説明

NK細胞の増殖に対する効果を有する医薬組成物及びそれを使用する方法

本発明はNK細胞の増殖に対する効果を有する医薬組成物、NK細胞の増殖を特異的に刺激するための方法及び例えば黒色腫、肝癌又は肺腺癌の抗腫瘍予防、抗腫瘍寛解及び抗腫瘍治療用並びに抗微生物予防、抗微生物寛解及び抗微生物治療用の薬物の製造におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NK細胞の増殖に対する効果を有する医薬組成物、NK細胞の増殖を特異的に刺激するための方法及び例えば、黒色腫、肝癌、又は肺腺腫の抗腫瘍予防、抗腫瘍寛解及び抗腫瘍治療用並びに抗微生物予防、抗微生物寛解及び抗微生物治療用の薬物の製造における該医薬組成物の使用に関する。
【0002】
NK細胞の細胞傷害性の機構のいくつかは前々から知られている。NK細胞はCD16分子を発現し、このCD16分子はIgG分子のFc部分に対するアフイニティーの低い受容体である。かくして、NK細胞は、標的細胞上の構造を特異的に認識する抗体のFc部分の認識により抗体で被覆された標的を認識しそして殺す。
【0003】
NK細胞はいわゆるキラー抑制受容体(Killer Inhibitory Receptors)(KIR)も発現し、このキラー抑制受容体はMHCクラスI分子を特異的に認識しそしてNK細胞における細胞溶解経路の活性化を抑制する。かくしてMHCクラスIポジティブ標的はNK細胞溶解から或るレベルまで保護される。
【0004】
それにもかかわらず、MHCクラスIポジティブ標的を発現しないいくらかの標的は、NK細胞により殺されない。これは、CD16分子又はKIR分子とは別の活性な機構がNK細胞を活性化することができることを示唆した。
【0005】
いくつかのNK特異的受容体はNK細胞の活性化における重要な役割を果たすことが確かめられた。
【0006】
かくして、NKp46は、自然の細胞傷害性をトリガーすることに関与する活性な受容体として開示された。更に最近では、NK細胞媒介による標的細胞の認識及び死滅に関与する他のトリガー受容体もまた開示された。かくして、Moretta等はSDS PAGEに基づく約30kDの受容体を開示しており、これはNKp30と命名された(US patent application s.n.09/440514の分割US patent application s.n.10/036444)。
【0007】
これらの受容体に特異的な抗体は、それらのFc部分によりFc受容体ポジティブ細胞に被覆されるとき、リディレクテッドキリングアッセイ(redirected killing assays)として知られた試験におけるNK細胞認識及び細胞傷害性をトリガーする。
【0008】
NKp46又はNKp30に対して特異的なFab’2又はIgMは感受性細胞に対するNK細胞の殺能力(killing capability)の大部分を阻止するので、多数のNK感受性標的はこれらの受容体の1つを介して死滅することが証明された。これは、これらの受容体の分子構造はまだ開示されていないけれども、NKp46及び/又はNKp30に対する特異的リガンドが感受性細胞上に存在することを示唆する。
【0009】
NKp30及びNKp46と会合した形質導入エレメントはFCeRIg及びゼータホモ二量体である。
【0010】
NKp30及びNKp46を認識する抗体は、NK細胞によるリンホカインの産生を誘発することができ及び/又はリディレクテッドキリングアッセイにおけるNK細胞の細胞障害性を誘発することができることは以前に証明された。
【0011】
本発明者は、抗NCR(NK細胞受容体)抗体は、サイトカインと共に使用されるとき、新鮮なヒトPBMCからのNK細胞の特異的増殖を誘発することができることをここに証明する。興味深いことに、CD16は同じ形質導入エレメント(ゼータホモ二量体及びFceRIガンマ)を共有するけれども、可溶性抗CD16抗体の添加はNK細胞集団のいかなる特異的増加も支援しなかった。
【0012】
更に、NKp30及びNKp46はNK細胞に厳密に制限されるので、この証明は特異的NK細胞増殖プロトコールの基礎を与える。
【0013】
かくして、本発明の目的は、特に、NK細胞増殖に対する刺激効果を有する医薬組成物を提供することである。本発明の他の目的は、このような医薬組成物を使用することによりNK細胞の増殖を特異的に刺激するための方法を提供することである。
【0014】
本発明は、例えば、黒色腫、肝癌、又は肺腺腫の予防、寛解及び治療用並びに抗微生物予防、抗微生物寛解及び抗微生物治療用の薬物の製造におけるこのような医薬組成物の使用にも関する。
【0015】
