説明

MHC−IIトランスジェニック動物の耐性の調査(study)方法

【課題】
【解決手段】
変異抗原の免疫原性を試験する新規の方法を提供する。特に、トランスジェニック動物の使用に基づく方法を提供し、このトランスジェニック動物は、特定の抗原に対して耐性化され、この抗原の変異体に曝露されて、免疫反応を決定する。一の実施例では、このトランスジェニック動物は、ヒトMHCクラスII分子について遺伝子組み換えされているマウスであり、変異型抗原のライブラリの免疫原性を試験する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク変異体の免疫原性を試験するためのインビボ系に関する。具体的には、本発明は、ヒトMHCクラスII分子用遺伝子導入マウスを用いる方法であって、このようなマウスが、特定のタンパク質に対する耐性を作り、次いで、免疫原性導入用の特定のタンパク質の変異体で試験する方法に関する。加えて、本発明は、低減免疫原性用タンパク質変異体のライブラリからタンパク質を選択するためのインビボ系であって、耐性ヒトMHCトランスジェニックマウスに、様々な変異型タンパク質に関連するセルライン又は粒子のライブラリを注入し、そのライブラリの他のタンパク質よりも免疫原性が低い変異型タンパク質に関連する特定のセルライン又は粒子がインビボで選択されるインビボ系に関する。
【0002】
非ヒト種は、ヒト由来の様々なMHC(主要組織適合遺伝子抗原)分子を有し、従って、試験動物に注入したタンパク質に対する免疫応答は、ヒトの持つ同じタンパク質に対する予測される免疫応答を反映しないので、ヒトの潜在的免疫原性についての薬学的タンパク質候補を試験するための現在の方法は本来的に限定されている。従って、ヒト細胞又はヒトMHCを有する細胞のどちらかを用いて免疫原性用のタンパク質を試験することが重要である。特に価値のあるアプローチは、ヒトの血液サンプルを用いてT細胞増殖アッセイのタンパク質を試験することである。しかしながら、このアプローチは、インビトロ試験タンパク質に対するT細胞反応を測定するものであり、今のところ、インビボで生じるような抗体の産生を生じさせるインビトロ免疫原性法は立証されていない。代替のアプローチは、ヒトT及びB細胞で再構成したマウスか、レジデントマウスMHC、及び、いくつかの場合では、T細胞レセプタ分子をこれらのヒトの相当部分と入れ替えたトランスジェニックマウスを用いることができる。しかしながら、これらのアプローチは、耐性、特に正常なヒトタンパク質に対するヒト免疫系の耐性を考慮していないので、ヒトの免疫原性を正確に予測できない。例えば、ヒトMHC遺伝子導入マウスは、注入したヒトタンパク質と反対の免疫反応を起こすことが予測される。というのも、マウスはこのようなヒトタンパク質に対して耐性を持っていないからである。従って、この種におけるタンパク質に対する標準的耐性を考慮して、タンパク質及びタンパク質変異体のインビボ免疫原性試験を容易にする改良した方法が求められている。
【0003】
従って、第1の態様において、本発明は、前記ほ乳類のMHCクラスII分子用の非ヒトほ乳類中のほ乳類抗原から取り出した変異型抗原の免疫原性を試験するための方法であって、この非ヒトほ乳類が、ほ乳類抗原の源ではない方法において、当該方法が:

(a)前記ほ乳類抗原との接触によって、前記トランスジェニックほ乳類に前記ほ乳類抗原に対する耐性を与えるステップと;
(b)前記トランスジェニックほ乳類を前記変異型抗原と接触させるステップと;
(c)前記トランスジェニックほ乳類の前記変異型抗原の免疫原性を測定するステップと;

を具える。
【0004】
本発明は、例えば、タンパク質及びタンパク質変異体の免疫原性を試験するための新規なインビボシステムを提供する。本明細書に記載されているように、この変異型抗原は、ほ乳類抗原から取り出される。変異型抗原は、付加、欠失、又は置換を有するか、又は化学的手段によって派生したタンパク質又はポリペプチド配列を含むことができる。この抗原は、本方法で用いられる非ヒトトランスジェニックほ乳類からのものではない。
【0005】
特に、本発明は、ヒトT細胞エピトープの表示を可能にするヒトMHCクラスII分子用遺伝子導入マウスを用いて、マウスバックグラウンド中のヒトタンパク質及びタンパク質変異体に対する潜在的免疫原性を試験する方法に関する。
【0006】
本発明の一の実施例では、低濃度(例えば、ヒト血清及び/又はその他の組織に見られる生理学的量に相当する)のタンパク質を注入することによって、生殖細胞系列ヒトMHCクラスII(HLA−tg)遺伝子を発現する新生仔マウスにヒトタンパク質に対する耐性が誘発される。タンパク質は、好ましくは単量体であり、生理食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の免疫不活性緩衝液中で静脈内に投与される。このような系では、耐性を誘発する投与頻度は、耐性が誘発されるタンパク質に依存して変化する。例えば、通常血清濃度が高い状態で存在するタンパク質は、通常生理学的濃度が低い状態で見られるタンパク質よりも、より高い頻度で投与して耐性を誘発することが必要である。
【0007】
好ましくは、T細胞の発生中に、耐性タンパク質が確実に存在し、これによって中枢性耐性を誘発するために、未成熟マウス(例えば、新生仔マウス)を用いる。
【0008】
一般的に、胸腺由来の成熟CD4+、及びCD8+T細胞の産生が減少している(通常の成人期)生後6週までのマウスに繰り返し投与する。試験タンパク質又はこの試験タンパク質の変異型に対する耐性を確立し、次いで、耐性マウスに、試験タンパク質又はタンパク質変異体を注入し、次いで、試験タンパク質又はタンパク質変異体に対する免疫原性を試験する。非修飾免疫グロブリン遺伝子を有するマウスでは、試験タンパク質又はタンパク質変異体に対する抗体の産生によって、免疫原性を測定することができる。代替的に、耐性HLA−tgマウス由来の末梢血、脾臓、又はパイエル板を用いた試験タンパク質−特異T又はB細胞反応を測定するアッセイのような免疫原性に関するその他のアッセイを行うことができる。
【0009】
本発明の別の実施例では、ヒトHLA−tgマウスを、対象のタンパク質に対してヒトトランス遺伝子を発現するマウスに戻し交配することによって、マウスに耐性を誘発する。例えば、ヒトIgGに耐性を有するヒトIgGを発現するヒトHLA−tgマウスを産生することができる。クラススイッチによって定常(C)領域において可変(V)領域が体細胞変異、転座又は再配列、又は変化を可能にするような方法でヒトIgGを発現しない場合、これらのマウスは、発現した特異的ヒトIgG配列には耐性を有するが、クラススイッチによってC領域において、あるヒトV領域体の細胞変異、転座又は再配列又は変化には耐性を有さない。V領域が体細胞変異、転座又は再配列、或いはC領域がクラススイッチすることを可能にするような方法でヒトIgGを発現する場合、これらのマウスは、特異的生殖細胞V及びC領域配列を含む特異的ヒトIgGに対してだけでなく、親和性変異が生じ、あらゆる抗原に対して特異的であるヒトIgGに対しても耐性を有する。
