説明

MFI型構造を有するゼオライト、及びその製造方法

【課題】
本発明の目的は、強酸点の起因となるAl、弱酸点となるネストシラノールの量を精密に制御したMFI型構造を有するゼオライト、及びその製造方法を提供することにある。
具体的には、SiO/Alモル比が5,000〜100,000であり、赤外線分光スペクトルでの3,500±50cm−1のピークの面積が2〜70KM・cm−1であるMFI型構造を有するゼオライト、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
SiO/Alモル比が5,000〜100,000であり、赤外線分光スペクトルでの3,500±50cm−1のピークの面積が2〜70KM・cm−1であるMFI型構造を有するゼオライト、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強酸点と弱酸点との割合が制御されたMFI型構造を有するゼオライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MFI型構造を有するゼオライトは、国際ゼオライト協会規定の構造コードMFIで表されるゼオライトであり、酸触媒として広く使用されている。MFI型構造を有するゼオライトを酸触媒として使用する際は、用途に応じて酸性質を制御することが必要である。
【0003】
MFI型構造を有するゼオライトは、酸強度の異なる複数の酸点を有する。例えば、酸強度の強い強酸点として、骨格Alに起因するブレンステッド酸点及び骨格外Alに起因するルイス酸点がある。一方、酸強度が弱い弱酸点としては、赤外線分光スペクトルにおいて3500cm−1のピークとして確認され、骨格Tサイトの欠損により4個のシラノールが隣接したネストシラノールがある(非特許文献1、非特許文献4)。これらの酸点の量を制御することで、酸性質を制御することができる。
【0004】
酸性質が制御されたゼオライトとして、強酸点の量を制御したMFI型構造を有するゼオライトが報告されている(特許文献1、非特許文献2)。例えば、非特許文献2では、Alが3重量ppm以下のMFI型構造を有するゼオライトが報告されている。当該ゼオライトは、テトラエチルオルトシリケート(以下、「TEOS」とする)を使用して製造され、Alがゼオライトに実質的に含まれなくなることで強酸点が少ないゼオライトとなる。また、ゼオライト中のAlを160ppmと通常よりもAlを少なくすることで強酸点を減らしたMFI構造を有するゼオライトが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
一方、弱酸点の量を制御することによる酸性質の制御も報告されている(非特許文献3)。非特許文献3では、ネストシラノールが制御されたSiO/Alが70のZSM−5が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−57483号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chemical Reviews,95,p.615(1995)
【非特許文献2】Zeolites,14,p.557(1994)
【非特許文献3】第11回ゼオライト研究発表会講演予稿集,p.118(1995)
【非特許文献4】Journal of catalyst,vol.186,p.12(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで報告されている、強酸点の量を低減したMFI型構造を有するゼオライトはAlが極端に少ない若しくは実質的に存在していなかった。そのため、Alを実質的に含まないTEOSなどのような高価な原材料を用いる必要があり、工業的に不利であった。
【0009】
一方、ネストシラノールの量を制御したMFI型構造を有するゼオライトのSiO/Alモル比が70程度であり、強酸点が多かった。そのため、主反応が弱酸点で生じる反応用触媒としての使用ができなかった。
【0010】
このように、強酸点又は弱酸点のいずれかが制御された従来のMFI型構造を有するゼオライトでは、主反応が弱酸点で生じる反応用の酸触媒として優れた触媒活性を有するものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記の課題に鑑み、MFI型構造を有するゼオライトについて鋭意検討を重ねた。その結果、強酸点及び弱酸点が制御され、なおかつ主反応が弱酸点で生じる反応用の、酸触媒として適したSiO/Alを有したMFI型構造を有するゼオライトを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明はSiO/Alモル比が5,000〜100,000であり、赤外線分光スペクトルでの3,500±50cm−1のピークの面積が2〜70KM・cm−1であるMFI型構造を有するゼオライトである。
