用に全血液及び血清を採取してから屠殺し、耳を採取して組織分析に供する。
【0123】
方法II(Th2応答の誘発)
【0124】
BALB/cマウスの背中中央部を剪毛する。0.5%FITC(fluorescein isothiocyanate:フルオレセインイソチオシアネート)の1:1アセトン/フタル酸ジブチル(MSDSから入手可能)中溶液100μlを、ピペッターを用いて1、2、及び8日目に剪毛部に塗布する。13日目に、マウスを吸入チャンバー内で、イソフルランで麻酔し、実験及び対照動物の両耳介をエンジニア用マイクロメータ(engineer's micrometer)(ミツトヨ社)で測定し、ベースライン測定値を得る。0.5%FITC(1:1アセトン/フタル酸ジブチル中)25μlを各耳の背面に塗布し、マウスを抗原暴露する。24時間後及び48時間後、右耳(抗原暴露)と左耳(抗原未暴露)との差より、接触過敏性を測定する。測定は全てエンジニア用マイクロメータを用いて行なう。ナイーブマウスの耳の膨化度(swelling)を抗原暴露した耳と抗原未暴露の耳とで比較することにより、バックグラウンド値を決定する。FACS及び/又はELISA分析用に全血液及び血清を採取してから屠殺し、耳を採取して組織分析に供する。
【0125】
方法III(Th1応答の誘発)
【0126】
BALB/cマウスの背中中央部を剪毛する。2%オキサザロン(oxazalone)(4:lアセトン/オリーブ油中)25μlを、ピペッターを用いて剪毛部に塗布する。7日目に、マウスを吸入チャンバー内で、イソフルランで麻酔し、実験及び対照動物の両耳介をエンジニア用マイクロメータ(engineer's micrometer)(ミツトヨ社)で測定し、ベースライン測定値を得る。8μlのオキサザロンを各耳の背面に塗布し、マウスを抗原暴露する。24時間後及び48時間後、右耳(抗原暴露)と左耳(抗原未暴露)との差より、接触過敏性を測定する。測定は全てエンジニア用マイクロメータを用いて行なう。ナイーブマウスの耳の膨化度(swelling)を抗原暴露した耳と抗原未暴露の耳とで比較することにより、バックグラウンド値を決定する。FACS及び/又はELISA分析用に全血液及び血清を採取してから屠殺し、耳を採取して組織分析に供する。
【0127】
接触過敏性の開始及び永続化に対するIL−31の関与について、実験の感作期及び抗原暴露期の双方に、IL−31に対する中和抗体を用いて試験を行なう。
【0128】
実施例3
アトピー性皮膚炎に対するIL−31の関与
【0129】
A.方法I(NC/Ngaマウスの感作)
【0130】
雄NC/NgaマウスをCharles River Laboratories(日本)から購入した。到着時に4週齢であったマウスを、SPF検疫条件で4週間飼育して順化させた。マウスが凡そ10〜11週齢の時に抗原感作を開始した。マウスをイソフルランで麻酔し、背中を電気バリカンで剪毛した。凡そ10μgのヤケヒョウヒダニ(Derrnatophagoides pteronyssinus:Dp)(Indoor Biotechnologies、Charlottesville、Virginia、特注品)抽出物を毎週3回、5から6週間に亘って、マウスの首筋に皮内注射し、マウスに皮膚病変を生じさせた。対照動物には毎週3回、10μlのPBSを皮内注射した。Dp抽出物はMatsuoka等の方法に従って調製した。Matsuoka H., et al., Allergy: 58, 139 (2003) を参照のこと。要約すると、595mgのDp凍結乾燥使用済培養抽出物(Dp lyphilized spent culture extract)を12mL滅菌PBS(Gibco)に溶解させた。Dpを50mLファルコンチューブ(Falcon tube)中、振盪機(shaking rocker)で30分間混合した。抽出物を2000rpmで10分間遠心分離し、上清を採取して、1mLの冷凍用バイアルチューブ(cryovial tubes)に分注し、−20℃で保存した。
【0131】
B.方法II(DO11.10マウスの感作)
【0132】
