説明

Notch3アンタゴニストを用いたNotch1アンタゴニスト耐性癌の治療

本発明は、Notch1及びNotch3アンタゴニストを単独又は組み合わせて使用して、一般的に癌、特に白血病を治療する方法に関する。Notchに関連した癌の治療及び診断のための組成物及び方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2009年9月30日に出願された米国特許仮出願番号61/247298の米国特許法119(e)に基づく優先権を主張し、この内容を出典明記により本明細書に援用する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、Notch1及びNotch3アンタゴニストを単独または組み合わせて使用して、一般的に癌を、特に白血病を治療する方法に関する。ノッチ関連癌の治療及び診断のための組成物及び方法もまた提供される。
【0003】
配列リスト
本出願は、EFS−Web経由でASCII形式で送信され、その全体が出典明示により本明細書に援用される配列表を含む。前記ASCIIコピーは、2010年9月3日に作成され、P4371.txtと命名され、大きさは 65,600バイトである。
【背景技術】
【0004】
Notch受容体ファミリーは、ウニとヒトほどに異なる生命体において発達に影響を与えるシグナルを伝達する進化的に保存された膜貫通型レセプターの類である。Notch受容体及びそのリガンドのDelta及びSerrateは、(哺乳類のJaggedとして知られる)上皮成長因子(EGF)様反復を含む大きな細胞外ドメインを持つ膜貫通タンパク質である。Notchパラログの数は、種間で異なる。例えば、哺乳類の4つのノッチ受容体(Notch1−Notch4)、線虫の2つ(LIN−12及びGLP−1)、及びキイロショウジョウバエ(Notch)の1つがある。Notch受容体は、細胞表面への輸送中に膜貫通ドメインに対するN末端であるS1部位で、フューリン様プロテアーゼによってタンパク分解性に処理され、細胞外ノッチ(ECN)サブユニット及びノッチの膜貫通サブユニット(NTM)を生成する。これらの二つのサブユニットは 非共有結合的に結合したままで、成熟したヘテロ二量体の細胞表面受容体を構成する。
【0005】
Notch1 ECNサブユニットは36のN末端EGF様リピートを含み、その後にS1部位の前にある3つのタンデムに反復されたLin12/Notchリピート(LNR)モジュールが続く。Notch3 ECNは類似構造を有するが、34のEGF様リピートを持つ。各LNRモジュールは3つのジスルフィド結合、及びカルシウムイオンの配位が予測される保存された酸性及び極性残基の一群を含む。EGFリピート領域内で活性化リガンドの結合部位が位置する。Notch1及びNotch3のNTMは、細胞外領域(S2切断部位を内部に持つ)、膜貫通セグメント(S3切断部位を内部に持つ)、及び、RAM領域、アンキリン反復、トランス活性化ドメイン及びカルボキシ末端PESTドメインを含む大きな細胞内領域(ICN又はICD)を含む。ECN及びNTMサブユニットの安定した会合は、ECNのカルボキシ末端(HD−Nと言う)、及びNTMの細胞外アミノ末端(HD−Cと言う)を含むヘテロ2量体化ドメイン(HD)に依存する。リガンド誘導活性化の前に、Notchは3つのNLR及びHDドメインを含む負の制御領域(NRR)により、静止コンフォーメーションで維持される。
【0006】
ECNサブユニットへのNotchリガンドの結合は、制御された膜内タンパク質分解を介して生じる2つの連続したタンパク質分解切断を開始する。部位S2でのメタロプロテアーゼ(ADAM17)による最初の開裂は、Notch膜貫通サブユニットを形質膜の内層に近い部位S3での第二の開裂の影響を受けやすい状態にする。部位S3開裂は、プレセニリン及びニカストリンを含み、かつγ-セクレターゼ活性を促進する多タンパク質複合体によって触媒され、Notchの貫通サブユニットの細胞内部分を解放し、それを核に移行させて標的遺伝子の転写を活性化することができるようにする。(Notchのタンパク質分解性開裂のレビューについて、例えばSisodia et al., Nat. Rev. Neurosci. 3:281-290, 2002を参照。)
【0007】
Jagged及びDelta様類の5つのNotchリガンドがヒトにおいて同定されている(Jagged1(Serrate1とも言う)、Jagged2(Serrate2とも言う)、Delta様1(DLL1とも言う)、Delta様3(DLL3とも言う)、及びDelta様4(DLL4とも言う))。リガンドの各々は、Notch結合に必須の保存されたN末端Delta、Serrate、LAG2(DSL)モチーフを持つ1回膜貫通型タンパク質である。DSLモチーフのC末端の一連のEGF様モジュールは膜貫通セグメントに先行する。Notch受容体と違い、リガンドはそのC末端に70−215アミノ酸の短い細胞質側末端を有する。加えて、リガンドの別のタイプが報告されている(例えば、DNER、NB3、及びF3/コンタクチン)。(Notchリガンド及びリガンド媒介Notch活性化のレビューについて、例えば D’Souza et al., Oncogene 27:5148-5167, 2008を参照。)
【0008】
Notch経路はハエ及び脊椎動物における神経新生に影響を与えるものも含め、多様な発生過程及び生理的過程において機能する。一般的に、Notchシグナル伝達は、側方抑制、系統の決定、細胞群間の境界の確立に関与している。(例えば、Bray, Mol. Cell Biol. 7:678-679, 2006を参照。)癌及び神経変性疾患を含むヒトの様々な疾患はNotch受容体又はそのリガンドをコードする遺伝子の変異に起因することが示されている。(例えば、Nam et al., Curr. Opin. Chem. Biol. 6:501-509, 2002を参照。)
【0009】
腫瘍性タンパク質としてのNotch1の役割は、T細胞の前駆細胞を含む白血病で実証された。この役割はヒト急性リンパ芽球性白血病(T−ALL)に最初に認められた。(例えば、Aster et al., Annu. Rev. Pathol. Mech. Dis. 3:587-613, 2008を参照。)T−ALLは、優先的に子供や若者が罹患する高悪性度の白血病である。反復性の染色体転座t(7;9)(q34;q34.3)は、切断されたヒトNotch1の構成的活性型変異体を生成し、T−ALLのサブセットにおいて同定された。(7;9)転座に加えて、ヒトNocth1における高頻度機能獲得型変異が全ヒトT−ALLの50%以上において後に発見された。(Weng et al., Science, 306:269-271, 2004を参照。)これらの変異は、細胞外のHDドメイン及び細胞内のPESTドメインで生じる。他の研究では、骨髄細胞におけるNotch1のICNのレトロウイルスベースの発現は移植された骨髄細胞を投与されたマウスモデルにおいてT−ALLを引き起こすことを示した。(Aster et al., Mol. Cell Biol. 20:7505-7515, 2000を参照。)
【0010】
T細胞の前駆細胞の白血病におけるNotchの役割に一致して、Notch1シグナル伝達は、マウスモデルにおいて、T細胞の分化に必須であり、Notch1媒介シグナルがB細胞の分化を犠牲にしてT細胞の分化を促進することが示されている。(例えば、Wilson et al., J. Exp. Med. 194:1003-1012, 2001を参照。)白血病におけるNotch1の更なる役割が記載されている。Notch1のPESTドメインにおける活性化突然変異は、Notchの変異を活性化すると、骨髄性及びT−分化系列決定に先行する白血病幹細胞で発生する可能性があることを示唆し、ヒト急性骨髄性白血病(AML)及び系列スイッチ白血病において低頻度で報告されている。(Palomero et al., Leukemia 20:1963-1966, 2006を参照。)
【0011】
T−ALLにおける高頻度のNotch1機能獲得型変異の発見に先立ち、胸腺におけるNotch3のICNの強制発現がトランスジェニックマウスにおいてT細胞白血病/リンパ腫を引き起こすことが観察された。(Bellavia et al., EMBO J. 19:3337-3348, 2000を参照。)Notch3のmRNAはまた、30人のT−ALL患者のサンプルのすべてにおいて発現されているものとして報告されているが、通常の末梢血Tリンパ球及び非T細胞白血病では検出されなかった。(例えば、Bellavia et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 99:3788-3793, 2002を参照。)
【0012】
Notch1及びNotch3はまた、種々な他の癌と関連付けられている。例えば、固形腫瘍において、増加したNotch1の発現がヒトの子宮頸部、結腸、肺、膵臓、皮膚、脳の癌で観察されており(Leong et al., Blood 107:2223-2233, 2006を参照)、Notch1の発現上昇は乳癌の予後不良に相関している(Parr et al., Int. J. Mol. Med. 14:779-786, 2004; Reedijk et al., Cancer Res. 65:8530-8537, 2005を参照)。染色体転座(15;19)は非小細胞肺癌腫瘍のサブセットにおいて同定され、転座は、Notch3の転写を高めると考えられている。卵巣癌では、Notch3遺伝子増幅が〜19%の腫瘍で発生することが判明し、かつNotch3の過剰発現は、卵巣漿液性癌の半数以上で発見された。トランスジェニックマウスにおける活性化Notch1及びNotch3の過剰発現はマウスの乳腺腫瘍を誘発し、Notch3の過剰発現は、マウスモデルにおける脈絡叢の腫瘍形成を誘導するのに十分であり、特定の脳腫瘍の発生におけるNotch3の役割を示唆している。(癌におけるNotch3に関するレビューについては、Shih et al. Cancer Res. 67:1879-1882, 2007を参照。)
【0013】
治療効果を有する特定の抗Notch1アンタゴニスト抗体が記載されている。(米国特許出願公開第2009/0081238(A1)号を参照いただき、その全体が出典明示により本明細書において明示的に援用される。)例えば、そうした抗体は、Notch1の負の調節領域領域(NRR)に結合し、Notch1シグナル伝達をブロックし、血管形成及び血管新生を混乱させ、非小細胞肺癌及び結腸腺癌のマウス異種移植モデルにおける腫瘍増殖を阻害する。そこに記述された特定の抗体は、LNR−A及びLNR−B(3回のLIN12/Notchリピートの最初と二番目)及びNotch1のNRRのHD−Cに結合する。Notch1のEGFリピートに結合し、Notch1活性を、恐らくはリガンド結合をブロックすることで、ブロックする別の抗Notch1抗体もまた記載されている。(国際公開第2008/091641号を参照。)
【0014】
特定の抗Notch3アンタゴニスト抗体もまた記載されている。(米国特許出願公開第2008/0226621(A1)号を参照いただき、その全体が本明細書において明示的に援用される。)そうした抗体はNotch3の負の制御領域(NRR)に結合し、Notch3シグナル伝達をブロックする。そこに記載された特定の抗体は LNR−A(3回のLIN12/Notchリピートの最初)及びNotch3のNRRのHD−C(あるいは米国特許出願公開第2008/0226621(A1)号に記載の2番目の2量体化ドメインとして言及される)に結合する。Notch3のEGF様リピート領域に結合し、恐らくはリガンド結合をブロックすることで、Notch3の活性を、ブロックする別の抗Notch3抗体もまた記載されている。(Li et al., J. Biol. Chem. 283:8046-8054, 2008を参照。)
【0015】
γ−セクレターゼ阻害剤(GSIS)は、複数のNotch受容体を阻害するpan−Notch阻害剤であり、Notch関連疾患の治療のために提案されており、実際にはT−ALLの治療のための臨床試験で使用されている。( Roy et al., Curr. Opin. Genet. Dev. 17:52-59, 2007; Deangelo et al., J. Clin. Oncol. 2006 ASCO Annual Meeting Proceedings Part I 24:6586, 2006を参照。)しかしながら、GSISは体重減少及び腸杯細胞化生を引き起こし、腸陰窩の前駆細胞の増殖を維持し、分泌細胞運命への分化を禁止することにより 細胞運命の決定においてノッチが働く役割を反映している(van Es et al., Nature 435:959-963, 2005を参照)。pan-Notch阻害のこれらの副作用は、臨床の場で管理しやすいであろうが、個々のNotch受容体を標的とし、したがって、これらの副作用を最小限にするか又は減少させる阻害剤は好都合であり得る。
【0016】
Notch受容体を標的とすることにより癌を治療する更なる治療法のための必要性が当技術分野にてある。本明細書に記載の発明は、上記の必要性を満たし、かつ他の利点を提供する。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、Notchアンタゴニストを単独で又は組み合わせで用いる癌の治療に関する。本発明は、特にT−ALLの異なるクラスの特性評価に一部が関連する。T−ALLの一つのクラスは、GSIによる治療に敏感であり、かつ、Notch1特異的アンタゴニストによる治療に感受性である。対照的に、T−ALLの別のクラスは、GSIによる治療に感受性であるが、Notch1特異的アンタゴニストによる治療に非感受性(すなわち、耐性)である。本明細書に示すように、T−ALLの後者のクラスは、Notch3特異的アンタゴニストによる治療に感受性であり、及びNotch1特異的アンタゴニスト及びNotch3特異的アンタゴニストの組み合わせによりいっそう感受性である。これらの結果は、白血病、特にT−ALLのようなT細胞の前駆細胞白血病におけるNotch1及びNotch3の両方の役割を示している。
【0018】
