説明

LAN用メタルケーブル

【課題】各対撚線の対撚ピッチを異ならせ、絶縁体を発泡させるとともに絶縁体の発泡率を対撚線毎に変えることにより静電容量や特性インピーダンス等の伝送特性が均一で安定したLAN用メタルケーブルを提供する。
【解決手段】本発明のLAN用メタルケーブル1は、発泡層からなる絶縁体2が導体3の外周に被覆された2本のコアが撚り合わされた対撚線4a、4b、4c、4dからなり、各対撚線の対撚ピッチが互いに異なっており、各対撚線における対撚ピッチが短いほど絶縁体発泡層の発泡率が高くなるような構造を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定したギガビット伝送にも対応可能なLAN用メタルケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
LAN(Local Area Network)のような通信ネットワークの伝送において用いられるLAN用メタルケーブルの例として、従来から図3に示すように、絶縁体32を導体33上に被覆したコア2本を対撚りして対撚線34とし、それを複数本集合した後第1の遮蔽層35、第2の遮蔽層36及び外被37を施したLAN用メタルケーブル31が知られている。
【0003】
ところで、図3に示すような通常用いられるLAN用メタルケーブルにおいては、伝送方式の形態上4対を基本構造とすることが多く、また各対は対間の漏話防止を考慮して対撚ピッチを異ならせることが行われている。
【0004】
このようなLAN用メタルケーブルの伝送特性に影響を与える因子としては、特性インピーダンス、反射減衰量、挿入損失等があるが、これらはすべて静電容量に起因している。静電容量はケーブルの全長に渡ってできるだけ一定であることが望ましく、静電容量をCとすると、特性インピーダンスZと静電容量との関係は数式1の通りとなる。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、Lは自己インダクタンスでほぼ一定値であるので、特性インピーダンスが一定になれば静電容量も一定となる。
【0007】
また、反射減衰量RLの式は数式2の通りとなる。
【0008】
【数2】

【0009】
ここで、Rは導体抵抗、Zinは入力インピーダンスである。入力インピーダンスがすべての対において標準値である100Ωに近づくことにより、すべての対の反射減衰量を向上させることができる。
【0010】
さらに、挿入損失については、減衰定数をαとすると、下記の通り数式3で表すことができる。
【0011】
【数3】

【0012】
ここで、導体抵抗Rの値は対撚ピッチにより変化し、通常対撚ピッチが短いほど高くなる。従って、対撚ピッチを調整することにより挿入損失(減衰量)を低減することができる。
【0013】
ところで、前述したように従来からLAN用メタルケーブルにおいては、漏話を低減するために複数の対撚線の対撚ピッチをそれぞれ異ならせ、対撚ピッチが最短の対撚線の伝送特性を所定の規格値に合うように設計することが行われている。このような場合、対撚ピッチにより挿入損失が変化するので、対撚線の対撚ピッチを異ならせると各対撚線において挿入損失も異なることになる。そこで、従来から各対撚線においても挿入損失が一定になるような工夫がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0014】
一方、対撚ピッチが短くなるほど挿入損失が高くなる。そこで、挿入損失を低くするためには絶縁体を厚くすればよいが、ケーブル外径も太くなるという問題が生じてくる。このような問題を解決するために絶縁体を発泡させてケーブルの絶縁外径を細くすることも行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0015】
【特許文献1】特開平11−176252号公報
【特許文献2】実開平6−7116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記したように、従来からLAN用メタルケーブルの伝送特性を向上させるために各対撚線の対撚ピッチを異ならせることや絶縁体を発泡させることが行われている。しかし、対撚ピッチが短くなるほど静電容量が高くなる傾向があり、各対撚間で静電容量が異なるという問題が生じていた。
【0017】
また、前述したように特性インピーダンスは100Ωが標準値であるが、特性インピーダンスは対撚ピッチが短くなるほど低くなるので、1つの対を100Ωになるように設計、製造してもその他の対は100Ωからのずれが生じるという問題もある。従って、特性インピーダンスが100Ωからずれてくると数式2で示したように反射減衰量特性も低下するという問題も生じてくる。
