説明

MALDIマトリックス及びMALDI方法

大気中のエアロゾル及びリアルタイムエアロゾルのMALDI MS方法のリアルタイムエアロゾルマススペクトロメトリーの為のマトリックス。本発明は、MALDIマススペクトロメトリーのためのマトリックス物質に、MALDIマススペクトロメトリー、特にはエアロゾルMALDIマススペクトロメトリーの為のマトリックス組成物に、MALDIマススペクトロメトリー方法、特にはエアロゾルMALDIマススペクトロメトリー方法に、MALDIマトリックス物質として特定の化合物を使用する方法に、及び気相コーティング方法においてMALDIマトリックス組成物を使用する方法に向けられる。本発明のマトリックス物質は、式(I)


に従う2−メルカプト−4,5−ジメチルチアゾール又はその互変異性型を含み、ここでXはN、S又はOであり、且つR及びRは水素原子、メチル、メトキシ、エトキシ及びプロポキシから独立に選ばれ、又はR及びRは一緒になって、置換されていてもよく、1以上のヘテロ原子を含んでもよい芳香族環構造を形成する。マトリックス組成物は好ましくは該マトリックス物質及びアルコールを含む。該アルコールはハロゲン化されていてもよい。該MALDI MS方法は、該分析物と該マトリックス物質又は該マトリックス組成物とを接触させること;該分析物の少なくとも一部をイオン化すること、及びマススペクトロメーター、例えばTOF−MSを用いて該イオン化した成分を分離すること、を含む。好ましくは、バイオエアロゾルが、該気相中で該マトリックス物質と接触させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾルMALDIマススペクトロメトリー方法、特定の化合物をエアロゾルMALDIマトリックス物質として使用する方法、及び気相コーティング方法におけるMALDIマトリックス組成物の使用方法に向けられる。
【背景技術】
【0002】
マススペクトロメトリー(MS)におけるソフトイオン化技術としてのマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)の導入は、生化学的に重要なポリマーを含む幅広い種類の高質量化合物の分析に革命をもたらした。MALDIは、大きく、不揮発性であり且つ熱に不安定な化合物(典型的には400〜350000Daの分子量を有する)、例えばタンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド、オリゴサッカライド及び合成ポリマーなど、からインタクトな気相イオンの生成を許す方法である。MALDI MS方法に従い、該不安定な分析物分子が該レーザービームにより直接に破壊されるのを防ぐ為に、マトリックスが用いられる。
【0003】
MALDI MSのソフトイオン化技術は典型的には生体分子の分析を許す。MALDI MSは例えば、微生物(の画分)の分析及び分類において用いられる。
【0004】
MALDI MS分析は2つのステップを含む。第一のステップは、該分析物をモル過剰のマトリックス物質と混合することにより試料を調製することを含む。MALDIプロセスの第二のステップは、レーザー光の強烈な短パルスによる該固体試料のバルク部分の脱離を含む。該マトリックスは3つの目的に従事すると考えられている:分析物の互いからの分離、該分析物が脱離する為のレーザー光からのエネルギーの吸収、及びイオン化の促進。該レーザー光は、イオン化されるべき該マトリックス及び分析物試料の小断片を生じる。得られた気相イオンの分子質量が通常、電場内で該イオン化された分子を加速すること及び飛行時間(TOF)検出器においてそれらの質量に基づき該分子を分離することにより決定される。MALDI−TOFは、非常に少量の成分の検出を許す、非常に高感度の方法である。
【0005】
適用されるマトリックス物質は通常、小さな有機酸である。一般に用いられるマトリックス物質は、3,5−ジメトキシ−4−ケイ皮酸(シナピン酸)、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(α−シアノ又はα−マトリックス)及び2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を含む。典型的には、該マトリックス物質は、高度に精製された水及び他の有機化合物(普通はアセトニトリル(ACN))の混合物中に溶解される。普通はいくつかの酸、例えばトリフルオロ酢酸(TFA)など、も添加される。なぜなら、酸は、該分析物のマススペクトルに対する塩不純物の妨害影響を抑制することができるからである。加えて、該マトリックス溶液のpHの低下は通常、該試料の増加した性質、例えばシグナルの増加した数及び強度など、を結果する。
【0006】
次に、該マトリックス溶液は、調査されるべき該分析物と混合される。該有機化合物(例えばACN)は、該試料中の疎水性タンパク質が溶解するのを可能とする一方で、該水は親水性タンパク質が溶解するのを可能とする。慣用のMALDI方法において、この溶液はMALDIプレート(通常はこの目的の為に設計された金属プレート)上にスポットされる。該溶媒が蒸発し、再結晶化したマトリックスだけを残し、該分析物タンパク質を該マトリックス結晶のいたるところに広げさせる。
【0007】
一般に、エアロゾルMALDIマススペクトロメトリーにおいて、開発は2ラインの試料処理に従う、エアロゾル化の前にマトリックスを分析物と予備混合することによるもの又はエアロゾル粒子のリアルタイムの飛行中のコーティングによるもののいずれか。該飛行中マトリックスコーティングは、大気中のバイオエアロゾルのオンラインエアロゾルMALDIマススペクトロメトリーを可能とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リアルタイムエアロゾル単独粒子MALDIの場合、該エアロゾルは、気相中でマトリックス物質により被覆される必要がある。それ故に、該マトリックス物質は十分に揮発性であるべきである。さらに十分な量のマトリックス物質が該エアロゾルに堆積されるべきである。従来技術において、エアロゾル、特にはバイオエアロゾルについてのMALDI分析を実施するために、いくつかの試みがなされてきた。
