説明

MnZnフェライト、及びその製造方法

【課題】 高い初透磁率と高いインピーダンスを有するMnZnフェライト、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のMnZnフェライトは、主成分が52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnOからなり、前記主成分100重量部に対して、副成分として0.002〜0.025重量部のSiO2、0.01〜0.07重量部のCaO、0.01〜0.08重量部のBi23、0.01〜0.5重量部のSb25、0.02〜0.3重量部のMoO3を含有し、1400℃以上の保持温度で焼成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MnZnフェライトに関し、特にACラインフィルター用フェライトコアとして好適な高透磁率のMnZnフェライトに関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト焼結体は金属系の圧粉体に比べて高透磁率を有するため、電源回路上のトランスやインダクタ等に多く用いられている。特にMn−Zn系フェライトはNi−Zn系フェライトに比べて、大きな初透磁率の値を有することから、低周波数帯域におけるトランスやACラインフィルターとして用いられている。Mn−Zn系フェライト材料開発は、トランス用途においては高透磁率化及び低損失化、ACラインフィルター用途においては高透磁率化が行われてきた。
【0003】
近年、電子機器の小型化、高性能化の技術革新が著しく、それに伴い使用されるMn−Zn系フェライトの高性能化、例えば、高透磁率化及び低損失化が求められている。なかでも、ACラインフィルター等のノイズフィルター用のフェライトコアは、高い初透磁率と高いインピーダンスが要求されている。
【0004】
初透磁率は磁壁移動によって磁化されるものとされ、高い初透磁率を得るためには、平均結晶粒径を大きくする、結晶磁気異方性を小さくする必要がある。平均結晶粒径を大きくするためには、粒成長を促進することを目的として、Bi23等の種々の粒成長添加物を適量添加する手法が用いられている(例えば、特許文献1、2)。また、結晶磁気異方性を低減させることを目的としてSb25を適量添加する手法が用いられている(例えば、特許文献3)。
【0005】
特許文献1では、MnO、ZnO、Fe23からなる主成分に対して、添加物として、SiO2、CaO、MoO3、Bi23を添加した高透磁率のMnZnフェライトが提案されている。特許文献2では、52.0〜53.0mol%のFeO3、19.0〜23.5mol%のZnO、残部がMnOからなる主成分に対して、副成分として、SiO2、CaO、Bi23を添加し、更に還元剤を添加した高透磁率酸化物磁性材料が提案されている。これらの文献では、Bi23は、結晶粒径を大きくする目的で添加されている。また、特許文献3では、52.0〜53.0mol%のFeO3、19.0〜23.5mol%のZnO、残部がMnOからなる主成分に対して、副成分として、SiO2、CaO、Bi23、Sb25を添加することで、結晶磁気異方性を低減し、高い初透磁率を得る高透磁率酸化物磁性材料が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2008−094663号公報
【特許文献2】特開2002−093614号公報
【特許文献3】特開2001−057308号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高い初透磁率を得るために、種々の粒成長添加物を用いる方法が有効であることを先に述べた。しかしながら、粒成長添加物は異常粒成長促進因子でもあり、ある添加量を超えると異常粒が発生しやすくなる。異常粒は、渦電流損失を増加させ著しく比抵抗を低減させ、インピーダンスの低下につながる。また、結晶磁気異方性を低減するとされるSb25はスピネル中に固溶し異常粒成長の要因となるため、更なる高透磁率化は困難である。
【0008】
より高い初透磁率と高いインピーダンスを得るためには、異常粒成長を発生させることなく結晶粒径を均一に大きくしながら、結晶磁気異方性を低減させ、更に材料の比抵抗を高くすることが必要である。
【0009】
高比抵抗化のために、一般的には粒界に析出するSiO2やCaO等の添加物を添加することにより、粒界を高比抵抗化しているが、これらの添加物は同時に結晶粒径を抑制する効果を持つことから、比抵抗の向上は見込めるものの、初透磁率の低減を招く。また、焼成工程において保持温度を高くした方が結晶粒径を大きくできるが、異常粒成長の抑制のため、所望の温度よりも低い温度で焼成を行っている。
【0010】
以上述べたように、高い初透磁率と高いインピーダンスを得るために様々な手法が用いられているが、一般的に、高い初透磁率と高いインピーダンスを同時に実現することは困難であるという問題がある。
【0011】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、高い初透磁率と高いインピーダンスを有するMnZnフェライト、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
種々の検討の結果、主成分が52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnOからなり、副成分として0.002〜0.025重量部のSiO2、0.01〜0.07重量部のCaO、0.01〜0.08重量部のBi23、0.01〜0.5重量部のSb25、0.02〜0.3重量部のMoO3を添加し、焼成工程における保持温度を1400℃以上とすることにより、高い初透磁率と高いインピーダンスを有するMnZnフェライト、及びその製造方法が得られる。
【0013】
即ち、本発明は、主成分が52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnOからなり、前記主成分100重量部に対して、副成分として0.002〜0.025重量部のSiO2、0.01〜0.07重量部のCaO、0.01〜0.08重量部のBi23、0.01〜0.5重量部のSb25、0.02〜0.3重量部のMoO3を含有していることを特徴とするMnZnフェライトである。
【0014】
