説明

P2X受容体阻害剤

本発明者等はP2X2/3, 3受容体を阻害する新しいタイプの化合物を鋭意探索していたところ、骨吸収抑制作用を有するビスホスホネートの1種であるミノドロン酸が良好なP2X2/3, 3受容体阻害作用を有し、各種疼痛の予防もしくは治療剤となりうることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は、ミノドロン酸若しくはその塩を有効成分として含有するP2X2/3, 3受容体阻害剤、殊に鎮痛剤に関するものである。
本発明の、「P2X2/3及び/又はP2X3受容体阻害剤」は、侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛の様々な痛みに関わる分子として知られているP2X2/3, 3受容体の機能を阻害することから、P2X2/3, 3受容体が痛みの伝達に関与している各種疼痛の予防もしくは治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、殊にミノドロン酸を有効成分として含有するP2X2/3, 3受容体阻害剤並びに鎮痛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアで産生されるadenosine 5’-triphosphate(ATP)は、細胞内でのエネルギー通貨としての役割以外に、細胞膜上に存在するチャネル型のP2X受容体やG蛋白質共役型のP2Y受容体を介して情報伝達、細胞死などにおいて重要な役割を果たしている。その中でP2X受容体のサブタイプのP2X2/3受容体及びP2X3受容体は、痛覚伝達を担う知覚神経に特異的に発現しており、侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛の様々な痛みに関わる分子として知られている。例えば、癌性疼痛において、傷害を受けた細胞や癌細胞から放出されたATPは知覚神経の末梢端および中枢端に存在するP2X2/3受容体及び/又はP2X3受容体(以下、P2X2/3, 3受容体と略記する)を刺激して痛みを発生する[Burnstock G., Trends Pharmacol. Sci., 22, p182 (2001)]。
一方、P2X1受容体及びP2X2/3, 3受容体受容体拮抗薬であるtrinitrophenyl(TNP)-ATPや選択的P2X2/3, 3受容体拮抗薬A-317491を用いた各種疼痛モデルにおける試験結果(例えば、Honore P., Pain, 96, p99 (2002)、およびJavis M.F., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 99. p17179-84 (2002))より、P2X2/3, 3受容体を阻害する薬剤は、侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛における痛みの治療あるいは予防に有効であることが示されている。よって、P2X2/3, 3受容体機能阻害作用をもつ化合物は新しいタイプの疼痛治療薬あるいは疼痛予防薬として期待される。
P2X2/3, 3受容体拮抗作用を有する化合物としては、A-317491等のN-[(1S)-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレニル]ベンザミド誘導体(例えば、特許文献1)、およびジヌクレオシド・ポリホスフェート誘導体(例えば特許文献2)の報告がある。また、癌患者に対する臨床試験において疼痛スコアの低減が観察されることが報告された抗癌剤suraminが、非選択的P2X、P2Y受容体拮抗薬である事が報告されている(Pharmacol. Rev., 50, p413 (1998))。
【0003】
一方、骨吸収抑制作用を有するビスホスホネートの1つであるミノドロン酸(1−ヒドロキシ−2−(イミダゾ[1,2−a]ピリジン−3−イル)エタン−1,1−ビスホスホン酸)又はその塩は、縮合複素環骨格を有するビスホスホン酸化合物であり、特許文献3および4には、優れた骨吸収抑制作用、抗炎症作用、解熱鎮痛作用を有し、ページェット病、高カルシウム血症、癌の骨転移、骨粗鬆症、慢性関節リウマチ等の炎症性関節疾患に伴う骨吸収の亢進等の骨吸収を抑制し、骨量の減少を防止し或いは骨吸収亢進に伴う血清カルシウム値の上昇等を防止または低下させる薬剤として使用できると記載されている。明細書にはミノドロン酸の骨吸収抑制作用を裏付ける血清カルシウム低下を示す薬理試験が開示されるが、解熱鎮痛作用については何等具体的開示が無い。
