説明

PET−MRにおける減衰マップの生成方法

磁気共鳴(MR)画像分割プロセッサ(32)は、被検体のMR画像を用いて被検体の1つ以上の幾何学領域を特定するように構成される。エミッションデータ再構成プロセッサ(40)は、被検体の幾何学領域に初回の減衰値(52)を割り当てることによって被検体の減衰マップ(54)を生成し、(i)被検体から収集されたエミッションデータを、被検体の減衰マップを用いて処理(56)して、被検体のエミッション画像(58)を生成し、(ii)被検体のエミッション画像を用いて計算された補正量に基づいて減衰マップを更新(60)し、且つ(iii)処理(i)及び(ii)を反復して、被検体の再構成エミッション画像を反復的に生成するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下は、撮像技術、エミッショントモグラフィ技術、陽電子放出断層撮影(PET)技術、単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)技術、磁気共鳴技術、及び関連技術に関する。以下は、特に、PET/MRシステム及び相助的なPET/MR撮像への適用を参照して説明されるが、PET撮像、SPECT撮像、及びその他の放射線放射に基づく撮像モダリティ、並びにこれらのための再構成技術にも適用されるであろう。
【背景技術】
【0002】
例えばPET又はSPECTなどの放射型断層撮影(エミッショントモグラフィ)による撮像は、好適な減衰マップを用いて、撮像対象内での吸収を不具にすることによって向上される。透過型コンピュータ断層撮影(CT)と組み合わせて実行されるエミッショントモグラフィは、有利なことに、CTモダリティによって提供される放射線減衰データを利用可能であることによる恩恵を受ける。再構成されたCT画像は、本質的に、CT画像データを生成する際に使用されるx線に対しての、撮像対象の減衰マップである。CTにて使用されるx線は一般的に、PETにて測定される511keVの放射線、又はSPECT若しくはその他のエミッショントモグラフィ技術にて測定されるエミッションとは同一でないが、放射線の種類の差を不具にするようにCTのグレースケールレベルを好適にスケーリングすることによって、再構成された透過型CTの画像から、エミッショントモグラフィ用の減衰マップを生成できることが知られている。
【0003】
また、エミッショントモグラフィを磁気共鳴(MR)撮像と相助的に組み合わせて実行することに関心が持たれている。そのとき、減衰マップを生成する基となる透過型CT画像はない。PET又はSPECTのデータを分析するための減衰マップとしてMR画像を使用する試みは成功されていない。それは、MRにおけるコントラスト機構が、PET又はSPECT(又は、ついでに言えば、CT)のそれとは根本的に異なるためである。故に、“暗い”MR画素が高い減衰又は低い減衰に必ず対応すると言うことはできない。例えば、骨組織と空気は、一部のMR撮像モードにおいては同等のグレースケール明度を有するが、骨によるエミッション放射線の減衰は空気の減衰より遙かに高い。
【0004】
このような状況の中、様々な技術を用いて減衰マップを生成することが企図されている。企図される一手法においては、例えば典型的なヒト被検体といった典型的な被検体の減衰“地図帳(アトラス)”が用いられている。減衰アトラスは典型的な被検体の様々な要素又は領域の減衰を特定する。しかしながら、例えば実際のヒト被検体などの実際の被検体は実質的に異なり、減衰アトラスを特定の被検体に適応させることは容易でない。
【0005】
企図される別の一手法は、典型的な減衰パターンの機械学習を用いて、MR画像をPETでの使用に適した減衰マップに変換するための変換アルゴリズムを構築している。この手法は実施することが困難であるとともに、機械学習手法の実験的性質により、予測あるいは推定することが難しい誤差がもたらされ得る。
【0006】
他の一手法は、減衰マップの生成とエミッションデータの再構成とを組み合わせるものである(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照)。これらの手法は有利なことに、外部から提供される減衰マップの使用を必要としない。しかしながら、これらは、対応するMR画像から入手可能な情報をも使用していない。これらの単一モダリティ技術を用いて再構成された画像においては、アーチファクトが観測されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6310968号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nuyts等、「Simultaneous Maximum A Posteriori Reconstruction of Attenuation and Activity Distribution from Emission Sinograms」、IEEE Trans. on Medical Imaging、1999年、第18巻、第10号、pp.393-403