本発明の医薬組成物は、有効量の、抗NCR抗体、例えば、抗NKp30抗体もしくは抗NKp46抗体もしくはその両方を含む群から選ばれる少なくとも1種の抗体又はその免疫反応性断片並びにインターロイキン、例えば、IL2、IL12、IL15、IL21又はその組み合わせを含む群から選ばれるサイトカインを、薬学的に許容されうる担体と共に含み、該抗体及びサイトカインは対象に対して一緒に又は別々に投与される。特定の態様では、サイトカインはIL2、IL15又はその両方である。該医薬組成物は該サイトカインをコードする発現ベクターを含むことができる。該ベクターはウイルスベクター及びプラスミドベクターであることができる。あるいは、該サイトカインを投与する代わりに、該サイトカインのin vivo産生を誘発させることができる。
【0016】
好ましい態様では、抗NKp30抗体及び/又は抗NKp46抗体をIL2と混合して使用する。
【0017】
該組成物において、抗NKp30抗体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又はその免疫原性断片及び配列番号5よりなる群から選ばれるポリペプチドに特異的に結合する単離された抗体又はその抗原結合性断片である。
【0018】
配列番号1はNK細胞及び特に成熟NK細胞により選択的に発現されるヒトNKp30 190aaポリペプチド(SDS−PAGEに基づいて約30kD)に関し;配列番号2はヒトNKp30受容体の細胞外領域に関し;配列番号3はヒトNKp30受容体の膜貫通領域に関し;配列番号4はヒトNKp30受容体の細胞質尾部(cytoplasmic tail)に関し;配列番号5は配列番号1から誘導された15aa免疫原性ペプチドに関する。
【0019】
該組成物において、「抗NKp46抗体」はNKp46に対するそれぞれ単離された抗体を指す。
【0020】
好ましい抗体は、配列番号1を有するポリペプチドに特異的に結合する。
【0021】
該組成物の抗NKp30抗体及び/又は抗NKp46抗体は、有利には、モノクローナル抗体、アフイニティー抗体、キメラ化抗体又はヒト化抗体であり、そして、更に好ましくは、ヒト化マウスモノクローナル抗体であるか又はヒト起源の抗体である。
【0022】
更に特に好ましい抗NKp30モノクローナル抗体はハイブリドーマ株I−2576により産生される。
【0023】
免疫反応性抗体断片を含む医薬組成物において、該断片は本質的にFab、F(ab’)、Fv断片及びCDRグラフトヒト化抗体断片(CDR grafted humanized antibody fragments)である。
【0024】
本発明のヒト化抗体は、特に、本発明に従う医薬組成物をヒトに投与することを意図する場合には、所望に応じてヒトから誘導することができることに当業者は留意するであろう。「抗体免疫反応性断片」とは、本明細書では注目すべきことに抗原結合部位を含むいかなる抗体断片も意味する。かくして、このような断片は、タンパク質分解酵素、例えば、ペプシン又はパパインによる上記抗体の酵素消化により得られるF(ab’)断片及び当業者により知られているとおりヒンジ領域に位置したメルカプト基の還元によりそれから誘導されたFab断片を含む。免疫反応性断片は、その配列が関心のある抗体のCDR領域を含む組換え単一鎖又は二量体ポリペプチド(recombinant single chain or dimeric polypeptides)も含むことができる。単離されたCDR領域自体も単離された免疫反応性断片の定義の範囲内に包含される。
【0025】
前記医薬組成物は、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内又は皮下注射、鼻腔内経路及び外科経路(chirurgical route)を含む種々の経路により投与することができる。所望の投与経路に依存して、製剤形態(galenic forms)は、例えば、錠剤、粉末剤、ペースト剤、パッチ剤(patches)、顆粒剤、微小顆粒剤(microgranules)、ナノ粒子剤(nanoparticles)、コロイド溶液剤、水性溶液剤、注射溶液剤、噴霧剤及びリポソーム剤である。ガレヌス剤形は遅延放出形態及び/又は制御された放出形態に相当することもできる。
【0026】
本発明の医薬組成物に含まれる「薬学的に許容されうる賦形剤」とは、本明細書では、その溶解性及び/又は化学的性質及び/又は製剤特性(galenic properties)が所望の投与経路及び患っている(ailed)効率レベルに適合している賦形剤を意味する。このような賦形剤は食塩水溶液又はデキストロース溶液を含むことができる。本発明に従う医薬組成物は、いかなる適当な緩衝剤及び/又は安定化化合物も更に含むことができる。
【0027】