また、ミノドロン酸は、ヒトの臨床において臨床上許容される投与量・投与頻度において、多発性骨髄腫に伴う骨吸収の抑制作用と多発性骨髄腫自体の進展抑制作用の両作用を有し、多発性骨髄腫やその骨病変の治療作用を有することが報告されている(特許文献5参照)。多発性骨髄腫の骨病変としては、多発性骨髄腫によって亢進される骨吸収に伴う、骨痛、骨融解、骨折、骨格破壊、及び/または、骨密度の低下等が挙げられ、ミノドロン酸水和物6mgを1日1回経口投与した多発性骨髄腫患者において、24週後に鎮痛剤の使用量が低減し骨痛が改善されたことが報告されている。
しかしながら、ミノドロン酸の直接的な鎮痛作用を示す知見は、現在まで何等報告が無い。
なお、ビスホスホネート化合物中には、直接的な鎮痛作用を有するものが報告されている。例えば、パミドロネートとクロドロネートはtail-flick試験等において用量依存的な鎮痛作用を有していた(非特許文献1)、ラット癌性疼痛モデルにおいてゾレドロネートを19日間連続投与すると、骨量の改善と癌性疼痛に伴う機械アロディニアと機械痛覚過敏の抑制がみられた(非特許文献2)。しかしながら、その作用機序は不明であり、ビスホスホネートに共通する薬理作用との報告は無い。
【0004】
【特許文献1】国際公開WO02/094767号パンフレット
【特許文献2】特開2003-238418号公報
【特許文献3】特公平6-99457号公報
【特許文献4】国際公開94/00462号パンフレット
【特許文献5】国際公開00/38694号パンフレット
【非特許文献1】Bonabello A. Pain, 91, p269 (2001)
【非特許文献2】Walker K. Pain, 100, p219 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
P2X2/3, 3受容体阻害に基づく、侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛の治療あるいは予防に有効な、新しいタイプの疼痛治療薬あるいは疼痛予防薬の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等はP2X2/3, 3受容体を阻害する新しいタイプの化合物を鋭意探索していたところ、骨吸収抑制作用を有するビスホスホネートの1種であるミノドロン酸が良好なP2X2/3受容体阻害作用を有し、さらにP2X2/3, 3受容体が関与する各種疼痛モデルにおいて良好な鎮痛作用を有することを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は、ミノドロン酸若しくはその塩を有効成分として含有するP2X2/3, 3受容体阻害剤、殊に鎮痛剤に関するものである。更に詳しくは、侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛からなる疼痛(但し、多発性骨髄腫に伴う骨痛を除く)の予防もしくは治療剤、特に癌性疼痛や骨痛の予防もしくは治療剤、中でも癌の骨転移を生じた患者における骨痛の予防もしくは治療剤に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の、「P2X2/3及び/又はP2X3受容体阻害剤」は、侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛からなる様々な痛みに関わる分子として知られているP2X2/3, 3受容体の機能を阻害することから、P2X2/3, 3受容体が痛みの伝達に関与している各種疼痛の予防もしくは治療に有用である。
殊に、ミノドロン酸は骨組織への親和性が高く、骨組織への移行性が高いことから、癌や炎症・神経障害に伴う骨の痛み(骨痛)の予防もしくは治療剤として有用である。癌性疼痛の1つである癌に伴う骨痛は、癌細胞が破骨細胞を活性化し、骨密度を低下させ骨への浸潤が進行すると、癌細胞や障害を受けた周辺細胞から放出されたATPが骨膜等の近くの神経終末に存在するP2X2/3, 3受容体を刺激して痛みを伝達することによって生じる。癌後期には、転移した腫瘍による神経の圧迫に起因する神経因性疼痛も加わると考えられている。よって、ミノドロン酸を有効成分とする本発明のP2X2/3及び/又はP2X3受容体阻害剤は、癌の骨転移を生じた患者における骨痛の予防もしくは治療剤として特に有用である。
乳癌骨転移患者及び肺癌骨転移患者に、ミノドロン酸1又は2mgを2週間に1回、合計6回、12週間投与した臨床試験において、早期の鎮痛作用発現、即ち投与後の最初の評価時(1週目)から疼痛値の低下傾向が認められる結果が確認されており、殊に、骨痛の程度の高い患者(例えば、動作時痛みが常にある患者や、数日に1回程度であっても強い骨痛を有する患者)において鎮痛効果が顕著であった。これらの事実より、当該ミノドロン酸の骨痛抑制作用には、本発明のP2X2/3, 3受容体阻害作用に基づく直接的な鎮痛作用が関与することが推定される。
