説明

PET装置

【課題】光子検出感度が高く信頼性が高い同時計数情報を蓄積することができ、製造が容易で安価なPET装置を提供する。
【解決手段】検出部10の各筒状検出器13nは、中心軸に垂直な面上であって同一円周上にリング状に配された複数のブロック検出器141〜14Mを有している。各ブロック検出器14mは、光子が受光面に入射したときの該受光面上の2次元入射位置を検出する2次元位置検出器である。また、各スライスコリメータ21nは、互いに隣り合う筒状検出器13nと筒状検出器13n+1との間の空間を経て各筒状検出器13nの後部に到るまで設けられており、当該後部において保持板22により互いに一体的に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放出アイソトープ(RI線源)で標識された物質の挙動を画像化することができるPET装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PET(PositronEmission Tomography)装置は、RI線源が投与された生体(被検体)内における電子・陽電子の対消滅に伴って発生し互い逆方向に飛行するエネルギ511keVの光子(ガンマ線)の対を検出することにより、その被検体内の極微量物質の挙動を画像化することができる装置である。PET装置は、被検体が置かれる測定空間の周囲に配列された多数の小型の光子検出器を有する検出部を備えており、電子・陽電子の対消滅に伴って発生する光子対を同時計数法で検出して蓄積し、この蓄積された多数の同時計数情報すなわち投影データに基づいて、測定空間における光子対の発生頻度の空間分布を表す画像を再構成する。このPET装置は核医学分野等で重要な役割を果たしており、これを用いて例えば生体機能や脳の高次機能の研究を行うことができる。このようなPET装置は、2次元PET装置および3次元PET装置に大別される。
【0003】
図6は、2次元PET装置の検出部の構成を説明する図である。この図は、7つの検出器リングを含む構成の例を示しており、中心軸を含む面で検出部を切断したときの断面を示している。2次元PET装置の検出部10は、シールドコリメータ11とシールドコリメータ12との間に積層された検出器リングR1〜R7を有している。検出器リングR1〜R7それぞれは、中心軸に垂直な面上にリング状に配された複数の光子検出器を有している。各光子検出器は、例えばBGO(Bi4Ge312)等のシンチレータと光電子増倍管とを組み合わせたシンチレーション検出器であり、中心軸を含む測定空間から飛来して到達した光子を検出する。また、2次元PET装置では、この検出部10の内側にスライスコリメータS1〜S6が備えられている。これらのスライスコリメータS1〜S6それぞれは、中心軸に平行な方向に関して隣り合う検出器リングの間の位置に配されたリング状のものであり、原子番号が大きく比重が重い材料(例えば鉛やタングステン)からなり、斜めに入射した光子(ガンマ線)を遮蔽するコリメート作用を奏する。
【0004】
このように構成される2次元PET装置の検出部10は、スライスコリメータS1〜S6のコリメート作用により、中心軸との角度が略90度の方向から飛来した光子対のみを同時計数することができる。すなわち、2次元PET装置の検出部10により得られ蓄積された同時計数情報すなわち2次元投影データは、同一の検出器リングまたは隣り合う(若しくは極めて近い)検出器リングに含まれる1対の光子検出器によるものに限られる。したがって、2次元PET装置は、測定空間外の位置で発生した光子対が散乱された散乱線を効率よく除去することができ、また、2次元投影データに対して吸収補正や感度補正を容易に行うことができるので、定量性がよい再構成画像を得ることができる。
【0005】
