N−プロパルギル−1−アミノインダン、これらの塩、組成物、及びこれらの使用
【課題】R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン及びその薬学的に許容しうる塩、並びにこれらを含有する薬学的組成物を提供する。
【解決手段】R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又はその薬学的に許容しうる塩を使用する、パーキンソン症、記憶障害、痴呆、鬱病、運動高進症候群、感情の病気、神経退行性疾患、神経毒性傷害、脳虚欠症、頭部外傷傷害、脊髄外傷傷害、精神分裂症、注意力欠損症、多重硬化症、又は禁断症状に悩まされている患者を治療する方法であり、更に患者の神経のダメージを防止する方法。R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンその塩、及びラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを製造する方法。
【解決手段】R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又はその薬学的に許容しうる塩を使用する、パーキンソン症、記憶障害、痴呆、鬱病、運動高進症候群、感情の病気、神経退行性疾患、神経毒性傷害、脳虚欠症、頭部外傷傷害、脊髄外傷傷害、精神分裂症、注意力欠損症、多重硬化症、又は禁断症状に悩まされている患者を治療する方法であり、更に患者の神経のダメージを防止する方法。R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンその塩、及びラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
この出願は、1993年、10月18日に提出された米国出願番号08/139,517の継続であり、その内容は、参照文献として本出願の一部をなす。
【0002】
本発明の背景
I.
本発明は、モノアミンオキシダーゼ酵素(これ以後MAOと称する。)の選択的不可逆的な阻害剤の分野に属し、モノアミンオキシダーゼ酵素のB−型(これ以後MAO−Bと称する。)の選択的不可逆的阻害剤であるN−プロパルギル−1−アミノインダンのR(+)エナンチオマー(これはまた、ここではPAIと称する。)を提供する。本発明はまた、[R](+)−PAIを含有する薬学的組成物であって、特に、パーキンソン病、記憶障害、痴呆、鬱病、活動高進症候群、感情の病気、神経退行性疾患、神経毒性傷害、脳虚血症、頭の外傷性傷害、脊髄の外傷性傷害、精神分裂症、注意力欠損症、多発性硬化症、及び禁断症状の治療に有効なものも提供する。
【0003】
II.
パーキンソン症は、脳内のシナプス前部のドーパミン作用性ニューロンの退化と、これに続く、遊離される神経伝達物質であるドーパミンの量の減少の結果起こると広く考えられている。従って、不十分なドーパミンの遊離は、自発的な筋肉のコントロールの傷害の始まりに導く(該傷害の始まりは、パーキンソン症の兆候である。)。
【0004】
パーキンソン症を治療する種々の方法が確立されており、例えば、L−ドーパをL−カルビドパ若しくはベンゼラジド(benserazide)のようなデカルボキシラーゼ阻害剤と共に投与することを含めて、現在広く使用されている。デカルボキシラーゼ阻害剤は、抹消の脱カルボキシル化からL−ドーパ分子を保護し、これによって脳の線条での残りのドーパミン作用性ニューロンによるL−ドーパの取り込みを保証する。ここで、L−ドーパは、ドーパミンに変換され、これらのニューロンでのドーパミンのレベルを増加させる。従って、生理学的な刺激への応答で、これらのニューロンは、正常に要求されるレベルに近いレベルで大量のドーパミンを放出することができる。このように、L−ドーパでの治療は、疾患の兆候を緩和し、患者の安寧に寄与する。
【0005】
しかし、L−ドーパによる治療には欠点があり、その主要なものは、その効果が治療の最初の数年間のみ最適であることである。この期間以後は、臨床応答が減少し、運動異常、一日中の薬効の変動(「オン−オフ効果」)並びに、錯乱状態、パラノイア及び幻覚のような精神医学的兆候を含む有害な副作用を伴う。L−ドーパ治療におけるこの減少は、疾患の自然進行、ドーパミンの産生の増加若しくはドーパミン代謝物のレベルの増加の結果としてのドーパミン受容体の変性、及びL−ドーパ吸収の薬動力学的問題を含めた多くの因子に起因する(総説、Youdim et al., Progress in Medicinal Chemistry, 21, 138-167 (1984))。
【0006】
L−ドーパによる治療の不利益を克服するために、種々の治療が案出されており、この治療においては、L−ドーパは、新たに形成されたドーパミンの代謝分解物を減少する目的でMAO阻害剤と組み合わされる(例えば、1989年3月2日に発行されたChiese, P.,米国特許4,826,875を参照)。
【0007】
MAOは、MAO−A及びMAO−Bとして知られる2種類の形態で存在し、これらは、異なった基質及び阻害剤に対して選択的である。例えば、MAO−Bは、2−フェニルエチルアミンのような基質をより効果的に代謝し、以下に示されるように(−)−デプレニルによって選択的に及び不可逆的に阻害される。
【0008】
しかし、L−ドーパとMAO−A及びMAO−Bの両方の阻害剤と組み合わせて治療することは、こららの治療が脳脊髄幹の全体にわたるカテコールアミンのレベルの増加に関連した有害な副作用に導くので、望まれないことに注意すべきである。更に、MAOの完全な阻害はまた、MAOがチラミンのような交感神経興奮作動性アミンの作用(これはいわゆる「チーズ効果」に導く。)を増すので、望ましくない(総説、Youdim et al., Handbook of Experimental Pharmacology, ed. by Trendelenburg and Weiner, Springer-Verlag, 90, ch. 3 (1988))。MAO−Bが脳のMAOの優勢な形態であることが示されているので、この型に選択的な阻害剤は、一方でドーパミンの分解を減少させ、加えて他方で全MAOの阻害の全身性の影響を最小にするための可能な手段であると考えられる。
【0009】
MAOの多くの阻害剤は、キラルな分子である。一方のエナンチオマーはしばしば、MAO−A及び−Bに対する相対的な有効性に幾つかの立体選択性を示すが、与えられたエナンチオマーの配置がMAO−AとMAO−Bの間を識別することにおいて、その鏡像異性体よりも必ずしも選択的でない。
【0010】
表IにMAOのラット脳での産生におけるプロパルギルアミンのエナンチオマー対のIC50(mmol/L)を列挙した。これらの結果は、R及びSエナンチオマー間でのMAO−Bの阻害の有効性に僅かの差を示した(B. Hazelhoff, et al.,Naunyn-Schmeideberg's Arch. Pharmacol., 330, 50 (1985))。両エナンチオマーは、MAO−Bに選択的である。1967年に、Magyar, et al.は、ラット脳のホモジネートによるチラミンの酸化的脱アミノ化を阻害することにおいて、R−(−)−デプレニルがS−(+)エナンチオマーよりも500倍強力であることを報告した(K. Magyar, et al., Act. Physiol. Acad. Sci., Hung., 32, 377 (1967))。
【0011】
ラット肝臓ホモジネートでは、R−デプレニルは、Sエナンチオマーの強さのわずか15倍程度であった。チラミンの取り込みの阻害に対するような他の薬理学的な活性のアッセイでは、デプレニルは異なった立体選択性を示す。S型は、幾つかの場合に、より強力なエピマーである(J. Knoll and K. Magyar, Advances in Biochemical Psychopharmacology, 5, 393 (1972))。
【0012】
N−メチル−N−プロパルギル−1−アミノテトラリン(2−MPAT)は、デプレニルの構造上密接な類似体である。2−MPATの絶対立体化学は決定されていない。しかし、(+)−異性体はMAO−Bに対して選択的であり、(−)異性体はMAO−Aに対して選択的である。2−MPATのエナンチオマー間の有効性の差は、5倍以下である(B. Hazelhoff, et al., id.)。N−プロパルギル−1−アミノテトラリン(1−PAT)のエタンチオマーも活性において同様である。単離された(+)−又は(−)−2−MPATの間の構造上の明確な活性の関係を示すデータが表Iで欠如しているので、これらの絶対立体化学を予言することが困難となっている。
【0013】
広範なコンピュータモデリングの後、Polymerpoulosは、(R)−N−メチル−N−プロパルギル−1−アミノインダン(R−1−MPAI)が、MAO−B阻害剤としての(S)よりも強力であることを最近予言した(E. Polymerpoulos, Inhibitors of Monoamine Oxidase B, I. Szelenyi, ed., Birkhauser Verlag, p.110 (1993))。しかし、示された実験は、R−1−MPAIがS−1−MPAIよりも僅かに強いMAO−Bの阻害剤であるが、MAO−Aのより強力な阻害剤であることを示している。MAO−A及びMAO−Bの間の選択性、並びにR及びSエピマーの相対的な有効性の両方とも低かった。従って、当分野での予想とは逆に、1−MPAIは薬剤として役にたたない。
【0014】
以下に示すデータは、一方のエナンチオマーに対する他方のMAOに対する高い選択性が、予想できないことを示している。MAO活性部位の構造が、相対的な有効性の予想又は与えられた何れかの化合物若しくはこれらのエナンチオマー対の選択性を可能にするほど十分には理解されていない。
【表1】
【0015】
選択的なMAO−B阻害剤の1つである(−)−デプレニルは、広範囲に研究されており、L−ドーパ治療を増加するためのMAO−B阻害剤として使用される。(−)−デプレニルでのこの治療は、一般には有効であるが、MAO−Bのほぼ完全な阻害を起こす投与量で「チーズ効果」を起こさない(Elsworth, et al., Psychopharmacology, 57, 33 (1978))。更に、(−)−デプレニルを、パーキンソン病の患者に投与されるL−ドーパ及びデカルボキシラーゼ阻害剤の組み合わせに添加することは、無運動及び全体の機能力の改善、並びにオン−オフタイプの変動の除去に結びつく(総説、Birk-mayer & Riederer in "Perkinson's Disease," Springer-Verlag, pp. 138-149 (1983))。従って、(−)−デプレニルは、(a)L−ドーパの効果を増強し、長引かせ、L−ドーパ治療の有害な効果を増加させない。
【0016】
しかし、(−)−デプレニルはそれ自身、先在する胃潰瘍の活性化及び時折の高血圧症状の発現を含めた有害な副作用を有している。更に、(−)−デプレニルは、アンフェタミン誘導体であり、アンフェタミン及びメタンフェタミン(これらの物質は、心拍数を増加させるような望まない副作用を起こすに代謝される(Simpson, Biochemical Pharmacology, 27, 1951 (1978); Finberg, et al., in "Monoamine Oxidase Inhibitors - The State of the Art," Youdim and Paykel, eds., Wiley, pp.31-43 (1981))。
【0017】
MAO−Bの選択的不可逆的阻害剤であるが、(−)−デプレニルに付随する望まない効果を有さない他の化合物が望まれている。このような化合物の一つとして、N−プロパルギル−1−アミノインダン・HCl(ラセミ体PAI・HCl)が、GB1,003,686及びGB1,037,014並びに1970年5月19日に発行された米国特許第3,513,244に開示されている。ラセミ体のPAI・HClは、強力で、選択的なMAO−Bの不可逆的阻害剤であり、アンフェタミンに代謝されず、望まない交感神経興奮作用性効果を起こさない。
【0018】
比較動物試験では、ラセミ体PAIは(−)−デプレニル以上のかなりの有益性を有することが示された。例えば、ラセミ体のPAIは重要な頻脈を起こさず、血圧を増加させず(5mg/kgの(−)−デプレニルの投与量によりもたらされる影響)、5mg/kgまでの投与量で瞬膜の収縮又は心拍数の増加を起こさない(0.5mg/kg以上の投与量で(−)−デプレニルにより起こる影響)。更に、ラセミ体のPAI・HClは、チラミンの心血管系の影響を強めない(Finberg, et al., in "Enzymes and Neurotransmitters in Mental Disease," pp. 205-219(1980), Usdin, et al., Eds., Wiley, New York; Finberg, et al. (1981), in "Monoamine Oxidase Inhibitors - The State of the Art," ibid.; Finbergand Youdim, British Journal Pharmacol., 85, 451 (1985))。
【0019】
本発明の根本的な目的の一つは、ラセミ体のPAI化合物を分離すること、及びMAO阻害活性を持ったエナンチオマーであって、他のエナンチオマーに付随するいずれの望まない副作用も有さないものを得ることである。
【0020】
デプレニルがPAIと同様の構造を有しおり、デプレニルの(−)−エナンチオマー、即ち(−)−デプレニルが、(+)−エナンチオマーよりもかなり薬学的に活性であることが知られているので、PAIの(−)−エナンチオマーがより活性なMAO−B阻害剤であると予想できるであろう。
【0021】
しかし、このような予想に反して、実際には(+)−PAIエナンチオマーが活性なMAO−B阻害剤であるが、(−)−エナンチオマーが非常に低いMAO−B阻害活性を示すことが見出されている。更に、(+)−PAIエナンチオマーはまた、MAO−B阻害に対する選択性の程度が対応するラセミ型のそれよりも驚くほど高く、指示された疾患の治療において、ラセミ混合物よりも望まない副作用が少なくなければならない。これらの所見は、以下でより詳細に議論するin vitro及びin vivo実験の両方を基にしている。
【0022】
(+)−PAIが、Rの絶対配置を有することが引き続き示された。この発見はまた、デプレニル及びアンフェタミンと(+)−PAI類似体の予想した構造上の類似性に基づけば、驚くべきことである。
【0023】
以下に議論するように[R](+)PAI及びS(−)エナンチオマーの間の薬理学的活性の高い立体選択性も注目すべきことである。化合物[R](+)PAIはMAO−Bの阻害に関してS(−)エナンチオマーよりも活性がほぼ四オーダーの大きさである。この割合は、2種類のデプレニルエナンチオマー間で観測されたものよりも十分に高い(Knoll and Magyar, Adv. Biochem. Psychopharmacol., 5, 393 (1972); Magyar, et al., Acta Physiol. Acad. Sci. Hung., 32, 377 (1967))。更に、幾つかの生理学的試験では、(+)−デプレニルは、(−)エナンチオマーの活性と等しいか、又はそれよりもいっそう高い活性を有することが報告されている(Tekes, et al., Pol. J. Pharmacol. Pharm., 40,653 (1988))。
【0024】
MPAIはMAO活性のより強い阻害剤であるが、MAO−A以上にMAO−Bに対する選択性が低い(Tipton, et al., Biochem. Pharmacol., 31, 1250 (1982))。驚くべきことに、2種類の決定されたエナンチオマーの相対的活性の違いの程度が小さいことのみがMPAIで観測されたので(R)(+)PAIの注目すべき挙動が更に明確になる(表IB参照)。
【0025】
本発明の目的はまた、パーキンソン症、記憶障害、痴呆、鬱病、運動高進症候群、感情の病気、神経退行性疾患、神経毒性傷害、脳虚血、頭の外傷性傷害、脊髄の外傷性傷害、精神分裂症、注意力欠損症、多発性硬化症、又は禁断症状の治療に薬学的に活性なPAI−エナンチオマーを単独で(L−ドーパを用いずに)使用する方法を提供することである(Youdim, et al.,による総説、in Handbookof Experimental Pharmacology, Trendelenberg and Wiener, eds., 90/I, ch.3 (1988)を参照)。
【0026】
本発明は更に、パーキンソン症の治療のための薬学的に活性なPAI−エナンチオマーを単独で使用する方法を提供する。本発明はまた、[R](+)PAI及びレボドパのような共同作用的な薬剤を含有する薬学的組成物を提供する。このような薬剤の使用は、初期のパーキンソン症患者に単独で投与されたときに効果を示し、α−トコフェロール、ビタミンE誘導体と供に投与されたときにこれらの患者に共同作用性の効果も有しうる(−)−デプレニルに関して研究されている(The Perkinson's Study Group, New England J. Med., 321(20), 1364-1371 (1989))。
【0027】
パーキンソン症を治療する場合のこの有用性に加えて、(−)−デプレニルはまた、アルツハイマータイプの痴呆(DAT)に罹っている患者の治療(Tariot, et al., Psycho-pharmacology, 91, 489-495 (1987))、及び鬱病の治療(Mendelewicz and Youdim, Brit. J. Psychiat. 142, 508-511 (1983))に有効であることが示されている。本発明の[R](+)PAI化合物及び特にそのメシレート塩は、記憶を回復させることが示されている。従って、[R](+)PAIは、記憶障害、及び痴呆、特に子どものアルツハイマー型のものを治療するための可能性を有する。
【0028】
最後に、本発明は、優れた薬学的特性を有する[R](+)PAIの非常に安定な塩を提供する。メシレート塩が特に安定であり、予想し得なかったより高い選択性を示し、対応するラセミ体の塩よりも十分に低い副作用を示した。
【0029】
本発明の概要
本発明は、下記構造を有するR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを提供する。
【化1】
【0030】
本発明は更に、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの薬学的に許容しうる塩を提供する。
【0031】
本発明は更に、治療に効果的な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン若しくはその薬学的に許容しうる塩及び薬学的に許容しうる担体を含有する薬学的組成物を提供する。
【0032】
本発明は更に、パーキンソン症に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者のパーキンソン症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又はその薬学的に許容しうる塩を該患者に投与することを具備した方法を提供する。
【0033】
本発明は、記憶障害に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の記憶障害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0034】
本発明は、痴呆に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の痴呆を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。一態様では、痴呆はアルツハイマータイプ(DAT)である。
【0035】
本発明は、鬱病に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の鬱病を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0036】
本発明は、活動高進症候群に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の活動高進症候群を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0037】
本発明は、感情の病気に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の感情の病気を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0038】
本発明は、神経退行性疾患に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の神経退行性疾患の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0039】
本発明は、神経毒性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の神経毒性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0040】
本発明は、脳虚血症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の脳虚血症の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0041】
本発明は、頭の外傷性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の頭の外傷性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0042】
本発明は、脊髄の外傷性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の関随の外傷性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0043】
本発明は、精神分裂症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の精神分裂症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0044】
本発明は、注意力欠損症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の注意力欠損症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0045】
本発明は、多発性硬化症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の多発性硬化症の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0046】
本発明は、患者の神経の損傷を防止する方法であって、該患者の神経の損傷を防止するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0047】
本発明は、嗜癖物質からの禁断症状に苦しんでいる患者を治療するための方法であって、該患者の禁断症状を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0048】
本発明は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを製造するための方法であって、有機若しくは無機塩基の存在下に、R(−)−アミノインダンを臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギル又はベンゼンスルホン酸プロパルギルと接触させ、これによってR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを形成させ、このように形成されたR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを単離することを具備した方法を更に提供する。
【0049】
本発明は、ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを製造するための方法であって、有機若しくは無機塩基の存在下で、ラセミ体の1−アミノインダンを臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギルと接触し、これによってラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを形成させ、このように形成されたラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを単離することを具備した方法を更に提供する。
【0050】
最後に、本発明は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩を製造するための方法であって、ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを光学活性な酸と接触させ、これによって2種類のジアステレオマーのN−プロパルギル−1−アミノインダン塩を形成させ、このように形成されたジアステレオマーのN−プロパルギル−1−アミノインダン塩からR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩を単離することを具備した方法を更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】in vitroでのMAO−A阻害活性を示す例22に従った結果をグラフで表したものである。
【図2】in vitroでのMAO−B阻害活性を示す例22に従った結果をグラフで表したものである。
【図3A】ヒト皮質組織におけるMAO活性を示す例22に従った結果をグラフで表したものである。基質は14Cで標識されたフェニルエチルアミン(PEA)である。
【図3B】ヒト皮質組織におけるMAO活性を示す例22に従った結果をグラフで表したものである。基質は14Cで標識された5−ヒドロキシトリプタミン(5−HT)である。
【図4】脳におけるMAO−Aの短期阻害(i.p.)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図5】脳におけるMAO−Bの短期阻害(i.p.)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図6】肝臓におけるMAO−Aの短期阻害(i.p.)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図7】肝臓におけるMAO−Bの短期阻害(i.p.)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図8】脳におけるMAO−Aの短期阻害(per os)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図9】脳におけるMAO−Bの短期阻害(per os)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図10】肝臓におけるMAO−Aの短期阻害(per os)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図11】肝臓におけるMAO−Bの短期阻害(per os)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図12】脳におけるMAO−Aの長期阻害(per os)を示す例24に従った結果をグラフで表したものである。
【図13】脳におけるMAO−Bの長期阻害(per os)を示す例24に従った結果をグラフで表したものである。
【図14】肝臓におけるMAO−Aの長期阻害(per os)を示す例24に従った結果をグラフで表したものである。
【図15】肝臓におけるMAO−Bの長期阻害(per os)を示す例24に従った結果をグラフで表したものである。
【図16】[R](+)PAIのi.p.投与後の時間の関数として、ラット脳におけるMAO−B活性を示す例25に従った結果をグラフで表したものである。
【図17】ハロペリドール6mg/kg s.c.を投与されたマウスにおける正常動揺病(normokinesia)の回復を示す例32に従った結果をグラフで表したものである。マウスは、各試験薬物をi.p.で示された投与量で投与された。2時間後、これらにハロペリドールを投与した。ハロペリドールの後3時間で動力学的な評点を取った。これらの評点は、棒に沿って水平に動く能力、垂直な棒を降りる能力、及びカタレプシーの短縮よりなる。ハロペリドールが存在しない場合、最大の評点は12であり、ハロペリドール単独で6.8±0.03である。統計的な優位性はStudent'sの「t」試験で計算した。これらは、ハロペリドール単独に対して*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001である。[R](+)PAIの評点は、5mg/kg(p≦0.05)、10mg/kg(p≦0.01)、及び15mg/kg(p≦0.05)(n=5.6)でラセミ体のPAIの評点と有意に異なっている。示された投与量は、PAIの遊離の塩基に対するものである(メシレート塩のものではない。)。
【図18】100mg/kg i.p.においてα−メチル−p−チロシンで処理されたラットの運動活性の回復を示す例32に従った結果をグラフで表したものである。ラットは、示された投与量で、i.p.により試験化合物を投与された。2時間後、これらにα−Mptを投与し、迅速に活動用のかごに置いた。全運動活性を十時間継続し記録した。生理食塩水で処理した対照のラットはわずか15,862+1424を記録したのみであった。α−Mpt単独では、ラットは8,108±810を記録した。Student'sの「t」試験による統計的な優位性は、α−Mptに対して*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001である。[R](+)PAIの評点は、2mg/kgでのラセミ体のPAIと有意に異なっている(p≦0.01)、(n=6)。示された投与量は、PAIの遊離の塩基に対するものであり、メシレート塩ではない。
【図19】傷害の後30分、及びこの後30分のインターバルで測定された2分間の無酸素症に対するNADH応答を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の詳細な説明
本発明は、下記構造のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを提供する。
【化2】
【0053】
以下の実験例で示されるように、[R](+)PAIは、MAO−Bの阻害剤としての活性が[S](−)PAIのほぼ7,000倍である。MAO−A及びMAO−Bの間で低い選択性を有し、R又はS配置の機能としての強さに関して予想可能な傾向を示さない当分野の公知のMAO−B阻害剤を考慮すれば、[R](+)PAIの選択性及び強さは予想外である。
【0054】