また、本発明は、主成分が52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnOからなり、前記主成分100重量部に対して、副成分として0.002〜0.025重量部のSiO2、0.01〜0.07重量部のCaO、0.01〜0.08重量部のBi23、0.01〜0.5重量部のSb25、0.02〜0.3重量部のMoO3を含有し、1400℃以上の保持温度で焼成され、1kHzでの初透磁率が12000より大きく、インピーダンスの最大値が2600より大きいことを特徴とするMnZnフェライトである。
【0015】
また、本発明は、主成分が52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnOからなり、前記主成分100重量部に対して、副成分として0.002〜0.025重量部のSiO2、0.01〜0.07重量部のCaO、0.01〜0.08重量部のBi23、0.01〜0.5重量部のSb25、0.02〜0.3重量部のMoO3を添加し、成形後、1400℃以上の保持温度で焼成することを特徴とするMnZnフェライトの製造方法である。なお、以下、上記の主成分を100重量部としたときの副成分としての添加物の「重量部」を、単に「wt%」で表現することとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、MoO3の添加により結晶粒径を均一にする事が可能となるため、Bi25の異常粒成長促進の添加物を添加しても、異常粒を成長させることなく、更に、Sb25添加により、結晶磁気異方性を低減でき、1400℃以上の高温焼成が可能となる。したがって、結晶粒径の促進と結晶磁気異方性の低減、且つ高比抵抗化を実現した、高い初透磁率と高いインピーダンスを有するMnZnフェライト、及びその製造方法が得られる。
【0017】
前述した本発明品は、高い初透磁率と高いインピーダンスを有するMnZnフェライトであるため、ACラインフィルター用のフェライトコアとして用いた場合に、小型で、高性能のACラインフィルターを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
種々の検討を行った結果、主成分が52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnOからなり、副成分として0.002〜0.025wt%のSiO2、0.01〜0.07wt%のCaO、0.01〜0.08wt%のBi23、0.01〜0.5wt%のSb25、0.02〜0.3wt%のMoO3を含有したMnZnフェライトの焼成工程における保持温度を1400℃以上とすることにより、高い初透磁率と高いインピーダンスを同時に実現したMnZnフェライトが得られることを見出した。
【0019】
一般に、高透磁率を有するMnZnフェライトの主成分の組成範囲は、52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnO付近の組成が高透磁率酸化物磁性材料として製造されているため、本発明においても、主成分は前述の組成範囲とするのが望ましい。
【0020】
副成分として、SiO2を0.002〜0.025wt%としたのは、SiO2を0.025wt%を超えて添加すると、結晶粒成長を阻害し、初透磁率を著しく低下させてしまうからである。また、SiO2の下限値を0.002wt%以上としたのは、SiO2が0.002wt%未満であると、粒界層の形成が不十分となり比抵抗向上の効果が認められなかったためである。
【0021】
CaOを0.01〜0.07wt%としたのは、0.01wt%未満であると、粒界層形成が不十分であることから比抵抗が低くなり、また0.07wt%超であると過剰のCaOが結晶粒成長を阻害し、十分な初透磁率を得られないためである。
【0022】
Bi23を0.01〜0.08wt%としたのは、0.01wt%未満であると、結晶粒成長効果が得られないため、初透磁率の低減を招くためである。また、0.08wt%超であると、過剰添加により異常粒成長が顕著となり、初透磁率の低減、比抵抗の低減を招くためである。
【0023】
Sb25を0.01〜0.5wt%としたのは、0.01wt%未満であると、結晶磁気異方性の低減が十分ではなく、初透磁率の向上効果が認められなかったためであり、0.5wt%超であると、過剰添加により異常粒成長が顕著となり、初透磁率の低減、比抵抗の低減を招くためである。
【0024】
MoO3を0.02〜0.3wt%としたのは、0.02wt%未満であると、均一に粒成長させる効果が認められず、十分な結晶粒径が得られなくなり、異常粒成長が顕著となり、初透磁率の低減、比抵抗の低減を招くためである。また、0.3wt%超であると、過剰添加により、Bi23がもたらす結晶粒成長効果が阻害され、初透磁率の低減を招くためである。
【0025】
MnZnフェライトの焼成工程における保持温度を1400℃以上したのは、1400℃未満であると、結晶粒径が小さく初透磁率の低減を招くためである。また、保持温度は1470℃以下とするのが望ましい。1470℃を超えた保持温度で焼成を行うと、異常粒成長が顕著となり、比抵抗が低減し、高いインピーダンスが得られないためである。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
発明品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、25.0mol%のMnOからなる主成分に、これらの主成分に対して、外枠で、副成分として0.001〜0.03wt%のSiO2、0.005wt%〜0.08wt%のCaO、0.005wt%〜0.09wt%のBi23、0.005wt%〜0.6wt%のSb25、0.01wt%〜0.35wt%のMoO3を添加し、アトライターを用いて2時間混合した。
【0027】
混合後、スプレードライヤーで造粒し、850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターにて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0028】
上述したプレス体を、同主成分組成からなる粉末に埋め込み、酸素分圧をコントロールした雰囲気中で、1450℃の保持温度で4時間保持して焼成を行った。
【0029】
