説明

OVD転写箔、及びこれを用いた偽造防止媒体

【課題】転写時にのみ転写層が容易に支持体から剥離し、それ以外では容易に剥離しない転写性と、OVDを物理的及び化学的損傷から保護する高い耐性と、転写層が転写された媒体の転写部分を折り曲げてもクラック等が生じない柔軟性を有するOVD転写箔、及び物理的と化学的損傷に強くて柔軟性にも優れていて、物理的や化学的な損傷に対してOVDの光学的効果が失われ難く、偽造改竄に対する防止効果が高い偽造防止媒体の提供を目的とする。
【解決手段】
支持体上に、該支持体に対して剥離性を有する剥離保護層、OVD形成層、OVD効果層、及び接着層が少なくともこの順で積層されてなる転写層が設けられているOVD転写箔であって、該剥離保護層はポリメタクリル酸メチル(PMMA)と、ポリアミド樹脂を含有し、その含有比率が、重量比でPMMAが1に対しポリアミド樹脂が0.005〜0.5であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OVD転写箔及びこれを用いた偽造防止媒体、特に、転写時にのみ転写層が容易に支持体から剥離し、それ以外では容易に剥離しない転写性と、OVDを物理的及び化学的損傷から保護する高い耐性と、転写層が転写された媒体の転写部分を折り曲げてもクラック等が生じない柔軟性を有するOVD転写箔、及び物理的と化学的損傷に強くて柔軟性にも優れていて、物理的や化学的な損傷に対してOVDの光学的効果が失われ難く、偽造改竄に対する防止効果が高い偽造防止媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、偽造防止手段として、光の干渉や回折や反射等の光学的効果を用いて立体画像や特殊な装飾画像を表現し得る、OVD(Optical Variable Device)が利用されている。OVDの例としてはホログラムや回折格子、見る角度により色の変化(カラーシフト)を生じる多層薄膜、偏光方向差や位相差を利用した液晶デバイス等が挙げられる。これらのOVDは、高度な製造技術を要する事と、独特な光学的効果を有する事から、有効な偽造防止手段として商品券や株券等の有価証券や証明書類等に取り付けられている。
【0003】
OVDを物品に取り付ける方法としては、物品に直接加工する方法、シール状に加工したOVDを取り付ける方法、転写箔に加工したOVDを熱や圧力で転写する方法等がある。偽造防止手段としてOVDを用いる場合は、偽造改竄防止に有効な薄膜化が可能であるとの理由で、転写箔化したOVDを熱や圧力等で媒体に転写する方法がよく用いられる。
【0004】
OVD転写箔は、通常、支持体の片面に転写層が設けられた構成で、転写の際には、媒体に転写層を転写した後に支持体を剥離除去して使用する。転写層は、支持体側から順に、剥離保護層とOVD形成層、及びOVD効果層と接着層を有する構成である。
【0005】
このような構成のOVD転写箔は、支持体は媒体に転写するまで転写層を保持する機能を持つ。また、転写層中の剥離保護層は転写時に支持体から転写層を剥離させると共に、転写後は媒体に転写された転写層を損傷等から保護する機能を持つ。さらに、OVD形成層は立体画像や特殊な装飾画像等の独特な光学的効果を発現し、OVD効果層はOVD形成層による光学的効果を高める機能を持つ。そして接着層は転写時の熱や圧力によって転写層を媒体に接着させる機能を持つ。
【0006】
ここで、剥離保護層に求められる特性として、転写層が媒体へ転写される際に、支持体から容易に剥離し、また、転写時以外では転写層が支持体から簡単には剥がれない事が挙げられる。更に、転写後にOVD形成層等を覆い最表面に露出する剥離保護層は、OVD形成層による光学的効果を視認するのに十分な透明性と、OVD形成層を物理的や化学的な損傷から保護できるような耐性も求められる。特に、偽造改竄を防止しその真正さを証明する為に用いるOVD転写箔には、物理的や化学的な損傷に対して高い耐性を有している事が重要である。
【0007】
また、転写層を転写させようとする媒体が、例えば有価証券や証明書類等のように、折り曲げ可能である場合には、そこの転写された転写層の部分を含む箇所を折り曲げても、転写層の部分にクラック等が入ってOVDの外観を損ねない事も必要である。その為に、特に転写後に最表面へ露出する剥離保護層は、折り曲げ可能な程度の柔軟性を有していなければならない。
【0008】