【0009】
国際公開第02/052246号パンフレットは、例えば、エアロゾルについてのMALDI MS方法を記載し、ここで該エアロゾルは、蒸発/濃縮又は昇華/濃縮によりMALDIマトリックスを備えられる。この文献に従い、MALDIマトリックスにより覆われた乾燥したエアロゾルが、パルスレーザーによりイオン化されうる。次に、該イオン化成分がTOF MSにより分析されうる。
【0010】
バイオエアロゾル中に含まれる微生物を分析する為に、バクテリアの種に又はバクテリアの株さえに又は特定の発育型さえに特徴的なタンパク質が分析されるべきである。しかしながら、これらの特徴的タンパク質(例えば1〜20kDaの分子量範囲内のリボソームタンパク質など)のほとんどが、細胞膜により保護されており、そして従って、イオン化に容易に利用可能でない。それ故に、バイオエアロゾルはしばしば、例えばイオン化の前の細胞膜の部分的分解により、該タンパク質をイオン化にとって利用可能とするオンライン処理を要求する。伝統的には、慣用のMALDIにより、そのような処理は、水及びアセトニトリル中の酸及びMALDIマトリックス物質の溶解を含み、次に、該微生物分析物の添加及びその後該混合物の乾燥が続く。該酸が該細胞膜を部分的に分解し、それにより該特徴的タンパク質をイオン化にとって利用可能にする。この方法における重要なパラメータは、マトリックス及び酸対分析物の比並びに乾燥後の該マトリックスの結晶型である。
【0011】
上記方法がリアルタイムのサンプリング及び分析にとってほとんど適さないことが明白である。なぜなら、該分析物の調製は多くのステップ及び時間を要するからである。さらに、本発明者らは、マトリックスの蒸発にとって必要な高温(>80℃)と組合された酸性条件の使用が、気相中のタンパク質粒子のMS検出応答に対し悪影響を有することに気付いた。加えて、該マトリックス物質は、酸の存在下において又は水性の酸性条件下においてより速く分解する。
【0012】
慣用のMALDIマススペクトロメトリー装置は高い性能を有し、そしてそれ故に、例えば株レベルについてのバクテリアの同定にとって適する。しかしながら、オンラインエアロゾルMALDI MSの性能、特には1〜20kDaの分子質量範囲内のタンパク質のオンラインバイオエアロゾルMALDI MSの性能はまだ十分でない。
【0013】
適当なMALDIマトリックス物質によるバイオエアロゾル、例えば微生物及び/又はタンパク質を含むエアロゾルなど、のコーティングは、生物学的物質を含む、バイオエアロゾルのオンラインでの特徴付けを許す。エアロゾルは、例えば国際公開第02/052246号パンフレットに記載されるとおり、気相からエアロゾル上にマトリックス物質を凝縮することにより、該エアロゾルは該マトリックス物質により覆われうる。しかしながら、この方法は多くの利用可能なマトリックス物質にとって適さない。なぜなら、それらは非常に揮発性でなく及び/又は大気圧で熱的に安定でないからである。さらに、いくつかの既知の揮発性マトリックス物質、例えば3−ニトロベンジルアルコール及びピコリン酸など、は不満足なシグナル品質を与える。適当なMALDIマトリックス物質についての強いニーズがある。加えて、気相中で、好ましくは大気圧で、エアロゾルに適当なMALDIマトリックス物質のコーティングを備える為の改善された方法についての強いニーズがある。さらに、気相の微生物含有エアロゾルに十分な量のマトリックス物質を備えて、該特徴的タンパク質、特には1〜20kDaの範囲内のそれら、の高い応答を生じることは、課題のままである。
【0014】
本発明の目的は、満足いくシグナル品質を有する、リアルタイムの/直接の、すなわち先のバイオエアロゾル収集無しの、エアロゾルMALDIマススペクトロメトリーの為のマトリックス物質及び調製技術についてのニーズを満たすことである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、エアロゾルについて、特にはバイオエアロゾルについて、MALDIマススペクトロメトリーを実施することにおいて直面した問題を打破することである。
【0016】
より特には、本発明はMALDI分析物エアロゾル表面を、マトリックス物質の層によりコーティングする為に適する方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第一の局面において、本発明は、式(I)
【化1】

に従う2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーン又はその互変異性型を含む、MALDI MSの為のマトリックス物質に向けられ、
ここで、XはS、O又はNから選ばれ、且つR及びRは独立に、水素、メチル、メトキシ、エトキシ及びプロポキシから選ばれ、又はR及びRは一緒になって、1以上のヘテロ原子を含みうる、置換されていてもよい環構造を形成する。
【0018】
本発明者らは、式(I)の2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンがエアロゾルMALDI MSにとって非常に適当なマトリックス物質であることを発見した。該2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンマトリックス物質は、非常に優れたシグナル品質を与える。それにより、MALDI MSについての分析物の要求される量は、著しく減少される。加えて、本発明の該マトリックス物質は、多くの慣用のマトリックス物質よりも、非常に揮発性であり、そしてそれ故に、エアロゾルMALDI MSにとってより適する。
【0019】
及びRは、水素、メチル、メトキシ、エトキシ及びプロポキシから選ばれうる。これらの小さな側基は、該マトリックス物質の望ましい揮発性を保証する。アルコキシ基は、該マトリックス物質の揮発性を高めることができる。R及びRは、一緒になって、任意的に1以上のヘテロ原子を含む、1以上の任意的に置換された芳香族環構造(縮合環を含む)を形成することもできる。該1以上の芳香族環状構造は例えば、1つの芳香族の5、6又は7員の芳香族環を含みうる。
