説明

LOX−1アンタゴニスト作用を高活性に有する味の品質が確保されたバナバエキス

【課題】分析機器によって一定以上の味の品質を有することが客観的に評価され、同時にLOX−1アンタゴニスト作用を高活性に有するバナバエキスを提供すること。
【解決手段】カラム「HiTrap DEAE FF」(GEヘルスケア社製)1mlを内装した液体クロマトグラフィー装置を用い、その測定条件が、溶媒は50mM HEPES(pH8.0)、0−1M NaCl、グラジェントは20カラムボリューム、流速は1ml/min、バナバエキスは0.5mgを負荷した場合のクロマトグラフィーにおいて、NaCl濃度が0.1−0.3M付近で得られる230nmのピーク中でピーク面積が最大であるピークBと、素通り画分で得られる230nmのピークAの面積をそれぞれ求め、Bに対するAの面積比が20%以下となることを特徴とするバナバエキス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナバ(Lagerstroemia speciosa L.)植物から調整したエキスに関し、より詳細には、LOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト作用を有する味の品質が確保されたバナバエキス、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バナバは、フトモモ目ミソハギ科に属する植物で、通称「オオサルスベリ」とも称され、フィリピンをはじめ、インド、マレーシア、中国南部などの東南アジア、オーストラリアなどに広く生育している植物である。古来、フィリピンにおいては、乾燥したバナバ葉を煎じて飲用されており、糖尿病の民間治療剤としても広く知られている。また血糖値上昇抑制作用のみならず、本発明者らにより、水溶性・脂溶性を問わずバナバエキスは動脈硬化の初期病変に関わるLOX−1に対するアンタゴニスト作用を有することが開示されている(特許文献1)。よって、これらの効果効能を考慮すると、長期的・経時的にバナバエキスを服用することは健康を維持することからも有効な手段と考えられる。
【0003】
しかしながら通常のバナバエキスは他の有用植物由来エキスでよく見られるのと同様に、苦味や渋み、あるいはえぐ味などを有するために適用範囲が限定され、これを広範囲の分野で有効活用するうえで大きな阻害要因となっている。これらの苦味や渋みを抑制するために、特に茶の分野では活性炭と接触させる方法(特許文献2〜4)、サイクロデキストリンを用いる方法(特許文献5〜8)、アスコルビン酸とアルカリ金属を用いる方法(特許文献9)、ポリビニルポリピロリドンを用いる方法(特許文献10,11)、焙煎する方法(特許文献12〜16)などが開示されている。また、バナバエキスにおいては血糖値降下作用のあるコロソリン酸を濃縮する方法(特許文献17〜24)、あるいはバナバエキスの苦味を改善する方法(特許文献25)などが開示されている。
【0004】
一方で風味の改善方法とは異なり、味の品質を確保する(特許文献26〜28)、あるいはその組成物の機能を確保するための特許(特許文献29,30)も開示されている。特に味の品質を確保することにおいては、官能試験での評価員の好みや体調に左右されることを排除し、且つ客観的な評価系を構築し、更にその方法に準じた組成物を得ることが目的である。これらの方法の多くはカラムクロマトグラフィーによる味の品質の確保や機能の確保が行われており、有用な手段として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/119789号パンフレット
【特許文献2】特開2005−263650号公報
【特許文献3】特開平11−103817号公報
【特許文献4】特開2002−153211号公報
【特許文献5】特開2008−118933号公報
【特許文献6】特開2006−136244号公報
【特許文献7】特開2005−073534号公報
【特許文献8】特開平10−004919号公報
【特許文献9】特開2002−97187号公報
【特許文献10】特開2002−238458号公報
【特許文献11】特開2004−159597号公報
【特許文献12】特開2008−136367号公報
【特許文献13】特開2007−089444号公報
【特許文献14】特開2005−185128号公報
【特許文献15】特開2003−284523号公報