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以下により、上述及びその他の問題を解決する新たで改善された装置及び方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
開示する一態様によれば、被検体の磁気共鳴(MR)画像と該被検体から収集されたエミッションデータとに関して処理を行う方法が開示される。当該方法は、MR画像を用いて、被検体の1つ以上の幾何学領域を特定するステップと、幾何学領域によって画成されて幾何学領域の減衰値が反復再構成に基づいて近似される減衰マップを用いて、被検体のエミッション画像を生成するようにエミッションデータを反復的に再構成するステップとを有する。
【0011】
開示する他の一態様によれば、前段落の方法を実行するように構成されたエミッションデータ再構成プロセッサが開示される。
【0012】
開示する他の一態様によれば、再構成プロセッサを有する装置が開示される。再構成プロセッサは、被検体のMR画像を用いて被検体の1つ以上の幾何学領域を特定し、被検体の幾何学領域に初回の減衰値を割り当てることによって被検体の減衰マップを生成し、(i)被検体から収集されたエミッションデータを被検体の減衰マップを用いて処理して、被検体のエミッション画像を生成し、(ii)被検体のエミッション画像を用いて計算された補正量に基づいて減衰マップを更新し、且つ(iii)処理(i)及び(ii)を反復して、被検体の再構成エミッション画像を反復的に生成するように構成される。
【0013】
開示する他の一態様によれば、被検体のMR画像を協働して生成するように構成された磁気共鳴(MR)スキャナ及びMR再構成プロセッサと、被検体からエミッションデータを収集するように構成されたエミッション放射線検出器と、MR画像を用いて被検体の1つ以上の幾何学領域を特定するように構成されたMR画像分割プロセッサと、エミッションデータの反復再構成を実行して被検体のエミッション画像を生成するように構成されたエミッションデータ再構成プロセッサであり、反復再構成は、当該反復再構成の複数の反復を用いて反復的に更新される減衰マップを使用し、少なくとも1つの反復における減衰マップ更新が、MR画像分割プロセッサにより特定された被検体の幾何学領域によって制約される、エミッションデータ再構成プロセッサと、を有するシステムが開示される。
【0014】
開示する他の一態様によれば、エミッション画像を減衰に関して補正する方法が開示される。当該方法は、磁気共鳴(MR)画像を分割して幾何学領域を形成するステップと、幾何学領域に減衰値を割り当てるステップと、幾何学領域の減衰値に基づいてエミッションデータを再構成するステップと、再構成されたエミッションデータに基づいて幾何学領域の減衰値を補正するステップとを有する。
【発明の効果】
【0015】
1つの利点は、PETデータ、SPECTデータ及びその他のエミッションデータの、より正確な画像再構成により、数多くの新たな診断応用で必要とされる定量的な画像情報が得られることにある。
【0016】
他の1つの利点は、MRデータと、PETデータ、SPECTデータ又はその他のエミッションデータとの相助的な結合により、後者の画像再構成が向上されることにある。
【0017】
以下の詳細な説明を読んで理解した当業者には、更なる利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】対応するMR画像から得られた幾何学情報と、PETエミッションデータから反復的に得られた減衰値と、を有する減衰マップを利用するPET再構成プロセッサを含む複合型MR/PET撮像システムを示す図である。
【図2】PET再構成プロセッサによって実行される処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を参照するに、複合型スキャナは、図示した実施形態では水平ボア型磁気共鳴スキャナである磁気共鳴(MR)スキャナ10と、陽電子放出断層撮影(PET)検出器12の一体型リングとを含んでいる。MRスキャナ10及びPET検出器12の一体型リングは何れも、MRスキャナ10の内面ボア内に配置される関心領域14から撮像データを収集するように構成されている。(図1において、一体型PET検出器12を備えた水平ボア型MRスキャナ10は、MRボアの半分及びPET検出器12の対応する半分を切除して、ボアの内部及びPET検出器12の一体型リングの残りの半分が見えるように示されている。)MRスキャナ10は、例えば、静(B)磁場を生成する主磁石、磁場勾配を重畳する傾斜磁場コイル、並びに磁気共鳴の励起及び検出を行う1つ以上の無線周波数コイルなどの構成要素(これらの構成要素は単純化のために図1に示されていない)を含んでいる。リング状のPET検出器12は、選択された“オンボード”処理(例えば、放射線検出イベントによって生じた電気信号に対して、必要に応じてアナログ−デジタル変換を行うこと、必要に応じて放射線検出イベントのデジタルタイムスタンプ付与を行うこと、等々)を実行するための電子装置のバックボーン16を含んでいる。他の例では、これらの処理の一部は遠隔電子装置(図示せず)によって実行されてもよい。
