説明

MCM−68のトポロジーを持つ結晶性多孔質シリケート及びその製法

【課題】ゼオライトMCM−68のトポロジーを有し、Alを全く含まない結晶性多孔質シリケート及びその製法を提供する。
【解決手段】MCM−68製造時に用いる鋳型分子及びドライゲル法を改良することにより、ゼオライトMCM−68のトポロジーを有し、Alを含まない結晶性多孔質シリケートを合成した。組成式はRSi112−n232−m8+4n−2m(式中、n=0〜12、m=0〜n、RはN,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウム(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)で表され、下記の値を含むX線回折パターンをもつ結晶性多孔質シリケートである。2θ(単位:度)=6.88±0.10、8.16±0.10、8.84±0.10、9.72±0.10、19.48±0.10、21.82±0.10、22.70±0.10、23.24±0.10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゼオライトMCM−68のトポロジーを有し、Alを全く含まない結晶性多孔質シリケート及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミノシリケートMCM−68は2000年にMobil社により合成された比較的新しいゼオライトである(特許文献1)。このゼオライトは、大細孔(12員環細孔)や中細孔(10員環細孔)が三次元的に交わった構造をもつ。このタイプのゼオライトは一般に広い表面積と大きな内部空間を持つので、石油精製や石油化学プロセスにおける触媒として有用であり、比較的嵩高い有機分子を基質とする触媒として有用と期待されている。MCM−68はSi/Al比が9〜12であることから比較的Al含有量、つまり活性点が多く、さらに安定なため酸触媒として検討され、中でも、炭化水素の吸着能力が高いため、それが関与する反応、例えば芳香族炭化水素のアルキル化やアルキル芳香族炭化水素のトランスアルキル化、異性化、不均化、脱アルキル化などにおいて高い活性を示すため、炭化水素プロセシング触媒の基盤材料として期待されている。
Mobil社によるアルミノシリケートMCM−68の製法は、鋳型(テンプレート)、コロイダルシリカ、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム及び水を混合して得たゲルを、オートクレーブ中で加熱し、得られた結晶を焼成するといういわゆる水熱法であった。
一方、本発明者らは、既に、水熱法でなく、ゲル状に調製した原料混合物を乾燥して粉末状のドライゲルとし、得られたドライゲルを飽和蒸気圧の水蒸気と接触させて反応させるドライゲル法によりアルミノシリケートを合成する方法を開発している(特許文献2)。その他、本発明者らは、各種ゼオライトを前駆体とする水熱合成によるアルミノシリケートの合成法を開発している(特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】特表2002-535227(WO00/43316)
【特許文献2】特許第3322308号
【特許文献3】特開2005-82473
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MCM−68はSi/Al比が9〜12であることから比較的Al含有量、つまり活性点が多く、さらに安定なため酸触媒として検討され、中でも、炭化水素の吸着能力が高いため、それが関与する反応、例えば芳香族炭化水素のアルキル化やアルキル芳香族炭化水素のトランスアルキル化、異性化、不均化、脱アルキル化などにおいて高い活性を示すので、炭化水素プロセシング触媒の基盤材料として期待されている。Si/Al比が∞(全シリカ組成)の場合は、酸触媒としてよりもむしろ環境汚染物質である揮発性有機化合物(VOC)などの吸着剤、脱臭剤などとして有望となる。
ゼオライト合成において、Si/Al比の高い(高シリカな)ゼオライトを得るための第一の戦略は、合成ゲル(出発ゲル)中のSi/Al比を高く設定しておくことである。しかし、MCM-68の合成においては、合成ゲル中のSi/Al比が9〜12の範囲を外れると、MCM-68のトポロジーではなく、別の骨格トポロジーをもつ物質が結晶化するという問題があった。例えば合成ゲルにおいてSi/Al比が∞(全シリカ組成)の時にはZSM-12(MTWトポロジー)のゼオライトが結晶化する。
【0005】
本発明者らは、MCM-68のAlをTiに置き換えたチタノシリケートを合成し、オレフィンのエポキシ化に対して高い性能を示し、Alの残存量が少ないほど高性能であることを見いだしている(特願2006-226279)。しかしながら、このチタノシリケートの製法においては、もともとSi/Al比が9〜12のMCM-68からAlを除去しているため、微量とはいえ痕跡量のAlの残存を避けられない。Alを全く含まないサンプルを得るためには、Alを全く含まない出発ゲルからサンプルを結晶化させる必要がある。ところが、上述のようにMCM-68のトポロジーをもち、Alを全く含まないシリケートを直接結晶化することは困難であり、これまで達成されていなかった。