よって、本発明のP2X2/3, 3受容体阻害剤は、殊に侵害受容性、炎症性又は神経因性の骨痛を有する患者の迅速な痛み低減に有用であることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施例2 腹腔内投与におけるαβ-meATP誘発疼痛行動に対するミノドロン酸の抑制作用を示すグラフである。縦軸は疼痛行動合計時間(秒/5分)を、Conはコントロール群を、Minoはミノドロン酸を、*はコントロール群との有意差(**:p<0.01)をそれぞれ示す。
【図2】図2は、実施例2 皮下投与におけるαβ-meATP誘発疼痛行動に対するミノドロン酸の抑制作用を示すグラフである。縦軸は疼痛行動合計時間(秒/5分)を、Conはコントロール群を、Minoはミノドロン酸投与群を、*はコントロール群との有意差(*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001)をそれぞれ示す。
【図3】図3は、実施例3 試験1の酢酸誘発疼痛行動に対するミノドロン酸の抑制作用を示す。縦軸はライジング回数(回)を、Conはコントロール群を、Minoはミノドロン酸投与群をそれぞれ示す。
【図4】図4は、実施例3 試験2の酢酸誘発疼痛行動に対するミノドロン酸の抑制作用を示す。縦軸はライジング回数(回)を、Conはコントロール群を、Minoはミノドロン酸投与群を、*はコントロール群との有意差(*:p<0.05)をそれぞれ示す。
【図5】図5は、実施例4におけるformalin誘発疼痛行動に対するミノドロン酸の抑制作用を示す。縦軸はそれぞれの相に起こるliftingとlickingの合計時間(秒)を、Conはコントロール群を、Minoはミノドロン酸投与群を、*はコントロール群との有意差(***:p<0.001)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、ミノドロン酸若しくはその塩としては、ミノドロン酸(minodronic acid)若しくはその製薬学的に許容される塩であり、塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の金属を含む無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン、オルニチン等の有機塩基との塩が挙げられる。また、これらの水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質であってもよい。例えば、ミノドロン酸を経口投与用固形製剤として用いる場合はミノドロン酸水和物を用いるのが好ましい。
侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛としては、痛みの生じる部位、痛みの程度、原因疾患等にかかわらず、P2X2/3, 3受容体の関与する、癌やその他の疾患に伴う、各種刺激に起因する或いは炎症や神経障害によって引き起こされる各種の疼痛である。例えば、各種癌による痛み、糖尿病の神経障害に伴う痛み、ヘルペスなどウイルス性疾患に伴う痛み、変形性関節症や慢性リウマチに伴う痛み、後頭神経痛、偏頭痛等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0010】
本発明の治療剤は、必要に応じて他の薬剤と併用されても良い。他の鎮痛剤と併用されてもよく、例えば、オピオイド(モルヒネ、ファンタニール)、ナトリウムチャンネル遮断剤(ノボカイン、リドカイン)、NSAID(アスピリン、イブプロフェン)、Cox-2阻害剤(セレコキシブ、ロフェコキシブ)等との併用が挙げられる。また、癌性疼痛に使用されるときは、化学療法剤等の抗癌剤と併用することができる。
【0011】
本発明の治療剤は,ビスホスホネートの1種又は2種以上と、製薬学的に許容される担体、具体的には、通常製剤化に用いられる薬剤用担体、賦形剤,その他添加剤を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。投与は錠剤,丸剤,カプセル剤,顆粒剤,散剤,液剤等による経口投与,又は,静注,筋注等の注射剤,坐剤,経皮等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
