PCB端子及びその製造方法
【課題】メス端子との嵌合部の最表面に、表面被覆層としてCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出したPCB端子において、適正で制御可能な平面視形状を有するSn被覆層とCu−Sn合金被覆層を提供する。
【解決手段】表面被覆層として複数の平行線として観察されるSn被覆層群Xが形成され、該Sn被覆層群Xを構成する個々のSn被覆層1a〜1dの両側でCu−Sn合金被覆層2が最表面に露出している。Sn被覆層1a〜1dの幅は1〜500μm、隣接するSn被覆層同士の間隔は1〜2000μm、最表面の端子挿入方向の最大高さ粗さRzは10μm以下とする。
【解決手段】表面被覆層として複数の平行線として観察されるSn被覆層群Xが形成され、該Sn被覆層群Xを構成する個々のSn被覆層1a〜1dの両側でCu−Sn合金被覆層2が最表面に露出している。Sn被覆層1a〜1dの幅は1〜500μm、隣接するSn被覆層同士の間隔は1〜2000μm、最表面の端子挿入方向の最大高さ粗さRzは10μm以下とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車・民生機器等の電気配線に使用されるPCB端子及びその製造方法に関し、特に嵌合部においてメス端子との挿抜に際しての摩擦や摩耗の低減が求められ、かつはんだ付け部において基板へのはんだ付性がよいことが求められるはPCB端子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のECU(エンジンコントロールユニット)、民生機器の電子制御基板などにはPCBコネクタが多用されている。PCBコネクタは、PCB(プリント基板)と、雌端子より構成された雌コネクタとを接続する役割を果たす。PCBコネクタには、多数のPCB端子が組み込まれている。PCB端子は嵌合部、嵌合部の他端に設けられたはんだ付け部、及び嵌合部とはんだ付け部の間に位置する中間部よりなる。通常、樹脂製の箱型筐体に設けられた所定数の挿通孔にPCB端子を挿入し、PCB端子の中間部に前記筐体を固定してPCBコネクタとして使用される。PCB端子の嵌合部は雄端子として、雌コネクタに収納されている雌端子に嵌合される。また、PCB端子のはんだ付け部は、プリント基板に設けられたスルーホールに挿入され、はんだ付けされる。
【0003】
特許文献1には、嵌合部にNiめっき層/Cu−Sn合金層/Snめっき層(素材側からの順、以下同じ)からなる表面被覆層が形成され、はんだ付け部にNiめっき層/Sn−Ni合金層/Snめっき層からなる表面被覆層が形成され、中間部にNiめっき層、Ni−Sn合金層又はCu−Sn合金層のいずれかからなる表面被覆層が形成されたPCB端子が開示されている。このような表面被覆層構成にすることにより、嵌合部は低接触抵抗及び低挿抜力を満足すること、はんだ付け部は良好なはんだ付け性を有すること、中間部ははんだ吸い上がりを防止できることが記載されている。特許文献1には、所定の端子形状に打抜き後、嵌合部、はんだ付け部、及び中間部にそれぞれ必要な後めっきを行い、リフロー処理する製造方法も記載されている。
【0004】
特許文献2には、従来の表面実装型コネクタを構成する端子として、上端に半円状の曲げ部を有する略L字状の端子が記載されている。上端側は接点部、下端側は基板に接続される部分である。接点部は、他の端子と弾性的に接触することにより、また基板接続側は、基板とはんだ付けされることにより、他の端子や基板と電気的に接続する。この端子の母材には銅又は銅合金が用いられ、接点部にはAu、Sn、はんだなどから選ばれた接点金属被膜が形成されており、基板接続部分にはSn、はんだなどからなるはんだ付け部を形成する金属被膜が形成されていること、これらの金属被膜は、母材との拡散の障壁としてCu又はNiなどの下地金属被膜を介して形成されることが多いことが記載されている。なお、この端子を示す同文献の図6によると、接点部と基板接続部分の中間には下地金属被膜が形成されている。
【0005】
一方、特許文献3には、電気的信頼性が高く(低接触抵抗)、摩擦係数が低く、嵌合型コネクタ用端子として好適な接続部品用導電材料が記載されている。特許文献3の発明では、通常の銅合金板条より表面粗さを大きくした銅合金板条を母材として用い、母材表面にNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に、又はCuめっき層及びSnめっき層をこの順に、あるいはSnめっき層のみを形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層から、あるいは銅合金母材とSnめっき層からCu−Sn合金層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSnめっき層の間からCu−Sn合金層の一部を表面に露出させる(母材表面に形成された凹凸の凸の部分でCu−Sn合金層の一部が露出する)。
【0006】
特許文献3においてリフロー処理後に形成された接続部品用導電材料は、表面被覆層として、Cu−Sn合金層及びSn層、又はNi層、Cu−Sn合金層及びSn層をこの順に有し、場合によっては母材表面とCu−Sn合金層の間、又はNi層とCu−Sn合金層の間にCu層が残留している。特許文献3では、最表面にCu−Sn合金層とSn層が形成され(Cu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%)、Cu−Sn合金層の平均の厚さが0.1〜3.0μm、Cu含有量が20〜70at%、Sn層の平均の厚さが0.2〜5.0μmと規定され、母材表面について少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.15μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下が望ましく、Cu−Sn合金層の表面露出間隔について少なくとも一方向において0.01〜0.5mmが望ましいことが記載されている。
【0007】
特許文献4には、特許文献3の下位概念に相当する接続部品用導電材料及びその製造方法が記載されている。そのめっき層構成及びリフロー処理後の被覆層構成自体は、特許文献3のものと同じである。特許文献4においてリフロー処理後に形成された接続部品用導電材料は、最表面にCu−Sn合金層とSn層が形成され(表面被覆層のうちCu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%)、Cu−Sn合金層の平均の厚さが0.2〜3.0μm、Cu含有量が20〜70at%、Sn層の平均厚さが0.2〜5.0μm、材料表面の少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.15μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが3.0μm以下と規定され、母材表面について少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.3μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下が望ましく、さらにCu−Sn合金層の表面露出間隔について少なくとも一方向において0.01〜0.5mmが望ましいことが記載されている。
【0008】
特許文献5には、基本的に特許文献3,4の技術思想を継承しながら、同時にはんだ付け性を改善した接続部品用導電材料及びその製造方法が記載されている。この発明において、めっき層構成及びリフロー処理後の被覆層構成自体は、特許文献3,4のものと基本的に同じであるが、この発明は特許文献3,4と異なり、Cu−Sn合金層が露出していない場合(最表面にSn層のみ)を含み得る。この出願においてリフロー処理後に形成された接続部品用導電材料は、表面被覆層のうちNi層の平均の厚さが3.0μm以下、Cu−Sn合金層の平均の厚さが0.2〜3.0μm、材料の垂直断面におけるSn層の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下、最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μm、材料の最表点とCu−Sn合金層の最表点との高度差[Y]が0.2μm以下と規定され、さらに[D1]が0μmのとき(Cu−Sn合金層が一部露出し、最表面がCu-Sn合金層とSn層からなるとき)、材料表面におけるCu−Sn合金層の最大内接円の直径[D3]が150μm以下又は/及び材料表面におけるSn層の最大内接円直径[D4]が300μm以下が望ましいことが記載されている。
【0009】
特許文献6〜8には、銅合金板条に打抜き加工を施した後、全体にSnめっきを施す、いわゆる後めっきを施すことにより、圧延面だけでなく打抜き端面にもSnめっき層を形成し、打抜き加工の前に銅合金板条にSnめっきを施す(先めっき)場合に比べて、端子等のはんだ付け性を向上させることが記載されている。
【0010】
さらに、特許文献9、10には、後めっきが施される端子において、電気的信頼性が高く(低接触抵抗)、嵌合部の摩擦係数が低く、かつはんだ付け部のはんだ付け性を向上させることが記載されている。
特許文献9の発明では、端子成形加工時に嵌合部分のみ表面粗度を大きくし、Niめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に、又はCuめっき層及びSnめっき層をこの順に、あるいはSnめっき層のみを形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層から、あるいは銅合金母材とSnめっき層からCu−Sn合金層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSnめっき層の間からCu−Sn合金層の一部を表面に露出させる(母材表面に形成された凹凸の凸の部分でCu−Sn合金層の一部が露出する)。この際、めっき厚は全面同じとする。嵌合部においては、最表面にCu−Sn合金層とSn層が形成され(Cu−Sn合金層が表面に露出)ているため、はんだ濡れ性に問題があるが、嵌合部以外は凹凸が無いためCu−Sn合金層が露出しておらず(最表面にSn層のみ)、はんだ濡れ性は良好である。
【0011】
特許文献10の発明では、表面粗さの大きい銅合金材料に打ち抜き加工を施して端子素材を形成した後、Niめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に、又はCuめっき層及びSnめっき層をこの順に、あるいはSnめっき層のみを形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層から、あるいは銅合金母材とSnめっき層からCu−Sn合金層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSnめっき層の間からCu−Sn合金層の一部を表面に露出させる(母材表面に形成された凹凸の凸の部分でCu−Sn合金層の一部が露出する)。この際、はんだ付け部のSnめっき層は厚く形成することで、はんだ付け部においてはCu−Sn合金層が表面に露出しておらず、はんだ濡れ性は良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開WO2008/072418号公報
【特許文献2】特開平5−82201号公報
【特許文献3】特許3926355号公報
【特許文献4】特許4024244号公報
【特許文献5】特開2007−258156号公報
【特許文献6】特開2004−300524号公報
【特許文献7】特開2005−105307号公報
【特許文献8】特開2005−183298号公報
【特許文献9】特開2008−269999号公報
【特許文献10】特開2008−274364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1のPCB端子の嵌合部は表層のSnの下に硬いCu−Sn合金層が存在しているため、通常のリフローSnめっき材等と比べて摩擦係数が小さくなるが、特許文献3〜4の素材から作製した端子、あるいは特許文献9及び10の端子に比べると摩擦係数の低減効果はなお十分ではない。
特許文献3〜5及び特許文献9,10に記載された接続部品用導電材料は、表面粗化処理した銅板材を母材として用い、その表面に例えばNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層からCu−Sn合金被覆層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSn被覆層の間からCu−Sn合金被覆層の一部を表面に露出させている。
【0014】
従来、Sn被覆層及びCu−Sn被覆層の露出形態の指標として、Cu−Sn合金被覆層の露出面積率と平均露出間隔(特許文献3,4)、及びSn被覆層の最大内接円直径及び最大外接円直径(特許文献5)が規定されている。
一方、個々のSn被覆層又はCu−Sn合金被覆層の形状については、これまで特に注目されていない。しかし、端子のさらなる小型化に対応するには、前記のようにやや抽象的な指標に留まらず、個々のSn被覆層又はCu−Sn合金被覆層の具体的形状について、適正で制御可能であり、かつ形成しやすい平面視形状が必要になると考えられる。
従って、本発明は、嵌合部において、適正で制御可能な平面視形状を有するSn被覆層又はCu−Sn合金被覆層を有し、低摩擦係数及び優れた電気的信頼性(長時間加熱後の接触抵抗値が低い)を有し、小型化にも対応可能なPCB端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るPCB端子は、所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造され、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなり、前記嵌合部に、表面被覆層としてCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出し、前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さが0.2〜5.0μmであることを特徴とし、さらに次の点を特徴とする。
(1)前記Sn被覆層は複数の平行線として観察される幅1〜500μmのSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の両側に前記Cu−Sn合金被覆層が隣接して存在し、前記Sn被覆層群に属するSn被覆層のうち隣接するSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であること、又は、
(2)前記Sn被覆層は複数の平行線として観察される幅が1〜500μmのSn被覆層群と、同じく複数の平行線として観察される幅が1〜500μmの別のSn被覆層群を1又は2以上含み、各Sn被覆層群は格子状に交差し、各Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の両側にCu−Sn合金被覆層が隣接して存在し、同じSn被覆層群に属するSn被覆層のうち隣接するSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であること、又は、
(3)前記Sn被覆層は複数の閉じた輪郭を有する図形として観察される円相当直径が5〜1000μmのSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の周囲にこれを包囲するCu−Sn合金被覆層が存在し、前記Sn被覆層群に属するSn被覆層は最も近いSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であること。
【0016】
上記(1)〜(3)の表面被覆層は、前記嵌合部に相当する部分に表面粗化処理が行われた銅板材を用いることで形成することができる。この表面粗化処理は後めっきの前に望ましくはプレス加工で銅板材の圧延面に対して行われるもので、上記(1)、(2)の場合、表面に複数の平行線として観察される凹部を形成し、上記(3)の場合、表面に複数の閉じた輪郭を有する図形として観察される凹部を形成する。
上記(1),(2)において、各Sn被覆層群に属する個々のSn被覆層は、複数の平行線として観察されるものをいうが、前記個々のSn被覆層は必ずしも数学的な意味で平行線状である必要はない。各Sn被覆層群に属する個々のSn被覆層が、ほぼ同形状で湾曲、波打ち、あるいは屈曲している場合も本発明に含まれる。
上記(3)において、閉じた輪郭を有する図形には、正方形、長方形、菱形、平行四辺形、台形等の四角形、三角形や六角形等の他の多角形、円形、楕円形、レーストラック形など、種々の幾何学的図形が含まれる。また、複数の図形の中には、各図形の単独の繰り返しのほか、2種類以上の図形の組み合わせも含まれる。
【0017】
上記PCB端子の嵌合部の表面被覆層は、前記のとおり、最表面にCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、リフロー処理により平滑化されたSn被覆層の間から、Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出した形態を有する。この表面被覆層形態自体は、特許文献3〜5に記載されたものと同じである。最表面に露出したCu−Sn合金被覆層が、粗さ曲線の山として測定され、この山が前記最大高さ粗さRzの大きさに反映される。
前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さは0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さは0.2〜5.0μmであり、各被覆層の平均厚さも、特許文献3〜5のものと同等の数値である。
【0018】
なお、上記PCB端子において、上記特定の表面被覆層は銅板材の圧延面(打抜き端面以外の面)の少なくとも1つの面に形成されていればよく、その面が相手側端子との主たる接触(摺動)面となる。上記特定の表面被覆層が形成されない面では、同じくCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、通常、リフロー処理で平滑化された前記Sn被覆層が最表面全体を覆っている。
【0019】
上記PCB端子の嵌合部の表面被覆層の一部として、銅板材(母材)の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間にNi被覆層が形成されていることが望ましい。また、前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにCu被覆層が形成されていてもよい。さらに、前記銅板材の表面とNi被覆層の間にCu被覆層が形成されていてもよい。Ni被覆層を設けた場合、リフロー時の熱処理条件によっては、Cu−Sn合金層の一部又は全てがCu−Ni−Sn合金層となる場合がある。
なお、本発明において、Sn被覆層、Ni被覆層及びCu被覆層は、それぞれSn、Ni、Cu金属のほか、Sn合金、Ni合金及びCu合金を含む。
【0020】
上記PCB端子は、嵌合部以外にはんだ付け部と中間部を有する。
はんだ付け部では、表面被覆層として、平均厚さが0.2〜10μmのSn被覆層が形成されることが望ましい。表面被覆層の一部として、銅板材の表面と前記Sn被覆層の間にCu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層が形成されていてもよく、さらに銅板材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層の間に、Ni被覆層が形成されていてもよい。さらに、前記Ni層とCu−Sn合金被覆層の間にCu被覆層が形成され、又は/及び前記銅板材と前記Ni層の間にCu被覆層が形成されていてもよい。
はんだ付け部の前記Sn被覆層は、リフロー処理されていなくても構わないが、はんだ濡れ性向上の点でリフロー処理をされていることが好ましい。この時、前記Cu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層は、リフロー処理しない場合は経時により、リフロー処理する場合はリフロー処理の加熱により形成される。
【0021】
はんだ付け部に嵌合部と全く同様の表面被覆層を形成することもできる。この場合、銅板材の表面粗化処理とめっきを嵌合部と一緒に行えばよい。
必要に応じて、リフロー処理後の表面被覆層の上に、さらにリフロー処理しないSnめっき層を形成することができる。この場合、リフロー処理後のSn被覆層とこのSnめっき層を合わせて平均厚さが0.2〜10μmとされる。このリフロー処理しないSnめっき層により、表面に露出したCu−Sn合金層がSnで被覆されるため、はんだ濡れ性が更に向上する。
【0022】
中間部については、表面被覆層が形成されていなくてもよい(ベア材)が、Sn被覆層、Ni被覆層、Cu被覆層、又はCu−Sn合金被覆層のいずれかからなる表面被覆層を形成することもできる。
あるいは、中間部に嵌合部と全く同様の表面被覆層を形成することもできる。この場合、銅板材の表面粗化処理とめっきを嵌合部と一緒に行えばよい。
【0023】
以上述べたPCB端子は、銅板材を打抜き加工すると同時に又はその前後に、前記銅板材の表面にプレス加工により表面粗化処理を行って複数の凹部を形成し、続いて表面粗化処理を行った銅板材の表面に後めっきを行い、さらにリフロー処理を行うことにより製造することができる。はんだ付け部にリフロー処理しないSn被覆層を形成する場合、前記リフロー処理後に、はんだ付け部にのみSnめっきを行えばよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、低挿入力でかつ電気的信頼性に優れた嵌合部を有するPCB端子を提供することができる。
本発明で規定されたSn被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平面視形状は、PCB端子の小型化にも対応可能であり、かつ銅板材の表面粗化処理を適正に行うことで、Sn被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平面視形状の制御を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る嵌合型接続部品の表面被覆層の一形態を説明する平面模式図である。
【図2】本発明に係る嵌合型接続部品の表面被覆層の別の形態を説明する平面模式図である。