【0020】
MRスキャナ10は、選択された空間エンコーディングを用いて、例えばk空間サンプルなどの磁気共鳴データを収集する。収集されたMRデータはMR撮像データバッファ20に格納される。MR再構成プロセッサ22が、選択された空間エンコーディングに適合する再構成技術を使用してMRデータを処理する。例えば、空間エンコーディングが、励起中にスライス選択勾配を用い、磁気共鳴信号の減衰及び読み出し中にそれぞれ位相エンコーディング勾配及び読み出しエンコーディング勾配を用いる従来からのデカルト(Cartesian)エンコーディングである場合、MR再構成プロセッサ22は、フーリエ変換に基づく再構成法を好適に使用する。MR再構成プロセッサ22の出力がMR画像であり、MR画像は、MR画像メモリ24に格納され、必要に応じて、コンピュータ26又はその他の表示装置上に表示されたり、その他の方法で利用されたりする。
【0021】
PET検出器12と、付随するオンボード電子装置16及び/又は遠隔電子装置(図示せず)は、放射線検出イベントを検出し、エネルギー及び時間のウィンドウにかけて、電子−陽電子消滅事象を表す実質的に同時の511keV検出イベントを特定する。実質的に同時の511keV検出イベントの各対は、2つの511keV検出イベントを結ぶ投影すなわちライン・オブ・レスポンスを定める。このデータセットは、PETデータ、又は、より一般的にエミッションデータと呼ばれ、PET撮像データバッファ30に格納される。
【0022】
一部の実施形態において、PET検出器12は、同一の電子−陽電子消滅事象を起源とする実質的に同時の2つの511keVガンマ粒子の検出間の飛行時間差(又は、それがないこと)を決定するのに十分な時間分解能を有し、オンボード電子装置及び/又は遠隔電子装置は更に、ライン・オブ・レスポンスに沿った電子−陽電子消滅事象の位置を特定し、それにより飛行時間PETデータを生成するように構成される。
【0023】
図示した複合型スキャナ10、12、16は一例である。より一般的に、ここで開示するエミッションデータ再構成を実行する技術は、如何なるPETスキャナに関しても好適に実行され、あるいは更に一般的には、例えば、図示したPET検出器12、スタンドアローン型PET検出器、又は単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)データを生成するガンマカメラなど、エミッションデータを生成する如何なるスキャナに関しても好適に実行される。ここで開示するエミッションデータ再構成を実行する技術は更に、エミッションデータが収集されるのと同一の被検体の如何なるMR画像に関しても好適に実行され、そのようなMR画像は、図示した複合型スキャナ10、12、16によって、あるいはスタンドアローン型MRスキャナによって好適に収集される。
【0024】
なおも図1を参照するに、PET再構成プロセッサ32は、反復再構成法を用いて、PETシステム12、16によって(あるいは、より一般的には、例えばPET又はSPECTなどの放射線放出型撮像システム)収集されたエミッションデータを再構成して再構成エミッション画像を形成する。再構成エミッション画像は、PET画像メモリ34に格納され、必要に応じて、コンピュータ26又はその他の表示装置上に表示されたり、その他の方法で利用されたりする。
【0025】
エミッション画像の再構成を実行するため、PET再構成プロセッサ32は、被検体内の放出放射線の再吸収によって生じた放射線損失を説明する減衰マップを使用する。好適な減衰マップが、MR画像によって提供される幾何学情報とエミッションデータセット自体から得られる減衰値情報との組み合わせを用いて生成される。
【0026】
