説明

PCB分解システム及び移動式PCB分解システム

【課題】安全性が高く、小型化が可能で、車両に載せて一般道路を移動させることもできるPCB分解システムを提供する。
【解決手段】PCB分解システム100は、PCBを含有する油(PCB含有油10)を一時貯留する貯留槽1と、貯留槽1から供給されるPCB含有油10を収容して分解処理する反応槽3と、反応槽3内へアルコール20を供給する処理液供給器2と、反応槽3内へ金属カルシウム粉末と酸化カルシウムとの混合微粉体40を供給する第一薬剤供給器4と、反応槽3内へ触媒50を供給する第二薬剤供給器5と、反応槽3内で生成した処理済液60を収容する処理済液槽6と、処理済液槽6から送給された処理済液60を収容してアルコール分21と廃油70とに分離する分離槽7と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスやコンデンサ等の絶縁性媒体等から回収した油分に含まれるポリ塩化ビフェニル(以下、「PCB」という。)を分解して無害化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
PCBは、化学的安定性が高く、また、絶縁性、不燃性等の特性を有しているところから、かつては、トランスやコンデンサ等の絶縁性媒体等として広く使用されていた。しかしながら、PCBは人体に対する毒性が極めて高いため、今日においては、その製造、輸入及び使用が厳しく規制されており、使用済みのPCB及びPCBを含有する油は、保管が義務付けられている。そして、PCBの無害化処理方法に関して、種々の提案がなされている。
【0003】
従来の主なPCBの無害化処理方法として、金属ナトリウムによる脱塩素化分解処理が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。この方法は、金属ナトリウム粒子を分散させた溶媒中で、PCBに金属ナトリウム由来の電子を供与させて、PCBをアニオンラジカル化して、PCBに含まれる塩素の反応性を高め、該塩素と金属ナトリウムを反応させてNaClとすると共に、ビフェニル同士を高分子化して、無害の高分子化合物とする方法である。
【0004】
また、PCBの無害化処理方法として、酸化カルシウムを加えたボールミルによるメカノケミカル処理が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法は、PCB等に汚染された物質中の有機塩素系有害物を有機溶媒で抽出し、抽出後の液から有機溶媒を揮発除去し、有機溶媒除去後の残渣を酸化カルシウムや酸化カルシウム含有物質と混合し、メカノケミカル処理するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−246002号公報
【特許文献2】特開2001−47026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2記載のPCB分解システムは、PCB汚染が発生した場所からPCB汚染物質を回収してきて、1ヶ所で集中的に処理するという発想に基づいて開発されているため、処理装置及びその関連設備の大型化を招いている。例えば、特許文献1記載の装置は、蒸留装置を構成する加熱設備及び真空発生設備などが必要であるため装置の小型化を図ることが困難である。また、発火性の金属ナトリウムを使用するので、この取り扱いに慎重を期する必要があり、安全性の確保にも多大な手間を要する。
【0007】
一方、特許文献2記載のメカノケミカル処理においては、ボールミル等の衝撃粉砕装置を用いるが、このときに使用する装置が高価であるだけでなく、回収してきた大量のPCB汚染物質を効率良く処理するためには、装置の大型化を回避することができない。
【0008】
即ち、特許文献1,2に記載されたいずれのPCB分解システムも、車載型サイズの装置開発を目指したとき、安全性及びコストの観点から満足のいくものであるとは言えないのが実状である。
【0009】
かかる状況下、本発明が解決しようとする課題は、取り扱いが容易で、安全性が高く、小型化が可能で、車両に載せて一般道路を移動させることもできるPCB分解システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のPCB分解システムは、PCBを含有する油を収容する反応槽と、前記反応槽内へアルコールを供給する処理液供給器と、前記反応槽内へ金属カルシウム粉末を供給する第一薬剤供給器と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすれば、大気中での取り扱いが容易で高い還元力を有する金属カルシウム粉末により、常温・常圧の雰囲気でPCBの脱塩素化が可能となり、加熱設備や真空設備等も必要しないので、取り扱いが容易であり、安全性が高く、小型化が可能である。また、安全性が高く、小型化が可能であるため、車両に載せた状態で一般道路を移動させることもできる。