一態様では、Notch特異的アンタゴニストに応答しないGSI−応答性癌の治療方法が与えられ、その方法はそうした癌患者にNotch3特異的アンタゴニストの有効量を投与することを含む。所定の実施態様において、癌はT細胞白血病である。所定の実施態様において、T細胞白血病はリンパ芽球性白血病である。所定の実施態様において、Notch3特異的アンタゴニストは、抗Notch3アンタゴニスト抗体である。所定の実施態様において、抗Notch3アンタゴニスト抗体は、抗Notch3 NRR抗体である。所定の実施態様において、抗Notch3 NRR抗体はNotch3 NRRのLNR−A及びHD−Cドメインに結合する。所定の実施態様において、抗Notch3 NRR抗体は、抗体256A-4又は256A-8の重鎖および軽鎖可変領域のCDRを有する。所定の実施態様において、抗Notch3 NRR抗体は、抗体256A-4又は256A-8のヒト化形態である。所定の実施態様において、抗Notch3アンタゴニスト抗体は、Notch3の一つ以上のEGF様リピートに結合する抗Notch3抗体である。
【0019】
更なる実施態様にて、本方法は更にNotch1特異的アンタゴニストの有効量を投与することを含む。所定の実施態様において、投与されたNotch1特異的アンタゴニストは、抗Notch1アンタゴニスト抗体である。所定の実施態様において、抗Notchアンタゴニスト抗体は、抗Notch1 NRR抗体である。所定の実施態様において、抗Notch NRR抗体は、Notch1 NRRのLNR−A、LNR−B及びHD−Cドメインに結合する。所定の実施態様において、抗Notch1 NRR抗体は、抗体A、A-1、A-2、A-3から選択される。所定の実施態様において、抗Notch1 NRR抗体は、抗体A、A−1、A−2、A−3から選択される抗体の重鎖及び軽鎖可変領域CDRを含む。所定の実施態様において、抗Notch1アンタゴニスト抗体は、Notch1の一以上のEGF様リピートに結合する抗Notch1抗体である。
【0020】
本発明の更なる態様にて、活性化Notch3 ICDに結合する抗体が与えられる。所定の実施態様において、抗体は配列番号4のペプチドに結合する。所定の実施態様において、抗体はポリクローナルである。所定の実施態様において、抗体はモノクローナルである。
【0021】
本発明のさらなる態様では、Notch3のアンタゴニストによる治療に適した癌を同定す方法が与えられ、その方法は、請求項15に記載の抗体と癌のサンプルを接触させること、及び、活性化Notch3のレベルの有意な増加がサンプル中に存在するかどうかを判定することを含み、そこで活性化Notch3のレベルの有意な増加が存在していることは、癌がNotch3のアンタゴニストによる治療に適していることを示している。所定の実施態様において、癌はGSI応答性である。
【0022】
本発明による上記及び更なる態様及び実施態様が本発明に与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A−1D】図1A−1DはヒトNotch1(配列番号1)及びマウスNotch1(配列番号2)のモチーフ及び他の特徴を付記したアラインメントを示す。
【図2】図2はヒトNotch3(配列番号3)の配列を示す。EGFリピート領域はアミノ酸残基43から1383に広がり、LNRモジュールは、アミノ酸残基1384から1422に及ぶLNR−Aを有し、アミノ酸残基1384から1503に広がり、2量体化ドメインは、アミノ酸残基1572から1640に及ぶHD−Cを有し、アミノ酸残基1504から1640に広がる。
【図3A−3D】図3A−3Dは、T−ALL細胞株のP−12 Ichikawaが、GSI(DAPT)及び抗NRR1(α-N1)の両方に耐性であることを示す。
【図4A−4D】図4A−4Dは、T−ALL細胞株のHPB−ALLが、コントロール細胞に比べ、G0/G1における細胞の蓄積、及びS/G2/Mにおける細胞の減少によって証明されるように、GSI(DAPT)及び抗NRR1(α-N1)の両方に感受性であることを示す。
【図5A−5D】図5A−5Dは、T−ALL細胞株のTALL−1が、GSIに感受性があるが、抗NRR1(α−N1)に耐性があることを示す。
【図6】図6は、細胞の大きさの測定が、図3−5において同定されたT−ALLの3つのクラスを反映していることを示す。
【図7】図7は、アネキシンV(アポトーシスのマーカー)及び7−AAD(細胞死のマーカー)による染色が、図3−5において同定されたT−ALLの3つのクラスを反映していることを示す。
【図8】図8の左のパネルは、Ki−67染色(細胞増殖のマーカー)が、図3−5において同定されたT−ALLの3つのクラスを反映していることを示す。左にシフトしたピークは右にシフトしたピークに比べ、Ki−67の低染色及び増殖の減少を示す。図8の右のパネルは、Ki−67染色の減少(すなわち、増殖の減少)が、アネキシンV/7−AADダブルネガティブ(すなわち、非アポトーシス性)細胞と逆の相関があることを示す。
【図9A−9F】図9A−9Fは、TALL−1細胞株が、部分的に抗NRR3(α−N3)に感受性があり、かつ抗NRR1(α−N1)及び抗NRR3による治療に感受性であることを示す。
【図10A−10F】図10A−10Fは、T−ALL細胞株のCCRF−CEMが、GSI、抗NRR1(α−N1)及び抗NRR3(α−N3)の両方に耐性であることを示す。
【図11A−11F】図11A−11Fは、HPB−ALL細胞株が、抗NRR1(α−N1)に感受性があるが、抗NRR3(α−N3)には感受性で無いことを示す。
【図12】図12は、活性化Notch3 ICD(α−Notch3 ICD)を認識する抗体を用いるイムノブロットを示し、Jagged1に刺激されたMDA−MB−468細胞の核画分において活性化Notch3 ICDを検出する。
【図13】図13は、TALL−1細胞株が、開裂した活性化Notch3を高レベルで発現し(下のパネル)、DAPTによりブロックできるが、抗NRR1(α−N1)ではブロックできず、一方、HPB−ALL細胞株は、開裂した活性化Notch1を高レベルで発現し、DAPT及び抗NRR1(α−N1)でブロックできることを示す。
【図14】図14は、図9A−9Fに示す実験結果のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施態様の詳細な説明
定義
本明細書の解釈の目的のために、以下の定義が適用され、必要な場合には、単数形で使用される用語はまた複数を含み、かつその逆も含まれる。以下に記載される任意の定義が本明細書で出典明示により援用される文書と相反する場合には、以下に記載される定義が統制するものとする。
【0025】
本明細書で用いられる「Notch」なる用語は、具体的に又は文脈で特に明記しない限り、任意の天然型又は変異体(天然又は合成であろうと)Notchポリペプチド(Notch1−4)を指す。「天然配列」なる用語は、天然に生じる切断型(例えば、細胞外ドメイン配列又は膜貫通サブユニット配列)、天然に生じる変異体(例えば、選択的スプライシング型)及び天然に生じる対立遺伝子変異体を特に網羅する。「野生型Notch」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notchタンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドを言う。「野生型Notch配列」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notchに見いだされるアミノ酸配列を言う。
【0026】
本明細書で用いられる「Notch1」なる用語は、具体的に又は文脈で特に明記しない限り、任意の天然型又は変異体(天然又は合成であろうと)Notch1ポリペプチドを指す。「天然配列」なる用語は、天然に生じる切断型(例えば、細胞外ドメイン配列又は膜貫通サブユニット配列)、天然に生じる変異体(例えば、選択的スプライシング型)及び天然に生じる対立遺伝子変異体を特に網羅する。「野生型Notch1」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch1タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドを言う。「野生型Notch1配列」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch1に見いだされるアミノ酸配列を言う。
【0027】
本明細書で用いられる「Notch1リガンド」なる用語は、具体的に又は文脈で特に明記しない限り、任意の天然型又は変異体(天然又は合成であろうと)Notch1リガンド(例えば、Jagged1、Jagged2、Delta様1、Delta様3、及び/又はDelta様4)ポリペプチドを指す。「天然配列」なる用語は、天然に生じる切断型(例えば、細胞外ドメイン配列又は膜貫通サブユニット配列)、天然に生じる変異体(例えば、選択的スプライシング型)及び天然に生じる対立遺伝子変異体を特に網羅する。「野生型Notch1リガンド」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch1リガンドのアミノ酸配列を含むポリペプチドを言う。「野生型Notch1リガンド配列」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch1リガンドに見いだされるアミノ酸配列を言う。
【0028】
本明細書で用いられる「Notch1 NRR」なる用語は、具体的に又は文脈で特に明記しない限り、3つのLNRモジュール及びLNRモジュールのカルボキシル末端から膜貫通ドメインへ伸長するアミノ酸配列を含む、任意の天然型又は変異体(天然又は合成であろうと)ポリペプチド領域を指し、その配列はHDドメイン(HD−N及びHD−C)を含む。典型的なNotch1 NRRは、ヒトNotch1のアミノ酸配列のおよそアミノ酸1446からおよそアミノ酸1735の領域(配列番号1、図1)、及びマウスNotch1のアミノ酸配列のおよそアミノ酸1446からおよそアミノ酸1725の領域(配列番号2、図1)からなる。「天然配列Notch1 NRR」なる用語は、Notch1 NRRの天然に生じる切断型(例えば、細胞外ドメイン配列又は膜貫通サブユニット配列)、天然に生じる変異体(例えば、選択的スプライシング型)及び天然に生じる対立遺伝子変異体を特に網羅する。「野生型Notch1 NRR」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch1 NRRを言う。幾つかの実施態様において、Notch1 NRRはNotch1、例えば、S1、S2、及び/又はS3部位でプロセシングされたNotch1、又はプロセシングを受けていないNotch1などのNotch1に含まれる。幾つかの実施態様において、Notch1 NRRは、例えば、配列番号1のアミノ酸1665から1735を含む断片に非共有結合した配列番号1のアミノ酸1446から1664を含む断片など、Notch1 NRRのアミノ酸配列の2つ以上の非共有性結合断片を含む。その他の実施態様において、配列番号2のアミノ酸1446から1654を含む断片が配列番号2のアミノ酸1655から1725を含む断片に非共有結合している。
【0029】
本明細書で用いられる「Notch1シグナル伝達の増加」なる用語は、実質的に同一の条件下にあるコントロールにおいて観察されたNotch1シグナル伝達のレベルを著しく上回るNotch1シグナル伝達の増加を意味する。所定の実施態様において、Notch1シグナル伝達の増加は少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、又は10倍、コントロールにおいて観察されたレベルを上回っている。
【0030】
本明細書で用いられる「Notch1シグナル伝達の減少」なる用語は、実質的に同一の条件下にあるコントロールにおいて観察されたNotch1シグナル伝達のレベルを著しく下回るNotch1シグナル伝達の減少を意味する。所定の実施態様において、Notch1シグナル伝達の減少は少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、又は10倍、コントロールにおいて観察されたレベルを下回っている。
【0031】
所定の実施態様において、Notch1シグナル伝達(すなわち、Notch1シグナル伝達の増加又は減少)は、例えば、米国特許出願公開第2009/0081238(A1)号の実施例5に記載された、適切なレポーターアッセイを用いて評価される。所定の実施態様において、Notch1シグナル伝達は、米国特許出願公開第2009/0081238(A1)号の、実施例5及び実施例7にそれぞれ記載された、C2C12筋芽細胞の分化アッセイ又はHUVEC細胞の発芽アッセイなど、インビトロでの活性アッセイを用いて用いて評価される。所定の実施態様において、Notch1シグナル伝達は、米国特許出願公開第 2009/0081238(A1)号の実施例8に記載された、Calu6及びHM7モデルなど、インビボでの異種移植モデルを用いて評価される。
【0032】
「Notch1活性化変異」及び「Notch1シグナル伝達を活性化する変異」なる用語は、Notch1野生型アミノ酸配列と比較して一又は複数のアミノ酸の挿入、一又は複数のアミノ酸の欠失、又は一又は複数のアミノ酸の置換であって、これによって対応するNotch1野生型アミノ酸配列からのNotch1シグナル伝達と比較してNotch1シグナル伝達の増加が引き起こされるものであるか、又は、Notch1野生型核酸配列と比較して一又は複数のヌクレオチドの挿入、一又は複数のヌクレオチドの欠失、一又は複数のヌクレオチドの転位、又は一又は複数のヌクレオチドの置換であって、これによって対応するNotch1野生型核酸配列を含む細胞におけるNotch1シグナル伝達と比較して変異核酸配列を含む細胞におけるNotch1シグナル伝達の増加が引き起こされるものを指す。活性化突然変異を含むNotch1受容体からのNotch1シグナル伝達はリガンド依存性でもリガンド非依存性でもよい。
【0033】
「抗Notch1抗体」又は「Notch1に結合する抗体」なる用語は、十分な親和性を持ってNotch1に結合することができ、Notch1を標的にする診断薬及び/又は治療薬として有用である抗体を指す。好ましくは、抗Notch1抗体が、関係の無い非Notchタンパク質に結合する程度は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)により測定すると、抗体のNotch1に対する結合のおよそ10%未満である。所定の実施態様において、Notch1に結合する抗体は解離定数(Kd)が、1μM以下、0.5μM以下、100nM以下、50nM以下,10nM以下、5nM以下、1nM以下、0.5nM以下、又は0.1nM以下である。所定の実施態様において、抗Notch1抗体は異なる種、例えば、齧歯類(マウス、ラット)及び霊長類のNotch1の間で保存されるNotch1のエピトープに結合する。
【0034】