図7は、3次元PET装置の検出部の構成を説明する図である。この図も、中心軸を含む面で検出部を切断したときの断面を示している。3次元PET装置の検出部10の構成は、2次元PET装置の場合と同様である。しかし、3次元PET装置ではスライスコリメータが備えられていない。このように構成される3次元PET装置の検出部10は、広い立体角を有し、2次元PET装置と比較して広い方向から飛来した光子対を同時計数することができる。すなわち、3次元PET装置の検出部10により得られ蓄積される同時計数情報すなわち3次元投影データは、任意の検出器リングに含まれる1対の光子検出器によるものが可能である。したがって、3次元PET装置は、2次元PET装置と比較して5倍〜10倍程度の高い感度で、光子対を同時計数することができる。しかし、3次元PET装置は、2次元PET装置と比較して、散乱線の影響を除去することが困難であるので、再構成画像の定量性がよくない。
【0006】
以上のように、3次元PET装置と比較すると、スライスコリメータを有する2次元PET装置は、光子対検出感度が低いものの、散乱線を効率的に除去することができ、吸収補正および感度補正を容易に行うことができるので、定量性が優れた再構成画像を得ることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−198853号公報
【特許文献2】特開平07−318654号公報
【特許文献3】特開平05−264736号公報
【特許文献4】特開平05−011053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の2次元PET装置は以下のような問題点を有している。すなわち、従来の2次元PET装置では、スライスコリメータS1〜S6が検出部10の内側(測定空間と検出部10との間)のみにあって、スライスコリメータS1〜S6が検出部10の内側で保持板により互いに固定されていた。また、2次元PET装置では、検出部10の検出器リングRnとスライスコリメータSnとが中心軸に平行な方向に関して交互に配置されるよう両者の相対的位置関係を精度よく確保することが重要である。もし、検出器リングRnとスライスコリメータSnとの相対的位置関係の精度が悪いと、検出器リングRnの受光面の前面にスライスコリメータSnが位置する場合があり、各検出器リングRnへの光子の入射効率が悪くなって、2次元PET装置の性能の低下の要因となる。そこで、この相対的位置精度を確保するに、各検出器リングRn、各スライスコリメータSnおよび保持板などの加工精度や組立精度を厳密に管理する必要があり、製造が容易ではなかった。また、このことは従来の2次元PET装置の価格の上昇を招いていた。
【0009】
また、従来の2次元PET装置では、スライスコリメータS1〜S6を互いに固定するための保持板が検出部10の内側にあることから、測定空間で発生した光子が保持板により吸収され、検出部10による光子の検出の感度が低下していた。一般に、保持板は、原子番号が大きく比重が重い材料からなる各スライスコリメータSnを保持するために機械的強度が大きいことが要求され、且つ、光子吸収が少ないことが要求されることから、例えば炭素繊維樹脂などの高強度の樹脂やアルミニウム合金が使用され、また、強度との関係から6mm〜10mm程度の厚みが必要である。光子(ガンマ線)の線減衰係数が0.2269/cmであるアルミニウムを保持板に用いた場合、保持板での光子吸収は10%〜20%程度である。このように、従来の2次元PET装置では、測定空間で発生した光子が保持板により吸収され、検出部10による光子の検出の感度が低下していた。
【0010】
さらに、従来の2次元PET装置では、スライスコリメータS1〜S6を互いに固定するための保持板が検出部10の内側にあることから、径方向に関して各検出器リングRnと各スライスコリメータSnとを近づけることに限界があり、径方向に関して両者の間には一定の距離が必要であった。このことから、スライスコリメータSn-1とスライスコリメータSnとの間を通過した光子は、検出器リングRnに入射すべきであるが、隣の検出器リングRn-1または検出器リングRn+1に入射する場合があった。このことから、蓄積される同時計数情報の信頼性が低下し、再構成画像の品質にも悪影響を与えていた。