【図3】図1,2に示す形態の表面被覆層を説明する断面模式図である。
【図4】図1,2に示す形態の表面被覆層を得るために行う銅板材の表面粗化処理を説明する断面模式図である。
【図5】本発明に係る嵌合型接続部品の表面被覆層のさらに別の形態を説明する平面模式図である。
【図6】図5に示す形態の表面被覆層を説明する断面模式図である。
【図7】図5に示す形態の表面被覆層を得るために行う銅板材の表面粗化処理を説明する断面模式図である。
【図8】打抜き加工後の銅板材の平面図である。
【図9】打抜き加工後のPCB端子部の断面図(a),(b)である。
【図10】面打ち加工を説明する断面図である。
【図11】実施例のNo.7のPCB端子試験片の表面SEM写真(組成像)(a)及び実施例のNo.1のPCB端子試験片の粗さ曲線(b)である。
【図12】実施例におけるSn被覆層の平均の厚さの測定方法を説明するための模式図である。
【図13】実施例における摩擦係数評価試験に用いる治具の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るPCB端子について、具体的に説明する。
本発明に係るPCB端子は、所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造されるもので、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなる。
【0027】
(PCB端子の嵌合部について)
PCB端子の嵌合部に、表面被覆層としてCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が前記Sn被覆層の間から最表面に露出している。相手側端子との接触(摺動)側最表面に硬いCu−Sn合金被覆層が露出することにより、摩擦係数が低下し、端子挿入力が低減する。最表面に露出したCu−Sn合金被覆層は、JISB0601に基づく粗さ曲線の山として測定され、この山が最大高さ粗さRzの大きさに反映される。
【0028】
本発明に係るPCB端子の嵌合部(特に相手側端子との主たる接触(摺動)面)に存在する前記Sn被覆層及びCu−Sn合金被覆層は、下記(1)〜(3)の形態をとる。
(1)複数の平行線として観察されるSn被覆層群を含み、該Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層(このSn被覆層を、特に平行Sn被覆層という場合がある)の両側にCu−Sn合金被覆層が隣接して存在する。
(2)複数の平行線として観察されるSn被覆層群と、同じく複数の平行線として観察される別のSn被覆層群を1又は2以上含み、各Sn被覆層群は格子状に交差し、各Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層(平行Sn被覆層)の両側にCu−Sn合金被覆層が隣接して存在する。
(3)複数の閉じた輪郭を有する図形として観察されるSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層(このSn被覆層を、特に図形Sn被覆層という場合がある)の周囲にこれを包囲するCu−Sn合金被覆層が存在する。
【0029】
まず、平行Sn被覆層及びCu−Sn合金被覆層の上記(1),(2)の形態を、図1,2の模式図を参照して説明する。なお、図1,2はPCB端子の嵌合部の最表面の一部を略正方形に抜き出して示す平面模式図である。
まず、図1(a),(b)は、上記(1)の形態の典型例を示す。図1(a)に示す例では、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層1a〜1d(まとめて平行Sn被覆層1という場合がある)が略等間隔で平行線状に形成され、各平行Sn被覆層1a〜1dの両側にCu−Sn合金被覆層2が隣接して存在する。Cu−Sn合金被覆層2も所定幅を有し、同じく略等間隔で平行線状に形成されている。平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層1a〜1dにより、本発明でいうSn被覆層群Xが構成される。
【0030】
図1(b)に示す例では、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層1a〜1dが略等間隔で平行線状に形成され、その両側にCu−Sn合金被覆層2が隣接して存在する。Cu−Sn合金被覆層2も所定幅を有し、同じく略等間隔で平行線状に形成されているが、Cu−Sn合金被覆層2の中にSn被覆層3が島状に存在する点で、図1(a)の例と異なる。平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層1により、本発明でいうSn被覆層群Xが構成される。
なお、図1(b)において島状に存在するSn被覆層3が連続して、Cu−Sn合金被覆層2が分断される場合、あるいはSn被覆層3の中にさらにCu−Sn合金被覆層が小さく島状に存在する場合等、種々の他の形態が生じ得る。
【0031】
図2(a),(b)は、上記(2)の形態の典型例を示す。図2(a)に示す例では、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層1a〜1dが略等間隔で平行線状に形成され、かつ、それに直角に交差して、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層4a〜4d(まとめて平行Sn被覆層4という場合がある)が略等間隔で平行線状に形成されている。平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層1a〜1dにより、本発明でいうSn被覆層群Xが構成され、同じく平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層4a〜4dにより、本発明でいうSn被覆層群Yが構成される。2つのSn被覆層群X、Yは格子状に交差し、各格子に囲まれたエリアにCu−Sn合金被覆層2が存在する。この場合も、Cu−Sn合金被覆層2は各平行Sn被覆層1,4の両側に隣接して存在するということができる。
【0032】
図2(b)に示す例では、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層1a〜1dが略等間隔で平行線状に形成され、かつ、それに直角に交差して、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層4a〜4dが略等間隔で平行線状に形成されている。平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層1a〜1dにより、本発明でいうSn被覆層群Xが構成され、同じく平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層4a〜4dにより、本発明でいうSn被覆層群Yが構成される。2つのSn被覆層群X、Yは格子状に交差し、各格子に囲まれたエリアにCu−Sn合金被覆層2が存在する。この例ではCu−Sn合金被覆層2の中にSn被覆層3が島状に存在し、この点で、図2(a)の例と異なる。この場合も、Cu−Sn合金被覆層2は各平行Sn被覆層1,4の両側に隣接して存在するということができる。
なお、図2(b)において島状に存在するSn被覆層3の中にさらにCu−Sn合金被覆層が小さく島状に存在する場合等、種々の他の形態が生じ得る。
【0033】
図1,2に示すPCB端子の嵌合部において、表面に露出したCu−Sn合金被覆層2は、リフロー処理により平滑化した平行Sn被覆層1(Sn被覆層3,平行Sn被覆層4も)の水準より、高さ方向に突出している。このような両被覆層の断面形態について、図3に示す断面模式図を参照して説明する。
図3において、銅板材(母材)5には、比較的深い凹部6が略等間隔で形成され、凹部6の両側に凸部7が形成され、凹部6を挟まない隣接する凸部7,7間は比較的平らである。このような表面構造はプラトー構造といわれている。凹部6は、銅板材5の表面に複数の平行線として観察される。
【0034】
図3(a)は図1(a)(又は図2(a))に対応するもので、銅板材5の表面全体にCu−Sn合金被覆層2が形成され、前記凹部6においてCu−Sn合金被覆層2の上に平行Sn被覆層1が形成されている。この凹部6に形成された平行Sn被覆層1が、図1(a)又は図2(a)において平行線状に観察された平行Sn被覆層1a〜1d(又は平行Sn被覆層4a〜4d)に相当する。
図3(b)は図1(b)(又は図2(b))に対応するもので、銅板材5の表面全体にCu−Sn合金被覆層2が形成され、前記凹部6においてCu−Sn合金被覆層2の上に平行Sn被覆層1が形成されている。プラトー部でもCu−Sn合金被覆層2の上にSn被覆層3が形成されている。この凹部6に形成された平行Sn被覆層1が、図1(b)又は図2(b)において平行線状に観察された平行Sn被覆層1a〜1d(又は平行Sn被覆層4a〜4d)に相当し、プラトー部に形成されたSn被覆層3が、図1(b)又は図2(b)において島状に観察されたSn被覆層3に相当する。
【0035】
ここで、Cu−Sn合金被覆層2と平行Sn被覆層1(及び平行Sn被覆層4)からなる表面被覆層の上記形態について、その形成手段の一例を具体的に説明する。
銅板材5をPCB端子の形状に打抜き後、又は打抜き前あるいは打抜きと同時に、少なくとも嵌合部相当部位の圧延面(一方又は両方の面)に対しプレス加工による表面粗化処理が施される。この表面粗化処理は、図4(a)に示すように、押圧面にごく細かい凹凸がほぼ一定ピッチで形成された金型8をプレス機にセットし、該金型8で銅板材5の表面をプレスすることで行われる。このプレス加工により、銅板材5の表面に金型8の押圧面の凸部(刃先)が押し込まれ、銅板材5の表面に凹部6が平行線状に転写され、同時に、凹部6から押し出された材料が凹部6の両側に盛り上がり、必然的に凸部7が形成される。凹部6を間に挟まない隣接する凸部7,7間の銅板材表面は、仕上げ圧延のままの比較的平ら(プラトー)な状態を保っている。
【0036】
続いて、PCB端子形状に打ち抜いたこの銅板材5の表面全周(圧延面及び打抜き端面)に、特許文献3〜5等と同様に、例えばCuめっき及びSnめっきが施され、さらにリフロー処理が施される。このリフロー処理により、Cuめっき層のCuとSnめっき層のSnからCu−Sn合金被覆層が形成され、溶融Snが銅板材5の表面の凹部に流動する。銅板材の表面粗化処理した部位では、溶融Snが銅板材5の凹部6等に流動し、図3(a)に示すように、平滑化した平行Sn被覆層1がCu−Sn合金被覆層2の上に形成され、Cu−Sn合金被覆層2の一部が平行Sn被覆層1の両側に、該平行Sn被覆層1に隣接して露出する。このときCuめっき層の一部がCu−Sn合金被覆層2の下に残留することもある。
なお、本発明に関しては、リフロー処理後の表面被覆層を構成する各層について「被覆層」と表現し、リフロー処理前の表面めっき層を構成する各層について「めっき層」と表現している。
リフロー処理後に残留するSn量が比較的多ければ、銅板材の表面粗化処理した部位では、表面のプラトー部に前記Sn被覆層3が形成され(図1(b),図2(b),図3(b)参照)、あるいは前記Sn被覆層3の被覆エリアが増える。図3(b)に示すように、Sn被覆層3は平行Sn被覆層1に比べて薄肉である。
【0037】
Sn被覆層群Xを構成する平行Sn被覆層1、及びSn被覆層群Yを構成する平行Sn被覆層4は、いずれも幅a,b(図1,2参照)が1〜500μm、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔c,d(図1,2参照)が1〜2000μmに設定される。なお、平行Sn被覆層の幅と、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔を上記のように設定するのは、この範囲内であれば平行Sn被覆層とCu−Sn合金被覆層が最表面に適度に混在して、低摩擦係数による挿入力の低減と電気的信頼性の両方が確保できるからである。
【0038】
より具体的に説明すると、平行Sn被覆層の幅を1μm以上とするのは、それより狭い幅の平行Sn被覆層を形成することは、銅板材の表面粗化処理の実施に困難が伴うためである。一方、平行Sn被覆層の幅が大きくなりすぎると、相手側端子の接点部が平行Sn被覆層に入り込み、挿入力が高くなるため、平行Sn被覆層の幅は500μm以下とする。近年のPCB端子の小型化を考慮すると、平行Sn被覆層の幅は200μm以下が望ましく、50μm以下がより望ましい。
また、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔を1μm以上とするのは、銅板材の表面粗化処理の実施に困難が伴うためである。一方、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔が大きくなりすぎると、当初のSnめっき層の厚さによって次のような現象が発生する。Snめっき層の平均厚さが厚い場合、Sn被覆層同士の間の部分において、露出するCu−Sn合金層が少なく、Sn層が多くなり、相手側端子とCu−Sn合金被覆層との接触面積が小さくなりすぎ挿入力の上昇(低挿入力効果の低下)を招く。Snめっき層の平均厚さが薄い場合、Cu−Sn合金層の占める割合が大きくなり(すべてCu−Sn合金層になることもある)、摩擦係数は低減できるものの、接触抵抗が大きくなり、電気的信頼性が劣化する。従って、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔は2000μm以下とする。近年のPCB端子の小型化を考慮すると、平行Sn被覆層の幅は1000μm以下が望ましく、250μm以下がより望ましい。平行Sn被覆層の幅、及び隣接する平行Sn被覆層同士の間隔はほぼ一定であることが望ましいが、それは必須ではない。ただし、平行Sn被覆層1,4は、それが形成された面(表面粗化処理された面)全体にほぼ均一に分布していることが望ましい。なお、流れる電流が大きい端子は、その断面積が大きくなる。その場合、相手側端子(雌端子)の接点部も大きくなり、嵌合部に接触する面積が大きくなることから、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔は大きくても差支えなく、例えば、500μm以上、2000μm以下であってもよい。平行Sn被覆層の幅や平行Sn被覆層同士の間隔は相手側端子の接点部の形状、及び寸法に合わせて適正な範囲に決めればよい。
【0039】
図3に示すように、最表面に露出したCu−Sn合金被覆層2は、平行Sn被覆層1及びSn被覆層3の水準から高さ方向に突出している。このため、例えばPCB端子の挿入方向(図1,2に白抜き矢印で示す)に表面粗さを測定すると、JISB0601に基づく粗さ曲線の山として測定される。
本発明では、PCB端子の挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下(0μmを含む)と規定されている。この最大高さ粗さRzが大きいと、最表面に露出するCu−Sn合金被覆層の表面積が広くなり、端子表面の耐食性が低下して酸化物量などが増え、接触抵抗が増加しやすく、電気的信頼性を維持することが困難となる。また、銅板材の表面粗化処理において銅板材5に凹部6を幅広く深く形成すると、最大高さ粗さRzが大きくなるが、これは銅板材5の変形を伴いやすい。従って、最大高さ粗さRzは10μm以下とし、望ましくは0超(多少とも突出している)〜5μm以下である。
【0040】
図2の例では、2つの平行Sn被覆層群X,Yが互いに直角に交差していたが、この交差角度は適宜に設定できる。2つの平行Sn被覆層群X,Yを交差させた場合、Cu−Sn合金被覆層のコーナー部がより高く盛り上がり(表面粗化処理において2つの凹部が交差した箇所のコーナーが盛り上がる)、低挿入力効果が向上する。しかし、平行Sn被覆層の幅及び隣接する平行Sn被覆層同士の間隔が同じであれば、交差角度が小さいほど盛り上がり間隔が広がり、低挿入力効果が小さくなる。このため、この交差角度は望ましくは10°〜90°とする。
3群以上のSn被覆層群を格子状に交差させることも本発明に含まれる。この場合も、各Sn被覆層群を構成する平行Sn被覆層は、幅が1〜500μm、同じSn被覆層群に含まれる隣接する平行Sn被覆層同士の間隔が1〜2000μmに設定される。同じく、各Sn被覆層群の交差角度は望ましくは10〜90°とする。
【0041】
PCB端子の挿入方向とSn被覆層群の長さ方向のなす角度は、0°〜90°の範囲で適宜設定すればよい。Sn被覆層群が1つの場合、上記角度は0°超〜90°が望ましく、この角度は大きいほど望ましく20°〜90°、さらに90°が望ましい。Sn被覆層群が複数の場合、少なくともいずれか1つのSn被覆層群について、挿入方向との角度が上記のようになるようにする。
【0042】
続いて、Sn被覆層及びCu−Sn合金被覆層の上記(3)の形態を、図5の模式図を参照して説明する。なお、図5はPCB端子の嵌合部の最表面の一部を略長方形に抜き出して示す平面模式図である。
図5(a)に示す例では、それぞれ略正方形の輪郭を有する図形として観察される複数の図形Sn被覆層11が碁盤目状に規則的に形成され、各図形Sn被覆層11の周囲を包囲するようにCu−Sn合金被覆層12が存在する。
図5(b)に示す例では、同じく複数の図形Sn被覆層11が碁盤目状に規則的に形成され、各図形Sn被覆層11の周囲を包囲するCu−Sn合金被覆層12がリング状に存在し、さらにその周囲をSn被覆層13が埋めている。
なお、本発明では、図形Sn被覆層11の集まりをSn被覆層群と称している。
【0043】
図5(a),(b)に示すPCB端子の嵌合部において、表面に露出したCu−Sn合金被覆層12は、リフロー処理により平滑化した図形Sn被覆層11(Sn被覆層13も)の水準より、高さ方向に突出している。このような両被覆層の断面形態について、図6に示す断面模式図を参照して説明する。
図6において、銅板材(母材)15には、比較的深い凹部16が略等間隔で形成され、凹部16の周囲に凸部17が形成され、凸部17の周囲は比較的平らである。このような表面構造はプラトー構造といわれている。凹部16は、銅板材15の表面に複数の略正方形の輪郭を有する図形として観察される。
【0044】
図6(a)は図5(a)に対応するもので、銅板材15の表面全体にCu−Sn合金被覆層12が形成され、前記凹部16においてCu−Sn合金被覆層12の上にSn被覆層11が形成されている。この凹部16に形成されたSn被覆層11が、図5(a)において略正方形の輪郭を有する図形として観察された図形Sn被覆層11である。
図6(b)は図5(b)に対応するもので、銅板材15の表面全体にCu−Sn合金被覆層12が形成され、前記凹部16においてCu−Sn合金被覆層12の上にSn被覆層11が形成されている。プラトー部でもCu−Sn合金被覆層12の上にSn被覆層13が形成されていて、Cu−Sn合金被覆層12は凸部17においてのみ露出している。凹部16に形成されたSn被覆層11が、図5(b)において略正方形の輪郭を有する図形として観察された図形Sn被覆層11に相当し、プラトー部に形成されたSn被覆層13が、図5(b)においてリング状のCu−Sn合金被覆層12の周囲を埋めるSn被覆層13に相当する。
【0045】
ここで、図5,6に示す表面被覆層の形態について、その形成手段の一例を具体的に説明する。
銅板材をPCB端子の形状に打抜き後、又は打抜き前あるいは打抜きと同時に、少なくとも嵌合部相当部位の圧延面(一方又は両方の面)に対しプレス加工による表面粗化処理が施される。この表面粗化処理は、図7(a)に示すように、押圧面にごく細かい凹凸がほぼ一定ピッチで形成された金型18をプレス機にセットし、該金型18で銅板材15の表面をプレスすることで行われる。このプレス加工により、銅板材15の表面に金型18の押圧面に形成された角錐台状(角柱状でもよい)の凸部が押し込まれ、銅板材15の表面に凹部16が転写され、同時に、凹部16から押し出された材料が凹部16の周囲に盛り上がり、必然的に略正方形のリング状の凸部17が形成される。凸部17の周囲の銅板材表面は、仕上げ圧延のままの比較的平ら(プラトー)な状態を保っている。
【0046】
続いて、PCB端子形状に打ち抜いたこの銅板材15の表面全周(圧延面及び打抜き端面)に、先に述べたと同様に、例えばCuめっき及びSnめっきが施され、さらにリフロー処理が施される。このリフロー処理により、Cuめっき層のCuとSnめっき層のSnからCu−Sn合金被覆層が形成され、溶融Snが銅板材15の表面の凹部に流動する。表面粗化処理した部位では、溶融Snが銅板材15の凹部16等に流動し、図6(a),(b)に示すように、平滑化した図形Sn被覆層11がCu−Sn合金被覆層12の上に形成され、Cu−Sn合金被覆層12の一部が図形Sn被覆層11の周囲に露出する。このときCuめっき層の一部がCu−Sn合金被覆層12の下に残留することもある。
リフロー処理後に残留するSn量が比較的多ければ、表面粗化処理した部位では、表面のプラトー部に前記Sn被覆層13が形成される(図5(b),図6(b)参照)。プラトー部の表面粗さが大きい場合、Sn被覆層13の間からCu−Sn合金被覆層12が露出することもある。図6(b)に示すように、Sn被覆層13は図形Sn被覆層11に比べて薄肉である。
【0047】
なお、図5,6に示す例では、図形Sn被覆層11の閉じた輪郭を有する図形は略正方形としたが、長方形、菱形、平行四辺形、台形等の他の四角形、三角形や六角形等の他の多角形、円形、楕円形、レーストラック形など、他の任意の図形とすることもできる。多数の図形Sn被覆層からなるSn被覆層群に、2種以上の異なる図形の図形Sn被覆層が含まれていてもよい。また、図形の配置形態についても、図5のように碁盤目状配置のほか、例えば千鳥状配置等も考えられる。図5(c)は図形が円形の例であり、図形Sn被覆層11の周囲にリング状のCu−Sn合金被覆層12が形成され、さらにその周囲にSn被覆層13が形成されている。図形Sn被覆層11はそれが形成された面(表面粗化処理された面)全体でほぼ均一に分布していることが望ましい。なお、銅板材15に凹部16を形成する金型は各図形に見合う錐台状又は柱状とすればよい。
【0048】
図形Sn被覆層11は、円相当直径が5〜1000μm、図形Sn被覆層同士の最短間隔が1〜2000μmに設定される。図形Sn被覆層の円相当直径と図形Sn被覆層同士の最短間隔を上記のように設定するのは、この範囲内であれば平行Sn被覆層とCu−Sn合金被覆層が最表面に適度に混在して、低摩擦係数による挿入力の低減と電気的信頼性の両方が確保できるからである。
【0049】