一般的に言えば、本発明の医薬組成物はNK細胞により制御され易い病理に有用である。多数のがん、即ち、黒色腫、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肝癌、肺腺癌、神経芽細胞腫等が、NK細胞溶解に感受性であることが示された。ウイルス感染細胞、例えば、CMV、EBV、HIV、HCV等もNK細胞溶解に感受性である。
【0028】
本発明の医薬組成物は、例えば、黒色腫、肝癌又は肺腺癌の抗腫瘍予防、抗腫瘍寛解、抗腫瘍治療のため及び抗微生物予防、抗微生物寛解及び抗微生物治療のために特に有用である。
【0029】
投与量は処置されるべき患者の状態に依存して選ばれる。
【0030】
本発明の医薬組成物が毎日の皮下注射用に使用される場合には、有効用量は、典型的には、抗NCR抗体が1ng〜100mg/kg(体重)の範囲内にありそして典型的にはサイトカインが百万単位/平方メートル/日より低い範囲内にある。実際に、NK細胞の特異的増殖を達成するのにこのような本発明のin vivo医薬組成物において使用されるべき抗NCR抗体の量は、使用される特定の抗体(アフイニティー抗体、キメラ化抗体又はヒト化抗体)に依存することは注目すべきである。抗体は、好ましくは、NK細胞の枯渇又は毒性を誘発することなく、刺激のための有効な濃度を得るように使用されるべきである。
【0031】
有利には、前記インターロイキンは、IL2でありそして百万単位/mより少ない一日量で5〜10日間皮下注射される。
【0032】
本発明は、NK細胞を有効量の上記した医薬組成物と接触させることを含むNK細胞の増殖を刺激するための方法にも関する。
【0033】
有利には、本発明の方法は、抗NCR抗体、例えば、抗NKp30抗体もしくは抗NKp46抗体もしくはその両方を含む群から選ばれる有効量の少なくとも1種の抗体又はその免疫反応性断片の1回以上の注射、及びインターロイキン、例えば、IL2(Research Diagnostics,NJ,RDI−202)、IL12(Research Diagnostics、NJ,DI−212)、IL15(Research Diagnostics,NJ,RDI−215)、IL21(Asano et al,FEBS Lett.2002;528:70−6)又はそれらの組み合わせを含む群から選ばれるサイトカインの反復注射を5〜10日間行い、該サイトカインを抗体の最初の注射と同じ日に最初に注射することを含む。好ましくは、サイトカインは、IL2、IL15又はその両方である。
【0034】
上記方法は、好ましくは、皮下経路によりサイトカインを1日に1回又は2回注射することを含む。
【0035】
本発明は、例えば、黒色腫、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肝癌、肺腺癌、神経芽細胞腫の抗腫瘍予防、抗腫瘍寛解及び抗腫瘍治療用並びに微生物予防、微生物寛解及び微生物治療用の薬物の製造における上記医薬組成物の使用にも関する。
【実施例】
【0036】
本発明のこれら及び他の特徴及び利点は、下記の実施例から更に明らかになるであろう。これらの実施例は、説明の目的でのみ与えられており、本発明の範囲を決して制限することを意図するものではない。当業者により意図される替わりの態様は本発明により包含される。
【0037】
1.材料及び方法
材料
.血液:
−最初の実験のために、末梢血(5〜10×7ml EDTAチューブ、Becton Dickinson#367655)を健康なボランチアから採集し(Lab.Hematologie,La Conception)そして2時間以内に処理した。
−更なる実験のために、末梢血サンプルをEtablissment Fracais du Sang(EFS)により提供され、そして24時間以内に処理した(450ml±10%の血液を採集するための凝固防止剤CPD63mlを含有するバッグに血液を採集する;Baxter#R8443)。
【0038】
.PBMC及び初代細胞培養
−50mlのポリプロピレン円錐形チューブ(Falcon,#352070)
−96ウエルプレート、U字形(Falcon,#357525)
−RPMI1640培地(Invitrogen,#31870074)
−ウシ胎児血清(Invitrogen,#10270−106,Lot#40A0285K)熱で不活性化された
−ペニシリン−ストレプトマイシン(5000u/ml,Invitrogen,#15070071)
−ピルビン酸ナトリウム(100mM,Invitrogen,#11360088)
−L−グルタミン200mM(100X,Invitrogen,#25030123)
−Ficoll−Paque(登録商標)PLUS(Amersham Pharmacia Biotech,#17−1440−03)
