説明

N−アルコキシカルボニルアミノ酸の製造方法

【課題】回収工程時に新たに生じるジペプチド様の化合物を効率良く低減できる工業的に優位なN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶の製造方法及び高純度のN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶を提供すること。
【解決手段】回収工程前のN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液に塩基性化合物を加えて、該水溶液のpHよりも高く、且つpH14未満に保持してN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶を製造し、化学純度が99.8%以上であるN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−アルコキシカルボニルアミノ酸の製造方法に関するものである。アミノ酸のアミノ基を保護したN−アルコキシカルボニルアミノ酸は、抗生物質、ペプチド、ポリペプチド、たんぱく質及びアミノ酸配糖体等の化学合成において、ペプチド結合形成の際、目的化合物を選択的に得るための出発物質や中間体として用いられる。
【背景技術】
【0002】
N−アルコキシカルボニルアミノ酸は、アミノ酸及びN−アルコキシカルボニル化剤とを水性媒体中で反応(以下、N−アルコキシカルボニル化反応という。)させ、次いで、生成したN−アルコキシカルボニルアミノ酸を反応液から回収することにより製造される。N−アルコキシカルボニル化反応は、塩基性化合物の存在下で実施することも知られている(非特許文献1)。しかし、上記方法では、副反応が起こりやすくN−アルコキシカルボニルアミノ酸の反応収率が低下するという問題があった。具体的には、生成したN−アルコキシカルボニルアミノ酸がさらにN−アルコキシカルボニル化剤と反応し無水化合物を生じる。さらに、この無水化合物は、N−アルコキシカルボニルアミノ酸の回収方法として一般的に使用される酸析、溶媒抽出等の操作の過程で、アミノ酸と反応し、ジペプチド様の化合物が生成する(非特許文献2)。よって、N−アルコキシカルボニル化反応の際に、いかに上記無水化合物の生成を低減させるか、また効率よく無水化合物を除去できるかが重要な問題となる。
上記問題を解決する方法としては、例えば、N−アルコキシカルボニル化反応液のpHを14とした後、反応液中の無水化合物を酢酸エチルで抽出・除去する方法(非特許文献3)や、N−アルコキシカルボニル化反応時のpHを11〜13に保ちながら反応させることで、副反応の進行を抑制して高い反応収率でN−アルコキシカルボニルアミノ酸を合成できる方法(特許文献1)が報告されている。しかし、これら方法では、反応液からの生成N−アルコキシカルボニルアミノ酸回収工程時に新たにジペプチド様の化合物が生じるためにN−アルコキシカルボニルアミノ酸の純度が低下するという問題があった。また、非特許文献3のような溶媒洗浄操作は工程が煩雑化すると共に、pH14という強塩基性条件下でエステル系有機溶剤を用いた場合、溶剤が水和され不純物が生じるという問題点を有していた。
【特許文献1】特開2004−175703号公報
【非特許文献1】J.Pospisekら、Collect.Czech.Chem.Commun.42,1069 (1977)
【非特許文献2】Francis M.F.Chenら、Can.J.Chem.65,1244 (1987)
【非特許文献3】Byung H.Yoonら、Bull.Korean Chem.Soc.13,290 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、回収工程時に新たに生じるジペプチド様の化合物を効率良く低減できる工業的に優位なN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶の製造方法及び高純度のN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以下の通りである。
(1)回収工程前のN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液に塩基性化合物を加えて、該水溶液のpHよりも高く、且つpH14未満に保持する保持工程を含むN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶の製造方法。(2)化学純度が99.8%以上であるN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、回収工程時に新たに生じるジペプチド様の化合物を効率良く低減できる工業的に優位なN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶の製造方法及び高純度のN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る回収工程前のN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液は、アミノ酸及びN−アルコキシカルボニル化剤とを水性媒体中で反応させることにより得ることができる。回収工程前とは、N−アルコキシカルボニル化反応をさせたN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液を抽出操作、酸析あるいは溶媒留去等に供する前のことをいう。
N−アルコキシカルボニルアミノ酸は、下記一般式(I)で示される化合物である。
【0007】
【化1】

【0008】
上記一般式(I)中、R1及びR2は、同一又は異なっており、水素原子、または任意の置換基を示す。
任意の置換基としては、例えば、低級アルキル基、置換低級アルキル基、低級アルケニル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、芳香族基、置換芳香族基、複素環基、又は置換複素環基等が好ましい。
R3は、アルコキシ基であり、炭素数1〜8の直鎖又は分岐アルコキシ基、ベンジルオキシ基又はフェネチルオキシ基等が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、iso−プロポキシ基、ブトキシ基、iso−ブトキシ基、tert−ブトキシ基又はベンジルオキシ基等が特に好ましい。
【0009】
