説明

MMP−9の調節剤およびその使用

本発明はMMP−9の調節剤に関連し、より具体的には、そのOGドメインに対して標的化される調節剤に関連する。本発明により、メタロプロテイナーゼ9(MMP−9)の活性を調節する方法が開示される。この方法は、MMP−9を、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する作用因子と接触させることを含む。OGドメインと特異的に相互作用することができる分子、その分子を特定する方法、その分子を含む医薬組成物、およびその使用もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMMP−9の調節剤に関連し、より具体的には、MMP−9のOGドメインに対して標的化される調節剤に関連する。
【背景技術】
【0002】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の生理学的および病理学的役割は様々である。MMPファミリーのメンバーが、細胞外マトリックス(ECM)成分を異化することによるだけではなく、多くの疾患状態を進行させる様々な可溶性媒介因子をプロセシングすることによっても、結合組織を通り抜ける炎症細胞およびガン細胞の遊走の数多くの局面に関わっている。すべてのMMPが、類似した触媒部位を共有するが、際立った違いが、少なくとも部分的には、非触媒的タンパク質ドメインにおけるさらなる基質結合部位の存在のために、それらの基質特異性において認められる。結果として、異なるMMPは、異なる生物学的機能を有する。MMP−9(ゼラチナーゼBとしても知られている)は、その組織損傷役割、ならびにプロテアーゼ阻害剤、ケモカインおよびサイトカインを含む様々な可溶性タンパク質の炎症促進プロセシングを有するゆえに、免疫性疾患におけるプロトタイプ標的となる。
【0003】
対照的に、MMP−2またはゼラチナーゼAは、おそらくは、炎症性ケモカインの不活性化により、および結合組織の代謝回転を調節することによって、主に抗炎症機能および恒常性機能を有するようである。このことは、これらの非常に類似する酵素を識別する選択的阻害剤が、副作用を伴わない効率的な抗炎症治療のために、極めて重要であることを暗示する。この観点から、酵素の他の非触媒部分が、MMP−2とMMP−9とが区別されるならば、選択的阻害剤を作製するために標的化され得る。
【0004】
興味深いことに、MMP−9とMMP−2の間における大きな構造的相違は、MMP−9における広範にO−グリコシル化(OG)されたドメインの存在である[Opdenakker,G.ら(2001)、Trends Immunol、22、571〜579;Van den Steen,P.E.ら(2006)、J Biol Chem、281、18626〜18637]。MMP−9における他のドメインもまた、MMP−2において見出されており、これらには、潜在性を維持することに関与するプロペプチドドメイン、3つのフィブロネクチン反復が挿入される触媒ドメイン、ならびに、MMP−9およびMMP−2の内因性阻害剤、すなわち、メタロプロテイナーゼ組織阻害剤1(TIMP−1)が結合するためのエキソサイトを構成する、ヘモペキシン様ドメインとしても知られているC末端ドメインが含まれる。多くの疾患状態におけるその大きな重要性にもかかわらず、また、MMP−2とは対照的に、MMP−9に関して得られる構造情報は、全長の酵素ではなく、その2つの末端ドメインに限られる。プロ触媒ドメインを含有するN末端部分のX線構造[Elkinsら、2002、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、58、1182〜1192]は、N末端部分がマトリキシンフォールドを有することを示す。C末端のヘモペキシン様ドメインは、擬4回対称性を有する4枚羽根型(?)のプロペラ構造からなる[Chaら、2002、J Mol Biol、320、1065〜1079]。図1AはプロMMP−9のプロ触媒ドメインおよびヘモペキシン様ドメインの結晶構造を示す。これらのドメインが、(22個のプロリン残基、6個のグリシン残基およびおよそ12個〜14個のO結合型グリカンを含有する)64アミノ酸長のリンカーを表す点線によってつながれる[Van den Steenら(2001)、Biochim Biophys Acta、1528、61〜73]。重要なことに、プロMMP9のリンカードメインは、MMPファミリーのコラゲナーゼ、ストロメライシンおよびゼラチナーゼAのリンカー領域よりも2〜3倍長い(これらについては、典型的なリンカー長はほんの21〜27個のアミノ酸残基の範囲に及ぶ)。
【0005】
別個での、または他のタンパク質ドメインと一緒でのプロMMP−9におけるリンカードメインの結晶化は、困難であることが判明している。大きな側鎖がグリシンの場合にはないこと、および組み込まれた屈曲がプロリンの場合には存在することが、二次構造の形成を妨げており、また多くの場合、ループまたは構造化されない領域をもたらしている。さらにO−グリカンのための結合点としてのクラスター化されたセリンおよびトレオニンの存在が、結晶学的充填を妨げ得る立体効果を生じさせているかもしれない。このドメインは、コラーゲンVに対するその配列類似性のために、コラーゲンV様ドメインとも呼ばれており、近年ではO−グリコシル化(OG)ドメインと名称変更されている。OGドメインは、エキソサイト相互作用を可能にするためのヘモペキシンドメインの配向において活性である。しかしながら、MMP−9の全体的な3D構造およびその生物物理学的性質に対するOGドメインの影響については何も知られていない。
【0006】
米国特許出願公開第20040175817号は、その触媒サブユニットの結晶構造に基づくMMP−9調節因子の特定を教示する。しかしながら、MMPは一般に、それらの触媒部位における高い配列相同性を共有するため、触媒部位を標的とするように設計された調節因子は、MMP−9に対する選択性がない。
【発明の概要】
【0007】
MMP−9特異的調節剤が求められている。
【0008】
1つの局面によれば、メタロプロテイナーゼ9(MMP−9)の活性を調節する方法が提供され、該方法は、MMP−9を、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する作用因子と接触させ、それにより、MMP−9の活性を調節することを含む。
【0009】
別の局面によれば、MMP−9を特異的に調節することができる作用因子を特定する方法が提供され、該方法は、推定上のMMP−9特異的調節剤である作用因子がMMP−9のOGドメインと相互作用することができるかどうかを明らかにすることを含む。
【0010】
さらに別の局面によれば、MMP−9媒介の医学的状態を治療する方法が提供され、該方法は、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する作用因子の治療有効量をその必要性のある対象に投与し、それによりMMP−9媒介の疾患または状態を治療することを含む。
【0011】
なおさらに別の局面によれば、MMP−9の活性を特異的に調節することのできる分子であって、MMP−9のOGドメインと相互作用する分子が提供されるが、この分子は非ヒト化抗体ではない。
【0012】
追加的局面によれば、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する抗原認識ドメインを含むヒト化抗体が提供される。
【0013】
さらに追加的局面によれば、有効成分として、MMP−9の活性を特異的に調節することができる分子であって、MMP−9のOGドメインと相互作用する分子(ただし、この分子は非ヒト化抗体ではない)を含み、かつ、医薬的に許容されるキャリアを含む医薬組成物が提供される。
【0014】
1つの実施形態によれば、MMP−9は天然MMP−9である。
【0015】
さらに別の実施形態によれば、活性はコラーゲン溶解活性である。
【0016】
さらに別の実施形態によれば、活性はゼラチン溶解活性である。
【0017】
さらに別の実施形態によれば、調節することは、アップレギュレーションすることである。
【0018】
さらに別の実施形態によれば、調節することは、ダウンレギュレーションすることである。
【0019】
さらに別の実施形態によれば、作用因子はポリペプチド作用因子を含む。
【0020】
さらに別の実施形態によれば、ポリペプチド作用因子は抗体を含む。
【0021】
さらに別の実施形態によれば、作用因子は小分子を含む。
【0022】
さらに別の実施形態によれば、明らかにすることが、作用因子の構造をMMP−9のOGドメインの構造と比較することによって行われる。
【0023】
さらに別の実施形態によれば、明らかにすることが、前記作用因子をMMP−9の単離されたOGドメインと接触させることによって行われる。
【0024】
さらに別の実施形態によれば、作用因子はポリペプチドを含む。
【0025】
さらに別の実施形態によれば、ポリペプチドは抗体を含む。
【0026】
さらに別の実施形態によれば、作用因子は小分子を含む。
【0027】
さらに別の実施形態によれば、作用因子が、本明細書中に記載されるように特定される。
【0028】
さらに別の実施形態によれば、作用因子は小分子またはポリペプチド作用因子を含む。
【0029】
さらに別の実施形態によれば、ポリペプチド作用因子は抗体を含む。
【0030】
さらに別の実施形態によれば、分子は、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する抗原認識ドメインを含むヒト化抗体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本明細書では本発明を単に例示し添付図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の好ましい実施態様を例示考察することだけを目的としており、本発明の原理や概念の側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示していることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に本発明の構造の詳細は示さないが、図面について行う説明によって本発明のいくつもの形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【図1】図1は、プロMMP−9を特徴づけるコンピューター作製モデルおよびグラフである。図1Aは末端ドメインの結晶構造を例示する。プロMMP−9のN末端ドメイン(PDBコード:1L6J)が、プロペプチド(緑色)、3つのII型フィブロネクチン反復(青色)、および、亜鉛含有活性部位(灰色球)を伴う触媒ドメイン(赤色)から構成される。OGドメイン(点線)は、構造が不明な64残基のフラグメントを含有し、N末端ドメインを、4つのプロペラ羽根(シアン色)からなるC末端のヘモペキシン様ドメイン(PDBコード:1ITV)につなぐ。図1Bは、プロMMP−9のオリゴマー化学種(ピーク1(15.8分)およびピーク2(22.7分))およびモノマー形態(ピーク3、25.1分)の溶出プロファイルを示すサイズ排除クロマトグラフィーを例示するグラフである。挿入図:ストークス半径が知られているタンパク質標準物のPorathプロット[57]が、superdex200カラムを校正するために使用された(左から右に、チログロブリン:85Å、フェリチン:61Å、カタラーゼ:52.2Å、アルドラーゼ:48.1Å、アルブミン:35.5Å)。Kdの立方根が各タンパク質のストークス半径に対してプロットされ、線形最小二乗フィッティングが示される。図1Cはゼラチンザイモグラムの写真である。グリセロール沈降が、モノマーを調製的量で高次のオリゴマー構造から分離するために適用された。それぞれの分画物に由来するアリコートをゼラチンザイモグラムでアッセイした。高次のオリゴマー構造が分画物1〜3に存在する。分画物3はすべてのオリゴマー形態の混合物を含有した。分画物4〜7は主にモノマー形態を含有した。図1Dは、沈降係数の分布を計算するために使用された分析超遠心分離沈降速度分析である。挿入図:実験データ(ドット)からの、時間および回転軸からの距離を関数とする沈降プロファイル(線)のモデル化。残留物プロットが上段パネルに示される。明確化のために、分析で使用された10番目毎のプロファイルのみが示される。
【図2】図2は、プロMMP−9の構造分析を例示するコンピューター作製モデルおよびグラフである。図2Aは、溶液中でのプロMMP−9のSAXSデータを例示するグラフである。実験のX線強度データ(黒色ドット)が、CHADDを使用する最確モデル(灰色線)と比較される。挿入図:実験によるSAXSデータの対分布関数。図2Bは、CHADDによって再構築されるプロMMP−9モデルを例示する。SAXSデータから得られるモデルが、5Åの半径を有する白色球によって表される。それぞれのモデルが垂直軸に沿って0°および90°回転させられた。N末端およびC末端ドメイン[22、24]のドッキングされた結晶構造が青色および赤色リボンとしてそれぞれ表される。図2Cは、プロMMP−9の配列におけるPONDR[37]による長い無秩序領域(濃い黒色線)の予測、および、対応するドメイン構成(上段の棒:PRO−プロペプチド、CAT+FN−触媒ドメインおよび3つのII型フィブロネクチン反復、OG−O−グリコシル化ドメイン、PEX−ヘモペキシン様ドメイン)である。図2Dは、再構築されたOGドメインを有する全長プロMMP−9の計算された散乱曲線の、実験データに対するフィッティングを例示する。最も良好な3つのモデルの計算された曲線が、緑色、シアン色および黄色の線で示される。実験データが黒色ドットとして表される。OGドメインのこれら3つの最も良好なモデルが、CHADDモデルにおいてRAPPER[38、39]を使用して計算された。図2EはOGドメインの構造再構築を例示する。最も良好な3つのモデルが、緑色、シアン色および黄色に着色されたリボン標示で示される。
【図3】図3は、野生型および変異型プロMMP−9のグラフおよびAFM像である。グルタルアルデヒドが、タンパク質に対する、表面のアミンとの間での共有結合リンカーとして役立った。すべてのスキャンで、スパイク先端が用いられた。図3A〜3C:野生型プロMMP−9の半乾燥モードスキャン。図3D〜3F:プロMMP−9ΔOG変異体の半乾燥モードスキャン。図3Aおよび図3Dは2D標示である。図3Bおよび図3Eは3D標示である。図3Cおよび図3Fは、図3Aおよび図3Dに示される点線に沿ったXZ断面である。サンプル調製および画像化条件については、本文を参照のこと。高さスケールが右側に棒によって示され、この場合、Z軸が0Åから50Åにまで及ぶ(暗い〜明るい)。
【図4】図4は、AFMによって測定されたときの野生型(左)およびプロMMP−9ΔOG(右)のサイズ分布ヒストグラムである。すべてのヒストグラムのy軸は、カウント数を総集団により除することによって得られる正規化された頻度である。図4Aおよび図4B−高さ分布。図4Cおよび図4D−幅分布。幅値は、実験手順の節で記載されるように補正された。図4Eは野生型プロMMP−9のローブ間分布を例示する。プロMMP−9ΔOGにおけるローブ間の分離を解明することができなかった。図4FはプロMMP−9のモデル化途中の立体配座状態を例示する。ローブ間のAFMデータに従って計算されたときの9.5Åの標準偏差が引かれ(左側)、または、SAXS構造再構築によって得られる平均化された構造(中央)のドメイン間の分離距離に加えられた(右側)。N末端およびC末端ドメイン[22、24]が青色および赤色漫画によってそれぞれ表される。OGドメインがRAPPER[38、39]によって再構築され、緑色Cα軌跡によって表される。
