説明

MRI装置

【課題】従来の灌流検査法によらないダイナミックMRI造影剤検査によって、簡易かつ比較的正確に血液灌流情報を得る。
【解決手段】MRI装置は、磁場発生器と、高周波パルスを照射するパルス送信器330と、エコー信号を受診する受信器340と、被験者の血流情報を演算する血流情報演算部360と、血流情報に基づいて画像を再構成する画像データ生成部370と、画像を表示する表示デバイス390とを有する。パルス送信器330は、造影剤の注入前および注入後に高周波パルスを照射し、受信器340は、造影剤の注入前および注入後のそれぞれについて第1エコー信号および第2エコー信号を取得し、血流情報演算部360は、造影剤注入前および注入後のエコー信号強度から求められた、造影剤注入後の経過時間tにおける横緩和速度の変化ΔR2*(t)に基づいて、血管内の血液量および血管外への漏出量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造影MR画像から、血管外腔へ漏れた血漿(血液成分から血球等を排除した液体)量や周辺組織自体の血漿量または血液量などを解析することのできる定量化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
髄膜種などの腫瘍の外科的手術や放射線治療の事前評価および鑑別診断には、腫瘍およびその周辺での血液量(BV)や血流量(BF)情報が重要である。現在、これらの血液灌流情報を得るために、ガドリニウム含有造影剤の投与による、MR画像装置を用いた画像診断法や、ヨード含有造影剤の投与による、CT画像装置を用いた画像診断法や、トレーサー(サイクロトロンによって調製された放射性医薬品)の投与による、PET装置を用いた画像診断法などが利用されている。
【0003】
これらの診断では、病変部を含む所定の断面を一定の時間間隔で繰り返し撮像し、これによって得られた一連の画像データを画素ごとに解析して、まずBVを求め、次にBFマップを作成する灌流検査法が一般的に行なわれている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−130141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したMRやCT装置を用いた灌流検査法では、正常な脳組織でしかBVやBFを求められないという欠点がある。つまり、血液脳関門(BBB)の破壊がないような正常脳組織の場合だけ、(血漿に溶けている)造影剤の血管外腔への漏れがなく、比較的正確なBVやBFが得られるが、(脳腫瘍や脳卒中のような)BBBが破壊されている場合には、造影剤が血管外腔への漏れ出てしまい、BVとBFが過小評価されてしまう現象がみられる。一方、PET装置を用いた撮像では、比較的サイズの大きなトレーサー(放射性同位元素でラベルした一酸化炭素と結合したヒトの赤血球)を用いているため、BBBが破壊されていても、出血(赤血球が血管外に出ること)がない限りは、血管外腔にトレーサーが漏れ出ることなく、比較的正確なBVとBF評価が可能である。ただし、放射性医薬品を扱うため、被験者および術者の被曝量を厳密に管理する必要があり、また、PET装置はMR画像装置に比べて普及が進んでおらず、利用可能な施設が限られてしまう。
【0006】
本発明は、従来の灌流検査法によらないダイナミックMR造影剤検査によって、簡易かつ比較的正確に血液灌流情報を得ることのできる装置および方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は以下に示す発明によって達成される。
【0008】
(A) 被験者が位置する撮像空間に磁場を与える磁場発生器と、
前記撮像空間に高周波パルスを照射するパルス送信器と、
前記パルス送信器による高周波パルスの照射により前記被験者から得られたエコー信号を受信する受信器と、
前記エコー信号を用いて前記被験者の血流情報を演算する血流情報算出部と、
前記血流情報に基づいて画像を再構成する画像データ生成部と、
前記画像データ生成部で再構成された前記画像を表示する表示デバイスと、
を有し、
前記パルス送信器は、造影剤の注入前および注入後に高周波パルスを照射し、前記受信器は、造影剤の注入前および注入後のそれぞれについて第1エコー信号および第2エコー信号を取得し、前記血流情報演算部は、造影剤注入前および注入後の第1エコー信号および第2エコー信号の信号強度から求められた、造影剤注入後の経過時間tにおける横緩和速度の変化ΔR2*(t)に基づいて、前記血流情報として血管内の血液量(BV)および血管外への漏出量(LV)を算出するように構成されたMR画像(MRI)装置。
【0009】
(B) 上記本発明のMRI装置と、
前記MRI装置により被験者からエコー信号を得るために前記被験者に造影剤を注入する薬液注入装置と、
を有するMRIシステム。
【0010】
(C) 被験者が位置する撮像空間に磁場を与える磁場発生器と、前記撮像空間に高周波パルスを照射するパルス送信器と、前記パルス送信器による高周波パルスの照射により前記被験者から得られたエコー信号を受信する受信器と、前記エコー信号を用いて前記被験者の血流情報を演算する血流情報算出部と、前記血流情報に基づいて画像を再構成する画像データ生成部と、前記画像データ生成部で再構成された前記画像を表示する表示デバイスと、を有するMRI装置の作動方法であって、
前記パルス送信器が、造影剤の注入前および注入後に高周波パルスを照射することと、
前記受信器が、造影剤の注入前および注入後のそれぞれについて第1エコー信号および第2エコー信号を取得することと、
前記血流情報演算部が、造影剤注入前および注入後の第1エコー信号および第2エコー信号の信号強度から求められた、造影剤注入後の経過時間tにおける横緩和速度の変化ΔR2*(t)に基づいて、前記血流情報として血管内の血液量および血管外への漏出量を算出することと、
を含む、MRI装置の作動方法。
【0011】
(D) 被験者が位置する撮像空間に磁場を与える磁場発生器と、前記撮像空間に高周波パルスを照射するパルス送信器と、前記パルス送信器による高周波パルスの照射により前記被験者から得られたエコー信号を受信する受信器と、前記エコー信号を用いて前記被験者の血流情報を演算する血流情報算出部と、前記血流情報に基づいて画像を再構成する画像データ生成部と、前記画像データ生成部で再構成された前記画像を表示する表示デバイスと、を有するMRI装置のためのコンピュータプログラムであって、
前記パルス送信器に、造影剤の注入前および注入後に高周波パルスを照射させることと、
前記受信器に、造影剤の注入前および注入後のそれぞれについて第1エコー信号および第2エコー信号を取得させることと、
前記血流情報演算部に、造影剤注入前および注入後の第1エコー信号および第2エコー信号の信号強度から求められた、造影剤注入後の経過時間tにおける横緩和速度の変化ΔR2*(t)に基づいて、前記血流情報として血管内の血液量(BV)および血管外への漏出量(LV)を算出させることと、
を含む、MRI装置のためのコンピュータプログラム。
【0012】
(E) 上記本発明のコンピュータプログラムが格納されている情報記憶媒体。
【発明の効果】
【0013】
MRI装置による、従来の灌流検査法ではないダイナミック造影剤検査によって、PET検査で得られる画像との相関性が極めて高いBVマップ画像およびLVマップ画像を得ることができる。また、PET検査によらずにこれらのマップ画像を作成できることにより、放射線の照射による被曝のような、被験者の身体的負担を最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態によるMRIシステムの概略図である。
【図2】図1に示すMRIシステムの注入ヘッドを、それに装着されるシリンジとともに示す斜視図である。
【図3】図1に示すMRIシステムの機能ブロック図である。