この目的に向けて、MR画像は、被検体の1つ以上の幾何学領域を特定するように、MR画像分割プロセッサ40によって分割(セグメント化)される。この幾何学情報は、MR分割画像メモリ42に好適に格納される。分割プロセッサ40は、(生体構造を有するヒト又は動物の被検体を仮定すると)被検体の解剖学的に区別可能な領域の輪郭を描く如何なる好適な分割処理を用いてもよい。一部の好適な分割処理は、例えば、閾値に基づく分割法、ソーベル(Sobel)オペレータに基づく分割法、領域成長分割法、ウォータシェッド(watershed)分割法、又はモデルベース分割などを含む。分割プロセッサ40によって特定された被検体の1つ以上の幾何学領域は、必要に応じて、人間オペレータによるレビューのためにコンピュータ26上に表示される。そして、人間オペレータは、コンピュータ26の1つ以上のインタフェース装置を用いて、自動特定された被検体の1つ以上の幾何学領域を調整あるいはその他の方法で変更する選択肢を有する。分割プロセッサ40によってMR画像から特定されて得られた、被検体の1つ以上の幾何学領域は、PET再構成プロセッサ32への入力として作用する。PET再構成プロセッサ32は、エミッションデータの再構成に使用される減衰マップを構築する際に、特定された被検体の1つ以上の幾何学領域によって表される被検体についての幾何学情報を使用する。
【0027】
なおも図1を参照しながら、更に図2を参照するに、PET再構成プロセッサ32によって使用される好適な再構成処理が記載されている。PET再構成プロセッサ32によって初回減衰マップ生成処理50が実行され、反復エミッションデータ再構成処理の初回の反復(イテレーション)で使用される初回減衰マップが生成される。初回減衰マップは、MR画像の分割によって特定された被検体の1つ以上の幾何学領域に初回減衰値52を割り当てることによって構築される。初回減衰値52は様々に取得され得る。一手法において、被検体の上記1つ以上の幾何学領域により被検体の外形が定められ、先ずは被検体の外形内の全てのボクセル又はピクセルに、例えば水の減衰値に相当する値などの初期設定の減衰値(デフォルト減衰値)が割り当てられ、(周囲は、関心ある大抵のエミッション放射線に対して低い吸収を有する空気であると仮定して)被検体の外形の外側に位置するボクセル又はピクセルにゼロの減衰値が割り当てられる。このような一実施形態において、被検体の上記1つ以上の幾何学領域は、被検体の外形を定める単一の領域であってもよいし、被検体の外形を共同で定める複数の幾何学領域であってもよい。
【0028】
他の実施形態において、初回減衰値52は、幾何学的領域の幾何学構成に基づいて選択された幾何学領域ごとのデフォルト減衰値を有する。例えば、上記幾何学領域のうちの一部又は全ての生体構造識別子が、それら幾何学領域の形状又は位置に基づいて特定可能にされ得る。斯くして、例えば、異なる複数の領域が、骨領域、脂肪領域又は筋肉領域などとして標識付けされ得る。そして、このように標識付けされた各領域に、その組織タイプに基づいて、好適なデフォルト減衰値が割り当てられる。
【0029】
また、これらの手法の組み合わせが、初回減衰値52を選択するために用いられてもよい。例えば、一部の幾何学領域に対して、組織タイプに基づいて標識を付し、組織タイプ標識に基づいて減衰値を割り当てるとともに、領域の形状又は位置に基づいて組織タイプを決定することができない領域に対して、例えば水の減衰値などのデフォルト減衰値を割り当てる。
【0030】
初回のイテレーションの減衰マップ54は、減衰値割り当て処理50によって生成される。減衰マップ54は、再構成画像58を生成するためにPET再構成プロセッサ32によって実行されるエミッションデータ再構成の反復56により使用される。再構成プロセッサ32により実行されるエミッションデータ再構成処理は反復的である。図2において、反復エミッションデータ再構成処理の現イテレーションは反復インデックスnによって索引付けられており、n回目のエミッションデータ再構成イテレーション56にて使用される減衰マップ54はn回目減衰マップ54として索引付けられ、n回目のエミッションデータ再構成イテレーション56により出力される再構成画像58はn回目再構成画像58として索引付けられる。
【0031】
n回目再構成画像58に基づき、処理60にて、減衰値の補正量が計算される。これらの補正は、反復再構成処理のn+1回目のイテレーションを実行するため等に使用される更新された減衰マップ、すなわち、(n+1)回目減衰マップ62を生成するために使用される。この反復処理は、例えば連続した再構成画像間の、閾値より高い類似性指標などの、停止基準が満たされるまで続けられる。再構成処理の最後のイテレーションによって生成された再構成画像は、最終再構成PET画像としてPET画像メモリ34に出力される。図示していないが、最後に生成された減衰マップを格納、表示、あるいはその他の方法で利用することも意図される。
【0032】
例えば最尤期待値最大化(maximum likelihood expectation maximization;MLEM)アルゴリズムなど、エミッションデータを再構成するのに好適な実質的に如何なる反復再構成アルゴリズムもイテレーション56に用いられ得る。減衰値補正60はまた、例えば上述の非特許文献1又は上述の特許文献1にて開示されたもののうちの1つなど、如何なる好適な補正アルゴリズムを用いてもよい。なお、これらの文献の全体をここに援用する。n回目のエミッションデータ再構成イテレーション56に好適な、MLEMを用いる一手法は:
【0033】
【数1】