【特許文献16】特開平11−225718号公報
【特許文献17】特開2000−169384号公報
【特許文献18】特開2005−263650号公報
【特許文献19】特開2005−306780号公報
【特許文献20】特表2008−525497号公報
【特許文献21】特許第3631742号公報
【特許文献22】特許第3631745号公報
【特許文献23】特許第3631746号公報
【特許文献24】特許第3641480号公報
【特許文献25】国際公開第2005/099486号パンフレット
【特許文献26】特許第3624272号公報
【特許文献27】特許第3671179号公報
【特許文献28】特許第3946462号公報
【特許文献29】特許第4197347号公報
【特許文献30】特公平7−84390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、バナバエキスについては上述のようにコロソリン酸の濃縮、あるいは50〜99%有機溶媒を含む溶媒で抽出された脂溶性バナバエキスの苦味をアルカリ処理及び酸処理により改善した技術は公知であるが、LOX−1アンタゴニスト作用を高活性に有する味の品質が客観的に確保されたエキスは全く知られていない。
【0007】
本発明は、これらの背景を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、バナバエキスの味についての一定の基準を設定することにより、分析機器によって一定以上の味の品質を有することが客観的に評価され、同時にLOX−1アンタゴニスト作用を高活性に有するバナバエキスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、
(1)カラム「HiTrap DEAE FF」(GEヘルスケア社製)1mlを内装した液体クロマトグラフィー装置を用い、その測定条件が、溶媒は50mM HEPES(pH8.0)、0−1M NaCl、グラジェントは20カラムボリューム、流速は1ml/min、バナバエキスは0.5mgを負荷した場合のクロマトグラフィーにおいて、NaCl濃度が0.1−0.3M付近で得られる230nmのピーク中でピーク面積が最大であるピークBと、素通り画分で得られる230nmのピークAの面積をそれぞれ求め、Bに対するAの面積比が20%以下となることを特徴とするバナバエキス、
(2)レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体(LOX−1)アンタゴニスト作用を有する前記(1)記載のバナバエキス、
(3)水又は40%以下の有機溶媒を含有する水溶液を用いてバナバから得られた抽出物を、活性炭、芳香族系合成吸着剤及びメタクリル系合成吸着剤からなる群より選ばれる1種以上で接触処理して得られる、前記(1)又は(2)記載のバナバエキス、
(4)水又は40%以下の有機溶媒を含有する水溶液を用いてバナバを抽出処理し、次いで、得られた抽出物を活性炭、芳香族系合成吸着剤及びメタクリル系合成吸着剤からなる群より選ばれる1種以上で接触処理する工程を有する、前記(1)〜(3)いずれか記載のバナバエキスの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、液体カラムクロマトグラフィーによってバナバエキスを客観的に評価するために、LOX−1アンタゴニスト作用を高活性に有する「良い味」の基準が一定なバナバエキスが明らかとなる。したがって、従来のようにバナバエキス特有の苦味・渋みを含まない又は顕著に低減されており、しかも一定水準以上のLOX−1アンタゴニスト作用を高活性に有するバナバエキスを簡便に判別して、提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は実施例1において、各バナバエキスのサンプル(終濃度0.01mg/ml)を用いてLOX−1アンタゴニスト活性を検証した結果を示すグラフである。
【図2】図2は実施例2について、水抽出した場合のクロマトグラフィーのクロマトグラムを示している。縦軸は230nmの吸収曲線を示しており、横軸は溶出時間を示している。
【図3】図3は実施例3について、20%エタノール抽出した場合のクロマトグラフフィーのクロマトグラムを示している。縦軸は230nmの吸収曲線を示しており、横軸は溶出時間を示している。
