説明

MDSとdenovoAMLの鑑別方法

【課題】骨髄異形成症候群(MDS)または白血病化したMDSと真正急性骨髄性白血病(de novo AML)との簡便な鑑別法を提供すること。
【解決手段】フローサイトメトリーにより、検体中のCD45弱陽性芽球について特定の細胞表面抗原の発現を分析することを特徴とする、MDSとde novo AMLの鑑別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes:MDS)または白血病化したMDSと真正(de novo)の急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)との鑑別方法、及び前記方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄異形成症候群(MDS)は、造血幹細胞のクローン性異常による骨髄の機能異常を伴った骨髄異形成と血球減少によって特徴づけられる症候群である。血球減少(貧血、白血球減少、血小板減少等)を示す症例があれば、各血球系の形態異常(異形成)を確認し、骨髄または末梢血における芽球比率によって判断することが出来る。しかし、しばしば芽球比率が増加し、臨床検査では真正の急性骨髄性白血病(de novo AML)と区別がつかない白血病化MDSへと移行する。
【0003】
de novo AML及び白血病化MDSはいずれも、骨髄の造血幹細胞より前駆細胞にかけての未分化なクローン性腫瘍細胞の増殖が起こる白血病である。白血病細胞は正常な前駆細胞としての分化が止まっていたり、異常な分化を示したりする。これらは、腫瘍の増殖速度が速く、週日単位で臨床症状や検査結果等が変化する。そのため、臨床所見からは白血病化MDSかde novo AMLか判別がつかないが、白血病MDSとは異なりde novo AMLは薬剤に対する感受性が高く、速やかな治療が望まれている。
【0004】
MDSは貧血等の症状をきっかけに発見(診断)される場合もあるが、症状に乏しい場合も多く、白血病化の後に初めて発見されることも多い。白血病化の後に初めて発見された場合、それがMDSより移行した白血病化MDSなのか、そうでないde novo AMLなのかを鑑別することは困難であり、現状では患者の過去の医療記録等で原因不明の血球減少等があれば白血病化MDSであろうと推測しているに過ぎない(非特許文献1参照)。
【0005】
最近の疫学調査の結果によれば、MDSの発症頻度は骨髄系腫瘍の中で最多である(非特許文献2参照)。しかしながら、多くの研究にもかかわらず、未だ有用な治療法は確立されておらず、白血病化MDSは治療に不応性のことが多い。一方de novo AMLでは治療に良く反応することが多い。したがって、白血病化MDSであるか、de novo AMLであるかを早期に鑑別することは、その患者の予後推定、治療方針の決定等に重要である。
【0006】
MDSとde novo AMLとの鑑別を行う方法として、MDSに特異的な遺伝子D1kの発現を検出することによる分子診断法(特許文献1参照)が開示されている。しかし、この方法は、遺伝子発現又は発現産物のレベルを指標とし、DNAマイクロアレイや二次元電気泳動を使用する複雑な方法であり、感度も低い。
【0007】
近年、ヒト細胞表面抗原に対する多数のモノクローナル抗体の開発と、これらを用いたフローサイトメトリー(flow cytometry: FCM)により、造血器腫瘍細胞の検出、特に白血病の診断が可能となった。
【0008】
FCMとは、個々に遊離した細胞を蛍光色素で染色した後に細い管を通過させる際、レーザー光線を当ててその細胞から発生する蛍光の強弱及び散乱光等の情報により、細胞の大きさ、相対的なタンパク量、抗原量、DNA量等を測定する方法である。コンピュータを組合わせることにより、細胞の数と蛍光の強弱等の2つのパラメータによるヒストグラム、スキャッターグラム、3つのパラメータによる三次元表示等も行われる。浮遊細胞を測定するため、一度に多数の細胞の解析が可能である。
【0009】
FCMで白血病細胞を分析する場合、白血病細胞が他の細胞とはっきり区別が出来る場合は問題が無いが、他の細胞のサイトグラムとオーバーラップして何処をゲーティングしてよいかわからない場合や、白血病細胞の数が減少している場合等は、白血球共通抗原であるCD45抗原の発現が弱いという特徴を利用した、CD45−SSCパラメータードットプロットを用いたゲート設定法(CD45blast gating法)が普及してきている。CD45blast gating法は、CD45抗原が弱発現である分化レベルの未熟な急性白血病細胞と、CD45抗原が強発現である正常成熟細胞とを明確に分離することができるため、精度の高い白血病細胞表面抗原解析を行うことができる(非特許文献3参照)が、このときCD45抗原に注目したのは、あくまでも白血病細胞を特定するために過ぎなかった。