【図4】PET装置で計測したBV値をゴールド・スタンダード(全てのなかで基準となる正確な値)と仮定して、本発明法を用いてMR装置で計測したBV値と、従来の灌流検査法を用いてMR装置で計測したBV値とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照すると、MRI装置300と薬液注入装置100とを有する、本発明の一実施形態によるMRIシステム1000が示される。MRI装置300は、撮像動作を実行する撮像ユニット301と、撮像ユニット301の動作を制御するとともに、撮像ユニット301から得られた磁気共鳴信号に基づいて画像データを再構成して断層画像として表示する撮像制御ユニット302とを有している。
【0016】
薬液注入装置100は、注入ヘッド110と、ケーブル(不図示)によって注入ヘッド110と電気的に接続された注入制御ユニット101とを有している。注入制御ユニット101は、メイン操作パネルおよびタッチパネル等を有している。注入ヘッド110は、図2に示すように、それぞれシリンダ221およびピストン222を備えた2つのシリンジ200C、200Pを着脱自在に装着することができる。
【0017】
シリンジ200C、200Pにはそれぞれ被験者に注入される薬液が充填される。シリンジ200C、200Pの先端のノズル部221bには、末端側が2つに分岐し、かつ先端に注入針(不図示)が連結された延長チューブ230が接続され、注入針を被験者の血管内に穿刺することによって、シリンジ200C、200Pに充填された薬液を被験者に注入可能な状態となる。シリンジ200C、200Pに充填される薬液は、どちらも同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。通常は、シリンジ200CにはMRI用の造影剤(ガドリニウム製剤)が充填され、もう一方のシリンジ200Pには生理食塩水が充填される。
【0018】
注入ヘッド110の先端部には、2つのシリンジ200C、200Pを保持するためのシリンジ受け120が備えられている。シリンジ受け120は、各シリンジ200C、200Pのシリンダ221を受け入れる2つの凹部120aと、各凹部120aに受け入れられたシリンダ221の末端のフランジを保持する2つのシリンダ保持部材121、122とを有する。
【0019】
注入ヘッド110に保持されたシリンジ200C、200Pのピストン222を前進および後退させるために、互いに独立して駆動される2つのピストン駆動機構130が、各シリンジ200C、200Pに対応して設けられている。ピストン駆動機構130は、駆動モータ(不図示)および駆動モータの回転出力を直線運動に変換する運動変換機構(不図示)を有する。このようなピストン駆動機構130としては、薬液注入装置で一般に用いられる公知の機構を用いることができるので、ここではその詳細な説明は省略する。
【0020】
注入ヘッド110の、シリンジ200C、200Pをヘッド本体113に保持するための機構、およびピストン駆動機構130については、この種の注入装置に一般に用いられる公知の機構を採用することができる。
【0021】
図3に、図1に示したMRIシステムの機能ブロック図を示す。
【0022】
図3に示すように、薬液注入装置100の注入制御ユニット101は、制御部141、入力デバイス142、表示デバイス143、注入条件演算部146、およびMRI装置300との間のインターフェース(I/F)147を有する。
【0023】
入力デバイス142は、前述したメイン操作パネルおよびタッチパネルに相当し、薬液注入装置100の様々な設定および薬液注入条件決定のためのデータの入力を受け付ける。表示デバイス143は、前述したタッチパネルに相当し、薬液注入装置100の設定用の画面、データ入力用の画面、および動作状態を表す画面などを表示する。このように、本形態では、タッチパネルは、入力デバイス142の機能および表示デバイス143の機能を併せ持っている。注入条件演算部146は、入力デバイス142から入力さえたデータ等に基づいて薬液の注入条件を演算する。制御部141は、注入条件演算部146によって求められた注入条件に従って薬液が注入されるように注入ヘッド110のピストン駆動機構130の動作を制御したり、表示デバイス143に所定の画像を表示させたりするなど、この薬液注入装置100の動作全般を制御する。
【0024】
制御部141および注入条件演算部146は、コンピュータユニットで構成することができる。コンピュータユニットは、CPU、ROMおよびRAMなどを含んでおり、例えばRAMに実装されたコンピュータプログラムに従ってCPUが各種処理を実行することによって、制御部141および注入条件演算部146の機能を果たす。
【0025】
一方、MRI装置300は、前述したように、撮像ユニット301と撮像制御ユニット302とを有している。
【0026】
撮像ユニット301は、被験者が位置する撮像空間に所定の磁場を与える磁場発生器と、上記空間に高周波パルスを照射するパルス送信器330と、パルス送信器330による高周波パルスの照射により被験者から放出された核磁気共鳴信号(エコー信号)を受信する受信器340と、を有する。
【0027】
磁場発生器は、上記撮像空間に静磁場を与える静磁場発生器310と、静磁場発生器310によって与えられる静磁場に傾斜磁場を与える傾斜磁場発生器320と、を有する。静磁場発生器310としては、永久磁石や超伝導磁石などを用いることができる。静磁場発生器310が発生する磁場強度は、臨床で使用される通常のMRI装置における磁場強度と同様でよく、例えば、0.2〜3.0T(テスラ)程度とすることができる。傾斜磁場発生器320は、例えば、電力が供給されることで傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイルとすることができる。
【0028】
撮像制御ユニット302は、制御部350、血流情報演算部360、画像データ生成部370、入力デバイス380、表示デバイス390、および薬液注入装置100との間のインターフェース(I/F)400を有している。
【0029】
血流情報演算部360は、受信器340で受信した核磁気共鳴信号に基づいて、被験者の高周波パルスが照射された部位での、血流量および血管から周辺組織への血液の漏れといった血流情報を演算する。画像データ生成部370は、受信器340で受信した核磁気共鳴信号および血流情報演算部360で得られた血流情報データに基づいて画像データを再構成する。入力デバイス380は、MRI装置300の様々な設定および撮像条件に関するデータ等の入力を受け付ける。表示デバイス390は、MRI装置300の設定用の画面、撮像に関する種々の情報、および画像データ生成部370で再構成された画像データなどを表示する。制御部350は、入力デバイス380から入力されたデータに基づく静磁場発生器310、傾斜磁場発生器320およびパルス送信器330の動作の制御、画像データで再構成された画像データに基づく表示デバイス390の表示制御など、MRI装置300の動作全般を制御する。
【0030】
血流情報演算部360、画像データ生成部370および制御部350は、コンピュータユニットで構成することができる。コンピュータユニットは、CPU、ROMおよびRAMなどを含んでおり、例えばRAMに実装されたコンピュータプログラムに従ってCPUが各種処理を実行することにより、血流情報演算部360、画像データ生成部370および制御部350の機能を果たす。
【0031】
本発明では、MRI装置300は、1回の励起でダブルエコー(第1エコーおよび第2エコー)を収集するGRE(Gradient Echo)シーケンスであるダブルエコーSPGR(Spoiled
GRASS)パルスシーケンス法による撮像動作を、造影剤の注入前および注入後に実行する。血流情報演算部360は、造影剤の注入前および注入後における第1エコーおよび第2エコーから取得された信号に基づいて、血流情報として、血管内腔の血液量(BV)および血管からの血液の漏出量(LV)を算出する。
【0032】
以下に、血流情報演算部360による血流情報の算出について、脳腫瘍を診断する場合を例に挙げて説明する。
【0033】
SPGRパルスシーケンス法に基づいたスキャンパラメータと信号強度Sとの間には以下の関係式が成り立つことが知られている。
【0034】
【数1】