【0010】
これらの条件下で、ヒトMHCクラスIIのコンテキストにおいて中枢性耐性を達成することができる内因性ヒトMHCクラスII及びヒトタンパク質を発現するトランスジェニックマウスを産生することができる。マウスのゲノムに組み込まれた(対象のヒトタンパク質をコードする)ヒトトランス遺伝子のコピー数、又はトランス遺伝子の発現効率(転写及び転座効率、及びマウスのゲノム内のトランス遺伝子の局在化等の様々な因子によって決定する)が、発現するタンパク質の量を決定し、「生理学的量」のトランス遺伝子を発現するマウスのみをHLA−tgマウスに戻し交配するために選択するように、ヒトトランス遺伝子についての様々な発現レベルでマウスを発生させるように変化する。
【0011】
注入かトランス遺伝子のいずれかのアプローチによって、HLA−tgマウスのヒトタンパク質に対する耐性を誘発し、単一ヒトMHCクラスII対立遺伝子を発現するマウスを用いることが好ましい。従って、上記のプロセスを用いて、単一MHCクラスIIアロタイプをそれぞれが発現するマウスパネルに耐性を誘発する。ヒトMHCクラスIIアロタイプに要求されるのと同じくらい大きい収集カバレージを達成するように、多HLA−tgマウスを選択する。本発明の範囲内で、その他の方法を用いて、特異的タンパク質に耐性を有する特異的白血球を誘発する方法と、特異的タンパク質に反応する特異的白血球を除去する方法と、耐性を誘発するように、特異的タンパク質又は変異体への曝露中に、免疫系を調節する方法とを含む対象の特異的タンパク質又はタンパク質変異体に耐性を有するHLA−tgマウスを提供することができることが理解されよう。また、可能であるならば、特異的試験タンパク質又はタンパク質変異体に相当するマウスを発現しないマウスを本発明で用いて、試験タンパク質又はタンパク質変異体に対するこれらのマウスのあらゆる先天的耐性を避けることが好ましいことも理解されよう。
【0012】
特異的タンパク質又はタンパク質変異体の免疫原性を試験する、或いは、免疫原性用のタンパク質変異体セットをランク付けするための種々の方法で、本発明の上記の実施例から得た耐性HLA−tgマウスを用いることができることが理解されよう。特異的タンパク質に耐性を有するマウスで、タンパク質内でアミノ酸が変化した変異体と、脱アミド又はグリコシル化、調整の差異、物理的差異(例えば、凝集の差)、又は免疫原性を引き起こすあらゆるその他の差異等のアミノ酸修飾における差異を有する変異体を含むタンパク質の変異体に対して、免疫原性を試験することができる。特に、耐性マウスに対する高濃度の対象のタンパク質の投与によって、非常に長期に注入した結果を決定することができる。また、投与の経路に関連する免疫原性を調査することができ、耐性マウスと、結果としての評価された免疫原性中の異なる位置にタンパク質を投与することができる。耐性マウスの免疫原性の分析は、抗体(ELISA、RIPA、FACS及び表面プラズモン共鳴等)についての試験タンパク質又はタンパク質変異体の注入後の、マウスからの血液サンプル試験、又はその他の組織サンプル(パイエル板、脾臓等)の試験、T細胞増殖又は活性化試験、例えば、特異的ペプチドMHC複合体の結合によるタンパク質反応性T細胞試験、サイトカイン産生、増殖、細胞表面マーカ発現、Ca2+フラックス、PCR、又はDNAフィンガープリントの測定によるT又はB細胞試験、特異的免疫反応性B又はT細胞出現試験を含む種々の方法によって、又は免疫原性を試験するあらゆるその他の手段によって行われることが理解されよう。非修飾機能免疫グロブリン遺伝子を有する耐性マウスの免疫原性の分析は、単一の試験タンパク質の注入、及び、例えば、注入した試験タンパク質に結合する抗体の形成を測定することによる抗体の産生を介した免疫原性の測定によって、又は代替的に、例えば、試験タンパク質とタンパク質変異体の混合物内で特異的タンパク質又はタンパク質変異体に結合するために注入した混合物に反応して形成した抗体を試験する(例えば、個別の試験タンパク質又はタンパク質変異体のアレイ上にイムノブロットするステップによって;又は注入したマウスから抗体又は抗体配列を単離して、個別の試験タンパク質又はタンパク質変異体に結合するこれらの抗体の結合の特異性を決定することによって;)ことによる試験タンパク質とタンパク質の混合物を注入することによって、行われることが理解されよう。
【0013】
本発明は、様々なヒト(又はヒト化)モノクローナル抗体又はこれらのフラグメントの免疫原性試験に特に適している。これによって、HLA−tgマウスは、ヒトモノクローナル抗体配列に耐性を有し、このようなマウスは、可変領域に体細胞変異(又は、その他の非生殖細胞系突然変異、転座、又は再配列)を有するヒト抗体に関連した可変領域変異に反応することができる。これらの場合、欠失又は非発現内因性マウス免疫グロブリン遺伝子を有するマウスが好ましい。このように、本発明は、免疫原性が全くないか、又は低レベルの免疫原性を有するこれらの抗体を同定するための、ヒト又はヒト化モノクローナル抗体のパネル又はライブラリの比較免疫原性試験に特に適している。特に、同じマウスに注入した様々なヒト(又はヒト化)モノクローナル抗体又はこれらのフラグメントの混合物を試験し、例えば、イムノブロットによって、この混合物中の個別の抗体の免疫原性を決定するための本発明の機能は、抗体の大きなライブラリの迅速分析に特に適している。バクテリオファージ、細胞、又はその他の粒子等の粒子に表示される抗体用に、本発明は、マウスが注入した粒子に耐性を有する場合、表示粒子上に抗体ライブラリの直接注入を含むことが好ましい(必須ではない)。
【0014】
本発明の延長として、特異的HLAバックグラウンド、例えば、ヒトHLAに対して発生した耐性を有するタンパク質変異体の発生に、対象のタンパク質又はタンパク質変異体に対して付加的な遺伝子組み換えをしたHLA−tgマウスを用いることができる。例えば、生殖細胞ヒトIgGが、連続的なV領域体細胞変異、転座、又は再配列、或いは、C領域クラススイッチを可能にするような方法で発現するとき、ヒトHLAのバックグラウンド上の抗原の注入に続いて、ヒトモノクローナル抗体を産生することができる。次いで、親和性変異が生じ、あらゆる抗原に対して特異的であるヒトIgGに対して、これらのマウスで発現したヒトHLAのコンテキストで、マウスが耐性を有する。これは、このようなヒトHLA−tgマウス内で発生したヒト抗体が、ヒトに非免疫原性である可能性を減らすことができる。