−Trypan Blue0.4%(Invitrogen,#15250061)
−D−PBS(1X)(Invitrogen,#14190169
−血球計算盤(Neubauer)
−ヒト組換えIL−15(25μg,R&D,#219−IL−025)。PBS/BSA0.1%中のIL−15のストック溶液(10μg/ml)を調製し、部分標本化し(aliquoted)そして−20℃で貯蔵した。
−ヒト組換えIL−2(Proleukin,18×10IU,バッチA199606/2,Chiron)。PBS/BSA0.2%中のIL−2のストック溶液(2×10及び2×10u/ml)を調製し、部分標本化しそして−20℃で貯蔵した。
−モノクローナル抗体:
−3G8(抗CD16)、5mg/ml、Beckman Coulter Immunotech
−N901(抗CD56)、5mg/ml、Beckman Coulter Immunotech
−Bab281(抗NKp46)、2.8mg/ml(マウス腹水からのタンパク質ASepharose(登録商標)上で精製されたmAb)
−AZ20(抗NKp30)、1mg/ml及び1.2mg/ml(マウス腹水からのタンパク質ASepharose上で精製されたmAb)。
【0039】
細胞分裂分析(CFSE標識化)
5−(及び6)−カルボキシテトラメチルローダミン、スクシンイミジルエステル(5(6)−TAMRA、SE)混合異性体(CFSE、25mg;Molecular Probe、C−1157)
−DMSOhybri−Max(登録商標)(Sigma#D2650)
−DMSO中のCFSE(10mM)のストック溶液を、Molecular Probesにより与えられた技術データシートに記載のとおりにして、調製し、部分標本化しそして−20℃で貯蔵した。
【0040】
.染色
−96ウエルプレート、U字形(Greiner#650180)
−1.2mlマイクロタイターチューブ(QSP、#845−F)
−5mlチューブ(12×75PRO、CML、#TH5−12PRO)
−染色緩衝液:PBS/0.2%BSA/0.02%アジ化ナトリウム(D−PBS(10X)、Invitrogen #14200083;ウシアルブミン(Albumin Bovin),画分V(FractionV)、Invitrogen#;アジ化ナトリウム、Prolabo#27967.150)
−マウス血清NMRI(Janvier)
−この研究で使用された商業的に入手可能なAb(表1)
【0041】
.フローサイトメトリー
サンプルをXL/MCLサイトメーター(Beckman Coulter)に流した。EXPO(登録商標)32v1.2ソフトウエア(Beckman Coulter)により取り込み(acquisition)及び分析を行った。
方法
.PBMCの調製
血液サンプルをRPMIで容積/容積希釈しそして古典的フィコール法を使用して処理した。
PBMCを50mlの円錐形チューブに集め、RPMI、2%FCSで4回洗浄し、トリパンブルーで計数した。細胞を、細胞培養の開始のために完全培地(RPMI1640、FCS10%、PS(50u/ml)、Glu 2mM、Na.Pyr1mM)中に2*10EE6細胞/mlで再懸濁させ又はフローサイトメトリー実験のために染色緩衝液(PBS、0.2%BSA、0.02%アジ化ナトリウム)中に10EE7細胞/mlで再懸濁させた。
【0042】
CFSE標識化:
−PBMC(10細胞/ml)をCFSE(5〜10μM)を含有するRPMI/FCS2%中で37℃(水浴)で10〜25分間インキュベーションした。
−細胞を大容量の冷(4℃)RPMI/FCS2%で3回(10分、1200RPM)洗浄した。
−PBMCを完全培地中に再懸濁させ(2×10細胞/ml)そして細胞培養の準備を整えた。
【0043】
その後の技術の各々について、本発明者は下記の工程を推奨する。
.初代細胞培養
0日目
−PBMC(2×10個/ml)を完全培地(RPMI1640、FCS10%、PS(50u/ml)、Glu2mM、Na.Pyr.1mM)中に再懸濁させる。
−完全培地を使用して2Xインターロイキンストック(IL−2、IL−15及びIL−2+IL−15)を調製する。
−実験に依存して、IL−2を50又は400u/ml最終で使用した。IL−15を常に10ng/ml最終で使用した。
−完全培地を使用して4X抗体ストックを調製する。
−培養をセットアップする:50μl 4XmAb+100μl 2Xインターロイキン+50μl PBMC(10個細胞/ウエル)
−完全培地により200μlとなるように満たす。
3日目:
−培地を変える:100μlを除去しそして1Xインターロイキンを含有する完全培地100μlを加える。
