説明

L−リシン生産の方法

本発明は、メタノールおよびその他の基質からのL−リシンの微生物生産に関し、特にこのような基質からのL−リシンの生産を向上することに関する。本発明は、B.メタノリカスにおいてL−リシンを生産するための方法であって、アスパラギン酸キナーゼIII(AKIII)を、該B.メタノリカスにおいて過剰発現することを含む方法に関係する。特に、本方法は、AKIII酵素をコードする核酸配列を含む核酸分子をB.メタノリカスに導入することに関係する。また、本発明は、AKIII酵素を過剰発現するB.メタノリカス微生物、AK活性を有するポリペプチドをコードする核酸分子、AK活性を有するポリペプチドおよび、該核酸分子またはベクターを含む、宿主・ベクター系に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールおよびその他の基質からのL−リシンの微生物生産に関し、特にこのような基質からのL−リシンの生産を向上することに関する。特に、本発明の方法は、生産する微生物において、アスパルトキナーゼIII(AKIII)酵素の過剰発現を含むもので、上記微生物は好ましくはバシルスメタノカリスであってもよい。また、AKIIIをコードする遺伝子を発現するために、たとえば、当該遺伝子由来ではない (すなわち、異種である)プロモーターの制御下において、微生物を改変することで、このことは達成される。このように、該微生物は天然にて、(内在的な)AKIIIを発現するにもかかわらず、このAKIIIまたはその他のAKIIIの更なるコピー(つまり、より多く)が発現されてもよいし、または、たとえば、遺伝子変異および、ついで適切な選択によって、微生物が改変されて、AKIIIを過剰発現してもよい。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は、量および価値において生物工学における主要な製品の一つであり、世界的な市場は拡大している。これらは、食品および飼料のサプリメント、医薬品、化粧品、ポリマー材料および農業化学品として使用される(Ikeda (2003) Amino acid productuin Processes In: Faurieら.、(Eds) Advances in Biochemical Engineering Biotechnology: Volume 79、Microbial production of L-amino acids. Springer:ベルリン、ハイデルベルグ、ニューヨーク; Marx ら.、 (2006) Protein line and amino acid-based product family trees. In: Kamm ら.、 Biorefineries - industrial processes and products. Status quo and future directions. Wiley- VCH:ベインハイムpp. 201-216)。微生物発酵は、工業的生産のために使用される主要な方法であり、現在、使用されている最も重要な微生物はコリネバクテリアであり、糖類を使用するものである。最も重要な工業上のアミノ酸の産生体は、現在では、バクテリアであるコリネバクテリウム・グルタミカムであり、該バクテリアは、年間約200万トンのアミノ酸を生産し、100万トン超、60万トン超の、L−グルタミン酸、L−リシンをそれぞれ生産する(Eggeling ら、(2005)、Handbook of Corynebacterium glutamicum. TaylorおよびFrancis: Boca Raton)。C.グルタミカム発酵のための基質は、通常、農作物に由来する糖類である。
【0003】
アミノ酸に対する増加する世界的需要があり、それゆえ、発酵における原料としての代替基質を利用する可能性も、相当の関心が寄せられている。単炭素(C1)化合物は、幅広く自然界に存在しており、生物工学的観点および大規模化学的観点から、メタンおよびエタノールは、最も重要なC1化合物の2種である(Lintonら、(1987) Antonie Van Leeuwenhoek、53:55-63)。糖蜜と比べると、たとえば、メタノールは、バクテリアの発酵中において十分に利用できる純粋な原材料である。
【0004】
メチロトローフ類は、メタンやメタノールなどのC−C結合を欠く還元された 化合物で増殖できる好気性または嫌気性の両方の微生物を幅広く含むものである(Anthony (1982) The biochemistry of methylotrophs. Academic Press: New York; Large ら、(1988) Methylotrophy and biotechnology. Wiley: ニューヨーク)。偏性メチロトローフ類は、C1化合物を唯一の炭素源およびエネルギー源として専ら利用できる一方、条件的 メチロトローフ類(facultative methylotrophs)はC1化合物および多炭素化合物の両方を利用できるものである。多くのメチロトローフ類のための遺伝学的ツールは確立されており、個別にアミノ酸の過剰発現に至らせるようなメチロトローフの応用は、L−セリン(Izumiら、(1993) Appl. Microbiol. Biotechnol.、39:427-432;Hagishitaら、(1996) Biosci. Biotechnol. Biochem.、60:1604-1610)、L−スレオニン(Motoyamaら、(1994) Appl. Microbiol. Biotechnol.、42: 67-72)、L−グルタミン酸(Motoyamaら、(1993) Biotechnol. Biochem.、57: 82-87)、およびL−リシン(Motayamaら、(2001) Appl. Environ. Microbiol.、 67: 3064-3070)を含めて、報告されている。たとえば、グラム陰性偏性メチトローフであるメチロフィラス・メチロトロファスでは、L−リシン阻害において制御解除されるジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異遺伝子の発現は、37℃で約1g/lまでL−リシン合成の増加を引き起こした(Tsujimotoら、(2006) J. Biotechnol.、124: 327-337)。L−リシントランスポーターをコードする変異遺伝子を共発現することで、メタノールからL−リシンを11.3g/l分泌する組換え菌体である菌株ASl(pSEA10)を得た(Gunjiら (2006) J Biotechnol.、 127(1): 1-13)。グラム陰性偏性メチロトローフであるメチロバシラス・グリコゲネスの組換え変異体であるALl19(pDYOM4−2)は、L−リシン阻害において部分的に制御解除されたジヒドロジピコリン酸合成酵素を過剰発現し、37℃でメタノールから約8g/lのL−リシンおよび37g/lのL−グルタミン酸を生産することが報告されている(Motayamaら、(2001)、上記)。このような先行技術にもかかわらず、商業的な、メタノールに基づくアミノ酸の工業生産方法は、現時点では存在していないと考えられている。
【0005】
メチロトロフィック・サーモトレラント・バクテリウムであるB.メタノリカスは、メタノールをアミノ酸へ生物変換する有望な候補として挙げられる(Brautasetら、(2007) Appl. Microbiol. Biotechnol.、 74: 22-34)。B.メタノリカスの好適な特性としては、高い温度における芽胞形成の欠如、エネルギー源および炭素源としてのメタノールの利用、高いメタノール変換率および50℃の好適な増殖温度が挙げられる。ランダム化学的変異発生によって生み出されたB.メタノリカス変異体は、L−リシンを37g/lまで生産することが報告されている(Schendel ら、(1990) Appl. Environ. Microbiol.、56: 963-970)。メタノールは魅力的な基質として挙げられるが、B.メタノリカスは、糖類(たとえば、マンニトール)のような、そのほかの多炭素基質も利用し得る。したがって、B.メタノリカスは、基質に関係なく(つまり、必ずしも基質としてメタノールを使用しないでも)、「宿主」すなわちL−リシン生産のための生物体としても関心がもたれる。
【0006】
L−リシンは、L−メチオニンおよびL−スレオニンの生合成経路を含むアスパラギン酸経路の一部として、L−アスパラギン酸から合成される(図1)。アスパラギン酸経路の第一ステップは、 アスパルトキナーゼ(「AK」;ATP:4−L−アスパラギン酸−4−ホスホトランスフェラーゼ)によって制御される。この酵素は、一般的に、アスパラギン酸経路の生産物によって、酵素活性(阻害)および酵素合成(抑制)の両方において、強くフィードバック制御されている。AKの制御解除(つまり酵素活性阻害の除去)は、商業的なL−リシンを生産する菌株の開発においては最も重要なステップであることが報告され(Pfefferleら、 (2003) Biotechnological manufacture of lysine. In: Faurie ら.、 (Eds) Advances in Biochemical Engineering Biotechnology: Volume 79、 Microbial production of L-amino acids. Springer: Berlin、 Heidelberg、ニューヨーク、 pp. 59-112)、さらには、B.メタノカリスにおけるL−リシンの生産をさらに改善する代謝工学的手法が、L−リシン生合成経路の鍵となる酵素の制御解除に傾注すべき旨が言われている(Brautasetら、(2007)、上記)。事実、商業的なL−リシン生産体であるC.グルタミカムにおいて、AKフィードバック阻害(つまり、アロステリック阻害への耐性)の制御解除を引き起こす多くの好適な変異体が報告されている(Ohnishiら、(2002) Appl. Microbiol. Biotechnol.、58:217-223; Eggelingら、(2005)上記; Jakobsenら、(2006) J. Bacterid.、 188(8): 3063-3072); Cremer ら、 (1991) Appl. Environ. Microbiol.、 57(6): 1746-1752; Jetten ら、 (1995) Appl. Microbiol. Biotechnol.、 43(1): 76-82)。
【0007】
C.グルタミカムが単一のAK酵素を有している一方、詳細に研究されたB.サブチルスは、3種類のAKアイソザイム、すなわちAKI、AKIIおよびAKIIIを有することが知られている。B.サブチルスでのL−リシン生産におけるAKに対する操作による効果についての研究へは、一般的に、殆ど注意がはらわれていなかった。典型的な変異導入とそれに続く選択操作によって微生物的L−リシンの過剰生産体を創出するのに、L−リシンアナログであるS−(2−アミノエチル)システイン(AEC)は広く使用されてきた。B.サブチルスにおいてAKIおよびAKIIにおけるフィードバック阻害の減少が実証されているが、L−リシン生産の改善は報告されていない(Zhang ら.、 (1990) J. Bacteriol.、172(8): 4690-4693)。一部のAEC−抵抗性のB.サブチルスにおける変異は、lysC(AKIIをコードする)の5´非翻訳RNAリーダー配列に位置しており、抑制の低減やL−リシン生産の増加に関連があるものである。しかしながら、このような変異によって顕著なL−リシンの生産(1g/lを超える)は、報告されていない(Vold ら、 (1975) J. Bacteriol.、 121(3): 970-974)。本発明者らは、L−リシンの生産を増加に至るサブチルス中のAKIIIの変異を開示する如何なる報告も知っていない。
【0008】
現時点では、B.メタノリカスにおいては、AKIIをコードするlysCのみが知られている(Schendelら、 (1992) Appl. Environ. Microbiol.、 58(9): 2806-2814)。以下により詳細に議論するように、本発明者らによって、B.メタノリカスにおけるAKI(dapG)およびAKIII(yclM)をコードする遺伝子のクローニングおよび配列決定によって、本発明はさらに進展した。
【0009】
上記にて議論されたように、L−リシンの微生物生産を増加させるための取り組みは、主に、経路の産物によるアロステリック阻害に抵抗性があるAK変異体を用いることによる、AKの制御 解除に集中したものであった。L−リシンの生産を顕著に増加させることにおいて、野生型のAKを使用して成功したという報告はない。野生型のAKをコードするC.グルタミカム遺伝子を、C.グルタミカムにおけるプラスミドから発現させた場合、L−リシンは全く生産されなかった。しかしながら、変異したフィードバック抵抗性のAKを発現するプラスミドで形質転換したC.グルタミカムにおいて、L−リシンは生産され、このことは、前者の場合では野生型のAKのフィードバック感受性がL−リシンの生産の欠如の原因となっている ことを示唆するものである(Cremerら、(1991)、上記)。別の研究においては、異種のプロモーターから野生型AKをコードする遺伝子が発現されるプラスミドを保有するC.グルタミカムは、規定の培地にて増殖できなかった(Koffasら、(2003) Metab.Eng.、5(1): 32-41)。C.グルタミカム(B.フラバム と称されている)における、ネイティブなプロモーターからAKをコードする遺伝子を過剰発現させることに関する試験では、AEC抵抗性でL−リシンを過剰発現しているC.グルタミカムにおいては、L−リシンの生産で33%の増加が観察されたのに対し、野生型の菌株を使用した場合、増加が全くないことが報告されていた(Luら、(1994) Biotechnol. Lett.、16(5): 449-454)。フィードバックに感受性がある野生型AKをネイティブに発現するC.グルタミカム菌株において、フィードバックに抵抗性のあるAKをコードする遺伝子を過剰発現した場合、L−リシン合成のフラックスに20%の増加が観察された(Huaら、(2000) J. Biosc. Bioeng.、90(2):184-192)。したがってこれまでは、AKの制御解除がL−リシンを過剰発現する菌株を開発する際に重要なステップとなるという、本技術分野における上述の見解に一致して、たとえば、AK酵素活性における経路生産物のフィードバック阻害効果のために、野生型のAKの過剰発現ではL−リシンの生産における顕著な増加を達成するには不十分であると考えられていた。上記にて言及したように、結果として抑制が低減されるにもかかわらず、変異がlysC(AKIIをコードする)の5´UTRに位置するB.サブチルスAEC−抵抗性変異体には、高いL−リシンの生産が実証されなかった(Vold ら.、(1975)、上記; Mattioli ら.、(1979) J. Gen. Microbiol.、 114: 223-225)。