【図5】図5は、SAXSによって得られる再構築されたプロMMP−9モデルを例示する。図5AはGASBORモデルである。図5BはCHADDモデルである。5Åの半径を有する白色球により、得られたモデルが表される。N末端およびC末端ドメインのドッキングされた結晶構造が青色および赤色漫画によってそれぞれ表される。それぞれのモデルが垂直軸に沿って0°および90°回転させられた。
【図6】図6は、プロMMP−9のAFM像である。グルタルアルデヒドが、タンパク質に対する、表面のアミンとの間での共有結合リンカーとして役立った。酸化物の尖った窒化ケイ素先端が使用された図6Aのスキャンを除いて、すべてのスキャンで、スパイク先端が用いられた。図6A:緩衝液下での野生型プロMMP−9。図6B:周囲条件でスキャンされる野生型酵素の乾燥させたサンプル。図6C:酵素を加えない同じ固定化手順に供されたブランクサンプル。矢印は、1x1μmのスキャンで観測された1個の粒子を示す。高さスケールが右側に棒によって示され、この場合、Z軸が0Åから50Åにまで及ぶ(暗い〜明るい)。
【図7】図7Aは、分泌型MMP−9を発現するHT1080細胞のインサイチュザイモグラフィーを例示する。緑色蛍光の検出はIV型コラーゲンのタンパク質分解活性を示している。青色は核染色(Hoechst)を示す。図7Bは、抗MMPとのHT1080細胞のインキュベーション(9時間)、その後、Oregonグリーンにコンジュゲート化されたIV型コラーゲンによる重層を例示する。細胞周辺に顕著な緑色蛍光がないことは、MMP−9による細胞周囲でのタンパク質分解が阻害されていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明はMMP−9の調節剤に関連し、より具体的には、そのOGドメインに対して標的化される調節剤に関連する。
【0033】
本発明の原理および作用が、図面および付随する説明を参照してより十分に理解されることができる。
【0034】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または、実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または、様々な方法で実施または実行される。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであって、限定であると見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0035】
メタロプロテイナーゼ(MMP)ファミリーのメンバーが、多くの疾患状態を進行させる、結合組織を通り抜ける炎症細胞およびガン細胞の遊走の数多くの局面に関与している。すべてのMMPが、類似した触媒部位を共有するが、それらの基質結合部位は異なる。結果として、異なるMMPは、異なる生物学的機能を有する。例えば、MMP−9は組織の損傷および炎症を促進させ、これに対して、MMP−2は主に抗炎症機能および恒常性機能を含む。このことは、選択的阻害剤が、これらの非常に類似する酵素を識別するならば、副作用を伴わない効率的な抗炎症治療のために極めて重要であることを暗示する。
【0036】
本発明の構想中、本発明者らは、MMP−9とMMP−2の間における大きな構造的相違が、MMP−9における広範にO−グリコシル化(OG)されたドメインの存在であるという理解に至っている。しかしながら、MMP−9に関する利用可能な構造情報はその2つの末端ドメインに限定され、このOGドメインを含んでいない。そのため、MMP−9の全体的な3D構造およびその生物物理学的性質に対するOGドメインの影響に関する情報は何もない。
【0037】
発明の実施に際し、本発明者らは、プロMMP−9の最初の全長構造およびそのO−グリコシル化リンカードメインの分子特性を特徴づけるために、小角X線散乱(SAXS)を単分子原子間力顕微鏡法(AFS)画像化と組み合わせた、新たな構造分析を行っている。SAXS、それに続く画像および構造再構築分析は、溶液中におけるその平均化された立体配座を表す全長プロMMP−9の分子形状をもたらした(図2A〜2E)。この構造は、高分解能AFM画像化(図3A〜3F、および、図4A〜4E)および生物物理学的測定によって裏付けられるものであり、OGドメインが2つの末端ドメインの間における柔軟な30Åの長さのリンカーとして作用する細長いタンパク質を示す(図5A〜5B)。OGドメインの柔軟性の程度が、単分子画像化によって検出された様々なタンパク質立体配座(図4F)から統計学的に評価された。プロMMP−9の全長の構造動的モデルは、MMP−9の活性のために要求される、基質、リガンドおよび受容体の認識、結合およびプロセシングの調節におけるタンパク質ドメインの柔軟性の役割に対する新たな見識を提供する。
【0038】
さらに発明を実施に移しているとき、本発明者らは、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用することができる抗体が、そのゼラチン溶解活性ではなく、そのコラーゲン溶解活性を阻止することをインサイチュザイモグラフィーによって示した(図7A〜7B)。したがって、本発明者らは、OGドメインの柔軟性を調節する作用因子の使用は、この酵素の病理学的活性を制御するために使用され得ることを提案する。
【0039】
したがって、本発明の1つの局面によれば、メタロプロテイナーゼ9(MMP−9)の活性を調節する方法が提供され、該方法は、MMP−9を、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する作用因子と接触させ、それにより、MMP−9の活性を調節することを含む。
【0040】
本明細書中で使用される用語「MMP−9」(マルチドメイン亜鉛エンドペプチダーゼ−マトリックス−メタロプロテイナーゼ−9、ゼラチナーゼBとも呼ばれる)は、そのホモログ、オルソログおよびイソ型を含めて、哺乳動物(例えば、ヒト)MMP−9ポリペプチド(EC3.4.24.35;Swiss Prot番号P14780)の前駆体形態または活性な形態を示す。MMP−9は典型的には、3つのドメイン、すなわち、触媒ドメイン、基質結合ドメイン、および、両者間のリンカードメインを含む。リンカードメインは、本明細書中ではコラーゲンV様ドメインまたはO−グリコシル化(OG)ドメインとしても示され、64個のアミノ酸(そのうちの22個がプロリン残基であり、そのうちの6個がグリシン残基である)と、およそ12〜14個のO結合型グリカンとを含む。
【0041】
本発明のこの局面の1つの実施形態によれば、MMP−9は天然のままであり、すなわち、変性されていない。本発明のこの局面の別の実施形態によれば、MMP−9は活性であり、好ましくは完全に活性である。
【0042】
MMP−9の活性には、ゼラチン溶解活性、I型、III型およびXI型の天然コラーゲンの分解(コラーゲン溶解活性)、エラスチン、アグレカン、ラミニンA鎖およびミエリン塩基性タンパク質の分解が含まれるが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書中で使用される用語「調節する」は、ダウンレギュレーションまたはアップレギュレーションすることを示す。OGドメインの柔軟性を阻害する作用因子が、柔軟であることをOGドメインに要求するMMP−9の機能(例えば、そのコラーゲン溶解活性など)をダウンレギュレーションすることが理解される。対照的に、MMP−9の特定の3D構造を要求し、かつ、OGドメインの柔軟性を要求しない活性が、OGドメインと相互作用する作用因子によってアップレギュレーションされ得る。そのような活性の一例がそのゼラチン溶解活性であり、あるいは、受容体および/または増殖因子と相互作用する能力である。
【0044】
既述したように、本発明の方法は、MMP−9を、そのOGドメインと特異的に相互作用することができる作用因子と接触させることによって行われる。
【0045】
本明細書中で使用される用語「接触(させること)」は、そのような作用因子がそのOGドメインと相互作用し(例えば、OGドメインに結合し)、その剛直性に影響を及ぼすことを可能にする条件(すなわち、時間、温度、緩衝液)下で、MMP−9がそのような作用因子と接触できるようにすることを示す。該接触は、生体内、生体外または試験管内で行われ得ることが理解される。
【0046】
本明細書中で使用される表現「特異的に相互作用する」は、MMP−9の別のドメイン(例えば、触媒ドメインまたは基質結合ドメイン)とは対照的に、MMP−9のOGドメインに対する高まった親和性、および、別のメタロプロテイナーゼ酵素(例えば、MMP−2)のOGドメインを上回るMMP−9のOGドメインに対する高まった親和性の両方を示す。最小の親和性の一例がおそらくは10−5Mである。好ましくは、作用因子は、上記と比較して少なくとも3倍大きい親和性で、より好ましくは、少なくとも5倍大きい親和性で、より好ましくは、少なくとも10倍大きい、またはそれ以上の親和性でMMP−9のOGドメインと相互作用する。MMP−9のOGドメインのアミノ酸配列は、(MMP−9とMMP−2の間において非常に相同的である触媒ドメインのアミノ酸配列とは対照的に)MMP−9に特異的であるため、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用することができる作用因子は、したがって、MMP−9を特異的に調節することができることが理解される。
【0047】
MMP−9のOGドメインと相互作用することができる本発明によって意図される作用因子(すなわち、分子)には、ポリペプチド作用因子(例えば、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する抗原認識ドメインを含む抗体)、ペプチドおよび小分子が含まれるが、これらに限定されない。作用因子は、特定のアミノ酸配列認識および/または立体配座認識に基づいてOGドメインと相互作用し得ることが理解される。
【0048】
MMP−9のOGドメインを認識する抗体作用因子が、例えば、Sigma、ChemiconおよびAbcamから市販されている。
【0049】
本発明において使用される用語「抗体」には、特定のミトコンドリアタンパク質に結合することができる無傷の分子、ならびに、その機能的フラグメント、例えば、Fab、F(ab’)2およびFvなどが含まれる。より小さい抗体フラグメントは、より容易に組織内に浸透することができ、かつ、身体からより迅速に排出されるので、完全な抗体よりも好都合であり得る。このことは、MMP−9特異的抗体の生体内使用については特に関連している。また、抗体フラグメントのさらなる利点が、抗体フラグメントが細菌または酵母において産生され得ることである。
【0050】
MMP−9のOGドメインに対してなされる抗体の作製は、OGドメインを含むペプチドを使用することによって影響され得る。そのような抗体は、他のMMP−9ドメインを負のコントロールとして使用して選択することができる。
【0051】
本発明を実施するための好適な抗体フラグメントには、免疫グロブリン軽鎖(これは本明細書中では「軽鎖」として示される)の相補性決定領域(CDR)、免疫グロブリン重鎖(これは本明細書中では「重鎖」として示される)のCDR、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域、軽鎖、重鎖、Fdフラグメント、ならびに、軽鎖および重鎖の両方の本質的に全可変領域を含む抗体フラグメント(例えば、Fv、単鎖Fv、Fab、Fab’およびF(ab’)2など)が含まれる。
【0052】
軽鎖および重鎖の両方の全可変領域または本質的に全可変領域を含む機能的な抗体フラグメントは下記のように定義される:
(i)Fv、これは、2つの鎖として発現された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域からなる遺伝子操作されたフラグメントとして定義される;
(ii)単鎖Fv(「scFv」)、これは、好適なポリペプチドリンカーによって連結された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む遺伝子操作された単鎖分子である;
(iii)Fab、これは、完全な抗体を酵素パパインで処理して、無傷の軽鎖と、重鎖のFdフラグメント(これはその可変ドメインおよびCH1ドメインからなる)とを生じさせることによって得られる、抗体分子の一価の抗原結合性部分を含有する抗体分子のフラグメントである;
(iv)Fab’、これは、完全な抗体を酵素ペプシンで処理し、その後、還元することによって得られる、抗体分子の一価の抗原結合性部分を含有する抗体分子のフラグメントである(2つのFab’フラグメントが1つの抗体分子について得られる);および
(v)F(ab’)、これは、完全な抗体を酵素ペプシンで処理することによって得られる、抗体分子の一価の抗原結合性部分を含有する抗体分子のフラグメントである(すなわち、2つのジスルフィド結合によって一緒に結ばれたFab’フラグメントのダイマー)。
【0053】
抗体(即ちモノクローナルおよびポリクローナル抗体)を作製する方法は当該技術分野では周知である。抗体は当該技術分野で知られたいくつかの方法のいずれか一つを介して作製されることができ、その方法は、抗体分子のインビボ生成の誘導、免疫グロブリンライブラリーのスクリーニングを用いることができる(Orlandi D.Rら、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.86:3833−3837;Winter G.ら、1991、Nature 349:293−299)かまたは培養中の連続細胞系によるモノクローナル抗体分子の生成を用いることができる。これらはハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術およびEpstein−Barr−Virus(EBV)ハイブリドーマ技術(Kohler G.ら、1975、Nature 256:495−497,Kozbor D.ら、1985、J.Immunol.Methods 81:31−42,Cote R.J.ら、1983、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:2026−2030;Cole S.P.ら、1984、Mol.Cell.Biol.62:109−120)を含むがこれらに限定されない。
【0054】
インビボで抗体を生成するときに、標的抗原が小さすぎて、適切な免疫原応答を誘発することができない場合、そのような抗原(ハプテン)は、抗原的に中性な担体(キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または血清アルブミン[例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)]などの担体)にカップリングすることができる(例えば、米国特許第5189178号および同第5239078号を参照のこと)。担体へのハプテンのカップリングを、この技術分野では広く知られている様々な方法を使用して行うことができる。例えば、アミノ基への直接的なカップリングを行うことができ、必要に応じて、その後、形成されたイミノ連結の還元を行うことができる。代替では、担体を、縮合剤(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミドまたは他のカルボジイミド脱水剤)を使用してカップリングすることができる。リンカー化合物もまた、そのようなカップリングを行うために使用することができる;ホモ二官能性リンカーおよびヘテロ二官能性リンカーの両方が、Pierce Chemical Company(Rockford、Ill.)から入手可能である。得られる免疫原性複合体を、その後、好適な哺乳動物被験体(例えば、マウス、ウサギなど)に注射することができる。好適なプロトコルでは、血清における抗体の産生を増強させるスケジュールに従ったアジュバントの存在下における免疫原の繰り返される注射が伴う。免疫血清の力価を、この技術分野では広く知られている様々な免疫アッセイ手法を使用して容易に測定することができる。