【0011】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、光子検出感度が高く信頼性が高い同時計数情報を蓄積することができ、製造が容易で安価なPET装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るPET装置は、(1) 中心軸を含む測定空間から飛来してきた光子を各々検出する複数の光子検出器が中心軸を囲む筒上に1次元または2次元に配列された筒状検出器を複数含み、これら複数の筒状検出器が中心軸に平行な方向に配列された検出部と、(2) 中心軸に平行な方向に関して筒状検出器と交互に配され、測定空間と検出部との間の位置から複数の筒状検出器のうちの隣り合う2つの筒状検出器の間の空間を経て各筒状検出器の後部に到るまで設けられて、測定空間から飛来してきた光子のうち中心軸に直交する所定面に略平行なもののみを検出部に向かって通過させる複数のスライスコリメータと、(3) 検出部に含まれる1対の光子検出器により検出された光子対の同時計数情報を蓄積する同時計数情報蓄積部と、(4) 同時計数情報蓄積部により蓄積された同時計数情報に基づいて、測定空間における光子対の発生頻度の空間分布を表す画像を再構成する画像再構成部と、を備えることを特徴とする。また、複数のスライスコリメータが複数の筒状検出器の後部において互いに固定されているのが好適である。
【0013】
本発明に係るPET装置によれば、測定空間において発生した光子対のうちスライスコリメータにより遮蔽されることなく検出部に到達したものは、検出部に含まれる1対の光子検出器により同時検出され、この同時計数情報は、同時計数情報蓄積部により、被検体に固定した座標系のものに変換されて蓄積される。そして、同時計数情報蓄積部による同時計数情報の蓄積が終了すると、蓄積された同時計数情報に基づいて、画像再構成部により、測定空間における光子対の発生頻度の空間分布を表す画像が再構成される。
【0014】
特に、本発明に係るPET装置では、複数のスライスコリメータは、中心軸に平行な方向に関して筒状検出器と交互に配され、測定空間と検出部との間の位置から隣り合う2つの筒状検出器の間の空間を経て各筒状検出器の後部に到るまで設けられており、例えば当該後部において互いに固定されている。したがって、本発明に係るPET装置は、各筒状検出器と各スライスコリメータとの相対的位置関係の精度が優れ、各筒状検出器と各スライスコリメータとが中心軸に平行な方向に常に交互に位置するので、各筒状検出器への光子の入射効率が優れ、性能を充分に発揮することができる。また、各筒状検出器、各スライスコリメータおよび保持板などの加工精度や組立精度を厳密に管理する必要がないので、製造が容易であり、安価となる。
【0015】
また、各スライスコリメータを互いに固定するための保持板が検出部の後部にあれば、測定空間で発生した光子が保持板を通過することがなく、保持板により吸収されることがないので、検出部による光子の検出の感度が低下することがない。さらに、スライスコリメータは、隣り合う2つの筒状検出器の間の空間を経て各筒状検出器の後部に到るまで設けられており、当該後部において保持板により固定されることから、隣り合う2つのスライスコリメータの間を通過した光子は、これら2つのスライスコリメータの間にある筒状検出器に必ず入射し、隣の筒状検出器に入射することがない。したがって、蓄積される同時計数情報の信頼性が高く、再構成画像の品質が優れる。
【0016】
また、本発明に係るPET装置では、筒状検出器は、光子が受光面に入射したときの該受光面上の2次元入射位置を検出する複数の2次元位置検出器が所定面上にリング状に配列されて構成される、ことを特徴とする。この場合には、個々の光子検出器を小型化して再構成画像の解像度の向上を図る上で好適である。また、この場合には、各筒状検出器は検出器リング(中心軸に平行な方向について1層の光子検出器がリング状に配列されたもの)が複数積層された構成となる。したがって、同時計数情報の検出は、検出部に含まれる同一の筒状検出器内の1対の光子検出器により行われることがあり、また、各筒状検出器および各スライスコリメータそれぞれのサイズによっては、互いに隣り合う2つの筒状検出器それぞれに含まれる1対の光子検出器により行われることがあり、さらに離れた2つの筒状検出器それぞれに含まれる1対の光子検出器により行われることもある。換言すれば、同時計数情報の検出は、同一の検出器リング内で行われるだけでなく、互いに隣り合う2つの検出器リング間でも行われることがあり、更に離れた2つの検出器リング間でも行われることがある。