説明

LiPF6の安定化方法および非水系二次電池用非水電解液

【課題】
LiPFの構造を変えることなく熱安定性及び加水分解耐性を高め、LiPFを含有する溶液を安定化する方法を提供する。
【解決手段】
LiPFを含有する溶液に下記一般式(1)
【化1】


(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜5の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素リン酸エステルをLiPFに対しモル比で0.1〜2倍量存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池等に用いられるLiPFを含有する溶液において、LiPFを熱分解及び加水分解に対して安定化させる方法および非水系二次電池用非水電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池は、高出力密度、高エネルギー密度を有し、携帯電話、ノート型パーソナルコンピューター等の電源として汎用されている。また近年は、電力貯蔵用電源、電気自動車用電源としての大型電池が実用化されつつある。
【0003】
電池の大型化、特に電気自動車での使用にあたっては、電池は、より高温の過酷な条件で使用されることが想定され、なお且つ電池の耐用年数もより長期に渡る期間が要求されるようになってきている。
【0004】
このような非水系二次電池の電解液としては、電解質をエチレンカーボネート等の環状カーボネート及びジメチルカーボネート等の鎖状カーボネートの混合溶媒に溶解させた溶液が一般に使用されている。ここで電解質であるリチウム塩としては、LiPFが広く使用されている。ところが、このLiPFは、熱安定性が十分でない上、溶媒中の微量水分により加水分解し易く、フッ化リチウムやフッ化水素を発生し易い性質を有する。LiPFが分解すると、これを含有する電解液のイオン伝導度が低下するとともに、生成したフッ化リチウムやフッ化水素が、電極や集電体等の材料を腐食させたり、溶媒を分解させたりするなど電池に致命的な悪影響を及ぼす場合がある。
【0005】
こうしたLiPFの問題点に対して、より熱安定性の高い電解質として、LiBF、LiCFSOあるいはLiN(CFSO等が知られている。しかしながら、LiBFまたはLiCFSOが溶解している非水電解液は、イオン伝導度が低い問題がある。また、LiN(CFSOが溶解している非水電解液は、耐酸化性が十分でなく電池のサイクル特性が劣る問題がある。
【0006】
一方、特許文献1及び特許文献2では、LiPFの6個フッ素原子の一部をパーフルオロアルキル基で置換したフルオロアルキルリン酸ホスフェートを使用することにより、電解質としての熱安定性及び加水分解耐性を高める方法が開示されている。しかしながらこの先行技術によっても、リン原子に結合するフッ素原子の一部が炭素原子に変わったことにより、耐酸化性が低下する問題が生じてしまう。
【0007】
以上の理由から、LiPFは、イオン伝導度と耐酸化性に優れる非水電解液を得るための必須の電解質と言える。しかし、LiPFの構造を変えることなく熱安定性及び加水分解耐性を高め、LiPF含有溶液を高温下で安定に扱ったり、LiPFを含有する非水電解液の性能を長期に渡り維持させるような方法はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−356491号公報
【特許文献2】特開2003−34692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものである。即ち、LiPFの構造を変えることなく熱安定性及び加水分解耐性を高め、LiPFを含有する溶液を安定化する方法および非水系二次電池用非水電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、LiPFを含有する溶液に特定構造の含フッ素リン酸エステルを特定量存在させることより、LiPFの熱安定性及び加水分解耐性が向上し、このLiPF含有溶液を用いることにより、イオン伝導度が高くしかも長期間に渡り性能が維持される非水電解液が得られることを見出し本発明を完成させたものである。即ち、本発明は下記の要旨に係わるものである。
(1)LiPFを含有する溶液に下記一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素リン酸エステルをLiPFに対しモル比で0.1〜2倍量存在させることを特徴とするLiPFの安定化方法。
(2)一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルをLiPFに対しモル比で0.2〜1.5倍量存在させることを特徴とする1項に記載のLiPFの安定化方法。
(3)含フッ素リン酸エステルが、下記一般式(2)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。)
で表されることを特徴とする1項または2項に記載のLiPFの安定化方法。
(4)一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルが、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル及びリン酸(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチルからなる群から選ばれる1種またはこれらの混合物であることを特徴とする1項または2項に記載のLiPFの安定化方法。
(5)LiPFを含有する溶液の溶媒が環状カーボネートであることを特徴とする1〜4項のいずれか1項に記載のLiPFの安定化方法。
(6)電解質がLiPF且つ溶媒が環状カーボネートであり、更に下記一般式(1)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素リン酸エステルをLiPFに対しモル比で0.1〜2倍量含有することを特徴とする非水系二次電池用非水電解液。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、LiPFの構造を変えることなく熱安定性及び加水分解耐性が高められ、LiPFを含有する溶液を安定化する方法および非水系二次電池用非水電解液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例14におけるリチウム二次電池の模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
LiPFの分解機構としては、J.Power Sources, 119, 81(1999)等に記載されているように、式(3)及び(4)によることが知られている。
【0020】
【化4】