6日目:
培地を変える:100μlを除去しそして50u/mlIL−2(±IL−15 10ng/ml)又は400u/mlIL−2(±IL−15 10ng/ml)を含有する完全培地100μlを加える。
9日目:
−細胞を1/2に分けそして培地を加える(6日目)
13、16及び20日目:
細胞増殖に依存して6日目又は9日目と同じ
【0044】
.染色
この研究で使用された容積、希釈率及びAb濃度を表1に示す。
−培養したPBMCの染色のために、1ポイントの染色のために1又は2ウエルを使用することができる。コントロールサンプルをインターロイキンで刺激された細胞で調製した。
−%NK細胞(CD56CD3細胞)を0日目、6日目、13日目、16日目及び20日目に検査しそしてある実験については3日目、9日目及び35日目に検査した。
−表1に列挙された抗体による0日目及び17日目における(ある実験について)NK細胞及びTリンパ腫コンパートメントの特徴付け
【0045】
mAbを分注しそして染色緩衝液により容積を50μlに調節する。
細胞懸濁液50μlを加える。
氷上で30分インキュベーションする。
染色緩衝液で2回洗浄する。
細胞を染色緩衝液150μl中に再懸濁させそして染色緩衝液150μlを入れたRT15チューブに移す。
フローサイトメーターでの獲得まで冷凍して保つ。
【0046】
.サイトメトリー
獲得
−「セットアップモード」においてアイソタイプコントロール混合物を流しそしてセットアップする:FSC、SSC、閾値、FL1、FL2、FL3及びFL4パラメーター。
.そのFSC及びSSC特徴(FSC、線状、ゲイン:2、ボルト:400及びSSC、線状、ゲイン:20、ボルト:400;閾値:FSC、150)により同定されたリンパ腫に分析を集中させ;これらのパラメーターのボルトはこの研究の各実験間で僅かに異なっていてもよい(培養された細胞のFSC及びSSCは通常単離されたばかりの細胞のこれらより高い)。
.リンパ腫ゲート=Lyを描き(draw)(Lyにおいて少なくとも10000のイベントを取り込むが、すべてのイベントが集められる)。
−実験で使用した各蛍光プローブのためのボルトをセットアップし(ほぼ、FL1=800;FL2=800;FL3=950及びFL4=1000);それらは各実験の間で僅かに異なっていてもよい。
−単一の染色サンプル(実験で使用したmAb又は抗CD8)を使用してコンペンセーションをセットアップする:
.最初に、FL1−mAbサンプルを流し、そして最初のディケード(FL2ヒストグラム及びFL1/FL2ドットプロットにおいて<0.5%)にFL1ネガティブ細胞及びFL1ポジティブ細胞及びすべてのFL2ネガティブ細胞について同じFL2−MFIを有するようにFL2−FL1(=15〜20)をセットアップし、次いで丁度FL2−FL1で述べたとおりFL3−FL1及びFL4−FL1をセットアップする。値を書き込みそしてコンペンセーションをクリアーする。
−各蛍光プローブについてこの工程を繰り返す。
−すべての値をコンペンセーションマトリックスにコピーする。
−アイソタイプコントロールサンプルを取り込み、次いで実験のために調製したすべてのサンプルを取り込む(「96ウエルテーブル」上の取り込まれたサンプルに相当するlmd数を書き込む)。
−各サンプル(lmd)を記録し、次いで呼び出されたホルダーに移す:年、月、日(例えば、20020126)。このホルダーはHC/PAホルダー内に位置している。
−CFSEサンプルの取り込み
.FL1コンペンセーションはCFSE標識された細胞のみを使用してなされなければならない。
.最初に、アイソタイプコントロールサンプルを使用してFL1、FL2...のためのボルトをセットアップし、次いでCFSEサンプルを流す。標識化は、すべての細胞がCFSEについてポジティブいであり、染色が均一でありそしてピークチャンネル(pic channel)がFL1ヒストグラムの最後のディケードの中央に位置している(FL1ボルト低下させることなく)とき良好である。
.すべてのコンペンセーションをセットアップする(それらは通常FL1−mAB染色細胞で得られるコンペンセーションよりも高い)。
【0047】
分析
−そのFSC及びSSC特徴(ドットプロットFSC/SSC)により同定されたリンパ腫に分析を集中した。リンパ腫ゲート(Ly)を描く。
四分区間領域(quadrant regions)(ドットプロットについて)及びマーカー領域(ヒストグラムについて)を、アイソタイプコントロールサンプルを使用してセットした(すべての蛍光について:%FLX細胞<0.5%)。
−T細胞又はNK細胞コンパートメントの分析:
T細胞=CD3リンパ腫は、Lyでゲーティングされた抗CD3染色ヒストグラムのポジティブ細胞として定義された。