すなわち、この場合には、本発明に係るPET装置は、従来の2次元PET装置と従来の3次元PET装置との中間的な構成となり、従来の2次元PET装置の感度と比べると数倍程度の感度を有する。したがって、本発明に係るPET装置は、再構成画像における解像度の向上を図りつつ良好な光子対検出感度および定量性を確保することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光子検出感度が高く信頼性が高い同時計数情報を蓄積することができ、製造が容易で安価なPET装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係るPET装置の全体の概略構成図である。
【図2】本実施形態に係るPET装置の検出部およびスライスコリメータの構成を説明する図である。
【図3】本実施形態に係るPET装置の検出部およびスライスコリメータの一部を拡大して示す図である。
【図4】本実施形態に係るPET装置の筒状検出器およびスライスコリメータの構成を説明する図である。
【図5】ブロック検出器の構成図である。
【図6】2次元PET装置の検出部の構成を説明する図である。
【図7】3次元PET装置の検出部の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るPET装置1の全体の概略構成図である。この図では、検出部10およびスライスコリメータ21については、中心軸を含む面で切断したときの断面を示している。本実施形態に係るPET装置1は、検出部10、スライスコリメータ211〜2111、ベッド31、支持台32、移動手段40、同時計数情報蓄積部50、画像再構成部60および表示部70を備えている。なお、この図には、このPET装置1による検査の対象である被検体2も示されている。また、このPET装置1により光子対の同時計数情報の検出が可能な空間が測定空間3として示されている。
【0021】
検出部10は、各々リング形状のシールドコリメータ11とシールドコリメータ12との間に筒状検出器131〜1312が中心軸に平行な方向に配列されたものである。各筒状検出器13nは、中心軸を含む測定空間3から飛来してきた光子を各々検出する複数の光子検出器が中心軸を囲む筒上に2次元配列されたものである。すなわち、各筒状検出器13nは、複数の光子検出器が中心軸に垂直な面上にリング状に配列された検出器リングが中心軸に平行な方向に複数積層されて構成されたものに相当する。スライスコリメータ211〜2111は、中心軸に平行な方向に関して筒状検出器131〜1312と交互に配され、測定空間3から飛来してきた光子のうち所定面に略平行なもののみを検出部10に向かって通過させるものである。検出部10およびスライスコリメータ211〜2111の詳細については後述する。
【0022】
ベッド31は、被検体2を載置するものであり、支持台32により支持されている。移動手段40は、測定空間3に置かれた被検体2に対して相対的に、検出部10およびスライスコリメータ211〜2111を一体として、中心軸に平行な方向に移動させる。具体的には、移動手段40は、検出部10およびスライスコリメータ211〜2111を一体として中心軸に平行な方向に移動させてもよいし、ベッド31(すなわち被検体2)を中心軸に平行な方向に移動させてもよい。また、測定期間中に一方向のみの移動であってよいし、往復移動であってもよい。移動手段40による相対的移動は、測定期間中に被検体2の被測定部位が各筒状検出器13nの配置のピッチの1/2以上の距離だけ測定空間3内で移動するよう行われる。好適には、測定期間中における被検体2の被測定部位の測定空間3内での相対的移動は、上記ピッチの整数倍の距離だけ行われ、また、等速で行われる。また、被検体2の被測定部位が中心軸方向に一定範囲に亘って存在する場合には、測定期間中に上記一定範囲の各部位が測定空間3内に留まる時間が略一定であるのが好適である。
【0023】