[R](+)PAIは、PAIのR−及びS−エナンチオマーのラセミ混合物の光学分割によって得ることができる。このような分割は、J. Jacques, A. Collet and S. Wilen, "Enantiomers, Racemates and Resolutions," Wiely, New York (1981)に開示されているような当業者に周知の、何れかの従来の分割方法によって達成されうる。例えば、分割は、キラルカラム上での分取クロマトグラフィーによって行われうる。適切な分割方法の他の例は、酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸、又はN−アセチルロイシンのようなアミノ酸のN−アセチル誘導体のようなキラルな酸を用いたジアステレオマー塩を形成させ、次いで再結晶し、所望のRエナンチオマーのジアステレオマー塩を単離することである。PAIのR及びSエナンチオマーのラセミ混合物は、例えば、GB1,003,676及びGB1,037,014に開示されているようにして調製される。PAIのラセミ混合物はまた、1−クロロインダンとプロパルギルアミンを反応することによっても調製することができる。この他には、このラセミ混合物は、プロパルギルアミンを1−インダノンと反応し、対応するイミンを形成させ、次いで水素化ホウ素ナトリウムのような適切な試薬でイミンの炭素−窒素二重結合を還元することによって調製することができる。
【0055】
本発明に従えば、PAIのRエナンチオマーは、有機若しくは無機塩基の存在下、及び必要に応じて適切な溶媒の存在下で、臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギル又はベンゼンスルホン酸プロパルギルと反応することによって、1−アミノインダンの光学活性なR−エナンチオマーから直接に調製することもできる。
【0056】
上記の反応に使用するための適切な有機若しくは無機塩基には、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、アルカリ金属炭酸塩、及び重炭酸塩が含まれる。反応が溶媒の存在下で行われる場合は、該溶媒は、例えばトルエン、塩化メチレン、及びアセトニトリルから選択されうる。[R](+)PAIを製造する1つの方法は、R−1−アミノインダンと塩化プロパルギルを、塩基として重炭酸カリウム及び溶媒としてアセトニトリルを使用して反応することである。
【0057】
上記の1−アミノインダンの反応は、一般に、反応しない一級アミン、所望の二級アミン及び三級アミンであるN,N−ビスプロパルギルアミノ生成物の混合物を生じる。所望の二級アミン、即ちN−プロパルギル−1−アミノインダンは、例えばクロマトグラフィー、蒸留及び選択的な抽出を含めた従来の分離方法によってこの混合物から単離され得る。
【0058】
出発物質であるR−1−アミノインダンは、例えばLawson and Rao, Biochemisty, 19, 2133 (1980)の方法、これに含まれる参照文献の方法、及び欧州特許第235,590の方法を含めたと分野で公知の方法によって製造することができる。
【0059】
R−1−アミノインダンはまた、例えば、キラルな酸とのジアステレオマーの形成を含めたR及びSエナンチオマーのラセミ混合物の分割、又はJ. Jacques,et al., ibid.に報告されたような何れかの他の公知の方法によっても調製することができる。他の方法としては、R−1−アミノインダンは、1−インダノンと光学活性なアミンとを反応し、次いで得られたイミンの炭素−窒素二重結合をパラジウム炭、三価白金又はラネーニッケルのような適切な触媒上で水素化することによって還元して調製することができる。適切な光学活性アミンには、例えばフェネチルアミンの対掌対の一方又は、バリン若しくはフェニルアラニンのようなアミノ酸のエステルが含まれる。ベンジル様のN−C結合は、激しくない条件下で水素化することによって引き続き開裂されうる。
【0060】
R−1−アミノインダンを調製するための追加の方法は、上記のようなインダン−1−オンオキシムエステル(但し、該エステルのアルキル部分には光学的に純粋なキラル中心が含まれる。)の水素化である。この他のには、イミン若しくはオキシムのような炭素−窒素二重結合を含むインダン−1−オンのキラルでない誘導体を、キラルな還元剤、例えば水素化アルミニウムリチウムとエフェドリンの錯体で還元しうる。
【0061】
本発明は更に、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの薬学的に許容しうる塩を提供する。
【0062】
本発明の実施において、薬学的に許容しうる塩には、メシレート、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、塩酸塩、臭素酸塩、エシレート、p−トルエンスルホネート、安息香酸塩、酢酸塩、リン酸塩及び硫酸塩が含まれるが、これらに制限されない。
【0063】
一態様では、該塩は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンのメシレート塩、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンのエシレート塩、及びR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの硫酸塩よりなる群から選択される。
【0064】
以下の実験例で示されるように、メシレート塩が熱分解に対して非常に安定であり、ラセミ体の塩よりも予想外にMAO−Bに対して優れた選択性を示した。
【0065】
[R](+)PAIの化合物の薬学的に許容しうる酸付加塩を調製するためには、遊離の塩基を、適切な溶媒の存在下において従来の方法で所望の酸と反応させる。同様に、酸付加塩は、公知の方法で遊離の塩基の形態に変換されうる。
【0066】
[R](+)PAIのメシレート塩を調製する好ましい方法には、(a)ベンゼンスルホン酸プロパルギル(又はトシレート若しくはメシレート)のトルエン溶液に15%の水酸化ナトリウム水溶液を加えること;(b)5時間撹拌すること;(c)追加のトルエン及び水を加えること;(d)有機層を分離し、10%水酸化ナトリウムで洗浄し、次いで水で希釈すること;(e)混合物のpHを10%硫酸水溶液で3.2に調節すること;(f)水層を分離し、10%水酸化ナトリウムでpHを7.3に調節すること;(g)pHを維持しながらトルエンで3回抽出すること;(h)有機層を合わせ減圧下に濃縮し、黄色のオイルを得ること;(i)該オイルとL−酒石酸をイソプロパノールに溶解すること;(j)1時間加熱還流すること;(k)室温に冷却し、濾過によって沈殿を集めること;(l)粗製のジ−プロパルギルアミノインダン酒石酸塩をメタノール/イソプロパノール(1:1)から再結晶し、ジ(R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン)酒石酸塩を得ること;(m)該酒石酸塩とメタンスルホン酸をイソプロパノールに溶解し、30分加熱還流すること;及び(n)室温に冷却し、沈殿したR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを集めることが含まれる。
【0067】
本発明は、更に、治療に効果的な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩及び薬学的に許容しうる担体を含有する薬学的組成物を提供する。「治療に効果的な量」のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩は、当業者に周知の方法に従って決定されうる。
【0068】
このような組成物に使用される可能な塩には、塩酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、メシレート、エシレート、及び硫酸塩が含まれる。
【0069】
これらの組成物は、経口、非経口、直腸、又は経皮的に投与されうる医薬として調製されうる。
【0070】
一態様では、該薬学的に許容しうる担体は固体であり、該薬学的組成物は錠剤である。治療に効果的な量は、約0.1mgから約100mgの量でありうる。治療に効果的な量はまた、約1mgから約10mgでありうる。
【0071】
経口投与にて記した形態には、錠剤、圧縮若しくはコートされたピル、糖衣錠、セシェイ(sachets)、硬質若しくは軟質ゼラチンカプセル、舌下錠、シロップ及び懸濁液が含まれる。
【0072】
他の態様では、薬学的に許容しうる担体は液体であり、該薬学的組成物は注射可能な溶液である。治療に効果的な量は、約0.1mg/mlから約100mg/mlの量であり得る。治療に効果的な量はまた、約1mg/mlから約10mg/mlでありうる。一態様では、投与される投与量は、0.1mlから1.0mlである。
【0073】
更なる他の態様では、担体はゲルであり、薬学的組成物は坐薬である。
【0074】
非経口投与に対して、本発明は、水性若しくは非水性の溶液若しくは乳剤を含有するアンプル若しくはバイアルを提供する。直腸投与に対しては、親水性若しくは疎水性ビヒクル(vehicles)の坐薬が提供される。局所塗布に対しては、軟膏及び経皮的に輸送できるもののような当分野で周知の適切な輸送システムが提供される。
【0075】
好ましい態様では、薬学的に許容しうる塩はメシレート塩である。
【0076】
これらの組成物は、上記の疾患の治療に単独で使用されるか、又はその他には、パーキンソン病の場合のように、従来のL−ドーパ治療のアジュバントとして使用されうる。
【0077】
上記組成物内の活性成分、即ち[R](+)PAIの好ましい投与量は以下の範囲内である。経口又は坐薬処方剤に対しては、単位投与量あたり0.1〜100mgを一日に摂取すべきであり、好ましくは単位投与量あたり1〜10mgを一日に摂取する。注射可能な処方剤に対しては、単位投与量あたり、0.1〜100mg/mlを一日に摂取し得、好ましくは単位投与量あたり1〜10mg/mlを一日に摂取する。
【0078】
一態様では、該薬学的組成物は、治療に効果的な量のレボドパを更に含有する。他の態様では、薬学的組成物は、効果的な量のデカルボキシラーゼ阻害剤を更に含有する。
【0079】
[R](+)PAI又は薬学的に許容しうるこれらの塩と組み合わせて投与されるデカルボキシラーゼの量は、患者内でのL−ドーパの取り込みを保証するための効果的な量である。
【0080】
デカルボキシラーゼ阻害剤は、L−カルビドパであり得る。一態様では、治療に効果的な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンは、約0.1mgから約100mgであり、治療に効果的な量のレボドパは約50mgから約250mgであり、効果的な量のL−カルビドパは、10mgから約25mgである。
【0081】
デカルボキシラーゼ阻害剤はまた、ベンゼラジド(ben-serazide)であり得る。一態様では、治療に効果的な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンは、約0.1mgから約100mgであり、治療に効果的な量のレボドパは、約50mgから約250mgであり、効果的な量のベンゼラジドは、約12.5mgから約50mgである。
【0082】
本発明は更に、パーキンソン症に悩まされている患者を治療する方法であって、患者のパーキンソン病に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン若しくは薬学的に許容しうるこれらの塩を投与することを具備した方法を提供する。
【0083】
[R](+)PAIの使用を、ドーパミン作動薬、ブロモクリプチン、ペルゴリド(pergolide)、リスリド(lisuride)、並びにカテコールアミンオキシダーゼメチルトランスフェラーゼ阻害剤のような他の医薬と組み合わせるパーキンソン病を治療する方法は本発明の範囲内にある。
【0084】
好ましい態様では、薬学的に許容しうる塩はメシレート塩である。
【0085】
投与は、経口投与、直腸投与、経皮投与、又は非経口投与を包含する。
【0086】
一態様では、本発明は、治療に効果的な量のレボドパを患者に投与することを更に具備する。他の態様では、本発明の方法は、効果的な量のデカルボキシラーゼ阻害剤を患者に投与することを更に具備する。
【0087】
デカルボキシラーゼ阻害剤は、L−カルビドパであり得る。この他には、デカルボキシラーゼ阻害剤は、ベンゼラジドである。
【0088】
本発明は、記憶障害に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の記憶障害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0089】
本発明は、痴呆に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の痴呆を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。一態様では、痴呆はアルツハイマータイプ(DAT)である。
【0090】
本発明は、鬱病に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の鬱病を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0091】
本発明は、活動高進症候群に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の活動高進症候群を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0092】
投与は、経口投与、直腸投与、又は非経口投与を包含する。
【0093】
本発明は、感情の病気に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の感情の病気を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0094】
本発明は、神経退行性疾患に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の神経退行性疾患の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0095】
本発明は、神経毒性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の神経毒性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0096】
本発明は、脳虚血症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の脳虚血症の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0097】
本発明は、頭の外傷性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の頭の外傷性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0098】
本発明は、脊髄の外傷性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の脊髄の外傷性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0099】
本発明は、精神分裂症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の精神分裂症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0100】
本発明は、注意力欠損症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の注意力欠損症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0101】
本発明は、多発性硬化症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の多発性硬化症の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0102】
本発明は、患者の神経の損傷を防止する方法であって、該患者の神経の損傷を防止するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0103】
一態様では、該神経の損傷は、構造上の神経の損傷である。他の態様では、構造上の神経の損傷は、視神経の損傷である。
【0104】
本発明は、嗜癖物質からの禁断症状に苦しんでいる患者を治療するための方法であって、該患者の禁断症状を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0105】
ここで使用される「禁断症状」の語は、薬物の懇願、鬱病、過敏症、アネルギー、無動機(amotivation)、食欲の変化、悪心、震え及び睡眠の不規則性を含めた身体及び/又は精神心的な症状を意味する。
【0106】
ここで使用される、「嗜癖物質」の語は、例えば、(a)アヘン、ヘロイン及びモルヒネのような嗜癖性アヘン剤、(b)コカイン、アンフェタミン及びメタンフェタミンのような精神興奮剤、(c)アルコール、(d)ニコチン、(e)バルビツール剤、及び(f)フェンタニール、コデイン、ジフェノキシレート及びテバインのような鎮静剤を含む。
【0107】
一態様では、嗜癖物質はコカインである。他の態様では、嗜癖物質はアルコールである。
【0108】
本発明は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを製造するための方法であって、有機若しくは無機塩基の存在下に、R(−)−アミノインダンを臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギル又はベンゼンスルホン酸プロパルギルと接触させ、これによってR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを形成させ、このように形成されたR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを単離することを具備した方法を更に提供する。
【0109】
本発明は、ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを製造するための方法であって、有機若しくは無機塩基の存在下で、ラセミ体の1−アミノインダンを臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギルと接触し、これによってラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを形成させ、このように形成されたラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを単離することを具備した方法を更に提供する。
【0110】
最後に、本発明は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩を製造するための方法であって、ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを光学活性な酸と接触させ、これによって2種類のジアステレオマーのN−プロパルギル−1−アミノインダン塩を形成させ、このように形成されたジアステレオマーのN−プロパルギル−1−アミノインダン塩からR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩を単離することを具備した方法を更に提供する。
【0111】
一態様では、単離は、分別結晶によって、単離することを包含する。
【0112】
以下の実験の詳細は、本発明の理解を助けるための説明であり、本明細書に続くクレームで説明される本発明をいずれにおいても制限することを意図するものではなく、またそのように解するべきではない。
【0113】
実験の詳細
例1
ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
10.0gのラセミ体の1−アミノインダン及び10.4gの炭酸カリウムを75mlのアセトニトリルに加えた。得られた懸濁液を60℃に加熱し、4.5gの塩化プロパルギルを滴下した。
【0114】
この混合物を60℃で16時間撹拌し、この後、ほとんどの揮発性物を減圧蒸留によって除去した。残渣を10%水酸化ナトリウム水溶液と塩化メチレンに分配した。
【0115】
有機層を乾燥し、溶媒を蒸留によって除去した。残渣を、40%酢酸エチル/60%ヘキサンで溶出するシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーにかけた。遊離の塩基として表題化合物を含有するフラクションを合わせ、溶出液をエーテルに置き換えた。エーテル溶液をHClガスで処理し、生成した沈殿を吸引濾過によって単離し、イソプロパノールから再結晶して7.3gの表題化合物を得た。m.p.=182〜4℃クロマトグラフデータ及びスペクトルデータは、1970年3月19日に発行された米国特許第3,513,244、及び基準試料と一致し、以下の通りであった。
【0116】
NMR δ(CDCl3):2.45 (2H, m), 2.60 (1H, t), 2.90 (1H, m), 3.45 (1H, m), 3.70 (2H, d), 4.95 (1H, t), 7.5 (4H, m) ppm。
【0117】
例2
S−(−)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
遊離の塩基の形態の状体化合物を、10%イソプロパノール/90%ヘキサンで溶出するChiracel OJ(セルローストリス[p−メチルベンゾエート])の分取HPLCカラムで、例1の遊離の塩基のラセミ混合物を分割し、最初に溶出された主要ピークを集めることによって単離した。得られたオイルを、該オイルの10%ジエチルエーテル溶液をHClガスで処理することによって表題化合物に変換し、生じた沈殿を吸引濾過によって集めた。[α]D−29.2°(1%、エタノール)、m.p.=182〜184℃。他のクロマトグラフ及びスペクトル特性は、例1の塩酸塩と一致した。
【0118】
例3
R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
表題化合物を、分取HPLCからの第二の溶出ピークを集めること以外、上記例2と同様に調製した。[α]D+29.1°(0.8%、エタノール)、m.p.=179〜181℃。他のクロマトグラフ及びスペクトル特性は、例1の塩酸塩と一致した。
【0119】
例4
R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
12.4gのR(−)−1−アミノインダン及び12.9gの炭酸カリウムを95mlのアセトニトリルに加えた。得られた懸濁液を60℃に加熱し、5.6gの塩化プロパルギルを滴下した。この混合物を60℃で16時間撹拌し、この後、ほとんどの揮発性物を減圧蒸留によって除去した。残渣を10%水酸化ナトリウム水溶液と塩化メチレンに分配した。
【0120】
有機層を乾燥し、溶媒を減圧下に除去した。残渣を、40%酢酸エチル/60%ヘキサンで溶出するシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーにかけた。遊離の塩基として表題化合物を含有するフラクションを合わせ、溶媒をエーテルに置き換えた。エーテル溶液をHClガスで処理し、生成した沈殿を吸引濾過によって単離し、イソプロパノールから再結晶して6.8gの表題化合物を得た。m.p.=183〜185℃。[α]D+30.90°(2%、エタノール)。スペクトル特性は、例1の化合物で報告したものと一致した。
【0121】
例5
S(−)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
出発物質としてS(+)−1−アミノインダンを使用した以外例4の方法によって調製した。生成物は、[α]D−30.3°(2%、エタノール)、m.p.=183〜5℃。スペクトル特性は、例1の化合物に対して報告したものと一致した。
【0122】
例6A
ジ(R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン) L−酒石酸塩
酒石酸(4.4g)の48mlの沸騰したメタノール溶液にR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの遊離の塩基(5.0g)のメタノール(48ml)溶液を加えた。この溶液を加熱還流し、284mlのt−ブチルメチルエーテルを20以上かけて加えた。この混合物を更に30分加熱し、冷却し、生じた沈殿を吸引濾過によって単離して6.7gの表題化合物を得た。m.p.=175〜177℃;[α]D(1.5、H2O)=+34.3°。
【0123】
元素分析:C28H32O6N2に対する計算値:C, 68.26, H, 6.56, N, 5.69. 実測値:C, 68.76; H, 6.57; N,5.61.
例6
BR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン メシレート
a)ベンゼンスルホン酸プロパルギル(78.4g)及びラセミ体のアミノインダン(63.2g)のトルエン(240mL)溶液に、20℃で15%水酸化ナトリウム水溶液(108mL)を滴下した。5時間撹拌した後、追加のトルエン(80mL)及び水(200mL)を撹拌しながら加えた。有機層を分離し、10%水酸化ナトリウム、次いで水で洗浄した。この混合物のpHを10%硫酸水溶液を加えて3.2に調節した。水層を分離し、そのpHを10%水酸化ナトリウムで7.3に調整し、pHを一定に維持しながらトルエンで3回抽出した。有機層を合わせ、減圧下に濃縮して40.7gの黄色のオイルを得た。
【0124】
b)上記の粗製のラセミ体のプロパルギルアミノインダンとL−酒石酸(10g)をイソプロパノール(1L)に溶解し、1時間加熱還流した。次に、反応物を撹拌しながら室温まで冷却し、沈殿を濾過によって集めた。粗製のジ−プロパルギルアミノインダン酒石酸塩を1Lの1:1メタノール/イソプロパノールから再結晶し、ジ(R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン)−L−酒石酸塩を得た。物理及びスペクトルデータは、例6Aの化合物のそれと一致した。
【0125】
c)ジ(R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン)−L−酒石酸塩(15g)及びメタンスルホン酸(6g)のイソプロパノール(150mL)溶液を30分加熱還流した。反応物を室温に冷却し、生じた沈殿を吸引濾過により単離し、表題化合物(11.1g)を得た。これは、m.p.=157℃及び[α]D=22°を有する。
【0126】
例7
R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
例4で得た遊離の塩基の形態のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン(1.2g)、炭酸カリウム(0.97g)及び沃化メチル(1g)を15mLのアセトンに加え、得られた懸濁液を窒素雰囲気下で8時間加熱還流した。この後、揮発物を減圧下に除去し、残渣を10%水酸化ナトリウム(30ml)及び塩化メチレン(30ml)の間に分配した。有機層を乾燥し、溶媒を減圧下に除去した。残渣を、40%酢酸エチル/60%ヘキサンで溶出するシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーにかけた。遊離の塩基として表題化合物を含有するフラクションを合わせ、溶媒をエーテルに置き換えた。エーテル溶液をHClガスで処理した。揮発物を減圧下に除去し、残渣をイソプロパノールから再結晶して400mgの表題化合物を白色の結晶性の固体として得た。m.p.=134〜136℃、[α]D+31.40(エタノール)。
【0127】
NMRδ(CDCl3): 2.55 (2H, m); 2.7 (1H, br.s); 2.8 (3H, s); 3.0 (1H, m); 3.4 (1H, m); 3.9 (2H, br.s); 5.05 (1H, m); 7.7 (4H, m) ppm.
例8
S(−)−N−メチル−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
表題化合物を、例5で得たS(−)−N−プロパルギル−1−アミノインダン(遊離の塩基)を出発物質として使用した以外上記例7と同様に調製した。表題化合物の物理的及びスペクトル特性は、[α]D−34.9°(エタノール)以外すべて例7のそれと一致した。
【0128】
例9
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 7.81mg*
予めゼラチン化された澱粉NF 47.0mg
ラクトースNF含水 66.0mg
微結晶性セルロースNF 20.0mg
ナトリウムスターチグリコレートNF 2.99mg
タルクUSP 1.5mg
ステアリン酸マグネシウムNF 0.7mg
*N−プロパルギルアミノインダン塩基の5.0mgに等しい。
【0129】
例10
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 1.56mg*
ラクトース含水 50.0mg
予めゼラチン化された澱粉 36.0mg
微結晶性セルロース 14.0mg
ナトリウムスターチグリコレート 2.14mg
タルクUSP 1.0mg
ステアリン酸マグネシウムNF 0.5mg
*N−プロパルギルアミノインダン塩基の1.0mgに等しい。
【0130】
例11
カプセル組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
予めゼラチン化された澱粉 10.0mg
澱粉 44.0mg
微結晶性セルロース 25.0mg
エチルセルロース 1.0mg
タルク 1.5mg
顆粒化に必要な純水を加えた。
【0131】
例12
注射組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
デキストロース無水 44.0mg
HCl、pH5まで加える
1mlに必要な純水を加えた。
【0132】
例13
注射組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 1.0mg
塩化ナトリウム 8.9mg
HCl、pH5まで加える
1mlに必要な純水を加えた。
【0133】
例14
注射組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 2.0mg
塩化ナトリウム 8.9mg
HCl、pH5まで加える
1mlに必要な純水を加えた。
【0134】
例15
シロップ組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
蔗糖 2250.0mg
サッカリンナトリウム 5.0mg
メチルパラベン 6.0mg
プロピルパラベン 1.0mg
香料 20.0mg
グリセリンUSP 500mg
アルコール95%USP 200mg
5.0mlに必要な純水。
【0135】
例16
舌下錠
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 2.5mg
微結晶セルロース 20.0mg
ラクトース含水 5.0mg
予めゼラチン化された澱粉 3.0mg
ポビドン 0.3mg
着色剤 q.s.
香料 q.s.
甘味料 q.s.
