説明

N,S−ジ−tert−ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体及びそれを中間体として用いるグルタチオン蛍光誘導体の製造方法

【課題】グルタチオン蛍光誘導体を提供すること。
【解決手段】式(1)


(式中、R及びRは、同一又は相異なり、ヒドロキシル基又は蛍光基を表し、R及びRの両方がヒドロキシル基であるものを除く。RとRの両方が蛍光基である場合、蛍光基の構造は同一である。)
で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体及びそれを中間体として用いるグルタチオン蛍光誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオンは生体内において体内代謝に伴い形成される遊離基や種々の反応性酸素中間体の危険な作用に対する細胞の保護等、様々な機能を有する既知トリペプチドである。近年、その性質を利用して化学物質の皮膚感作性をグルタチオンとの結合性の有無により判定する方法が報告されている(例えば、特許文献1)。また、本発明者らは、グルタチオンの蛍光誘導体を用いることにより感作性判定精度が向上することを見出している(特願2008−065277)。従来グルタチオン蛍光誘導体は6工程で製造されており工程数の削減が望まれているが、それを達成するために原料であるチオール基とアミノ基が保護されたグルタチオンを簡便に製造する方法が必要であった。しかし、チオール基とアミノ基が同じ保護基で保護されたN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンは公知化合物として知られているものの、システインから5工程で合成されている報告例があるのみであり(例えば、非特許文献1参照。)、1工程でアミノ基とチオール基へ同時にtert-ブトキシカルボニル基を導入する方法は知られていない。

【特許文献1】特開2003−014761号公報
【非特許文献1】Chem. Pharm. Bull. 1971, 19, 1708.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、グルタチオンから短工程でアミノ基とチオール基へ同時にtert-ブトキシカルボニル基を導入し、N,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンを簡便に得る製造方法及びそれを用いるグルタチオン蛍光誘導体の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、
グルタチオンをアルカリ存在下二炭酸ジ-tert-ブチルと反応させることにより1工程で重要中間体である下記式(2)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンを製造する方法を見出すとともに、得られた化合物を脱水縮合剤存在下、アミノ基を有する蛍光誘導体と反応させることにより容易に下記式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体が得られ、該誘導体を脱保護することにより簡便にグルタチオン蛍光誘導体が合成できることを見出し、本発明に至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
[1]:
式(1)

(式中、R及びRは、同一又は相異なり、ヒドロキシル基又は蛍光基を表し、R及びRの両方がヒドロキシル基であるものを除く。RとRの両方が蛍光基である場合、蛍光基の構造は同一である。)
で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体;
[2]:
グルタチオンをアルカリ存在下二炭酸ジ-tert-ブチルと反応させて、式(2)

で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンを得、次いで、脱水縮合剤存在下、アミノ基を有する蛍光誘導体又はその塩とを反応させることを特徴とする上記式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体の製造方法;
[3]:
グルタチオンをアルカリ存在下二炭酸ジ-tert-ブチルと反応させて、上記式(2)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンを得、次いで、脱水縮合剤存在下、アミノ基を有する蛍光誘導体又はその塩とを混合し、上記式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体を得、次いで、脱保護反応に供することを特徴とする、式(3)

(式中、R及びRは、同一又は相異なり、ヒドロキシル基又は蛍光基を表し、R及びRの両方がヒドロキシル基であるものを除く。R1とR2の両方が蛍光基である場合、その蛍光基の構造は同一である。)
で示されるグルタチオン蛍光誘導体の製造方法:
[4]:
上記アミノ基を有する蛍光誘導体又はその塩が、式(4)


(式中、x,y,zは、整数を表し、x及びzは1〜20, yは0〜20のいずれかである。Rは、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノスルホニル基又はスルホン酸基を表す。)
である上記2記載のN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体の製造方法または上記3記載のグルタチオン蛍光誘導体の製造方法:
[5]:
グルタチオンをアルカリ存在下、二炭酸ジ-tert-ブチルと反応させることを特徴とする上記式(2)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンの製造方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、グルタチオン蛍光誘導体製造の重要な中間体であるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体を容易に製造でき、さらに比較的短工程でグルタチオン蛍光誘導体を製造することができるため有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、式(2)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンの製造方法について説明する。
【0008】
式(2)

