説明

MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるペプチド候補の選択方法

【課題】本発明は、T細胞免疫(細胞性免疫)系の惹起に関わる、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるペプチド候補の選択方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明者らは、N末端側に位置するT細胞抗原エピトープは同じ抗原エピトープでもC末端側に位置する場合に比べて、効率良くMHC I分子上に提示されるという、MHC Iを介した抗原提示の新たな法則を見いだし、癌細胞の表面に表出されるペプチド候補を選択する方法を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞免疫(細胞性免疫)系の惹起に関わる、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるペプチド候補の選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は常にその内に侵入する非自己や生体内で発生する異常な細胞を排除して、その恒常性を維持している。癌細胞も、生体内で発生した一種の非自己であり、非自己化した細胞を直接標的として破壊する細胞性免疫がその排除の主役となる。この時、細胞性免疫はMHC I複合体を目印として、自己・非自己の識別を行なう。MHC(major histocompatibility complex)I(以下、「MHCクラスI」と記載する場合もある)は全ての有核細胞において、内在性タンパク質をユビキチン・プロテアソーム系で分解、生成したペプチドを結合して、細胞表面に発現し(Direct presentation (DP):ダイレクトプレゼンテーション)、自己・非自己の目印として機能している。MHC I上のペプチドが自己のタンパク質由来であれば、免疫応答を誘起しないが、このペプチドがウイルス感染や癌化によって正常な細胞には無いタンパク質に由来すると、その非自己タンパク質を発現する細胞は非自己と判断され、駆除される。しかし、特定の非自己ペプチドとMHC Iの複合体を認識するT細胞受容体(TCR)を発現するナイーブなT細胞は、僅かな数しか存在せず、そのままでは細胞傷害性を示さない。このナイーブなT細胞をCTL(cytotoxic T lymphocytes;細胞傷害性T細胞)に活性化し、非自己細胞を駆除するのに充分な数にまで増殖させるにはMHC Iとペプチドの複合体と共に、抗原提示細胞のみが発現する共刺激因子が必須である。抗原提示細胞の中でも、樹状細胞(DC:Dendritic Cells)はT細胞への強力な抗原提示能と活性化能をもち、細胞性免疫の発現に必須な役割を担っている。
【0003】
このDCの細胞性免疫の強力な抗原提示能力と賦活化能力は、サイエンス・ベースの治療法として注目されている、DCを用いた癌免疫療法(DC療法)に応用されている。DC療法では、DCに腫癌特異的なT細胞エピトープをMHC I上に提示させ、これを認識するCTLを活性化して、癌細胞を駆除するものである。具体的には、
1.患者の腫瘍特異的な抗原を同定する、
2.そのタンパク質のアミノ酸配列と患者のMHC Iハプロタイプから、T細胞エピトープを推定する、
3.推定されたMHC I-T細胞エピトープ複合体を特異的に認識するTCRを持つT細胞の存在を、該当ペプチドをパルスしたMHCテトラマーによって確認する、該当ペプチドを化学合成し、試験管内でcDNAからmRNA、次いでタンパク質に合成したMHC I分子(C末端をbiotin化する)と複合体を形成させ、ストレプトアビジン(SA)に結合させる(SAは4個のbiotinをC末端にもつMHC I分子と複合体を形成する)。そのMHC I-ペプチド複合体を蛍光色素で標識する。この蛍光標識テトラマーは、そのMHC I-ペプチド複合体を認識するTCR(T細胞受容体)を有するCD8+細胞に結合するので、CD8+細胞の数を推定することができる。
4.最後に、患者由来のDCにそのT細胞エピトープをペプチドとしてパルスして、患者に戻す、患者由来のDC(つまり同じMHC IハプロタイプのDC)にペプチドを結合させて、患者体内に戻すと、それを認識するCD8+細胞を刺激してCTLに分化増殖させ、患者体内でそのMHC I-ペプチド複合体を発現する癌細胞をアタックする。
という、多段階的方法がとられる。
【0004】
これらの各段階の中で、非自己細胞であることを顕わす腫瘍特異的なT細胞エピトープを正確に推定することが、最大の鍵となっている。
一般的にあるT細胞エピトープのMHC I上への提示効率は、以下の3条件によって影響を受ける。
1.目的とするT細胞エピトープを含むタンパク質の発現量と安定性:発現量が多く、不安定なタンパク質上のT細胞エピトープが提示され易い。
2.目的とするT細胞エピトープのMHC Iへの結合能力:MHC Iに強く結合するT細胞エピトープが提示され易い。
3.目的とするT細胞エピトープと他のT細胞エピトープとのMHC Iへの競合:同じタンパク質上に他に強力なT細胞エピトープが無いものが良く提示される。
【0005】
しかし、腫瘍は元々は自己細胞であるため、腫瘍特異的タンパク質も自己の遺伝子にコードされており、正常細胞にも少しだが発現している場合が多い。そのような自己タンパク質をソースとするT細胞抗原ペプチドがMHCクラスI分子と強く結合し、その割合で自己細胞の表面に発現すると、生体にとって有害となる。そのためMHC Iと強く結合するT細胞抗原エピトープ-MHC I複合体を特異的に認識するTCRを持ったCD8+T細胞の殆どは、胸腺の教育過程で除去されて(胸腺での負の選択)存在しないか、たとえ存在したとしても、そのままでは細胞傷害活性を発揮出来ないアナジー(anergy;免疫不応答)な状態に陥っていて、有効な免疫療法には結びつかない。胸腺で負の選択が行われず、あるいはアナジーな状態にならない場合には、自己正常細胞を破壊してしまう。したがって、癌免疫療法で用いられるT細胞エピトープは、MHC Iへの結合能力が中程度な候補を使用することが多い。しかし、MHC Iへの結合能力が中程度な候補は、しばしば多数存在するため、その選択は経験と試行錯誤に頼る極めて非効率な工程である。このT細胞抗原エピトープ提示効率の機序を更に詳細に解明する事ができれば、T細胞抗原エピトープを推定する効率を上昇させ、癌細胞特異的な細胞性免疫を効率的に誘導することが可能になると考えられる。
【0006】
MHC Iは、細胞内のタンパク質をユビキチン・プロテアソーム系によって分解した8-11アミノ酸長のオリゴペプチド(T細胞抗原ペプチド)と結合して細胞表面に発現している(非特許文献1〜6参照)。このT細胞抗原ペプチドの提示量は細胞内のタンパク質の発現量と分解速度に比例している。T細胞抗原ペプチドにはMHC Iに結合するための疎水性アミノ酸が特定の位置に存在する必要があるが、このようなMHC I結合モチーフは大部分のタンパク質に認められる。さらに、ヒトではMHC Iは多型性を示し、2007年9月時点では、HLA-A, B, Cだけで1,947種類(http://www.ebi.ac.uk/imgt/hla/intro.html)が知られていて、それぞれ異なるMHC I結合モチーフを持っている。ヒトは、この1,947通りの異なったMHC Iの中から、最大で6種類(父親および母親由来のHLA-A, B, Cそれぞれ3遺伝子)を遺伝子として保持することができる。従って、細胞に発現する大部分のタンパク質に由来するペプチドがMHC I上に提示されていると考えられる。このように、MHC IとT細胞抗原ペプチドは、細胞内で合成されているタンパク質の種類と量を細胞表面に示すことで、免疫系にとっての自己のマーカーとして機能している。この内在性タンパク質由来のペプチドのMHC Iへの提示は、ダイレクトプレゼンテーションと総称される(非特許文献7参照)。癌細胞やウィルスに感染した細胞は、癌抗原やウィルス抗原を発現し、これらの抗原に由来するペプチドをMHC I上に提示する。ナイーブなCD8+T細胞から分化した細胞傷害性T細胞は、これらの非自己抗原を提示したMHC Iを目印として、非自己細胞を駆逐する(非特許文献7参照)。
【0007】
このようにMHC IとT細胞抗原ペプチドの複合体は、免疫系が各個の細胞の自己・非自己を識別するための標であるため、以下に示すMHC I上に提示されている全てのペプチドを網羅したデータベースも存在している。
・Cancer immunity peptide database(http://www.cancerimmunity.org/peptidedatabase/Tcellepitopes.htm)
・Immune epitope database and analysis resource(http://beta.immuneepitope.org/intermediateQueryStart.do?dispatch=startIntermediateQuery, etc.)
【0008】
これに加えて、与えられたタンパク質の一次構造から、MHC I結合モチーフに基づいて抗原ペプチドを予測することも可能であり、データベースとしてSYFPEITHIが知られている(http://www.syfpeithi.de/scripts/MHCServer.dll/home.htm, HLA Peptide Binding Predictions; http://www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind/, etc.)。
【0009】
一方で、T細胞抗原ペプチドは、細胞のタンパク質品質管理機構の産物である。寿命が尽きたタンパク質に加えて、正常な立体構造をとることが出来なかったポリペプチドやタンパク質も、細胞のタンパク質品質管理機構によって分解される。近年、抗原ペプチドのかなりの部分は、様々な理由から正常な立体構造をとることが出来なかったDRiPs(defective ribosomal products)と呼ばれるポリペプチドに由来することが示唆されてきた(非特許文献8〜18参照)。DRiPsは合成後速やかに分解されるので、T細胞抗原ペプチドを速やかに免疫系、中でも細胞傷害性T細胞に提示することができる。このような細胞のタンパク質品質管理機構の存在を考慮すると、寿命の尽きたタンパク質はN末端からC末端まで全てのアミノ酸を含むのに対して、DRiPsは必ずしもC末端まで翻訳されているとは限らない。完全長のタンパク質には、N末端側のペプチドもC末端側のペプチドも等量含まれるが、DRiPsではC末端側のペプチドよりもN末端側のペプチドが多く含まれる。T細胞抗原ペプチド全体の中でDRiPs由来のペプチドの割合は正確にはわからないが、無視できない割合だと指摘されている。しかし、現在この事実は治療などに利用するT細胞抗原ペプチドの選択に殆ど考慮されてはいない。
【0010】
なお本発明に関連する先行技術文献情報としては以下のものがある。
【0011】
【特許文献1】WO 2006/025525
【特許文献2】WO 2006/025526
【非特許文献1】Yewdell, J.W., Reits, E., and Neefjes, J. Making sense of mass destruction: quantitating MHC class I antigen presentation. Nat. Rev. Immunol. 3, 952-961 (2003).
【非特許文献2】Cresswell, P., Ackerman, A., Giodini, A., Peaper, D.R., and Wearsch, P.A. Mechanisms of MHC class I-restricted antigen processing and cross-presentation. Immunol. Rev. 207, 145-147 (2005).
【非特許文献3】Groothuis, T. and Neefjes, J. The ins and outs of intracellular peptides and antigen presentation by MHC class I molecules. Curr. Top. Microbiol. Immunol. 300, 127-148 (2005).
【非特許文献4】Shastri, N., et al. All the peptides that fit: the beginning, the middle, and the end of the MHC class I antigen-processing pathway. Immunol. Rev. 207, 31-41 (2005).
【非特許文献5】Trombetta, E.S. and Mellman, I. Cell biology of antigen processing in vitro and in vivo. Annu. Rev. Immunol. 23, 975-1028 (2005).
【非特許文献6】Loureiro, J. and Ploegh, H.L. Antigen presentation and the ubiquitin-proteasome system in host-pathogen interactions. Adv. Immunol. 92, 225-305 (2006).
【非特許文献7】Janeway, C., Travers, P., Walport, M., and Shlomchik, M. Immunobiology: The Immune system in Health and Disease 5th edn. Garland Press, New York (2001).
【非特許文献8】Reits, E.A., Vos, J.C., Gromme, M., and Neefjes, J. The major substrates for TAP in vivo are derived from newly synthesized proteins. Nature 404, 774-778 (2000).
【非特許文献9】Schubert, U., et al. Rapid degradation of a large fraction of newly synthesized proteins by proteasomes. Nature 404, 770-774 (2000).
【非特許文献10】Khan, S., et al. Neosynthesis is required for the presentation of a T cell epitope from a long-lived viral protein. J. Immunol. 167, 4801-4804 (2001).
【非特許文献11】Yewdell, J.W., Schubert, U., and Bennink, J.R. At the crossroads of cell biology and immunology: DRiPs and other sources of peptide ligands for MHC class I molecules. J. Cell Sci. 114, 845-851 (2001).