【図4】図4は比較例1について、水抽出した場合のクロマトグラフフィーのクロマトグラムを示している。縦軸は230nmの吸収曲線を示しており、横軸は溶出時間を示している。
【図5】図5は実施例1で得られたバナバエキスを230nm、280nm、214nmの吸光度で測定して得られるクロマトグラムを示している。なお、図中、実線は230nm、太い破線は280nm、細かい破線は214nmの場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第一の本発明は、カラム「HiTrap DEAE FF1ml」(GEヘルスケア社製)を内装した液体クロマトグラフィー装置を用い、その測定条件が、溶媒は50mM HEPES(pH8.0),0−1M NaCl、グラジェントは20カラムボリューム、流速は1ml/min、バナバエキスは0.5mgを負荷した場合のクロマトグラフィーにおいて、NaCl濃度が0.1−0.3M付近で得られる230nmのピーク中でピーク面積が最大であるピークBと、素通り画分で得られる230nmのピークAの面積をそれぞれ求め、Bに対するAの面積比が20%以下となることを特徴とするバナバエキスである。
【0012】
本発明に用いる液体クロマトグラフィー装置としては、230nmの吸光度を測定できる市販の装置であればよく、例えばGEヘルスケア社製の「アクタデザインシリーズ」、バイオラッドラボラトリーズ社製の「BioLogicシリーズ」などが挙げられる。
【0013】
本発明では、前記液体クロマトグラフィー装置に装着するカラムとしては、イオン交換樹脂として「HiTrap DEAE FF」(商品名、GEヘルスケア社製)を1mL充填されたものを用いる。この樹脂は、ジエチルアミノエチル(DEAE)をイオン交換体として有する樹脂である。カラムの容量については、前記イオン交換樹脂が1mL充填できるものであればよく、また、カラムの材質については、特に限定はない。
【0014】
前記液体クロマトグラフィーに用いる溶媒としては、50mM HEPES(pH8.0)を使用し、0〜1M NaClのグラジエントを20カラムボリュームで行う。また、流速は1ml/minであり、カラムに付加するバナバエキスは0.5mgとする。なお、装置で測定する時のカラム温度は、4〜37℃で行えばよい。
【0015】
本発明では、苦味、渋味など不快な味があったバナバエキスを前記カラムに供し、前記の条件下で液体クロマトグラフィーを行って、経時的に溶出される成分を含む溶媒の230nmの吸光度を測定することで、苦味、渋味などの原因となる成分が判別できる。
【0016】
苦味、渋味などの原因となる成分については、前記カラムには吸着しないため、素通り画分のピークで表される。このピークを本発明ではピークAと認定する。
【0017】
一方、他の成分は、NaCl0〜0.3M付近で溶出されるピークとして現れる。このピークには複数の成分が含有されていると考えられるが、230nmの吸光度で測定することで、1本または数本のピークとしてまとめて表現することができる。本発明では、複数のピークトップに分かれることもあるが、これらの中で最大のピーク面積を有するピークを本発明ではピークBと認定する。
【0018】
中でも、本発明のバナバエキスは、LOX−1アンタゴニスト作用を有することが好ましい。本発明においてLOX−1アンタゴニスト作用とは、LOX−1への酸化LDLの結合を阻害することを意味する。LOX−1アンタゴニスト作用については、例えば、アンタゴニスト活性として、前記特許文献1に記載の方法に準じてLOX−1に対する酸化LDL結合率を測定することで評価することができる。
【0019】
本発明のバナバエキスは、ピークA及びピークBのピーク面積を測定した場合に、ピークBの面積に対するピークAの面積の比率が20%以下となるものである。このように、ピークAの面積がピークBの面積に比べて顕著に低いクロマトグラムを示すバナバエキスは、苦味、渋味などの成分が低減されたものとなり、従来のバナバエキスに比べて、顕著に味の品質が向上されたものである。本発明において、ゼロベースで行った場合のピークBに対するピークAの面積比は、好ましくは1〜15%である。なお、前記面積比が大きくなる、つまりピークBに対するピークAの面積が大きくなると、バナバエキスの苦味や渋みが強くなる。
ピーク面積の測定方法については、液体クロマトグラフィーに接続している吸光度計に組み込まれた計算プログラムに準じて算出された数値を用いればよい。
【0020】