【0010】
さらに、CD45以外の細胞表面抗原の発現パターンによって白血病細胞を検出する方法(特許文献2参照)も報告されている。
【0011】
また発明者等は、MDSに特徴的なCD45陰性造血幹細胞(CD45陰性芽球)の存在に注目し、骨髄異形成症候群の検出を行ってきていた(特許文献3、4参照)。しかし、確実な検出のためには、骨髄芽球を混入細胞と区別して検出しなければならず、さらに、CD45陰性の骨髄芽球集団とCD45陽性の骨髄芽球集団におけるCD13とCD33の発現量の比較を行う工程が必須であり、さまざまな抗体を用いて、且つ多数の手順を必要とし、臨床現場で実際使用できる方法ではなかった。
【特許文献1】特開2001−269174号公報
【特許文献2】特開2000−241427号
【特許文献3】特開2005−221323号
【特許文献4】特開2006−42665号
【非特許文献1】Smith MT, Linet MS, Morgan GJ. Causative agents in the etiology of myelodysplastic syndromes and the acute myeloid leukemias. In "The Myelodysplastic Syndromes: Pathobiology and Clinical Management" edited by Bennett JM.Publisher: Marcel Dekker, Inc., 2002 pp29-63
【非特許文献2】Aul C, Giagounidis A, Germing U. Epidemiological features ofmyelodysplastic syndromes: results from regional cancer serveys and hospital-based statistics. Int J Hematol. 2001; 73(4): 405-10
【非特許文献3】Borowitzら, Am. J. Clin. Pathol 100, 534-540, 1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、MDSとde novo AMLの簡便な鑑別法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上述のCD45blast gating法におけるblast gate内の細胞集団の発現する細胞表面抗原を分析することにより、MDS(白血病化MDSを含む)とde novo AMLを鑑別できることを見出した。
【0014】
CD45blast gating法は、現在すでに白血病細胞の特定のために臨床の現場で使用されており、blast gate内の細胞集団はCD45弱陽性の芽球として抽出されるものである。今回、本発明者らは、このCD45弱陽性の芽球の発現する抗原に着目することにより、最多でも僅か3種類の抗体を用いてフローサイトメトリー(FCM)による解析を行うだけでMDSとde novo AMLを鑑別できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)フローサイトメトリーにより、検体中のCD45弱陽性芽球について特定の細胞表面抗原の発現を分析することを特徴とする、MDSとde novo AMLの鑑別方法。
(2)検体が、MDSまたはde novo AMLに罹患していることが疑われる患者の末梢血又は骨髄液である、(1)に記載の方法。
(3)細胞表面抗原が、CD80および/またはCD49dである、(1)または(2)に記載の方法。
(4)CD80が陽性であるか否かを判定する(3)に記載の方法。
(5)CD49dが陰性であるか否かを判定する(3)に記載の方法。
(6)CD80が陰性でありかつCD49dが陽性であるか否かを判定する(3)に記載の方法。
(7)以下の(ア)から(ウ)の工程を含む、MDSとde novo AMLとの鑑別法:
(ア)CD45弱陽性芽球を抽出する工程
(イ)CD45弱陽性芽球中の特定の細胞表面抗原の発現を分析する工程
(ウ)特定の細胞表面抗原の発現率によりMDSとde novo AMLとを鑑別する工程。
(8)以下の(ア)から(エ)の工程を含む、MDSとde novo AMLとの鑑別法:
(ア)CD45弱陽性芽球を抽出する工程
(イ)CD45弱陽性芽球中のCD80の発現を判定する工程
(ウ)CD45弱陽性芽球中のCD49dの発現を判定する工程
(エ)上記(イ)においてCD80陽性であるか、又は(ウ)においてCD49d陰性であれば、de novo AMLではなくMDSであると鑑別する工程。