より具体的に説明すると、図形Sn被覆層の円相当直径を5μm以上とするのは、それより小さい面積の図形Sn被覆層を形成することは、銅板材の表面粗化処理の実施に困難が伴うためである。一方、図形Sn被覆層の面積が大きくなりすぎると、相手側端子の接点部が図形Sn被覆層に入り込み、挿入力が高くなるため、図形Sn被覆層の円相当直径は1000μm以下とする。表面粗化処理の難易度と近年のPCB端子の小型化とを考慮して、図形Sn被覆層の円相当直径は10〜300μmが望ましく、10〜200μmがより望ましい。
また、図形Sn被覆層同士の最短間隔を1μm以上とするのは、間隔がそれより小さいと銅板材の表面粗化処理の実施に困難が伴うためである。一方、図形Sn被覆層同士の最短間隔が大きくなりすぎると次のような現象が発生する。Snめっき層の平均厚さが厚い場合、Sn被覆層同士の間の部分において、露出するCu−Sn合金層が少なく、Sn層が多くなり、相手側端子とCu−Sn合金被覆層との接触面積が小さくなりすぎ挿入力の上昇(低挿入力効果の低下)を招く。Snめっき層の平均厚さが薄い場合、Cu−Sn合金層の占める割合が大きくなり(すべてCu−Sn合金層になることもある)、摩擦係数は低減できるものの、接触抵抗が大きくなり、電気的信頼性が劣化する。従って、図形Sn被覆層同士の間隔は2000μm以下とする。近年のPCB端子の小型化を考慮すると、図形Sn被覆層同士の最短間隔は1000μm以下が望ましく、250μm以下がより望ましい。
図形Sn被覆層の円相当直径、及び図形Sn被覆層同士の最短間隔はほぼ一定であることが望ましいが、それは必須ではない。
【0050】
図6に示すように、最表面に露出したCu−Sn合金被覆層12は、図形Sn被覆層11及びSn被覆層13の水準から高さ方向に突出している。このため、例えばPCB端子の挿入方向(図1,2に白抜き矢印で示す)に表面粗さを測定すると、JISB0601に基づく粗さ曲線の山として測定される。
本発明では、図5,6に示す形態の表面被覆層についても、PCB端子の挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下(0μmを含む)と規定されている。その理由は図1〜3に示す形態の表面被覆層と同じである。最大高さ粗さRzは望ましくは0超(多少とも突出している)〜5μm以下である。
【0051】
以上述べた嵌合部の表面被覆層において、Cu−Sn合金被覆層は、Cu6Sn5とCu3Snのいずれか一方又は双方からなり、平均厚さは0.1〜3.0μmとされる。これは、従来技術(前記特許文献3,4)のものと同等の数値である。Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1μm未満では、材料表面の耐食性が低下して酸化物量などが増え、接触抵抗が増加しやすく、電気的信頼性を維持することが困難となる。一方、3.0μmを超えると、コスト面で不利であり、生産性も悪くなる。従って、Cu−Sn合金被覆層の平均厚さは0.1〜3.0μmとし、望ましくは0.2〜1.0μmとする。
【0052】
また、Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率は3〜75%が望ましい。この表面露出面積率は、材料の単位表面積あたりに露出するCu−Sn合金被覆層の表面積に100をかけた値である。この値が3%未満では、材料表面の凝着量が増すため低い摩擦係数を得ることが困難となる。ただし、3%未満の場合においても、低減効果は小さくなるが表面の露出がない場合に比べて低い摩擦係数を得ることができる。一方,この値が75%を超えると、経時や腐食などによる材料表面のCuの酸化物量などが多くなり、接触抵抗を増加させ易く、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。従って、Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率は3〜75%とするのが望ましい。これは、従来技術(前記特許文献3,4)のものと同等の数値である。より望ましくは10〜50%である。
【0053】
Sn被覆層は、Sn金属又はSn合金からなる。Sn合金の場合、合金元素としてCu、Ag、Ni、Bi、In、Zn等が挙げられ、これらの元素は10質量%以下であることが望ましい。Sn被覆層の平均厚さは0.2〜5.0μmとされる。これは、従来技術(前記特許文献3,4)のものと同等の数値である。Sn被覆層の平均厚さが0.2μm未満では、高温酸化などの熱拡散により材料表面のCuの酸化物が多くなり、接触抵抗が増加しやすく、耐食性も悪くなることから、電気的信頼性を維持することが困難となる。一方、5.0μmを超えると、コスト面で不利であり、生産性も悪くなる。従って、Sn被覆層の平均厚さは0.2〜5.0μmとし、望ましくは0.5〜3.0μmとする。
【0054】
上記PCB端子の嵌合部の表面被覆層の一部として、銅板材の表面とCu−Sn合金被覆層の間にNi被覆層が形成されていてもよく、また、前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにCu被覆層が形成されていてもよい。さらに、前記銅板材の表面とNi被覆層の間にCu被覆層が形成されていてもよい。Ni被覆層の平均厚さは10μm以下(0μmを含む)とし、特に0.1〜10μmが望ましい。Cu被覆層の平均厚さは5μm以下(0μmを含む)とする。
これらの被覆層はいずれもめっきで形成されるものであり、Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間のCu被覆層は、先に述べたように、リフロー処理後にCu−Sn合金被覆層の下に残留したCuめっき層である。Ni被覆層はバリア層として、PCB端子の母材(銅板材)からCuや母材に含まれる合金元素が拡散してくるのを防止し、銅板材の表面とNi被覆層の間のCu被覆層は、Ni被覆層の密着性を向上させる作用を有する。
Ni被覆層は金属Ni又はNi合金からなる。Ni合金の場合、合金元素としてCu、P、Coなどが挙げられ、Cuは40質量%以下、P、Coは15質量%以下が望ましい。また、Cu被覆層は金属Cu又はCu合金からなる。Cu合金の場合、合金元素としてSn、Znなどが挙げられ、Snは50質量%未満、他の元素は5質量%以下が望ましい。
【0055】
次に上記PCB端子の嵌合部の製造方法について補足説明する。
表面粗化処理方法として、特許文献3〜5には、イオンエッチング等の物理的方法、エッチングや電解研磨等の化学的方法、圧延(研磨やショットブラスト等により粗面化したワークロールを使用)、研磨、ショットブラスト等の機械的方法が開示されている。しかし、このような方法で、上記のような複数の平行線として観察されるSn被覆層群と、その両側に隣接するCu−Sn合金被覆層、又は、閉じた輪郭を有する図形として観察される図形Sn被覆層と、個々の図形Sn被覆層の周囲を包囲するCu−Sn合金被覆層を形成することはできない。
一方、特許文献9,10には、端子形状加工時に銅板材表面を表面粗化処理する技術が記載されている。すなわち、銅板材に打抜き加工を施し端子素材が帯状の連結部を介して長さ方向に連鎖状に連なった銅板材を形成するとともに、前記打抜き加工と同時にあるいは打抜き加工の前又は後に、前記銅板材にプレス加工を施し、端子素材板面(銅板材表面)の表面粗さを増大させる、というものである。しかし、特許文献9,10にはプレス加工の具体的手段についての記載はない。
【0056】
Cu−Sn合金被覆層は、表面粗化処理(人為的に凹凸を形成)された銅板材表面の凸の部分でリフロー処理後に露出する。従って、Cu−Sn合金被覆層又はSn被覆層の露出形態は、表面粗化処理において銅板材表面に形成される凹凸の形態を反映したものとなる。
本発明では、表面粗化処理として、先に図4,7を参照して説明したように、押圧面にごく細かい凹凸が形成された金型をプレス機にセットし、該金型で銅板材(PCB端子の嵌合部相当箇所)の表面をプレスし、凸部を銅板材表面に打ち込む、という方法が適用できる。この方法であれば、本発明で規定するSn被覆層又はCu−Sn合金被覆層の露出形態を実現可能であり、平行Sn被覆層の幅、平行Sn被覆層同士の間隔、図形Sn被覆層の円相当直径、図形Sn被覆層同士の最短間隔についても、適宜の金型を選択し又は組み合わせることで自在に制御可能である。金型1の押圧面に細かい凹凸を付ける方法は、放電加工、研削加工、レーザー加工、エッチング加工などがあり、必要とする寸法精度、加工形状により任意に選択できる。凸部の形状、形成ピッチは一定である必要はない。
なお、前述のように平行Sn被覆層1,4や図形Sn被覆層11をそれが形成された面(表面粗化処理された面)全体でほぼ均一に分布させるには、前記凹部6,7及び凹部16を表面粗化処理する面全体にほぼ均一に形成する必要がある。
【0057】
部品形状への打抜き及び表面粗化処理の後、銅板材にいわゆる後めっきを行う。後めっきとしては、必要に応じてNiめっきを行った後、Cuめっき層と、Snめっき層をこの順に形成した後、リフロー処理を行うことにより製造することができる。また、必要に応じてNiめっき層の下に、Niめっきの密着性改善のため、Cuめっき層を形成することもできる。あるいは、銅板材表面に直接Snめっき層のみを形成してもよい。
上記後めっきは、PCB端子の全長にわたり行ってもよいし(はんだ付け部と中間部にも嵌合部と同じ後めっきを行う場合)、PCB端子の嵌合部に相当する部分にのみ行うこともできる(はんだ付け部と中間部に嵌合部とは別の後めっきを行う場合)。
【0058】
後めっき後の銅板材にリフロー処理を施すと、Cuめっき層とSnめっき層のCuとSnが相互拡散してCu−Sn合金被覆層が形成され、その際にSnめっき層が残留する。Cuめっき層は全て消滅する場合と一部残留する場合の両方があり得る。Cuめっき層の一部が残留するとき、銅板材表面(Niめっき層を形成したときはNi被覆層表面)とCu−Sn合金被覆層の間にCu被覆層が形成される。Niめっき層を形成しない場合、Cuめっき層の厚さによっては、銅板材(母材)からもCuが供給される場合がある。銅板材表面に直接Snめっき層のみを形成する場合、銅板材(母材)中のCuとSnめっき層中のSnが相互拡散してCu−Sn合金被覆層が形成される。
【0059】
Cuめっき層の平均厚さは0.1〜1.5μm、Snめっき層の平均厚さは0.3〜8.0μm、Niめっき層の平均厚さは0.1〜10μmが望ましい。
なお、本発明において、Cuめっき層、Snめっき層及びNiめっき層は、それぞれCu、Sn、Ni金属のほか、Cu合金、Sn合金及びNi合金を含む。Cuめっき層、Snめっき層及びNiめっき層が、Cu合金、Sn合金及びNi合金の場合、各合金の組成は、先に説明したCu被覆層、Sn被覆層及びNi被覆層の各合金と同じでよい。
【0060】
(PCB端子のはんだ付け部について)
PCB端子のはんだ付け部は、PCB基板のスルーホールに挿入され、はんだ付けされ、これによりPCB端子がPCB基板に固定される。電気的な信頼性を確保するため、はんだ付け時、はんだ付け部のはんだと接触する部分に均一にはんだが広がることが求められる。そのためには、はんだ付け部に所定厚さ以上のSn被覆層が形成されていることが必要である。
はんだ付け部には嵌合部とは別にめっきを施し、あるいは嵌合部と一緒にめっきを施すことができるが、いずれにしても、Sn被覆層は平均厚さが0.2〜10μmとされる。Sn被覆層の平均厚さが0.2μm未満であると、はんだ濡れ性が低下する。一方、平均厚さが10μmを超えるとコスト面で不利であり、生産性も悪くなる。従って、Sn被覆層の平均厚さは0.2〜10μmとし、望ましくは0.5〜5μmとする。このSn被覆層ははんだ付け部の最表面の全面を被うことが望ましい。
このSn被覆層は、Sn金属又はSn合金からなる。Sn合金の組成は先に説明したものと同じでよい。
【0061】
上記PCB端子のはんだ付け部の表面被覆層の一部として、Sn被覆層の下(Sn被覆層と銅板材の間)にCu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層が形成されていることが望ましく、さらにその下(Cu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層と銅板材の間)にNi被覆層が形成されていることが望ましい。また、Ni被覆層の下(Ni被覆層と銅板材の間)にCu被覆層を有していてもよく、Cu−Sn合金被覆層の下にNi被覆層が形成されている場合に、両被覆層の間にCu被覆層を有していてもよい。
Ni被覆層及びCu被覆層は、それぞれNi金属又はNi合金、及びCu金属又はCu合金からなる。このSn合金、Ni合金及びCu合金の組成は先に説明したものと同じでよい。
【0062】
Cu−Sn合金被覆層、Ni−Sn合金被覆層及びNi被覆層は、いずれもバリア層として、PCB端子の母材(銅板材)からCuや母材に含まれる合金元素が拡散してくるのを防止する機能を有する。バリア層がなく、Sn被覆層に拡散してきたCuや母材の合金元素が表面に達して酸化すると、はんだの濡れやはんだの広がりが低下して確実な接合を阻害する可能性がある。
Cu−Sn合金被覆層及びNi−Sn合金被覆層の平均厚さは3μm以下(0μmを含む)、Ni被覆層の平均厚さは10μm以下(0μmを含む)とされる。Cu−Sn合金被覆層及びNi−Sn合金被覆層の平均厚さが3μmを超え、Ni被覆層の平均厚さが10μmを超えるとコスト面で不利であり、生産性も悪くなる。
銅板材の表面とNi被覆層の間のCu被覆層は、Ni被覆層の密着性を向上させる作用を有する。このCu被覆層の平均厚さは5μm以下(0μmを含む)とされる。
【0063】
Cu−Sn合金被覆層はCuめっき層のCuとSnめっき層のSnから、Ni−Sn合金被覆層はNiめっき層のNiとSnめっき層のSnから、いずれもリフロー処理により形成される。Cu−Sn合金被覆層の下(銅板材とCu−Sn合金被覆層の間、又はNi被覆層とCu−Sn合金被覆層の間)のCu被覆層は、リフロー処理後に残留したCuめっき層であり、Ni−Sn合金被覆層の下のNi被覆層は、リフロー処理後に残留したNiめっき層である。残留したCu被覆層の平均厚さは5μm以下(0μmを含む)とされる
Cuめっき層、Niめっき層及びSnめっき層は、それぞれCu金属又はCu合金、Ni金属又はNi合金、及びSn金属又はSn合金からなる。Cuめっき層がCu合金からなるかSnめっき層がSn合金からなる場合、Cu−Sn合金被覆層はCuとSn以外の合金元素を含み、Niめっき層がNi合金からなるかSnめっき層がSn合金からなる場合、Ni−Sn合金被覆層はNiとSn以外の合金元素を含む。CuめっきのCu合金、NiめっきのNi合金及びSnめっきのSn合金の組成は先に説明したものと同じでよい。
【0064】
はんだ付け部に嵌合部と一緒に表面粗化処理を施したうえでめっき及びリフロー処理を行うと、はんだ付け部においてもCu−Sn合金被覆層が最表面に露出する場合がある。特にはんだ付け部に嵌合部と同じ表面粗化処理及びめっきを施した場合、Cu−Sn合金被覆層は必ず最表面に露出する。この場合、リフロー処理で平滑化したSn被覆層の上にあらためてSnめっきし、はんだ付け部の最表面全体をSnめっき層で被うことが、はんだの濡れやはんだの広がりの観点から望ましい。表面粗化処理を施していない場合、Cu−Sn合金被覆層が最表面に露出しないが、その場合でも、リフロー処理で平滑化したSn被覆層の上に補充的にSnめっきを行うことができる。
コスト面及び生産性の観点から、このSnめっき層の平均厚さは0.3μm以下とされる。リフロー処理後のSn被覆層と合わせた合計の平均厚さは0.2〜10μmとされる。このSnめっき層はSn金属又はSn合金からなる。Sn合金の組成は先に説明したものと同じでよい。また、このSnめっきは、光沢Snめっき、半光沢Snめっき、無光沢Snめっきのいずれであってもよい。
【0065】
(PCB端子の中間部について)
PCB端子の中間部には、はんだ濡れ性やはんだ拡がり性、電気的信頼性(長時間加熱後でも低い接触抵抗値)は求められないので、表面被覆層を形成しなくてもよいが、耐食性の観点から、必要に応じて、Sn被覆層、Ni被覆層、Cu被覆層、又はCu−Sn合金被覆層のいずれか1種又は2種以上で被覆することもできる。嵌合部又ははんだ付け部と同じ表面被覆層構成でもよい。また嵌合部と同じ表面粗化処理を行ってもよい。
【0066】
(PCB端子の打抜き、面取り加工について)
PCB端子は銅合金板条を順送りプレスで打抜き加工を施して製造する。図8は打抜き加工後の銅合金板条の平面図であり、21はPCB端子部、22,23は繋ぎ部である。めっき及びリフロー処理後(リフロー処理後にさらにSnめっきを行う場合は当該Snめっき後)、PCB端子部21は繋ぎ部22において個々に切り離される。PCB端子部の打抜きは、片側抜き又は両側抜きといわれる方法で行われる。片側抜きとは、1つのPCB端子21の両端面を片側ずつ順にプレス打抜きする方法であり、両側抜きとは、両端面を一度にプレス打抜きする方法である。
【0067】
図9(a)に片側抜きされたPCB端子部21の断面図を示す。上面21aと下面21bが圧延面、両側面21c,21dが打抜き端面である。このPCB端子21は、まずA−Aのラインに沿って上下方向に打抜き(せん断)された後、B−Bのラインに沿って打抜き(せん断)されている。打抜き後の断面は上面21aが上向きにやや湾曲し、上面側コーナー部にダレが発生し、下面21bは幅方向中央部を境に互いに逆方向に傾斜し、下面側コーナー部にバリが発生している。下面21bの傾斜は、打抜きに際して材料を回転させる力が片側ずつ順に加わるために生じる。
図9(b)に両側抜きされたPCB端子部21の断面図を示す。このPCB端子21は、A−AとB−Bのラインに沿って上下方向に同時に打抜き(せん断)されている。断面は、打抜きに際して材料の回転がないため下面21bが比較的平らであるが、それ以外の点は図9(a)に示すものとほぼ同じである。
図9(a)、(b)に示す上面21aの湾曲、上面側コーナー部のダレ、下面21bのコーナー部のバリの程度は、端子を打抜く上金型と下金型のクリアランス量によって変わる。
【0068】
このような断面形状のPCB端子21にSnめっき等を行った後、リフロー処理を行うと、リフロー処理前のSnめっき層厚さが断面の全周でほぼ均一であっても、リフロー後のSn被覆層の厚さは、上面21aの中央部で厚く、上面側コーナー部で薄く、下面側コーナー部で厚く、下面21bの中央部で薄くなる傾向がある。Sn被覆層厚さが不均一になると、嵌合部では相手側端子との接触箇所によって摩擦係数が目標値より大きくなったり、はんだ付け部ではんだ付け性が低下する可能性が出てくる。また、バリの部分でスルーホール挿入時にSn被覆層の削れ、バリ及びSn被覆層の剥離が生じやすくなる。
【0069】
このようなSn被覆層の厚さの不均一を防止するには、順送りプレスにおいて面打ち加工を行い、上面側又は/及び下面側のコーナー部にR面取り又はC面取りを行うことが効果的であり、同時に上面21aを平らに矯正してもよい。なお、R面取りとはコーナーを円弧状に丸めること、C面取りとはコーナーをテーパー面にすることを意味する。図10はその面打ち加工の一例を示すもので、上型24の面打ち部は、PCB端子21の上面21aに対応する平坦部とその両側にPCB端子21の上面側コーナー部に対応する傾斜部を備え、下型25の面打ち部は、PCB端子の下面21bに対応する平坦部とその両側にPCB端子21の下面側コーナー部に対応する傾斜部を備え、両金型24,25でPCB端子の幅に打ち抜かれた銅板材を上下方向にプレスする。表面粗化処理はこの面打ち加工後に行えばよい。
【実施例】
【0070】
(銅板材(めっき母材)の作製)
本実施例においては、Cu中に1.8質量%のNi、0.40質量%のSi、1.1質量%のZn、0.10質量%のSnを含有し、ビッカース硬さ180、厚さ0.25mmtの銅板材を用いた。
上記銅板材から100mm×40mm(圧延長手方向×直角方向)の試験片を切り出し、PCB端子を成形する順送金型内の所定位置(PCB端子形状に打抜き加工した後の位置又は面打ち加工した後の位置)に、押圧面に所定凹凸を付けたパーツを取り付け、図8に示すように、1mmw×22mmL又は3mmw×22mmLのPCB端子形状を5mmピッチで打抜き加工(片側抜き又は両側抜き)し、続いてPCB端子部21に図10を用いて説明した面打ち加工を行い(一部は行わず)、さらにPCB端子部21の嵌合部相当箇所とはんだ付け部相当箇所に表面粗化処理を行った(一部は行わず)。表面粗化処理は一方の圧延面(上面)にのみ行い、それぞれ多数の微少凹部を互いに平行に(線状の凹部の場合)、又は碁盤目状にあるいは千鳥状に(図形状の凹部の場合)、いずれも前記嵌合部相当箇所とはんだ付け部相当箇所の表面粗化処理する面全体にほぼ均一に分布するように規則的に形成した。表面粗化処理において、凹凸形状の異なるパーツを用いたり、複数回打ちすること等により、銅合金板の表面に種々の形態の微少凹部を形成することができる。なお、図8において、PCB端子部21の両矢印の範囲A(10mmL)がPCB端子の嵌合部相当箇所、範囲B(10mmL)がPCB端子のはんだ付け部相当箇所である。
【0071】
(嵌合部の実施例)
続いて、銅板材のPCB端子部の嵌合部相当箇所の全周に、Niめっき、Cuめっき及びSnめっきをこの順に施した後(一部にNiめっきを省略したもの、及びNiめっきの前にCuめっきを施したものが含まれる)、280℃×10secのリフロー処理を行い、個々のPCB端子に切り離すことによりNo.1〜37のPCB端子試験片を得た。
No.7の表面SEM写真(組成像)を図11(a)に示す。図中の白色部がSn被覆層、黒色部がCu−Sn合金被覆層である。図11(a)のSn被覆層には、それぞれ複数の平行線として観察される2つのSn被覆層群が含まれ、一方のSn被覆層群と他方のSn被覆層群は90°の角度で交差し、全体として格子状をなしている。なお、図11(a)の例では、表面粗化処理後、めっき前のPCB端子部表面には、複数の平行線として観察される細かい溝(谷)が90°の角度で交差して形成され、これらの溝が全体として格子状をなしている。
【0072】
表1〜4に、各試験片の表面被覆層の表面形態、表面被覆層を構成する各被覆層の平均厚さ、及び面打ち加工の有無を示す。表1において、直線Xとは一方のSn被覆層群を構成する平行Sn被覆層Xを指し、直線Yとは他方のSn被覆層群を構成する平行Sn被覆層Yを指し、一方のSn被覆層群しか存在しない場合、Sn被覆層Y(直線Y)の欄を空欄としている。Sn被覆層Xの幅、Sn被覆層Yの幅、Sn被覆層X同士の間隔、Sn被覆層Y同士の間隔、図形Sn被覆層の円相当直径、図形Sn被覆層同士の最短間隔のいずれか1つが500μmを超えるPCB端子は3mm幅に打ち抜いたものを用い、他は1mm幅に打ち抜いたものを用いた。
