説明

MRIグラジェント・コイル構造におけるサウンド生成のための能動制御

【課題】MRIグラジェント・コイルの固体支持構造内における音波伝播特性に関し、実用上、完全なノイズ消去に到達するために必要とされる工夫について考察し、実用的な実施例に移行し得る進歩した方法を提案することにある。
【解決手段】音響的に静穏な磁気共鳴映像システム用コイル装置であって、コイル装置は、音響伝達材料からなるプレート内に埋め込まれた1または複数の導電体を含む。プレートは1または複数のエッジ表面を有する。この構成において、プレートの1または複数のエッジ表面(100、102、104、106)が面取りされていることを特徴とする。前記プレートはセル状材料の合成セル状構造を含んでいてもよい。この合成セル状構造は、正及び負のポアソン比の値σを有し、全体としてのポアソン比の値σが実質的にゼロである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響的に静穏なコイル装置に関し、特に、磁気共鳴映像法(MRI)に使用するためのコイル装置に係る。
【背景技術】
【0002】
近年のMRIスキャナにおいては、患者をより迅速にスキャンすることを目的として、より高いグラジェント強度及びより速いスイッチング時間を追及する傾向がある。高いグラジェント強度及び速いスイッチング時間の組み合わせは、高い静磁界の存在下において切り替えられた電流に伴うローレンツ力が非常に大きくなり、それに付随してグラジェント・コイル装置内に大きな振動を生じ、その振動により、潜在的に有害な音響レベルを発生するということを意味する。このノイズ問題を改善するための出願人らの最初のアプローチは、ローレンツ力の平衡に基づいていた(非特許文献1〜6参照)。しかしながら、この方法の効率は、比較的低いものとなっている。
【0003】
最近になって、グラジェント構造内におけるノイズの積極的な音響上の相殺に関するアプローチが2つ(特許文献1及び2参照)が提案されており、これらは、原理的には、音響問題を完全に解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】英国特許出願第95068298.2;「Active acoustic control in quiet gradient coil design for MRI(MRI用静穏グラジェント・コイル設計におけるアクティブ音響コントロール)」P Mansfield(P.マンスフィールド);優先日:1995年4月1日;PCT WO96/31785;公開日:1996年10月10日
【特許文献2】英国特許出願第9620138.9;「Active Control of Acoustic Output in Gradient Coils(グラジェント・コイルにおける音響出力のアクティブ・コントロール)」P Mansfield(P.マンスフィールド);優先日1996年9月27日;PCT WO98/13821;公開日1998年4月2日
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Active acoustic screening: design principles for quiet gradient coils in MRI(アクティブ音響スクリーニング:静穏MRI用グラジェント・コイルのための設計原理)」P Mansfield(P.マンスフィールド)、P Glover(P.グローバ)及びR Bowtell(R.ボウテル);Meas Sci Technol 5(測定科学テクノロジー5);1021〜1025ページ;1994年
【非特許文献2】「Active acoustic screening: reduction of noise in gradient coils by Lorentz force balancing(アクティブ音響スクリーニング:ローレンツ力の平衡によるグラジェント・コイル内ノイズの抑圧)」P Mansfield(P.マンスフィールド)、B L W Chapman(B.L.W.チャップマン)、R Bowtell(R.ボウテル)、P Glover(P.グローバ)、R Coxon(R.コクソン)及びP R Harvey(P.R.ハーベイ);Mag Res Med 33(磁気共鳴医療33);276〜281ページ;1995年
【非特許文献3】「Quiet gradient coils: active acoustically and magnetically screened distributed transverse gradient designs(静穏グラジェント・コイル:積極的に音響的・磁気的スクリーニングされた分散型横向きグラジェント設計)」B L W Chapman(B.L.W.チャップマン)及び P Mansfield(P.マンスフィールド);Meas Sci Technol 6(測定科学テクノロジー6);349〜354ページ;1995年
【非特許文献4】「Quiet transverse gradient coils: Lorentz force balanced designs using geometrical similitude(静穏横向きグラジェント・コイル:幾何学的相似を使用したローレンツ力平衡設計)」R W Bowtell(R.W.ボウテル)及びP Mansfield(P.マンスフィールド);Mag Res Med 34(磁気共鳴医療34);494〜497ページ;1995年
【非特許文献5】「A quiet gradient-coil set employing optimised, force-shielded, distributed coil designs(最適化強制シールド分散コイル設計を採用した静穏グラジェント・コイル・セット)」B L W Chapman(B.L.W.チャップマン)及びP Mansfield(P.マンスフィールド);J Magn Reson B107(磁気共鳴ジャーナルB107);152〜157ページ;1995年
【非特許文献6】「Analytic approach to the design of quiet transverse gradient coils(静穏横向きグラジェント・コイル設計の解析的アプローチ)」R Bowtell(R.ボウテル)及びP Mansfield(P.マンスフィールド);Proc 3rd Sci Mtg SMR, Nice(第3回SMR科学会議会報;ニース);1, 310;1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、固体支持構造内における音波伝播特性は、実用上、完全なノイズ消去に到達するために必要とされる工夫がさらに存在することを示唆している。本発明の目的は、これらの工夫について考察し、実用的な実施例に移行し得る進歩した方法を提案することにある。
【0007】
米国特許第5332972号明細書は、MRI用グラジエント磁界発生装置に関わるボビン構造を示している。このボビンはその軸中心部の厚みが軸端部の厚みよりは厚くなるように形成されている。軸端部は、ボビンの軸中心部における剛性を増強するために備えられている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、音響的に静穏な磁気共鳴映像システム用コイル装置であって、前記コイルは、1または複数の電気的導電体と、音響伝達材料からなるプレートとを含み、前記電気的導電体は前記プレート内に直接に埋め込まれ、または、前記プレートに取り付けられたキャッピング・ストリップに直接に埋め込まれ、前記プレートは複数の表面を有しており、前記プレートの少なくとも一表面は、少なくとも1つのたがね状、鋸歯状または面取り状の表面形状を備え、前記プレート内において音波の内部反射を抑圧することを特徴とする。
【0009】
本発明は、また、磁気共鳴映像システム用の音響的に静穏なコイルの構造(コイル装置)を提供するものであって、前記コイルは1または複数の導体を含み、前記1または複数の導体は、プレート材料に埋め込まれている。前記プレートは、セル状材料の合成セル状構造を含み、前記合成セル状構造は正ならびに負のポアソン比σを有し、全体的なポアソン比σが実質的にゼロとなる。
【0010】
次に、添付図面を参照して本発明について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電流I1を搬送する単一の矩形電流ループを伴う従来の音響プレートを示す図である。
【図2】幅dのエミッタ表面からのアコースティック・エミッション・プロセスの詳細について、よく知られた従来技術を示す図である。併せて、ポジションxにおけるエミッタ表面の要素dxおよび原点Oとx’平面上の遠点Pを結ぶ角度θによる音響パス長における差xsinθを表す。角度が小さいとき、2つの平面x、x’の間の距離はr≒r0になる。また、x’軸に沿って±cにピークを有する音響回折パターンが併記されている。音響干渉パターンの形成は、ポイントPにすべての寄与を焦点を当てるレンズがないにもかかわらず、フラウンホーファー回折プロセスとして考えられる。
【図3】硬質の不導体プレートにマウントされた、電流I1を有する外側電流ループおよび電流I2exp(jφ)を搬送する内側の再入ループ32を示す(従来技術)。加えて、プレートの中央のほぼ全域にわたるエア・ギャップ34が示されている。プレートの両端の小さい部分36、38は、スロットがない状態で残され、両側の半分の一体性を維持する。