【0015】
対象のタンパク質又はタンパク質変異体に耐性があるか、遺伝子組み換えを行ったHLA−tgマウスは、発生に関する用途を選別し、ヒト用薬剤を試験する種々の免疫原性に用いることができる。例えば、タンパク質変異体の免疫原性を測定するステップに加えて、このようなHLA−tgマウスを用いて、対象のタンパク質又はタンパク質変異体内で免疫原性領域又は免疫原性配列をマッピングすることができる。特に、血清又は組織の単離からのT細胞増殖の測定による等して、HLA−tgマウス内への直接注入と、続く免疫原性の測定によって、対象のタンパク質又はタンパク質変異体のペプチド全域部分又は全配列を試験することができる。この方法で、このようなHLA−tgマウスは、タンパク質又はタンパク質変異体の配列中のT細胞エピトープのマッピングに特に有用である。ヒト用の潜在的な医薬としてタンパク質又はタンパク質変異体を使用する前に、タンパク質又はタンパク質変異体内で、このようなT細胞エピトープ配列を変性させて、エピトープを除去することができる。
【0016】
対象のタンパク質又はタンパク質変異体に耐性を有する、又は遺伝子組み換えを行ったHLA−tgマウスは、感染性疾患薬、種々のその他の細胞、その他の医薬、化学的/環境的要因等のHLA−tgマウス内に同時注入されるか存在する種々の要因の存在下で、及び、免疫不全、又は種々の発作、負傷、又は疾患に罹っているHLA−tgマウスにおける製造バッチを含む種々の調整バッチから、種々の調整における投与時、種々の時点で、及び繰り返して投与した後に、対象のタンパク質又はタンパク質変異体の免疫原性を試験する種々の方法で用いることができる。
【0017】
本発明の更なる延長として、対象のタンパク質に耐性を有するHLA−tgマウスを用いて、変異型タンパク質のライブラリからライブラリの他の員と比較して、低免疫原性を有するこれらのタンパク質を直接選択する。このような選択において、特異的タンパク質又はタンパク質変異体に対するHLA−tgマウスの免疫原性反応は、低免疫原性を有するその他のタンパク質を強化される、又は同定されるようにタンパク質又はタンパク質変異体に対する選択を直接導く。例えば、免疫原性タンパク質又はタンパク質変異体によって誘発される抗体は、この変異体に対する選択の基礎として、免疫原性タンパク質又はタンパク質変異体に直接結合する。いくつかの方法を用いて、このような選択を達成することができる。例えば、変異型タンパク質のライブラリが注入されるHLA−tgマウス由来の血清免疫グロブリンを用いて、タンパク質分子レベル(例えば、質量分析ベースのシークエンシング又はフィンガープリンティングによって)で、或いは、変異体、例えばペプチド配列タグ、又はライブラリ中の特異的タンパク質変異体を同定するために用いられる核酸シークエンス、又はその他の分子コードに関連した粒子によって、同定することができる低免疫原性又は非免疫原性を残すライブラリ由来の免疫原性タンパク質変異体を前吸収(例えば、免疫沈降、又は免疫クロマトグラフィによって)することができる。その他のインビトロ方法を用いて、このような変異体を、マウス抗体が存在せず、タンパク質変異体上の特異的捕獲サイトを妨げない固相のみで捕獲される方法等の低免疫原性を有する変異体を同定することができる。例えば、ヒトIgGsのライブラリの場合では、固相抗原調合を用いて、マウス免疫グロブリンがヒトIgG上の抗原結合サイトに結合していない抗体を捕獲することができた。
【0018】
低免疫原性を有するライブラリ由来のタンパク質変異体を選択選択するインビトロ方法の代替として、低免疫原性又は非免疫原性変異体をインビボで選択するインビボ選択方法を用いることができる。インビボ選択は、この循環又はマウス内の注入した区画から特異的変異体に結合するか、或いは、このような変異体、又は、例えば、ADCC(抗体依存性細胞毒素)又はCDC(補体依存性細胞毒素)による表面IgG又は生バクテリオファージによって、生骨髄腫細胞、又は抗体依存性飲作用によって特異的変異体に結合した不活性粒子に結合したこのような変異体又は粒子を発現する生細胞を直接殺す、又は取り込むことによって、耐性HLA−tgマウスで生じる抗体によって行われる。基本的方法では、HLA−tgマウスにタンパク質変異体のライブラリを注入し(例えば、静脈内に)、選択した時点で、タンパク質変異体が、宿主免疫グロブリンによって、依然として不透明に残っているとの分析が為される。例えば、この分析はインビボ選択の後に選択された時点で、タンパク質変異体のライブラリの員を精製し、ライブラリで強化された変異体を同定することによって実施することができる。代替的に、タンパク質変異体が核酸に関連している場合(例えば、骨髄腫又はバクテリオファージ等の生細胞内で)、選択によって強化されたフィンガープリントのバンドを同定するための選択前、及び後に、強化タンパク質変異体又はDNAフィンガープリントに関連する遺伝子の直接的な増幅及びDNAシークエンシングによって、この分析をすることができる。このようなバンドは、続いて強化タンパク質変異体を同定するのに提供される。タンパク質変異体が生細胞又は粒子上で選択され、このような細胞又は粒子自身が免疫原性を誘発する場合は、HLA−tgマウスは、例えば、注入、又は遺伝子組み換えバックグラウンドへの更なる追加、或いは、タンパク質変異体の選択プロセスにおけるこのような細胞及び粒子の干渉を避けるために用いられるその他の手段によって、このような細胞又は粒子に対して耐性を有することができる。
【0019】
本発明の例は、生細胞によって産生した抗体変異体のインビボ選択であり、これによって、抗体V領域を表示するヒトIgGs又はバクテリオファージ細胞を発現するマウス骨髄腫(例えば、ハイブリドーマ)細胞ライブラリ等の生細胞の集団が、耐性HLA−tgマウス内に注入される。これらのマウスは、注入した骨髄腫細胞又はバクテリオファージによって産生したあらゆる免疫原性ヒトIgGsに対する抗体を産生し、これらの抗体は、表面IgGに結合し、従って、細胞の増殖/ファージの感染力を阻害する、又はこれらの細胞又はファージを(ADCC、CDC、又はエンドサイトーシスによって)破壊する。このようにして、耐性HLA−tgマウスは、免疫原性抗体を産生する骨髄腫細胞又はバクテリオファージに対して選択し、低免疫原性又は免疫原性が全くない抗体を産生する細胞/ファージが、注入した集団から富化される。次いで、例えば、富化骨髄腫細胞を回収及び培養することによって、抗体産生細胞を区別するための抗Ig染色を用いた細胞選別の使用によって、又はバクテリアの循環感染によって選択したファージを増幅することによって、このような低免疫原性又は免疫原性が全くない所望の抗体を産生する細胞/ファージを再生することができる。代替的に、B細胞等の非不死化ほ乳類細胞については、EBV形質転換又は細胞融合又はクローニング前の不死化する他の手段等の標準的な不死化及びクローニング手順を用いるか、PCR等の核酸増幅方法を用いて、選択した抗体からV領域遺伝子を単離することができる。加えて、耐性HLA−tgマウスの選択前及び後の、B細胞集団の比較分析を、例えば、比較PCR、比較DNAフィンガープリント又はLC−MS等の比較質量分析法によって、強化B細胞系統、又は特異的抗体の強化の同定に用いることができる。