タルク 0.3mg
賦形剤及び活性成分を混合し、ポピドンのエタノール溶液で顆粒化した。乾燥し、秤量した後、これをタルクと混合し、圧縮した。
【0136】
例17
PAI舌下錠
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
微結晶性セルロース 15.0mg
予めゼラチン化された澱粉 12.0mg
エチルセルロース 0.3mg
タルク 0.3mg
顆粒化のために必要な純水を添加した。
【0137】
例18
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
レボドパ 100.0mg
カルビドパ 25.0mg
予めゼラチン化された澱粉 24.0mg
澱粉 40.0mg
微結晶性セルロース 49.5mg
Col. D & C イエローNo.10 0.5mg
Col. D & C イエローNo.6 0.02mg
顆粒化のために必要なアルコールUSPを添加した。
【0138】
例19
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン メシレート 7.81mg*
予めゼラチン化された澱粉NF 47.0mg
ラクトースNF含水 66.0mg
微結晶性セルロースNF 20.0mg
ナトリウムスターチグリコレートNF 2.99mg
タルクUSP 1.5mg
ステアリン酸ナトリウムNF 0.7mg
*N−プロパルギルアミノインダン塩基の5.0mgに等しい。
【0139】
例20
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン メシレート 1.56mg*
ラクトース含水 50.0mg
予めゼラチン化された澱粉 36.0mg
微結晶性セルロース 14.0mg
ナトリウムスターチグリコレート 2.14mg
タルクUSP 1.0mg
ステアリン酸ナトリウムNF 0.5mg
*N−プロパルギルアミノインダン塩基の1.0mgに等しい。
【0140】
例21
カプセル組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン メシレート 5.0mg
予めゼラチン化された澱粉 10.0mg
澱粉 44.0mg
微結晶性セルロース 25.0mg
エチルセルロース 1.0mg
タルク 1.5mg顆粒化に必要な純水を添加した。
【0141】
以下の例並びに付随する表及び図は本発明に従って行われた生物学的試験に関連する。
【0142】
例22
in vitroでのMAO活性の阻害実験プロトコール
MAO酵素源は、ラット脳の0.3M蔗糖ホモジネートである。これを600gで15分遠心した。上清を0.05Mホスフェートバッファに適切に希釈し、一連の化合物([R](+)PAI、[S](−)PAI及びラセミ体のPAI)の希釈物と37℃で20分前インキュベートした。次に、14Cで標識された基質(2−フェニルエチルアミン(これ以後PEAと称する);5−ヒドロキシトリプタミン、これ以後5−HTと称する。))を加え、インキュベーションを更に20分(PEA)、又は30〜45分(5−HT)間続けた。使用した基質の濃度は、50uM(PEA)及び1mM(5−HT)である。PEAの場合は、酵素の濃度は、基質の10%以上の基質が反応の経路で代謝されないように選択される。次に、反応をトラニルシプロミンを添加することによって停止し(1mMの最終濃度まで)、pH6.3に緩衝させたアンバーライトCG−50の短いカラムでインキュベート物を濾過した。このカラムを1.5mlの水で洗浄し、溶出物を貯蔵し、放射活性体の含量を液体シンチレーションスペクトル法によって決定した。アミン基質は、カラムに全て保持されるので、溶出物の放射活性は、MAO活性の結果形成された中性及び酸性代謝産物を示す。サンプル内でのMAOの活性は、適切なブランク値を差し引いた後に、阻害剤の存在しない対照の活性に対するパーセンテージとして表した。基質としてPEAを使用して決定された活性をMAO−Bと称し、5−HTを用いて決定された活性をMAO−Aと称する。
【0143】
結果
[R](+)PAI、[S](−)PAI及びラセミ体のPAIの阻害活性を、別々にin vitroで試験し、典型的な実験の結果を図1及び2に示した。全ての実験は、3回繰り返した。基質の代謝の50%阻害をもたらす阻害剤の濃度(IC−50)を阻害曲線から計算し、表1Bに示した。このデータから以下のことがわかる。
【0144】
(a)[R](+)PAIはMAO−Bの阻害に対してラセミ体の活性の2倍である。
【0145】
(b)[R](+)PAIはMAO−AよりもMAO−Bの阻害に対して29倍活性である。
【0146】
(c)[S](−)PAIは、MAO−Bの阻害に対して[R](+)PAIの活性のわずか1/6,800であり、MAO−BとMAO−Aとの間の選択性は低いか全くないことが示された。
【表1A】
【0147】
R(+)及びS(−)MPAI(N−メチル−N−プロパルギル−1−アミノインダン)を使用した同様の実験の結果を表1Bに示した。各MPAIのエナンチオマーは[R](+)PAIよりもMAO−A及びMAO−Bの阻害において選択性が低かった。更に、[R](+)MPAIは、MAO−B阻害に関して[S](−)MPAIよりも5倍だけ活性であった。[R](+)PAIとは対照的に、[R](+)PAIはこのアッセイにおいて[S](−)PAIの約7000倍の活性であった。
【表1B】
【0148】
幾つかの実験を、死後6時間で得たヒト大脳皮質組織でも行い、上記のように処置した。このような実験の結果を図3に示す。但し、[R](+)PAI、[S](−)PAI、及びラセミ体のPAIはここで定義したとおりである。
【0149】
例23
in vivoでのMAO活性の阻害:短期治療
実験プロトコール
250±20gの重量のラット(雄Sprague-Dawley由来)を、腹腔内注射(ip)又は経口(oral gavage)(po)によってPAIのエナンチオマーの1つ又はラセミ体で処理し、1時間及び2時間後にそれぞれ断頭した。3匹のラットのグループを阻害剤の各投与量レベルに対して使用し、先に示した一般的な技術を用いて脳及び肝臓内でのMAO活性を決定した。各インキュベーション内のタンパクの量をFolin-Lowry法を用いて決定し、酵素活性を、タンパクの各mgに対するインキュベーションの時間当たりの代謝された基質のnmolとして計算した。阻害剤で処理された動物から得た組織内のMAOの活性は、ビヒクル(vehicle)(経口投与に対しては水、ip注射に対しては0.9%の塩水)を投与し、上記のように殺した対照動物のグループにおける酵素活性に対するパーセンテージとして表した。
【0150】
結果
阻害医薬で使用されたいずれの投与量レベルにおいても、いずれの明確な挙動変化をもたらさなかった。結果を図4から図11に示した。i.p.投与後、[R](+)PAIは0.5mg/kgの投与量で脳のMAO−Bの90%を阻害した。同じ投与量は、僅か20%のMAO−A活性の阻害をもたらしたのみであった。経口投与では、同じ投与量の[R](+)PAIは、MAO−Bの80%の阻害をもたらしたが、MAO−Aの検出しうる阻害をもたらさなかった。実質的に同様な結果が、脳MAOに対するように肝臓MAOの阻害に対しても見られる。MAO−A及びMAO−Bの50%阻害をもたらす投与量(IC−50)を、阻害曲線から計算し、表2に示した。これらのデータは、(a)[R](+)PAIのMAO阻害活性がラットにおいてin vivoで維持されること;(b)MAO−Aとは対照的に[R](+)PAIによるMAO−Bの阻害に対する選択性をin vivoで維持すること;(c)(−)−エナンチオマーとは対照的に(+)−エナンチオマーの非常に強い活性がin vivoで維持されること;(d)化合物が、経口投与された後に効果的に吸収されること;及び(e)化合物が、血液脳関門を効果的に通過すし、効果的に脳のMAOを阻害することを示している。[R](+)PAIがMAO−Bの阻害に対してラセミ化合物よりも約2倍活性であるという事実は、MAO−Bの阻害に対して[S](−)PAIが非常に低い活性であることの反映である。
【表2】
【0151】
例24
in vivoにおけるMAO活性の阻害:長期治療実験プロトコール
ラット(例23で特定したとおりのもの、各投与量レベルに対して4匹)を、経口投与で1日毎に一回投与量で21日間3種類の投与量レベル(0.05、0.1及び0.5mg/kg)で[R](+)PAI又はラセミ混合物で処理し、最後の投与の後2時間で断頭した。MAOタイプA及びBの活性を脳及び肝臓で例23で説明したように決定した。
【0152】
結果
化合物[R](+)PAIの0.1mg/kgの一日あたりの投与量で、良好な程度の選択的阻害がもたらされた。これは、脳MAO−Bに対して80%以上の阻害であり、脳MAO−Aに対しては20%以下の阻害であった。一日あたり0.5mg/kgのより高い投与量では、MAO−Aはまだ50%以下の阻害であった(図12及び13)。肝臓MAOは、同程度の選択的阻害を示した(図14及び15)。化合物[R](+)PAIは、更に約2倍のファクターによってラセミ混合物よりも強力であった。脳MAOの場合、[R](+)PAIはMAO−Bの阻害に対してラセミ混合物よりもよりよい程度の選択性を有していた。
【0153】
例25
MAO阻害の不可逆性実験プロトコール
化合物[R](+)PAI(1mg/kg)の一回投与量をi.p.注射により4匹のラットのグループに投与し、この動物を2、6、18、24、48及び72時間後に殺した。MAO−Bの活性を先に開示したように全脳組織で決定した。
【0154】
結果
結果を図16に示す。MAO−Bの最大阻害には、注射の後6時間で到達した。MAO活性は、注射の後72時間で対照の活性の30%まで戻ったのみであった。この実験は、[R](+)PAIによるMAOの阻害の不可逆性を示す。
【0155】
例26
意識のあるラットにおけるチラミンの昇圧効果の強さ実験プロトコール
ラットを、ペントバルビタール(30mg/kg)及びクロラール水和物(120mg/kg)の混合物を腹腔内投与により麻酔にかけた。左頚動脈及び頚静脈に細いポリテン管(動脈)又はポリエチレン管に接続された細いシリコンゴム管(静脈)をカニューレ挿入し、その遠位末端を皮下で首の後ろの固定位置に導いた。該管をヘパリン化した生理食塩水で見たし、細いスチール製の棒で栓をした。動物を筋肉内注射によってクロラムフェニコールで処理し、手術から一夜回復させた。次の日に、ラットを自由に動くことができる高い壁の容器に置いた。静脈内のカテーテルを、100cmの長さの、生理食塩水を満たした細い穴のあいたポリエチレン管を介して圧力変換器に接続し、静脈内のカテーテルを同じ長さの管を介して1mlのシリンジに接続した(シリンジを含めた該管にはチラミン塩酸塩の塩水溶液(1mg/ml)が含まれる。)。30から40分間の平衡化の後、チラミン注射物(50又は100μg)を注入し、血圧の応答を記録した。対照の値に血圧が戻った後、注射の間に少なくとも15分のインターバルを確保した。対照の圧力応答を確認し、次いで1の薬剤を腹腔内的に注射し、チラミンの応答を次の4時間にわたって記録した。血圧応答曲線に従って領域を評価し、治療前、及び化合物を注射した後1から3時間までに対する治療後のこの領域の比を、対照の期間で得られた3から4つの値の平均を用いて決定した。
【0156】
結果
結果を表3に示した。1mg/kgの投与量(これは脳及び肝臓でMAO−Bの完全な阻害を起こし、これらの組織でMAO−Aの40から50%の阻害を起こす。)で化合物[R](+)PAIはチラミンの昇圧応答の十分な増加を起こさなかった。[R](+)PAIのより高い投与量である5mg/kg(これは脳及び抹消でMAO−Aのより広範な阻害を起こす。)では、チラミンの昇圧応答の十分な増加があった。これは、程度としては、デプレニルの同じ投与量でもたらされるものと同様であり、クロルギリン(肝臓MAO−A活性を85%以上阻害する投与量において)によって誘導されるものよりも低い。
【表3】
【0157】
この実験から、化合物[R](+)PAIが、MAO−Bを効果的に阻害する投与量でチラミンの昇圧効果を強める原因とならないことが結論づけられ得る。
【0158】
例27
[R](+)PAIによるMPAIで誘導されるドーパミン作用性毒性の抑制
1−メチル−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)は、マウスを含めた幾つかの哺乳動物種において黒質線状体ドーパミン作動性ニューロンを損傷する神経毒であり、ヒト及び霊長類のパーキンソン症候群を引き起こす。その神経毒性のメカニズムにおける重要な初期段階には、MPTPの、その毒性代謝物である1−メチル−4−フェニルピリジニウムイオン(MPP+)への変換が含まれる。この反応は、酵素MAO−Bによって触媒され、おそらく、ドーパミン作動性ニューロンの外側、主にグリアで起こる。MPTPが、MAO−Bの基質及び不可逆的な阻害剤の両方であることが知られている。デプレニル若しくはパルギリンのようなMAO−B阻害剤で実験動物を予め処理することにより、MPTPのMPP+への酸化的変換がブロックされるので黒質線状体ニューロンが保護され、MPTPにより誘導される黒質線状体ニューロンの損傷が防止される。パーキンソン症における進行性の黒質線状体の退化は、環境によって誘導される外来性のMPTP様の神経毒にさらされることに起因する。このような場合に、MAO−B阻害剤での持続的な治療がこのような未だ推定のMPTM毒性のダメージ効果を緩和し、これにより病気の進行を抑えるか、又は遅らせるであろうことを期待して、パーキンソン症のかなり初期の段階からMAO−B阻害剤で持続的な治療を開始することが特に強く指摘されている。有効なMAO−B阻害薬は現在、in vivoでの黒質線状体ドーパミン作動性ニューロンのMPTPにより誘導される損傷をブロックする該医薬の能力によって判定されている。従って、PAIの(−)及び(+)エナンチオマーを、マウスにおいてMTPTで誘導される線状体のドーパミンの消耗を防止するか、又は低下させるこれらの能力に対して試験した。
【0159】
実験プロトコール
雄C57黒色マウス(20〜25g重量)に、(a)MPTP−HCl(30mg/kgを蒸留水で溶解したもの、s.c.)若しくはビヒクルのみを注射するか、又はPAIの(−)若しくは(+)異性体(2.5mg/kg、i.p.)若しくはデプレニル(5mg/kg、i.p.)で前処理した後1時間にこれらを注射し、(b)5日後に断頭した。脳を取り出し、氷で冷却したガラスプレート上で死体の線状体を切り裂き、ドライアイスで凍結した。線状体組織を0.1M過塩素酸中でホモジネートし、内部標準としてジヒドロキシベンジルアミンを含有するタンパクを取り除いたアリコートを、HPLCを用いて電気化学的な検出によりドーパミン及びその主要代謝物である3,4−ジヒドロキシ−フェニル酢酸(DOPAC)に対してアッセイした。
【0160】
結果
表4にこの実験結果を示した。MPTPでの治療は、線条体ドーパミン(DA)及びDOPACの注目すべき消耗をもたらした。PAIの(−)及び(+)エナンチオマー、又はデプレニルでの処置は、洗浄DAの濃度に影響しなかった。PAIの(−)異性体での処理は、MPTPで誘導される線条でのDA及びDOPACレベルに影響を及ぼさなかった。MPTPの前に与えられたPAIの(+)−異性体は、該トキシンによってもたらされる線条のDA及びDOPACレベルの減少を完全に停止させた。2.5mg/kgの投与量で、(+)PAIは、その保護効果が(−)デプレニル(5mg/kg)と等しかった。
【表4】
【0161】
DA及びDOPACに対する上記の値は、平均±S.E.M.として表され、ラットの数は各グループでn=7〜11である。
【0162】
これらの結果は、[R](+)PAIが、in vivoで優れたMAO−B阻害剤であり、パーキンソン症の治療に特に大きな可能性を有していることを示している。
【0163】
本発明は上記の例及び付随した表と図に関連して説明されるが、これらに限定されない。
【0164】
例28
老齢のラットにおいてアンフェタミンで誘導されるステレオタイプな挙動に関するPAIエナンチオマーの影響
アンフェタミンは、内因性のドーパミンの代謝によってステレオタイプな挙動を誘導することが知られている(Sulser, F., and Sanders-Bush, E., Ann. Rev. Pharmacol., 11, 209-230 (1971))。アンフェタミンはMAO−Bで代謝されない。効果的な阻害剤及びアンフェタミンの投与によるMAO−Bの阻害は、阻害されたMAO−Bによって分解を受けないドーパミンの遊離を引き起こす。従って、シナプスのドーパミンの増加は、アンフェタミンの影響によるステレオタイプの挙動を起こす薬効の増加を導くアンフェタミン及び効果的なMAO−B阻害剤の投与の後に期待される。広範囲のこの挙動は、1分間に頭を横方向に動かした数によって評価した。
【0165】
実験プロトコール
試験化合物を、低酸素症を課す(92%窒素+8%酸素で6時間)24時間前に飲料水に0.5mg/kg/日の投与量で投与した。この後、アンフェタミンを0.5mg/kgの投与量でs.c.で注射した。45分後横方向の頭の移動をカウントした。
【0166】
結果
これらの実験の結果を表5に示した。
【表5】
【0167】
表5の結果は、(+)PAIが、低酸素傷害されたラット及び対照ラットの両方でアンフェタミンにより誘導されるステレオタイプな挙動を十分に増強させた。(−)PAIはこの点では全体として不活性である。これらのin vivoでの挙動の結果は、(+)PAIが脳においてMAO−Bの活性な阻害剤であるが、(−)PAIがこれに関して不活性であるという先の生物学的所見を補強するものである。
【0168】
例29
記憶の改善若しくは回復に関する[R](+)PAIの効果
生まれたてのラットの子を短時間無酸素症の症状にかけ、次いで長期間永続する記憶障害を発現する通常の方法でこれらを成長させた(Speiser, et al., Behav. Brain Res., 30, 89-94 (1988))。この記憶障害は受動回避試験で劣った能力として表される。
【0169】
記憶の改善若しくは回復に関する[R](+)及び[S](−)PAIの効果を、受動回避試験で試験した。薬物が効果的であれば、暗室若しくは、試験されるラットが先に電気ショックを経験している部屋には入り込むという応答の潜伏期が長くなる。最大応答の潜伏期は300秒である。
【0170】
実験プロトコール
若年のラットを出生後に例27で説明したように無酸素症に罹らせた。[R](+)PAI及び[S](−)PAIを以下のプロトコールの1つに従って投与した。
【0171】
プロトコールA
養母に飲料水中で各異性体を1〜1.5mg/kg/日の投与量で21日に乳離れするまで与えた。この後、乳離れした子供を直接同じ投与量で20日間処置した。処置を40日でやめ、試験を60日目、即ち薬物の最後の投与の後20日目に行った。
【0172】
プロトコールB
投与量を0.5mg/kg/日に減少し、これを21日に乳離れするまで養母に投与し、次いで試験が行われる60日目まで若いラットに直接に投与した。
【0173】
受動回避試験
装置は、暗室を隣接した明るい部屋と2つの部屋を分離するスライドするドアーよりなる。訓練では、ラットを明るい部屋に30秒置き、次いでドアーを開く。ラットが潜伏期で暗室に移動し、この潜伏期を記録する。暗室にラットが入ったときにドアーを閉め0.3mAのフットショックを3秒間送る。
【0174】
48時間後の回復(記憶)を試験を繰り返し、明所から暗所へのステップスルーの潜伏期間を300秒の仮の最大値に対して記録することによって測定した。
【0175】
結果
これらの実験の結果を表6に示す。
【表6】
【0176】
実験結果は、(−)PAIではなく、(+)PAIが無酸素傷害ラット及び対照ラットの記憶を改善するのに効果があることを示している。この試験での薬剤の活性は、記憶障害の疾患、痴呆、及び特にアルツハイマータイプの老人性痴呆に可能性として有効であると考えられる。
【0177】
例30
子供のラットにおける無酸素症で誘導される運動高進症候群の[R](+)PAIの効果
出生後無酸素にさらされ、次いで通常の条件で育てられたたラットは、10〜42日齢に開放された場所で運動の活発さが増加することが示される(Hertshkowitz, et al., Dev. Brain Res., 7, 145-155 (1983))。
【0178】
[R](+)PAI及び[S](−)PAIのこのような運動高進症候群に関する効果を試験した。
【0179】
実験プロトコール
出生後すぐにラットの子供を無酸素状態にした。ラットの子供をガラス製の容器に入れ、100%窒素に25分間さらした。胸部に間欠マッサージを緩やかに加えることによって該ラットを甦生させ、次いで該ラットのそれぞれの母親に戻した。対照のラットを、窒素の代わりに空気を用いて同様に処置した。
【0180】
[R](+)PAI又は[S](−)PAI(0.5mg/kg/日)を飲料水中で養母に投与し、これによって母乳を通して乳児に該薬剤を与えた。4cmの間隔の格子状の赤外線ビームを横切ると、電気的な刺激が伝わり、これが計測器に送られる。運動の活発さの記録を15日齢と20日齢で15分間にわたって行った。
【0181】
結果
実験結果を表7に示す。
【表7】
【0182】
これらの結果は、養母に投与された0.5mg/kgの投与量で[R](+)PAIで長期間経口的処置され、母乳が与えられたこともに到達することにより十分に運動高進症候群が改善される。従って、[R](+)PAIは、子供の運動高進症候群の治療のための可能性として有効な医薬である。
【0183】
例31
10種類のPAIの塩の安定性の差
安定性は、治療薬として最適な塩を選択する場合の重要なファクターである。種々の塩は、医薬の物理化学的及び生物学的特性を変化し得、その全体としての特性に劇的な影響を有する。(Berge. S.M., et al., J. Pharm. Sci. 66, 1 (1977); Gould, P.L., Int. J. Pharmaceutics, 33, 201 (1986))。
【0184】
実験
PAI塩の合成
適切な酸(1mol等量)の2−プロパノール溶液を、PAI(1mol等量)の2−プロパノール溶液に撹拌しながら加えた(Ar、BHT)。生成した塩を、濾過し、2−プロパノール及びエーテルで洗浄し、低圧下に乾燥した。収率は70から90%であった。PAIアセテートを製造する場合の以外には、溶媒としてエーテルを使用することが含まれる。
【0185】
分析方法
Lichrosphere 60 RP セレクト B 5m 125×4mm(メルク)のカラム、210nmにセットしたL−4200UV−Vis検出器(メルク−日立)を備えたHPLC(Jasco BIP-1)、及びD−2500クロマト積分計(メルク−日立)を使用してクロマトグラフィーによる分離を行った。溶出液及び希釈液は、80%蒸留水/20%アセトニトリル(HPLCグレード)、及びアンモニア水でpH2.5に調整された0.07M過塩素酸よりなる。使用した流速は、1ml/分であり、適切なPAI塩の溶液の濃度は250μg/mlであり、溶液の20μlをクロマトグラフシステムに注入した。
【0186】
融点の範囲は、自動装置(Mettler FP 80)で測定し、熱重量分析を、適用しうる範囲で10℃/分の速度でMettler TA 3000システムで行った。溶解度は、PAI塩の飽和水溶液から得た上清の適切な希釈物で決定し、UVIKON 941(Kontron)UV-Vis分光光度計で測定した。塩の形(モノ−若しくはジ−塩)を、C、H、N及びSを決定するための標準的な装置を用いて元素分析によって得た。pHはPAI塩の1%水溶液で測定した。
【0187】
結果
種々の塩の特性を表8にまとめた。
【表8】
【0188】
競争的な安定性試験を一連の幾つかの促進条件下で行った。I)72、96又は144時間80℃で加熱すること;II)イソプロパノール中で30時間還流すること。生じた分解生成物は、HPLCで測定し、TLCで確認した。結果を相対的な保持時間(PAIのピークに対する;RRT)と共に、積分されたピークの全領域に対する領域のパーセンテージとして表9に示した。
【表9】
【0189】
塩を、色及び形の視覚検査にかけた。所見を表10に示す。
【表10】
【0190】
これらの試験は、硫酸塩、エシレート及びメシレートが、溶解性及び化学的安定性がよいために、他の塩に比較して十分有益であることを示している。これらの3種類の塩のうち、メシレートが、破壊的な条件下でも優れた安定性であるため好ましい。
【0191】
例32
マウスにおけるハロペリドールで誘導されるカタレプシーの回復
雄ICRマウス、各25〜30gを以下の薬剤での何れかで前処置した:生理食塩水、[R](+)PAIメシレート、又はラセミ体PAIメシレート。全薬物は、0.2mLの容積でi.p.で投与した。2時間後、ハロペリドールを、0.1〜0.2mLの容積で、6mg/kgの投与量で、s.c.で注射した。運動調整試験をハロペリドールを投与した後3時間、即ち推定保護薬剤を投与した後5時間で行った。
【0192】