【0055】
得られた抗血清はそのまま使用することができ、または、モノクローナル抗体を、本明細書において上記されるように得ることができる。
【0056】
抗体フラグメントを、この技術分野では広く知られている様々な方法を使用して得ることができる[(例えば、HarlowおよびLane、「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory、New York(1988)を参照のこと)。例えば、本発明による抗体フラグメントを抗体のタンパク質分解的加水分解によって調製することができ、あるいは、フラグメントをコードするDNAの大腸菌または哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養または他のタンパク質発現システム)における発現によって調製することができる。
【0057】
あるいは、抗体フラグメントを従来の方法による完全な抗体のペプシン消化またはパパイン消化によって得ることができる。本明細書中上記で記載されたように、(Fab’)抗体フラグメントを、5Sフラグメントをもたらすために抗体をペプシンで酵素切断することによって製造することができる。このフラグメントは、3.5SのFab’一価フラグメントを生じさせるために、チオール還元剤、および、場合により、ジスルフィド連結の切断から生じるスルフヒドリル基のための保護基を使用してさらに切断することができる。あるいは、ペプシンを使用する酵素切断は、2つの一価Fab’フラグメントと、Fcフラグメントとを直接に生じさせる。そのような方法を実施するための十分な指針が当該分野の文献には提供されている(例えば、米国特許第4036945号および同第4331647号、ならびに、Porter,R.R.、1959、Biochem J、73、119〜126を参照のこと)。抗体を切断する他の方法、例えば、一価の軽鎖−重鎖フラグメントを形成するための重鎖の分離、フラグメントのさらなる切断、または、他の酵素的技術、化学的技術もしくは遺伝的技術などもまた、フラグメントが、無傷の抗体によって認識される抗原に結合する能力を保持する限り、使用することができる。
【0058】
本明細書中上記で記載されたように、Fvは、対形成した重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインから構成される。この会合は非共有結合性であり得る(例えば、Inbar,D.他(1972)、Proc Natl Acad Sci USA、69、2659〜2662を参照のこと)。あるいは、本明細書中上記で記載されたように、可変ドメインを、分子間ジスルフィド結合によって単鎖Fvを作製するために連結することができ、あるいは、そのような鎖を化学試薬(例えば、グルタルアルデヒドなど)によって架橋することができる。
【0059】
好ましくは、Fvは単鎖Fvである。
【0060】
単鎖Fvは、ペプチドリンカーをコードするオリゴヌクレオチドによってつながれた、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって調製される。構造遺伝子が発現ベクターに挿入され、続いて、発現ベクターが宿主細胞(例えば、大腸菌など)に導入される。組換え宿主細胞により、2つの可変ドメインを架橋するリンカーペプチドを有する単一ポリペプチド鎖が合成される。単鎖Fvを製造するための充分な指針が当該分野の文献には提供されている(例えば、Whitlow,M.およびFilpula,1991、Methods 2:97〜105;Bird他、1988、Science 242:423〜426;Pack他、1993、Biotechnology 11:1271〜1277;およびLadner他、米国特許第4946778号を参照のこと)。
【0061】
単離された相補性決定領域ペプチドを、目的とする抗体の相補性決定領域をコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。そのような遺伝子は、例えば、抗体産生細胞のmRNAのRT−PCRによって調製することができる。そのような方法を実施するための充分な指針が当該分野の文献には提供されている(例えば、LarrickおよびFry、1991、Methods 2:106〜110)。
【0062】
ヒトの治療のためにはヒト化抗体が好ましくは使用されることが理解される。非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態は、非ヒト抗体に由来する部分(好ましくは、最小限の部分)を有する遺伝子操作されたキメラな抗体または抗体フラグメントである。ヒト化抗体には、ヒト抗体(レシピエント抗体)の相補性決定領域が、所望の機能性を有する非ヒト種(ドナー抗体)(例えば、マウス、ラットまたはウサギ)の相補性決定領域からの残基によって置換される抗体が含まれる。いくつかの場合において、ヒト抗体のFvフレームワーク残基が、対応する非ヒト残基によって置換される。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体においても、あるいは、移入された相補性決定領域配列またはフレームワーク配列においても、そのいずれにも見出されない残基を含むことができる。一般に、ヒト化抗体は、相補性決定領域のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト抗体のCDRに対応し、かつ、フレームワーク領域のすべてまたは実質的にすべてが関連のヒトコンセンサス配列のフレームワーク領域に対応する少なくとも1つ(典型的には2つ)の可変ドメインの実質的にすべてを含む。ヒト化抗体は最適には、典型的にはヒト抗体に由来する抗体定常領域(例えば、Fc領域など)の少なくとも一部もまた含む(例えば、Jones他、1986、Nature、321:522〜525;Riechmann他、1988、Nature 332:323〜329;およびPresta、1992、Curr.Op.Struct.Biol.2:593〜596を参照のこと)。
【0063】
非ヒト抗体をヒト化するための様々な方法が当該分野では広く知られている。一般に、ヒト化抗体は、1つ以上のアミノ酸残基が、非ヒトである供給源からヒト化抗体に導入されている。これらの非ヒト由来のアミノ酸残基は移入残基と呼ばれることが多く、典型的には、移入されている可変ドメインから取られる。ヒト化を、ヒト相補性決定領域を対応する齧歯類相補性決定領域によって置換することにより、本質的には記載されるように行うことができる(例えば、Jones他、1986、Nature 321:522〜525;Riechmann他、1988、Nature 332:323〜327;Verhoeyen他、1988、Science 239:1534〜1536;米国特許第4816567号を参照のこと)。したがって、そのようなヒト化抗体は、無傷のヒト可変ドメインの実質的に一部が、非ヒト種に由来する対応の配列によって置換されているキメラな抗体である。実際には、ヒト化抗体は典型的には、一部の相補性決定領域残基と、可能であれば、一部のフレームワーク残基とが、齧歯類抗体における類似部位に由来する残基によって置換されるヒト抗体である。
【0064】
ヒト抗体はまた、当該分野で既知の様々なさらなる技術を使用して製造することができ、そのような技術には、ファージディスプレーライブラリーが含まれる(例えば、HoogenboomおよびWinter、1991、J.Mol.Biol.227:381;Marks他、1991、J.Mol.Biol.222:581;Cole他、「Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy」、Alan R.Liss、77頁(1985);Boerner他、1991、J.Immunol.147:86〜95)。ヒト化抗体はまた、ヒト免疫グロブリン遺伝子座をコードする配列をトランスジェニック動物(例えば、内因性の免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活性化されているマウス)に導入することによって作製することができる。抗原による攻撃を受けたとき、遺伝子再配置、鎖の組み立ておよび抗体レパートリーを含めて、すべての点でヒトにおいて認められる抗体と非常に類似するヒト抗体の産生がそのような動物において観測される。そのような方法を実施するための充分な指針が当該分野の文献には提供されている(例えば、米国特許第5545807号、同第5545806号、同第5569825号、同第5625126号、同第5633425号および同第5661016号;Marks他、1992、Bio/Technology 10:779〜783;Lonberg他、1994、Nature、368:856〜859;Morrison、1994、Nature 368:812〜813;Fishwild他、1996、Nature Biotechnology 14:845〜851;Neuberger、1996、Nature Biotechnology 14:826;LonbergおよびHuszar、1995、Intern.Rev.Immunol.13:65〜93を参照のこと)。
【0065】
MMP−9を特異的に調節し得ると推定される作用因子を特定するために、作用因子を、MMP−9のOGドメインと相互作用する能力に関して評価することができる。
【0066】
したがって、本発明の1つの局面によれば、作用因子がMMP−9の特異的な調節剤であるかどうかを明らかにするための方法が提供され、該方法は、推定されるMMP−9特異的調節剤である作用因子がMMP−9のOGドメインと相互作用することができるかどうかを明らかにすることを含む。
【0067】
非常に注意深い実験により、本発明者らは全長プロMMP−9の3D構造を明らかにしている。本明細書中に記載される完全なMMP−9の3D構造は、MMP9の作用を調節する(好ましくは、阻害する)薬物の合理的設計において使用することができる。これらのMMP9調節因子は、MMP9活性の望ましくない物理的性質および薬理学的性質を防止または処理するために使用することができる。したがって、本発明のこの局面の1つの実施形態によれば、作用因子を、その構造をMMP−9のOGドメインの構造と比較することによって、MMP−9を特異的に調節する能力について評価することができる。これを、全長MMP−9のコンピューターモデルを使用することによって行うことができ、例えば、GASBORおよびCHADDなどのプログラムの助けをかりて本発明者らによって作製されるモデルなどを使用することによって行うことができる。この方法は、ペプチド作用因子および小分子を特定するために好適であり得る。
【0068】
作用因子の構造が得られると、OGドメインの3D構造に収まり、できればOGドメインの3D構造を安定化するか、または乱すペプチドを設計することができる。そのようなペプチド/小分子は、OGドメインと特異的に結合するよう、スクリーニングすることができる。
【0069】
本明細書中上記に記載されるようなペプチド模倣体の作製を、例えば、ディスプレー技術を含めて、様々な取り組みを使用して行うことができる。
【0070】
そのようなディスプレーライブラリーを構築する様々な方法が当該分野において広く知られている。そのような方法は、例えば、Young AC他、「The three−dimensional structures of a polysaccharide binding antibody to Cryptococcus neoformans and its complex with a peptide from a phage display library:implications for the identification of peptide mimotopes」J Mol Biol 1997 Dec 12;274(4):622−34;Giebel LB他「Screening of cyclic peptide phage libraries identifies ligands that bind streptavidin with high affinities」Biochemistry 1995 Nov 28;34(47):15430−5;Davies EL他、「Selection of specific phage−display antibodies using libraries derived from chicken immunoglobulin genes」J Immunol Methods 1995 Oct 12;186(l):125−35;Jones C RT al.「Current trends in molecular recognition and bioseparation」J Chromatogr A 1995 Jul 14;707(l):3−22;Deng SJ他「Basis for selection of improved carbohydrate−binding single−chain antibodies from synthetic gene libraries」Proc Natl Acad Sci USA 1995 May 23;92(11):4992−6;およびDeng SJ他「Selection of antibody single−chain variable fragments with improved carbohydrate binding by phage display」J Biol Chem 1994 Apr 1;269(13):9533−8に記載され、それらは参照によって本明細書中に援用される。
【0071】
ペプチド模倣体はまた、計算生物学を使用して見出すことができる。例えば、様々な化合物を、本明細書中下記において実施例の節で記載されるような様々な三次元計算ツールを使用して、OGドメインと結合する能力についてコンピューター計算により分析することができる。三次元構造モデルを表示するために有用なソフトウエアプログラム、例えば、RIBBONS(Carson,M.、1997、Methods in Enzymology、227、25)、O(Jones,TAら、1991、Acta Crystallogr.A47、110)、DINO(DINO:Visualizing Structural Biology(2001)、www.dino3d.org)、および、QUANTA、INSIGHT、SYBYL、MACROMODE、ICM、MOLMOL、PASMOLおよびGRASP(Kraulis,J.、1991、Appl Crystallogr、24、946に総説される)などを、OGドメインと、予測されるペプチド模倣体との間における相互作用をモデル化し、それにより、OG領域に結合する最大の確率を示すペプチドを特定するために利用することができる。タンパク質−ペプチド相互作用のコンピューター計算によるモデル化が合理的薬物設計において首尾良く使用されている。さらに詳しくは、Lamら、1994、Science、263、380;Wlodawerら、1993、Ann Rev Biochem、62、543;Appelt、1993、Perspectives in Drug Discovery and Design、1、23;Erickson、1993、Perspectives in Drug Discovery and Design、1、109;および、Mauro MJら、2002、J Clin Oncol、20、325〜34を参照のこと。
