説明

N−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体およびそれらの製造方法

【課題】応答性の高い感光体を得るための有機光導電体として有用なN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)


で表わされるN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規かつ有機光導電体として有用なN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体、及びにそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式を用いた情報処理システム機の発展には目覚ましいものがある。特に、情報をデジタル信号に変換して光によって情報記録を行なうレーザープリンターやデジタル複写機は、そのプリント品質、信頼性において向上が著しい。さらに、それらは高速化技術との融合によりフルカラー印刷が可能なレーザープリンターあるいはデジタル複写機へと応用されてきている。
【0003】
これらの電子写真方式のレーザープリンターやデジタル複写機等に使用される感光体としては、有機系の感光材料(OPC)を用いたものが、コスト、生産性及び無公害性等の理由から一般に広く応用されている。OPC感光体の層構成は単層型と機能分離型積層構造に大別される。最初の実用化OPCであるPVK-TNF電荷移動錯体型感光体は前者の単層型であった。
一方、1968年、林とRegensburgerにより各々独立してPVK/a-Se積層感光体が発明され、後には1977年Melzらにより、また1978年 Schlosserにより有機顔料分散層と有機低分子分散ポリマー層という感光層全てが有機材料からなる積層感光体が発表された。これらは光を吸収して電荷を発生する電荷発生層(CGL)と、CGLで生成した電荷を注入、輸送し、表面電荷を中和する電荷輸送層(CTL)からなるという概念から、機能分離型積層感光体とも呼ばれる。この開発によって、単層感光体に比べ感度、耐久性が飛躍的に向上した。また電荷発生物質(CGM)、電荷輸送物質(CTM)といわれる、それぞれ異なる機能を有する材料を個別に分子設計できるため、それら材料の選択幅が大きく増加した。これらの理由により機能分離型積層感光体は現在のOPC感光体の主流層構成となっている。機能分離型の感光体における静電潜像形成のメカニズムは、感光体を帯電した後光照射すると、光は電荷輸送層を通過し、電荷発生層中の電荷発生物質により吸収され電荷を生成する。それによって発生した電荷が電荷発生層と電荷輸送層の界面から電荷輸送層側に注入され、さらに電界によって電荷輸送層中を移動し、感光体の表面電荷を打ち消すことにより静電潜像を形成するものである。
【0004】
近年では電子写真装置の高速化あるいは装置の小型化に伴う感光体の小径化(露光―現像間の短時間化)によって、感光体の高速応答性がより一層重要な課題となっている。
商品化されている電荷輸送材料としては、1,1−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−4,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン(特許文献1の特開昭62−30255号公報)、5−〔4−(N,N−ジ−p−トリルアミノ)ベンジリデン〕−5H−ジベンゾ〔a,d〕シクロヘプテン(特許文献2の特開昭63−225660号公報)、9−メチルカルバゾール−3−アルデヒド 1,1−ジフェニルヒドラゾン、ピレン−1−アルデヒド 1,1−ジフェニルヒドラゾン(特許文献3の特開昭58−159536号公報)、4‘−ビス(4−メチルフェニル)アミノ−α−フェニルスチルベン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4‘−ジアミン、9,9−ジメチル−2−(ジ−p−トリルアミノ)フルオレンなどがある。一般的な電荷輸送層はこれら低分子電荷輸送材料をバインダー樹脂中に分子分散させた約10〜30μm程度の固溶体膜である。また、このバインダー樹脂としてほとんどの電子写真感光体においてビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂もしくはそれらと他の樹脂との共重合体が用いられている。しかしながら、これらの電荷輸送材料では今後のより速いプロセススピードに充分に対応できるほどの応答性を有していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、上記従来技術から鑑みて、本発明の目的は、応答性の高い感光体を得るための有機光導電体として有用なN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、本発明の(1)〜(2)により解決される。
即ち、(1)「下記一般式(1)
【0007】
【化1】


(R、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のフェニルまたは置換もしくは無置換のフェノキシ基を表わし、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のフェニルまたは置換もしくは無置換のフェノキシ基を表わし、もしくは下記一般式(2)を表わす。);
【0008】
【化2】