【0018】
このように、LAN用メタルケーブルにおいて、従来から各対撚線の対撚ピッチを異ならせることや絶縁体を発泡させることが行われているが、このような対策だけではLAN用メタルケーブルの伝送特性の向上には限界があった。
【0019】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、各対撚線の対撚ピッチを異ならせ、絶縁体を発泡させるとともに絶縁体の発泡率を対撚線毎に変えることにより伝送特性の優れたLAN用メタルケーブルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的を達成するために本発明のツイストペアケーブルの第1の態様は、導体の外周に発泡層からなる絶縁体が被覆されたコアを2本撚り合わせて1対とした対撚線を複数本有し、対撚線の対撚ピッチが互いに異なるLAN用メタルケーブルにおいて、複数本の対撚線における絶縁体発泡層の発泡率が対撚ピッチに応じてそれぞれ異なることを特徴とする。
【0021】
また本発明のツイストペアケーブルの第2の態様は、第1の態様において、対撚ピッチが短いほど絶縁体発泡層の発泡率が高いことを特徴とする。
【0022】
さらに本発明のツイストペアケーブルの第3の態様は、第1または第2の態様において、対撚線は4対であることを特徴とする。
【0023】
また本発明のツイストペアケーブルの第4の態様は、第1から第3の態様において、絶縁体発泡層の表面が無発泡化された層からなることを特徴とする。
【0024】
さらに本発明のツイストペアケーブルの第5の態様は、第1から第4の態様において、絶縁体発泡層の発泡率が各対撚線間において5〜40%の間で異なることを特徴とする。
【0025】
また本発明のツイストペアケーブルの第6の態様は、第1から第5の態様において、無発泡層の厚さが0.04〜0.06mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、複数本の対撚線において異なる対撚ピッチに応じて絶縁体発泡層の発泡率もそれぞれ異なるようにしたので静電容量が全長に渡って一定となり、伝送特性の優れたLAN用メタルケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明のLAN用メタルケーブルの好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。
【0028】
図1は本発明のLAN用メタルケーブルの断面図である。なお、図1においては、説明の便宜上通常LAN用メタルケーブルに施される遮蔽層や外被の図示を省略している。図1において、LAN用メタルケーブル1は、絶縁体2が被覆された導体3からなるコアを2本撚り合わせて1対の撚線とし、この撚線を4対撚り合わせ、対撚線4a、4b、4c、4dとしている。この対撚線4a〜4dはそれぞれ対撚ピッチが異なっている。対撚ピッチは各対撚線において8mm〜25mmの間で適宜異ならせてある。対撚ピッチが8mm未満では撚り込み率が高くなるため挿入損失が過大となり、また25mmを超えると対撚の安定性が損なわれる不都合が生じるからである。
【0029】
絶縁体2は図2に示すように発泡層5及び絶縁体2の表面の無発泡層6から構成されている。絶縁体2を発泡化すると強度低下が生じるが無発泡層6を設けることにより強度低下を防止することができる。無発泡層6の厚さは0.04〜0.06mmが好ましい。無発泡層6の厚さが0.04mmよりも薄くなると強度低下の防止の効果を奏することができず、また0.06mmより厚くなると発泡化したことによる絶縁体外径の細径化及び必要とする伝送特性が得られなくなるからである。
【0030】
ここで、本発明のLAN用メタルケーブルは各対撚線の対撚ピッチに応じて絶縁体2の発泡率が異なっている。具体的には対撚ピッチが短いほど絶縁体2の発泡率が高くなっている。絶縁体2の発泡率は5%〜40%の間で異なるようにすることが好ましい。5%未満では発泡化の効果がほとんどなく、40%を超えると絶縁体2全体の強度が著しく低下してしまうからである。
【0031】
次に本発明のLAN用メタルケーブルの対撚ピッチと発泡率の関係について具体例を示す。なお、比較例として絶縁体を発泡しているが各対撚線の発泡率を異ならせていないLAN用メタルケーブル(比較例1)及び絶縁体を発泡していないLAN用メタルケーブル(比較例2)も併せて示す。
<実施例1>
【0032】