転写層を支持体から容易に剥離させる為には剥離保護層を構成する材料として、PMMA等のような硬くて脆い特性を持つ材料が有効であるが、硬くて脆い材料は柔軟性に欠け、折り曲げによるクラック等が生じ易く、転写後にOVDを保護するのに十分な耐性を付与させる事が難しい。また逆に十分な耐性を持たせる為には、剥離保護層の構成材料として、電子線硬化樹脂等を用い、それにより強靭な膜を形成することが有効である(例えば特許文献1参照)が、これらの材料は、膜としての強靭さが、転写時の転写層と支持体との剥離を困難にしてしまうことになる。
【0009】
この為、転写時の剥離性と転写後の耐性のバランスを取る方法として、例えば剥離保護層中に滑材成分を含有させる方法や、支持体と剥離保護層の間に剥離を容易にする為の離形層を設ける方法が提案されている。しかし、滑材成分を含有させる場合は、滑材成分の為に剥離保護層の透明性が失われ、転写後のOVDの視認性が悪化する問題や、滑材成分が転写時に表面へ析出し、粉を吹いたような現象を起こす問題がある。更に、滑剤成分の含有量によっては剥離保護層自体を脆くし、柔軟性を失わせてしまう傾向がある。一方、支持体と剥離保護層の間に離形層を設けた構成では、剥離が軽くなりすぎてしまい、転写以外の時にも転写層が支持体から剥がれたり、また、転写領域と非転写領域との境界に於いて転写層が綺麗に剪断され難くなる、所謂バリが発生し易くなるという問題を起こす。
【0010】
これらの問題を解決する方法として、例えば、滑材成分による粉ふきや曇りを低減し、且つ転写性や耐性を満足できるように、2層から成る剥離保護層を形成し、それぞれの層に含有させる滑剤成分の量を調節する方法がある(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、転写性や耐性を満足する事ができても、滑材成分による粉ふきや曇りを低減するに留まり、これらの問題を完全に解消する事は困難である。
【0011】
また、例えば、バリの発生を抑える為に、支持体に剥離保護層や接着層等を設けた後、ダイヤモンド等から成る三角州圧子を適当な温度と圧力で押し込み、転写箔を構成する層全体に微小な凹凸を付ける方法がある(例えば、特許文献3参照。)。この場合、バリの発生は著しく抑えられるが、凹凸成形の安定性の悪さが問題となる。より具体的には、三角州圧子を接着層側から押し込んだ後に離脱させる時に、転写層を構成する材料の一部が三角州圧子側へ剥がれて転写箔を破壊する、所謂トラレが発生し、安定して凹凸成形ができない問題がある。よって、このトラレを避ける為に、定期的に三角州圧子を洗浄或いは交換しなければならない。また、三角州圧子による凹凸成形の精度はそのまま転写時の剥離性の良さに影響するので、凹凸成形を大量に安定して行うには、三角州圧子の材質や温度や押し込み深さ等の成形条件に相当な精度を必要とする。
【0012】
一方、転写箔の転写層に柔軟性のある材料を用いる方法としては、ポリアミド樹脂を用いる特許が提案されている(例えば、特許文献4、特許文献5を参照。)。これらはポリアミド樹脂が持つホットタック性や柔軟性を、接着力を高める目的で接着層の構成材料として用いたものであるが、剥離保護層に対する柔軟性を付与する目的で用いたものではなく、本発明とは目的が異なる。
【0013】
以下に、前記先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開2007−118467号公報
【特許文献2】特開2003−30606号公報
【特許文献3】特開2003−231396号公報
【特許文献4】特開2003−154797号公報
【特許文献5】特許第3996152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、転写性と耐性に優れたOVD転写箔及びこれを用いた偽造防止媒体を提供することである。ここで、転写性に優れるとは、転写層が転写時に所定の熱や圧力で容易に支持体から剥離して転写しようとする媒体の転写部分に密着し、また、転写時以外では転写層が支持体から容易に剥離しない事である。