(9)抗CD45抗体、抗CD80抗体及び抗CD49d抗体を含む、MDSとde novo AMLの鑑別用キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、白血病化MDSを含むMDSとde novo AMLとの鑑別を速やかに行うことができる。白血病化MDSとde novo AMLとでは治療方針が異なるため、白血病の患者において両者の鑑別が速やかに行えれば、患者の予後推定、治療方針の決定等に非常に重要である。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
MDSは、造血幹細胞のクローン性異常による骨髄の機能異常を伴った骨髄異形成と血球減少(貧血、白血球減少、血小板減少等)によって特徴づけられる症候群である。一方、de novo AMLは真正の急性骨髄性白血病である。MDSの病初期には芽球は少ないが、後に芽球が増加を始め白血病様となり、臨床所見では急性骨髄性白血病と区別がつかない状態へと移行する。本発明においては、この状態を白血病化MDSと称する。また、単にMDSという場合、白血病化MDSを含むこともある。
【0019】
本発明では、細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリー(FCM)により、試料中の芽球(MDSではMDS芽球、AMLでは白血病細胞)の細胞表面抗原を分析することにより、MDSとde novo AMLを鑑別することができる。本発明によるMDSとde novo AMLの鑑別に用いられる試料として好適なものは、、MDS(白血病化MDSを含む)あるいはde novo AMLのいずれかに罹患しているが、そのいずれに罹患しているのかは不明の状態である(MDSまたはde novo AMLに罹患していることが疑われる)患者から採取した検体であって芽球に富むもの、例えば、末梢血もしくは骨髄穿刺液等が挙げられる。
【0020】
骨髄穿刺液、または末梢血の採取方法としては、患者への侵襲度の低い方法であればいかなる方法でも良い。例えば骨髄穿刺液の場合、局所麻酔の後、背中側の腸骨(骨盤骨)から骨盤穿刺針を用いて注射器で吸引する等、一般的な方法が用いられる。
【0021】
検体採取時にはヘパリン等の抗凝固剤を加え、採取後速やかに用いることが好ましい。
【0022】
しかし、末梢血はそのまま、骨髄穿刺液は10%FCS加RPMI−1640に浮遊させ、4℃以下にて24時間まで保存しておくことができる。また、4〜−80℃、好ましくは−20℃から−70℃の低温条件下で24時間以上保存しておくこともできる。保存に際しては、変性等を抑制するような保存剤や、腐敗を防止するための防腐剤等を必要に応じて添加しても良い。
【0023】
採取した検体はそのまま用いることもできるが、検体中の芽球比率が低い場合には、適切な試薬を用いて芽球比率を高めてから、解析に用いることができる。芽球比率を高めるための適当な試薬としては、例えば、本願発明者らが開発した芽球精製法に基づき商品化されたBlastretriever(登録商標)試薬(日本抗体研究所、高崎)等が挙げられる。検体中の芽球比率はサイトスピン標本を顕微鏡下に観察する等の方法によって測定することができる。芽球比率が低いとは、検体中の芽球の比率が一定以下、例えば全血球に対して芽球が30%以下であることをいう。芽球比率が一定以上ある検体について、定法により、混入赤血球の溶血作業をおこなう。
【0024】
上記検体を用いて、FCMで、芽球の細胞表面抗原の発現を分析することにより、MDSとde novo AMLの鑑別を行う。具体的には、調製した検体を適当な蛍光標識を付けた抗CD45抗体及び他の1種又は2種のヒト造血系細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体で染色後、FCMで解析を行う。
【0025】
FCMの操作方法は公知の方法(例えば、野村和弘ら編「フローサイトメトリー〜手技と実際〜」1984年,蟹書房、河本圭司ら編「フローサイトメトリー入門」1989年,医学書院、河本圭司ら編「応用サイトメトリー」2000年,医学書院)に準じて行うことができる。また、FCMで用いる蛍光標識には、FITC(Fluorescein isothiocyanate)やPE(phycoerythrin)、APC(Allophycocyanin)、PerCP(peridin chlorophyll)、ECD(phycoerythrin-Texas Red)、PC5(phycoerythrin-cyanin5.1)、PC7(phycoerythrin-cyanin7)等一般的に市販されている蛍光標識を用いることが出来、これらの組み合わせは自由に行うことができる。また、本発明に使用するモノクローナル抗体の詳しい作製方法については公知の方法(例えば、富山朔二ら編「単クローン抗体実験マニュアル」1987年,講談社、右田俊介ら翻訳「免疫化学実験法」1992年,西村書店)に準じて行うか、あるいは市販のものを用いることもできる。