NK細胞=CD3CD56リンパ腫は、CD3/CD56ドットプロットにおけるCD3CD56ゲート(四分区間の上左部)に相当する。
CFSE染色、CD25発現(%)、NKR発現(%)及びCD56密度(MFI)を分析した。
−細胞計数及び冷凍
いくつかの培養物を細胞数及び細胞生存率(トリパンブルー排除)について検査し、次いで実験の終わりに冷凍した(20日又は35日)。
【0048】
2、5及び6欄については供与者の注釈を参照されたい。
【0049】
【表1】



【0050】
実施例1抗NCR抗体+IL2はNK細胞の特異的細胞増殖を促進することができる
−抗NCR抗体及びIL2による刺激後のNK細胞の相対的増幅
1人の供与者からのPBMCを単離しそしてIL2とCD16、NKp30、NKp46又はCD56mAbsとの組み合わせに対するそれらのin vitro応答について試験した。細胞を、飽和量の抗体の存在下に、材料及び方法において説明した如くして処理した。
【0051】
細胞をフローサイトメトリーにより監視しそしてCD56+/CD3−(NK細胞)の相対的百分率を決定した。
結果を図1に示す。
【0052】
この供与者では、抗NCR抗体の存在下に10日目に培養物中のNK細胞の増加(enrichment)があったが、これに対して、CD16又はCD56はIL2単独に比べて有意な増加を誘発しなかった。
【0053】
この増加が供与者に関連しているかいないかを評価するために、PBMCを4人の健康なボランチアから単離しそしてIL2+NCRに対するモノクローナル抗体の組み合わせに対するそれらのin vitro応答について試験した。
【0054】
細胞を材料及び方法に記載の如くして処理し、そして抗体なしで、又は、飽和量(10μg/ml)の抗NKp30モノクローナル抗体、抗NKp46モノクローナル抗体、抗NKp30及びNKp46のモノクローナル抗体の組み合わせ、抗CD56モノクローナル抗体の存在下に置いた。細胞をフローサイトメトリーにより監視しそしてCD56+/CD3−(NK細胞)の相対的百分率を決定した。
【0055】
結果を図2に示す。
【0056】
試験した4人の健康な供与者については、NK細胞の選択的増加があった。増加は抗NKp30が使用されるとき、NKp46に比較して僅かにより良好である。2つの抗体の組み合わせが最善の増加を与える。
【0057】
これらの2つの研究の結論は、低用量のIL2(50単位/ml)と抗NCR抗体の組み合わせがNK細胞の選択的増加を誘発するということである。
【0058】
この増殖がNK細胞の有効な増殖によるか又は培養物中に存在する他の細胞の選択的死滅によるかどうかを評価するために、PBMCをCFSEで染色し、次いで培養の開始時に洗浄して過剰の染料を取り除いた(材料及び方法参照)。CFSEは細胞に共有結合する安定な蛍光標識である。細胞が分裂すると、最初の染料含有率の約半分が2つの娘細胞に存在する。細胞が再び分裂すると、最初の染料含有率の1/4が4つの娘細胞に存在する等。標識された細胞を培養しそして上記の如き抗NCR抗体及びIL2により刺激した。細胞の染料含有率をフローサイトメトリーにより監視した。
【0059】
1人の代表的供与者で得られた結果を図3に示す。
【0060】
NKp30又はNKp46+IL2共処理は、休止細胞(分裂しない)と同等な蛍光強度を持ったままである細胞の数により示されるIL2単独又はIL2+関係のないmAb(CD56)よりも良好なNK細胞の増殖を誘発する:それぞれIL2及びIL2+CD56について50%及び40%、並びにそれぞれNKp30+IL2及びNKp46+IL2について5%及び11%。
【0061】
NKp30で最善の増殖が得られ、その場合に6日目の培養物中の細胞の80%より多くが5回より多くの分裂を受けた。
【0062】
結論すると、抗NCR(NKp30、NKp46又は両方)+IL2共処理は、in vitroでPBMCからのNK細胞の選択的増殖を誘発する。
【0063】
実施例2.抗NCR+IL15もNK細胞の特異的増殖を誘発する
抗体による刺激の後、細胞の増殖を持続させるのにサイトカインの存在が極めて重要である。IL15も1人の供与者に関して細胞の増殖を持続させることができるかどうかを試験するための実験を行った。
【0064】
細胞をNKp30で刺激しそしてIL2、IL15又は両方の存在下に培養した。
【0065】
結果を図4に示す。
【0066】
この供与者に関しては、IL15はNK細胞の増殖を持続させることができた。
我々は、IL2及びIL15の組み合わせもNK細胞の増殖を持続させることを確かめた。他の供与者に関する他の実験では、IL2及びIL15の組み合わせは2つのサイトカイン単独よりも僅かに良好でありうることが観察された。