式(1)において、
k=スケーリングファクタ
p=プロトン密度
TR=繰り返し時間
TE=エコー時間
T1=組織のT1値(縦緩和時間)
T2*=組織のT2*値(見かけの横緩和時間)
α=フリップ角
を意味する。
【0035】
1回のエコー(シングルエコー)を用いて、造影剤の注入前および注入後にMRI(あるいはエコー信号)を取得した場合を考える。造影剤の注入前(T=0)の組織のT1値をT1(0)とし、造影剤の注入開始から時間t(実際の単位としてはmsec)経過後の組織のT1値をT1(t)とすると、組織のT2*値も、造影剤の注入前と注入後で、T2*(0)からT2*(t)へ変化する。一方、式(1)において、TR、TEおよびαは、MRI装置300で設定される固定の値であるので造影剤の注入前後では変化しない。また、kおよびpは、組織特有の値であり、やはりこれらも造影剤の注入前後で変化しない。
【0036】
よって、造影剤の注入によって信号強度SがS(0)からS(t)へ変化したとすると、この信号強度S変化は、T1及びT2*によるものであるといえる。しかし、T1血管内空間、BBB透過性および血管外空間の情報を反映しており、真の腫瘍の血液量を求めるためには血管内のみの情報が得られるようにする必要がある。
【0037】
シングルエコー(つまり、繰り返し時間TRのエコー信号の取得回数が1回)の場合、式(1)より、S(0)及びS(t) は、
【0038】
【数2】