なお、アルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが用いられ、通常、エタノールである。また、油分との相溶性を高めるため、イソプロパノールを含んでいてもよい。
【0012】
ここで、前記金属カルシウム粉末の一次粒径が、30nm〜100nmのナノサイズであることが望ましい。
金属カルシウムの表面は、通常、酸化カルシウムや炭酸カルシウム等の皮膜が形成され、その本来の活性が低下しているが、使用する金属カルシウム粉末の一次粒径がこの範囲であれば、攪拌程度の機械的作用により、表面の皮膜が剥離することができるため、反応槽において、金属カルシウム本来の活性を得ることができる。また、少量のアルコール等の適切な薬剤(反応促進剤)との接触によっても活性を回復する。なお、前記粒径は、電子顕微鏡による画像観察にて測定することができる。
【0013】
ここで、前記第一薬剤供給部から前記反応槽内へ供給する金属カルシウム粉末に酸化カルシウムを混合させることが望ましい。
金属カルシウムは単独では粉砕が困難であり、ナノサイズの粒径にするには、適当な分散剤と共に、粒径の大きな金属カルシウムを混合させて粉砕することが好ましい。
ここで、分散材として、酸化カルシウム粉末を使用すると、微細な金属カルシウム粉末の形成を促進することのみならず、反応系において、酸化カルシウムが脱水剤として作用するため、好ましい。
なお、金属カルシウム粉末と、分散材としての酸化カルシウム粉末との混合比率は、特に制限されないが、通常、金属カルシウム粉末を1として、酸化カルシウム粉末が、5〜20程度が好適である。
【0014】
さらに、PCBの脱塩素反応に対する触媒を前記反応槽内へ供給する第二薬剤供給器を設ければ、反応槽内におけるPCBの分解反応を促進させることができる。
PCBの脱塩素反応に対する触媒作用を有する金属として、Pd、Pt等の貴金属類などを挙げることができる。また、これらの触媒金属は、炭素やアルミナなどの担体に担持してもちいてもよい。
【0015】
一方、前記反応槽内で生成した処理済液から分離されたアルコール分の少なくとも一部を前記反応槽内で再利用する構成とすれば、廃液量の削減及びアルコール使用量の低減を図ることができる。
【0016】
次に、本発明の移動式PCB分解システムは、前述したPCB分解システムのいずれかを、一般道路を走行可能な自動車に搭載したことを特徴とする。
【0017】
このような構成とすれば、使用済みのPCBが貯留されている倉庫や工場等にPCB分解システムを運び込んで、その場でPCBの分解無害化処理を行うことができるため、作業性が高まり、安全性も向上し、システムの大型化を回避することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、安全性が高く、小型化が可能で、車両に載せて一般道路を移動させることもできるPCB分解システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態であるPCB分解システムを示す概略構成図である。
【図2】図1に示すPCB分解システムを利用した移動式PCB分解システムを示す一部切欠平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1,図2に基づいて本発明の実施の形態であるPCB分解システム100及び移動式PCB分解システム200について説明する。なお、PCB分解システム100及び移動式PCB分解システム200は一例であって、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0021】
図1に示すように、本実施形態のPCB分解システム100は、PCBを含有する油(PCB含有油10)を一時貯留する貯留槽1と、貯留槽1から供給されるPCB含有油10を収容して分解処理する反応槽3と、反応槽3内へアルコール20を供給する処理液供給器2と、反応槽3内へ金属カルシウム粉末と酸化カルシウムとの混合微粉体40を供給する第一薬剤供給器4と、反応槽3内へ触媒50を供給する第二薬剤供給器5と、反応槽3内で生成した処理済液60を収容する処理済液槽6と、処理済液槽6から送給された処理済液60を収容してアルコール分21と廃油70とに分離する分離槽7と、を備えている。