で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンは、グルタチオンをアルカリ存在下、二炭酸ジ-tert-ブチル(Boc2O)と反応させることにより製造することができる。(下記スキーム1参照。)

【0009】
グルタチオンは通常市販のものを用いることができる。
二炭酸ジ-tert-ブチル(Boc2O)は通常、市販のものを用いることができ、その使用量は、通常、グルタチオンに対して2当量以上、好ましくは2〜5当量用いられる。
【0010】
アルカリとしては、通常市販のものが用いられ、具体的には、水素化ナトリウム、水素化カリウム、tert-ブトキシカリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、ピリジン、トリエチルアミン、N-メチルイミダゾール、ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられ、好ましくは、炭酸ナトリウムもしくは炭酸カリウムである。その使用量は制限されないが、好ましくは、グルタチオンに対して、4〜10当量用いられる。
【0011】
また、用いられる溶媒としては、水、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ペンタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、又はジエチルエーテル、テトラヒドラフラン、1,4-ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン等のハロゲン系溶媒が挙げられ、2種以上の溶媒を混合して使用してもよい。好ましくは水と容易に混合するジオキサン等の水溶性有機溶媒と水との混合溶媒が挙げられる。溶媒使用量の制限は特にない。
【0012】
式(2)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンの製造は、グルタチオンをアルカリ存在下二炭酸ジ-tert-ブチルと溶媒中混合することにより実施することができる。反応温度は、通常、−10℃から使用する溶媒の沸点の範囲であるが、0℃〜50℃が好ましい。反応時間は、反応で用いるアルカリの種類、反応温度等で異なるが、通常3分から15時間程度の範囲である。反応後、通常の後処理、例えば抽出、再結晶、各種クロマトグラフィーなどの操作をすることによりN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンを得ることができる。
【0013】
以下に、式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体の製造方法について説明する。
【0014】
式(1)

(式中、R及びRは、同一又は相異なり、ヒドロキシル基又は蛍光基を表し、R,Rの両方がヒドロキシル基であるものを除く。R及びRの両方が蛍光基である場合、その蛍光基の構造は同一である。)
で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体は、脱水縮合剤存在下、式(2)

で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンとアミノ基を有する蛍光誘導体又はその塩とを反応させることにより製造することができる。(下記スキーム2参照。)


【0015】
式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体の製造において用いることのできるアミノ基を有する蛍光誘導体は、通常、市販のものを用いるか、公知の方法で製造したものを使用することができ、その使用量は、通常、式(2)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンに対して0.8〜5当量用いられ、好ましくは、1〜2.5当量である。
【0016】
蛍光誘導体化試薬としては、具体的には、市販のN-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-エチルアミン、もしくは、Chemistry - A European Journal 1999, 5, 922等に記載の方法で製造したチオカルバモイル-エチレンジアミン-フルオロセイン、チオカルバモイル-エチレンジアミン-ローダミン、N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-エチルアミン等を挙げることができる。
又は、以下に説明する方法で製造した、式(4)

(式中、x,y,zは、整数を表し、x及びzは1〜20, yは0〜20のいずれかである。Rは、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノスルホニル基又はスルホン酸基を表す。)
で示される蛍光誘導体化試薬塩酸塩を用いることができる。
【0017】
以下に、式(4)で示される蛍光誘導体化試薬塩酸塩の製造方法について説明する。
【0018】
式(4)で示される蛍光誘導体化試薬塩酸塩は、式(5)

(式中、x,y,zは上記と同じ意味を表す。)
で示されるジアミン化合物と二炭酸ジ-tert-ブチルとを反応させ、式(6)

(式中、x,y,zは上記と同じ意味を表す。)
で示されるモノアミン化合物を得、次いで、式(7)

(式中、Halはハロゲン原子を表す。Rは上記と同じ意味を表す。)
で示されるベンゾフラザン誘導体と反応させ、式(8)


(式中、x,y,z、Rは上記と同じ意味を表す。)
で示される保護蛍光誘導体化試薬を塩化水素で脱保護することにより製造することができる。(下記スキーム3参照。)


【0019】
式(5)