運動調整試験及び硬直は3つの異なったファクター、(a)所定の長さの水平な棒、80cmの長さを歩く能力;(b)顔を下にして垂直な棒、80cmの長さをはい降りる能力;(c)マウスの腹部が「壁」に押しつけられるような不自然に座った姿勢での静止の持続に従って定量化した。ハロペリドールで処理していないマウスと同様の完全な能力に対して、各試験で4点、即ち全試験全てで12点を与えた。能力の低いものは1から3点を与えた。重要な評点を表9Aに示した。ハロペリドールで誘導されるカタレプシーに拮抗する種々の薬剤の効果は、表11に示した。ハロぺりドールの投与の後3時間で、[R](+)PAIメシレートは5〜15mg/kgでハロペリドールに対する保護をもたらし、7.5mg/kgであと作用のピークに達する(活性点数=生理食塩水対照の94%)。ラセミ体のPAIメシレートは、7.5〜15mg/kgの範囲で部分的な保護を付与し、5mg/kgで活性ではなかった。図17から、[R](+)PAIメシレート又はラセミ体PAIの用量−効果プロフィールは、10mg/kgを越える投与量の増加が効果の減少を伴うが、ラセミ混合物は全体として強さが低いというようなものであることがわかる。これは、ラセミ体のPAIメシレートが、[R](+)PAIメシレートの2度にわたる投与量で、常に(R)エナンチオマーよりも活性が低くなるであろうことを意味する。
【0193】
α−MpTで誘導される運動低下のラットにおける回復
薬剤、α−MpTはチロシンからのL−ドーパの生成、そして結果として、ドーパミン自身の形成を阻害すると仮定されている。CNSドーパミンの欠如は活動低下として現れる。6月齢の雄Wistarラット(Harlan Orkack, UKより入手)を飽和食塩水、[R](+)PAIメシレート又はRacPAIメシレートで、指示された投与量で前処理した。2時間後、該マウスにi.p.でα−MpTを0.3〜0.5mL中100mg/kgの投与量で投与した。この後、10時間コンピュータを導入した活動かご(active cage)内で運動活性を記録した。結果を表12及び図18に示した。2mg/kgで[R](+)PAIメシレートは飽和食塩水で処理されたラットの約90%まで活性のレベルを回復した。いずれの場合にも、用量−効果曲線のプロフィールはベル型であり、これは2〜5mg/kgのピークを越えて投与量が増加するにつれて効果が減少することを示唆する。5mg/kgでRacPAIメシレートは、2mg/kgでの[R](+)PAIメシレートの活性のレベルに比較しうる活性のレベルを顕在化し得ない。
【0194】
これらの測定から、[R](+)PAIメシレート及びRacPAIメシレートは、ハロペリドールで処理されたマウス及びα−MpTで処理されたラットの正常動揺病の回復において同様の活性パターンにならない。試験された全ての投与量で、[R](+)PAIメシレートは、通常対応する投与量のRacPAIメシレートよりも強力である。また、与えられた投与量でRacPAIメシレートは、常に同じ投与量の半分で[R](+)PAIメシレートより効果が低い。[R](+)PAIメシレートに対してRacPAIメシレートの投与量を倍にしても、[R](+)PAIメシレートの効果と等しい効果にはならない。
【0195】
薬理学的には、RacPAIメシレートは、50%の活性成分(これは[R](+)PAIメシレートである。)と50%の希釈剤のような不活性物質より成ると考えることはできない。RacPAIメシレート内での[S](−)PAIの存在が[R](+)PAIの活性に関して反対の効果を有し、2倍以上の強さの低下を引き起こす。この低下は、挙動パラメータに関する[S](−)PAIの直接の逆効果に起因しうる。
【0196】
表11 [R](+)PAIメシレート及びラセミ体メシレートを用いるマウスにおけるハロペリドールで誘導されるカタレプシーの回復マウスに、各試験薬物をi.p.で示された投与量で与えた。2時間後これらにハロペリドールを本文で示したように与えた。示された投与量は遊離の塩基に対するものである。
【表11】
【0197】
ハロペリドール単独に対する統計的優位性:Student's「t」試験により*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001である。
【0198】
[R](+)PAIに対する点数は、ラセミ体のPAIのそれとは有意に異なっていた。これは5mg/kgでp≦0.05;10mg/kgでp≦0.01;及び15mg/kgでp≦0.05であった。
【表11A】
【0199】
表12 100mg/kg i.pでα−メチル−p−チロシン(α−MpT)で処理されたラットの運動活性の回復
ラットに、試験薬物をi.p.で示された投与量で与えた。2時間後これらにハロペリドールを与え、活動かごに迅速においた。全運動活性を本文で示したように10時間自動的に記録した。
【表12】
【0200】
Student's「t」試験による統計的優位性:α−MpT単独対試験薬剤+α−MpTに対して*p≦0.01; ***p≦0.001である。
【0201】
ラセミ体のPAIに対する [R](+)PAIの点数は、2mg/kgで有意に異なっていた。
【0202】
例33 頭の傷をふさいだ後のラットにおけ[R](+)PAIメシレートの効果方法
1.外傷の誘導
頭部の外傷を、左大脳半球、即ち中央冠平面内の1〜2mmの側部から中線までを覆う露出した頭蓋骨上に落とすようによく較正された重り落下装置によって、エーテル麻酔下で雄ラットに誘導した。
【0203】
2.運動機能の評価
外傷の誘導の後1時間に、これらの精神医学的な結果を評価する一連の基準によって該ラットを試験した(基準は、Shohami, et al., J. Neurotrauma, 10, 113 (1993)に開示されている)。精神医学的な重篤度スコア(NSS;Neurological Severity Score)と呼ばれるこれらの基準は、一連の反射作用及び運動機能より成る。ポイントをこれらの基準の欠損を下に与えた。24時間でラットを再評価した。
【0204】
3.脳浮腫の評価
脳を、運動機能の2回目の評価の後取り除き、組織の一片(〜20mg)を秤量し、湿重量(WW)を得た。24時間95℃でデシケータオーブン内で乾燥した後、再度秤量し、乾燥重量(DW)を得た。組織内の水のパーセンテージを(WW−DW)×100/WWとして計算した。
【0205】
4.薬剤治療
[R](+)PAIメシレートを水に溶解し、ラットに0.1mg/kgの投与量で頭部の外傷の誘導の後0、4、8及び12時間で腹腔内投与した。対照のラットを同じ時間水で処置した。
【0206】
結果
ラットの「臨床状態」を測定するNSSは、頭部の外傷の後3時間で処置及び未処置のグループでほぼ同一であったが、[R](+)PAIメシレートで処理されたラットでは24時間で十分に低下した(表13)。これらの結果は、PAIメシレートが、ラットの頭部外傷をとじた後の運動機能の回復を改善するのに効果がある。
【0207】
外傷の後24時間で、主要な浮腫が左半球に見られた(未損傷の脳組織で78.5%水対し、対照ラットの脳では85.4%水)。PAIメシレートは、水のパーセンテージに関するその効果によって確認される浮腫の減少に効果的である。
【0208】
結果として、ここで報告した結果は、[R](+)PAIメシレートが、同様のヒト神経外傷及び閉じられら頭蓋骨に外傷を誘導することに向けられたモデルで神経保護特性を有することを示す。
【表13】
【0209】
例34
小脳細胞培養物のNMDAで誘導される細胞死の霜害に関するPAIメシレートの効果
手順:機械的に解離された新生児ラットの小脳の培養物
6又は7日齢のラットの子供から小脳を無菌で解離し、3mlの富化培地(該培地は、高グルコース濃度(1g/l)、2mM(v/v)L−グルタミン、抗生物質の細胞分裂阻止性の混合物を含有し、15%(v/v)の熱で不活性化したウシ胎児血清で富化されたのダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)で構成される。)を含有する15mlの無菌のプラスチック製の円錐形の管に置いた。次に、45μmの孔径のナイロン製のふるいを挿入した5mlのシリンジに取り付けられた無菌の13ゲージの10cmの長さのステンレス鋼製の針に20〜25個通した後、小脳を解離した。解離された細胞を200gで5分間遠心し、上清を捨て、細胞を富化培地に再懸濁させた。該細胞の生育力をトリパンブルー排除試験によって決定した。次に該細胞を、ポリL−リジンでコートされた表面(ポリL−リジンコートされたガラスのカバーガラスを、15μg/mlのポリ−L−リジンを含有する無菌の蒸留水溶液中に浸漬し、使用直前に無菌の水で洗浄し、乾燥することによって、プレート化する前の少なくとも1時間に調製した。)上に200mm2の密度で置き、富化培地で覆い、空気中5%CO2の雰囲気下及び100湿度において37℃でインキュベートした。培養の4日後に、培地を所望の試験化合物を含有する培地に置き換えた。実験を全く同一に行い、2又は3回繰り返した。試験化合物の毒性用量−応答を決定した後、4つのグループを比較した。(I)対照(富化培地のみ)、(II)試験化合物(各濃度に対して1のサブグループ(2種類の濃度を試験した。))、(III)細胞毒性抗原投与としてN−メチル−D−アスパルテート(NMDA、1mMの濃度に3時間さらした。)、(IV)試験化合物とNMDA(2種類の濃度の試験化合物の各々に対して1のサブグループ)、(V)溶媒(これには試験化合物が溶解される。)の影響を試験するための対照グループ、及び(VI)スペルミン(培養培地に0.01μMで溶解)とNMDAの追加の「陽性対照」グルプ。神経細胞の生存率を、24時間後に位相差顕微鏡及びトリパンブルー染色により評価した。
【0210】
結果
グルタミン酸(Glu)が、癲癇及び発作を含めた幾つかの神経医学的な疾患、並びに最も適切には、パーキンソン症、アルツハイマー症及び外傷性の脳傷害のような脳の神経退化症において発現される神経毒性を有することがうまく確立された。Gluの神経毒性効果は、膜に結合したN−メチル−D−アスパルテート(NMDA)受容体のようなGlu受容体によって媒介される。
【0211】
表14に示された結果は、10μMの[R](+)PAIメシレートが、1μMのNMDAにさらした後に、小脳細胞の生存率を27%増加することを示す。これらのin vitroの結果は、例33及び35で示された[R](+)PAIメシレートのin vivoでの効果を指示し、該薬剤が、NMDAの神経毒濃度に対して神経保護特性を有することを示している。
【表14】
【0212】
未処理の対照に対するパーセントとして表わされる値は、培養実験に対する全く同一の2つの実験の平均及び虚欠に対する4匹の動物の平均±SEMを表す。パーセント保護の値は、溶媒の効果を差し引いた後の試験化合物の効果である。
【0213】
例35
ラット視神経の段階的な挫傷後の[R](+)PAIメシレートの効果
[R](+)PAIメシレートの神経保護効果を、生育したラットの視神経の圧挫傷害の後迅速に適用するために決定した。短期間の効果は代謝的に測定され、長期の効果は電気生理学的に測定された。
【0214】
方法
1.代謝測定
a)一般
方法は、Yoles, et al., Investigative Ophthalmology & Visual Science, 33, 3586-91 (1992)に開示されている。短期間で、代謝測定は、電子伝達系の活性に依存するミトコンドリアのNADH/NAD比によってモニターされ、これによってエネルギー産生のレベルが示される。傷害の結果としてエネルギーを産生する神経の能力の変化は、傷害の前後での人工的な一時的無酸素傷害に対する応答において、NADHのレベルを比較することによって決定される。
【0215】
b)表面蛍光測定法−再蛍光測定法
ミトコンドリア内のNADHレドックス状態のモニターは、酸化された形態NAD+と異なり、NADHが蛍光を発し、この時450nmの光を発するという事実に基づく。光ファイバーのフレキシブルなY字型の束(光ガイド)を使用し、視神経への光と視神経からの光を伝達した。神経から放出される光を2種類の波長:366nm(反射光)及び450nm(蛍光)で測定した。反射光の変化を血流力学的効果、及び動脈血圧及び神経容積を変化する二次視神経の変動に起因する組織の吸収の変化で補正した。蛍光測定は、蛍光(1:1の比)から反射光(366nm)を差し引き、補正された蛍光シグナルを得ることによるNADHレドックス状態の測定に対して十分に正確であることが見出されている。
【0216】
c)動物の調製
動物の利用は、研究における動物の使用に関するARVO Resolutionに従った。300〜400gの体重の雄Spra-gue-Dawley (SPD)ラットをナトリウムペンタバルビトン(50mg/kg、腹腔的)で麻酔した。動物の頭をヘッドホルダーによって適切に保持し、側部外眼角切開を双眼手術顕微鏡化で行い、結膜を、結膜に対して側部に切り込みを入れた。後引筋肉芽細胞を分離した後、視神経を確認し、3〜3.5mmの長さをおおまかに切開して(blunt dissection)眼球の近傍に露出させた。硬膜を無傷で残し、神経を傷つけないように注意した。特別な光ガイドホルダーを、該ライトガイドが傷害部位に対して視神経の1mm遠位の表面に位置するように視神経の回りに移植した。麻酔したままで、動物を外科手術から回復させ、次いで無酸素条件にさらした。無酸素状態は、100%窒素の雰囲気で2分間ラットを呼吸させ、この後空気中に戻すことによって達成した。視神経の代謝活性を評価するために、無酸素に対する応答での反射光及び蛍光強度の相対的変化を挫傷の前後で測定した。
【0217】
d)挫傷及び代謝測定のための実験プロトコール目盛りのついた横断鉗子(cross section forceps)で補助して、120gに対応する圧力で30秒間、目と光ガイドホルダーの間の視神経に適度な挫傷を負わせた。障害を負わせたすぐ後に、動物に[R](+)PAIメシレート(2mg/kg)を含む水及びこれを含まない水を腹腔内注射した。エネルギー生成システムの活性を評価するために、2分間の無酸素に対するNADH応答を、傷害の前、傷害の30分後、及びこれ以後は4時間までの1時間間隔で全ての動物について測定した(図19参照)。
【0218】
2.電気生理学的測定
この方法は、Assia, et al., Brain Res., 476, 205-212 (1989)に開示されている。動物の調製及び視神経の損傷は、代謝試験と同様であることが好ましい。損傷の後すぐに、動物に[R](+)PAIメシレート(0.5mg/kg)を含む水及びこれを含まない水を一回注射した。損傷及び処置の後14日目に視神経を摘出し、電気生理学的に測定した。電気生理学的な測定のための視神経の除去の前に、ラットを、70mg/kgのペンタバルビトンで深い麻酔にかけた。皮膚を頭蓋骨から除き、視神経を眼球から引き剥がした。ほぼ全体の断頭を行い、頭蓋骨を骨鉗子で開いた。大脳を横に置き換え、視神経の頭蓋内の部分を露出させた。切開は神経のレベルであり、該神経を、NaCl(126mM)、KCl(3mM)、NaH2PO4(1.25mM)、NaHCO3(26mM)、MgSO4(2mM)、CaCl2(2mM)、及びD−グルコース(10mM)よりなる新鮮な塩溶液を含むバイアルに移し、室温で95%O2及び5%CO2にさらした。神経をこの溶液に保持した。ここで、電気的な活性は少なくとも3〜4時間安定なままである。室温で採集から0.5時間の後、電気生理学的な記録を挫傷領域に対して遠位の視神経から得た。次に、神経末端を、37℃で浸漬溶液に浸漬した2つの吸引Ag−AgCl電極に接続した。刺激パルスを最も近い端で電極から加え、活動電位を遠位の電極で記録した。Grass SD9刺激機を超最大電気刺激に使用した。測定されたシグナルは、Modelec PA36予備増幅器、次いで筋電計(MedelecMS7, AA7T増幅器)に伝達される。8つの平均された化合物の活動電位(CAPs)の最大増幅が記録され、ポラロイド(登録商標)カメラで写真に撮った。CAP値は、参照として提供される反対側の損傷されていない神経で測定した。
【0219】
結果
結果は、視神経の傷害の後に迅速に適用された[R](+)PAIメシレートが、傷害で誘導されるエネルギー生成の減少をブロックすることを示している。[R](+)PAIメシレートはまた、電気生理学的なモニターで測定される長期間の効果を有する。
【0220】
CAP(化合物活動電位、compound action potentials)の大きさは、神経の試験された部分において処理した線維の数に直接相関した。
【0221】
[R](+)PAIメシレートは、傷害された神経の遠位の部分での、傷害によって誘導されるロスを有意に緩和する。このことは、[R](+)PAIメシレートが神経保護薬であるか、又は少なくとも退化を遅らせることを示している。
【表15】
【0222】
例36
[R](+)PAI及び[S](−)PAIの塩の抗痙攣特性の比較
[R](+)PAI及び[S](−)PAIのHCl塩の両方とも、有為な抗痙攣活性を有する。最大電気ショック試験(MES試験)においてマウス(i.p.投与)で、[S](−)PAIHClは[R](+)PAIHCl(ED50=79mg/kg)よりも大きい抗痙攣活性(ED50=57mg/kg)を有していた。同様の結果がラットで観測された(p.o.投与)。4匹のラットのうち4匹が、50mg/kgの[S](−)PAIHClを投与されたときMES試験での発作から防御された。一方、同量の[R](+)PAIHClの投与の後、4匹のマウス内3匹のが防御された。パーキンソン症に対する効果に関して、増強された抗痙攣活性は、有害な副作用である。同様な傾向が、メシレート塩で起こる。[S](−)PAIメシレートは、MES試験で[R](+)PAIメシレートよりも大きな抗痙攣活性を有する。100mg/kgの投与量で、[S](−)PAIメシレートは、3匹のマウスのうち3匹を防御し、一方、3匹のマウスのうち1匹のみが[R](+)PAIメシレートで防御された。
【0223】
MES試験は、ヒトの部分的及び全身的発作に対する薬効を指示する古典的なモデルである。薬剤の作用メカニズムは、発作の広がりを防止するこれらの能力を媒介する。しかし、発作の広がりを防止する幾つかの薬剤は、発作の閾値を低下させる副作用を有する。従って、これらの薬剤は、痙攣前の副作用及び抗痙攣の副作用の両方を有する。
【0224】
ここでの結果は、[S](−)PAIメシレートが痙攣前の活性を有することを示している。「メトラゾールの時間静脈内注入試験」において、141mg/kgの[S](−)PAIメシレートは、時間、従って、最初の焦点発作(forcal seizure)及びクローヌスの開始の両方の様相を誘導するのに必要なメトラゾールの量を減少する。フェニトイン及びカルバマゼピンのような部分的及び全身性の発作に古典的に使用される他の試薬はこの効果を示さない。(H. J. Kupferberg, Epilepsia, 30, s51-s56 (1989))。同様に、[S](−)PAIメシレートは、[R](+)PAIメシレートよりも十分高い急性神経毒性を示す。300mg/kgで、[R](+)PAIメシレートは、ローターロッド運動失調試験(rotorod ataxia test)においてマウスでいずれの神経毒性を示さなかたった。[S](−)PAIメシレートでは、4匹のマウスのうち4匹が神経毒性及び痙攣性を示した。
【0225】
方法
TD50(中央毒性投与量)
本試験はローターロッド運動失調試験によって精神医学的欠損を測定する。マウスを6rpmで回転するギザキザをつけた棒に置きいた。次に、マウスがその平衡を維持する能力を有するか否か、及び3回の試験の各々で1分間棒上に止まることができるか否かを決定する。
【0226】
メトラゾールの時間静脈内注入試験
本試験は、各動物の最小の発作の閾値を測定する。メトラゾールを0.185mg/mlでマウスの尾静脈に注入した。次に、注入の開始から最初のひきつり(最初の焦点発作)及びクローヌスの開始(間代性の発作)の様相まで時間を記録した。痙攣前は、これらの徴候を引き起こすのにより少ないメトラゾールを必要とし、従ってより短い時間で終点を示す。
【0227】
例37
腸平滑筋調製物の収縮に関する[R](+)PAI及び[S](−)PAIの抹消効果
PAIのエナンチオマーの塩酸塩の抹消効果を、単離されたウサギ又は天竺ネズミの小腸で決定した。これらの観測は、ヒトにおけるこれらの相対的抹消副作用に関する有益な情報を提供する。経口投与された薬剤と患者の最初の接点は、胃腸間であり、この場所で、薬剤の濃度は吸収及び分布の後よりも高くなる。PAI塩酸塩(MW=208)の場合は、約100mlの液体容積内に含まれる10mgの経口投与量は、約0.5mMの濃度に等しい。対照的に、[R](+)PAI塩酸塩の治療の血漿濃度はナノモルオーダーである。
【0228】
単離されたウサギ空腸及び天竺ネズミ回腸におけるPAIのエナンチオマーの効果が決定され、この結果から[R](+)PAIと供に[S](−)PAIの取り込み(ラセミ体のPAIで見出されるようなもの)が、純粋な[R](+)PAIの投与では存在しない副作用をもたらすか否かがわかる。[R](+)PAIは、酵素のこの形態に対するその強さ及び高い選択性によって、脳においてMAO−Bの阻害のための好ましいエナンチオマーである。[S](−)PAIは、この点において[R](+)PAIよりも強さが低く、MAO−Bに対して選択的でもない。基本的には、[S](−)PAIが[R](+)PAIの推奨される投与量で不活性であるという条件で、PAIのラセミ体でのその存在が許容され、見逃される。表16〜19に示された結果は、[S](−)PAIが不活性な物質であることを示している。反対に、天竺ネズミの回腸では、これは[R](+)PAIよりも強力な弛緩剤である。従って、その抹消効果は、無視できるとして割り引いて考慮することができない。これらのデータは、純粋な[R](+)PAIの投与での抹消の副作用が、[R](+)PAIに等しい投与量を含有するラセミ体のPAIの投与におけるよりも小さくなるであろうことを示している。
【0229】
表16 水に漬けた空腸調製物におけるPAIの2種類のエナンチオマーの各々によるチラミンの増強
ウサギ空腸の伸張物を器官浴にマウントし、ノルエピネフリンで阻害されるが、チラミンでは阻害されない周期的な収縮を観測した。しかし、空腸がPAIのようなモノアミンオキシダーゼ阻害剤で前処理されると、チラミンは自発的な収縮の弛緩を起こす。弛緩の程度は、阻害剤の相対的な強さと相関しうる。
【表16】
【0230】
結果
[S](−)PAIは、脳MAO−Bの阻害剤としては、[R](+)PAIよりも強さが非常に低い。従って、[S](−)PAIは脳のドーパミンの分解を阻害するための有効な薬剤ではないが、小腸においてチラミンで喚起されるノルエピネフリンの放出を強めることができる。小腸におけるその活性は、分解されないチラミンの吸収と作用を増強することが予想されるので、望まない副作用でである。従って、[S](−)PAIは、これが[R](+)PAIと供に用いられる場合、ラセミ体のPAIで見出されるような不活性な物質ではない。
【0231】
表17 400μMのPAIHClの2種類のエナンチオマーの各々の存在下における天竺ネズミの回腸調製物の、ベタネコールで誘導される収縮の拮抗作用
器官浴の生理学的溶液中でマウントされた天竺ネズミの回腸の伸張物は、天然の胃腸管神経伝達物質であるアセチルコリンの酵素的に安定な類似体であるベタネコール(bethane-chol)で処理したとき、投与量依存的に収縮する。これらの収縮は、PAIの存在下で弱められる。データはグラム−伸張(gram-tension)で表した。
【表17】
【0232】
結果
[S](−)PAIは、[R](+)に関してMAO−B阻害剤としてほとんど不活性である。従って、脳のドーパミンの分解を阻害することについて効果的でない。しかし、これは、ベタネコールで誘導される小腸の収縮の阻害に関して[R](+)PAIよりも効果的である。従って、[S](−)PAIは、これが[R](+)PAIと共に使用された場合、ラセミ体のPAIで見出されるように不活性な物質ではない。
【0233】
表18 PAIHClの2種類のエナンチオマーの各々による天竺ネズミの回腸調製物のヒスタミンで誘導される収縮の拮抗作用
ヒスタミンの固定した投与量(40μM)は、器官浴の生理学的溶液中にマウントされた天竺ネズミの回腸の伸張物の持続的な収縮を起こす。PAIHClの2種類のエナンチオマーの各々を増加して添加すると、筋の投与量依存性の弛緩を起こす。結果を、ヒスタミンの添加前のベースライン(これを100%弛緩とした。)に関してのパーセント弛緩として表した。
【表18】
【0234】
結果
[S](−)PAIは、脳においてMAO−Bの阻害剤として[R](+)PAIに関して不活性である。従って、脳のドーパミンの分解を阻害するためには有効でないが、腸平滑筋の弛緩を起こす(R)異性体よりも活性である。従って、[S](−)PAIは、(R)異性体と供に摂取される場合、ラセミ体のPAIで見出されるような不活性な物質ではない。
【0235】
表19 PAIHClの2種類のエナンチオマーの各々による天竺ネズミの回腸調製物のベタネコールで誘導される収縮の拮抗作用
ベタネコールの固定した投与量(0.8μM)は、器官浴の生理学的溶液中にマウントされた天竺ネズミの回腸の伸張物の持続的な収縮を起こす。PAIHClの2種類のエナンチオマーの各々を増加して添加すると、筋の投与量依存性の弛緩を起こす。結果を、ヒスタミンの添加前のベースライン(これを100%弛緩とした。)に関してのパーセント弛緩として表した。
【表19】
【0236】
結果
[S](−)PAIは、脳においてMAO−Bの阻害剤として[R](+)PAIに関して不活性である。従って、脳のドーパミンの分解を阻害するためには有効でないが、腸平滑筋の弛緩を起こす(R)異性体よりも活性である。従って、[S](−)PAIは、(R)異性体と供に摂取される場合、ラセミ体のPAIで見出されるような不活性な物質ではない。
【発明の概要】
【0001】
この出願は、1993年、10月18日に提出された米国出願番号08/139,517の継続であり、その内容は、参照文献として本出願の一部をなす。
【0002】
本発明の背景
I.