【図4】プラスチック材料のストリップ42および金属のストリップ40を交番させて作られたプレートの一部を、その一方に入射する音波44とともに示す。
【図5】電流I1およびI2exp(jφ)を搬送するワイヤ導体が埋め込まれたプラスチック・プレートからの音波の放射を示す略図であり、アッセンブリ全体は、プレート表面に垂直な磁界B内に置かれている。図5(a)はブレーズ角のある出力R1およびR2および、ブレーズ角のある2次出力R1’およびR2’を伴う平坦なプレートを示しており、R1はI1の結果として生じ、R2はI2の結果として生じる。図5(b)はR1とR2が平行になるように中心にヒンジを設けたプレートからのブレーズ角のある出力を示す。これを行うとき、ブレーズ角のある2次出力R1’およびR2’がプレートから放射される角度がさらに鋭くなることに注意されたい。図5(c)は図5(b)と同じヒンジ付きのプレートからの音響出力射線であるが、2つの小型ミラーを使用する追加の反射によって、R1’およびR2’が、1次出力射線R1およびR2と平行になる。
【図6】垂直な磁界B内に置かれた平坦なエミッタ・プレートからのブレーズ角のある音波出力および、射線R1およびR2を平行にする凹型サウンド・レンズを示す。中心には反射プレートも備え、ブレーズ角のある2次出力R1’およびR2’を偏向して、それを1次出力R1およびR2と平行にする。空気中における音速v’とサウンド・レンズ内の音速v”間にはV’<V”の関係がある。
【図7】電流I1、I2exp(jφ)を搬送する音響エミッタ・プレートを示す略図であり、プレート表面は、図において1および2として示されたくさび形が交番する形状に加工されている。また、加工された表面の側面図を併せて示す。
【図8】外側電流ループI1および内側再入ループI2exp(jφ)を搬送する可動エミッタ・プレートを示す。内側の再入ループは、中央にスロットのある城壁形のステータにはめ込まれている。図8(a)はプレートの外側部分は、回転ピボット軸87、88に枢支され、ステータに対して回動する。図8(b)はエミッタ・プレートのステータおよび回動可能な外側部分を示す側面図である。
【図9】積み重ねプレート設計におけるグラジェント・コイル・プレートの支持構造である。図9(a)はリング・サポートであり、矩形プレートのxグラジェント設計のためのプレート配列を示す。同じ矩形プレート構成が、xまたはzグラジェントの生成に使用される。yグラジェント・プレートは、xグラジェント用のそれと同じであるが、90°回転される。図9(b)はz軸に沿ったプレートの配置を示す、プレートの積み重ねの平面図である。注意:グラジェント・セット設計の一例として矩形プレートを使用している。3方向のグラジェントすべては、弓形のプレート設計により生成することも可能であり、またxおよびyグラジェント用に弓形設計を、zグラジェント用に円形プレートを、あるは矩形、弓形、および円形の設計を組み合わせることにより生成することも可能である。
【図10】エミッタ・プレートの形状加工したエッジの断面を示す。図10(a)はたがね状の片面の面取りであり、たがね状の表面と垂直に交わるまで5回の内部反射があることを示す。図10(b)は図10(a)と同じ面取り角を用いた両面の面取りであり、音波が3回にわたり内部反射した後、面取りしたエッジと垂直に交わることを示している。図10(c)はそれに代わるチューリップ形のエッジを示す。図10(d)はさらにそれに代わるカスプ形のエッジを示す。
【図11】音響エミッタ・プレートのエッジ断面であり、たがね状の片面の面取りに、柔らかい吸音材料が結合される。図11(a)は吸音材料がたがね状部分の片面に接着される。図11(b)は吸音材がたがね状部分の両面に接着される。
【図12】テーパーが施され、より稠密な材料からなる音響キャビティが結合されたエミッタ・プレートのエッジの断面を示す略図である。
【図13】両面にテーパーが施され、音響キャビティが結合されたエミッタ・プレートのエッジの断面を示す略図である。図13(a)は音響キャビティがプリズム形であり、入射された音波は12回の反射の後、プリズム表面と垂直に交わる。図13(b)は音響キャビティが半円柱であり、入射された音波は10回の反射の後、半円柱表面と垂直に交わる。
【図14】音響エミッタ・プレートのエッジの断面図である。図14(a)はエッジが複数のたがね状エッジからなる鋸歯を有する。図14(b)は両面をたがね状に成形した鋸歯であり第2のプレートとインターロックするが接触はない。両方のプレートは導体を備え、一方はI2exp(jφ)を、他方は−I2exp(jφ)を搬送する。
【図15】異なる設計のエッジ・キャップを備える面取りされたエッジの変形例を示す略図である。図15(a)は面取りの先端近傍の、キャップ材料内に電流Iを搬送するワイヤを備えた矩形のキャップである。図15(b)は図15(a)に類似のキャップ構成であるが、矩形のコーナーに角度を付けてメイン・プレートへの反射の戻りを抑えている。図15(c)は図15(b)の別の変形であり、キャップ材料に鋸歯が追加されて、メイン・プレートへの内部反射の戻りがさらに抑えられている。
【図16】電流I1およびI2exp(jφ)を搬送する外側導体を伴うプレートの端面図である。プレート表面は、図示のようにプロファイリングされる。座標軸を併せて示した。
【図17】完全な磁気スクリーニングおよび音響スクリーニングが行われたグラジェント・システムを構成する内側および外側の円筒に形成された鋸歯またはフィンに関する構成を示した略図である。図17(a)はそれぞれの半径a、b、b’、cのプライマリ・コイル、プライマリ・コイルの音響シールド、磁気スクリーン音響シールド、および磁気スクリーンを示す2つの円筒の部分端面図である。図17(b)は内側および外側の円筒の全周面に備わる円筒軸に沿って延びるフィンを示す。図17(c)は内側および外側の円筒の全周面に備わる円周方向に延びるフィンを示す。フィンは、連続していない溝を形成するか、小さいピッチのねじ溝状の構成とすることができる。図17(d)は図17(a)に示した内側および外側の円筒の端面図であり、軸方向に延びるフィン構成を部分的に詳細に示す。図17(e)はフィン構成の詳細であり、片面だけにテーパーを施したたがね形、あるいは両面にテーパーを施したくさび形とすることができる。
【図18】グラジェント・コイル内の冷却管の3とおりの配置を示す。図18(a)は冷却管がはめ込まれた、積み重ね矩形プレートのグラジェント・コイル用冷却プレートである。弓形設計にも類似の構成を使用することができる。図18(b)は図17に概要を示した円筒状グラジェント・コイルの円筒軸に沿って配置される冷却管を示す。図18(c)は図17に概要を示した円筒状グラジェント・コイルの内側および外側の円筒にら旋状に巻き付けられる冷却コイルを示す。
【図19】図19(a)は電流I1を搬送する単一の外側ループまたはプライマリ・ワイヤを伴う面取り済みのエッジおよびスロットを備えた音響プレートを示す。横方向のワイヤは、プレートの裏面を通り、防振マウントに支持されている。また、図20に概要を示すプライマリ・ワイヤと平行に圧電または磁気トランスデューサが埋め込まれている。図19(b)はプレートの端面図であり、横方向のワイヤの支持およびプレート内のプライマリ・ワイヤおよびトランスデューサの配置を示す。トランスデューサ・ドライバは、振幅およびI1に対する位相が可変である。
【図20】各種のトランスデューサ構成を示す。図20(a)はバイポーラ/バイモルフ・セラミック圧電トランスデューサの概要図である。図20(b)は柔軟な絶縁材料を間に挟み込んだ単一対の導体によって形成される磁気トランスデューサであり、導体は電流I2および−I2を搬送し、磁気双極子を構成する。外部磁界Bは、導体ペアの結ぶ平面に垂直になる。図20(c)は図20(b)に示した導体ペアを2組使用し、各ペアの外側の電流が同じI2、各ペアの内側の電流が−I2となるように背合わせにした配置を示す。I2の位相および振幅は変更できる。
【図21】図21(a)は電流I1を搬送する単一の外側ループおよび、電流I2exp(jφ)を搬送する、プレートの縦軸に沿って外側ループ・ワイヤと平行に、それに近接して配置された2本の内側セカンダリ・ワイヤを伴う面取り済みのエッジおよびスロットを備えた音響プレートを示す。I1用の横方向のワイヤ・パスは、プレートの裏面を通り、防振マウントに支持されている。図21(b)はプレートの端面図であり、ループ内に電流I1の通常のリターン・パスを構成する外側埋め込みワイヤおよび、電流I2exp(jφ)を搬送する、プレート材料内に埋め込まれたセカンダリ・ワイヤであって、AならびにBおよびA’ならびにB’において2本の張り出しポストによってプレートと弱い結合を有する導体をリターン・パスとするセカンダリ・ワイヤを示す。図21(c)は図21(b)と同じ端面図であるが、導体PQとABおよびP’Q’とA’B’が図示のように2本の同軸導体ペアに置き換えられている。ここで、プレートの各半分が独立して自由に振動できるように図示のようにそれぞれを個別支持してもよいことに注意されたい。