【0072】
本発明のこの局面の別の実施形態によれば、作用因子を単離されたMMP−9とインキュベーションすることによって、MMP−9を特異的に調節する作用因子の能力について評価することができる。MMP−9のアミノ酸配列が知られているので、単離されたMMP−9、または、OGドメインを含むそのフラグメントを、標準的な組換えDNA技術を使用して、または、化学合成によって作製することができる。標準的なタンパク質標識化技術を、標的に対する作用因子の結合をアッセイするために使用することができる。標識化は、(例えば、MMP−9のS35標識化によって)直接的であり得るか、または、例えば、二次抗体の使用などによって間接的であり得る。標準的な免疫学的方法(ELISA、免疫沈降)および生化学的方法(例えば、ゲルろ過)を、作用因子の結合を評価するために使用することができる。
【0073】
推定される作用因子が特定されると、推定される作用因子は、該作用因がMMP−9の機能を調節できることについて、またMMP−9に対する選択性を有し得ることについてアッセイすることができる。そのようなアッセイの一例が、本明細書中下記において実施例7で記載されるコラーゲン溶解活性のインサイチュザイモグラフィー分析である。
【0074】
既述したように、MMP−9は、その組織損傷役割、ならびに、プロテアーゼ阻害剤、ケモカインおよびサイトカインを含めて、様々な可溶性タンパク質の炎症促進プロセシングのために、炎症性疾患におけるプロトタイプ標的であることが知られている。したがって、MMP−9の活性をダウンレギュレーションすることができる作用因子は、MMP−9に関連づけられる障害を治療するために使用することができる。
【0075】
したがって、本発明の1つの局面によれば、MMP−9媒介の医学的状態を治療する方法が提供され、該方法は、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する作用因子の治療有効量をその必要性のある対象に投与し、それにより、MMP−9媒介の医学的状態を治療することを含む。
【0076】
本明細書中で使用される用語「その必要性のある対象」は哺乳動物対象を示し、好ましくは、ヒト対象を示す。
【0077】
本明細書中で使用される用語「治療する」は、MMP−9媒介の疾患または状態の有害な影響を防止、治療、後退、減衰、緩和、最小化、抑制、または停止させることを示す。
【0078】
表現「MMP−9媒介の医学的状態」は、MMP−9がその発症または進行に関与していると考えられ得る疾患または障害を示す。MMP−9媒介の医学的状態の一例がガンであり、例えば、転移性ガンであり、例えば、乳ガン、卵巣ガン、骨肉腫、肺ガン、膵臓ガンおよび前立腺ガンなどである。
【0079】
ガンにおいて役割を果たすことに加えて、MMP−9は、他の病理において、例えば、関節炎において、または、神経変性疾患、例えば、多発性硬化症(Firestein、Curr.Opin.Rheumatol.、4:348〜354(1992);Gijbelsら、J.Neuroimmunol.、41:29〜34(1992))などにおいて関与する場合がある。例えば、高いレベルのMMP−9が、健康な患者または変形性関節炎の患者と比較して、炎症性関節炎(例えば、リウマチ様関節炎など)の患者の血清および滑液において検出されている(Ahrensら、Arthritis & Rheumatism、39:1576〜87(1996);Gruberら、Clin.Immunol.&Immunopathol.、78:161〜171(1996))。加えて、相関が、関節の関節炎活動スコアと、吸引された滑液におけるMMP−9の量との間で報告されている(Koolwijkら、J.Rheumatology、22:385〜393(1995))。
【0080】
MMP−9の発現がまた、神経系の疾患において検出される。例えば、MMP−9の突出した発現が、正常な脳組織と比較して、脱髄性病変部における反応性星状膠細胞およびマクロファージにおいて見出されている(Cuznerら、J.Neuropathol.Exp.Neurol.、55:1194〜1204(1996))。MMP−9が、脳脊髄炎において(Gijbelsら、J.Neuro.Res.、36:432〜440(1993);Proostら、Biochem,Biophys,Res.Comm.、192:1175〜1181(1193))、多発性硬化症の患者の脳脊髄液において(Leppertら、Brain、121:2327〜2334(1998);Rosenbergら、Brain Res.、703:151〜155(1995))、また、AIDS関連認知症の患者において上昇する(Conantら、Annals of Neurology、46:391〜398(1999))。さらに、筋萎縮性側索硬化症の患者では、MMP−9の発現が、運動皮質の錐体ニューロンにおいて、また、脊髄の運動ニューロンにおいて見出される(Limら、J.Neurochem.、67:251〜259(1996))。
【0081】
MMP−9はまた、様々な他の炎症性疾患に関連する。例えば、高いレベルのMMP−9活性が大動脈瘤の血管壁において見出される(Freestoneら、Arteriosclerosis,Thrombosis & Vascular Biology、15:1145〜1151(1995);Newmanら、Connective Tissue Research、30:265〜276(1994);Sakalihasanら、J.Vascular Surgery、24:127〜33(1996))。さらに、巨細胞性動脈炎の患者はMMP−9の増大したレベルを有しており、MMP−9のmRNAが、炎症を起こした血管の中膜における断片化された弾性組織の領域において平滑筋細胞および線維芽細胞に見出される(Sorbiら、Arthitis & Rheumatism、35:1747〜1753(1996))。増大したレベルのMMP−9がまた、嚢胞性線維症の患者の痰において、また、気管支拡張症の患者の気管支肺胞洗浄液において見出される(Delacourtら、Amer.J.Respiratory & Critical Care Med.、152:765〜764(1995);Sepperら、Chest、106:1129〜1133(1994))。高いレベルのMMP−9がまた、水疱性類天疱瘡患者の皮膚病変部からの水疱液において見出されている(Stahle−Backdahlら、J.Clinical Invest.、93:2022〜2030(1994))。
【0082】
MMP−9の発現はまた、いくつかの他の疾患の病因に関係している。例えば、MMP−9が、多発性嚢胞腎疾患(Murrayら、Conn.Tissue Res.、33:249〜256(1996))、膜性腎症(McMillinら、J.Clin.Invest.、97:1094〜1101(1996))およびアルツハイマー病(Limら、J.Neurochem.、68:1606〜1611(1977))において関係している。
【0083】
したがって、本発明では、MMP−9のOGドメインと選択的に相互作用することができる作用因子を使用する、上記で示される疾患または状態のすべての治療が意図される。
【0084】
本発明の作用因子は、それ自体で、または、生理学的に許容され得るキャリアも含む医薬組成物の一部として対象に投与されることができる。医薬組成物の目的は、生物に対する有効成分の投与を容易にすることである。
【0085】
本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される有効成分の1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、生理学的に好適なキャリアおよび賦形剤など)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0086】
本明細書中で使用される用語「有効成分」は、意図される生物学的効果、すなわちMMP−9の活性のダウンレギュレーションの役割を担うことができる作用因子を示す。
【0087】
本明細書中以降、表現「生理学的に許容され得るキャリア」および表現「医薬的に許容され得るキャリア」は、交換可能に使用され得るが、生物に対する著しい刺激を生じさせず、かつ、投与された化合物の生物学的な活性および性質を妨げないキャリアまたは希釈剤を示す。アジュバントはこれらの表現に包含される。医薬的に許容され得るキャリアに含まれる成分の1つは、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)であることができ、これは有機媒体および水性媒体の両方における広範囲の溶解性を有する生体適合性ポリマーである(Mutter他(1979))。
【0088】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0089】
薬物の配合および投与のための技術が「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)に見出されることができ、これは参考として本明細書中に組み込まれる。
【0090】
好適な投与経路には、例えば、経口送達、直腸送達、経粘膜送達、特に経鼻送達、腸管送達、または非経口送達(これには、筋肉内注射、皮下注射および髄内注射、ならびに、クモ膜下注射、直接的な脳室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻内注射または眼内注射が含まれる)が含まれることができる。
【0091】
あるいは、例えば、患者の身体の組織領域に直接的に調製物の注射をすることによって、全身的な方法よりも局所的に調製物を投与することができる。
【0092】
本発明の医薬組成物は、この分野で十分に知られているプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥のプロセスによって製造されることができる。
【0093】
本発明に従って使用される医薬組成物は、医薬品として使用されることができる調製物への有効成分の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の生理学的に許容され得るキャリアを使用して従来の様式で配合されることできる。適正な配合は、選ばれた投与経路に依存する。
【0094】
注射の場合、本発明の医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合しうる緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理学的な食塩緩衝液など)において配合されることができる。経粘膜投与の場合、浸透されるバリヤーに対して適切な浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤はこの分野では一般に知られている。
【0095】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性化合物をこの分野でよく知られている医薬的に許容され得るキャリアと組み合わせることによって容易に配合されることができる。そのようなキャリアは、本発明の医薬組成物が、患者によって経口摂取される錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー剤および懸濁物などとして配合されることを可能にする。経口使用される薬理学的調製物は、固体の賦形剤を使用し、得られた混合物を場合により粉砕し、錠剤または糖衣錠コアを得るために、望ましい好適な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して作製されることができる。好適な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなど;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容され得るポリマーである。もし望むなら、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤が加えられることができる。
【0096】
糖衣錠コアには、好適なコーティングが施される。この目的のために、高濃度の糖溶液を使用することができ、この場合、糖溶液は、場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有しうる。色素または顔料は、活性化合物の量を明らかにするために、または活性化合物の量の種々の組合せを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠コーティングに加えられることができる。
【0097】
経口使用されうる医薬組成物としては、ゼラチンから作製されたプッシュ・フィット型カプセル、ならびに、ゼラチンおよび可塑剤(例えば、グリセロールまたはソルビトールなど)から作製された軟いシールされたカプセルが挙げられる。プッシュ・フィット型カプセルは、充填剤(例えば、ラクトースなど)、結合剤(例えば、デンプンなど)、滑剤(例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)、および場合により安定化剤との混合で有効成分を含有することができる。軟カプセルでは、有効成分は、好適な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィンまたは液状のポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁されることができる。さらに、安定化剤が加えられることができる。経口投与される配合物はすべて、選ばれた投与経路について好適な投薬形態でなければならない。
【0098】
口内投与の場合、組成物は、従来の方法で配合された錠剤またはトローチの形態を取ることができる。
【0099】
鼻吸入による投与の場合、本発明による使用のための有効成分は、好適な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素)の使用により加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示物の形態で都合よく送達される。加圧されたエアロゾルの場合、投与量は、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定されることができる。ディスペンサーにおいて使用される、例えば、ゼラチン製のカプセルおよびカートリッジは、化合物および好適な粉末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプンなど)の粉末混合物を含有して配合されることができる。
【0100】