【非特許文献12】Princiotta, M.F., et al. Quantitating protein synthesis, degradation, and endogenous antigen processing. Immunity 18, 343-354 (2003).
【非特許文献13】Voo, K.S., et al. Evidence for the presentation of major histocompatibility complex class I-restricted Epstein-Barr virus nuclear antigen 1 peptides to CD8+ T lymphocytes. J. Exp. Med. 199, 459-470 (2004).
【非特許文献14】Qian, S.B., Princiotta, M.F., Bennink, J.R., and Yewdell, J.W. Characterization of rapidly degraded polypeptides in mammalian cells reveals a novel layer of nascent protein quality control. J. Biol. Chem. 281, 392-400 (2006).
【非特許文献15】Qian, S.B., et al. Tight linkage between translation and MHC class I peptide ligand generation implies specialized antigen processing for defective ribosomal products. J. Immunol. 177, 227-233 (2006).
【非特許文献16】Yewdell, J.W., and Nicchitta, C.V. The DRiP hypothesis decennial: support, controversy, refinement and extension. Trends Immunol. 270, 368-373 (2006).
【非特許文献17】Eisenlohr, L.C., Huang, L., and Golovina, T.N. Rethinking peptide supply to MHC class I molecules. Nat. Rev. Immunol. 7, 403-10 (2007).
【非特許文献18】Qian, S.B., et al. Fusion proteins with COOH-terminal ubiquitin are stable and maintain dual functionality in vivo. J.Biol. Chem. 277, 38818-38826 (2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞ペプチド候補の選択方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
MHC I-細胞抗原ペプチド複合体はその時点で細胞内で合成されているタンパク質の情報を提示し、免疫学的な自己のマーカーとして機能する。従って、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞ペプチドの種類と量を明らかにすることは、免疫系を活用した医療にとって、重要な課題である。本発明者らは、この課題を解決するために鋭意研究を行った。即ち、具体的には、上述のT細胞抗原ペプチドの種類の差異の存在を検証するために、抗原となるタンパク質の発現量とその抗原タンパク質に由来するT細胞抗原ペプチドの提示量の相関関係を定量的に解析した。その結果、本発明者らは、N末端側に位置するT細胞抗原エピトープは同じ抗原エピトープでもC末端側に位置する場合に比べて、効率良くMHC I分子上に提示されるという、MHC Iを介した抗原提示の新たな法則を見いだした。
【0014】
本発明ではMHC Iエピトープ(pOV8)を含む融合蛍光タンパク質の発現とMHC I-pOV8複合体の生成を同時に測定して、タンパク質の発現とそのタンパク質に由来する抗原の提示の相関性を直接比較した。その結果、抗原提示効率が、タンパク質上の抗原ペプチドの位置に依存することを明らかにした(図1)。このN末端優位性は細胞種、抗原ペプチドを載せているタンパク質の種類、IFN-γによる抗原提示機構の変換、抗原ペプチド自身の種類等に依らず観察された(図1および図2)。本発明者らの結果は、このN末端優位性が、MHC Iを介した抗原提示の過程で一般的に見られる現象である可能性を強く示唆している。
【0015】
即ち、本発明は、「T細胞癌抗原の資格」について、現在まで欠落していた情報を補うものである。T細胞癌抗原の資格としては、以下の3点が満たされている必要がある;
(1)MHCクラスI分子に(かなり強く)結合すること、
(2)MHCクラスI分子とそのT細胞抗原ペプチド複合体がナイーブなCD8陽性T細胞を有効に活性化できること、
(3)癌細胞がそのMHCクラスI分子に結合したT細胞抗原エピトープを発現していること。
【0016】
このうち、(2)については、WO 2006/025525およびWO 2006/025526によってサポートされている。しかし、(1)および(2)だけでは癌抗原エピトープが選択されても、その抗原が癌細胞の表面に表出されるかどうかは不明であった。しかし本発明によって、癌細胞の表面に表出されるペプチド候補を選択することが可能となった。
即ち本発明は、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の選択方法に関する。具体的には、以下の発明を提供するものである。
【0017】
〔1〕 以下の工程(a)および(b)を含む、被検ペプチドがMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であるか否かを判定する方法であって、工程(b)で測定されたアミノ酸配列の位置が、タンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内である場合に、該被検ペプチドはMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であると判定される方法;
(a)被検ペプチドとして、MHCクラスI分子に結合するT細胞抗原ペプチドを提供する工程、
(b)工程(a)で提供されたT細胞抗原ペプチドを有するタンパク質のアミノ酸配列における当該ペプチドのアミノ酸配列の位置を測定する工程。
〔2〕 以下の工程(c)および(d)を含む、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の選択方法;
(c)複数の被検ペプチドについて、〔1〕に記載の方法によって、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であるか否かを判定する工程、
(d)前記工程(c)において、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であると判定された被検ペプチドを選択する工程。
〔3〕 被検ペプチドが癌特異的なタンパク質の部分ペプチドである、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕 以下の工程(e)〜(g)を含む、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の選択方法;
(e)所望のタンパク質のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、MHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(f)工程(e)で特定されたアミノ酸配列の、前記タンパク質のアミノ酸配列における位置を測定する工程、
(g)工程(f)で測定された位置が、前記タンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内であるアミノ酸配列からなるペプチドを選択する工程。
〔5〕 所望のタンパク質の230アミノ酸以内のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、MHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程を含む、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、前記工程において特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、MHCクラスI分子と結合し癌細胞細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法。
〔6〕 所望のタンパク質が癌特異的なタンパク質である、〔4〕または〔5〕に記載の方法。
〔7〕 癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、工程(l)で結合が検出された場合に、工程(i)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法;
(h)癌特異的なタンパク質を同定する工程、
(i)工程(h)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列から、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合し癌細胞の表面に表出されると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(j)工程(i)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる工程、
(k)工程(j)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞を接触させる工程、
(l)工程(j)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する工程。
〔8〕 癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、工程(q)で結合が検出された場合に、工程(n)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法;
(m)癌特異的なタンパク質を同定する工程、
(n)工程(m)で同定されたタンパク質の230アミノ酸以内のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(o)工程(n)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる工程、
(p)工程(o)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性細胞を接触させる工程、
(q)工程(o)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する工程。
〔9〕 癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、工程(x)で結合が検出された場合に、工程(u)で選択されたアミノ酸配列からなるペプチドは、癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法;
(r)癌特異的なタンパク質を同定する工程、
(s)工程(r)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(t)工程(s)で特定されたアミノ酸配列の、工程(r)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列における位置を測定する工程、
(u)工程(t)で測定された位置が、工程(r)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内であるアミノ酸配列を、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるペプチドのアミノ酸配列として選択する工程、
(v)工程(u)で選択されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる工程、
(w)工程(v)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞を接触させる工程、
(x)工程(v)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する工程。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、実際の生体反応で起こっている過程を踏まえたT細胞抗原ペプチドの選択につき、実際にCTLと反応するMHC Iエピトープの選択の試行錯誤の回数を減少させることができる。たとえば、本発明者らは、このN末端の優位性は、少なくとも癌特異的タンパク質由来の抗原において成立すると考えている。本発明者らの結果は、MHC Iを介した抗原提示におけるT細胞抗原エピトープ候補のタンパク質上での位置の重要性を指摘するものである。
【0019】
また従来の癌ワクチンに含まれるペプチドは、癌細胞特異的なT細胞抗原ペプチドであったが、そのT細胞抗原ペプチドが癌細胞上に豊富に発現されているか否かについてほとんど考慮されていなかった。
【0020】
一方、本発明はMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補を同定するものである。同定されたT細胞抗原ペプチド候補は、より有効な作用を有する癌ワクチンの開発に利用することができる。
【0021】
〔発明を実施するための形態〕
本発明は、被検ペプチドがMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であるか否かを選択する方法に関する。
【0022】
即ち、本発明は以下の工程(a)および(b)を含む、被検ペプチドがMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であるか否かを判定する方法を提供する;
(a)被検ペプチドとして、MHCクラスI分子に結合するT細胞抗原ペプチドを提供する工程、
(b)工程(a)で提供されたT細胞抗原ペプチドを有するタンパク質のアミノ酸配列における当該ペプチドのアミノ酸配列の位置を測定する工程。
【0023】
本発明の判定方法における「癌細胞の表面に表出される」とは、「癌細胞の表面に発現される」、または「癌細胞の表面に提示される」とも表現することができる。
【0024】
上記本発明の判定方法においては、まず被検ペプチドとしてMHCクラスI分子に結合するペプチドを提供する。
【0025】
本発明に用いられる「被検ペプチド」は、隣接するアミノ酸残基のα-アミノ基とカルボキシル基間のペプチド結合により相互に結合した線状のアミノ酸の分子鎖である。また、無電荷又は塩の形態であってもよい。
【0026】
