説明

NMRにおけるマジック角精密調整方法及び装置

【課題】本発明はNMRにおけるマジック角精密調整方法及び装置に関し、マジック角の調整を手作業ではなくシムコイル(鞍型コイル)のように電流の数値によって行なうことができるNMRにおけるマジック角精密調整方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】試料のNMR検出を行なう固体NMRプローブにおいて、外部磁場B0の方向をZ軸とし、該Z軸に対して角度θになるように配置され、その中に試料が入った試料管と、前記Z軸に対して試料管のZ軸に対する垂直平面へ投影した方向をY軸とし、該Y軸方向に均一磁場Hを発生させるように配置された均一磁場コイルと、を有し、前記均一磁場コイルに流す電流を制御することによって、均一磁場Hを発生させ、前記外部磁場B0と前記均一磁場Hとのベクトル合成を求め、該ベクトル合成により求まった角度を新たな外部磁場B0’としてNMR検出を行なうように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNMRにおけるマジック角精密調整方法及び装置に関し、更に詳しくは核磁気共鳴分光法を用いた固体分解能NMRシステムに用いて好適なNMRにおけるマジック角精密調整方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴装置(NMR)は、強磁界中に置かれた試料に高周波を印加すると、共鳴現象が発生して、その共鳴周波数による検出信号の低下を検出することにより、試料中の原子を検出する装置である。NMRにおいて、固体の試料は、分子運動が拘束されているため、化学シフトの異方性(電子雲によるシールドの効果)や核スピン間の静的な双極子相互作用が平均化されないで残る。
【0003】
そのため、固体NMRでは、得られるスペクトルの線幅が広くなり、解析が難しくなってしまう。そこで、高分解能固体NMRでは、MAS(Magic Angle Spinning法:マジック角度試料回転法)により、外部磁場に対して固体試料を約54.74°(マジック角:3cos^2θ−1=0となる角度θ)だけ傾いた軸を中心に3KHz〜20KHzで高速回転させ、電子雲の平均化により上記異方性や双極子相互作用を消去する方法が良く知られている。
【0004】
即ち、例えば図8に示すように、MASを利用したNMRは、静磁場を生じるコイル1のボア2内にプローブ3を挿入して、試料管4内に入れた固体試料をその周囲に配置した励起コイル6によりパルス励起し、その励起に基づいてコイル6から得られるFID信号をフーリエ変換してスペクトルを求めるものであるが、試料管4は、図9に示すように、外部磁場の方向Zに対して約54.74°のマジック角をなす軸の回りで高速回転させられるものである。
【0005】
通常、試料管4は、ステータ管5の中に挿入され、エアーベアリングを構成するその両端のガス供給孔7を通じて高圧ガスを供給することにより、ステータ管5内でマジック角を保ったまま回転自在に支持される。一方、試料管4の頂部にはタービン8が取り付けられ、また、ステータ管5の対応する部分には、タービン8を回転させるようにガス吹き出し孔9が設けられ、この吹き出し孔9より同様に高圧ガスを供給することにより、試料管4が高速回転させられる。
【0006】
図10はマジック角の調整機構を示す図である。図9と同一のものは、同一の符号を付して示す。4は試料を入れる試料管で、この試料管4をステータ管5に入れ、圧縮空気乃至は窒素ガスのような媒体を用い、試料管4を高速に回転させる。10はステータ管5の角度を可変させるための、例えば歯車等の可動機構である。11は可動機構10に接続され、可動機構10を外部から操作するための例えばシャフトである。
【0007】
12はマジック角調整コントローラで、内部のモータを駆動しフレキシブルワイヤ13を介してシャフト11を可動させている。フレキシブルワイヤ13とシャフト11との間にはカップリング14が用意され、両者を接続している。このカップリング14は、単なる接合機能だけでもよいが、ウォームギア等で構成した減速機構を持たすことにより、回転精度を高めることも可能である。
【0008】