【0026】
FCM解析の具体的な手順としては、まず、白血病細胞をCD45blast gating法におけるblast gate内の細胞集団(芽球)として抽出する。blast gate内の細胞集団は、CD45弱陽性、すなわち白血病共通抗原であるCD45抗原の発現量が少なく、且つSSC(side scatter:側方散乱)が比較的低い細胞(芽球)の集団として同定される。本発明においては、blast gate内の細胞集団をCD45弱陽性芽球と称する。CD45blast gating法は、前述の通り、現在すでに白血病細胞の特定のために臨床の現場で繁用されているため、当業者であれば、適宜実施することができる(非特許文献3:Borowitzら, Am. J. Clin. Pathol 100, 534-540, 1993)。
【0027】
de novo AML患者から採取した検体におけるCD45弱陽性芽球のゲーティング例を図1に、MDS患者から採取した検体におけるCD45弱陽性芽球のゲーティング例を図3に示す。まず側方散乱(side scatter:SSC)と前方散乱(forward scatter:FSC)で展開したドットプロット(サイトグラム)において、血小板や破砕細胞等を除外した所謂生細胞にゲートをかける。これは、解析対象の細胞を囲む最初の操作(ゲーティング)である。この細胞集団が図1左及び図3左のドットプロットにおいてR1と表示されたクラスターである。次に、R1に含まれる細胞を、PerCP標識CD45抗体(CD45-PerCP)とSSCで展開した際に検出される、SSCが比較的低くかつCD45弱陽性(CD45±)の細胞集団がCD45弱陽性芽球であり、図1右及び図3右のドットプロットにおいてR2と表示されたクラスター(blast gate)に該当する。FCMで得た情報からR1およびR2を満たす情報をコンピューター上で抽出し解析することにより、CD45弱陽性の骨髄芽球集団(CD45弱陽性芽球)を抽出できる。
【0028】
次に、CD45弱陽性芽球について、1種又は2種の特定のヒト造血系細胞表面抗原の発現を分析する。細胞表面抗原としては、CD80、CD49d、CD86、B7−H1及びB7−H2から選択される1種または2種の抗原の発現を分析する。好ましくはCD80とCD49dのいずれか一方又は両方について分析し、陰性又は陽性の判定を行う。
【0029】
細胞表面抗原の発現は、CD45弱陽性芽球の集団をFCMに流し、横軸に蛍光強度、縦軸に細胞数を取ってヒストグラム解析を行うことにより分析する。発現が陰性のピークが左側に、陽性のピークがより右側に出現する。FITC−conjugated IgGをコントロール(特定の細胞表面抗原に対する陰性コントロール抗体)とし、これと比較して検体のヒストグラム曲線が右側に位置していれば、陽性芽球が存在するということである。例えば、図2右のヒストグラムはde novo AMLの一症例をCD49dで解析した図であり、M1と記載している部分が陽性部分である。このように、ある細胞表面抗原についてのヒストグラムにおいて陽性芽球が認められる場合、当該抗原の発現が高度である、すなわち、陽性と判定することができる。陽性芽球の存在が認められない場合、または当該抗原の発現が低値である場合、陰性と判定することができる。
【0030】
あるいは、ヒストグラム解析の結果は、特定の抗原の発現率として、より定量的に表現してもよい。まず、
コントロールで少なくとも95%以上、より好ましくは97%以上の細胞がおさまる蛍光強度を陰性とし、基準線を設定する。この基準線より右側に位置する細胞の細胞数の比率を陽性率と定義して、数値(%)で表すことができる。陽性および陰性の%は施設や使用抗体等の実験条件により多少の変動が予想されるが、一般的なフローサイトメトリーを行う際の判定基準に従って行うことができる。
【0031】
細胞表面抗原として、CD80及びCD49dについて分析する場合、MDSとde novo AMLの鑑別は次の表1に示された基準に従う。
【0032】
【表1】

【0033】
すなわち、CD80が陽性であれば、MDS/AL(白血病化MDS)又はMDSである。あるいは、CD49dが陰性であれば、MDS/AL又はMDSである。このように、CD45弱陽性芽球集団について1種類の細胞表面抗原の発現を分析するだけで鑑別可能である。CD80が陰性である場合またはCD40dが陽性である場合は、CD80とCD49dの両方について判定することにより、確実に鑑別することができる。例えば、CD80が陰性であってもCD49dが陰性であればMDS/AL又はMDSである。しかし、CD80陰性かつCD49d陽性の場合は判定不能である。以上より、de novo AMLと白血病化MDSの鑑別を行うことができる。