また、MHCクラスI分子に結合するための疎水性アミノ酸(MHCクラスI分子結合モチーフ)を有するペプチドであればよい。MHCクラスI分子結合モチーフは、MHCクラスI分子のハプロタイプによってのみ限定される。ハプロタイプによって結合モチーフは異なる。また本発明に用いられる被検ペプチドは、ユビキチン・プロテアソーム系および小胞体のエンドペプチダーゼで分解・切断の対象となり得るものであればよく、種類や大きさは問わない。このT細胞抗原ペプチド候補のアミノ酸長は多くの場合8〜11アミノ酸である。本発明においては、ユビキチン・プロテアソーム系および小胞体のエンドペプチダーゼで分解・切断され、MHCクラスI分子と結合するペプチドを「T細胞抗原ペプチド」と呼ぶ。
【0027】
また一般的には、ポリペプチド鎖から構成されている分子のうち、分子量が5,000以上のものをタンパク質、5,000以下のものをペプチドと呼んで区別することが多いとされているが(東京化学同人、化学大辞典)、ユビキチン・プロテアソーム系および小胞体のエンドペプチダーゼの分解・切断を受ける限り、分子量にはこだわらず、本発明の被検ペプチドに含まれる。即ち、本発明の被検ペプチドには、所謂「オリゴペプチド」、「ポリペプチド」も含まれる。
【0028】
また被検ペプチドは特に制限されず、例えば、CTLによって認識されるタンパク質のペプチドを例示することができる。CTLはMHCクラスI分子とT細胞抗原ペプチドの複合体を認識する。MHCクラスI分子は膜タンパク質であり、複合体も膜タンパク質であるが、本発明の被検ペプチドは膜タンパク質のペプチドに制限されず、例えば癌細胞の表面タンパク質、サイトゾルのタンパク質、分泌タンパク質、ミトコンドリアタンパク質等の断片等も用いることができる。他の態様として、単純タンパク質のペプチド、あるいは核タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、色素タンパク質、金属タンパク質等の複合タンパク質のペプチド等も挙げることができる。
【0029】
また本発明の被検ペプチドは、様々な理由から正常な立体構造をとることができなかったDRiPsと呼ばれるポリペプチドでもよい。本発明における被検ペプチドは、好ましくはT細胞癌抗原ペプチドである。
【0030】
本発明においては、MHCクラスI分子に結合して複合体を形成し、細胞表面に表出し、CTLなどのT細胞(のTCR)によって認識されるMHCクラスI分子とペプチド複合体におけるペプチド部分を「T細胞抗原エピトープ」と呼ぶ。癌細胞を含むすべての有核細胞の細胞内でMHCクラスI分子と結合したペプチドは、MHCクラスI分子に対する親和性の大きさに関わらず、一般的に細胞表面に表出される。この親和性の大きさは、そのT細胞抗原ペプチドがMHCクラスI分子に結合する量に反映される。なお、個体がもつT細胞のレパートリーは、T細胞分化の過程で、様々な選択を受けている。従って、癌細胞を含むすべての有核細胞の細胞内でMHCクラスI分子と結合し細胞表面に表出されたペプチドを認識するTCRを有するT細胞が必ず存在しているとは限らないため、細胞表面に表出されたMHCクラスI分子とT細胞抗原ペプチドの複合体は、T細胞に抗原として認識されない場合もある。
【0031】
なお本発明の「癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補」とは、抗原提示細胞(例えば樹状細胞)の表面に表出されるペプチド候補と一致するとは限らない。癌細胞の表面に発現するT細胞抗原ペプチドは、ダイレクトプレゼンテーションによって表示されるのに対し、抗原提示細胞の表面に提示されるT細胞抗原ペプチドはクロスプレゼンテーションによって発現するからである。CTL療法あるいは樹状細胞療法が成功するためには、そのT細胞抗原ペプチドが、ダイレクトプレゼンテーションによって癌細胞の表面に発現しており、またクロスプレゼンテーションによって抗原提示細胞によって提示される、という両方の条件を満たしていなければならない。つまり、ダイレクトプレゼンテーションおよびクロスプレゼンテーションという独立した二つのT細胞抗原処理のメカニズムによって、効率よく細胞膜に発現する(提示される)T細胞抗原ペプチドが、癌治療においてもっとも適した候補となるのである。
【0032】
本発明における被検ペプチドは、より好ましくは癌特異的なタンパク質の部分ペプチドである。「癌特異的なタンパク質」とは、正常細胞では発現せず、癌細胞のみで発現しているタンパク質、または正常細胞と比較して癌細胞で発現が増加しているタンパク質を意味する。なお、上記癌特異的なタンパク質には、部分ペプチドも含まれていてよい。
【0033】
また本発明における「MHCクラスI分子に結合するT細胞抗原ペプチド」とは、MHCクラスI分子に結合することが判明しているT細胞抗原ペプチド、あるいは、MHC I結合性ペプチド予測アルゴリズムにより、MHCクラスI分子に結合するペプチド候補であると同定されたT細胞抗原ペプチドを意味する。
【0034】
「MHCクラスI分子に結合することが判明しているT細胞抗原ペプチド」については、例えばMHCクラスI分子上に提示されている全てのペプチドを網羅したデータベースを用いて得ることができる。このようなデータベースとしては、例えばCancer Immunity Peptide Database(http://www.cancerimmunity.org/peptidedatabase/Tcellepitopes.htm)、Immune epitope database and analysis resource(http://beta.immuneepitope.org/intermediateQueryStart.do?dispatch=startIntermediateQuery)等が挙げられる。
【0035】
また「MHC I結合性ペプチド予測アルゴリズム」とは、被検ペプチドについて、MHCクラスIに結合するペプチドであるか否か、あるいはどの程度結合するかを予測するアルゴリズムを指す。本発明のアルゴリズムには、該アルゴリズムを用いたコンピューターソフトウェアも含まれる。例えば、SYFPEITHI(http://www.syfpeithi.de/scripts/MHCServer.dll/home.htm)、HLA Peptide Binding Predictions(http://www-bimas.cit.nih.gov/molbio/hla_bind)、Bioinformatics & Molecular Analysis Section(BIMAS, http://bimas.dcrt.nih.gov)等のソフトウェアを挙げることができる。
【0036】
本方法においては、次いで、上述のようにMHCクラスI分子に結合すると予測され提供された被検ペプチドを有するタンパク質のアミノ酸配列において、当該ペプチドのアミノ酸配列の位置を測定する。
【0037】
ペプチド位置の測定は、当業者に公知の方法を用いて行うことができる。例えば、MHCクラスI分子に結合すると予測され提供された被検ペプチドを有するタンパク質のアミノ酸配列と、当該ペプチドのアミノ酸配列を比較することによって測定することができる。
【0038】
本方法においては、次いで、上記測定によって測定されたアミノ酸配列が、タンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内に位置するかどうかを測定する。230アミノ酸以内に位置する場合、該被検ペプチドはMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であると判定される。
【0039】
本発明においては、当該ペプチドのアミノ酸配列は、当該ペプチドを有するタンパク質のアミノ酸配列のN末端に近いほうが原理的には望ましい。なぜなら、例えばDRiPsの場合にはN末端から230番目のアミノ酸よりも、よりN末端側でタンパク質翻訳が中断されて生成されたものも含まれるからである。しかし、実際には、当該ペプチドの配列がN末端から230アミノ酸以内に位置すれば、本発明が要求する条件を満たしている。例えばN末端側から230アミノ酸以内であれば、その中ではN末端側に位置していてもよく、C末端側に位置していても同等にT細胞癌抗原ペプチドとして認めてよい。
【0040】
本発明者らによって、MHCクラスI分子に結合するペプチドは翻訳が途中で中断されたりした不完全な、合成されたばかりのタンパク質(DRiPsと呼ばれるポリペプチド)に由来することが多いことが判明した。つまり、上記「230アミノ酸」という数値は、全タンパク質のアミノ酸配列の平均長が460アミノ酸長であるが(EMBLE)、該タンパク質から切り出されるペプチドがN末端側の230アミノ酸以内に含まれる場合の方が、相対的にC末端側の230アミノ酸以降に含まれる場合よりも多いと考えられるために設定された数値である。実際に、大部分の普通の癌抗原はN末端から230アミノ酸以内にある。
【0041】
なお、被検ペプチドを有するタンパク質のアミノ酸配列の長さは、230アミノ酸以上であっても、あるいは230アミノ酸未満である場合であっても、よりN末端側に近いペプチドが優先的にMHCクラスIに結合し、細胞膜に表示されるという法則には変わりはない。
【0042】
本発明における「タンパク質のアミノ酸配列のN末端」とは、翻訳によって生成したタンパク質の一番N末端のアミノ酸残基と定義することができる。それには、分泌タンパク質や膜タンパク質におけるシグナル配列が含まれていてよい。また、一般的に、「タンパク質のアミノ酸配列のN末端」とは、翻訳開始コドンに相当するメチオニンであることが多いが、これに限定されない。
【0043】
なお、T細胞抗原となるペプチドについては、一般的にC末端が特定の疎水性アミノ酸としてプロテアソームによって切り出され、T細胞抗原ペプチドのN末端はアミノペプチダーゼなどによってトリミングされ、MHCクラスI分子に結合しやすい長さのものが選択されるため、N末端のアミノ酸残基を特定することは困難である。
【0044】
また本発明は、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の選択方法を提供する。即ち本発明は、以下の工程(c)および(d)を含む、被検ペプチドがMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の選択方法を提供する;
(c)複数の被検ペプチドについて、上述の判定方法によって、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であるか否かを判定する工程、
(d)前記工程(c)において、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であると判定された被検ペプチドを選択する工程。
【0045】
上記本発明の選択方法においては、まず複数の被検ペプチドについて、上記本発明の判定方法によって、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であるか否かを判定する。次いで、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるペプチド候補であると判定された被検ペプチドを選択する。
【0046】
また本発明は、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の選択方法を提供する。即ち本発明は、以下の工程(e)〜(g)を含む、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の選択方法を提供する;
(e)所望のタンパク質のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、MHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(f)工程(e)で特定されたアミノ酸配列の、前記タンパク質のアミノ酸配列における位置を測定する工程、
(g)工程(f)で測定された位置が、前記タンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内であるアミノ酸配列からなるペプチドを選択する工程。
【0047】
上記本発明の選択方法においては、まず所望のタンパク質のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行する。そして該アルゴリズムの実行によって、MHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する。
【0048】
本選択方法においては、次いで、上述のようにして特定されたアミノ酸配列の、前記タンパク質のアミノ酸配列における位置を測定する。
【0049】
本選択方法においては、さらに上述の測定によって測定された位置が、前記タンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内であるアミノ酸配列からなるペプチドを選択する。このようにして選択されたペプチドは、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補となる。
【0050】
また本発明は、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法を提供する。
【0051】
本同定方法においては、まず所望のタンパク質の230アミノ酸以内のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、MHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する。特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される。
【0052】
なお上述の「所望のタンパク質」とは、どのようなタンパク質でも構わないが、癌のT細胞免疫療法を考える上では、好ましくは癌特異的なタンパク質である。
【0053】
また本発明は、ワクチンとして用いられるペプチド候補などの同定方法を提供するだけでなく、さらに、癌細胞が実際にそのT細胞抗原エピトープを発現していることを保証するものである。すなわち、仮に、該当ペプチド・ワクチンによってCTL活性化が誘導されても、そのCTLが認識するT細胞抗原エピトープを癌細胞が十分量発現していなければ、治療は有効に作用しない。本発明の要点は、癌細胞がより多く発現するT細胞抗原エピトープを予測するところにある。
【0054】
癌の免疫療法の一つに、能動免疫療法であるワクチン療法が挙げられる。ワクチン療法としては、例えば、樹状細胞(DC)を用いた免疫療法が知られている。DCを用いた免疫療法(DC療法)とは、DCを活性化させ有効な抗腫瘍免疫反応を起こすために、DCに腫癌特異的なT細胞抗原エピトープをMHC I上に提示させ、これを認識するCTLを活性化して、癌細胞を駆除するものである。具体的には、
1.患者の腫瘍特異的な抗原を同定する、
2.そのタンパク質のアミノ酸配列と患者のMHC Iハプロタイプから、T細胞抗原エピトープを推定する、
3.推定されたMHC I-T細胞エピトープ複合体を特異的に認識するTCRを持つT細胞の存在を、該当ペプチドをパルスしたMHCテトラマーによって確認する、
4.最後に、患者由来のDCにそのT細胞抗原エピトープをペプチドとしてパルスして、あるいはT細胞抗原エピトープを含む抗原タンパク質を樹状細胞に取り込ませて、患者に戻す、
という、多段階的方法がとられる。
【0055】