なるものである。ただし:nは、上述のように再構成イテレーション数を表し;jは、関心領域内のボクセルを索引付けるものであり;iは、実質的に同時の511keV放射線を検出するPET検出器12の対を索引付けるものであり(SPECTの場合には、インデックスiは単一の検出器を好適に索引付ける);λは、jによって索引付けられたボクセルにおける推定放射能(activity)を表し;yは、iによって索引付けられた検出器対で測定された同時検出光子を表し;cijは、jによって索引付けられたボクセルに対する、iによって索引付けられた検出器対の感度を表すシステム行列のエントリを表し;そして、
【0034】
【数2】

である。ただし:cikは、kによって索引付けられたボクセルに対する、iによって索引付けられた検出器対の感度を表す上記システム行列のエントリを表し;likは、iによって索引付けられた検出器対のライン・オブ・レスポンスと、kによって索引付けられたボクセルとの間での相互作用長を表し;λは、kによって索引付けられたボクセルにおける推定放射能(activity)を表し;μは、n回目のイテレーションでn回目減衰マップ54によって与えられる、kによって索引付けられたボクセルの減衰係数を表す。飛行時間PETデータの場合、等式(1)は:
【0035】
【数3】

のように、電子−陽電子消滅事象の飛行時間位置特定を好適に組み入れる。ただし、ηToFijは、iによって索引付けられた検出器対とjによって索引付けられたボクセルとに依存した、飛行時間情報に対する平均重み付け係数を表す。
【0036】
減衰値補正60を実行する好適な一手法は、更新された放射能画像を順投影して、検出器対iに関する投影データ又はライン・オブ・レスポンスyを生成し、補正フィールドKを:
【0037】
【数4】

に従って計算するものである。ただし:Nは、再構成ボリュームの直径を表し;αは緩和係数(relaxation factor)を表す。補正フィールドKは:
【0038】
【数5】

に従って減衰マップを更新するために使用される。ただし:Rは、インデックスrはメモリ42に格納されたMR画像分割によって特定された領域群の範囲を動くものとして、rによって索引付けられた幾何学領域を表し;
【0039】
【数6】

は、n回目減衰マップ54の領域特定減衰係数を表し;
【0040】
【数7】

は、(n+1)回目減衰マップ62の領域特定減衰係数を表し;等式(6)の分数の項は、領域Rの平均減衰値補正を表す。
【0041】
等式(6)の減衰マップ更新は、各幾何学領域に、該領域内の全てのピクセル又はボクセルに単一の更新減衰値:
【0042】
【数8】

を割り当てて、幾何学領域毎を基礎として行われる。等式(6)の減衰マップ更新は、幾何学領域の各々に、一般的に異なる減衰値を割り当てる。“一般的に異なる”は、減衰マップ更新が、各領域に、その他の領域に割り当てられる減衰値とは典型的には異なるが、場合により、1つ以上の別の領域に割り当てられる減衰値と同一となり得る減衰値を割り当てることを意味する。例えば、2つの異なる領域が共通の組織タイプに相当する(例えば、双方が骨領域を表す)場合、減衰マップ更新が、同一の組織タイプに相当するこれら2つの異なる領域に、同一あるいは同等の減衰値を割り当てることが起こり得る。
【0043】
代替的な一手法において、減衰マップ更新は、減衰マップの各ピクセル又はボクセルjをμ(n+1)=μ(n)+Kに従って更新することによって、ピクセル毎又はボクセル毎を基礎にして実行されてもよい。
【0044】
意図される他の一変形例は、最初の数回のイテレーションでは等式(6)に従った領域毎の減衰マップ更新を実行し、その後のイテレーションではμ(n+1)=μ(n)+Kに従ったピクセル毎又はボクセル毎の減衰マップ更新に切り替えるものである。この手法は、先ず、比較的少ないパラメータのみを最適化することを必要とし且つ実際の被検体減衰への良好な近似を与えるはずの、領域に関して最適化された減衰マップに収束させ、その後に引き続いて、より計算集約的なピクセル毎又はボクセル毎の最適化を、領域に関して最適化された(近い、あるいは正確な)減衰マップから開始することを可能にする。領域毎の減衰マップ更新からピクセル毎又はボクセル毎の減衰マップ更新への切替えのタイミングは、様々な基準に基づき得る。単純な一手法において、領域毎の減衰マップ更新が、例えば最初の3回のイテレーションといった、固定数の最初のイテレーションで使用され、その後、ピクセル毎又はボクセル毎の更新が、例えば4回目以降のイテレーションといった、残りのイテレーションで使用される。より複雑な一手法においては、例えば1つのイテレーションと次のイテレーションとの間で任意の領域の減衰値の最大変化を計算するなど、切替え基準が監視されてもよい。この最大変化が閾値を下回ることで、領域毎の減衰マップ最適化が収束に近いことが指し示されると、ピクセル毎又はボクセル毎の更新への切替えが行われる。
【0045】
意図される更なる他の一変形例においては、実質的に均一な吸収を有すると考えられる領域内のピクセル又はボクセルに対しては、領域毎の減衰値更新が実行され、より不均一な吸収を有すると予期される領域内のピクセル又はボクセルに対しては、ピクセル毎又はボクセル毎の減衰値更新が実行されてもよい。領域を均一又は不均一として割り当てることは、その領域に推定される組織タイプ又はその領域の器官の正体の予備知識に基づいてもよいし、例えばその領域全体での補正フィールドKのバラつきなどの定量的な指標に基づいてもよい。この後者の手法においては、例えば、領域全体での補正フィールドKにおける大きいバラつきは、その領域が不均一な吸収を有することを指し示すとの仮定の下で、補正フィールドKが閾量より大きくバラつく領域がピクセル毎又はボクセル毎に更新される。
【0046】
さらに、等式(5)及び(6)、又はμ(n+1)=μ(n)+Kなる更新以外の更新が用いられてもよい。例えば、一部の実施形態において、値:
【0047】
【数9】