本発明は、モノアミンオキシダーゼ酵素(これ以後MAOと称する。)の選択的不可逆的な阻害剤の分野に属し、モノアミンオキシダーゼ酵素のB−型(これ以後MAO−Bと称する。)の選択的不可逆的阻害剤であるN−プロパルギル−1−アミノインダンのR(+)エナンチオマー(これはまた、ここではPAIと称する。)を提供する。本発明はまた、[R](+)−PAIを含有する薬学的組成物であって、特に、パーキンソン病、記憶障害、痴呆、鬱病、活動高進症候群、感情の病気、神経退行性疾患、神経毒性傷害、脳虚血症、頭の外傷性傷害、脊髄の外傷性傷害、精神分裂症、注意力欠損症、多発性硬化症、及び禁断症状の治療に有効なものも提供する。
【0003】
II.
パーキンソン症は、脳内のシナプス前部のドーパミン作用性ニューロンの退化と、これに続く、遊離される神経伝達物質であるドーパミンの量の減少の結果起こると広く考えられている。従って、不十分なドーパミンの遊離は、自発的な筋肉のコントロールの傷害の始まりに導く(該傷害の始まりは、パーキンソン症の兆候である。)。
【0004】
パーキンソン症を治療する種々の方法が確立されており、例えば、L−ドーパをL−カルビドパ若しくはベンゼラジド(benserazide)のようなデカルボキシラーゼ阻害剤と共に投与することを含めて、現在広く使用されている。デカルボキシラーゼ阻害剤は、抹消の脱カルボキシル化からL−ドーパ分子を保護し、これによって脳の線条での残りのドーパミン作用性ニューロンによるL−ドーパの取り込みを保証する。ここで、L−ドーパは、ドーパミンに変換され、これらのニューロンでのドーパミンのレベルを増加させる。従って、生理学的な刺激への応答で、これらのニューロンは、正常に要求されるレベルに近いレベルで大量のドーパミンを放出することができる。このように、L−ドーパでの治療は、疾患の兆候を緩和し、患者の安寧に寄与する。
【0005】
しかし、L−ドーパによる治療には欠点があり、その主要なものは、その効果が治療の最初の数年間のみ最適であることである。この期間以後は、臨床応答が減少し、運動異常、一日中の薬効の変動(「オン−オフ効果」)並びに、錯乱状態、パラノイア及び幻覚のような精神医学的兆候を含む有害な副作用を伴う。L−ドーパ治療におけるこの減少は、疾患の自然進行、ドーパミンの産生の増加若しくはドーパミン代謝物のレベルの増加の結果としてのドーパミン受容体の変性、及びL−ドーパ吸収の薬動力学的問題を含めた多くの因子に起因する(総説、Youdim et al., Progress in Medicinal Chemistry, 21, 138-167 (1984))。
【0006】
L−ドーパによる治療の不利益を克服するために、種々の治療が案出されており、この治療においては、L−ドーパは、新たに形成されたドーパミンの代謝分解物を減少する目的でMAO阻害剤と組み合わされる(例えば、1989年3月2日に発行されたChiese, P.,米国特許4,826,875を参照)。
【0007】
MAOは、MAO−A及びMAO−Bとして知られる2種類の形態で存在し、これらは、異なった基質及び阻害剤に対して選択的である。例えば、MAO−Bは、2−フェニルエチルアミンのような基質をより効果的に代謝し、以下に示されるように(−)−デプレニルによって選択的に及び不可逆的に阻害される。
【0008】
しかし、L−ドーパとMAO−A及びMAO−Bの両方の阻害剤と組み合わせて治療することは、こららの治療が脳脊髄幹の全体にわたるカテコールアミンのレベルの増加に関連した有害な副作用に導くので、望まれないことに注意すべきである。更に、MAOの完全な阻害はまた、MAOがチラミンのような交感神経興奮作動性アミンの作用(これはいわゆる「チーズ効果」に導く。)を増すので、望ましくない(総説、Youdim et al., Handbook of Experimental Pharmacology, ed. by Trendelenburg and Weiner, Springer-Verlag, 90, ch. 3 (1988))。MAO−Bが脳のMAOの優勢な形態であることが示されているので、この型に選択的な阻害剤は、一方でドーパミンの分解を減少させ、加えて他方で全MAOの阻害の全身性の影響を最小にするための可能な手段であると考えられる。
【0009】
MAOの多くの阻害剤は、キラルな分子である。一方のエナンチオマーはしばしば、MAO−A及び−Bに対する相対的な有効性に幾つかの立体選択性を示すが、与えられたエナンチオマーの配置がMAO−AとMAO−Bの間を識別することにおいて、その鏡像異性体よりも必ずしも選択的でない。
【0010】
表IにMAOのラット脳での産生におけるプロパルギルアミンのエナンチオマー対のIC50(mmol/L)を列挙した。これらの結果は、R及びSエナンチオマー間でのMAO−Bの阻害の有効性に僅かの差を示した(B. Hazelhoff, et al.,Naunyn-Schmeideberg's Arch. Pharmacol., 330, 50 (1985))。両エナンチオマーは、MAO−Bに選択的である。1967年に、Magyar, et al.は、ラット脳のホモジネートによるチラミンの酸化的脱アミノ化を阻害することにおいて、R−(−)−デプレニルがS−(+)エナンチオマーよりも500倍強力であることを報告した(K. Magyar, et al., Act. Physiol. Acad. Sci., Hung., 32, 377 (1967))。
【0011】
ラット肝臓ホモジネートでは、R−デプレニルは、Sエナンチオマーの強さのわずか15倍程度であった。チラミンの取り込みの阻害に対するような他の薬理学的な活性のアッセイでは、デプレニルは異なった立体選択性を示す。S型は、幾つかの場合に、より強力なエピマーである(J. Knoll and K. Magyar, Advances in Biochemical Psychopharmacology, 5, 393 (1972))。
【0012】
N−メチル−N−プロパルギル−1−アミノテトラリン(2−MPAT)は、デプレニルの構造上密接な類似体である。2−MPATの絶対立体化学は決定されていない。しかし、(+)−異性体はMAO−Bに対して選択的であり、(−)異性体はMAO−Aに対して選択的である。2−MPATのエナンチオマー間の有効性の差は、5倍以下である(B. Hazelhoff, et al., id.)。N−プロパルギル−1−アミノテトラリン(1−PAT)のエタンチオマーも活性において同様である。単離された(+)−又は(−)−2−MPATの間の構造上の明確な活性の関係を示すデータが表Iで欠如しているので、これらの絶対立体化学を予言することが困難となっている。
【0013】
広範なコンピュータモデリングの後、Polymerpoulosは、(R)−N−メチル−N−プロパルギル−1−アミノインダン(R−1−MPAI)が、MAO−B阻害剤としての(S)よりも強力であることを最近予言した(E. Polymerpoulos, Inhibitors of Monoamine Oxidase B, I. Szelenyi, ed., Birkhauser Verlag, p.110 (1993))。しかし、示された実験は、R−1−MPAIがS−1−MPAIよりも僅かに強いMAO−Bの阻害剤であるが、MAO−Aのより強力な阻害剤であることを示している。MAO−A及びMAO−Bの間の選択性、並びにR及びSエピマーの相対的な有効性の両方とも低かった。従って、当分野での予想とは逆に、1−MPAIは薬剤として役にたたない。
【0014】
以下に示すデータは、一方のエナンチオマーに対する他方のMAOに対する高い選択性が、予想できないことを示している。MAO活性部位の構造が、相対的な有効性の予想又は与えられた何れかの化合物若しくはこれらのエナンチオマー対の選択性を可能にするほど十分には理解されていない。
【表1】
【0015】
選択的なMAO−B阻害剤の1つである(−)−デプレニルは、広範囲に研究されており、L−ドーパ治療を増加するためのMAO−B阻害剤として使用される。(−)−デプレニルでのこの治療は、一般には有効であるが、MAO−Bのほぼ完全な阻害を起こす投与量で「チーズ効果」を起こさない(Elsworth, et al., Psychopharmacology, 57, 33 (1978))。更に、(−)−デプレニルを、パーキンソン病の患者に投与されるL−ドーパ及びデカルボキシラーゼ阻害剤の組み合わせに添加することは、無運動及び全体の機能力の改善、並びにオン−オフタイプの変動の除去に結びつく(総説、Birk-mayer & Riederer in "Perkinson's Disease," Springer-Verlag, pp. 138-149 (1983))。従って、(−)−デプレニルは、(a)L−ドーパの効果を増強し、長引かせ、L−ドーパ治療の有害な効果を増加させない。
【0016】
しかし、(−)−デプレニルはそれ自身、先在する胃潰瘍の活性化及び時折の高血圧症状の発現を含めた有害な副作用を有している。更に、(−)−デプレニルは、アンフェタミン誘導体であり、アンフェタミン及びメタンフェタミン(これらの物質は、心拍数を増加させるような望まない副作用を起こすに代謝される(Simpson, Biochemical Pharmacology, 27, 1951 (1978); Finberg, et al., in "Monoamine Oxidase Inhibitors - The State of the Art," Youdim and Paykel, eds., Wiley, pp.31-43 (1981))。
【0017】
MAO−Bの選択的不可逆的阻害剤であるが、(−)−デプレニルに付随する望まない効果を有さない他の化合物が望まれている。このような化合物の一つとして、N−プロパルギル−1−アミノインダン・HCl(ラセミ体PAI・HCl)が、GB1,003,686及びGB1,037,014並びに1970年5月19日に発行された米国特許第3,513,244に開示されている。ラセミ体のPAI・HClは、強力で、選択的なMAO−Bの不可逆的阻害剤であり、アンフェタミンに代謝されず、望まない交感神経興奮作用性効果を起こさない。
【0018】
比較動物試験では、ラセミ体PAIは(−)−デプレニル以上のかなりの有益性を有することが示された。例えば、ラセミ体のPAIは重要な頻脈を起こさず、血圧を増加させず(5mg/kgの(−)−デプレニルの投与量によりもたらされる影響)、5mg/kgまでの投与量で瞬膜の収縮又は心拍数の増加を起こさない(0.5mg/kg以上の投与量で(−)−デプレニルにより起こる影響)。更に、ラセミ体のPAI・HClは、チラミンの心血管系の影響を強めない(Finberg, et al., in "Enzymes and Neurotransmitters in Mental Disease," pp. 205-219(1980), Usdin, et al., Eds., Wiley, New York; Finberg, et al. (1981), in "Monoamine Oxidase Inhibitors - The State of the Art," ibid.; Finbergand Youdim, British Journal Pharmacol., 85, 451 (1985))。
【0019】
本発明の根本的な目的の一つは、ラセミ体のPAI化合物を分離すること、及びMAO阻害活性を持ったエナンチオマーであって、他のエナンチオマーに付随するいずれの望まない副作用も有さないものを得ることである。
【0020】
デプレニルがPAIと同様の構造を有しおり、デプレニルの(−)−エナンチオマー、即ち(−)−デプレニルが、(+)−エナンチオマーよりもかなり薬学的に活性であることが知られているので、PAIの(−)−エナンチオマーがより活性なMAO−B阻害剤であると予想できるであろう。
【0021】
しかし、このような予想に反して、実際には(+)−PAIエナンチオマーが活性なMAO−B阻害剤であるが、(−)−エナンチオマーが非常に低いMAO−B阻害活性を示すことが見出されている。更に、(+)−PAIエナンチオマーはまた、MAO−B阻害に対する選択性の程度が対応するラセミ型のそれよりも驚くほど高く、指示された疾患の治療において、ラセミ混合物よりも望まない副作用が少なくなければならない。これらの所見は、以下でより詳細に議論するin vitro及びin vivo実験の両方を基にしている。
【0022】
(+)−PAIが、Rの絶対配置を有することが引き続き示された。この発見はまた、デプレニル及びアンフェタミンと(+)−PAI類似体の予想した構造上の類似性に基づけば、驚くべきことである。
【0023】
以下に議論するように[R](+)PAI及びS(−)エナンチオマーの間の薬理学的活性の高い立体選択性も注目すべきことである。化合物[R](+)PAIはMAO−Bの阻害に関してS(−)エナンチオマーよりも活性がほぼ四オーダーの大きさである。この割合は、2種類のデプレニルエナンチオマー間で観測されたものよりも十分に高い(Knoll and Magyar, Adv. Biochem. Psychopharmacol., 5, 393 (1972); Magyar, et al., Acta Physiol. Acad. Sci. Hung., 32, 377 (1967))。更に、幾つかの生理学的試験では、(+)−デプレニルは、(−)エナンチオマーの活性と等しいか、又はそれよりもいっそう高い活性を有することが報告されている(Tekes, et al., Pol. J. Pharmacol. Pharm., 40,653 (1988))。
【0024】
MPAIはMAO活性のより強い阻害剤であるが、MAO−A以上にMAO−Bに対する選択性が低い(Tipton, et al., Biochem. Pharmacol., 31, 1250 (1982))。驚くべきことに、2種類の決定されたエナンチオマーの相対的活性の違いの程度が小さいことのみがMPAIで観測されたので(R)(+)PAIの注目すべき挙動が更に明確になる(表IB参照)。
【0025】
本発明の目的はまた、パーキンソン症、記憶障害、痴呆、鬱病、運動高進症候群、感情の病気、神経退行性疾患、神経毒性傷害、脳虚血、頭の外傷性傷害、脊髄の外傷性傷害、精神分裂症、注意力欠損症、多発性硬化症、又は禁断症状の治療に薬学的に活性なPAI−エナンチオマーを単独で(L−ドーパを用いずに)使用する方法を提供することである(Youdim, et al.,による総説、in Handbookof Experimental Pharmacology, Trendelenberg and Wiener, eds., 90/I, ch.3 (1988)を参照)。
【0026】
本発明は更に、パーキンソン症の治療のための薬学的に活性なPAI−エナンチオマーを単独で使用する方法を提供する。本発明はまた、[R](+)PAI及びレボドパのような共同作用的な薬剤を含有する薬学的組成物を提供する。このような薬剤の使用は、初期のパーキンソン症患者に単独で投与されたときに効果を示し、α−トコフェロール、ビタミンE誘導体と供に投与されたときにこれらの患者に共同作用性の効果も有しうる(−)−デプレニルに関して研究されている(The Perkinson's Study Group, New England J. Med., 321(20), 1364-1371 (1989))。
【0027】
パーキンソン症を治療する場合のこの有用性に加えて、(−)−デプレニルはまた、アルツハイマータイプの痴呆(DAT)に罹っている患者の治療(Tariot, et al., Psycho-pharmacology, 91, 489-495 (1987))、及び鬱病の治療(Mendelewicz and Youdim, Brit. J. Psychiat. 142, 508-511 (1983))に有効であることが示されている。本発明の[R](+)PAI化合物及び特にそのメシレート塩は、記憶を回復させることが示されている。従って、[R](+)PAIは、記憶障害、及び痴呆、特に子どものアルツハイマー型のものを治療するための可能性を有する。
【0028】
最後に、本発明は、優れた薬学的特性を有する[R](+)PAIの非常に安定な塩を提供する。メシレート塩が特に安定であり、予想し得なかったより高い選択性を示し、対応するラセミ体の塩よりも十分に低い副作用を示した。
【0029】
本発明の概要
本発明は、下記構造を有するR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを提供する。
【化1】
【0030】
本発明は更に、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの薬学的に許容しうる塩を提供する。
【0031】
本発明は更に、治療に効果的な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン若しくはその薬学的に許容しうる塩及び薬学的に許容しうる担体を含有する薬学的組成物を提供する。
【0032】
本発明は更に、パーキンソン症に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者のパーキンソン症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又はその薬学的に許容しうる塩を該患者に投与することを具備した方法を提供する。
【0033】
本発明は、記憶障害に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の記憶障害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0034】
本発明は、痴呆に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の痴呆を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。一態様では、痴呆はアルツハイマータイプ(DAT)である。
【0035】
本発明は、鬱病に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の鬱病を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0036】
本発明は、活動高進症候群に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の活動高進症候群を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0037】
本発明は、感情の病気に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の感情の病気を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0038】
本発明は、神経退行性疾患に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の神経退行性疾患の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0039】
本発明は、神経毒性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の神経毒性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0040】
本発明は、脳虚血症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の脳虚血症の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0041】
本発明は、頭の外傷性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の頭の外傷性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0042】
本発明は、脊髄の外傷性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の関随の外傷性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0043】
本発明は、精神分裂症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の精神分裂症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0044】
本発明は、注意力欠損症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の注意力欠損症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0045】
本発明は、多発性硬化症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の多発性硬化症の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0046】
本発明は、患者の神経の損傷を防止する方法であって、該患者の神経の損傷を防止するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0047】
本発明は、嗜癖物質からの禁断症状に苦しんでいる患者を治療するための方法であって、該患者の禁断症状を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0048】
本発明は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを製造するための方法であって、有機若しくは無機塩基の存在下に、R(−)−アミノインダンを臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギル又はベンゼンスルホン酸プロパルギルと接触させ、これによってR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを形成させ、このように形成されたR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを単離することを具備した方法を更に提供する。
【0049】
本発明は、ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを製造するための方法であって、有機若しくは無機塩基の存在下で、ラセミ体の1−アミノインダンを臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギルと接触し、これによってラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを形成させ、このように形成されたラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを単離することを具備した方法を更に提供する。
【0050】
最後に、本発明は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩を製造するための方法であって、ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを光学活性な酸と接触させ、これによって2種類のジアステレオマーのN−プロパルギル−1−アミノインダン塩を形成させ、このように形成されたジアステレオマーのN−プロパルギル−1−アミノインダン塩からR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩を単離することを具備した方法を更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】in vitroでのMAO−A阻害活性を示す例22に従った結果をグラフで表したものである。
【図2】in vitroでのMAO−B阻害活性を示す例22に従った結果をグラフで表したものである。
【図3A】ヒト皮質組織におけるMAO活性を示す例22に従った結果をグラフで表したものである。基質は14Cで標識されたフェニルエチルアミン(PEA)である。
【図3B】ヒト皮質組織におけるMAO活性を示す例22に従った結果をグラフで表したものである。基質は14Cで標識された5−ヒドロキシトリプタミン(5−HT)である。
【図4】脳におけるMAO−Aの短期阻害(i.p.)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図5】脳におけるMAO−Bの短期阻害(i.p.)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図6】肝臓におけるMAO−Aの短期阻害(i.p.)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図7】肝臓におけるMAO−Bの短期阻害(i.p.)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図8】脳におけるMAO−Aの短期阻害(per os)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図9】脳におけるMAO−Bの短期阻害(per os)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図10】肝臓におけるMAO−Aの短期阻害(per os)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図11】肝臓におけるMAO−Bの短期阻害(per os)を示す例23に従った結果をグラフで表したものである。
【図12】脳におけるMAO−Aの長期阻害(per os)を示す例24に従った結果をグラフで表したものである。
【図13】脳におけるMAO−Bの長期阻害(per os)を示す例24に従った結果をグラフで表したものである。
【図14】肝臓におけるMAO−Aの長期阻害(per os)を示す例24に従った結果をグラフで表したものである。
【図15】肝臓におけるMAO−Bの長期阻害(per os)を示す例24に従った結果をグラフで表したものである。
【図16】[R](+)PAIのi.p.投与後の時間の関数として、ラット脳におけるMAO−B活性を示す例25に従った結果をグラフで表したものである。
【図17】ハロペリドール6mg/kg s.c.を投与されたマウスにおける正常動揺病(normokinesia)の回復を示す例32に従った結果をグラフで表したものである。マウスは、各試験薬物をi.p.で示された投与量で投与された。2時間後、これらにハロペリドールを投与した。ハロペリドールの後3時間で動力学的な評点を取った。これらの評点は、棒に沿って水平に動く能力、垂直な棒を降りる能力、及びカタレプシーの短縮よりなる。ハロペリドールが存在しない場合、最大の評点は12であり、ハロペリドール単独で6.8±0.03である。統計的な優位性はStudent'sの「t」試験で計算した。これらは、ハロペリドール単独に対して*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001である。[R](+)PAIの評点は、5mg/kg(p≦0.05)、10mg/kg(p≦0.01)、及び15mg/kg(p≦0.05)(n=5.6)でラセミ体のPAIの評点と有意に異なっている。示された投与量は、PAIの遊離の塩基に対するものである(メシレート塩のものではない。)。
【図18】100mg/kg i.p.においてα−メチル−p−チロシンで処理されたラットの運動活性の回復を示す例32に従った結果をグラフで表したものである。ラットは、示された投与量で、i.p.により試験化合物を投与された。2時間後、これらにα−Mptを投与し、迅速に活動用のかごに置いた。全運動活性を十時間継続し記録した。生理食塩水で処理した対照のラットはわずか15,862+1424を記録したのみであった。α−Mpt単独では、ラットは8,108±810を記録した。Student'sの「t」試験による統計的な優位性は、α−Mptに対して*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001である。[R](+)PAIの評点は、2mg/kgでのラセミ体のPAIと有意に異なっている(p≦0.01)、(n=6)。示された投与量は、PAIの遊離の塩基に対するものであり、メシレート塩ではない。
【図19】傷害の後30分、及びこの後30分のインターバルで測定された2分間の無酸素症に対するNADH応答を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明の詳細な説明
本発明は、下記構造のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを提供する。
【化2】
【0053】
以下の実験例で示されるように、[R](+)PAIは、MAO−Bの阻害剤としての活性が[S](−)PAIのほぼ7,000倍である。MAO−A及びMAO−Bの間で低い選択性を有し、R又はS配置の機能としての強さに関して予想可能な傾向を示さない当分野の公知のMAO−B阻害剤を考慮すれば、[R](+)PAIの選択性及び強さは予想外である。
【0054】
[R](+)PAIは、PAIのR−及びS−エナンチオマーのラセミ混合物の光学分割によって得ることができる。このような分割は、J. Jacques, A. Collet and S. Wilen, "Enantiomers, Racemates and Resolutions," Wiely, New York (1981)に開示されているような当業者に周知の、何れかの従来の分割方法によって達成されうる。例えば、分割は、キラルカラム上での分取クロマトグラフィーによって行われうる。適切な分割方法の他の例は、酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸、又はN−アセチルロイシンのようなアミノ酸のN−アセチル誘導体のようなキラルな酸を用いたジアステレオマー塩を形成させ、次いで再結晶し、所望のRエナンチオマーのジアステレオマー塩を単離することである。PAIのR及びSエナンチオマーのラセミ混合物は、例えば、GB1,003,676及びGB1,037,014に開示されているようにして調製される。PAIのラセミ混合物はまた、1−クロロインダンとプロパルギルアミンを反応することによっても調製することができる。この他には、このラセミ混合物は、プロパルギルアミンを1−インダノンと反応し、対応するイミンを形成させ、次いで水素化ホウ素ナトリウムのような適切な試薬でイミンの炭素−窒素二重結合を還元することによって調製することができる。