N−アルコキシカルボニル化剤としては、アミノ酸のアミノ基をN−アルコキシカルボニル化できるものであれば良い。好ましくは、クロロギ酸アルキルエステル又はジアルキルジカーボネート等である。ここで、N−アルコキシカルボニル基のアルキル基は炭素数1〜8の直鎖又は分岐アルキシ基、ベンジル基、フェネチル基等が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ベンジル基等が特に好ましい。
【0010】
N−アルコキシカルボニル化剤は、目的のN−アルコキシカルボニルアミノ酸の構造に応じて、例えばクロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸ベンジル等のクロロギ酸エステルや、ジ−tert−ブチルジカーボネート等のジアルキルジカーボネート等の中から適宜選択され、N−メトキシカルボニル−アミノ酸、N−エトキシカルボニル−アミノ酸、N−ベンジルオキシカルボニル−アミノ酸、N−tert−ブトキシカルボニルアミノ酸等が得られる。
【0011】
N−アルコキシカルボニル化反応は、水性媒体中で行う。
本発明において、水性媒体とは、水、あるいは水と水に親和性を有する有機溶媒との混合溶媒又は水と水に実質的に混和しない有機溶媒の二相系溶媒をいう。二相系溶媒を用いる場合は、その水相部分で反応を行う。
N−アルコキシカルボニル化反応は、塩基性条件下で行うことが好ましい。
水性媒体を塩基性に調整する際に用いる塩基性化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン又はピリジン等の有機塩基化合物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド又はカリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコラート化合物、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム等の無機塩基化合物等が挙げられ、これら化合物の1種又は複数種を組み合わせて用いることができる。塩基性化合物の使用形態は、塩基性化合物そのもの若しくは水溶液又は有機溶媒溶液として用いることができる。
【0012】
反応時の水性媒体のpHを7.5〜13.5の間で保つことがより好ましく、pHを10〜13の間で保つことが特に好ましい。この範囲内であると反応収率の点で好ましい。
反応液のpHを一定の範囲で保つ場合は上記塩基性化合物の1種又は複数種を組み合わせて適宜添加しても良い。
【0013】
反応時間は、0.1〜100時間が好ましい。この範囲内であると反応収率や反応温度・pH制御等操作性の点で好ましい。反応時間は、0.2〜24時間とすることがより好ましく、1〜15時間とすることが特に好ましい。反応温度は、0〜90℃が好ましい。この範囲内であると反応収率の点で好ましい。反応温度は5〜60℃とすることがより好ましく、10〜30℃とすることが特に好ましい。
【0014】
N−アルコキシカルボニル化反応は、原料であるアミノ酸の量を高速液体クロマトグラフィーにより分析し、90%以上消費された時点で反応終了とすることが好ましく、95%以上とすることがより好ましく、99%以上とすることが特に好ましい。この範囲内であると、N−アルコキシカルボニルアミノ酸の収率が向上する。
上述のようにN−アルコキシカルボニル化反応によってN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液が生成する。
【0015】
本発明は、上記のようにして得られたN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液を回収工程前にN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液のpHより高くかつ、pH14未満に保持する保持工程を有することを特徴とする。
保持工程のpHの下限は、pH11以上とすることが好ましく、pH12以上とすることがより好ましく、pH13以上とすることが特に好ましい。
この範囲内であると、N−アルコキシカルボニル化反応の際に生成したN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液中の無水化合物が速やかに分解・減少され、高純度のN−アルコキシカルボニルアミノ酸を得ることができる。
保持工程中に水溶液のpHが下がるような場合は、上述の塩基性化合物を適宜添加してpHを調整してもよい。
保持工程は、回収工程の直前であれば良く、N−アルコキシカルボニル化反応直後に行っても良く、あるいはN−アルコキシカルボニル化反応後に洗浄等の数工程を経た後に行っても良い。
保持工程の時間としては、0.1〜100時間とすることが好ましく、0.2〜24時間とすることがより好ましく、0.5〜12時間とすることが特に好ましい。
保持工程の温度としては、0〜90℃とすることが好ましく、5〜60℃とすることがより好ましく、10〜40℃とすることが特に好ましい。この範囲内であると温度・pH制御等操作性や、速やかに無水化合物を分解できる点で好ましい。
【0016】
高純度のN−アルコキシカルボニルアミノ酸を回収するために無水化合物の量は少なければ少ないほど好ましい。無水化合物の量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の定法により分析を行うことができる。
例えば、HPLCチャート上、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンのエリア面積比を100%とした場合、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンとクロロギ酸メチルが反応して生じる無水化合物のエリア面積比が0.2%以下になるまで保持することが好ましく、0.1%以下になるまで保持することが特に好ましい。
【0017】
上述の方法によって無水化合物が低減した保持工程後のN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液からN−アルコキシカルボニルアミノ酸を回収する。回収工程については高純度のN−アルコキシカルボニルアミノ酸を回収できる方法であれば良く、例えば、保持工程後のN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液を酸性とした後、有機溶媒によってN−アルコキシカルボニルアミノ酸を抽出する方法等が挙げられる。