上記DC療法に用いられる樹状細胞は、未成熟な樹状細胞を用いることが好ましい。樹状細胞は未成熟なときに、外部から抗原をよく取り込み、成熟するに従って、取り込んだ抗原を強く提示するようになるからである。このような樹状細胞は、骨髄あるいは末梢血のCD34陽性前駆細胞あるいは単球から、GM-CSFを用いて誘導する方法、および末梢血単核球により直接分離する方法等により調製することができる。
【0056】
なお癌細胞に有効なエフェクター細胞はCD8陽性の細胞傷害性T細胞(CTL)細胞であるため、DC療法でもCTLを活性化することが重要である。
【0057】
癌の免疫療法の他の態様としては、受動免疫療法である活性化リンパ球療法が知られている。活性化リンパ球療法としては、例えば細胞傷害性T細胞(CTL)療法、腫瘍組織浸潤リンパ球(TIL)療法等が挙げられる。
【0058】
また癌の免疫療法の他の態様としてペプチドワクチン療法が挙げられる。この療法は、ペプチドを薬剤として投与する方法である。
【0059】
本発明は、上記免疫療法に有効なワクチンとして用いられるペプチド候補および同ペプチド配列をN末端から230番目アミノ酸以内に含む抗原タンパク質を同定するものである。言い換えれば、DC療法、CTL療法、TIL療法、ペプチドワクチン療法に用いられる、T細胞抗原ペプチド候補を同定するものである。
【0060】
即ち本発明は、以下の工程(l)で結合が検出された場合に、工程(i)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法を提供する;
(h)癌特異的なタンパク質を同定する工程、
(i)工程(h)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列から、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合し癌細胞の表面に表出されると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(j)工程(i)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる工程、
(k)工程(j)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞を接触させる工程、
(l)工程(j)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する工程。
【0061】
本同定方法においては、まず、癌特異的なタンパク質を同定する。癌特異的なタンパク質の同定は、公知のトランスクリプトームあるいはプロテオーム解析による方法、例えばDNAマイクロアレイ解析による方法、プロテインチップシステムを用いた解析方法、2次元ゲル電気泳動方法等で行うことができる。
【0062】
次いで、同定されたタンパク質のアミノ酸配列から、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合し癌細胞の表面に表出されると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する。
【0063】
本同定方法においては次いで、特定されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる。次いで、形成させた複合体および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞を接触させ、その結合を測定する。CD8陽性T細胞と複合体との結合の測定は、公知の方法、すなわちMHC-テトラマーアッセイを用いて行うことができる。その他、活性化されたCD8陽性T細胞の数をエリスポットアッセイによって(数を測定することによって)定量したり、直接細胞傷害性の強さをクロムリリースアッセイによって測定したり、細胞内サイトカイン染色法によってCD8陽性細胞の活性化する程度を判定することなどができる(Current Protocols in Immunology, Edited by: John E. Coligan, Ada M. Kruisbeek, David H. Margulies, Ethan M. Shevach, Warren Strober, 6.19 ELISPOT Assay to Detect Cytokine-Secreting Murine and Human Cells, 6.24 Detection of Intracellular Cytokines by Flow Cytometry, published by John Wiley & Sons, Inc.)。
【0064】
さらに、上述の結合が検出された場合に、前記特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、前記癌に対するワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される。
【0065】
また本発明は、ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法の別の態様を提供する。即ち本発明は、ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、工程(q)で結合が検出された場合に、工程(n)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法を提供する;
(m)癌特異的なタンパク質を同定する工程、
(n)工程(m)で同定されたタンパク質の230アミノ酸以内のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(o)工程(n)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる工程、
(p)工程(o)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性細胞を接触させる工程、
(q)工程(o)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する工程。
【0066】
本同定方法においてはまず、癌特異的なタンパク質を同定する。次いで、同定されたタンパク質の230アミノ酸以内のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する。次いで、特定されたアミノ酸配列からなるペプチド、および癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる。次いで、形成させた複合体および癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性細胞を接触させる。さらに上記複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する。
【0067】
ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法のさらに別の態様として、以下の方法が挙げられる。即ち本発明は、ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、工程(x)で結合が検出された場合に、工程(u)で選択されたアミノ酸配列からなるペプチドは、癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法を提供する;
(r)癌特異的なタンパク質を同定する工程、
(s)工程(r)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(t)工程(s)で特定されたアミノ酸配列の、工程(r)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列における位置を測定する工程、
(u)工程(t)で測定された位置が、工程(r)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内であるアミノ酸配列を、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるペプチドのアミノ酸配列として選択する工程、
(v)工程(u)で選択されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる工程、
(w)工程(v)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞を接触させる工程、
(x)工程(v)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する工程。
【0068】
本方法においては、まず癌特異的なタンパク質を同定する。次いで、同定されたタンパク質のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する。次いで、特定されたアミノ酸配列について、上記同定された癌特異的なタンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内であるアミノ酸配列における位置を測定する。次いで、測定された位置が、上記同定された癌特異的なタンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内であるアミノ酸配列を、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるペプチドのアミノ酸配列として選択する。次いで、このようにして選択されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる。次いで、形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞を接触させる。さらに、前記形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する。そして結合が検出された場合に、癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるペプチドは、癌に対するワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定する。
【0069】
さらに本発明は、上述のワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補による免疫療法も提供するものである。即ち、本発明の方法によって得られるペプチド候補が提示された抗原提示細胞は、能動免疫療法において有効なワクチンとして用いることができるものと考えられる。なお、なぜ「有効な」という形容詞を付けるかというと、免疫療法の過程で、該当するMHC I T細胞抗原エピトープを認識するCTLが誘導されても、そのCTLが標的とする癌細胞に該当するMHC I T細胞抗原エピトープが発現されていない場合が少なくないからである。もちろん、そのような場合、免疫療法は成功しない。ペプチド候補が提示された抗原提示細胞とは、
1. 適当な培養液中で、抗原提示細胞とペプチド候補を30分から1時間混合したペプチド候補パルス抗原提示細胞、
2. 適当な培養液中で、抗原提示細胞に該当するペプチド候補を含むT細胞抗原タンパク質を取り込ませた、ペプチド候補提示細胞、
3. ペプチド候補をコードする核酸を用い、遺伝子導入等で抗原提示細胞にペプチド候補を提示された細胞、
4. 人工的に作製した抗原提示能を有する人工抗原提示細胞、等を意味する。
【0070】
抗原提示細胞とは、例えば、樹状細胞、B細胞、マクロファージ、ある種のT細胞等を示すが、該当ペプチド候補が結合し得るMHCクラスI分子をその表面上に発現する細胞であって、CTL刺激能を有するものを意味する。人工的に作製した抗原提示能を有する人工抗原提示細胞とは、例えば脂質2重膜やプラスティックあるいはラテックス等のビーズに、MHCクラスI分子とペプチド候補との複合体を固定し、CTLを刺激し得るCD80、CD83、CD86等の共刺激分子を固定するか、もしくは、共刺激分子と結合するT細胞側のリガンドであるCD28に対してアゴニスティックに作用する抗体等を固定することで作製可能である(Oelke M, Maus MV, Didiano D, June CH, Mackensen A, Schneck JP., Ex vivo induction and expansion of antigen-specific cytotoxic T cells by HLA-Ig-coated artificial antigen-presenting cells., Nat Med. 2003;9:619-624, Walter S, Herrgen L, Schoor O, Jung G, Wernet D, Buhring HJ, Rammensee HG, Stevanovic S., Cutting edge: predetermined avidity of human CD8 T cells expanded on calibrated MHC/anti-CD28-coated microspheres., J Immunol. 2003;171:4974-4978, Oosten LE, Blokland E, van Halteren AG, Curtsinger J, Mescher MF, Falkenburg JH, Mutis T, Goulmy E., Artificial antigen-presenting constructs efficiently stimulate minor histocompatibility antigen-specific cytotoxic T lymphocytes., Blood. 2004;104:224-226)。
【0071】
本発明の方法によって得られるT細胞抗原ペプチド候補を含むワクチンは、当分野において公知の方法を用いて調製することができる。例えば、かかるワクチンの一例としては、本発明のT細胞抗原ペプチド候補を有効成分として含有する注射剤又は固形剤等の薬剤が挙げられる。
【0072】
免疫療法には、上述の能動免疫療法の他に、受動免疫療法が含まれる。受動免疫療法としては例えば、CTL療法、TIL療法等が挙げられる。
【0073】
本発明の方法によって得られるT細胞抗原ペプチド候補を用いたCTL療法とは、具体的には、本発明の方法によって得られるT細胞抗原ペプチド候補もしくは該ペプチド候補を健常人あるいは癌患者に投与し、癌に特異的なCTLを体内で増殖させることによって行うことができ、癌の予防あるいは治療に役立てることができるものと考えられる。
【0074】
なお免疫療法において使用するT細胞抗原ペプチド候補は1種のみの使用であっても、あるいはワクチンの使用目的に応じて2種以上のT細胞抗原ペプチド候補を組み合わせ、混合して使用することもできる。従って本発明は、本発明のT細胞抗原ペプチド候補を有効成分として含む、癌を治療又は予防するためのワクチンを提供するものである。
【0075】
なお、本発明において「ワクチン」とは、「能動免疫療法剤」、「免疫治療剤」、「癌治療剤」と表現することも可能である。また、本発明において「治療剤」は、「医薬品」、「医薬組成物」、「治療用医薬」等と表現することもできる。
【0076】
また本発明には上記CTL療法に用いるための、癌特異的CTLの製造方法も含まれる。