【図22】異なる音伝播定数k1、k2、k3を有する3つのラミネーションからなる音響プレートの部分図である。コンポジット・プレートは、電流I1を搬送する単一の導体により、あるいはそれぞれが電流I11、I12、I13を搬送する3本の導体により駆動してもよい。
【図23】図23(a)および(c)に図示した断面を有する押し出し成形プラスチック管を示す。六角形および円形の断面は、ポアソン比σxyが正である。図23(b)は逆付け六角形、(d)は逆付け円の断面であり、ポアソン比σxyが負になる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
強い静磁界B内に、表面を磁界と垂直にして矩形のプレート10を置き、横方向の圧縮性または拡張性のローレンツ力を印加すると、プレートの厚さが厚くもしくは薄く変化することが観察され、この種の厚さの変化は、プレート表面と垂直な方向に、印加した静磁界の方向に沿って音波を発射する。圧縮性のローレンツ力は、図1において矩形ループ12を形成するプレート表面にはめ込まれたワイヤによって生成される。このプレートの幅が長さとの比較において狭ければ、長いプレート軸に沿った音の伝達を無視し、横方向における波の伝播のみを考えればよい。
【0013】
またプレート内の音の伝達特性から、放射されたサウンドが2つのブレーズ関数として現れることが観察され、フラウンホーファー限界においては、同一プレートを始点とし、垂直軸に対してわずかな角度差±θCをもつ2つのsinc関数としてそれを近似することができる。この振る舞いは、次式により表される。
【0014】
|ASAP|=a{sinc b(x'-c)+sinc b(x'+c)} (1)
ここで、近似的にsin θC≒θ0≒c/r0とし、±cはプレートと平行、かつ、そこからr0の距離に置かれた平面内における放射出力のピークの変位である。その振幅aは、次式によって与えられる。
【0015】
a={αdovlστβkovlFmΛ(ω)}/r0
=[{(2στFmΛ(ω))/r0}bc
1b0c0αβ=Γ1bc (2)
【0016】
これにおいてΓ1は、次式によって与えられ、
Γ1={FmΛ(ω)2στ}/r0 (3)
【0017】
さらに、Λ(ω)は、次式によって与えられる。
Λ(ω)=1/ω[{(ω0/ω)2-1}2+K22]1/2 (4)
【0018】
式(2)におけるこのほかの量は、次のように定義される。
dはプレートの幅、dovlは平均のプレート幅、σはポアソン比、τはプレートの厚さの1/2、Fmは単位長さ当たりの固有ローレンツ力の最大値、vはプレート内の波速、vovlはプレート内の平均波速、fは印加電流の周波数、fovlは平均周波数、つまりω=2πf、ω0はプレートの基本の機械的共振角周波数、kはプレートの粘性減衰係数である。固体内における平均の波の伝播定数kovlは、次式によって与えられる。
【0019】
k=γβkovl (5)
ファクタα、β及びγは、それぞれd、v、及びfの把握に関する不正確性からもたらされる軽微な不確定性を扱うために導入されたものであり、
α=1±Δd/dovl
β=1/(1±Δv/vovl)≒1-(±Δv/vovl)
γ=1±Δf/fovl
である。エラー解析から、不確定性の積は、次式によって与えられる結果になる。
【0020】
αβγ=1 (6)
以下のほとんどにおいては、f=fovl、かつ、γ=1となるべくΔf=0としている。式(2)におけるその他の項は次のように定義される。
【0021】
b=(dovlk'α)/(2r0p)=b0(α/p) (7)
ここで、k’は、空気中における音波の伝播速度である。sinc関数は、回折原点まわりに±cだけ変位され、cは、次式で与えられる。
【0022】
c=(kovlr0pβ)/k'=c0pβ (8)
項pは無次元であり、次式によって与えられる。
【0023】
1/p=q−1 (9)
これにおいてqは、次式によって与えられる。
【0024】
q=(2kπr0)/(adovlck') (10)
Fm=BIsin(ξ/ρ)であることが示されており、ここで、Bは静磁界、Iはループに流れる電流、ξは磁界の方向と電流の方向がなす角度、ρはプレート材料の単位長当たりの密度である。
【0025】
フラウンホーファー回折に関しては、式(1)からx’がゼロの時、ポイントO’において受信される音の振幅、すなわちASAPが、出願人らの以前の結果まで減衰することをここに付記しておく(「Active acoustic screening: design principles for quiet gradient coils in MRI(アクティブ音響スクリーニング:静穏MRI用グラジェント・コイルのための設計原理)」P Mansfield(P.マンスフィールド)、P Glover(P.グローバ)及びR Bowtell(R.ボウテル);Meas Sci Technol 5(測定科学テクノロジー5);1021〜1025ページ;1994年)。
【0026】
式(1)から、音響出力がx’=±cにおいて生じる2つのピークを伴う回折パターンからなることは明らかである。エミッタ・プレートの配列及び回折パターンの構成の略図を図2に示す。
【0027】
出願人らの従来技術(英国特許出願第95068298.2;「Active acoustic control in quiet gradient coil design for MRI(MRI用静穏グラジェント・コイル設計におけるアクティブ音響コントロール)」P Mansfield(P.マンスフィールド);優先日:1995年4月1日;PCT WO96/31785;公開日:1996年10月10日;及び、英国特許出願第9620138.9;「Active Control of Acoustic Output in Gradient Coils(グラジェント・コイルにおける音響出力のアクティブ・コントロール)」P Mansfield(P.マンスフィールド);優先日1996年9月27日;PCT WO98/13821;公開日1998年4月2日)に開示されている新しい実施例を図3に示す。
【0028】
図3に示すように、プレートに2つのループ、すなわち電流I1を搬送する大きい外側ループ30ならびに電流I2exp(jφ)を搬送する内側の再入ループ32及び、中央スロット32を組み込むことが提案されている。この構成における2つの電流の振幅及び相対位相は可変である。この研究では、プレート表面の中心であり、かつそれと垂直の音波が考慮され、適切な電流及び位相を選択することにより、1つのポイントx’=0において、高度の音波の相殺が可能になることが示された。
【0029】
その配列のさらなる理論的研究をここに示すが、それにおいては、図1に示した単一ループのプレートの場合と同様に、再入ループ設計もまた、sinc関数によって近似的に記述される音響出力を生成し、この場合はそれが、プレート・アッセンブリの各半分について2つであるため、次式のとおり4つになる。
【0030】
ASAP=A{sinc(d/2)(jsin(θ+θ0)+k)+sinc(d/2)(jsin(θ-θ0)-k)}
+Be{sinc(d/2)(jsin(θ+θ0)-k)+sinc(d/2)(jsin(θ-θ)+k)} (11)
ここで、θは、全体のプレート・アッセンブリの中心Oに対する、放射される音響出力の環状の変位であり、θ0は、中心Oに対する、各半分のプレートの中心の角度変位である。振幅A及びBは、外側ループ電流I1と、再入ループ電流I2にそれぞれ比例する。角度φは、I1とI2の間の相対位相である。音響出力の空間分布を考慮することによって、理論的に上記の式から、プレート・アッセンブリの各半分に関する音波の完全な相殺が、原理的に、正しい実験条件の下に可能であることを示すことができる。これらの条件については、ある程度詳細にこの研究の中で説明するが、これらの条件から、各様の程度で音波相殺を達成する一連の実施例が開発されている。
【0031】
(ブレージング)
上記の結論を繰り返すが、図3に示した再入ループ設計については、出力が式(11)に示される4つのsinc関数によって記述される。これらの関数の形は、各sinc出力がゼロでないブレーズ角を有していることを示している。完全な音波相殺を達成するためには、理想的にはブレーズ角がゼロとなるべきである。このことは、プレート材料内における音速vが無限大になる必要があることを示唆している。ほとんどのプラスチック材料において、vは1〜3kms-1の範囲に含まれる。速度は、ガラス充填エポキシ樹脂あるいは金属充填エポキシ樹脂等のコンポジット材料を形成することによってかなり増加することがある。
【0032】
また、図4に示すように、金属ストリップ40とプラスチック・ストリップ42を交番させた材料を使用してプレートを作成することによって、プレート内の音の有効速度を向上させることもできる。好ましい実施例は、エポキシ樹脂内の強化層としてカーボン・ファイバまたはグラス・ファイバの織布層を使用したものである。
【0033】
しかしながら、概して、必ずvは有限になるという事実に直面しなければならない。したがって問題は、代替手段によりブレーズ角をさらに縮小し得るかということになる。
【0034】
図5(a)では、図3に示したプレート10の各半分が付勢されて出力される射線R1、R1’を模式的に示している。R1に対するR2の位相が180°であれば、空間的に射線が一致することがないので、音波の相殺はあり得ない。