【0021】
本発明の方法は、LiPFを含有する溶液に前記一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルをLiPFに対しモル比で0.1〜2倍量存在させることを特徴とする。一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルとLiPFの何らかの相互作用により、上記の式(3)の平衡が左に傾きLiPFが安定化されるものと考えられる。
【0022】
一般式(1)において、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基であり、且つRf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基及びt−ブチル基等が挙げられ、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル基、パーフルオロエチル基、1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブチル基及びパーフルオロブチル基等を挙げることができる。このような含フッ素リン酸エステルとして、例えば、リン酸トリス(2−フルオロエチル)、リン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル及びリン酸(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチル等またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0023】
これら含フッ素リン酸エステルのうち、前記一般式(2)で表されるように2,2,2−トリフルオロエチル基を少なくとも1個有する含フッ素リン酸エステルがLiPFの安定化効果の点で好ましく、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル及びリン酸(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチルから選ばれる1種以上またはこれらの混合物を用いることが特に好ましい。
【0024】
存在させる含フッ素リン酸エステルの量は、LiPFに対しモル比で0.1倍〜2倍であり、好ましくは0.2倍〜1.5倍である。含フッ素リン酸エステルの存在量が0.1倍未満の場合は、LiPFの安定化効果が十分でなく、2倍を超える場合は、LiPF含有溶液のイオン伝導度が低下する場合がある。
【0025】
本発明のLiPF溶液の溶媒としては、非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、トリフルオロ酢酸エチル等のエステル類、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、(2,2,3,3−テトラフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、(2,2,3,3−テトラフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル等のエーテル類、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン等の鎖状スルホン類、スルホラン等の環状スルホン類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルカーボネート等の鎖状カーボネート類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート類等の単独又はこれらのうちの2種以上の混合物を挙げることができる。これらの溶媒の中でも環状カーボネートを用いることがLiPFの安定性の点で特にこのましい。これら非プロトン性溶媒の使用量は、通常、LiPFに対し重量比で1〜10倍量であり、特にLiPF溶液を非水系二次電池用の非水電解液として使用する場合には、LiPFの濃度を0.5〜1.5mol/Lの範囲となるよう調製して使用することが望ましい。
【0026】
本発明において、LiPFと一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルを混合する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、LiPFに含フッ素リン酸エステルを添加する方法、含フッ素リン酸エステル中にLiPFを添加する方法、LiPFに含フッ素リン酸エステルと他の非プロトン性溶媒の混合溶媒を添加する方法、含フッ素リン酸エステルと他の非プロトン性溶媒の混合溶媒中にLiPFを添加する方法及びLiPFの非プロトン性溶媒の溶液中に含フッ素リン酸エステルを添加する方法等を挙げることができる。
【0027】
本発明の方法を用いると、LiPF含有溶液の熱安定性及び加水分解耐性が高められるため、LiPFを溶液として保存したり、運搬したりする際等に有効である。
【0028】
また、本発明の方法は、LiPF含有液をリチウムイオン二次電池等の非水系二次電池用の非水電解液として使用する場合は特に有効である。本発明の方法を非水電解液に適用した場合はLiPFの熱安定性が高められているため、30℃未満の低温のみならず、30〜100℃、より好ましくは40〜90℃の高温条件においても性能低下を伴わず長期間に使用でき、このような条件下では非水電解液のイオン伝導度が高められるため優れた電池性能を得ることができる。