また本発明における癌には、血液や造血組織の病変(白血病やリンパ腫)、および、固形腫瘍が含まれる。固形腫瘍には癌腫および肉腫が含まれる。具体的には、メラノーマ、乳癌、あるいは前立腺癌などが挙げられるが、これらは一例に過ぎず制限されるものではない。
【0077】
なお、本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0079】
〔1〕
pOV8-YFPとYFP-pOV8をDC2.4細胞(図1a:2、3列目)に一過的に発現させ、各細胞のYFP蛍光強度とKb/pOV8発現量を25D1.16抗体を使って測定した。pOV8-YFPを発現する細胞とYFP-pOV8を発現する細胞について、横軸にYFP蛍光強度、縦軸にKb/pOV8発現量をプロットした。
【0080】
発現手法:pOV8(SIINFEKL/配列番号:1)のN末端とC末端にそれぞれ5 flanking amino acidsを付与しYFPに融合させたタンパク質(LEQLESIINFEKLTEWTS-YFPあるいはYFP-LEQLESIINFEKLTEWTS)として発現させた。アミノ酸配列LEQLESIINFEKLTEWTSを配列番号:2に示す。
【0081】
発現に使った細胞:図1a1行目;DC2.4(H-2Kbマウス樹状細胞株)、図1a2行目;EL4(H-2Kbマウス白血病細胞株)、図1a3行目;MC57G(H-2Kbマウス・ファイブロザルコーマ細胞株)である。
【0082】
結果を図1aに示す。X軸は発現させたYFPの蛍光強度、Y軸は抗体25D1.16で測定した、Kb/pOV8の発現量である。個々の点が、それぞれの細胞に相当する。
【0083】
それぞれのプロット群は、完全な直線ではないが右肩上がりの直線を示した。つまり、YFPの蛍光で測定した融合タンパク質の発現量と、25D1.16抗体で定量したH-2Kb/pOVAの提示量は正比例していた。2つのプロット群を重ね合わせたところ(図1a一番右の列)、pOV8-YFPの直線が、YFP-pOV8の直線より上になることが示された。つまり、同量のタンパク質(横軸の位置が同じである)が発現しているとき、pOV8-YFPのほうが、YFP-pOV8よりも、Kb/pOV8の発現量が大きいことがわかった。言い換えれば、エピトープ(pOV8)はYFPのN末端側にあるとき、YFPのC末端側にあるときに比較して、H-2Kb分子上に発現されやすいことを示している。以後、この傾向を「N末端エピトープの優位性」とよぶ。
【0084】
この結果は、3種類の細胞株(DC2.4、EL4、MC57G)でまったく同じだった。
【0085】
〔1−2〕
またコントロール実験として、次の事実を確認した。
(1)YFPのみを発現させたとき、プロットは横軸方向にのみ展開された(図1a一番左の列)。
(2)OVAを発現させたとき、プロットは縦軸方向にのみ展開された。(図1b一番左の列)。
【0086】
〔1−3〕
さらにpOV8-YFPとYFP-pOV8のDC2.4細胞での発現量は、YFPをウェスタンブロットによって定量したところ、全タンパク質量当たりほぼ同量であった(図7a)。
この結果は、上記のpOV8抗原発現の差が、タンパク質の発現量の差によるものではないことを示している。
【0087】
〔1−4〕
さらにYFP、pOV8-YFP、YFP-pOV8をそれぞれDC2.4細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション効率が同じであることを確認し、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシイミドを加えてインキュベーションし、指定した時間ごとに細胞を分離し、細胞抽出液を調製した。細胞抽出液中の同量のタンパク質量をSDS-PAGEで分けて、抗YFP抗体によってウェスタンブロットを行った。
【0088】
その結果、細胞内のpOV8-YFPとYFP-pOV8はほぼ同じ速度で分解されることが示された。少なくとも、pOV8-YFPの分解がYFP-pOV8の分解より早いことはなかった。この結果は、エピトープ提示の差は、細胞に発現しているbulkの両タンパク質の安定性の違いに基づくものでないことが明らかとなった(図7b)。
【0089】
〔2〕N末端エピトープ優位性の一般性(その1)
pOV8の代わりに全長OVAをYFPに融合させた場合について検証した。
OVA-YFPとYFP-OVAをDC2.4細胞に一過的に発現させ、それぞれの細胞のYFP蛍光強度とKb/pOV8発現量を25D1.16抗体で測定した。両プロットを重ね合わせたところ、OVAをYFPのN末端側に融合させた場合のほうが、C末端側に融合させた場合よりも、pOV8のH-2Kb上への提示が多かった(図1b一番右の列)。
【0090】
〔3〕N末端エピトープ優位性の一般性(その2)
YFPの代わりに別のタンパク質をpOV8に融合させた場合について検証した。
【0091】
〔3−1〕
pOV8-Azamigreen(AG)とAzamigreen-pOV8をDC2.4細胞に一過的に発現させ、それぞれの細胞のAzamigreen蛍光強度とKb/pOV8発現量を25D1.16抗体で測定した。pOV8-AGを発現する細胞とAG-pOV8を発現する細胞の数について、X軸にAzamigreen蛍光強度、Y軸にKb/pOV8発現量をプロットした。
【0092】
結果、YFP融合タンパク質の結果と同様に、pOVAはAzamigreenタンパク質のN末端にあるほうが、C末端に位置するよりも、H-2Kb/pOV8の発現がよかった(図1c)。
【0093】
〔3−2〕
さらにYFPの代わりにYFP-GSTを使って実験した。この場合、次の点に留意した。
(1)GSTにはH-2Kbへの結合が、pOV8やYFP中の配列に比較してより強いエピトープの存在が示唆されている(データベースによる)。
(2)GSTは蛍光タンパク質ではないので、細胞内発現をモニターするために、YFP-GST融合タンパク質を使った。
【0094】
結果は、pOV8をYFP-GSTのN末端側に融合させた場合(pOV8-YFP-GST)が、C末端側に融合させた場合(YFP-GST-pOV8)よりも、pOV8の提示が強かった(図1d一番右の列)。つまり、N末端エピトープ優位性はこの場合も成立していることが示された。なお、GSTにはH-2Kbに強く結合するエピトープ配列が多いために、それらとの競合によって、pOV8の提示が弱められていたが、N末端エピトープ優位性には影響を与えなかった。
【0095】
〔3−3〕
さらにYFPの代わりに別の蛍光タンパク質Kaedeを使って実験した。pOV8-KaedeとKaede-pOV8をそれぞれDC2.4細胞に発現させ、H2-Kb/pOV8の提示量を調べた。この場合も、pOV8はKaedeのN末端側に融合して発現させたほうが、C末端側に融合して発現させた場合よりも、H2-Kb/pOV8の発現量が高かった(data not shown)。
【0096】
〔4〕N末端エピトープ優位性の一般性(その3)
DC2.4以外の細胞を使った場合について検証した。
【0097】
〔4−1〕
発現させる細胞をEL4細胞(Tリンパ球系腫瘍細胞)に変え、〔1〕と同じ実験を行ったところ、DC2.4細胞の場合と同様に、pOV8-YFPのプロットがYFP-pOV8のプロットより、上に位置した。つまり、N末端エピトープ優位性はEL4細胞においても確認された(図1a中の行)。
【0098】
〔4−2〕
またOVA-YFPとYFP-OVAをそれぞれEL4細胞に発現させる実験を行ったところ、DC2.4細胞の場合(〔2〕の場合)と同様に、OVA-YFPを発現させたほうが、YFP-OVAを発現させた場合よりも、pOV8の提示が多かった。すなわち、N末端エピトープ優位性は維持されていた(図1b中の行)。
【0099】
〔4−3〕
さらにpOV8-AGとAG-pOV8の比較(上記〔3−1〕に相当する)を、EL4細胞について行った。
結果、pOV8-AGを発現させたほうが、AG-pOV8を発現させた場合よりも、pOV8の提示が多かった。すなわち、N末端エピトープ優位性は維持されていた(図1c中の行)。
【0100】
〔4−4〕
さらにpOV8-YFP-GSTとYFP-GST-pOV8の比較(上記〔3−2〕に相当する)を、EL4細胞について行った。
結果、pOV8-YFP-GSTを発現させたほうが、YFP-GST-pOV8を発現させた場合よりも、pOV8の提示が多かった。すなわち、N末端エピトープ優位性は維持されていた(図1d中の行)。
【0101】
〔4−5〕
さらに発現させる細胞をMC57G(fibrosarcoma tumor cell line)にして、上記〔4−1〕〜〔4−4〕に相当する実験を行った。
結果、同様に、pOV8がN末端側に位置するほうが、C末端側に位置するよりも、pOV8の提示が高かった。つまり、N末端エピトープ優位性は、MC57G細胞においても確認された(図1a、1b、1c、1dの各図の下行)。
【0102】
〔5〕
pOV8とH-2Kbへの結合を競合するエピトープについて検証した。
GSTタンパク質には、GST48およびGST111という配列が含まれており、これらはH2-Kbに強い親和性をもつことが知られている。
【0103】
これらのGSTエピトープとH2-Kb複合体を認識する抗体がないが、H2-Kb/GSTエピトープの発現量を間接的に推定することはできる。これらのGST配列がpOV8と共存すると、H2-Kbへの結合について競合すると考えられる。すなわち、細胞にpOV8とGSTタンパク質を同時に発現させると、H2-Kb/GSTエピトープの発現が多ければ、H2-Kb/pOV8の発現が減り、H2-Kb/GSTエピトープの発現が少なければ、H2-Kb/pOV8の発現が多くなると考えられる。したがって、H2-Kb/GSTエピトープが細胞表面に提示される量の大きさは、同時に発現させたH2-Kb/pOV8の量の減少によって推定できると考えられる(補足説明:DC2.4細胞にpOV8-YFPを取り込ませて、全体のH2-Kb分子の中、10分の1がH2-Kb/pOV8として発現したとする。次に、pOV8-YFP-GSTを取り込ませたとする。この場合、GST48やGST111がH2-Kbと複合体を形成する割合は、pOV8の発現がない場合、合わせて全体のH2-Kbの5分の1を占めたとする。すると、pOV8とGST由来のペプチドが共存した場合、単純計算では、H2-Kb/pOV8の割合は0.1/1.2=0.083になる。つまり、GST配列が共存することによってpOV8の発現の割合は0.1から0.083に減少する。この減少の割合は、GST由来の抗原ペプチドが多く発現すればするほど大きくなる)。この原理に基づいて、pOV8-YFP-GSTとpOV8-GST-TFPをそれぞれ発現させて、H2-Kb/pOV8の発現量を比較した。
【0104】
〔5−1〕
まずpOV8とGST48あるいはGST111が、H-2Kb結合を競合することを直接解析した。pOV8とGST48ペプチドを、合計が50μMになるように様々な比で混ぜ合わせ、DC2.4細胞液に加えた。これらのペプチドは細胞表面に発現しているH-2Kbに直接結合する(正確には、H-2Kbに弱い親和性で結合しているペプチドと入れ替わる)。25D1.16によってH-2Kb/pOV8の量を測定した。
結果、GST48の割合が増えるにしたがって、H-2Kb/pOV8の量が減った(図2a)。
【0105】
またpOV8のみを添加したとき(図2a一番左の列)に対し、GST48とpOV8の比が、1:9、5:5、9:1で混ぜたとき、H-2Kb/pOV8の量を測定した(図2a順次右へ)。図2a一番右の列はGST48だけを添加した場合である。この場合、両ペプチドエピトープが細胞膜上のすべてのH-2Kbに結合する他のペプチドと入れ替わるのではない(より強い親和性をもつペプチドとは入れ替わらない)ことに注意しておく必要がある。
またGST111ペプチドをpOV8と競合した結果を、図2a中の行に示した。
【0106】
さらにH2-Kbに強い親和性を持つ、VSVペプチドについて、同じように競合実験をした。その結果を図2a下の行に示した。
さらにGST48、GST111、VSV各ペプチドがpOV8のH2-Kbへの結合を阻害する程度を定量して、グラフに示した(図2b)。
【0107】
〔5−2〕
pOV8とGSTを同時に細胞に発現させると、ペプチドを直接細胞に添加した場合と同様に、H2-Kbへの結合で拮抗すると考えられたため、それを調べた。
図2c左図のプロットに見られるように、GSTをYFPのN末端側に融合して発現させたときのほうが、GSTをYFPのC末端側に融合させて発現させたときに比べて、H2-Kb/pOV8の発現が低い結果となった。つまり、GSTはYFPのN末端側に融合して発現させると、C末端側に融合して発現させた場合にくらべて、H2-Kbへの結合において、pOV8とより強く競合したことを示している。
【0108】
このことは、取りも直さず、GSTはYFPのN末端側に融合しているほうが、C末端側に融合している場合よりも、多くのGSTペプチドをH2-Kbに結合させていることを示している。すなわち、この場合もN末端エピトープの優位性が示された。この結果は、競合を受けるpOV8を最N末端に融合させたときも、pOV8を最C末端に融合させたとき(図2c右側の図)も、基本的に同じ結果であった。
EL4あるいはMC57C細胞を使っても基本的に同じ結果であった(data not shown)。
【0109】
〔6〕
細胞をIFNγで処理すると、MHCクラスI抗原の発現が増えることが知られている。上記H2-Kb/pOV8の発現に対し、pOV8の融合タンパク質内での位置(N末端かC末端か)が影響する傾向が、IFNγ処理によって変わるかどうかを調べた。
まずpOV8-YFPとYFP-pOV8を発現するDC2.4細胞をそれぞれIFNγ処理し、H2-Kb/pOV8の発現を25D1.16抗体で解析した。
【0110】
結果、図1e上の行がIFNγ処理なしの結果で、中の行がIFNγ処理した結果である。一番右側の列の図が示すように、IFNγの処理の有無にかかわりなく、pOV8-YFPを発現させたほうが、YFP-pOV8を発現させた場合に比較して、H2-Kb/pOV8の発現が高く、N末端エピトープ優位性が保たれていることが分かった。
【0111】
なお図1e下の行は、
・YFP単独(一番左側の列)、
・pOV8-YFP(左側から2番目の列)、
・YFP-pOV8(右側から2番目の列)
のそれぞれを発現させた細胞の結果を、IFNγ処理の"なし"と"あり"で比較したものであり、IFNγ処理しない場合のプロットを緑色に変換して重ね合わせたものである。pOV8-YFPを発現させた場合も、YFP-pOV8を発現させた場合のどちらも、IFNγ処理によって、H2-Kb/pOV8の発現が高くなったことが示された。
【0112】
細胞のIFNγ処理は、クラスI抗原の発現増加をもたらし、免疫学的にきわめて重要な意味が明らかにされてきた。N末端エピトープの優位性という法則は、IFNγ処理の有無の差と同程度の発現の違いをもたらすので、生体での抗原のダイレクトプレゼンテーションに関し、意味を持っているはずである。表1(H2-Kb/pOV8の細胞表面への発現に対する、IFNγ処理の効果とN末端優位性の効果の対比)にIFNγ処理によってクラスI分子とT細胞抗原ペプチド複合体が増加する割合と、抗原ペプチドがN末端に位置するほうがC末端に位置するよりも、クラスI分子とT細胞抗原ペプチド複合体が増加する割合の対比を示した。
【0113】
【表1】

【0114】