【0035】
図5(b)では、R1とR2が平行になるようにプレート10をベントさせている。しかしながら、このプロセスだけでは、2次射線R1’及びR2’において、事実上、それぞれのブレーズ角が2倍になることから、破壊的な干渉は得られない。
【0036】
図5(c)において、図5(c)においては、小型の反射ミラー50、52をプレート表面近傍で使用しており、完全に平行な出力が得られている。
【0037】
これに代わる図6に示した構成においては、サウンド・レンズ62を使用して、平坦なプレート60からの射線を平行な出力に矯正しており、それにおいては、レンズ内の音速v”が空気中の音速v’より速い。この構成を機能させるために、中心に配置したミラー64を用いて、その両側から2次射線を反射させている。
【0038】
更に別の固定的名構成を図7に示す。図7においては、放射プレート70の表面が、交互に入り込んだくさび状に加工され、その結果、電流I1によって固体内に生成される音波が1としてマークしたストリップに閉じ込められ、また電流I2によって生成される音波が類似の態様でラベル2を付したストリップに閉じ込められる。この種の構成は、プレート全体にわたって平行な出力を生成し、破壊的な干渉プロセスの効果は、ストリップの幅及び空気中に放射された音波の拡散に依存することになる。固定的な構成に伴う困難は、くさびの角度を加工するために、ブレーズ角を知る必要があるという点である。
【0039】
機械的な調整を有する完全な二重プレート構造80に関する代替構成を図8に示す。図8は外側電流I1及び内側電流I2exp(jφ)を伴う再入ループ構成を示している。エミッタ・プレートは、中央にステータ82を擁する形に加工されている。このプレートの、外側の城壁形状のパーツ84、86は、図8(b)に示すようにピボット軸87、88を中心に回動し、適正なブレーズ方向に沿った音波を生成して相殺をもたらす。図7を参照して論じたように、音波相殺の効果は、ステータ82のフィンガー部分の数及びその幅に応じたものとなる。
【0040】
(内部反射)
これをさらに一歩進めるためには、固体内の音波伝播の詳細を考察する必要がある。これまで展開されてきたすべての理論においては、音波の内部反射が無視または看過されている。しかし、sinc関数出力の詳細、特にsinc関数の幅を説明する上でこれが非常に重要であることがわかった。これらの考察から、次のように与えられる二重プレート・アッセンブリに関する新しい式が導かれた。
【0041】
ASAP=A{S1(θ+θ0,k)sinc(d/2)(jsin(θ+θ0)+k)
+S1(θ+θ0,-k)sinc(d/2)(jsin(θ-θ0)-k)}
Be{S2(θ+θ0,-k)sinc(d/2)(jsin(θ+θ0)-k)}
S2(θ-θ0,k)sinc(d/2)(jsin(θ-θ2)+k)} (12)
ここで、
S1(θ±θ0,±k)
={sin(Nd(jsin(θ±θ0)±k))/{Nsind(jsin(θ±θ0)±k)} (13)
であり、
S2(θ±θ0,-(±k))
={sin(Md(jsin(θ±θ0)-(±k))}/{Msind(jsin(θ±θ0)-(±k))} (14)
である。これらの式に使用されているN及びMは、プレート・アッセンブリの各半分の内側における反射の数である。同一の材料の場合には、NとMが等しくなることも期待できる。音速が2kms-1を超えるほとんどのプラスチック合成材料においては、出力sinc関数の幅から判断した限り、多くの反射が観察される。そのような状況では、I1及びI2が通常同値に近づくが、プレートに固定したワイヤの堅牢性に依存することになる。これは、一般にプレートに溝を加工し、そこにワイヤをはめ込んでエポキシ樹脂により固着させることによってなされる。より柔軟な材料については、2つの電流に等しい振幅を得ることがより困難になる。
【0042】
完全な式、つまり式(12)を詳細に考察すると、φ=2πであれば、I1=I2exp(jφ)、かつ、k=0のとき、式全体をゼロにできることに気づく。後者の条件は、プラスチック材料内の音速vが無限大に等しいことを示唆する。この条件が、実際上、実現可能でないことは明らかである。前述の出願人らのコメントを詳説するのであれば、無限大の速度は、全体的な音速を基礎の樹脂材料のそれを超えて増加させるフィラーを選択した合成プラスチック材料を考えることによって到達させることができる。広範な不活性フィラーに可能性があり、ガラス及び微細に分割した材料も含まれる。より進んだ代替方法は、図4に示すように、金属ストリップとプラスチック・ストリップを交番させてプレートを作成する方法である。金属ストリップの幅が広いほど、プレート全体の平均音速が高くなる。好適な金属としては、アルミニウム及び銅が挙げられる。プレート全体を金属で作成すると、到達可能な最大速度は、アルミニウムの場合で5.1kms-1、銅の場合で3.6kms-1となる。ガラスを用いた場合の到達可能な最大速度は、5.0kms-1である。これらの数値は、ガラスをフィラーに用いたエポキシ・ベースの合成材料の数値の2倍またはそれ以上であるが、無限大の速度という条件を満たすには、はるかに及ばない。有限の速度を受け入れるのであれば、前述したように、機械的なブレージングによって音波の相殺を得ることが可能である。
【0043】
(その他の代替アプローチ)
以上、グラジェント・コイル・システムの特定のプレート・セグメント内において音響的に何が生じるかについて論じてきた。完全なグラジェント・コイル・アッセンブリについて、出願人らは、多数のプレートをz軸に沿って適切な間隔で配置すれば、3軸すべてに沿って均一なグラジェント・フィールドが得られると考えている。一例として、図9(a)には、サポート・リング92、94によって支持された矩形プレート90を使用する特定のプレート・アッセンブリが示されている。プレート・セグメントを支持するためのこの方法は、上記のグラジェントの均一性を達成するためには、各種のプレート間隔に適応させなければならないということを意味している。つまり、プレート間には潜在的なエア・ギャップ96が存在することになる。これを図9(b)に例示した。
【0044】
所定周波数に関してλ=v/fの関係があることから、波長λは音速に正比例する。したがって空気中のように音速が低い場合には、波長が短く、一般には11.4cmとなる。このことは、各種のプレートから放射された音波が、伝播軸に沿って建設的にあるいは破壊的に干渉する可能性があることを意味している。アプローチは2つ考えられる。第1は、プレート・セグメントを適切に配置して、動作周波数において音波を相殺する方法である。この構成について出願人らは、コイル・アッセンブリ内で生成された音波が、空気を通り、かつ他のプレート・セグメントを通って伝播し、その結果、あらゆる干渉の計算において、空気中の音速だけでなく、プレート・スタック内における伝播速度までを含める必要が生じると考えている。
【0045】
代替実施例は、プレート間の内部音波伝播の大半を内部的に吸収させる目的から、プレート間のエア・ギャップを、高い波の減衰特性を有するラバー様の材料で満たす。ポリスチレン等の、より硬くより吸収性の低い材料は、音波の伝達速度が約1kms-1であり、3kHzにおいて約33cmの波長をもたらすが、減衰は小さい。一般に、中実材料を用いてエア・ギャップを埋める方が良好であり、それがプレート・セグメント表面における反射の最小化にも寄与する。グラジェント・コイル・アッセンブリの端面に到達した音波、及び同時にグラジェント・アッセンブリ内の異なる深さから生じた音波は、重畳されて破壊的に干渉し、その結果、個別プレートにおいて全体的な減衰の達成を助ける。この状況は、より高い周波数に関して改善を見るが、逆に言えば、低い周波数において干渉に起因する軸方向の減衰が低下し、そのため、組み合わせセグメント及び間隔を設けた構造における波長がコイルの長さの1/2に等しいとき、実質的に破壊的な干渉を生じないことになる。均一間隔のプレートの場合、各プレート・セグメントからの出力波が、建設的な態様で軸に沿った出力ノイズを増加し、グラジェント・コイル・アッセンブリの各1/2に含まれるプレート数をNとするとき、単一プレートの出力ノイズをN倍する。
【0046】
(sinc関数の幅コントロール)
sinc関数の幅が、音波がプレート全体にわたる順逆のその伝播路内で受ける反射の回数に関係することはすでに述べた。もっとも広いsinc関数は、N、M=1のときに生じる。これは、反射がないことを表す。この種の状況に到達させるためには、音波が最初に発射された後、完全にそれを吸収させる必要がある。それが可能であれば、比較的小さい値のkに対応する、大きいが有限の速度vについて、ほぼ2πラジアンの立体角にわたり、二重プレート・アッセンブリの音波相殺を非常に高い程度で達成することができる。これは式(12)を用いた出願人らの計算に基づいており、k=6とし、グラス・ファイバ織布をフィラーに用いたエポキシ樹脂の使用を基礎としている。しかしながら出願人らの前述のコメントから、カーボン・ファイバ織布強化プラスチックをプレートとして用いることによってkをさらに小さくできることがわかる。ただしこの結果が、固体内の音波がエッジにおいて反射を受けないという前提に基づいていることをここで強調する。次に、これを達成するための方法を考える。
【0047】
(内部反射の除去)