本発明の経口投与用の固体組成物としては,錠剤,散剤,顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては,ひとつ又はそれ以上の活性物質が,少なくともひとつの不活性な希釈剤,例えば乳糖,マンニトール,ブドウ糖,ヒドロキシプロピルセルロース,微結晶セルロース,トウモロコシデンプン,ポリビニルピロリドン,メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと混合される。組成物は,常法に従って,不活性な希釈剤以外の添加剤,例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤や繊維素グリコール酸カルシウムのような崩壊剤,安定化剤,グルタミン酸又はアスパラギン酸のような溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要によりショ糖,ゼラチン,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどからなる、糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
【0012】
経口投与用の液体組成物は,薬剤的に許容される乳濁剤,溶液剤,懸濁剤,シロップ剤,エリキシル剤等を含み,一般的に用いられる不活性な希釈剤,例えば精製水,エタノールを含む。この組成物は不活性な希釈剤以外に湿潤剤,懸濁剤のような補助剤,甘味剤,風味剤,芳香剤,防腐剤を含有していてもよい。
非経口投与用の注射用組成物としては,無菌の水性又は非水性の溶液剤,懸濁剤,乳濁剤を含有する。水性の溶液剤,懸濁剤としては,例えば注射用蒸留水及び生理食塩液が含まれる。非水溶性の溶液剤,懸濁剤としては,例えばプロピレングリコール,ポリエチレングリコール,オリーブ油のような植物油,エタノールのようなアルコール類,ポリソルベート80等がある。このような組成物は,さらに防腐剤,湿潤剤,乳化剤,分散剤,安定化剤,溶解補助剤のような補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過,殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物を製造し,使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
【0013】
投与量は、患者の体重、症状,年令,性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
経口投与の場合、1日の投与量は,約0.1から200mg、好ましくは約1から100mg、最も好ましくは約1から50mgが適当である。これを1日1回あるいは2ないし4回に分けて投与するか、2〜14日毎に1回あるいは1〜3ヶ月に1回で投与してもよい。静脈投与される場合は、1回の投与量が約0.01から100mg、好ましくは約0.1から10mg、更に好ましくは約0.5から5mgが適当であり、これを2〜6週に1回、好ましくは3〜5週に1回、より好ましくは、4週に1回、10〜60分、好ましくは30分かけて、点滴静脈内投与することができる。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明の治療剤の効果を示す試験例を実施例として示す。なお、本発明の範囲は以下の実施例により何等限定されることはない。
実施例1:P2X2/3受容体阻害活性
試験は、Br. J. Pharmacol., 108, p436 (1993)を参考に以下の様にして行った。
ラット型P2X2/3受容体を強制発現させたCHO細胞を,10 % fetal bovine serum (FBS),100 unit/ml penicillin,100μg/ml streptomycinおよび400μg/ml G-418を含むHam's F-12 nutrient mixtureを用い,5 % CO2,37℃条件下で培養した。細胞を試験前日に約6x104 cells/wellの密度で96-well培養プレート上に播種し,apyrase 2 unit/mlを含む培地で24時間培養した。試験当日に培地を除去した後,被験物質,275μM [14C]-guanidine hydrochloride(guanidium)および4μM αβ-methylene ATP(αβ-meATP)を含む反応バッファーにて15分間室温でインキュベートした。氷冷した洗浄バッファーで4回洗浄し,0.1N NaOHを加え5分間振盪し,次いでmicroscint-PSを加え10分間振盪した後に放射活性を測定し、P2X2/3受容体の機能を50%阻害する濃度(IC50値)を求めた。
結果を下表に示す。本発明のミノドロン酸はP2X1及びP2X2/3, 3受容体拮抗薬であるTNP-ATPには劣るものの、非選択的P2X、P2Y受容体拮抗薬suraminと同等以上の良好な受容体阻害活性を有していた。一方、鎮痛作用の報告があるゾレドロネート、パミドロネートおよびクロドロネートのビスホスホネートはP2X2/3受容体阻害活性を有さず、これらの鎮痛作用はP2X受容体を介するものではないと予想された。よって、ミノドロン酸は、鎮痛作用の報告がある他のビスホスホネート類とは異なる作用メカニズムを有するものと推定される。
【表1】

【0015】