また、耐性に優れるとは、転写後、OVDを視認するのに十分な透明性を持ち、且つ、転写しようとする媒体の転写層が転写された部分を折り曲げたとしても転写面にクラック等が生じない柔軟性を持ち、更にOVDを物理的及び化学的な損傷から保護する耐性を持つ事である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決する為になされ、請求項1に記載の発明は、支持体上に、該支持体に対して剥離性を有する剥離保護層、OVD形成層、OVD効果層、及び接着層が少なくともこの順で積層されてなる転写層が設けられているOVD転写箔であって、該剥離保護層はポリメタクリル酸メチル(PMMA)と、ポリアミド樹脂を含有し、その含有比率が、重量比でPMMAが1に対しポリアミド樹脂が0.005〜0.5である事を特徴とするOVD転写箔である。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のOVD転写箔において、前記剥離保護層中に於けるポリアミド樹脂の平均分子量が100〜10000である事を特徴とする。
【0017】
さらにまた、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のOVD転写箔において、前記剥離保護層中に於けるPMMAの含有割合が質量比で60%以上である事を特徴とする。
【0018】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のOVD転写箔において、前記剥離保護層の構成材料のガラス転移温度が75℃以上である事を特徴とする。
【0019】
さらにまた、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のOVD転写箔において、前記OVD効果層が部分的に設けられている事を特徴とする。
【0020】
さらにまた、請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のOVD転写箔の転写層が、紙やフィルム等の媒体に転写されてなるものである事を特徴とする偽造防止媒体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明は以上のような構成であるから、下記に示す如き効果がある。
【0022】
即ち請求項1に係る発明においては、支持体上に、この支持体に対して剥離性を有する剥離保護層、OVD形成層、OVD効果層、及び接着層が少なくともこの順で積層されてなる転写層が設けられているOVD転写箔において、その剥離保護層が、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)とポリアミド樹脂を含有させたものであり、かつその含有比率が、重量比でPMMAが1に対しポリアミド樹脂が0.005〜0.5であるので、転写性と耐性に優れる。
【0023】
つまり、転写時にのみ転写層が容易に支持体から剥離し、それ以外では容易に支持体から剥離しない転写性と、OVDを物理的及び化学的損傷から保護する高い耐性と、転写後に被転写媒体の転写面部分を折り曲げてもクラック等が生じない柔軟性を有するOVD転写箔を提供することができる。
【0024】
また、請求項2に係る発明によれば、剥離保護層中に含有のポリアミド樹脂の平均分子量を100〜10000とすることで、透明性に優れ、特に転写性と耐性に優れるOVD転写箔を提供することができる。
【0025】
さらにまた、請求項3に係る発明によれば、剥離保護層中に含有のPMMAの割合を質量比で60%以上とすることで、転写性と耐性に優れ、特に透明性に優れるOVD転写箔を提供することができる。
【0026】
さらにまた、請求項4に係る発明によれば、剥離保護層の構成材料のガラス転移温度を75℃以上とすることで、転写性と透明性に優れ、特に耐熱性に優れるOVD転写箔を提供することができる。
【0027】
さらにまた、請求項5に記載の発明によれば、OVD効果層を、全面にではなく、例えば複雑で微細な模様として部分的に設けることで、転写箔としての意匠性が高まり、偽造改竄に対する防止効果の高いOVD転写箔を提供することができる。
【0028】
さらにまた、請求項6に記載の発明によれば、請求項1〜5のいずれかに記載のOVD転写箔の転写層を紙やフィルム等の媒体に転写させてなるものとすることで、媒体へ偽造防止効果を付与する事ができる。すなわち、媒体に転写されたOVD転写層は、物理的及び化学的損傷に強くて柔軟性に優れている為、物理的や化学的な損傷に対してOVDの光学的効果が失われ難く、偽造改竄に対する防止効果の高いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照にして詳細に説明する。