以上のような物性を有するバナバエキスは、例えば、以下のようにして調製することができる。
【0021】
本発明に用いるバナバ(学名:ラジャーストロエミア スペシオサ パース(Lagerstroemia speciosa Pars.))は、ミソハギ科サルスベリ属に属する植物で、同じ科に属する植物として例えばサルスベリ、バナバ等が挙げられるが、バナバが本発明においては好ましく用いられる。抽出処理時に供するバナバとしては、バナバを所望の大きさにカットしたり、粉砕処理したものを用いればよいが、特に限定はない。
【0022】
本発明では、前記バナバの植物体からの抽出物を用いる。例えば、前記抽出物としては、前記バナバの葉、茎又は根由来抽出物、該抽出物の分画物、又はこれらの濃縮物のいずれでもよく、またこれらの混合物でもよい。また、抽出に用いた溶媒を乾燥させて乾固した固体状物でも、該固体状物を水等の溶媒に溶解させたものでもよい。なお、植物体の粉砕物を取り除かず、混合した状態のものも植物抽出物として使用できる。
【0023】
バナバからの抽出処理は、連続式、還流式、バッチ式、浸漬式、超音波処理等の方法で常法により任意の温度・時間で行う。例えば、バナバの葉、茎又は根をミキサー等で破砕処理し、抽出溶媒に室温で数時間〜数日間の浸漬、抽出溶媒の煮沸温度で1〜5時間還流しながら、あるいは抽出溶媒中での短時間の超音波処理をして、抽出を行う。その後、抽出液から破砕残渣を取り除き、減圧又は限外濾過により抽出液を濃縮する。さらに必要に応じて溶媒を完全に除去して乾固するか凍結乾燥を行ってもよい。また、破砕残渣は取り除かずに濃縮等の処理を行ってもよい。
【0024】
前記抽出に用いる溶媒としては、水又は40%以下の有機溶媒を含有する水溶液が好ましい。有機溶媒としては、水と混和可能な溶媒であればよい。中でも、食品として用いる観点から、水又は20%以下のエタノールを含有する水溶液で抽出処理することが好ましい。
【0025】
このようにして得られた抽出物は、特有の苦味、渋味を有するものであり、前記液体クロマトグラフィーに供した場合、ピークBに対するピークAの面積比が30%を超えるものとなる。
【0026】
これに対して、本発明では、前記抽出物を、活性炭、芳香族系合成吸着剤及びメタクリル系合成吸着剤からなる群より選ばれる1種以上で接触処理することで、苦味、渋み成分を顕著に低減させることが可能となる。
なお、合成吸着剤とは、各種の合成技術により活性炭よりも比較的大きな多孔質構造を持たせた球状の架橋高分子をいい、樹脂内の細孔表面と被吸着物質間の物理的相互作用により溶液中から種々の有機物を吸着することができるものである。
【0027】
前記芳香族系合成吸着剤としては、三菱化学(株)製のHPシリーズ、SP800シリーズ、SP700、SP70、芳香族系修飾型SP207等が挙げられる。メタクリル系合成吸着剤としては、三菱化学(株)製のメタクリル酸エステル系HP2MG等が挙げられる。
中でも、活性炭又は三菱化学(株)製のSP800シリーズ、SP700、SP70、芳香族系修飾型SP207等の芳香族系合成吸着剤を用いた場合には、LOX−1アンタゴニスト作用が顕著に保持されるため、好ましい。
【0028】
前記接触処理は、溶媒中で前記抽出物と活性炭、芳香族系合成吸着剤又はメタクリル系合成吸着剤等の担体とをバッチまたはカラムを用いて接触させる処理であればよい。
例えば、バッチ法による接触処理では、抽出物と前記担体とを攪拌してもよいし、静置してもよい。また、カラムによる接触処理では、所望の容量のカラムに前記担体を充填したのち、所望の流速で抽出物を流せばよい。なお、接触処理における温度条件としては、室温下であればよく、特に限定はない。
また、接触処理に使用する溶媒としては、水又は40%以下の有機溶媒を含有する水溶液等が挙げられる。有機溶媒としては、エタノールが好ましい。
また、溶媒中において、バナバの抽出物と前記担体との混合量は、効率よく処理できる観点から、1000:1〜10:1(重量比)であることが好ましいが、特に限定はない。
【0029】
以上のようにして得られたバナバエキスは、苦味等が顕著に低減されたものであるため、そのまま飲食品に添加することができるし、必要であれば、濃縮、ドライパウダー化、凍結乾燥等の処理を施した後に、飲食品に添加してもよい。
【実施例】
【0030】
次に、本発明をその実施例によって具体的に説明する。
【0031】
[実施例1]
各実施例において、液体クロマトグラフィーの測定条件は以下の通りである。