【0020】
好ましくは、R及びRは同じであり、そしてより好ましくはR及びRは両方ともメチル基である。Xは好ましくはSである。
【0021】
非常に良い結果が、R及びRがメチル基である2−メルカプト−4,5−ジアルキルチアゾールにより達成された。
【0022】
式(I)の2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンの2つの異なる互変異性型は、プロトンがチオール硫黄原子に結合しているもの及びプロトンが芳香族窒素原子に結合しているものである。これらの2つの互変異性型が以下に示される。
【化2】

【0023】
リアルタイムエアロゾルMALDI MSについて、エアロゾル上に該マトリックス物質を堆積させる為に、該マトリックス物質は該気相中に持ち込まれるべきである。好ましくは、該マトリックス物質は、大気圧下で該分析物に堆積される。該式(I)の2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンは該気相中に持ち込まれうるが、本発明者らは、蒸発されうるマトリックス物質の量が、適用される蒸発熱による該物質の分解の故に、制限されることに気づいた。典型的には、該マトリックス物質は、約90℃又はそれより高い温度で分解しはじめる。
【0024】
該分解された物質の分析は、式(I)の2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンの分解産物が、元の2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンの結合物(conjugate)(2つの分子がチオール基を介して結合されている)を含むことを示した。該結合物は、−C−S−C−結合を通じて結合されているものもあり、他方で−C−S−S−C−結合を通じて結合されているものもある。
【0025】
理論によりとらわれることを望まないで、本発明者らは、該−C−S−C−結合を有する該結合物が、HSの放出下で、2つの異なる2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンのチオール基の分子間反応により形成されると考える。さらに、本発明者らは、該−C−S−S−C−結合を有する結合物は、2つのプロトン及び2つの電子の放出下で、2つの異なる2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンのチオール基の酸化反応により形成されると考える。
【0026】
本発明者らは、該マトリックス溶液にアルコールを添加することにより、該2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーン分子のチオール基を少なくとも部分的に保護することが可能であることを発見した。該アルコールは、該互変異性型のチオール硫黄原子の自由電子対(free electron pair)により水素結合を形成することができ、ここで該プロトンは、以下に示されるとおり芳香族窒素に結合される。
【化3】

【0027】
結果として、該プロトンが該芳香族窒素原子に結合されている該互変異性型が好ましく、そして該2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンは主にこの互変異性型で存在するであろう。加えて、該2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーン分子と該アルコール分子との間の水素結合の形成は、該マトリックス物質の揮発性を増すことができる。
【0028】
従って、さらなる局面において、本発明は、式(I)に従う2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーン又はその互変異性型とアルコールとを含む、リアルタイムエアロゾルMALDI MSの為のマトリックス組成物に向けられる。このマトリックス組成物は、エアロゾルMALDI MSにとって特に有利である。なぜなら、それは、該エアロゾルに該マトリックス物質を堆積させる為に、該気相中に容易に持ち込まれうるからである。
【0029】
好ましくは、該アルコールの分子量は比較的低い。適当なアルコールは例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、及びtert−ブタノールである。また、1より多いヒドロキシ基を有するアルコール、例えばグリコール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、グリセロール、ブタン−1,2−ジオール、ブタン−1,3−ジオール、ブタン−2,3−ジオール、ブタン−1,2,3−トリオール及びブタン−1,2,4−トリオールも適用されうる。
【0030】
一般に、多価アルコール、例えばジオール及びトリオールなど、は、1価アルコールよりも揮発性が低いが、それらが水素架橋の形成にとって利用可能な追加のヒドロキシル基を有することにおける利点をそれらは有する。
【0031】
さらに、該アルコール(特にはエタノール)は、関心のあるタンパク質にとって、イオン化に利用可能となるのに十分な程度に、細胞膜を分解することができる。すなわち、同時のアルコールの存在は、該微生物から特徴的なタンパク質を放出する為の放出剤として働く。
【0032】
アルコールの存在の重要な利点は、2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンマトリックス物質が、適用される蒸発熱/昇華熱により分解されず又は少なくとも迅速には分解されないことである。アルコールとの組み合わせにおいて、本発明の該マトリックス物質は、その活性を、例えば150℃の加熱温度でさえ、アルコールの低濃度〜ゼロ濃度における数分又は数時間と比較して、著しく増加した時間、例えば少なくとも10ヶ月間、好ましくは少なくとも12ヶ月間維持することが発見された。
【0033】