15はマジック角調整コントローラ12に命令を送る制御部である。制御部15としてスイッチボックスのようなものと考えると、オペレータはマジック角調整の基準物質KBrを試料管4に入れ、79Br核のスペクトルを実際に観測しながら、スイッチボックスから遠隔操作によりプローブ3(図9参照)のマジック角調整を行ない、KBrのスピニングサイドバンドが最大になるように調整を行なう(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2925373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
マジック角θの設定は、汎用的な300〜600MHz磁場における固体高分解能
13C−NMRなどでは、調製用試料(KBr)で調整できる範囲は±0.5°とされる。
13Cなどのスピン1/2の核種では、内部相互作用(化学シフト相互作用の異方性)が比較的小さい(〜数KHz)ため、この程度のラフな調整範囲で十分であり、簡素な機械設計と手作業によってルーチンワークに耐えることができる。
【0011】
ところが、近年、その応用例が増加している。四極子核(170,27Al等)の固体高分解能NMRでは、四極子相互作用が大きく(数100KHz〜数MHz)、マジック角の設定誤差によるスペクトル幅の増大が無視できず、上に挙げたよりも一桁、二桁以下の誤差範囲を要求される。過去に出願人が実施した天然存在比の重水素MAS−NMRでは、±0.03°の偏差まで合わせ込む必要があった。
【0012】
STMASのような方法論では、マジック角の設定に対しては厳しい誤差範囲(0.004°)が要求された例もある。これを既存の角度調整機構によって手作業でルーチン的に達成することは非常な困難を伴う。マジック角の精度を下げるような機械的操作(プローブの脱着等)を行なうと、実験の再現性に影響するためである。そこで、機械的な動作精度に頼らず、簡便かつ精密にマジック角を制御する手法が要望されている。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、マジック角の調整を手作業ではなくシムコイルのように電流の数値によって行なうことができるNMRにおけるマジック角精密調整方法及び装置を提供することを目的としている。更に、クライオコイルMASや、DNP−固体NMRなどの真空・冷却システムや極低温流体システムを含む固体高分解能NMRプローブにおいて、試料管角度の機械的な精密調整によって真空断熱層への影響が懸念されるシステムに対して、機械的操作によらないマジック角精密制御方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は以下のような構成を採っている。
(1)請求項1記載の発明は、試料のNMR検出を行なう固体NMRプローブにおいて、外部磁場B0の方向をZ軸とし、該Z軸に対してその中に試料が入った試料管のなす角度をθとした時、試料管のZ軸に対する垂直平面へ投影した方向をY軸とし、Y軸方向に均一磁場を作るための均一磁場コイルを配置し、該均一磁場コイルに流す電流を制御することによって、均一磁場Hを発生させ、前記外部磁場B0と前記均一磁場Hとのベクトル合成を求め、
該ベクトル合成により求まった角度を新たな外部磁場B0’としてNMR検出を行なう、ようにしたことを特徴とする。ここで、均一磁場コイルはシムコイルとも呼ばれる。
【0015】
(2)請求項2記載の発明は、試料のNMR検出を行なう固体NMRプローブにおいて、外部磁場B0の方向をZ軸とし、該Z軸に対して角度θになるように配置され、その中に試料が入った試料管と、前記Z軸に対して試料管のZ軸に対する垂直平面へ投影した方向をY軸とし、該Y軸方向に均一磁場Hを発生させるように配置された均一磁場コイルと、を有し、前記均一磁場コイルに流す電流を制御することによって、均一磁場Hを発生させ、前記外部磁場B0と前記均一磁場Hとのベクトル合成を求め、該ベクトル合成により求まった角度を新たな外部磁場B0’としてNMR検出を行なうように構成したことを特徴とする。
【0016】
(3)請求項3記載の発明は、前記均一磁場コイルとして鞍型コイルを用い、該鞍型コイルを複数巻回したことを特徴とする。