触媒用途において必要以上のAlは、コーキング(炭素質析出)を誘発する原因となり、好ましくない。Alを全く含まないサンプルは、チタノシリケートの他にも各種高純度メタロシリケート(金属元素を骨格に含むシリケート)の合成のために必須である。
本発明は、ゼオライトMCM−68のトポロジーを有し、Alを全く含まない結晶性多孔質シリケート及びその製法を提供することを目的とする。ゼオライトMCM−68のトポロジーは、後述の表1に示す原子座標と結晶学的パラメーターにより一義的に決まる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、MCM−68製造時に用いる鋳型分子を改変して用い、更に本発明者らが開発したドライゲル法(特許文献2)を改良して、その他のドライゲル形成の条件を最適化することにより、ゼオライトMCM−68のトポロジーを有し、Alを全く含まない結晶性多孔質シリケートを合成することに成功した。本発明の結晶性多孔質シリケートが、原料や製法が全く異なるにもかかわらずMCM−68トポロジーを持つのは、用いた鋳型分子がこのMCM−68トポロジーの形成を強力に促進するからである。この鋳型分子の親/疎水性、サイズ、剛直性、化学的安定性などがMCM−68トポロジーの形成に寄与していると考えられる。
【0007】
即ち、本発明は、組成式RSi112−n232−m8+4n−2m(式中、n=0〜12、m=0〜n、RはN,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウム(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)で表され、下記の値を含むX線回折パターンをもつ合成したままの(as-synthesized)結晶性多孔質シリケートである。
2θ(単位:度)=6.88±0.10、8.16±0.10、8.84±0.10、9.72±0.10、19.48±0.10、21.82±0.10、22.70±0.10、23.24±0.10、ただし、2θ=23.24±0.10のピークの半値幅は0.20度以下である。
また本発明は、組成式Si112−n224−m4n−2m(式中、n=0〜12、m=0〜n)で表され、下記の値を含むX線回折パターンをもつ結晶性多孔質シリケートである。
2θ(単位:度)=6.52±0.10、6.84±0.10、8.12±0.10、8.80±0.10、9.68±0.10、19.44±0.10、21.76±0.10、22.64±0.10、23.16±0.10、ただし、2θ=23.16±0.10のピークの半値幅は0.20度以下である。
【0008】
更に、本発明は、 (1)シリカ源、(2) N,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウムジヒドロキシド(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)、(3)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(4)水との混合物を乾燥して、粉末状のドライゲルとするドライゲル化工程と、得られた該ドライゲルを飽和蒸気圧の水蒸気と接触させた状態で反応させる重合工程とから成る合成したままの(as-synthesized)結晶性多孔質シリケートの製法である。
また本発明は、この製法に、更に、得られた結晶性シリケートに、シリル化剤を加えてオートクレーブ中で加熱するシリル化工程、及びこれを焼成する焼成工程を含む結晶性多孔質シリケートの製法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のAlを全く含まない結晶性多孔質シリケートは、粉末X線回折のピークが鋭く(半値幅が狭い)、結晶性が高いため、熱安定性、水熱安定性が高く、耐久性に優れた材料となりうる。欠損をSi原子で埋めれば、MCM−68トポロジーをもち、なおかつ全シリカ組成をもつシリケートとなる。また、欠損を部分的にSi原子で埋め、残った欠損をさらに他の金属原子で埋めれば、MCM−68の骨格をもつ各種メタロシリケートが得られる。本発明はその基盤材料を与えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の結晶性多孔質シリケートは、Alを含まず、表1に示した原子座標と結晶学的パラメーターで一義的に決まるゼオライトMCM−68のトポロジーを有する。