【0020】
タンパク質及びタンパク質変異体の免疫原性を試験する本発明の方法の多くの変形例があるが、これらは、バックグラウンドとして特異的タンパク質又はタンパク質変異体に耐性を有するHLA−tgマウスを用いて、タンパク質の免疫原性を測定する、又は、低免疫原性或いは免疫原性がないタンパク質を選択する、或いは、免疫原性に基づく様々なタンパク質を比較して順位付けする本発明の範囲内であると考えられるべきであることは、当業者によって理解されるであろう。特異的タンパク質に耐性を有するHLA−tgマウスは、特に、新規な、ヒトHLAトランス遺伝子に加えて、一又はそれ以上のヒトタンパク質トランス遺伝子を有するトランスジェニックマウスであることが理解されよう。特に、好ましくは、可能な限り多くのヒト重鎖及び軽鎖可変領域免疫グロブリン座をコードする追加ヒトIgGトランス遺伝子を有するヒトHLA−tgマウスが新規であり、治療上のモノクローナル抗体の免疫原性試験、又は変異体の選択から治療上の抗体のインビボ選択に特に有用である。また、本発明は、医薬として、又はヒト用インビボ診断薬として使用するタンパク質の発生に特に適用され、これによって、ヒトHLA−tgマウスを用いて、低免疫原性又は免疫原性がないタンパク質を、ヒトに存在するのと同じHLAバックグラウンドを用いて、(もしあるならば)ヒトに期待される同様のレベルの耐性を用いて選択することが理解されよう。当然のことながら、本発明では、マウス以外の生体を用いることができる場合は、遺伝子組み換えによって、或いは、ヒト抗原提示細胞の注入等の手段によって、ヒトHLA分子を提供することができる。また、当然のことながら、ヒトの医薬以外の目的(例えば、動物医薬)で、ヒト以外のHLAバックグラウンドも、使用される種のタンパク質に生じる耐性と共に用いることができる。当然のことながら、耐性HLA−tg動物も本発明の範囲内で用いることができ、いくつかの方法を用いて、ワクチン接種用の高免疫原性を有するタンパク質又はタンパク質変異体を選択する。
【0021】
また、広範囲に渡るインビトロ又はインビボ試験又は単離方法によって低免疫原性に対するタンパク質又はタンパク質変異体を選択する本発明の方法には多くの変形例があるが、これらは、このような選択についてのバックグラウンドとして、特異的タンパク質又はタンパク質変異体に耐性を有するHLA−tgマウスを用いる本発明の範囲内であると考えるべきであることが、当業者によって理解されよう。また、耐性HLA−tgマウスによるタンパク質又はタンパク質変異体の分析又は選択は、通常、異なるアロタイプHLA遺伝子型を有するトランスジェニックマウスパネルを介して、バックグラウンドHLAアロタイプの範囲での平行分析又は選択が必要である。ヒト用のタンパク質又はタンパク質変異体の選択について、少なくとも50%のヒト集団で表されるMHCアロタイプの範囲は、一度タンパク質を分析又は選択に用いられるマウスに存在しない他のアロタイプを有するヒトに注入すると、免疫原性を導くことができるあまりにも少ないアロタイプ上のタンパク質を選択することを避けるために望ましい。
【0022】
また、本発明をトランスジェニックマウスの使用に限定すべきではないだけでなく、ヒトMHCクラスIIに遺伝子組み換えを提供し、タンパク質変異体の免疫原性を測定する、或いは、低免疫原性を有するタンパク質変異体を選択するのに同様に用いることができるその他の動物が含まれることは、当業者によって理解されよう。また、本発明は、タンパク質に限定されるべきではなく、非タンパク質変異体の免疫原性の測定に、或いは有機化学物質、無機化学物質、アレルゲン、化粧品、環境汚染物質、病原体及び食料品等の低免疫原性を有する非タンパク質変異体の選択に適用できることが理解されよう。また、本発明を、例えばヒトワクチン用に有効なT細胞エピトープの決定、有効なサブユニット又はDNAワクチンのスクリーニング、ヒトにおける予測できる効果のための様々なワクチン処方及び投与経路の試験、感染病、癌、及び炎症等の治療薬に対する予防又は免疫反応の誘発用の潜在的ワクチンの試験において、ヒト用ワクチンの開発及び試験に用いて、これによって、潜在的なワクチンを試験する前に、このような疾患をマウス(又はその他の動物)に導入又は誘発することが理解されよう。また、ヒトMHCクラスIIに加えて、本発明のHLA−tg動物は、ヒト免疫に関する様々な分子現象の範囲を模倣することに対して、ヒト免疫系の追加の成分を導入する各場合に、T細胞レセプタ、MHCクラスI、CD4、CD8及びその他のサイトカイン又はレセプタといった免疫系のその他のヒト分子の個々の成分又はこれらの組み合わせに対して遺伝子が導入されることが理解されよう。同様に、試験タンパク質又は非タンパク質に対するヒト免疫反応を促進するために、ヒト免疫系の一又はそれ以上の細胞を、本発明の動物に移植することができる。
【0023】
次の例は、本発明を例示するために提供されており、本発明の範囲を限定するものとして考えるべきではない。
【0024】
例1.免疫原性/非免疫原性試験抗体の発生
【0025】
調査用に選択された免疫原性試験抗体は、マウスcA2抗体から取り出された変形可能な領域を有するRemicade(登録商標)(Le et al.,米国特許第6277969号)として知られているキメラ抗TNFα抗体であった(以下、「Remicade」という)。用いられた更なる試験抗体は、Herceptin(登録商標)(Carter et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,vol 89(1992)p4285,米国特許第5821337号)として知られているヒト化抗HER2抗体であった(以下、「Herceptin」という)。用いられた非免疫原性対照抗体は、ヒト生殖細胞Vh3−53及びVκO12配列を組み込んだHerceptinの誘導体(以下、「GLH」=生殖細胞Herceptin(登録商標))であった。
【0026】