【0030】
図1は本発明に係るOVD転写箔の概略の断面構成を示す説明図である。ここに示すOVD転写箔は、大略的には支持体1と転写層2からなり、転写層2は、剥離保護層21とOVD形成層22及びOVD効果層23、そして接着層24が順次積層されてなるものである。
【0031】
以下、OVD転写箔を構成する各層について詳細に説明する。
(支持体)
支持体1としては厚みが安定しており、且つ耐熱性の高いポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを用いるのが一般的であるが、かならずしもこれに限るものではない。その他の例としては、耐熱性の高いフィルムとして知られている、ポリエチレンナフタレート樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム等が同様の目的で使用可能である。また、他のフィルム、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、耐熱塩化ビニル等からなるフィルムでも、塗液の塗工条件や乾燥条件によっては使用可能である。また、支持体1上に設ける剥離保護層21への影響が無い範囲で、支持体1に対し、帯電防止処理やマット加工、エンボス処理等の加工を施しておいても良い。
(剥離保護層)
剥離保護層21は、加熱や加圧等を伴う転写過程で、支持体1から剥離する層であり、剥離して被転写媒体側に転写した後はOVD形成層22等を覆いそれらの最表面に露出する事から、擦り等による機械的損傷や生活物質(例えば酒、水)等による化学的損傷に対する耐性を備え、転写層2を保護する役目を担う必要がある。
【0032】
このような要求に見合うようにすべく、剥離保護層21の構成材料としては、PMMAとポリアミド樹脂を含有し、その含有比率が、重量比でPMMAが1に対し、ポリアミド樹脂が0.005〜0.5となるようにしたものを選択して使用する。
【0033】
PMMAはメタクリル酸メチル(CH2C−CH3−COOCH3)の重合体である。非常に高い透明性があり、耐酸性と耐侯性に優れ、成形収縮率が小さい材料である一方、脆くて割れ易く、エタノール等、一部の有機溶媒への浸漬で微細クラックが発生して表面が白く濁り易い特徴を持つ。
【0034】
一方、ポリアミド樹脂は、アミド結合(−NH−CO−)を含む重合体であり、強靭性、耐衝撃性に優れ、有機溶剤に侵されにくい。代表的なポリアミド樹脂には、例えば、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンを共重縮合反応させた、平均分子量が10000以上のナイロン6.6や、ナイロンをハードセグメントとしこれにポリエステルまたはポリオールをソフトセグメントとしたブロックコポリマーを縮合重合させた、平均分子量が10000以下の低分子量ポリアミド樹脂等がある。低分子量のポリアミド樹脂はポリアミドエラストマーとも呼ばれ、特に優れた柔軟性を示し、例えば木質系等の多孔質基材に対する感熱接着剤として用いられる(例えば、特開2002−36794号公報参照。)。しかし、ポリアミド樹脂は、樹脂自体に吸水性があり、吸水すると膨張して寸法変化や変形を起こし、物性変化が起こる場合がある。樹脂の平均分子量が大きいものほど樹脂自体の耐性は向上するが、吸水膨張は起こり易い傾向にある。
【0035】
PMMAとポリアミド樹脂を比較すると、PMMAは成形収縮率が小さいが、これをポリアミド樹脂と混合させる事により、ポリアミド樹脂の欠点である吸水膨張による物性変化を小さく抑える事ができる。またポリアミド樹脂は、特に柔軟性や耐溶剤性に於いて、PMMAの欠点である脆さと一部の溶剤性に対する脆弱さを補う性質を持つ。つまりPMMAとポリアミド樹脂を所定の配合比率で混合する事により、両者の特徴を生かし、所望の剥離保護層21を形成する事ができる。
【0036】