ここで、水溶液を酸性にするために添加する酸性物質としては、硫酸、塩酸、又は硝酸等の鉱酸が好ましい。抽出によりN−アルコキシカルボニルアミノ酸を回収する場合、抽出操作後に水相が酸性になるように行えば良い。酸性物質の添加は、N−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液に有機溶媒を添加する前、添加した後のいずれでも良い。
【0018】
抽出に用いる有機溶剤としてはN−アルコキシカルボニルアミノ酸を効率よく抽出できるものであれば良い。例えば、酢酸エチル又は酢酸ブチル等のエステル類、トルエン又はキシレン等の芳香族炭化水素又はクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、n−ペンタン又はn−ヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム又は塩化メチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類等を用いることができる。
【0019】
抽出により水溶液から回収したN−アルコキシカルボニルアミノ酸は溶媒の留去、晶析等の公知の操作により簡易に結晶を得ることができる。
例えば、回収工程後に得られるN−アルコキシカルボニルアミノ酸を含む有機溶媒溶液を冷却しN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶を析出させる、又は、回収工程後に得られるN−アルコキシカルボニルアミノ酸を含む有機溶媒溶液を濃縮する。あるいは、N−アルコキシカルボニルアミノ酸を含む有機溶媒溶液にN−アルコキシカルボニルアミノ酸が難溶性である有機溶媒又は種晶を添加する等の操作を行って、N−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶を析出させることもできる。析出させたN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶は、ろ過又は遠心分離等の方法により単離することができる。
【0020】
上述の方法により結晶中のアミノ酸のジペプチド様の化合物がN−アルコキシカルボニルアミノ酸に対するアミノ酸のジペプチド様の化合物のHPLCのエリア面積比として0.25%未満から検出限界値以下である高純度のN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶が得られる。
なお、N−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶の単離前に純度向上や単離収率向上を目的として、回収工程後に得られるN−アルコキシカルボニルアミノ酸を含む有機溶媒溶液に対して、少量の水で洗浄する又は共沸脱水等の脱水処理を行う等の操作を行っても良い。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。
なお、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン、ジペプチド様の化合物及び無水化合物の検出は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行った。
【0022】
<L−tert−ロイシンのHPLC分析条件>
試料調製:反応液を純水で希釈する
カラム: イナートシル ODS−3V GLサイエンス社製
移動層: 0.1% リン酸水溶液(v/v)
流速: 1mL/min
検出: RI
L−tert−ロイシンの保持時間: 約8.7分
【0023】
<N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン、ジペプチド様の化合物及び無水化合物のHPLC分析条件>
試料調製:反応液を移動層で希釈する
カラム: イナートシル ODS−3V GLサイエンス社製
移動層: 0.1% リン酸水溶液(v/v):アセトニトリル(70:30)
流速: 1mL/min
検出: UV(210nm)
各化合物の保持時間:
N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン 約 7.7分
ジペプチド様の化合物 約14.4分
無水化合物 約17.8分
<N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン結晶の化学純度のHPLC分析条件>
試料調製: 結晶を移動層に溶解し、0.5%w/v溶液を調整する
カラム: イナートシル ODS−3V GLサイエンス社製
移動層: 0.1% リン酸水溶液(v/v):アセトニトリル(70:30)
流速: 1mL/min
検出: UV(210nm)
【0024】
[参考例1] N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンの調製
L−tert−ロイシン(東京化成(株)製)131.1g(1.00mol)を293.3g(1.10mol)の15%wtNaOH水溶液に添加後、攪拌して溶解させた。次いで、これを攪拌しながらクロロギ酸メチル103.8g(1.10mol)を2時間かけて加えた。N−アルコキシカルボニル化反応中は20℃で反応液のpHが12.4〜12.9の範囲内になるように適宜25%wtNaOH水溶液を加えた。その後、HPLC分析によりL−tert−ロイシンが99%以上消費されたことを確認し反応を終了した。反応終了時のN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン水溶液は、pH12.5であった。
次いで、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンの生成をHPLCで確認した。N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン187.3g(収率99%)であった。 この時、HPLCチャート上、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンのエリア面積比を100%とした場合、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンとクロロギ酸メチルが反応して生じる無水化合物生成物のエリア面積比が0.35%であった。一方、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンとL−tert−ロイシンのジペプチド様の化合物のエリア面積比は、0.10%であった。