と表される。式(2)および(3)から、造影剤の注入前後でのエコー信号強度の変化率S(t)/S(0) が計算できる。
【0039】
いま、以下の式(4)〜(6)を考え、
【0040】
【数3】

これら式(4)〜(6)を、式(2)および(3)から得られるエコー信号強度の変化率 S(T)/S(0) に代入すると、
【0041】
【数4】

となる。
【0042】
横緩和速度 R2*=1/T2* であるので、これを式(7)に代入し、得られた式を変形すると、
【0043】
【数5】

となる。
【0044】
造影剤の注入開始から時間t経過後の、造影剤の注入前後でのR2*の変化は、
ΔR2*(t) = R2*(t)−R2*(0)
で与えられるので、これを式(8)に代入することにより、
【0045】
【数6】

が得られる。
【0046】
ここで、注入された造影剤が血管外へ漏出しなかったとする。組織の縦緩和時間(T1)は、血管の外に存在する第3の空間あるいは間質等に造影剤が漏出してはじめて変化が生じると考えられている。従って、造影剤が血管外へ漏出しなければT1(t)には変化が見られないはずであり、T1(t)=T1(0)である。この場合、式(5)および(6)よりB=C=1であるので、式(9)は右辺の第2項および第3項がゼロとなり、よって式(9)は、
【0047】
【数7】

となる。この式(10)は、ΔR2*情報が、造影剤の注入前後でのエコー信号強度の変化率S(t)/S(0) のみで決まることを意味する。
【0048】
また、式(10)より、エコー信号強度の変化率は、
【0049】
【数8】

と表すことができる。エコー時間TEが一定であることを考慮すれば、式(11)より、エコー信号強度の変化率S(t)/S(0)は、ΔR2*(t) のみに依存することがわかる。この場合、造影剤は血管外へ漏出していないので、エコー信号強度S(t)に変化を与える物理的な要因、あるいは造影効果を与える要因があるとすれば、それは血管内の造影剤しかないと考えることができる。つまり、ΔR2*(t) は、血管内の造影剤が関与したパラメータであるといえる。
【0050】
また、S(0) も定数値であることを考慮すれば、ΔR2*(t) が、(血管内の造影剤の広がる空間の大きさに密接に関与する)血管内の磁化率、すなわち血管内空間に関与する情報を与えているということができる。
【0051】
次に、造影剤の一部が血管外に漏出する場合について考える。
【0052】
式(9)を、
【0053】
【数9】