【0013】
以下、本発明のMFI型構造を有するゼオライトについて説明する。
【0014】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、SiO/Alモル比が5,000〜100,000である。SiO/Alモル比が5,000より小さいと、強酸点の起因となるAlが多くなる。そのため、弱酸点を多数必要とする反応の触媒として用いた場合において、副反応が進行し、目的とする化合物の選択性が低くなる。一方、SiO/Alが100,000より大きいと、強酸点の起因となるAlを必要以上に少なくするために、原材料にTEOS等の高価な原材料を使用する必要があり、工業的に不利である。一方、SiO/Alモル比は10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましい。また、SiO/Alモル比の上限は、余り大きすぎると、高価な原材料を使用する必要があるため、SiO/Alモル比は80,000以下であることが好ましく、60,000以下であることがより好ましい。
【0015】
ここで、本発明SiO/Alモル比は、ゼオライト全体の平均値、いわゆるバルク組成のSiO/Alモル比である。バルク組成のSiO/Alモル比は、ゼオライトを酸に溶解させ、そのSiO/Alモル比を測定することで求めることができる。そのため、対象とするゼオライトが組成に傾斜を持つゼオライト、もしくは、表面部と中心部との組成が異なるゼオライトなどの不均一な組成のゼオライトであっても、これらを酸で溶解した際のSiO/Alモル比を測定することでバルク組成のSiO/Alモル比を求めることができる。
【0016】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、赤外線分光スペクトルでの3,500±50cm−1のピークの面積(以下、「IRピーク面積」とする)が2〜70KM・cm−1である。
【0017】
IRピーク面積は、バックグラウンドを適宜引いた後の積分強度として算出することができる。また、ピークをガウシアン分布などと仮定して、波形処理により積分強度を算出することも例示できる。
【0018】
このIRピーク面積はネストシラノール量の指標となり、IRピーク面積が大きいほどネストシラノールが多いことを示す。このネストシラノール量は、弱酸点の量と対応し、IRピーク面積が大きくなると、弱酸点が大きくなり、酸触媒として使用した際の触媒活性のみならず、反応生成物の選択性も高くなる。
【0019】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、IRピーク面積が2〜70KM・cm−1である。IRピーク面積が2KM・cm−1より小さいと、ネストシラノール量が少なく、弱酸点が少なくなる。そのため、酸触媒として使用した際の触媒活性のみならず、反応生成物の選択性も低くなる。また、IRピーク面積が70KM・cm−1より大きいと結晶の構造維持力が弱い。そのため、コーキング失活したときに行うデコーキング操作の際において、結晶構造の破壊を引き起こす。
【0020】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、有機構造指向剤(以下、「有機SDA」とする)を含んでいても、含まなくてもよい。
【0021】
一般的に、MFI型構造を有するゼオライトは、例えばテトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアミン、ジプロピルアミン又はプロピルアミン、及びこれらの混合物など、有機SDAを使用して製造される。そのため、MFI型構造を有するゼオライトは、その構造中に有機SDAが含む場合がある。本発明のMFI型構造を有するゼオライトにおいては、当該ゼオライトが有機SDAを含んだ状態のIRピーク面積を制御することで、有機SDAを含んだ状態におけるネストシラノールの量が制御される。これにより、有機SDA除去後やアルカリ等による後処理の後の状態、つまり、本発明のFMI型構造を有するゼオライトを酸触媒として用いる状態でのネストシラノールの量を制御できる。
【0022】
なお、本発明のMFI型構造を有するゼオライトが有機SDAを含む場合、ゼオライト中のシリカに対する、ゼオライト中の有機SDAがモル比で、有機SDA/Si≧0.03となる。
【0023】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトが有機SDAを含む場合、IRピーク面積は、2〜15KM・cm−1であることが好ましく、3〜12KM・cm−1であることがより好ましく、4〜10KM・cm−1であることが更に好ましい。IRピーク面積が2KM・cm−1より小さいと、有機SDAを除去した場合のネストシラノール量が少なすぎ、酸触媒として使用できる弱酸点が少なくなりすぎる。また、IRピーク面積が15KM・cm−1以下であることで、有機SDAを除去した場合のネストシラノール量が適度な量となり好ましい。