(式中、x,y,zは上記と同じ意味を表す。)
で示されるジアミン化合物としては、通常、通常、市販のものが用いられ、具体的には、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、2,2’-オキシビス(エチルアミン)等が挙げられる。
【0020】
式(5)で示されるジアミン化合物から式(6)で示されるモノアミノ化合物を得るモノBoc化反応に用いられる二炭酸ジ-tert-ブチルは、通常、市販のものが用いられる。その使用量は、式(5)で示されるジアミン化合物に対して、1当量以下用いられ、好ましくは0.2〜1当量である。
【0021】
モノBoc化反応に用いられる溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ペンタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドラフラン、1,4-ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン等のハロゲン系溶媒が挙げられ、2種以上の溶媒を混合して使用してもよい。溶媒使用量の制限は特にない。
【0022】
反応温度は、通常、−10℃から使用する溶媒の沸点の範囲であるが、0℃〜50℃が好ましい。反応時間は、反応で用いる式(5)で示されるジアミン化合物の種類、反応温度等で異なるが、通常3分から15時間程度の範囲である。
【0023】
モノBoc化反応は、通常、溶媒中、式(5)で示されるジアミン化合物と二炭酸ジ-tert-ブチルを混合することにより実施することができる。反応後、通常の後処理、例えば抽出、再結晶、各種クロマトグラフィーなどの操作をすることにより式(6)で示されるモノアミノ化合物を得ることができる。なお、モノBoc化反応で後処理を行わずに反応液を次の反応に供することもできる。
【0024】
次に、式(6)で示されるモノアミノ化合物から式(8)で示される保護蛍光誘導体化試薬を得る蛍光誘導体化反応において用いられる式(7)

(式中、Halはハロゲン原子を表す。Rは上記と同じ意味を表す。)
で示されるベンゾフラザン誘導体において、Halはハロゲン原子を示し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を表す。また、Rは、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノスルホニル基、スルホン酸基を表すが、置換基を有していてもよいアミノスルホニル基とは、具体的には、ジメチルアミノスルホニル基、アミノスルホニル基、4-ジメチルアミノ-エチルアミノスルホニル基等を挙げることができる。ベンゾフラザン誘導体は、通常、市販ものが用いられ、具体的には、4-クロロ-7-ニトロベンゾフラザン、4-フルオロ-7-ニトロベンゾフラザン、4-クロロ-7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)ベンゾフラザン、4-フルオロ-7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)ベンゾフラザン、4-フルオロ-7-アミノスルホニルベンゾフラザン、4-クロロ-7-(2-(N,N-ジメチル)エチルアミノスルホニル)ベンゾフラザン等が挙げられ、好ましくは、比較的安価な4-クロロ-7-ニトロベンゾフラザンが用いられる。その使用量は式(6)で示されるモノアミノ化合物に対して、1当量以上用いられ、好ましくは1〜3当量である。
【0025】
蛍光誘導体化反応に用いられる溶媒、反応温度、反応時間については上記モノBoc化反応と同様の条件で実施可能である。
蛍光誘導体化反応は、通常、溶媒中、式(6)で示されるモノアミノ化合物と式(7)で示されるベンゾフラザン誘導体を混合することにより実施することができる。
反応後、通常の後処理、例えば抽出、再結晶、各種クロマトグラフィーなどの操作をすることにより式(8)で示される保護蛍光誘導化試薬を得ることができる。
【0026】
式(8)で示される保護蛍光誘導体化試薬から式(4)で示される蛍光誘導体化試薬塩酸塩を得る脱保護反応に用いられる塩化水素は、通常、溶媒に溶解した市販のものが用いられ、具体的には、塩化水素ジオキサン溶液、塩化水素酢酸エチル溶液、塩化水素メタノール溶液等が挙げられる。好ましくは、塩化水素ジオキサン溶液である。その使用量は特に制限がない。
【0027】
脱保護反応は、通常、式(8)で示される保護蛍光誘導体化試薬と塩化水素溶液を混合することにより実施することができる。反応後、通常の後処理、例えば濃縮、抽出、再結晶、各種クロマトグラフィーなどの操作をすることにより式(4)で示される蛍光誘導体化試薬塩酸塩を得ることができる。
【0028】
かくして得られる式(4)で示される蛍光誘導体化試薬塩酸塩を具体的に示すと、
N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-エチルアミン塩酸塩、N-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-エチルアミン塩酸塩、N-(7-(2-(N,N-ジメチル)エチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-エチルアミン塩酸塩、N-(7-(アミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-エチルアミン塩酸塩、

