説明

N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物およびその製造方法

【課題】従来のキレート剤と比較して十分な鉄イオンキレート能を有するN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を提供する。
【解決手段】N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。


一般式(1)において、R、R、Rはそれぞれ独立にヒドロキシルアルキル基を表し、Rは水素原子、水酸基を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物およびその製造方法に関する。より具体的には、複数のカルボキシル基と、複数の水酸基を有するN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キレート剤は、2個以上の配位結合を形成することにより金属イオンを封鎖することができることから、金属イオンが存在することによる弊害等を除去するために、洗剤、繊維、紙パルプ、金属表面処理、写真等の様々な分野で用いられており、現在では化学工業や日常生活に欠くことができないものである。例えば、洗剤等の分野では、用いられる水の調製において硬水中のカルシウム、マグネシウム等の金属イオンを除去するために用いられ、繊維、紙パルプ等の分野では、漂白剤である過酸化水素等の金属イオンによる分解を抑制するために用いられている。
【0003】
このようなキレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等が従来から用いられているが、近年では、N−ビスヒドロキシアルキルアミノ酸類、特にN−ビスヒドロキシエチルアスパラギン酸類が様々な用途においてキレート性能を発揮することから注目されている(例えば特許文献1)。
しかし、例えば洗剤分野において、洗剤のコンパクト化の要求が近年強くなってきている。これに伴ない、キレート剤にも複数の機能が要求されてきている。例えば、洗濯水中に鉄イオンが繊維に吸着することにより、繊維の黄ばみが発生するという問題があるが、キレート剤にはカルシウムイオン等に加え、鉄イオン等の重金属イオンをも除去する機能(鉄イオンキレート能)が要求される。しかし、従来のキレート剤の鉄イオンキレート能は、洗浄条件においては必ずしも満足できるものではなく、より一層の鉄イオンキレート能を有するキレート剤が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−252839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来のキレート剤と比較して十分な鉄イオンキレート能を有するN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を提供することにある。本発明の別の目的は、従来のキレート剤と比較して十分な鉄イオンキレート能を有するN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を簡便に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、特定のN−ヒドロキシアルキルポリエチレンアミン化合物、より具体的には特定のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物が、従来より優れた鉄イオンキレート能を発現することを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】

上記一般式(1)において、R、R、Rはそれぞれ独立に下記一般式(2)で表す基を表し、Rは水素原子、水酸基を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表す。
【0010】
【化2】

【0011】

上記一般式(2)において、Zは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、平均の繰り返し単位数を表し、0〜5の数を表す。
【0012】
本発明の別の局面によれば、N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の製造方法が提供される。本発明の製造方法は、エポキシコハク酸、マレイン酸、これらの塩から選ばれる化合物と、下記一般式(3)で表される化合物を反応させる工程と、必要に応じて更にアルキレンオキサイドを付加する工程と有することを特徴とする製造方法である。
【0013】
【化3】

【0014】

上記一般式(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、下記一般式(2)で表す基のいずれかを表す。
【0015】
【化4】

【0016】

上記一般式(4)において、Zは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、平均の繰り返し単位数を表し、0〜5の数を表す。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の化合物よりも鉄イオンキレート能に優れたN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を提供することができる。
本発明によれば、上記N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を簡便に製造することが可能となる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物〕
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0019】
【化5】

【0020】

上記一般式(1)において、R、R、Rはそれぞれ独立に下記一般式(2)で表す基を表し、Rは水素原子、水酸基を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表す。
【0021】
【化6】