なお、No.1〜16,18,20〜37は打抜き加工が片側抜きのもの、No.17は両側抜きのもの、No.19は両側抜き後、面打ち加工でバリ潰しのみを行ったものである。
各試験片の表面形態を示す各パラメータ及び各被覆層の平均厚さの測定方法(いずれも表面粗化処理した圧延面において測定)は、次のとおりである。
【0073】
[最大高さ粗さRz]
接触式粗さ計(株式会社東京精密製;サーフコム1400)を用いて、JIS B0601:2001に基づいて測定した。表面粗さ測定条件は、カットオフ値を0.8mm、基準長さを0.8mm、評価長さを4.0mm、測定速度を0.3mm/s、接触針先端半径を5μmRとして、測定は表面粗化処理を施した面においてPCB端子挿入方向に、異なる3箇所で行い、得られた各粗さ曲線から最大高さ粗さRzを求め、その最大値を試験片の最大高さ粗さRzとした。なお、最大高さ粗さRzはどの測定箇所でもほぼ同じ値が得られた。図11(b)にNo.1で測定した粗さ曲線の一例を示す。
【0074】
[Sn被覆層の幅等]
試験片の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、その組成像から表1の平行Sn被覆層X,Yの幅、直線X,Yの間隔、表3の図形Sn被覆層の円相当直径,最短間隔(隣接する図形Sn被覆層同士の最短間隔)を測定した。表3の挿入方向交差角度は、図形Sn被覆層の図形(四角形)の一辺と挿入方向の交差角度である。直線X,Yの交差角度、直線Xと挿入方向交差角度、図形の一辺と挿入方向交差角度は表面粗化処理の段階で設定した。なお、平行Sn被覆層X,Yの幅、直線X,Yの間隔、表3の図形Sn被覆層の円相当直径,最短間隔の寸法に合わせ、走査電子顕微鏡での観察倍率を変化させた。各試料毎に3視野のSEM画像を写真撮影し、撮影した写真毎に平行Sn被覆層X,Yの幅、直線X,Yの間隔、図形Sn被覆層の最短間隔を3箇所測定し、3枚の写真の測定値(データ数9)の平均値を算出した。また、表3の図形Sn被覆層の円相当直径については、画像解析装置を用いて各写真毎に円相当直径をもとめ、3枚の写真の平均値を算出した。
【0075】
[Sn被覆層の平均の厚さ]
まず、蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、Sn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和を測定した。その後、p-ニトロフェノール及び苛性ソーダを成分とする水溶液に10分間浸漬し、Sn被覆層を除去した。再度、蛍光X線膜厚計を用いて、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を測定した。測定条件は、いずれも検量線にSn/母材の単層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。
Sn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和の測定において、測定位置として、試験片の幅方向(長手方向に直交する方向)中央位置及びその両側の位置(計3箇所)を選定した。それぞれの位置における測定点は、長手方向端部から1mm入った位置及び該位置から長手方向に0.5mmピッチで計10点とし、各試験片毎に3箇所×10点の計30点の測定値の平均値を求めた。図12は、幅1mmの試験片21について前記測定位置及び測定点を説明する模式図である。前記中央位置での測定は、試験片21の幅方向中心線L1に沿って行った。中央位置の両側の位置での測定は、直線L1に平行な直線L2,L3に沿って行なったが、その測定位置として、図12に示すように、コリメータで照射されるX線束の端が試験片の幅方向端部(コーナー部)の丸み又は斜面(R面取り又はC面取りした試験片)若しくはダレ(面取りしなかった試験片)にギリギリ掛からない位置を選定した。なお、図12において、○印は各測定位置におけるX線束を示し、Cは試験片の幅方向端部(コーナー部)に形成された丸み又は斜面若しくはダレを示す。一方、幅3mmの試験片については、測定位置として、試験片の幅方向中央位置及び幅方向端部から0.5mm入った位置(計3箇所)を選定した。
Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の測定も同様に行った。Sn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和から、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を差し引き、得られた値をSn被覆層の平均の厚さとした。
【0076】
[Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さ]
まず、供試材をp-ニトロフェノール及び苛性ソーダを成分とする水溶液に10分間浸漬し、Sn被覆層を除去した。その後、蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を測定した。測定条件は、検量線にSn/母材の単層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。測定位置、測定点及び測定点数は上記[Sn被覆層の平均の厚さ]の項に記載したとおりである。得られた値をCu−Sn合金被覆層の平均の厚さとした。
【0077】
[Cu被覆層の平均の厚さ]
ミクロトーム法にて加工した母材の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて10,000倍の倍率で観察し、画像解析処理により平均の厚さを算出した。
[Ni被覆層の平均の厚さ]
蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて平均の厚さを算出した(1試料について3箇所測定し、平均値を算出)。測定条件は、検量線にSn/Ni/母材の2層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。
【0078】
[Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率]
供試材の表面を、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて200倍の倍率で観察し、得られた組成像の濃淡(汚れや傷等のコントラストは除く)から画像解析によりCu−Sn合金被覆層の露出面積率を測定した。なお、平行Sn被覆層の幅や間隔又は図形Sn被覆層の円相当直径が大きく、平行Sn被覆層又は図形Sn被覆層の繰り返し単位が1視野に入らない場合、視野をずらしながら1視野分以上の面積(繰り返し単位以上の面積)を観察及び測定した。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
続いて、得られた試験片について、摩擦係数評価試験及び高温放置後の接触抵抗評価試験を下記の要領で行った。その結果を、表2,4に示す。
[摩擦係数評価試験]
PCB端子と嵌合するメス端子における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図13に示すような装置を用いて評価した。まず、PCB端子試験片21(No.1〜37)を水平な台26に固定し、その上に、表面粗化処理を行っていない銅板材(PCB端子試験片と同材質で板厚0.25mm)にめっき(Cu:0.15μm、Sn:1.0μm)及びリフロー処理した材料から切り出した半球加工材(内径をφ1.5mmとした)のメス試験片27を置いて被覆層同士を接触させた。続いて、メス試験片27に3.0Nの荷重(錘28)をかけて試験片21を押さえ、横型荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社;Model−2152)を用いて、試験片21を端子挿入方向に水平方向に引っ張り(摺動速度を80mm/minとした)、摺動距離5mmまでの最大摩擦力F(単位:N)を測定した。摩擦係数を下記式(1)により求めた。摩擦係数が0.4以下のものを低摩擦係数と評価した。なお、29はロードセル、矢印は摺動方向である。
摩擦係数=F/3.0 …(1)
【0084】
[高温放置後の接触抵抗評価試験]
各試験材に対し、大気中にて160℃×500hrの熱処理を行った後、接触抵抗を四端子法により、開放電圧20mV、電流10mA、無摺動の条件にて測定した。測定箇所を変えて測定を5回行い、その平均値を測定値とした。160℃×500hr加熱後の接触抵抗が10mΩ未満のものを耐熱性がよい(○)、10mΩ以上のものを耐熱性が劣る(×)と評価した。
【0085】
表2に示すようにNo.1〜22,32〜37は、Sn被覆層とCu−Sn合金被覆層の平均厚さ、試験片の表面に観察されるSn被覆層の形態(Sn被覆層の幅と間隔、Sn被覆層の円相当直径と間隔)、及び最大高さ粗さRzに関して本発明に規定する要件を満たし、摩擦係数が0.4以下と低い値を示し、かつ加熱後の接触抵抗が10mΩ以下である。
一方、No.23,24はSn被覆層の平均厚さが小さすぎ(Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率も大きすぎる)、No.25はCu−Sn合金被覆層の平均厚さが小さすぎ,No.26は最大高さ粗さRzが大きすぎるため、加熱後接触抵抗が高い。また、No.27,28は平行Sn被覆層の幅が大きすぎるため(Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率も小さすぎる)、No.29,30はめっきSn層が厚い試料であるが、平行Sn被覆層同士の間隔が大きすぎるため、Cu−Sn合金層の露出面積が小さくなり、摩擦係数が高くなった。No.31は表面粗面化処理を行っていないため、摩擦係数が高い。
【0086】
(はんだ付け部の実施例)
一方、銅板材のPCB端子部のはんだ付け部相当箇所の全周に、Niめっき、Cuめっき及びSnめっきをこの順に施した後(一部にNiめっきを省略したもの、及びNiめっきの前にCuめっきを施したものが含まれる)、280℃×10secのリフロー処理を行い、一部についてさらにSnめっきを行い、次いで個々のPCB端子に切り離すことによりNo.38〜65のPCB端子試験片を得た。なお、No.56〜60,64,65のはんだ付け部には、プレス打抜き加工後、No.1と同じ表面粗化処理を施した。
【0087】
表5,6に、各試験片における各被覆層の平均厚さ、表面粗化処理の有無及び面打ち加工の有無を示す。なお、No.38〜48,51〜65は打抜き加工が両側抜き、No.49は片側抜き、No.50は両側抜き後、面打ち加工でバリ潰しのみ行ったものである。図8に示したように、PCB端子としてはんだ付け部も嵌合部と同時に打抜き加工しているが、No.38〜65のPCB端子試験片はNo.1〜37のPCB端子試験片のはんだ付け部を用いずに、新たに打抜いたものを使用した。
各試験片における各被覆層の平均厚さの測定方法は、前記のとおりである。また、リフロー後のSnめっき層の平均の厚さの測定方法は下記のとおりである。
[リフロー後のSnめっき層の平均の厚さ]
リフロー後に形成したSnめっき層については、ミクロトームにて端子長手方向に直交する母材の断面を切断し(1試料あたり3箇所)、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて10,000倍の倍率で切断した各試料断面の上面(打抜き時に上面であった面)の中央部付近のSnめっきの厚さを測定し、3切断面の平均の厚さを算出した。
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
続いて、得られた試験片について、はんだ濡れ時間の測定試験を下記の要領で行った。その結果を、表5,6に示す。
[はんだ濡れ試験]
No.38〜65の試験片に対して、非活性フラックスを1秒間浸漬塗布した後、メニスコグラフ法にてはんだ濡れ時間を測定した。はんだは255℃のSn−3.0Ag−0.5Cuはんだ又は245℃のSn−40Pbはんだとし、浸漬速度を25mm/sec、浸漬深さを5mm、浸漬時間を5secの試験条件で実施した。はんだ濡れ時間が2秒以下のものをはんだ濡れ性が優れると評価した。
【0091】
表5,6に示すように、No.38〜61は、Sn被覆層とリフロー後Snめっき層を合わせた平均厚さが0.2μm以上で本発明に規定する要件を満たし、はんだ濡れ時間が2秒以下と優れたはんだ濡れ性を示す。
一方、No.62〜65はSn被覆層の平均厚さが0.2μmに満たず、リフロー後Snめっき層も形成されていないため、はんだ濡れ時間が長く、はんだ濡れ性に劣る。
【符号の説明】
【0092】
1,1a〜1d 平行Sn被覆層
2,12 Cu−Sn合金被覆層
3,13 Sn被覆層
4,4a〜4d 平行Sn被覆層
5,15 銅板材
6,16 凹部
7,17 凸部
8、18 金型
11 図形Sn被覆層
21 PCB端子部
22,23 繋ぎ部
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車・民生機器等の電気配線に使用されるPCB端子及びその製造方法に関し、特に嵌合部においてメス端子との挿抜に際しての摩擦や摩耗の低減が求められ、かつはんだ付け部において基板へのはんだ付性がよいことが求められるはPCB端子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のECU(エンジンコントロールユニット)、民生機器の電子制御基板などにはPCBコネクタが多用されている。PCBコネクタは、PCB(プリント基板)と、雌端子より構成された雌コネクタとを接続する役割を果たす。PCBコネクタには、多数のPCB端子が組み込まれている。PCB端子は嵌合部、嵌合部の他端に設けられたはんだ付け部、及び嵌合部とはんだ付け部の間に位置する中間部よりなる。通常、樹脂製の箱型筐体に設けられた所定数の挿通孔にPCB端子を挿入し、PCB端子の中間部に前記筐体を固定してPCBコネクタとして使用される。PCB端子の嵌合部は雄端子として、雌コネクタに収納されている雌端子に嵌合される。また、PCB端子のはんだ付け部は、プリント基板に設けられたスルーホールに挿入され、はんだ付けされる。
【0003】
特許文献1には、嵌合部にNiめっき層/Cu−Sn合金層/Snめっき層(素材側からの順、以下同じ)からなる表面被覆層が形成され、はんだ付け部にNiめっき層/Sn−Ni合金層/Snめっき層からなる表面被覆層が形成され、中間部にNiめっき層、Ni−Sn合金層又はCu−Sn合金層のいずれかからなる表面被覆層が形成されたPCB端子が開示されている。このような表面被覆層構成にすることにより、嵌合部は低接触抵抗及び低挿抜力を満足すること、はんだ付け部は良好なはんだ付け性を有すること、中間部ははんだ吸い上がりを防止できることが記載されている。特許文献1には、所定の端子形状に打抜き後、嵌合部、はんだ付け部、及び中間部にそれぞれ必要な後めっきを行い、リフロー処理する製造方法も記載されている。
【0004】
特許文献2には、従来の表面実装型コネクタを構成する端子として、上端に半円状の曲げ部を有する略L字状の端子が記載されている。上端側は接点部、下端側は基板に接続される部分である。接点部は、他の端子と弾性的に接触することにより、また基板接続側は、基板とはんだ付けされることにより、他の端子や基板と電気的に接続する。この端子の母材には銅又は銅合金が用いられ、接点部にはAu、Sn、はんだなどから選ばれた接点金属被膜が形成されており、基板接続部分にはSn、はんだなどからなるはんだ付け部を形成する金属被膜が形成されていること、これらの金属被膜は、母材との拡散の障壁としてCu又はNiなどの下地金属被膜を介して形成されることが多いことが記載されている。なお、この端子を示す同文献の図6によると、接点部と基板接続部分の中間には下地金属被膜が形成されている。
【0005】
一方、特許文献3には、電気的信頼性が高く(低接触抵抗)、摩擦係数が低く、嵌合型コネクタ用端子として好適な接続部品用導電材料が記載されている。特許文献3の発明では、通常の銅合金板条より表面粗さを大きくした銅合金板条を母材として用い、母材表面にNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に、又はCuめっき層及びSnめっき層をこの順に、あるいはSnめっき層のみを形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層から、あるいは銅合金母材とSnめっき層からCu−Sn合金層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSnめっき層の間からCu−Sn合金層の一部を表面に露出させる(母材表面に形成された凹凸の凸の部分でCu−Sn合金層の一部が露出する)。
【0006】
特許文献3においてリフロー処理後に形成された接続部品用導電材料は、表面被覆層として、Cu−Sn合金層及びSn層、又はNi層、Cu−Sn合金層及びSn層をこの順に有し、場合によっては母材表面とCu−Sn合金層の間、又はNi層とCu−Sn合金層の間にCu層が残留している。特許文献3では、最表面にCu−Sn合金層とSn層が形成され(Cu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%)、Cu−Sn合金層の平均の厚さが0.1〜3.0μm、Cu含有量が20〜70at%、Sn層の平均の厚さが0.2〜5.0μmと規定され、母材表面について少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.15μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下が望ましく、Cu−Sn合金層の表面露出間隔について少なくとも一方向において0.01〜0.5mmが望ましいことが記載されている。
【0007】
特許文献4には、特許文献3の下位概念に相当する接続部品用導電材料及びその製造方法が記載されている。そのめっき層構成及びリフロー処理後の被覆層構成自体は、特許文献3のものと同じである。特許文献4においてリフロー処理後に形成された接続部品用導電材料は、最表面にCu−Sn合金層とSn層が形成され(表面被覆層のうちCu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%)、Cu−Sn合金層の平均の厚さが0.2〜3.0μm、Cu含有量が20〜70at%、Sn層の平均厚さが0.2〜5.0μm、材料表面の少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.15μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが3.0μm以下と規定され、母材表面について少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.3μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下が望ましく、さらにCu−Sn合金層の表面露出間隔について少なくとも一方向において0.01〜0.5mmが望ましいことが記載されている。
【0008】
特許文献5には、基本的に特許文献3,4の技術思想を継承しながら、同時にはんだ付け性を改善した接続部品用導電材料及びその製造方法が記載されている。この発明において、めっき層構成及びリフロー処理後の被覆層構成自体は、特許文献3,4のものと基本的に同じであるが、この発明は特許文献3,4と異なり、Cu−Sn合金層が露出していない場合(最表面にSn層のみ)を含み得る。この出願においてリフロー処理後に形成された接続部品用導電材料は、表面被覆層のうちNi層の平均の厚さが3.0μm以下、Cu−Sn合金層の平均の厚さが0.2〜3.0μm、材料の垂直断面におけるSn層の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下、最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μm、材料の最表点とCu−Sn合金層の最表点との高度差[Y]が0.2μm以下と規定され、さらに[D1]が0μmのとき(Cu−Sn合金層が一部露出し、最表面がCu-Sn合金層とSn層からなるとき)、材料表面におけるCu−Sn合金層の最大内接円の直径[D3]が150μm以下又は/及び材料表面におけるSn層の最大内接円直径[D4]が300μm以下が望ましいことが記載されている。
【0009】
特許文献6〜8には、銅合金板条に打抜き加工を施した後、全体にSnめっきを施す、いわゆる後めっきを施すことにより、圧延面だけでなく打抜き端面にもSnめっき層を形成し、打抜き加工の前に銅合金板条にSnめっきを施す(先めっき)場合に比べて、端子等のはんだ付け性を向上させることが記載されている。
【0010】
さらに、特許文献9、10には、後めっきが施される端子において、電気的信頼性が高く(低接触抵抗)、嵌合部の摩擦係数が低く、かつはんだ付け部のはんだ付け性を向上させることが記載されている。
特許文献9の発明では、端子成形加工時に嵌合部分のみ表面粗度を大きくし、Niめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に、又はCuめっき層及びSnめっき層をこの順に、あるいはSnめっき層のみを形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層から、あるいは銅合金母材とSnめっき層からCu−Sn合金層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSnめっき層の間からCu−Sn合金層の一部を表面に露出させる(母材表面に形成された凹凸の凸の部分でCu−Sn合金層の一部が露出する)。この際、めっき厚は全面同じとする。嵌合部においては、最表面にCu−Sn合金層とSn層が形成され(Cu−Sn合金層が表面に露出)ているため、はんだ濡れ性に問題があるが、嵌合部以外は凹凸が無いためCu−Sn合金層が露出しておらず(最表面にSn層のみ)、はんだ濡れ性は良好である。
【0011】