同時計数情報蓄積部50は、移動手段40により被検体2に対して相対的に検出部10およびスライスコリメータ211〜2111が移動している期間に、検出部10に含まれる1対の光子検出器により検出された光子対の同時計数情報を蓄積する。この同時計数情報の蓄積に際しては、被検体2に対する検出部10およびスライスコリメータ211〜2111の相対的変位量に基づいて、検出部10において検出された同時計数情報を、被検体2に対して固定された座標系のものに変換して、この座標変換された同時計数情報を蓄積する。なお、相対的変位量は、エンコーダ等により求めたものを用いてもよいし、移動手段40が把握しているものを用いてもよい。
【0024】
画像再構成部60は、同時計数情報蓄積部50により蓄積された同時計数情報に基づいて、測定空間3における光子対の発生頻度の空間分布を表す画像を再構成する。また、画像再構成部60は、検出部10の各光子検出器の検出感度のばらつきを補正する感度補正、被検体2における光子の吸収を補正する吸収補正、および、被検体2における光子の散乱を補正する散乱補正をも行う。表示部70は、画像再構成部60により得られた再構成画像を表示する。また、制御部80は、移動手段40による相対的移動、同時計数情報蓄積部50による同時計数情報の蓄積、画像再構成部60による画像の再構成、および、表示部70による再構成画像の表示を制御する。
【0025】
図2は、本実施形態に係るPET装置の検出部10およびスライスコリメータ21の構成を説明する図である。この図は、中心軸を含む面で検出部10およびスライスコリメータ211〜2111を切断したときの断面を示している。本実施形態に係るPET装置の検出部10は、各々リング形状のシールドコリメータ11とシールドコリメータ12との間に、中心軸に平行な方向に積層された筒状検出器131〜1312を含んでいる。また、各々リング形状のスライスコリメータ211〜2111は、中心軸に平行な方向に関して筒状検出器13nと交互に配されている。すなわち、各スライスコリメータ21nは、互いに隣り合う筒状検出器13nと筒状検出器13n+1との間の位置に配されている。そして、各スライスコリメータ21nは、原子番号が大きく比重が重い材料(例えば鉛やタングステン)からなり、厚さが数mm(例えば5mm〜6mm)であって、測定空間から飛来してきた光子(ガンマ線)のうち、中心軸に垂直な面に略平行な光子を検出部10に向かって通過させ、斜めに入射した光子を遮蔽するコリメート作用を奏する。
【0026】
図3は、本実施形態に係るPET装置の検出部10およびスライスコリメータ21の一部(図2で一点鎖線で囲った枠内の部分)を拡大して示す図である。また、図4は、本実施形態に係るPET装置の筒状検出器13nおよびスライスコリメータ21nの構成を説明する図である。この図4では、中心軸に平行な方向に見たときの筒状検出器13nとスライスコリメータ21nとの関係を示している。各筒状検出器13nは、中心軸に垂直な面上であって同一円周上にリング状に配された複数のブロック検出器141〜14Mを有している。各ブロック検出器14mは、光子が受光面に入射したときの該受光面上の2次元入射位置を検出する2次元位置検出器である。また、各スライスコリメータ21nは、互いに隣り合う筒状検出器13nと筒状検出器13n+1との間の空間を経て各筒状検出器13nの後部に到るまで設けられており、当該後部において保持板22により互いに一体的に固定されている。
【0027】
図5は、ブロック検出器14の構成図である。この図に示すように、各ブロック検出器14mは、P×Q(P≧2,Q≧2)のセグメントからなるシンチレータブロック15と位置検出型光電子増倍管16とを組み合わせたシンチレーション検出器であり、測定空間から飛来して到達した光子を検出するとともに、光子がシンチレータブロック15の受光面に入射したときの該受光面上の2次元入射位置を検出する。すなわち、各ブロック検出器14mは、P×Q個の小型の光子検出器が2次元配列されたものに相当する。また、このようなブロック検出器14mがリング状に配列されて構成された筒状検出器13nは、複数の小型の光子検出器が中心軸に垂直な面上にリング状に配列されて検出器リングが構成され、更にこの検出器リングが中心軸に平行な方向に複数積層されたものに相当する。なお、ブロック検出器14mでは、シンチレータブロック15および位置検出型光電子増倍管16とともに、この位置検出型光電子増倍管16内の各電極に所定の電圧を印加するための抵抗器列や、この位置検出型光電子増倍管16のアノード電極から出力される電流信号を入力して電圧信号として出力するためのプリアンプが、遮光の為の筐体内に収められている。