本明細書中に記載される調製物は、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与のために配合されることができる。注射用配合物は、場合により保存剤が添加された、例えば、アンプルまたは多回用量容器における単位投薬形態で提供されることができる。組成物は、油性ビヒクルまたは水性ビヒクルにおける懸濁物または溶液剤またはエマルションにすることができ、懸濁化剤、安定化剤および/または分散化剤などの配合剤を含有することができる。
【0101】
非経口投与される医薬組成物には、水溶性形態の活性調製物の水溶液が含まれる。さらに、有効成分の懸濁物は、適切な油性または水性の注射用懸濁物として調製されることができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油(例えば、ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、トリグリセリドまたはリポソームが挙げられる。水性の注射用懸濁物は、懸濁物の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどを含有することができる。場合により、懸濁物はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために、有効成分の溶解性を増大させる好適な安定化剤または薬剤を含有することができる。
【0102】
あるいは、有効成分は、好適なビヒクル(例えば、無菌の、パイロジェン不含水溶液)を使用前に用いて構成される粉末形態であることができる。
【0103】
本発明の医薬組成物はまた、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の座薬基剤を使用して、座薬または停留浣腸剤などの直腸用組成物に配合されることができる。
【0104】
本発明に関連した使用のために好適な医薬組成物として、有効成分が、その意図された目的を達成するために有効な量で含有される組成物が含まれる。より具体的には、「治療有効量」は、処置されている対象の障害(例えば、虚血)の症状を予防、緩和あるいは改善するために効果的であるか、または、処置されている対象の生存を延ばすために効果的である、有効成分(例えば、核酸構築物)の量を意味する。
【0105】
治療有効量の決定は、特に本明細書中に示される詳細な開示を考慮に入れると十分に当業者の能力の範囲内である。
【0106】
本発明の方法において使用されるいかなる調製物についても、投与量または治療有効量は、生体外アッセイおよび細胞培養アッセイから最初に推定されることができる。例えば、投与量は、所望の濃度または力価を達成するために動物モデルにおいて決定されることができる。そのような情報は、ヒトにおける有用な投与量をより正確に決定するために使用されることができる。
【0107】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療効力は、生体外、細胞培養物、または実験動物における標準的な薬学的手法によって決定されることができる。これらの生体外、細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投与量範囲を定めるために使用されることができる。投与量は、用いられる投薬形態および利用される投与経路に依存して変化しうる。正確な配合、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択されることができる(例えば、Finglら、(1975)「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,Ch.1 p.1を参照のこと)。
【0108】
投薬量および投薬間隔は、生物学的効果を誘導または抑制するために十分な、有効成分の血漿レベル(これは最小有効濃度(MEC)と呼ばれる)をもたらすために個々に調節することができる。MECは、それぞれの調製物について変化するが、場合により、生体外データ全体から推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は、個人の特性および投与経路に依存する。血漿中濃度を求めるために検出アッセイが使用されることができる。
【0109】
処置される状態の重篤度および応答性に依存して、投薬は、単回または複数回投与で行われることができ、この場合、処置期間は、数日から数週間まで、または治療が達成されるまで、または疾患状態の軽減が達成されるまで続く。
【0110】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、処置されている対象、苦痛の重篤度、投与様式、処方医の判断などに依存するだろう。
【0111】
本発明の組成物は、もし望むなら、有効成分を含有する1つまたは複数の単位投薬形態を含有しうるパックまたはディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キットなど)で提供されることができる。パックは、例えば、金属ホイルまたはプラスチックホイルを含むことができる(例えば、ブリスターパックなど)。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が付随しうる。パックまたはディスペンサーデバイスはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局によって定められた形式で、通知を伴うことがあり、この場合、そのような通知は、組成物の形態、あるいはヒトまたは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物について米国食品医薬品局によって承認されたラベル書きでありうるか、または、承認された製品添付文書でありうる。医薬的に許容されうるキャリアに配合された本発明の調製物を含む組成物はまた、上記でさらに詳述されるような適応状態を処置するために、調製され、適切な容器に入れられ、かつ表示され得る。
【0112】
本発明の追加の目的、利点および新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0113】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なお、これら実施例によって本発明は限定されない。
【0114】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組換えDNAの技術が広く含まれている。これらの技術は、文献に詳細に説明されている。例えば、以下の諸文献を参照されたい。「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら、(1989);「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻 Ausubel,R.M.編(1994);Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons,バルチモア,メリーランド(1989);Perbal、「A Practical Guide to Molecular Cloning」、John Wiley & Sons,ニューヨーク(1988);Watsonら、「Recombinant DNA」、Scientific American Books、ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」、1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク(1998);米国特許第4666828号、同第4683202号、同第4801531号、同第5192659号および同第5272057号に記載される方法;「Cell Biology:A Laboratory Handbook」、I〜III巻 Cellis,J.E.編(1994);「Current Protocols in Immunology」I〜III巻 Coligan,J.E.編(1994);Stitesら編、「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、ノーウォーク,CT(1994);MishellおよびShiigi編、「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H.Freeman and Co.、ニューヨーク(1980);利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている:米国特許第3791932号、同第3839153号、同第3850752号、同第3850578号、同第3853987号、同第3867517号、同第3879262号、同第3901654号、同第3935074号、同第3984533号、同第3996345号、同第4034074号、同第4098876号、同第4879219号、同第5011771号および同第5281521号;「Oligonucleotide Synthesis」Gait,M.J.(1984);「Nucleic Acid Hybridization」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1985);「Transcription and Translation」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1984);「Animal Cell Culture」Freshney,R.I.編(1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press(1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal,B.(1984)および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、サンディエゴ,CA(1990);Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press(1996);なお、これらの文献類は、あたかも本願に完全に記載されているように援用されるものである。その他の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。本明細書に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。本明細書に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0115】
一般的な材料および方法
MMP−9の発現:組換えプロMMP−9を、ヒトプロMMP−9のcDNAを有するバキュロウイルスによるSf9昆虫細胞への感染によって発現させた[19]。細胞培養液のリットル量を遠心分離し、ろ過し、ゼラチン−セファロースクロマトグラフィーによって均一に精製した[52]。この物質を、さらなる処理の前に、100mM Tris(pH7.4)、100mM NaCl、10mM CaCl(緩衝液C)において広範囲に透析し、約20mgを本研究において使用した。OGドメインを欠く変異体(MMP−9ΔOG)を同様の方法で調製した[19]。
【0116】
小角X線散乱:溶液におけるSAXS実験を、標準的な手順に従って、Synchrotron Radiation Source(Daresbury Laboratory、英国)のステーション2.1[53]で行った。タンパク質溶液を、4℃で測定する前に13000xgで5分間遠心分離した。散乱曲線が、1.54Åの波長(λ)において、1m(7mg/ml、100μl)および4.25m(0.8mg/ml、1.6mg/ml、2.5mg/ml、100μl)のサンプル−検出器間距離で二次元マルチワイヤー比例カウンターにより集められ、これにより、散乱曲線は、0.008<q<0.78Å−1(q=4πsinθ/λ、式中、2θは散乱角度である)の運動量移行範囲を包含した。データが30の連続する1分フレームで集められ、その後、入射ビームの強度に対して正規化され、60°の扇形に関して動径積分され、フレーム数に関して平均化され、検出器応答に対して正規化された。その後、緩衝液の散乱が引かれ、低角度および高角度曲線が0.05〜0.15Å−1のq範囲にわたって併合された。時間の関数としての強度の再現性が、モノマー状プロMMP−9サンプルの放射線損傷がないために明白であった。回転半径(R)を、qR<1.3についてはI(q)=I(0)exp(−q/3)のギニエ近似[54]を使用して評価し、また、間接的フーリエ変換プログラムGNOM[55]により散乱曲線全体からも評価した。GNOMはまた、粒子の距離分布関数p(r)、および、p(r)がゼロになる点として定義されるその最大値Dmaxを与える。p(r)を決定するために、p(0)=0およびp(Dmax)が、まず最初に、選ばれたr間隔が正しかったかどうかを判定するために自由に割り当てられた。Dmaxは、最も低い正のp(Dmax)をもたらす最低値であった。Dmaxを固定した後、p(0)およびp(Dmax)がゼロに固定された。その後、データを、p(r)関数が収束するまで低角度および高角度領域で切り詰めた。
【0117】
2つのMMP−9ドメイン(N末端の触媒ドメインおよびC末端のヘモペキシン様ドメイン)の結晶構造を、それらの対応する理論的散乱曲線を計算するために、プログラムCRYSOL[36]を使用して分析した。これらは、それらの理論的な対分布関数を得るためにさらにフーリエ変換され、同時に、Dmax値およびR値が計算された。SAXS曲線のアブイニシオモデル化が下記で詳しく記載された。構造図をPyMOL(DeLano,W.L.、The PyMOL Molecular Graphics System(2002)、DeLano Scientific、San Carlos、CA、アメリカ合衆国、www.pymol.org)により作製した。
【0118】
モデルの正確性をさらに確認するために、その溶液流体力学的特性を、HYDROPRO[34]を使用して計算し、その後、実験値と比較した。殻状ミニビーズの半径を6回の増分で2.2Åから4.2Åにまで変化させた。溶媒の密度および粘度、ならびに、タンパク質の部分比容積を、SEDNTERP[27]を使用して計算した。流体力学的殻状モデルについての球半径が3.8〜5.3Åの間で変化した。SAXSモデルにおけるダミー残基(DR)の半径は3.8Åである。しかしながら、殻状モデルの実際の半径はタンパク質の水和のためにわずかにより大きく、それにもかかわらず、拡大の程度は、決定することが困難である[34]。DR半径を1.5Å増大することにより、水和が確実に考慮に入れられることが以前に提案された[56]。
【0119】
原子間力顕微鏡による画像化:画像化を、14x14μmの最大スキャン範囲により、E−スキャナーを備えるマルチモード原子間力顕微鏡(MMAFM Veeco/Digital Instruments、Santa Barbara、CA、アメリカ合衆国)を使用して行った。サンプルを、Tapping Modeを使用して、空気中または緩衝液中で画像化した。偽の吸着物(主に、塩の堆積)から生じる人為物を有しないサンプルを得るために、徹底した洗浄手順が要求された。アミン修飾シラン表面および架橋手順を使用することによって、タンパク質の著しい表面濃度を維持しながら、(ブランク操作によって明らかにされるような)バックグラウンドのほぼすべてが除かれた表面を調製することが可能であった。