PMMAとポリアミド樹脂との含有比率は、上述したように、重量比でPMMAが1に対し、ポリアミド樹脂が0.005〜0.5となるようにするが、重量比でPMMAが1に対し、ポリアミド樹脂が0.01〜0.2程度の範囲とすることがより好ましい。PMMAに対してポリアミド樹脂の割合が多くなると、剥離保護層21の柔軟性が強くなり、或いはポリアミド樹脂ホットタック性が強くなって支持体1に対する接着力が強くなり過ぎ、転写時の剥離が重くなってしまう。また、ポリアミド樹脂の種類や転写熱圧条件によっては、転写時の熱圧により樹脂の表面が黄色く変色する場合があり、ポリアミド樹脂の割合が多すぎると剥離保護層21に必要な透明性が不十分になってしまう。逆にポリアミド樹脂の割合が少なすぎると、PMMAの脆さ等の欠点をポリアミド樹脂によって補う事が難しくなり、転写面にクラック等が生じ易くなったり、エタノール等の有機溶媒に対する耐性が弱くなってしまう。
【0037】
また、剥離保護層21に用いるポリアミド樹脂の平均分子量を100〜10000とした場合、このような低分子量ポリアミド樹脂をPMMAと共に剥離保護層21に含有させる事で、より転写時の剥離が容易となり、バリの発生を抑える事ができる。これは、温度変化による粘度変化が比較的大きい(メルトフローレート値の高い)低分子量のポリアミド樹脂を含有させる事で、転写時に転写部境界面に於いて剥離保護層21の粘度差による凝集破壊が起きて、支持体1と転写層2との間で剥離が起こり易くなるからだと考えられる。
【0038】
また、剥離保護層21中に含有させるPMMAの割合を質量比60%以上とした場合、
PMMAが剥離保護層21の主成分となるので、PMMAの性質に起因した透明性の向上が可能となる。しかし、材料的な脆さとエタノール等の有機溶媒に対する脆弱さも顕著に現れ易いので、ポリアミド樹脂のPMMAに対する含有比率を柔軟性と耐性のバランスが取り易くなるように含有させる必要がある。このような観点からは、重量比でPMMAが1に対しポリアミド樹脂が0.05〜0.4とすることがより好ましい。
【0039】
また、剥離保護層21の構成材料のガラス転移温度を75℃以上とする場合には、例えば、PMMA(ガラス転移温度約110℃)と、所定のガラス転移温度を持つポリアミド樹脂(ガラス転移温度約70〜200℃)を、重量比でPMMAが1に対しポリアミド樹脂が0.005〜0.5の含有比率になるように混合させて、剥離保護層21のガラス転移温度を適宜に調節する。
【0040】
尚、転写性と転写後の耐性のバランスを考慮して、剥離保護層21に他の材料を含有させる事も可能である。しかし、剥離保護層21は透明性も重要である為、材料間の相溶性に留意する必要がある。つまり、PMMAとポリアミド樹脂の混合2元系の構成材料に他材料を混合させる際には、互いに十分に相溶して白濁化せず、透明性が損なわれない材料を選択しなくてはならない。特にポリアミド樹脂に相溶する樹脂は、ポリアミドイミド樹脂やフェノール樹脂等、限定的な場合が多い。
【0041】
また、箔切れ性や耐摩擦性のバランスを考慮して、剥離保護層21中に、石油系ワックス、植物系ワックス等の各種ワックス、ステアリン酸等の脂肪酸やその金属塩、シリコンオイル等の滑材や、テトラフロロエチレンパウダー、ポリエチレンパウダー、シリコーン系微粒子やアクリルニトリル系微粒子等の有機フィラー及び、シリカ微粒子等の無機フィラー等の滑材を添加する事もできる。しかし剥離保護層21は、転写後は最表面に位置する為に滑材による凹凸が発生し易く、光が乱反射して曇りを生じさせる為、滑材を多量に添加する事は好ましくない。また、滑材を添加する事は、前述のように、粉ふきや層の脆弱化の問題を伴うので、質量比10%以上の添加は極力控えることが望ましい。
(OVD形成層)
OVD形成層22は、光回折等の光学的効果を発現する層である。用いられるOVDとしては、例えば、光の干渉縞を微細な凹凸パターンとして平面に記録するレリーフ型のホログラムまたは回折格子や、体積方向に干渉縞を記録する体積型のホログラムまたは回折格子等が挙げられる。一方、光学特性の異なるセラミックスや金属材料の薄膜を積層し、見る角度により色の変化(カラーシフト)を生じさせる多層膜もその例である。これらは一例であり、光回折等の光学的効果を利用した固有の像や色の変化を生じる公知の表示技術であればこれらに限定されるものではない。
【0042】