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、AKIIIをコードするyclM遺伝子の過剰発現が、結果として、顕著なL−リシンの生産の増加に至ることを見出した。特筆すべきは、この結果は、フィードバック阻害に制御される酵素である野生型酵素をコードする遺伝子を用いても達成され得ることである。AKIII遺伝子に対して非ネイティブかつ強力なプロモーターを用いたyclM遺伝子(つまり、外来より導入されたyclM遺伝子)の発現によって、yclMを過剰発現させることで、AKIIIのフィードバック阻害−抵抗性変異体を使用するようなことは求められずに、60倍に増加したL−リシンの生産が達成された。このような顕著な増加は、AKI(dapG)またはAKII(lysC)では観察されず、それらを用いたものは、L−リシンの生産においてずっと少ない増加(それぞれ、2倍および10倍)が観察された。それゆえ、この効果は、AKIIIアイソフォームに特徴的なものである。AKIIIの過剰発現の効果は、特に、メタノールおよび糖類の両方の基質についてB.メタノリカスにおいて実証されている。それゆえ、AKIIIの過剰発現は、それがどのような方法で達成されようとも、微生物におけるリシン生産を増加するための機構を示すことが提案される。
【0011】
以下に議論するように、本発明は、部分的には、B.メタノリカスのyclM(AKIIIをコードする)およびdapG(AKIをコードする)遺伝子の本発明者らによるクローニングから生じたものである。B.メタノリカスのAKIIIを使用して、Bメタノリカスの宿主生物体でもその他の生物体でも過剰発現を達成してもよい。野生型のB.メタノリカスにおいて強力かつ非ネイティブのプロモーターから野生型のB.メタノリカスAKIIIを過剰発現した場合、特に、L−リシンの生産において目覚ましい増加が観察される。単一の遺伝子(yclM)のみの過剰発現が、このような効果を達成することは驚くべきことである。かかる増加は、L−リシンの生産経路に関連するその他の改変または変異を含まない野生型の宿主において観察され得る。このことは、特にAKIIIアイソフォームの発現でL−リシンの生産を増加することおよび、B.メタノリカスにおける任意の遺伝子のL−リシンの生産を増加することに成功した 過剰発現に関する最初の報告である。
【0012】
野生型の宿主において観察されるように、たとえば60倍までというような、得られうる増加の程度は驚くべきことであり、予期されることはできないものであった。本発明の以前は、33%および20%(すなわち、1.5倍未満)のL−リシンの生産における増加のみが、C.グルタミカムにおいて達成されているにすぎなかった。
【0013】
上述のように、AKIII遺伝子の過剰発現は、結果として、L−リシンの生産において、一桁大きい 増加をもたらし、このことは予見できなかったものである。本発明は、このように、L−リシンの増加する需要を充足することに貢献するにあたって、明らかに大きな価値があるものである。特に、B.メタノリカスは、原料としてメタノールおよびその他の基質(すなわち、糖類のようなその他の炭素源)を用いてL−リシンを生産するための宿主として有益に使用され得る。
それゆえに、一態様においては、本発明は、B.メタノリカスにおいてL−リシンを生産させる方法であって、該方法は、該B.メタノリカスにおいてAKIII酵素を過剰発現することを含むものである。AKIII酵素は、yclM遺伝子にコードされるAK活性を有する酵素として定義されてもよい。
【0014】
別の視点で見ると、本発明のこの態様は、B.メタノリカスにおいてL−リシンの生産を増加させるための方法であって、該方法は、該B.メタノリカスにおいてAKIII酵素を過剰発現することを含む。
【0015】
このような本発明の態様の方法は、リシンが生産され得る条件下において、メタノールを含むがこれに限定されない、基質として所望の炭素源を使用して、B.メタノリカスを培養するか、または増殖させるものである。AKIIIを過剰発現するように改変された(たとえば、AKIIIが宿主細胞で過剰発現するように、たとえばAKIII酵素をコードする遺伝子をB.メタノリカス宿主細胞に導入すること、
B.メタノリカス宿主細胞をランダムに変異させて、AKIIIを過剰発現する変異体を選択すること、または、内在性のAKIIIの過剰発現を達成する部位特異的 またはその他の突然変異導入によって、改良されたまたは変異した)B.メタノリカス宿主細胞を使用してもよい。本発明の方法は、一実施態様においては、外来的に導入されたAKIIIをコードする遺伝子、特にはyclM遺伝子を含むB.メタノリカス宿主細胞(すなわちAKIIIをコードする遺伝子で形質転換されたB.メタノリカス)を培養するか、または増殖させることを含んでいてもよい。
【0016】
その他の態様においては、本発明は、AKIII酵素を過剰発現するB.メタノリカス生物体を提供するものである。
【0017】
より具体的には、本発明のこの態様は、AKIII酵素を過剰発よう改変されているB.メタノリカス生物体を提供する。特定の一実施態様においては、このような改変は、AKIII酵素をコードする遺伝子(より一般的に置き換えると、核酸遺伝子)、特にはyclM遺伝子を導入することを含んでもよい。
【0018】
AKIII酵素は、任意の生物源に由来するAKIII酵素であってもよく、、文献において報告された公知の酵素、所望の生物源からクローニングされた非公知の酵素、両方とも挙げられる。AKIIIに言及するときは 、B.メタノリカスのAKIIIの機能または活性を有する酵素や、B.メタノリカスのyclMに対して、アミノ酸配列の同一性もしくは類似性に基づいて、またはコードする核酸配列の同一性または類似性によって、B.メタノリカスに相同的に相当するものと考えられる酵素が挙げられる。一つの態様においては、上記AKIII酵素は、yclM遺伝子によってコードされた、AK活性を有する酵素である。ここで、以下に詳説するように、B.メタノリカスのAKIIIを使用してもよい。配列番号3および4にて示される、B.メタノリカスにおけるネイティブ(「野生型」)のAKIII/yclMまたは、配列番号3および/または4に機能的に等価であるAKIII/yclM配列、たとえば、これらの配列に対して(たとえば、以下に示される%配列類似性または同一性によって表現される)相同性を有し、AKIII活性を有するポリペプチドを示すまたはコードする該配列が挙げられる。これには、yclM/AKIIIの「バリアント」、たとえば、フィードバック抵抗性の変異体に例示されるAKIII活性を保持している変異蛋白質をコードする、またはその変異蛋白質であるバリアントも含まれる。アスパルトキナーゼ活性が、本発明によって過剰発現された蛋白質の必須なものである一方、改変された特性を有するがAK活性を保持している蛋白質配列の使用、たとえば、フィードバック阻害に抵抗性のあるAKIII変異体の非野生型のAKIIIの蛋白質配列の使用を通じて、L−リシン生産の増加における利点が得られることは明らかであろう。このように、本発明の驚くべき利点は、L−リシンの生産における予測しえない増加が、野生型のAKIII配列の過剰発現、すなわち、野生型のAKIIIの機能的特性を有するAKIIIのフィードバック阻害、特には、(たとえば、アスパラギン酸経路の生産物、たとえばリシンおよび/またはスレオニンなどによる)フィードバック阻害に対して感受性があるAKIIIの過剰発現によって得ることができる一方、特定のAKIII「バリアント」の使用、たとえばフィードバック阻害に抵抗性があるバリアントの使用を通じて、この効果を向上させることが望ましい。AKIIIは、任意の適切な生物体、特に微生物またはバクテリアの生物体、さらに特にはバシラス属から、得られたものであってもよいし、またはこれらに由来するものであってもよい。本発明によって使用されてもよい代表的なAKIIIは、B.サブチルス、B.リチェニホルミス、B.ハロドランス、B.アミロリクファシエンスまたはリステリア イノキュアから得られたものまたはこれらに由来するものである
(たとえば、以下を参照。
Kunstら、1997、Nature、390、249-256(GenBankアクセッション番号:NC_000964)にて開示されるバシラス サブチルス亜種サブチルス菌株168のAKIII(配列番号:5);
Reyら、2004、Genome Biol.、5、R77(GenBankアクセッション番号:NC_006270)にて開示されるバシラス リチェニホルミスATCC 14580(DSM13)のAKIII(配列番号:6);
Takamiら、2000、Nucleic Acids Res.、28、4317−4331(GenBankアクセッション番号:NC_002570)にて開示されるバシラス ハロドランス C−125(配列番号:7);
Chen、ら、2007、Nat. Biotechnol.、25、1007−1014(GenBankアクセッション番号:CP000560)にて開示されるバシラス アミロリクファシエンス FZB42のAKIII(配列番号:8);または
Glaserら、2001、Science 294、849-852(GenBankアクセッション番号:AL596172)にて開示されるリステリア イノキュア Clipl 1262のAKIII(配列番号:9))。
上記にて言及されたGenBankアクセッション番号は、全ゲノムのためのものであることから、AKIII配列の関連物については、特に、AKIIIをコードするそれらの一部、すなわち、GenBankの寄託において含まれる配列を参照すべきことが留意されよう。
【0019】
このような公知のAKIIIに「由来する」AKIIIとしては、上記遺伝子またはヌクレオチド配列のバリアントまたはフラグメント(一部)によって、たとえば、公開または寄託された配列に対して少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、95%またはこれら以上の配列同一性を有するバリアントによってコードされた酵素が挙げられる。代わりに、このようなAKIIIは、公開/寄託されたアミノ酸配列すなわち公開/寄託された核酸配列のアミノ酸翻訳物に対して、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、95%またはこれら以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有しているものでもよい。公開/寄託されたヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の「部分体」は、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、95%またはこれら以上の連続的なヌクレオチドまたはアミノ酸を含有または含むものであってもよい。特には、AKIIIは、以下に詳説するような、B.メタノリカスのAKIIIであるか、またはそれに由来するAKIIIであってもよい。特に好ましくは、AKIIIは、野生型であるか、または、フィードバック阻害に対して感受性があるものであり、すなわち、酵素活性に関して規制解除された 酵素ではないものである。AKIII酵素が、温度安定性であること、たとえば、40℃、50℃、60℃、70℃または80℃までの温度において操作可能であるものも好ましい。
【0020】
B.メタノリカスは、本発明によるリシンの生産のための好適な微生物であるが、リシン生産の増加におけるAKIIIの過剰発現の効果は、この生物体に限られたことではなく、他の微生物宿主に広く当てはまる。換言すれば、任意の微生物がリシン生産のための生物体として使用され得る。
【0021】
このように、別の態様においては、本発明は、微生物においてL−リシンを生産する方法であって、該微生物において、この微生物の内在的なAKIII遺伝子または以下に規定されるAKIII酵素を過剰発現させることを含む方法を提供するものである。
【0022】
(i)配列番号3にて示されるヌクレオチド配列の全てもしくは一部でコードされるか、または配列番号3に対して少なくとも50%の同一性(特には、配列番号3に対して、少なくとも55、60、65、70または75%の配列同一性)を有するヌクレオチドの全てもしくは一部でコードされるAKIII、または
高いストリジェンシー条件(0.lxSSC、0.1%SDS、65℃、洗浄条件:2xSSC、0.1%SDS、65℃、次いで、0.lxSSC、0.1%SDS、65℃)の下で、配列番号3の相補体とハイブリダイズするヌクレオチド配列または配列番号3のヌクレオチド配列と縮重するヌクレオチド配列でコードされるAKIII、
(ii)配列番号4にて示されるアミノ酸配列の全てもしくは一部を含むAKIIIか、または、配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも50%の配列同一性(特には、配列番号4に対して、55、60、65、70、75または80%の配列同一性)を有するアミノ酸配列のAKIII。
【0023】
本発明におけるこの態様の方法は、このように、AKIII酵素を過剰発現する所望の微生物を、リシンが生産され得る条件下において、所望の炭素源/基質を用いて培養するか、または増殖させる方法である。該微生物は、宿主細胞に、上記にて規定されたようなヌクレオチド配列を含む核酸分子または、上記にて規定されたようなAKIIIをコードする核酸分子を導入することで、AKIIIを過剰発現するように改変されていてもよい。次いで、該微生物を、該ヌクレオチド配列が発現する条件下で培養するか、または増殖させてもよい。別の態様においては、本発明は、該微生物の内在的なAKIII遺伝子または以下に規定されるAKIII酵素を過剰発現する微生物を提供する。
(i)配列番号3にて示されるヌクレオチド配列の全てもしくは一部でコードされるか、または配列番号3に対して少なくとも50%の同一性(特には、配列番号3に対して、少なくとも55、60、65、70または75%の配列同一性)を有するヌクレオチド でコードされるAKIII、または
高いストリジェンシー条件(0.lxSSC、0.1%SDS、65℃、洗浄条件:2xSSC、0.1%SDS、65℃、次いで、0.lxSSC、0.1%SDS、65℃)の下で、配列番号3の相補体とハイブリダイズするヌクレオチド配列または配列番号3のヌクレオチド配列と縮重するヌクレオチド配列でコードされるAKIIIであるか、