【0022】

上記一般式(2)において、Zは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、平均の繰り返し単位数を表し、0〜5の数を表す。
【0023】
上記一般式(1)において、R、R、Rはそれぞれ独立に上記一般式(2)で表す基を表すが、一般式(2)におけるZ、すなわち炭素数2〜4のアルキレン基とは、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基を表す。
炭素数2〜4のアルキレン基としては、鉄イオンキレート能が向上する傾向にあることから好ましくは、エチレン基、プロピレン基であることが好ましく、エチレン基であることが特に好ましい。また、不純物を少なく製造することが可能であることから、炭素数2〜4のアルキレン基としてはエチレン基(‐CHCH−)、イソプロピレン基(‐CH(CH)CH−、‐CHCH(CH)−)、イソブチレン基(‐CH(C)CH−、‐CHCH(C)−)であることが好ましく、エチレン基、イソプロピレン基であることが更に好ましい。
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物は、鉄イオンキレート能が向上する傾向にあることから、少なくとも1つのヒドロキシエチル基および/またはヒドロキシプロピル基を有することが好ましく、少なくとも2つのヒドロキシエチル基および/またはヒドロキシプロピル基を有することが更に好ましく、3つのヒドロキシエチル基および/またはヒドロキシプロピル基を有することが最も好ましい。
【0024】
一般式(2)において、nは、−Z−O−構造の平均の繰り返し単位数を表すが、鉄イオンキレート能が向上する傾向にあることから好ましくは、0〜1の数であり、0〜0.5の数が更に好ましい。
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物は、鉄イオンキレート能が向上する傾向にあることから、上記一般式(1)における、R、R、Rの内、少なくとも1つは、−Z−OH基であることが好ましく(但しZは、一般式(2)におけるZと同じ)、少なくとも2つが−Z−OH基であることが更に好ましく、3つが−Z−OH基であることが特に好ましい。
【0025】
上記一般式(1)において、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表し、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属;アンモニウム塩;有機アミン塩が例示される。これらの中でも、ナトリウムである形態が特に好ましい。
【0026】
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物は、上記一般式(1)において、Rが水酸基である場合、鉄イオンキレート能が向上することから、またカルボキシル基の近傍に水酸基を有する為、例えば洗剤組成物に添加した場合、界面活性剤等との相溶性が向上することから、好ましい。
【0027】
〔N−ヒドロキシアルキルポリエチレンアミン化合物の製造方法〕
本発明のN−ヒドロキシアルキルポリエチレンアミン化合物は任意の方法により製造したもので構わないが、エポキシコハク酸、マレイン酸、これらの塩から選ばれる化合物と、下記一般式(3)で表される化合物を反応させる工程(工程1という)を含む製造方法により製造することが好ましい。当該方法によれば、副生成物が少なくなる為、反応物の精製プロセスが簡素化でき、また、精製しない場合においても、鉄イオンキレート能等の物性が良好なものとなる。
【0028】
【化7】

【0029】

上記一般式(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、下記一般式(4)で表す基のいずれかを表す。
【0030】
【化8】