(4)請求項4記載の発明は、前記鞍型コイルとして絶縁皮膜付きの銅製の平角線を用い、平角線のアスペクト比が1:4以上、断面積が0.3mm2〜1.5mm2であることを特徴とする。
【0017】
(5)請求項5記載の発明は、前記絶縁皮膜の厚さは30ミクロン以下であることを特徴とする。
(6)請求項6記載の発明は、前記鞍型コイルの直径はワイドボアの場合φ72.0±0.5mm以下、ナローボアの場合はφ46.0±0.5mm以下で、コイルの直径:高さの比は√2:1であることを特徴とする。
【0018】
(7)請求項7記載の発明は、前記試料管のボビンの上部にはラジエータを取り付けるためのネジ穴が切られていることを特徴とする。
(8)請求項8記載の発明は、前記試料管のボビンの円筒外周面には、コイルの形状に合わせた溝が彫られていることを特徴とする。
【0019】
(9)請求項9記載の発明は、前記試料管のボビンの材質はアルミニウム系金属であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下のような効果を奏する。
(1)請求項1記載の発明によれば、均一磁場Hを発生させることにより、外部磁場B0と均一磁場Hのベクトル合成を行なうことで、外部磁場を元の磁場B0より少し傾けたB0’を得ることができ、いままで手作業で行なっていたマジック角の調整を手作業ではなくシムコイルのように電流の数値によって行なうことができるようになる。ここで、シムコイルとは均一磁場Hを発生させるためのコイルであり、詳細は後述する。
【0021】
(2)請求項2記載の発明によれば、均一磁場Hを発生させることにより、外部磁場B0と均一磁場Hのベクトル合成を行なうことで、外部磁場を元の磁場B0より少し傾けたB0’を得ることができ、いままで手作業で行なっていたマジック角の調整を手作業ではなくシムコイルのように電流の数値によって行なうことができるようになる。
【0022】
(3)請求項3記載の発明によれば、均一磁場コイルとして鞍型コイルを用いることで、複数回巻回しても容積が拡大することのない均一磁場コイルを実現することができる。
(4)請求項4記載の発明によれば、鞍型コイルとして絶縁皮膜付きの銅製の平角線を用い、その寸法を所定の寸法にすることで、複数回巻回しても容積が拡大することのない均一磁場コイルを実現することができる。
【0023】
(5)請求項5記載の発明によれば、平角線の絶縁皮膜の厚さを30ミクロン以下とすることで、複数回巻回しても容積が拡大することのない均一磁場コイルを実現することができる。
【0024】
(6)請求項6記載の発明によれば、前記鞍型コイルの寸法として所定の寸法のものを用いることで、理想的な均一磁場コイルを実現することができる。
(7)請求項7記載の発明によれば、試料管のボビンの上部にネジ穴を切ることにより、ラジエータを取り付けることができ、均一磁場コイルに電流が流れることによる発熱を抑制することができる。
【0025】
(8)請求項8記載の発明によれば、試料管のボビンの円筒外周面にコイルの形状に合わせた溝を彫ることにより、均一磁場コイルを該溝にはめ込むことができ、均一磁場コイルをボビンに固定することができる。
【0026】
(9)請求項9記載の発明によれば、ボビンの材質をアルミニウム系金属を用いることで、プローブRF回路に対する外部からの擾乱を防ぎ、NMR信号の分解能に影響を及ぼさず、印加電流によりシムコイル発熱を逃がし、ローレンツ力によるコイル形状の歪みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の要部の構成例を示す図である。
【図2】本発明の動作説明図である。
【図3】本発明の他の動作説明図である。
【図4】鞍型コイルの構成例を示す図である。
【図5】鞍型コイルに流す電流の向きと発生する磁界の関係を示す図である。
【図6】平角線を用いた鞍型コイルの3次元投影図である。
【図7】ボビンの形状を示す図である。
【図8】MASを利用したNMRの概要を示す図である。
【図9】プローブ内の詳細構成例を示す図である。