【0022】
また、PCBの保管容器やコンデンサやトランス本体等(図示せず)の処理対象物を解体してPCB含有油10を回収する自動解体抜油装置8、及びPCB含有油10が抜き取られた後の保管容器等を洗浄する自動容器等洗浄装置9が、PCB分解システム100と別に設けられている。
【0023】
貯留槽1内に貯留されているPCB含有油10は、ポンプP1により、送液管11を経由して反応槽3内へ供給され、処理液供給器2内のアルコール20は、ポンプP2により、送液管12を経由して反応槽3内へ供給される。ポンプP1,P2の前後の送液管11,12にはそれぞれ開閉バルブV1,V2,V3,V4が配置されている。処理液供給器2には撹拌用モータM2及び液面センサS1が設けられている。
【0024】
第一薬剤供給器4内の混合微粉体40及び第二薬剤供給器5内の触媒50はそれぞれ送給経路13,14を経由して反応槽3内へ供給される。反応槽3には、撹拌用モータM3及び液面センサS3が設けられている。
【0025】
気密性を有する反応槽3内の被処理液30(処理済液60)は、ポンプP3により、送液管15を経由して処理済液槽6内へ送り込まれる。ポンプP3の前後の送液管15には開閉バルブ15,16が設けられている。処理済液槽6には、撹拌用モータM6及び液面センサS6が設けられている。処理済液槽6内に収容されている処理済液60は、ポンプP6により、送液管16を経由して分離槽7内へ送り込まれる。ポンプP6の前後の送液管16には開閉バルブV7,V8が配置されている。分離槽7には液面センサS7が設けられている。
【0026】
分離槽7内で分離され、その下方に溜まった廃油70は、ポンプP7により、排液管17を経由して、所定の処理場所へ排出することができる。ポンプP7の前後の排液管17には開閉バルブV9,V10が配置されている。
【0027】
一方、分離槽7内で分離され、廃油70の上方に溜まったアルコール分21は、ポンプP8により、送液管18を経由して処理液供給器2内へ送り込まれる。ポンプP8の前後の送液管18には開閉バルブV11,V12が配置されている。
【0028】
ここで、図1を参照して、PCB分解システム100を使用したPCB分解処理工程について説明する。図1に示す自動解体抜油装置8に処理対象物(保管容器やコンデンサやトランス本体等)を装入すると、ここで、PCB含有油とそれ以外の固形物等とに分離され、抜き取られたPCB含有油10は貯留槽1内へ送給され、前記固形物等は自動容器等洗浄装置9へ送り込まれ、付着しているPCB含有油等が洗浄除去される。
【0029】
貯留槽1内に貯留されたPCB含有油10は、ポンプP1によって反応槽3内へ送り込まれ、この反応槽3内において、処理液供給器2から供給されるアルコール20と、第一薬剤供給器4から供給される金属カルシウム粉末と酸化カルシウムとの混合微粉体40と、第二薬剤供給器5から供給される触媒(Pd/C)50と混合され、撹拌用モータM3によって撹拌される。
【0030】
反応槽3内において、PCB含有油10、アルコール20、混合微粉体40及び触媒
50を混合し、撹拌すると、PCBの脱塩素反応が進行し、PCBが徐々に分解されていく。具体的な反応工程は以下の通りである。

【0031】
脱塩素反応によって反応槽3内に生成された被処理液30はポンプP3によって処理済液槽6内へ送り込まれ、この処理済液槽6内において、再び、撹拌用モータM6によって撹拌処理される。
【0032】
処理済液槽6内での撹拌後の処理済液60はポンプP6によって分離槽7内へ送り込まれ、この分離槽7内に貯留される。分離槽7内で貯留された処理済液60は、時間の経過に伴い、廃油70とアルコール分21とに分離していく。分離槽7の底部に溜まった廃油70はポンプP7により排油管17を通じて適切な場所へ排出して、燃料油として再利用することができる。
【0033】
分離槽7内において廃油70の上方に溜まったアルコール分はポンプP8により送液管18を経由して処理液供給器2内へ送り込まれ、処理液供給器2内のアルコール20と混合して反応槽3内へ供給され、脱塩素処理反応に再利用される。
【0034】
以上のように、保管容器等によって保管されているPCB含有油10をPCB分解システム100を用いて処理すれば、毒性の無い廃油70とアルコール分21とに分解処理することができ、生成した廃油70は燃料油として再利用可能であり、アルコール分21は当該PCB分解システム100の処理液として再利用可能である。
【0035】