内部反射がほとんど、もしくはまったくないプレート設計を達成する方法はいくつかある。もっとも単純でありもっとも明らかな方法は、適切なエラストマを満たしたプラスチック樹脂からプレートを作成する方法である。エラストマの目的は、音のエネルギを吸収することであり、最初のパスにおいて音の振幅がゼロまで低減されるとすれば、音波の反射がまったくなくなる。前述の式(12)〜(14)は、音波の吸収項を含まないが、単純な方法でそれを含めることは可能であり、エネルギ損失のメカニズムを追加した結果、個別のプレート・コンポーネントから生じる音波の位相が大きく変化し、音波の相殺が困難になる。このため、出願人らは、プレート内において損失のメカニズムを使用せずに内部反射を抑える代替方法を探した。
【0048】
これは、プレートのエッジを整形、つまり面取りを行い、面取り部分内の音波に、実質的に完全にプレートのエッジにおいて吸収される形の反射を強制することによって達成することが可能である。このプロセスを図10に示す。図10は2つの可能性を示しており、図10(a)は片面の面取りを、図10(b)は両面の面取りをそれぞれ行ったエッジを示している。片面の面取りを行ったエッジ、つまりたがね形のエッジ100については、面取り角εが、垂直の内部反射角に至るまでの内部反射回数をnとすると、次の式で与えられる関係を有することが示される。
【0049】
nε=90° (15)
両面の面取りを行ったエッジ102の場合は、図10(b)に示されるように、垂直の内部反射角に至るまでの内部反射回数がそれより少なく、次式によって与えられる。
【0050】
{(n+1)/2}ε=90° (16)
プレート全体にわたって、内部反射を効果的に抑えるためには、n>=5とする必要があると考えられ、そのための面取り角は18°となる。両面の面取りを行ったエッジの変形として図10(c)にチューリップ形104を、図10(d)にカスプ形106をそれぞれ示す。
【0051】
くさび形もしくはその他の形状のエッジ内のそれぞれの反射における音の吸収を向上させるため、一方もしくは両方のテーパー面に、図11(a)に示したブロック110あるいは図11(b)に示した薄いシート112のように、音の吸収に優れた材料を追加してもよい。
【0052】
(音響的整合)
内部反射を制限もしくは除去する別のアプローチは、プレートのエッジにおいて音響的な整合を行う方法である。平坦な面取りを行っていないエッジの場合、固体と空気の界面が音響的な整合に達しない。音響的な整合の条件は、界面と交差するエネルギ束が一定であることとする。空気を別の固体で置換した場合の音響的整合の要件は、l(エル)番目の媒体の断面積をal、密度をρ1、音波の振幅をAl、音波の速度をvlでそれぞれ表すとき、
1ρ1211=a2ρ2222
である。この式は、高速から低速への界面にわたって束密度を一定に保つためには、低速の媒体内の音波の振幅及び/または密度を高くしなければならないことを意味する。音響インピーダンスは、Z=ρvである。また2つの媒体間の界面における反射係数は、Γ=(Z1−Z2)/(Z1+Z2)であることから、Γ=0とするためにはZ1=Z2とする必要がある。2つの材料がインピーダンス整合していれば、音響的整合を達成することが可能であり、したがって、テーパーを施した硬い材料と、より稠密な低速の材料の突き合わせはぎを行う。音響的整合を達成した後は、より稠密な材料内にエネルギを完全に吸収させる必要がある。これは、たがね状のテーパーと低速材料内の高い音の減衰を合成することによって得られる。高速媒体に適した材料としては、エポキシ樹脂を含浸させた積層グラス・ファイバ織布またはカーボン・ファイバ織布が挙げられる。低速媒体は、鉛合金またはピュータとすることができる。
【0053】
音を吸収させるさらに別の方法は、図12に示すように、低速メディア122内にトラップされた音波を音響キャビティ120内に放射させる方法である。
【0054】
キャビティを伴うテーパー構成のいくつかを図13は示す。図13(a)に示した構成は、両面にテーパーを施したエッジからプリズム形のキャビティ130に入射させる。この構成においては、到来する音波を最大で12回(番号を付したとおり)まで内部反射させることが可能である。両面テーパーの構成は、到来波の一部がキャビティ内に直接入射することを妨げる。図13(b)は半円形のキャビティ132を示しており、この場合にも両面のテーパーからそこに入射させる。番号は、反射を示しており、前述の図13(a)と類似の回数が得られる。
【0055】
上記のキャビティ構成における困難の1つは、それによってプレートの幅が数センチメートルにわたって延びることである。一般にこれは望ましくない特徴であるが、非常に高い減衰が得られる。キャビティ構成及び単一のたがね形エッジ構成の両方に対する代替方法は、図14(a)に示す形の複数のたがね、すなわち鋸歯状エッジ140を使用することである。これにより、プレートのエッジをそれほど延長しなくても望ましいテーパー角を達成することが可能になる。鋸歯状エッジは、固体ブロックを加工することにより、あるいは多数のシートにたがね形のテーパーを施した後それを積層シート構造に組み立てることによって得ることができる。
【0056】
鋸歯状エッジは、図14(b)に示すように、内側の再入ループのためのインターロック構成に利用できる。ただしこれには、外側の電流ループを図示していない。インターロック構成は、内側ループの幅を実質的に小さくする。
【0057】
図11の単純なアプローチの拡張を図15に示す。図15において、高速プレート10の材料のテーパーを施したエッジが、低速材料の第2のエッジ・キャッピング・ストリップ150(ハッチング部分)のV字形溝に嵌合しており、そこにはアクティブ・ワイヤ152も収容されている。図15(a)において、メイン・プレートからキャッピング・ストリップ150に渡される音波は、内部反射され、減衰される。内部反射のプロセスは、図15(b)に示すように、キャッピング・ストリップのコーナーを154、156に角度を付けることによって向上させることができる。さらに、図15(c)に示すように、キャッピング・ストリップのエッジを鋸歯158にすれば、内部反射及び減衰の効果をさらに高めることができる。
【0058】
(プレートのプロファイリング)
式(11)または式(12)を導くとき、プレートの厚さ2τを一定とした。しかしながらプレートは、距離の関数τ(x)として次のようにプロファイルされる。
【0059】
τ(x)sinkx=h (17)
これにおいてhは定数であり、したがってkの特定の値について次の式が得られる。
【0060】
τ(x)=h/(sin kx)(18)
この場合、式(11)または式(12)におけるkが実際上消えて、すべてのブレーズ角がゼロになることを示すことができる。これは、ASAPを急速にゼロに収束させる。プロファイリングを行ったプレートの断面160を図16に示す。
【0061】
(実際的なグラジェント・コイル構成)
支持媒体内における音速が2.5kms-1もしくはそれを超えるものとし、さらに前述の手段によってすべての内部反射が抑圧されるものとすれば、多数の実際的なグラジェント・コイル構成を提案することができる。これには、矩形プレート、円形プレート及び弓形プレートからなる集合プレート構造も含まれ、それらすべては、x、y、z、3軸のグラジェント・コイル・セットを構成すべく組み立てることができる。矩形、円形及び弓形構造を伴うプレート・セグメントを使用したグラジェント・コイルの例は、出願人らの従来技術(英国特許出願第95068298.2;「Active acoustic control in quiet gradient coil design for MRI(MRI用静穏グラジェント・コイル設計におけるアクティブ音響コントロール)」P Mansfield(P.マンスフィールド);優先日:1995年4月1日;PCT WO96/31785;公開日:1996年10月10日;及び、英国特許出願第9620138.9;「Active Control of Acoustic Output in Gradient Coils(グラジェント・コイルにおける音響出力のアクティブ・コントロール)」P Mansfield(P.マンスフィールド);優先日1996年9月27日;PCT WO98/13821;公開日1998年4月2日)に示されており、図9にもそれを示した。
【0062】
上記のプレートを積み重ねて完全なグラジェント・セットを得るタイプのグラジェント・セットは、通常、比較的短いグラジェント・コイルをもたらし、この設計は、ヘッド・グラジェント・コイルの製造に役立つ。音響的にコントロールされたコイルを使用して全身を撮像するためには、たとえば、内径1.0mのマグネットにおける空間的制限から、分散させた弧による円筒状コイル装置を考えるほうが現実的である。
【0063】
(円筒状に分散させたコイル)
円筒状に分散させたコイルは、概して、3つのプライマリ・コイルx、y、zを支持する平均半径aの内側シリンダ170、及び3つの磁気スクリーニング・コイルを支持する平均半径cの外側シリンダ172を備える。これらの3つの磁気コイルの間には、3つの音響スクリーニング・コイルを含む2組のコイルのセットが介挿されており、一方は平均半径bで内側シリンダに、他方は平均半径b’で外側シリンダにそれぞれ支持されている。構成の概略を図17(a)に示す。
