説明

N−メチルシクロブチルアミンの製造法

【課題】工業的生産に耐えうる、簡便で安価なN-メチルシクロブチルアミンの製造法を提供する。
【解決手段】本発明者らは、工業的生産に耐えうる、簡便で安価なN-メチルシクロブチルアミンの製造法について検討し、tert-ブチル シクロブチル(メチル)カルバマートのtert-ブチルオキシカルボニル除去反応の工程を含む合成経路を用いて製造することにより、禁水性条件を使用する必要がなく、カラムクロマトグラフィーによる生成物の単離等を伴うことなく、これらの目的を達することができることを見出し、本発明を完成した。N-メチルシクロブチルアミンは、医薬等に使用しうる機能性低分子の部分構造構築のための中間体として使用しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-メチルシクロブチルアミンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(II)で示されるN-メチルシクロブチルアミンは、例えば医薬等に利用可能な、機能性低分子の部分構造として用いられることがあり、それらの機能性低分子の製造に当たり有用な中間体である。
【化6】

その有用性から、工業的生産に耐えうる、簡便で安価な製造方法の確立が望まれていた。
【0003】
式(II)で示されるN-メチルシクロブチルアミンの製造法として、シクロブタノンとメチルアミンとの還元的アミノ化が知られている(非特許文献1)。しかし、反応終了後にメチルアミンを除く必要があり、工業生産上、適用するのが困難な蒸留精製操作を要する。
【0004】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society、1949年、3925ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工業的生産に耐えうる、簡便で安価なN-メチルシクロブチルアミンの製造法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、N-メチルシクロブチルアミンの製造法について検討した結果、後述する合成経路(1)によりN-メチルシクロブチルアミンを製造することにより、工業的生産に使用できないような禁水性条件や、カラムクロマトグラフィーによる精製等の必要がなく、また入手容易で安価な原料を用いて製造できることを知見して本発明を完成した。
即ち、本発明により以下が提供される。
【0007】
[1]式(I)
【化7】

の化合物をtert-ブチルオキシカルボニルの除去反応に付し、式(II)
【化8】

の化合物を製造する方法。
【0008】
[2]tert-ブチルオキシカルボニルの除去反応が、酸性条件に付することである、[1]に記載の方法。
【0009】
[3]tert-ブチルオキシカルボニルの除去反応が、p-トルエンスルホン酸を用いる反応である、[1]に記載の方法。
【0010】
[4]式(I)の化合物。
【化9】

【0011】
[5]式(III)
【化10】

の化合物をメチル化し、式(I)
【化11】

の化合物を製造する方法。
【0012】
なお、式(I)、式(II)、又は式(III)の化合物は、その反応に付される場合において、及び/又はその反応後単離される場合において、それぞれ対応する塩の形態であってもよい。
例えば、式(II)の化合物は、酸との付加塩を形成することができ、付加塩を形成する酸の具体例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸が挙げられ、ある態様としてはp-トルエンスルホン酸との塩が挙げられる。
また、上記の塩の他、式(I)、式(II)、又は式(III)の化合物は、その反応に付される場合において、又はその反応後単離される場合において、それらの水和物や溶媒和物、それらの塩の水和物や溶媒和物の形態であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
後述する合成経路(1)に示すような、式(I)の化合物を経由したN-メチルシクロブチルアミンの製造法は、工業的生産に適した、簡便で安価なN-メチルシクロブチルアミンの製造法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<合成経路(1)>
式(II)で示されるN-メチルシクロブチルアミン(N-メチルシクロブタンアミン、若しくはシクロブチルメチルアミンとも言う。)は、以下の合成経路に従って製造することができる。但し、本発明の製造法が以下に示した例に限定されるものではない。
【化12】