【0067】
実施例3.増殖の誘発のための抗NCR抗体の滴定曲線
増殖を得るのに必要な抗体の量を評価するために、抗NKp30抗体を使用して3人の独立した供与者に関して滴定曲線を確立した。結果を図5に示す。この実験は、抗体の効果が約1μg/mlで高原効果により飽和可能であることを示す。最大効果の50%を得るための用量はこの実験では0.1μg/mlより少ない。
【0068】
曲線の特徴は使用した特定の抗体及び特にそのアフイニティーに依存することができることに留意されるべきである。ヒト化抗NCR抗体の使用も種々の滴定曲線を表示することができる。
【0069】
実施例4.抗NCR抗体+IL2in vivoの使用の条件
抗NCR抗体(1種又は複数種)を最初にin vitroで試験し、次いで適切な動物モデルにおいて試験した。
【0070】
抗NCR+IL2はin vitroでCD25を誘発し(図6)、かくして大部分のNK細胞においてIL2に対する高いアフイニティーの受容体を誘発することに留意されるべきである。in vitroでは、低用量、例えば50単位/mlはNK細胞の増殖を持続させるのに十分である。かくして、低用量IL2(典型的には、毎日の皮下注射で百万単位/平方メートル/日より低い)は増殖を持続させるのに十分であることを予測することができる。in vitroでは、CD25は9〜10日後ダウンレギュレーションされ、その結果低用量IL2処理の長さは10日までであることが予想される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】1人の健康な供与者からの末梢血単核細胞(PBMC)を、10又は30μg/mlで、指示された抗体(AZ20=抗NKp30、Bab281=抗NKp46)と共に、6日目までは50単位/ml IL2の存在下にそして6〜10日目では50単位/ml(黒色バー)又は400単位/ml(緑色バー)の存在下に培養した。NK細胞の%は10日目にフローサイトメトリーにより決定した。
【図2】開始時に10μg/mlの指示された抗体及び培養の間に50単位/ml IL2を使用する、4人の健康な供与者からの全未分別PBMCからのNKの相対的倍比増加(relative fold increase)(0日目における%NK細胞で割った指示された日における%NK細胞)。相対的倍比増加の平均+/−標準偏差を表す。
【図3】NK細胞のカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)標識化(FL1、対数スケール、X軸)(指示された処理による培養の6日後のCD56+/CD3−細胞に対してゲートをかけた)
【図4】IL−2又はIL−15と組み合わせたAZ20はNK細胞増殖を誘発する。単離されたばかりのPBMCをインターロイキンの種々の条件下に(0〜6日目は、濃度は下の濃度であり;6〜13日はインターロイキンの濃度は上の濃度である)そして抗CD56mAb(N901、IgG1、10μg/ml)又は抗NKp30mAb(AZ20、IgG1、10μg/ml)を使用して培養した。13日目に細胞を集めそしてCD56CD3リンパ腫として定義されたNK細胞の%についてフローサイトメトリーにより分析した。
【図5】3人の供与者(A、B、C)から単離されたばかりのPBMCを、IL−2(0〜6日目は50u/ml及び6日目からは400u/ml)及びIL−15(10ng/ml)を含有するRPMI1640 10%FCS中の指示された量のAZ20と共に培養した。13日目に細胞を集め、生存率及び計数をトリパンブルーにより評価しそして%CD56CDリンパ腫をフローサイトメトリーにより評価した。
【図6】指示された刺激(IL2(50U/ml)、mAbs10μg/mlによる2人の健康な供与者(材料及び方法参照)のPBMCの刺激の6日後に得られたNK細胞のCD25誘発。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の、抗NCR抗体、例えば、抗NKp30抗体もしくは抗NKp46抗体もしくはその両方を含む群から選ばれる少なくとも1種の抗体又はその免疫反応性断片、及びインターロイキン、例えば、IL2、IL12、IL15、IL21又はその組み合わせを含む群から選ばれるサイトカインを、薬学的に許容されうる担体と共に含み、該抗体及びサイトカインは対象に対して一緒に投与されるか又は別々に投与される、NK細胞の増殖に対する刺激効果を有する医薬組成物。
【請求項2】
該抗NKp30抗体及び/又は抗NKp46抗体をIL2と混合して使用する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