【0034】
CD80陽性の定義として、BD PharMingen社(San Diego, CA, USA)の抗体を用いた本発明者らの検討ではCD80陽性率が5%以上の場合MDS(白血病化MDSを含む)と判定した。すなわち、CD80陽性率が5%以上の場合、上記の表でCD80陽性(+)となる。この%は使用抗体や使用機器などの実験条件で若干の変動が予想され、各実験施設において定義を行うことが出来る。
【0035】
また、CD49d陰性の定義として、BD PharMingen社の抗体を用いた本発明者らの検討ではCD49d陽性率が35%以下の場合MDS(白血病化MDSを含む)と判定できた。すなわち、CD49d陽性率が35%以下の場合、上記の表でCD49d陰性となる。もしくは、CD49dの発現率が、de novo AMLの検体に比べて低下している場合は、CD49d陰性と判断することも可能である。この%は使用抗体や使用機器などの実験条件で若干の変動が予想され、各実験施設において定義を行うことが出来る。
【0036】
本発明はさらに、蛍光標識された特定の抗体を含む、MDS又は白血病化MDSとde novo AMLの鑑別用キットを提供する。抗体としては、上述のように、CD45、CD80、CD49d、CD86、B7−H1及びB7−H2等のヒト造血系細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体を用いることができる。
【0037】
以下本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に何等限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
1.検体の採取
検体としては、ヒトの骨髄液または末梢血を用いた。これらの検体は、MDSまたはde novo AMLが疑われる患者に採取及び研究目的の使用について充分に説明を行い、同意を得られたあとに用いた。検体採取の際には抗凝固剤としてヘパリンを添加した。
2.検体の調製
末梢血はそのまま使用し、骨髄液(骨髄穿刺液)は10%FCS添加RPMI-1640で2〜3倍に希釈した。このとき、検体中の芽球比率が低い場合は、骨髄単核球を分離するFicoll-Hypaque 試薬 (Sigma)を用いるか、あるいは、Blastretriever(前述、登録商標)試薬を用いて芽球比率を高めた。
【0039】
Blastretriever(登録商標)試薬を用いて芽球比率を高める方法は、試薬の使用説明書に準じて行う。すなわち、ガラス試験管にBlastretriever(登録商標)試薬を入れ、ヘパリン加末梢血あるいは3〜5倍に希釈したヘパリン加骨髄穿刺液を重層し、これを10分間(550xg、室温)遠心分離し、中間層に残った細胞を回収した。
3.染色及び測定
検体を溶血剤(NH4Cl 8.26g、KHCO3 1.00g、EDTA?4NA/LWD 0.04g)を用いて室温にて5分間インキュベーションを行い、混入赤血球の溶血操作を行った後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS:0.1%BSA、0.1%アジ化ナトリウム)にて細胞濃度を1×106/mlに調製した。調製した検体を100μlずつFCM用チューブに分注し、以下の蛍光標識抗体で染色後、十分細胞を洗浄し余分な抗体を除去したのち、FCMでデータを収集した。
【0040】
この実験例では、peridin chlorophyll (PerCP)で標識した抗CD45抗体(Becton Dickinson, San Jose, CA)、fluorescein isothiocyanate(FITC)標識CD80抗体、あるいは、CD49d抗体で染色した。
【0041】
FCMによる測定は、FACScan(Becton Dickinson)を用いて定法に従って解析した。本実験例では、PerCP/FITCについて2カラー分析を行った。(あるいは、標識としてさらに例えばPEを使用して3カラーで解析すれば一度に解析可能である。)
4.フローサイトメトリーによるCD45弱陽性芽球のCD80陽性あるいはCD49d発現低下によるde novo AMLと白血病化MDSの鑑別
次に、収集したFCMデータをCD45発現とSSCで展開し、CD45弱陽性でSCCは比較的低いところにクラスターをつくる細胞集団である骨髄芽球の細胞集団(CD45弱陽性芽球)を確認し(CD45 blast gate法)、その細胞集団のCD80、CD49dの測定を行った。ヒストグラムで解析し、FITC-conjugated IgGをコントロールとし(図2、4:ヒストグラム細線)、それぞれの抗体で染色したもの(図2、4:ヒストグラム太線)と比較し陽性部分(M1)の陽性率を解析する。