【0031】

上記一般式(4)において、Zは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、平均の繰り返し単位数を表し、0〜5の数を表す。
【0032】
本発明の製造方法において使用する、エポキシコハク酸、マレイン酸、これらの塩から選ばれる化合物の中でも、副生成物が少なくなることから、エポキシコハク酸、エポキシコハク酸の塩であることが好ましい。
上記塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩を表し、具体的にはリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属;アンモニウム塩;有機アミン塩が例示される。これらの中でも、ナトリウム塩である形態が特に好ましい。
【0033】
本発明の製造方法において、一般式(3)におけるR、R、Rの好ましい態様、一般式(4)におけるZ、nの好ましい態様は、下記に特に言及する場合を除き、上記した一般式(1)、一般式(2)におけるものと同じである。
本発明の製造方法において、一般式(3)におけるR、R、Rは、副生成物が少なくなることから、水素原子である形態が特に好ましい。
【0034】
上記一般式(3)で表される化合物の具体例として、エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン(2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン)、N−(2−ヒドロキシ−2−メチルエチル)エチレンジアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N,N’−トリス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等が例示される。最も好ましくは、反応工程が簡略になり、副生成物が少なくなることから、エチレンジアミンである。
上記一般式(3)で表される化合物がヒドロキシアルキル基を有する場合は、エチレンジアミン等のアミノ基を有する化合物にアルキレンオキサイドを付加反応し、ヒドロキシアルキル化することにより製造することが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法は、エポキシコハク酸、マレイン酸、これらの塩から選ばれる化合物と、下記一般式(3)で表される化合物を反応させる工程(工程1)の他に、工程1で得られた化合物(N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物)に、更にアルキレンオキサイドを付加する工程(工程2)を含んでいても良い。
工程1において使用する一般式(3)におけるR、R、Rのいずれかが水素原子である場合、工程2は必須の工程となる。工程1と工程2を必須として本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を製造することによって、副反応物の生成が抑えられることから好ましい。
工程2においては、工程1で得られた化合物のアミノ基、水酸基にアルキレンオキサイドを付加することとなるが、公知のアミノ基とアルキレンオキサイドの反応方法、反応条件を適用することができる。
【0036】
(反応条件)
本発明の製造方法において反応に使用するエポキシコハク酸、マレイン酸、これらの塩から選ばれる化合物(化合物Aともいう)と、上記一般式(3)で表される化合物の比率は、モル比で45:55〜55:45にすることが好ましく、より好ましくは47:53〜53:47であり、更に好ましくは49:51〜51:49である。上記範囲を超えれば、本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の収率が低下する傾向にある。
【0037】
(反応溶媒)
本発明の製造方法に使用する溶媒は、上記化合物Aおよび/または上記一般式(3)で表される化合物を溶解できるものが好ましい。反応収率が向上することから水系溶媒であることが好ましく、水であることが特に好ましい。また、用途によっては、本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物(含有組成物)への有機溶剤の混入は厳しく制限されるが、水であれば、溶剤除去の工程が不要なため生産効率が高くなるばかりか、溶剤の残存量を低減する段階の熱履歴による本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物(含有組成物)の着色が抑制される為、好ましい。また、水を使用すれば、有機溶剤を使用する場合と比較して廃液等が著しく低減できる為、環境面において特に好ましい。
【0038】
(反応時の原料の中和度)
本発明の製造方法における、化合物Aと上記一般式(3)で表される化合物の反応において、反応収率が向上することから、上記化合物Aが未中和または部分中和の場合には反応時に中和して使用することが好ましい。「反応時に中和して」とは、予め中和してから反応器に添加しても良く、化合物Aと中和剤を別々に反応器に添加して反応器中で中和反応と上記一般式(3)で表される化合物との反応を同時に行なっても良いことを表す。収率をより向上させることができる点において、化合物Aが未中和または部分中和の場合には、反応前に予め塩基性物質で中和することが好ましい。反応前に予め中和する化合物Aは、化合物Aの全使用量における全酸基の50モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることが更に好ましく、100モル%(全量)であることが特に好ましい。該化合物Aは、予め反応器に仕込んでも、反応開始以後に徐々に反応器に添加しても良い。
【0039】
上記中和剤としては、塩基性の化合物であれば良いが、反応収率が向上することから、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等が好ましい。
該中和剤(上記一般式(3)で表される化合物およびその反応結果物は除く、以下同じ)と化合物Aの使用する割合はモル比で化合物Aの有する酸基(酸基+中和された酸基)100モルに対し、中和された酸基が50モル以上、100モル以下になるように使用することが好ましく、80モル以上、100モル以下が好ましく、90モル以上、100モル以下がより好ましく、95モル以上、100モル以下が更に好ましい。中和された酸基を上記の範囲にすることにより、本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の収率が向上する。
【0040】
(反応時の反応液のpH)
本発明の製造方法における、化合物Aと上記一般式(3)で表される化合物の反応において、反応時のpHは、7.5以上であり、9以上が好ましく、10以上が更に好ましい。反応時のpHが7.5未満であれば、収率が低下するため好ましくない。
【0041】
(反応原料等の添加方法)