(ii)配列番号4にて示されるアミノ酸配列の全てもしくは一部を含むAKIIIまたは、配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも50%の配列同一性(特には、配列番号4に対して、少なくとも55、60、65、70、75または80%の配列同一性)を有するアミノ酸配列の全てもしくは一部を含むAKIII。
【0024】
さらに、特には、本発明の本態様は、改変されて、上記にて規定したように、AKIII遺伝子すなわち酵素を過剰発現する微生物を提供する。特定の一実施態様に、このような改変は、上記にて規定したように、該微生物にAKIII酵素をコードする核酸分子を導入することも含まれる。
【0025】
したがって、このような核酸分子は、AKIII活性を有するポリペプチドをコードし、以下のヌクレオチド配列を含むものであってもよいし、該配列からなるものであってもよい。
(i)配列番号3にて示されるヌクレオチド配列;
(ii)配列番号3にて示されるヌクレオチド配列に対して、少なくとも50%の配列同一性、特には少なくとも、50、55、60、65、70、75、77、79、80、81、83、85、86、87、88、89、90、91、93、95、97、98または99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列;
(iii)高いストリジェントなハイブリダイゼーション条件(0.1×SSC、0.1% SDS、65℃および洗浄条件:2×SSC、0.1%SDS、65℃、次いで、0.1×SSC、0.1%SDS、65℃) 下、配列番号3の相補体とハイブリダイズするヌクレオチド配列
(iv)配列番号3のヌクレオチド配列と、縮合するヌクレオチド配列;
(v) 配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、または配列番号4で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも50%の配列同一性、好ましくは少なくとも、50、60、65、70、75、80、82、84、86、88、90、92、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列;
(vi)上記(i)、(ii)、(iv)または(v)のヌクレオチド配列の一部であるヌクレオチド配列。
【0026】
なお、核酸分子/ヌクレオチド配列およびAKIIIのアミノ酸配列の部分体 は、さらに以下に規定される。
【0027】
このように、改変されて(または「改良されて」)AKIIIを過剰発現する微生物は、上記にて規定されるような、外来的に導入されたAKIIIをコードする核酸分子を含んでいてもよい(該生物体は、AKIIIをコードする核酸分子で形質転換されたものであってもよい)。該核酸分子は、上記宿主と同種または異種のもの(すなわち、ネイティブまたは非ネイティブ)であるAKIIIをコードするものであってもよい。このように、宿主にネイティブである遺伝子の単一(または複数の)更なるコピーを、導入してもよい。導入される核酸分子は、ネイティブ遺伝子または異なる生物源に由来するヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0028】
代わりに、生産する微生物における「内在性の」AKIIIを過剰発現してもよい。「内在性の」AKIIIとは、上記微生物において、内在性のAKIIIをコードする遺伝子(すなわち、該生物体に存在する遺伝子)の発現の結果、生産されるAKIIIを意味する。このように、この場合では、AKIIIをコードする外来性の核酸分子を導入せずに、微生物において天然に存在している遺伝子配列のみが発現する(この微生物は、もちろん、たとえばランダムまたは部位特異的な変異導入によって改変されていてもよいが)。ランダム変異導入および選択によって過剰発現を達成することは可能であり、ここで、ネイティブのAKIII遺伝子(改変または変異されていない配列)を過剰発現する変異体が得られる。したがって、AKIIIを過剰発現する微生物を、このような方法で改変(たとえば変異)して、該生物体のゲノム中に天然に含まれるネイティブの遺伝子(改変されてもよいし、されていなくてもよい配列)の過剰発現を達成してもよい。これは、微生物における、たとえば、制御エレメント(たとえば、プロモーターもしくはその他の転写制御エレメントまたは翻訳制御エレメントや制御蛋白質等)の変異によるものであってもよく、このことは、たとえば、上記微生物におけるネイティブのAKIIIをコードする遺伝子(たとえば、yclM遺伝子)における転写の増加に至らしめる。
【0029】
本発明の第一の態様に関連して、上記にて議論したように、過剰発現するAKIIIは、野生型のバリアントであってもよいし、フィードバック阻害抵抗性の変異を含むネイティブ配列のバリアントであってもよい。
【0030】
生産する微生物は、所望の、微生物、真核生物または原核生物であってもよいが、好ましくはバクテリアである。特には、限定はされないが、以下の綱または属で例示されるバクテリアであってもよい:バシラス、ゲオバシラス、メタノモナス、メチロバシラス、メチロフィリウス、シュードモナス、プロタミノバクター、メチロコッカスおよびリステリア。バシラス属 は、特に有益であり、限定はされないが、具体的には、B.メタノリカス、B.サブチルス、B.アミロリクファシエンス、B.クラウシィ、B.セレウス、B.ハロドランス、B.sp.NRRLB−14911およびB.リチェニホルミスが挙げられる。
【0031】
該生物体は、耐熱性または好熱性であること、たとえば、50〜70℃で、たとえば50〜60℃で増殖できることが好ましい。
【0032】
特に好適な実施態様においては、該微生物は、上記にて述べたように、B.メタノリカスである。該本発明によってAKIIIが過剰発現されるB.メタノリカスまたはその他の微生物は、任意の生物体の菌株、たとえばB.メタノリカスの菌株であってもよい。このように、ネイティブまたは野生型の菌株でもあり得るし、改変または変異導入された菌株もあり得る。B.メタノリカスまたはその他の微生物は、たとえばAECのようなリシンアナログに対する栄養要求性体または抵抗性の変異体を含め、任意の遺伝的バックグラウンドを有するものもあり得る。特定の遺伝的バックグラウンドにおける、たとえばL−リシンの生産がすでに上昇している菌株、たとえばAEC抵抗性菌株や典型的な変異導入によって得られたリシンを過剰発現する変異体、またはその他の方法において改良された菌株における、本発明の使用を通じて、有利にL−リシンの生産は増加することが容易に理解されよう。しかしながら、上記にて議論したように、本発明は、宿主として野生型の微生物、具体的には野生型のB.メタノリカスを有益に使用せしめ、このことは、可能性のある実施態様の一つを例示するものである。代表的なB.メタノリカス菌株としては、B.メタノリカスMGA3が挙げられる。そのほかのB.メタノリカスの野生型菌株としては、以下のようなものが挙げられる:PB1(NCIMB 13113)、NOA2(Schendelら.、(1990)、上記)、HEN9、TSL32、DFS2、CFS、RCP、SC6、NIWA、BVD、DGS、JCP、N2(Brautasetら、(2004)J.BacterioL、186(5):1229-1238)およびB.メタノリカス変異体13A52−8A66(Hansonら、(1996) Production of L-lysine and some other amino acids by mutants of B.methanocus. In: Lidstromら.、Microbial growth on C1 compounds.Kluwer Academic Publishers:ドートレヒト、オランダ国)。上記にて述べたように、リシンを過剰発現する変異体は、本技術分野において公知または開示される、典型的な変異導入法によって得られる。
【0033】
微生物内でその他の遺伝子の発現または過剰発現と組み合わせて、AKIIIを発現してもよい。このようなその他の遺伝子は、図1で示されるリシンの生合成経路のその他の遺伝子、たとえば、asd、dapA、lysAであってもよい。以下の実施例2において示されるように、この方法においては、リシンの生産をさらに向上させ得る。
【0034】
本明細書にて言及されるように、「過剰発現」は、AKIIIをコードする遺伝子の発現が、本発明によって改変されていない微生物において生じる発現レベル、たとえば、微生物(たとえば、B.メタノリカス)におけるネイティブのAKIIIをコードする(yclM)ゲノム(たとえば染色体)の遺伝子座 から駆動される発現のレベル(それがネイティブのAKIIIを発現するものであれば )、またはコントロール菌株、たとえばコントロールとして改変されているがAKIII遺伝子を過剰発現しない菌株(たとえば、「空」ベクターまたはコントロール配列を有するベクターを含む菌株)において見られる発現レベルに比べて、すなわち該発現レベルに相対して、増加されていることを意味する。遺伝子発現は、生産される蛋白質産物(AKIII)の量に関して考慮されるべきものであり、これは、本技術分野において知られた簡便な方法によって定量されてもよい。たとえば、発現は、蛋白質の活性(すなわち、発現されたAKIII蛋白質の活性)を測定することで定量できる。代替法としては、生産された蛋白質の量を、たとえば、ウェスタンブロット法もしくはその他の抗体検出系または蛋白質を評価するまたは定量するような、任意方法によって測定して、発現のレベルを同定することができる。リアルタイムPCRも使用されてもよい。このアッセイは、インビボでのアッセイであってもよいし、またはインビトロでのアッセイであってもよい。このように、発現(たとえば、AKIIIの比活性の検出によって同定された発現)は、ネイティブ(すなわち、内在的な)AKIIIをコードする遺伝子からの結果よりも2、3もしくは4倍またはそれ以上であってもよいが、その他の系またはそのほかの条件下においてはより少なくてもよい。
【0035】
たとえば、以下の実施例にて詳述されたような本技術分野において知られ、かつ文献において開示された手順によりアスパルトキナーゼ活性を評価することで、AKIII活性を同定してもよい。このように、BlackおよびWright(Blackら.、(1955) J. Biol. Chem.、213:27-38)にて開示されるように、ヒドロキシアミンからアスパルチルヒドロキサム酸 の形成を評価することで、コード化された蛋白質のAK活性を同定することができる。
【0036】
本発明によれば、「過剰発現すること」とは、単に、宿主内に内在的に存在しているネイティブのAKIII遺伝子(yclM)を超えて、追加されたAKIII遺伝子が、宿主内で発現していることを意味してもよいが、このような機構に限定されるものではない。また、このような遺伝子を先天的に含まない生物体の中でAKIII遺伝子を発現することも含まれる。
【0037】
本明細書において定義されるように、AKIII酵素を過剰発現することは、AKIIIをコードする遺伝子(または、より一般的には、ヌクレオチド配列を含む核酸分子)を、たとえば、ネイティブ遺伝子に対してより強力なまたは制御解除 されたプロモーターから発現させる上記遺伝子のコピーを導入すること、および/またはAKIIIをコードする核酸分子/遺伝子の複数のコピーを導入することによるような、本技術分野において知られている手段によるものである。
【0038】
本発明は、一つの実施態様において、AKIII遺伝子が、たとえばアスパラギン酸経路の生産物または内在的なAKIII遺伝子の抑制因子による示される、転写抑制に支配されずに、発現する方法を提供するものであってもよい。
【0039】
たとえば、転写抑制因子の認識エレメントを変異または欠失することや、AKIII遺伝子の発現を通常制御する、たとえばネイティブの状態において発現を制御する、転写制御因子(因子群)による転写制御で支配されていない発現制御エレメント(たとえばプロモーター)、例としてはアスパラギン酸経路の産物である転写抑制因子を用いることによって、転写抑制の解除されるように、導入された遺伝子(遺伝子群)を改変してもよい。このような方法で、またはより強力なプロモーターの追加によって、代替的または追加的に、内在的なAKIIIをコードする遺伝子は改変されてもよい。したがって、変異導入(ランダムも部位特異的なものも含む)を、たとえば、内在的なAKIII遺伝子の発現を増加する(たとえば、転写および/または翻訳を増加する)よう内在性の調節または制御 エレメントを変異させるために、使用してもよい。代わりに、生物体を改良して、代替のまたは追加の制御エレメントを導入してもよい。
【0040】
特定の実施態様においては、AKIIIをコードする遺伝子は、非ネイティブすなわち異種のプロモーター(つまり、AKIIIをコードする遺伝子に対して異種であるプロモーター、すなわちネイティブでないAKIII遺伝子のプロモーター)および特に強力な非ネイティブのプロモーターすなわち異種プロモーターから発現されるものであってもよい。したがって、本実施態様においては、AKIIIをコードする遺伝子は、そのネイティブなプロモーターとともに使用されるものではない。また、非天然プロモーターの制御下にあるAKIIIをコードする遺伝子が導入されてもよい。本明細書にて言及するように、強力なプロモーターは、高いレベルで、または少なくともネイティブのプロモーターによって実施されるよりも高いレベルで、遺伝子を発現するものである。「強力なプロモーター」との用語は、本技術分野において周知かつ広く使用されている用語であり、多くの強力なプロモーターは、本技術分野においては公知のものであるか、あるいは、ルーチンな実験によって同定できるものである。
【0041】
抑制エレメントの少なくとも一部は、ネイティブのプロモーター領域に位置するので、非天然プロモーターの使用は、転写抑制からAKIIIをコードする遺伝子を解除する効果を有利に有する。ネイティブプロモーターを、経路産物の効果に応答する抑制エレメントを欠く非ネイティブプロモーターで置換することで、AKIIIをコードする遺伝子は、少なくとも部分的には、転写抑制が解除されるであろう。
【0042】
好適な実施態様においては、非ネイティブプロモーターは、B.メタノリカスにネイティブなものである。代わりに、該プロモーターはメタノールデヒドロゲナーゼ(mdh)プロモーターである。
【0043】
特に好適な態様において、非ネイティブプロモーターはB.メタノリカスのメタノールデヒドロゲナーゼ(mdh)プロモーターである。B.メタノリカスにおいて機能性があるその他のプロモーターついては、任意の公知のB.メタノリカス遺伝子のプロモーターが含まれる。以下のプロモーターは実験的に特性が調べられている。