DO11.10遺伝子組み換えマウスを室内コロニーから繁殖させ、9.5から14週齢の間で抗原感作に供した。表皮感作の24時間前に、マウスをイソフルランで麻酔し、マウスの体幹全体(背部及び腹部)を電気バリカンで剪毛した。その後、マウスの背中をエラスチン手術用テープ(Johnson and Johnson)でテープ除毛した(tape stripped)。1cm2の滅菌ガーゼパッチを500μgのオボアルブミン(Calbiochem 32467)又は滅菌PBS(Gibco)で湿らせ、マウスの左後側部にDuoDerm Extra薄包帯(ConvaTec 187932)を用いて貼り付けた。次いで、パッチ及び包帯を含めた全身をエラスチン手術用テープで被覆し、マウスがパッチを剥がしたり破損したりできないようにした。パッチの装着から7日後、パッチを取り外した。マウスを2週間休ませた後、再度表皮感作を行なった。マウスは1週間の感作を計3回受けたことになる。
【0133】
結果:
【0134】
チリダニ感作NC/Nga及びOVA感作DO11.10動物の病変及び非病変皮膚におけるIL−31RA発現を免疫組織化学分析した結果、マウスの表皮角化細胞でIL−31RAが発現されていたが、本試験における抗原感作動物とPBS感作動物との間で、発現のレベルに有意差は見られなかった。
【0135】
実施例4
IL−31関与遅延型接触過敏性
【0136】
A.方法
【0137】
DTH応答を引き起こすために、0日目に、マウス尾の基部に100μgのオボアルブミン(OVA)(フロイント完全アジュバント(complete Freund's adjuvant:CFA、総体積50〜100μl)中)を皮下免疫化し、抗原感作を行なった。1週間後、マウスを吸入チャンバー内で、イソフルランで麻酔し、実験及び対照動物の両耳介をエンジニア用マイクロメータ(engineer's micrometer)(ミツトヨ社)で測定し、ベースライン測定値を得た。マウスの左耳介に、10μgのOVA(PBS中、総体積10μl)を、静脈を傷つけないよう皮膚の直下に皮内注射し、抗原暴露した。対照として、マウスの右耳介には10μlのPBSを注射した。一部のケースについて、OVAの耳内に皮内注射を行なった分離対照群を局所副腎皮質ステロイドで処理し、反応を抑制した正の対照として用いた。抗原暴露の24時間及び48時間後、マウスを麻酔して耳厚を測定した。結果は以下のように表わした。比耳膨化度(specific ear swelling)=実験群の耳の(24時間測定値−0時間測定値)−負の対照群の耳の(24時間測定値−0時間測定値)。DTHの顕著な特徴である硬結(Induration)は、感作抗原の注射から18時間後までに検出可能となり、24〜48時間で最大となる。この触知可能な硬結の開始時期の遅れが、応答「遅延型(delayed type)」という名前のついた所以である。
【0138】
B.結果
【0139】
IL−31遺伝子組み換えマウスをDTHについて試験したが、非抗原暴露IL−31遺伝子組み換え動物の耳厚さも膨化したために、本試験におけるIL−31 Tg動物と野生型対照との比較では、DTHについての統計的な有意差は検出されなかった。また、IL−31受容体ノックアウト動物のDTH応答も試験したが、受容体ノックアウト動物と野生型動物との間で、そのDTH応答に有意差は観察されなかった。
【0140】
実施例5
未発症(uninvolved)乾癬及びアトピー性皮膚炎の皮膚病変におけるIL−31の免疫組織化学的(Immunohistochemistrical:IHC)染色
【0141】
未発症乾癬、アトピー性皮膚炎、及び正常皮膚を、IL−31リガンドについて、IHCにより試験した。正の対照細胞は、IL−31でトランスフェクトしたBHK細胞から構成した。負の対照としては:(1)トランスフェクトされていないBHK細胞、(2)染色代表組織及び細胞を、タンパク質A精製正常ウサギ血清と、通常通り結合した検出用抗体とともに用いた。抗体試薬としては、E5758(ウサギ抗huIL−31CEE、1.0mg/mlでアフィニティー精製)を用いた。対照細胞としては、zcytor17 Lig hu−CEE/21を発現するC02-6020:BHK細胞と、BHK野生型とを用いた。試験対象の組織としては、急性アトピー性皮膚炎の皮膚サンプル、慢性アトピー性皮膚炎の皮膚サンプル、未感染領域の皮膚サンプル、及び健常対照の皮膚サンプル、及び他の室内対照サンプルを用いた。