【図10】マジック角の調整機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の要部の構成例を示す図である。図において、21はその中に試料が入った試料管、B0はZ軸方向に形成された外部磁場である。該外部磁場B0としては、強力な磁場が形成されている。このため、磁場発生コイルに大電流を流す必要がある。この目的のために、超伝導コイルが用いられることがある。該Z軸に対して試料管21は角度θだけ傾けられている。この角度θをマジック角と呼び、約54.74°(3cos^2θ−1=0となる角度θ)である。マジック角は、固体NMR共鳴線における核スピンの異方的内部相互作用に由来する線幅を最小化し、結果的に検出感度を最大化するものとして予め計算により求められた角度である。
【0029】
試料管21のZ軸に対する垂直平面へ投影した方向をY軸としている。22はこのY軸方向に均一磁場Hを発生するために用いる鞍型コイル(サドル型コイル)である。鞍型コイルのことをシムコイルともいう。この鞍型コイルは、安定な均一磁場Hを発生するために平角線が用いられる。平角線は、その断面が正方形又は長方形となった線のことである。鞍型コイル22として平角線を用いることにより、均一な磁場Hを発生することができるようになる。
【0030】
図2は鞍型コイルの構成例を示す図である。この図では、鞍型コイルと寸法を示すパラメータの模式図を示している。左上は鞍型コイルと直交座標系(X,Y,Z)の関係を示している。右上は直交座標系と円筒座標系(R,φ,z)の関係を示している。左下は鞍型コイルをZ軸方向から見た図である。ここで、aは鞍型コイル半径、lは鞍型コイル高さ、αは円弧成分のなす角度である。ターン数は左上図に示す形状を1ターンと定義する。
【0031】
プローブ最外周にボビンを設置し、プローブ本体に固定する。このボビンを型枠として、ヘルムホルツ型の鞍型コイルを設置する。このような構成の鞍型コイルを用いた場合、試料空間付近に作られるY方向磁場Byは次式で与えられる。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、aは鞍型コイル半径、lは高さ、Iは鞍型コイルに流す電流、nはターン数、αは円弧成分の角度、μ0は透磁率である。
ワイドボアプローブの場合、本鞍型コイルの寸法・形状を、a=30mm、l=42.4mm、α=15°、無酸素銅線で、丸線線径=1mm、n=50ターンとした時、0.05°傾けるのに対応するY方向磁場Byは、By=6.19×10-3Tとなり、必要な電流は4.4Aとなる。
【0034】
また、この時、スペクトル分解能に影響する本鞍型コイル内部の任意の位置における該鞍型コイルによって作られるZ方向の磁場成分Bz(R,φ,z)は、ヘルムホルツコイルの円弧成分によって作られるベクトルポテンシャルを考慮すると、次式で与えられる。
【0035】
【数2】

【0036】
これは、上記の寸法・形状のヘルムホルツ型鞍型コイルの場合、試料管中で磁場中心から4.33mmの位置(円筒座標系で(R,φ,z)=(3.53mm,π/2,2.5mm)に相当する位置)において発生する磁場Bzは1.39×10−8Tとなり、Z方向の静磁場成分7Tに比べて1.99×10−3(ppm)に相当する。これは、対応するプロトンの共鳴周波数(300MHz)に対して、0.6Hzのシフトに相当する。この程度なら、少なくとも固体試料の線幅に対する影響は無いとみなすことができる。
【0037】
図3は本発明の動作説明図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。Y軸均一磁場コイル(鞍型コイル)22によって外部磁場B0の1/1000〜1/100程度の磁束密度を持つ均一磁場Hを+Y方向にかける。図4は鞍型コイルに流す電流の向きと発生する磁界の関係を示す図である。(a)に示すように鞍型コイル22に電流δIを流すと均一磁場Hの向きは図に示すように左向き(負方向)に発生し、(b)に示すように鞍型コイルに電流δIを流すと均一磁場Hの向きは図に示すように右向き(正方向)に発生する。
【0038】
+方向に磁界をかけた場合、試料管21内の試料の感じる全外部磁場は、Z方向の外部磁場B0と均一磁場コイル22に電流δIを流して発生するY方向の均一磁場H(δB)のベクトル和となるため、YZ平面上で角度δθだけ傾く。つまり、図の外部磁場B0とY方向への均一磁場H(=δB)のベクトルの合成で求まるB0’が新しい外部磁場となる。