【0024】
また、本発明のMFI構造を有するゼオライトのIRピーク面積は熱処理により大きくなりやすい。そのため、本発明のMFI型構造を有するゼオライトを熱処理により有機SDAを除去した場合のIRピーク面積は15〜70KM・cm−1であることが好ましく、17〜60KM・cm−1であることがより好ましく、20〜50KM・cm−1であることが更に好ましい。
【0025】
なお、IRピーク面積の測定は、MFI型構造を有するゼオライトの吸着水や付着水を除去してから行う。吸着水や付着水の除去条件としては、真空下または窒素などの不活性ガス流通下で、処理温度150℃〜500℃、処理時間0.1時間〜100時間を例示できる。なお、本発明のMFI型構造を有するゼオライトが有機SDAを含む場合、処理温度は当該ゼオライト中の有機SDAが分解又は燃焼しない温度とすることが好ましく、処理温度は300℃以下とすることがより好ましい。
【0026】
なお、本発明のMFI型構造を有するゼオライトが有機SDAを除去した場合、ゼオライト中のシリカに対する、ゼオライト中の有機SDAがモル比で、有機SDA/Si<0.03であることが好ましく、有機SDA/Si(モル比)≦0.01であることがより好ましい。
【0027】
本発明のゼオライトはMFI型構造を有し、MFI型構造の純相であることが好ましい。
【0028】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトの平均粒子径は、0.15〜0.45μmであることが好ましい。0.15μm以上であると外表面が小さく、触媒として用いたときのゼオライトの安定性が高くなりやすい。一方、平均粒子径を0.45μm以下とすることで、酸触媒として用いたときに、コーキングによる失活の影響を受けにくくなる。
【0029】
なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡などにより、10個以上の粒子を測った粒子径を加重平均することによって求めることができる。また、本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、一次粒子が単分散している。そのため、レーザー回折散乱法による粒子径分布測定(体積分布)で得られる50%粒子径により求めることができる。
【0030】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、ゼオライト濃度1体積%、pH=5のスラリー水溶液とした時のゼータ電位が30〜60mV(+30〜+60mV)であることが好ましく、40〜60mV(+40〜+60mV)であることがより好ましい。ゼータ電位は、ゼオライト表面のSiO/Alの指標とすることができる。pH=5におけるゼータ電位がこの範囲であることで、本発明のMFI型構造を有するゼオライトの表面のSiO/Alが大きくなる。これにより、表面の強酸点の起因となるAlが少なくなり、酸触媒として使用した際の副反応が抑制される。
【0031】
なお、有機SDAを含んだゼオライトの表面を改質することで、当該ゼータ電位を高くすることができる。ゼオライトの表面改質方法としては、例えば、ゼオライト濃度が1〜30重量%のスラリーとし、これにプロトン濃度0.01〜10mol/lの塩酸、硫酸、硝酸などの酸溶液を接触させることが挙げられる。この際の処理条件としては、処理温度25〜100℃、処理時間0.1〜24時間を例示することができる。以上の操作を行ったゼオライトのpH=5におけるゼータ電位は、+30から+60mVとなる。
【0032】
次に、本発明のMFI型構造を有するゼオライトの製造方法について説明する。
【0033】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、SiOを18〜42重量%及びAlを8〜100重量ppm含有するシリカ源、有機SDA、アルカリ金属水酸化物及び水からなる原料混合物を結晶化させてゼオライトスラリーを得て、このゼオライトスラリーを乾燥することで製造することができる。
【0034】
本発明の製造方法で使用するシリカ源は、SiOを18〜42重量%及びAlを8〜100重量ppm含有していればよい。このようなシリカ源として、ヒュームドシリカ、沈殿法シリカ又はコロイダルシリカの少なくとも1種以上を挙げることができ、コロイダルシリカであることが好ましい。シリカ源としてこれらを使用することにより、SiO/Alが5,000〜100,000のMFI型構造を有するゼオライトを得ることができる。
【0035】