「抗Notch1 NRR抗体」又は「Notch1 NRRに結合する抗体」なる用語は、十分な親和性でNotch1 NRRを結合することができ、Notch1を標的とする診断及び/又は治療上の薬剤として有用である抗体を指す。好ましくは、関係のないNotch以外のタンパク質に対する抗Notch1 NRR抗体の結合の程度は、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定するところの、Notch1 NRRへの抗体の結合のおよそ10%未満である。所定の実施態様において、Notch1 NRRに結合する抗体は、1μM以下、0.5μM以下、100nM以下、50nM以下、10nM以下、5nM以下、1nM以下、0.5nM以下、又は0.1nM以下の解離定数(Kd)を有する。所定の実施態様において、抗Notch1 NRR抗体は、異なる種、例えば齧歯類(マウス、ラット)及び霊長類のNotch間で保存されるNotchのエピトープに結合する。
【0035】
「Notch1特異的アンタゴニスト」なる用語は、上記で定義したようにNotch1シグナル伝達の減少に影響を与え、Notch受容体(哺乳類ではNotch2、3、又は4)によるシグナル伝達に有意には影響を与えない薬剤を指す。
【0036】
「抗Notch1アンタゴニスト抗体」とは、効果は上記で定義したように、Notch1シグナル伝達の減少に影響を与える抗Notch1抗体(抗Notch1 NRR抗体を含む)である。
【0037】
「抗体A,A−1,A−2,及びA−3」に対する単独又は任意の組合わせにおける参照は、特に明記されない限り、米国特許出願公開第2009/0081238(A1)号に記載のファージの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域、及び再編成された抗体に指定された抗体A,A−1,A−2,及びA−3を意味する。
【0038】
本明細書で用いられる「Notch3」なる用語は、具体的に又は文脈で特に明記しない限り、任意の天然型又は変異体(天然又は合成であろうと)Notch3ポリペプチドを指す。「天然配列」なる用語は、天然に生じる切断型(例えば、細胞外ドメイン配列又は膜貫通サブユニット配列)、天然に生じる変異体(例えば、選択的スプライシング型)及び天然に生じる対立遺伝子変異体を特に網羅する。「野生型Notch3」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch3タンパク質のアミノ酸配列を含むポリペプチドを言う。「野生型Notch3配列」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch3に見いだされるアミノ酸配列を言う。
【0039】
本明細書で用いられる「Notch3リガンド」なる用語は、具体的に又は文脈で特に明記しない限り、任意の天然型又は変異体(天然又は合成であろうと)Notch3リガンド(例えば、Jagged1、Jagged2、Delta様1、Delta様3、及び/又はDelta様4)ポリペプチドを指す。「天然配列」なる用語は、天然に生じる切断型(例えば、細胞外ドメイン配列又は膜貫通サブユニット配列)、天然に生じる変異体(例えば、選択的スプライシング型)及び天然に生じる対立遺伝子変異体を特に網羅する。「野生型Notch3リガンド」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch3リガンドのアミノ酸配列を含むポリペプチドを言う。「野生型Notch3リガンド配列」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch3リガンドに見いだされるアミノ酸配列を言う。
【0040】
「活性化Notch3 ICD」は、S3部位での開裂により得られ、核への転位が可能なNotch3切断産物を指す。所定の実施態様において、活性化Notch3 ICDはヒトNotch3(配列番号3)のアミノ酸1622−2321から成る。
【0041】
本明細書で用いられる「Notch3 NRR」なる用語は、具体的に又は文脈で特に明記しない限り、3つのLNRモジュール及びLNRモジュールのカルボキシル末端から膜貫通ドメインへ伸長するアミノ酸配列を含む、任意の天然型又は変異体(天然又は合成であろうと)ポリペプチド領域を指し、その配列はHDドメイン(HD−N及びHD−C)を含む。典型的なNotch3 NRRは、ヒトNotch3のアミノ酸配列のおよそアミノ酸1384からおよそアミノ酸1640の領域(配列番号3、図2)からなる。「天然配列Notch3 NRR」なる用語は、Notch3 NRRの天然に生じる切断型(例えば、細胞外ドメイン配列又は膜貫通サブユニット配列)、天然に生じる変異体(例えば、選択的スプライシング型)及び天然に生じる対立遺伝子変異体を特に網羅する。「野生型Notch3 NRR」なる用語は、一般に、天然に生じる、非変異Notch3 NRRを言う。幾つかの実施態様において、Notch3 NRRはNotch3、例えば、S1、S2、及び/又はS3部位でプロセシングされたNotch3、又はプロセシングを受けていないNotch3などのNotch3に含まれる。幾つかの実施態様において、Notch3 NRRは、例えば、ヒトNotch3(配列番号3)のアミノ酸1572から1640を含む断片に非共有結合したヒトNotch3(配列番号3)のアミノ酸1384から1571を含む断片など、Notch1 NRRのアミノ酸配列の2つ以上の非共有性結合断片を含む。
【0042】
本明細書で用いられる「Notch3シグナル伝達の増加」なる用語は、実質的に同一の条件下にあるコントロールにおいて観察されたNotch3シグナル伝達のレベルを著しく上回るNotch1シグナル伝達の増加を意味する。所定の実施態様において、Notch3シグナル伝達の増加は少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、又は10倍、コントロールにおいて観察されたレベルを上回っている。
【0043】
本明細書で用いられる「Notch3シグナル伝達の減少」なる用語は、実質的に同一の条件下にあるコントロールにおいて観察されたNotch3シグナル伝達のレベルを著しく下回るNotch3シグナル伝達の減少を意味する。所定の実施態様において、Notch3シグナル伝達の減少は少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、又は10倍、コントロールにおいて観察されたレベルを下回っている。
【0044】
所定の実施態様において、Notch3シグナル伝達(すなわち、Notch3シグナル伝達の増加又は減少)は、例えば、米国特許出願公開第2008/0226621(A1)号の実施例5に記載された、適切なレポーターアッセイを用いて評価される。所定の実施態様において、Notch3シグナル伝達は、米国特許出願公開第2008/0226621(A1)号の、実施例7に記載された、アポトーシスアッセイ、細胞遊走アッセイ、浸潤アッセイ、及び形態アッセイなど、インビトロでの活性アッセイを用いて用いて評価される。所定の実施態様において、Notch3シグナル伝達は、インビボでの異種移植モデルを用いて評価され、例えば、米国特許出願公開第2008/0226621(A1)号の実施例11に記載される。
【0045】
「抗Notch3抗体」又は「Notch3に結合する抗体」なる用語は、十分な親和性でNotch3を結合することができ、Notch3を標的とする診断及び/又は治療上の薬剤として有用である抗体を指す。好ましくは、関係のない、非Notchタンパク質に対する抗Notch3抗体の結合の程度は、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定するところの、Notch3への抗体の結合のおよそ10%未満である。所定の実施態様において、Notch3 NRRに結合する抗体は、1μM以下、0.5μM以下、100nM以下、50nM以下、10nM以下、5nM以下、1nM以下、0.5nM以下、又は0.1nM以下の解離定数(Kd)を有する。所定の実施態様において、抗Notch3抗体は、異なる種、例えば齧歯類(マウス、ラット)及び霊長類のNotch3の間で保存されるNotch3のエピトープに結合する。
【0046】
「抗Notch3 NRR抗体」又は「Notch3 NRRに結合する抗体」なる用語は、十分な親和性でNotch3 NRRを結合することができ、Notch3を標的とする診断及び/又は治療上の薬剤として有用である抗体を指す。好ましくは、関係のない非Notchタンパク質に対する抗Notch3 NRR抗体の結合の程度は、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定するところの、Notch3 NRRへの抗体の結合のおよそ10%未満である。所定の実施態様において、Notch3 NRRに結合する抗体は、1μM以下、0.5μM以下、100nM以下、50nM以下、10nM以下、5nM以下、1nM以下、0.5nM以下、又は0.1nM以下の解離定数(Kd)を有する。所定の実施態様において、抗Notch3 NRR抗体は、異なる種、例えば齧歯類(マウス、ラット)及び霊長類のNotch3の間で保存されるNotch3のエピトープに結合する。
【0047】
「Notch3特異的アンタゴニスト」なる用語は、上記で定義したようにNotch3シグナル伝達の減少に影響を与え、別のNotch受容体(哺乳類ではNotch1、2、又は4)によるシグナル伝達に有意には影響を与えない薬剤を指す。
【0048】
「抗Notch3アンタゴニスト抗体」とは、効果は上記で定義したように、Notch3シグナル伝達の減少に影響を与える抗Notch3抗体(抗Notch3 NRR抗体を含む)である。
【0049】
「抗体256A−4及び256A−8」に対する単独又は組合わせによる参照は、マウスモノクローナル抗体を意味する。米国特許出願公開第2008/0226621(A1)号に記載のマウスモノクローナル抗体に指定される256A−4及び256A−8を意味する。
【0050】
「アンタゴニスト」なる用語は標的分子の生物学的活性を(部分的又は完全に)有意に阻害する薬剤を指す。
【0051】
「活性化Notch3 ICDに結合する抗体」とは、活性化Notch3 ICDに結合し、インタクトなNTMを含むNotch3から活性化Notch3 ICDを識別するにの有用である抗体を指す。
【0052】
本明細書において「抗体」なる用語は最も広い意味で用いられ、特に、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び望む生物学的活性を示す限りにおいて抗体断片を包含する。
【0053】
「単離された」抗体とは、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分とは、抗体の研究、診断又は治療的な使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。幾つかの実施態様において、抗体は、(1)例えばローリー法で測定した場合、抗体の95重量%以上に、及び幾つかの実施態様では99重量%以上に、(2)例えばスピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15のN末端あるいは内部アミノ酸配列の残基を得るのに充分なほどに、又は(3)例えばクーマシーブルーあるいは銀染色を用いた非還元下あるいは還元条件下でのSDS-PAGEにより均一になるまで精製される。抗体の自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、単離された抗体には、組換え細胞内のインサイツでの抗体が含まれる。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも一つの精製工程により調製される。
【0054】
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一本の共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の中で変化する。また重鎖及び軽鎖のそれぞれは、規則的に離間した鎖間ジスルフィド結合を有する。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(V)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V)を、他端に定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間のインターフェイスを形成すると考えられている。
【0055】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを意味する。重鎖の可変ドメインは「VH」と称されうる。軽鎖の可変ドメインは「VL」と称されうる。これらのドメインは一般に抗体の最も可変の部分であり、抗原結合部位を含む。
【0056】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部分が抗体間の配列において広範囲に異なることを意味し、特定の各抗体の特定の抗原に対する結合及び特異性に用いられる。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって均等には分布していない。それは軽鎖及び重鎖の可変ドメイン両方の超可変領域(HVR)と称される3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖及び軽鎖の可変ドメイン各々は、大きなβ-シート構造をとり、3つの高頻度可変領域により接続された4つのFR領域を含み、それはβシート構造を連結するループを形成し、かつ場合によっては、βシート構造の一部を形成する。各鎖の高頻度可変領域はFR領域により一緒に近傍に保持され、別の鎖の由来する高頻度可変領域とともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ED. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。定常ドメインは抗体の抗原への結合に直接は関係ないが、種々のエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞障害における抗体の寄与を示す。
【0057】
任意の脊椎動物種に由来する抗体(イムノグロブリン)の「軽鎖」には、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と称される2つの明確に区別される型の一つが割り当てられる。