【0042】
CD80が陽性であれば、MDS/AL(白血病化MDS)又はMDSである。また、CD80が陰性であっても、CD49dが陰性であれば、MDS/AL又はMDSである。以上より、de novo AMLと白血病化MDSの鑑別を行うことができる。
5.フローサイトメトリーにより、MDSとde novo AMLを鑑別した結果
実際の症例において解析した例を図1〜図4に示す。
【0043】
図1及び図2はde novo AMLの1症例のFCMパターンである。
【0044】
図1は、R1をCD45とSSCで展開した図であり、CD45陽性SCC低値の部分(CD45 blast gating法によるCD45弱陽性:R2)に細胞集団(芽球)を認め、これらにつき解析を行ったものが図2である。図2左はblast gateをCD80でヒストグラム解析した図であり、コントロールが細線であり、検体は太線で示す。M1は陽性部分を示すが、この症例ではM1部分に細胞がないのでCD80陰性であった。図2右はblast gateをCD49dでヒストグラム解析した図であり、コントロールが細線であり、検体は太線で示す。この症例ではM1部分にCD49d陽性細胞が多数認められる。つまり、de novo AMLにおけるCD45陽性骨髄芽球の抗原解析では、CD80陽性細胞は認めず(陰性)、CD49d発現は高度(陽性)であった。
【0045】
図3及び図4はMDSの1症例のFCMパターンである。
【0046】
図3が、図1と同様にR1をCD45とSSCで展開した図であり、CD45陽性SCC低値の部分(R2)にCD45弱陽性芽球集団を認め、これらにつき解析を行った。図4左はblast gateをCD80でヒストグラム解析した図であり、コントロールが細線であり、検体は太線で示す。この症例ではM1部分にCD80陽性細胞が多数認められ、CD80陽性であった。図4右はblast gateをCD49dでヒストグラム解析した図であり、コントロールが細線であり、検体は太線で示す。この症例ではM1部分にCD49d陽性細胞はあるが、その陽性率はかなり低く、陰性であった。つまり、MDSにおけるCD45陽性骨髄芽球の抗原解析では、de novo AMLとは異なり、CD80陽性細胞を認め、CD49d発現は低値(陰性)であった。
【0047】
表2は従来の確定診断方法でde novo AML、MDS/AL、MDSと診断されているサンプルを用いて、同様にFCMパターンを展開し、CD45弱陽性芽球のCD80、CD49dの抗原解析を行った結果である。CD80陽性あるいはCD49d陰性のどちらを満たせばMDS/AL型である。
【0048】
【表2】

【0049】
簡単に表の解説を行う。
【0050】
従来の方法でde novo AML、MDS/AL、MDSと診断された症例について、それぞれCD80抗原解析を行った総症例のうち、MDS/AL型症例と判断された数を「CD80解析例」に示した(MDS/AL型症例数/解析症例数)。
【0051】
同様にCD49d抗原解析を行った総症例数のうち、MDS/AL型症例と判断された数を「CD49d」解析例に示した。
【0052】
また、「本発明での診断」と記載した部分には、本発明の方法であるCD80またはCD49dいずれか、もしくは両方で診断した数を記載しており、CD80とCD49d解析例の合計を記載しているものではない。
【0053】
結果
1. 従来方法でde novo AMLと診断された症例
CD80を測定した37例中、CD80陽性細胞が認められたものはなかったため、MDS/AL型は1例もないと判断した。
【0054】
CD49dを測定した14例中、全てCD49dの発現が高度であったため、MDS/AL型は1例もないと判断した。
【0055】
de novo AML37症例中、CD80あるいはCD49dのどちらかの測定でMDS/AL型ではないと37症例(100%)判断できた。
【0056】
2. 従来方法でMDS/ALと診断された症例
CD80を測定した19例中、CD80陽性の7例について、CD80測定のみでMDS/AL型であると判断した。
【0057】
CD49dを測定した15例中、CD49dの発現が低値(陰性)の4例について、CD49d測定のみでMDS/AL型であると判断した。
【0058】
MDS/AL 27症例中、CD80あるいはCD49dのどちらかで診断できたMDS/AL型は11症例(40.7%)であった。
【0059】
3. 従来方法でMDSと診断された症例
CD80を測定した14例中、CD80陽性細胞を認めた6例について、CD80測定のみでMDS/AL型であると判断した。