本発明の製造方法における、化合物Aと上記一般式(3)で表される化合物の反応において、上記中和剤、上記一般式(3)で表される化合物、上記化合物Aは、それぞれ予め反応器に仕込んでも、反応開始以後に徐々に反応器に添加しても構わない。反応時の原料濃度を増加させ、反応効率を向上できることから、上記一般式(3)で表される化合物または上記化合物Aの少なくともいずれか一方を予め反応器に仕込むことが好ましい。
上記上記一般式(3)で表される化合物を反応開始前に反応器に仕込む場合において、上記一般式(3)で表される化合物の全使用量の50質量%以上を反応開始前に反応器に仕込むことが好ましく、80質量%以上がより好ましく、全量が最も好ましい。
上記化合物Aを反応開始以後に徐々に反応器に添加する場合は、全使用量の80質量%以上を反応開始以後に徐々に反応器に添加することが好ましく、90質量%以上がより好ましく、全量が最も好ましい。
また、上記化合物Aは水などの溶媒と混合して滴下することが副反応の防止上好ましい。
なお、本発明において反応開始時とは上記一般式(3)で表される化合物の少なくとも一部と上記化合物Aの少なくとも一部の両方を反応器に添加した時点である。
【0042】
(反応温度、反応時間)
本発明の製造方法における、化合物Aと上記一般式(3)で表される化合物の反応において、反応温度は50℃以上、120℃以下であることが好ましい。
50℃未満の場合、反応速度が遅くなり、反応効率が悪くなる。また、反応収率も低下する傾向にある。120℃を超えると、副反応が進行し、反応物の着色が大きくなる。
本発明の製造方法において、反応時間は0.5時間以上、10時間以下が好ましい。より好ましくは、1時間以上、4.5時間以下である。
【0043】
(反応時の圧力、雰囲気)
本発明の製造方法における、化合物Aと上記一般式(3)で表される化合物の反応において、反応は常圧下、減圧下、加圧下のいずれで行なっても構わない。反応収率が向上する傾向にあることから、常圧下で反応するか、または減圧下で溶媒を除去しながら反応を行なうことが好ましい。
本発明の製造方法において、反応は、窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下で行なっても良い。また、反応後に窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下で保存しても良い。
本発明の製造方法において、反応触媒を添加しても構わない。
本発明の製造方法において、保存安定性の向上等を目的として反応後に更なる中和工程を設けても良い。
なお、本発明の製造方法において、化合物Aに代えて化合物Aのカルボキシル基を対応するエステルまたはアミドに変更した化合物を使用することも可能であり、本発明の製造方法に含まれるが、その場合、エステル基またはアミド基の加水分解工程を設けても良い。製造工程の簡略化および副生成物低減の観点から、化合物Aを使用することが好ましい。
【0044】
(アルキレンオキサイドを付加する工程)
アルキレンオキサイドを付加する工程(例えば、上記工程2)における反応条件は以下の通りである。
アルキレンオキサイド付加工程は、アルカリ性側で行われることが好ましく、反応前及び/又は反応中の反応溶液のpHを7〜13.5とすることがより好ましい。10以上13以下が更に好ましい。特に好ましくは、11以上であり、また、12.5以下である。なお、「反応溶液のpH」とは、反応前であれば、反応原料び反応媒体、また、反応中及び反応後であれば、更にアルキレンオキサイドと生成したN−ヒドロキシアルキルポリエチレンアミン化合物を含む溶液のpHを意味する。また、付加工程の原料アミン(例えば工程1により製造された化合物)のアミン性水素原子に対するアルキレンオキサイドの使用量(モル比)がアミン性水素原子1モルに対して0.9モル以上1.3モル以下であることが好ましい。従って、上記アルキレンオキサイド付加工程がアルカリ性側で行われる、すなわち反応媒体を用いての反応においては上記pHの範囲内で行われることと、上記アミノ酸類に対するアルキレンオキサイドの使用量(モル比)が上記範囲内であることとの相乗効果により、高収率かつ高純度で本発明のN−ヒドロキシアルキルポリエチレンアミン化合物を得ることができる。
【0045】
本発明におけるアルキレンオキサイド付加工程における反応方法としては、反応系を窒素ガス等の不活性ガスで置換することが好ましく、また反応媒体を用いて行うことが好ましく、更にアルキレンオキサイドの反応を制御するためにアルキレンオキサイドを時間をかけて添加(滴下)することが好ましい。
上記不活性ガスによる反応系の置換は、系内の酸素濃度をアルキレンオキサイドの爆発範囲から外すことを一つの目的としている。置換後の反応系の圧力としては、0.05MPa以上が好ましく、また、1MPa以下が好ましい。より好ましくは0.1MPa以上であり、また、0.5MPa以下である。上記反応媒体としては、水;水とアルコール等の水溶性有機溶媒との混合媒体等が好適である。これらの中でも、水のみを用いることが好ましい。上記反応媒体の使用量としては、付加工程の原料の均一溶液となる量、例えば、通常は付加工程の原料アミン(例えば工程1により製造された化合物)が40質量%程度で反応するようにすることが好ましい。上記アルキレンオキサイドの添加(滴下)時間としては、エチレンオキサイドを用いる場合には、0.5時間以上が好ましく、また、10時間以下が好ましい。より好ましくは1時間以上であり、また、8時間以下である。
上記アルキレンオキサイド付加工程における反応温度や反応時間としては、エチレンオキサイドを用いる場合には、反応温度は25℃以上が好ましく、また、70℃以下が好ましい。より好ましくは、40℃以上であり、また、60℃以下である。反応時間はエチレンオキサイドの添加(滴下)を終了してから0.5時間以上が好ましく、また、5時間以下が好ましい。より好ましくは、エチレンオキサイドの添加(滴下)を終了してから1時間以上であり、また、4時間以下である。
【0046】
上記アルキレンオキサイド付加工程終了時に、系中にアルキレンオキサイドが残存している場合は、引き続き熟成を行うことで、残存するアルキレンオキサイドを分解することができる。アルキレンオキサイドは、引火性、爆発性等があり残存すると危険であるが、この工程でこれらの危険を回避でき、アルキレンオキサイドの環境への排出も減らすことができる。熟成は、反応温度より高い温度で行うことが好ましく、反応温度より10℃以上高くすることがより好ましく、更には反応温度より20℃以上高くすることが好ましい。液温としては、50℃以上、100℃以下で行うことが好ましく、さらに好ましくは60℃以上、85℃以下である。熟成時間はアルキレンオキサイド付加工程終了後0.5〜8時間が好ましく、さらに好ましくは1〜6時間である。
【0047】
(その他の工程)
本発明の製造方法において、溶媒を用いて本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を製造した場合、所望に応じて乾燥工程、および/または濃縮工程または更なる希釈工程等の濃度調整工程を設けても良い。
【0048】
[N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物]