【0039】
同様に、Y軸均一磁場コイル(鞍型コイル)22によって外部磁場B0の1/1000〜1/100程度の磁束密度を持つ均一磁場Hを−Y方向にかける。つまり、均一磁場コイル22に電流δIを流すことにより磁場HをδBとする。この時、試料管21内の試料の感じる全外部磁場は、Z方向の外部磁場B0とY方向の均一磁場H(=δB)のベクトル和となるため、YZ平面上で角度δθ傾く。つまり、図の外部磁場B0とY方向への均一磁場H(=δB)のベクトルの合成で求まるB0’が新しい外部磁場となる。
【0040】
従って、Y軸均一磁場コイル22に流す電流δIの向きによって±Y方向の均一磁場Hの大きさを制御すれば、試料管21と外部磁場のなす角度θを±δθの範囲で電気的に制御することができる。この方法は、機械的な操作を一切行なわないため、原理的には試料管21の回転に影響を与えずにθ(マジック角を含む)を、実験に必要な精度まで精密制御することが可能である。
【0041】
本発明では、均一磁場コイルは、シムコイルのように定常電流を流すものとしてあり、溶液NMRにおけるグラジエントパルスのように、NMR測定中に急激な電流制御を行なうものではないので、過渡現象の効果(に起因するスペクトル分解能への影響)は考慮しなくてもよい。
【0042】
本発明はプローブ外周に設置されたアルファ巻き複層平角線鞍型コイルによる精密角度調整にも利用することができる。
図6は平角線を用いた鞍型コイルの3次元投影図である。図に示す例は、厚さ0.3mm、幅2.8mm、ターン数48の場合を示している。
【0043】
図7はボビンの形状を示している。21aがボビン、22が鞍型コイルである。ボビンの材質としては、アルミニウム系金属が用いられる。アルミニウム系の金属を用いると、ボビンの材質をアルミニウム系金属を用いることで、プローブRF回路に対する外部からの擾乱を防ぎ、NMR信号の分解能に影響を及ぼさず、印加電流によりシムコイル発熱を逃がし、ローレンツ力によるコイル形状の歪みを抑制することができる。
【0044】
ボビン21aの鞍型コイル22が装着される部分には図示しないが、溝が切られている。溝を切ることで、鞍型コイル22を確実にボビン21aに装着することができる。(a)と(d)は側面図、(b)は上面図、(c)はA−A断面図である。鞍型コイル22は(a)に示すように左右に各1個用いられており、Qのスペースで内線(巻始め同士)が接続されるようになっている。鞍型コイル22は、0.3t×2.8w×48ターンのものが左右に各1個設けられており、これらは内線が接続され、1個の鞍型コイルとなる。21bはボビン上面に切られたネジ穴である。試料管21のボビン21aの上部にネジ穴を切ることにより、ラジエータを取り付けることができ、均一磁場コイルに電流が流れることによる発熱を抑制することができる。
【0045】
本発明の効果を列挙すると、以下の通りである。
1)低い開発コスト
本発明に必要な構成は、非常にシンプルで、平角線コイル、ボビン筐体、市販の安定化電源のみである。固体高分解能NMRプローブの上部に着脱性があるオプションとして導入することができる。例えば、プローブの磁場挿入部のカバー(円筒)に対して取り付ける。又は溶液のジャケットに取り付ける。室温シムコイル内部に組み込むことができる。そして、既存の設計をほとんど変更せずに導入することができるため、開発コストが低い。
【0046】
2)高い汎用性
本発明はワイドボア、ナローボアを問わず、全ての固体高分解能NMRに共通する、マジック角の高精度・高再現的な最適化プロセス(スペクトルの分解能の最適化プロセス)を、手作業ではなく、ルーチン的に実行することができるため、汎用性が高い。本発明は特に、高分解能スペクトルの測定にマジック角の非常に精密な調整を要求する試料系(異方性が大きい内部相互作用(例:2H,14Nの四極子相互作用、129Ptの化学シフト相互作用など))において有用である。
【0047】
3)四極子核のNMRにおける画期的作用(STMAS)を汎用化できる
近年開発された「STMAS実験法」は、無機物(四極子核)の固体高分解能NMR方法論としてその有用性が評価されている。しかしながら、マジック角の設定に0.001°オーダ以下の精度と再現性を要求するため、汎用性が乏しいままに置かれている。本発明は、高精度、高再現的にSTMAS法を行なうことを可能とし、結果として固体NMR全体の製品価値を高めるため、市場的価値は大きい。