【0029】
なお、この際の非水系二次電池は通常用いられる材料が使用できる。非水電解液に必要に応じてビニレンカーボネート等の皮膜形成剤が添加されていてもよい。負極材料としては、金属リチウム、リチウム合金あるいはリチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な炭素材料等が使用できる。正極材料としては、LiCoO2、LiMnO2、LiMn24、LiNiO2、LiFeO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3などのリチウムと遷移金属の複合酸化物あるいはLiFePO等が使用できる。セパレータとしては、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂等を材料とする微多孔性膜等が使用できる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0031】
実施例1
アルゴン置換されたグローブボックス中で、25mlメスフラスコにLiPF 3.8g(25mmol)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル 11.5g(30.5mmol)を入れ、50℃で溶融させたエチレンカーボネートで溶解させながら25mlとし、1mol/LのLiPF溶液aを調製した。
得られた溶液は無色透明であり、イオン伝導度測定装置(京都電子社製、CM−117型)を用いて40℃にてイオン伝導度を測定したところ、7.35mS/cmであった。また、19F−NMRにて、−80〜90ppm及び−150〜155ppmに観測されるLiPF分解物のピークの積分値の総和は、LiPF及びその分解物の積分値の総和に対し0.1%未満であり、即ちLiPF分解率は0.1%未満であった。
【0032】
次にこの溶液を硝子製密閉容器に入れ、85℃で350時間加熱した。加熱後液は微茶色液となり、イオン伝導度を40℃で測定したところ、7.32mS/cmでり、イオン伝導度の維持率は99.6%であった。また、19F−NMRにて、LiPF分解物のピークの積分値の総和は、LiPF及びその分解物の積分値の総和に対し0.56%であり、即ちLiPF分解率は0.56%であった。
【0033】
比較例1
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルを用いなかったこと以外は実施例1と同様の操作により1mol/LのLiPF溶液nを調製した。得られた溶液は無色透明であり、イオン伝導度測定装置(京都電子社製、CM−117型)を用いて40℃にてイオン伝導度を測定したところ、11.58mS/cmであった。また、19F−NMRにて、−80〜90ppm及び−150〜155ppmに観測されるLiPF分解物のピークの積分値の総和は、LiPF及びその分解物の積分値の総和に対し0.1%未満であり、即ちLiPF分解率は0.1%未満であった。
【0034】
次に実施例1と同様にしてこの溶液を85℃で350時間加熱したところ、濃褐色の液体となった。イオン伝導度を40℃で測定したところ、11.20mS/cmでり、イオン伝導度の維持率は96.7%であった。また、19F−NMRにて、LiPF分解物のピークの積分値の総和は、LiPF及びその分解物の積分値の総和に対し2.55%であり、即ちLiPF分解率は2.55%であった。
【0035】
実施例2〜13、比較例2〜9
実施例1と同様の操作にて、表1に示す通りの組成を有する1mol/LのLiPF溶液b〜vを調製した。
【0036】
次に、この溶液の初期のイオン伝導度(20℃または40℃)を測定後、表1に示す条件にて加熱した。加熱後、イオン伝導度、その維持率及び19F−NMRにおけるLiPFの分解率を測定し、表2に示す結果が得られた。
【0037】
本発明の方法によるLiPF含有溶液a〜mは、比較溶液n〜vに比べて、いずれも加熱後のイオン伝導度の維持率が高く、また、LiPFの分解率が低いことが判る。
【0038】
また、比較溶液t、u及びvは、それぞれ非フッ素リン酸エステルであるリン酸トリメチル、リン酸トリエチルまたは含フッ素エーテル化合物である(2,2,3,3−テトラフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテルを含有するが、LiPFの安定化効果はほとんど認められず、本発明の方法が特異的な効果を有していることが判る。
【0039】
実施例14 LiPF溶液を非水系二次電池に適用した場合の充放電試験
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO)を用い、これに導電助剤としてカーボンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をLiCoO:カーボンブラック:PVDF=85:7:8となるように配合し、1−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリー化したものをアルミ製集電体上に一定の膜厚で塗布し、乾燥させて正極を得た。