【0028】
例えば、シンチレータブロック15は、BGO(Bi4Ge312)、GSO(Gd2SiO5(Ce))、LSO(Lu2SiO5(Ce))およびPWO(PbWO4)等が好適に用いられる。シンチレータブロック15は、8×8のセグメントからなり、各セグメントのサイズが6mm×6mm×20mmであり、また、位置検出型光電子増倍管16の光電面の広さが50mm×50mmである。そして、このようなシンチレータブロック15および位置検出型光電子増倍管16を含むブロック検出器14mがリング状に60個配列されて筒状検出器13nが構成される。このとき、各筒状検出器13nの内径は1000mm程度である。また、各スライスコリメータ21nの内径は600mmである。さらに、このような筒状検出器131〜1312とスライスコリメータ211〜2111とが中心軸に平行な方向に交互に積層されたものの厚み(すなわち体軸方向視野)は670mm程度である。
【0029】
このような条件の下では、測定空間3における電子・陽電子の対消滅に伴って発生し互い逆方向に飛行するエネルギ511keVの光子(ガンマ線)の対の検出すなわち同時計数情報の検出は、同一の筒状検出器13n内の1対のブロック検出器14により行われることがあり、また、互いに隣り合う筒状検出器13nおよび筒状検出器13n+1それぞれに含まれる1対のブロック検出器14により行われることがある。また、同時計数情報の検出は、更に離れた2つの筒状検出器13それぞれに含まれる1対のブロック検出器14により行われることもある。換言すれば、同時計数情報の検出は、同一の検出器リング内で行われるだけでなく、互いに隣り合う2つの検出器リング間でも行われることがあり、更に離れた2つの検出器リング間でも行われることがある。
【0030】
すなわち、本実施形態に係るPET装置1は、従来の2次元PET装置と従来の3次元PET装置との中間的な構成となる。上記の条件下における体軸方向視野単位長さ(cm)当たりの感度を計算すると、本実施形態に係るPET装置1の感度は、約1.3kcps/(kBq・ml)となり、従来の3次元PET装置の感度(約2.58kcps/(kBq・ml))と比べれば2分の1程度であるが、従来の2次元PET装置の感度(約0.28kcps/(kBq・ml))と比べると4倍〜5倍程度である。
【0031】
次に、本実施形態に係るPET装置1の動作について説明する。RI線源が投与された被検体2がベッド31上に置かれ、被検体2の被測定部位が測定空間3内に位置される。そして、制御部80による制御の下、PET装置1は以下のように動作する。まず、移動手段40により、測定空間3に置かれた被検体2に対して相対的に、検出部10およびスライスコリメータ211〜2111が一体として中心軸に平行な方向に移動を開始する。
【0032】
測定空間3における電子・陽電子の対消滅に伴って発生し互い逆方向に飛行するエネルギ511keVの光子(ガンマ線)の対のうち、スライスコリメータ211〜2111により遮蔽されることなく検出部10に到達したものは、検出部10に含まれる1対の光子検出器により同時検出される。そして、この相対的移動の期間中に検出部10により同時検出された光子対の同時計数情報は、被検体2に対する検出部10およびスライスコリメータ211〜2111の相対的変位量に基づいて、被検体2に対して固定された座標系のものに変換されて、同時計数情報蓄積部50により蓄積される。
【0033】
所定の測定期間が終了すると、同時計数情報蓄積部50による同時計数情報の蓄積が終了し、移動手段40による相対的移動も終了する。そして、画像再構成部60により、同時計数情報蓄積部50により蓄積された同時計数情報に基づいて、測定空間3における光子対の発生頻度の空間分布を表す画像が再構成される。また、画像再構成部60により、感度補正、吸収補正および散乱補正も行われる。画像再構成部60により得られた再構成画像は表示部70により表示される。
【0034】