上記表1は、IFNγ処理した場合としなかった場合に、H-2Kb/pOV8の発現をpOV8-YFPとYFP-pV8について定量した結果を示したものである。表中の「Whole」は、YFPを発現しているすべての細胞についてのH2-Kb/pOV8発現量の総和を定量したものである。また、「at 102 fluorescent unit」は、102蛍光ユニット(102 fluorescent unit)のYFP量を発現している細胞についてのH2-Kb/pOV8発現量である。Wholeの場合(102蛍光ユニットの場合)、pOV8-YFPでもYFP-pOV8でも、IFNγ処理によって発現が約4倍(約3.2倍)に増えた。表1の下表は、N末端にエピトープがある場合とC末端にエピトープがある場合を比較した場合の結果である。すなわち、IFNγ処理の有無にかかわらず、wholeの場合(102蛍光ユニットの場合)、pOV8-YFPのほうが、YFP-pOV8に比べて約1.7倍(2.2倍)のH2-Kb/pOV8抗原の発現が認められた。
【0115】
〔7〕
pOV8エピトープ発現の時間経過を調べた。
【0116】
〔7−1〕
タイムコースを図3aに示した。DC2.4細胞にpOV8-YFPをトランスフェクションし、2時間後に細胞を洗い、余分のDNAを除いた。12時間インキュベートした後に、細胞を酸で洗い、細胞表面のH-2Kbに結合している大部分のペプチドを遊離させた(time 0)。その細胞を通常の条件で培養を続け、細胞表面へのH2-Kb/pOV8の発現を25D1.16抗体の結合によって測定した。培養は12時間まで行った。
【0117】
図3b上の行は、H2-Kb/pOV8の発現を見たものである。コントロール(Control)は酸で洗う前のH2-Kb/pOV8の発現である。酸で洗って、H2-Kb/pOV8の発現量が減り、それが時間とともに回復するのが分かった。
【0118】
図3b中の行は、時間とともに増えたH2-Kb/pOV8とtime 0のプロット(緑色)を重ね合わせたものである。細胞を培養するにつれて、H2-Kb/pOV8が発現してくるのが分かる。図3b下の行は、時間とともに増えたH2-Kb/pOV8と酸で洗う前(control)(緑色)とを重ねたものである。12時間培養すると、酸で洗う前と同じ程度の発現となったのがわかる。
【0119】
〔7−2〕
上記〔7−1〕と同じ実験を、YFP-pOV8を使って行った。
結果、酸で洗ったDC2.4細胞にpOV8の発現が回復してくる時間経過は、pOV8-YFPをトランスフェクトした場合と基本的には同じ結果であった(図3c)。
【0120】
〔7−3〕
さらに図3bと図3cの結果から、H2-Kb/pOV8の発現の回復を定量した。pOV8-YFPを発現するDC2.4細胞のH2-Kb/pOV8の量を100%としたときの、相対値で表した(図3d)。酸で洗ってから4時間で約50%のH2-Kb/pOV8の発現が回復し、12時間でcontrol細胞とほぼ同程度の発現にもどった。pOV8-YFPもYFP-pOV8の場合も同じであった。この結果はpOV8のH2-Kbへの提示が比較的速やかに生じていることを示している。
【0121】
H2-Kb/pOV8の発現は、時間依存的に起こり、12時間経つと、酸処理前のレベルにほぼ回復しているように見えた。しかし図3bの縦軸はlog表示であり、実際には、まだ完全に回復していない(図3dの回復カーブがsaturationを示さない理由)。
【0122】
〔8〕
H2-Kb/pOV8の発現に与える各種阻害剤の影響を調べた。実験のタイムコースは図4aに示した。DC2.4細胞にDNAをトランスフェクトし、2時間経過したところで、過剰のDNAを洗い、さらに12時間インキュベートした。細胞を酸で洗い、同時に指示された阻害剤を加えた。6時間たったところで、25D1.16抗体でH-2Kb/pOV8の発現量を測った。
【0123】
図4b上の行はpOV8-YFPを発現させた細胞である。結果は明白に、H2-Kb/pOV8の提示は、プロテアソーム阻害剤によって阻害され、ライソソーム酵素阻害剤(クロロキン:Choroloquin)によっては阻害されなかったことが示された。図4b中の行はYFP-pOV8を発現させた細胞である。図4b下の行は上の行と中の行のデータを重ね合わせたものである。結果、クロロキン存在下でも、コントロールと同様に、pOV8/YFPのほうがYFP/pOV8よりも抗原提示がよいことが示され、N末端エピトープ優位性が保たれていることが分かった。これらの結果は、細胞表面へのH2-Kb/pOV8の発現は、プロテアソームによるpOV8-YFPあるいはYFP-pOV8の分解が必要であり、リソソーム酵素による分解は不要であるという、従来の結果と一致していた。
【0124】
〔9〕
上記〔8〕の実験と同様に、他の阻害剤を使って実験を行った。
α-アマニチン(α-amanitinn)によってRNA合成を阻害したところ、H2-Kb/pOV8の発現は回復しなかった(図4c左から1列目)。またタンパク質合成を、アニソマイシン(anisomycin)あるいはエメチン(emetine)で阻害したところ、細胞内には抗原となるタンパク質が存在しているものの、H2-Kb/pOV8の提示が阻害された(図4c2列目、3列目)。つまり、H2-Kb/pOV8は新たなRNA合成とタンパク質合成に依存している。つまり、細胞のサイトゾルに既に存在しているpOV8-YFPあるいはYFP-pOV8の分解によってpOV8ペプチドが供給されるのではなく、新しく合成されるmRNAおよびそれを鋳型として合成されるタンパク質(pOV8-YFPあるいはYFP-pOV8)がペプチドの供給源になっていることが示された。
【0125】
〔10〕
上記〔8〕の実験と同様の系で、非天然アミノ酸(canavanineあるいはazetidine)の影響を調べた。非天然アミノ酸を取り込んだタンパク質は正常な立体構造をとれないので、分解されやすいことが知られている。
【0126】
〔10−1〕
アミノ酸アナローグ・カナバニン(canavanine)の効果を調べた。カナバニンが存在する場合にも(図4c右から2列目)、しない場合にも(図4c左列)、H2-Kb/pOV8の発現量は変わらなかった。しかし、カナバニンが存在しても、pOVA-YFPを発現させたほうが、YFP-pOV8を発現させた場合よりも、H2-Kb/pOV8の細胞表面での発現が多かった(図4c4列目)。完全長の非天然性アミノ酸を含むタンパク質は、広義の不完全タンパク質なので、分解されやすいと考えられている。この結果は、カナバニンの存在によって不完全タンパク質が増加しても、N末端エピトープ優位の原則は変わらなかったことを示すものであった。
【0127】
〔10−2〕
上記〔10−1〕と同じ実験を、カナバニンの代わりにアゼチジン(azetidine)を用いて行った(図4c右列)。アゼチジンが存在しても、pOVA-YFPを発現する細胞のほうが、YFP-pOV8を発現する細胞よりも、H2-Kb/pOV8の細胞表面での発現が多いという、結果は変わらなかった。また、アゼチジンの有無は、抗原提示に影響を与えないことがわかった(データ省略)。
【0128】
〔11〕
DC2.4細胞に外部から直接、pOV8-YFPとYFP-pOV8をサイトゾルに入れたときの、H-2Kb/pOV8の提示を調べた。
溶液中のタンパク質を、細胞膜を強制的に透過させる試薬として、Chariotsを使った。この場合も、YFPのN末端にpOV8が融合してあるほうが、C末端に融合した場合よりも、pOV8のH2-Kbへの提示がよくなるかどうかを検討した。細胞をYFP、pOV8-YFP、YFP-pOV8のそれぞれと、膜透過試薬Chariots存在下に加温した。細胞を洗った後に、全抽出液を調製し、SDS-PAGE後、抗YFP抗体でウエスタンブロットした(図5aインセット)。また、それらの細胞のH2-Kb/pOV8の発現を25D1.16抗体によって定量した。
結果、図5インセットに示したような結果が得られた。pOV8-YFPとYFP-pOV8の細胞内への導入にはそれほど差はなかった(レーン2と3の比較)。
【0129】
なお次の結果が得られた。
(1) OVAをChariots存在下に細胞に投与した場合、若干のH-2KB/pOV8の提示が見られた(図5a上段中央:プロットが上方にシフトしている細胞が少数認められた)。MG132によって、その抗原提示は減少した(図5a上段右:上方シフトした細胞の数が減った)。
(2) YFPとChariotsを投与した場合、確かにYFPは細胞内に入った(図5a中段左:右にシフトした細胞がかなり認められた)。
(3) pOV8-YFPあるいはYFP-pOV8だけを、外部から細胞に投与した場合、わずかな量のタンパク質が細胞内に入るだけであった(図5a中段中央、右)。若干量のYFP蛍光が細胞に検出できるのは、マクロピノサイトーシス(macropinocytosis)されたpOV8-YFPなどによるものと考えられた。また、膜透過試薬Chariotsを加えないときの、若干の抗原提示はDCのクロスプレゼンテーション能力によるものとも考えられた。
(4) pOV8-YFPをChariots存在下に細胞に投与した場合、H2-Kb/pOV8の提示が認められた(図5a下段左)。また、YFP-pOV8をChariots存在下に細胞に投与したときも、同じであった(図5a下段中央)。この場合は、pOV8-YFPとYFP-pOV8でほとんど違いはなかった(図5a下段右)。しかし多くの量のpOV8-YFP(YFP-pOV8)が入った細胞が、より強くH2-Kb/pOV8を発現しているわけではなかった(プロットが右肩上がりのスロープを示していない)。
(5) 外部から強制的に細胞内にpOV8-YFPとYFP-pOV8を入れた場合、N末端エピトープ優位性は認められなかった。
【0130】
〔12〕
N末端エピトープ優位性はなぜ生じるか、について考察した。
すなわち、DC2.4細胞中で、pOV8-YFPもYFP-pOV8もリボソーム上で翻訳され、サイトゾルに発現する。pOV8がYFPのN末端側に位置したほうが、YFPのC末端側に位置するよりも、H-2Kbと複合体を形成しやすい理由について考察した。
【0131】
モデル1:サイトゾルでプロテアソームによってN末端側から分解が進行するために、pOV8はN末端に近い位置にあったほうが、C末端側にあるよりも、切り出されやすい。しかし、プロテアソームによる分解が、N末端からC末端へと進行するというモデルを支持する実験結果ではない(むしろ、プロテアソームは配列特異的なエンドぺプチダーゼ作用によって基質タンパク質を切断することが示唆されている)。今回調べた限りでも、N末端とC末端の提示効率の差異は、タンパク質の翻訳過程に依存しており、DC2.4細胞に翻訳が終了したタンパク質を導入しても差異は生じなかった。従って、モデル1はありえない。
【0132】
モデル2:タンパク質の翻訳はN末端からC末端へと進行する。ところが、細胞内で翻訳されるタンパク質の約30%程度がストップコドンで翻訳終了となる前に、ポリペプチド鎖の伸長が不完全なまま、翻訳が途絶え、リボソームから遊離する。このことは、いくつかのデータによって支持されている。この不完全長ポリペプチドは正常な立体構造をとれないので、細胞のタンパク質の品質管理機構に依って速やかに分解される。この不完全長ポリペプチドと翻訳は終了して完全長ではあるが正常な立体構造が取れなかったポリペプチドを総称してDRiPs(defective ribosomal products)とよぶ。
【0133】
DRiPsは正常な立体構造をとっている完全長タンパク質に比べて、はるかに速くプロテアソームによって分解されてしまう(サイトゾルのタンパク質品質管理機構は、異常な構造のタンパク質をいち早く分解する)。また、DRiPsは、クラスI分子に結合するエピトープの非常によい供給源だとするデータも示されている。
【0134】
上記結果より、pOV8-YFP翻訳の過程で生じるDRiPsにpOV8が含まれる割合は、YFP-pOV8翻訳の過程で生じるDRiPsにpOV8が含まれる割合よりも、相当に大きいと考えられる(図6)。すなわち、N末端側のエピトープは、C末端側のエピトープに比べて、DRiPsに含まれる割合が高く、したがって、クラスI分子に抗原提示されやすいことになる。即ち、上記モデル2がN末端エピトープ優位性についてよく説明すると思われる。
【0135】
モデル3:基質タンパク質はタンパク質合成に共役して分解される(Co-translational degradation model)ことを示すデータもある。MHCクラスIに提示されるペプチドは、タンパク質合成に共役して分解を受けたものが多いとするモデルがある。このモデルに従えば、タンパク質合成はN末端から開始するので、C末端の部位よりも、N末端の部位で分解される場合が多いことが推測できる。このモデル3もN末端エピトープ優位性を説明することができる。
【0136】
なお、クラスI分子に提示されるエピトープが、細胞に存在する完成された(完全な立体構造をとっている)タンパク質に由来するよりも、合成途上あるいは合成されたばかりの不完全なポリペプチドに由来する、という考えは、本発見の結果とよく両立する(〔9〕の項参照)。
【0137】
〔14〕
N末端エピトープ優位性が、これまでに報告されている実際のクラスI分子に提示されているT細胞抗原エピトープに見られるかを調べた。
まず実際の抗原タンパク質のT細胞抗原エピトープの位置を調べた。なお、このT細胞抗原エピトープとMHC I分子の複合体を認識するCD8+細胞あるいはCTLが存在することは、実験的に確認できている。
【0138】
〔14−1〕
Immuno epitope data baseからMHCクラスI分子に提示されている232個のT細胞抗原エピトープを選んだ。Immuno epitope data baseに格納されているデータは、癌抗原タンパク質の部分ペプチドのデータであって、それらのペプチドはMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出される。また、それらのMHC Iとペプチドの複合体が、癌細胞の表面に形成され、それを認識するCTLあるいはCD8+細胞が存在する。各ペプチド(T細胞抗原エピトープ)のN末端からのアミノ酸数(縦軸)と各ペプチドのクラスI分子に対する親和性(ポケットにはまりやすさ)(横軸)をプロットした(本実施例の主旨からいえば、横軸は抗原提示の量を使うべきであるが、異なる抗原エピトープについて標準化する基準がないので、クラスI分子に対する親和性を使った)。
【0139】
図8右が示すように、エピトープの親和性はData Base SYFPEITHIによれば、最低10、最高40の間に20〜30を中心として分布していた。エピトープのN末端からのアミノ酸数でみると、N末端側230残基に2/3強が集まっていた。一方、縦軸をN末端を0%、C末端を100%とし、エピトープの位置を相対値で表すと、図8左のようなプロットになった。すなわち、抗原エピトープの抗原タンパク質のN末端からの相対的位置はまったくランダムであることが判明した。
【0140】
〔14−2〕
さらにCancer immunity data baseにある癌免疫のデータを使った。Cancer immunity data baseに格納されているデータは、タンパク質のデータ、および部分ペプチドのデータである。部分ペプチドのデータとしては、MHCクラスI分子と結合し癌細胞を含む各種の表面に表出されるペプチドのデータ、およびMHCクラスI分子と結合するペプチド(細胞の表面に表出されるか否かは確認されていないペプチド)が挙げられる。具体的には、T細胞抗原ペプチドの基となるタンパク質、T細胞抗原ペプチド等である。実際にそのT細胞抗原ペプチドは、MHCクラスI分子と複合体を形成し細胞の表面に発現する。さらに多くの場合、それを認識するCTL(CD8+細胞)の存在も確認してある。