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物は、本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を必須成分として含み、任意成分として、残存原料(上記化合物Aや上記一般式(3)で表される化合物等)、副生成物、水、メタノールなどの溶媒を含み得る。
【0049】
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物に含まれる本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物は、好ましくは本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物の固形分の質量100質量%に対して、好ましくは1質量%以上、99質量%以下である。本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物に含まれる本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物が99質量%以下であれば、固形にした場合の溶解性等の取り扱いが容易になる。
【0050】
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物に含まれる残存原料は、好ましくは本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物の固形分の質量100質量%に対して、0質量%以上、30質量%以下である。
【0051】
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物が水を含有する場合の好ましい含有量としては、本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物が固形の場合、0.5質量%以上、10質量%以下である。水の含有量が上記範囲に入れば、取り扱いが容易になるから好ましい。
また、本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物が液状の場合、本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物の水の含有量は好ましくは本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物100質量%に対して、30質量%以上、95質量%以下である。水の含有量が95質量%を上回れば、運搬時や保存時の効率が著しく低下する虞がある。一方、水の含有量が30質量%を下回れば、粘性が増加して液体としての取り扱いが困難になったり、沈殿が生成するなど保存安定性が悪化する。より好ましくは40質量%以上であり、75質量%以下である。
【0052】
[酸型のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の製造工程]
本発明の製造方法において、得られたN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の有するカルボキシル基が中和された形態で製造される場合、酸型のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物(アミノ基が中和されたN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を含む)を製造する工程を設けても構わない。
該酸型のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物化合物を製造する工程は、好ましくは(i)N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物水溶液等に酸を添加してpHを酸性にする工程を含んで製造される。なお、この際に生成する塩等の沈殿が生ずれば、濾過等により除去しても良い。
更に、該酸型のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を製造する工程は、(ii)酸型N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を単離するために、N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の水溶液等に有機溶剤を添加してN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を析出させ、析出したN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物をろ別する工程を含んでいても良い。(ii)の工程は、好ましくは(i)の工程後に行なわれる。
なお、上記(i)、(ii)の工程は必要によりそれぞれ繰り返し行なうことができる。
上記工程(i)において、酸とは、鉱酸、有機酸のいずれでも良く、例えば塩酸、硫酸、硝酸、亜硫酸、リン酸、ホウ酸、炭酸、酢酸、クエン酸等が例示されるが、安価な面から好ましくは塩酸を使用することが好ましい。また、上記工程(i)において、pHは2未満にすることが製造効率が高いことから好ましい。より好ましくはpHは1程度にすることである。
上記工程(i)における酸の添加量は、カルボキシル基に対して当モル以上、好ましくは1.3倍モル以上添加することが好ましい。
上記工程(i)、(ii)において、N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の水溶液等とは、N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の水溶液又は水性溶液を言い、好ましくはN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物を水または、水と低級アルコール等の水と相溶する有機溶剤からなる混合溶媒に溶解した溶液である。
酸型のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の水溶液等を製造した後、乾燥・固化させても良い。
【0053】
〔用途〕
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物(以下、本発明の化合物)またはN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物含有組成物(以下、本発明の組成物)は、キレート剤として使用可能であるが、水処理剤、繊維処理剤、分散剤、洗剤組成物等の添加剤として用いられうる。洗剤添加剤としては、衣料用、食器用、住居用、毛髪用、身体用、歯磨き用、及び自動車用など、様々な用途の洗剤に添加されて使用されうる。
【0054】
<水処理剤>
本発明の化合物または本発明の組成物は、水処理剤に添加することができる。該水処理剤には、必要に応じて、他の配合剤として、重合リン酸塩、ホスホン酸塩、防食剤、スライムコントロール剤、キレート剤を用いても良い。