以上のように、本実施形態に係るPET装置1では、スライスコリメータ21nは、筒状検出器13nと筒状検出器13n+1との間の空間を経て各筒状検出器13nの後部に到るまで設けられており、当該後部において保持板22により互いに一体的に固定されている。したがって、本実施形態に係るPET装置1は、各筒状検出器13nと各スライスコリメータ21nとの相対的位置関係の精度が優れ、各筒状検出器13nと各スライスコリメータ21nとが中心軸に平行な方向に常に交互に位置するので、各筒状検出器13nへの光子の入射効率が優れ、性能を充分に発揮することができる。また、各筒状検出器13n、各スライスコリメータ21nおよび保持板22などの加工精度や組立精度を厳密に管理する必要がないので、製造が容易であり、安価となる。
【0035】
また、本実施形態に係るPET装置1では、各スライスコリメータ21nを互いに固定するための保持板22が検出部10の後部にあることから、測定空間3で発生した光子が保持板22を通過することがなく、保持板22により吸収されることがないので、検出部10による光子の検出の感度が低下することがない。
【0036】
さらに、本実施形態に係るPET装置1では、スライスコリメータ21nは、筒状検出器13nと筒状検出器13n+1との間の空間を経て各筒状検出器13nの後部に到るまで設けられており、当該後部において保持板22により固定されていることから、スライスコリメータSn-1とスライスコリメータSnとの間を通過した光子は必ず筒状検出器13nに入射し、隣の筒状検出器13n-1または筒状検出器13n+1に入射することがない。したがって、蓄積される同時計数情報の信頼性が高く、再構成画像の品質が優れる。
【0037】
また、本実施形態に係るPET装置1の検出部10は、筒状検出器131〜1312が中心軸に平行な方向に配列されたものであって、各筒状検出器13nは、複数の光子検出器が中心軸を囲む筒上に2次元配列されたものである。そして、筒状検出器131〜1312とスライスコリメータ211〜2111とは、中心軸に平行な方向に関して交互に配されている。このように検出部10が構成されることにより、個々の光子検出器を小型化することで再構成画像の解像度の向上を図ることができる。また、検出器リング間にスライスコリメータを設けるのではなく、筒状検出器13n間にスライスコリメータ12nを設けることで、各スライスコリメータ12nの間隔を確保して、開口率の低下を抑制し、光子対検出感度を確保することができる。さらに、各スライスコリメータ12nを薄くする必要がないので、コリメート効果を維持することができ、散乱線を効率よく除外することができて、再構成画像の定量性を確保することができる。このように本実施形態に係るPET装置1は、再構成画像における解像度の向上を図りつつ良好な光子対検出感度および定量性を確保することができる。
【0038】
また、移動手段40により被検体2に対して相対的に検出部10およびスライスコリメータ211〜2111が一体として中心軸に平行な方向に移動している期間に同時計数情報が同時計数情報蓄積部50により蓄積され、この蓄積された同時計数情報に基づいて画像再構成部60により再構成画像が得られる。したがって、本実施形態では、上記のような筒状検出器131〜1312およびスライスコリメータ211〜2111の構成であっても、被検体2の体軸方向について均一な感度で光子対を検出することができ、また、再構成画像における定量性を均一にすることができる。
【0039】
また、本実施形態では、光子が受光面に入射したときの該受光面上の2次元入射位置を検出する複数の2次元位置検出器(ブロック検出器14m)がリング状に配列されて筒状検出器13nが構成される。したがって、この場合には、個々の光子検出器を小型化して再構成画像の解像度の向上を図る上で好適である。
【0040】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、隣り合うスライスコリメータSn-1とスライスコリメータSnとの間にある筒状検出器13nは、複数の光子検出器が中心軸を囲む筒上に2次元に配列されたものであり、検出器リング(中心軸に平行な方向について1層の光子検出器がリング状に配列されたもの)が中心軸に平行な方向に複数積層されたものであった。しかし、各筒状検出器13nは、複数の光子検出器が中心軸を囲む筒上に1次元に配列されたもの(すなわち1層の検出器リング)であってもよい。
