説明

LPGインジェクタ及びLPG噴射装置

【課題】LPGを液相で噴射してエンジンに供給する燃料供給システムについて、コストアップを最小限としながらアイシングの発生を回避できるようにする。
【解決手段】先端に燃料噴射口31を有して吸気マニホルド20の内部空間に突出した状態で挿入される挿入部30Aを備えており、この挿入部30Aをインジェクタ取付孔20aの外側から挿入して吸気マニホルド20に取付けられ、LPGを液相のままエンジンの吸気通路2に噴射するLPGインジェクタ3Aにおいて、吸気マニホルド20に取り付けることにより、挿入部30Aの先端がインジェクタ取付孔20a上流側の吸気通路2内周面を下流側に延長した面を越えて吸気通路2の中心方向に所定量以上突出することを特徴とするものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LPGインジェクタ及びLPG噴射装置に関し、殊に、液相のLPGをエンジンの吸気通路内に噴射する燃料供給システムにおいて、アイシングの発生を回避する機能を有したLPGインジェクタ及びこのLPGインジェクタを備えてアイシングの発生を回避するLPG噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、図3に示すようにLPGインジェクタ3Bを備えLPGを液相のまま吸気通路(吸入ポート)2内に噴射してエンジンに供給する形式のLPG噴射装置1Bが広く知られている。このような燃料供給方式では、噴射されたLPGの圧力が急激に大気圧以下(=エンジン吸入負圧)まで低下して液相から気相に変化するため、噴射されたLPGは相変化に伴い周辺と熱交換を行うことになる。
【0003】
その場合、吸気通路2内壁のLPGが付着した部分やその周辺で急激な温度低下を起こして、空気中の水分を凍結させながら吸気通路内に氷結や氷柱を形成するいわゆるアイシング現象を生じることがある。そして、このアイシングが発生することにより、吸気通路2内に堆積した氷結が空気抵抗となったり、脱落した氷結がエンジンのシリンダ内に流入したりして、適切な空燃比制御に対する妨げとなりやすい。
【0004】
このような燃料の相変化に伴うアイシングの問題に対し、インジェクタ先端にエンジンからの熱伝導を利用した熱交換ノズルを設けることにより、アイシングの発生を回避しようとする技術が知られており、また、特開2003−286913号公報に記載され図2に示すもののように、吸気マニホルド21とエンジン側取付け部との間に、吸気通路2を取り囲むように冷却水通路40を設けたガスケット4を介装することにより、インジェクタ3Bの近辺と吸気マニホルド21のこれに近接する部分を加温して、アイシングの発生を回避しようとする技術も知られている。
【0005】
このように、エンジン由来の熱を利用してインジェクタ付近を加温することにより、アイシングの発生を回避しやすいものとすることができる。しかしながら、上述した両技術においては、エンジンの熱をインジェクタ付近まで伝導または送達するための機構が必要となり、そのための専用部品を新たに追加する費用を要してコストアップを招くことになる。
【特許文献1】特開2003−286913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、LPGを液相で噴射してエンジンに供給する燃料供給システムについて、コストアップを最小限としながらアイシングの発生を回避できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明は、先端に形成した燃料噴射口を吸気マニホルドの内部空間に突出した状態で挿入される挿入部を備えており、この挿入部をインジェクタ取付孔の外側から挿入して吸気マニホルドに取付けられ、LPGを液相のままエンジンの吸気通路に噴射するLPGインジェクタにおいて、前記吸気マニホルドに取り付けられたときに、前記挿入部の先端が、前記インジェクタ取付孔の上流側における前記吸気通路内周面を下流側に延長した面を越えて前記吸気通路の中心方向に所定量以上突出させることとした。
【0008】
図3に示したように、従来のLPGインジェクタ3Bはその挿入部30Bの先端が、インジェクタ取付孔21a上流側の吸気通路2内周面を下流側に延長した一点鎖線で示す面よりも引っ込んだ位置となることから、噴射したLPGの一部しか吸気通路の中心付近の吸入空気流の速い部分に当たらないために、LPGが吸気通路壁面に付着してアイシングを生じやすかった。これに対し、前述の本発明のように、インジェクタの挿入部先端が吸気通路内に所定量以上突出して燃料噴射口が吸気通路内の吸入空気流が比較的速い部分に近接する位置になるものとしたことにより、簡易な構成でも噴射したLPGが吸気通路内壁に付着して氷結を招くことを大幅に減少させることになり、アイシングの発生を回避しやすいものとした。
【0009】
また、この場合、吸気マニホルドに取り付けることにより、燃料噴射口がインジェクタ軸線と吸気通路内周面との交点から20mm以内の位置になるものとすれば、吸入空気流の速い部分に向かって確実にLPGを噴射することができるようになるため、アイシングの発生を一層回避しやすいものとなる。
【0010】
さらに、上述したLPGインジェクタは、燃料取込み方式がトップフィード型であることを特徴としたものとすれば、上述した構成及び作用を簡易且つ低コストで実現することができる。
【0011】
さらにまた、上述したLPGインジェクタを、吸気マニホルドのインジェクタ取付孔に取付けてなるものであって、LPGインジェクタの挿入部先端がインジェクタ取付孔上流側の吸気通路内周面を下流側に延長した面を越えて吸気通路の中心方向に所定量以上突出していることを特徴としたLPG噴射装置とすれば、新たな部品の追加を要することなく、アイシングの発生を回避しながら燃料を供給することができる。
【発明の効果】
【0012】