【0142】
上述の細胞及び組織を10%NBF中で一晩固定し、標準的な手法によりパラフィンに包埋した。
【0143】
5μMの切片を61℃で30分ベイクし、組織接着させた。次いで、スライドをキシレン中3×5’で脱ワックスし、以下の手順で段階的アルコール処理により再水和した:100%EtOH中2×2’、×95%EtOH中2×2’、70%EtOH中1×2’。スライドをdH20中でリンスした後、熱誘導エピトープ修復(heat induced epitope retrieval:HIER)を蒸気中で20分間実施し、続いて、10mMトリス、1mM EDTA、pH9.0中、20分間でRTに冷却した。
【0144】
スライドをDakoCytomation Autostainerに装着した。スライドを、メーカーの推奨通りに調製したTBS/Tweenバッファー(TBST)中でリンスした。内在ビオチンをブロックするため、アビジン溶液中で10分間培養し、TBSTで洗浄し、続いてビオチン溶液中で10分間インキュベートした。スライドをTBST中で洗浄した。タンパク質ブロック剤(PBSB)(0.5%ブロック用パウダーPBS中溶液、Perkin Elmer NEL700001KT.)を30分間適用した後、スライドから濯ぎ落とした。一次抗体を500ng/mlに希釈し、ChemMate抗体希釈バッファー(part# ADB250、Ventana Medical systems)中で60分間適用した。
【0145】
組織をTBSTで2度洗浄した後、ビオチン化ヤギ抗ウサギAbを750ng/mlでPBSB中に含む溶液(カタログ# BA-1000, Vector Labs)とともに、45分間インキュベートした。スライドをTBSTで2度洗浄した。Vectastain Elite ABC 試薬(カタログ# PK-7100, Vector Labs)を45分間インキュベートした。スライドをTBSTで2度洗浄した。DAB+(カタログ# K-3468, DakoCytomation)を用い、室温で10分間、シグナルを展開した。その後、組織スライドをヘマトキシリン(カタログ# H-3401, Vector Labs)で対比染色し、脱水し、VectorMount(カタログ# H-5000, Vector Labs)に装着してカバーグラスを載せた。
【0146】
結果:
【0147】
1)細胞対照:
【0148】
IL−31でトランスフェクトされたBHK細胞は、IL−31抗体E5758を用いた染色に陽性であったのに対して、トランスフェクトされていない細胞はこの抗体に対して陰性であった。これらのトランスフェクト及び未トランスフェクト細胞は、抗ウサギ血清に対して陰性であった。
【0149】
2)アトピー性皮膚炎の皮膚分析:
【0150】
AD皮膚サンプルのIL−31染色パターンは、以前報告された乾癬皮膚の染色パターンと同一であった。これらのパターンでは、角化細胞及びCD3陽性T細胞がIL−31染色に陰性であった。汗腺の腺体(secretory portion)の上皮細胞には微弱ではあるが比較的均一な染色が見られたのに対し、管部(duct portion)の上皮の内層には強いシグナルが観測された。皮脂腺はIL−31陽性であった。ADと正常皮膚との間でIL−31染色の違いは見られなかった。
【0151】
未発症乾癬、アトピー性皮膚炎、及び正常皮膚の免疫組織化学的(IHC)染色では、皮脂腺のホロクリン分泌に強いIL−31染色が見られた。IL−31遺伝子組み換えマウスの表現型を考慮すると、皮脂腺が毛嚢の外毛根鞘から上皮芽(epithelial bud)として発生しているのは、興味深い点である。皮脂腺に加えて、汗腺の腺体の上皮細胞に、微弱ではあるが比較的均一なIL−31染色が観察され、汗腺の管部では、上皮の内層に強いシグナルが観測された。
【0152】
実施例6
未発症乾癬及びアトピー性皮膚炎におけるIL−31RAの免疫組織化学的(IHC)染色
【0153】