高い温度、例えば100℃超の温度、好ましくは120℃超の温度、より好ましくは150℃超の温度など、の使用も、微生物から特徴的タンパク質を放出するのに寄与する、Horneffer et al.J.Am.Soc.Mass Spectrom.2004,15(10),1444−1454、を参照されたい。
【0034】
本発明者らはさらに、ハロゲン化アルコールを適用することが有利であることを発見した。好ましいハロゲンは塩素であり、さらにより好ましいハロゲンはフッ素である。原理上、該アルコール中の一つのハロゲン置換がすでに有利な効果を与える。
【0035】
好ましい実施態様において、少なくともα炭素原子が、1以上のハロゲン原子により置換される。そのようなハロゲン化アルコールの適当な例は、トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、及びヘキサフルオロイソプロパノールである。該アルコールが完全にハロゲン化されている、すなわち炭素に結合したすべての水素原子がハロゲン原子により置換されている実施態様がさらにより好ましい。完全にハロゲン化されたアルコールの例は、トリクロロメタノール、トリフルオロメタノール、パークロロエタノール、パーフルオロエタノール、パークロロプロパノール、パーフルオロプロパノール、パークロロブタノール、及びパーフルオロブタノールである。
【0036】
ハロゲン置換物の高い電子吸引能力は、該アルコール分子のヒドロキシル基の電気陰性度を増大させる。これは、該アルコールと本発明の該2−メルカプト−4,5−ジアルキルチアゾール分子との間のより強力な水素結合をもたらす。それ故に、該プロトンが該芳香族窒素原子に結合している本発明の該マトリックス物質の該有利な互変異性型がさらにより好ましい。結果として、該リアルタイムエアロゾルMALDI MS分析の性能がさらに改善される。
【0037】
該アルコールは好ましくは、飽和蒸気圧が、アルコールの種類に依存して、15〜100℃の温度範囲内にあると分かるような濃度で適用される。しかしながら、部分的に飽和したアルコール蒸気も用いられうる。
【0038】
従って、本発明は、分析物を分析する為のリアルタイムエアロゾルMALDI MS方法であって、
該エアロゾル分析物と上記で記載されたとおりのマトリックス物質とを接触させること;
該分析物の少なくとも一部をイオン化すること;そして
該イオン化した成分を、MS検出器、例えば飛行時間検出器を用いて分離すること
を含む上記方法に向けられる。
【0039】
該分析物と該マトリックス物質との接触の間、該マトリックス物質は、該エアロゾルに堆積することができ、そしてマトリックスコーティングを形成することができる。
【0040】
該分析物が、該気相中で該マトリックス物質と接触されることが好ましい。昇華されうる本発明のマトリックス物質の量はアルコールの存在下において増加するので及びアルコールは該マトリックス物質の揮発性を増すことができるので、アルコールを有する組成物中で、式Iの該マトリックス化合物を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明者らは、この方法に従い、該エアロゾル分析物が、マトリックス物質の均一であり均質である相を備えられることを発見した。これは、該分析物の表面における不均質性がMALDI分析に悪影響を及ぼしうるので、有利である。それ故に、この方法は、エアロゾルについてのMALDIスペクトロメトリーのシグナル品質を著しく改善する。この改善は、バイオエアロゾルにとって、特徴的タンパク質のデリケートな分析の故に、特に有用である。該少なくとも部分的に飽和した雰囲気は有利に、本明細書において記載されたとおりの1以上のアルコールにより少なくとも部分的に飽和されうる。好ましくは、マトリックス含有エタノール溶液が、該装置の加熱されたゾーンへと、小滴として導入される。この利点は、該マススペクトロメーター中に一つの液体流があること及び該マトリックスの濃度がより精密に制御されうることである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実験の装置を示す図である。符号の説明については実施例1を参照されたい。
【図2】生理学的食塩溶液中で一晩保持されたB.thuringiensisのリアルタイムエアロゾルMALDI TOF MSスペクトルの日々の再現性を示す図である。
【図3】B.thuringiensisの芽胞(A)及び細胞(B)の飛行中エアロゾルMALDI TOF MSスペクトルを示す図である。
【図4】(A)B.globigii、(B)B.cereus及び(C)B.thuringiensisの芽胞のリアルタイムエアロゾルMALDI TOF MSスペクトルを示す図である。
【図5】2つのB.cereus株の飛行中エアロゾルMALDI TOF MSスペクトルを示す図である。
【図6】1つのカルチャー内の個々のB.thuringiensis栄養細胞/クラスター化粒子の種々のフィンガープリントの例を示す図である。
【図7】標準化されたマトリックス条件を用いた、アガープレートで培養されたB.thuringiensis栄養細胞のリアルタイムエアロゾルMALDI(リアルタイム)対一般のMALDI(静的(static))の例を示す図である。
【図8】標準化されたマトリックス条件を用いて、アガープレートで培養されたE.herbicola及びE.coliのリアルタイムエアロゾルMALDI TOF MSを示す図である。
【図9】(A)6000〜12000Daの特徴的な広いバンドを有するAcNPVウィルス、及び(B)1242−1257−1279Da並びに6460及び8675Da((B−a)及び(B−b):拡大)での特徴的なシグナルクラスターを有するCpGVウィルスの、リアルタイムエアロゾルMALDI TOF MSスペクトルを示す図である。
【図10】水中の参照コレラ毒素(600ショット(shots)/粒子 合計された)及び、用水路の水(canal water)の600ショット/粒子から選抜された12の合計されたコレラ毒素含有ショットの、リアルタイムエアロゾルMALDI TOF MSを示す図である。
【図11】J558Bリンパ球及びジャーカットTリンパ球細胞株のリアルタイムエアロゾルMALDI TOF MSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