【0120】
加えられる力の量を最小限に抑えるために、振幅設定点が、安定的な軌跡を与えた最大値に調節された。空気中での生物学的サンプルの高分解能像が、「スパイク」先端(Mikromasch(エストニア)から得られるDP14“HI’RES(商標)”プローブ)を使用して得られた。これらのプローブは、約160kHzの共鳴周波数、約5N/mの力定数、および、1nm以下の定格曲率半径を有しており、しかし、粗い表面での多数の接触を生じさせ得るさらなる「スパイク」の存在のために、20nm未満のrms粗さを有する表面での測定に適するだけである。20nmの公称半径を有するDNP−Sプローブ(Veeco)を、標準的なMMAFM液体セルで行われた液体測定のために使用した。タンパク質分子のサイズを断面分析から求めた。その後、幅値を、典型的な高分解能SEM像から観察されるような先端エンベロープを差し引くことによって、先端による広がりについて補正した。
【0121】
サイズ排除クロマトグラフィー:プロMMP−9のオリゴマー混合物を、4℃で平衡化および操作されるSuperdex−200カラム(300x10mm、Amersham Biosciences)に負荷した。サンプル体積が1.1mg/mlのプロMMP−9の100μlであり、流速が0.5ml/分であった。溶出を280nmでの吸光度によってモニターした。ストークス半径を、PorathプロットおよびLaurent−Killanderプロットの両方を使用して、校正曲線に関して溶出時間の分析によって求めた[Siegle,L.M.およびMonty,K.J.(1996)、Biochim Biophys Acta、112、346〜362]。校正曲線のために使用された、ストークス半径が知られている5個の標準タンパク質(Amersham Biosciences)が、チログロブリン(85Å)、フェリチン(61Ånm)、カタラーゼ(52.2Å)、アルドラーゼ(48.1Å)およびアルブミン(35.5Å)であった。ブルーデキストランによって測定される空隙体積が16.23分の保持時間(t)を有し、ビタミンB−12によって求められる総体積が39.44分の保持時間(t)を有した。これらの値から、所与のタンパク質の分配係数(Kd)を、Kd=(t−t)/(t−t)(式中、tは所与タンパク質の保持時間である)として計算した。非常に類似する結果がPorathプロットおよびLaurent−Killanderプロットの両方について得られた。3回繰り返した実験についての保持時間における不確かさが平均で0.5%であった。線形最小二乗フィッティングはr=0.97の相関係数をPorathプロットおよびLaurent−Killanderプロットの両方について有した。
【0122】
グリセロール勾配での沈降:精製されたプロMMP−9のサンプル(0.2mg)を、緩衝液における(GradientMaster BioComp(商標)で調製された)10〜45%のグリセロール勾配を含有する4本のポリアロマーチューブに重層した。その後、チューブを、SW41ローターにおいて、4℃で63時間、37000rpmで遠心分離した。その後、勾配物を0.5mlのサンプルに分画化し、サンプルをゼラチンザイモグラフィー[Masure,S.、Proost,P.、Van Damme,J.およびOpdenakker,G.(1991)、Eur J Biochem、198、391〜398]によってモノマー構造体および他のオリゴマー構造体の存在についてアッセイした。均一なモノマー構造体を含有する分画物をプールし、緩衝液に対して透析して、過剰なグリセロールを除いた。タンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce)を使用して求めた。
【0123】
分析超遠心分離:沈降速度実験を、An−50Tiローターを備えるBeckman Optima XL−A分析超遠心分離で行った。実験を緩衝液Cにおいて20℃で行った。タンパク質濃度が0.4mg/mlであるサンプルを12mmの光路セルに入れ、50000rpmで遠心分離した。280nmにおける吸光度を、6〜7.3cmの半径方向の範囲にわたって、0.001cmの半径方向の間隔を使用して160秒毎に記録した。
【0124】

【0125】
AFM画像化のためのアミン官能化基体の調製:これらの表面を、タンパク質を架橋し、かつ、タンパク質と結合するグルタルアルデヒドと相互作用する第一級アミン基のそれらの高濃度のために選択した。グルタルアルデヒドは、アミン表面基に対するアミド連結を形成する。グルタルアルデヒドのフリーアルデヒドが、タンパク質の外側表面に遍在するアミン基に対する共有結合性相互作用によって自発的にタンパク質を架橋する。したがって、タンパク質を表面に付けるために、操作または修飾を何ら必要としない。さらに、この方法は、表面におけるタンパク質の立体配座および配向におけるランダム分布をほんの最小限に乱すだけである。
【0126】
タンパク質と特異的に結合するために使用されるアミン官能化基体(Veeco Metrology,Inc.、Santa Barbara、CA、部品番号FSUB−11)の調製および特徴づけが簡単に記載される。1cmのシリコンチップを、研磨された<111>ウエハー(International Wafer Servive INC.、デンマーク)からさいの目に切った。シリコンチップを、アミン官能化基体を作製するためにプラズマエンハンスト化学気相成長(4th State,LLC、Belmont、CA)によってアミン末端シランにより修飾した。基体の表面組成を、アミン官能化の前および後の両方で、1486.6eVでの単色化AlkX線源を伴うKratos Axis Ultra(Kratos、Manchester、英国)を使用してX線光電子分光法(XPS)によって分析した。アミン基(これはXPSスペクトルにおける窒素ピークによって示される)が、アミン官能化の後でのみ、表面に存在した。処理された基体の二乗平均平方根(RMS)表面粗さが、OTESPプローブ(VEECO)を用いて空気中でタッピングモードを適用する原子間力顕微鏡法(AFM)によって求められたとき、1.8Åであった。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)アッセイを使用して、アミン官能化基体の結合能を求めた。HRP標識された抗体を、グルタルアルデヒド架橋剤を介してアミン官能化基体に固定化した。基体を超音波処理して、すべての結合していない抗体を除き、その後、SureBlue Reserve TMB1 Component Peroxidase Substrate(Kirkegaard and Perry Labs、Maryland)により分析した。結合活性を、吸光度を450nmで読み取ることによって求めた。
【0127】
タンパク質固定化手順:アミン化ダイを4℃でデシケーターにおいて保存した。使用直前に、プロMMP−9を、下記の手順によって、グルタルアルデヒド架橋剤を介してアミン官能化基体に固定化した:0.1M炭酸ナトリウム溶液(pH9)における1.25%グルタルアルデヒドをアミン官能化基体の上で一晩インキュベーションした。その後、基体を炭酸ナトリウム溶液により徹底的に洗浄して、結合していないグルタルアルデヒドを除いた。モノマー形態を含有するように分画化されたプロMMP9ΔOG変異体または野生型プロMMP−9の0.1mg/mlの単分散溶液を含有する100μlのサンプル体積を、その後、ダイの上で3時間インキュベーションした。サンプルを、200μlの緩衝液により2回、続いて、200μlのMilli−Q水により5回、穏やかに洗浄し、最後に、窒素流のもとで乾燥した。グルタルアルデヒドは、アミン化表面へのタンパク質の共有結合架橋剤として役立った。これは、表面へのタンパク質分子の堅固な結合を洗浄およびその後の画像化の期間中に保証した。緩衝液中で行われるAFM実験のために、サンプルは、連続して水和されたまま維持された。
【0128】
SAXS曲線のアブイニシオモデル化:プログラムのGASBOR[Svergun,D.I.、Petoukhov,M.V.およびKoch,M.H.(2001)、Biophys J、80、2946〜2953]およびCHADD[Petoukhov,M.V.、Eady,N.A.、Brown,K.A.およびSvergun,D.I.(2002)、Biophys J、83、3113〜3125]を使用して、低分解能のモデルを作製した。プロMMP−9におけるグルコシル化を考慮に入れるために、1つのグリカンが、その電子密度および長さに従って、約1.6個のアミノ酸残基と等価であることを仮定した[Receveur,V.、Czjzek,M.、Schulein,M.、Panine,P.およびHenrissat,B.(2002)、J Biol Chem、277、40887〜40892]。この値は、グリカンおよび残基の平均化された分子量との間における関係を表すことも見出された。その後、DRの総数を、アミノ酸配列と、以前に特徴づけられたグリカン組成[Van den Steen,P.E.、Van Aelst,I.、Hvidberg,V.、Piccard,H.、Fiten,P.、Jacobsen,C.、Moestrup,S.K.、Fry,S.、Royle,L.、Wormald,M.R.、Wallis,R.、Rudd,P.M.、Dwek,R.A.およびOpdenakker,G.(2006)、J Biol Chem、281、18626〜18637]とに基づいて計算した。
【0129】
ランダム・モンテカルロ・フィッティング手法により一意解へのモデルの収束について調べるために、同じ入力パラメーターのいくつかのモデルをそれぞれの方法について作製した。これらのモデルを、最も確実な解を選ぶために、また、平均化された正規化空間不一致(NSD)値をコンピューター計算するために、DAMAVER[Volkov,V.V.およびSvergun,D.I.(2003)、Journal of Applied Crystallography、36、860〜864]を使用して精査した(補足データの結果を参照のこと)。その後、末端ドメインの結晶構造[Elkins,P.A.、Ho,Y.S.、Smith,W.W.、Janson,C.A.、D’Alessio,K.J.、McQueney,M.S.、Cummings,M.D.およびRomanic,A.M.(2002)、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、58、1182〜1192;Cha,H.、Kopetzki,E.、Huber,R.、Lanzendorfer,M.およびBrandstetter,H.(2002)、J Mol Biol、320、1065〜1079]を、ソフトウエアSUPCOMB[Kozin,M.B.およびSvergun,D.I.(2001)、Journal of Applied Crystallography、4、33〜41]を使用して代表的モデルにおいてドッキングした。
【0130】
コラーゲン溶解活性のインサイチュザイモグラフィー分析:インサイチュザイモグラフィー[Deshane、2003]を、60nMの抗MMP9hr、または、対照のための対応する緩衝液、および、450nMの標識されたコラーゲン(分子内で消光されるOregonグリーン標識されたIV型コラーゲン−Molecular probes)とのヒト線維肉腫HT1080(CCL−121;ATCC、Rockville、MD)細胞の37℃での16時間のインキュベーションによって行った。コラーゲンの分解により、正味のコラーゲン溶解活性を示す緑色蛍光が生じる。画像化の前に、サンプルを、核を標識するために3.8μg/mlの最終濃度でHoechst33258(Molecular Probes)により染色した。サンプルを、CCDカメラ(DMX1200F;Nikon)につながれたPlan Fluor対物レンズを備える蛍光顕微鏡(E600;Nikon、東京、日本)によって調べ、写真撮影した。実験を6回繰り返した。像を、Adobe Photoshop(Adobe systems、San Jose、CA)を使用して組み立てた。
【0131】
(実施例1)
そのモノマー形態でのプロMMP−9の単離および特徴づけ
プロMMP−9モノマーの分子サイズおよび分子形状の決定、構造の再構築、ならびに、単分子像の分析では、単分散された均一なタンパク質サンプルが要求される。下記の実施例では、プロMMP−9のモノマー形態を発現させ、単離し、特徴づけるための様々な方法の組合せが記載される。分子半径の特徴づけを、分光学的形状決定の妥当性を確認するために使用した。
【0132】
結果
組換えプロMMP−9を、以前に報告されたように[19]、発現させ、バキュロウイルス感染Sf9細胞から精製した(材料および方法を参照のこと)。この酵素は、モノマーおよび他の高次オリゴマー化学種の混合物を形成する[20]。
【0133】
図1Bは、分析的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって求められるような、そのオリゴマー化学種に対するプロMMP−9モノマーの相対的な分子比率を示す。クロマトグラムにおける主ピーク(No.3)がプロMMP−9モノマーを含み、ストークス半径が45.4Åである(挿入図を参照のこと)。ストークス半径が、従来の手順を使用して、対応する保持時間に基づいて決定された。
【0134】
高次オリゴマー化学種からのプロMMP−9モノマーの調製的量での単離をグリセロール勾配沈降[26]によって達成した。図1Cは様々な分画物のザイモグラフィー分析を示す。単離されたモノマー分画物を、そのストークス半径をさらに推定するための分析超遠心分離(AUC)に供した(図1D)。この沈降速度実験において、一様なプロMMP−9溶液が重力場に供される。これは、メニスカス付近における溶質の枯渇、および、枯渇化した領域と、沈降しつつある溶質の一様な濃度との間における鮮明な境界の形成を生じさせる(図1D、挿入図)。この境界の移動速度を測定することができ、この境界の移動速度は、粒子の質量に直接に依存し、かつ、結果的には有効サイズおよび形状の尺度である摩擦比に逆比例的に依存する沈降係数の決定をもたらす。
【0135】
プロMMP−9モノマーが、サンプルにおける総タンパク質の91%を表す主ピークを伴って単一化学種として沈降し、正規化された沈降係数(s20,w)が4.4Sであることが見出された(図1D)。この値は近年の測定[19]と矛盾していない。44.1Åのストークス半径が、0.7328cm/gの計算された部分比容積を使用して、プログラムSEDNTERP[27]によって計算された。AUCに基づく形状分析(実験の摩擦比を使用する場合)は、1:6の軸比(a/b)を有する楕円形状を示した。AUCによって得られる分子半径の結果は、SECによって得られる値(45.4Å)と一致している。加えて、SEDNTERPによる半径の理論的推定は、プロMMP−9の分子量ならびにアミノ酸およびグリカン組成を使用する場合、28.7Åの分子等価球半径をもたらした。実験によるストークス半径からのこの値のずれは、細長い空洞または合体している空洞のどちらかであるが、非球状の形状についての別の目安を提供する。
【0136】
(実施例2)
小角X線散乱(SAXS)によるプロMMP−9の分子形状分析は細長い三次元構造を明らかにする
結果