又はμ(n+1)はここで説明したようにして計算されるが、減衰マップの領域又はボクセル若しくはピクセルに割り当てられる減衰値は、計算された
【0048】
【数10】

又はμ(n+1)の値に基づいて、一群の標準値から選択される。例えば、標準値は、空気、骨、脂肪、組織及び血液に対して、それぞれ:
【0049】
【数11】

を含み得る。そして、更新されるべき領域又はボクセル若しくはピクセルごとに、計算された値:
【0050】
【数12】

又はμ(n+1)に最も近い標準値:
【0051】
【数13】

のうちの何れかが、割り当てられる減衰値となる。
【0052】
以上では、MR画像とエミッションデータとが同一の被検体座標系を用いると仮定している。これは、図示した複合型スキャナ10、12、16では当てはまる可能性が高い。MR画像及びエミッションデータがそれぞれ別個の、あるいはスタンドアローンの撮像システムによって収集されるとき、MR座標系とエミッション座標系との一致は、被検体上に配置された、MRシステム及びエミッションシステムの双方で視認可能な基準マーカを用いて達成され得る。他の例では、PETデータが必要に応じて先ず、吸収を考慮せずに“粗く”再構成され、そして、得られた“粗い”画像がMR画像と位置整合すなわちレジストレーションされて、MR画像とエミッションデータとに共通の被検体座標系が決定される。その後、空間的に整合されたMR画像及びエミッションデータに、図2を参照してここで開示した反復エミッションデータ再構成アルゴリズムが適用され得る。
【0053】
意図される一部の実施形態において、減衰マップの反復的な更新はまた、幾何学領域の大きさ及び/又は形状を調整することを含む。好適な一手法において、複数の幾何学領域のうちの少なくとも1つに対して、例えば多角形又はスプラインに基づく表面モデルを用いて、形状モデルが定められる。形状モデルを、分割(セグメント化)されたMR画像の関連セグメントにフィッティングすることで、初回の形状モデルパラメータが定められる。その後、各イテレーションにおいて減衰マップが更新されるとき、形状モデルを更新するために減衰値補正60が用いられる。例えば、現在の表面モデルが、エミッションデータにて表される領域形状と共形でない場合に、境界部で補正フィールドKが大きくなることが予期される。形状モデルは、反復的に生成される補正フィールドKからの情報に従って反復的に調整されることができる。このような幾何学的な補正は、例えば、MRデータ収集とPETデータ収集との間での患者の変化に対応すべき場合に有利である。このような変化は、腹部領域又はヒト被検体のその他一部の領域において比較的頻繁に発生することが知られている。補正フィールドKは、複数のデータ収集間に起こり得る典型的な変化に対応すべく、例えば、胃、腹部の外形、又はその他を表す領域の形状を適応させるために用いられ得る。
【0054】
ここで開示した様々な計算要素22、32、40は様々な手法で実現され得る。例えば、これらの計算要素は、デジタルプロセッサを含み且つ開示の処理を実行するようにプログラムされた、あるいは開示の処理を実行するためのファームウェアを含むコンピュータ又はその他の装置によって実現されてもよいし、開示の処理又はその一部を実行するように構成されたハイブリッド回路又はアナログ回路によって実現されてもよい。一部の実施形態において、計算要素22、32、40は、好適なファームウェア又はプログラムを有する図示したコンピュータ26によって具現化され得る。ここで開示したMRデータ、エミッションデータ及び画像の処理方法は、そのようなプロセッサ又はその他のハードウェアによって実現されてもよいし、且つ/或いは、そのようなプロセッサ又はその他のハードウェアによって実行されるときに開示の方法を実行する命令を格納した記憶媒体として具現化されてもよい。このような記憶媒体は、例えば磁気ディスク、光ディスク、フラッシュメモリ若しくはその他の静電メモリ、ランダムアクセスメモリ(RAM)、又は読み出し専用メモリ(ROM)などのうちの1つ以上など、1つ以上の種類の記憶媒体によって具現化され得る。
【0055】
好適実施形態を参照しながら本発明を説明してきた。以上の詳細な説明を読んで理解した者は改良及び改変に想到し得る。本発明は、添付の請求項の範囲又はその均等範囲に入る限りにおいて、そのような全ての改良及び改変を含むとして解釈されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の磁気共鳴(MR)画像と該被検体から収集されたエミッションデータとに関して処理を行う方法であって:
前記MR画像を用いて、前記被検体の1つ以上の幾何学領域を特定するステップ;及び
前記幾何学領域によって画成されて前記幾何学領域の減衰値が反復再構成に基づいて近似される減衰マップを用いて、前記被検体のエミッション画像を生成するように、前記エミッションデータを反復的に再構成するステップ;