該オンラインエアロゾルサンプリングの間、該蒸気圧は好ましくは高く維持されるべきであり、これはアルコール又は水などの液体の追加蒸発により達成されうる。
【0044】
いくつかの場合、揮発性酸を該被覆されたエアロゾル流に添加することが好ましい。好ましくは、揮発性有機酸(室温〜100℃の温度で揮発性である)が用いられ、最も好ましくは、トリフルオロ酢酸(TFA)が用いられる。
【0045】
該分析物及び好ましくは該分析物中の少なくとも1つの粒子は、微生物(バクテリア、菌類、藻類、原生動物及びウィルスを含む)及び/又はタンパク質(毒素を含む)、又は任意の他の生物学的物質、例えばリンパ球又は細胞組織など、を含みうる。
【0046】
好ましくは、該少なくとも1つのエアロゾルは、少なくとも0.1μmの、透過電子顕微鏡法により測定されたときの平均粒子サイズを有する。透過電子顕微鏡法により測定されたときの平均粒子サイズは、多くとも20μmであることが好ましい。従って、少なくとも1つのエアロゾル粒子が、0.3〜20μmの平均粒子サイズ、好ましくは0.5〜15μmの平均粒子サイズを有しうる。
【0047】
好ましい実施態様において、該分析物は、本発明の方法の前に選抜に付されている。適当な選抜方法は、たとえば、国際公開第2002/052246号パンフレット(引用することにより本明細書に組み込まれる)において記載されている。この方法に従い、バイオエアロゾル粒子は、特定の物質、例えばアミノ酸など、の存在が、適当な波長を照射されたときに特徴的な蛍光を誘発する特性に基づき選抜される。一般に、無機物質及び多くの有機物質は、この特徴を示さない。すなわち、バイオエアロゾル粒子は、バイオエアロゾル粒子中の特定の物質の蛍光に影響する励起レーザーにより選抜されることができ、その後、検出器が該蛍光バイオエアロゾル粒子を選抜し、そして第2のレーザーがトリガーされて、該選抜されたバイオエアロゾル粒子をイオン化する。
【0048】
好ましくは、該選抜はサイズ選抜を含む。バクテリア及びウィルスを含むエアロゾル粒子のサイズは典型的には20μmより小さい。該エアロゾル粒子は、或る速さで該マススペクトロメーターの中央空間(the central space)に入るので、逐次的な(successive)エアロゾル粒子のサイズが、エアロゾル粒子により横切られた既知の距離(a known distance)の持続期間から決定されうる。該励起レーザービームを既知の相互の距離を有する2つの逐次のスポットへ向けることにより、上記持続期間及びそれ故に該エアロゾル粒子のサイズが、エアロゾル粒子により散乱され及び検出された光から決定されることができる。これは、特定のサイズ枠における生物学的物質の選択的イオン化を許す。それ故に、種々の物質の混合物から特定のサイズの生物学的物質(例えばバクテリアなど)を同定することが可能である。
【0049】
本発明は、微生物(バクテリア、菌類、藻類、原生動物及びウィルスを含む)及び/又はタンパク質(毒素を含む)又は任意の他の生物学的物質、例えばリンパ球及び細胞組織、の分類を許す。種々の種が、それらのスペクトルの特徴に従い分類されうる。そのような分類は非常に特異的であり、且つ、種々の発達のステージ(stadia)における微生物を区別することさえ可能である。生物学的物質の該分類の為の方法は、種々の生物学的物質(例えば種々のバクテリア、種々の細胞、種々のウィルスなど)のMALDI MSスペクトルを得ること、該得られたMALDI MSスペクトルをMALDI MSスペクトルのライブラリーと比較すること;及び、該比較に基づき、該生物学的物質を分類することを含む。一つの粒子についての一つの測定だけに基づく、信頼できる分類を実施することが可能であると示された。これは、上記で記載された方法が、低濃度の生物学的粒子(bioparticles)を有する気体の試料分析のために用いられるときに特に有用である。
【0050】
さらに、本発明は、特に粒子状の物質及び微生物に関する、気体又は液体、例えば水など、の品質を監視することを許す。
【0051】
さらなる局面において、本発明は、エアロゾルMALDI MSの為に、式(I)に従う2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーンをマトリックス物質として使用する方法に向けられる。
【0052】
さらなる局面において、本発明は、MALDI MSの為の気相マトリックスコーティング方法において、本明細書において定義されたとおりのマトリックス組成物を使用する方法に向けられる。
【0053】
他の局面において、本発明は、分析物を分析する為のMALDI MS方法であって、
該分析物と2−メルカプト−4,5−ジメチルチアゾールマトリックス物質とを接触させること、
該分析物の少なくとも一部をイオン化すること;そして
該イオン化した成分をMS検出器を用いて分離すること
を含む上記方法に向けられる。
【0054】
2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーン及び同様の化合物は一般に、MALDI MSの為のマトリックス物質として知られているが(例えば、Naxing, X. et al., 1997, J. Am. Soc. Mass Spectrom. 8:116-124 and Domin, M.A. et al., 1999, Rapid Comm. Mass Spectrom. 13:222-226; and 5-ethyl-2-mercaptothiazole as described in Raju, N.P. et al., 2001, Rapid Comm. Mass Spectrom. 15:1879-1884において記載されたとおりの2−メルカプトベンゾチアゾール及びその類似体など)、該特定の化合物2−メルカプト−4,5−ジメチルチアゾールそれ自体は開示されていない。さらに、該マトリックス分子における小さな変化が、MALDI MSにおけるマトリックスとしての化合物の適用可能性に対する大きな影響をもたらしうることが当技術分野で知られている。或る化合物がマトリックス分子として用いられうるかどうか及びどの特定の用途の為に或る化合物が用いられうるかは、基本的に予測不可能であると分かっている。実施例において示されるとおり、2−メルカプト−4,5−ジメチルチアゾールは、生物学的マクロ分子、例えば微生物上に含まれるタンパク質及び炭水化物など、の検出にとって非常に適当であるマトリックス分子であることが分かった。この特定のマトリックス化合物のこの有用性は、微生物のスペクトルパラメーターに基づく、微生物の分類さえ可能にする。