特許文献10の発明では、表面粗さの大きい銅合金材料に打ち抜き加工を施して端子素材を形成した後、Niめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に、又はCuめっき層及びSnめっき層をこの順に、あるいはSnめっき層のみを形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層から、あるいは銅合金母材とSnめっき層からCu−Sn合金層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSnめっき層の間からCu−Sn合金層の一部を表面に露出させる(母材表面に形成された凹凸の凸の部分でCu−Sn合金層の一部が露出する)。この際、はんだ付け部のSnめっき層は厚く形成することで、はんだ付け部においてはCu−Sn合金層が表面に露出しておらず、はんだ濡れ性は良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開WO2008/072418号公報
【特許文献2】特開平5−82201号公報
【特許文献3】特許3926355号公報
【特許文献4】特許4024244号公報
【特許文献5】特開2007−258156号公報
【特許文献6】特開2004−300524号公報
【特許文献7】特開2005−105307号公報
【特許文献8】特開2005−183298号公報
【特許文献9】特開2008−269999号公報
【特許文献10】特開2008−274364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1のPCB端子の嵌合部は表層のSnの下に硬いCu−Sn合金層が存在しているため、通常のリフローSnめっき材等と比べて摩擦係数が小さくなるが、特許文献3〜4の素材から作製した端子、あるいは特許文献9及び10の端子に比べると摩擦係数の低減効果はなお十分ではない。
特許文献3〜5及び特許文献9,10に記載された接続部品用導電材料は、表面粗化処理した銅板材を母材として用い、その表面に例えばNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層からCu−Sn合金被覆層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSn被覆層の間からCu−Sn合金被覆層の一部を表面に露出させている。
【0014】
従来、Sn被覆層及びCu−Sn被覆層の露出形態の指標として、Cu−Sn合金被覆層の露出面積率と平均露出間隔(特許文献3,4)、及びSn被覆層の最大内接円直径及び最大外接円直径(特許文献5)が規定されている。
一方、個々のSn被覆層又はCu−Sn合金被覆層の形状については、これまで特に注目されていない。しかし、端子のさらなる小型化に対応するには、前記のようにやや抽象的な指標に留まらず、個々のSn被覆層又はCu−Sn合金被覆層の具体的形状について、適正で制御可能であり、かつ形成しやすい平面視形状が必要になると考えられる。
従って、本発明は、嵌合部において、適正で制御可能な平面視形状を有するSn被覆層又はCu−Sn合金被覆層を有し、低摩擦係数及び優れた電気的信頼性(長時間加熱後の接触抵抗値が低い)を有し、小型化にも対応可能なPCB端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るPCB端子は、所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造され、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなり、前記嵌合部に、表面被覆層としてCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出し、前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さが0.2〜5.0μmであることを特徴とし、さらに次の点を特徴とする。
(1)前記Sn被覆層は複数の平行線として観察される幅1〜500μmのSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の両側に前記Cu−Sn合金被覆層が隣接して存在し、前記Sn被覆層群に属するSn被覆層のうち隣接するSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であること、又は、
(2)前記Sn被覆層は複数の平行線として観察される幅が1〜500μmのSn被覆層群と、同じく複数の平行線として観察される幅が1〜500μmの別のSn被覆層群を1又は2以上含み、各Sn被覆層群は格子状に交差し、各Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の両側にCu−Sn合金被覆層が隣接して存在し、同じSn被覆層群に属するSn被覆層のうち隣接するSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であること、又は、
(3)前記Sn被覆層は複数の閉じた輪郭を有する図形として観察される円相当直径が5〜1000μmのSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の周囲にこれを包囲するCu−Sn合金被覆層が存在し、前記Sn被覆層群に属するSn被覆層は最も近いSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であること。
【0016】
上記(1)〜(3)の表面被覆層は、前記嵌合部に相当する部分に表面粗化処理が行われた銅板材を用いることで形成することができる。この表面粗化処理は後めっきの前に望ましくはプレス加工で銅板材の圧延面に対して行われるもので、上記(1)、(2)の場合、表面に複数の平行線として観察される凹部を形成し、上記(3)の場合、表面に複数の閉じた輪郭を有する図形として観察される凹部を形成する。
上記(1),(2)において、各Sn被覆層群に属する個々のSn被覆層は、複数の平行線として観察されるものをいうが、前記個々のSn被覆層は必ずしも数学的な意味で平行線状である必要はない。各Sn被覆層群に属する個々のSn被覆層が、ほぼ同形状で湾曲、波打ち、あるいは屈曲している場合も本発明に含まれる。
上記(3)において、閉じた輪郭を有する図形には、正方形、長方形、菱形、平行四辺形、台形等の四角形、三角形や六角形等の他の多角形、円形、楕円形、レーストラック形など、種々の幾何学的図形が含まれる。また、複数の図形の中には、各図形の単独の繰り返しのほか、2種類以上の図形の組み合わせも含まれる。
【0017】
上記PCB端子の嵌合部の表面被覆層は、前記のとおり、最表面にCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、リフロー処理により平滑化されたSn被覆層の間から、Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出した形態を有する。この表面被覆層形態自体は、特許文献3〜5に記載されたものと同じである。最表面に露出したCu−Sn合金被覆層が、粗さ曲線の山として測定され、この山が前記最大高さ粗さRzの大きさに反映される。
前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さは0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さは0.2〜5.0μmであり、各被覆層の平均厚さも、特許文献3〜5のものと同等の数値である。
【0018】
なお、上記PCB端子において、上記特定の表面被覆層は銅板材の圧延面(打抜き端面以外の面)の少なくとも1つの面に形成されていればよく、その面が相手側端子との主たる接触(摺動)面となる。上記特定の表面被覆層が形成されない面では、同じくCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、通常、リフロー処理で平滑化された前記Sn被覆層が最表面全体を覆っている。
【0019】
上記PCB端子の嵌合部の表面被覆層の一部として、銅板材(母材)の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間にNi被覆層が形成されていることが望ましい。また、前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにCu被覆層が形成されていてもよい。さらに、前記銅板材の表面とNi被覆層の間にCu被覆層が形成されていてもよい。Ni被覆層を設けた場合、リフロー時の熱処理条件によっては、Cu−Sn合金層の一部又は全てがCu−Ni−Sn合金層となる場合がある。
なお、本発明において、Sn被覆層、Ni被覆層及びCu被覆層は、それぞれSn、Ni、Cu金属のほか、Sn合金、Ni合金及びCu合金を含む。
【0020】
上記PCB端子は、嵌合部以外にはんだ付け部と中間部を有する。
はんだ付け部では、表面被覆層として、平均厚さが0.2〜10μmのSn被覆層が形成されることが望ましい。表面被覆層の一部として、銅板材の表面と前記Sn被覆層の間にCu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層が形成されていてもよく、さらに銅板材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層の間に、Ni被覆層が形成されていてもよい。さらに、前記Ni層とCu−Sn合金被覆層の間にCu被覆層が形成され、又は/及び前記銅板材と前記Ni層の間にCu被覆層が形成されていてもよい。
はんだ付け部の前記Sn被覆層は、リフロー処理されていなくても構わないが、はんだ濡れ性向上の点でリフロー処理をされていることが好ましい。この時、前記Cu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層は、リフロー処理しない場合は経時により、リフロー処理する場合はリフロー処理の加熱により形成される。
【0021】
はんだ付け部に嵌合部と全く同様の表面被覆層を形成することもできる。この場合、銅板材の表面粗化処理とめっきを嵌合部と一緒に行えばよい。
必要に応じて、リフロー処理後の表面被覆層の上に、さらにリフロー処理しないSnめっき層を形成することができる。この場合、リフロー処理後のSn被覆層とこのSnめっき層を合わせて平均厚さが0.2〜10μmとされる。このリフロー処理しないSnめっき層により、表面に露出したCu−Sn合金層がSnで被覆されるため、はんだ濡れ性が更に向上する。
【0022】
中間部については、表面被覆層が形成されていなくてもよい(ベア材)が、Sn被覆層、Ni被覆層、Cu被覆層、又はCu−Sn合金被覆層のいずれかからなる表面被覆層を形成することもできる。
あるいは、中間部に嵌合部と全く同様の表面被覆層を形成することもできる。この場合、銅板材の表面粗化処理とめっきを嵌合部と一緒に行えばよい。
【0023】
以上述べたPCB端子は、銅板材を打抜き加工すると同時に又はその前後に、前記銅板材の表面にプレス加工により表面粗化処理を行って複数の凹部を形成し、続いて表面粗化処理を行った銅板材の表面に後めっきを行い、さらにリフロー処理を行うことにより製造することができる。はんだ付け部にリフロー処理しないSn被覆層を形成する場合、前記リフロー処理後に、はんだ付け部にのみSnめっきを行えばよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、低挿入力でかつ電気的信頼性に優れた嵌合部を有するPCB端子を提供することができる。
本発明で規定されたSn被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平面視形状は、PCB端子の小型化にも対応可能であり、かつ銅板材の表面粗化処理を適正に行うことで、Sn被覆層及びCu−Sn合金被覆層の平面視形状の制御を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る嵌合型接続部品の表面被覆層の一形態を説明する平面模式図である。
【図2】本発明に係る嵌合型接続部品の表面被覆層の別の形態を説明する平面模式図である。
【図3】図1,2に示す形態の表面被覆層を説明する断面模式図である。
【図4】図1,2に示す形態の表面被覆層を得るために行う銅板材の表面粗化処理を説明する断面模式図である。
【図5】本発明に係る嵌合型接続部品の表面被覆層のさらに別の形態を説明する平面模式図である。
【図6】図5に示す形態の表面被覆層を説明する断面模式図である。
【図7】図5に示す形態の表面被覆層を得るために行う銅板材の表面粗化処理を説明する断面模式図である。
【図8】打抜き加工後の銅板材の平面図である。
【図9】打抜き加工後のPCB端子部の断面図(a),(b)である。
【図10】面打ち加工を説明する断面図である。
【図11】実施例のNo.7のPCB端子試験片の表面SEM写真(組成像)(a)及び実施例のNo.1のPCB端子試験片の粗さ曲線(b)である。
【図12】実施例におけるSn被覆層の平均の厚さの測定方法を説明するための模式図である。
【図13】実施例における摩擦係数評価試験に用いる治具の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るPCB端子について、具体的に説明する。
本発明に係るPCB端子は、所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造されるもので、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなる。
【0027】
(PCB端子の嵌合部について)
PCB端子の嵌合部に、表面被覆層としてCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が前記Sn被覆層の間から最表面に露出している。相手側端子との接触(摺動)側最表面に硬いCu−Sn合金被覆層が露出することにより、摩擦係数が低下し、端子挿入力が低減する。最表面に露出したCu−Sn合金被覆層は、JISB0601に基づく粗さ曲線の山として測定され、この山が最大高さ粗さRzの大きさに反映される。
【0028】
本発明に係るPCB端子の嵌合部(特に相手側端子との主たる接触(摺動)面)に存在する前記Sn被覆層及びCu−Sn合金被覆層は、下記(1)〜(3)の形態をとる。
(1)複数の平行線として観察されるSn被覆層群を含み、該Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層(このSn被覆層を、特に平行Sn被覆層という場合がある)の両側にCu−Sn合金被覆層が隣接して存在する。
(2)複数の平行線として観察されるSn被覆層群と、同じく複数の平行線として観察される別のSn被覆層群を1又は2以上含み、各Sn被覆層群は格子状に交差し、各Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層(平行Sn被覆層)の両側にCu−Sn合金被覆層が隣接して存在する。
(3)複数の閉じた輪郭を有する図形として観察されるSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層(このSn被覆層を、特に図形Sn被覆層という場合がある)の周囲にこれを包囲するCu−Sn合金被覆層が存在する。
【0029】
まず、平行Sn被覆層及びCu−Sn合金被覆層の上記(1),(2)の形態を、図1,2の模式図を参照して説明する。なお、図1,2はPCB端子の嵌合部の最表面の一部を略正方形に抜き出して示す平面模式図である。
まず、図1(a),(b)は、上記(1)の形態の典型例を示す。図1(a)に示す例では、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層1a〜1d(まとめて平行Sn被覆層1という場合がある)が略等間隔で平行線状に形成され、各平行Sn被覆層1a〜1dの両側にCu−Sn合金被覆層2が隣接して存在する。Cu−Sn合金被覆層2も所定幅を有し、同じく略等間隔で平行線状に形成されている。平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層1a〜1dにより、本発明でいうSn被覆層群Xが構成される。
【0030】
図1(b)に示す例では、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層1a〜1dが略等間隔で平行線状に形成され、その両側にCu−Sn合金被覆層2が隣接して存在する。Cu−Sn合金被覆層2も所定幅を有し、同じく略等間隔で平行線状に形成されているが、Cu−Sn合金被覆層2の中にSn被覆層3が島状に存在する点で、図1(a)の例と異なる。平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層1により、本発明でいうSn被覆層群Xが構成される。
なお、図1(b)において島状に存在するSn被覆層3が連続して、Cu−Sn合金被覆層2が分断される場合、あるいはSn被覆層3の中にさらにCu−Sn合金被覆層が小さく島状に存在する場合等、種々の他の形態が生じ得る。
【0031】
図2(a),(b)は、上記(2)の形態の典型例を示す。図2(a)に示す例では、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層1a〜1dが略等間隔で平行線状に形成され、かつ、それに直角に交差して、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層4a〜4d(まとめて平行Sn被覆層4という場合がある)が略等間隔で平行線状に形成されている。平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層1a〜1dにより、本発明でいうSn被覆層群Xが構成され、同じく平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層4a〜4dにより、本発明でいうSn被覆層群Yが構成される。2つのSn被覆層群X、Yは格子状に交差し、各格子に囲まれたエリアにCu−Sn合金被覆層2が存在する。この場合も、Cu−Sn合金被覆層2は各平行Sn被覆層1,4の両側に隣接して存在するということができる。
【0032】
図2(b)に示す例では、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層1a〜1dが略等間隔で平行線状に形成され、かつ、それに直角に交差して、所定幅を有する複数の平行Sn被覆層4a〜4dが略等間隔で平行線状に形成されている。平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層1a〜1dにより、本発明でいうSn被覆層群Xが構成され、同じく平行線状に形成された複数の平行Sn被覆層4a〜4dにより、本発明でいうSn被覆層群Yが構成される。2つのSn被覆層群X、Yは格子状に交差し、各格子に囲まれたエリアにCu−Sn合金被覆層2が存在する。この例ではCu−Sn合金被覆層2の中にSn被覆層3が島状に存在し、この点で、図2(a)の例と異なる。この場合も、Cu−Sn合金被覆層2は各平行Sn被覆層1,4の両側に隣接して存在するということができる。
なお、図2(b)において島状に存在するSn被覆層3の中にさらにCu−Sn合金被覆層が小さく島状に存在する場合等、種々の他の形態が生じ得る。
【0033】
図1,2に示すPCB端子の嵌合部において、表面に露出したCu−Sn合金被覆層2は、リフロー処理により平滑化した平行Sn被覆層1(Sn被覆層3,平行Sn被覆層4も)の水準より、高さ方向に突出している。このような両被覆層の断面形態について、図3に示す断面模式図を参照して説明する。
図3において、銅板材(母材)5には、比較的深い凹部6が略等間隔で形成され、凹部6の両側に凸部7が形成され、凹部6を挟まない隣接する凸部7,7間は比較的平らである。このような表面構造はプラトー構造といわれている。凹部6は、銅板材5の表面に複数の平行線として観察される。
【0034】
図3(a)は図1(a)(又は図2(a))に対応するもので、銅板材5の表面全体にCu−Sn合金被覆層2が形成され、前記凹部6においてCu−Sn合金被覆層2の上に平行Sn被覆層1が形成されている。この凹部6に形成された平行Sn被覆層1が、図1(a)又は図2(a)において平行線状に観察された平行Sn被覆層1a〜1d(又は平行Sn被覆層4a〜4d)に相当する。
図3(b)は図1(b)(又は図2(b))に対応するもので、銅板材5の表面全体にCu−Sn合金被覆層2が形成され、前記凹部6においてCu−Sn合金被覆層2の上に平行Sn被覆層1が形成されている。プラトー部でもCu−Sn合金被覆層2の上にSn被覆層3が形成されている。この凹部6に形成された平行Sn被覆層1が、図1(b)又は図2(b)において平行線状に観察された平行Sn被覆層1a〜1d(又は平行Sn被覆層4a〜4d)に相当し、プラトー部に形成されたSn被覆層3が、図1(b)又は図2(b)において島状に観察されたSn被覆層3に相当する。
【0035】
ここで、Cu−Sn合金被覆層2と平行Sn被覆層1(及び平行Sn被覆層4)からなる表面被覆層の上記形態について、その形成手段の一例を具体的に説明する。
銅板材5をPCB端子の形状に打抜き後、又は打抜き前あるいは打抜きと同時に、少なくとも嵌合部相当部位の圧延面(一方又は両方の面)に対しプレス加工による表面粗化処理が施される。この表面粗化処理は、図4(a)に示すように、押圧面にごく細かい凹凸がほぼ一定ピッチで形成された金型8をプレス機にセットし、該金型8で銅板材5の表面をプレスすることで行われる。このプレス加工により、銅板材5の表面に金型8の押圧面の凸部(刃先)が押し込まれ、銅板材5の表面に凹部6が平行線状に転写され、同時に、凹部6から押し出された材料が凹部6の両側に盛り上がり、必然的に凸部7が形成される。凹部6を間に挟まない隣接する凸部7,7間の銅板材表面は、仕上げ圧延のままの比較的平ら(プラトー)な状態を保っている。
【0036】
続いて、PCB端子形状に打ち抜いたこの銅板材5の表面全周(圧延面及び打抜き端面)に、特許文献3〜5等と同様に、例えばCuめっき及びSnめっきが施され、さらにリフロー処理が施される。このリフロー処理により、Cuめっき層のCuとSnめっき層のSnからCu−Sn合金被覆層が形成され、溶融Snが銅板材5の表面の凹部に流動する。銅板材の表面粗化処理した部位では、溶融Snが銅板材5の凹部6等に流動し、図3(a)に示すように、平滑化した平行Sn被覆層1がCu−Sn合金被覆層2の上に形成され、Cu−Sn合金被覆層2の一部が平行Sn被覆層1の両側に、該平行Sn被覆層1に隣接して露出する。このときCuめっき層の一部がCu−Sn合金被覆層2の下に残留することもある。
なお、本発明に関しては、リフロー処理後の表面被覆層を構成する各層について「被覆層」と表現し、リフロー処理前の表面めっき層を構成する各層について「めっき層」と表現している。