【0025】
[実施例1]
参考例1で得られたN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン水溶液(pH12.5)に25%wtNaOH水溶液を加えて保持工程を行った。保持工程は、水溶液のpHを13.1〜13.3に保ちながら温度20℃で1時間攪拌して行った。
その後、水溶液中の中間体生成物の量をHPLC分析した。水溶液中の無水化合物の量はエリア面積比で0.05%であった。この時、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンの分解は認められなかった。
攪拌後のN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン水溶液にトルエン400gを加え、次いで、36%塩酸を水相のpHが1.5になるまで加えた。pHを1.5に調整後、この溶液を70℃で0.5時間、撹拌により混合した。その後、静置して分相し、N−メトキシカルボニル−tert−ロイシンを含むトルエン溶液595.0gを回収した。このトルエン溶液を38gの水で洗浄した後、トルエン800gを加え全体量が900gになるまで減圧濃縮した。さらにトルエン800gを加え、全体量が940gになるまで再度減圧濃縮した。これを25−30℃で1時間冷却し、析出したN−メトキシカルボニル−tert−ロイシン結晶を減圧ろ過により単離した。次いで、結晶を少量のトルエンで洗浄した。ろ残結晶の減圧乾燥後、N−メトキシカルボニル−tert−ロイシン乾燥結晶175.1gが得られた(92.5%Yd.)。HPLC分析では乾燥結晶中のジペプチド様の化合物は検出限界以下であり、これはエリア面積比で0.02%以下に相当する。結晶の化学純度は99.9%以上であり、他の不純物は検出されなかった。結果を表1に示した。
【0026】
[比較例1]
保持工程を実施しない以外は実施例1と同様の方法で行った。ろ残結晶の減圧乾燥後、N−メトキシカルボニル−tert−ロイシン乾燥結晶176.0gが得られた(93%Yd.)。この乾燥結晶中のジペプチド様の化合物の含量は0.25%であった。従って、回収工程中、無水化合物がジペプチド様の化合物へと変換され、N−メトキシカルボニル−tert−ロイシン乾燥結晶中に不純物として混入することがわかった。結果を表1に示した。
【0027】
[参考例2] N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンの調製
L−tert−ロイシン(東京化成(株)製)65.6g(0.50mol)を15%wtNaOH水溶液133.3g(0.50mol)に添加後、攪拌して溶解させた。次いで、20℃でこれを攪拌しながらクロロギ酸メチル49.6g(0.52mol)を0.8時間かけて加えた後、さらに1時間N−アルコキシカルボニル化反応させた。N−アルコキシカルボニル化反応中は反応液のpHが10.8〜11.2の範囲内になるように適宜25%wtNaOH水溶液を加えた。その後、HPLC分析によりL−tert−ロイシンが99%以上消費されたことを確認し反応を終了した。反応終了時のN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン水溶液は、pH10.9であった。
次いで、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンの生成をHPLCで確認した。N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン93.0g(収率98%)であった。 この時、HPLCチャート上、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンのエリア面積比を100%とした場合、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンとクロロギ酸メチルが反応して生じる無水化合物のエリア面積比が0.60%であった。一方、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンとL−tert−ロイシンのジペプチド様の化合物のエリア面積比は、0.21%であった。
【0028】
[実施例2]
参考例2で得られたN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン水溶液(pH10.9)に25%wtNaOH水溶液を加え、pH11.2−11.5で1.5時間の保持工程を行った以外は実施例1と同様にしてN−メトキシカルボニル−tert−ロイシン結晶を単離した。結果を表1に示した。
【0029】
[実施例3]
pH12.0−12.5で1時間の保持工程を行った以外は実施例2と同様にしてN−メトキシカルボニル−tert−ロイシン結晶を単離した。結果を表1に示した。
【0030】
[実施例4]
pH12.5−13.0で1時間の保持工程を行った以外は実施例2と同様にしてN−メトキシカルボニル−tert−ロイシン結晶を単離した。結果を表1に示した。
【0031】
[実施例5]
pH13.3−13.7で1時間の保持工程を行った以外は実施例2と同様にしてN−メトキシカルボニル−tert−ロイシン結晶を単離した。結果を表1に示した。
表1に結果を示した。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回収工程前のN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液に塩基性化合物を加えて、該水溶液のpHよりも高く、且つpH14未満に保持する保持工程を含むN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶の製造方法。
【請求項2】
化学純度が99.8%以上であるN−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶。

【公開番号】特開2007−131589(P2007−131589A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327363(P2005−327363)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】