インジェクタの挿入部先端を吸気通路内に所定量以上突出させただけの簡易な構成の本発明によると、コストアップを最小限としながらアイシングの発生を回避することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態のLPG噴射装置1Aの部分縦断面図を示すものであり、LPG噴射装置1Aは、図示しないLPGエンジンの吸気通路(吸気ポート)2内にLPGを液相(液体)のまま噴射して供給するためのものであり、吸気通路2を構成する吸気マニホルド20のインジェクタ取付孔20aの外側から、先端側の挿入部30Aを吸気通路2に向かって挿通した状態でインジェクタ3Aが取付けられる。
【0015】
そして、本実施の形態のLPG噴射装置1Aにおいては、インジェクタ取付孔20aに取り付けられたインジェクタ3Aの、吸気通路2内に挿入されて内側空間で突出した円柱状の挿入部30Aの先端が、インジェクタ取付孔20aよりも上流側の吸気通路2の内周面を下流側に延長した一点鎖線で示す面を越えて、吸気通路2の中心に向かって所定量以上突出した状態となっている。
【0016】
尚、挿入部30Aの突出量については、本願発明者らによる実験結果から、通常のLPGエンジンにおいて想定される一般的な内径の吸気通路においては、挿入部30Aの先端面中央に設けた燃料噴射口(燃料噴射孔の開口部)31の位置が、インジェクタ軸線が対向する吸気通路2内周面に交わった交点から、20mm以内の位置になる突出量とすることにより、アイシングの回避機能が充分に発揮されることが検証されたため、本実施の形態においてもこれと同様の突出量としている。
【0017】
即ち、図3に示したLPG噴射装置1Bのように、インジェクタ3Bの挿入部30Bの長さが短く、一点鎖線で示す上流側の吸気通路2内周面を下流側に延長した面よりも先端が引っ込んだ状態となっている従来例においては、噴射したLPGが吸入空気流の流速の速い部分(略中心部)に対して一部しか当たらないため、吸気通路2内に噴射したLPGの多くが内壁に付着し、氷結を招いてアイシングの発生に繋がるという問題があった。
【0018】
これに対し、本実施の形態のLPG噴射装置1Aでは、インジェクタ3Aの挿入部30Aを図のように従来例よりも長くしたことにより、その先端、即ち先端面に開口した燃料噴射口31の位置が、吸気通路2の中心部付近の吸入空気流が速くなる部分に近接した位置とした。
【0019】
そのため、噴射したLPGの多くが比較的速い吸入空気流に乗って下流側に流れるとともに、多量の空気の存在により気化しやすくなることに加え気相になる際の冷却作用も軽減されることになるため、LPGが吸気通路2の内壁に付着して氷結を生じさせる現象が最小限に抑えられて、アイシングの発生を回避しやすくなった。
【0020】
また、本実施の形態においては、図2に示したアイシング対策を講じた従来例等とは異なり、インジェクタ3Aの挿入部30Aの長さを所定量延長しただけの簡易な変更のみで実施できるものであるため、エンジンの熱を伝導・送達する等の目的で新たな専用部品を追加することを不要として、コストアップを殆ど伴わずに実施可能である。
【0021】
さらに、このLPG噴射装置1Aでは、インジェクタ3Aの燃料取込方式にトップフィードタイプを採用している。これはボトムフィードタイプ等、他の方式によると挿入部30A及びこれを挿通するためのインジェクタ取付孔20aの構成が複雑になりやすく、従来のシステムを利用した場合の実施を容易にすることができず、コストアップに繋がりやすくなるからである。
【0022】
さらにまた、本実施の形態においては、ガソリンエンジンをLPGエンジンに改造する場合において、本来のガソリンインジェクタが取り付けられていたインジェクタ取付孔をそのまま使用することを想定しており、上述した簡易な構成がその実施を容易なものとするとともに、改造の手間を最小限に抑えることを可能としている。
【0023】
以上、述べたように、LPGを液相で噴射する燃料供給システムについて、本発明により、コストアップを最小限としながらアイシングの発生を有効に回避できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態を示す部分縦断面図。
【図2】従来例を示す部分縦断面図。
【図3】従来例を示す部分縦断面図。
【符号の説明】
【0025】
1A LPG噴射装置、2 吸気通路、3A LPGインジェクタ、20 吸気マニホルド、20a インジェクタ取付孔、31 燃料噴射口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に形成した燃料噴射口を吸気マニホルドの内部空間に突出した状態で挿入される挿入部を備えており、この挿入部をインジェクタ取付孔の外側から挿入して吸気マニホルドに取付けられ、LPGを液相のままエンジンの吸気通路に噴射するLPGインジェクタにおいて、前記吸気マニホルドに取り付けられたときに、前記挿入部の先端が、前記インジェクタ取付孔の上流側における前記吸気通路内周面を下流側に延長した面を越えて前記吸気通路の中心方向に所定量以上突出することを特徴としたLPGインジェクタ。
【請求項2】
前記吸気マニホルドに取り付けることにより、前記燃料噴射口がインジェクタ軸線と前記吸気通路内周面との交点から20mm以内に位置することを特徴とする請求項1に記載したLPGインジェクタ。
【請求項3】
燃料取込み方式がトップフィード型であることを特徴とする請求項1または2に記載したLPGインジェクタ。
【請求項4】
請求項1,2または3に記載したLPGインジェクタを、前記吸気マニホルドのインジェクタ取付孔に取付けてなるものであり、前記LPGインジェクタの挿入部先端が、前記インジェクタ取付上流側の前記吸気通路内周面を下流側に延長した面を越えて前記吸気通路の中心方向に所定量以上突出していることを特徴としたLPG噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138828(P2010−138828A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316668(P2008−316668)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)