【0015】
工程1は、公知化合物である式(III)の化合物をメチル化して式(I)の化合物を製造する工程である。
メチル化は、塩基の存在下、無溶媒若しくは反応に不活性な溶媒中、-20℃〜加熱還流下、好ましくは、0℃〜加熱還流下において、通常0.1時間〜50時間攪拌することにより行われる。ここで用いられる溶媒の例としては、特に限定されるものではないが、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;及びこれらの混合物が挙げられる。用いられる塩基としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシド、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウム等が挙げられる。メチル化剤としては、ヨウ化メチル、臭化メチル等のハロゲン化メチルを用いることができる。
ある態様としては、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、塩基として水素化ナトリウムを用い、メチル化剤としてヨウ化メチルを用いた方法が挙げられる。
なお、塩基として水素化ナトリウムを用いる場合、反応を進行させるため、若しくは反応を促進するために、触媒量程度の少量の水、又はtert-ブタノール、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類を添加してもよい。
【0016】
工程2は、式(I)の化合物のtert-ブチルオキシカルボニルを除去して式(II)の化合物を製造する工程である。
tert-ブチルオキシカルボニルの除去は酸の存在下、無溶媒若しくは反応に不活性な溶媒中、0℃〜加熱還流下、好ましくは室温〜加熱還流下において、通常0.1時間〜50時間攪拌することにより行われる。ここで用いられる溶媒の例としては、特に限定されるものではないが、エーテル類;芳香族炭化水素類;脂肪族炭化水素類;ハロゲン化炭化水素類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;及びこれらの混合物が挙げられる。用いられる酸としては、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸若しくはその水和物;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、過塩素酸、リン酸等の鉱酸;酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸等の脂肪族カルボン酸が挙げられる。
この工程では、目的物である式(II)の化合物は、tert-ブチルオキシカルボニルを除去する反応に使用された酸との付加塩として単離することもできるし、反応後のあと処理工程で反応混合物を中和若しくは塩基性化して、フリー体として単離することもできる。ある態様としては、溶媒としてアセトンを用い、酸としてp-トルエンスルホン酸を用い、式(II)の化合物のp-トルエンスルホン酸塩として単離する方法が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例に基づき、本発明の製造法、及び本発明化合物の製造法をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記に記載された実施例の形態に特に限定されるものではない。
【0018】
製造例1
シクロブチルアミン(4.21 g)をテトラヒドロフラン(47 mL)に溶解し、氷冷下、二炭酸tert-ジブチル(12.79 g)を加え,24〜26℃で一晩撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより原料が消失したことを確認し、反応液を減圧下濃縮した。残渣にn-ヘプタン(21 mL)を加え、減圧下濃縮し、残渣に再度n−ヘプタン(21 mL)を加え、減圧下濃縮し、tert-ブチル シクロブチルカルバマート(10.21 g)を得た。
1H-NMR(DMSO-d6, テトラメチルシラン内部標準):δ(ppm) 1.362(s,9H),1.482-1.562(m,2H),1.804-1.892(m,2H),2.047-2.111(m,2H),3.857-3.939(quintet,1H),7.086-7.106(d,1H).
【0019】
実施例1
製造例1の化合物(10.00 g)をテトラヒドロフラン(50 mL)に溶解し、氷冷下、55% 水素化ナトリウム(5.10 g)を加え、次いでよう化メチル(16.58 g)を加えた後、室温で一晩撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより原料が消失したことを確認し、氷冷下、水(50 mL)及びトルエン(50 mL)を加え、分液した。有機層を減圧下濃縮し、粗tert-ブチル シクロブチル(メチル)カルバマート(13.55 g)を得た。
1H-NMR(DMSO-d6, テトラメチルシラン内部標準):δ(ppm) 1.382(s,9H),1.509-1.592(m,2H),1.969-2.127(m,4H),2.722(s,3H),4.332(br,1H).
【0020】
実施例2
実施例1の化合物(13.54 g)をアセトン(50 mL)に溶解し、p-トルエンスルホン酸一水和物(13.32 g)を加え、49℃で7時間撹拌した。薄層クロマトグラフィーで原料が消失したことを確認し、氷冷下、5時間撹拌した。析出した結晶をろ過し、アセトン(10 mL)で洗浄後、減圧下30℃で乾燥し、N-メチルシクロブチルアミン 4-メチルベンゼンスルホン酸塩(12.75 g)を得た。
1H-NMR(DMSO-d6, テトラメチルシラン内部標準):δ(ppm) 1.695-1.791(m,2H),2.005-2.195(m,4H),2.294(s,3H),2.434(s,3H),3.602(br,1H),7.120-7.140(d,2H),7.484-7.504(d,2H),8.537(br,2H).
【0021】
以上の結果より、合成経路(1)に示す製造法を採用することにより、工業的製造に適さない工程、例えば、水素化リチウムアルミニウムを用いる還元反応等の禁水性条件や、カラムクロマトグラフィーによる生成物の単離工程を伴うことなく、医薬等に利用可能な機能性低分子の製造に際して有用な中間体として使用しうる、N-メチルシクロブチルアミンを、十分な純度で、また簡便に安価に製造することができる。
また、本発明の製造法により製造される式(II)の化合物はp-トルエンスルホン酸塩として単離されるが、式(II)の化合物のp-トルエンスルホン酸塩は結晶として取得することが可能なため、精製しやすいことにより品質の安定化が期待できる。また、結晶として取得可能なことで、医薬等に使用しうる機能性低分子の部分構造構築のための中間体として使用する際に扱いやすい利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

の化合物をtert-ブチルオキシカルボニルの除去反応に付し、式(II)
【化2】

の化合物を製造する方法。
【請求項2】
tert-ブチルオキシカルボニルの除去反応が、酸性条件に付することである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
tert-ブチルオキシカルボニルの除去反応が、p-トルエンスルホン酸を用いる反応である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
式(I)の化合物。
【化3】

【請求項5】
式(III)
【化4】

の化合物をメチル化し、式(I)
【化5】

の化合物を製造する方法。

【公開番号】特開2009−184933(P2009−184933A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23528(P2008−23528)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】