【0040】
負極活物質としてはリチウム金属箔を用い、ステンレス製集電体に圧着して負極を得た。
【0041】
セパレータは無機フィラー含浸ポリオレフィン多孔質膜を用いた。
【0042】
以上の構成要素を用いて、図1に示した構造のコイン型セルを用いたリチウム二次電池を作成した。リチウム二次電池はセパレータ6を挟んで正極1、負極4を対向配置し、これら正極1、セパレータ6および負極4からなる積層体をガスケット7に嵌め込んだ。このガスケット7には正極ステンレスキャップ2と負極ステンレスキャップ3を取り付け、負極ステンレスキャップ3の内側に設けたステンレスバネ5によって前記積層体を構成する正極1を正極ステンレスキャップ2の内側に押し付けた。なお、セパレータ6には実施例1のLiPF溶液aを85℃、350時間加熱したものを含浸させた。
【0043】
この様に作成したリチウム二次電池を55℃の恒温条件下、0.1Cの充電電流で上限電圧を4.2Vとして充電し、続いて0.1Cの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この操作を行った後に55℃の恒温条件下、1Cの充電電流で4.2Vの定電流-定電圧充電を行い、1Cの放電電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電を行った。このときの放電容量は145mAh/gであり、この操作を100回繰り返した際の放電容量は122mAh/g(容量維持率84%)であった。
【0044】
比較例10
比較例1にて85℃で350時間加熱したLiPF溶液nを用いたこと以外は、実施例14と同様の方法によりリチウム二次電池を作成し、実施例14と同様の操作により充放電試験を行った。初回の充放電〜100回目までいずれも放電容量は0mAh/gであった。
【0045】
LiPFが安定化され加熱によってもLiPF分解物をほとんど含まないLiPF溶液aを用いたリチウム二次電池は良好な充放電性能を示したのに対し、LiPF分解物を多量に含むLiPF溶液nを用いたリチウム二次電池は充放電不良を招く結果となった。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明方法によりLiPFを安定化できるので、非水系二次電池用非水電解液として有用である。
【符号の説明】
【0049】
1:正極
2:正極ステンレス製キャップ
3:負極ステンレス製キャップ
4:負極
5:ステンレス製板バネ
6:無機フィラー含浸ポリオレフィン多孔質セパレータ
7:ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiPFを含有する溶液に下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素リン酸エステルをLiPFに対しモル比で0.1〜2倍量存在させることを特徴とするLiPFの安定化方法。
【請求項2】
一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルをLiPFに対しモル比で0.2〜1.5倍量存在させることを特徴とする請求項1に記載のLiPFの安定化方法。
【請求項3】
含フッ素リン酸エステルが、下記一般式(2)
【化2】

(式中、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表す。)
で表されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のLiPFの安定化方法。
【請求項4】
一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルが、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル及びリン酸(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチルからなる群から選ばれる1種またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のLiPFの安定化方法。
【請求項5】
LiPFを含有する溶液の溶媒が環状カーボネートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のLiPFの安定化方法。
【請求項6】
電解質がLiPF且つ溶媒が環状カーボネートであり、更に下記一般式(1)
【化3】

(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。)
で表される含フッ素リン酸エステルをLiPFに対しモル比で0.1〜2倍量含有することを特徴とする非水系二次電池用非水電解液。

【図1】
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【公開番号】特開2012−238524(P2012−238524A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107994(P2011−107994)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】