既に開示のpBM19の配列(Brautasetら、(2004)、上記)由来の、glpX、fba、pfk、rpeプロモーター、既に開示のhps+phiオペロンの配列(Brautasetら、(2004)、上記)由来の、hpsプロモーター。バシラス属については一般的に、近接種(例:バシリ目)に由来する任意のプロモーターが使用されてもよい。B.メタノリカスおよびその他の微生物の両方において使用され得るその他の微生物に由来するプロモーターは、本技術分野において周知なものであり、文献において広く記載されている。
【0044】
代わりとして、AKIII遺伝子を、ネイティブのプロモーターを用いて発現してもよい。本発明は、内在的にAKIII遺伝子を発現し得る微生物(B.メタノリカスなど)または発現しない微生物の使用も包含する。前者の場合、ネイティブの遺伝子もしくはその変異体または別のAKIII遺伝子またはコーディング遺伝子の1以上の追加コピーを導入してもよく、ネイティブのまたは非ネイティブののプロモーターの下、これらを導入してもよい。ネイティブのプロモーターがあれば、たとえば、多コピーベクターを使用してもよい。後者の場合では、宿主に対しては異種なものであるAKIII遺伝子(またはコードする核酸分子)を導入するが、その遺伝子は、コードする核酸分子が派生するAKIII遺伝子に対してネイティブまたは非ネイティブであるプロモーターの制御下にあってもよい。
【0045】
上述のように、外来性のAKIII構築物を欠損する対照 に対して、60倍まであるいはそれ以上のL−リシン生産における増加が、野生型B.メタノリカス宿主中のB.メタノリカスmdhプロモーターに由来する、野生型B.メタノリカスAKIIIの過剰発現によって得られ得る。しかしながら、この増加は、使用される具体的な系およびそのL−リシン生産の「ベースライン」のレベルに依存して、著しく変わってくることが理解されよう。このように、L−リシン生産における、60、70、80、90もしくは100倍またはそれ以上の増加を得られ得る。同様に、L−リシンの生産のベースラインレベルが、たとえば、非野生型のL−リシン生産のバックグラウンドとの関係において、相対的に高い場合、得られ得る増加はあまり劇的なものではないものの、実用上の価値がある。したがって、L−リシンの生産は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、15、20、25、30、40もしくは50倍、またはそれよりも多いものであってもよい。
【0046】
このように、本発明は、特に高い増加が見られ得る野生型の宿主を使用した場合、特に、得られるリシンの生産にて高い増加を可能にするものである。AKIII、特に本明細書において開示するようなB.メタリノカスのAKIII(またはAKIもしくはAKII)が微生物内で過剰発現された場合、驚くべきことに、L−リシンを専ら生産することが見出された。このことは、B.メタノリカスAKIII遺伝子(yclM)を用いたB.メタノリカスにおける以下の実施例において実証されている。L−スレオニンおよびL−メチオニンいずれもL−アスパラギン酸経路によって生産されるが、本発明の方法によりL−リシンが唯一合成されることは予期し得なかった ものであり、本発明の前においては予想 できなかったものである。理論に束縛されることを望まないが、本発明に基づくL−リシンの生産における驚くベき高い増加に関して、可能性のある説明としては、AKIIIは、特にB.メタノリカスのAKIIIは、フィードバック阻害のためにL−リシンとL−スレオニンの両方を必要としているのかもしれないことが挙げられる。B.サブチルスにおけるAKIIIは、フィードバック阻害のためにL−リシンとL−スレオニンとの両方を必要とするものとして、報告されている(Schendelら、(1992)上記)。B.メタノリカスのAKIIIは精製されておらず、生化学的なキャラクタリゼーションがなされていなく、そのため、このことが、B.メタノリカスにおけるAKIIIを含むAKの過剰発現によって専らL−リシンが生産されるという驚くべき観察を考慮した 場合、野生型yclM遺伝子の使用にも関わらずフィードバック阻害が生じないかもしれない 、という事例であるとは、確証をもって 言えないことである。
【0047】
遺伝子すなわち核酸分子を導入する方法は、本技術分野においては周知で、文献において広く開示されているものであり、所望の方法を使用してもよい。このように、遺伝子(核酸分子)はベクターを用いて導入されてもよく、該ベクターは、自己複製型のベクターであってもよいし、あるいは遺伝子(核酸分子)を宿主のゲノム(たとえば染色体)に組み込ませることのできるベクターであってもよい。発現される該遺伝子(核酸分子)を発現ベクターに導入し、該発現ベクターを、これらを宿主細胞に導入してもよい。発現ベクターを構築し、該ベクターを宿主細胞に導入する方法は、本技術分野では周知なものである。便宜的には、AKIIIをコードする遺伝子はプラスミドベクターを用いて導入してもよく、宿主微生物、たとえばメタノリカスは、たとえばエレクトロポレーションによって該プラスミドで形質転換してもよい。核酸およびベクターを微生物に導入する方法は周知で、文献において広く開示されている。方法の選択は使用される微生物に依存するものである。Brautasetら、2007(上記)において開示されているように、遺伝子をB.メタリノカスへ導入する方法および、このような方法において使用される適切なプラスミド等は、本技術分野においては公知であり、利用することができる。Jakobsenら、2006(上記)によって開示されたようなE.コリ―B.サブチルス・シャトルプラスミドpHP13に基づいたベクターについて、特に言及することができる。Cueら、1997(Appl. Environ. Microbiol.、 63: 1406-1420)で報告されるプラスミドPDQ503、PDQ507、PDQ508、およびPEN1も参考にしてもよい。本明細書にて例示されるように、B.メタノリカス宿主の場合、mdh遺伝子を含んでいるものであるプラスミドpTB1.9mdhは、mdhプロモーターの制御下にある遺伝子の導入用のベクターとして、簡便に使用され得る。
【0048】
リシンを生産するために、本発明に基づいて改変された宿主生物を、所望のまたは適切な基質を用いて、リシンを生産するようにする条件下で培養するか、または増殖させてもよい。基質または原資の存在下で、たとえば、基質を含むまたは基質が添加された増殖培地において、この宿主細胞を増殖させてもよい。B.メタノリカスを増殖させる方法および条件は、公知なものであり、本技術分野において説明されており、以下の実施例1において例示されている。リシン生産に使用される基質すなわち炭素源は、適宜選択された基質であり、使用される微生物によるものである。このように、適切な基質は、今日の技術分野において公知で使用される任意の炭素源であってもよく、たとえば、多糖類または単糖類(たとえば、グルコース、その他のヘキソース糖類、ペントース糖類)、酸(たとえば、酢酸)、アミノ酸(たとえば、グルタミン酸)、単炭素化合物(たとえば、メタノール、メタン)および複雑な粗製材料(たとえば、糖蜜、タンパク質加水分解物)が挙げられる。上記基質は、精製すなわち「単離」された状態で提供されてもよいし、あるいは、別の商業的または工業的過程における副生成物などのように、粗製の、すなわち未精製の混合物や部分的に精製された混合物の一部としてで提供されてもよい。B.メタノリカスのようなメチロトローフ系である場合、メタノールが基質として使用され得る。しかしながら、たとえば、マンニトール、グルコース、マルトース、リボース、酢酸、グルタミン酸、α―ケトグルタル酸といった、使用されてもよい糖類のような、その他の基質においても、B.メタノリカスは増殖する(Schendelら、1990、上記)。AKIIIを過剰発現するように改良されたB.メタノリカスの基質としてマンニトールを使用することが、以下に例示されている。高いレベルのリシン生産が達成され、メタノールを用いて得られるリシンのレベルさえも超越していることが見られる。
【0049】
上述のように、初期の 発明は、B.メタノリカスノAKIIIをコードする遺伝子であるyclMの、本発明者らによる初めてのクローニングによって、部分的に可能になったものである。本発明者らは、B.メタノリカスのAKIをコードする遺伝子であるdapGも初めてクローニングしている。このことは、B.メタノリカスのAKIIをコードする、lysCを結果として同定に至るような努力にもかかわらず、以前は達成されていなかったものである(Schendelら、(1992)、上記)。B.メタノリカスdapGおよびyclMの核酸配列は、それぞれ配列番号1および3に示される一方、コードされた蛋白質のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号2および4に示される。
【0050】
このように、本発明は、
(i)配列番号1または3に示されるヌクレオチド配列、
(ii)配列番号1にて示されるヌクレオチド配列に対して、少なくとも80%の配列同一性、特には少なくとも82、84、86、88、90、92、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有する核酸配列、
(iii)配列番号3にて示されるヌクレオチド配列に対して、少なくとも75%の配列同一性、特には少なくとも77、79、80、81、83、85、86、87、88、89、90、91、93、95、97、98または99%の配列同一性を有する核酸配列、
(iv)0.1×SSC、0.1%SDS、65℃であるハイブリダイゼーション条件および2×SSC、0.1%SDSの洗浄条件、次いで、0.1×SSC、0.1%SDS、65℃(高いストリジェントな条件)の下、(i)の相補体とハイブリダイズするヌクレオチド配列、
(v)配列番号1または3のヌクレオチド配列と縮重するヌクレオチド配列、
(vi)配列番号1もしくは3のヌクレオチド配列の一部、または配列番号1もしくは3の配列と縮重するヌクレオチド配列の一部であるヌクレオチド配列
(vii)(i)〜(vi)の何れか1つのヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列、
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、または該配列からなる、AK活性を有するポリペプチド(または蛋白質)をコードする核酸分子を、好ましくは単離された該核酸分子を提供する。
【0051】
別に表明すると、本発明は、
(i)アミノ酸配列が配列番号2または4で示されるポリペプチドの全てまたは一部をコードするヌクレオチド配列;
(ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%の配列同一性、好ましくは少なくとも92、93、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドの全てまたは一部をコードするヌクレオチド配列;
(iii)配列番号4で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは、82、84、86、88、90、92、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するポリペプチドを全てまたは一部をコードするヌクレオチド配列;および
(iv)(i)〜(iii)の何れか1つのヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列;
からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、または該配列からなる、AK活性を有するポリペプチド(または蛋白質)をコードする核酸分子を、好ましくは単離された該核酸分子を提供する。
【0052】
上記核酸分子は、好ましくは、AKIまたはAKIIIあるいはAK活性を有するこれらの一部であるポリペプチドまたは蛋白質をコードするか、をコードするものである。
【0053】
好ましくは、上記の(i)〜(v)部または(i)〜(iii)部にて定義されたような核酸分子(すなわち、(vi)部または(iv)部の「相補」分子を含まない)は、配列番号2および4のアミノ酸配列によって定義されるような、AKIおよびAKIII酵素の機能もしくは活性または特性を有するか、あるいは保持しているポリペプチドまたは蛋白質をコードするものである。
【0054】
「ポリペプチド」および「蛋白質」との用語は、本明細書では交互に使用され、アミノ酸鎖の任意の長さのもの(すなわち、任意のアミノ酸のポリマーまたはオリゴマー)も含む。
【0055】
上記にて注釈したように、本発明は、上記にて規定されたヌクレオチドの一部または機能的断片にも広く当てはまり、これらは、上記にて規定した全長タンパク質と同一または実質的に同一の活性を有する蛋白質またはポリペプチドをコードする部分体またはフラグメントを意味する。このような部分体またはフラグメントでコードされたタンパク質/ポリペプチドが、上記にて規定された全長のポリペプチド/蛋白質と同一のまたは実質的に同一の活性(例えば、触媒活性すなわち酵素活性)を有するか否かを決定するための試験は、上記にて議論した内容を含むものである。通常、核酸分子の部分体または機能的フラブメントは、たとえば、蛋白質のN末端をコードする5´末端、蛋白質のC末端をコードする3´末端、またはコード領域内部における、全長核酸分子に対して小さな欠失、たとえば50、40、30、20または10よりも少ないヌクレオチドの欠失を有するものであるが、フラグメントが、上記にて記載された全長蛋白質と同一または実質的に同一の活性(たとえば、触媒活性すなわち酵素活性)を有するのであれば、たとえば少なくとも60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、600もしくは700ヌクレオチドより大きな欠失、または、60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、600もしくは700ヌクレオチドよりも小さな欠失が実施されてもよい。コードされたポリペプチドまたは蛋白質の活性を容易に試験して、たとえば上記にて説明したような全長ポリペプチドまたは蛋白質と同一の活性を共有するか否かを決定できる。
【0056】