【0041】
以上、詳細に説明したとおり、本発明によれば、複数のスライスコリメータは、中心軸に平行な方向に関して筒状検出器と交互に配され、測定空間と検出部との間の位置から隣り合う2つの筒状検出器の間の空間を経て各筒状検出器の後部に到るまで設けられて、例えば当該後部において互いに固定されている。したがって、本発明に係るPET装置は、各筒状検出器と各スライスコリメータとの相対的位置関係の精度が優れ、各筒状検出器と各スライスコリメータとが中心軸に平行な方向に常に交互に位置するので、各筒状検出器への光子の入射効率が優れ、性能を充分に発揮することができる。また、各筒状検出器、各スライスコリメータおよび保持板などの加工精度や組立精度を厳密に管理する必要がないので、製造が容易であり、安価となる。
【0042】
また、各スライスコリメータを互いに固定するための保持板が検出部の後部にあれば、測定空間で発生した光子が保持板を通過することがなく、保持板により吸収されることがないので、検出部による光子の検出の感度が低下することがない。さらに、スライスコリメータは、隣り合う2つの筒状検出器の間の空間を経て各筒状検出器の後部に到るまで設けられており、当該後部において保持板により固定されることから、隣り合う2つのスライスコリメータの間を通過した光子は、これら2つのスライスコリメータの間にある筒状検出器に必ず入射し、隣の筒状検出器に入射することがない。したがって、蓄積される同時計数情報の信頼性が高く、再構成画像の品質が優れる。
【符号の説明】
【0043】
1…PET装置、2…被検体、3…測定空間、10…検出部、11,12…シールドコリメータ、13…筒状検出器、14…ブロック検出器、15…シンチレータブロック、16…位置検出型光電子増倍管、21…スライスコリメータ、22…保持板、31…ベッド、32…支持台、40…移動手段、50…同時計数情報蓄積部、60…画像再構成部、70…表示部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を含む測定空間から飛来してきた光子を各々検出する複数の光子検出器が前記中心軸を囲む筒上に1次元または2次元に配列された筒状検出器を複数含み、これら複数の筒状検出器が前記中心軸に平行な方向に配列された検出部と、
前記中心軸に平行な方向に関して前記筒状検出器と交互に配され、前記測定空間と前記検出部との間の位置から前記複数の筒状検出器のうちの隣り合う2つの筒状検出器の間の空間を経て各筒状検出器の後部に到るまで設けられて、前記測定空間から飛来してきた光子のうち前記中心軸に直交する所定面に略平行なもののみを前記検出部に向かって通過させる複数のスライスコリメータと、
前記検出部に含まれる1対の光子検出器により検出された光子対の同時計数情報を蓄積する同時計数情報蓄積部と、
前記同時計数情報蓄積部により蓄積された同時計数情報に基づいて、前記測定空間における光子対の発生頻度の空間分布を表す画像を再構成する画像再構成部と、
を備えることを特徴とするPET装置。
【請求項2】
前記複数のスライスコリメータが前記複数の筒状検出器の後部において互いに固定されていることを特徴とする請求項1記載のPET装置。
【請求項3】
前記筒状検出器は、光子が受光面に入射したときの該受光面上の2次元入射位置を検出する複数の2次元位置検出器が前記所定面上にリング状に配列されて構成される、ことを特徴とする請求項1記載のPET装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−249847(P2010−249847A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178922(P2010−178922)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【分割の表示】特願2000−153583(P2000−153583)の分割
【原出願日】平成12年5月24日(2000.5.24)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】