本発明の製造方法で使用する有機SDAは、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアミン、ジプロピルアミン又はプロピルアミンの少なくとも1種以上を挙げることができ、テトラプロピルアンモニウムカチオンを含む化合物であることが好ましく、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドであることがより好ましい。
【0036】
本発明の製造方法で使用するアルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることが好ましく、水酸化カリウムであることがより好ましい。
【0037】
本発明の製造方法では、これらの原料を以下のモル組成比となるように混合した原料混合物を得る。
【0038】
有機SDA/Si=0.05〜0.15
アルカリ金属水酸化物/Si=0.05〜0.15
(有機SDA+アルカリ金属)/Si=0.05〜0.15
O/Si=8〜15
【0039】
本発明の製造方法では、得られた原料混合物を結晶化することで、ゼオライトスラリーを得る。原料混合物の結晶化が進行すれば、その条件は適宜設定することができる。例えば、結晶条件として、結晶化温度は80〜150℃とし、結晶化時間は24〜120時間とすることが挙げられる。
【0040】
結晶化により、溶解シリカ、溶解有機SDA及びアルカリ金属カチオン等の未反応の原料成分を含んだゼオライトスラリーとして得られる。
【0041】
得られたゼオライトスラリーは、ろ過、遠心分離等の方法によって未反応の原料成分を除去することが好ましい。未反応の原料成分の除去方法は特に限定されず、クロスフロー式のろ過、または遠心機を用いた遠心分離を例示することができる。未反応の原料成分を除去した後のゼオライトスラリーは、そのゼオライト濃度が20〜40重量%であることが好ましく、25℃における伝導率が0.1〜10mS/cmと低く、高純度であることがより好ましい。
【0042】
未反応の原料成分を除去した後のゼオライトスラリーを乾燥することにより、本発明のMFI型構造を有するゼオライトの粉末とすることができる。
【0043】
ゼオライトスラリーの乾燥は、ゼオライトスラリー中の有機SDAは除去されない程度の温度で行うことが好ましく、例えば、乾燥温度100℃前後で一晩乾燥することが挙げられる。
【0044】
本発明のMFI型構造を有するゼオライト中の有機SDAの除去は、焼成又は酸処理等の方法により行うことができる。例えば、未反応の原料成分を除去した後のゼオライトスラリーを乾燥した後、焼成することで、ゼオライト中に含まれる有機SDAを除去ことができる。焼成により有機SDAを除去する場合、有機SDAが除去できれば焼成条件は特に限定されない。有機SDAを除去するための焼成条件として、空気中で500℃〜700℃、0.5〜5時間焼成する方法や、500℃〜700℃で噴霧乾燥することが例示できる。
【0045】
有機SDAを除去した後の有機SDA/Siのモル比は0.03未満であることが好ましく、0.01以下でることがより好ましい。また、この場合のIRピーク面積は15〜70KM/cm−1であることが好ましい。
【0046】
有機SDAを除去した後の本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、アルカリ処理などの後処理を行っても良い。
【0047】
酸触媒として使用する際のゼオライトの状態は任意とすることができ、粉末状、顆粒状など任意の状態で使用することができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、強酸点が不要で弱酸点を多数必要とする反応の触媒として用いた場合において、高活性、高選択性、高耐久性が期待できる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
尚、実施例、比較例における各測定方法は、以下の通りである。
(組成分析)
試料を0.3g秤量し、これを硝酸・フッ酸の混合水溶液に溶解して正確に100mlとし、測定溶液を調製した。ICP発光分光分析装置(パーキネルマー社製)を用いたICP発光分光分析法により、当該測定溶液のAl量を求めた。
【0051】
別途、試料を0.3g秤量し、これを処理温度600℃、処理時間1時間で熱処理を行った。熱処理後の試料をSiO量として求めた。
【0052】
Al量とSiO量から、試料のSiO/Alモル比を計算した。
(赤外線分光分析)
測定に先立ち、試料をガラスセルに入れた後に付着水等の水分の除去処理を行った。除去処理は、真空排気下で2時間行った。処理温度は有機SDAを含むゼオライトについては250℃、有機SDAを含まないゼオライトについては400℃とし、いずれも昇温速度は10℃/minとした。
【0053】
水分除去後の試料について、エス・ティ・ジャパンSTJ900℃加熱拡散反射装置を備えたパーキンエルマーSYSTEM2000赤外線分光分析装置又はVarian660−IRを用いて、IRピーク面積を測定した。測定において、リファレンスはKBrを使用し、分解能は4cm−1、及び、積算回数は128回とした。