【0141】
T細胞抗原エピトープはこのデータベースに従って、4種類(Mutations, Shared tumor-specific antigens, Differentiation antigens, Overexpressed antigens)に分けた。上記同様に、縦軸にエピトープの抗原タンパク質のN末端からのアミノ酸残基数、横軸にクラスI分子に対する親和性をとり、プロットした。
【0142】
結果、興味深いことに、Shared tumor-specific antigensとDifferentiation antigensでは、〔14−1〕で見た場合と同様に、230アミノ酸残基よりN末端側にエピトープがある抗原タンパク質が2/3程度を占めたが、MutationsあるいはOverexpressed tumor antigensの場合は、必ずしもN末端に近い部位にエピトープが位置するということはなかった(図9)。
【0143】
〔14−3〕
さらにウィルス抗原の場合について実験を行った。データベースからウィルス抗原エピトープを、50ランダムに選択し、同様にプロットした。図10に示したように、エピトープはN末端からの相対的位置はまったくランダムであり、アミノ酸残基数でも、〔14−1〕で見たような、230残基よりN末端側によっていることはなかった。
【0144】
〔14−4〕
上記の結果と、本発明者らの実験結果が示した<N末端エピトープ優位性>との関係について考察する。〔14−2〕の「Overexpressed antigens in tumors」、そして〔14−3〕のウィルス抗原エピトープの素材となるタンパク質は、細胞内で大過剰に発現している。これらの場合、大過剰に発現したタンパク質では、DRiPsの他に、完全長にトランスレートされたものの、不完全なフォールディングやアセンブリーのために、分解にさらされやすいポリペプチド分子が多い可能性がある。もし、そうであれば、N末端エピトープ優位性は過剰発現したタンパク質については該当しないことになる。一方、適度の発現の癌抗原タンパク質では、それら由来のエピトープの提示には、N末端エピトープ優位性が適用されると予想できる。
【0145】
〔考察〕
N末端優位性を生じる分子生物学的な機構について考察した。ほぼ全てのタンパク質はN末端側のメチオニンから翻訳を開始し(最近Leuから開始される例が発見された。)、C末端側の停止コドンにおいて翻訳を終了する。この翻訳過程で、最大で約30%にも及ぶタンパク質が翻訳を完全に終えること無く、翻訳過程のエラー、間違えたアミノ酸の挿入、停止コドン以前での翻訳終了、アミノ酸の枯渇といった様々な理由から、その合成が未完のままリボソームから遊離する。これらのポリペプチドはDRiPsと総称され、リボソームから遊離後あるいはリボソームに付着したまま、すみやかにプロテアソームによって分解される。DRiPsは、その生成過程から、翻訳が中途で中断されたtDRiPsと、翻訳は終了しているものの正常なフォールドをとれなかったmDRiPsに大別される(図7)。tDRiPsの多くはN末端側のペプチドの合成は終了しているものの、C末端側のペプチドの合成は未了であると考えられる。これに対して、mDRiPsはC末端側までの合成を終了している。tDRiPs、mDRiPs、成熟タンパク質の3者は、DCや各種の癌細胞を含む全ての細胞において、抗原ペプチドの起源であると考えられる。
【0146】
これらの中で、特にtDRiPsのみは、C末端側の抗原ペプチドを殆ど含まないと考えられるので、N末端側の優位性はtDRiPsに由来すると考えられる(図7)。一方、この「N末端側の優位性」は単に見かけだけであり、蛍光タンパク質のN末端側に抗原ペプチドを融合させた融合タンパク質の一分子当たりの蛍光が、蛍光タンパク質のC末端側に抗原ペプチドを融合させた融合タンパク質の一分子当たりの蛍光よりも低いと仮定することでも説明することは可能である。しかし、そのような考えが正しいとすると、細胞の散布図を蛍光タンパク質の蛍光強度でのみ展開した場合、N末端側の融合蛍光タンパク質とC末端側の融合蛍光タンパク質との間で大きな差が生じる筈で有るが、実際には予想したような差を認めることはできなかった。GST-YFPとYFP-GSTの比較でも殆ど差が認められないのに加えて、ここで示したYFP、Azamigreen以外の3種類の蛍光タンパク質、Kaede、Kikume-Green-Red、Kusabira-Orangeにおいても、N末端側の優位性が認められた。これら5種類の蛍光タンパク質の立体構造は異なっているので、5種類の蛍光タンパク質全てにおいて、N末端側の融合によって、C末端側の融合よりも蛍光強度が損なわれるとは考え難く、N末端側に抗原ペプチドを融合させた融合タンパク質の一分子当たりの蛍光が、蛍光タンパク質のC末端側に抗原ペプチドを融合させた融合タンパク質の一分子当たりの蛍光よりも低いという仮定を棄却する結果である。
【0147】
本発明者らが提唱するモデルの最大の特徴は、tDRiPsもmDRiPsも、タンパク質合成の副産物であって、合成の終了したタンパク質の総量あるいはタンパク質の安定性とは無関係である点である。その結果、N末端側の優位性は完全に翻訳過程に依存的であり、この優位性が一般的な法則である可能性を示唆している。
【0148】
これに加えて、本発明の大部分において、本発明者らはモデルタンパク質としてYFPおよびその融合タンパク質を使用した。YFPと本発明で使用した、YFP融合タンパク質は、共に極めて安定なタンパク質であり(図7)、本発明者らの実験期間を通じて、成熟タンパク質由来の抗原ペプチドが殆ど存在しないことを示唆している。また、翻訳の阻害(図4)、成熟タンパク質の細胞質への導入(図5)の実験結果は、成熟タンパク質由来の抗原ペプチドが極めて少ないことと、N末端側に抗原ペプチドを持つ融合タンパク質とC末端側に抗原ペプチドを持つ融合タンパク質の間で差が生じないことを示している。翻訳の阻害(図4)、および成熟タンパク質の細胞質への導入(図5)の結果は、DRiPsの生成を完全に失わせる反面、成熟タンパク質の分解には全く影響を及ぼさないため、N末端側の優位性がDRiPsに由来するという本発明者らの仮説を強く支持するものである。
【0149】
DRiPsのその他の特徴は、プロテアソームによって、速やかに分解されることである。従ってプロテアソームの阻害は、抗原提示をほとんど完全に阻害する(図4)。これに対して、エンドソーム/リソゾームのプロテアーゼの阻害は、むしろ抗原提示を促進することから、DRiPsの大部分はプロテアソームで分解されるものの、一部はエンドソーム/リソゾームのプロテアーゼによっても分解されていることが示唆された。
【0150】
既存のMHC I抗原エピトープをデータベースで検索したところ、N末端側の優位性を支持する結果が得られた。データベースから免疫学的に効果が認められた癌由来のMHC Iエピトープを選択し、そのエピトープのN末端側のアミノ酸の、最初のメチオニンからのアミノ酸数をY軸に、MHC Iエピトープの親和性をX軸としてプロットした(図8)。その結果、癌由来のMHC IエピトープはMHC Iへの親和性の比較的強い領域(横軸のスコアが10〜30の)に大きな集団があることが判った。全てのタンパク質の平均アミノ酸長を460アミノ酸と仮定すると、68%のMHC Iエピトープはタンパク質のN末端側(230番目よりもN末端側)にあることが判る。一方、シグナルペプチドはタンパク質のN末端側にあって、MHC Iエピトープになり易いことが知られている。これらの結果は、T細胞抗原エピトープのN末端優位性を支持している。
【0151】
次に、対照としてウィルス由来のT細胞抗原エピトープを同様にプロットした(図10)。ウイルス由来のT細胞抗原エピトープは、MHC Iに親和性のさらに高い領域(横軸のスコアが20〜40)に集中していたが、N末端側への集中は全く認められなかった。すなわち、ウィルス由来のT細胞抗原エピトープにおいては、N末端優位性を示さないことを意味する。このような、癌のT細胞抗原エピトープとウィルスのT細胞抗原エピトープの違いは次の可能性によって説明できる。ウィルスT細胞抗原がMHC Iに特に強い親和性を示すこと、またそのような非常に強い親和性を示す癌のT細胞抗原がないことは、胸腺におけるCD8+細胞の選択のメカニズムによって説明できる。すなわち、癌に特有なタンパク質であっても、本来は正常な個体でも少量発現し、なんらかの機能をもっているはずである。そのため、癌のT細胞抗原エピトープの中にMHC Iに非常に強い親和性をもつものがあり、それを認識するCD8+細胞が現れたとしても、それらは自己と反応するクローンとして除かれてしまう(あるいはアナジー状態が誘導される)。もし、それらが除かれないと、自己免疫疾患になる。しかし、MHC Iに対し非常に強い親和性をもつウィルスのエピトープ生成において、なぜN末端優位性が認められないかは、現在はっきりとは説明できない。以上の結果から、MHC I上に提示されるペプチドの選択性は、ペプチドのMHC Iへの親和性、タンパク質の発現量、安定性といった古典的な原理に加えて、タンパク質上でのペプチドの位置も重要であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1a】図1aは、YFP、pOV8-YFP、YFP-pOV8をDC2.4細胞、EL4細胞、MC57G細胞に一過的に発現させ、各細胞のYFP蛍光強度とKb/pOV8発現量を25D1.16抗体を使って測定した結果を示すグラフである。pOV8-YFPを発現する細胞とYFP-pOV8を発現する同数の細胞について、横軸にYFP蛍光強度、縦軸にKb/pOV8発現量をプロットした。上の行はDC2.4細胞、中の行はEL4細胞、下の行はMC57G細胞である。一番左の列はYFPのみ、左から2列目はpOV8-YFP、左から3列目はYFP-pOV8である。また、赤色の左から2列目のプロットと、緑色に変換した3番目のプロットを重ね合わせたのが一番右の列である。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図1b】図1bは、OVA、OVA-YFP、およびYFP-OVAをDC2.4細胞、EL4細胞、MC57G細胞に一過的に発現させ、各細胞のYFP蛍光強度とKb/ pOV8発現量を25D1.16抗体を使って測定した結果を示すグラフである。OVA-YFPを発現する細胞とYFP-OVAを発現する同数の細胞について、横軸にYFP蛍光強度、縦軸にpOV8発現量をプロットした。上の行はDC2.4細胞、中の行はEL4細胞、下の行はMC57G細胞である。一番左の列はOVAのみ、左から2列目はOVA-YFP、左から3列目はYFP-OVAである。また、赤色の左から2列目のプロットと、緑色に変換した3番目のプロットを重ね合わせたのが一番右の列である。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図1c】図1cは、Azamigreen、pOV8-Azamigreen、およびAzamigreen-pOV8をDC2.4細胞、EL4細胞、MC57G細胞に一過的に発現させ、各細胞のAzamigreen蛍光強度とKb/pOV8発現量を25D1.16抗体を使って測定した結果を示すグラフである。pOV8-AGを発現する細胞とAG-pOV8を発現する同数の細胞について、横軸にAzamigreen蛍光強度、縦軸にKb/pOV8発現量をプロットした。上の行はDC2.4細胞、中の行はEL4細胞、下の行はMC57G細胞である。一番左の列はAzamigreenのみ、左から2列目はpOV8-Azamigreen、左から3列目はAzamigreen-pOV8である。また、赤色の左から2列目のプロットと、緑色に変換した3番目のプロットを重ね合わせたのが一番右の列である。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図1d】図1dは、YFP-GST、pOV8-YFP-GST、YFP-GST-pOV8をDC2.4細胞、EL4細胞、MC57G細胞に一過的に発現させ、各細胞のYFP蛍光強度とKb/pOV8発現量を25D1.16抗体を使って測定した結果を示すグラフである。pOV8-YFP-GSTを発現する細胞とYFP-GST-pOV8を発現する同数の細胞について、横軸にYFP蛍光強度、縦軸にKb/pOV8発現量をプロットした。上の行はDC2.4細胞、中の行はEL4細胞、下の行はMC57G細胞である。一番左の列はGST-YFPのみ、左から2列目はpOV8-YFP-GST、左から3列目はYFP-GST-pOV8である。また、赤色の左から2列目のプロットと、緑色に変換した3番目のプロットを重ね合わせたのが一番右の列である。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図1e】図1eは、YFP、pOV8-YFPとYFP-pOV8を発現するDC2.4細胞をそれぞれIFNγ処理または処理せずに、H2-Kb/pOV8の発現を25D1.16抗体で解析した結果を示すグラフである。上の行がIFNγ処理なし(IFNγ−)の結果で、中の行がIFNγ処理した(IFNγ+)結果である。また、IFNγ処理なしの緑色に変換したプロットと、IFNγ処理ありの赤色のプロットを重ね合わせたのが、一番下の行である。一番左の列はYFPのみ、左から2列目はpOV8-YFP、左から3列目はYFP-pOV8である。また、赤色の左から2列目のプロットと、緑色に変換した3番目のプロットを重ね合わせたのが一番右の列である。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図2a】図2aは、pOV8とGST48ペプチド、GST111ペプチド、あるいはVSVペプチドが、H-2Kb結合において競合を示すフローサイトメトリー分析結果を示す図である。細胞表面のH-2Kb/pOV8の量を測定した(横軸がpOV8がH-2Kb分子に結合して形成されたH-2Kb/pOV8を25D1.16抗体で測った量である)。上の行はGST48、中の行はGST111、下の行はVSVをpOV8と競合するペプチドとして使用した場合を示す。一番左の列はDC2.4細胞にpOV8のみを外から添加したとき(注:内部でタンパク質合成を介して発現さたのではなく、ペプチドを直接外部から細胞に加えた)、左から2番目の列はGST48、GST111、あるいはVSVとpOV8の比が1:9、左から3番目の列は比が5:5、左から4番目の列は比が9:1、一番右の列はGST48、GST111、あるいはVSVのみ添加した場合を示す。
【図2b】図2bは、図2aの結果から、GST48、GST111、VSVの各ペプチドがpOV8のH2-Kbへの結合を阻害する程度を定量したグラフである。
【図2c】pOV8-YFP-GST、pOV8-GST-YFP、YFP-GST-pOV8、あるいはGST-YFP-pOV8を細胞に発現させた場合の、DC2.4細胞、EL4細胞、MC57G細胞の各細胞のYFP蛍光強度とKb/pOV8発現量を25D1.16抗体を使って測定した結果を示すグラフである。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図3a】図3aは、pOV8エピトープ発現の時間経過実験に関するタイムコースを示す図である。DC2.4細胞は、pOV8-YFPをトランスフェクションし、12時間後に酸で洗った。酸で洗浄しない細胞をコントロールとしてサンプリングした。酸洗浄後、各時間点で細胞をサンプリングした。