【0055】
上記水処理剤は、冷却水循環系、ボイラー水循環系、海水淡水化装置、パルプ蒸解釜、黒液濃縮釜等でのスケール防止に有用である。また、性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでもよい。
【0056】
<繊維処理剤>
本発明の化合物または本発明の組成物は、繊維処理剤に添加することができる。該繊維処理剤は、染色剤、過酸化物および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つと、本発明の組成物を含む。
【0057】
上記繊維処理剤における本発明の化合物の含有量は、繊維処理剤全体に対して、好ましくは1〜100重量%であり、より好ましくは5〜100重量%である。また、性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでいてもよい。
【0058】
以下に、より実施形態に近い、繊維処理剤の配合例を示す。この繊維処理剤は、繊維処理における精錬、染色、漂白、ソーピングの工程で使用することができる。染色剤、過酸化物および界面活性剤としては繊維処理剤に通常使用されるものが挙げられる。
【0059】
本発明の化合物と、染色剤、過酸化物および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つとの配合比率は、例えば、繊維の白色度、色むら、染色けんろう度の向上のためには、繊維処理剤純分換算で、本発明の組成物1重量部に対して、染色剤、過酸化物および界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを0.1〜100重量部の割合で配合された組成物を繊維処理剤として用いることが好ましい。
【0060】
上記繊維処理剤を使用できる繊維としては、任意の適切な繊維を採用し得る。例えば、木綿、麻等のセルロース系繊維、ナイロン、ポリエステル等の化学繊維、羊毛、絹糸等の動物性繊維、人絹等の半合成繊維およびこれらの織物および混紡品が挙げられる。
【0061】
上記繊維処理剤を精錬工程に適用する場合は、本発明の化合物または本発明の組成物と、アルカリ剤および界面活性剤とを配合することが好ましい。漂白工程に適用する場合では、本発明の化合物または本発明の組成物と、過酸化物と、アルカリ性漂白剤の分解抑制剤としての珪酸ナトリウム等の珪酸系薬剤とを配合することが好ましい。
【0062】
<無機顔料分散剤>
本発明の化合物または本発明の組成物は、無機顔料分散剤に添加することができる。該無機顔料分散剤には、必要に応じて、他の配合剤として、縮合リン酸およびその塩、ホスホン酸およびその塩、ポリビニルアルコールを用いても良い。
【0063】
上記無機顔料分散剤中における、本発明の化合物の含有量は、無機顔料分散剤全体に対して、好ましくは5〜100重量%である。また性能、効果に影響しない範囲で、任意の適切な水溶性重合体を含んでいてもよい。
【0064】
上記無機顔料分散剤は、紙コーティングに用いられる重質ないしは軽質炭酸カルシウム、クレイの無機顔料の分散剤として良好な性能を発揮し得る。例えば、無機顔料分散剤を無機顔料に少量添加して水中に分散することにより、低粘度でしかも高流動性を有し、かつ、それらの性能の経日安定性が良好な、高濃度炭酸カルシウムスラリーのような高濃度無機顔料スラリーを製造することができる。
【0065】
上記無機顔料分散剤を無機顔料の分散剤として用いる場合、該無機顔料分散剤の使用量は、無機顔料100重量部に対して、0.05〜2.0重量部が好ましい。該無機顔料分散剤の使用量が上記範囲内にあることによって、十分な分散効果を得ることが可能となり、添加量に見合った効果を得ることが可能となり、経済的にも有利となり得る。
【0066】
<洗剤組成物>
本発明の化合物または本発明の組成物は、洗剤組成物にも添加しうる。
洗剤組成物における本発明の化合物の含有量は特に制限されない。ただし、優れた鉄イオンキレート能を発揮しうるという観点からは、本発明の化合物の含有量は、洗剤組成物の全量に対して、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは0.3〜10質量%であり、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。
洗剤用途で用いられる洗剤組成物には、通常、洗剤に用いられる界面活性剤や添加剤が含まれる。これらの界面活性剤や添加剤の具体的な形態は特に制限されず、洗剤分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。また、上記洗剤組成物は、粉末洗剤組成物であってもよいし、液体洗剤組成物であってもよい。
界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤からなる群から選択される1種または2種以上である。2種以上が併用される場合、アニオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤との合計量は、界面活性剤の全量に対して50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、特に好ましくは80質量%以上である。
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸またはエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和脂肪酸塩、不飽和脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルリン酸エステルまたはその塩、アルケニルリン酸エステルまたはその塩等が好適である。これらのアニオン性界面活性剤におけるアルキル基、アルケニル基には、メチル基等のアルキル基が分岐していてもよい。
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミドまたはそのアルキレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコキシド、脂肪酸グリセリンモノエステル、アルキルアミンオキサイド等が好適である。これらのノニオン性界面活性剤におけるアルキル基、アルケニル基には、メチル基等のアルキル基が分岐していてもよい。
カチオン性界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩等が好適である。また、両性界面活性剤としては、カルボキシル型両性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤等が好適である。これらのカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤におけるアルキル基、アルケニル基は、メチル基等のアルキル基が分岐していてもよい。