リフロー処理後に残留するSn量が比較的多ければ、銅板材の表面粗化処理した部位では、表面のプラトー部に前記Sn被覆層3が形成され(図1(b),図2(b),図3(b)参照)、あるいは前記Sn被覆層3の被覆エリアが増える。図3(b)に示すように、Sn被覆層3は平行Sn被覆層1に比べて薄肉である。
【0037】
Sn被覆層群Xを構成する平行Sn被覆層1、及びSn被覆層群Yを構成する平行Sn被覆層4は、いずれも幅a,b(図1,2参照)が1〜500μm、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔c,d(図1,2参照)が1〜2000μmに設定される。なお、平行Sn被覆層の幅と、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔を上記のように設定するのは、この範囲内であれば平行Sn被覆層とCu−Sn合金被覆層が最表面に適度に混在して、低摩擦係数による挿入力の低減と電気的信頼性の両方が確保できるからである。
【0038】
より具体的に説明すると、平行Sn被覆層の幅を1μm以上とするのは、それより狭い幅の平行Sn被覆層を形成することは、銅板材の表面粗化処理の実施に困難が伴うためである。一方、平行Sn被覆層の幅が大きくなりすぎると、相手側端子の接点部が平行Sn被覆層に入り込み、挿入力が高くなるため、平行Sn被覆層の幅は500μm以下とする。近年のPCB端子の小型化を考慮すると、平行Sn被覆層の幅は200μm以下が望ましく、50μm以下がより望ましい。
また、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔を1μm以上とするのは、銅板材の表面粗化処理の実施に困難が伴うためである。一方、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔が大きくなりすぎると、当初のSnめっき層の厚さによって次のような現象が発生する。Snめっき層の平均厚さが厚い場合、Sn被覆層同士の間の部分において、露出するCu−Sn合金層が少なく、Sn層が多くなり、相手側端子とCu−Sn合金被覆層との接触面積が小さくなりすぎ挿入力の上昇(低挿入力効果の低下)を招く。Snめっき層の平均厚さが薄い場合、Cu−Sn合金層の占める割合が大きくなり(すべてCu−Sn合金層になることもある)、摩擦係数は低減できるものの、接触抵抗が大きくなり、電気的信頼性が劣化する。従って、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔は2000μm以下とする。近年のPCB端子の小型化を考慮すると、平行Sn被覆層の幅は1000μm以下が望ましく、250μm以下がより望ましい。平行Sn被覆層の幅、及び隣接する平行Sn被覆層同士の間隔はほぼ一定であることが望ましいが、それは必須ではない。ただし、平行Sn被覆層1,4は、それが形成された面(表面粗化処理された面)全体にほぼ均一に分布していることが望ましい。なお、流れる電流が大きい端子は、その断面積が大きくなる。その場合、相手側端子(雌端子)の接点部も大きくなり、嵌合部に接触する面積が大きくなることから、隣接する平行Sn被覆層同士の間隔は大きくても差支えなく、例えば、500μm以上、2000μm以下であってもよい。平行Sn被覆層の幅や平行Sn被覆層同士の間隔は相手側端子の接点部の形状、及び寸法に合わせて適正な範囲に決めればよい。
【0039】
図3に示すように、最表面に露出したCu−Sn合金被覆層2は、平行Sn被覆層1及びSn被覆層3の水準から高さ方向に突出している。このため、例えばPCB端子の挿入方向(図1,2に白抜き矢印で示す)に表面粗さを測定すると、JISB0601に基づく粗さ曲線の山として測定される。
本発明では、PCB端子の挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下(0μmを含む)と規定されている。この最大高さ粗さRzが大きいと、最表面に露出するCu−Sn合金被覆層の表面積が広くなり、端子表面の耐食性が低下して酸化物量などが増え、接触抵抗が増加しやすく、電気的信頼性を維持することが困難となる。また、銅板材の表面粗化処理において銅板材5に凹部6を幅広く深く形成すると、最大高さ粗さRzが大きくなるが、これは銅板材5の変形を伴いやすい。従って、最大高さ粗さRzは10μm以下とし、望ましくは0超(多少とも突出している)〜5μm以下である。
【0040】
図2の例では、2つの平行Sn被覆層群X,Yが互いに直角に交差していたが、この交差角度は適宜に設定できる。2つの平行Sn被覆層群X,Yを交差させた場合、Cu−Sn合金被覆層のコーナー部がより高く盛り上がり(表面粗化処理において2つの凹部が交差した箇所のコーナーが盛り上がる)、低挿入力効果が向上する。しかし、平行Sn被覆層の幅及び隣接する平行Sn被覆層同士の間隔が同じであれば、交差角度が小さいほど盛り上がり間隔が広がり、低挿入力効果が小さくなる。このため、この交差角度は望ましくは10°〜90°とする。
3群以上のSn被覆層群を格子状に交差させることも本発明に含まれる。この場合も、各Sn被覆層群を構成する平行Sn被覆層は、幅が1〜500μm、同じSn被覆層群に含まれる隣接する平行Sn被覆層同士の間隔が1〜2000μmに設定される。同じく、各Sn被覆層群の交差角度は望ましくは10〜90°とする。
【0041】
PCB端子の挿入方向とSn被覆層群の長さ方向のなす角度は、0°〜90°の範囲で適宜設定すればよい。Sn被覆層群が1つの場合、上記角度は0°超〜90°が望ましく、この角度は大きいほど望ましく20°〜90°、さらに90°が望ましい。Sn被覆層群が複数の場合、少なくともいずれか1つのSn被覆層群について、挿入方向との角度が上記のようになるようにする。
【0042】
続いて、Sn被覆層及びCu−Sn合金被覆層の上記(3)の形態を、図5の模式図を参照して説明する。なお、図5はPCB端子の嵌合部の最表面の一部を略長方形に抜き出して示す平面模式図である。
図5(a)に示す例では、それぞれ略正方形の輪郭を有する図形として観察される複数の図形Sn被覆層11が碁盤目状に規則的に形成され、各図形Sn被覆層11の周囲を包囲するようにCu−Sn合金被覆層12が存在する。
図5(b)に示す例では、同じく複数の図形Sn被覆層11が碁盤目状に規則的に形成され、各図形Sn被覆層11の周囲を包囲するCu−Sn合金被覆層12がリング状に存在し、さらにその周囲をSn被覆層13が埋めている。
なお、本発明では、図形Sn被覆層11の集まりをSn被覆層群と称している。
【0043】
図5(a),(b)に示すPCB端子の嵌合部において、表面に露出したCu−Sn合金被覆層12は、リフロー処理により平滑化した図形Sn被覆層11(Sn被覆層13も)の水準より、高さ方向に突出している。このような両被覆層の断面形態について、図6に示す断面模式図を参照して説明する。
図6において、銅板材(母材)15には、比較的深い凹部16が略等間隔で形成され、凹部16の周囲に凸部17が形成され、凸部17の周囲は比較的平らである。このような表面構造はプラトー構造といわれている。凹部16は、銅板材15の表面に複数の略正方形の輪郭を有する図形として観察される。
【0044】
図6(a)は図5(a)に対応するもので、銅板材15の表面全体にCu−Sn合金被覆層12が形成され、前記凹部16においてCu−Sn合金被覆層12の上にSn被覆層11が形成されている。この凹部16に形成されたSn被覆層11が、図5(a)において略正方形の輪郭を有する図形として観察された図形Sn被覆層11である。
図6(b)は図5(b)に対応するもので、銅板材15の表面全体にCu−Sn合金被覆層12が形成され、前記凹部16においてCu−Sn合金被覆層12の上にSn被覆層11が形成されている。プラトー部でもCu−Sn合金被覆層12の上にSn被覆層13が形成されていて、Cu−Sn合金被覆層12は凸部17においてのみ露出している。凹部16に形成されたSn被覆層11が、図5(b)において略正方形の輪郭を有する図形として観察された図形Sn被覆層11に相当し、プラトー部に形成されたSn被覆層13が、図5(b)においてリング状のCu−Sn合金被覆層12の周囲を埋めるSn被覆層13に相当する。
【0045】
ここで、図5,6に示す表面被覆層の形態について、その形成手段の一例を具体的に説明する。
銅板材をPCB端子の形状に打抜き後、又は打抜き前あるいは打抜きと同時に、少なくとも嵌合部相当部位の圧延面(一方又は両方の面)に対しプレス加工による表面粗化処理が施される。この表面粗化処理は、図7(a)に示すように、押圧面にごく細かい凹凸がほぼ一定ピッチで形成された金型18をプレス機にセットし、該金型18で銅板材15の表面をプレスすることで行われる。このプレス加工により、銅板材15の表面に金型18の押圧面に形成された角錐台状(角柱状でもよい)の凸部が押し込まれ、銅板材15の表面に凹部16が転写され、同時に、凹部16から押し出された材料が凹部16の周囲に盛り上がり、必然的に略正方形のリング状の凸部17が形成される。凸部17の周囲の銅板材表面は、仕上げ圧延のままの比較的平ら(プラトー)な状態を保っている。
【0046】
続いて、PCB端子形状に打ち抜いたこの銅板材15の表面全周(圧延面及び打抜き端面)に、先に述べたと同様に、例えばCuめっき及びSnめっきが施され、さらにリフロー処理が施される。このリフロー処理により、Cuめっき層のCuとSnめっき層のSnからCu−Sn合金被覆層が形成され、溶融Snが銅板材15の表面の凹部に流動する。表面粗化処理した部位では、溶融Snが銅板材15の凹部16等に流動し、図6(a),(b)に示すように、平滑化した図形Sn被覆層11がCu−Sn合金被覆層12の上に形成され、Cu−Sn合金被覆層12の一部が図形Sn被覆層11の周囲に露出する。このときCuめっき層の一部がCu−Sn合金被覆層12の下に残留することもある。
リフロー処理後に残留するSn量が比較的多ければ、表面粗化処理した部位では、表面のプラトー部に前記Sn被覆層13が形成される(図5(b),図6(b)参照)。プラトー部の表面粗さが大きい場合、Sn被覆層13の間からCu−Sn合金被覆層12が露出することもある。図6(b)に示すように、Sn被覆層13は図形Sn被覆層11に比べて薄肉である。
【0047】
なお、図5,6に示す例では、図形Sn被覆層11の閉じた輪郭を有する図形は略正方形としたが、長方形、菱形、平行四辺形、台形等の他の四角形、三角形や六角形等の他の多角形、円形、楕円形、レーストラック形など、他の任意の図形とすることもできる。多数の図形Sn被覆層からなるSn被覆層群に、2種以上の異なる図形の図形Sn被覆層が含まれていてもよい。また、図形の配置形態についても、図5のように碁盤目状配置のほか、例えば千鳥状配置等も考えられる。図5(c)は図形が円形の例であり、図形Sn被覆層11の周囲にリング状のCu−Sn合金被覆層12が形成され、さらにその周囲にSn被覆層13が形成されている。図形Sn被覆層11はそれが形成された面(表面粗化処理された面)全体でほぼ均一に分布していることが望ましい。なお、銅板材15に凹部16を形成する金型は各図形に見合う錐台状又は柱状とすればよい。
【0048】
図形Sn被覆層11は、円相当直径が5〜1000μm、図形Sn被覆層同士の最短間隔が1〜2000μmに設定される。図形Sn被覆層の円相当直径と図形Sn被覆層同士の最短間隔を上記のように設定するのは、この範囲内であれば平行Sn被覆層とCu−Sn合金被覆層が最表面に適度に混在して、低摩擦係数による挿入力の低減と電気的信頼性の両方が確保できるからである。
【0049】
より具体的に説明すると、図形Sn被覆層の円相当直径を5μm以上とするのは、それより小さい面積の図形Sn被覆層を形成することは、銅板材の表面粗化処理の実施に困難が伴うためである。一方、図形Sn被覆層の面積が大きくなりすぎると、相手側端子の接点部が図形Sn被覆層に入り込み、挿入力が高くなるため、図形Sn被覆層の円相当直径は1000μm以下とする。表面粗化処理の難易度と近年のPCB端子の小型化とを考慮して、図形Sn被覆層の円相当直径は10〜300μmが望ましく、10〜200μmがより望ましい。
また、図形Sn被覆層同士の最短間隔を1μm以上とするのは、間隔がそれより小さいと銅板材の表面粗化処理の実施に困難が伴うためである。一方、図形Sn被覆層同士の最短間隔が大きくなりすぎると次のような現象が発生する。Snめっき層の平均厚さが厚い場合、Sn被覆層同士の間の部分において、露出するCu−Sn合金層が少なく、Sn層が多くなり、相手側端子とCu−Sn合金被覆層との接触面積が小さくなりすぎ挿入力の上昇(低挿入力効果の低下)を招く。Snめっき層の平均厚さが薄い場合、Cu−Sn合金層の占める割合が大きくなり(すべてCu−Sn合金層になることもある)、摩擦係数は低減できるものの、接触抵抗が大きくなり、電気的信頼性が劣化する。従って、図形Sn被覆層同士の間隔は2000μm以下とする。近年のPCB端子の小型化を考慮すると、図形Sn被覆層同士の最短間隔は1000μm以下が望ましく、250μm以下がより望ましい。
図形Sn被覆層の円相当直径、及び図形Sn被覆層同士の最短間隔はほぼ一定であることが望ましいが、それは必須ではない。
【0050】
図6に示すように、最表面に露出したCu−Sn合金被覆層12は、図形Sn被覆層11及びSn被覆層13の水準から高さ方向に突出している。このため、例えばPCB端子の挿入方向(図1,2に白抜き矢印で示す)に表面粗さを測定すると、JISB0601に基づく粗さ曲線の山として測定される。
本発明では、図5,6に示す形態の表面被覆層についても、PCB端子の挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下(0μmを含む)と規定されている。その理由は図1〜3に示す形態の表面被覆層と同じである。最大高さ粗さRzは望ましくは0超(多少とも突出している)〜5μm以下である。
【0051】
以上述べた嵌合部の表面被覆層において、Cu−Sn合金被覆層は、Cu6Sn5とCu3Snのいずれか一方又は双方からなり、平均厚さは0.1〜3.0μmとされる。これは、従来技術(前記特許文献3,4)のものと同等の数値である。Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1μm未満では、材料表面の耐食性が低下して酸化物量などが増え、接触抵抗が増加しやすく、電気的信頼性を維持することが困難となる。一方、3.0μmを超えると、コスト面で不利であり、生産性も悪くなる。従って、Cu−Sn合金被覆層の平均厚さは0.1〜3.0μmとし、望ましくは0.2〜1.0μmとする。
【0052】
また、Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率は3〜75%が望ましい。この表面露出面積率は、材料の単位表面積あたりに露出するCu−Sn合金被覆層の表面積に100をかけた値である。この値が3%未満では、材料表面の凝着量が増すため低い摩擦係数を得ることが困難となる。ただし、3%未満の場合においても、低減効果は小さくなるが表面の露出がない場合に比べて低い摩擦係数を得ることができる。一方,この値が75%を超えると、経時や腐食などによる材料表面のCuの酸化物量などが多くなり、接触抵抗を増加させ易く、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。従って、Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率は3〜75%とするのが望ましい。これは、従来技術(前記特許文献3,4)のものと同等の数値である。より望ましくは10〜50%である。
【0053】
Sn被覆層は、Sn金属又はSn合金からなる。Sn合金の場合、合金元素としてCu、Ag、Ni、Bi、In、Zn等が挙げられ、これらの元素は10質量%以下であることが望ましい。Sn被覆層の平均厚さは0.2〜5.0μmとされる。これは、従来技術(前記特許文献3,4)のものと同等の数値である。Sn被覆層の平均厚さが0.2μm未満では、高温酸化などの熱拡散により材料表面のCuの酸化物が多くなり、接触抵抗が増加しやすく、耐食性も悪くなることから、電気的信頼性を維持することが困難となる。一方、5.0μmを超えると、コスト面で不利であり、生産性も悪くなる。従って、Sn被覆層の平均厚さは0.2〜5.0μmとし、望ましくは0.5〜3.0μmとする。
【0054】
上記PCB端子の嵌合部の表面被覆層の一部として、銅板材の表面とCu−Sn合金被覆層の間にNi被覆層が形成されていてもよく、また、前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにCu被覆層が形成されていてもよい。さらに、前記銅板材の表面とNi被覆層の間にCu被覆層が形成されていてもよい。Ni被覆層の平均厚さは10μm以下(0μmを含む)とし、特に0.1〜10μmが望ましい。Cu被覆層の平均厚さは5μm以下(0μmを含む)とする。
これらの被覆層はいずれもめっきで形成されるものであり、Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間のCu被覆層は、先に述べたように、リフロー処理後にCu−Sn合金被覆層の下に残留したCuめっき層である。Ni被覆層はバリア層として、PCB端子の母材(銅板材)からCuや母材に含まれる合金元素が拡散してくるのを防止し、銅板材の表面とNi被覆層の間のCu被覆層は、Ni被覆層の密着性を向上させる作用を有する。
Ni被覆層は金属Ni又はNi合金からなる。Ni合金の場合、合金元素としてCu、P、Coなどが挙げられ、Cuは40質量%以下、P、Coは15質量%以下が望ましい。また、Cu被覆層は金属Cu又はCu合金からなる。Cu合金の場合、合金元素としてSn、Znなどが挙げられ、Snは50質量%未満、他の元素は5質量%以下が望ましい。
【0055】
次に上記PCB端子の嵌合部の製造方法について補足説明する。
表面粗化処理方法として、特許文献3〜5には、イオンエッチング等の物理的方法、エッチングや電解研磨等の化学的方法、圧延(研磨やショットブラスト等により粗面化したワークロールを使用)、研磨、ショットブラスト等の機械的方法が開示されている。しかし、このような方法で、上記のような複数の平行線として観察されるSn被覆層群と、その両側に隣接するCu−Sn合金被覆層、又は、閉じた輪郭を有する図形として観察される図形Sn被覆層と、個々の図形Sn被覆層の周囲を包囲するCu−Sn合金被覆層を形成することはできない。
一方、特許文献9,10には、端子形状加工時に銅板材表面を表面粗化処理する技術が記載されている。すなわち、銅板材に打抜き加工を施し端子素材が帯状の連結部を介して長さ方向に連鎖状に連なった銅板材を形成するとともに、前記打抜き加工と同時にあるいは打抜き加工の前又は後に、前記銅板材にプレス加工を施し、端子素材板面(銅板材表面)の表面粗さを増大させる、というものである。しかし、特許文献9,10にはプレス加工の具体的手段についての記載はない。
【0056】
Cu−Sn合金被覆層は、表面粗化処理(人為的に凹凸を形成)された銅板材表面の凸の部分でリフロー処理後に露出する。従って、Cu−Sn合金被覆層又はSn被覆層の露出形態は、表面粗化処理において銅板材表面に形成される凹凸の形態を反映したものとなる。
本発明では、表面粗化処理として、先に図4,7を参照して説明したように、押圧面にごく細かい凹凸が形成された金型をプレス機にセットし、該金型で銅板材(PCB端子の嵌合部相当箇所)の表面をプレスし、凸部を銅板材表面に打ち込む、という方法が適用できる。この方法であれば、本発明で規定するSn被覆層又はCu−Sn合金被覆層の露出形態を実現可能であり、平行Sn被覆層の幅、平行Sn被覆層同士の間隔、図形Sn被覆層の円相当直径、図形Sn被覆層同士の最短間隔についても、適宜の金型を選択し又は組み合わせることで自在に制御可能である。金型1の押圧面に細かい凹凸を付ける方法は、放電加工、研削加工、レーザー加工、エッチング加工などがあり、必要とする寸法精度、加工形状により任意に選択できる。凸部の形状、形成ピッチは一定である必要はない。
なお、前述のように平行Sn被覆層1,4や図形Sn被覆層11をそれが形成された面(表面粗化処理された面)全体でほぼ均一に分布させるには、前記凹部6,7及び凹部16を表面粗化処理する面全体にほぼ均一に形成する必要がある。
【0057】
部品形状への打抜き及び表面粗化処理の後、銅板材にいわゆる後めっきを行う。後めっきとしては、必要に応じてNiめっきを行った後、Cuめっき層と、Snめっき層をこの順に形成した後、リフロー処理を行うことにより製造することができる。また、必要に応じてNiめっき層の下に、Niめっきの密着性改善のため、Cuめっき層を形成することもできる。あるいは、銅板材表面に直接Snめっき層のみを形成してもよい。
上記後めっきは、PCB端子の全長にわたり行ってもよいし(はんだ付け部と中間部にも嵌合部と同じ後めっきを行う場合)、PCB端子の嵌合部に相当する部分にのみ行うこともできる(はんだ付け部と中間部に嵌合部とは別の後めっきを行う場合)。
【0058】
後めっき後の銅板材にリフロー処理を施すと、Cuめっき層とSnめっき層のCuとSnが相互拡散してCu−Sn合金被覆層が形成され、その際にSnめっき層が残留する。Cuめっき層は全て消滅する場合と一部残留する場合の両方があり得る。Cuめっき層の一部が残留するとき、銅板材表面(Niめっき層を形成したときはNi被覆層表面)とCu−Sn合金被覆層の間にCu被覆層が形成される。Niめっき層を形成しない場合、Cuめっき層の厚さによっては、銅板材(母材)からもCuが供給される場合がある。銅板材表面に直接Snめっき層のみを形成する場合、銅板材(母材)中のCuとSnめっき層中のSnが相互拡散してCu−Sn合金被覆層が形成される。
【0059】
Cuめっき層の平均厚さは0.1〜1.5μm、Snめっき層の平均厚さは0.3〜8.0μm、Niめっき層の平均厚さは0.1〜10μmが望ましい。
なお、本発明において、Cuめっき層、Snめっき層及びNiめっき層は、それぞれCu、Sn、Ni金属のほか、Cu合金、Sn合金及びNi合金を含む。Cuめっき層、Snめっき層及びNiめっき層が、Cu合金、Sn合金及びNi合金の場合、各合金の組成は、先に説明したCu被覆層、Sn被覆層及びNi被覆層の各合金と同じでよい。
【0060】
(PCB端子のはんだ付け部について)
PCB端子のはんだ付け部は、PCB基板のスルーホールに挿入され、はんだ付けされ、これによりPCB端子がPCB基板に固定される。電気的な信頼性を確保するため、はんだ付け時、はんだ付け部のはんだと接触する部分に均一にはんだが広がることが求められる。そのためには、はんだ付け部に所定厚さ以上のSn被覆層が形成されていることが必要である。