代表的な部分体またはフラグメントは、配列番号1または3で示されるヌクレオチド配列における、少なくとも50%、好ましくは示される少なくとも60、70、75、80、85、90または95%の連続配列を含むものである。たとえば、配列番号3のyclM配列の場合、この部分体またはフラグメントは、少なくとも684、821、957、1026、1094、1163、1231または1300のヌクレオチド長である。配列番号1のdapG配列の場合、この部分体またはフラグメントは、少なくとも621、745、869、931、994、1056、1118または1178のヌクレオチド長である。例示される部分体またはフラグメントのサイズとしては、たとえば、620、700、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250および1300ヌクレオチドが挙げられる。
【0057】
本発明にかかる核酸分子のより短いフラグメントを、たとえば、PCRまたはハイブリダイゼーション・プロトコールのためのプローブとして使用することができる。このより短いフラグメントは、たとえば、10〜30、20〜25ヌクレオチドの長さであってもよい。このようなプローブは、本発明の核酸分子と相同性を共有する更なる核酸分子を同定するためのプロトコールにおいて有用である。
【0058】
本明細書にて使用されるような「核酸分子」との用語は、単鎖または重鎖となっている、合成の、非天然のまたは改変されたヌクレオチド塩基を任意で 含む、RNAまたはDNAのポリマーを指す。このようなポリヌクレオチドの例としては、とりわけ、cDNA、ゲノムDNAおよびdsRNAが挙げられる。好ましくは、核酸分子はDNAである。
【0059】
本明細書にて言及される核酸配列は、チミジン(「t」)ヌクレオチドを含むものの、本発明は、チミジンがウリジン(「u」)に置換された対応配列に関することも理解されよう。
【0060】
本発明は、配列番号1および3の核酸分子のバリアントである核酸分子、特には機能的に等価なバリアントである核酸分子を含む。「バリアント」核酸分子は、配列番号1および3の核酸分子に比べて、単一または複数のヌクレオチドの変化を有する。たとえば、該バリアントは、1、2、3、4もしくは5またはそれ以上のヌクレオチドの付加、置換、挿入または欠失を有していてもよい。
【0061】
さらなる態様においては、本発明は、AK活性を有し、
(i)配列番号2または4で示されるアミノ酸配列の全てまたは一部;
(ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%の配列同一性を、好ましくは少なくとも92、93、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列の全てまたは一部;、および
(iii)配列番号4で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%の配列同一性を、好ましくは少なくとも82、84、86、88、90、92、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列の全てまたは一部;
からなる群から選択されるアミノ酸の配列を含むか、または該配列からなる蛋白質(またはポリペプチド)を提供するものである。
【0062】
上記蛋白質またはポリペプチドは、好ましくは、AKIもしくはAKIIIまたはAK活性を有するそれらの部分体である。特には、該部分体は、該部分体が由来するAKIまたはAKIII(配列番号2および4のアミノ酸配列を参照して規定されるようなもの)における特性の機能または活性を保持している。
【0063】
該蛋白質またはポリペプチドは、コードする核酸配列を参照して別に規定されていてもよく、そのような本発明の蛋白質またはポリペプチドは、上述された本発明の核酸分子の何れかにコードされ得る。
【0064】
本発明は、全長タンパク質分子の機能的な部分体またはフラグメントにも広く当てはまり、該部分体またはフラグメントは、上記にて定義された全長タンパク質と同一または実質的に同一の活性を有することを意味する。すなわち、それらは機能的に等価なバリアントであるとみなされる。本明細書の何れかにて注釈されているように、該特性は、単純な手段によって、多様な方法で試験され得る。通常、これらの機能的フラグメントには、全長タンパク質分子に対して小さい、たとえば、50、40、30、20または10アミノ酸未満のアミノ酸の欠失があるのみであるが、上記核酸分子に関して述べたように、大きな欠失、たとえば、60、70、80、90、100、150または200までの アミノ酸の欠失あるいは少なくとも 60、70、80、90、100、150または200までのアミノ酸の欠失も適切なものとなり得る 。すべての場合において、該フラグメントは、上記に規定したような全長タンパク質と同一のまたは実質的に同一の活性を有すべきであり、すなわち、これらは、機能的に等価なバリアントとしてみなされるべきものである。これらの欠失は、N末端、C末端におけるものであってもよいし、内部の欠失であってもよい。
【0065】
代表的な部分体またはフラグメントは、配列番号2または4にて示されるアミノ酸配列における、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60、70、75、80、85、90または95%の連続的なアミノ酸を含むものである。たとえば、配列番号4のyclM配列の場合、この部分体またはフラグメントは、少なくとも、227、318、341、364、387、409または432のアミノ酸長である。配列番号2のDapG配列の場合、この部分体またはフラグメントは、少なくとも206、248、289、310、330、351、372または392アミノ酸長である。例示される部分体またはフラグメントのサイズとしては、少なくとも、200、220、230、250、300、330、350、360、370、380、390、400、410、420および430のアミノ酸が挙げられる。
【0066】
上記にて規定したような本発明の蛋白質としては、配列番号2および4の配列のバリアント、たとえば、列挙した配列に対してある程度の水準の同一性を有する配列が挙げられる。このようなバリアントは、同程度の蛋白質、すなわちその他の種において見出されるホモログ、特には、その他の微生物中に見出されるバリアント(本明細書の何れかの箇所にて規定したようなコード化された蛋白質の機能的特性を共有する。)のような天然バリアントであってもよい。
【0067】
たとえば、本技術分野において公知である標準的な分子生物学的技術、たとえば部位特異的変異導入またはランダム変異導入(たとえば、遺伝子シャッフリングまたはエラープローンPCR)のような公知の変異導入技術 を用いて、本明細書にて規定されるような天然蛋白質のバリアントは、合成的に創出することができる。このような変異導入技術を、改善されたまたは異なる触媒特性を有する酵素を開発するために使用することができる。
【0068】
本明細書にて規定されたような蛋白質の誘導体も使用され得る。誘導体とは、天然アミノ酸の代わりに、アミノ酸の構造的類似体 を含む上記にて説明したような蛋白質またはそのバリアントを意味する。該蛋白質の機能に悪影響を与えない限り、誘導体化や修飾(たとえば、蛋白質中におけるアミノ酸の標識化、糖化、メチル化)が生じていてもよい。
【0069】
「構造的類似体」とは、非標準アミノ酸を意味するものである。使用され得るこのような非標準アミノ酸すなわち構造的類似体のアミノ酸は、Dアミノ酸、アミドイソエステル(N−メチルアミド、反転アミド、チオアミド、チオエステル、ホスホネート、ケトメチレン、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル、(E)−ビニル、メチレンアミノ、メチレンチオまたはアルカンなど)、L−Nメチルアミノ酸、D−[α]メチルアミノ酸またはD−N−メチルアミノ酸である。
【0070】
配列同一性は、簡便な方法によって評価されてもよい。しかしながら、配列間の配列同一性の程度を決定するためには、配列のマルチプルアラインメントをするコンピュータープログラム、たとえばClustalW(Thompson ら、 (1994)Nucleic Acids Res.22:4673-4680)が便利である。ALIGN(Myersら、(1988) CABIOS、 4: 11-17)、FASTA(Pearsonら、(1988) PNAS、85:2444-2448; Pearson (1990)、Methods Enzymol.、 183: 63-98)およびギャップド BLAST(Altschul ら、 (1997) Nucleic Acids Res.、 25: 3389-3402)のような、配列のペアを対比してアラインするプログラムは、この目的のためには便利である。さらに、欧州生命情報学研究所におけるDaliサーバーは、蛋白質配列の構造に基づくアラインメントを提供するものである(Holm (1993) J. MoI. Biol.、233:123-38;Holm (1995) Trends Biochem. Sci.、20:478-480; Holm (1998) Nucleic Acid Res.、26: 316-9)。
【0071】
マルチプル配列アラインメントおよびパーセント同一性の計算値は、標準的なBLASTパラメーターを用いて(利用可能な全生物からの配列、マトリックスBlosum 62、ギャップコスト:存在 11、延長 1を用いて)決定される。それとは別に、以下のプログラムおよびパラメーターも使用される:
プログラム:Align Plus 4、バージョン4.10(Sci Ed Central Clone Manager Professional Suite)
DNA対比:全体対比、標準線形スコアリングマトリックス、ミスマッチペナルティー=2、オープンギャップペナルティー=4、拡張ギャップペナルティー=1
アミノ酸対比:全体対比、BLOSUM 62 スコアリングマトリックス。
【0072】
本発明のさらなる態様は、非ネイティブプロモーター、特に強力な非ネイティブプロモーター、好ましくはB.メタノリカスのmdhプロモーターに制御可能なように結合された、本発明の単離されたAKIIIをコードする核酸分子(すなわち、配列番号3の核酸および上記にて規定の、関連配列または誘導配列)を含む構築物を提供する。所望により 、該構築物は、追加的に、更なる1つ以上の遺伝子および/または1つ以上の適切な制御配列を含むものである。任意の更なる1つ以上の遺伝子は、本発明のAKIIIをコードする核酸分子と同様のプロモーターの制御下にあってもよい。好適な1つ以上の制御配列は、非ネイティブの制御配列である。
【0073】
この発明の内容においては、「制御可能なように結合された」との用語は、一方の機能が他方を影響を与える、単一の核酸フラグメント中の2つ以上の核酸分子の関連を指す。たとえば、プロモーターは、コーディング配列の発現に影響を与えることができる場合(つまり、コーディング配列が、プロモーターの転写制御下にある場合)、コーディング配列に制御可能なように結合されている。コーディング配列は、制御配列に、センス方向またはアンチセンス方向にて制御可能なように結合されていてもよい。
【0074】
「制御配列」との用語は、コーディング配列の上流(5´非コーディング配列)、内部、または下流(3´非コーディング配列)に位置するヌクレオチド配列であり、転写、RNAプロセッシングもしくはRNA安定性、または関連するコーディング配列の翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。制御配列としては、プロモーター、オペレーター、エンハンサーおよび翻訳リーダー配列が挙げられる。本明細書にて使用されるように、「プロモーター」との用語は、コーディング配列またはRNAの発現を制御できるヌクレオチド配列を指す。一般的に、コーディング配列は、プロモーター配列に対して3´位に位置する。プロモーターは、そのもの全体としてネイティブの遺伝子に由来するものであってもよいし、天然に見出される異なるプロモーターに由来する異なるエレメントから構成されるものであってもよく、さらに、合成ヌクレオチドセグメントを含むものであってもよい。殆どの場合、制御配列の正確な境界は完全には特定できていないので、異なる長さの核酸フラグメントは、同一のプロモーター活性を保持し得ることが認識される。
【0075】
本発明の更なる実施態様は、上記にて規定した核酸分子または公知物を含むベクターを提供する。
【0076】
特には、本発明のAKIIIをコードする核酸分子(または本発明の構築物)を含むベクターが構築され得る。ベクターの選択は、微生物、宿主細胞を形質転換するのに使用される方法、蛋白質発現に使用される方法またはその他のベクターの意図的な使用に依存するものである。当業者ならば、問題なく形質転換し、本発明のAKIIIをコードする核酸分子または構築物を含む宿主細胞を選択して増殖させるために、ベクターに存在すべき遺伝子エレメントについては十分に認識しているものである。当業者ならば、形質転換イベントは結果として発現の異なるレベルおよびパターンに至り、そのため、所望の発現レベルおよびパターンを示す細胞を得るためには複数のイベントをスクリーニングしなければならないことも、認識しているものである。このようなスクリーニングは、とりわけ、DNAのサザン分析、mRNA発現のノーザン分析、蛋白質発現のウェスタン分析によって達成されてもよいことを当業者ならば認識するであろう。
【0077】
本発明は、更に、本発明の核酸分子、構築物またはベクターの1以上を含む、特にはAKIIIをコードする核酸分子を含み、それゆえAKIIIを過剰発現することができる核酸分子、構築物またはベクターの1以上を含む微生物すなわち宿主、特にはB.メタノリカスを提供する。宿主微生物(たとえばB.メタノリカス)は、内在的に、本発明のAKIIIをコードする核酸を含んでいてもよいし、あるいは含んでいなくてもよい。何れの場合においても、AKIIIの発現を変更するために遺伝的に操作される。このことは、たとえば、非ネイティブのプロモーター、好ましくは強力なプロモーター制御下にある、本発明におけるAKIIIをコードする核酸の1以上のコピーを導入することで達成され得る。上記の両方の場合においても、遺伝的物質は、宿主の生物体に存在し、天然の生物体には存在していない(すなわち、外来性の遺伝的物質が存在している。)。
【0078】
一般的に、外来性の遺伝的物質は、形質転換の工程を用いて導入される。この形質転換は、典型的には、形質転換できた微生物の同定を可能にするためのマーカー、たとえば抗生物質耐性遺伝子(たとえば、アンピシリンに対する遺伝子)も含む、プラスミドまたはその他のベクターを必要とするだろう 。形質転換体を選択するためのその他の方法は、当業者には公知であり、たとえば、光感受性ベクターであるlux遺伝子の使用が挙げられ、この遺伝子は、暗下においてポジティブコロニーに発光させる。バクテリアの形質転換のための、その他の適切なビヒクルとしては、コスミドおよびバクテリオファージ分子が挙げられる。
【0079】