【0032】
使用装置:GEヘルスケア社製の「AKTA Purifier」
カラム:GEヘルスケア社製の「HiTrap DEAE FF」1ml
溶媒:50mM HEPES(pH8.0)、0−1M NaCl
流速:1ml/min
試料:5mm角にカットしたバナバ葉1重量部に対して20倍量の水で60℃、1時間抽出し、得られた抽出液をコントロール1とした。さらにこの抽出液1容量に対して重量で10%となるように活性炭で30分間処理したものを試料1とした。また、活性炭の代わりにポリクラールVT(ISP Inc.社製)で30分間処理したものを試料2とした。なお、ポリクラールVT(商品名、ISP Inc.社製)は、飲料において一般的に使用されているポリビニルポリピロリドン製の清澄ろ過助剤である。
【0033】
また、水の代わりに20%エタノールで抽出した同様のものをコントロール2、活性炭処理後のものを試料3とした。
【0034】
評価方法:液体クロマトグラフィー測定において、0.1−0.3M NaCl溶出付近に出現したピークBの面積と素通り画分のピークAの面積比をゼロベースとして算出した。また、上記のコントロールと試料の各々を10名でその味を評価した。
【0035】
LOX−1アンタゴニスト活性測定方法:コントロール及び各試料のLOX−1アンタゴニスト活性については、本件出願人が既に提出している特許文献1に記載の方法と同様にして、LOX−1に対する酸化LDL結合阻害率を測定して評価した。
【0036】
上記のコントロール1、2および試料1〜3について、ピークAとピークBの面積比、及び10名の評価員が飲んでその味を確認した結果を表1に示す。表1の結果より、水又はエタノールの抽出物に活性炭処理したものは「美味しい」との評価を受けたが、ポリクラールVT処理したものは「苦い」との評価であった。なお、エタノール抽出されたバナバエキスについてはエタノール除去後に味の評価を行った。
【0037】
【表1】

【0038】
また、上記のコントロール1、2および試料1〜3についてのLOX−1アンタゴニスト活性の結果を図1に示す。図1の結果から明らかなように、活性炭処理した試料については、コントロールと同等、あるいはそれ以上に酸化LDLの結合率を阻害していることから、比活性が高くなっており、LOX−1アンタゴニスト活性が濃縮されていることが示された。一方、ポリクラールVTで処理したものは比活性が低下していた。
【0039】
[実施例2]
水抽出したバナバエキスについて、未処理と活性炭処理した各サンプルをカラムクロマトグラフィー供し、ピークAとピークBの面積比を上記のような評価方法で算出したところ、未処理が42.73%、活性炭処理が9.3%であった(図2に得られたクロマトグラムを示す)。
【0040】
[実施例3]
20%エタノール抽出したバナバエキスについて、未処理と活性炭処理した各サンプルをカラムクロマトグラフィー供し、ピークAとピークBの面積比を上記のような評価方法で算出したところ、未処理が33.68%、活性炭処理が9.46%であった(図3に得られたクロマトグラムを示す)。
【0041】
[比較例1]
水抽出したバナバエキスについて、未処理とポリクラールVT処理した各サンプルをカラムクロマトグラフィー供し、ピークAとピークBの面積比を上記のような評価方法で算出したところ、未処理が42.73%、活性炭処理が36.37%であった(図4に得られたクロマトグラムを示す)。
【0042】
上述した実施例以外にも種々の条件で抽出したバナバエキスについて同様の評価方法により、味の評価を行い、その結果を総合的に検討した。その結果、カラムクロマトグラフィーによって求めたピークBに対するピークAの面積比が20%以下では「美味しい」となり20〜30%では「やや苦い」となり、30%以上の場合には「苦い」となることが判明した。
【0043】
[実施例4]
コントロール2を、活性炭を含む複数の担体で接触処理した以外は、実施例1と同様にしてバナバエキスを得て、味の評価とLOX−1アンタゴニスト活性の有無を測定した。これらの結果を表2に示す。
なお、使用した担体としては、以下のとおり。
「WA30」:弱塩基性陰イオン交換樹脂「ダイヤイオンWA30」(製品名)
「SK1B」:強酸性陽イオン交換樹脂「ダイヤイオンSK1B」(製品名)
「HP2MG」:メタクリル酸エステル系合成吸着剤「ダイヤイオンHP2MG」(製品名)