はんだ付け部には嵌合部とは別にめっきを施し、あるいは嵌合部と一緒にめっきを施すことができるが、いずれにしても、Sn被覆層は平均厚さが0.2〜10μmとされる。Sn被覆層の平均厚さが0.2μm未満であると、はんだ濡れ性が低下する。一方、平均厚さが10μmを超えるとコスト面で不利であり、生産性も悪くなる。従って、Sn被覆層の平均厚さは0.2〜10μmとし、望ましくは0.5〜5μmとする。このSn被覆層ははんだ付け部の最表面の全面を被うことが望ましい。
このSn被覆層は、Sn金属又はSn合金からなる。Sn合金の組成は先に説明したものと同じでよい。
【0061】
上記PCB端子のはんだ付け部の表面被覆層の一部として、Sn被覆層の下(Sn被覆層と銅板材の間)にCu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層が形成されていることが望ましく、さらにその下(Cu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層と銅板材の間)にNi被覆層が形成されていることが望ましい。また、Ni被覆層の下(Ni被覆層と銅板材の間)にCu被覆層を有していてもよく、Cu−Sn合金被覆層の下にNi被覆層が形成されている場合に、両被覆層の間にCu被覆層を有していてもよい。
Ni被覆層及びCu被覆層は、それぞれNi金属又はNi合金、及びCu金属又はCu合金からなる。このSn合金、Ni合金及びCu合金の組成は先に説明したものと同じでよい。
【0062】
Cu−Sn合金被覆層、Ni−Sn合金被覆層及びNi被覆層は、いずれもバリア層として、PCB端子の母材(銅板材)からCuや母材に含まれる合金元素が拡散してくるのを防止する機能を有する。バリア層がなく、Sn被覆層に拡散してきたCuや母材の合金元素が表面に達して酸化すると、はんだの濡れやはんだの広がりが低下して確実な接合を阻害する可能性がある。
Cu−Sn合金被覆層及びNi−Sn合金被覆層の平均厚さは3μm以下(0μmを含む)、Ni被覆層の平均厚さは10μm以下(0μmを含む)とされる。Cu−Sn合金被覆層及びNi−Sn合金被覆層の平均厚さが3μmを超え、Ni被覆層の平均厚さが10μmを超えるとコスト面で不利であり、生産性も悪くなる。
銅板材の表面とNi被覆層の間のCu被覆層は、Ni被覆層の密着性を向上させる作用を有する。このCu被覆層の平均厚さは5μm以下(0μmを含む)とされる。
【0063】
Cu−Sn合金被覆層はCuめっき層のCuとSnめっき層のSnから、Ni−Sn合金被覆層はNiめっき層のNiとSnめっき層のSnから、いずれもリフロー処理により形成される。Cu−Sn合金被覆層の下(銅板材とCu−Sn合金被覆層の間、又はNi被覆層とCu−Sn合金被覆層の間)のCu被覆層は、リフロー処理後に残留したCuめっき層であり、Ni−Sn合金被覆層の下のNi被覆層は、リフロー処理後に残留したNiめっき層である。残留したCu被覆層の平均厚さは5μm以下(0μmを含む)とされる
Cuめっき層、Niめっき層及びSnめっき層は、それぞれCu金属又はCu合金、Ni金属又はNi合金、及びSn金属又はSn合金からなる。Cuめっき層がCu合金からなるかSnめっき層がSn合金からなる場合、Cu−Sn合金被覆層はCuとSn以外の合金元素を含み、Niめっき層がNi合金からなるかSnめっき層がSn合金からなる場合、Ni−Sn合金被覆層はNiとSn以外の合金元素を含む。CuめっきのCu合金、NiめっきのNi合金及びSnめっきのSn合金の組成は先に説明したものと同じでよい。
【0064】
はんだ付け部に嵌合部と一緒に表面粗化処理を施したうえでめっき及びリフロー処理を行うと、はんだ付け部においてもCu−Sn合金被覆層が最表面に露出する場合がある。特にはんだ付け部に嵌合部と同じ表面粗化処理及びめっきを施した場合、Cu−Sn合金被覆層は必ず最表面に露出する。この場合、リフロー処理で平滑化したSn被覆層の上にあらためてSnめっきし、はんだ付け部の最表面全体をSnめっき層で被うことが、はんだの濡れやはんだの広がりの観点から望ましい。表面粗化処理を施していない場合、Cu−Sn合金被覆層が最表面に露出しないが、その場合でも、リフロー処理で平滑化したSn被覆層の上に補充的にSnめっきを行うことができる。
コスト面及び生産性の観点から、このSnめっき層の平均厚さは0.3μm以下とされる。リフロー処理後のSn被覆層と合わせた合計の平均厚さは0.2〜10μmとされる。このSnめっき層はSn金属又はSn合金からなる。Sn合金の組成は先に説明したものと同じでよい。また、このSnめっきは、光沢Snめっき、半光沢Snめっき、無光沢Snめっきのいずれであってもよい。
【0065】
(PCB端子の中間部について)
PCB端子の中間部には、はんだ濡れ性やはんだ拡がり性、電気的信頼性(長時間加熱後でも低い接触抵抗値)は求められないので、表面被覆層を形成しなくてもよいが、耐食性の観点から、必要に応じて、Sn被覆層、Ni被覆層、Cu被覆層、又はCu−Sn合金被覆層のいずれか1種又は2種以上で被覆することもできる。嵌合部又ははんだ付け部と同じ表面被覆層構成でもよい。また嵌合部と同じ表面粗化処理を行ってもよい。
【0066】
(PCB端子の打抜き、面取り加工について)
PCB端子は銅合金板条を順送りプレスで打抜き加工を施して製造する。図8は打抜き加工後の銅合金板条の平面図であり、21はPCB端子部、22,23は繋ぎ部である。めっき及びリフロー処理後(リフロー処理後にさらにSnめっきを行う場合は当該Snめっき後)、PCB端子部21は繋ぎ部22において個々に切り離される。PCB端子部の打抜きは、片側抜き又は両側抜きといわれる方法で行われる。片側抜きとは、1つのPCB端子21の両端面を片側ずつ順にプレス打抜きする方法であり、両側抜きとは、両端面を一度にプレス打抜きする方法である。
【0067】
図9(a)に片側抜きされたPCB端子部21の断面図を示す。上面21aと下面21bが圧延面、両側面21c,21dが打抜き端面である。このPCB端子21は、まずA−Aのラインに沿って上下方向に打抜き(せん断)された後、B−Bのラインに沿って打抜き(せん断)されている。打抜き後の断面は上面21aが上向きにやや湾曲し、上面側コーナー部にダレが発生し、下面21bは幅方向中央部を境に互いに逆方向に傾斜し、下面側コーナー部にバリが発生している。下面21bの傾斜は、打抜きに際して材料を回転させる力が片側ずつ順に加わるために生じる。
図9(b)に両側抜きされたPCB端子部21の断面図を示す。このPCB端子21は、A−AとB−Bのラインに沿って上下方向に同時に打抜き(せん断)されている。断面は、打抜きに際して材料の回転がないため下面21bが比較的平らであるが、それ以外の点は図9(a)に示すものとほぼ同じである。
図9(a)、(b)に示す上面21aの湾曲、上面側コーナー部のダレ、下面21bのコーナー部のバリの程度は、端子を打抜く上金型と下金型のクリアランス量によって変わる。
【0068】
このような断面形状のPCB端子21にSnめっき等を行った後、リフロー処理を行うと、リフロー処理前のSnめっき層厚さが断面の全周でほぼ均一であっても、リフロー後のSn被覆層の厚さは、上面21aの中央部で厚く、上面側コーナー部で薄く、下面側コーナー部で厚く、下面21bの中央部で薄くなる傾向がある。Sn被覆層厚さが不均一になると、嵌合部では相手側端子との接触箇所によって摩擦係数が目標値より大きくなったり、はんだ付け部ではんだ付け性が低下する可能性が出てくる。また、バリの部分でスルーホール挿入時にSn被覆層の削れ、バリ及びSn被覆層の剥離が生じやすくなる。
【0069】
このようなSn被覆層の厚さの不均一を防止するには、順送りプレスにおいて面打ち加工を行い、上面側又は/及び下面側のコーナー部にR面取り又はC面取りを行うことが効果的であり、同時に上面21aを平らに矯正してもよい。なお、R面取りとはコーナーを円弧状に丸めること、C面取りとはコーナーをテーパー面にすることを意味する。図10はその面打ち加工の一例を示すもので、上型24の面打ち部は、PCB端子21の上面21aに対応する平坦部とその両側にPCB端子21の上面側コーナー部に対応する傾斜部を備え、下型25の面打ち部は、PCB端子の下面21bに対応する平坦部とその両側にPCB端子21の下面側コーナー部に対応する傾斜部を備え、両金型24,25でPCB端子の幅に打ち抜かれた銅板材を上下方向にプレスする。表面粗化処理はこの面打ち加工後に行えばよい。
【実施例】
【0070】
(銅板材(めっき母材)の作製)
本実施例においては、Cu中に1.8質量%のNi、0.40質量%のSi、1.1質量%のZn、0.10質量%のSnを含有し、ビッカース硬さ180、厚さ0.25mmtの銅板材を用いた。
上記銅板材から100mm×40mm(圧延長手方向×直角方向)の試験片を切り出し、PCB端子を成形する順送金型内の所定位置(PCB端子形状に打抜き加工した後の位置又は面打ち加工した後の位置)に、押圧面に所定凹凸を付けたパーツを取り付け、図8に示すように、1mmw×22mmL又は3mmw×22mmLのPCB端子形状を5mmピッチで打抜き加工(片側抜き又は両側抜き)し、続いてPCB端子部21に図10を用いて説明した面打ち加工を行い(一部は行わず)、さらにPCB端子部21の嵌合部相当箇所とはんだ付け部相当箇所に表面粗化処理を行った(一部は行わず)。表面粗化処理は一方の圧延面(上面)にのみ行い、それぞれ多数の微少凹部を互いに平行に(線状の凹部の場合)、又は碁盤目状にあるいは千鳥状に(図形状の凹部の場合)、いずれも前記嵌合部相当箇所とはんだ付け部相当箇所の表面粗化処理する面全体にほぼ均一に分布するように規則的に形成した。表面粗化処理において、凹凸形状の異なるパーツを用いたり、複数回打ちすること等により、銅合金板の表面に種々の形態の微少凹部を形成することができる。なお、図8において、PCB端子部21の両矢印の範囲A(10mmL)がPCB端子の嵌合部相当箇所、範囲B(10mmL)がPCB端子のはんだ付け部相当箇所である。
【0071】
(嵌合部の実施例)
続いて、銅板材のPCB端子部の嵌合部相当箇所の全周に、Niめっき、Cuめっき及びSnめっきをこの順に施した後(一部にNiめっきを省略したもの、及びNiめっきの前にCuめっきを施したものが含まれる)、280℃×10secのリフロー処理を行い、個々のPCB端子に切り離すことによりNo.1〜37のPCB端子試験片を得た。
No.7の表面SEM写真(組成像)を図11(a)に示す。図中の白色部がSn被覆層、黒色部がCu−Sn合金被覆層である。図11(a)のSn被覆層には、それぞれ複数の平行線として観察される2つのSn被覆層群が含まれ、一方のSn被覆層群と他方のSn被覆層群は90°の角度で交差し、全体として格子状をなしている。なお、図11(a)の例では、表面粗化処理後、めっき前のPCB端子部表面には、複数の平行線として観察される細かい溝(谷)が90°の角度で交差して形成され、これらの溝が全体として格子状をなしている。
【0072】
表1〜4に、各試験片の表面被覆層の表面形態、表面被覆層を構成する各被覆層の平均厚さ、及び面打ち加工の有無を示す。表1において、直線Xとは一方のSn被覆層群を構成する平行Sn被覆層Xを指し、直線Yとは他方のSn被覆層群を構成する平行Sn被覆層Yを指し、一方のSn被覆層群しか存在しない場合、Sn被覆層Y(直線Y)の欄を空欄としている。Sn被覆層Xの幅、Sn被覆層Yの幅、Sn被覆層X同士の間隔、Sn被覆層Y同士の間隔、図形Sn被覆層の円相当直径、図形Sn被覆層同士の最短間隔のいずれか1つが500μmを超えるPCB端子は3mm幅に打ち抜いたものを用い、他は1mm幅に打ち抜いたものを用いた。
なお、No.1〜16,18,20〜37は打抜き加工が片側抜きのもの、No.17は両側抜きのもの、No.19は両側抜き後、面打ち加工でバリ潰しのみを行ったものである。
各試験片の表面形態を示す各パラメータ及び各被覆層の平均厚さの測定方法(いずれも表面粗化処理した圧延面において測定)は、次のとおりである。
【0073】
[最大高さ粗さRz]
接触式粗さ計(株式会社東京精密製;サーフコム1400)を用いて、JIS B0601:2001に基づいて測定した。表面粗さ測定条件は、カットオフ値を0.8mm、基準長さを0.8mm、評価長さを4.0mm、測定速度を0.3mm/s、接触針先端半径を5μmRとして、測定は表面粗化処理を施した面においてPCB端子挿入方向に、異なる3箇所で行い、得られた各粗さ曲線から最大高さ粗さRzを求め、その最大値を試験片の最大高さ粗さRzとした。なお、最大高さ粗さRzはどの測定箇所でもほぼ同じ値が得られた。図11(b)にNo.1で測定した粗さ曲線の一例を示す。
【0074】
[Sn被覆層の幅等]
試験片の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、その組成像から表1の平行Sn被覆層X,Yの幅、直線X,Yの間隔、表3の図形Sn被覆層の円相当直径,最短間隔(隣接する図形Sn被覆層同士の最短間隔)を測定した。表3の挿入方向交差角度は、図形Sn被覆層の図形(四角形)の一辺と挿入方向の交差角度である。直線X,Yの交差角度、直線Xと挿入方向交差角度、図形の一辺と挿入方向交差角度は表面粗化処理の段階で設定した。なお、平行Sn被覆層X,Yの幅、直線X,Yの間隔、表3の図形Sn被覆層の円相当直径,最短間隔の寸法に合わせ、走査電子顕微鏡での観察倍率を変化させた。各試料毎に3視野のSEM画像を写真撮影し、撮影した写真毎に平行Sn被覆層X,Yの幅、直線X,Yの間隔、図形Sn被覆層の最短間隔を3箇所測定し、3枚の写真の測定値(データ数9)の平均値を算出した。また、表3の図形Sn被覆層の円相当直径については、画像解析装置を用いて各写真毎に円相当直径をもとめ、3枚の写真の平均値を算出した。
【0075】
[Sn被覆層の平均の厚さ]
まず、蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、Sn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和を測定した。その後、p-ニトロフェノール及び苛性ソーダを成分とする水溶液に10分間浸漬し、Sn被覆層を除去した。再度、蛍光X線膜厚計を用いて、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を測定した。測定条件は、いずれも検量線にSn/母材の単層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。
Sn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和の測定において、測定位置として、試験片の幅方向(長手方向に直交する方向)中央位置及びその両側の位置(計3箇所)を選定した。それぞれの位置における測定点は、長手方向端部から1mm入った位置及び該位置から長手方向に0.5mmピッチで計10点とし、各試験片毎に3箇所×10点の計30点の測定値の平均値を求めた。図12は、幅1mmの試験片21について前記測定位置及び測定点を説明する模式図である。前記中央位置での測定は、試験片21の幅方向中心線L1に沿って行った。中央位置の両側の位置での測定は、直線L1に平行な直線L2,L3に沿って行なったが、その測定位置として、図12に示すように、コリメータで照射されるX線束の端が試験片の幅方向端部(コーナー部)の丸み又は斜面(R面取り又はC面取りした試験片)若しくはダレ(面取りしなかった試験片)にギリギリ掛からない位置を選定した。なお、図12において、○印は各測定位置におけるX線束を示し、Cは試験片の幅方向端部(コーナー部)に形成された丸み又は斜面若しくはダレを示す。一方、幅3mmの試験片については、測定位置として、試験片の幅方向中央位置及び幅方向端部から0.5mm入った位置(計3箇所)を選定した。
Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の測定も同様に行った。Sn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和から、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を差し引き、得られた値をSn被覆層の平均の厚さとした。
【0076】
[Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さ]
まず、供試材をp-ニトロフェノール及び苛性ソーダを成分とする水溶液に10分間浸漬し、Sn被覆層を除去した。その後、蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を測定した。測定条件は、検量線にSn/母材の単層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。測定位置、測定点及び測定点数は上記[Sn被覆層の平均の厚さ]の項に記載したとおりである。得られた値をCu−Sn合金被覆層の平均の厚さとした。
【0077】
[Cu被覆層の平均の厚さ]
ミクロトーム法にて加工した母材の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて10,000倍の倍率で観察し、画像解析処理により平均の厚さを算出した。
[Ni被覆層の平均の厚さ]
蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて平均の厚さを算出した(1試料について3箇所測定し、平均値を算出)。測定条件は、検量線にSn/Ni/母材の2層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。
【0078】
[Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率]
供試材の表面を、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて200倍の倍率で観察し、得られた組成像の濃淡(汚れや傷等のコントラストは除く)から画像解析によりCu−Sn合金被覆層の露出面積率を測定した。なお、平行Sn被覆層の幅や間隔又は図形Sn被覆層の円相当直径が大きく、平行Sn被覆層又は図形Sn被覆層の繰り返し単位が1視野に入らない場合、視野をずらしながら1視野分以上の面積(繰り返し単位以上の面積)を観察及び測定した。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
続いて、得られた試験片について、摩擦係数評価試験及び高温放置後の接触抵抗評価試験を下記の要領で行った。その結果を、表2,4に示す。
[摩擦係数評価試験]
PCB端子と嵌合するメス端子における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図13に示すような装置を用いて評価した。まず、PCB端子試験片21(No.1〜37)を水平な台26に固定し、その上に、表面粗化処理を行っていない銅板材(PCB端子試験片と同材質で板厚0.25mm)にめっき(Cu:0.15μm、Sn:1.0μm)及びリフロー処理した材料から切り出した半球加工材(内径をφ1.5mmとした)のメス試験片27を置いて被覆層同士を接触させた。続いて、メス試験片27に3.0Nの荷重(錘28)をかけて試験片21を押さえ、横型荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社;Model−2152)を用いて、試験片21を端子挿入方向に水平方向に引っ張り(摺動速度を80mm/minとした)、摺動距離5mmまでの最大摩擦力F(単位:N)を測定した。摩擦係数を下記式(1)により求めた。摩擦係数が0.4以下のものを低摩擦係数と評価した。なお、29はロードセル、矢印は摺動方向である。
摩擦係数=F/3.0 …(1)
【0084】
[高温放置後の接触抵抗評価試験]
各試験材に対し、大気中にて160℃×500hrの熱処理を行った後、接触抵抗を四端子法により、開放電圧20mV、電流10mA、無摺動の条件にて測定した。測定箇所を変えて測定を5回行い、その平均値を測定値とした。160℃×500hr加熱後の接触抵抗が10mΩ未満のものを耐熱性がよい(○)、10mΩ以上のものを耐熱性が劣る(×)と評価した。
【0085】
表2に示すようにNo.1〜22,32〜37は、Sn被覆層とCu−Sn合金被覆層の平均厚さ、試験片の表面に観察されるSn被覆層の形態(Sn被覆層の幅と間隔、Sn被覆層の円相当直径と間隔)、及び最大高さ粗さRzに関して本発明に規定する要件を満たし、摩擦係数が0.4以下と低い値を示し、かつ加熱後の接触抵抗が10mΩ以下である。
一方、No.23,24はSn被覆層の平均厚さが小さすぎ(Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率も大きすぎる)、No.25はCu−Sn合金被覆層の平均厚さが小さすぎ,No.26は最大高さ粗さRzが大きすぎるため、加熱後接触抵抗が高い。また、No.27,28は平行Sn被覆層の幅が大きすぎるため(Cu−Sn合金被覆層の表面露出面積率も小さすぎる)、No.29,30はめっきSn層が厚い試料であるが、平行Sn被覆層同士の間隔が大きすぎるため、Cu−Sn合金層の露出面積が小さくなり、摩擦係数が高くなった。No.31は表面粗面化処理を行っていないため、摩擦係数が高い。
【0086】
(はんだ付け部の実施例)
一方、銅板材のPCB端子部のはんだ付け部相当箇所の全周に、Niめっき、Cuめっき及びSnめっきをこの順に施した後(一部にNiめっきを省略したもの、及びNiめっきの前にCuめっきを施したものが含まれる)、280℃×10secのリフロー処理を行い、一部についてさらにSnめっきを行い、次いで個々のPCB端子に切り離すことによりNo.38〜65のPCB端子試験片を得た。なお、No.56〜60,64,65のはんだ付け部には、プレス打抜き加工後、No.1と同じ表面粗化処理を施した。
【0087】
表5,6に、各試験片における各被覆層の平均厚さ、表面粗化処理の有無及び面打ち加工の有無を示す。なお、No.38〜48,51〜65は打抜き加工が両側抜き、No.49は片側抜き、No.50は両側抜き後、面打ち加工でバリ潰しのみ行ったものである。図8に示したように、PCB端子としてはんだ付け部も嵌合部と同時に打抜き加工しているが、No.38〜65のPCB端子試験片はNo.1〜37のPCB端子試験片のはんだ付け部を用いずに、新たに打抜いたものを使用した。
各試験片における各被覆層の平均厚さの測定方法は、前記のとおりである。また、リフロー後のSnめっき層の平均の厚さの測定方法は下記のとおりである。
[リフロー後のSnめっき層の平均の厚さ]