公知の方法と、これらの方法で用いられている酵素及び抗体用の供給者指示を用いて、組み換えDNA及び抗体技術を実施した。一般的な方法の源は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd edition,vols1−3,eds.Sambrook and Russel(2001)Cold Spring Harbor Laboratory Pressと;Current Protocols in Molecular Biology,ed.Ausubel,John Wiley and Sonsと;Antibodies,A Laboratory Manual,eds.Harlow and Lane(1988),Cold Spring Harborと;を含んでいた。各鎖について、完全なヒトVH及びVL配列をコードする30〜60アミノ酸長の、8つの合成オリゴヌクレオチドを用いて、Remicade(登録商標)、Herceptin(登録商標)及びGLH抗体V領域に相当する配列を作った。分離VH及びVLオリゴヌクレオチドを、まず、リン酸化し、等しいモル分率で混合し、熱循環装置で5分間94℃に加熱し、次いで、65℃に冷却し、65℃で2分間インキュベートした。次いで、45℃で2分間、35℃で2分間、25℃で2分間、及び4℃で30分間でインキュベートを継続した。次いで、14℃で18時間、T4DNAリガーゼ(英国ペーズリー所在のLife Technologies社)を用いて、オリゴヌクレオチドを結紮した。
【0027】
VH及びVLオリゴヌクレオチド混合物と、Kozak配列、リーダーシグナルペプチド配列及びリーダーイントロンを含む5’フランキング配列をコードする追加のオリゴヌクレオチドと、スプライスサイト及びイントロン配列を含む3’フランキング配列のそれぞれに対して上記の追加を行い、アニールした。産生したVH及びVL発現カセットを、BamHIフラグメントに対して、プラスミドベクタpUC19内にHindIIIとしてクローニングし、完全DNA配列を確認した。これらを、ヒトIgG1又はヒトκ定常領域それぞれと、ほ乳類細胞の選択用マーカを含む発現ベクタpSVgpt及びpSVhyg(Orlandi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86(1989)3833−3837)に転写した。
【0028】
抗体発現用主宿セルラインは、英国ポートン所在のEuropean Collection of Animal Cell Cultures社(ECACC No85110503)から得たNS0、すなわち、マウス骨髄腫を産生する非免疫グロブリンであった。重鎖及び軽鎖発現ベクタを、エレクトロポレーションによってNS0細胞内に同時形質移入を行った。gpt遺伝子を発現するコロニーを、10%ウシ胎仔血清、0.8μg/mlミコフェノール酸、及び250μg/mlキサンチンを補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で選択した。形質移入された細胞クローンを、ヒトIgG用ELISAによって、ヒト抗体の産生物をスクリーニングした。Prosep(登録商標)−A(英国ワトフォード所在のMillipore)を用いて抗体を精製し、ヒトIgGκ(英国セントアルバンス所在のPharmacia Biotech社)用ELISAによって、濃度を決定した。精製したRemicade、Herceptin及びGLH抗体を、2つのアッセイにおける結合について試験した。1つは標準ELISAにおいて固定化ヒトTNFαを用いて(WO03/042247A2に記載されている)、もう1つは、4D5(Hudziak et al.,MoI.Cell.Biol.,(March 1989)p1165−1172)によって記載されているような、HER2+ヒト乳房腫瘍セルラインSK−BR−3の増殖の阻害を用いた。Remicade抗体は、ELISAアッセイ中でヒトTNFαに期待される結合を示したが、SK−BR−3細胞の阻害はなかった。Herceptinは、ヒトTNFαに結合しなかったが、SK−BR−3細胞の増殖の阻害を示した。GLH抗体は、ヒトTNFαに対する結合も、SK−BR−3細胞の阻害も示さなかった。
【0029】
例2.マウス免疫グロブリン発現欠失ヒトHLAトランスジェニックマウス
【0030】
マウスMHCクラスII欠失ヒトHLA−DR1トランスジェニックマウス(Altmann,D.M.et al.,J Exp Med 181(1995)867−875)を英国ロンドン所在のImperial College社から入手した。これらを、英国ケンブリッジ所在のBabraham Institute社から入手した免疫グロブリン重鎖(CΔ−/−)を欠失しているマウスと交配し(Bruggeman,欧州特許第0438474B1号)、ヒトHLA−DR1+/+、マウスMHCクラスII−/−、及びマウスIgCΔ−/−の所望の遺伝型を有するマウスを得た(以下、「huDR+/IgCΔ−/−」マウス)。次いで、これらのhuDR+/IgCΔ−/−マウスを免疫グロブリン軽鎖(λ/κ−/−,Babraham Institute社)を欠失しているマウスと更に交配させ、ヒトHLA−DR1+/+、マウスMHCクラスII−/−、マウスIgCΔ−/−、及びマウスλ/κ−/−の所望の遺伝型を有するマウスを得た(以下、「huDR+/IgCΔ−/−λκ−」マウスという)。
【0031】
例3.新生仔耐性の誘発
【0032】
Remicade、Herceptin、GLH抗体を透析して、PBSの500μg/mlに希釈し、4℃で15分間、20,000gで遠心分離した。耐性用量の50μlの個別の抗体を、生後30時間以内に(=0日)、新生仔huDR+/IgCΔ−/−マウスの腹腔内に注入した。対照のマウスに、50μlPBSを注入した。次いで、10日、16日、及び24日に、5μg用量のRemicade、Herceptin及びGLH抗体を、5μgKLH対照と共に、トータルで200MPL+TDMエマルジョン(RAS−Ribi adjuvant,product code R−700,米国モンタナ州ハミルトン所在のCorixa Corp社)を皮下に注入した。32日に、T細胞増殖アッセイのために、マウスを犠牲にした。赤血球除去Ficoll精製脾細胞を調製して、Loirat,D.,et al.,J Immunol.,165(2000)4748−4755に記載されているように抗体又はKLH−パルスガンマ線放射LPS−ブラスト(KLH−pulsed irradiated LPS−blasts)で、T25フラスコ内の5×10細胞で培養した。培養7日後に、抗体又はKLH−パルス放射LPS−ブラストで、平底の96ウエルマイクロプレート内で、1ウエル当たり5×10で細胞を培養し、更に72時間、RPMI+3%FCSで完全にインキュベートした。1ウエル当たり1μCiの3H−チミジンで、最終16時間細胞をパルスし、TOMTECコレクタ(英国ウォリントン所在のPE Applied Biosystems社)を用いてフィルタメイト上にハーベストした。マイクロビートカウンタ(micro−beat counter)(PE Applied Biosystems社)で放射能を測定した。放射能は、抗体又はKLH処置物対PBS対照物についての刺激インデックスのcpmとして表される。