【0064】
音響コントロール原理の恩恵を享受するためには、固体の支持媒体内で生成された円筒状の波が完全にシリンダ表面で吸収されることを確実にする必要がある。これは、図17(b)に示すように、すべての表面を加工し、シリンダ軸に沿って鋸歯状の溝、ノッチ、ローレットまたはフィン174のセットを備える必要があることを意味する。音の伝播速度がv1であり、外径がbの内側シリンダにも鋸歯状の溝176またはフィンを備え、音の伝播速度がv2の外側シリンダの内表面に備わる類似のセット178にかみ合う形となるが、接触はさせない。内側及び外側シリンダ170、172は、半径方向に自由に振動可能でなければならず、これらのシリンダの間には比較的軽く結合された支持が必要になる。適切な材料としてはソフト・ラバーがあり、適切なポイントにおいてそれをフィンの間のギャップに配置する。2つのシリンダ間のギャップのほとんどは、拘束されない状態で残す。これらのフィンは、キャスティング後にシリンダ表面に加工されることになるか、あるいはそれに代えて適切に成型したモールドを用いてシリンダとともにキャスティングすることもできる。さらに別の選択肢として、滑らかなシリンダ表面にフィンを接着する方法もある。
【0065】
図17(c)に示した別の構成においては、フィン171がシリンダ表面に対して接線方向に走っており、すべてのシリンダ表面上にねじ溝状の構造が形成される。
【0066】
2つのフィン形状を図17(d)及び17(e)に示すが、これらは上記の2つの構成、即ち、図17(a)及び図17(b)の両方に適している。なお、溝の角度及び深さは、式(15)及び(16)によってコントロールされる。
【0067】
(冷却)
すべての実用的なグラジェント・コイル構成においては、非常に大きな電流を用いるとすれば巻き線の冷却が必要になると考えられる。音響コントロール原理の精度及び精巧さから、セグメントをスタックさせてプレートを構成するアプローチを採用するすべての巻き線に、比較的径の小さい銅線が使用される。円筒状に分散させたグラジェント・コイル設計については、エッチングにより、あるいは適切な厚さの連続銅板からワイヤのパスをパンチングもしくはスタンピングすることによって、もっとも適切な態様が得られる。3軸の場合は、これらの銅板を互いに適切に絶縁しなければならない。この場合にも、音響設計における厳密な寸法に適応させるため、銅板は比較的薄くなる。つまりこれにより、一般に、円筒状コイルをはじめ積み重ねプレート・コイル用のある種の流体冷却チューブが必要になる。
【0068】
積み重ねプレート181の冷却は、グラジェント・プレートの間に適切に介挿させた冷却プレート180によりもっとも好ましく達成され、それにおいて冷却コイル182は、実際の電流搬送巻き線に緊密に調和すべく巻き付けた薄い銅管とすることができる。図18(a)はその構成を示している。
【0069】
円筒状コイル構成の場合、3つの銅板導体の各セットに、2層の冷却層を含ませることができる。1つの構成においては、図18(b)に示すように、冷却管184を、円筒軸に沿って前後に走る銅管とする。3つのスタンピングした銅板からなるセットが4セットあることから、これらのコイル用に4つの冷却構成を備える必要がある。
【0070】
別の構成は、図18(c)に示すように、グラジェント巻き線の間に、ら旋状に巻き付けた銅管186を備える。
【0071】
(ローカライズしたトランスデューサ)
音波相殺を考慮した上記のアイデアは、作用が立証されているが、すでに述べたとおり、効率はkの値に依存する。さらに、実際の相殺プロセスは、媒体のk’において生じる。この媒体が空気であれば、これは、空気中の伝達プロセス及び、ローカライズされたオブジェクト、反射等に起因する摂動によって問題をもたらす可能性がある。
【0072】
次に、グラジェントの支持システムを構成する固体内における真の相殺の可能性を調べる。これを達成するための理想的な要件は、相殺する波と同じ振幅を有し、同じ方向に伝播する、それとは逆の位相を持った波の存在である。1つのアプローチとして、第1のワイヤに近接して第2のワイヤを備え、そこに大きさが等しく逆向きの電流を流すことが挙げられる。これにより確かに必要な波の相殺が得られるが、グラジェント・コイルにおけるグラジェント強度がゼロになるという代償を支払うことになる。しかしながら、この構成については後ほど別の検討を予定している。そこでまず、単一のワイヤの導入に代えて、ワイヤの近傍に1または複数のトランスデューサを配置し、トランスデューサにより固体内に必要な相殺波を生成する可能性について調べる。
【0073】
出願人らの従来技術には、グラジェント・コイル設計との関連からの圧電トランスデューサの使用が解説されている。しかしながら、その研究における圧電デバイスの意図は、主として、グラジェント・コイルの相殺のために中心に配置される再入ループに置換することにあった。しかしながら、前述したように、実際にはこの構成が、グラジェント・アッセンブリの固体構成内において音波の相殺をもたらさない。
【0074】
次に、固体内で波の相殺が生じる状況について特に考察する。グラジェント・アッセンブリ内のグラジェント生成ワイヤに近接して適切に配置された圧電トランスデューサは、原理的に固体内の波の相殺に充分な強度の波を生成する。これが得られれば、グラジェント・アッセンブリは即座に静かになる。ここで検討している原理を図19(a)示す。この構成には、電流I1を搬送するプライマリ・ループの一部を形成する2つのプライマリ・ワイヤ190が備わる。また、図20に概要を示すプライマリ・ワイヤと平行に圧電または磁気トランスデューサが埋め込まれている。
【0075】
横方向のリターン・ワイヤ192は、プレートの背後の、図19(b)に示す別体の防振マウント194、195に配置される。プライマリ・ワイヤは、プレート内に埋め込まれ、プレートは、中央にスロットが設けられ、内側ならびに外側の長さ方向のエッジには、すべてテーパーが施されている。このプライマリ・ワイヤからわずかに逸れて、それと平行に、トランスデューサ196、198を受けるスロットが加工されている。これらもまた、エポキシ樹脂の使用により埋め込まれている。
【0076】
図20(a)に図示された好ましい圧電デバイス196、198は、2枚の導体プレート1961、1962、中央のフローティング導体1965、及び圧電材料による2枚のプレート1963、1964からなる。
【0077】
ここでは、図20(a)の断面図に示した圧電デバイス196、198について述べたが、柔軟なスペーサ204を挟み込む2枚の薄い銅製導体ストリップ200、202からなる磁気電流トランスデューサも、完全に使用可能であり、むしろ好ましくもある。これは、a)構成がよりシンプルであること、かつb)コイル・システム全体に連続的に配置し得ることから好ましく、それに対して圧電デバイスは、コイル・アッセンブリ内の特定の有利なポイントに配置しなければならない。
【0078】
図20(b)に示した端面図を参照すると、磁気電流トランスデューサが、原理的に、前述のように発生される波が相殺される振動を生成し得ることが明らかになるが、単一ワイヤからの音波の生成、及び磁気トランスデューサからの音波の生成を調査すると、固体内に埋め込まれた単一ワイヤの場合、前後の音波の発生が、ワイヤが配置されている発生源を通って連続していることがわかる。つまり、前方の伝播に、後方に向かう負の振幅の波が伴うと言うことができる。これは、実際に磁気双極子である磁気電流トランスデューサの場合と対比をなす。この場合、トランスデューサによって生成される前進波よび後進波がともに正となる。
【0079】
したがって、図20(b)に示したタイプの磁気トランスデューサを単一ワイヤに近接させて配置することにより、前方または後方において相殺が得られるが、両方同時ではない。それにもかかわらず、これは、前方の伝達が後方の伝達より大きな空間において生じるのであれば、ある程度の意義を持つ。より高い振幅においてではあるが、これは支持構造の限られた体積に後進波を閉じこめる効果を有し、それにおいては、過剰なノイズを生成することなく放散される。
【0080】
このアプローチのさらに別の実施例は、前方及び後方の面が同じ電流を搬送すべく2つの磁気電流トランスデューサを使用する。この種の構成を示す図20(c)を参照すると、事実上、2つの磁気双極子が背合わせに配置されていることがわかる。単一ワイヤ内の電流がトランスデューサの前方及び後方のプレート内の電流と同相であれば、単一ワイヤ及び二重トランスデューサによって、固体内に類似の前進波及び後進波が伝達される。この状況においては、固体内の音波の完全な相殺が可能になると見られる。
【0081】
二重磁気電流トランスデューサの圧電等価は、2つの圧電セラミックを背合わせにし、内側の面の間に導体材料を挟み込んだ構成のバイポーラまたはバイモルフ・デバイスを使用すれば得られる。外側の面には導体面を備え、グラジェントの支持を構成する固体材料と確実に固着させる。前述の図20(a)を参照して説明した圧電デバイスは、この種のバイポーラ・デバイスである。
【0082】