上述したように、本発明の方法は、特に、L−リシンの商業的または工業的生産において有用性を見出すものである。好ましい態様においては、それゆえ、L−リシンの生産またはL−リシンの発現の増加の方法は、生産スケールの工程に関するものであり、すなわち、これらは研究室での試験よりもむしろ、生産スケールまたは工業的スケールにおいて実施される。これらの工程は、バイオリアクタ―または発酵槽、特には生産スケールでのバイオリアクタ―または発酵槽におけるものが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
本発明を、以下の限定するものではない実施例においてより詳細に説明するが、ここで、
【図1】図1は、アスパラギン酸経路の一般概要を示すものである(Paulus (1993) Biosynthesis of the Aspartate Family of amino acids. In: Sonenshein (Ed) Bacillus subtilis and other gram-positive bacteria: biochemistry,physiology and molecular genetics.American Society for Microbiology: ワシントンD.C.)。最終生産物の主要な代謝機能を括弧内に示す。本作業において配列決定され、提示されたB.メタノリカス遺伝子は下線で示される。;
【図2】図2は、B.メタノリカスMGA3における部分的なdapオペロンおよびyclMの遺伝子構成を、B.サブチルスにおける相当する遺伝子と比較して示す。;
【図3】図3は、B.メタノリカスMGA3とdapG、lysCおよびyclMを過剰発現する組換え菌株との振とうフラスコ培養の粗抽出物のAKの比活性を示す。全ての酵素比活性は、インビトロにおいて測定されて、コントロール菌株MGA3(pHP13)(1として規定)の比活性に対して相対的なものである。MGA3(pHP13)における測定されたAKの比活性は、0.05U/mg蛋白質であった。;
【図4】さらに図4は、A:野生型MGA3およびコントロール菌株MGA3(pHP13)の発酵トライアル、B:dapG、lysCまたはyclMを過剰発現する組換えMGA3菌株の発酵トライアルにおける、増殖およびL−リシンの生産を示す。黒塗り記号(Filled symbols):乾燥細胞重量、白塗り記号(Empty symbols):L−リシンの生産(体積補正値)。発酵中では、メタノールを自動的に供給することで、培地のメタノールレベルを150mMに維持した。
【実施例】
【0081】
[実施例1]
材料および方法
生物学的材料、DNA操作および増殖条件
本研究にて使用された菌株およびプラスミドを、表1にて列挙する。
【0082】
エシェリヒア・コリDH5aを、標準的なクローニング宿主として使用し、クロラムフェニコール(15μg/ml)が適宜添加された液状または固体状ルリア−ベルターニ培地において、組換え株を37℃で増殖した。組換えE.コリの手順を、他に開示されたように実施した(Sambrookら、(1989)Molecular cloning: a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press: コールドスプリングハーバー、ニューヨーク)。また、B.メタノリカスにおける形質転換を、以前より開示されているように、エレクトロポレーションにて実施した(Jakobsenら、(2006)、上記)。
【0083】
また、振とうフラスコ培養物 に関しては、B.メタノリカス株を、200mMメタノールを含むMeOH200培地100mlにおいて、50℃で増殖し(Jakobsenら、(2006)、上記)、細菌の増殖を、600nm(OD600)における光学密度を測定することで観察した。
【0084】
初期体積0.91でApplikon3l 発酵槽中にて、発酵を実施した。この培地は、UMN1培地と定義されており、4.09g/lのKHPO、1.30g/lのNaHPO、2.11g/lの(NHSO、0.25g/lの酵母抽出物(Difco)、6mg/lのd−ビオチン、0.01mg/lのビタミンB12、1mMのMgSO、1ml/lの濃縮金属溶液(Leeら、1996)、150mMのメタノールを含むものである。また、クロラムフェニコール(5μg/ml)を適宜添加した。MeOH200培地における振とうフラスコ培養物を、接種材料(inoculum)として使用し、OD600=1.1〜1.3で回収した。回収時における接種材料のOD600(1.1〜1.3)で除算された75mlに相当の培養体積で、発酵槽を接種した。また、400rpmの初期攪拌および0.5VVMのエアレーションで、50℃にて該発酵を実行した。該エアレーションは、段階的に1.0VVMまで増加され、酸素要求が上昇するに合せて、空気を段階的に60%Oまで高めた。常に 、溶存酸素を、2,000rpmまでの攪拌スピードの自動調節によって30%飽和状態に維持した。また、12.5%(w/v)NHの自動添加(典型的には、200〜250ml)によって、pHを6.5に維持した。泡消剤(Sigma Antifoam 204)を、0.005%(v/v)の初期濃度で添加し、必要に応じて、発酵中においても添加した(典型的には3ml)。発酵槽におけるメタノール濃度を、マススペクトロメーター(Balzers Omnistar GSD 300 02)によるヘッドスペースガスのオンライン分析によって観察した。また、60℃まで加熱された絶縁ステンレス鋼管内で、発酵槽からマススペクトロメーターに、約30ml/分の流速で、ヘッドスペースガスを移送した。該培地中におけるメタノール濃度を、メタノールの要求に応じて、MeOH供給液の自動添加によって150mMに維持した。MeOH供給液は、1リットルのメタノールあたり、50mlのCKNFD Trace Metalsを含むものである。このCKNFD Trace Metalsは、344 mMのMgCl、78.5mMのFeCl、50.5mMのMnCl、1.53mMのCuCl、1.60mMのCoCl、1.57mMのNaMoO、3.23mMのZnCl、100ml/lのHClを含む。乾燥細胞重量を、OD600値当たり0.31g/l乾燥細胞重量の変換係数に基づいて計算した(報告される発酵トライアルにおけるOD600値および乾燥細胞重量の測定に基づく平均値として計算した。)。指数増殖期(15g/l未満の生物量濃度)からのデータ点に基づいた、生物量濃度対時間における片対数プロットの線形回帰によって、この比増殖速度を算出した。該発酵を、排気ガスのCO含量が零に近接する(細胞の呼吸が無い状況)まで、実行した。
【0085】
発酵中における培養体積の著しい増加のために、最初の培養体積によって除算されたサンプリング時点の培養体積で測定濃度を乗算することで、全ての生物量およびアミノ酸の濃度を、体積増加および後の希釈について補正した。終点のサンプルに使用された補正率は、1.5と1.7との間であり、したがって、バイオリアクターにおいて測定されたアミノ酸および生物量の実際濃度はより低い。
【0086】
【表1】

【0087】
アミノ酸およびアンモニアの測定
Skjerdalら(1996 (Appl. Micro. Biotechnol. 44(5): 635-642)に従い、0.02M 酢酸Naおよび2%テトラヒドロフランを含み、pH5.9である緩衝液を用いてアミノ酸を定量した。既に開示されたように、簡易的に洗浄および溶解された細胞培養物におけるアミノ酸含量の定量 、細胞内容量の理論的な推定 および、実験的に決定されたOD600当たり2.2x10細胞/mlの変換係数に基づいて、細胞内のアミノ酸濃度の計量を実施した(Brautasetら、(2003) Appl. Environ. Microbiol. 69(7): 3986-3995)。また、アンモニアを、製造元の使用説明)に従って(試料を1:1000に希釈し、さらに分析前に1:10000に希釈した、Spectroquant Ammonium-Test Kit (Merck)で測定した。
【0088】
B.メタノリカスasd、dapG、dapAおよびlysC遺伝子のPCR補助クローニング(PCR-assisted cloning)
B.リチェニホルミス、B.ハロドランス、B.セレウス、リステリア イノキュア、L.モノサイトゲンおよびB.サブチルスにおけるyclM、mlpA、asd、dapGおよびymfAのDNA配列(それぞれ、GenBankアクセッション番号AE017333、BA000004、NC_004722、AL592022、AL591824およびAL009126)に基づく縮重プライマーを用いて、B.メタノリカスMGA3全DNAから推定AKIコーディング遺伝子およびAKIIIコーディング遺伝子をPCR増幅した。プライマー対(表2)mlpA−PPS−1 Fをasd−PPS−1 Rととともに(3.9kbフラグメントを産生する。)およびasd−PPS−1FをymfA−PPS−1Rとともに(3.3kbフラグメントを産生する。)用いて、重複フラグメントとしてasd、dapGおよびdapAを包含するMGA3のDNAフラグメントをPCR増幅した。また、これらのフラグメントの配列をプライマーウォーキング法によって決定した。
【0089】
yclMの中心領域を、PCR増幅して、yclM内の保存領域に基づいた縮重プライマーを用いて、部分的に配列を決定した。MGA3全DNAを、EcoRIで消化し、次いで、該制限酵素を熱失活に供した。このDNA材料を、希釈して、4℃、72時間ライゲートした。プライマーyclM−PPS−1FおよびyclM−PPS−1Rは、両方とも、既にPCR増幅されたyclM領域から外側を向いており、テンプレートとしてライゲーション混合物を使用し、3kbDNAフラグメントをPCR増幅するために用いた。また、このDNAフラグメントの配列をプライマーウォーキング法によって決定した。
【0090】
ベクターの構築
プライマーmdh−CDS−F1 およびpTBl.9−R1を用いて、pTBl.9mdhLからメタノールデヒドロゲナーゼ(mdh)コーディング領域を含むDNAフラグメントAをPCR増幅した。また、推定mdhプロモーター領域を、プライマーmdh−prom−F1およびmdh−prom−R1を用いて同じテンプレートからPCR増幅し、DNAフラグメントBを調製した。pTBl.9mdhLをPstI およびBamHIで消化し、ベクターのバックボーンフラグメントを、BamHI/Pcil消化DNAフラグメントBおよびPcil/PstI 消化DNAフラグメントAとともにライゲートした。また、2つのフラグメントと同じようにベクターのPCR増幅によって、2つのPciI部位を得られたベクターから除いた。フラグメント1では、プライマーmp−mdh−P2−F1およびmp−mdh−P2−R2を使用し、フラグメント2では、プライマーmp−mdh−P2−F2およびmp−mdh−P2−Rlを使用した。該2つのフラグメントを、SphIおよびKpnIで末端消化しライゲートして、pTBl.9mp−mdhを調製した。該pTBl.9mp−mdhは、mdhの上流とコーディング領域との間において、mdhプロモーターへのコーディング領域の融合を簡易化させるためのPciI部位を保有する。このPciI部位の挿入によって、mdh開始コドンの上流の4つのヌクレオチドを、原型のAAGAからCATGへと変換させた。
【0091】
dapG、lysCおよびyclMのコーディング領域を、それぞれ、プライマーdapG−CDS−F1およびdapG−CDS−R1、lysC−CDS−F1およびlysC−CDS−R1、yclM−CDS−F1およびyclM−CDS−R1を用いて、B.メタノリカスMGA3の全DNAからPCR増幅した。得られた、GTG開始コドンと部分的に重複するPciI部位をすべて保有するPCRフラグメントを、PciIおよびKpnIで末端消化し、該フラグメントを使用して、pTB1.9mp−mdhのmdhコーディング領域を置換して、ベクターpTB1.9mp−dapG、pTB1.9mp−lysCおよびpTB1.9mp−yclMをそれぞれ調製した。この工程において、dapGおよびyclMの原型であるATG開始コドンは、CTGへと変更されている。また、pTB1.9mp−lysCの、mdhプロモーターおよびlysCコーディング領域を含むPstI/EcoRIフラグメントをpHP13の対応部位に挿入して、pHP13mp−lysC(7.3kb)を調製した。pHP13mp−lysCの対応部位へ、pTB1.9mp−dapGのPstI/KpnIフラグメントおよびpTB1.9mp−yclMのSpeI/KpnIフラグメントを挿入することで、pHP13mp−lysCのlysCコーディング領域を、dapGおよびyclMコーディング領域と交換して、それぞれpHP13mp−dapG(7.1kb)およびpHP13mp−yclM(7.2kb)を調製した。
【0092】
【表2】

【0093】
粗細胞抽出物の調製およびAKアッセイ
Brautasetら(2004、上記)によって開示されたプロトコールに基づいて、粗細胞抽出物を調製した。すなわち、MeOH200培地で、対数増殖期(OD600=1.9〜2.1)までB.メタノリカス細胞を増殖させ、20mlの細胞培養物を遠心分離(3,200xg、10分、10℃)によって回収した。次いで、上清を捨て、20mlの高塩緩衝液(9倍濃度でのMeOH200培地の塩緩衝液、pH7.2)で細胞を再懸濁した。再懸濁された培養物3mlを遠心分離し(3,200xg、10分、10℃)、上清を捨てて、ペレットを凍結し、−20℃にて保存した。該細胞を、氷上にて解凍して、AKアッセイ緩衝液(50mM リン酸カリウム、10mM MgSO、pH7.5)3mlにて再懸濁して、3分間、超音波で分解した(Branson Sonifier250、出力制御3、30%、負荷サイクル)。次いで、遠心分離(3,200xg、20分、4℃)によって、細胞残滓を除去し、上清を細胞抽出物として回収して、後の酵素活性および全細胞蛋白分析ために氷上にて保存した。ヒドロキシルアミンからのアスパルチルヒドロキサム酸の形成によって、AK活性を定量した(Blackら、(1955)上記)。該反応混合物は、400μlの反応緩衝液(0.5M Tris−HCI、2M KCI、pH8.0)、200μlのヒドロキシルアミン溶液(2Mヒドロキシルアミン、pH8.0)、100μlのAAM溶液(0.1M L−アスパラギン酸、0.1M ATP、0.1M MgCl、0.2M Tris−HCl、pH8.0)およびAKアッセイ緩衝液中で希釈された300μlの試料を含んでいた。1mlのFe溶液(10%(w/v)FeCl、0.7M HCl中の3%(v/v)トリクロロ酢酸、使用前に滅菌ろ過)の添加によって、反応を停止するまで、反応混合物を、50℃、20分インキュベートした。アスパラチルヒドロキサム酸の形成を、すぐに、分光光度計(Shimadzu、UVl700)を用いて、540nmで測定した。該試料をアスパラチルヒドロキサム酸の標準物で交換したアッセイを実施して、吸光度をアスパラチルヒドロキサム酸濃度に関連付けた。AK活性の一単位を、上記条件下において、1分あたりアスパラチルヒドロキサム酸1μmolを産生するのに必要な酵素量として定義した(Black ら、(1955)上記)。ウシ血清アルブミンを標準物として用いたBradford法(Bio−Rad)によって、蛋白濃度を定量した。AKアッセイを3回行って、各蛋白濃度の測定においては、4並列で行った。測定AK活性値および蛋白濃度の平均値および標準偏差に基づき、General Formula for Error Propagation (Taylor (1997) An introduction to error analysis: the study of uncertainties in physical measurements. University Science Books: Sausalito、カリフォルニア. Section 3.11)を用いて、比AK活性の不確定度 を算出した。