N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-プロピルアミン塩酸塩、N-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-プロピルアミン塩酸塩、N-(7-(2-(N,N-ジメチル)エチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-プロピルアミン塩酸塩、N-(7-(アミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ-プロピルアミン塩酸塩、

N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエトキシエチルアミン塩酸塩、N-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエトキシエチルアミン塩酸塩、N-(7-(2-(N,N-ジメチル)エチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエトキシエチルアミン塩酸塩、N-(7-(アミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノエトキシエチルアミン塩酸塩、等を挙げることができる。
【0029】
式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体の製造に用いることができる脱水縮合剤としては、具体的には、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスファート (BOP)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート(PyBOP)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート(TBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HATU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート(TATU)、1,1'-カルボニルビス-1H-イミダゾール(CDI)が挙げられる。
【0030】
その使用量は、式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体に対して、通常1〜5当量以上であり、好ましくは1〜3当量である。
【0031】
また、用いることができる溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ペンタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、又はジエチルエーテル、テトラヒドラフラン、1,4-ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン等のハロゲン系溶媒が挙げられ、2種以上の溶媒を混合して使用してもよい。溶媒使用量の制限は特にない。
【0032】
反応温度は、通常−50〜100℃である。
【0033】
また反応系に電子吸引性官能基を有するヒドロキシ化合物や塩基を加えることにより反応を促進することができる。それらの使用量は、通常、式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体に対して通常、1〜5当量用いられ、好ましくは、1〜2.5当量である。
【0034】
電子吸引性官能基を有するヒドロキシ化合物は通常市販のものが用いられ、具体的に示すと、4−ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド, N-ヒドロキシスクシンイミド、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0035】
また、塩基としては、通常市販のものが用いられ、具体的には、水素化ナトリウム、水素化カリウム、tert-ブトキシカリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、ピリジン、トリエチルアミン、N-メチルイミダゾール、ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられる。
【0036】
式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体の製造は溶媒中、式(2)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンとアミノ基を有する蛍光誘導体、脱水縮合剤、また、必要に応じて電子吸引性官能基を有するヒドロキシ化合物や塩基を混合することにより実施することができる。
【0037】
反応終了後、反応液をそのままもしくは濃縮処理した後、水もしくは酸性水溶液及び水に不溶の有機溶媒を加えて抽出処理し、得られる有機層を濃縮処理することにより、式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体を取り出すことができる。さらに、例えばクロマトグラフィー、再結晶等の通常の精製手段により精製してもよい。
【0038】
かくして得られる式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体を具体的に示すと、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、{4-(tert-ブトキシカルボニル)アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル−グリシン、4-(tert-ブトキシカルボニル)アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル−グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(アミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、
【0039】
γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、{4-(tert-ブトキシカルボニル)アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピルカルバモイル]-ブチリル}-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル−グリシン、4-(tert-ブトキシカルボニル)アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピルカルバモイル]-ブチリル}-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル−グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(アミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、
【0040】
γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3−オキサペンチル]-アミド、{4-(tert-ブトキシカルボニル)アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチルカルバモイル]-ブチリル}-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル−グリシン、4-(tert-ブトキシカルボニル)アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチルカルバモイル]-ブチリル}-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル−グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチル]-アミド、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチル]-アミド、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(アミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチル]-アミド、γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチル]-アミド等を挙げることができる。
【0041】
以下に式(3)で示されるグルタチオン蛍光誘導体の製造方法について説明する。
【0042】
式(3)

(式中、R及びRは、前記と同じ意味を表わす。)
で示されるグルタチオン蛍光誘導体は、式(1)

(式中、R及びRは、前記と同じ意味を表わす。)
で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体を脱保護剤で処理することにより実施できる。(下記スキーム4参照)