従来品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、25.0mol%のMnOからなる主成分に、これらの主成分に対して、外枠で、副成分として0.015wt%のSiO2、0.02wt%のCaO、0.04wt%のBi23、0.2wt%のSb25添加しアトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターにて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0030】
上述したプレス体を、同主成分組成からなる粉末に埋め込み、酸素分圧をコントロールした雰囲気中で、1360℃の保持温度で4時間保持して焼成を行った。
【0031】
磁気特性は、得られたMnZnフェライトの焼結体に10ターンの巻線を施し、室温での初透磁率、及びインピーダンスの最大値を測定した。比抵抗の測定は試料上下面にGa−Inペーストを塗布し測定した。
【0032】
表1に、従来品と、SiO2、CaO、Bi23、Sb25、MoO3の添加量を変えた発明品の比抵抗、1kHzの初透磁率(表中ではμで示す)及びインピーダンスの最大値(表中ではZmaxで示す)を示す。なお、表1において、副成分の添加量が、本発明の範囲内のものを発明品とし、範囲外のものを比較品とした。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、発明品は、1kHzでの初透磁率が12000より大きく、また、インピーダンスの最大値が2600より大きいことが確認され、従来品よりも高い初透磁率と高いインピーダンスを有していることがわかる。
【0035】
(実施例2)
発明品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、25.0mol%のMnOからなる主成分に、これらの主成分に対して、外枠で、副成分として0.01wt%のSiO2、0.05wt%のCaO、0.04wt%のBi23、0.3wt%のSb25、0.15wt%のMoO3添加し、アトライターを用いて2時間混合した。
【0036】
混合後、スプレードライヤーで造粒し、850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターにて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0037】
上述したプレス体を、同主成分組成からなる粉末に埋め込み、酸素分圧をコントロールした雰囲気中で、1380〜1470℃の保持温度で4時間保持して焼成を行った。
【0038】
従来品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、25.0mol%のMnOからなる主成分に、これらの主成分に対して、外枠で、副成分として0.015wt%のSiO2、0.02wt%のCaO、0.04wt%のBi23、0.2wt%のSb25添加しアトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターにて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0039】
上述したプレス体を、同主成分組成からなる粉末に埋め込み、酸素分圧をコントロールした雰囲気中で、1360℃の保持温度で4時間保持して焼成を行った。
【0040】
磁気特性は、得られたMnZnフェライトの焼結体に10ターンの巻線を施し、室温での初透磁率、及びインピーダンスの最大値を測定した。比抵抗の測定は試料上下面にGa−Inペーストを塗布し測定した。
【0041】
表2に、従来品と、保持温度を変えた発明品の比抵抗、1kHzの初透磁率(表中ではμで示す)及びインピーダンスの最大値(表中ではZmaxで示す)を示す。なお、表2において、焼成工程の保持温度が、本発明の範囲内のものを発明品とし、範囲外のものを比較品とした。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示すように、発明品は、1kHzでの初透磁率が12000より大きく、また、インピーダンスの最大値が2600より大きいことが確認され、従来品よりも高い初透磁率と高いインピーダンスを有していることがわかる。
【0044】
以上説明したように、本発明のMnZnフェライトは、高い初透磁率と高いインピーダンスを有するため、ACラインフィルター用のフェライトコアとして用いた場合に、小型で、高性能のACラインフィルターを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnOからなり、前記主成分100重量部に対して、副成分として0.002〜0.025重量部のSiO2、0.01〜0.07重量部のCaO、0.01〜0.08重量部のBi23、0.01〜0.5重量部のSb25、0.02〜0.3重量部のMoO3を含有していることを特徴とするMnZnフェライト。
【請求項2】
主成分が52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnOからなり、前記主成分100重量部に対して、副成分として0.002〜0.025重量部のSiO2、0.01〜0.07重量部のCaO、0.01〜0.08重量部のBi23、0.01〜0.5重量部のSb25、0.02〜0.3重量部のMoO3を含有し、1400℃以上の保持温度で焼成され、1kHzでの初透磁率が12000より大きく、インピーダンスの最大値が2600より大きいことを特徴とするMnZnフェライト。
【請求項3】
主成分が52.0〜53.0mol%のFe23、19.0〜23.5mol%のZnO、残部MnOからなり、前記主成分100重量部に対して、副成分として0.002〜0.025重量部のSiO2、0.01〜0.07重量部のCaO、0.01〜0.08重量部のBi23、0.01〜0.5重量部のSb25、0.02〜0.3重量部のMoO3を添加し、成形後、1400℃以上の保持温度で焼成することを特徴とするMnZnフェライトの製造方法。

【公開番号】特開2010−120808(P2010−120808A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295560(P2008−295560)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】