未発症乾癬、アトピー性皮膚炎、及び正常皮膚を、IL−31RAについてmCにより試験した。正の対照細胞は、IL−31RA及びOSMRで二重にトランスフェクトされたBHK細胞から構成した。負の対照としては:(1)トランスフェクトされていないBHK細胞、(2)染色代表組織及び細胞を、タンパク質A精製正常ウサギ血清と、通常通り結合した検出用抗体とともに用いた。抗体試薬としてはE6292(ウサギ抗huIL−31RAs−CEE v.4、1.33mg/ml)を用いた。対照細胞としては、ヒトIL−31RA及びヒトOSMRを発現するC02−5117 BHK細胞(ペレット中の総細胞数:3.9×106、生存率>90%)と、C04-1587:BHK野生型(ペレット中の総細胞数:5×106)を用いた。実験に供する他の組織としては:急性アトピー性皮膚炎の皮膚サンプル5つ、慢性アトピー性皮膚炎の皮膚サンプル10つ、未感染領域の皮膚サンプル10つ、正常対照皮膚サンプル、及び他の室内皮膚サンプルを用いた。
【0154】
上述の細胞及び組織を10%NBF中で一晩固定し、標準的な手法によりパラフィンに包埋した。
【0155】
5μMの切片を61℃で30分ベイクし、組織接着させた。次いで、スライドをキシレン中3×5’で脱ワックスし、以下の手順で段階的アルコール処理により再水和した:100%EtOH中2×2’、×95%EtOH中2×2’、70%EtOH中1×2’。スライドをdH20中でリンスした後、熱誘導エピトープ修復(heat-induced epitope retrieval:HIER)を蒸気中で20分間実施し、続いて、10mMトリス、1mM EDTA、pH9.0中、20分間でRTに冷却した。
【0156】
スライドをDakoCytomation Autostainerに装着した。スライドを、メーカーの推奨通りに調製したTBS/Tweenバッファー(TBST)中でリンスした。内在ビオチンをブロックするため、アビジン溶液中で10分間培養し、TBSTで洗浄し、続いてビオチン溶液中で10分間インキュベートした。スライドをTBST中で洗浄した。タンパク質ブロック剤(PBSB)(0.5%ブロック用パウダーPBS中溶液、Perkin Elmer NEL700001KT.)を30分間適用した後、スライドから濯ぎ落とした。IL-31RA用に一次抗体を665ng/mlから1330ng/mlに希釈し、ChemMate抗体希釈バッファー(part# ADB250、Ventana Medical systems)中で60分間適用した。
【0157】
組織をTBSTで2度洗浄した後、ビオチン化ヤギ抗ウサギAbを750ng/mlでPBSB中に含む溶液(カタログ# BA-1000, Vector Labs)とともに、45分間インキュベートした。スライドをTBSTで2度洗浄した。Vectastain Elite ABC 試薬(カタログ# PK-7100, Vector Labs)を45分間インキュベートした。スライドをTBSTで2度洗浄した。DAB+(カタログ# K-3468, DakoCytomation)を用い、室温で10分間、シグナルを展開した。その後、組織スライドをヘマトキシリン(カタログ# H-3401, Vector Labs)で対比染色し、脱水し、VectorMount(カタログ# H-5000, Vector Labs)に装着してカバーグラスを載せた。
【0158】
結果を表2に示す。
【0159】
【表2】

【0160】
AD皮膚サンプルの表皮には僅かにIL−31RAの上方制御がみられた。AD皮膚では、僅かな比率のCD3陽性T細胞が、IL−31RA陽性であると考えられる。試験された全ての皮膚サンプルにCLA陽性細胞が存在していた。AD皮膚は、正常サンプルやUADサンプルよりも多くのCLA陽性細胞を有しているものと思われる。
【0161】
エクリン汗腺の上皮細胞では、IL−31の受容体であるIL−31RAが発現されていた。エクリン汗腺の腺体の立方上皮細胞は、管部と比べて僅かに高いレベルのIL−31RAタンパク質を示していた。
【0162】
総合すると、これらのデータは、対照健常者及びAD患者の双方で、表皮角化細胞によりIL−31RAが発現されることを示している。しかしながら、AD皮膚生検由来の角化細胞で発現されるIL−31RAのレベルは、健常対照由来の皮膚生検で観察されるレベルよりも高かった。これは、ADにおいて、IL−31に対する応答性が高まっている可能性を示すものである。
【0163】