【0043】
脱保護剤としては、Tetrahedron Letter 1989, 30, 2739に記載の方法に準じ、トリアルキルシランが含有させた含水トリフルオロ酢酸が用いられる。
上記トリアルキルシランとしては、トリエチルシラン、トリイソプロピルシラン等を挙げることができ、通常、トリフルオロ酢酸に対して体積比で0.01〜0.5倍使用する。
【0044】
脱保護反応は、式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体と脱保護剤を混合することにより実施することができる。
反応温度は、通常、−10℃〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応時間は通常3分〜15時間の範囲で実施される。
【0045】
反応後、反応液にジエチルエーテル等の有機溶媒を加えることにより、式(3)で示されるグルタチオン蛍光誘導体を沈殿物として容易に取り出すことが可能である。沈殿物をさらに再結晶、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段により精製してもよい。
【0046】
かくして得られる式(3)で示されるグルタチオン蛍光誘導体を具体的に示すと、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、{4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(アミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド、
【0047】
γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、{4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(アミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-プロピル]-アミド、
【0048】
γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-3−オキサペンチル]-アミド、{4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン、4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチル]-アミド、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(N,N-ジメチルアミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチル]-アミド、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(アミノスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチル]-アミド、γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-(2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルスルホニル)-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)- 3−オキサペンチル]-アミド等を挙げることができる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
[実施例1] N,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンの合成


グルタチオン(2.0g, 6.51mmol)に二炭酸ジ-tert-ブチル(4.8g, 22.0mmol), 炭酸カリウム(5.6g, 40.5mmol), ジオキサン(20mL), 及び水(20mL)を室温で加えた。室温で18時間攪拌した後、反応液に30mLの水を加え、ジエチルエーテル(30mL)で水層を3回洗浄した。得られた水層に硫酸水素ナトリウムを加え酸性とし、酢酸エチル(100mL)で抽出した。得られた有機層を硫酸水素ナトリウム水溶液(1M, 30mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。エバポレーターで濃縮後、ヘキサンで結晶化することによりN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン(3.3g, 収率>99%)を得た。下記LCおよびMS条件で構造確認を行った。

N,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンの物性値
ESI(+)-MS 508 [ M+H+ calcd. for C20H34N3O10S: 508.20]
LC保持時間:19.916分

NMR (THF-d8, 270MHz): 7.56 (t, J=5.1Hz, 1H, Gly-NH), 7.49 (d, J=8.4Hz, 1H, Cys-NH), 6.27 (d, J=8.4Hz, 1H, Glu-NH), 4.63 (m, 1H, Cys-α位メチン), 4.15 (m, 1H, Glu-α位メチン), 3.87 (t, J=5.8Hz, 2H, Gly-α位メチレン), 3.26 (dd, J=5.4, 14.0Hz, 1H, Cys-β位メチレン), 3.01 (dd, J=8.1, 13.8Hz, 1H, Cys-β位メチレン), 2.27(m, 2H, Glu-γ位メチレン), 2.08(m, 1H, Glu-β位メチレン) ,1.89(m, 1H, Glu-β位メチレン), 1.47 (s, 9H, Boc基), 1.41 (s, 9H, Boc基).

[プロトンの帰属]

【0051】
[液体クロマトグラフィー(LC)条件]
装置:島津製作所製LC-10Avp
カラム:Waters製 XBridge C18(3.0μm,5mmΦ×15cm)
流速:1mL/min
検出波長:UV220nm
溶出液A:超純水に酢酸を0.1%添加した溶液
溶出液B:アセトニトリルに酢酸を0.1%添加した溶液
溶出条件:溶出液Aが90%、溶出液Bが10%の割合で混合させた溶出液で平衡化されたカラムにサンプルを注入した後、50分かけて溶出液Bの割合を10%から90%にまで上げながら溶出液Aと溶出液Bを流した。
【0052】
[質量分析(MS)条件]
MS:LCQ XP plus (サーモフィッシャーサイエンティフィック製)
イオン化:ESI法
スプレー電圧:5kV
キャピラリ―温度:250℃
【0053】
[実施例2] N-tert-ブトキシカルボニル-N'-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)-1,2-エチレンジアミンの合成


4-クロロ-7-ニトロベンゾフラザン(0.6g, 3.0mmol)の酢酸エチル溶液(20mL)にN-tert-ブトキシカルボニル-1,2-エチレンジアミン(1g, 6.3mmol)を加え1時間室温で撹拌した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(順相シリカゲル30g, 酢酸エチル)に供することによりN-tert-ブトキシカルボニル-N'-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)-1,2-エチレンジアミン(0.8g, 収率82%)を得た。