MCM-68は、12員環及び10員環のチャンネルが三次元的に交わった構造をもつアルミノシリケートである。ユニットセル(単位胞)はSi100.6All11.4O224という組成の正方晶系である。MCM-68構造についてはInternational Zeolite Association Structure Commission (IZA-SC)により三文字コードはまだ与えられていないが、表1に示す原子座標で一義的に決まる骨格トポロジーをもつ。z軸方向にまっすぐな12員環チャンネル(直径0.67 nm)、x軸及びy軸方向に2つのうねった10員環チャンネル(直径0.50-0.55 nm)が存在する。また、10員環を通ることによってのみアクセス可能な空洞(ケージ)(0.65(1.73 nm)を有する(J. Phys. Chem. B, 2006, 110, 2045-2050)。
【0011】
【表1】

注)空間群 P42/mnm (International Union of Crystallography (IUCr)の定めるNo. 136の空間群)格子定数 a (=b) = 18.286(1) A, c = 20.208(2) A
【0012】
このMCM−68は、以下の組成式で表される。
AlSi112−n224
(式中、nは7〜12を表す。)
Si/Alは約8.3〜15である。
また、X線回折データは以下の値を含む。
2θ=6.56±0.10、6.88±0.10、8.16±0.10、8.80±0.10、9.70±0.10、19.50±0.10、21.76±0.10、22.56±0.10、23.10±0.10
【0013】
本発明の結晶性多孔質シリケートは、(1)シリカ、(2) N,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウムジヒドロキシド、及び(3)NaOHと水との混合物を乾燥して、粉末状のドライゲルとするドライゲル化工程、得られた該ドライゲルを飽和蒸気圧の水蒸気と接触させた状態で反応させる重合工程、及び得られた結晶性シリケートに、更に、シリル化剤を加えてオートクレーブ中で加熱するシリル化工程、及びこれを焼成する焼成工程から成る。
以下、各工程を順を追って説明する。
【0014】
(1)ドライゲル化工程:
この工程では、シリカ源を含む原料を混合してドライゲルを用意する。
本発明で用いるシリカ源として、水ガラス、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、シリコンアルコキシド、石英など、好ましくはフュームドシリカが挙げられる。
【0015】
本発明で用いる鋳型(テンプレート)は、下式
【化1】

で表されるN,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウムであり、この化合物は二価陽イオンである。
式中のアルキル基(即ち、R及びR)は、同じであっても異なってもよく、その炭素数は1〜4である。R及びRはそれぞれ、同じであってもよく、また全てのアルキル基(即ち、R及びR)が同じであってもよい。
このアルキル基としては、例えば、CH3-、CH3CH2-、CH3CH2CH2-、(CH3)2CH-、CH3CH2CH2CH2-、(CH3)2CHCH2-、(CH3CH2(CH3)CH-、(CH3)3C-を挙げることができる、
このドライゲル化工程においては、この化合物(鋳型)の水酸化物又はハロゲン化物(ヨウ化物、臭化物、塩化物、フッ化物)、好ましくは水酸化物を用いる。
【0016】
本発明で用いるアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物として、好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、例えば、LiOH、NaOH、KOH、CsOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Sr(OH)又はBa(OH)、好ましくはNaOHが挙げられる。KOHの場合は純度85%以上、その他の場合は95%以上のものを使用し、脱イオン水で5〜50%に希釈して用いるか、又は予め希釈されたものを使用する。
用いる水は高純度の水、例えば、イオン交換水(脱イオン水)が好ましい。
【0017】
以上の各成分を、シリカ100モルに対して、鋳型を10〜50モル、より好ましくは10〜30モル、NaOHを1〜30モル、より好ましくは10〜30モル、水を500〜10000モル、より好ましくは2000〜7000モルの割合で用いる。
これら原料を適宜混合し、撹拌して均一な水性反応原料組成物とした後、乾燥してドライゲルを作る。乾燥は、好ましくは40〜100℃、より好ましくは60〜95℃で加熱して、全体が粉末状のドライゲルになるまで行なう。加熱時間は一般に0.5〜10時間、より好ましくは1〜5時間である。
【0018】
(2)重合工程
この工程では、上記で得られた粉末状のドライゲルを、飽和蒸気圧の水蒸気と接触させた状態で反応させて、結晶性シリケートを合成する。一般的には、100〜200℃、好ましくは150〜180℃に加熱し、3時間〜10日程度、好ましくは20時間〜3日程度反応させると、目的の結晶性多孔質シリケートゼオライトが得られる。粉末状のドライゲルを飽和蒸気圧の水蒸気と接触状態で反応させるには、例えば、密閉型の反応器中に適当な容器に入れたドライゲルを置き、反応器中には水を用意した上で加熱して、飽和蒸気圧の水蒸気雰囲気中で反応させることによって行なうことができる。