ここで、単一の矩形ワイヤ・ループからなるグラジェント生成用プライマリ・ワイヤに近接させた1対のセカンダリ・ワイヤの使用に戻る。図21はその一例を示す。図21(a)を参照すると、プレート内に埋め込まれたプライマリ・ワイヤPQ及びP’Q’は、電流I1用の通常のリターン・パスを提供する。I1用の横方向のワイヤ・パスは、プレートの背後を通り、図21(b)に示す防振マウント212上に分けて支持されている。セカンダリ・ワイヤAB及びA’B’もまたプレート内に埋め込まれており、それぞれは、プレートとの結合を最小化する防振張り出しパイロンまたはポスト210(図21(b)参照)によってプレート表面から離され、大部分が支持を持たない形となった電流I2exp(jφ)用のリターン・パスを有する。プレートとの結合の最小化は、防振マウントの形式で適切な材料を使用することによって達成される。図21(c)は、図21(b)と類似の構成を示すが、導体PQならびにAB、及びP’Q’ならびにA’B’が同軸のペア214、216に置き換えられている。
【0083】
セカンダリ・ワイヤの電流のリターン・パスがプレートに近いと、I2exp(jφ)によって生成される磁界がグラジェント・アッセンブリの中心において相殺される。
【0084】
図21に示したプレートの半分について考える。固体内において、ワイヤPQから放射される平面波は左から右に伝播し、それは次式によって示される。
【0085】
1=A10exp{j(kx+ωt)}(19)
同様にワイヤABから、次式で示される振幅及び位相を伴う波が放射される。
【0086】
2=A20exp[j{k(x+△x)}+φ+ωt}] (20)
したがって、固体内の合成波の振幅At0tは、次式で表される。
【0087】
t0t={A10+A20 exp(j(kΔx+φ)}exp{j(kx+ωt)} (21)
これにおいてΔxは2つのワイヤ間の距離である。波の振幅A10及びA20は、電流の振幅I1及びI2に比例し、したがって、実験的に得ることができる。
【0088】
10=A20であれば、合計の位相kΔx+φ=2πとすれば、At0tを除去することができる。この条件の下においては、静穏なプレートが得られる。
【0089】
(音響コントロールのさらなる改良)
ほとんどの平板プレート設計においては、一体性を維持するためプレートの各半分がトップ及びボトムにおいて互いに固定される。この構成の変形は、プレートの各半分を、自由振動モードにおいて自由に振動させる。プレートのペアの一体性は、プレートのペアの背後のトップ及びボトムに備える支持バーを通じて維持する。この支持バーは、接着パッドの形式での防振マウントを介して各プレートと軽く結合される。
【0090】
(積層プレート)
プレートの音響出力がkと独立している場合には、音の相殺の効率を改善することができる。図22には、コンポジットを形成する3またはそれ以上のラミネーションからなるプレートの断面が示されている。各ラミネーションは、多層織布強化プラスチック・コンポジットから形成され、異なる波伝播定数、つまりk1、k2、k3、...knを有し、それにおいてkn=nkである。奇数のnについては、音響出力が、全体的なプレート構造の変形を記述するフーリエ成分を含むことが示される。kの値を選択することにより、全体的なプレートの変形を、プレート座標xの任意の望ましい関数に表すことができる。プレート・システムに対する電流ドライブは、正弦関数または余弦関数となる。2種類の単純な変形は、フーリエ成分の合計がプレート表面の均一な変位となるとき、またはxの関数としてプレート表面の線形傾斜変位となるときである。この場合、プレートのプロファイルのフーリエ変換により、sinc関数または微分sinc関数のいずれかが得られ、そのいずれもがkに依存しない。
【0091】
(異方性材料)
すでに、式(3)から音響出力がポアソン比σに依存することを述べた。このσがゼロであれば、出力がないことは明らかである。多くの材料においてσはゼロではないが、σが正となる材料はもとよりそれが負となり得る材料のクラスが存在する。したがって、負の値と正の値が共存し、総合的なポアソン比がゼロとなる組み合わせの存在が考えられる。これらの材料は、セル状の固体である。一般に、セル状の固体においてσは、高い異方性を示す。
【0092】
セル状の固体において3軸、x、y、zを考える。この種の固体においては、各種のポアソン比の値、すなわちσxy、σyx;σxz、σzx;及びσyz、σzyを持つことが可能であり、それにおいてσij=εi/εjであり、εi、εjは、i軸に沿って応力が印加されたときのi軸及びj軸に沿ってそれぞれ生じるひずみである。管の軸をzとすると、微細な管の束からなるセル状の固体については、σxy≒σyx=σ、σxz=σyz=0、かつσzx=σzy=1が期待される。
【0093】
自然界におけるセル状の固体に木がある。この材料においては、概略で細管が幹の軸方向Aに向かって延びている。ここで幹の軸に対する半径方向及び接線方向を、それぞれR及びTを用いて表す。多くのタイプの木については、σRA≒σTA≒0となる。理論的に、σAR≒σAT≒σかつ、σTR=σRT=1である。実際上は、広葉樹の場合であれば、σRT=0.75、σTR≒0.35、σAR≒0.45、かつ、σAT≒0.5となる。このことは、本件のグラジェント・プレートを木で作成し、木理の軸を横切る形でローレンツ力を印加すれば、σRAまたはσTAが実質的にゼロになることを意味する。その場合、式(3)により音響出力の振幅が著しく抑えられることになる。σRAが10分の1まで抑えられるとすれば、音響コントロールを用いることなく、20dBのノイズ除去が得られる。音響コントロールの原理を使用すれば、さらなるノイズ除去を得ることが可能になる。この例において出願人らは、木について考慮した。しかし、当然のことながら、それに代えて合成のセル状材料を用いることも可能であり、おそらくは望ましいσ=0へもさらに近づくことが可能になる。
【0094】
合成のセル状材料は、負の値のσを持つことができる。そこで、全体としてσ=0とすべく、正ならびに負の値のσをともに含む合成のセル状材料を提案する。図23は、4種類の管の断面を示しており、図23(a)及び(c)は正のσを、図23(b)及び(d)は負のσを有している。これらの断面の有する各ペアについて各管の層を交番させて構成したハニカム構造は、正のσ及び負のσを有し、全体としてのσはゼロに近づく。図において矢印−F、+Fは、ひずみεxをもたらす力を表す。また、εyは、y軸に沿った対応するひずみを表す。
【0095】
上記は、異方性を呈する材料の特定の一例であり、この場合はそれがポアソン比である。この異方性は、2軸またはそれ以上の軸に沿って異なる音速を有する材料をもたらすことにもなる。音速の異方性は、音響コントロールするプレートの設計において役に立つ特徴となり得る。そういったプレートは、1つの軸に沿って高速となり、それと垂直な別の軸に沿って、それよりはるかに低速となる構成が可能である。この種の材料を用いると、たとえば長い軸においては低速から共鳴を得るが、高速な短い軸においては、音響ブレージングが最小化できるプレートをつくることが可能になる。
【0096】
すでに、多層グラス・ファイバ織布及びカーボン・ファイバ織布のプラスチック・コンポジット・ラミネートからなるコンポジット材料について述べたが、当然のことながらこの種の材料も2軸、つまりx、y軸に沿っては等方性を示すが、層に垂直な方向に沿っては実質的に異方性を得ることができる。x−y平面内において異方性が必要であれば、縦糸と横糸に異なる材料、たとえば縦糸にグラス・ファイバ、横糸にカーボン・ファイバを用いた新しいタイプの織布を用いることによりそれが可能になる。この種の材料は、x−y平面において非常に強い異方性を呈し、x軸とy軸に沿った音速が異なる音響プレートを設計することができる。
【0097】
ポアソン比における異方性の効果をまとめると、σTA=σRA=0が期待できる状態は、管の束、押し出しプラスチック成形、木及び発泡コンポジットである。また押し出しプラスチックの場合、組み合わせの押し出し材料を使用すれば、少なくとも1つの他の成分、σRT=0を得ることもできる。プレート自体を考えるのであれば、重要な設計パラメータは、放射ファクタfr=(E/ρ31/2である。これに音速を代入すれば、fr=v/ρとなる。これは、frを最小にすれば、所定の音速vについてρが最大になることを意味している。
【0098】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【符号の説明】
【0099】
34 スロット
60 エミッタ・プレート
62 サウンド・レンズ
42 プラスチック
82 ステータ
87,88 回転ピボット軸
92 サポート・リング
120 音響キャビティ
172 グラジェント・プレート
180 冷却プレート
181 グラジェント・プレート
182 銅製冷却管
190 プライマリ・ワイヤ
198 トランスデューサ
200 導体
204 柔軟な不導体
202 導体
210 防振ポスト
212 防振マウント
216 同軸導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響的に静穏な磁気共鳴映像システム用コイル装置であって、
前記コイルは、1または複数の電気的導電体と、音響伝達材料からなるプレートとを含み、前記電気的導電体は前記プレート内に直接に埋め込まれ、または、前記プレートに取り付けられたキャッピング・ストリップに直接に埋め込まれ、前記プレートは複数の表面を有しており、