リフロー後に形成したSnめっき層については、ミクロトームにて端子長手方向に直交する母材の断面を切断し(1試料あたり3箇所)、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて10,000倍の倍率で切断した各試料断面の上面(打抜き時に上面であった面)の中央部付近のSnめっきの厚さを測定し、3切断面の平均の厚さを算出した。
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
続いて、得られた試験片について、はんだ濡れ時間の測定試験を下記の要領で行った。その結果を、表5,6に示す。
[はんだ濡れ試験]
No.38〜65の試験片に対して、非活性フラックスを1秒間浸漬塗布した後、メニスコグラフ法にてはんだ濡れ時間を測定した。はんだは255℃のSn−3.0Ag−0.5Cuはんだ又は245℃のSn−40Pbはんだとし、浸漬速度を25mm/sec、浸漬深さを5mm、浸漬時間を5secの試験条件で実施した。はんだ濡れ時間が2秒以下のものをはんだ濡れ性が優れると評価した。
【0091】
表5,6に示すように、No.38〜61は、Sn被覆層とリフロー後Snめっき層を合わせた平均厚さが0.2μm以上で本発明に規定する要件を満たし、はんだ濡れ時間が2秒以下と優れたはんだ濡れ性を示す。
一方、No.62〜65はSn被覆層の平均厚さが0.2μmに満たず、リフロー後Snめっき層も形成されていないため、はんだ濡れ時間が長く、はんだ濡れ性に劣る。
【符号の説明】
【0092】
1,1a〜1d 平行Sn被覆層
2,12 Cu−Sn合金被覆層
3,13 Sn被覆層
4,4a〜4d 平行Sn被覆層
5,15 銅板材
6,16 凹部
7,17 凸部
8、18 金型
11 図形Sn被覆層
21 PCB端子部
22,23 繋ぎ部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造され、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなるPCB端子であって、前記嵌合部に、表面被覆層として前記Cu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出し、前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さが0.2〜5.0μmであり、前記Sn被覆層は複数の平行線として観察される幅1〜500μmのSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の両側に前記Cu−Sn合金被覆層が隣接して存在し、前記Sn被覆層群に属するSn被覆層のうち隣接するSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であることを特徴とするPCB端子。
【請求項2】
所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造され、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなるPCB端子であって、前記嵌合部に、表面被覆層としてCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出し、前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さが0.2〜5.0μmであり、前記Sn被覆層は複数の平行線として観察される幅が1〜500μmのSn被覆層群と、同じく複数の平行線として観察される幅が1〜500μmの別のSn被覆層群を1又は2以上含み、各Sn被覆層群は格子状に交差し、各Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の両側にCu−Sn合金被覆層が隣接して存在し、同じSn被覆層群に属するSn被覆層のうち隣接するSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であることを特徴とするPCB端子。
【請求項3】
前記銅板材は、前記嵌合部に相当する部分に、後めっきの前に表面粗化処理が行われており、表面に複数の平行線として観察される凹部がプレス加工で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載されたPCB端子。
【請求項4】
前記銅板材は、前記嵌合部の長手方向に垂直な断面において、上面側又は/及び下面側のコーナー部がプレスによるR面取り又はC面取り加工がなされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項5】
前記Cu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項6】
前記銅板材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間に平均厚さが10μm以下のNi被覆層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項7】
前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらに平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項6に記載されたPCB端子。
【請求項8】
前記銅板材の表面と前記Ni被覆層の間にさらに平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項6又は7に記載されたPCB端子。
【請求項9】
所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造され、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなるPCB端子であって、前記嵌合部に、表面被覆層としてCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出し、前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さが0.2〜5.0μmであり、前記Sn被覆層は複数の閉じた輪郭を有する図形として観察される円相当直径が5〜1000μmのSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の周囲にこれを包囲するCu−Sn合金被覆層が存在し、前記Sn被覆層群に属するSn被覆層は最も近いSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であることを特徴とするPCB端子。
【請求項10】
前記銅板材は、前記嵌合部に相当する部分に、後めっきの前に表面粗化処理が行われており、表面に複数の閉じた輪郭を有する図形として観察される凹部がプレス加工で形成されていることを特徴とする請求項9に記載されたPCB端子。
【請求項11】
前記銅板材は、前記嵌合部の長手方向に垂直な断面において、上面側又は/及び下面側のコーナー部がプレスによるR面取り又はC面取り加工がなされていることを特徴とする請求項9又は10に記載されたPCB端子。
【請求項12】
前記Cu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項13】
前記銅板材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間に平均厚さが10μm以下のNi被覆層を有することを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項14】
前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらに平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項13に記載されたPCB端子。
【請求項15】
前記銅板材の表面と前記Ni被覆層の間にさらに平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項13又は14に記載されたPCB端子。
【請求項16】
前記はんだ付け部に平均厚さが0.2〜10μmのリフロー処理で平滑化されたSn被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項17】
前記はんだ付け部のSn被覆層と銅板材の間に平均厚さが3μm以下のCu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層が形成されていることを特徴とする請求項16に記載されたPCB端子。
【請求項18】
前記Cu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層と前記銅板材の間に平均厚さが10μm以下のNi被覆層が形成されていることを特徴とする請求項17に記載されたPCB端子。
【請求項19】
前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層との間に平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項18に記載されたPCB端子。
【請求項20】
前記銅板材と前記Ni被覆層との間に平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項18又は19に記載されたPCB端子。
【請求項21】
前記はんだ付け部が、前記嵌合部と同じ表面被覆層構成を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項22】
前記銅板材は、前記はんだ付け部の長手方向に垂直な断面において、上面側又は/及び下面側のコーナー部がプレスによるR面取り又はC面取り加工がなされていることを特徴とする請求項16〜21のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項23】
さらに最表面に平均厚さが0.3μm以下のリフロー処理されないSnめっき層を有し、リフロー処理で平滑化されたSn被覆層と合わせた平均厚さが0.2〜10μmであることを特徴とする請求項16〜22のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項24】
前記中間部が表面被覆層を有しないことを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項25】
前記中間部がSn被覆層、Ni被覆層、Cu被覆層、又はCu−Sn合金被覆層のいずれか1種又は2種以上で被覆されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項26】
前記銅板材は、前記中間部の長手方向に垂直な断面において、上面側又は/及び下面側のコーナー部がプレスによるR面取り又はC面取り加工がなされていることを特徴とする請求項24又は25に記載されたPCB端子。
【請求項27】
銅板材を打抜き加工すると同時に又はその前後に、前記銅板材の表面にプレス加工により表面粗化処理を行って複数の凹部を形成し、続いて表面粗化処理を行った銅板材の表面に後めっきを行い、さらにリフロー処理を行うことを特徴とする請求項1〜22,24〜26のいずれかに記載されたPCB端子の製造方法。
【請求項28】
銅板材を打抜き加工すると同時に又はその前後に、前記銅板材の表面の必要な部分にプレス加工により表面粗化処理を行って複数の凹部を形成し、続いて表面粗化処理を行った銅板材の表面に後めっきを行い、さらにリフロー処理を行い、その後更にSnめっきを行うことを特徴とする請求項23に記載されたPCB端子の製造方法。
【請求項1】
所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造され、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなるPCB端子であって、前記嵌合部に、表面被覆層として前記Cu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出し、前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さが0.2〜5.0μmであり、前記Sn被覆層は複数の平行線として観察される幅1〜500μmのSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の両側に前記Cu−Sn合金被覆層が隣接して存在し、前記Sn被覆層群に属するSn被覆層のうち隣接するSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であることを特徴とするPCB端子。
【請求項2】
所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造され、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなるPCB端子であって、前記嵌合部に、表面被覆層としてCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出し、前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さが0.2〜5.0μmであり、前記Sn被覆層は複数の平行線として観察される幅が1〜500μmのSn被覆層群と、同じく複数の平行線として観察される幅が1〜500μmの別のSn被覆層群を1又は2以上含み、各Sn被覆層群は格子状に交差し、各Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の両側にCu−Sn合金被覆層が隣接して存在し、同じSn被覆層群に属するSn被覆層のうち隣接するSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であることを特徴とするPCB端子。
【請求項3】
前記銅板材は、前記嵌合部に相当する部分に、後めっきの前に表面粗化処理が行われており、表面に複数の平行線として観察される凹部がプレス加工で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載されたPCB端子。
【請求項4】
前記銅板材は、前記嵌合部の長手方向に垂直な断面において、上面側又は/及び下面側のコーナー部がプレスによるR面取り又はC面取り加工がなされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項5】
前記Cu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項6】
前記銅板材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間に平均厚さが10μm以下のNi被覆層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項7】
前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらに平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項6に記載されたPCB端子。
【請求項8】
前記銅板材の表面と前記Ni被覆層の間にさらに平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項6又は7に記載されたPCB端子。
【請求項9】
所定形状に打抜き加工した銅板材に後めっき及びリフロー処理して製造され、相手側端子に挿入される嵌合部、前記嵌合部の他端に形成され基板にはんだ付けされるはんだ付け部、及び前記嵌合部とはんだ付け部との間に形成された中間部とよりなるPCB端子であって、前記嵌合部に、表面被覆層としてCu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化され、前記Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出し、前記Cu−Sn合金被覆層の平均厚さが0.1〜3μm、前記Sn被覆層の平均厚さが0.2〜5.0μmであり、前記Sn被覆層は複数の閉じた輪郭を有する図形として観察される円相当直径が5〜1000μmのSn被覆層群を含み、前記Sn被覆層群を構成する個々のSn被覆層の周囲にこれを包囲するCu−Sn合金被覆層が存在し、前記Sn被覆層群に属するSn被覆層は最も近いSn被覆層同士の間隔が1〜2000μmであり、部品挿入方向の最大高さ粗さRzが10μm以下であることを特徴とするPCB端子。
【請求項10】
前記銅板材は、前記嵌合部に相当する部分に、後めっきの前に表面粗化処理が行われており、表面に複数の閉じた輪郭を有する図形として観察される凹部がプレス加工で形成されていることを特徴とする請求項9に記載されたPCB端子。
【請求項11】
前記銅板材は、前記嵌合部の長手方向に垂直な断面において、上面側又は/及び下面側のコーナー部がプレスによるR面取り又はC面取り加工がなされていることを特徴とする請求項9又は10に記載されたPCB端子。
【請求項12】
前記Cu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%であることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項13】
前記銅板材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間に平均厚さが10μm以下のNi被覆層を有することを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項14】
前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらに平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項13に記載されたPCB端子。
【請求項15】
前記銅板材の表面と前記Ni被覆層の間にさらに平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項13又は14に記載されたPCB端子。
【請求項16】
前記はんだ付け部に平均厚さが0.2〜10μmのリフロー処理で平滑化されたSn被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項17】
前記はんだ付け部のSn被覆層と銅板材の間に平均厚さが3μm以下のCu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層が形成されていることを特徴とする請求項16に記載されたPCB端子。
【請求項18】
前記Cu−Sn合金被覆層又はNi−Sn合金被覆層と前記銅板材の間に平均厚さが10μm以下のNi被覆層が形成されていることを特徴とする請求項17に記載されたPCB端子。
【請求項19】
前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層との間に平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項18に記載されたPCB端子。
【請求項20】
前記銅板材と前記Ni被覆層との間に平均厚さが5μm以下のCu被覆層を有することを特徴とする請求項18又は19に記載されたPCB端子。
【請求項21】
前記はんだ付け部が、前記嵌合部と同じ表面被覆層構成を有することを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項22】
前記銅板材は、前記はんだ付け部の長手方向に垂直な断面において、上面側又は/及び下面側のコーナー部がプレスによるR面取り又はC面取り加工がなされていることを特徴とする請求項16〜21のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項23】
さらに最表面に平均厚さが0.3μm以下のリフロー処理されないSnめっき層を有し、リフロー処理で平滑化されたSn被覆層と合わせた平均厚さが0.2〜10μmであることを特徴とする請求項16〜22のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項24】
前記中間部が表面被覆層を有しないことを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項25】
前記中間部がSn被覆層、Ni被覆層、Cu被覆層、又はCu−Sn合金被覆層のいずれか1種又は2種以上で被覆されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載されたPCB端子。
【請求項26】
前記銅板材は、前記中間部の長手方向に垂直な断面において、上面側又は/及び下面側のコーナー部がプレスによるR面取り又はC面取り加工がなされていることを特徴とする請求項24又は25に記載されたPCB端子。
【請求項27】
銅板材を打抜き加工すると同時に又はその前後に、前記銅板材の表面にプレス加工により表面粗化処理を行って複数の凹部を形成し、続いて表面粗化処理を行った銅板材の表面に後めっきを行い、さらにリフロー処理を行うことを特徴とする請求項1〜22,24〜26のいずれかに記載されたPCB端子の製造方法。
【請求項28】
銅板材を打抜き加工すると同時に又はその前後に、前記銅板材の表面の必要な部分にプレス加工により表面粗化処理を行って複数の凹部を形成し、続いて表面粗化処理を行った銅板材の表面に後めっきを行い、さらにリフロー処理を行い、その後更にSnめっきを行うことを特徴とする請求項23に記載されたPCB端子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図11】
【公開番号】特開2012−123953(P2012−123953A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272088(P2010−272088)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(393017111)神鋼リードミック株式会社 (16)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(393017111)神鋼リードミック株式会社 (16)
[ Back to top ]