【0019】
この工程で得られる合成したままの(as-synthesized)結晶性多孔質シリケートは、以下の組成式で表される。
Si112−n232−m8+4n−2m
式中、nは0〜12、mは0〜nの整数を表し、Rは上記の鋳型の陽イオン部分(R2+)から電荷を除いたものを表す。
また、X線回折データは以下の値を含む。
2θ(単位:度)=6.88±0.10、8.16±0.10、8.84±0.10、9.72±0.10、19.48±0.10、21.82±0.10、22.70±0.10、23.24±0.10、ただし、2θ=23.24±0.10のピークの半値幅は0.20度以下である。
【0020】
(3)シリル化工程
この工程では、得られた結晶性多孔質シリケートゼオライトに、シリル化剤を加えてオートクレーブ中で加熱する。上記で得られた結晶性シリケートには多数のSiの欠損があるため、そのまま焼成するとその欠損のため、結晶を維持することができない(比較例1参照)。そのため、この欠損部をシリカで埋めるために、当該シリル化工程が必要となる。
用いるシリル化剤は、一般式SiZ(式中、Zは、同じであっても異なってもよく、アルコキシ基、アルキル基又はハロゲン原子を表す。)で表される。このシリル化剤として、例えば、メチルトリエトキシシラン(Si(OEt)Me)、メチルトリメトキシシラン(Si(OMe)Me)、メチルクロロシラン(SiClMe)、ジクロロジメチルシラン(SiClMe)、ジエトキシジメチルシラン(Si(OEt)Me)が挙げられ、好ましくはテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン又はテトラクロロシランである。
本工程においては、上記で得られた結晶性シリケートにこのシリル化剤を加えて、オートクレーブ中、120〜200℃で、0.5〜7日間加熱する
【0021】
(4)焼成工程
この結晶性シリケートを、オートクレーブから取り出した後焼成する。この焼成は、通常、マッフル炉又は管状炉を用いて、O:N=0:100〜100:0の雰囲気で、0.1〜100ml/分の流量で1〜12時間流通させて行う。
【0022】
この工程で得られる結晶性多孔質シリケートゼオライトは、以下の組成式で表される。
式Si112−n224−m4n−2m(式中、nは0〜12、mは0〜nの整数を表す。)
また、X線回折データは以下の値を含む。
2θ(単位:度)=6.52±0.10、6.84±0.10、8.12±0.10、8.80±0.10、9.68±0.10、19.44±0.10、21.76±0.10、22.64±0.10、23.16±0.10、ただし、2θ=23.16±0.10のピークの半値幅は0.20度以下である。
この結晶性多孔質シリケートは、上述のMCM−68構造を持ち、上記表1の空間群と原子座標で特定される骨格トポロジーを有する。
【0023】
なお、上記重合工程で得られた合成したままの(as-synthesized)結晶性多孔質シリケートをそのまま焼成すると結晶を維持することができない(比較例1参照)ことからも分るように、合成したままの結晶性多孔質シリケートはゼオライトMCM−68のトポロジーの多数のSiが欠損しているものと考えられる。本発明においては、この欠損部をシリカで埋めるために、上記シリル化工程を行っているが、その条件によっては欠損部の全てを埋めることができない場合もある。従って、本発明で得られる焼成後の結晶性多孔質シリケートは、この欠損部が全て埋まったもの(n=m=0)及びその一部が欠損したもの(0<n≦12, 0<m≦12)も含む。最も欠損が多かった場合(n=m=12)には、欠損がない場合と比較して重量が7.5%減少する。予想される欠損部位は、図1において矢印で示したSiである。ただし、いずれの場合に於ても、本発明の結晶性多孔質シリケートの基本骨格がMCM−68トポロジーであることには変わりがない。
【0024】
このようにして得られた結晶性多孔質シリケートは、MCM-68の骨格をもつ各種メタロシリケートの基盤材料(前駆体)として有用である。また、吸着能力に優れるため、環境汚染物質である揮発性有機化合物(VOC)などの吸着剤、脱臭剤などとして有用性をもつと期待される。
【実施例】
【0025】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
本実施例において、窒素吸着は以下の条件で測定した。
使用装置: 日本ベル社製Belsorp 28SA 全自動吸着測定装置
測定温度: -196℃
空気恒温槽温度:40℃
平衡吸着時間:300秒
サンプル前処理条件:400℃、2時間
またX線回折は以下の条件で測定した。
使用装置 : MAC Science社製MX-Labo粉末X線解析装置
X線源 : CuKα = 1.5405A、印加電圧 : 40 kV、管電流: 20 mA
測定範囲 : 2θ = 2.040〜52.000deg
スキャン速度 : 2.000 deg. / min、サンプリング間隔 : 0.040 deg.