【0048】
4)クライオコイルMASなど、特殊MAS−NMRプローブの性能を担保できる
固体高分解能NMRの本質的感度向上を目的としたクライオコイルMASは手て複雑で精巧な機械設計のゆえに、精密なマジック角調整を機械的動作で行なうことが難しい。同様の理由で、極端な実験環境(例えば高温、極低温、高圧、真空下など)に対応した特殊MAS−NMRプローブにおいて、マジック角の調整は不可能か、非常に困難となるケースが多い。そこで、本発明を導入することにより、機械的動作機構なく、マジック角調整を行なうことで、これら特殊MAS−NMRプローブにおける分解能最適化の機能を担保することができる。
【符号の説明】
【0049】
21 試料管
22 鞍型コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のNMR検出を行なう固体NMRプローブにおいて、外部磁場B0の方向をZ軸とし、該Z軸に対してその中に試料が入った試料管のなす角度をθとした時、
試料管のZ軸に対する垂直平面へ投影した方向をY軸とし、
Y軸方向に均一磁場を作るための均一磁場コイルを配置し、
該均一磁場コイルに流す電流を制御することによって、均一磁場Hを発生させ、
前記外部磁場B0と前記均一磁場Hとのベクトル合成を求め、
該ベクトル合成により求まった角度を新たな外部磁場B0’としてNMR検出を行なう、
ようにしたことを特徴とするNMRにおけるマジック角精密調整方法。
【請求項2】
試料のNMR検出を行なう固体NMRプローブにおいて、
外部磁場B0の方向をZ軸とし、該Z軸に対して角度θになるように配置され、その中に試料が入った試料管と、
前記Z軸に対して試料管のZ軸に対する垂直平面へ投影した方向をY軸とし、該Y軸方向に均一磁場Hを発生させるように配置された均一磁場コイルと、
を有し、
前記均一磁場コイルに流す電流を制御することによって、均一磁場Hを発生させ、
前記外部磁場B0と前記均一磁場Hとのベクトル合成を求め、
該ベクトル合成により求まった角度を新たな外部磁場B0’としてNMR検出を行なう、
ように構成したことを特徴とするNMRにおけるマジック角精密調整装置。
【請求項3】
前記均一磁場コイルとして鞍型コイルを用い、該鞍型コイルを複数巻回したことを特徴とする請求項2記載のNMRにおけるマジック角精密調整装置。
【請求項4】
前記鞍型コイルとして絶縁皮膜付きの銅製の平角線を用い、平角線のアスペクト比が1:4以上、断面積が0.3mm2〜1.5mm2であることを特徴とする請求項3記載のNMRにおけるマジック角精密調整装置。
【請求項5】
前記絶縁皮膜の厚さは30ミクロン以下であることを特徴とする請求項4記載のNMRにおけるマジック精密調整装置。
【請求項6】
前記鞍型コイルの直径はワイドボアの場合φ72.0±0.5mm以下、ナローボアの場合はφ46.0±0.5mm以下で、コイルの直径:高さの比は√2:1であることを特徴とする請求項3乃至5の何れか1項に記載のNMRにおけるマジック角精密調整装置。、
【請求項7】
前記試料管のボビンの上部にはラジエータを取り付けるためのネジ穴が切られていることを特徴とする請求項2記載のNMRにおけるマジック角精密調整装置。
【請求項8】
前記試料管のボビンの円筒外周面には、コイルの形状に合わせた溝が彫られていることを特徴とする請求項3乃至7の何れか1項に記載のNMRにおけるマジック角精密調整装置。
【請求項9】
前記試料管のボビンの材質はアルミニウム系金属であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のNMRにおけるマジック角精密調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−75472(P2011−75472A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229190(P2009−229190)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)