OVD形成層22に使用可能な材料は、例えばレリーフ型のOVDの場合には、その主体となる材料は熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線或いは電子線硬化性樹脂のいずれであっても良い。具体的には、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂や、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイソシアネートを架橋剤として添加、架橋させたウレタン樹脂や、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化樹脂、エポキシ(メタ)アクリル、ウレタン(メタ)アクリレート等の紫外線或いは電子線硬化樹脂を、単独もしくはこれらを複合して使用できる。また、前記以外の樹脂であっても、OVDが形成可能であれば適宜のものが使用できる。
(OVD効果層)
OVD効果層23はOVD形成層22の光学的効果を高める為に設ける層であり、通常真空蒸着法等の方法を用いて5〜1000nm程度の厚みに形成する。OVD効果層23として用いられる材料としては、OVD形成層22を構成する材料とは屈折率の異なる材料から成り、例えば、反射効果の高いAl、Sn、Cr、Ni、Cu、Au等の金属材料
や、TiO2、Si23、SiO、Fe23、ZnS等の高屈折率材料が挙げられる。
【0043】
このOVD効果層23は全面に設けられていても良いが、例えば文字や絵柄等のパターン状に形成されても良い、この場合、意匠性が向上すると共に加工を複雑にし、より高い偽造防止効果を付与する事ができる。
【0044】
OVD効果層23をパターン状に設ける手法としては、溶解性の樹脂をパターン状に形成した後に金属薄膜を設け、金属薄膜が積層した溶解性樹脂の部分を溶解させて作製する方法や、金属薄膜層上に耐酸或いは耐アルカリ性樹脂の層をパターン状に印刷して設けたた後、金属薄膜層を酸やアルカリでエッチングして作製する方法、或いは紫外光等で溶解し難くなる樹脂材料の薄膜を塗布した後、その薄膜に対して所望のパターン状のマスク越しに露光を施し後、不要部分を洗浄或いはエッチングで除去して作製する方法等が挙げられる。以上は一例であり、これらに限定されるものではなく、公知の技術が適宜利用可能である
(接着層)
接着層24は、転写層2の一部あるいは全部を熱及び圧力で任意の被転写媒体へ転写させる為に設けられる。この接着層24を設ける方法としては、グラビア印刷法やスクリーン印刷法、オフセット印刷法等の公知の手法が適宜用いられる。また、その構成材料としては、熱可塑性樹脂が好ましく、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂等の単体あるいは共重合体を、単独もしくは複合して使用することが可能である。また、ブロッキング防止を考慮し、石油系ワックス、植物系ワックス等の各種ワックス、ステアリン酸等の脂肪酸やその金属塩、シリコンオイル等の滑材や、テトラフロロエチレンパウダー、ポリエチレンパウダー、シリコーン系微粒子やアクリルニトリル系微粒子等の有機フィラー及び、シリカ微粒子等の無機フィラーを添加する事もできる。
【0045】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0046】
まず、支持体として、厚さ25μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。
【0047】
次に、下記の配合比からなる剥離保護層形成用組成物を調整し、これを用いて前記した支持体の片面にグラビア印刷法により塗布厚1μmの薄膜を塗布し、乾燥温度110℃で乾燥させ、剥離保護層を設けた。剥離保護層形成用組成物のガラス転移温度は、DSC法によると98℃であった。
(剥離保護層形成用組成物の組成)
PMMA樹脂 30重量部
ポリアミド樹脂(分子量5000) 3重量部
ポリエチレンワックス 0.5重量部
トルエン 50重量部
エタノール 50重量部
次に、下記の配合比からなるOVD形成層形成用組成物を調整し、これを用いてグラビア印刷法によって前記工程で設けられた剥離保護層の上に塗布厚1μmの薄膜を塗布し、乾燥温度110℃で乾燥させた後、その乾燥膜表面にOVDレリーフパターンをロールエンボス加工で賦形させ、OVD形成層を形成した。
(OVD形成層形成用組成物の組成)
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とウレタン樹脂の混合物 25重量部
酢酸ブチル 70重量部
更に、真空蒸着法を用いてアルミニウムからなる膜厚が100nmの薄膜層を前記工程
で形成したOVD形成層の全面に設け、OVD効果層を得た。
【0048】