【0060】
CD49dを測定した16例中、CD49dの発現が低値(陰性)であった4例について、CD49d測定のみでMDS/AL型であると判断した。
【0061】
MDS17症例中、CD80あるいはCD49dのどちらかで診断できたMDS/AL型は9症例(52.9%)であった。
【0062】
CD80とCD49dの両者を測定した13例中、8例(61.5%)でMDS/AL型であった。
【0063】
以上の結果から、本法でde novo AMLを誤ってMDS/ALと診断する確率は0%であり、MDS/ALの約40%以上で正確に診断できた。また、MDSに関しても約60%以上で正確に診断できた。この確率は、臨床検査として十分用い得る数値である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により、白血病の患者において簡便にMDSとde novo AMLを鑑別することができる。白血病化MDSは治療に不応性であるが、de novo AMLでは治療に良く反応するため、この両者を鑑別することは患者の予後推定、治療方針の決定等に重要である。本発明の鑑別方法を用いることにより、診断の初期に白血病化MDSとde novo AMLを鑑別し、適切な治療戦略の構築が可能となる。また、本発明の鑑別方法をその他の診断方法と組み合わせて用いると鑑別をさらに確実なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】de novo AMLの一症例のサイトグラム:左はFSCとSSCで展開したサイトグラム(ドットプロット)であり、右の図はR1をCD45とSSCで展開したものである。
【図2】図1で抽出されたCD45弱陽性の芽球の集団(R2、blast gate)についての抗原ヒストグラム解析:左はCD80で解析した図であり、右はCD49dで解析した図である。
【図3】MDSの一症例のサイトグラム:左はFSCとSSCで展開したサイトグラム(ドットプロット)であり、右の図はR1をCD45とSSCで展開したものである。
【図4】図3で抽出されたCD45弱陽性の芽球の集団(R2、blast gate)についての抗原ヒストグラム解析:左はCD80で解析した図であり、右はCD49dで解析した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローサイトメトリーにより、検体中のCD45弱陽性芽球について特定の細胞表面抗原の発現を分析することを特徴とする、MDSとde novo AMLの鑑別方法。
【請求項2】
検体が、MDSまたはde novo AMLに罹患していることが疑われる患者の末梢血又は骨髄液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞表面抗原が、CD80および/またはCD49dである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
CD80が陽性であるか否かを判定する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
CD49dが陰性であるか否かを判定する請求項3に記載の方法。
【請求項6】
CD80が陰性でありかつCD49dが陽性であるか否かを判定する請求項3に記載の方法。
【請求項7】
以下の(ア)から(ウ)の工程を含む、MDSとde novo AMLとの鑑別法:
(ア)CD45弱陽性芽球を抽出する工程
(イ)CD45弱陽性芽球中の特定の細胞表面抗原の発現を分析する工程
(ウ)特定の細胞表面抗原の発現率によりMDSとde novo AMLとを鑑別する工程。
【請求項8】
以下の(ア)から(エ)の工程を含む、MDSとde novo AMLとの鑑別法:
(ア)CD45弱陽性芽球を抽出する工程
(イ)CD45弱陽性芽球中のCD80の発現を判定する工程
(ウ)CD45弱陽性芽球中のCD49dの発現を判定する工程
(エ)上記(イ)においてCD80陽性であるか、又は(ウ)においてCD49d陰性であれば、de novo AMLではなくMDSであると鑑別する工程。
【請求項9】
抗CD45抗体、抗CD80抗体及び抗CD49d抗体を含む、MDSとde novo AMLの鑑別用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−51711(P2008−51711A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229584(P2006−229584)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【Fターム(参考)】