【図3b】図3bは、図3aで調製、サンプリングしたpOV8-YFPをトランスフェクションしたDC2.4細胞のH2-Kb/pOV8の発現を25D1.16抗体の結合によって測定した結果を示す図である。上の行はH2-Kb/pOV8の発現を見たものである。中の行は、時間とともに増えたH2-Kb/pOV8(上の行の結果)とtime 0のプロット(緑色)を重ね合わせたものである。下の行は、上の行の結果と酸で洗う前(control)(緑色)とを重ねたものである。一番左の列は酸処理していないコントロール細胞、左から2番目の列は酸処理後time 0、左から3番目の列はtime 1(時間)、左から4番目の列はtime 2(時間)、左から5番目の列はtime 4(時間)、左から6番目の列はtime 6(時間)、一番右の列はtime 12(時間)である。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図3c】図3cは、図3bと同じ実験を、YFP-pOV8をトランスフェクションしたDC2.4細胞を使って行った結果を示す図である。上の行はH2-Kb/pOV8の発現を見たものである。中の行は、時間とともに増えたH2-Kb/pOV8とtime 0のプロット(緑色)を重ね合わせたものである。下の行は、時間とともに増えたH2-Kb/pOV8と酸で洗う前(control)(緑色)とを重ねたものである。一番左の列はコントロール、左から2番目の列はtime 0、左から3番目の列はtime 1(時間)、左から4番目の列はtime 2(時間)、左から5番目の列はtime 4(時間)、左から6番目の列はtime 6(時間)、一番右の列はtime 12(時間)である。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図3d】図3dは、H2-Kb/pOV8の発現の回復を定量したグラフである。pOV8/YFPを発現するDC2.4細胞のH2-Kb/pOV8の量を100%としたときの、相対値で表した。黒四角がpOV8-YFPを表し、白丸がYFP-pOV8を表す。
【図4a】図4aは、H2-Kb/pOV8の発現に与える各種阻害剤の影響を調べた結果を示す図である。DC2.4細胞は図3のようにトランスフェクションの12時間後に酸で洗浄した。0タイム時(time 0)に阻害剤を添加し、6時間後に細胞を回収し調べた。
【図4b】図4bは、pOV8-YFPまたはYFP-pOV8をトランスフェクトしたDC2.4細胞を酸処理、洗った後、各種阻害剤を添加し、6時間培養した後、細胞のH-2Kb/pOV8発現量を25D1.16抗体を使って測定した結果を示す図である。上の行はpOV8-YFPを発現させた細胞、中の行はYFP-pOV8を発現させた細胞、下の行は上の行と中の行のデータを重ね合わせたものである。一番左の列は酸で洗う前の細胞、左から2番目の列は酸で洗った直後(A.W.)の細胞、左から3番目の列は1μMのMG132添加して6時間インキュベートした細胞、左から4番目の列は0.2μMのラクタシスチン(lactacystin)添加、一番右の列は100μMのクロロキン(chroloquin)添加した結果である。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図4c】図4cは、上記図4bとは別の阻害剤を添加した結果を示す図である。上の行はpOV8-YFPを発現させた細胞、中の行はYFP-pOV8を発現させた細胞、下の行は上の行と中の行のデータを重ね合わせたものである。一番左の列は10μg/mlのα-アマニチン添加、左から2番目の列は1μg/mlのアニソマイシン添加、左から3番目の列は1μg/mlのエメチン添加、左から4番目の列は15 mMのカナバニン添加、一番右の列は15 mMのアゼチジン添加した結果である。赤色で示された箇所および緑色で示された箇所を矢印で示した。
【図5】図5は、DC2.4細胞に外部から直接、YFP、pOV8-YFP、YFP-pOV8をサイトゾルに入れたときの、H-2Kb/pOV8の提示を調べた結果を示す写真およびグラフである。赤色で示された箇所緑色で示された箇所、および黄色で示された箇所を矢印で示した。
【図6】図6は、pOV8の原因を示す略図である。
【図7a】図7aは、pOV8-YFPとYFP-pOV8のDC2.4細胞での発現量について、YFPをウェスタンブロットによって定量した結果を示す写真である。1はpEF-1α、2はpEF-1α-MAQVQ-YFP、3はpEF-1α-MAQVQ-pOV8-YFP、4はpEF-1α-MAQVQ-YFP-pOV8である。アミノ酸配列MAQVQを配列番号:3に示す。
【図7b】図7bは、シクロヘキシイミドを加えた場合のYFP、pOV8-YFP、YFP-pOV8のDC2.4細胞での発現量について、ウェスタンブロットによって定量した結果を示す写真およびグラフである。グラフ中の黒四角はYFP、黒三角はpOV8-YFP、黒丸はYFP-pOV8を表す。
【図8】図8は、エピトープのクラスI分子に対する親和性を示すグラフである。左側のグラフは、エピトープの位置を、N末端を0%、C末端を100%とした場合の相対値を縦軸にとっている。右側のグラフは、エピトープのN末端からのアミノ酸数を縦軸にとっている。
【図9】図9は、4種類のT細胞抗原エピトープ(Mutations, Shared tumor-specific antigens, Differentiation antigens, Overexpressed antigens)について、縦軸にエピトープの抗原タンパク質のN末端からのアミノ酸残基数、横軸にクラスI分子に対する親和性をとり、プロットしたグラフである。
【図10】図10は、ウィルス抗原の場合のMHCクラスI分子に対する親和性を示すグラフである。左側のグラフは、エピトープの位置を、N末端を0%、C末端を100%とした場合の相対値を縦軸にとっている。右側のグラフは、エピトープのN末端からのアミノ酸数を縦軸にとっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)および(b)を含む、被検ペプチドがMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であるか否かを判定する方法であって、工程(b)で測定されたアミノ酸配列の位置が、タンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内である場合に、該被検ペプチドはMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であると判定される方法;
(a)被検ペプチドとして、MHCクラスI分子に結合するT細胞抗原ペプチドを提供する工程、
(b)工程(a)で提供されたT細胞抗原ペプチドを有するタンパク質のアミノ酸配列における当該ペプチドのアミノ酸配列の位置を測定する工程。
【請求項2】
以下の工程(c)および(d)を含む、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の選択方法;
(c)複数の被検ペプチドについて、請求項1に記載の方法によって、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であるか否かを判定する工程、
(d)前記工程(c)において、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であると判定された被検ペプチドを選択する工程。
【請求項3】
被検ペプチドが癌特異的なタンパク質の部分ペプチドである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
以下の工程(e)〜(g)を含む、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の選択方法;
(e)所望のタンパク質のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、MHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(f)工程(e)で特定されたアミノ酸配列の、前記タンパク質のアミノ酸配列における位置を測定する工程、
(g)工程(f)で測定された位置が、前記タンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内であるアミノ酸配列からなるペプチドを選択する工程。
【請求項5】
所望のタンパク質の230アミノ酸以内のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、MHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程を含む、MHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、前記工程において特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、MHCクラスI分子と結合し癌細胞細胞の表面に表出されるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法。
【請求項6】
所望のタンパク質が癌特異的なタンパク質である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、工程(l)で結合が検出された場合に、工程(i)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法;
(h)癌特異的なタンパク質を同定する工程、
(i)工程(h)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列から、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合し癌細胞の表面に表出されると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(j)工程(i)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる工程、
(k)工程(j)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞を接触させる工程、
(l)工程(j)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する工程。
【請求項8】
癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、工程(q)で結合が検出された場合に、工程(n)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチドは、癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法;
(m)癌特異的なタンパク質を同定する工程、
(n)工程(m)で同定されたタンパク質の230アミノ酸以内のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(o)工程(n)で特定されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる工程、
(p)工程(o)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性細胞を接触させる工程、
(q)工程(o)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する工程。
【請求項9】
癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補の同定方法であって、工程(x)で結合が検出された場合に、工程(u)で選択されたアミノ酸配列からなるペプチドは、癌ワクチンとして用いられるT細胞抗原ペプチド候補であると同定される方法;
(r)癌特異的なタンパク質を同定する工程、
(s)工程(r)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列に対して、MHCクラスI分子結合性ペプチド予測アルゴリズムを実行し、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子に結合すると予測されるペプチドのアミノ酸配列を特定する工程、
(t)工程(s)で特定されたアミノ酸配列の、工程(r)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列における位置を測定する工程、
(u)工程(t)で測定された位置が、工程(r)で同定されたタンパク質のアミノ酸配列のN末端から230アミノ酸以内であるアミノ酸配列を、前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子と結合し癌細胞の表面に表出されるペプチドのアミノ酸配列として選択する工程、
(v)工程(u)で選択されたアミノ酸配列からなるペプチド、および前記癌の治療または予防対象と同じハプロタイプのMHCクラスI分子を接触させ、複合体を形成させる工程、
(w)工程(v)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞を接触させる工程、
(x)工程(v)で形成させた複合体、および前記癌の治療または予防対象から単離されたCD8陽性T細胞の結合を測定する工程。

【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3d】
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【図4a】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図2c】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図7a】
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【図7b】
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【公開番号】特開2009−273377(P2009−273377A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125248(P2008−125248)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月25日、BMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)発行の「BMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)講演要旨集」に発表。 平成19年12月14日、第30回日本分子生物学会年会 年会長 山本雅(東京大学医科学研究所)・第80回日本生化学会大会 会頭 清水孝雄 (東京大学大学院医学系研究科)主催の「BMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)」において、文書をもって発表。
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】