NMR (CDCl3, 270MHz): 8.48 (d, J=8.6Hz, 1H), 7.65 (br s, 1H), 6.17 (d, J=8.6Hz, 1H),5.10 (br s, 1H), 3.61 (br s, 4H).H
hhhhhhhhhhhhnnl
【0054】
「実施例3」
γ-(N-tert-ブトキシカルボニル)グルタミル-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド(以下、蛍光誘導体A)及び{4-(tert-ブトキシカルボニル)アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル−グリシン(以下、蛍光誘導体B)及び4-(tert-ブトキシカルボニル)アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-(S-tert-ブトキシカルボニル)システイニル−グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド(以下、蛍光誘導体C)の合成


N-tert-ブトキシカルボニル-N'-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)-1,2-エチレンジアミン(191mg, 0.59mmol)に塩化水素ジオキサン溶液(3mL, 4mol/L溶液, 12 mmol)を加え室温で3時間撹拌した。エバポレータで溶媒と過剰の塩化水素を除去した後、N,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン(0.3g, 0.59mmol), テトラヒドロフラン(10mL), 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(略称:EDC、105μL, 0.59mmol)及びトリエチルアミン(82μL、0.59mmol)を加え3時間室温で攪拌した。得られた反応液に1M硫酸水素ナトリウム水溶液(20mL)と酢酸エチル(50mL)を加えて分液操作を行った。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、エバポレーターで濃縮を行うことにより、蛍光誘導体A及び蛍光誘導体B及び蛍光誘導体Cおよび原料N,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンの混合物を0.4g得た。
実施例1記載のLCおよびMS条件で取得物の組成および構造確認を行った。

[取得物組成]
蛍光誘導体A:蛍光誘導体B:蛍光誘導体C:N,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン:その他不純物=57.93%:10.72%:23.30%:5.73%:2.31%

[蛍光誘導体Aの物性値]
ESI(+)-MS:713 [ M+H+ calcd. for C28H41N8O12S: 713.26]

LC保持時間:25.280分
取得物のNMR測定(THF-d8, 600MHz)の結果から主成分である蛍光誘導体Aの帰属を下記の通り行った。NOESYスペクトルの解析の結果、Gly-α位メチレンプロトンと蛍光基のメチレンプロトンとのNOE相関が確認されたことから、蛍光誘導体AはGly側に蛍光基を有する構造であると決定した。


NMR (THF-d8, 600MHz): 8.49 (d, J=8.6Hz, 1H, ベンゾフラザン環5位H), 8.43 (br s, 1H, -NH-(CH2)2-NH-Gly-)、8.04 (d, J=6.0Hz, 1H, Cys-NH), 7.99 (m, 1H, Gly-NH), 7.70 (br s, 1H, -NH-(CH2)2-NH-Gly-), 6.44(d, J=8.8Hz, 1H、ベンゾフラザン環6位), 6.40 (m, 1H, Glu-NH), 4.22(m, 1H, Glu-α位メチン), 4.04 (m, 1H, Cys-α位メチン), 4.04(d, J=7.2Hz, 1H, Gly-α位メチレン), 4.00 (d, J=6.9Hz, 1H, Gly-α位メチレン), 3.65(m, 2H, -NHCH2CH2NH-Gly-), 3.51(m, 2H, -NHCH2CH2NH-Gly-), 3.36 (dd, J=5.1, 14.1Hz, 1H, Cys-β位メチレン), 3.11 (m, J=9.0, 14.1Hz, 1H, Cys-β位メチレン), 2.33(m, 2H, Glu-γ位メチレン), 2.25(m, 1H, Glu-β位メチレン) ,1.76(m, 1H, Glu-β位メチレン), 1.46 (s, 9H, Cys-Boc基), 1.41 (s, 9H, Glu-Boc基).
【0055】
[蛍光誘導体Bの物性値]
ESI(+)-MS:713 [ M+H+ calcd. for C28H41N8O12S: 713.26]
LC保持時間:24.999分
蛍光誘導体Bは蛍光誘導体Aと分子量が同じ異性体であることからGlu側に蛍光基を有する構造であると決定した。