また、PCB分解システム100は、大気中での取り扱いが容易で高い還元力を有する金属カルシウム粉末を使用することにより、常温・常圧の雰囲気下でPCBの脱塩素化が可能であるため、加熱設備や真空設備等が不要で、安全性が高く、小型化が可能である。
【0036】
次に、図2に基づいて、図1に示すPCB分解システム100を利用した移動式PCB分解システム200について説明する。なお、図2に示す移動式PCB分解システム200において図1に示すPCB分解システム100と共通する構成要件については図1と同じ符号を付して説明を省略する。ただし、4’,5’はそれぞれ第一薬剤供給器、第二薬剤供給器を示しており、第一薬剤供給器4、第二薬剤供給器5と同じ構造、機能を有している。
【0037】
図2に示す移動式PCB分解システム200は、一般道路を走行可能な貨物搬送用の自動車25の荷台26上に、図1に示すPCB分解システム100及び当該PCB分解処理システム100を操作、制御する操作制御部27などを搭載した構成である。荷台26上に搭載されたPCB分解システム100及び操作制御部27等は開閉可能なケーシング23によって覆われている。
【0038】
図2に示す移動式PCB分解システム200は、一般道路を自動車25で走行して移動可能であるため、使用済みのPCBが貯留されている倉庫や工場等にPCB分解システム100を運び込み、その場でPCBの分解無害化処理作業を行うことができる。このため、PCBを所定場所に運び集めて無害化処理する従来のPCB分解システムに比べ、作業性に優れ、PCB含有油の保管容器等を自動車に積載して一般道路を走行して所定場所に運び込む必要も無くなるため、安全性も大幅に向上する。また、PCB含有油を一ヶ所に回収して大量処理することを前提としていないので、PCB分解システムの小型化を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のPCB分解システム及び移動式PCB分解システムは、トランスやコンデンサ等の絶縁性媒体等から回収した油分に含まれるPCBを無害化する手段として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 貯留槽
2 処理液供給槽
3 反応槽
4,4’ 第一薬剤供給器
5,5’ 第二薬剤供給器
6 処理済液槽
7 分離槽
8 自動解体抜油装置
9 自動容器等洗浄装置
10 PCB含有油
11,12,15,16,18 送液管
13,14 送給経路
17 排液管
20 アルコール
21 アルコール分
23 ケーシング
25 自動車
26 荷台
27 操作制御部
30 被処理液
40 混合微粉体
50 触媒
60 処理済液
70 廃油
M1,M2,M6 撹拌用モータ
P1,P2,P3,P6,P7,P8 ポンプ
S1,S3,S6,S7 液面センサ
V1〜V12 開閉バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBを含有する油を収容する反応槽と、前記反応槽内へアルコールを供給する処理液供給器と、前記反応槽内へ金属カルシウム粉末を供給する第一薬剤供給器と、を備えたことを特徴とするPCB分解システム。
【請求項2】
前記金属カルシウム粉末の一次粒径が、30nm〜100nmである請求項1記載のPCB分解システム。
【請求項3】
前記第一薬剤供給部から前記反応槽内へ供給する前記金属カルシウム粉末が、酸化カルシウム粉末に分散した金属カルシウム粉末である請求項1または2記載のPCB分解システム。
【請求項4】
PCBの脱塩素反応に対する触媒若しくは反応促進剤を前記反応槽内へ供給する第二薬剤供給器を設けた請求項1〜3のいずれかに記載のPCB分解システム。
【請求項5】
前記反応槽内で生成した処理済液から分離されたアルコール分の少なくとも一部を前記反応槽内で再利用する請求項1〜4のいずれかに記載のPCB分解システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のPCB分解システムを、一般道路を走行可能な自動車に搭載したことを特徴とする移動式PCB分解システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−165769(P2012−165769A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26466(P2011−26466)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(511036130)新燃料機構株式会社 (1)
【出願人】(597150201)
【Fターム(参考)】