発散スリット: 1.00 deg、散乱スリット: 1.00 deg、受光スリット: 0.30 mm
縦型ゴニオメータ、モノクロメータ使用
測定方法 連続法, 通常法
格子面間隔dはオングストローム単位であり、ピークの相対強度I/I0は、最も強いピークの強度をI0として、それぞれのピークをその百分率で表したものであり、プロフィール適合ルーチン(又は二次導関数アルゴリズム)の使用により導いた。 それらの強度は、ローレンツ効果及び偏光効果について補正は行っていない。
【0026】
製造例1
本合成例では、後記の実施例で用いる鋳型を合成した。
まず、下式で示すようにN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミドを合成した。
【化2】

ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボン酸二無水物(アルドリッチ製)15.7 g (63 mmol)を500 ml二口フラスコに入れ、続いてエチルアミン(関東化学)(70wt% in water) 100 ml (1.26 mol)を加えて室温で2時間攪拌した。ここに蒸留水(46 ml)を加え、その後還流し、70℃で24時間、次いで100℃で20時間攪拌した。放冷後、濃塩酸(11ml)をpHが約2になるまでゆっくり滴下した。これをブフナーロートを用いて吸引濾過し、洗液のpHがほぼ中性になるまで蒸留水(500 ml)で洗浄して得られた固体を40℃で乾燥した。生成物(N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミド)の収量は17.1 g (収率 90%)であった。
【0027】
次に、N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンを合成した。
【化3】

N2雰囲気の1000 ml 二口フラスコに水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4、和光純薬製) 6.2 g (164 mmol)を入れ、続いてテトラヒドロフラン(THF) 300 mlを加えながら還流し、攪拌を開始した。ここに上記で得たジイミド16.0 g (53 mmol)を少しずつ加え、THF (240 ml)で洗い入れた。その後68時間還流下攪拌した。放冷後、過剰のLiAlH4を分解するために、よく撹拌しながら蒸留水(6.2 g)、15wt% NaOH (6.2 g)、蒸留水(18.7 g)を約30分間隔で順次ゆっくり加え、加え終わってから2時間攪拌した。次にグラスフィルター(G3)を用いて吸引濾過後、フィルター上の固形物をTHF (120 mL)でよく洗浄し、濾液と洗液を合わせて減圧濃縮した。得られた油状物質から水分を完全に除去し、油状の生成物(N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジン)を得た。収量は12.1 g (収率 93%)であった。
【0028】
次に、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物を合成した。
【化4】

上記で合成したジピロリジン12.1 g (49 mmol)をエタノール(EtOH) 90 mLに溶解し、攪拌しつつヨウ化エチル(EtI) 17 ml (212 mmol)を滴下ロートより滴下した。滴下終了後、内壁に付着したヨウ化エチルをEtOH (50 ml)とともに反応液に加え、系内を無水状態に保ちつつ157時間還流下攪拌した。放冷後、アセトン100 mlを加え、これをグラスフィルター(G3)で吸引濾過して結晶生成物を得た。この結晶生成物をアセトン約80 mlずつを用いて二度加熱洗浄して放冷後、アセトン(50 mL)及びベンゼン(40 ml)で順次洗浄し、真空乾燥した。生成物(N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物)の収量は19.4 g(収率 71%)であった。
生成物の分析値を以下に示す。
1H NMR(400 MHz, D2O) δ: 1.25 (12H, t, J=7.2Hz, -CH3), 2.82 (8H, s, CH-CH2-N+), 2.89 (2H, s, -CH=CH-), 3.28 (8H, q, J=7.5Hz, CH3-CH2-N+), 3.78 (4H,d, CH-CH-CH2), 6.42 (2H, t, J=3.8 Hz, -CH-CH=)
13C NMR(100 MHz, D2O) δ: 8.14, 8.99, 33.71, 40.59, 53.32, 56.24, 65.05, 134.75