そして最後に、下記の配合比からなる接着性組成物を調整し、これを用いてグラビア印刷法によって前記工程で設けられたOVD形成層の上に塗布厚4.0μmの薄膜を塗布し、乾燥温度110℃で乾燥させて接着層を設け、実施例1に係るOVD転写箔を得た。
(接着性組成物の組成)
アクリル樹脂 20重量部
塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂 5重量部
トルエン 50重量部
メチルエチルケトン 50重量部
【実施例2】
【0049】
下記の配合比からなる剥離層形成用組成物を調整し、これを用いてグラビア印刷法により塗布厚1μmの薄膜を支持体上に塗布し、乾燥温度110℃で乾燥して剥離保護層を設けた以外は、前記実施例1と同様の材料と作製方法で、比較のための実施例2に係るOVD転写箔を作製した。この組成物のガラス転移温度は、DSC法によると106℃であった。
(実施例2で使用した剥離保護層形成用組成物の組成)
PMMA樹脂 30重量部
ポリエチレンワックス 0.5重量部
トルエン 50重量部
エタノール 50重量部
【実施例3】
【0050】
下記の配合比で調整した剥離保護層形成用組成物を用いグラビア印刷法により、塗布厚1μmの薄膜を支持体上に塗布し、乾燥温度110℃で乾燥して剥離保護層を設けた以外は、実施例1と同様の材料と作製方法で、比較のための実施例3に係るOVD転写箔を作製した。この組成物のガラス転移温度は、DSC法によると71℃であった。
(実施例3で使用した剥離保護層形成用組成物の組成)
ポリアミド樹脂(分子量5000) 30重量部
ポリエチレンワックス 0.5重量部
トルエン 50重量部
エタノール 50重量部
こうして作製した実施例1から実施例3に係る3種類のOVD転写箔に対し、転写性や耐性に関する下記(1)〜(5)に示す試験を行い、結果を比較した。各試験に於いて、測定は各50個のサンプルで行い、その測定値の平均を表1に示した。
(1)転写時剥離重さの試験(JIS K6854−2 180度剥離接着強さ試験)
転写時に於ける転写層の支持体に対する剥がれ易さを測定した。3種類のOVD転写箔を、同熱圧条件で坪量64g/m2の紙に転写する際の、転写層が支持体から剥離するときの力の強さ(N)を、市販の180度剥離試験機を用いて測定した。評価は、他の箔と比較して剥離が軽い場合を○、重い場合を×とした。
(2)転写前剥離重さの試験(JIS K5400 8.5.1 碁盤目付着性試験)
転写時以外の状態に於ける転写層の支持体に対する剥がれ易さを測定した。OVD転写箔の転写層形成側にタテ、ヨコ6本の切れ目(ます目25)を碁盤目状に入れ、剥がれなかったます目の数を計測した。評価は、剥がれないます目が多い場合を○、剥がれるます目が多い場合を×とした。
(3)OVD部折り曲げ性の試験(JIS P8115 折曲試験)
OVD転写箔を構成する転写層の柔軟性を測定した。3種類のOVD転写箔を用い、同熱圧条件で坪量64g/m2の紙に重ね合わせた後、支持体を転写層から剥離して転写を行った。しかる後に転写された転写層を含む紙の部分に折り目が付くように、JISP8
115に準じた方法で、MIT型試験機で150回往復させた後、転写層の表面変化を観察した。評価は、折り曲げ前後で転写層の状態に変化のない場合を○、白濁やクラック等の変化がある場合を×とした。
(4)透明性の試験
OVD転写箔を構成する剥離保護層の透明性を測定した。3種類のOVD転写箔を用い、同熱圧条件で坪量64g/m2の紙に重ね合わせた後、支持体を転写層から剥離して転写を行った。そして、紙に転写された転写層に対し剥離保護層側より白色光を照射した時の反射率を、市販の反射濃度計を用いて測定する事で、剥離保護層の透明性を評価した。測定は、OVD形成層による回折等の光学的影響を避ける為、OVD形成層が設けられていない領域を選んで行った。評価は、反射率が大きい(透明性が高い)場合を○、小さい場合を×とした。
(5)薬品耐性の試験
転写層の薬品耐性を試験した。3種類のOVD転写箔を用い、同熱圧条件で坪量64g/m2の紙と重ね合わせた後、支持体を転写層から剥離して転写を行った。そして、転写層が転写された紙を温度20〜25℃に保持した60%エチルアルコール水溶液に1分間浸漬し、転写層の表面変化を観察した。評価は、他の箔と比較して、浸漬前後で転写層の表面状態に変化のない場合を○、白濁等の変化のある場合を×とした。
【0051】