【0094】
結果
B.メタノリカスにおける推定AKIIIをコードするyclM
アミノ酸配列のアラインメントに基づいて、縮重プライマーのセットを設計し(材料および方法を参照)、MGA3の全DNAをテンプレートとして該縮重プライマーのセットを用いて2kbのDNAフラグメントをPCR増幅した。この方法を用いてMGA3の全DNAから、推定yclM遺伝子をPCR増幅できた。2012bpのDNAフラグメントの配列を決定し、予想されるコーディング領域および上流配列の605bpを含むことを見出した(図2)。yclM遺伝子産物の推定一次配列(455アミノ酸)は、アミノ酸基準で、B.リチェニホルミスAKIII(74%)に対して全体の中で 最も高い同一性を示し、B.サブチルス菌株168のAKIIIに対して71%の同一性を有しており、これ ついては、AK活性が実験的に実証されている(Kobashiら、(2001) Biosci. Biotechnol. Biochem.、65(6):1391-1394)。また、この遺伝子産物は、B.サブチルスのAKIとAKIIとの両方に対して、低い一次配列の同一性を有する(それぞれ、23%、25%)。同時に、これらのデータは、B.メタノリカスyclM遺伝子が、推定されるAKIIIアイソザイムをコードすることを示唆している。
【0095】
推定アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、AKIおよびジヒドロジピコリン酸シンターゼをそれぞれコードするasd、dapGおよびdapAは、B.メタノリカスの推定dapオペロンにおいて構成化されている。
【0096】
B.サブチルスにおいては、asd、dapGおよびdapAは、dapオペロン内部に位置している(Chenら、(1993) J. Biol. Chem.、 268(13): 9448-9465)。幾つかの類縁種における公知の配列をアライン することで(「材料および方法」の項を参照)、我々は、dapオペロンの上流、内部および下流における保存された遺伝子の構成の存在を見出し、この遺伝的構成はB.メタノリカスにおいて調査した類縁種と類似していることを仮定した。mlpA、asd、dapGおよびymfA内部の保存領域に基づく縮重プライマーを使用することで(図2)、我々は、部分的かつ推定されるMGA3のdapオペロンをカバーするDNAフラグメントをPCR増幅した。全体的に、上流にある推定spoVFBおよび下流にある推定ymfAの部分体とともに、推定遺伝子asd、dapGおよびdapAを含む、4465bpのDNA領域を配列決定した(図2)。asd、dapGおよびdapAの推定遺伝子産物(それぞれ、351、413および290アミノ酸)は、バシラス種であるNRRLB−14911のアスパラギン酸ヘミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、AKIおよびジヒドロジピコリン酸シンターゼ(それぞれ76、85および79%)に対して最も高い一次配列の同一性を示す。推定dapG遺伝子産物は、B.サブチルス菌株168のAKIに対して68%の同一性を有し、これ ついては、AK活性が実験的に検証されている(Chen ら.、(1993)上記)一方、B.サブチルスノAKIIおよびAKIIIに対する一次配列の同一性は低い(それぞれ、38%および24%)。このことは、B.メタノリカスdapG遺伝子は、推定されるAKIアイソザイムをコードすることを示唆している。
【0097】
同じ方向性を有し、かつ短い遺伝子間領域(それぞれ31および14ヌクレオチド)を伴うasd、dapGおよびdapAにおける構成は、B.サブチルスのそれとは類似しているものであり(図2)、そこでは、これら3つの遺伝子は、栄養増殖中において、一単位として転写される(Chenら.、(1993)上記)。推定MGA3dapオペロンにおける短い遺伝子間領域は、mRNAの二次構造を明らかに形成させなくする。このことは、B.サブチルスにおける91ヌクレオチド長のasd−dapG遺伝子間転写物 における2つの採り得る二次構造とは対照的である。つまり、16SリボソームRNAと相互作用するためのdapGリボソーム結合部位の利用性において、これらの二次構造は相違し、asdに対して、dapG−dapA発現を負に制御する可能性のある機構を示すことを示唆する(Chen ら.、(1993)上記)。
【0098】
カセットクローニングおよびB.メタノリカスの発現系の構築
我々は、mdhおよびE.コリ―B.メタノリカス間のシャトルベクターであるpHP13に基づく、メタノリカスにおける、簡略化された遺伝子の過剰発現のためのツールとして、カセット発現系を構築した(Brautasetら、(2004)上記;Jakobsenら、(2006)上記)。mdh開始コドンに部分的に重複する特異な 制限部位およびコーディング領域の下流にある特異な制限部位を挿入することによって、このカセット系は、mdhプロモーター領域およびリボソーム結合部位に、任意コーディング領域のインフレーム融合のための簡単なクローニングストラテジーを提供するものである。
【0099】
dapGおよびyclMの組換え発現は、これらがAK活性をコードすることを確証する。
【0100】
B.メタノリカスにおけるAK遺伝子の過剰発現のために、我々は、発現ベクターpHP13mp−dapG、pHP13mp−lysCおよびpHP13mp−yclMを構築し、これらにおいては、遺伝子dapG、lysCおよびyclMは、mdhプロモーターおよびリボソーム結合部位の制御下にある。このように、これらの構築においては、AKをコードする遺伝子は、アスパラギン酸経路における産物による、原型の転写制御から解放 されるものである。これらの発現ベクターを野生型MGA3に導入し、我々はコントロール菌株として、MGA3(pHP13)を構築した。我々は、MGA3から調製された粗抽出物と規定されたメタノール培地における振とうフラスコ内で増殖した組換え菌株とで、AK活性を対比した。この結果(図3)は、推定AKIおよびAKIII(それぞれdapGおよびyclMによりコードされる)とAKII(LysCによってコードされている)とを過剰発現する組換え菌株の粗抽出物は、コントロール菌株のそれに比べて、インビトロにおいて、4から40倍高いAKの比活性を示すことを証明している。これらの結果は、dapGおよびyclM遺伝子産物において、推定される生化学的機能を確認するものである。予想されるように、野生型の菌株であるMGA3およびコントロール菌株であるMGA3(pHP13)は、同様のAK活性を発現する。興味深いことに、lysCの過剰発現は、dapGおよびyclMに比べて、インビトロにおいて10倍高いAK活性を与える。このことが、インビトロにおいて測定されたAK蛋白質の、より高い発現レベルによるものなのか、あるいは異なる生化学的特性によるものなのかは知られていない。全て試料について、粗抽出物の異なる希釈系で、同様なインビトロでの比活性を測定することができ(データ未表示)、つまり、フィードバック制御は酵素アッセイの結果に影響しないことを該非活性は示している。
【0101】
dapG、lysCおよびvclMの過剰発現は、B.メタノリカスMGA3におけるL−リシン生産の増加に至る。
【0102】
野生型B.メタノリカスのL−リシン生産におけるdapG、lysCおよびyclMの発現増加の効果を評価するために、我々は、規定されたメタノール培地にて、構築された組換え菌株で高い細胞密度の流加バッチ式発酵のトライアルを実行した。アミノ酸の生産(増殖培地に分泌されたアミノ酸の量として規定)を、発酵中において監視した。異なるバイオリアクタ―でのトライアルを比べるにあたり、本明細書にて報告される全てのバイオマス濃度およびアミノ酸生産 は、発酵中において流加することによって生じる希釈について補正した(「材料および方法」の項を参照)。
【0103】
試験された条件下において、野生型MGA3は、0.49h−1の初期比増殖速度で、23時間で58g/lの最大のバイオマス濃度に達した。MGA3の最終的なL−リシン生産は、以前の結果と一致して、0.18g/lであった(Schendelら、(1990)上記;Brautasetら、(2003)上記)。比増殖速度、最大細胞密度およびL−リシン生産に関しては、コントロール菌株MGA3(pHP13)は、野生型と同様であり、pHP13は、これらの特性には影響を与えないことを示している(図4および表3)。興味深いことに、dapG、lysCまたはyclMのいずれかを過剰発現する組換え菌株全ては、コントロール菌株よりもL−リシンを多く生産し、また、同様な比増殖速度側を保持していた(表3)。L−リシン生産における最も劇的な効果は、菌株MGA3(pHP13mp−yclM)にて観察され、かかる菌株は、コントロール菌株よりも60倍を超えるL−リシン(11g/l)を生産した(図4および表3)。dapGおよびlysCを過剰発現する組換え菌株は、L−リシンの生産において、それぞれ2倍および10倍の増加を示した。すべての菌株は、L−グルタミン酸の生産に関しては同様なものであり(48〜52g/l)、アスパラギン酸経路におけるその他の最終生産物である、L−メチオニン(<0.5g/l)およびL−スレオニン(<0.1g/l)の生産は低いままであった。発酵のトライアルにおける再現性を検証するために、MGA3(pHP13)およびMGA3(pHP13mp−yclM)を2回、別個の発酵トライアルを実施した。光学密度およびアミノ酸濃度は、どのサンプリング点においても、並行する発酵トライアル間では、10%未満で変化し、計測された比増殖速度は、+/−0.02h−1以下で変化した。
【0104】
【表3】

【0105】
[実施例2および3 材料および方法]
実施例1の材料および方法の項にて記載されていない追加情報
DNA操作および培養条件
一般的なクローニング、PCR、DNAシークエンシングおよび発酵を、実施例1で既に記載されたように実施した。また、Jakobsenら(2006) J Bacteriol.、188(8): 3063-3072において開示されたように、2×Mann10に等しいMann20培地を用いて、マンニトールにおけるB.メタノリカスの増殖を行った。
【0106】
L−リシンの測定
L−リシンの測定を、実施例1にて説明されているようなHPLCを用いて実施した。
【0107】
1.リアルタイムPCR
B.メタノリカス培養物を、回収する前に、後期対数期(OD600=3)まで増殖させた。RNA保護を含めた細胞溶解、全RNA単離および、それに付随するcDNA合成を、他の 文献に記載されているように実施した(Jakobsen ら、2006、上記)。全RNA濃度を、NanoDrop(登録商標)ND−1000分光光度計(NanoDrop Technologies)を用いて定量した。また、我々 は、コンピューターソフトウェアPrimer ExpressR v 2.0 (Applied Biosystems)を用いて、リアルタイムPCR試験のプライマーを設計した。以下のプロファイルの下、ABI 7500 System(Applied Biosystems)で、PCR産物の検出を実施した。プライマー効率の試験のために、反応混合物を、95℃、10分間インキュベートして、ホットスタート型Taqポリメラーゼを活性化し、2段階のPCRプロトコール(95℃、15秒の変性工程、次いで、60℃、1分の複合型のアニーリング−伸長工程(蛍光データの獲得 を伴う))に供した。この工程を40サイクル繰り返した。95℃で15秒、60℃で1分の後サイクルと、95℃15秒の最終段階とによって、解離温度の決定をした。リアルタイム定量PCRによる比較研究のために、プライマーの効率試験に使用されたこの工程にプロファイルを準拠させた。データの獲得および分析を、SYBRシグナルでの標準反応の下、Sequence Detectionソフトウェアーバージョン.1.2.3(Applied Biosystems Inc.)で実施した。
【0108】
発現ベクターの構築
pTH1mp−lysC
プラスミドpHP13(Jakobsenら、2006、上記)をPciIで消化し、得られた粘着末端をT4DNAポリメラーゼを用いて平滑化し、該末端を再度ライゲートしてプラスミドpTH1を調製した。プラスミドpHP13mp−lysC(実施例1)をPstI/EcoRIで消化し、2.6kbフラグメントを単離し、pTH1の対応部位にライゲートして、発現ベクターpTH1mp−lysCをクローニングするカセットを調製した。このベクターは、プラスミドHP13mp−lysCに類似しており、強力なmdhプロモーターの下流域およびmdh rbs領域のインフレームにあるの任意のコーディング遺伝子を一段階でクローニングするための、特異なPciI部位を有する。
【0109】
pTH1mp−asd、pTH1mp−dapAおよびpTH1mp−lysA
以下のプライマー対を用いて、B.メタノリカス全DNAからasd(1117bp)、dapA(904bp)およびlysA(1322bp)のコーディング領域を有するDNAフラグメントをPCR増幅した。
asd−F:5´−GCGCACATGTGGGTCAAGAAAATGGTCTTC−3´(配列番号:30)
asd−R:5´−ATGGTACCTGCCCCCGAATTTTTGAAC−3´(配列番号:31)
dapA−F:5´−GCGCACATGTGGTTTCATTTGGTCGAATATC−3´(配列番号:32)
dapA−R:5´−ATGGTACCGGCAGTAAAAACTCCATTGAT−3´(配列番号:33)
lysA−F:5´−GCGCACATGTGTATTTTCATGGCACAACA−3´(配列番号:34)