また、AD患者由来の皮膚生検に存在する、血管周囲の浸潤細胞のサブセットにおいても、IL−31RAの発現が見受けられたが、対照皮膚生検には見受けられなかった。これらのIL−31RA+細胞は、組織マクロファージマーカーCD68に対して特異的な抗体によって確認された。これは、これらの細胞が皮膚浸潤性組織マクロファージであることを示している。
【0164】
実施例7
レーザー捕獲顕微鏡法(Laser Capture Microscopy)皮膚浸潤細胞の単離、及びRT−PCRによるIL−31MRNAの分析
【0165】
皮膚生検における皮膚浸潤性T細胞の存在は、AD患者を健常者から区別する特徴である。IL−31はT細胞関連サイトカインであるから、AD患者由来の組織生検中の皮膚浸潤性T細胞におけるIL−31の発現を調べた。まず、AD患者由来の皮膚組織生検におけるCD3+ T細胞数に、健常者と比べて増加が見られることを、IHCにより確認した。表2参照。次に、レーザー捕獲顕微鏡法(laser capture microscopy)を用いて、皮膚浸潤細胞を特異的に単離し、IL−31mRNAのRT−PCR分析に供した。IL−31mRNAは、急性AD患者由来の皮膚浸潤細胞において発現されていた。正常組織では通常、浸潤細胞は観察されないため、試験を行なうことはできない。しかしながら、AD及び正常皮膚の双方に存在する表皮角化細胞層を、IL−31mRNA発現 について分析したところ、正常サンプルに、ADサンプルの表皮角化細胞層と比べてより低いレベルのIL−31mRNAが観察された。内部対照遺伝子(HPRT)との比較によるIL−31mRNA発現の半定量分析によれば、IL−31mRNAレベルはADサンプルと正常サンプルとの間に有意差がないものの、AD患者由来の皮膚ではIL−31発現が上昇する傾向があることが示された。
【0166】
実施例8
IL−31は皮膚ホーミング表現型のメモリーT細胞によって産生される。
【0167】
皮膚生検の分析により、IL−31mRNAを発現する皮膚の浸潤CD3+ T細胞は、皮膚ホーミングマーカー皮膚リンパ球抗原(cutaneous lymphocyte antigen:CLA)を発現することが確認された。正常ヒト末梢血中の全T細胞集団において、IL−31の発現は、CD45RA+ ナイーブT細胞集団とは対照的に、主にCD45RO+メモリー/エフェクター細胞のみに限定されている。
【0168】
IL−31産生がCLA+皮膚ホーミングT細胞と関連しているか否かを調べるために、ADと診断された患者及び対照健常者の末梢血からCLA+及びCLA− T細胞を単離し、抗CD3及び抗CD28刺激後におけるIL−31mRNA及びタンパク質レベルを比較した。これらの結果は、AD及び健常者由来の双方のCLA+T細胞において、また、刺激後4時間(CLA−と比較した場合、AD及び正常がそれぞれp0.0087及びp0.0022 CLA+)及び24時間(CLA−と比較した場合、AD及び正常サンプルの何れも、p0.0022 CLA+)の双方において、IL−31mRNAが有意に上昇したことを示している。培養上清中におけるIL−31タンパク質レベルを分析したところ、AD及び対照個体の何れに由来するCLA− T細胞の培養上清中にも検出可能なIL−31は見られなかったことから、IL−31の大部分がCLA+ T細胞によって産生されていることが確認された。IL−31レベルについて、AD患者と健常者との間に有意差は見られなかった。また、健常ボランティア由来の他の組織特異的ホーミングマーカー(例えば腸特異的ホーミングマーカーα4β7)を発現する末梢血T細胞によるIL−31産生についても分析を行なった。CLA+T細胞及びα4β7+細胞により産生されるIL−31レベルを比較すると、CLA+T細胞の方がα4β7+細胞に比べて優先的にIL−31を産生している(それぞれ平均34.5pg/ml及び14.42pg/mlのIL−31)ことが明らかである。
【0169】