【0055】
本発明は今、以下の非限定的な実施例により、さらに説明されるであろう。
【実施例1】
【0056】
実施例1−再現性
Bacillus thuringiensisを含むエアロゾルを分析する為に用いられた実験装置が、図1に示される。気相中のエアロゾル粒子は、エントランス室(entrance room)(1)中にMALDI装置に入り、そして、液体(例えばアルコールなど)を含む任意的に加熱されたチューブ(2)へもたらされ、そして次に該マトリックス物質を含むチューブ(3)を通る。このチューブの第一の部分が加熱され、一方で第二の部分は加熱されず、その結果該マトリックス物質は該第二の部分で堆積し、そして、コーティングが該エアロゾル上に形成される。該被覆されたエアロゾルはドライヤー(4)及びエアロゾルビーム発生器(5)を通過し、その後該被覆されたエアロゾルはソース室(a source room)(6)へ入り、そこでそれらは散乱及びUV光により検出される(7)。該エアロゾル中の関心のあるタンパク質が次に、イオン化レーザー(8)によりイオン化される。得られたイオンは、TOFチューブ(9)中でそれらの質量に基づき分離され、そして次に、検出器(10)で検出される。該データの取得及び処理はパーソナルコーンピュータ(11)により実施される。
【0057】
該システム中の圧力は、エントランス室(1)、チューブ(2)及びチューブ(3)における約100kPa(大気の)の一連のポンプにより、ソース室(6)およびTOFチューブ(9)において10−5kPaへと減少する。該システムを通じた該流は、600〜1000ml/分の範囲にある。
マトリックス物質として2−メルカプト−4,5−ジメチルチアゾールを用いた、Bacillus thuringiensisを含むエアロゾルのリアルタイムMALDIエアロゾルTOFスペクトルが記録された。
【0058】
リアルタイム試料調製を含むオンラインエアロゾルMALDI TOF MS装置再現性が、図2において実証される。図2における比較可能な特徴的ピークパターン(すなわちMALDIフィンガープリント)は、一貫した日々の再現性を示す。図2により示された結果は、B.thuringiensis及びB.cereusの栄養細胞及び芽胞によるいくつかの同一の実験により再現されており(データは示されていない)、これは該システムの再現性及び安定性が満足いくものであることを示す。
【実施例2】
【0059】
実施例2−識別能力
本発明の識別能力(the distinguishing potential)が、実施例1の下で記載されたとおりであるが、いくつかのBacillus種、たとえばB.cereus(2つの株)、B.thuringiensis及びB.globigiiなど、による、同様の方法で得られた結果により実証された。それらの16SrRNA配列に従い、B.cereus及びB.thuringiensisを近縁種であると考えることが示唆される。試験されたバクテリア株の一つB.cereus ATCC 14579は、16SrDNAヌクレオチド配列における塩基対の置換及び類似性に基づき99.6%のB.thuringiensisにおける類似性を有する。上記Bacillus種からの栄養細胞及び芽胞のエアロゾルが、実施例1において記載されたとおりのマトリックス物質によりリアルタイムで覆われ、そしてエアロゾルMALDI TOF MSによりリアルタイムで分析された。
【0060】
栄養細胞対芽胞
最初に、B.thuringiensisの同じ種の芽胞細胞及び栄養細胞が測定された。B.thuringiensisの芽胞細胞(A)及び栄養細胞(B)の間の、図3において示されたとおりの得られた異なるMALDIフィンガープリントは、両者の間の明確な区別を示す。
【0061】
近縁種
次に、該エアロゾルMALDI TOF MSの識別能力が、増殖依存性差異を防ぐために同じ増殖条件下で培養されたB.thuringiensis、B.cereus及びB.globigiiの芽胞から得られた近縁種の結果により説明された。図4においてわかるとおり、B.globigii(A)、B.cereus(B)、及びB.thuringiensis(C)の種は、非常に特徴的なスペクトルを示し、これはそれらを容易に区別するために用いられることができる。
【0062】
図5において、増殖依存性差異を防ぐために同じ増殖条件下で培養された2つのB.cereusの結果により、該識別能力が実証される。2つのB.cereus株の芽胞もまた、両方のスペクトルにおける異なるMALDIプロファイルにより実証されるとおり、互いに区別されうる。結果は、B.thuringiensis,B.globigii,B.cereus(2つの株を含む)などの近縁微生物が、エアロゾルMALDI MSと組み合わされた本発明の使用により、株レベルについてさえ、互いに区別されることができることを示す。
【0063】
一つのバクテリア培養物内の一つの粒子レベルについての分離
一つの細胞または粒子レベルでの分離が、空気動力学的直径、蛍光又はマススペクトルフィンガープリントに基づき、細胞又は粒子をクラスター化することにより可能である。
【0064】
本発明の使用により、十分なマススペクトルの情報が、フィンガープリントクラスタリング(fingerprint clustering)を適用するために1回のショットで入手可能である。1回のショット(single shots)は、個々の細胞、芽胞、クラスター化細胞、芽胞、タンパク質、ペプチド、増殖媒体又は他のバックグラウンド粒子でありうる。
【0065】