と変形する。ΔR2*(t) は、上述したとおり血管内空間の情報を扱っているといえるので、式(12)の右辺第1項は血管内空間に関する情報を扱っていると考えられる。従って、残りの第2項および第3項が全体として、BBBおよび血管外空間の両方に関する情報、すなわち血管外への漏出に関する情報を扱っていると考えられる。
【0054】
ここで、第1エコーのように、エコー時間が極めて短い場合のエコー信号強度S (TE1)考える。
【0055】
この場合、TE→0とみなすと、式(12)は、
【0056】
【数10】

となる。式(13)は、ΔR2*(t) の項が存在しないので、第1エコーから得られるエコー信号の変化率は S(t)/S(0) は、血管内空間よりも、主にBBBおよび血管外空間に関する情報、すなわち血管外への漏出に関する情報を反映していることが分かる。
【0057】
次に、第1エコー(エコー時間TE=5msec)によるエコー信号強度S(TE1)と、第2エコー(エコー時間TE=22msec)によるエコー信号強度S(TE2)とを考える。
【0058】
まず、造影剤の注入前後でのエコー信号強度 S (TE1) および S (TE2) からΔR2*(t) を求めることについて検討する。造影剤の注入前(t=0msec)に、第1エコー時間 TE1 でのベースライン信号強度S0(TE1)および第2エコー時間 TE2 でのベースライン信号強度S0(TE2)を取得したとする。S0(TE1) および S0(TE2) は、式(1)より、
【0059】
【数11】

で表すことができる。
【0060】
次に、造影剤の注入開始から時間 t(msec) 経過後に、第1エコー時間 TE1 での信号強度 St(TE1) および第2エコー時間 TE2 での信号強度 St(TE2) を取得したとする。 St(TE1) および St(TE2) は、式(1)より、
【0061】
【数12】

で表すことができる。
【0062】
ここで、以下の信号比rを考える。
【0063】
【数13】

式(14)〜(17)を式(18)に代入して簡単にまとめると、
【0064】
【数14】

となる。
1/T2*(t)−1/T2*(0) =Δ1/T2*(t) =ΔR2*(t)、
ΔR2*(t) = R2*(t)−R2*(0)、
であるので、式(19)は、
【0065】
【数15】

となる。式(20)より、信号比rは、T1 に関する情報を全く含まず、また、 (TE2-TE1)が固定値であることを考慮すれば、R2*(0) とR2*(t) のみに依存していることがわかる。
【0066】
式(20)において、両辺の対数をとると、
【0067】
【数16】

となる。信号比rは式(18)で定義されることから、これを式(21)に代入すると、
【0068】
【数17】

となる。
【0069】
式(22)より、造影剤注入前に2つのエコー時間TE1およびTE2からそれぞれ取得できる信号強度 S0(TE1) および S0(TE2)、ならびに造影剤注入後に2つのエコー時間 TE1 および TE2 からそれぞれ取得できる信号強度
St(TE1) および St(TE2) から、造影剤が血管外へ漏出した場合の ΔR2*(t) を求めることができることが分かる。
【0070】
前述したとおり、ΔR2*(t) は血管内空間の情報を反映しているので、ΔR2*(t) を積分することにより、血管内空間の容量を求めることができる。血管内空間の容量は、理論上は、そこを流れる血液量と同じであると考えてよい。よって、血液量をBV (Blood Volume)とすると、
【0071】
【数18】

で表される。なお、脳の血液量について考える場合は、BVの代わりに脳血液量CBV(Cerebral Blood Volume)を用いる。
【0072】
式(23)において、積分範囲は理想的には0(ゼロ)→無限大であるが、実際は撮影時間tsである。また、式(23)は血管内空間の情報のみを反映していることから、ダイナミックT1効果(血管外への漏出)が修正(correct)されていると物理的解釈できる。式(22)の ΔR2*(t) を、ΔR2*(t)(T1c) と表すこととすれば、式(23)は、
【0073】
【数19】

と表すことができる。
【0074】
一方、第2エコー時間 TE2 のみから取得されるエコー信号強度 S(TE2) は、血管内空間、BBB透過性および血管外空間(漏出)の全ての要素を含んでいる。この場合のΔR2*(t) を、ダイナミックT1効果(血管外への漏出)が修正されていない(uncorrect)と物理的解釈できることから、ΔR2*(t)(T1u) と表すこととする。第1エコー時間 TE1 で取得されるエコー信号強度 S(TE1) からは、主にBBB透過性および血管外空間(漏出)の情報が得られる。この場合の ΔR2*(t) を、ΔR2*(t)(1st echo) と表すこととする。
【0075】
ここで、式(12)を変形して
【0076】
【数20】