外径0.515mmの導体の外周に厚さ0.170mmの絶縁体を被覆し、絶縁外径0.855mmとしたコアを2本撚り合わせて対撚線とし、この対撚線(4a、4b、4c、4d)を4本撚り合わせたLAN用メタルケーブルを製作した。絶縁体は発泡ポリエチレン(フォームスキンポリエチレン)からなり、絶縁体の表面には厚さ0.04mmの無発泡層が設けられている。
【0033】
4本の対撚線の対撚ピッチはそれぞれ4aが11.4mm、4bが13.5mm、4cが15.6mm、4dが18.0mmであり、この対撚ピッチに応じて絶縁体の発泡率を変化させている。具体的には対撚ピッチが短いほど発泡率を高くしている。
【0034】
実施例1のLAN用メタルケーブルにおいては、表1に示すように各対撚線の静電容量は4.83〜4.86nF/100mであり、最大値と最小値との差は0.03nF/100mであった。また、各対撚線の100MHzにおける特性インピーダンスは99.9〜100.1Ωであり、いずれも非常に均一であった。その他反射減衰量、挿入損失はいずれも優れた特性を示した。
<比較例1>
【0035】
実施例1と同一の構造を有するLAN用メタルケーブルを製作した。このケーブルにおける絶縁体は発泡ポリエチレン(フォームスキンポリエチレン)からなり、絶縁体の表面には厚さ0.04mmの無発泡層が設けられているが、実施例1と異なり絶縁体の発泡率は各対撚線で同一とし、16.5%とした。
【0036】
比較例1のLAN用メタルケーブルにおいては、表1に示すように各対撚線の静電容量は4.63〜4.85nF/100mであり、最大値と最小値との差は0.22nF/100mであり、ばらつきは実施例1に比べて大きかった。また、各対撚線の100MHzにおける特性インピーダンスは100.0〜102.0Ωであり、100Ωからずれており、最大値と最小値との差も2.0Ωもあり、実施例1と比べてばらつきが大きかった。また、反射減衰量、挿入損失はいずれも実施例1より劣っていた。
<比較例2>
【0037】
外径0.515mmの導体の外周に厚さ0.220mmの絶縁体を被覆し、絶縁外径0.955mmとしたコアを2本撚り合わせて対撚線とし、この対撚線(4a、4b、4c、4d)を4本撚り合わせたLAN用メタルケーブルを製作した。このケーブルでは絶縁体を発泡させていない。従って、必要な伝送特性を確保するために絶縁体の厚さを厚くしなければならず実施例1よりも絶縁体が0.050mm厚いケーブルを作成した。
【0038】
比較例2のLAN用メタルケーブルにおいては、表1に示すように各対撚線の静電容量は4.68〜4.89nF/100mであり、最大値と最小値との差は0.21nF/100mもあり、実施例1に比べて非常にばらつきが大きかった。また、各対撚線の100MHzにおける特性インピーダンスは105.1〜107.0Ωであり、100Ωから大きくずれているとともに最大値と最小値との差も1.9Ωもあり、やはり実施例1と比べて非常にばらつきが大きかった。また、反射減衰量、挿入損失はいずれも実施例1より大きく劣っていることはもちろん、比較例1よりも劣った特性であった。
【0039】
【表1】

【0040】
以上、表1から明らかなように、比較例1と比較例2では絶縁体を発泡させない比較例2よりも絶縁体を発泡させた比較例1の方が絶縁外径も細くでき、また静電容量や特性インピーダンス等の伝送特性も安定しているが、実施例1では静電容量や特性インピーダンスが比較例1に比べてさらに安定しており、本発明のLAN用メタルケーブルが優れた伝送特性を有していることが明らかとなった。
<実施例2>
【0041】
外径0.545mmの導体の外周に厚さ0.170mmの絶縁体を被覆し、絶縁外径0.885mmとしたコアを2本撚り合わせて対撚線とし、この対撚線(4a、4b、4c、4d)を4本撚り合わせたLAN用メタルケーブルを製作した。絶縁体は発泡ポリエチレン(フォームスキンポリエチレン)からなり、絶縁体の表面には厚さ0.04mmの無発泡層が設けられている。
【0042】
4本の対撚線の対撚ピッチはそれぞれ4aが10.4mm、4bが12.4mm、4cが14.5mm、4dが16.4mmであり、発泡率は対撚ピッチが短いほど高くした構造としている。
【0043】
実施例2のLAN用メタルケーブルにおいては、表2に示すように各対撚線の静電容量は4.71〜4.78nF/100mであり、最大値と最小値との差は0.07nF/100mであった。また、各対撚線の100MHzにおける特性インピーダンスは99.9〜100.1Ωであり、いずれも非常に均一であった。また反射減衰量、挿入損失はいずれも優れた特性を示した。
<比較例3>
【0044】
実施例2と同一の構造を有するLAN用メタルケーブルを製作した。このケーブルにおける絶縁体は発泡ポリエチレン(フォームスキンポリエチレン)からなり、絶縁体の表面には厚さ0.04mmの無発泡層が設けられているが、比較例3では実施例2と異なり絶縁体の発泡率は各対撚線で同一とし、23.0%とした。