【0058】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、抗体(イムノグロブリン)は異なるクラスへ割り当てられる。イムノグロブリンの5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、かつそれらの幾つかは更にサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG、IgG、IgG、IgG、IgA及びIgAに分類される。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配位はよく知られており、例えば、Abbas等.Cellular and Mol. Immunology, 第4版(2000)(W.B. Saunders, Co., 2000)に概説されている。抗体は、抗体と1以上の他のタンパク質又はペプチドとの共有結合性又は非共有結合性の会合により形成された大きな融合分子の一部であり得る。
【0059】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、ほぼインタクトな形態の抗体を指し、以下に定義するような抗体断片は意味しない。この用語は、特にFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0060】
本明細書中の目的における「ネイキッド抗体」は、細胞障害性部分又は放射性標識にコンジュゲートしていない抗体である。
【0061】
「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')及びFv断片;ダイアボディ;線形抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多特異性抗体が含まれる。
【0062】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片を生成し、その各々は単一の抗原結合部位を持ち、残りは容易に結晶化する能力を反映して「Fc」断片と命名される。ペプシン処理はF(ab')断片を生じ、それは2つの抗原結合部位を持ち、なお抗原を交差結合することができる。
【0063】
「Fv」は、完全な抗原結合部位を含む最小抗体断片である。一実施態様では、二本鎖Fv種は、堅固な非共有結合をなした一つの重鎖及び一つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種では、柔軟なペプチドリンカーによって1の重鎖及び1の軽鎖可変ドメインは共有結合性に連鎖することができ、よって軽鎖及び重鎖は、二本鎖Fv種におけるものと類似の「二量体」構造に連結することができる。この配置において、各可変ドメインの3つのHVRは相互に作用してVH-VL二量体表面に抗原結合部位を形成する。集合的に、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原に対して特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)でさえ、全結合部位よりも親和性が低くなるが、抗原を認識して結合する能力を有している。
【0064】
Fab断片は、重鎖及び軽鎖の可変ドメインを含み、かつ軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第一定常領域(CH1)をも有する。Fab'断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端に数個の残基が付加している点でFab断片とは異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基が一つの遊離チオール基を担持しているFab'に対するここでの命名である。F(ab')抗体断片は、その間にヒンジのシステインを有するFab'断片の対としてもともと産生された。また、抗体断片の他の化学結合も知られている。
【0065】
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。通常、scFvポリペプチドはVH及びVLドメイン間にポリペプチドリンカーを更に含み、それはscFvが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にする。scFvの概説については、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)のPluckthunを参照のこと。
【0066】
「ダイアボディ」なる用語は、2つの抗原結合部位を持つ抗体断片を指し、その断片は同一のポリペプチド鎖(VH−VL)内で軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)が結合してなる。非常に短いために同一鎖上で2つのドメインの対形成ができないリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、2つの抗原結合部位を創製する。ダイアボディは二価でも二特異性であってもよい。ダイアボディは、例えば、欧州特許第404097号;国際公開第93/11161号;Hudson等 (2003) Nat. Med. 9:129-134;及びHollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA 90:6444-6448 (1993)に更に詳細に記載されている。トリアボディ及びテトラボディもまたHudson等 (2003) Nat. Med. 9:129-134に記載されている。
【0067】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団に含まれる個々の抗体は、少量で存在しうる可能性がある突然変異、例えば自然に生じる突然変異を除いて同一である。従って、「モノクローナル」との形容は、異なる抗体の混合物ではないという抗体の性質を示す。所定の実施態様において、このようなモノクローナル抗体は、通常、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、この場合、標的に結合するポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列から単一の標的結合ポリペプチド配列を選択することを含むプロセスにより得られる。例えば、この選択プロセスは、雑種細胞クローン、ファージクローン又は組換えDNAクローンのプールのような複数のクローンからの、唯一のクローンの選択とすることができる。重要なのは、選択された標的結合配列を更に変化させることにより、例えば標的への親和性の向上、標的結合配列のヒト化、細胞培養液中におけるその産生の向上、インビボでの免疫原性の低減、多選択性抗体の生成等が可能になること、並びに、変化させた標的結合配列を含む抗体も、本発明のモノクローナル抗体であることである。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体の調製物とは異なり、モノクローナル抗体の調製物の各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体の調製物は、それらが他の免疫グロブリンで通常汚染されていないという点で有利である。
【0068】
「モノクローナル」との形容は、抗体の、実質的に均一な抗体の集団から得られたものであるという特性を示し、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は様々な技術によって作製することができ、それらの技術には、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler and Milstein, Nature, 256:495-97 (1975);Hongo等, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995);Harlow等, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988);Hammerling等: Monoclonal Antibodies and T-Cell hybridomas 563-681 (Elsevier, N. Y., 1981))、組換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号参照)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991);Marks等, J. Mol. Biol. 222:581-597 (1992);Sidhu等, J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004);Lee等, J. Mol. Biol. 340(5);1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);及びLee等, J. Immounol. Methods 284(1-2): 119-132 (2004))、並びに、ヒト免疫グロブリン座位の一部又は全部、或るいはヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子を有する動物にヒト又はヒト様抗体を生成する技術(例えば、国際公開第98/24893号;国際公開第96/34096号;国際公開第96/33735号;国際公開第91/10741号;Jakobovits等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362: 255-258 (1993);Bruggemann等, Year in Immunol. 7:33 (1993);米国特許第5545807号;同第5545806号;同第5569825号;同第5625126号;同第5633425号;同第5661016号; Marks等, Bio.Technology 10: 779-783 (1992);Lonberg等, Nature 368: 856-859 (1994);Morrison, Nature 368: 812-813 (1994);Fishwild等, Nature Biotechnol. 14: 845-851 (1996);Neuberger, Nature Biotechnol. 14: 826 (1996)及びLonberg及びHuszar, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93 (1995)参照)が含まれる。
【0069】
本明細書においてモノクローナル抗体は、特に「キメラ」抗体を含み、それは特定の種由来又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において、対応する配列に一致する又は類似する重鎖及び/又は軽鎖の一部であり、残りの鎖は、所望の生物学的活性を表す限り、抗体断片のように他の種由来又は他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において、対応する配列に一致するか又は類似するものである(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855(1984))。キメラ抗体には、抗体の抗原結合領域が例えば対象の抗原をマカクザルに免疫投与することによって作製される抗体に由来している、PRIMATIZED(登録商標)抗体が含まれる。
【0070】
非ヒト(例えばマウス)の抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。一実施態様では、ヒト化抗体は、レシピエントの高頻度可変領域の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は所望の特異性、親和性及び/又は能力を有する非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)からの高頻度可変領域の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。幾つかの場合において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、もしくはドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は抗体の特性をさらに洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいは実質的に全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいは実質的に全てのFRが、ヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも一又は典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むであろう。また、ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部も含む。さらなる詳細については、例えばJones等, Nature 321:522-525(1986);Riechmann等, Nature 332:323-329(1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596(1992)を参照のこと。また例としてVaswani及びHamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998);Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038 (1995);Hurle及びGross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433 (1994);米国特許第6982321号及び同第7087409号も参照のこと。
【0071】