【0055】
本発明に従えば、PAIのRエナンチオマーは、有機若しくは無機塩基の存在下、及び必要に応じて適切な溶媒の存在下で、臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギル又はベンゼンスルホン酸プロパルギルと反応することによって、1−アミノインダンの光学活性なR−エナンチオマーから直接に調製することもできる。
【0056】
上記の反応に使用するための適切な有機若しくは無機塩基には、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、アルカリ金属炭酸塩、及び重炭酸塩が含まれる。反応が溶媒の存在下で行われる場合は、該溶媒は、例えばトルエン、塩化メチレン、及びアセトニトリルから選択されうる。[R](+)PAIを製造する1つの方法は、R−1−アミノインダンと塩化プロパルギルを、塩基として重炭酸カリウム及び溶媒としてアセトニトリルを使用して反応することである。
【0057】
上記の1−アミノインダンの反応は、一般に、反応しない一級アミン、所望の二級アミン及び三級アミンであるN,N−ビスプロパルギルアミノ生成物の混合物を生じる。所望の二級アミン、即ちN−プロパルギル−1−アミノインダンは、例えばクロマトグラフィー、蒸留及び選択的な抽出を含めた従来の分離方法によってこの混合物から単離され得る。
【0058】
出発物質であるR−1−アミノインダンは、例えばLawson and Rao, Biochemisty, 19, 2133 (1980)の方法、これに含まれる参照文献の方法、及び欧州特許第235,590の方法を含めたと分野で公知の方法によって製造することができる。
【0059】
R−1−アミノインダンはまた、例えば、キラルな酸とのジアステレオマーの形成を含めたR及びSエナンチオマーのラセミ混合物の分割、又はJ. Jacques,et al., ibid.に報告されたような何れかの他の公知の方法によっても調製することができる。他の方法としては、R−1−アミノインダンは、1−インダノンと光学活性なアミンとを反応し、次いで得られたイミンの炭素−窒素二重結合をパラジウム炭、三価白金又はラネーニッケルのような適切な触媒上で水素化することによって還元して調製することができる。適切な光学活性アミンには、例えばフェネチルアミンの対掌対の一方又は、バリン若しくはフェニルアラニンのようなアミノ酸のエステルが含まれる。ベンジル様のN−C結合は、激しくない条件下で水素化することによって引き続き開裂されうる。
【0060】
R−1−アミノインダンを調製するための追加の方法は、上記のようなインダン−1−オンオキシムエステル(但し、該エステルのアルキル部分には光学的に純粋なキラル中心が含まれる。)の水素化である。この他のには、イミン若しくはオキシムのような炭素−窒素二重結合を含むインダン−1−オンのキラルでない誘導体を、キラルな還元剤、例えば水素化アルミニウムリチウムとエフェドリンの錯体で還元しうる。
【0061】
本発明は更に、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの薬学的に許容しうる塩を提供する。
【0062】
本発明の実施において、薬学的に許容しうる塩には、メシレート、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、塩酸塩、臭素酸塩、エシレート、p−トルエンスルホネート、安息香酸塩、酢酸塩、リン酸塩及び硫酸塩が含まれるが、これらに制限されない。
【0063】
一態様では、該塩は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンのメシレート塩、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンのエシレート塩、及びR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの硫酸塩よりなる群から選択される。
【0064】
以下の実験例で示されるように、メシレート塩が熱分解に対して非常に安定であり、ラセミ体の塩よりも予想外にMAO−Bに対して優れた選択性を示した。
【0065】
[R](+)PAIの化合物の薬学的に許容しうる酸付加塩を調製するためには、遊離の塩基を、適切な溶媒の存在下において従来の方法で所望の酸と反応させる。同様に、酸付加塩は、公知の方法で遊離の塩基の形態に変換されうる。
【0066】
[R](+)PAIのメシレート塩を調製する好ましい方法には、(a)ベンゼンスルホン酸プロパルギル(又はトシレート若しくはメシレート)のトルエン溶液に15%の水酸化ナトリウム水溶液を加えること;(b)5時間撹拌すること;(c)追加のトルエン及び水を加えること;(d)有機層を分離し、10%水酸化ナトリウムで洗浄し、次いで水で希釈すること;(e)混合物のpHを10%硫酸水溶液で3.2に調節すること;(f)水層を分離し、10%水酸化ナトリウムでpHを7.3に調節すること;(g)pHを維持しながらトルエンで3回抽出すること;(h)有機層を合わせ減圧下に濃縮し、黄色のオイルを得ること;(i)該オイルとL−酒石酸をイソプロパノールに溶解すること;(j)1時間加熱還流すること;(k)室温に冷却し、濾過によって沈殿を集めること;(l)粗製のジ−プロパルギルアミノインダン酒石酸塩をメタノール/イソプロパノール(1:1)から再結晶し、ジ(R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン)酒石酸塩を得ること;(m)該酒石酸塩とメタンスルホン酸をイソプロパノールに溶解し、30分加熱還流すること;及び(n)室温に冷却し、沈殿したR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを集めることが含まれる。
【0067】
本発明は、更に、治療に効果的な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩及び薬学的に許容しうる担体を含有する薬学的組成物を提供する。「治療に効果的な量」のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩は、当業者に周知の方法に従って決定されうる。
【0068】
このような組成物に使用される可能な塩には、塩酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、メシレート、エシレート、及び硫酸塩が含まれる。
【0069】
これらの組成物は、経口、非経口、直腸、又は経皮的に投与されうる医薬として調製されうる。
【0070】
一態様では、該薬学的に許容しうる担体は固体であり、該薬学的組成物は錠剤である。治療に効果的な量は、約0.1mgから約100mgの量でありうる。治療に効果的な量はまた、約1mgから約10mgでありうる。
【0071】
経口投与にて記した形態には、錠剤、圧縮若しくはコートされたピル、糖衣錠、セシェイ(sachets)、硬質若しくは軟質ゼラチンカプセル、舌下錠、シロップ及び懸濁液が含まれる。
【0072】
他の態様では、薬学的に許容しうる担体は液体であり、該薬学的組成物は注射可能な溶液である。治療に効果的な量は、約0.1mg/mlから約100mg/mlの量であり得る。治療に効果的な量はまた、約1mg/mlから約10mg/mlでありうる。一態様では、投与される投与量は、0.1mlから1.0mlである。
【0073】
更なる他の態様では、担体はゲルであり、薬学的組成物は坐薬である。
【0074】
非経口投与に対して、本発明は、水性若しくは非水性の溶液若しくは乳剤を含有するアンプル若しくはバイアルを提供する。直腸投与に対しては、親水性若しくは疎水性ビヒクル(vehicles)の坐薬が提供される。局所塗布に対しては、軟膏及び経皮的に輸送できるもののような当分野で周知の適切な輸送システムが提供される。
【0075】
好ましい態様では、薬学的に許容しうる塩はメシレート塩である。
【0076】
これらの組成物は、上記の疾患の治療に単独で使用されるか、又はその他には、パーキンソン病の場合のように、従来のL−ドーパ治療のアジュバントとして使用されうる。
【0077】
上記組成物内の活性成分、即ち[R](+)PAIの好ましい投与量は以下の範囲内である。経口又は坐薬処方剤に対しては、単位投与量あたり0.1〜100mgを一日に摂取すべきであり、好ましくは単位投与量あたり1〜10mgを一日に摂取する。注射可能な処方剤に対しては、単位投与量あたり、0.1〜100mg/mlを一日に摂取し得、好ましくは単位投与量あたり1〜10mg/mlを一日に摂取する。
【0078】
一態様では、該薬学的組成物は、治療に効果的な量のレボドパを更に含有する。他の態様では、薬学的組成物は、効果的な量のデカルボキシラーゼ阻害剤を更に含有する。
【0079】
[R](+)PAI又は薬学的に許容しうるこれらの塩と組み合わせて投与されるデカルボキシラーゼの量は、患者内でのL−ドーパの取り込みを保証するための効果的な量である。
【0080】
デカルボキシラーゼ阻害剤は、L−カルビドパであり得る。一態様では、治療に効果的な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンは、約0.1mgから約100mgであり、治療に効果的な量のレボドパは約50mgから約250mgであり、効果的な量のL−カルビドパは、10mgから約25mgである。
【0081】
デカルボキシラーゼ阻害剤はまた、ベンゼラジド(ben-serazide)であり得る。一態様では、治療に効果的な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンは、約0.1mgから約100mgであり、治療に効果的な量のレボドパは、約50mgから約250mgであり、効果的な量のベンゼラジドは、約12.5mgから約50mgである。
【0082】
本発明は更に、パーキンソン症に悩まされている患者を治療する方法であって、患者のパーキンソン病に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン若しくは薬学的に許容しうるこれらの塩を投与することを具備した方法を提供する。
【0083】
[R](+)PAIの使用を、ドーパミン作動薬、ブロモクリプチン、ペルゴリド(pergolide)、リスリド(lisuride)、並びにカテコールアミンオキシダーゼメチルトランスフェラーゼ阻害剤のような他の医薬と組み合わせるパーキンソン病を治療する方法は本発明の範囲内にある。
【0084】
好ましい態様では、薬学的に許容しうる塩はメシレート塩である。
【0085】
投与は、経口投与、直腸投与、経皮投与、又は非経口投与を包含する。
【0086】
一態様では、本発明は、治療に効果的な量のレボドパを患者に投与することを更に具備する。他の態様では、本発明の方法は、効果的な量のデカルボキシラーゼ阻害剤を患者に投与することを更に具備する。
【0087】
デカルボキシラーゼ阻害剤は、L−カルビドパであり得る。この他には、デカルボキシラーゼ阻害剤は、ベンゼラジドである。
【0088】
本発明は、記憶障害に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の記憶障害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0089】
本発明は、痴呆に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の痴呆を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。一態様では、痴呆はアルツハイマータイプ(DAT)である。
【0090】
本発明は、鬱病に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の鬱病を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0091】
本発明は、活動高進症候群に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の活動高進症候群を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0092】
投与は、経口投与、直腸投与、又は非経口投与を包含する。
【0093】
本発明は、感情の病気に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の感情の病気を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0094】
本発明は、神経退行性疾患に悩まされている患者を治療する方法であって、該患者の神経退行性疾患の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0095】
本発明は、神経毒性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の神経毒性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0096】
本発明は、脳虚血症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の脳虚血症の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0097】
本発明は、頭の外傷性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の頭の外傷性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0098】
本発明は、脊髄の外傷性傷害に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の脊髄の外傷性傷害を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0099】
本発明は、精神分裂症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の精神分裂症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0100】
本発明は、注意力欠損症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の注意力欠損症を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0101】
本発明は、多発性硬化症に悩まされている患者を治療するための方法であって、該患者の多発性硬化症の治療に効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0102】
本発明は、患者の神経の損傷を防止する方法であって、該患者の神経の損傷を防止するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0103】
一態様では、該神経の損傷は、構造上の神経の損傷である。他の態様では、構造上の神経の損傷は、視神経の損傷である。
【0104】
本発明は、嗜癖物質からの禁断症状に苦しんでいる患者を治療するための方法であって、該患者の禁断症状を治療するのに効果的な量の本発明のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又は薬学的に許容しうるこれらの塩を該患者に投与することを具備した方法を更に提供する。
【0105】
ここで使用される「禁断症状」の語は、薬物の懇願、鬱病、過敏症、アネルギー、無動機(amotivation)、食欲の変化、悪心、震え及び睡眠の不規則性を含めた身体及び/又は精神心的な症状を意味する。
【0106】
ここで使用される、「嗜癖物質」の語は、例えば、(a)アヘン、ヘロイン及びモルヒネのような嗜癖性アヘン剤、(b)コカイン、アンフェタミン及びメタンフェタミンのような精神興奮剤、(c)アルコール、(d)ニコチン、(e)バルビツール剤、及び(f)フェンタニール、コデイン、ジフェノキシレート及びテバインのような鎮静剤を含む。
【0107】
一態様では、嗜癖物質はコカインである。他の態様では、嗜癖物質はアルコールである。
【0108】
本発明は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを製造するための方法であって、有機若しくは無機塩基の存在下に、R(−)−アミノインダンを臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギル又はベンゼンスルホン酸プロパルギルと接触させ、これによってR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを形成させ、このように形成されたR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンを単離することを具備した方法を更に提供する。
【0109】
本発明は、ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを製造するための方法であって、有機若しくは無機塩基の存在下で、ラセミ体の1−アミノインダンを臭化プロパルギル若しくは塩化プロパルギルと接触し、これによってラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを形成させ、このように形成されたラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを単離することを具備した方法を更に提供する。
【0110】
最後に、本発明は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩を製造するための方法であって、ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダンを光学活性な酸と接触させ、これによって2種類のジアステレオマーのN−プロパルギル−1−アミノインダン塩を形成させ、このように形成されたジアステレオマーのN−プロパルギル−1−アミノインダン塩からR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩を単離することを具備した方法を更に提供する。
【0111】
一態様では、単離は、分別結晶によって、単離することを包含する。
【0112】
以下の実験の詳細は、本発明の理解を助けるための説明であり、本明細書に続くクレームで説明される本発明をいずれにおいても制限することを意図するものではなく、またそのように解するべきではない。
【0113】
実験の詳細
例1
ラセミ体のN−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
10.0gのラセミ体の1−アミノインダン及び10.4gの炭酸カリウムを75mlのアセトニトリルに加えた。得られた懸濁液を60℃に加熱し、4.5gの塩化プロパルギルを滴下した。
【0114】
この混合物を60℃で16時間撹拌し、この後、ほとんどの揮発性物を減圧蒸留によって除去した。残渣を10%水酸化ナトリウム水溶液と塩化メチレンに分配した。
【0115】
有機層を乾燥し、溶媒を蒸留によって除去した。残渣を、40%酢酸エチル/60%ヘキサンで溶出するシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーにかけた。遊離の塩基として表題化合物を含有するフラクションを合わせ、溶出液をエーテルに置き換えた。エーテル溶液をHClガスで処理し、生成した沈殿を吸引濾過によって単離し、イソプロパノールから再結晶して7.3gの表題化合物を得た。m.p.=182〜4℃クロマトグラフデータ及びスペクトルデータは、1970年3月19日に発行された米国特許第3,513,244、及び基準試料と一致し、以下の通りであった。
【0116】
NMR δ(CDCl3):2.45 (2H, m), 2.60 (1H, t), 2.90 (1H, m), 3.45 (1H, m), 3.70 (2H, d), 4.95 (1H, t), 7.5 (4H, m) ppm。
【0117】
例2
S−(−)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
遊離の塩基の形態の状体化合物を、10%イソプロパノール/90%ヘキサンで溶出するChiracel OJ(セルローストリス[p−メチルベンゾエート])の分取HPLCカラムで、例1の遊離の塩基のラセミ混合物を分割し、最初に溶出された主要ピークを集めることによって単離した。得られたオイルを、該オイルの10%ジエチルエーテル溶液をHClガスで処理することによって表題化合物に変換し、生じた沈殿を吸引濾過によって集めた。[α]D−29.2°(1%、エタノール)、m.p.=182〜184℃。他のクロマトグラフ及びスペクトル特性は、例1の塩酸塩と一致した。
【0118】
例3
R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
表題化合物を、分取HPLCからの第二の溶出ピークを集めること以外、上記例2と同様に調製した。[α]D+29.1°(0.8%、エタノール)、m.p.=179〜181℃。他のクロマトグラフ及びスペクトル特性は、例1の塩酸塩と一致した。
【0119】
例4
R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
12.4gのR(−)−1−アミノインダン及び12.9gの炭酸カリウムを95mlのアセトニトリルに加えた。得られた懸濁液を60℃に加熱し、5.6gの塩化プロパルギルを滴下した。この混合物を60℃で16時間撹拌し、この後、ほとんどの揮発性物を減圧蒸留によって除去した。残渣を10%水酸化ナトリウム水溶液と塩化メチレンに分配した。
【0120】
有機層を乾燥し、溶媒を減圧下に除去した。残渣を、40%酢酸エチル/60%ヘキサンで溶出するシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーにかけた。遊離の塩基として表題化合物を含有するフラクションを合わせ、溶媒をエーテルに置き換えた。エーテル溶液をHClガスで処理し、生成した沈殿を吸引濾過によって単離し、イソプロパノールから再結晶して6.8gの表題化合物を得た。m.p.=183〜185℃。[α]D+30.90°(2%、エタノール)。スペクトル特性は、例1の化合物で報告したものと一致した。
【0121】
例5
S(−)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
出発物質としてS(+)−1−アミノインダンを使用した以外例4の方法によって調製した。生成物は、[α]D−30.3°(2%、エタノール)、m.p.=183〜5℃。スペクトル特性は、例1の化合物に対して報告したものと一致した。
【0122】
例6A
ジ(R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン) L−酒石酸塩
酒石酸(4.4g)の48mlの沸騰したメタノール溶液にR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの遊離の塩基(5.0g)のメタノール(48ml)溶液を加えた。この溶液を加熱還流し、284mlのt−ブチルメチルエーテルを20以上かけて加えた。この混合物を更に30分加熱し、冷却し、生じた沈殿を吸引濾過によって単離して6.7gの表題化合物を得た。m.p.=175〜177℃;[α]D(1.5、H2O)=+34.3°。
【0123】
元素分析:C28H32O6N2に対する計算値:C, 68.26, H, 6.56, N, 5.69. 実測値:C, 68.76; H, 6.57; N,5.61.
例6
BR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン メシレート
a)ベンゼンスルホン酸プロパルギル(78.4g)及びラセミ体のアミノインダン(63.2g)のトルエン(240mL)溶液に、20℃で15%水酸化ナトリウム水溶液(108mL)を滴下した。5時間撹拌した後、追加のトルエン(80mL)及び水(200mL)を撹拌しながら加えた。有機層を分離し、10%水酸化ナトリウム、次いで水で洗浄した。この混合物のpHを10%硫酸水溶液を加えて3.2に調節した。水層を分離し、そのpHを10%水酸化ナトリウムで7.3に調整し、pHを一定に維持しながらトルエンで3回抽出した。有機層を合わせ、減圧下に濃縮して40.7gの黄色のオイルを得た。
【0124】
b)上記の粗製のラセミ体のプロパルギルアミノインダンとL−酒石酸(10g)をイソプロパノール(1L)に溶解し、1時間加熱還流した。次に、反応物を撹拌しながら室温まで冷却し、沈殿を濾過によって集めた。粗製のジ−プロパルギルアミノインダン酒石酸塩を1Lの1:1メタノール/イソプロパノールから再結晶し、ジ(R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン)−L−酒石酸塩を得た。物理及びスペクトルデータは、例6Aの化合物のそれと一致した。
【0125】
c)ジ(R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン)−L−酒石酸塩(15g)及びメタンスルホン酸(6g)のイソプロパノール(150mL)溶液を30分加熱還流した。反応物を室温に冷却し、生じた沈殿を吸引濾過により単離し、表題化合物(11.1g)を得た。これは、m.p.=157℃及び[α]D=22°を有する。
【0126】
例7
R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
例4で得た遊離の塩基の形態のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン(1.2g)、炭酸カリウム(0.97g)及び沃化メチル(1g)を15mLのアセトンに加え、得られた懸濁液を窒素雰囲気下で8時間加熱還流した。この後、揮発物を減圧下に除去し、残渣を10%水酸化ナトリウム(30ml)及び塩化メチレン(30ml)の間に分配した。有機層を乾燥し、溶媒を減圧下に除去した。残渣を、40%酢酸エチル/60%ヘキサンで溶出するシリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーにかけた。遊離の塩基として表題化合物を含有するフラクションを合わせ、溶媒をエーテルに置き換えた。エーテル溶液をHClガスで処理した。揮発物を減圧下に除去し、残渣をイソプロパノールから再結晶して400mgの表題化合物を白色の結晶性の固体として得た。m.p.=134〜136℃、[α]D+31.40(エタノール)。
【0127】
NMRδ(CDCl3): 2.55 (2H, m); 2.7 (1H, br.s); 2.8 (3H, s); 3.0 (1H, m); 3.4 (1H, m); 3.9 (2H, br.s); 5.05 (1H, m); 7.7 (4H, m) ppm.
例8
S(−)−N−メチル−N−プロパルギル−1−アミノインダン塩酸塩
表題化合物を、例5で得たS(−)−N−プロパルギル−1−アミノインダン(遊離の塩基)を出発物質として使用した以外上記例7と同様に調製した。表題化合物の物理的及びスペクトル特性は、[α]D−34.9°(エタノール)以外すべて例7のそれと一致した。
【0128】
例9
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 7.81mg*
予めゼラチン化された澱粉NF 47.0mg
ラクトースNF含水 66.0mg
微結晶性セルロースNF 20.0mg
ナトリウムスターチグリコレートNF 2.99mg
タルクUSP 1.5mg
ステアリン酸マグネシウムNF 0.7mg
*N−プロパルギルアミノインダン塩基の5.0mgに等しい。
【0129】
例10
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 1.56mg*
ラクトース含水 50.0mg
予めゼラチン化された澱粉 36.0mg
微結晶性セルロース 14.0mg
ナトリウムスターチグリコレート 2.14mg
タルクUSP 1.0mg
ステアリン酸マグネシウムNF 0.5mg
*N−プロパルギルアミノインダン塩基の1.0mgに等しい。
【0130】
例11
カプセル組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
予めゼラチン化された澱粉 10.0mg
澱粉 44.0mg
微結晶性セルロース 25.0mg
エチルセルロース 1.0mg
タルク 1.5mg
顆粒化に必要な純水を加えた。
【0131】
例12
注射組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
デキストロース無水 44.0mg
HCl、pH5まで加える
1mlに必要な純水を加えた。
【0132】
例13
注射組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 1.0mg
塩化ナトリウム 8.9mg
HCl、pH5まで加える
1mlに必要な純水を加えた。
【0133】
例14
注射組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 2.0mg
塩化ナトリウム 8.9mg
HCl、pH5まで加える
1mlに必要な純水を加えた。
【0134】
例15
シロップ組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
蔗糖 2250.0mg
サッカリンナトリウム 5.0mg
メチルパラベン 6.0mg
プロピルパラベン 1.0mg
香料 20.0mg
グリセリンUSP 500mg
アルコール95%USP 200mg
5.0mlに必要な純水。
【0135】
例16
舌下錠
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 2.5mg
微結晶セルロース 20.0mg
ラクトース含水 5.0mg
予めゼラチン化された澱粉 3.0mg
ポビドン 0.3mg
着色剤 q.s.
香料 q.s.
甘味料 q.s.