図6は、Bacillus thuringiensisのマススペクトルフィンガープリントについてクラスター化された6のショット/粒子のデータを示す。
【実施例3】
【0066】
実施例3−エアロゾルMALDI TOF MS対一般的MALDI TOF MS
エアロゾルMALDI TOF MSについて、一般のMALDI TOF MSのサポートが、微生物のデータベースを作る為に重要である。両方の技術(すなわち知られていないマトリックス形態学(morphology)及び飛行におけるイオン化)の間の区別可能な違いにもかかわらず、比較可能なスペクトルが、一般のMALDI TOF MS及びエアロゾルMALDI TOF MSの両方による本発明のマトリックスレシピが用いられるならば、得られた。図7は、1週間アガープレート上で培養されたB.thuringiensisの栄養細胞から得られ且つ両方の技術により記録されたスペクトルの例を示す。
【0067】
同じピーククラスターが、両方のスペクトルにおいて4710、4816、7242、7385及び8259Daで見られた。一般のMALDIとエアロゾルMALDI TOF MSとの間の良い類似性は、グラム陰性微生物、例えばPseudomonas stutzeriのgenomovars、Escherichia coli、Vibrio cholerae及びErwinia herbicola並びにウィルスAutographa californica nuclear polyhedrosisウィルス(AcNPV)及びCydia pomonella granulosisウィルス及びMS2バクテリオファージなどを用いても確認された(データは示されていない)。
【実施例4】
【0068】
実施例4−他の微生物の種
グラム陰性微生物
提示されたグラム陽性bacillus種の次に、グラム陰性微生物、例えばPseudomonas stutzeriのgenomovars(11の種)、Escherichia coli、Vibrio cholerae及びErwinia herbicolaなど、もまた図8において区別可能なスペクトルを与え、E.herbicolaと比較したE.coliの例を示す。
【0069】
ウィルス
以下のウィルスが試験された:バクテリオファージMS2及びバキュロウィルスAutographa californica nuclear polyhedrosisウィルス(AcNPV)及びCydia pomonella granulosisウィルス。バクテリオファージMS2は、RNAタイプウィルスを代表する。該バキュロウィルスは、二本差DNA(dsDNA)ウィルスである。同一のスペクトルが、エアロゾルMALDI TOF MS及び一般のMALDI TOF MSにより得られた。MS2の場合、13kDaのキャプシドタンパク質の[M+H](m/z 13726)及び[M+2H]+2(m/z 6865)イオンシグナルが検出された(データは示されていない)。他のバクテリア種に特異的なバクテリオファージは典型的には、異なる分子量のキャプシドタンパク質を有し、そしてそれ故に、異なるMALDIシグナルを与える。
【0070】
バキュロウィルスのスペクトル間の差異は明白である(図9を参照されたい)。AcNPVウィルス(A)のエアロゾルMALDI TOF MSスペクトルは、おそらく主要糖タンパク質エンベロープの一部である6000〜12000Daの特徴的な広いバンドを有する。CpGVウィルス(B)は、1242−1257−1279Da及び6460及び8675Daで特徴的なシグナルクラスターを示す。
【実施例5】
【0071】
実施例5−液体試料分析
エアロゾル試料への本発明の直接の適用可能性の次に、液体試料、例えば水、体液及び血液など、も50〜200μlの低量で取り扱われうる。該流体は、Meinhard噴霧器を用いてエアロゾル化され、ろ過された空気(filtered air)のキャリアガスを有するエアロゾルを与える。生成されたエアロゾルは、本発明の使用方法によりリアルタイムで被覆され、そして、個々の粒子が、空気動力学的直径及び/又は蛍光及び/又はMALDI TOF MSフィンガープリントの選抜により分析されうる。
【0072】
用水路の水中の毒素
図10は、用水路の水へ添加されたコレラ毒素(100μg/ml)の結果を示す。該用水路の水は、0.2μmフィルターによりろ過されて微生物の粒子を除去し、そして、60μlがエアロゾル化されそしてオンライン分析された。
【0073】
コレラ毒素は、24kDaの分子質量を有するAサブユニット及び12kDaのBサブユニットからなる。水中及び添加された用水路の水中の参照のマススペクトルは、コレラ毒素のBサブユニットの特徴的質量を示す。該用水路の水の場合、特徴的なコレラ毒素マススペクトルを有する12の合計されたシングルショットのスペクトルが、用水路の水の600ショット/粒子のバックグラウンドから選抜されたときに、コレラ毒素の存在を示すのに十分である。
【0074】
Tリンパ球及びBリンパ球
Tリンパ球及びBリンパ球は、適用免疫応答の主要な細胞成分である。T細胞は、細胞により媒介される免疫に関与する一方で、B細胞は主に(抗体に関する)液性免疫に関与する。それらは、病原体を記憶して将来の感染の場合により早い抗体産生を可能とする記憶細胞を形成する。インタクトなBリンパ球及びTリンパ球を分析することの能力が、JurkatTリンパ球及びJ558Bリンパ球細胞について研究された。約50μlの少量が、Meinhard噴霧器により導入された。図11は、JurkatTリンパ球及びJ558Bリンパ球のエアロゾルMALDI TOF MS平均を合計したマススペクトルを示す。
【0075】
結論
上記実施例は、生物学的起源の材料から区別可能なMSフィンガープリントを生成するための一般的能力を実証する。エアロゾルMALDI TOF MSと組み合わされた本発明は、種から株レベルの容易な区別の為の迅速且つ速成のツールであると分かった。本発明の試料マトリックス条件を用いる場合、MALDI結果は、一般のMALDIとほとんど同一であろう。これは、データベースを作成するために一般のMALDIの必要なサポートの利用可能性及びこれらのデータベースの解釈の為の使用を示す。一般のMALDIと比較したときの、エアロゾルMALDI TOF MSと組み合わされた本発明は、バルク材料の代わりの一つの粒子レベルについての分析に起因して、天然の無機的又は生物学的バックグラウンドの存在により影響を受けない又はより少なく影響されるという、大きな利点を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアロゾル分析物を分析するためのMALDIマススペクトロメトリー方法であって、