【0054】
得られた測定値をクベルカ−ムンクで変換した3,400〜3,800cm−1のスペクトルをバックグラウンド除去、及びガウシアン分布のピーク形状で波形分離し、3,500cm−1±50のピークの面積を算出した。
(粉末X線回折)
マックサイエンス製MXP3システムを用いて、X線源CuKα、加速電圧40kV、管電流30mA、操作速度2θ=0.02°/sec、サンプリング間隔0.02sec、発散スリット1deg、散乱スリット1deg、受光スリット0.3mm、モノクロメーター使用、ゴニオ半径185mmで評価した。
(平均粒子径)
試料を走査型電子顕微鏡(日本電子製,JSM−6390LV)で観察、得られた電子顕微鏡写真から任意の30個を選択し、その径を平均して平均粒子径とした。
(熱分析)
エスアイアイナノテクノロジー社のTG/DTA6300を用いて、空気流通下、10℃/minの昇温速度で測定した。有機SDAとしてのテトラプロピルアンモニウムカチオンの概算量として、300から600℃の減量を用い、TPA/Siのモル組成比を算出した。
(導電率)
スラリーの導電率は、堀場製作製の3551−10Dを備えたF−23を用いて25℃で測定した。
(ゼータ電位測定)
試料を水に溶かし、1体積%のスラリーを調製した。調製したスラリーに硝酸を添加してpH=5とした後に、ESA−9800/NA(Matec Applied Sciences社製)を用いてゼータ電位を測定した。
【0055】
実施例1
SiOが30重量%及びAlが14重量ppmのコロイダルシリカ、40重量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(以下、TPAOHとする)、48重量%の水酸化カリウム及び水を混合した後、1時間攪拌することで、以下の組成の反応混合物を調製した。
【0056】
TPAOH/Si=0.075
KOH/Si=0.125
O/Si=10
【0057】
次に、反応混合物をSUS製の反応容器に移し替え、回転下、60℃で48時間保持した後に、150℃で48時間水熱合成して結晶化スラリーを得た。得られた結晶化スラリーは、コロイド状で、導電率は16mS/cmであった。
【0058】
当該結晶化スラリーを遠心機(クボタ製、3,500rpm)で固液分離し、純水を用いて再分散−遠心機を用いた固液分離を繰り返して、未反応の成分を除去したゼオライトを30重量%含むゼオライトスラリーを得た。導電率は0.5mS/cmであった。
【0059】
得られたゼオライトスラリーを110℃で一晩乾燥することにより、有機SDAを含むゼオライト粉末を得た。
【0060】
実施例2
反応混合物の組成を以下の組成としたこと、70℃で48時間保持した後に、105℃で48時間水熱合成した以外は実施例1と同様にして結晶化スラリーを得た。
【0061】
TPAOH/Si=0.050
KOH/Si=0.150
O/Si=9
【0062】
得られた結晶化スラリーは、コロイド状で、導電率は22mS/cmであった。
【0063】
得られた結晶化スラリーは、実施例1と同様な方法で未反応の成分を除去したゼオライトを30重量%含むゼオライトスラリー及び有機SDAを含むゼオライト粉末を得た。
【0064】
ゼオライトスラリーの導電率は25℃で0.6mS/cmであった。
【0065】
実施例3
実施例2で得られた有機SDAを含むゼオライト粉末を600℃で空気中焼成し、有機SDAを除去した。これにより有機SDAを含まないゼオライト粉末を得た。
【0066】
得られたゼオライト粉末の有機SDA/Siのモル比は0.01未満であった。
【0067】
実施例4
実施例2で得られたゼオライト粉末を1mol/LのHCl溶液と混合し、ゼオライト濃度4重量%の溶液とした。当該溶液を60℃で12時間の攪拌処理して酸処理スラリーとした。
【0068】
得られた酸処理スラリーを遠心機(クボタ製、3,500rpm)で固液分離し、純水を用いて再分散−遠心機を用いた固液分離を繰り返して、HCl等の成分を除去し、ゼオライトを30重量%含むゼオライトスラリーを調製した。当該スラリーの導電率は25℃で0.6mS/cmであった。
【0069】
得られたスラリーを110℃で一晩乾燥することにより、有機SDAを含むゼオライト粉末を得た。
【0070】
実施例5
実施例4で得られた有機SDAを含むゼオライト粉末を600℃で空気中焼成し、有機SDAを除去した。これにより有機SDAを含まないゼオライト粉末を得た。
【0071】
得られたゼオライト粉末の有機SDA/Siは0.01未満であった。
【0072】
比較例1
反応混合物の組成を以下の組成としたこと、水熱合成を70℃で60時間水熱合成した後に、90℃で55時間水熱合成した以外は実施例1と同様にして結晶化スラリーを得た。
【0073】
TPAOH/Si=0.050
KOH/Si=0.150
O/Si=9
【0074】