「HP20」:芳香族系合成吸着剤「ダイヤイオンHP20」(製品名)
「SP850」:芳香族系合成吸着剤「セパビーズSP850」(製品名)
「SP700」:芳香族系合成吸着剤「セパビーズSP700」(製品名)
「SP207」:芳香族系修飾型合成吸着剤「セパビーズSP207」(製品名)
「SP70」:芳香族系合成吸着剤「セパビーズSP70」(製品名)
いずれも三菱化学(株)製のものである。
【0044】
【表2】

【0045】
なお、味の評価については、「0」苦味なし、「1」苦味を少し感じる、「2」苦味を感じる、「3」苦味を強く感じるという基準で行った。
【0046】
表2の結果より、メタクリル酸エステル系合成吸着剤、芳香族系合成吸着剤及び活性炭を用いた接触処理により、苦味が顕著に低減したバナバエキスが得られることがわかる。
さらに、セパビーズSP850、SP700、SP207、SP70と活性炭を用いた接触処理により、LOX−1アンタゴニスト活性も顕著に保持されていることがわかる。
【0047】
[実施例5]
実施例1で得られた試料2のバナバエキスを230nm、280nm、214nmの吸光度で測定して得られたクロマトグラムを比較した。結果を図5に示す。図5の結果より、214nmの場合(細かい破線)では、ピークが細かすぎ、一方、280nmの場合(太い破線)ではピークAが低く、またピークBが不明確であった。これに対して、230nmの場合(実線)では、ピークA、ピークBがほぼ一本で見られるため、区別し易いことがわかる。特に、ピークBについては、バナバエキスの処理条件を変えた場合でも230nmの吸収波長で測定すれば、ピークの出方に処理条件の違いによる影響がほとんど見られないことから、230nmの吸収波長で測定した場合にピークBは安定なベースとすることが可能であった。
なお、280nmは一般的に蛋白質を、214nmはペプチドをそれぞれ測定する場合に使用される波長とされている。
【0048】
また、上記の230nmのクロマトグラムにおいてピークA,ピークBを含む画分について、220〜800nmの範囲で1nm毎に吸光度をスキャンしたところ、ピークA、Bともに、230nmが吸収極大波長であることがわかった。
【0049】
[実施例6]
下記成分を水に添加・混合し、常法に基づいて、ゼリーを作製した。
ハイフラクトM 20%
ゲル化剤 0.1−0.5%
砂糖 1%
バナバエキス 0.3%
クエン酸 0.3%
フレーバー 0.1%
最終的にクエン酸NaでpHを3.7に調製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム「HiTrap DEAE FF」(GEヘルスケア社製)1mlを内装した液体クロマトグラフィー装置を用い、その測定条件が、溶媒は50mM HEPES(pH8.0)、0−1M NaCl、グラジェントは20カラムボリューム、流速は1ml/min、バナバエキスは0.5mgを負荷した場合のクロマトグラフィーにおいて、NaCl濃度が0.1−0.3M付近で得られる230nmのピーク中でピーク面積が最大であるピークBと、素通り画分で得られる230nmのピークAの面積をそれぞれ求め、Bに対するAの面積比が20%以下となることを特徴とするバナバエキス。
【請求項2】
レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体(LOX−1)アンタゴニスト作用を有する請求項1記載のバナバエキス。
【請求項3】
水又は40%以下の有機溶媒を含有する水溶液を用いてバナバから得られた抽出物を、活性炭、芳香族系合成吸着剤及びメタクリル系合成吸着剤からなる群より選ばれる1種以上で接触処理して得られる、請求項1又は2記載のバナバエキス。
【請求項4】
水又は40%以下の有機溶媒を含有する水溶液を用いてバナバを抽出処理し、次いで、得られた抽出物を活性炭、芳香族系合成吸着剤及びメタクリル系合成吸着剤からなる群より選ばれる1種以上で接触処理する工程を有する、請求項1〜3いずれか記載のバナバエキスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−235468(P2010−235468A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83062(P2009−83062)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】