【0033】
これらの結果は、Remicade、Herceptin、及びGLH抗体に耐性を有する動物について有意なSI>2を示さず、アジュバントの同じ個々の抗体で免疫性を試験した。しかし、精製ポリクローナルヒトIgG(huIgG)に耐性を有する動物の10匹のマウス中5匹のマウスで、T細胞応答(SI>2)が観察され、次いで、Remicade抗体で免疫性を試験した。対照的に、GLHで免疫性を試験した後は、10匹のhuIgG耐性マウス中1匹だけに反応(SI>2)が検出されたが、Herceptinに耐性を有する動物については、GLHで免疫性を試験した後に、反応(SI>2)が検出されなかった。Herceptinは、huIgG又はGLHそれぞれに耐性を有する10匹のマウス中3又は1匹に反応が誘発された。全てのマウスは、アジュバントのKLHに対して強く反応し、90%のマウスに強いKLH特異的反応をもたらした。これらの結果は、同じ抗体を用いた免疫性の試験が失敗してT細胞増殖反応を誘発するような個々のRemicade、Herceptin、及びGLH抗体に対して、huDR+/IgCΔ−/−マウスに新生仔耐性が良好に誘発されることを示した。
【0034】
これらの結果は、huIgGに対して耐性を有するマウスの免疫原性Remicade抗体に対する重要なT細胞反応の誘発を示している。Herceptinは、Remicade(50%反応率)よりも低い免疫原性(30%反応率)であるように思われるが、GLHは、huIgG又はHerceptin耐性マウスに反応を誘発しなかった。この例は、ヒトHLA−DRに耐性を有し、ヒト免疫グロブリンに対するヒトの耐性と同等である特異的免疫グロブリンに対して耐性を有するマウスの使用における本発明の主要部分を示す。次いで、このようなトランスジェニックマウスを用いて、ヒトのこのような抗体を試験するための代替物として、特異的免疫グロブリンマウスに耐性を有するトランスジェニックヒトHLA−DRマウスの免疫原性の誘発について種々のモノクローナル抗体を試験することができる。この例は、ヒトの重要な免疫原性であるRemicade抗体が、このようなトランスジェニック耐性ヒトHLA−DRマウスの重要な免疫原性を誘発することを示している。以後の追加の実験では、ヒトグロブリンの調製を用いて、例3に示すように、huDR+/IgCΔ−/−マウスを耐性化し、これらのマウスをRemicade、Herceptin、及びGLH抗体を用いて免疫性の試験をした。結果は、個別の抗体に耐性を有するので、Remicade注入は、30%のマウスでSi>2をもたらすことを示したが、Herceptin及びGLHは、あらゆる動物でSI>2を示さなかった。
【0035】
例4.ヒトIgトランスジェニックマウスの産生
【0036】
ヒトIgM/κ(four−feature mice,Nicolson et al.,J Immunol.,163(1999)6898−6906)に耐性を有するマウスを、huDR+/IgCΔ−/−λκ−マウス(例2)と交配し、ヒトIgM/κ、ヒトHLA−DR1+/+、マウスMHCクラスII−/−、マウスIgCΔ−/−、及びマウスλ/κ−/−の所望の遺伝型を有するマウスを選択した(以下、「huIgCΔ−/−/κ」マウスという)。
【0037】
例5.ヒトIgトランスジェニックマウスの免疫原性の試験
【0038】
huIgM/κマウスで試験する免疫原性についての対照抗体を、VHについてはD1.7/J4、及びVκについてはJκ4と共に生殖細胞ヒトVH1−2及びVκ4.1遺伝子を用いて発生させた(以下、「VH1−2/Vκ4.1」抗体という)。例1にあるようにして、組み換え型ヒトIgG1/κ抗体を発生し、例1由来のこの抗体及びRemicade抗体を、双方ともペプシン消化に曝して、注入用二重体Fabフラグメントを発生した。消化に曝す前に、抗体を0.2M酢酸ナトリウム緩衝液pH4.0で透析し、次いで、2mg/mlに調節した。20μg/mlペプシン(英国ドーセット州プール所在のSigma社)を等量の0.2M酢酸ナトリウム緩衝液pH4.0に加えて、6時間、37℃でインキュベートした。2M Trizma(登録商標)塩基(Sigma社)を加えてpH7に調節し、ゲル電気泳動によって消化を調べた。抗体消化物をPBSで夜通し透析し、次いで、2つの連結Sephadex75カラム(Pharmacia社)に適用してFabフラグメントを単離した。
【0039】
HuIgM/κマウスを、CFA中の50μgVH1−2/Vκ4.1かRemicade Fabフラグメントで免疫化し、それぞれを4、8、及び12週間、IFA中の50μgのFab2フラグメントでブーストした。ヒトIgM/κ抗体の産生を、PVCマイクロタイタープレートを、5μg/mlVH1−2/Vκ4.1、Remicade Fabフラグメント、又はPBSの全GLH抗体(例1)の対照で、37℃で一晩被覆することによって試験した。PBSで希釈した血清サンプル、5%鶏血清、及び0.5%Tween−20を、室温で1時間、ウエルでインキュベートした。洗浄後、抗ヒトIgM Fc−HRP(Pharmacia社)を同じ緩衝液中に1時間添加し、次いで、30分間ABTS(Sigma社)を加えて、OD415nmの測定をした。この実験は、Remicade Fabで免疫化された動物のRemicade Fabフラグメントに特異的なIgM抗体の強力価を誘発したが、VH1−2/Vκ4.1Fab2で免疫化したマウスのVH1−2/Vκ4.1に対する抗体を誘発せず、従って、ヒト免疫グロブリン/ヒトHLA−DRバックグラウンドを有するマウスのRemicadeの免疫原性を示した。この例は、これらのマウスは、ヒト免疫グロブリン可変領域配列の範囲にヒトの耐性に匹敵するヒト免疫グロブリン可変領域配列の範囲に耐性を有するようなヒトHLA−DR及びヒト免疫グロブリン遺伝子に耐性を有するマウスの使用で、本発明の主要な部分を示している。このようなトランスジェニックマウスを用いて、ヒトのこのような抗体を試験する代替として、免疫原性の誘発用の種々のモノクローナル抗体を試験することができる。この例は、Remicade抗体が、Remicade(登録商標)に対する免疫原性を、有意な割合の免疫正常患者に誘発するヒトの発見に匹敵するこのようなトランスジェニックヒトHLA−DR/Ig+マウスの有意な免疫原性を誘発することを示している。
【0040】
例6.ヒトIgトランスジェニックマウスの抗体の選択
【0041】