「ヒト抗体」は、ヒトによって生産される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するもの、及び/又はここで開示されたヒト抗体を製造するための何れかの技術を使用して製造されたものである。ヒト抗体のこの定義は、特に非ヒト抗原結合残基を含んでなるヒト化抗体を除く。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリを含む、当該分野で知られている様々な技術を使用して生産することが可能である。Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581 (1991)。また、Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);Boerner et al., J. Immunol., 147(1): 86-95 (1991)において記述される方法は、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用できる。van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol., 5: 368-74 (2001)も参照のこと。抗原刺激に応答して抗体を産生するように修飾されているが、その内在性遺伝子座が無効になっているトランスジェニック動物、例えば免疫化ゼノマウスに抗原を投与することによってヒト抗体を調製することができる(例として、XENOMOUSETM技術に関する米国特許第6075181号及び同第6150584号を参照)。また、例えば、ヒトのB細胞ハイブリドーマ技術によって生成されるヒト抗体に関するLi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)も参照のこと。
【0072】
本明細書で使用される「高頻度可変領域」、「HVR」又は「HV」なる用語は、配列において高頻度可変であり、及び/又は構造的に定まったループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は6つのHVRを含み;VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)である。天然の抗体では、H3及びL3は6つのHVRのうちで最も高い多様性を示す、特にH3は抗体に良好な特異性を与える際に特有の役割を果たすように思われる。例として、Xu等 (2000) Immunity 13:37-45;Methods in Molecular Biology 248:1-25 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ)のJohnson and Wu (2003)を参照。実際、重鎖のみからなる天然に生じるラクダ科の抗体は機能的であり、軽鎖が無い状態で安定である。Hamers-Casterman等 (1993) Nature 363:446-448;Sheriff等 (1996) Nature Struct. Biol. 3:733-736。
【0073】
多数のHVRの描写が使用され、ここに含まれる。カバット相補性決定領域(CDR)は配列変化に基づいており、最も一般的に使用されている(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。Chothiaは、代わりに構造的ループの位置に言及している(Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。AbM HVRは、カバットHVRとChothia構造的ループの間の妥協を表し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアにより使用される。「接触」HVRは、利用できる複合体結晶構造の分析に基づく。これらHVRのそれぞれからの残基を以下に示す。
【0074】

【0075】
HVRは、次のような「拡大HVR」を含むことができる、即ち、VLの24−36又は24−34(L1)、46−56又は50−56(L2)及び89−97又は89−96(L3)と、VHの26−35(H1)、50−65又は49−65(H2)及び93−102、94−102、又は95−102(H3)である。可変ドメイン残基には、これら各々を規定するために、上掲のKabat等に従って番号を付した。
【0076】
「フレームワーク」又は「FR」残基は、ここで定義する高頻度可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0077】
「カバット(Kabat)による可変ドメイン残基番号付け」又は「カバットに記載のアミノ酸位番号付け」なる用語及びその異なる言い回しは、上掲のKabat 等の抗体の編集の軽鎖可変ドメイン又は重鎖可変ドメインに用いられる番号付けシステムを指す。この番号付けシステムを用いると、実際の線形アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はHVR内の短縮又は挿入に相当する2、3のアミノ酸又は付加的なアミノ酸を含みうる。例えば、重鎖可変ドメインには、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えばカバットによる残基82a、82b及び82cなど)と、H2の残基52の後に単一アミノ酸の挿入(カバットによる残基52a)を含んでもよい。残基のカバット番号は、「標準の」カバット番号付け配列によって抗体の配列の相同領域でアライメントすることによって与えられる抗体について決定してもよい。
【0078】
カバット番号付けシステムは一般に、可変ドメイン内の残基を指す場合に用いられる(軽鎖のおよそ残基1−107及び重鎖の残基1−113)(例えば上掲のKabat et al.)。「EU番号付けシステム」又は「EUインデックス」は一般に、イムノグロブリン重鎖定常領域を指す場合に用いられる(例えば上掲のKabat et al.において報告されたEUインデックス)。「カバットにおけるEUインデックス」はヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを指す。本明細書中で特に明記しない限り、抗体の可変ドメイン内の残基番号の参照は、カバット番号付けシステムによって番号付けする残基を意味する。本明細書中で特に明記しない限り、抗体の定常ドメイン内の残基番号の参照は、EU番号付けシステムによる残基番号付けを意味する(例えば、米国特許出願2008/0181888A1のEU番号付けに関する図を参照のこと)。
【0079】
「親和性成熟」抗体とは、その改変を有していない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性に改良を生じせしめる、その一又は複数のHVRにおいて一又は複数の改変を持つものである。一実施態様では、親和成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル又はピコモルの親和性を有する。親和成熟抗体は、当該分野において知られているある手順を用いて生産されてよい。例えば、Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和成熟について記載している。HVR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘導は、例としてBarbas等, Proc Nat Acad. Sci, USA 91:3809-3813(1994);Schier等, Gene, 169:147-155(1995);Yelton等, J. Immunol.155:1994-2004(1995);Jackson等, J. Immunol.154(7):3310-9(1995);及びHawkins等, J. Mol. Biol.226:889-896(1992)に記載されている。
【0080】
抗体の「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に帰する生物学的活性を意味し、抗体のアイソタイプにより変わる。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞障害(CDC);Fcレセプター結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);貪食作用;細胞表面レセプター(例えば、B細胞レセプター)のダウンレギュレーション;及びB細胞活性化が含まれる。
【0081】
一般的に「結合親和性」は、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合的な相互作用の総合的な強度を意味する。特に明記しない限り、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば抗体と抗原)間の1:1相互作用を反映する内因性結合親和性を意味する。一般的に、分子XのそのパートナーYに対する親和性は、解離定数(Kd)として表される。親和性は、本明細書中に記載のものを含む当業者に公知の共通した方法によって測定することができる。低親和性抗体は抗原にゆっくり結合して素早く解離する傾向があるのに対し、高親和性抗体は抗原により密接により長く結合したままとなる。結合親和性の様々な測定方法が当分野で公知であり、それらの何れかを本発明のために用いることができる。以下に結合親和性を測定するための具体的な例示的実施態様を記載する。
【0082】
一実施態様では、本発明の「Kd」又は「Kd値」は、以下のアッセイで示されるような、所望の抗体のFab型(バージョン)とその抗原を用いて実行される放射性標識した抗原結合アッセイ(RIA)で測定される。段階的な力価の非標識抗原の存在下で、最小濃度の(125I)-標識抗原にてFabを均衡化して、抗Fab抗体コートプレートと結合した抗原を捕獲することによって抗原に対するFabの溶液結合親和性を測定する(例としてChen, et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999)を参照)。アッセイの条件を決めるために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を5μg/mlの捕獲抗Fab抗体(Cappel Labs)を含む50mM炭酸ナトリウム(pH9.6)にて一晩コートして、その後2%(w/v)のウシ血清アルブミンを含むPBSにて室温(およそ23℃)で2〜5時間、ブロックする。非吸着プレート(Nunc #269620)に、100pM又は26pMの[125I]抗原を段階希釈した所望のFabと混合する(例えば、Presta等, (1997) Cancer Res. 57: 4593-4599の抗VEGF抗体、Fab-12の評価と一致する)。ついで所望のFabを一晩インキュベートする;しかし、インキュベーションは平衡状態に達したことを確認するまでに長時間(例えばおよそ65時間)かかるかもしれない。その後、混合物を捕獲プレートに移し、室温で(例えば1時間)インキュベートする。そして、溶液を取り除き、プレートを0.1%のTween20TMを含むPBSにて8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルの閃光物質(MicroScint-20TM;Packard)を加え、プレートをTopcountTMγ計測器(Packard)にて10分間計測する。最大結合の20%か又はそれ以下濃度のFabを選択してそれぞれ競合結合測定に用いる。
【0083】
他の実施態様によると、〜10反応単位(RU)の固定した抗原CM5チップを用いて25℃のBIAcore(登録商標)-2000又はBIAcore(登録商標)-3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)にて表面プラズモン共鳴アッセイを行ってKd又はKd値を測定する。簡単に言うと、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.)を、提供者の指示書に従ってN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシニミド(NHS)で活性化した。抗原を10mM 酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(〜0.2μM)に希釈し、結合したタンパク質の反応単位(RU)がおよそ10になるように5μl/分の流速で注入した。抗原の注入後、反応しない群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入した。動力学的な測定のために、2倍の段階希釈したFab(0.78nMから500nM)を25℃、およそ25μl/分の流速で0.05%Tween20TM界面活性剤(PBST)を含むPBSに注入した。会合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることによる単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model) (BIAcore Evaluationソフトウェアバージョン3.2)を用いて、会合速度(kon)と解離速度(koff)を算出した。平衡解離定数(Kd)をkoff/kon比として算出した。例として、Chen, Y.,等, (1999) J. Mol Biol 293:865-881を参照。上記の表面プラスモン共鳴アッセイによる結合速度が10−1−1を上回る場合、分光計、例えば、流動停止を備えた分光光度計(stop-flow equipped spectrophometer)(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM-Aminco分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される、漸増濃度の抗原の存在下にて、PBS(pH7.2)、25℃の、20nMの抗抗原抗体(Fab型)の蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、帯域通過=16nm)における増加又は減少を測定する蛍光消光技術を用いて結合速度を測定することができる。
【0084】
また、本発明の「結合速度」又は「会合の速度」又は「会合速度」又は「kon」は、〜10反応単位(RU)の固定した抗原CM5チップを用いて25℃のBIAcore(登録商標)-2000又はBIAcore(登録商標)-3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を用いた前述と同じ表面プラズモン共鳴アッセイにて測定される。
【0085】
「疾患」は、本発明の組成物又は方法による治療により利益を得る任意の状態又は症状である。これには、哺乳動物の問題の疾患の素因になる病的状態を含み、慢性及び急性の疾患が含まれる。本明細書において治療される疾患の非限定的な例は、癌などの状態等である。
【0086】
「細胞増殖性疾患」及び「増殖性疾患」という用語は、ある程度の異常な細胞増殖を伴う疾患を意味する。一実施態様では、細胞増殖性疾患は癌である。
【0087】
本明細書中の「腫瘍」とは、悪性か良性かにかかわらず、すべての腫瘍性細胞成長及び増殖と、すべての前癌性及び癌性細胞及び組織を指す。「癌」、「癌性」「細胞増殖性疾患」、「増殖性疾患」及び「腫瘍」なる用語は、本明細書に参照されるように相互に排他的でない。