プロMMP−9モノマーの溶液中での全体的な立体配座がSAXSによって調べられた。SAXSでは、散乱プロファイルが、ランダムに配向した分子の集団全体に由来し、(ほぼナノメートルの程度での)それらの平均化された立体配座に関する情報をもたらす。したがって、SAXSは、高分子の取得困難な高品質の結晶を必要とする結晶学的構造分析とは異なり、溶液中のタンパク質を研究するための数少ない構造的技術の1つである。この方法は、標的分子の電子による入射X線光子の弾性散乱を利用する。分子における原子の配置によって支配されるような電子密度分布により、干渉パターンがもたらされる。その後、分子の三次元形状が散乱プロファイルから再構築される[28]。
【0137】
散乱強度が、14<r<785Åのd間隔範囲に対応する0.008<q<0.46Å−1の運動量移行範囲にわたって観測された(図2A)。下方側の値(14Å)により、測定で得ることができる最終的な分解能が決まる。散乱強度は、qが小さい領域では直線的であり(散乱プロファイル、図2Aを参照のこと)、ギニエ則によって見事にフィッティングされる。傾きがタンパク質濃度と弱く相関することが見出された。このことは、凝集または粒子間干渉のどちらもシグナルに著しく寄与していないことを意味する。測定から得られる回転半径(R)が50±2.7Åである。関数p(r)は分子内における原子間距離の分布を表す(対分布関数−図2A、挿入図)。Rをp(r)から求めることにより、匹敵する値(49.2Å)が得られ、このことは、(フィッティング手順に先立つ)予備的なデータ分析が正確であることを示している。最大原子間距離(Dmax)が160Åである。p(r)の形状は細長い楕円構造を示す(例えば、[29〜31]を参照のこと)。
【0138】
プロMMP−9の三次元再構築モデルが、GASBOR[32]およびCHADD[33]のプログラムを使用して得られた。理論的な散乱曲線が、全体的なタンパク質形状を形成するために結合する、タンパク質の残基を表す球中心(またはダミー残基)の三次元配置からシミュレーションされる。最終的なタンパク質形状が、シミュレーションされた理論的曲線を実験データに対してフィッティングすることの繰り返しによって決定される。CHADDの利点は、データ分析手順における制約を導入するために、単離されたドメインの利用可能な結晶構造から得られる演繹的知識の使用にある。対照的に、GASBORによって作製されるモデルは、演繹的知識を何ら用いることなく計算される。CHADDと、GASBORとの間での詳細な比較が、本明細書中下記において実施例3に記載される。
【0139】
図2BはプロMMP−9の三次元の再構築された構造を示す。プロMMP−9の再構築された構造のストークス半径が、プログラムHYDROPRO[34]を使用して計算された。この計算された半径は44.9〜47.1Åの間に及び、SECおよびAUCによってそれぞれ得られる45.4Åおよび44.1Åの測定された値と一致する。さらに、SAXSモデル、および、AUCによって得られる軸比パラメーターはともに、細長い形状を示唆する。したがって、実験的SAXSプロファイルから復元される再構築された形状は、SECおよびAUCの両方によって得られる測定された流体力学的データと一致している。
【0140】
この構造のシミュレーションされた曲線のフィッティング分析が図2A(灰色曲線)に示される。プロ触媒ドメインのα炭素骨格の位置が構造再構築分析における制約として使用され、一方、OGおよびヘモペキシン様ドメインが、CHADDを使用して再構築された。最後に、プロ触媒ドメインの結晶構造[22]およびヘモペキシン様ドメインの結晶構造[24]が、ソフトウエアSUPCOMB[35]を使用して、輪郭密度に対して連続してドッキングされた(図2B)。残っている密度が、これら2つの末端ドメインを約30Åで隔てるOGドメインに属する。この値が、理論的なp(r)曲線を、ソフトウエアCRYSOL[36]を使用して、単離されたN末端およびC末端ドメインの結晶構造に基づいて計算することによってさらに確認された。これらのドメインについての計算されたDmax値がそれぞれ、80Åおよび50Åである。これらの値を全長プロMMP−9の実験的Dmax(160Å)から引くことにより、これらの末端ドメインが約30Å離れている再構築された構造のさらなる確認がもたらされる。
【0141】
OGおよびヘモペキシン様ドメインによって占められる体積を精査することにより、それらは、類似する体積であることが明らかにされる。しかしながら、O−グリカンを含むOGドメインの計算された分子量はヘモペキシン様ドメインの約半分である。PONDR[37]を使用するOGドメインのコンピューター計算による配列分析では、この領域が、他のドメインと比較して、著しく乱れていることが明らかにされた(図2C)。したがって、その観測されたコンパクトな立体配座にもかかわらず、このプロリンリッチなOGドメインは、比較的低い密度の乱れた構造を有する。したがって、SAXSによって検出されるOGドメインの比較的嵩高い電子密度は、溶液中においてこのリンカーペプチドによって保持される様々な立体配座を表す。このことは、OGリンカードメインが柔軟であることを示唆する。構造モデル化プログラムRAPPER[38、39]が、観測された散乱プロファイルおよび密度マップに合致する可能なリンカーの立体配座をモデル化するために使用された。具体的には、500個の計算された立体配座異性体のうちの8個がリンカーのSAXSモデルに合致する。理論的な散乱曲線が、全体的なプロMMP−9モデル構造について(SAXSプログラムCRYSOL[36]を使用して)計算された。図2Dおよび2Eは、プロMMP−9の実験的散乱曲線およびSAXS密度マップの両方に合致する最も良好なリンカーモデルを記述する。OGリンカーは、多数の推定される構造化されない立体配座を示すようである。
【0142】
(実施例3)
SAXSデータを分析するためのモデル化ソフトウエアの比較
結果
プログラムのGASBOR[Svergun,D.I.、Petoukhov,M.V.およびKoch,M.H.(2001)、Biophys J、80、2946〜2953]およびCHADD[Petoukhov,M.V.、Eady,N.A.、Brown,K.A.およびSvergun,D.I.(2002)、Biophys J、83、3113〜3125]を使用して、プロMMP−9の低分解能モデルを作製した。両方のプログラムでは、測定された散乱曲線を再現する球状の散乱中心の3D配置によるタンパク質の表示が見出される。CHADDの利点は、単離されたドメインの結晶構造によって決定されるようなCα位置の一部分の演繹的知識の使用にあり、一方、分子の残りがモデル化される。これに対して、GASBORは、演繹的知識を取り込むことなく、構造全体をモデル化する。これらのプログラムのそれぞれにおいて、いくつかの独立したコンピューター計算が、解構造の集束を分析するために比較される。
【0143】
8回の独立したGASBOR計算は、一方の端部がより大きいサイズであり、N末端ドメインの結晶構造を有することができ、これに対して、反対側の端部が、C末端ドメインの結晶構造を受け入れることができる円板様形状を取る細長い全体的な立体配座の一意解に集束した(図5A)。これらの末端ドメインが、プログラムSUPCOMB[Kozin,M.B.およびSvergun,D.I.(2001)、Journal of Applied Crystallography、34、33〜41]を使用してGASBORモデルにドッキングされた。残っている密度が、これらの末端ドメインを、OGドメインの長さとして理解される50Åで隔てるOGドメインに属する。8回の計算における正規化された空間不一致(NSD)が1.42から1.57にまで及んでいた。NSD値は解構造間における類似性の尺度である。すなわち、より低い値が、より良好な重なりに対応する。NSD値が、最確解(χ=1.38)を選ぶことができるDAMAVER[Petoukhov,M.N.およびSvergun,D.I.(2003)、Journal of Applied Crystallography、36、540〜544]を使用して、また、外れ値を決定するために計算された。
【0144】
既知の構造情報を使用する、代わりのモデル化スキームにおいて、全長のプロMMP−9構造が、CHADDを使用して再構築された。11個の独立した計算がコンピューター計算され、外れ値を伴わない1.59〜1.75のNSD値を示した。このことは、一意モデルに向かう解の集束を示唆する。最確解(χ=1.66)が図5Bに示される。このモデルは、比較的低い密度のOGドメインによってつながれた円板様ドメインを有する大きい二峰形状を示す細長い3−ドメイン構造を示している。プロ触媒ドメインおよびヘモペキシンドメインの結晶構造が、ソフトウエアSUPCOMB[Kozin,M.B.およびSvergun,D.I.(2001)、Journal of Applied Crystallography、34、33〜41]を使用して輪郭密度に連続してドッキングされた。残っている密度が、これら2つの末端ドメインを、CRYSOLによってコンピューター計算されるようなOGドメインの理論的サイズとよく一致する値である約30Åで隔てるOGドメインに属する。
【0145】
2つの独立したモデル化アルゴリズムによって得られるこれら2つの構造は、いくつかの計算が一意解に集束したことの結果である。1.68のNSD値が、GASBORモデルと、CHADDモデルとの間における類似性を調べるために得られた。このことはモデル間の良好な一致を示している。GASBORモデルは(30Åとは対照的に50ÅのOGドメインにより)かなり細長いが、両方のモデルは、非常に類似する特徴をともに有する。すなわち、リンカーによってつながれる2つのかなり球状のドメイン(OGリンカーによって結ばれる楕円状のN末端およびC末端ヘモペキシン)が、リンカーによってつながれる2つのかなり球状のドメインから構成される全体的な細長い構造をもたらす。OGドメインのサイズが、CRYSOLによってコンピューター計算された値と一致すること、および、AFM結果に対する全体的形状における類似性により、結果的に本発明者らは、CHADDをより信頼できるモデルとして選択した。
【0146】
(実施例4)
単分子画像化によるプロMMP−9の形状およびドメイン柔軟性の特徴づけ
結果
SAXS分析をさらに確認するために、本発明者らは、図2Bおよび2Eにおいて予測されるように、プロMMP−9の形状を直接に可視化し、また、そのOGドメインの分子特性を評価するための実験を設計した。具体的には、本発明者らは、原子間力顕微鏡法(AFM)を使用して、プロMMP−9の野生型およびOG欠失変異体(プロMMP−9?OG)の単分子画像化分析を行った。プロMMP−9分子1つ1つの再現性ある像(図3)が、タンパク質サンプルを、AFM画像化の前に、Si(111)表面のアミン修飾されたシラン化層に架橋することによって得られた。
【0147】
サンプルを緩衝液下および空気中の両方で画像化した(図6A〜6C)。最も良好な像が、「スパイク」先端を使用して半乾燥モードで得られた。図3A〜3Cは、修飾されたSi(111)表面に固定化された野生型プロMMP−9の単分子像を示す。報告されているSAXS分析と一致して、タンパク質像は細長いマルチドメイン構造を有する。幅に対する高さを表す像断面(図3C)は、OGリンカーによっておそらくはつながれる2つの離れたタンパク質ドメインを明らかにする。対照的に、64残基のOGドメインを欠くプロMMP−9?OG変異体は、ドメイン分離が未解明であるかなり球状の形状を示す(図3D〜3F)。
【0148】
(実施例5)
プロMMP−9の原子間力顕微鏡法(AFM)画像化のための条件およびコントロールの選択
結果
サンプルを緩衝液下および空気中の両方で画像化した。前者のモードは生理学的条件に近いが、像の画質が不良であった(図6A)。像の不良な画質はいくつかの要因から生じ得る:(1)湿潤条件のために使用されるように設計された先端は、周囲条件で使用される「スパイク」先端よりも著しく大きい半径を有していた。(2)完全に水和されたサンプルは、先端圧力のもとではより軟らかく、より変形し易くなり得る。(3)表面に対するタンパク質の結合は依然として、完全に水和された条件下である程度の動きを可能にし得る。したがって、像の画質を改善するために、サンプルが洗浄され、過剰な水が2〜3分の穏やかな窒素流によって除かれた周囲条件が適用された。この手順は薄い水和層をサンプル上に残す可能性があり、したがって、「半乾燥モード」と呼ばれる。水和層が何ら存在しない場合のタンパク質の形状を調べるために、本発明者らは、微細特徴の喪失、タンパク質の収縮、および、断面における像ノイズをもたらした徹底的な乾燥を適用した(図6B)。
【0149】
これらの半乾燥測定において主に困難なことは、偽の吸着物(主に、塩の堆積)に由来する人為物を含まないサンプルを得ることであった。徹底した洗浄手順が、そのような吸着物を除くために要求され、しかし、これはまた、タンパク質の多くの除去を引き起こした。アミン修飾シラン表面および架橋手順を使用することによって、(ブランク操作によって明らかにされるような)バックグラウンドのほぼすべてが除かれ、同時に、完全に水和された条件のもとで認められるタンパク質の表面濃度と類似する、タンパク質の著しい表面濃度を維持する表面を調製することが可能であった。サンプルと同一条件ではあるが、プロMMP−9の非存在下でのインキュベーションによって調製されたブランク(図6C)は、典型的には、1μmの像において最大でも1つの特徴を含有する。プロMMP−9を伴うサンプルとの比較により、平均で、観測された特徴の5%未満が、破片または乾燥した塩に起因する人為物であった可能性があることが示された。
【0150】
AFM画像の統計学的分析:高さ、幅およびローブ間距離の統計学的分析が野生型プロMMP−9およびプロMMP−9?OGについて明らかにされた。これらのデータがヒストグラムとして図4A〜4Eに示され、本明細書中下記の表1にまとめられる。2つの部分集団の存在はバイアスを平均値に加え得るので、最確値が報告される。標準偏差が括弧で報告される。値は野生型プロMMP−9(n=90)およびプロMMP−9ΔOG変異体(n=120)に対応する。ローブ間距離がXZ断面でのピーク間で測定された。値が、表面におけるタンパク質の配向が2つの明瞭なドメインの特定を可能にした場合にだけ得られた(n=83)。プロMP−9ΔOGにおけるローブ間の分離は識別することができなかった。
【0151】

【0152】
最確高の値が、野生型および変異体についてそれぞれ、34Åおよび22Åであった。結晶構造[Elkins,P.A.、Ho,Y.S.、Smith,W.W.、Janson,C.A.、D’Alessio,K.J.、McQueney,M.S.、Cummings,M.D.およびRomanic,A.M.(2002)、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、58、1182〜1192;Cha,H.、Kopetzki,E.、Huber,R.、Lanzendorfer,M.およびBrandstetter,H.(2002)、J Mol Biol、320、1065〜1079]から得られる可能な高さ値との比較では、表面との相互作用から生じ得るタンパク質像の平坦化、または、AFM先端の真下での構造の何らかの圧縮が示唆される。図4Aのヒストグラムの形状は、野生型タンパク質が、分布における1つだけのピークを有するOG欠失変異体(図4B)とは対照的に、2つの部分集団に分布することを明らかにする。最確幅の値が、野生型(図4C)およびプロMMP−9?OG(図4D)についてそれぞれ、190Åおよび130Åであった。この違いは、OGドメインが野生型タンパク質の幅に対して著しく寄与していることを示している。高さの値および幅値における広がりの一部が、表面に対するタンパク質の異なる結合立体配置の結果として生じることが予想される。タンパク質が球状でないので、主軸が表面の法線に関して種々の角度で配向する結合状態により、AFMによって測定されるような異なる最大高さおよび最大幅がもたらされる。したがって、高さがこの角度のコサインとして変化し、幅がこの角度のサインとして変化する。