,Rは置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のフェニル基を表わす。また、lは1から4の整数、m,nは1から5の整数を表わす。)で表わされるN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体。」:
【0009】
(2)「下記一般式(3)のジケトン誘導体と下記一般式(4)のアニリン誘導体とを反応させることを特徴とする上記一般式(1)のN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体の製造方法;
【0010】
【化3】

【0011】
【化4】


(式中、R、R、R、l、m、nは前記と同様の基、整数を表す。)。」。
【発明の効果】
【0012】
以下の詳細かつ具体的な説明から明らかなように、本発明の前記一般式(1)で表わされる新規なN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体は、有機トランジスタ、有機EL素子、有機太陽電池などの導電性素材として有用であり、とりわけ電子写真用感光体に於ける光導電性素材として有用である。更にこのものは、有機顔料あるいは無機顔料を電荷発生材料とする、所謂機能分離型感光体に於ける電荷輸送材料として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた本発明のN−(3−メチルフェニル)−2,5−ジフェニルイソインドールの赤外線吸収スペクトル図(KBr錠剤法)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
前記したように、前記一般式(1)で表わされるN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体は新規誘導体であって対応する前記一般式(3)で表わされるジケトン誘導体と、前記一般式(4)で表わされるアニリン誘導体とを反応させることにより製造することができる。
これらを製造するには、原料混合物に例えば触媒量のパラトルエンスルホン酸一水和物等と溶媒の存在下で、150〜250℃程度の温度において反応させ、その反応溶液をジクロロジシアノキノンなどの酸化剤で酸化させることにより製造することができる。反応溶媒としては、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、キノリン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどを挙げることができる。
【0015】
本発明の前記一般式(1)で表わされるN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体、前記一般式(3)で表わされるジケトン誘導体、前記一般式(4)で表わされるアニリン誘導体におけるR、R及びR基の具体例として、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの低級アルキル基が、またアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの低級アルコキシ基が挙げられる。更に、アルキル基、アルコキシ基における置換基としては、フェニル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、フェニルオキシ基などが挙げられ、またフェニル基、フェノキシ基における置換基としては、低級アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など、低級アルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基など及びハロゲン原子、例えばフッ素、臭素、塩素などが挙げられる。
【0016】
本発明の前記一般式(1)で表わされる新規なN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体は、有機トランジスタ、有機EL素子、有機太陽電池などの導電性素材としても有用でありとりわけ電子写真用感光体に於ける光導電性素材として有用である。更にこのものは、有機顔料あるいは無機顔料を電荷発生材料とする、所謂機能分離型感光体に於ける電荷輸送材料として極めて有用である。
【0017】
有機顔料としては、シーアイピグメントブルー25(カラーインデックスCI 21180)、シーアイピグメントレッド41(CI 21200)、シーアイアシッドレッド52(CI 45100)、シーアイベーシックレッド3(CI 45210)、カルバゾール骨格を有するアゾ顔料(特開昭53-95033号公報に記載)、ジスチリルベンゼン骨格を有するアゾ顔料(特開昭53-133445号公報)、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料(特開昭53-132347号公報に記載)、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料(特開昭54-21728号公報に記載)、オキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料(特開昭54-12742号公報に記載)、フルオレノン骨格を有するアゾ顔料(特開昭54-22834号公報に記載)、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料(特開昭54-17733号公報に記載)、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料(特開昭54-2129号公報に記載)、ジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料(特開昭54-14967号公報に記載)、ベンズアントロン骨格を有するアゾ顔料などのアゾ顔料。例えば、シーアイピグメントブルー16(CI 74100)、Y型オキソチタニウムフタロシアニン(特開昭64−17066号公報)、A(β)型オキソチタニウムフタロシアニン、B(α)型オキソチタニウムフタロシアニン、I型オキソチタニウムフタロシアニン(特開平11−21466号公報に記載)、II型クロロガリウムフタロシアニン(飯島他,日本化学会第67春季年回,1B4,04(1994))、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン(大門他,日本化学会第67春季年回,1B4,05(1994))、X型無金属フタロシアニン(米国特許第3,816,118号)などのフタロシアニン系顔料、シーアイバットブラウン5(CI 73410)、シーアイバットダイ(CI 73030)などのインジコ系顔料、アルゴスカーレットB(バイエル社製)、インタンスレンスカーレットR(バイエル社製)などのペリレン顔料などが挙げられる。なお、これらの材料は単独あるいは2種類以上が併用されても良い。また、セレン、セレン−テルル、硫化カドミウム、α−シリコン等の無機顔料も使用できる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
[N−(3−メチルフェニル)−2,5−ジフェニルイソインドールの製造]
【0020】
【化5】