【0029】
次に、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジウムジヒドロキシドを合成した。
【化5】

三角フラスコ中で、製造例1で得たN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(8.83 g, 15.8 mmol)を蒸留水(100 ml)に溶解した。これに、イオン交換樹脂(三菱化学、DIAION, SA10A, OH形)(45 g)と蒸留水(100 ml)を加えて、穏やかに室温で48時間撹拌した。これを濾過し、16.5gまで減圧濃縮し、蒸留水で(28.7 g)に希釈して、N, N, N', N'-テトラエチルビシクロ[2. 2. 2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムジヒドロキシドを得た。0.05 M HClで滴定した結果、濃度(R2+として)0.516 mmol/g、交換率 93.6 %であった。
1H NMR(400 MHz, D2O) δ: 1.21 (12H, t, J=7.3Hz, -CH3), 2.77 (8H, s, CH-CH2-N+), 2.84 (2H, s, -CH=CH-), 3.24 (8H, q, J=7.5Hz, CH3-CH2-N+), 3.73 (4H,d, CH-CH-CH2), 6.37 (2H, t, J=3.8 Hz, -CH-CH=)
13C NMR(100 MHz, D2O) δ: 7.93, 8.81, 33.62, 40.54, 53.17, 56.16, 64.95, 134.61
【0030】
参考例1
本比較例ではMCM-68を合成した。
90 ml フッ素樹脂(PFA)製容器にコロイダルシリカ(デュポン社、LUDOX(登録商標)HS-40、SiO2: 40wt%)を6.01 g (40 mmol)入れ、Al(OH)3 312 mg (4.0 mmol)を溶かして10分間攪拌した。次にKOH(8 mol/l、6.05 mmol/g) 2.48 g (15 mmol)を加え、30分間攪拌し、最後に製造例1で合成した鋳型であるN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物2.23 g (4.0 mmol)を加え3時間攪拌した。調製したゲルを125 mlオートクレーブに移し、160℃のオーブン中で16日間静置した。得られた生成物を遠心分離し、その後80℃オーブン中で乾燥して白色粉末2.55 gを得た。このうち2.46 gをアルミナ製のシャーレに入れ、マッフル炉を用いて空気雰囲気下室温より2℃/minで600℃まで昇温、600℃で5時間保持した。放冷してMCM-68結晶(白色粉末、2.21 g)を得た。Si/Al=12であった。この結晶のX線回折分析結果を後記の表2に示す。
【0031】
実施例1
製造例1で得たN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムジヒドロキシドの水溶液(0.480 mmol/g) 2.08g (1.0mmol)、NaOH (6.32 mmol/g) 238 mg (1.5 mmol)をフッ素樹脂製ジャーに量り取り、30分間撹拌した。これにフュームドシリカ(Cabot製 Cab-O-Sil) 601 mg (10 mmol)を加え、3時間撹拌した。その後80℃で攪拌を続け、ゲルの粘度が上がってきたらフッ素樹脂製の棒で攪拌し、全体がドライゲルになるまでこれを続けた。これにより自然に粉末状のドライゲルが得られた。
次に、この粉末状のドライゲル927 mgをフッ素樹脂製カップ(内径21 mm,高さ26mm)に移し、このフッ素樹脂製カップを水(0.2 g)の入った内容積23 mlのオートクレーブ中に置いた。このオートクレーブを150℃で5日間静置した。生成した固体を濾過装置に移し、イオン交換水で洗浄後室温で乾燥して淡褐色粉末670 mgを得た。
【0032】
次に、上記で得たままの結晶200 mgを内容積23 mlのオートクレーブに入れ、続いて、1 M HNO3 6.0 g、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)(キシダ化学製)30 mgを加え、150℃、48時間、回転下(20 rpm)で処理を行った。その後、サンプルは濾過し、濾過されてくる濾液が中性になるまで蒸留水で洗浄し、80℃のオーブンで乾燥して薄黄色粉末結晶180 mgを得た。得られた結晶10.0 mgをアルミナ製のシャーレに入れ、マッフル炉を用いて空気雰囲気下室温より120℃まで50分間で昇温、120℃で2時間保持し、その後2℃/分で500℃まで昇温、 500℃で3時間保持した。放冷して焼成済み(calcined)サンプルの結晶(白色粉末、9.1 mg)を得た。