実施例2:αβ-meATP誘発疼痛行動に対する作用
Br. J. Pharmacol., 122, p365 (1997)並びにJ. Neurosci., 20, p16 (2000)に記載された方法を参考にして試験を実施した。マウス(n=6)に被験物質または溶媒を10 ml/kgの容量で腹腔内投与(i.p.)した。その30分後にP2X1及びP2X2/3, 3受容体作動薬であるαβ-meATP(0.6μmol/20μl)を左肢足裏に皮下投与した。αβ-meATP投与直後から5分間に起こるlifting(投与側足裏を床面から離す行動)とlicking(投与側足裏を舐めたり噛んだりする行動)の合計時間を測定した。結果を図1に示す。
また、マウスに被験物質または溶媒を10 ml/kgの容量で背側部に皮下投与(s.c.)する以外は上記と同様にして試験した結果を、図2に示す。
溶媒投与群をコントロール群とし、被験物質投与群との間でDunnet法を用いた統計学的有意差検定を行った。
ミノドロン酸は、30mg/kg i.p.、並びに10-50mg/kg s.c.投与時、コントロール群に対して有意差をもってαβ-meATP誘発疼痛行動を抑制した。なお、疼痛行動観察時において行動上の副作用は確認されなかった。
実施例3:酢酸誘発疼痛行動に対する作用
Pain, 96, p99 (2002)に記載された方法を参考にして試験を実施した。マウス(n=8)に被験物質または溶媒を10 ml/kgの容量で皮下投与した。その30分後に0.6 %酢酸腹腔内投与(10 ml/kg)した。酢酸投与後2-17分の15分間に起こるwrithing(体躯よじり行動)回数を計測した。試験は試験1と試験2の2回行った。それぞれの結果を図3及び図4に示す。溶媒投与群を対照群とし、被験物質投与群との間でDunnet法を用いた統計学的有意差検定を行った。
ミノドロン酸は、10及び30mg/kgの範囲で用量依存的にwrithing行動を抑制した。なお、疼痛行動観察時において行動上の副作用は確認されなかった。
【0016】
実施例4:formalin誘発疼痛行動に対する作用
Br. J. Pharmacol., 128, p1497 (1999)に記載された方法を参考にして試験を実施した。マウスに被験物質または溶媒を10 ml/kgの容量で皮下投与した。その30分後にformalinを足裏に皮下投与(2.0 %, 20μl/body)した。formalin投与直後から30分間にわたり5分毎のlifting(投与側足裏を床面から離す行動)とlicking(投与側足裏を舐めたり噛んだりする行動)の合計時間を計測した。formalin投与後0-5分を第I相(Phase I),10-30分を第II相(Phase II)と定義し,それぞれの相に起こるliftingとlickingの合計時間を算出した。結果を図5に示す。ミノドロン酸水和物は30 mg/kgの投与量で第I相には影響を与えずに第II相の鎮痛行動のみを抑制した。なお、疼痛行動観察時において行動上の副作用は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の、「P2X2/3及び/又はP2X3受容体阻害剤」は、侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛からなる様々な痛みに関わる分子として知られているP2X2/3, 3受容体の機能を阻害し、P2X2/3, 3受容体が痛みの伝達に関与している各種疼痛の予防もしくは治療に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミノドロン酸若しくはその塩を有効成分として含有するP2X2/3及び/又はP2X3受容体阻害剤。
【請求項2】
侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛からなる疼痛(但し、多発性骨髄腫に伴う骨痛を除く)の予防もしくは治療剤である請求項1記載の剤。
【請求項3】
癌性疼痛の予防もしくは治療剤である請求項2記載の剤。
【請求項4】
骨痛の予防もしくは治療剤である請求項2記載の剤。
【請求項5】
癌の骨転移を生じた患者における骨痛の予防もしくは治療剤である請求項3若しくは4記載の剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/072746
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517475(P2005−517475)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001067
【国際出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】