【0021】
下記構造式(5)のジケトン誘導体(4.36g,15.0mmol),3−メチルトルイジン(4.82g,45.0mmol),1,2,4−トリクロロベンゼンを混合し、200℃にて3時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応溶液をメタノールにあけ、沈殿を析出させた。その沈殿をろ取し、ジクロロメタン100mlに溶解させ、2,3−ジシアノ4,5−ジクロロキノン(3.0g,13.2mmol)を加え30分室温で撹拌した。そこに水を加え、ジクロロメタンにて抽出し、水洗をおこなった。有機層を減圧濃縮し得られた黒色の固体をシリカゲルカラム処理〔溶離液:ジクロロメタン〕し、下記構造式(5)で表わされる薄黄色粉末のN−(3−メチルフェニル)−2,5−ジフェニルイソインドール1.0g(収率30.6%)を得た。
【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
得られた誘導体の融点は201.5〜202.0℃であり、またその元素分析値はC2721Nとして下記のとおりであった。
C H N
実測値 90.2 5.9 3.9
計算値 90.2 5.9 3.8
この誘導体の赤外吸収スペクトル(KBr錠剤法)を図1に示す。
【実施例2】
【0025】
[N−(4−メチルフェニル)−2,5−ジフェニルイソインドールの製造]
実施例1と同様な条件で、その余のN−フェニルイソインドール誘導体を得た。得られた誘導体の化学構造式、融点、元素分析値を表1に示す。
【実施例3】
【0026】
[N−(3−メトキシメチルフェニル)−2,5−ジフェニルイソインドールの製造]
実施例1と同様な条件で、その余のN−フェニルイソインドール誘導体を得た。得られた誘導体の化学構造式、融点、元素分析値を表1に示す。
【実施例4】
【0027】
[N−(4−メトキシメチルフェニル)−2,5−ジフェニルイソインドールの製造]
実施例1と同様な条件で、その余のN−フェニルイソインドール誘導体を得た。得られた誘導体の化学構造式、融点、元素分析値を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
[応用例1]
ポリカーボネート樹脂[(株)帝人製パンライトK−1300]1部とテトラヒドロフラン8部の樹脂溶液に、電荷輸送物質として上記式(化5)で表わされるN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体1部を溶解し、この溶液をアルミニウム板上にドクターブレードで塗布し、80℃で5min、ついで135℃で20min乾燥して厚さ約15μmの薄膜を形成した。このフィルム上に更に金電極を蒸着し、サンドウィッチセルを作製した。このように構成した素子を用いてタイムオブフライト法により、キャリア移動度を測定したところ、電界強度250000Vcm−1において7.6×10−4cm−1−1の高速なキャリア移動度を示した。
【0030】
[比較例1]
以下の構造式(7)で表わされるアミン化合物を応用例と同様な操作にて薄膜、サンドウィッチセル作製、キャリア移動度測定をおこなったところ、電界強度250000Vcm−1において1.2×10−4cm2−1−1であった。
【0031】
【化8】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】特開昭62−30255号公報
【特許文献2】特開昭63−225660号公報
【特許文献3】特開昭58−159536号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】


(R、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のフェニルまたは置換もしくは無置換のフェノキシ基を表わし、Rは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のフェニルまたは置換もしくは無置換のフェノキシ基を表わし、もしくは下記一般式(2)を表わす。
【化2】

,Rは置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のフェニル基を表わす。また、lは1から4の整数、m,nは1から5の整数を表わす。)で表わされるN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体。
【請求項2】
下記一般式(3)のジケトン誘導体と下記一般式(4)のアニリン誘導体とを反応させることを特徴とする上記一般式(1)のN−フェニル−ジフェニルイソインドール誘導体の製造方法。
【化3】

【化4】


(式中、R、R、R、l、m、nは前記と同様の基、整数を表す。)

【図1】
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【公開番号】特開2012−62249(P2012−62249A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205356(P2010−205356)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】