【0033】
得られた結晶のX線回折パターンを図2に示す。(1)はドライゲル化後の本発明のシリケート、(2)はMCM-68(参考例1)を示す。(1)と(2)は同等のX線パターンを示している。また、(2)よりも(1)の方が明らかに線幅が狭く、(1)の方が結晶性が高いことを示している。
【0034】
また、得られた結晶のX線回折結果を下表に示す。
ドライゲル化後及びシリル化後ともに、MCM-68(比較例1)と類似のX線回折パターンが得られているが、シリル化後の方がよりMCM-68に近い。
【表2】

【0035】
ドライゲル化後(本発明の結晶性多孔質シリケートのas-synthesizedサンプル)及びMCM-68(比較例1)の結晶の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。いずれのサンプルも直方状の結晶形態(モルフォロジー)を有しているが、比較例1のMCM-68の粒子径は0.1μm以下と非常に小さく、ろ過に困難を伴う場合がある。これに対し、本発明のシリケートは粒子径が0.5〜1μmであり、触媒材料、吸着材料として適度な大きさと形状を持っている。
【0036】
また、それぞれのサンプルを400℃で2時間真空排気し、表面に吸着している水分などを除去した後、サンプルを大気に触れさせること無く自動吸着測定装置に装着し、窒素ガスの吸着を容量法を用いて液体窒素温度(-196℃)で測定した。吸着等温線を図4に示す。(1)は本発明の結晶性多孔質シリケート、(2)はMCM-68(参考例1)を示す。
いずれのサンプルも、相対圧(横軸)が0.2以下の領域で急激な立ち上がりが見られ、両者ともほぼ同等であった。このことから、シリル化によって細孔容積の大きな低下は見られず、シリル化で細孔が塞がっていないことがわかる。
またこの吸着等温線は、本発明の結晶性多孔質シリケート(1)はMCM-68(2)より窒素の吸着量が大きく、優れた吸着剤であることを示している。
【0037】
比較例1
実施例1と同様に、製造例3で得たN, N, N', N'-テトラエチルビシクロ[2. 2. 2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムジヒドロキシド水溶液(0.480 mmol/g)2.08g(1.0mmol)、NaOH(6.32 mmol/g) 238 mg (1.5 mmol)をフッ素樹脂製ジャーに量り取り、30分間撹拌。これにフュームドシリカ(Cabot製 Cab-O-Sil) 601 mg (10 mmol)を加え、3時間撹拌した。その後80℃で攪拌を続け、ゲルの粘土が上がってきたらフッ素樹脂製の棒で攪拌し、全体がドライゲルになるまでこれを続けた。これにより粉末状としたドライゲルを得た。
次にこの粉末状のドライゲルをフッ素樹脂製カップ(内径21 mm,高さ26 mm)に移し、このフッ素樹脂製カップを水(0.2 g)の入った内容積23 mlのオートクレーブ中に置いた。このオートクレーブを150℃で5日間静置した。生成した固体を濾過装置に移し、イオン交換水で洗浄後室温で乾燥して淡褐色粉末670 mgを得た。
次に、上記で得たままの結晶5.0 mgをアルミナ製のシャーレに入れ、マッフル炉を用いて空気雰囲気下で室温から2℃/分で450℃まで昇温し、450℃で2時間保持した。放冷してcalcinedの結晶(白色粉末、3.6 mg)を得た。X線回折分析を行ったが、ピークは得られなかった。結晶が加熱によって崩壊したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の結晶性多孔質シリケートの骨格トポロジーを示す図である。
【図2】本発明の結晶性多孔質シリケートX線回折パターンを示す図である。(1)はドライゲル化後の本発明のシリケート、(2)はMCM-68(参考例1)を示す。個々のピークの強度がサンプルによって異なるのは、結晶の晶癖によって配向性が異なるためと考えられる。
【図3】本発明の結晶性多孔質シリケートの走査型電子顕微鏡写真を示す図である。(1)はドライゲル化後の本発明のシリケート、(2)はMCM-68(参考例1)を示す。背景はサンプルを保持するための銅のメッシュである。