得られた結晶化スラリーは、コロイド状で、導電率は24mS/cmであった。
【0075】
得られた結晶化スラリーは、実施例1と同様な方法で未反応の成分を除去したゼオライトを30重量%含むゼオライトスラリー及び有機SDAを含むゼオライト粉末を得た。
【0076】
ゼオライトスラリーの導電率は25℃で0.6mS/cmであった。
【0077】
比較例2
比較例1で得られた有機SDAを含むゼオライト粉末を600℃で空気中焼成し、有機SDAを除去した。これにより有機SDAを含まないゼオライト粉末を得た。
【0078】
得られたゼオライト粉末の有機SDA/Siは0.01未満であった。
【0079】
比較例3
SiOが30重量%及びAlが300重量ppmのコロイダルシリカ、40重量%のTPAOH、48重量%の水酸化カリウム及び水を混合した後、1時間攪拌することで、以下の組成の反応混合物を調製した。
【0080】
TPAOH/Si=0.050
KOH/Si=0.150
O/Si=8.9
【0081】
次に、反応混合物を、SUS製の反応容器に移し替え、回転下、60℃で48時間水熱合成した後に、150℃で48時間で水熱合成して結晶化スラリーを得た。得られた結晶化スラリーは、コロイド状で、導電率は23mS/cmであった。
【0082】
得られた結晶化スラリーは、実施例1と同様な方法で未反応の成分を除去したゼオライトを30重量%含むゼオライトスラリー及び有機SDAを含むゼオライト粉末を得た。
【0083】
ゼオライトスラリーの導電率は25℃で0.5mS/cmであった。
【0084】
さらに、比較例3で得られた有機SDAを含むゼオライト粉末を600℃で空気中焼成し、有機SDAを除去した。これにより有機SDAを含まないゼオライト粉末を得た。得られたゼオライト粉末の有機SDA/Siは0.01未満であった。
【0085】
実施例1〜5及び比較例1〜3の結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、強酸点が不要で弱酸点を多数必要とする反応、例えば、ベックマン転移、向山アルドール反応、アシル化反応等での高性能を有する酸触媒として使用することが期待できる。本発明のMFI型構造を有するゼオライトは、これらの反応において高活性、高選択性、高耐久性を有する酸触媒として期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Alモル比が5,000〜100,000であり、赤外線分光スペクトルでの3,500±50cm−1のピークの面積が2〜70KM・cm−1であるMFI型構造を有するゼオライト。
【請求項2】
赤外線分光スペクトルでの3,500±50cm−1のピークの面積が15〜70KM・cm−1、且つ、有機構造指向剤の含有量が有機構造指向剤/Siのモル比で0.03未満である請求項1記載のMFI型構造を有するゼオライト。
【請求項3】
赤外線分光スペクトルでの3,500±50cm−1のピークの面積が2〜15KM・cm−1、且つ、有機構造指向剤の含有量が有機構造指向剤/Siのモル比で0.03以上である請求項1記載のMFI型構造を有するゼオライト。
【請求項4】
ゼオライト濃度1体積%、pH=5のスラリー水溶液とした時のゼータ電位が+30〜+60mVである請求項1乃至3のいずれかに記載のMFI型構造を有するゼオライト。
【請求項5】
SiOを18〜42重量%及びAlを8〜100重量ppm含有するシリカ源、有機SDA、アルカリ金属水酸化物及び水からなる原料混合物を結晶化させてゼオライトスラリーを得て、乾燥することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のMFI型構造を有するゼオライトの製造方法。
【請求項6】
ゼオライトスラリーがゼオライトを20から40重量%含み、25℃での導電率が0.1〜10mS/cmである事を特徴とする請求項5に記載のMFI型構造を有するゼオライトの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載のMFI型構造を有するゼオライトを含むことを特徴とするゼオライトスラリー。
【請求項8】
ゼオライトを20から40重量%含み、25℃での導電率が0.1〜10mS/cmである事を特徴とするMFI型構造を有するゼオライトを含むゼオライトスラリー。
【請求項9】
SiOを18〜42重量%及びAlを8〜100重量ppm含有するシリカ源、有機SDA、アルカリ金属水酸化物及び水からなる原料混合物を結晶化させることを特徴とする請求項8に記載のゼオライトスラリーの製造方法。

【公開番号】特開2013−14474(P2013−14474A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148575(P2011−148575)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】