と表すと、ΔR2*(t)(T1u) およびΔR2*(t)(1st echo) は、式(25)においてD=S(t)/S(0)と置き換えて、
【0077】
【数21】

と表すことができる。
【0078】
なお、ΔR2*(t)(1st echo) は、主にBBB透過性および血管外空間の情報が得られるというだけであり、血管内空間の情報が全くないわけではないので、ΔR2*(t)(T1c) は、単純にΔR2*(t)(T1u) からΔR2*(t)(1st echo) を減算することによって求められるわけではないことに注意すべきである。
【0079】
「血管内から血管外へ造影剤が漏出する」ということは、「血管内の造影剤濃度および造影剤量が減少する」ことを意味する。このことをMRの信号強度で表現すると、造影剤が血管外へ漏出して血管内の造影剤濃度が薄まった場合のΔR2*(t)(T1u) は、造影剤が血管外へ漏出していない場合のΔR2*(t)(T1c) に比べて低下する。つまり、両者の間に
【0080】
【数22】

の関係が成り立つ。
【0081】
低下した分は、血管外へ漏出した造影剤量の情報を反映していると考えられる。よって、単位時間当りに漏出した量をLeak(t) とすれば、Leak(t)は、
【0082】
【数23】

で求めることができる。式(29)において、ΔR2*(t)(T1c) およびΔR2*(t)(T1u) は、それぞれ式(22)および式(26)で与えられるとおりである。また、式(26)においては、前述したように D=S(t)/S(0) であり、BおよびCはそれぞれ式(5)および(6)で置き換えたとおりであるので、これらを式(29)に代入すれば、Leak(t) は、
【0083】
【数24】