【図4】本発明の結晶性多孔質シリケートの窒素吸着等温線を示す図である。(1)はドライゲル化後の本発明のシリケート、(2)はMCM-68(参考例1)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式RSi112−n232−m8+4n−2m(式中、n=0〜12、m=0〜n、RはN,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウム(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)で表され、下記の値を含むX線回折パターンをもつ合成したままの(as-synthesized)結晶性多孔質シリケート。
2θ(単位:度)=6.88±0.10、8.16±0.10、8.84±0.10、9.72±0.10、19.48±0.10、21.82±0.10、22.70±0.10、23.24±0.10、ただし、2θ=23.24±0.10のピークの半値幅は0.20度以下である。
【請求項2】
(1)シリカ源、(2)N,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウム(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)の水酸化物又はハロゲン化物、(3)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(4)水との混合物を乾燥して、粉末状のドライゲルとするドライゲル化工程と、得られた該ドライゲルを飽和蒸気圧の水蒸気と接触させた状態で反応させる重合工程とから成る製法により得られた請求項1に記載の結晶性多孔質シリケート。
【請求項3】
組成式Si112−n224−m4n−2m(式中、n=0〜12、m=0〜n)で表され、下記の値を含むX線回折パターンをもつ結晶性多孔質シリケート
2θ(単位:度)=6.52±0.10、6.84±0.10、8.12±0.10、8.80±0.10、9.68±0.10、19.44±0.10、21.76±0.10、22.64±0.10、23.16±0.10、ただし、2θ=23.16±0.10のピークの半値幅は0.20度以下である。
【請求項4】
(1)シリカ源、(2) N,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウムジヒドロキシド(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)、(3)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(4)水との混合物を乾燥して、粉末状のドライゲルとするドライゲル化工程、得られた該ドライゲルを飽和蒸気圧の水蒸気と接触させた状態で反応させる重合工程、更に、シリル化剤を加えてオートクレーブ中で加熱するシリル化工程、及びこれを焼成する焼成工程から成る製法により得られた請求項3に記載の結晶性多孔質シリケート。
【請求項5】
前記シリル化剤がテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン又はテトラクロロシランである請求項4に記載の結晶性多孔質シリケート。
【請求項6】
(1)シリカ源、(2) N,N,N',N'−テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3:5,6−ジピロリジニウムジヒドロキシド(但し、アルキル基は、その炭素数が4以下であり、同じであっても異なってもよい。)、(3)アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物、及び(4)水との混合物を乾燥して、粉末状のドライゲルとするドライゲル化工程と、得られた該ドライゲルを飽和蒸気圧の水蒸気と接触させた状態で反応させる重合工程とから成る合成したままの(as-synthesized)結晶性多孔質シリケートの製法。
【請求項7】
請求項6に記載の製法に、更に、得られた結晶性多孔質シリケートに、シリル化剤を加えてオートクレーブ中で加熱するシリル化工程、及びこれを焼成する焼成工程を含む結晶性多孔質シリケートの製法。
【請求項8】
前記シリル化剤がテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン又はテトラクロロシランである請求項7に記載の製法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−63195(P2008−63195A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244056(P2006−244056)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】