【0088】
「癌」及び「癌性」なる用語は、一般的に調節不可能な細胞成長/増殖に特徴がある哺乳動物の生理学的状態を指すか又は表す。癌の例には、上皮癌、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病が含まれるが、これに限定されるものではない。このような癌のより具体的な例には、扁平細胞癌、小細胞肺癌、下垂体癌、食道癌、星状細胞腫、軟組織肉腫、非小細胞肺癌、肺の腺癌、肺の扁平上皮癌、腹膜の癌、肝細胞性癌、胃腸癌、膵癌、神経膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、肝腫瘍、乳癌、大腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜又は子宮上皮癌、唾液腺上皮癌、腎臓癌、肝癌、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝臓癌、脳癌、子宮体癌、精巣癌、胆管癌、胆嚢カルチノーマ、胃癌、メラノーマ、及び様々なタイプの頭頸部癌が含まれる。血管新生の調節不全により、本発明の組成物及び方法により治療されうる多くの疾患が引き起こされうる。これらの疾患には、非腫瘍性及び腫瘍性の両方の状態が含まれる。腫瘍性状態には上記のものが含まれるが、これに限定されるものではない。非腫瘍性疾患には、限定するものではないが、例えば、望ましくない又は異常な肥大、関節炎、関節リウマチ(RA)、乾癬、乾癬のプラーク、サルコイドーシス、アテローム性動脈硬化、アテローム硬化性プラーク、未熟児の網膜症を含む糖尿病性及び他の増殖的な網膜症、水晶体後繊維増殖、血管新生緑内障、年齢関連性黄斑変性、糖尿病性黄斑浮腫、角膜血管新生、角膜移植片血管新生、角膜移植片拒絶、網膜/脈絡叢血管新生、角度(ルベオーシス)の血管新生、眼性新生血管疾患、血管再狭窄、動静脈奇形(AVM)、髄膜腫、血管腫、血管線維腫、甲状腺の過形成(甲状腺機能亢進症を含む)、角膜及び他の組織移植、慢性の炎症、肺炎症、急性の肺損傷/ARDS、敗血症、原発性肺高血圧症、悪性の肺滲出、大脳浮腫(例えば、急性の脳卒中/非開放性頭部損傷/外傷と関係するもの)、滑液炎症、RAのパンヌス形成、筋炎骨化(myositis)、肥大性骨形成、骨関節炎(OA)、抵抗性腹水、多嚢胞性卵巣疾患、子宮内膜症、体液疾患(膵炎、コンパートメント症候群、熱傷、腸疾患)の第3の間隔、子宮類線維腫、早産、IBDなどの慢性炎症(クローン病及び潰瘍性大腸炎)、腎臓同種異系移植片拒絶反応、炎症性腸疾患、ネフローゼ症候群、望ましくない又は異常な組織塊成長(非癌)、出血性関節、肥大性瘢痕、体毛成長の阻害、オスラー-ウェーバー症候群、化膿肉芽腫水晶体後繊維増殖、強皮症、トラコーマ、血管癒着、関節滑膜炎、皮膚炎、子癇前症、腹水、心嚢貯留液(心外膜炎と関係するものなど)及び胸水が含まれる。
【0089】
「白血病」なる用語は、造血組織、他の臓器、しばしば血液中の白血球細胞(白血球)数の異常な増加を特徴とする急性又は慢性疾患を指す。白血病は、限定されないが、T−系統急性リンパ芽球性白血病(T−ALL)並びに他のリンパ球性白血病;成人T細胞白血病/リンパ腫、慢性骨髄性(骨髄性)白血病(CML)、急性骨髄性(骨髄性)白血病(AML)、及び他の顆粒球性白血病及び系列スイッチ白血病を含む急性リンパ芽球性白血病(ALL)を含む。
【0090】
「T細胞白血病」なる用語は、T−系列リンパ芽球又はTリンパ球の数の異常な増加によって特徴づけられる白血病を指す。
【0091】
「T細胞前駆細胞白血病」は、T−系列リンパ芽球の数の異常な増加によって特徴づけられる白血病を指す。
【0092】
「GSI応答性癌」はガンマセクレターゼ阻害剤に応答し、又はそれで治療された場合にガンマセクレターゼ阻害剤に応答するであろう癌(白血病など)である。
【0093】
治療薬に 「応答する」癌は、癌又は腫瘍の進行において有意な減少を示すものであり、限定されないが、(1)減速、及び完全な成長停止を含む腫瘍増殖のある程度の阻害;(2)癌又は腫瘍細胞数の減少;(3)腫瘍の大きさの縮小;(4)隣接する末梢器官及び/又は組織へ癌細胞の浸潤の阻害(すなわち、減少、減速又は完全な停止);(5)転移の阻害(すなわち、減速又は完全な停止)を含む。
【0094】
「Notch1特異的アンタゴニストに応答しない」癌は、(他のノッチアンタゴニスト、すなわち、Notch2、Notch3又はNotch4アンタゴニストの非存在下で)Notch1特異的アンタゴニストによる治療に応答しないか、又は与えられた場合にそうした治療に応答しないであろう癌である。
【0095】
本明細書中で使用される、「治療」(「治療する(treat)」又は 「処理(treat)」などのバリエーション)とは、治療を受けている個体又は細胞の自然経過を変化させる試みにおける臨床的介入を意味し、予防のため又は臨床病理の経過の最中の何れかで実行することができる。治療の望ましい効果は、病気の発生や再発を防ぎ、症状の緩和、病気の直接的又は間接的な病理学的影響の縮小、転移の予防、疾患の進行速度を低下、疾患状態の改善又は緩和、寛解又は改善された予後を含む。
【0096】
「個体」、「被検体」、又は「患者」は脊椎動物である。所定の実施態様において、脊椎動物は哺乳動物である。哺乳動物とは、限定されないが、農場の動物(例えば、牛など)、スポーツ動物、ペット(例えばネコ、イヌ、馬など)、霊長類、マウス、ラットを含む。所定の実施態様において、哺乳動物はヒトである。
【0097】
「薬学的製剤」なる用語は、有効である活性成分の生物学的活性を許容するような形態で存在し、製剤を投与する被検体にとって許容できない毒性がある他の成分を含まない調製物を指す。このような製剤は無菌であってよい。
【0098】
「有効量」とは所望の治療又は予防結果を達成するために必要な用量及び期間での効果的な量を意味する。
【0099】
本発明の実施態様
本発明は、T−ALLの異なるクラスの特性評価に、部分的に関連する。T−ALLの一クラスは、pan−Notch阻害剤であるGSIによる治療に感受性であり、また、Notch1特異的アンタゴニストによる治療に感受性であり、Notch1はT−ALLのこのクラスを特異的に駆動することを示している。T−ALLの別のクラスは、GSIによる治療に感受性であるが、Notch1特異的アンタゴニストでの治療には反応がなく(すなわち、耐性)、代替又は追加のNotch受容体がT−ALLのこのクラスを駆動する可能性があることを示している。本明細書に示すように、本発明者らは、T-ALLのこの後者のクラスはNotch3特異的アンタゴニストによる治療に一部は感受性であり、かつNotch1特異的アンタゴニスト及びNotch3特異的アンタゴニストの組み合わせにより一層感受性があることを発見した。これらの結果は、白血病、特T−ALLなどのT細胞白血病及びT細胞前駆細胞白血病におけるNotch1及びNotch3の両方の役割を示唆している。
【0100】
A.治療の方法
1.単独又はNotch1特異的アンタゴニストと組み合わせたNotch3特異的アンタゴニストによる癌の治療
本発明の様々な態様では、GSI応答性癌の治療方法は、そうした癌に罹患した患者に、Notch3特異的アンタゴニストの有効量を投与することを含む方法を提供する。所定の実施態様において、GSI応答性癌は白血病である。所定の実施態様において、GSI応答性癌はNotch1特異的アンタゴニストに応答せず、例えば、癌は活性化Notch3のレベルを著しく増加させるか、及び/又は癌は活性化Notch1のレベルが欠損しているか、又は低下させる。更なる実施態様において、本方法はさらに、Notch1特異的アンタゴニストの有効量を投与する工程を包含する。本発明のこれら及び更なる態様は、以下に記載される。
【0101】
本発明の特定の態様において、Notch1特異的アンタゴニストに応答しないGSI応答性白血病の治療方法が提供され、その方法は、そうした白血病に罹患した患者にNotch3特異的アンタゴニストの有効量を投与することを含む。
【0102】
GSI応答性性白血病は、さまざまな方法によって特定され得る。例えば、白血病を有する患者は、白血病がGSI応答性であるかどうかを決定するためにGSIで治療され得る。そのようなGSIは有意にNotch受容体を阻害する任意のGSIを含めることができる。そのようなGSIは、限定されないが、N-[N-(3,5-ジフルオロフェンアセチル)-L-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル(DAPT);ジベンザゼピン;MK-0752(Merck);トリペプチドz-Leu-Leu-Nle-CHO (Curry et al., Oncogene 24:6333-6344); and cbz-IL-CHO (Weijzen et al., Nat. Med. 8:979-986, 2002)を含む。しかしながら、白血病を有する患者は、白血病がGSI応答性であるかどうかを判断するために、GSIにより治療されている必要はないことが留意される。他の方法を用いることができる。例えば、患者から除去された白血病細胞は、GSI、例えば上記にリストされたものの何れかの存在下で、細胞増殖又は生存について評価することができる。更なる例において、患者から除去された白血病細胞は、一又は複数のNotch受容体によるNotchシグナル伝達の増加について検討され、その細胞がGSI応答性であることを予測することができる。例えば、細胞はNotch受容体の変異、過剰発現、又は活性化の存在について評価することができる。上記と同様の方法は、任意の癌がGSI応答性であるかどうかを判断するために使用され得る。
【0103】
白血病(例えば、GSI応答性白血病)は、様々な方法により、Notch1特異的アンタゴニストに応答しないものとして同定することができる。例えば、白血病を有する患者は、白血病がNotch1特異的アンタゴニストに応答するかどうかを決定するために、Notch1特異的アンタゴニストで治療することができる。所定の実施態様において、白血病に対して応答しないNotch1特異的アンタゴニストは抗Notch1アンタゴニスト抗体である。そうした実施態様の一つにおいて、抗Notch1アンタゴニスト抗体は、Notch1の細胞外ドメインに結合し、Notch1シグナル伝達を減少させる効果のある抗体である。そうした実施態様の一つにおいて、抗Notch1アンタゴニスト抗体は抗Notch1 NRR抗体である。抗Notch1 NRR交代は、限定されないが、米国特許出願公開第2009/0081238(A1)号に開示された、抗Notch1 NRR抗体の何れかを含み、出典明示によりその全体が本明細書に明示的に援用される。そうした抗体は、限定されないが、Notch1 NRRに0.1μM以下の親和性で結合する抗Notch1 NRR抗体;Notch1 NRRのLNR−A、LNR−B及びHD−Cに結合する抗Notch1 NRR抗体;または上記の組み合わせを含む。典型的な抗Notch1 NRR抗体としては、限定されないが、米国特許出願公開第2009/0081238(A1)号に記載された抗体、A、A−1、A−2、A−3、又は抗体、A、A−1、A−2、A−3から選択される抗体の重鎖及び軽鎖可変領域のCDRを含む抗体を含む。その他のそうした実施態様において、抗Notch1アンタゴニスト抗体は、Notch1の一つ以上のEGF様リピートに結合する抗Notch1抗体である。このような抗体の例は、国際公開第2008/091641号に記載されている。所定の実施態様において、一つ以上のEGF様リピートに結合する抗Notch1抗体は、Notch1へのリガンドの結合を有意に遮断することによって、Notch1シグナル伝達の減少に影響する。
【0104】
しかしながら、白血病を有する患者は、白血病がNotch1特異的アンタゴニストに応答しないものであるかどうかを判断するために、Notch1特異的アンタゴニストで治療されている必要はないことが留意される。他の方法を用いることができる。例えば、患者から除去された白血病細胞は、Notch1活性化の欠損又は減少、又は所定の実施態様において、野生型Notch1の存在について評価することができ、これは白血病がNotch1特異的アンタゴニストに応答しないものであることを予測するだろう。例えば、細胞は、Hey1及びHey2などのNotch1標的遺伝子の欠損又は転写の減少を評価することによって、Notch1シグナル伝達の欠損又は減少について評価することができる。更なる例において、細胞はNotch1シグナル伝達の欠損又は減少について、Notch1の活性化型の欠損又は減少を検出することにより、例えば、抗活性化Notch1 Val1744などの活性化Notch1特異的な抗体(Cell Signaling Technologiesから購入できる)を用いて評価することができる。所定の実施態様において、適切なコンパレータ細胞(陽性コントロール)は、Notch1特異的アンタゴニストに応答する白血病細胞、例えば、Notch1経路が活性化されている白血病細胞であってもよい。そのようなコンパレータ細胞は、例えば、HPB−ALL細胞のように、Notch1が過剰発現され、変異され(例えば、Notch1活性化変異を持ち)又は活性化(例えば、構成的活性化)されることが知られているT−ALL細胞を含み得る。患者から除去された白血病細胞が、コンパレータ細胞に比べて、活性化Notch1を欠損しているか、又は有意にレベルを低下させている場合は、患者の白血病では、推定上Notch1特異的アンタゴニストに応答しないものである。
【0105】
白血病細胞はまた、Notch3経路が活性化されていること、従って白血病はNotch1特異的アンタゴニストに応答しないものになると予測されていることを示している、Notch3の活性化について評価することができる。一実施態様において、白血病細胞はNotch3の過剰発現、変異又は活性化の存在について検査され得る。所定の実施態様において、Notch3活性化状態を評価する目的に適したコンパレータ細胞(陰性コントロール)は、Notch1特異的アンタゴニストに応答する白血病細胞、例えば、Notch1経路が活性化されている白血病細胞であってもよい。そのようなコンパレータ細胞は、例えば、mHPB−ALL細胞など、Notch1が過剰発現され、変異され、又は活性化されることが知られているT−ALL細胞を含み得る。このような細胞においては、Notch3が有意に活性化されることは期待されていない。従って、患者から除去された白血病細胞が、コンパレータ細胞に比べて活性化Notch3のレベルが有意に増加させている場合は、患者の白血病は推定上Notch1特異的アンタゴニストに応答しないものである。所定の他の実施態様において、適切なコンパレータ細胞(陽性コントロール)は、TALL−1細胞など、Notch3が、過剰発現され、変異され、又は活性化されることが知られている白血病細胞であってもよい。そのような細胞において、Notch3は活性化Notch3のレベルを有意に増加させていることが予想される。従って、患者から除去された白血病細胞がコンパレータ細胞に比べて活性化Notch3の同等レベルを有する場合には、患者の白血病は、推定上Notch1特異的アンタゴニストに応答しないものである。上記と同様の方法は、任意の癌が、Notch1特異的アンタゴニストに応答しないものかどうかを決定するために使用することができる。