該エアロゾル分析物を、式(I)

に従う2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーン又はその互変異性型を含むMALDIマススペクトロメトリーの為のマトリックス物質と接触させること、
ここで、XはN、S又はOであり、且つR及びRは水素、メチル、メトキシ、エトキシ及びプロポキシから独立に選ばれ、又はR及びRは一緒になって、置換されていてもよく、1以上のヘテロ原子を含んでもよい芳香族環構造を形成する、
該分析物の少なくとも一部をイオン化すること;そして
該イオン化した成分をマススペクトロメーター、例えば飛行時間マススペクトロメーターを用いて分離すること
を含む上記方法。
【請求項2】
及びRが同じである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
及びRがメチル基である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
XがSである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該マトリックス物質がアルコールをも含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該アルコールが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール及びtert−ブタノールからなる群から選ばれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該アルコールが、多価アルコール、例えばジオール又はトリオール、である請求項5に記載の方法。
【請求項8】
該アルコールがハロゲン化されている、例えば塩素化又はフッ素化されている、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該アルコールの少なくとも1つのα炭素原子が、少なくとも1つのハロゲン原子により置換されている、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該アルコールが完全にハロゲン化されている、請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
該接触が気相中で起こり、該気相がアルコールにより少なくとも部分的に飽和されている、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
該少なくとも1つのエアロゾルが、透過電子顕微鏡法により測定されたときに、少なくとも0.1μm、好ましくは0.3〜20μm、より好ましくは0.5〜15μmの平均粒子サイズを有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
該分析物が、生物学的物質、好ましくは微生物及び/又はタンパク質を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
該分析物が、該マトリックス物質と接触させられる前に、粒子サイズ選抜に付されている、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
生物学的物質の分類の為の方法であって、
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法を用いて、種々の生物学的物質のMALDIマススペクトルを得ること;
得られたMALDI MSスペクトルを、MALDI MSスペクトルのライブラリーと比較すること;そして、
該比較に基づき、該生物学的物質を分類すること
を含む、上記方法。
【請求項16】
分析物を分析するためのMALDIマススペクトロメトリー方法であって、
該分析物を2−メルカプト−4,5−ジメチルチアゾールを含むマトリックス物質と接触させること;
該分析物の少なくとも一部をイオン化すること;そして
飛行時間検出器を用いて該イオン化成分を分離すること
を含む、上記方法。
【請求項17】
2−メルカプト−4,5−ジメチルチアゾールを、MALDIマススペクトロメトリーの為のマトリックス物質として使用する方法。
【請求項18】
式(I)

に従う2−メルカプト−4,5−ジアルキルヘテロアレーン又はその互変異性型を含むマトリックス組成物を、MALDIマススペクトロメトリーの為の気相マトリックスコーティング方法において使用する方法、
ここで、XはN、S又はOであり、且つR及びRは水素、メチル、メトキシ、エトキシ及びプロポキシから独立に選ばれ、又はR及びRは一緒になって、置換されていてもよく、1以上のヘテロ原子を含んでもよい芳香族環構造を形成する。
【請求項19】
該マトリックス組成物がさらに、アルコール、好ましくはハロゲン化アルコールを含む、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−503605(P2011−503605A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533980(P2010−533980)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050721
【国際公開番号】WO2009/064180
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(502015784)ネーデルランドセ オルガニサティエ フォール トエゲパストナトールヴェテンシャッペリク オンデルゾエク ティエヌオー (41)
【Fターム(参考)】