で表すこともできる。
【0084】
また、漏出した総量を LV とすれば、LVは、Leak(t) を時間で積分すればよいので、
【0085】
【数25】

で求めることができる。
【0086】
上記では造影剤の漏出を考えたが、造影剤は血液とともに移動し、血液の流れを反映しているので、上記の造影剤についての検討はそのまま血液に当てはめることができ、よって、式(29)〜(31)は、血液についての式として考えてよい。
【0087】
以上、高周波パルスの照射により放出されるエコー信号に基づく血流情報の算出について説明した。血流情報演算部360は、式(24)および式(31)を用いて、それぞれ血管内の血液量BVおよび血管外への血液の漏出量LVを算出する。
【0088】
血流情報演算部360は、全ての画素に対してこの処理を実行し、全ての画素について得られた血管内の血液量BVおよび血管からの血液の漏出量LVのデータが画像データ生成部370に送られる。
【0089】
次に、上述したMRIシステムの動作について説明する。
【0090】
MRI装置300は、薬液注入装置100による造影剤の注入に先立って、ダブルエコーSPGRパルスシーケンス法に従って撮像動作を実行する。この撮像動作では、パルス送信器330によって高周波パルスが照射され、受信器340によって、第1エコーおよび第2エコーに基づくエコー信号が取得される。撮像条件は、例えば、第1エコー時間 TE1 が5msec、第2エコー時間 TE2 が22msec、繰り返し時間が3000msecとすることができる。
【0091】
次いで、薬液注入装置100による被験者への造影剤の注入が実行される。造影剤の注入に際しては、予め、シリンジ200C、200Pの先端に延長チューブ延長チューブ230が接続され、かつ、延長チューブ230の先端の注入針が被験者に穿刺されている。
【0092】
薬液注入装置100による造影剤の注入条件は、通常のMRI検査と同様であってよく、例えば、造影剤の注入量を被験者の体重1kg当り0.2ml、注入速度を1〜2ml/sec とすることができる。造影剤の注入速度は、一定であってもよいし、経時的に変化させてもよい。さらに、造影剤のみを注入してもよいし、造影剤の注入後に生理食塩水を注入して造影剤を生理食塩水で後押ししてもよいし、造影剤を生理食塩水で希釈して注入してもよい。
【0093】
注入量および注入速度は、薬液注入装置100に予めプログラムされていてもよいし、オペレータがその都度設定してもよい。また、IDタグ付きのシリンジが使用される場合は、造影剤情報の一部として注入条件がIDタグに付与されており、このIDタグを、薬液注入装置100の附属装置であることができるタグリーダ(不図示)で読み出すことによって注入条件が薬液注入装置100に設定されるようにすることもできる。
【0094】
造影剤の注入開始後、所定時間が経過したら、再度、MRI装置300による、ダブルエコーSPGRパルスシーケンス法に従った撮像動作が実行される。撮像条件は、造影剤の注入前の撮像条件と同じであることができ、この撮像によって、再度、第1エコーおよび第2エコーに基づくエコー信号が取得される。
【0095】
ここまでの造影剤注入前の撮像動作、その後の造影剤注入動作、および造影剤注入開始から所定時間経過後の再度の撮像動作といった一連の動作は、一人または複数のオペレータがMRI装置300および薬液注入装置100を個々に操作することによって実行することができるが、MRI装置300および薬液注入装置100が相互に信号の送受信可能に接続されていれば、自動的に行なうこともできる。
【0096】
造影剤の注入前および注入後の撮像動作によって取得されたエコー信号は、受信器340から血流情報演算部360に送られる。血流情報演算部360は、送られたエコー信号および撮像条件の一部などを用い、前述した数式に基づいて、血管内の血液量および血管外への血液の漏出量のデータを、撮像した画素ごとに算出する。
【0097】
血流情報演算部360で算出された全てのデータは、画像データ生成部370に送られる。画像データ生成部370は、血流情報演算部360から送られたデータを再構成して血液量マップおよび漏出量マップを作成し、画像データ生成部370で得られた画像が表示デバイス390に表示される。
【0098】
図4に、PET装置で計測したBV値をゴールド・スタンダード(全てのなかで基準となる正確な値)と仮定して、本発明法を用いてMR装置で計測したBV値と、従来の灌流検査法を用いてMR装置で計測したBV値とを比較したグラフを示す。
【0099】
図4より、従来の灌流検査法より(本発明による)double echo法を用いた方が、MRI装置で求めたCBVはPET装置で求めたCBVにより近づくことがいえる。
【0100】
以上のように、本実施形態によれば、MRI装置を使ってもPET検査で得られる画像との相関性が極めて高いCBVマップ画像およびLVマップ画像を得ることが可能となる。その結果、例えば腫瘍患者に対する外科的処置の前に、CBVマップおよびLVマップを作成し、腫瘍の血液含有量および腫瘍の周辺部位への血液の漏出を予測することができる。術者は、腫瘍の血液含有量および周辺部位への血液漏出量の予測結果に基づいて、リスクを最小限とするような適切な処置を事前に検討ことができる。また、放射線治療が予定されている場合は、治療予定部位の血液量が多いと放射線治療の成功率が低下し代替医療をしないといけないケースもあることから、これらのマップにより、放射線治療の効果を処置前に把握することもできる。そして、PET検査によらずにこれらのマップを作成できるということは、被験者の被曝量を管理する必要がなくなるため、被験者の身体的負担を最小限にできるという点で、非常に大きなメリットである。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更が可能である。
【0102】
例えば、上述した実施形態では脳腫瘍の診断を例に挙げて説明したが、本発明は、脳に限らず全身のあらゆる部位を診断の対象とすることができる。また、診断の対象とする病変の種類についても、血流に異常が生じ得る病変であれば、腫瘍に限らず、感染症、膿瘍および血腫など種々の病変も本発明を用いて診断することができる。
【0103】
また、上述したMRI装置300の動作はコンピュータプログラムに従って制御することができ、そのようなMRI装置300のためのコンピュータプログラムは、パルス送信器330に、造影剤の注入前および注入後に高周波パルスを照射させることと、受信器340に、造影剤の注入前および注入後のそれぞれについて第1エコー信号および第2エコー信号を取得させることと、血流情報演算部360に、造影剤注入前および注入後の第1エコー信号および第2エコー信号の信号強度から求められた、造影剤注入後の経過時間tにおける横緩和速度の変化ΔR2*(t)に基づいて、血流情報として血管内の血液量および血管外への漏出量を算出させることと、を含む。
【0104】
MRI装置300は、ROMあるいはHDDなどの情報記憶媒体を有し、コンピュータプログラムはそれらの情報記憶媒体に格納されることができる。また、コンピュータプログラムは、CD−ROM、DVDあるいはUSBメモリなどの情報記憶媒体に格納された形態で提供され、MRI装置300が有する情報記憶媒体に更新可能にインストールすることもできる。
【符号の説明】
【0105】
100 薬液注入装置
101 注入制御ユニット
110 注入ヘッド
130 ピストン駆動機構
141 制御部
142 入力デバイス
143 表示デバイス
146 注入条件演算部
147 インターフェース
200C、200P シリンジ
300 MRI装置
301 撮像ユニット
302 撮像制御ユニット
310 静磁場発生器
330 パルス送信器
340 受信器
350 制御部
360 血流情報演算部
370 画像データ生成部
380 入力デバイス
390 表示デバイス
400 インターフェース
1000 MRIシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が位置する撮像空間に磁場を与える磁場発生器と、
前記撮像空間に高周波パルスを照射するパルス送信器と、
前記パルス送信器による高周波パルスの照射により前記被験者から得られたエコー信号を受信する受信器と、
前記エコー信号を用いて前記被験者の血流情報を演算する血流情報演算部と、
前記血流情報に基づいて画像を再構成する画像データ生成部と、
前記画像データ生成部で再構成された前記画像を表示する表示デバイスと、
を有し、
前記パルス送信器は、造影剤の注入前および注入後に高周波パルスを照射し、前記受信器は、造影剤の注入前および注入後のそれぞれについて第1エコー信号および第2エコー信号を取得し、前記血流情報演算部は、造影剤注入前および注入後の第1エコー信号および第2エコー信号の信号強度から求められた、造影剤注入後の経過時間tにおける横緩和速度の変化ΔR2*(t)に基づいて、前記血流情報として血管内の血液量および血管外への漏出量を算出するように構成されたMRI装置。
【請求項2】
前記血流情報演算部は、前記第1エコー信号のエコー時間をTE1、前記第2エコー信号のエコー時間をTE2、造影剤注入前における前記エコー時間TE1のベースライン信号強度をS0(TE1)、造影剤注入前における前記エコー時間TE2のベースライン信号強度をS0(TE2)、造影剤注入後の経過時間tにおけるの前記エコー時間TE1の信号強度をSt(TE1)、造影剤注入後の経過時間tにおける前記エコー時間TE2の信号強度をSt(TE2)とするとき、血管内の情報のみが反映された前記横緩和速度の変化ΔR2*(t)であるΔR2*(t)(T1c)を、以下の計算式
【数1】