上記界面活性剤の配合割合は、通常、洗剤組成物の全量に対して10〜60質量%であり、好ましくは15〜50質量%であり、さらに好ましくは20〜45質量%であり、特に好ましくは25〜40質量%である。界面活性剤の配合割合が少なすぎると、十分な洗浄力を発揮できなくなる虞があり、界面活性剤の配合割合が多すぎると、経済性が低下する虞がある。
添加剤としては、アルカリビルダー、キレートビルダー、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の汚染物質の再沈着を防止するための再付着防止剤、ベンゾトリアゾールやエチレン−チオ尿素等の汚れ抑制剤、ソイルリリース剤、色移り防止剤、柔軟剤、pH調節のためのアルカリ性物質、香料、可溶化剤、蛍光剤、着色剤、起泡剤、泡安定剤、つや出し剤、殺菌剤、漂白剤、漂白助剤、酵素、染料、溶媒等が好適である。また、粉末洗剤組成物の場合にはゼオライトを配合することが好ましい。
上記洗剤組成物は、洗剤ビルダーを含んでもよい。他の洗剤ビルダーとしては、特に制限されないが、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、珪酸塩などのアルカリビルダーや、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、ボウ硝、ニトリロトリ酢酸塩、エチレンジアミンテトラ酢酸塩、クエン酸塩、(メタ)アクリル酸の共重合体塩、アクリル酸−マレイン酸共重合体、フマル酸塩、ゼオライト等のキレートビルダー、カルボキシメチルセルロース等の多糖類のカルボキシル誘導体等が挙げられる。上記ビルダーに用いられる対塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、アンモニウム、アミン等が挙げられる。
上記添加剤と他の洗剤用ビルダーの合計の配合割合は、通常、洗浄剤組成物100質量%に対して0.1〜50質量%が好ましい。より好ましくは0.2〜40質量%であり、さらに好ましくは0.3〜35質量%であり、特に好ましくは0.4〜30質量%であり、最も好ましくは0.5〜20質量%以下である。添加剤/他の洗剤ビルダーの配合割合が0.1質量%未満であると、十分な洗剤性能を発揮できなくなる虞があり、50質量%を超えると経済性が低下する虞がある。
なお、上記洗剤組成物の概念には、家庭用洗剤の合成洗剤、繊維工業その他の工業用洗剤、硬質表面洗浄剤のほか、その成分の1つの働きを高めた漂白洗剤等の特定の用途にのみ用いられる洗剤も含まれる。
上記洗剤組成物が液体洗剤組成物である場合、液体洗剤組成物に含まれる水分量は、通常、液体洗剤組成物の全量に対して0.1〜75質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜70質量%であり、さらに好ましくは0.5〜65質量%であり、さらにより好ましくは0.7〜60質量%であり、特に好ましくは1〜55質量%であり、最も好ましくは1.5〜50質量%である。
上記洗剤組成物が液体洗剤組成物である場合、当該洗剤組成物は、カオリン濁度が200mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは150mg/L以下であり、さらに好ましくは120mg/L以下であり、特に好ましくは100mg/L以下であり、最も好ましくは50mg/L以下である。
また、本発明の化合物または本発明の組成物を液体洗剤組成物に添加する場合としない場合とでのカオリン濁度の変化(差)は、500mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは400mg/L以下であり、さらに好ましくは300mg/L以下であり、特に好ましくは200mg/L以下であり、最も好ましくは100mg/L以下である。カオリン濁度の値としては、以下の手法により測定される値を採用するものとする。
【0067】
<カオリン濁度の測定方法>
厚さ10mmの50mm角セルに均一に攪拌した試料(液体洗剤)を仕込み、気泡を除いた後、日本電色株式会社製NDH2000(商品名、濁度計)を用いて25℃でのTubidity(カオリン濁度:mg/L)を測定する。
上記洗浄剤組成物に配合することができる酵素としては、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ等が好適である。中でも、アルカリ洗浄液中で活性が高いプロテアーゼ、アルカリリパーゼ及びアルカリセルラーゼが好ましい。
上記酵素の添加量は、洗浄剤組成物100質量%に対して5質量%以下であることが好ましい。5質量%を超えると、洗浄力の向上が見られなくなり、経済性が低下するおそれがある。
上記洗剤組成物は、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの濃度が高い硬水(例えば、100mg/L以上)の地域中で使用しても、塩の析出が少なく、優れた洗浄効果を有する。この効果は、洗剤組成物が、LASのようなアニオン界面活性剤を含む場合に特に顕著である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は重量基準である。
上記化合物A、上記一般式(3)で表される化合物は、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーにより分析した。N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の生成は、液体クロマトグラフ質量分析(LC−MS)で確認した。分析条件は以下の通りである。
【0069】
(ガスクロマトグラフィーの測定条件)
分析条件:
カラム:PTA−5(スペルコ製)
昇温プログラム:50℃で2分間保持し20℃/minで300℃まで昇温した後300℃で10分間保持した。
キャリア:He 7ml/min
メイクアップ:N(入口圧 0.75MPa、30ml/min程度)
インジェクション温度:250℃
検出温度:250℃。
【0070】
(高速液体クロマトグラフィーの測定条件)
分析条件:
カラム:ODS−80TM(東ソー株式会社製)
移動相:5mMりん酸二水素アンモニウム(pH=2.4)
移動相流速:0.5ml/min
検出波長:UV、210nm
カラム温度:20℃。
【0071】
(固形分の測定)
反応液等の固形分は、170℃のオーブンで1時間乾燥させた前後の質量変化より算出した。
【0072】
(鉄イオンキレート能の評価)
密閉できる容器に、5質量%のキレート剤水溶液、0.135Mの鉄イオンの0.1N硝酸水溶液、30質量%水酸化ナトリウム水溶液を、試験液のキレート剤濃度が0.2質量%、鉄イオン濃度が300ppm、水酸化ナトリウム濃度が3質量%になるように秤量、水で希釈50mlの溶液を調整した。なお、当該溶液を調整する際に、鉄イオン硝酸水溶液を最後に添加するようにする。液該溶液を振盪した後、室温にて4時間静置した。静置後、上澄み液をろ別し、ろ液をICP発光分析装置(株式会社 島津製作所製)を用い、鉄イオンの定量を行なった。下記式で計算される可溶鉄イオン濃度(%)を鉄イオンキレート能とした。
【0073】
【数1】