AD患者及び健常対照者の何れについても、活性化により循環CLA+T細胞からIL−31の発現がみられたものの、AD患者由来のCLA+T細胞の方が、健常者由来の細胞に比べて、より活性化された状態で存在していたと報告されている。従って、CLA+T細胞によるIL−31の産生に必要な刺激の閾値は、皮膚炎患者と対照者とで異なることとなる。この仮説を検証するべく、AD患者及び対照個体由来のCLA+T細胞を、抗CD28の不存在下、準最適濃度の抗CD3によって刺激し、刺激から24時間後における培養上清中のIL−31産生を分析した。その結果によれば、一部のAD患者由来の循環CLA+T細胞は、本試験における健常者由来の細胞と比較して、より高いレベルのIL−31を産生しており、その最高レベルは1200pg/mLに達していたのに対し、正常CLA+上清中に検出された最低レベルは僅か400pg/ml、準最適濃度の抗CD3による刺激時の乾癬患者の最高レベルは73pg/mlであった。11人のAD患者のうち5人において、本アッセイにおけるIL−31レベルが検出限界未満であったことから、IL−31の産生レベルが低いAD患者のサブセットの存在が示唆された。これは、本試験集団の疾病のステージにばらつきがあることを反映しているのかも知れない。それでも、半数を超えるAD患者が、乾癬患者及び健常者に比べて、抗CD3による準最適刺激の後、より高いIL−31レベルを示す傾向が見られた。AD患者の皮膚には、健常者と比べてより多くのCLA+T細胞が局在していたことから、本試験は、AD皮膚の微小環境においてIL−31活性が高まる可能性を示唆している。従って、本試験により、より活性化されたIL−31産生CLA+T細胞を有する、AD患者の亜集団の存在が示唆されたものと思われる。
【0170】
実施例9
ADマウスモデルにおける抗IL−31抗体に応じたTARC及びMDCの減少
【0171】
方法I
【0172】
6週齢の雄NC/Ngaマウス(CRL Japan)に毎週3度、50μgのチリダニ抽出物(ヤケヒョウヒダニ(D. pteronyssinus)、Indoor Biotechnologies)を、背中に皮内投与して感作し、AD様病変(AD-like lesions)を点数化した。5週間の感作の後、マウスを安楽死させ、右耳を切除し、RPMI+2%FBS(GIBCO Invitrogen)を入れた48ウェル培養皿(Corning)の1つのウェル内に配置した。プレートを5%CO2湿度制御培養器内に置いた。24時間後に上澄みを集め、更なる分析に供するまで−20℃で冷凍した。
【0173】
方法II
【0174】
12週齢の雌NC/Ngaマウス(CRL Japan)に毎週3度、10μgのSEB(Toxin Technology)を、耳及び背中に皮内投与して感作した。これらのマウスのAD様病変を点数化した。5週間の感作の後、マウスを安楽死させ、右耳を切除し、RPMI+2%FBSを入れた48ウェル培養皿の1つのウェル内に配置した。プレートを5%CO2湿度制御培養器内に置いた。24時間後に上澄みを集め、更なる分析に供するまで−20℃で冷凍した。
【0175】
感作1週間から2週間後より、両試験のマウス群に、ラット抗マウスIL−31モノクローナル抗体10mg/kg、或いはビヒクルの何れかを各週2度、腹腔内投与した。
【0176】
24時間の上清サンプル中におけるTARC及びMDCの濃度を、従来のELISA(R&D Systems)法により測定した。
【0177】
何れの試験でも、抗IL−31処理マウス由来の耳上清中におけるTARC及びMDCの濃度は、対照マウスに比べて低かった。しかし、これらの結果をANOVA分析すると、統計的有意性は見られなかった。これはおそらくサンプル数が少ないためである。両実験のデータを組み合わせて分析すると、各処理群の間には統計的有意性が見られる。
【0178】
実施例10
IL−31中和抗体の投与
【0179】
1u/日のmIL−31を送達する14日用浸透圧ポンプ(Alzet、#2002)を、約8から12週齢の正常雌BALB/cマウス(CRL)の皮下にインプラントした。複数のマウスの群に、IL−31デリバリーの1週間前から、ラット抗マウスmIL−31モノクローナル抗体10mg/kg(200ug/マウス)を毎週2度、腹腔内(i.p.)注射した。複数のマウスの対照群には、同一の投薬スケジュールで、ビヒクル(PBS/0.1%BSA)を腹腔内注射した。マウスを以下の基準により、脱毛症及び掻痒症に関して点数化した。0 = 引っ掻きは見られず、動物は正常に見える。1 = 小領域における被毛の薄化が生じ、引っ掻きが観察される。2 = 僅かな毛の脱落(小さな皮膚変色部)、引っ掻きがある。3 = 中程度の毛の脱落、引っ掻きがある。4 = 重度の毛の脱落、過度の引っ掻きがある。