【0106】
Notch3活性化状態を評価するための有用なツールは、例で説明した新規抗Notch3 ICD抗体であり、活性化Notch3 ICDに結合する。
【0107】
所定の実施態様において、投与されるNotch3特異的アンタゴニストは、抗Notch3アンタゴニスト抗体である。そのような実施態様の一つにおいて、抗Notch3アンタゴニスト抗体は、Notchの細胞外ドメインに結合する抗体であり、Notch3シグナル伝達の減少を生じさせる。そのような実施態様の一つにおいて、抗Notch3アンタゴニスト抗体は、抗Notch3 NRR抗体である。抗Notch3 NRR抗体は、限定されないが、米国特許出願公開第2008/0226621(A1)号に開示されている抗Notch3 NRR抗体の何れかを含み、本明細書にてその全体が出典明示により明示的に援用される。そのような抗体は、限定されないが、Notch3 NRRのLNR−Aドメイン及びHD−Cドメインに結合する、抗Notch3 NRR抗体を含む。典型的な抗Notch3 NRR抗体は、米国特許出願公開第2008/0226621(A1)号に記載されたモノクローナル抗体256A−4及び256A−8、及びそのヒト化型、並びに抗体256A−4又は256A−8の重鎖及び軽鎖可変領域のCDRを含む抗Notch3 NRR抗体である。その他のそうした実施態様において、抗Notch3アンタゴニスト抗体は、Notch3の一つ以上のEGF様リピートに結合する抗Notch3抗体である。そのような抗体の例はLi et al., J. Biol. Chem. 283:8046-8054, 2008に記載されている。所定の実施態様において、Notch3の一つまたは複数のEGF様リピートに結合する抗Notch3抗体は、Notch3に対するリガンドの結合を有意にブロックすることにより、Notch3シグナル伝達の減少を生じさせる。
【0108】
所定の実施態様において、白血病はT細胞白血病である。所定のそうした実施態様において、T細胞白血病はT細胞前駆細胞白血病である。所定のそうした実施態様において、T細胞前駆細胞白血病は、T−ALLである。
【0109】
更なる実施態様において、Notch1特異的アンタゴニストに応答しないGSI応答性癌を治療する方法が提供され、その方法は、そうした癌を有する患者にNotch3特異的アンタゴニストの有効量を投与することを含み、かつ更にそうした患者にNotch1特異的アンタゴニストの有効量を投与することを含む。所定の実施態様において、GSI応答性癌は、GSI応答性白血病である。所定の実施態様において、投与されるべきNotch1特異的アンタゴニストは、抗Notch1のアンタゴニスト抗体である。そうした実施態様の一つにおいて、抗Notch1アンタゴニスト抗体は、Notch1の細胞外ドメインに結合し、Notch1シグナル伝達を減少を生じさせる抗体である。そうした実施態様の一つにおいて、抗Notch1アンタゴニスト抗体は、抗Notch1 NRR抗体である。抗Notch1 NRR抗体としては、限定されないが、米国特許出願公開第2009/0081238(A1)号に開示されている抗Notch1 NRRの抗体の何れかを含み、出典明示により本明細書に明示的に援用される。そのような抗体は、限定されないが、0.1μM以下の親和性でNotch1 NRRに結合する抗Notch1 NRR抗体;Notch1 NRRのLNR−A、LNR−B及びHD−Cに結合する抗Notch1 NRR抗体;又は上記の組合わせを含む。典型的な抗Notch1 NRR抗体は、限定されないが、米国特許出願公開第2009/0081238(A1)号に記載された抗体、A、A−1、A−2、A−3、及び抗体、A、A−1、A−2、A−3から選択された抗体の重鎖及び軽鎖可変領域CDRを含む抗体を含む。別のそうした実施態様において、抗Notch1アンタゴニスト抗体は、Notch1の一つ以上のEGF様リピートに結合する抗Notch1抗体である。そのような抗体の例は、国際公開第2008/091641号に記載されている。所定の実施態様において、Notch1の一つ以上のEGF様リピートに結合する抗Notch1抗体は、Notch1に対するリガンドの結合を有意にブロックすることにより、Notch1シグナル伝達の減少を生じさせる。
【0110】
2.Notch1特異的アンタゴニストによる白血病の治療
本発明の更なる態様は、GSIに応答性であり、またNotch1特異的アンタゴニストにも応答性であるが、Notch3特異的アンタゴニストに応答せず、Notch1がT−ALLを駆動することを示している、T−ALLの一クラスの同定に一部は基づく。本発明の様々な態様において、GSI応答性癌の治療方法が提供され、その方法はそうした癌を持つ患者にNotch1特異的アンタゴニストの有効量を投与することを含む。所定の実施態様において、GSI応答性癌は白血病である。所定の実施態様において、GSI応答性癌はNotch3特異的アンタゴニストに応答せず、例えば、癌は(例えば、Notch3特異的アンタゴニストに応答するコンパレータ細胞に比べた場合)活性化Notch1のレベルが欠損しているか、又は低下させ、及び/又は(例えば、Notch1特異的アンタゴニストに応答しないコンパレータ細胞に比べた場合)活性化Notch1のレベルを有意に増加させる。
【0111】
所定の実施態様において、白血病はGSIに対する感受性により、及びNotch1特異的アンタゴニストに対する感受性により特徴付けられる白血病のクラスに属す。一実施態様において、白血病はT細胞白血病である。そうした実施態様の一つにおいて、T細胞白血病はT細胞前駆細胞白血病である。そうした実施態様の一つにおいて、T細胞白血病は、T−ALLである。その他の実施態様において、白血病はNotch1の活性化突然変異によって特徴付けられる。所定の実施態様において、Notch1特異的アンタゴニストは、上記の提供されるものの何れかである。更なる実施態様において、Notch3特異的アンタゴニストは、上記に提供されるものの何れかである。
【0112】
B.組成物及び診断法
本発明は更に、活性化ヒトNotch3 ICDに結合する抗体を提供する。一実施態様において、抗体は配列VMVARRKREHSTLW(配列番号4)に結合する。一実施態様において、抗体はポリクローナルである。上記の実施態様は単独又は組み合わせて存在し得る。
【0113】
そのような抗体は例えば、上記のようにNotch3特異的アンタゴニストによる治療に適した患者集団を同定するなどの診断方法において有用である。従って、所定の実施態様において、Notch3のアンタゴニストによる治療に適した癌を同定する方法が提供され、その方法はNotch3が癌において活性化されるかどうかを決定することを含む。一実施態様において、癌はGSI応答性癌である。その他の実施態様において、癌は白血病である。その他の実施態様において、白血病はT細胞白血病である。そのような実施態様の一つにおいて、T細胞白血病はT細胞前駆細胞白血病である。のような実施態様の一つにおいて、T細胞白血病は、T−ALLである。
【0114】
更なる実施態様において、Notch3が癌において活性化されているかどうかを決定することは、活性化Notch3 ICDを結合する抗体と癌のサンプルを接触させること、及び活性化Notch3の有意な増加レベル(活性化Notch3 ICDのレベルによって反映される)が存在するかどうかを決定することを含み、そこで活性Notch3の有意な増加レベルが存在することは、癌がNotch3のアンタゴニストによる治療に適していることを示している。活性化Notch3の有意な増加レベルがサンプル中に存在するかどうか決定するために、適切なコンパレータ(陽性コントロール)は、例えばNotch3のアンタゴニストに応答することが知られている癌に由来するサンプルであり得る。もし、「テスト」サンプル及び「コントロール」サンプルが活性化Notch3の同等のレベルを含む場合には、「テスト」サンプルが取得された癌は、Notch3のアンタゴニストによる治療に適している。他の適切なコンパレータ(陰性コントロール)は、例えばNotch3のアンタゴニストに応答しない癌由来のサンプルであり得る。「テスト」サンプルが、コントロールサンプルと比較して活性化Notch3のレベルの有意な増加を含む場合には、「テスト」サンプルが取得された癌は、Notch3のアンタゴニストによる治療に適している。上記方法の所定の実施態様において、Notch3のアンタゴニストはNotch3特異的アンタゴニストである。所定の実施態様において、Notch3特異的アンタゴニストは、上述のものの何れかである。
【実施例】
【0115】
T−ALLは3つのクラスに分類される。
以前の研究ではT−ALL細胞株はGSIによる治療に対して感受性又は非感受性であることが示されている。例えば、所定のT−ALL細胞株は、活性化Notch1変異の発現にも関わらず、恐らくは非Notch経路、例えばNotchの必要性を回避する経路の活性化により、GSIに対して耐性である(例えば、Palomero et al., Nat. Med. 13:1203-1210, 2007を参照)。しかしながら、一つの研究では、30のT−ALL細胞株のうち5つがGSI感受性であり、GSIに応答して細胞周期の停止を示した(Weng et al., Science, 306:269-271, 2004を参照)。下記の研究では、GSIに対してのみならずNotch1及びNotch3特異的アンタゴニストに対するT−ALL細胞株の応答を更に探索した。T−ALLの3つのクラスは、GSI及びNotch1特異的アンタゴニストに対するそれらの感受性に基づいて特徴づけられた。以下の研究で使用されたNotch1特異的アンタゴニストは、抗Notch1 NRRの「抗体A−2」であり。その単離及び特性評価は米国特許出願公開第2009/0081238(A1)号において議論されている。便宜上、本明細書において「抗体A−2」は「抗NRR1」と呼ばれ、また、図中では「α−Notch1」、「aNotch1」、又は「α−N1」とも呼ばれる。
【0116】
図3−5は3つの代表的なヒトT−ALL細胞株の分類を示す。それらの細胞株は、P−12 Ichikawa細胞株、HPB−ALL細胞株、及びTALL−1細胞株を含む。細胞は、コントロール条件下(DMSOのみ(DAPTのビークル)又は抗gD(アイソタイプコントロール抗体));ガンマセクレターゼ阻害剤、DAPT(5μM);又は抗NRR1(5μg/ml)の存在下で8日間生育させた。細胞は、標準的な手順に従って、固定され、ヨウ化プロピジウムで染色され、細胞周期の状態を分析するためのFACS用に調製した。増殖感受性は、与えられた治療がS/G2/Mの細胞の割合の対応する減少を伴い、G0/G1の細胞の割合の増加を引き起すかどうかを検討することにより評価された。結果は、P−12 Ichikawa細胞は、DAPT処置細胞、抗NRR1処置細胞、及びコントロール(DMSO及び抗−gD−処置)細胞間での細胞周期状態に有意な相違を伴わずに、DAPT及び抗NRR1の両方に耐性であることを示している(図3A−3D)。HPB−ALL細胞は、コントロール細胞のG0/G1の細胞が約33−34%であることに比べ、DAPT処置及び抗NRR1処置を受けた細胞のそれぞれ約78%及び76%がG0/G1の細胞であることを示しており、DAPT及び抗NRR1の両方に感受性である。TALL−1細胞は、抗NRR1処置細胞の約55%及びコントロール細胞の約53−54%に比べて、DAPT処置細胞の約87%がG0/G1であり、DAPTに感受性であるが抗NRR1に対して耐性である(図5A−5D)。Notch1はTALL−1細胞において変異してないことが留意される。更なる研究が、第四細胞株、CCRF−CEMは、P−12 Ichikawa細胞と同じクラス(つまり、GSI及び抗NRR1の両方に耐性)に分類されることを明らかにした(データは示さず、及び図10)。
【0117】
図6に示すように、細胞の大きさの測定は、T−ALLのこれらの3つのクラスを反映している。P−12 Ichikawa細胞株、HPB−ALL細胞株、及びTALL−1細胞株は、コントロール条件下(DMSOのみ(DAPTのビークル)又は抗gD(アイソタイプコントロール抗体));ガンマセクレターゼ阻害剤、DAPT(5μM);又は抗NRR1(5μg/ml)の存在下で一週間生育させた。細胞の直径はセルカウンター(Vi−セル、ベックマン・コールター)を用いて測定した。増殖阻害試験と一致して、P−12 Ichikawa株は、処置細胞及びコントロール細胞の間で相対的に一致した細胞の直径により示されるように、DAPT及び抗NRR1の両方に耐性がある。HPB−ALLは、これらの薬剤それぞれで処置された細胞の有意に小さなサイズで示されるように、DAPT及び抗NRR1の両方に感受性である。TALL−1は、DAPT又はコントロール薬剤ではなく、DAPTにより処置された細胞の有意に小さなサイズで示されるように、DAPTに対して感受性があるが、抗NRR1に対して耐性である。これらの結果は、上記の増殖の研究と一致している。
【0118】
図7に示すように、アポトーシスの測定はまた、T−ALLのこれらの3つのクラスを反映している。P−12 Ichiwaka細胞株、HPB−ALL細胞株、及びTALL−1細胞株は、図6に関して上述した通りに処置された。細胞は、図7のx軸上の7−AADの染色(細胞死のマーカー)、及び図7のy軸上のアネキシンVの染色(アポトーシスのマーカー)により、FACSにより分析した。二重陽性集団における細胞の割合に基づき、DAPT又は抗NRR1の何れかによる処置はHPB−ALL細胞におけるアポトーシス細胞死を増加させる。対照的に、P−12 Ichikawa細胞は、両方の治療に耐性があるが、TALL−1細胞はDAPTに感受性であるが抗NRR1に対しては無い。これらの結果は、上述した増殖の研究及び細胞の直径の測定と一致している。
【0119】