タルク 0.3mg
賦形剤及び活性成分を混合し、ポピドンのエタノール溶液で顆粒化した。乾燥し、秤量した後、これをタルクと混合し、圧縮した。
【0136】
例17
PAI舌下錠
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
微結晶性セルロース 15.0mg
予めゼラチン化された澱粉 12.0mg
エチルセルロース 0.3mg
タルク 0.3mg
顆粒化のために必要な純水を添加した。
【0137】
例18
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン塩酸塩 5.0mg
レボドパ 100.0mg
カルビドパ 25.0mg
予めゼラチン化された澱粉 24.0mg
澱粉 40.0mg
微結晶性セルロース 49.5mg
Col. D & C イエローNo.10 0.5mg
Col. D & C イエローNo.6 0.02mg
顆粒化のために必要なアルコールUSPを添加した。
【0138】
例19
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン メシレート 7.81mg*
予めゼラチン化された澱粉NF 47.0mg
ラクトースNF含水 66.0mg
微結晶性セルロースNF 20.0mg
ナトリウムスターチグリコレートNF 2.99mg
タルクUSP 1.5mg
ステアリン酸ナトリウムNF 0.7mg
*N−プロパルギルアミノインダン塩基の5.0mgに等しい。
【0139】
例20
錠剤組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン メシレート 1.56mg*
ラクトース含水 50.0mg
予めゼラチン化された澱粉 36.0mg
微結晶性セルロース 14.0mg
ナトリウムスターチグリコレート 2.14mg
タルクUSP 1.0mg
ステアリン酸ナトリウムNF 0.5mg
*N−プロパルギルアミノインダン塩基の1.0mgに等しい。
【0140】
例21
カプセル組成物
N−プロパルギル−1(R)−アミノインダン メシレート 5.0mg
予めゼラチン化された澱粉 10.0mg
澱粉 44.0mg
微結晶性セルロース 25.0mg
エチルセルロース 1.0mg
タルク 1.5mg顆粒化に必要な純水を添加した。
【0141】
以下の例並びに付随する表及び図は本発明に従って行われた生物学的試験に関連する。
【0142】
例22
in vitroでのMAO活性の阻害実験プロトコール
MAO酵素源は、ラット脳の0.3M蔗糖ホモジネートである。これを600gで15分遠心した。上清を0.05Mホスフェートバッファに適切に希釈し、一連の化合物([R](+)PAI、[S](−)PAI及びラセミ体のPAI)の希釈物と37℃で20分前インキュベートした。次に、14Cで標識された基質(2−フェニルエチルアミン(これ以後PEAと称する);5−ヒドロキシトリプタミン、これ以後5−HTと称する。))を加え、インキュベーションを更に20分(PEA)、又は30〜45分(5−HT)間続けた。使用した基質の濃度は、50uM(PEA)及び1mM(5−HT)である。PEAの場合は、酵素の濃度は、基質の10%以上の基質が反応の経路で代謝されないように選択される。次に、反応をトラニルシプロミンを添加することによって停止し(1mMの最終濃度まで)、pH6.3に緩衝させたアンバーライトCG−50の短いカラムでインキュベート物を濾過した。このカラムを1.5mlの水で洗浄し、溶出物を貯蔵し、放射活性体の含量を液体シンチレーションスペクトル法によって決定した。アミン基質は、カラムに全て保持されるので、溶出物の放射活性は、MAO活性の結果形成された中性及び酸性代謝産物を示す。サンプル内でのMAOの活性は、適切なブランク値を差し引いた後に、阻害剤の存在しない対照の活性に対するパーセンテージとして表した。基質としてPEAを使用して決定された活性をMAO−Bと称し、5−HTを用いて決定された活性をMAO−Aと称する。
【0143】
結果
[R](+)PAI、[S](−)PAI及びラセミ体のPAIの阻害活性を、別々にin vitroで試験し、典型的な実験の結果を図1及び2に示した。全ての実験は、3回繰り返した。基質の代謝の50%阻害をもたらす阻害剤の濃度(IC−50)を阻害曲線から計算し、表1Bに示した。このデータから以下のことがわかる。
【0144】
(a)[R](+)PAIはMAO−Bの阻害に対してラセミ体の活性の2倍である。
【0145】
(b)[R](+)PAIはMAO−AよりもMAO−Bの阻害に対して29倍活性である。
【0146】
(c)[S](−)PAIは、MAO−Bの阻害に対して[R](+)PAIの活性のわずか1/6,800であり、MAO−BとMAO−Aとの間の選択性は低いか全くないことが示された。
【表1A】
【0147】
R(+)及びS(−)MPAI(N−メチル−N−プロパルギル−1−アミノインダン)を使用した同様の実験の結果を表1Bに示した。各MPAIのエナンチオマーは[R](+)PAIよりもMAO−A及びMAO−Bの阻害において選択性が低かった。更に、[R](+)MPAIは、MAO−B阻害に関して[S](−)MPAIよりも5倍だけ活性であった。[R](+)PAIとは対照的に、[R](+)PAIはこのアッセイにおいて[S](−)PAIの約7000倍の活性であった。
【表1B】
【0148】
幾つかの実験を、死後6時間で得たヒト大脳皮質組織でも行い、上記のように処置した。このような実験の結果を図3に示す。但し、[R](+)PAI、[S](−)PAI、及びラセミ体のPAIはここで定義したとおりである。
【0149】
例23
in vivoでのMAO活性の阻害:短期治療
実験プロトコール
250±20gの重量のラット(雄Sprague-Dawley由来)を、腹腔内注射(ip)又は経口(oral gavage)(po)によってPAIのエナンチオマーの1つ又はラセミ体で処理し、1時間及び2時間後にそれぞれ断頭した。3匹のラットのグループを阻害剤の各投与量レベルに対して使用し、先に示した一般的な技術を用いて脳及び肝臓内でのMAO活性を決定した。各インキュベーション内のタンパクの量をFolin-Lowry法を用いて決定し、酵素活性を、タンパクの各mgに対するインキュベーションの時間当たりの代謝された基質のnmolとして計算した。阻害剤で処理された動物から得た組織内のMAOの活性は、ビヒクル(vehicle)(経口投与に対しては水、ip注射に対しては0.9%の塩水)を投与し、上記のように殺した対照動物のグループにおける酵素活性に対するパーセンテージとして表した。
【0150】
結果
阻害医薬で使用されたいずれの投与量レベルにおいても、いずれの明確な挙動変化をもたらさなかった。結果を図4から図11に示した。i.p.投与後、[R](+)PAIは0.5mg/kgの投与量で脳のMAO−Bの90%を阻害した。同じ投与量は、僅か20%のMAO−A活性の阻害をもたらしたのみであった。経口投与では、同じ投与量の[R](+)PAIは、MAO−Bの80%の阻害をもたらしたが、MAO−Aの検出しうる阻害をもたらさなかった。実質的に同様な結果が、脳MAOに対するように肝臓MAOの阻害に対しても見られる。MAO−A及びMAO−Bの50%阻害をもたらす投与量(IC−50)を、阻害曲線から計算し、表2に示した。これらのデータは、(a)[R](+)PAIのMAO阻害活性がラットにおいてin vivoで維持されること;(b)MAO−Aとは対照的に[R](+)PAIによるMAO−Bの阻害に対する選択性をin vivoで維持すること;(c)(−)−エナンチオマーとは対照的に(+)−エナンチオマーの非常に強い活性がin vivoで維持されること;(d)化合物が、経口投与された後に効果的に吸収されること;及び(e)化合物が、血液脳関門を効果的に通過すし、効果的に脳のMAOを阻害することを示している。[R](+)PAIがMAO−Bの阻害に対してラセミ化合物よりも約2倍活性であるという事実は、MAO−Bの阻害に対して[S](−)PAIが非常に低い活性であることの反映である。
【表2】
【0151】
例24
in vivoにおけるMAO活性の阻害:長期治療実験プロトコール
ラット(例23で特定したとおりのもの、各投与量レベルに対して4匹)を、経口投与で1日毎に一回投与量で21日間3種類の投与量レベル(0.05、0.1及び0.5mg/kg)で[R](+)PAI又はラセミ混合物で処理し、最後の投与の後2時間で断頭した。MAOタイプA及びBの活性を脳及び肝臓で例23で説明したように決定した。
【0152】
結果
化合物[R](+)PAIの0.1mg/kgの一日あたりの投与量で、良好な程度の選択的阻害がもたらされた。これは、脳MAO−Bに対して80%以上の阻害であり、脳MAO−Aに対しては20%以下の阻害であった。一日あたり0.5mg/kgのより高い投与量では、MAO−Aはまだ50%以下の阻害であった(図12及び13)。肝臓MAOは、同程度の選択的阻害を示した(図14及び15)。化合物[R](+)PAIは、更に約2倍のファクターによってラセミ混合物よりも強力であった。脳MAOの場合、[R](+)PAIはMAO−Bの阻害に対してラセミ混合物よりもよりよい程度の選択性を有していた。
【0153】
例25
MAO阻害の不可逆性実験プロトコール
化合物[R](+)PAI(1mg/kg)の一回投与量をi.p.注射により4匹のラットのグループに投与し、この動物を2、6、18、24、48及び72時間後に殺した。MAO−Bの活性を先に開示したように全脳組織で決定した。
【0154】
結果
結果を図16に示す。MAO−Bの最大阻害には、注射の後6時間で到達した。MAO活性は、注射の後72時間で対照の活性の30%まで戻ったのみであった。この実験は、[R](+)PAIによるMAOの阻害の不可逆性を示す。
【0155】
例26
意識のあるラットにおけるチラミンの昇圧効果の強さ実験プロトコール
ラットを、ペントバルビタール(30mg/kg)及びクロラール水和物(120mg/kg)の混合物を腹腔内投与により麻酔にかけた。左頚動脈及び頚静脈に細いポリテン管(動脈)又はポリエチレン管に接続された細いシリコンゴム管(静脈)をカニューレ挿入し、その遠位末端を皮下で首の後ろの固定位置に導いた。該管をヘパリン化した生理食塩水で見たし、細いスチール製の棒で栓をした。動物を筋肉内注射によってクロラムフェニコールで処理し、手術から一夜回復させた。次の日に、ラットを自由に動くことができる高い壁の容器に置いた。静脈内のカテーテルを、100cmの長さの、生理食塩水を満たした細い穴のあいたポリエチレン管を介して圧力変換器に接続し、静脈内のカテーテルを同じ長さの管を介して1mlのシリンジに接続した(シリンジを含めた該管にはチラミン塩酸塩の塩水溶液(1mg/ml)が含まれる。)。30から40分間の平衡化の後、チラミン注射物(50又は100μg)を注入し、血圧の応答を記録した。対照の値に血圧が戻った後、注射の間に少なくとも15分のインターバルを確保した。対照の圧力応答を確認し、次いで1の薬剤を腹腔内的に注射し、チラミンの応答を次の4時間にわたって記録した。血圧応答曲線に従って領域を評価し、治療前、及び化合物を注射した後1から3時間までに対する治療後のこの領域の比を、対照の期間で得られた3から4つの値の平均を用いて決定した。
【0156】
結果
結果を表3に示した。1mg/kgの投与量(これは脳及び肝臓でMAO−Bの完全な阻害を起こし、これらの組織でMAO−Aの40から50%の阻害を起こす。)で化合物[R](+)PAIはチラミンの昇圧応答の十分な増加を起こさなかった。[R](+)PAIのより高い投与量である5mg/kg(これは脳及び抹消でMAO−Aのより広範な阻害を起こす。)では、チラミンの昇圧応答の十分な増加があった。これは、程度としては、デプレニルの同じ投与量でもたらされるものと同様であり、クロルギリン(肝臓MAO−A活性を85%以上阻害する投与量において)によって誘導されるものよりも低い。
【表3】
【0157】
この実験から、化合物[R](+)PAIが、MAO−Bを効果的に阻害する投与量でチラミンの昇圧効果を強める原因とならないことが結論づけられ得る。
【0158】
例27
[R](+)PAIによるMPAIで誘導されるドーパミン作用性毒性の抑制
1−メチル−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)は、マウスを含めた幾つかの哺乳動物種において黒質線状体ドーパミン作動性ニューロンを損傷する神経毒であり、ヒト及び霊長類のパーキンソン症候群を引き起こす。その神経毒性のメカニズムにおける重要な初期段階には、MPTPの、その毒性代謝物である1−メチル−4−フェニルピリジニウムイオン(MPP+)への変換が含まれる。この反応は、酵素MAO−Bによって触媒され、おそらく、ドーパミン作動性ニューロンの外側、主にグリアで起こる。MPTPが、MAO−Bの基質及び不可逆的な阻害剤の両方であることが知られている。デプレニル若しくはパルギリンのようなMAO−B阻害剤で実験動物を予め処理することにより、MPTPのMPP+への酸化的変換がブロックされるので黒質線状体ニューロンが保護され、MPTPにより誘導される黒質線状体ニューロンの損傷が防止される。パーキンソン症における進行性の黒質線状体の退化は、環境によって誘導される外来性のMPTP様の神経毒にさらされることに起因する。このような場合に、MAO−B阻害剤での持続的な治療がこのような未だ推定のMPTM毒性のダメージ効果を緩和し、これにより病気の進行を抑えるか、又は遅らせるであろうことを期待して、パーキンソン症のかなり初期の段階からMAO−B阻害剤で持続的な治療を開始することが特に強く指摘されている。有効なMAO−B阻害薬は現在、in vivoでの黒質線状体ドーパミン作動性ニューロンのMPTPにより誘導される損傷をブロックする該医薬の能力によって判定されている。従って、PAIの(−)及び(+)エナンチオマーを、マウスにおいてMTPTで誘導される線状体のドーパミンの消耗を防止するか、又は低下させるこれらの能力に対して試験した。
【0159】
実験プロトコール
雄C57黒色マウス(20〜25g重量)に、(a)MPTP−HCl(30mg/kgを蒸留水で溶解したもの、s.c.)若しくはビヒクルのみを注射するか、又はPAIの(−)若しくは(+)異性体(2.5mg/kg、i.p.)若しくはデプレニル(5mg/kg、i.p.)で前処理した後1時間にこれらを注射し、(b)5日後に断頭した。脳を取り出し、氷で冷却したガラスプレート上で死体の線状体を切り裂き、ドライアイスで凍結した。線状体組織を0.1M過塩素酸中でホモジネートし、内部標準としてジヒドロキシベンジルアミンを含有するタンパクを取り除いたアリコートを、HPLCを用いて電気化学的な検出によりドーパミン及びその主要代謝物である3,4−ジヒドロキシ−フェニル酢酸(DOPAC)に対してアッセイした。
【0160】
結果
表4にこの実験結果を示した。MPTPでの治療は、線条体ドーパミン(DA)及びDOPACの注目すべき消耗をもたらした。PAIの(−)及び(+)エナンチオマー、又はデプレニルでの処置は、洗浄DAの濃度に影響しなかった。PAIの(−)異性体での処理は、MPTPで誘導される線条でのDA及びDOPACレベルに影響を及ぼさなかった。MPTPの前に与えられたPAIの(+)−異性体は、該トキシンによってもたらされる線条のDA及びDOPACレベルの減少を完全に停止させた。2.5mg/kgの投与量で、(+)PAIは、その保護効果が(−)デプレニル(5mg/kg)と等しかった。
【表4】
【0161】
DA及びDOPACに対する上記の値は、平均±S.E.M.として表され、ラットの数は各グループでn=7〜11である。
【0162】
これらの結果は、[R](+)PAIが、in vivoで優れたMAO−B阻害剤であり、パーキンソン症の治療に特に大きな可能性を有していることを示している。
【0163】
本発明は上記の例及び付随した表と図に関連して説明されるが、これらに限定されない。
【0164】
例28
老齢のラットにおいてアンフェタミンで誘導されるステレオタイプな挙動に関するPAIエナンチオマーの影響
アンフェタミンは、内因性のドーパミンの代謝によってステレオタイプな挙動を誘導することが知られている(Sulser, F., and Sanders-Bush, E., Ann. Rev. Pharmacol., 11, 209-230 (1971))。アンフェタミンはMAO−Bで代謝されない。効果的な阻害剤及びアンフェタミンの投与によるMAO−Bの阻害は、阻害されたMAO−Bによって分解を受けないドーパミンの遊離を引き起こす。従って、シナプスのドーパミンの増加は、アンフェタミンの影響によるステレオタイプの挙動を起こす薬効の増加を導くアンフェタミン及び効果的なMAO−B阻害剤の投与の後に期待される。広範囲のこの挙動は、1分間に頭を横方向に動かした数によって評価した。
【0165】
実験プロトコール
試験化合物を、低酸素症を課す(92%窒素+8%酸素で6時間)24時間前に飲料水に0.5mg/kg/日の投与量で投与した。この後、アンフェタミンを0.5mg/kgの投与量でs.c.で注射した。45分後横方向の頭の移動をカウントした。
【0166】
結果
これらの実験の結果を表5に示した。
【表5】
【0167】
表5の結果は、(+)PAIが、低酸素傷害されたラット及び対照ラットの両方でアンフェタミンにより誘導されるステレオタイプな挙動を十分に増強させた。(−)PAIはこの点では全体として不活性である。これらのin vivoでの挙動の結果は、(+)PAIが脳においてMAO−Bの活性な阻害剤であるが、(−)PAIがこれに関して不活性であるという先の生物学的所見を補強するものである。
【0168】
例29
記憶の改善若しくは回復に関する[R](+)PAIの効果
生まれたてのラットの子を短時間無酸素症の症状にかけ、次いで長期間永続する記憶障害を発現する通常の方法でこれらを成長させた(Speiser, et al., Behav. Brain Res., 30, 89-94 (1988))。この記憶障害は受動回避試験で劣った能力として表される。
【0169】
記憶の改善若しくは回復に関する[R](+)及び[S](−)PAIの効果を、受動回避試験で試験した。薬物が効果的であれば、暗室若しくは、試験されるラットが先に電気ショックを経験している部屋には入り込むという応答の潜伏期が長くなる。最大応答の潜伏期は300秒である。
【0170】
実験プロトコール
若年のラットを出生後に例27で説明したように無酸素症に罹らせた。[R](+)PAI及び[S](−)PAIを以下のプロトコールの1つに従って投与した。
【0171】
プロトコールA
養母に飲料水中で各異性体を1〜1.5mg/kg/日の投与量で21日に乳離れするまで与えた。この後、乳離れした子供を直接同じ投与量で20日間処置した。処置を40日でやめ、試験を60日目、即ち薬物の最後の投与の後20日目に行った。
【0172】
プロトコールB
投与量を0.5mg/kg/日に減少し、これを21日に乳離れするまで養母に投与し、次いで試験が行われる60日目まで若いラットに直接に投与した。
【0173】
受動回避試験
装置は、暗室を隣接した明るい部屋と2つの部屋を分離するスライドするドアーよりなる。訓練では、ラットを明るい部屋に30秒置き、次いでドアーを開く。ラットが潜伏期で暗室に移動し、この潜伏期を記録する。暗室にラットが入ったときにドアーを閉め0.3mAのフットショックを3秒間送る。
【0174】
48時間後の回復(記憶)を試験を繰り返し、明所から暗所へのステップスルーの潜伏期間を300秒の仮の最大値に対して記録することによって測定した。
【0175】
結果
これらの実験の結果を表6に示す。
【表6】
【0176】
実験結果は、(−)PAIではなく、(+)PAIが無酸素傷害ラット及び対照ラットの記憶を改善するのに効果があることを示している。この試験での薬剤の活性は、記憶障害の疾患、痴呆、及び特にアルツハイマータイプの老人性痴呆に可能性として有効であると考えられる。
【0177】
例30
子供のラットにおける無酸素症で誘導される運動高進症候群の[R](+)PAIの効果
出生後無酸素にさらされ、次いで通常の条件で育てられたたラットは、10〜42日齢に開放された場所で運動の活発さが増加することが示される(Hertshkowitz, et al., Dev. Brain Res., 7, 145-155 (1983))。
【0178】
[R](+)PAI及び[S](−)PAIのこのような運動高進症候群に関する効果を試験した。
【0179】
実験プロトコール
出生後すぐにラットの子供を無酸素状態にした。ラットの子供をガラス製の容器に入れ、100%窒素に25分間さらした。胸部に間欠マッサージを緩やかに加えることによって該ラットを甦生させ、次いで該ラットのそれぞれの母親に戻した。対照のラットを、窒素の代わりに空気を用いて同様に処置した。
【0180】
[R](+)PAI又は[S](−)PAI(0.5mg/kg/日)を飲料水中で養母に投与し、これによって母乳を通して乳児に該薬剤を与えた。4cmの間隔の格子状の赤外線ビームを横切ると、電気的な刺激が伝わり、これが計測器に送られる。運動の活発さの記録を15日齢と20日齢で15分間にわたって行った。
【0181】
結果
実験結果を表7に示す。
【表7】
【0182】
これらの結果は、養母に投与された0.5mg/kgの投与量で[R](+)PAIで長期間経口的処置され、母乳が与えられたこともに到達することにより十分に運動高進症候群が改善される。従って、[R](+)PAIは、子供の運動高進症候群の治療のための可能性として有効な医薬である。
【0183】
例31
10種類のPAIの塩の安定性の差
安定性は、治療薬として最適な塩を選択する場合の重要なファクターである。種々の塩は、医薬の物理化学的及び生物学的特性を変化し得、その全体としての特性に劇的な影響を有する。(Berge. S.M., et al., J. Pharm. Sci. 66, 1 (1977); Gould, P.L., Int. J. Pharmaceutics, 33, 201 (1986))。
【0184】
実験
PAI塩の合成
適切な酸(1mol等量)の2−プロパノール溶液を、PAI(1mol等量)の2−プロパノール溶液に撹拌しながら加えた(Ar、BHT)。生成した塩を、濾過し、2−プロパノール及びエーテルで洗浄し、低圧下に乾燥した。収率は70から90%であった。PAIアセテートを製造する場合の以外には、溶媒としてエーテルを使用することが含まれる。
【0185】
分析方法
Lichrosphere 60 RP セレクト B 5m 125×4mm(メルク)のカラム、210nmにセットしたL−4200UV−Vis検出器(メルク−日立)を備えたHPLC(Jasco BIP-1)、及びD−2500クロマト積分計(メルク−日立)を使用してクロマトグラフィーによる分離を行った。溶出液及び希釈液は、80%蒸留水/20%アセトニトリル(HPLCグレード)、及びアンモニア水でpH2.5に調整された0.07M過塩素酸よりなる。使用した流速は、1ml/分であり、適切なPAI塩の溶液の濃度は250μg/mlであり、溶液の20μlをクロマトグラフシステムに注入した。
【0186】
融点の範囲は、自動装置(Mettler FP 80)で測定し、熱重量分析を、適用しうる範囲で10℃/分の速度でMettler TA 3000システムで行った。溶解度は、PAI塩の飽和水溶液から得た上清の適切な希釈物で決定し、UVIKON 941(Kontron)UV-Vis分光光度計で測定した。塩の形(モノ−若しくはジ−塩)を、C、H、N及びSを決定するための標準的な装置を用いて元素分析によって得た。pHはPAI塩の1%水溶液で測定した。
【0187】
結果
種々の塩の特性を表8にまとめた。
【表8】
【0188】
競争的な安定性試験を一連の幾つかの促進条件下で行った。I)72、96又は144時間80℃で加熱すること;II)イソプロパノール中で30時間還流すること。生じた分解生成物は、HPLCで測定し、TLCで確認した。結果を相対的な保持時間(PAIのピークに対する;RRT)と共に、積分されたピークの全領域に対する領域のパーセンテージとして表9に示した。
【表9】
【0189】
塩を、色及び形の視覚検査にかけた。所見を表10に示す。
【表10】
【0190】
これらの試験は、硫酸塩、エシレート及びメシレートが、溶解性及び化学的安定性がよいために、他の塩に比較して十分有益であることを示している。これらの3種類の塩のうち、メシレートが、破壊的な条件下でも優れた安定性であるため好ましい。
【0191】
例32
マウスにおけるハロペリドールで誘導されるカタレプシーの回復
雄ICRマウス、各25〜30gを以下の薬剤での何れかで前処置した:生理食塩水、[R](+)PAIメシレート、又はラセミ体PAIメシレート。全薬物は、0.2mLの容積でi.p.で投与した。2時間後、ハロペリドールを、0.1〜0.2mLの容積で、6mg/kgの投与量で、s.c.で注射した。運動調整試験をハロペリドールを投与した後3時間、即ち推定保護薬剤を投与した後5時間で行った。
【0192】
運動調整試験及び硬直は3つの異なったファクター、(a)所定の長さの水平な棒、80cmの長さを歩く能力;(b)顔を下にして垂直な棒、80cmの長さをはい降りる能力;(c)マウスの腹部が「壁」に押しつけられるような不自然に座った姿勢での静止の持続に従って定量化した。ハロペリドールで処理していないマウスと同様の完全な能力に対して、各試験で4点、即ち全試験全てで12点を与えた。能力の低いものは1から3点を与えた。重要な評点を表9Aに示した。ハロペリドールで誘導されるカタレプシーに拮抗する種々の薬剤の効果は、表11に示した。ハロぺりドールの投与の後3時間で、[R](+)PAIメシレートは5〜15mg/kgでハロペリドールに対する保護をもたらし、7.5mg/kgであと作用のピークに達する(活性点数=生理食塩水対照の94%)。ラセミ体のPAIメシレートは、7.5〜15mg/kgの範囲で部分的な保護を付与し、5mg/kgで活性ではなかった。図17から、[R](+)PAIメシレート又はラセミ体PAIの用量−効果プロフィールは、10mg/kgを越える投与量の増加が効果の減少を伴うが、ラセミ混合物は全体として強さが低いというようなものであることがわかる。これは、ラセミ体のPAIメシレートが、[R](+)PAIメシレートの2度にわたる投与量で、常に(R)エナンチオマーよりも活性が低くなるであろうことを意味する。
【0193】
α−MpTで誘導される運動低下のラットにおける回復