【0180】
全ての実験において、ラット抗mIL−31mAbで処理したマウスには、症状の開始に凡そ5から7日の遅れがみられ、脱毛症及び掻痒症に関する点数も全体的に、より低くなっていた。mAb処理マウスの全ての群は(投薬頻度や濃度に関係なく)、対照マウスと同様、実験の13日目までに脱毛症及び掻痒症を発症した。これらのデータは、IL−31を中和することによって、IL−31によって誘発される引っ掻き/毛喪失応答の開始を遅らせることができることを示している。
【0181】
本明細書では例証の目的で、本発明の特定の実施形態について説明を行なったが、本発明の趣旨及び範囲を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能であることは、以上から明らかであろう。即ち、本発明は添付の特許請求の範囲の他に、如何なる制限も受けるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトピー性皮膚炎に罹患した皮膚を治療する方法であって、前記罹患皮膚を有する哺乳類にアンタゴニスト分子を投与する工程を含んでなるとともに、前記罹患皮膚が皮膚リンパ球抗原陽性T細胞により特徴付けられ、また、前記アンタゴニスト分子が、配列番号2又は配列番号4に表わされるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに特異的に結合し、前記アンタゴニスト分子の投与によって罹患皮膚を改善、予防、抑制又は低減する方法。
【請求項2】
アトピー性皮膚炎に関連して生じる掻痒症を治療するための方法であって、前記掻痒症を有する哺乳類にアンタゴニスト分子を投与する工程を含んでなるとともに、前記掻痒症が皮膚リンパ球抗原陽性T細胞により特徴付けられ、また、前記アンタゴニスト分子が、配列番号2又は配列番号4に表わされるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに特異的に結合し、前記アンタゴニスト分子の投与によって掻痒症を改善、予防、抑制又は低減する方法。
【請求項3】
IL−31アンタゴニスト治療を要するアトピー性皮膚炎を患う個体における、IL−31アンタゴニストに対する治療応答を予測するための方法であって、患者から生体試料を取得する工程と、前記生体試料から循環皮膚リンパ球陽性T細胞を分離する工程と、分離された皮膚リンパ球陽性T細胞からのIL−31産生を検出する工程とを含んでなる方法。
【請求項4】
前記皮膚リンパ球抗原陽性T細胞を刺激又は活性化する工程を更に含んでなる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記哺乳類がヒトである、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記アンタゴニストが抗体又は抗体断片である請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記アンタゴニスト分子が、配列番号2に表わされるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドに特異的に結合する、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項8】
アトピー性皮膚炎に罹患した皮膚が掻痒性である、請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2008−530138(P2008−530138A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555370(P2007−555370)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/005328
【国際公開番号】WO2006/088956
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(500049831)ザイモジェネティクス,インコーポレイティド (37)
【出願人】(501292854)ナショナル・ジュウィッシュ・メディカル・アンド・リサーチ・センター (5)
【Fターム(参考)】