を有する方法。
【請求項2】
前記エミッション画像を表示するステップ、を更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
陽電子放出断層撮影(PET)及び単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)のうちの一方を用いて、前記被検体から前記エミッションデータを収集するステップ、を更に有する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反復再構成によって生成される前記エミッション画像の反復的な更新に基づいて、前記幾何学領域の前記減衰値を反復的に更新するステップ、を更に有する請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記幾何学領域の初回の減衰値を生成することによって前記反復再構成を開始するステップ、を更に有し、
前記初回の減衰値は:
(i)全ての幾何学領域で同一の減衰値、並びに
(ii)前記幾何学領域の形状、位置及び大きさのうちの少なくとも1つに基づいて選択された、幾何学領域ごとの初期設定の減衰値、
のうちの1つである、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記幾何学領域の前記減衰値の前記反復的な更新は、前記反復再構成の少なくとも一部の反復において、ピクセル毎又はボクセル毎を基礎として減衰値を更新することを有する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記幾何学領域の前記減衰値の前記反復的な更新は、前記反復再構成の少なくとも一部の反復において、領域毎を基礎として減衰値を更新することを有し、
領域毎を基礎として減衰値を更新することは、所与の1つの領域の全てのピクセル又はボクセルに同一の減衰値を割り当てることを有する、
請求項4乃至6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記幾何学領域の前記減衰値の前記反復的な更新は、前記反復再構成の各反復の後に、前記反復再構成の直近の反復によって生成された更新後のエミッション画像、から得られた減衰情報に基づいて、前記幾何学領域の減衰値を更新することを有する、請求項4乃至7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記減衰値の前記更新は:
前記反復再構成の直近の反復によって生成された前記更新後のエミッション画像を順投影して、順投影データを生成すること;及び
前記順投影データと前記被検体から収集された前記エミッションデータとの比較に基づいて、減衰値の補正量を計算すること;
を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記被検体は動物又はヒトの被検体であり、
前記MR画像を用いて前記被検体の幾何学領域を特定するステップは、複数の解剖学的に区別可能な領域を特定するように前記MR画像を分割することを有する、
請求項1乃至9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記被検体は動物又はヒトの被検体であり、
前記MR画像を用いて前記被検体の1つ以上の幾何学領域を特定するステップは、前記MR画像内で、前記被検体の外形をなす単一の領域を特定することを有する、
請求項1乃至9の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記反復再構成において、前記幾何学領域のうちの少なくとも1つの幾何学領域の幾何学構成が、前記反復再構成に基づいて更新される形状モデルによって表現される、請求項1乃至10の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1、又は請求項4乃至12の何れか一項に記載の方法を実行するように構成されたエミッションデータ再構成プロセッサ。
【請求項14】
被検体のMR画像を用いて前記被検体の1つ以上の幾何学領域を特定し、
前記被検体の前記幾何学領域に初回の減衰値を割り当てることによって、前記被検体の減衰マップを生成し、且つ
(i)前記被検体から収集されたエミッションデータを、前記被検体の前記減衰マップを用いて処理して、前記被検体のエミッション画像を生成し、
(ii)前記被検体の前記エミッション画像を用いて計算された補正量に基づいて、前記減衰マップを更新し、且つ
(iii)処理(i)及び(ii)を反復して、前記被検体の再構成エミッション画像を反復的に生成する、
ように構成された再構成プロセッサ、
を有する装置。
【請求項15】