【0045】
比較例3のLAN用メタルケーブルにおいては、表2に示すように各対撚線の静電容量は4.41〜4.78nF/100mであり、最大値と最小値との差は0.37nF/100mであり、ばらつきは実施例2に比べて大きかった。また、各対撚線の100MHzにおける特性インピーダンスは100.1〜103.0Ωであり、100Ωからずれており、最大値と最小値との差も2.9Ωもあり、やはり実施例2と比べればばらつきが大きかった。また、反射減衰量、挿入損失はいずれも実施例2より劣っていた。
<比較例4>
【0046】
外径0.545mmの導体の外周に対撚線4a、4b、4c、4dとしてそれぞれ厚さ0.220mm、0.210mm、0.205mm、0.195mmの絶縁体を被覆し、絶縁外径を0.985mm、0.965mm、0.955mm、0.935mmとしたコアを2本ずつ撚り合わせて対撚線4a、4b、4c、4dとし、この対撚線を4本撚り合わせたLAN用メタルケーブルを製作した。このケーブルでは絶縁体を発泡させていない。
【0047】
比較例4のLAN用メタルケーブルにおいては、表2に示すように各対撚線の静電容量は4.82〜4.99nF/100mであり、最大値と最小値との差は0.17nF/100mもあり、実施例2に比べて非常にばらつきが大きかった。また、各対撚線の100MHzにおける特性インピーダンスは102.4〜104.1Ωであり、100Ωから大きくずれているとともに最大値と最小値との差も1.7Ωもあり、やはり実施例2と比べて非常にばらつきが大きかった。また、反射減衰量、挿入損失はいずれの特性においても実施例2より大きく劣っていることはもちろん、比較例3よりも劣った特性であった。
【0048】
【表2】

【0049】
以上、表2に示す実施例2、比較例3、比較例4との値からも実施例1、比較例1、比較例2における傾向と同様に本発明のLAN用メタルケーブルが優れた伝送特性を有していることが明らかとなった。
【0050】
上記したように本発明によれば、対撚線の対撚ピッチに関して対撚ピッチが短いほど絶縁体の発泡率を高くするようにしたので静電容量や特性インピーダンス、反射減衰量、挿入損失等の伝送特性に優れたLAN用メタルケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のLAN用メタルケーブルの断面図である。
【図2】本発明のLAN用メタルケーブルの絶縁体を説明する図である。
【図3】従来のLAN用メタルケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 LAN用メタルケーブル
2 絶縁体
3 導体
4a、4b、4c、4d 対撚線
5 発泡層
6 無発泡層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に発泡層からなる絶縁体が被覆されたコアを2本撚り合わせて1対とした対撚線を複数本有し、前記対撚線の対撚ピッチが互いに異なるLAN用メタルケーブルにおいて、前記複数本の対撚線における絶縁体発泡層の発泡率が前記対撚ピッチに応じてそれぞれ異なることを特徴とするLAN用メタルケーブル。
【請求項2】
前記対撚ピッチが短いほど前記絶縁体発泡層の発泡率が高いことを特徴とする請求項1記載のLAN用メタルケーブル。
【請求項3】
前記対撚線は4対であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のLAN用メタルケーブル。
【請求項4】
前記絶縁体発泡層の表面が無発泡化された層からなることを特徴とする請求項1から請求項3までの何れかの請求項に記載のLAN用メタルケーブル。
【請求項5】
前記絶縁体発泡層の発泡率が各対撚線間において5〜40%の間で異なることを特徴とする請求項1から請求項4までの何れかの請求項に記載のLAN用メタルケーブル。
【請求項6】
前記無発泡層の厚さが0.04〜0.06mmであることを特徴とする請求項1から請求項5までの何れかの請求項に記載のLAN用メタルケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−123275(P2010−123275A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293236(P2008−293236)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000238049)冨士電線株式会社 (6)
【Fターム(参考)】