VH1−2/Vκ4.1と、PBS(例5由来の)中のRemicade Fabフラグメントのサンプル100mgを、huIgM/κマウスの静脈に混注又は個別に注入した。注入開始後、10日及び20日後に繰り返し投与を実施した。最終投与後2時間で、VH1−2/Vκ4.1又はRemicade Fabフラグメントの存在又は不存在についてマウス血清を分析した。ハーベストした血清を20,000gで15分間、4℃で遠心分離し、次いで、PBSで夜通し透析した。次いで、例5に記載されているように、Sephadex75を用いて、Fabフラグメントを精製し、抗ヒトFab−HRP(Pharmacia)を用いて、例1と同様にして、ヒトTNFα結合用希釈シリーズとして試験した。結果は、VH1−2/Vκ4.1とRemicade Fabフラグメントとを混注したマウスについて、試験した全マウス中、VH1−2/Vκ4.1で構成されている再生Fabが95%より大きかった。これらの結果は、低免疫原性VH1−2/Vκ4.1と比較して、より多くの免疫原性Remicade Fabが、血液系から除去されていることを示している。この効果は、VH1−2/Vκ4.1よりも速いクリアランスを促進するRemicade Fabを有する免疫複合体の形成によるものである可能性がある。この例は、有意な免疫原性を誘発するその他の抗体との混合物から低免疫原性を有する抗体を選択する耐性HLA−tgの能力を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほ乳類の抗原から取り出した、当該ほ乳類MHCクラスII分子用の非ヒトほ乳類遺伝子の変異型抗原の免疫原性の試験方法であって、前記非ヒトほ乳類が前記ほ乳類抗原の源ではない方法において、前記方法が:
(a)前記ほ乳類抗原との接触によって、前記トランスジェニックほ乳類に前記ほ乳類抗原に対する耐性を与えるステップと;
(b)前記トランスジェニックほ乳類を前記変異型抗原と接触させるステップと;
(c)前記トランスジェニックほ乳類中の前記変異型抗原の免疫原性を測定するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記ほ乳類抗原との接触が、前記ほ乳類抗原をコードする一又はそれ以上の導入遺伝子を前記トランスジェニックほ乳類に導入することによって達成され、前記一又はそれ以上の導入遺伝子の発現が、前記ほ乳類の抗原との更なる接触に対して前記トランスジェニックほ乳類に耐性を付けることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記抗原が可溶性タンパク質であり、前記トランスジェニックほ乳類が、前記タンパク質と接触して耐性を誘発し、次いで、一又はそれ以上の前記タンパク質の変異株の免疫性を試験することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記抗原がモノクノーナル抗体であり、前記トランスジェニックほ乳類が、可溶性単量体抗原と接触して耐性を誘発し、次いで、一又はそれ以上のモノクローナル抗体の変異株の免疫性を試験することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法において、前記抗原がほ乳類ポリクローナル抗原配合物であり、前記トランスジェニックほ乳類が、前記可溶性ポリクローナル抗原と接触して耐性を誘発し、次いで、一又はそれ以上のモノクローナル抗体の免疫性を試験することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1項に記載の方法において、前記タンパク質が、アジュバント中にあるか、不溶性又は固定型のどちらかであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項2に記載の方法において、前記抗原が非タンパク質分子であり、前記トランスジェニックほ乳類が、前期非タンパク質分子と接触して耐性を誘発し、次いで、一又はそれ以上の前記非タンパク質分子の変異株の免疫性を試験することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記変異型非タンパク質分子が、アジュバント内にあるか、不溶性又は固定型のどちらかであることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法において、前記非ヒトほ乳類が齧歯類であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、前記齧歯類がマウスであり、ほ乳類MHCクラスII分子が、ヒト、例えば、ヒトHLA−DRトランスジェニックマウスであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記抗原に対して耐性を誘発するために、前記トランスジェニックマウスが、生後6週まで、好ましくは生後32時間以内に、前記抗原と接触した新生仔マウスであることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1項に記載の方法において、前記ほ乳類抗原がヒト抗原であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項9から11のいずれか1項に記載の方法において、前記ほ乳類抗原が非ヒト抗原であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか1項に記載の方法において、前記トランスジェニックマウスを修飾して、前記抗原又は前記抗原の変異型を発現するマウスの遺伝子を欠失させる、又は不活化することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記トランスジェニックマウスを修飾して、マウス免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子を欠失させ、又は不活化し、次いで、試験モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体の免疫原性の免疫性を試験し、測定する前に、前記マウスに、ヒト免疫グロブリンに対する耐性を与えることを特徴とすることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法において、前記トランスジェニックマウスを修飾してマウスタンパク質遺伝子を欠失させ、又は不活化し、次いで、一又はそれ以上の変異型非マウスタンパク質の免疫原性の免疫性を試験し、又は測定する前に、前記マウスに、非マウスタンパク質に対する耐性を与えることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項10に記載の方法において、前記トランスジェニックマウスがヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖をコードし、前記トランスジェニックマウスが、一又はそれ以上の試験モノクローナル抗体、又はポリクローナル抗体と実質的に接触することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項10に記載の方法において、前記トランスジェニックマウスが一又はそれ以上のヒトタンパク質をコードし、前記トランスジェニックマウスが、一又はそれ以上の変異型ヒトタンパク質と実質的に接触することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項10に記載の方法において、前記トランスジェニックマウスが一又はそれ以上のヒトタンパク質をコードし、前記トランスジェニックマウスが、一又はそれ以上の変異型ヒトタンパク質と実質的に接触することを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項10から17のいずれか1項に記載の方法において、前記トランスジェニックほ乳類由来の血清を用いて免疫原性を測定し、前記試験モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、又は試験タンパク質に対する抗原の誘発について試験することを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項10から17のいずれか1項に記載の方法において、マウスT細胞の源としてマウスの血液又は組織サンプルを用いて、T細胞増殖又はT細胞活性化アッセイで免疫原性を測定することを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項10から17のいずれか1項に記載の方法において、例えば、特異ペプチド−MHC複合体の結合による等して、タンパク質反応性T細胞の産生について試験、サイトカイン産生物、増殖、細胞表面マーカ発現、Ca2+フラックス、PCR又はDNAフィンガープリントの測定によるT又はB細胞の試験、又は特異的免疫反応性B又はT細胞の発生についての試験によって、ヒト免疫原性を測定することを特徴とする方法。
【請求項23】
ヒトHLA−DRトランスジェニックマウス中の、ヒト抗原由来の変異型抗原の前記免疫原性の試験方法において、前記方法が:
(a)前記ヒト抗原との接触によって、前記トランスジェニックマウスに前記ヒト抗原に対する耐性を与えるステップと;
(b)前記トランスジェニックマウスを前記変異型抗原と接触させるステップと;
(c)前記トランスジェニックマウスの前記変異型抗原の免疫原性を測定するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項24】
ヒトHLA−DRトランスジェニックマウス中の、非ヒト抗原由来の変異型抗原の前記免疫原性の試験方法において、前記方法が:
(a)前記非ヒト抗原との接触によって、前記トランスジェニックマウスに前記非ヒト抗原に対する耐性を与えるステップと;
(b)前記トランスジェニックマウスを前記変異型非ヒト抗原と接触させるステップと;
(c)前記トランスジェニックマウスの前記変異型非ヒト抗原の免疫原性を測定するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項25】
変異型抗原のライブラリの前記免疫原性の試験における請求項1から24のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項26】
請求項25に記載の使用において、前記変異型抗原がヒト抗原であることを特徴とする使用。
【請求項27】
請求項26に記載の使用において、前記ヒト抗原がタンパク質であることを特徴とする使用。
【請求項28】
請求項25に記載の使用において、前記変異型抗原が非ヒト抗原であることを特徴とする使用。
【請求項29】
請求項28に記載の使用において、前記非ヒト抗原がタンパク質であることを特徴とする使用。
【請求項30】
請求項27に記載の使用において、前記タンパク質が抗体のライブラリ、又は抗体のフラグメントであることを特徴とする使用。
【請求項31】
ヒトHLA−DRトランスジェニックマウスの、ヒト抗原由来の一又はそれ以上の変異型抗原の選択方法において、前記方法が:
(a)前記ヒト抗原との接触によって、前記トランスジェニックマウスに前記ヒト抗原に対する耐性を与えるステップと;
(b)前記トランスジェニックマウスを二又はそれ以上の変異型ヒト抗原の混合物と接触させるステップと;
(c)前記トランスジェニックマウスの異なるレベルの免疫原性に基づいて、前記混合物から、個々の変異型ヒト抗原を直接選択するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項31に記載の使用において、前記注入した変異型ヒト抗原混合物に発現する抗体を試験して個々の変異型ヒト抗原に発現する前記抗体を決定するステップによって、又は前記変異型ヒト抗原混合物を前記混合物に誘発された抗体と前吸収するステップによって、変異型ヒト抗原を直接選択することを特徴とする使用。
【請求項33】
請求項31に記載の使用において、前記注入された変異型ヒト抗原を粒子に付着させ、この粒子を用いて個々の変異株を同定することを特徴とする使用。
【請求項34】
請求項31に記載の使用において、前記注入された変異型ヒト抗原を生細胞に付着させて、この生細胞を用いて、個々の変異株を同定することを特徴とする使用。
【請求項35】
請求項31から34のいずれか1項に記載の使用において、一又はそれ以上の変異型抗原が非ヒト抗原由来であることを特徴とする使用。
【請求項36】
請求項31から34のいずれか1項に記載の使用において、一又はそれ以上の変異型抗原が抗体由来であることを特徴とする使用。

【公表番号】特表2008−520229(P2008−520229A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542112(P2007−542112)
【出願日】平成17年11月23日(2005.11.23)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004498
【国際公開番号】WO2006/056769
【国際公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(507165486)アンチトープ リミテッド (5)
【Fターム(参考)】