薬剤、α−MpTはチロシンからのL−ドーパの生成、そして結果として、ドーパミン自身の形成を阻害すると仮定されている。CNSドーパミンの欠如は活動低下として現れる。6月齢の雄Wistarラット(Harlan Orkack, UKより入手)を飽和食塩水、[R](+)PAIメシレート又はRacPAIメシレートで、指示された投与量で前処理した。2時間後、該マウスにi.p.でα−MpTを0.3〜0.5mL中100mg/kgの投与量で投与した。この後、10時間コンピュータを導入した活動かご(active cage)内で運動活性を記録した。結果を表12及び図18に示した。2mg/kgで[R](+)PAIメシレートは飽和食塩水で処理されたラットの約90%まで活性のレベルを回復した。いずれの場合にも、用量−効果曲線のプロフィールはベル型であり、これは2〜5mg/kgのピークを越えて投与量が増加するにつれて効果が減少することを示唆する。5mg/kgでRacPAIメシレートは、2mg/kgでの[R](+)PAIメシレートの活性のレベルに比較しうる活性のレベルを顕在化し得ない。
【0194】
これらの測定から、[R](+)PAIメシレート及びRacPAIメシレートは、ハロペリドールで処理されたマウス及びα−MpTで処理されたラットの正常動揺病の回復において同様の活性パターンにならない。試験された全ての投与量で、[R](+)PAIメシレートは、通常対応する投与量のRacPAIメシレートよりも強力である。また、与えられた投与量でRacPAIメシレートは、常に同じ投与量の半分で[R](+)PAIメシレートより効果が低い。[R](+)PAIメシレートに対してRacPAIメシレートの投与量を倍にしても、[R](+)PAIメシレートの効果と等しい効果にはならない。
【0195】
薬理学的には、RacPAIメシレートは、50%の活性成分(これは[R](+)PAIメシレートである。)と50%の希釈剤のような不活性物質より成ると考えることはできない。RacPAIメシレート内での[S](−)PAIの存在が[R](+)PAIの活性に関して反対の効果を有し、2倍以上の強さの低下を引き起こす。この低下は、挙動パラメータに関する[S](−)PAIの直接の逆効果に起因しうる。
【0196】
表11 [R](+)PAIメシレート及びラセミ体メシレートを用いるマウスにおけるハロペリドールで誘導されるカタレプシーの回復マウスに、各試験薬物をi.p.で示された投与量で与えた。2時間後これらにハロペリドールを本文で示したように与えた。示された投与量は遊離の塩基に対するものである。
【表11】
【0197】
ハロペリドール単独に対する統計的優位性:Student's「t」試験により*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001である。
【0198】
[R](+)PAIに対する点数は、ラセミ体のPAIのそれとは有意に異なっていた。これは5mg/kgでp≦0.05;10mg/kgでp≦0.01;及び15mg/kgでp≦0.05であった。
【表11A】
【0199】
表12 100mg/kg i.pでα−メチル−p−チロシン(α−MpT)で処理されたラットの運動活性の回復
ラットに、試験薬物をi.p.で示された投与量で与えた。2時間後これらにハロペリドールを与え、活動かごに迅速においた。全運動活性を本文で示したように10時間自動的に記録した。
【表12】
【0200】
Student's「t」試験による統計的優位性:α−MpT単独対試験薬剤+α−MpTに対して*p≦0.01; ***p≦0.001である。
【0201】
ラセミ体のPAIに対する [R](+)PAIの点数は、2mg/kgで有意に異なっていた。
【0202】
例33 頭の傷をふさいだ後のラットにおけ[R](+)PAIメシレートの効果方法
1.外傷の誘導
頭部の外傷を、左大脳半球、即ち中央冠平面内の1〜2mmの側部から中線までを覆う露出した頭蓋骨上に落とすようによく較正された重り落下装置によって、エーテル麻酔下で雄ラットに誘導した。
【0203】
2.運動機能の評価
外傷の誘導の後1時間に、これらの精神医学的な結果を評価する一連の基準によって該ラットを試験した(基準は、Shohami, et al., J. Neurotrauma, 10, 113 (1993)に開示されている)。精神医学的な重篤度スコア(NSS;Neurological Severity Score)と呼ばれるこれらの基準は、一連の反射作用及び運動機能より成る。ポイントをこれらの基準の欠損を下に与えた。24時間でラットを再評価した。
【0204】
3.脳浮腫の評価
脳を、運動機能の2回目の評価の後取り除き、組織の一片(〜20mg)を秤量し、湿重量(WW)を得た。24時間95℃でデシケータオーブン内で乾燥した後、再度秤量し、乾燥重量(DW)を得た。組織内の水のパーセンテージを(WW−DW)×100/WWとして計算した。
【0205】
4.薬剤治療
[R](+)PAIメシレートを水に溶解し、ラットに0.1mg/kgの投与量で頭部の外傷の誘導の後0、4、8及び12時間で腹腔内投与した。対照のラットを同じ時間水で処置した。
【0206】
結果
ラットの「臨床状態」を測定するNSSは、頭部の外傷の後3時間で処置及び未処置のグループでほぼ同一であったが、[R](+)PAIメシレートで処理されたラットでは24時間で十分に低下した(表13)。これらの結果は、PAIメシレートが、ラットの頭部外傷をとじた後の運動機能の回復を改善するのに効果がある。
【0207】
外傷の後24時間で、主要な浮腫が左半球に見られた(未損傷の脳組織で78.5%水対し、対照ラットの脳では85.4%水)。PAIメシレートは、水のパーセンテージに関するその効果によって確認される浮腫の減少に効果的である。
【0208】
結果として、ここで報告した結果は、[R](+)PAIメシレートが、同様のヒト神経外傷及び閉じられら頭蓋骨に外傷を誘導することに向けられたモデルで神経保護特性を有することを示す。
【表13】
【0209】
例34
小脳細胞培養物のNMDAで誘導される細胞死の霜害に関するPAIメシレートの効果
手順:機械的に解離された新生児ラットの小脳の培養物
6又は7日齢のラットの子供から小脳を無菌で解離し、3mlの富化培地(該培地は、高グルコース濃度(1g/l)、2mM(v/v)L−グルタミン、抗生物質の細胞分裂阻止性の混合物を含有し、15%(v/v)の熱で不活性化したウシ胎児血清で富化されたのダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)で構成される。)を含有する15mlの無菌のプラスチック製の円錐形の管に置いた。次に、45μmの孔径のナイロン製のふるいを挿入した5mlのシリンジに取り付けられた無菌の13ゲージの10cmの長さのステンレス鋼製の針に20〜25個通した後、小脳を解離した。解離された細胞を200gで5分間遠心し、上清を捨て、細胞を富化培地に再懸濁させた。該細胞の生育力をトリパンブルー排除試験によって決定した。次に該細胞を、ポリL−リジンでコートされた表面(ポリL−リジンコートされたガラスのカバーガラスを、15μg/mlのポリ−L−リジンを含有する無菌の蒸留水溶液中に浸漬し、使用直前に無菌の水で洗浄し、乾燥することによって、プレート化する前の少なくとも1時間に調製した。)上に200mm2の密度で置き、富化培地で覆い、空気中5%CO2の雰囲気下及び100湿度において37℃でインキュベートした。培養の4日後に、培地を所望の試験化合物を含有する培地に置き換えた。実験を全く同一に行い、2又は3回繰り返した。試験化合物の毒性用量−応答を決定した後、4つのグループを比較した。(I)対照(富化培地のみ)、(II)試験化合物(各濃度に対して1のサブグループ(2種類の濃度を試験した。))、(III)細胞毒性抗原投与としてN−メチル−D−アスパルテート(NMDA、1mMの濃度に3時間さらした。)、(IV)試験化合物とNMDA(2種類の濃度の試験化合物の各々に対して1のサブグループ)、(V)溶媒(これには試験化合物が溶解される。)の影響を試験するための対照グループ、及び(VI)スペルミン(培養培地に0.01μMで溶解)とNMDAの追加の「陽性対照」グルプ。神経細胞の生存率を、24時間後に位相差顕微鏡及びトリパンブルー染色により評価した。
【0210】
結果
グルタミン酸(Glu)が、癲癇及び発作を含めた幾つかの神経医学的な疾患、並びに最も適切には、パーキンソン症、アルツハイマー症及び外傷性の脳傷害のような脳の神経退化症において発現される神経毒性を有することがうまく確立された。Gluの神経毒性効果は、膜に結合したN−メチル−D−アスパルテート(NMDA)受容体のようなGlu受容体によって媒介される。
【0211】
表14に示された結果は、10μMの[R](+)PAIメシレートが、1μMのNMDAにさらした後に、小脳細胞の生存率を27%増加することを示す。これらのin vitroの結果は、例33及び35で示された[R](+)PAIメシレートのin vivoでの効果を指示し、該薬剤が、NMDAの神経毒濃度に対して神経保護特性を有することを示している。
【表14】
【0212】
未処理の対照に対するパーセントとして表わされる値は、培養実験に対する全く同一の2つの実験の平均及び虚欠に対する4匹の動物の平均±SEMを表す。パーセント保護の値は、溶媒の効果を差し引いた後の試験化合物の効果である。
【0213】
例35
ラット視神経の段階的な挫傷後の[R](+)PAIメシレートの効果
[R](+)PAIメシレートの神経保護効果を、生育したラットの視神経の圧挫傷害の後迅速に適用するために決定した。短期間の効果は代謝的に測定され、長期の効果は電気生理学的に測定された。
【0214】
方法
1.代謝測定
a)一般
方法は、Yoles, et al., Investigative Ophthalmology & Visual Science, 33, 3586-91 (1992)に開示されている。短期間で、代謝測定は、電子伝達系の活性に依存するミトコンドリアのNADH/NAD比によってモニターされ、これによってエネルギー産生のレベルが示される。傷害の結果としてエネルギーを産生する神経の能力の変化は、傷害の前後での人工的な一時的無酸素傷害に対する応答において、NADHのレベルを比較することによって決定される。
【0215】
b)表面蛍光測定法−再蛍光測定法
ミトコンドリア内のNADHレドックス状態のモニターは、酸化された形態NAD+と異なり、NADHが蛍光を発し、この時450nmの光を発するという事実に基づく。光ファイバーのフレキシブルなY字型の束(光ガイド)を使用し、視神経への光と視神経からの光を伝達した。神経から放出される光を2種類の波長:366nm(反射光)及び450nm(蛍光)で測定した。反射光の変化を血流力学的効果、及び動脈血圧及び神経容積を変化する二次視神経の変動に起因する組織の吸収の変化で補正した。蛍光測定は、蛍光(1:1の比)から反射光(366nm)を差し引き、補正された蛍光シグナルを得ることによるNADHレドックス状態の測定に対して十分に正確であることが見出されている。
【0216】
c)動物の調製
動物の利用は、研究における動物の使用に関するARVO Resolutionに従った。300〜400gの体重の雄Spra-gue-Dawley (SPD)ラットをナトリウムペンタバルビトン(50mg/kg、腹腔的)で麻酔した。動物の頭をヘッドホルダーによって適切に保持し、側部外眼角切開を双眼手術顕微鏡化で行い、結膜を、結膜に対して側部に切り込みを入れた。後引筋肉芽細胞を分離した後、視神経を確認し、3〜3.5mmの長さをおおまかに切開して(blunt dissection)眼球の近傍に露出させた。硬膜を無傷で残し、神経を傷つけないように注意した。特別な光ガイドホルダーを、該ライトガイドが傷害部位に対して視神経の1mm遠位の表面に位置するように視神経の回りに移植した。麻酔したままで、動物を外科手術から回復させ、次いで無酸素条件にさらした。無酸素状態は、100%窒素の雰囲気で2分間ラットを呼吸させ、この後空気中に戻すことによって達成した。視神経の代謝活性を評価するために、無酸素に対する応答での反射光及び蛍光強度の相対的変化を挫傷の前後で測定した。
【0217】
d)挫傷及び代謝測定のための実験プロトコール目盛りのついた横断鉗子(cross section forceps)で補助して、120gに対応する圧力で30秒間、目と光ガイドホルダーの間の視神経に適度な挫傷を負わせた。障害を負わせたすぐ後に、動物に[R](+)PAIメシレート(2mg/kg)を含む水及びこれを含まない水を腹腔内注射した。エネルギー生成システムの活性を評価するために、2分間の無酸素に対するNADH応答を、傷害の前、傷害の30分後、及びこれ以後は4時間までの1時間間隔で全ての動物について測定した(図19参照)。
【0218】
2.電気生理学的測定
この方法は、Assia, et al., Brain Res., 476, 205-212 (1989)に開示されている。動物の調製及び視神経の損傷は、代謝試験と同様であることが好ましい。損傷の後すぐに、動物に[R](+)PAIメシレート(0.5mg/kg)を含む水及びこれを含まない水を一回注射した。損傷及び処置の後14日目に視神経を摘出し、電気生理学的に測定した。電気生理学的な測定のための視神経の除去の前に、ラットを、70mg/kgのペンタバルビトンで深い麻酔にかけた。皮膚を頭蓋骨から除き、視神経を眼球から引き剥がした。ほぼ全体の断頭を行い、頭蓋骨を骨鉗子で開いた。大脳を横に置き換え、視神経の頭蓋内の部分を露出させた。切開は神経のレベルであり、該神経を、NaCl(126mM)、KCl(3mM)、NaH2PO4(1.25mM)、NaHCO3(26mM)、MgSO4(2mM)、CaCl2(2mM)、及びD−グルコース(10mM)よりなる新鮮な塩溶液を含むバイアルに移し、室温で95%O2及び5%CO2にさらした。神経をこの溶液に保持した。ここで、電気的な活性は少なくとも3〜4時間安定なままである。室温で採集から0.5時間の後、電気生理学的な記録を挫傷領域に対して遠位の視神経から得た。次に、神経末端を、37℃で浸漬溶液に浸漬した2つの吸引Ag−AgCl電極に接続した。刺激パルスを最も近い端で電極から加え、活動電位を遠位の電極で記録した。Grass SD9刺激機を超最大電気刺激に使用した。測定されたシグナルは、Modelec PA36予備増幅器、次いで筋電計(MedelecMS7, AA7T増幅器)に伝達される。8つの平均された化合物の活動電位(CAPs)の最大増幅が記録され、ポラロイド(登録商標)カメラで写真に撮った。CAP値は、参照として提供される反対側の損傷されていない神経で測定した。
【0219】
結果
結果は、視神経の傷害の後に迅速に適用された[R](+)PAIメシレートが、傷害で誘導されるエネルギー生成の減少をブロックすることを示している。[R](+)PAIメシレートはまた、電気生理学的なモニターで測定される長期間の効果を有する。
【0220】
CAP(化合物活動電位、compound action potentials)の大きさは、神経の試験された部分において処理した線維の数に直接相関した。
【0221】
[R](+)PAIメシレートは、傷害された神経の遠位の部分での、傷害によって誘導されるロスを有意に緩和する。このことは、[R](+)PAIメシレートが神経保護薬であるか、又は少なくとも退化を遅らせることを示している。
【表15】
【0222】
例36
[R](+)PAI及び[S](−)PAIの塩の抗痙攣特性の比較
[R](+)PAI及び[S](−)PAIのHCl塩の両方とも、有為な抗痙攣活性を有する。最大電気ショック試験(MES試験)においてマウス(i.p.投与)で、[S](−)PAIHClは[R](+)PAIHCl(ED50=79mg/kg)よりも大きい抗痙攣活性(ED50=57mg/kg)を有していた。同様の結果がラットで観測された(p.o.投与)。4匹のラットのうち4匹が、50mg/kgの[S](−)PAIHClを投与されたときMES試験での発作から防御された。一方、同量の[R](+)PAIHClの投与の後、4匹のマウス内3匹のが防御された。パーキンソン症に対する効果に関して、増強された抗痙攣活性は、有害な副作用である。同様な傾向が、メシレート塩で起こる。[S](−)PAIメシレートは、MES試験で[R](+)PAIメシレートよりも大きな抗痙攣活性を有する。100mg/kgの投与量で、[S](−)PAIメシレートは、3匹のマウスのうち3匹を防御し、一方、3匹のマウスのうち1匹のみが[R](+)PAIメシレートで防御された。
【0223】
MES試験は、ヒトの部分的及び全身的発作に対する薬効を指示する古典的なモデルである。薬剤の作用メカニズムは、発作の広がりを防止するこれらの能力を媒介する。しかし、発作の広がりを防止する幾つかの薬剤は、発作の閾値を低下させる副作用を有する。従って、これらの薬剤は、痙攣前の副作用及び抗痙攣の副作用の両方を有する。
【0224】
ここでの結果は、[S](−)PAIメシレートが痙攣前の活性を有することを示している。「メトラゾールの時間静脈内注入試験」において、141mg/kgの[S](−)PAIメシレートは、時間、従って、最初の焦点発作(forcal seizure)及びクローヌスの開始の両方の様相を誘導するのに必要なメトラゾールの量を減少する。フェニトイン及びカルバマゼピンのような部分的及び全身性の発作に古典的に使用される他の試薬はこの効果を示さない。(H. J. Kupferberg, Epilepsia, 30, s51-s56 (1989))。同様に、[S](−)PAIメシレートは、[R](+)PAIメシレートよりも十分高い急性神経毒性を示す。300mg/kgで、[R](+)PAIメシレートは、ローターロッド運動失調試験(rotorod ataxia test)においてマウスでいずれの神経毒性を示さなかたった。[S](−)PAIメシレートでは、4匹のマウスのうち4匹が神経毒性及び痙攣性を示した。
【0225】
方法
TD50(中央毒性投与量)
本試験はローターロッド運動失調試験によって精神医学的欠損を測定する。マウスを6rpmで回転するギザキザをつけた棒に置きいた。次に、マウスがその平衡を維持する能力を有するか否か、及び3回の試験の各々で1分間棒上に止まることができるか否かを決定する。
【0226】
メトラゾールの時間静脈内注入試験
本試験は、各動物の最小の発作の閾値を測定する。メトラゾールを0.185mg/mlでマウスの尾静脈に注入した。次に、注入の開始から最初のひきつり(最初の焦点発作)及びクローヌスの開始(間代性の発作)の様相まで時間を記録した。痙攣前は、これらの徴候を引き起こすのにより少ないメトラゾールを必要とし、従ってより短い時間で終点を示す。
【0227】
例37
腸平滑筋調製物の収縮に関する[R](+)PAI及び[S](−)PAIの抹消効果
PAIのエナンチオマーの塩酸塩の抹消効果を、単離されたウサギ又は天竺ネズミの小腸で決定した。これらの観測は、ヒトにおけるこれらの相対的抹消副作用に関する有益な情報を提供する。経口投与された薬剤と患者の最初の接点は、胃腸間であり、この場所で、薬剤の濃度は吸収及び分布の後よりも高くなる。PAI塩酸塩(MW=208)の場合は、約100mlの液体容積内に含まれる10mgの経口投与量は、約0.5mMの濃度に等しい。対照的に、[R](+)PAI塩酸塩の治療の血漿濃度はナノモルオーダーである。
【0228】
単離されたウサギ空腸及び天竺ネズミ回腸におけるPAIのエナンチオマーの効果が決定され、この結果から[R](+)PAIと供に[S](−)PAIの取り込み(ラセミ体のPAIで見出されるようなもの)が、純粋な[R](+)PAIの投与では存在しない副作用をもたらすか否かがわかる。[R](+)PAIは、酵素のこの形態に対するその強さ及び高い選択性によって、脳においてMAO−Bの阻害のための好ましいエナンチオマーである。[S](−)PAIは、この点において[R](+)PAIよりも強さが低く、MAO−Bに対して選択的でもない。基本的には、[S](−)PAIが[R](+)PAIの推奨される投与量で不活性であるという条件で、PAIのラセミ体でのその存在が許容され、見逃される。表16〜19に示された結果は、[S](−)PAIが不活性な物質であることを示している。反対に、天竺ネズミの回腸では、これは[R](+)PAIよりも強力な弛緩剤である。従って、その抹消効果は、無視できるとして割り引いて考慮することができない。これらのデータは、純粋な[R](+)PAIの投与での抹消の副作用が、[R](+)PAIに等しい投与量を含有するラセミ体のPAIの投与におけるよりも小さくなるであろうことを示している。
【0229】
表16 水に漬けた空腸調製物におけるPAIの2種類のエナンチオマーの各々によるチラミンの増強
ウサギ空腸の伸張物を器官浴にマウントし、ノルエピネフリンで阻害されるが、チラミンでは阻害されない周期的な収縮を観測した。しかし、空腸がPAIのようなモノアミンオキシダーゼ阻害剤で前処理されると、チラミンは自発的な収縮の弛緩を起こす。弛緩の程度は、阻害剤の相対的な強さと相関しうる。
【表16】
【0230】
結果
[S](−)PAIは、脳MAO−Bの阻害剤としては、[R](+)PAIよりも強さが非常に低い。従って、[S](−)PAIは脳のドーパミンの分解を阻害するための有効な薬剤ではないが、小腸においてチラミンで喚起されるノルエピネフリンの放出を強めることができる。小腸におけるその活性は、分解されないチラミンの吸収と作用を増強することが予想されるので、望まない副作用でである。従って、[S](−)PAIは、これが[R](+)PAIと供に用いられる場合、ラセミ体のPAIで見出されるような不活性な物質ではない。
【0231】
表17 400μMのPAIHClの2種類のエナンチオマーの各々の存在下における天竺ネズミの回腸調製物の、ベタネコールで誘導される収縮の拮抗作用
器官浴の生理学的溶液中でマウントされた天竺ネズミの回腸の伸張物は、天然の胃腸管神経伝達物質であるアセチルコリンの酵素的に安定な類似体であるベタネコール(bethane-chol)で処理したとき、投与量依存的に収縮する。これらの収縮は、PAIの存在下で弱められる。データはグラム−伸張(gram-tension)で表した。
【表17】
【0232】
結果
[S](−)PAIは、[R](+)に関してMAO−B阻害剤としてほとんど不活性である。従って、脳のドーパミンの分解を阻害することについて効果的でない。しかし、これは、ベタネコールで誘導される小腸の収縮の阻害に関して[R](+)PAIよりも効果的である。従って、[S](−)PAIは、これが[R](+)PAIと共に使用された場合、ラセミ体のPAIで見出されるように不活性な物質ではない。
【0233】
表18 PAIHClの2種類のエナンチオマーの各々による天竺ネズミの回腸調製物のヒスタミンで誘導される収縮の拮抗作用
ヒスタミンの固定した投与量(40μM)は、器官浴の生理学的溶液中にマウントされた天竺ネズミの回腸の伸張物の持続的な収縮を起こす。PAIHClの2種類のエナンチオマーの各々を増加して添加すると、筋の投与量依存性の弛緩を起こす。結果を、ヒスタミンの添加前のベースライン(これを100%弛緩とした。)に関してのパーセント弛緩として表した。
【表18】
【0234】
結果
[S](−)PAIは、脳においてMAO−Bの阻害剤として[R](+)PAIに関して不活性である。従って、脳のドーパミンの分解を阻害するためには有効でないが、腸平滑筋の弛緩を起こす(R)異性体よりも活性である。従って、[S](−)PAIは、(R)異性体と供に摂取される場合、ラセミ体のPAIで見出されるような不活性な物質ではない。
【0235】
表19 PAIHClの2種類のエナンチオマーの各々による天竺ネズミの回腸調製物のベタネコールで誘導される収縮の拮抗作用
ベタネコールの固定した投与量(0.8μM)は、器官浴の生理学的溶液中にマウントされた天竺ネズミの回腸の伸張物の持続的な収縮を起こす。PAIHClの2種類のエナンチオマーの各々を増加して添加すると、筋の投与量依存性の弛緩を起こす。結果を、ヒスタミンの添加前のベースライン(これを100%弛緩とした。)に関してのパーセント弛緩として表した。
【表19】
【0236】
結果
[S](−)PAIは、脳においてMAO−Bの阻害剤として[R](+)PAIに関して不活性である。従って、脳のドーパミンの分解を阻害するためには有効でないが、腸平滑筋の弛緩を起こす(R)異性体よりも活性である。従って、[S](−)PAIは、(R)異性体と供に摂取される場合、ラセミ体のPAIで見出されるような不活性な物質ではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又はその薬学的に許容しうる塩を、脳虚血症、頭部の外傷性障害、脊髄の外傷性障害、精神分裂症、注意力欠損症、多発性硬化症、嗜癖物質からの禁断症状、又は視神経の構造上の損傷の治療のための活性化合物として含む薬学的組成物。
【請求項2】
該嗜癖物質がコカイン又はアルコールである請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項1】
R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン又はその薬学的に許容しうる塩を、脳虚血症、頭部の外傷性障害、脊髄の外傷性障害、精神分裂症、注意力欠損症、多発性硬化症、嗜癖物質からの禁断症状、又は視神経の構造上の損傷の治療のための活性化合物として含む薬学的組成物。
【請求項2】
該嗜癖物質がコカイン又はアルコールである請求項1に記載の薬学的組成物。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−18626(P2010−18626A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219662(P2009−219662)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2002−303097(P2002−303097)の分割
【原出願日】平成6年10月12日(1994.10.12)
【出願人】(592224367)テバ ファーマシューティカル インダストリーズ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】TEVA PHARMACEUTICAL INDUSTRIES LTD.
【出願人】(399042535)テクニオン・リサーチ・アンド・ディベロップメント・ファウンデーション・リミテッド (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2002−303097(P2002−303097)の分割
【原出願日】平成6年10月12日(1994.10.12)
【出願人】(592224367)テバ ファーマシューティカル インダストリーズ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】TEVA PHARMACEUTICAL INDUSTRIES LTD.
【出願人】(399042535)テクニオン・リサーチ・アンド・ディベロップメント・ファウンデーション・リミテッド (5)
【Fターム(参考)】
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