評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

実施例1に係るOVD転写箔は各試験に於いて、実施例2や実施例3に係る比較のためのOVD転写箔に比べて良好な結果が得られた。
【0053】
実施例2に係る転写箔は、転写時剥離重さの試験と透明性の試験以外の項目が不良であった。この理由として、実施例2に係るOVD転写箔はその剥離保護層にポリアミド樹脂が含まれておらず、PMMAのみであった為に、PMMAの脆い性質とエタノールに弱い性質が結果に現われたものと考えられる。
【0054】
また、実施例3に係るOVD転写箔は、転写前剥離重さの試験、折り曲げ試験、さらには薬品耐性試験では良好な結果が得られたものの、転写時剥離重さの試験では良好な結果が得られなかった。この理由として、実施例3に係るOVD転写箔はその剥離保護層にPMMAが含まれておらず、ポリアミド樹脂のみであった事で、剥離保護層の膜としての柔軟性が強くなりすぎた為に、或いは、ポリアミド樹脂のホットタック性が支持体に対する接着力として作用した為に、転写時剥離重さが重くなったと考えられる。また、透明性の試験における悪い結果は、ポリアミド樹脂の転写時熱圧による黄変、或いは何らかの原因によってポリアミド樹脂の吸水膨張や物性変化によるものではないかと考えられる。
【0055】
以上のことから、本発明に係るOVD転写箔は、転写性と耐性に優れたものであることが明らかになった。
【0056】
また、このOVD転写箔は、媒体への転写の際に、転写層が容易に支持体から剥離して密着し、またバリ等が発生しにくい。更に、OVDを視認するのに十分な透明性と、折り曲げに対してもクラック等を生じない柔軟性を持ち、OVDを物理的や化学的な損傷から保護する耐性を備えるものである。そして、このOVD転写箔を用いて得られる偽造防止媒体は、媒体に転写されたOVD転写層が、物理的及び化学的損傷に強くて柔軟性に優れている為、物理的や化学的な損傷に対してOVDの光学的効果が失われ難く、偽造改竄に対する防止効果が高いものであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のOVD転写箔の概略の断面構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1…支持体
2…転写層
21…剥離保護層
22…OVD形成層
23…OVD効果層
24…接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、該支持体に対して剥離性を有する剥離保護層、OVD形成層、OVD効果層、及び接着層が少なくともこの順で積層されてなる転写層が設けられているOVD転写箔であって、該剥離保護層はポリメタクリル酸メチル(PMMA)と、ポリアミド樹脂を含有し、その含有比率が、重量比でPMMAが1に対しポリアミド樹脂が0.005〜0.5である事を特徴とするOVD転写箔。
【請求項2】
前記剥離保護層中に於けるポリアミド樹脂の平均分子量が100〜10000である事を特徴とする、請求項1に記載のOVD転写箔。
【請求項3】
前記剥離保護層中に於けるPMMAの含有割合が質量比で60%以上である事を特徴とする、請求項1または請求項2に記載のOVD転写箔。
【請求項4】
前記剥離保護層の構成材料のガラス転移温度が75℃以上である事を特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のOVD転写箔。
【請求項5】
前記OVD効果層が部分的に設けられている事を特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載のOVD転写箔。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載のOVD転写箔の転写層が、紙やフィルム等の媒体に転写されてなるものである事を特徴とする偽造防止媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−8877(P2010−8877A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170390(P2008−170390)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】