によって求める請求項1に記載のMRI装置。
【請求項3】
前記血流情報演算部は、前記計算式で求められた横緩和速度の変化ΔR2*(t)(T1c)を積分することによって、前記血管内の血液量を算出する請求項2に記載のMRI装置。
【請求項4】
前記血流情報演算部は、第2エコーのみから取得されるエコー信号に基づく前記横緩和速度の変化ΔR2*(t)をΔR2*(t)(T1u)とするとき、前記血管外への漏出量LVを、以下の計算式
【数2】

によって算出する請求項3に記載のMRI装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のMRI装置と、
前記MRI装置により被験者からエコー信号を得るために前記被験者に造影剤を注入する薬液注入装置と、
を有するMRIシステム。
【請求項6】
被験者が位置する撮像空間に磁場を与える磁場発生器と、前記撮像空間に高周波パルスを照射するパルス送信器と、前記パルス送信器による高周波パルスの照射により前記被験者から得られたエコー信号を受信する受信器と、前記エコー信号を用いて前記被験者の血流情報を演算する血流情報算出部と、前記血流情報に基づいて画像を再構成する画像データ生成部と、前記画像データ生成部で再構成された前記画像を表示する表示デバイスと、を有するMRI装置の作動方法であって、
前記パルス送信器が、造影剤の注入前および注入後に高周波パルスを照射することと、
前記受信器が、造影剤の注入前および注入後のそれぞれについて第1エコー信号および第2エコー信号を取得することと、
前記血流情報演算部が、造影剤注入前および注入後の第1エコー信号および第2エコー信号の信号強度から求められた、造影剤注入後の経過時間tにおける横緩和速度の変化ΔR2*(t)に基づいて、前記血流情報として血管内の血液量および血管外への漏出量を算出することと、
を含む、MRI装置の作動方法。
【請求項7】
被験者が位置する撮像空間に磁場を与える磁場発生器と、前記撮像空間に高周波パルスを照射するパルス送信器と、前記パルス送信器による高周波パルスの照射により前記被験者から得られたエコー信号を受信する受信器と、前記エコー信号を用いて前記被験者の血流情報を演算する血流情報算出部と、前記血流情報に基づいて画像を再構成する画像データ生成部と、前記画像データ生成部で再構成された前記画像を表示する表示デバイスと、を有するMRI装置のためのコンピュータプログラムであって、
前記パルス送信器に、造影剤の注入前および注入後に高周波パルスを照射させることと、
前記受信器に、造影剤の注入前および注入後のそれぞれについて第1エコー信号および第2エコー信号を取得させることと、
前記血流情報演算部に、造影剤注入前および注入後の第1エコー信号および第2エコー信号の信号強度から求められた、造影剤注入後の経過時間tにおける横緩和速度の変化ΔR2*(t)に基づいて、前記血流情報として血管内の血液量および血管外への漏出量を算出させることと、
を含む、MRI装置のためのコンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のコンピュータプログラムが格納されている情報記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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