前記プレートの少なくとも一表面は、少なくとも1つのたがね状、鋸歯状または面取り状の表面形状を備え、前記プレート内において音波の内部反射を抑圧することを特徴とする
コイル装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたコイル装置であって、前記音響伝達材料は、異方性であり、1つの軸に沿って高い速度を有し、それと垂直な軸に沿って低い速度を有するコイル装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたコイル装置であって、前記音響伝達材料はセル状であるコイル装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記プレートは、多層プラスチック・コンポジット構造を含むコイル装置。
【請求項5】
請求項4に記載されたコイル装置であって、前記多層プラスチック・コンポジット構造のすべての層は、グラス・ファイバ織布強化プラスチックであるコイル装置。
【請求項6】
請求項4に記載されたコイル装置であって、前記多層プラスチック・コンポジット構造のすべての層は、カーボン・ファイバ織布強化プラスチックであるコイル装置。
【請求項7】
請求項4に記載されたコイル装置であって、縦糸と横糸は、材料が異なり、互いに異なる波伝播速度を有するコイル装置。
【請求項8】
請求項7に記載されたコイル装置であって、前記縦糸の材料は、グラス・ファイバであり、前記横糸の材料はカーボン・ファイバであるコイル装置。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記複数の層は、積層体を形成し、前記プレートは、積層体のセットから形成され、各積層体は、異なる波伝播定数kを有するコイル装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記面取りは、片面をたがね状に面取りした面取り部を含むコイル装置。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記面取りは、両面をたがね状に面取りした面取り部を含むコイル装置。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記面取りは、チューリップ状面取り部を含むコイル装置。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記面取りは、尖頭状面取りを含むコイル装置。
【請求項14】
請求項10に記載されたコイル装置であって、前記面取りの角度εは、前記プレート内における音波の内部反射が直角になるまでの反射回数をnとするとき、nε=90°で表される角度であるコイル装置。
【請求項15】
請求項10に記載されたコイル装置であって、両方の面取りエッジに関する前記面取りの角度εは、内部反射が直角になるまでの反射回数をnとするとき、{(n+1)/2}ε=90°で表される角度であるコイル装置。
【請求項16】
請求項14または15に記載されたコイル装置であって、前記nは、5よりは大きいコイル装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記面取りしたエッジの1または複数に、1または複数の吸音材料ブロックを適用したコイル装置。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記プレートは、比較的密度の低い第1の材料を含み、前記第1の材料は、外側エッジに比較的密度の高い第2の材料が結合されており、前記比較的密度の高い第2の材料は音響キャビティに形成され、前記音響キャビティは、複数の面取り面を含むコイル装置。
【請求項19】
請求項18に記載されたコイル装置であって、前記音響キャビティは、概略円形状の断面のキャビティを含み、前記キャビティは前記密度の高い材料から形成されているコイル装置。
【請求項20】
請求項11に記載されたコイル装置であって、前記両面の面取りは、狭くなった端部において、プリズム形のキャビティが形成されるべく修正され、前記プリズム形のキャビティは、前記面取りとの組み合わせにより、複数の音反射表面を供するコイル装置。
【請求項21】
請求項11に記載されたコイル装置であって、前記両面の面取りは、狭くなった端部において、半円形のキャビティが形成されるべく修正され、前記半円形のキャビティは、前記面取りとの組み合わせにより、複数の音反射表面を供するコイル装置。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載されたコイル装置であって、複数の面取りを含み、前記複数の面取りは第1の多数のたがね形状の構成を形作るコイル装置。
【請求項23】
請求項22に記載されたコイル装置であって、さらに、別のプレートを含み、前記別のプレートは複数の第2の面取りを含み、前記複数の第2の面取りは第2の多数のたがね形状の構成を形作っており、前記別のプレートは、前記プレートの近傍に、前記第1及び第2の多数のたがね形状の構成がインターロックする態様で配置されるコイル装置。
【請求項24】
請求項23に記載されたコイル装置であって、前記導電体の少なくとも1つは、前記音伝達材料の前記プレートに取り付けられるキャッピング・ストリップに埋め込まれ、前記キャッピング・ストリップは、前記プレートの前記面取り部分に取り付けられ、前記キャッピング・ストリップは、前記プレートの材料より音速の低い材料から形成されるコイル装置。
【請求項25】
請求項24に記載されたコイル装置であって、前記キャッピング・ストリップは、1または複数の面取りしたエッジを備えられるコイル装置。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記コイルは冷却されるコイル装置。
【請求項27】
請求項1〜26のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記コイルは、グラジェント・コイルであるコイル装置。
【請求項28】
請求項1〜27のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記コイル装置は、円筒状支持材料から形成され、前記支持材料の表面は円筒の軸に沿って延びる鋸歯、溝またはノッチのセットを有するコイル装置。
【請求項29】
請求項1〜27のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記コイル装置は、円筒状に成形された支持材料から形成され、前記支持材料の表面は、円周方向に延びる鋸歯、溝またはノッチのセットを有するコイル装置。
【請求項30】
請求項1〜29のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記プレートは、防振マウント上にマウントされているコイル装置。
【請求項31】
請求項1に記載されたコイル装置であって、前記プレートは、セル状材料からなる合成セル状構造を含み、前記合成セル状構造は正及び負のポアソン比の値σを有し、全体としてのポアソン比の値σがゼロになるコイル装置。
【請求項32】
請求項31に記載されたコイル装置であって、前記正及び負の値の材料は、六角形及び逆付け六角形の管状構造を揺するコイル装置。
【請求項33】
請求項1〜32のいずれかに記載されたコイル装置であって、前記1または複数の導電体は、磁界を生成するための第1の電流搬送導体、及び、音の相殺をもたらすための第2の電流搬送導体を含むコイル装置。
【請求項34】
請求項33に記載されたコイル装置であって、前記両導体は、近接した平行配置であって、ともに前記プレート内に埋め込まれているコイル装置。
【請求項35】
請求項33に記載されたコイル装置であって、前記両導体は、近接した同軸配置であって、ともに前記プレート内に埋め込まれるコイル装置。
【請求項36】
請求項34または35に記載されたコイル装置であって、前記第2の導体のリターン電流パスは、プレート外に通され、かつ、防振プレート上にマウントされているコイル装置。
【請求項37】
音響的に静穏な磁気共鳴映像システム用コイル装置であって、前記コイルは、1または複数の導電体を含み、前記1または複数の導電体は、プレート材料内に埋め込まれており、前記プレートはセル状材料の合成セル状構造を含み、前記合成セル状構造は、正及び負のポアソン比の値σを有し、全体としてのポアソン比の値σが実質的にゼロであるコイル装置。
【請求項38】
請求項37に記載されたコイル装置であって、前記正及び負の値の材料は、六角形または円形、及び、逆付け六角形または逆付け円形の管状構造を含むコイル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−154028(P2009−154028A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101118(P2009−101118)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【分割の表示】特願2000−534889(P2000−534889)の分割
【原出願日】平成11年3月8日(1999.3.8)
【出願人】(500420856)
【Fターム(参考)】