図8に示すように、細胞増殖アッセイの結果はまた、T−ALLのこれらの3つのクラスを反映している。P−12 Ichikawa細胞株、HPB−ALL細胞株、及びTALL−1細胞株は、図6に関して上述した通りに処置された。細胞は、増殖をマークするKi−67の染色を用いてFACSにより分析した(左パネル)。左へのFACSピークのシフトは、Ki−67に対するより弱い染色、及び増殖の減少を示し、逆に、右へのFACSのピークのシフトは、Ki−67に対する強い染色、及び増殖の増加を示している。この増殖アッセイに基づき、HPB−ALLはDAPT及び抗NRR1の両方に対して感受性があり、TALL−1は、DAPTに対して感受性があるが、抗NRR1に対しては無く、P−12 Ichikawa細胞は両方に耐性であった。再び、これらの結果は、上記の他のアッセイ、並びに図8の右側のパネルに示されているアポトーシス測定によるものと一致している。そのパネルには、アネキシンV/7−AADの2重陰性(非アポトーシス)細胞の細胞数を示している。低細胞数(すなわち、アネキシンV/7−AAD二重陰性(非アポトーシス)細胞の低い数字)はアポトーシスの増加を示し、左側のパネルにおける増殖の減少と順に相関している。
【0120】
B.GSI応答性、抗NRR1耐性TALL−1細胞は、Anti−NRR3に部分的に感受性がある。
上述したように、T−ALLの3つのクラスの2つは、HPB−ALL及びTALL−1により表され、両方ともGSIに感受性であるが、前者は、抗NRR1に感受性であるが、後者ではないことが異なる。GSIに対する感受性は、1つまたは複数のNotch受容体の果たす役割を示唆しているため、我々は、Notch1に加えて又はその代替のNotch受容体が、T−ALLの後者のクラスの抗Notch1 NRRに対する耐性に役割を果たしているかどうかを尋ねた。この問題に取り組むために、CCRF−CEM細胞、HPB−ALL細胞、及びTALL−1細胞は、増殖がNotch3シグナル伝達に依存するかどうかをテストするために、処置のサブセットにおいてNotch3特異的アンタゴニストも10μg/mlで含まれたことを除き、図3−5に記載されるように処置された。これらの研究で使用されているNotch3特異的アンタゴニストは、マウス抗ヒトNotch3モノクローナル抗体256A−4であり、その単離及び特性評価は米国特許出願公開第2008/0226621(A1)号で議論されている。便宜上、本明細書において256A−4は「抗NRR3」として呼ばれ、図では「α−N3」とも呼ばれる。
【0121】
結果は、TALL−1の増殖は、抗NRR3に対して部分的に感受性であり、かつ、抗NRR1+抗NRR3に対してよりいっそう感受性であることを示し(図9A−9Fを参照)、Notch3並びにNotch1を介したシグナル伝達が、なぜ細胞株がDAPTに感受性であって抗NRR1には無いのかを説明していることを示唆している。具体的には、TALL−1細胞のほぼ83%は、コントロール(DMSO処置又はα−GD処置)細胞における約53−54%に比べて、DAPT処理後にG0/G1であった。抗NRR3による処置はG0/G1の細胞が約61%という結果となり、抗NRR1の添加はこの数値を約68%に増加させた。対照的に、CCRF−CEMは、試験された処置の全てに耐性であるように見え(図10A−10F)、各々はG0/G1の細胞の約52−57%から示している。HBP−ALLはDAPT及び抗NRR1処置の両方に感受性であり(各々はG0/G1の細胞が約67%であることを示す)、抗NRR3処置に感受性でない(G0/G1の細胞が約37%であることを示す)ように見える(図11A−11F)。
【0122】
図9B−9Fに記載の上記の実験結果が図14に再プロットされる。TALL−1細胞培養は、約5x10細胞/mlで開始され、指定された条件下で処置した後、図9B−9Fについて記載されたように、y軸は、数百万の細胞の、細胞数/mlである。図14は、抗NRR1及び抗NRR3は各々個別に低い細胞数になったことを示している。しかしながら、抗NRR1及び抗NRR3の組み合わせは、DAPTで見られたレベルに近づいて、細胞数を下げることにおいてより顕著な効果を持っていた。
【0123】
C.Notch3は、抗NRR3感受性細胞において活性化される
T−ALLの3つのクラスにおけるNotch3の活性化状態を調べるために、切断された(すなわち、活性化)Notch3 ICDを認識する新しい抗Notch3 ICD抗体が開発された。標準的な手順を使用して、ウサギポリクローナル抗体が、S3部位でのγ−セクレターゼの切断に起因すると予想されるNotch3 ICDのN末端に相当するペプチドに対して産生された。使用されるペプチド配列はVMVARRKREHSTLW(配列番号4)であった。ペプチドは、免疫化のためにBSAに結合させた。ポリクローナル抗体は、図12に示すように、プロテインAカラムで精製され、次いでイムノブロット法に使用された。抗体が、細胞核の、切断されたNotch3 ICDを認識するかどうかをテストするために、基底乳癌細胞株のMDA−MB−468が使用された。この株はNotch3の高いレベルを発現する。細胞は、Notchシグナル伝達を誘導するために固定化したJag1(R&D Systems)(又はコントロールとしてFc)で処置され、細胞質(C)及び核(N)の分画は誘導後に指定された時点で分離された。Jag1誘導無しに存在するNotch3 ICDのレベルを調べるためのコントロールとして、誘導されなかった細胞は、Notch3 ICDを安定化するために、指示されたように、DAPT(5μM)、DMSO(DAPTのビークル)、又はプロテアーゼ阻害剤MG132により処置された。CREB及びチューブリンは、それぞれ核及び細胞質タンパク質のマーカーとしての役割を果たした。抗Notch3 ICD抗体は、核に局在し、Jag1によって誘導される、期待されたサイズのバンドを認識することを示している。
【0124】
この新しい抗Notch3 ICD抗体は、次いでT−ALLの3つのクラスにおいてNotch3の活性化状態を調べるするために使用された。図13に示されるように、P12 Ichikawa細胞、HPB−ALL細胞、及びTALL−1細胞の核画分は、切断された、活性化Notch1 ICDを認識する市販のポリクローナル抗体(Cell Signaling Technologies)である抗Notch1 Val1744(上段パネル)か、又は抗Notch3 ICD抗体(α−N3 ICD Y935、下段パネル)でイムノブロットされた。Notch1を発現する3T3細胞(3T3−N1)、及びMDA−MB−468(MB468)細胞がコントロールとして用いられた。前の図で説明した増殖阻害試験と一致して、TALL−1は活性化Notch3を高いレベルで発現するが、活性化Notch1は発現しない(上段と下段それぞれのTALL−1レーンを比較せよ)。更に、TALL−1における活性化Notch3の生成は、DAPTによりブロックされる可能性があるが、抗NRR1ではブロックされない(下段パネル)。更に、予想されるように、HPB−ALL細胞は活性化Notch1を高いレベルで発現し、それはDAPT又は抗NRR1抗体によってブロック可能である(上段のHPB−ALLレーンを参照)。コントロールに関しては、活性化Notch1は、Jagged(+jag)で処置された3T3−N1細胞内に、淡い、上にシフトしたバンドとして見られる(上段パネル)。更にに、活性化Notch3はDAPTの非存在下で抗Notch3アゴニスト抗体(米国特許出願公開第2008/0118520(A1)号に256A−13として記載された、A13)で処置されたMDA−MB−468細胞において、かすかではあるが検出可能なバンドとして見られる(下段パネル)。前述の発明は、理解の明確さの目的のために図解及び実施例により詳細に記載されたが、その説明や実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に引用される全ての特許文献及び科学文献の開示は出典明示によりその全体が明示的に援用される。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Notch1特異的アンタゴニストに応答しないGSI応答性T細胞白血病を治療する方法であって、そのような白血病を有する患者にNotch3特異的アンタゴニストの有効量を投与することを含む方法。
【請求項2】
T細胞白血病が、リンパ芽球性白血病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
T細胞白血病が、T−ALLである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Notch3特異的アンタゴニストが、抗Notch3アンタゴニスト抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
抗Notch3アンタゴニスト抗体が、抗Notch3 NRR抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抗Notch3 NRR抗体が、Notch3 NRRのLNR−Aドメイン及びHD−Cドメインに結合する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
抗Notch3 NRR抗体が、抗体256A−4又は256A−8のヒト化形態である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
抗Notch3 NRR抗体が、抗体256A−4又は256A−8の重鎖及び軽鎖可変領域のCDRを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
抗Notch3アンタゴニスト抗体が、Notch3の一つ以上のEGF様リピートに結合する抗Notch3抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
Notch1特異的アンタゴニストの有効量を投与することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
Notch1特異的アンタゴニストが、抗Notch1アンタゴニスト抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
抗Notch1アンタゴニスト抗体が、抗Notch1 NRR抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
抗Notch1 NRR抗体が、Notch1 NRRのLNR−Aドメイン、LNR−Bドメイン、及びHD−Cドメインに結合する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
抗Notch1 NRR抗体が、抗体A、A−1、A−2、A−3から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
抗Notch1 NRR抗体が、抗体A、A−2、A−3から選択される抗体の重鎖及び軽鎖可変領域のCDRを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
抗Notch1アンタゴニスト抗体が、Notch1の一つ以上のEGF様リピートに結合する抗Notch1抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
活性化Notch3 ICDに特異的に結合する抗体。
【請求項18】
抗体が、配列番号4のペプチドに結合する、請求項17に記載の抗体。
【請求項19】
抗体が、ポリクローナルである、請求項17に記載の抗体。
【請求項20】
抗体が、モノクローナルである、請求項17に記載の抗体。
【請求項21】
Notch3のアンタゴニストによる治療に適している癌を同定する方法であって、癌の試料を請求項17に記載の抗体と接触させ、活性化Notch3のレベルの有意な増加が試料中に存在するかどうかを決定することを含み、活性化Notch3のレベルの有意な増加の存在が、癌がNotch3のアンタゴニストでの治療に適していることを示す方法。
【請求項22】
癌がGSI応答性である、請求項21に記載の方法。

【図2】
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【図3A−B】
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【図3C−D】
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【図4A−B】
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【図4C−D】
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【図5A−B】
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【図5C−D】
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【図6】
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【図8】
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【図9A−B】
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【図9C−D】
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【図9E−F】
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【図10A−B】
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【図10C−D】
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【図10E−F】
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【図11A−B】
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【図11C−D】
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【図11E−F】
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【図14】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2013−506675(P2013−506675A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532248(P2012−532248)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/050610
【国際公開番号】WO2011/041336
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】