【0153】
最確ローブ間距離の値が、野生型プロMMP−9については78Åであった(図4E)。この距離は、SAXSによって得られるローブ間の値に劣ることなく匹敵する。SAXSモデルから得られる可能な値の範囲は、個々のドメインの許容される配向に依存して、75〜87Åの範囲である。
【0154】
(実施例6)
SAXSを伴う単分子画像化の統計学的分析は、OGドメインにより媒介されるタンパク質ドメインの柔軟性を明らかにする
結果
2つの酵素種を対比する際立った特徴の1つが、野生型についての幅値および高さ値の両方における広がりが変異体の場合よりも著しく大きいことである(図4A〜4E)。そのような差が、2つのローブがより大きく制限される変異体とは対照的に、OGドメインによって野生型構造に与えられるさらなる自由度から生じ得る。サイズの不均一性が、2つの主要な変数から、すなわち、表面におけるタンパク質の種々の配向、および、種々のタンパク質立体配座から生じる。変異体はOGドメインを含有しないため、低下した立体配座不均一性を有する。このことは、値の広がりが、主として表面における種々の配向に由来することを意味する。
【0155】
タンパク質柔軟性に対するOGドメインの影響が、ローブ間距離の測定を報告する図4Eにおいて明瞭に認められる。距離の広がりが55Åから85Åにまで及び、2つの部分集団に分けることができる。注目すべきことに、これらの結果は、OGドメインの柔軟な分子的性向によって媒介される多数の酵素立体配座の存在を裏付けている。図4Fは、推定ローブ間距離に基づく様々なタンパク質立体配座のいくつかの可能なモデルを示す。ローブ間距離は、1標準偏差(9.5Å)の範囲内で変化することが可能であった。図4Fに示される様々なOGドメイン立体配座は、構造モデル化プログラムRAPPER[38、39]を使用して計算された。
【0156】
プロMMP−9のタンパク質柔軟性が、この新たな分子分析によって検出されたため、プロMMP−9のタンパク質柔軟性は、ゼラチナーゼA/MMP−2を含めて、MMPファミリーの他のメンバーを上回るプロMMP−9の構造・機能の独特さを強調する、この酵素の全体的構造および動力学に対する新しい分子的見識をもたらす[21]。例えば、コラゲナーゼ−1/MMP−1では、はるかに短いリンカー領域の柔軟性が、ヘモペキシンドメイン、プロドメイン間における相互作用によってさらに制約される[40]。同様に、MMP−2では、ヘモペキシンドメインの2番目のブレードが水素結合によりフィブロネクチンドメインに連結される(Morgunovaら、Science、1999)。
【0157】
(実施例7)
プロMMP−9の酵素機能におけるタンパク質ドメイン柔軟性の役割
結果
MMP−9は分泌型酵素であり、MMP−9がどのようにその正しい場所に標的化され、また、その活性がどのように細胞周囲空間において制御されるか[41]は不明である。具体的には、様々なドメインの役割が、効果的なタンパク質−基質およびタンパク質−タンパク質相互作用を触媒反応期間中に媒介することにおいて何であるかが明らかではない。ここで報告されるプロMMP−9の全長構造は、新たな見識をこの酵素の構造に導入し、また、その明らかなドメイン柔軟性に導入する。具体的には、報告されている結果は、MMP−9における観測されたタンパク質柔軟性が、その機能を媒介するために要求されるという可能性を増大させる。
【0158】
OGドメインの寄与が、より初期の研究では、末端ドメインの独立した動きを可能にするスペーサー成分であると主張された[19、42、43]。興味深いことに、すべての利用可能なデータベースのバイオインフォマティクス“BLAST”検索[44、45]では、プロMMP−9におけるOGドメインが、数多くの細胞表面会合およびECM結合タンパク質における類似する乱れたドメインに対して相同的であることが明らかにされた(本明細書中下記の表2を参照のこと)。表2に報告される結果は設定省略時E値の閾値を越えている。同一性および類似性の値は百分率である。
【0159】

【0160】
注目すべきことに、近い構造的相同性が、プロMMP−9のOGリンカーおよび全体的なドメイン構成と、真菌セルラーゼとの間に見出された[29、31]。真菌セルラーゼについては、セルラーゼにおけるリンカーの役割が、タンパク質−セルロースの結合および無傷なマトリックスにおける酵素の移動を媒介することであると提案された。このことは、プロMMP−9がその生物学的機能および酵素活性を細胞表面会合および/または固体基質(例えば、ECM)との相互作用によって媒介することを示唆する。近年、Owenらは、好中球の細胞表面でのTIMP−1抵抗性のMMP−9活性を記載した[46]。MMP−9ヘモペキシンドメインを細胞につなぎ止めることを達成するための1つの方法は、細胞表面でのMT6−MMP/TIMP−1複合体の相互作用を介してであり得る。今回のデータは、OGドメインの柔軟性により、MMP−9のN末端が細胞周囲環境において複雑な基質ネットワーク(例えば、コラーゲン様分子)に接近することが可能になることを示唆する。そのようなタンパク質−基質相互作用の安定化が、MMP−9のOGドメインに存在するプロリンリッチ配列[47]によって媒介される非特異的なタンパク質−タンパク質相互作用によって達成され得る。対照的に、プロMMP−9におけるヘモペキシン様ドメインおよびフィブロネクチンドメインは、非常に高い親和性で基質と化学量論的に結合することが示された[48、49]。このことは、プロMMP−9がその基質との特異的および非特異的な相互作用の両方によりその触媒活性を媒介することを示唆する。この分子シナリオでは、2つの末端ドメインが基質特異性を提供し、一方、柔軟なOGドメインが、例えば、コラーゲンタイプの基質の三次構造を弱い非特異的な相互作用により脱安定化するために使用される。
【0161】
重要なことに、TIMP−1、LRP−1およびメガリンとの正しい相互作用では、OGドメインの関与が、ヘモペキシン様および触媒ドメインの適正な配向を達成するために要求される[19]。OG欠失変異体は、これらの分子に対する低下した親和性を示した。このことは、OGドメインが、活性なMMP−9の生物学的利用性を調節するために必須であることを示唆する。単分子画像化の結果は、末端ドメイン間の間隔が一定でないことを示しているが、SAXSモデル再構築によって得られるようなOGドメインの擬似球状形状は2つのドメインの間における最小の分離を保証し、これにより、調節剤が、N末端の触媒ドメインからの立体障害を伴うことなくC末端ドメインに結合することを可能にする。そのようなドメイン柔軟性がMMP−2については観測されない。このことから、LRP−1に対する効果的な結合を達成するために、なぜMMP−9はLRP−1に直接に結合することができ、一方、MMP−2は、TIMP−2との前駆体複合体の形成[50]、または、トロンボスポンジンとの前駆体複合体の形成[51]を要求するのかを説明することができる。
【0162】
MMP−9のコラーゲン溶解活性におけるOGドメインの役割を調べるために、インサイチュ阻害アッセイを行った。抗MMP−9−ヒンジ領域を使用した(Sigma、ChemiconおよびAbcamの3つの異なる供給元から得られる抗MMP−9hr)。この市販されている抗体は、OGドメイン内のペプチドに対して惹起された。使用された基質が、増大した蛍光を分解時に示す蛍光標識されたIV型コラーゲンであった。図7A〜7Bは、抗体が、OGドメインの柔軟性を妨げること、または、インサイチュザイモグラフィーによって示されるような酵素−基質の接触を乱す立体障害のどちらかによって、コラーゲン溶解活性をダウンレギュレーションすることを示す。
【0163】
蛍光標識されたIV型コラーゲンがMMP−2/9産生細胞のHT−1080に重ねられた。この細胞株によって産生されるMMP−2およびMMP−9はともにIV型コラーゲンを分解することができ、しかしながら、精製されたMMPの70%超が、MMP−2に関して、IV型コラーゲンに対する4倍の比活性を示すMMP−9であることが示された。コラーゲン溶解活性を、抗MMP−9hrの存在下(図7A)または非存在下(図7B)、細胞の周辺部で調べた。抗MMP−9hrを加えたとき、コラーゲン溶解活性が、基準物の拡散し得る活性との比較では、より大きく制限される。
【0164】
まとめると、OGドメインに影響を及ぼすことはコラーゲン溶解能を低下させるが、ゼラチン溶解活性は影響されないことが仮定され得る。
【0165】
結論
本研究は、構造分析の新たな組合せによって明らかにされる全長のヒトプロMMP−9の最初の実験的構造決定を表す。単分子画像化およびSAXSの組合せが、この重要な酵素に対する構造的および動力学的な見識をもたらす包括的な分子モデルを得るために利用された。注目すべきことに、今回の結果は、触媒酵素コアと、ヘモペキシンドメインとをつなぐ柔軟かつ構造化されていないOGドメインの存在を明らかにする。この構造は、他のファミリーメンバーと比較して、特有なドメイン構造様式をプロMMP−9にもたらす。そのような構造的排他性を、MMP−9についてのイソ型選択的阻害剤を設計するために利用することができる。MMP−9についての調節剤の設計では、目標を、そのドメイン柔軟性を制限することに向けることができ、これにより、その病理学的活性を特定の疾患状態において阻止することができる。
【0166】
明確にするため別個の実施形態で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施形態に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0167】
本発明はその特定の実施形態によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。本明細書中で言及した刊行物、特許および特許願ならびにGenBankアクセッション番号はすべて、個々の刊行物、特許もしくは特許願またはGenBankアクセッション番号が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【0168】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロプロテイナーゼ9(MMP−9)の活性を調節する方法であって、MMP−9を、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する作用因子と接触させ、それにより、MMP−9の活性を調節することを含む方法。
【請求項2】
前記MMP−9は天然MMP−9である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記活性はコラーゲン溶解活性である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記活性はゼラチン溶解活性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
調節することは、アップレギュレーションすることである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
調節することは、ダウンレギュレーションすることである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記作用因子はポリペプチド作用因子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリペプチド作用因子は抗体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記作用因子は小分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
MMP−9を特異的に調節することができる作用因子を特定する方法であって、推定上のMMP−9特異的調節剤である作用因子がMMP−9のOGドメインと相互作用することができるかどうかを明らかにすることを含む方法。
【請求項11】
前記明らかにすることが、作用因子の構造をMMP−9のOGドメインの構造と比較することによって行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記明らかにすることが、前記作用因子をMMP−9の単離されたOGドメインと接触させることによって行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記作用因子はポリペプチドを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリペプチドは抗体を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記作用因子は小分子を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
MMP−9媒介の医学的状態を治療する方法であって、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する作用因子の治療有効量をその必要性のある対象に投与し、それによりMMP−9媒介の医学的状態を治療することを含む方法。
【請求項17】
前記作用因子が、請求項7に記載されるように特定される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記作用因子は小分子またはポリペプチド作用因子を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリペプチド作用因子は抗体を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
MMP−9の活性を特異的に調節することのできる分子であって、MMP−9のOGドメインと相互作用するが、ただし、非ヒト化抗体ではない分子。
【請求項21】
MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する抗原認識ドメインを含むヒト化抗体。
【請求項22】
有効成分として、請求項20に記載の分子と医薬的に許容されるキャリアを含む医薬組成物。
【請求項23】
前記分子は、MMP−9のOGドメインと特異的に相互作用する抗原認識ドメインを含むヒト化抗体を含む、請求項22に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−536744(P2010−536744A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520682(P2010−520682)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際出願番号】PCT/IL2008/001082
【国際公開番号】WO2009/022328
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(502379147)イェダ リサーチ アンド デベロップメント カンパニー リミテッド (14)
【Fターム(参考)】