lysA−R:5´−ATGGTACCGCAGCTTAGTATCTTACTCT−3´(配列番号:35)
なお、PciIおよびKpnI制限部位は、それぞれフォワードプライマーおよびリバースプライマーにおいて下線で示されている。得られたPCR産物を、PciI/KpnIで末端消化し、pTH1mp−lysCの対応部位にライゲートし(lysC遺伝子を置換する)、発現ベクターpTH1mp−asd、pTH1mp−dapA、pTH1mp−lysAをそれぞれ調製した。全てのプラスミドにおけるインサートを、DNAシークエンシングによって検証した。
【0110】
pHP13mp−yclM+lysA
プラスミドpTH1mp−lysAをSpeI/NcoIで消化し、1.8kbフラグメントを精製し、XbaI/NcoIで消化されたpHP13mp−yclMにライゲートして、発現ベクターpHP13mp−yclM+lysAを調製した。
【0111】
pTH1mp−dapA+yclM
プラスミドpHP13mp−yclMをSpeI/NcoIで消化し、1.9kbフラグメントを精製し、pTH1mp−dapA XbaI/NcoI部位にライゲートして、発現ベクターpTHmp−dapA+yclMを調製した。
【0112】
そして、エレクトロポレーションによって上記ベクターをB.メタノリカス菌株のMGA3に形質転換した。
【0113】
[実施例2]
pHP13およびmdhプロモーター用いた、追加のB.メタノリカス遺伝子の過剰発現ならびにL−リシン生産における効果
発酵槽において試験された、3つの異なるAKコードディング遺伝子(dapG、lysC、およびyclM)の過剰発現および、MGA3(野生型B.メタノリカス)でのL−リシン生産における効果は、実施例1にて説明されている。更なる研究において振とうフラスコ中で、同じ発現系(つまり、mdhプロモーターを有するpHP13)を用いて、L−リシン生合成経路にて追加された遺伝子を過剰発現させた(表5)。単一の遺伝子から得られた全ての結果に基づいて、我々は、同一の発現系を用いて、組み合わされた2以上の過剰発現を有するベクターを構築し、MGA3におけるL−リシン生産レベルの追加的な効果を証明した(表5参照)。
【0114】
【表4】

【0115】
表4のコメント:
− 全ての発現遺伝子は、図1に記載され、ベクター構築物は、「材料および方法」の項において与えられている。
− 全ての組換え遺伝子については、mdhプロモーター(mdhP)によって転写が駆動される。
− 全ての組換え型遺伝子は、mdhリボソーム結合部位の翻訳制御下にある。
− 振とうフラスコにおける生産量は、該系統を発酵器において試験した場合に比べて、低いが、相対的な効果は同程度である。
【0116】
これらのデータは、実施例1と同様に、yclMの過剰発現は、結果として、AKI(dapG)およびAKII(lysC)遺伝子に見られる場合よりもより高いL−リシン生産になることを示している。AKIII過剰発現を、dapA(ジヒドロジピコリン酸シンターゼをコードする)およびlysA(メソ-ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードする)のようなリシン生合成におけるその他の遺伝子の過剰発現と組み合わせることで、リシン生産における改善効果が得られうることを更に示している。
【0117】
[実施例3]
糖類系増殖培地におけるL−リシン生産
我々は、マンニトール培地中における増殖でのL−リシン生産を、実施例3に記載の組換え菌株で、たとえば、lysAを過剰発現するMGA3(pTH1mp−lysA)で試験し、この結果は、メタノール培地において得られた類似データに比べて、これらの条件下では、生産レベルが同等か、さらに一層高いということを明確に示している(表5参照)。マンニトール培地およびメタノール培地の組成は、C源を除いては、同一である。
【0118】
【表5】

【0119】
使用増殖培地に関するコメント
MeOH200:Jakobsenら(2006)(上記)にて開示されている。
Mann20:Jakobsenら(2006)(上記)にて開示されている2×Mann10に相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B.メタノリカスにおいてL−リシンを生産する方法であって、該B.メタノリカスにおいてAKIII酵素を過剰発現することを含む方法。
【請求項2】
AKIII酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子が、B.メタノリカスに導入されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
AKIII酵素を過剰発現するB.メタノリカス微生物。
【請求項4】
AKIII酵素をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子を導入することによって、改変されている、請求項3に記載の微生物。
【請求項5】
前記核酸分子が、バシラス・spのAKIIIをコードする遺伝子であるか、またはバシラス・spのAKIIIをコードする遺伝子に由来するものである、請求項2に記載の方法または請求項4に記載のB.メタノリカス。
【請求項6】
前記核酸分子が、
(i) 下記のGenBankアクセッション番号の何れか1つで、寄託されたAKIII酵素をコードするヌクレオチド配列か、
(a)NC−000964(B.サブチルス亜種168株)(配列番号:5);
(b)NC−006270(B.リチェニホルミスATCC14580(DSM13))(配列番号:6);
(c)NC−002570(B.ハロドランス C−125)(配列番号:7);
(d)CPOO056O(B.アミロリクファシエンスF2B42)(配列番号:8);もしくは
(e)AL596172(リステリア イノキュア Clin 11262)(配列番号:9);
(ii)上記(i)における寄託されたヌクレオチド配列に対して、少なくとも50%の配列同一性を有するヌクレオチド配列か、
(iii)上記(i)に挙げられたヌクレオチド配列によってコードされたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列か、
(iv)上記(i)における寄託されたアミノ酸配列または上記(i)における寄託されたヌクレオチド配列から翻訳されたアミノ酸配列に対して、少なくとも50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸配列か、
を含む、請求項2〜3の何れか一項に記載の方法または請求項4〜5の何れか一項に記載の微生物。
【請求項7】
過剰発現されるAKIIIが、
(i)配列番号3にて示される ヌクレオチド配列の全てもしくは一部でコードされるか、または配列番号3に対して少なくとも50%の同一性(特には、配列番号3に対して、少なくとも55、60、65、70または75%の配列同一性)を有するヌクレオチド でコードされるAKIII、または
高いストリンジェントな 条件(0.lxSSC、0.1%SDS、65℃、洗浄条件:2xSSC、0.1%SDS、65℃、次いで、0.lxSSC、0.1%SDS、65℃)の下で、配列番号3の相補体とハイブリダイズするヌクレオチド配列または配列番号3のヌクレオチド配列と縮重するヌクレオチド配列でコードされるAKIIIであるか、
(ii)配列番号4にて示されるアミノ酸配列の全てもしくは一部を含むAKIIIまたは、配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも50%の配列同一性(特には、配列番号4に対して、少なくとも55、60、65、70、75または80%の配列同一性)を有するアミノ酸配列の全てもしくは一部を含む AKIIIである、
請求項1〜5の何れか一項に記載の方法またはB.メタノリカス生物体。
【請求項8】
前記AKIIIが、
(i)配列番号3に対して、少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列の全てもしくは一部でコードされているか、または
(ii)配列番号4に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列の全てもしくは一部を含む、
請求項7に記載の方法または微生物。
【請求項9】
導入された前記核酸分子が前記微生物のAKIII酵素と相同性があるAKIII酵素をコードする、請求項2の方法または請求項4〜7の何れか一項に記載の微生物。
【請求項10】
前記AKIIIがフィードバック阻害に対して感受性がある、請求項1〜9の何れか一項に記載の方法または微生物。
【請求項11】
前記AKIIIがフィードバック阻害に対して抵抗性がある、請求項1〜9の何れか一項に記載の方法または微生物。
【請求項12】
前記B.メタノリカスまたは前記微生物が、野生型のB.メタノリカスまたは野生型の微生物である、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法または微生物。
【請求項13】
前記B.メタノリカスまたは前記微生物が、リシン類似体 に対して、栄養要求性株であるか、または抵抗性を有する変異体である、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法または微生物。
【請求項14】
前記AKIIIが、前記微生物における他の遺伝子の発現または過剰発現とともに、過剰発現される、請求項1〜13の何れか一項に記載の方法または微生物。
【請求項15】
前記AKIIIをコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子が、非ネイティブ プロモーターから発現される、請求項1〜14の何れか一項に記載の方法または微生物。
【請求項16】
前記プロモーターが、強力なプロモーターである、請求項15に記載の方法または微生物。
【請求項17】
前記ヌクレオチドの発現が、転写抑制に支配されていない、請求項15または16に記載の方法または微生物。
【請求項18】
AK活性を有するポリペプチドをコードし、
(i)配列番号:1または3にて示されるヌクレオチド配列、
(ii)配列番号1にて示されるヌクレオチド配列に対して、少なくとも80%の配列同一性、特には少なくとも82、84、86、88、90、92、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
(iii)配列番号3にて示されるヌクレオチド配列に対して、少なくとも75%の配列同一性、特には少なくとも77、79、80、81、83、85、86、87、88、89、90、91、93、95、97、98または99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、
(iv)0.1×SSC、0.1%SDS、65℃であるハイブリダイゼーション条件および2×SSC、0.1%SDSの洗浄条件、次いで、0.1×SSC、0.1%SDS、65℃(高いストリジェントな条件)の下、(i)の相補体とハイブリダイズするヌクレオチド配列;
(v)配列番号1もしくは3のヌクレオチド配列と縮重するヌクレオチド配列;
(vi)配列番号1もしくは3のヌクレオチド配列の一部、または配列番号1もしくは3の配列と縮合するヌクレオチド配列の一部であるヌクレオチド配列;
(vii)(i)〜(vi)の何れか1つのヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列;
(viii)アミノ酸配列が配列番号2または4で示されるポリペプチドの全てまたは一部をコードするヌクレオチド配列;
(ix)配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%の配列同一性、好ましくは少なくとも92、93、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドの全てまたは一部をコードするヌクレオチド配列;
(x)配列番号4で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも82、84、86、88、90、92、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドの全てまたは一部をコードするヌクレオチド配列;および
(xi)(viii)〜(x)の何れか1つのヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列;
からなる群から選択されるヌクレオチドの配列を含む、または該配列からなる核酸分子。
【請求項19】
AK活性を有し、
(i)配列番号2または4で示されるアミノ酸配列の全てまたは一部、
(ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%の配列同一性、好ましくは少なくとも92、93、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列の全てまたは一部、および
(iii)配列番号4で示されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも82、84、86、88、90、92、94、95、96、97、98または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列の全てまたは一部
からなる群から選択されるアミノ酸の配列を含む、または該配列からなるポリペプチド。
【請求項20】
AKIII酵素をコードし、非ネイティブプロモーターに作動可能なように連結されている、配列番号3または配列番号4について、請求項18において規定された核酸分子を含む構築物。
【請求項21】
請求項18または請求項20において規定された核酸分子または構築物を含むベクター。
【請求項22】
請求項19〜21の何れか一項に記載の核酸分子、構築物またはベクターが導入された宿主微生物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−520462(P2011−520462A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510043(P2011−510043)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国際出願番号】PCT/GB2009/001265
【国際公開番号】WO2009/141607
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510252807)
【Fターム(参考)】