[蛍光誘導体Cの物性値]
ESI(+)-MS:918 [ M+H+ calcd. for C36H48N13O14S: 918.32]
LC保持時間:28.962分
分子量から、蛍光誘導体CはGly側およびGlu側両方に蛍光基を有する構造であると決定した。

【0056】
[実施例4] γ-グルタミル-システイニル-グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド(以下、蛍光誘導体D)及び{4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシン(以下、蛍光誘導体E)及び4-アミノ-4-[3-(7-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチルカルバモイル]-ブチリル}-システイニル−グリシニル-N-[2-(7-ニトロ-ベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-4-イルアミノ)-エチル]-アミド(以下、蛍光誘導体F)の合成

【0057】
実施例3で得られた蛍光誘導体A及び蛍光誘導体B及び蛍光誘導体Cの混合物10mgを1.5mLのサンプルチューブ内で0.1mLの脱保護液(トリフルオロ酢酸/トリイソプロピルシラン/水 1000:50:50 (v/v/v))に溶解し、15分間室温で撹拌した。得られた反応液にジエチルエーテル(1mL)を加え、目的物を沈殿させた後、遠心分離を行った。上澄みの除去及びジエチルエーテル(1mL)を加える操作を5回繰り返すことにより、蛍光誘導体D及び蛍光誘導体E及び蛍光誘導体Fおよびグルタチオンの混合物8mgを得た。実施例1記載のLC―MS条件で取得物の組成および構造確認を行った。

[取得物組成]
蛍光誘導体D:蛍光誘導体E:蛍光誘導体F:グルタチオン=60.82%:13.10%:23.37%:2.71%

蛍光誘導体Dの物性値
ESI(+)-MS:513 [ M+H+ calcd. for C18H25N8O8S: 513.15]
LC保持時間:8.065分

蛍光誘導体Eの物性値
ESI(+)-MS:513 [ M+H+ calcd. for C18H25N8O8S: 513.15]
LC保持時間:9.260分

蛍光誘導体Fの物性値
ESI(+)-MS:718 [ M+H+ calcd. for C26H32N13O10S: 718.21]
LC保持時間:17.263分

グルタチオンの物性値
ESI(+)-MS:308 [ M+H+ calcd. for C10H18N3O6S: 308.09]
LC保持時間:1.717分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)

(式中、R及びRは、同一又は相異なり、ヒドロキシル基又は蛍光基を表し、R及びRの両方がヒドロキシル基であるものを除く。RとRの両方が蛍光基である場合、蛍光基の構造は同一である。)
で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体。
【請求項2】
グルタチオンをアルカリ存在下二炭酸ジ-tert-ブチルと反応させて、式(2)

で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンを得、次いで、脱水縮合剤存在下、アミノ基を有する蛍光誘導体又はその塩とを反応させることを特徴とする請求項1に記載の式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体の製造方法。
【請求項3】
グルタチオンをアルカリ存在下二炭酸ジ-tert-ブチルと反応させて、請求項2に記載の式(2)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンを得、次いで、脱水縮合剤存在下、アミノ基を有する蛍光誘導体又はその塩とを混合し、請求項1に記載の式(1)で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体を得、次いで、脱保護反応に供することを特徴とする、式(3)

(式中、R及びRは、同一又は相異なり、ヒドロキシル基又は蛍光基を表し、R及びRの両方がヒドロキシル基であるものを除く。R1とR2の両方が蛍光基である場合、その蛍光基の構造は同一である。)
で示されるグルタチオン蛍光誘導体の製造方法。
【請求項4】
上記アミノ基を有する蛍光誘導体又はその塩が、式(4)

(式中、x,y,zは、整数を表し、x及びzは1〜20, yは0〜20のいずれかである。Rは、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノスルホニル基又はスルホン酸基を表す。)
である請求項2記載のN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオン蛍光誘導体の製造方法または請求項3記載のグルタチオン蛍光誘導体の製造方法。
【請求項5】
グルタチオンをアルカリ存在下、二炭酸ジ-tert-ブチルと反応させることを特徴とする式(2)

で示されるN,S-ジ-tert-ブトキシカルボニルグルタチオンの製造方法。