【0074】

なお、上記式において、初期鉄イオン濃度は300ppmである。
【0075】
(実施例1)
温度計、攪拌機を備えたガラス製反応器に水298.1質量部とエポキシコハク酸二ナトリウムの水溶液(エポキシコハク酸二ナトリウムの純度32.2質量%)を437.3質量部仕込んだ。引き続き、上記反応器に、エチレンジアミン48.2質量部を仕込んだ。その後、反応溶液を75℃に昇温し、同温度で4時間反応を行うことにより、反応中間体(1)を含む反応液Lを得た。高速液体クロマトグラフィーにより、反応液L中のエポキシコハク酸を分析し、転化率を算出したところ、エポキシコハク酸の転化率は100%であり、不純物として酒石酸二ナトリウム2.2質量%、マレイン酸二ナトリウム0.8質量%、フマル酸二ナトリウム0.01質量%を含有していた。反応液Lの固形分濃度は37.8質量%であった。また、反応液LのH−NMRを測定したところ、2.5、3.3、4.1ppmにピークがあり反応中間体(1)(すなわち、上記一般式(1)においてR、R、RがHであり、Rが水酸基であり、MがNaである化合物。)の生成を確認した。
内容量1.1Lのオートクレーブに反応液Lを435.0質量部仕込み、オートクレーブのふたを閉め、窒素ガスによる置換を行った。置換は窒素ガスで系内を0.294MPaまで加圧した後、大気圧まで解圧する操作を3回繰り返し、更に窒素ガスで系内の圧力を0.147MPaとすることで行った。液温を50℃に調節し、エチレンオキサイド100.3質量部を40質量部/時間で投入した。エチレンオキサイド付加工程の後50℃で攪拌を2.5時間継続し熟成を行った。この水溶液を冷却後、LC−MS(液体クロマトグラフ質量分析)で分析を行ったところM/Z=325.14が検出され、本願発明の化合物(1)(すなわち、上記一般式(1)においてR、R、Rが−CHCHOH基であり、Rが水酸基であり、MがNaである化合物。)であることを確認した。LC−MSではそれ以外に413.14、457.26、648.97、1060.89等も微量だが検出された。
【0076】
(実施例2)
実施例1で得られた本発明の化合物(1)の鉄イオンキレート能を、上記評価方法に従い、測定した結果を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
代表的なキレート剤であるエチレンジアミン四酢酸4ナトリウム(EDTA)(同仁化学研究所製)の鉄イオンキレート能を、上記評価方法に従い、測定した結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】

上記結果から、本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物は、従来のキレート剤と比較して、高い鉄イオンキレート能を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のN−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物は、高い鉄イオンキレート能を有する。したがって、水処理剤、洗剤用ビルダー、洗剤組成物、分散剤、洗浄剤、等の添加剤に用いた場合に特に優れた性能を発揮できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】


上記一般式(1)において、R、R、Rはそれぞれ独立に下記一般式(2)で表す基を表し、Rは水素原子、水酸基を表し、Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムイオン、アミン塩を表す。
【化2】


上記一般式(2)において、Zは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、平均の繰り返し単位数を表し、0〜5の数を表す。
【請求項2】
エポキシコハク酸、マレイン酸、これらの塩から選ばれる化合物と、下記一般式(3)で表される化合物を反応させる工程を含む、
N−ヒドロキシアルキルエチレンジアミン化合物の製造方法。
【化3】


上記一般式(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、下記一般式(2)で表す基のいずれかを表す。
【化4】


上記一般式(4)において、Zは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは、平均の繰り返し単位数を表し、0〜5の数を表す。
【請求項3】
請求項1に記載の化合物を含むキレート剤。

【公開番号】特開2011−231059(P2011−231059A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103769(P2010−103769)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】