前記被検体の前記再構成エミッション画像を表示するように構成されたディスプレー、を更に有する請求項14に記載の装置。
【請求項16】
更新処理(ii)は:
(ii)(a)前記被検体の前記エミッション画像を順投影して、順投影データを生成すること;及び
(ii)(b)前記順投影データと前記被検体から収集された前記エミッションデータとの比較に基づいて、前記減衰マップの補正を計算すること;
を有する、請求項14又は15に記載の装置。
【請求項17】
前記被検体の前記MR画像を生成するように構成されたMRスキャナ;及び
前記被検体から前記エミッションデータを収集するように構成された、単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)又は陽電子放出断層撮影(PET)検出器;
を更に有する請求項14乃至16の何れか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記再構成プロセッサは、前記被検体の前記1つ以上の幾何学領域を特定するように前記被検体の前記MR画像を分割するように構成されたMR画像分割プロセッサを有する、請求項14乃至17の何れか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記再構成プロセッサは、前記被検体の前記MR画像を用いて前記被検体の複数の幾何学領域を特定するように構成され、前記減衰マップの更新処理(ii)は、前記幾何学領域の各々に、一般的に異なる減衰値を割り当てる、請求項14乃至18の何れか一項に記
【請求項20】
前記減衰マップの更新処理(ii)は、前記減衰マップの各ピクセル又は各ボクセルに、一般的に異なる減衰値を割り当てる、請求項14乃至18の何れか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記再構成プロセッサは、前記被検体の前記MR画像を用いて前記被検体の複数の幾何学領域を特定するように構成され、前記減衰マップの更新処理(ii)は:
反復(iii)の最初の1つ以上で、幾何学領域毎を基礎にして減衰値を割り当て、且つ
反復(iii)の後続の1つ以上で、ピクセル毎又はボクセル毎を基礎にして減衰値を割り当る、
請求項14乃至18の何れか一項に記載の装置。
【請求項22】
被検体のMR画像を協働して生成するように構成された磁気共鳴(MR)スキャナ及びMR再構成プロセッサ;
前記被検体からエミッションデータを収集するように構成されたエミッション放射線検出器;
前記MR画像を用いて前記被検体の1つ以上の幾何学領域を特定するように構成されたMR画像分割プロセッサ;及び
前記エミッションデータの反復再構成を実行して前記被検体のエミッション画像を生成するように構成されたエミッションデータ再構成プロセッサであり、前記反復再構成は、前記反復再構成の複数の反復を用いて反復的に更新される減衰マップを使用し、少なくとも1つの反復における減衰マップ更新が、前記MR画像分割プロセッサにより特定された前記被検体の前記幾何学領域によって制約される、エミッションデータ再構成プロセッサ;
を有するシステム。
【請求項23】
初回の反復の減衰マップ更新は、前記MR画像分割プロセッサにより特定された選択幾何学領域の全てのピクセル又はボクセルに単一の減衰値を割り当てるように制約される、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
エミッション画像を減衰に関して補正する方法であって:
磁気共鳴(MR)画像を分割して幾何学領域を形成するステップ;
前記幾何学領域に減衰値を割り当てるステップ;
前記幾何学領域の前記減衰値に基づいてエミッションデータを再構成するステップ;及び
再構成されたエミッションデータに基づいて前記幾何学領域の前記減衰値を補正するステップ;
を有する方法。
【請求項25】
前記補正するステップは:
前記再構成されたエミッションデータを順投影して、順投影データを生成すること;及び
前記順投影データと前記エミッションデータとの比較に基づいて前記幾何学領域の前記減衰値を補正すること;
を有する、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−506530(P2012−506530A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527435(P2011−527435)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【国際出願番号】PCT/IB2009/053946
【国際公開番号】WO2010/032168
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】