該抗NKp30抗体が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又はその免疫原性断片及び配列番号5よりなる群から選ばれるポリペプチドに特異的に結合する単離された抗体又はその抗原結合性断片である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
該抗体が配列番号1を有するポリペプチドに特異的に結合する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
該抗NKp30抗体及び/又は抗NKp46抗体が、モノクローナル抗体、アフイニティー抗体、キメラ化抗体又はヒト化抗体であり、そして、更に好ましくは、ヒト化マウスモノクローナル抗体であるか又はヒト起源のものである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
該抗NKp30モノクローナル抗体がハイブリドーマ株I−2576により産生される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
実質的にFab、F(ab’)、Fv断片及びCDRグラフトされたヒト化モノクローナル抗体である抗体断片を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内又は皮下注射、鼻腔内経路及び外科経路を含む種々の経路により投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
錠剤、粉末剤、ペースト剤、パッチ剤、顆粒剤、微小顆粒剤、ナノ粒子剤、コロイド溶液剤、水性溶液剤、注射可能溶液剤、噴霧剤及びリポソーム剤の形態下にある、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
例えば、黒色腫、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肝癌、肺腺癌、神経芽細胞腫の予防、寛解、治療のため並びに抗微生物予防、抗微生物寛解及び抗微生物治療のための、毎日の皮下注射用に使用されるとき、1ng〜100mg/kg(体重)の抗体及び百万単位/平方メートル/日より少ないサイトカインを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
NK細胞を有効量の請求項1に記載の医薬組成物と接触させることを含む、NK細胞の増殖を刺激するための方法。
【請求項12】
有効量の、抗NCR抗体、例えば、抗NKp30抗体もしくは抗NKp46抗体もしくはその両方を含む群から選ばれる少なくとも1種の抗体又はその免疫反応性断片の1回以上の注射、及びインターロイキン、例えば、IL2、IL12、IL15、IL21又はそれらの組み合わせを含む群から選ばれるサイトカインの反復注射を5〜10日間行い、該サイトカインを抗体の最初の注射と同じ日に最初に注射することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
皮下経路によりサイトカインを1日に1回又は2回注射することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該インターロイキンがIL2でありそして該インターロイキンを百万単位/mより低い一日量で5〜10日間皮下注射する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
例えば、黒色腫、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肝癌、肺腺癌、神経芽細胞腫の予防、寛解及び治療用並びに抗微生物防止、抗微生物寛解及び抗微生物治療用の薬物の製造における請求項1に記載の医薬組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−514024(P2006−514024A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561407(P2004−561407)
【出願日】平成15年12月22日(2003.12.22)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014716
【国際公開番号】WO2004/056392
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(504022515)イネイト・ファーマ (5)
【氏名又は名称原語表記】INNATE PHARMA
【Fターム(参考)】