説明

POMS評価による主観的精神状態の改善剤

【課題】POMS評価によるうつ状態、或いはうつ病の主観的な精神の状態を全般的に改善することのできる薬剤の提供。
【解決手段】式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物を有効成分とする。


(式中、R乃至Rは水素原子又は同一或いは異なるメチル基、エチル基等の低級アルキル基又は置換若しくは無置換のフェニル基を、Xは水酸基、O−低級アルキル基、アミノ基又はOYで表される塩[Yはナトリウム、カリウム等の金属又はリゾチーム、塩基性アミノ酸等の塩基性基を有する化合物を示す]をそれぞれ示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPOMS評価による主観的精神状態、例えばうつ病状態の改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本を初めとする先進諸国において、近年の医学の進歩には目覚しいものがあり、医師を初めとする医療関係者が、技術の面ばかりではなく、精神面においても大きく向上していることに加え、医療機器や治療方法も大きく改善され、治療困難とされてきた疾病にも治癒の可能性を与えつつある。
【0003】
しかしながら一方で、医学の進歩に伴い、治療の対象が、人間の臓器から組織や細胞に、更には遺伝子へというように急激に微小化され、ともすれば「人間」を全体として治療するという基本的な理念が失われつつあるとも指摘されている。
【0004】
そこで最近になって、身体の生物学的、部分的な治療に加え、人間全体に対応するという立場から、精神的な観点からの治療を併合するという考えが注目されている。
【0005】
即ち、身体の異常を訴える患者に対しては、問診を行うと共に必要な検査をし、適切な治療や投薬をすると共に、労働状態等の当該患者を取り巻く社会的環境やその変化を、前記異常との関係で経時的に明らかにし、その結果を上記治療や投薬に反映させるというものである。
【0006】
上記精神的な観点からの治療の基礎として利用されるのが、心理テストであり、様々な方法の心理テストが考案されているが、中でも注目されているテスト方法がPOMSである。
【0007】
このPOMSはProfile of Mood Statesの略であって、気分プロフィール検査とも称され、1971年にMcNairにより開発され(非特許文献1)、日本語版も入手可能である(非特許文献2)。
【0008】
心理テストとしてのPOMSの特徴は、「抑うつ−落ち込み(D)」、「活気(V)」、「怒り−敵意(A−H)」、「疲労(F)」、「緊張−不安(T−A)」及び「混乱(C)」という複数の尺度の気分を同時に測定することができ、更に、当該患者が置かれている社会的な環境に応じて変化する、一時的な気分を測定することができる点にある。
【0009】
このために、POMSによれば、当該患者、更には性別や年齢によりいくつかに分けられたグループに属する人間に関し、気分がよく、精神状態が良好である状態の測定結果と、これとは逆の状態の測定結果をパターン化することができ、身体の異常を訴える患者についてPOMSで評価をし、その結果と前記パターンとを比較することにより、当該患者の精神状態を分析することが可能となる。
【0010】
【非特許文献1】NaNair DM, M.Droppleman LF, Profile of mood states. San Diego: Educational and Industrial Testing Service. 1992
【非特許文献2】横山和仁、荒木俊一 「日本語版POMS手引き」 金子書房、東京、1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、POMS評価による主観的な精神の状態を全般的に改善することのできる薬剤は提供されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤は、上記のような従来技術の難点を背景としてなされたものであり、その構成は、式(1)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R乃至Rは水素原子又は同一或いは異なるメチル基、エチル基等の低級アルキル基又は置換若しくは無置換のフェニル基を、Xは水酸基、O−低級アルキル基、アミノ基又はOYで表される塩[Yはナトリウム、カリウム等の金属又はリゾチーム、塩基性アミノ酸等の塩基性基を有する化合物を示す]をそれぞれ示す)で表される有機ゲルマニウム化合物を有効成分とすることを特徴とするものである。
【0015】
又、本発明は同時に、上記式(1)で表される有機ゲルマニウム化合物を有効成分とすることを特徴とするPOMS評価によるうつ病状態の改善剤を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤によれば、「抑うつ−落ち込み(D)」、「活気(V)」、「怒り−敵意(A−H)」、「疲労(F)」、「緊張−不安(T−A)」及び「混乱(C)」という複数の尺度の気分を改善し、これにより、当該患者が置かれている社会的な環境に応じた気分を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤は、上記の式(1)で表わされる特定の有機ゲルマニウム化合物を有効成分としているので、まずこの化合物について説明すると、これは置換基R乃至Rと酸素官能基OXとを有するプロピオン酸誘導体とゲルマニウム原子とが結合したゲルミルプロピオン酸を基本骨格とし、当該基本骨格におけるゲルマニウム原子と酸素原子とが2:3の割合で結合したものである。
【0018】
上記置換基R乃至Rは、同一或いは異なっており、それぞれ水素原子や、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基、ペンチル基やヘキシル基等のいわゆる低級アルキル基、置換され若しくは置換されていないフェニル基を、置換基Xは水酸基,O−低級アルキル基,アミノ基又はOYで表わされるカルボン酸の塩をそれぞれ示している。尚、Yはナトリウム、カリウム等の金属(但し、一価のものに限られない)、又は、リゾチーム、或いはリジン等の塩基性アミノ酸に代表される塩基性を有する化合物を示している。
【0019】
上記構造の有機ゲルマニウム化合物はすでに公知の化合物であり、様々な方法により製造することができるが、その一例を置換基R乃至Rが水素原子、置換基Xは水酸基の化合物について示せば、下記反応式に示すように、トリクロルゲルミルプロピオン酸等のトリハロゲルミルプロピオン酸を加水分解すれば良いのである。
【0020】
【化4】

【0021】
尚、上記有機ゲルマニウム化合物を表わす式(1)は、それを結晶として単離した状態に相当するもので、水溶液中ではゲルマニウム−酸素結合が加水分解を受け、例えば置換基R乃至Rが水素原子、置換基Xは水酸基の化合物では、
【0022】
【化5】

【0023】
なる構造をとることがわかっており、更に、上記有機ゲルマニウム化合物は以下の式で表すこともできる。
【0024】
【化6】

【0025】
本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤は、上記有機ゲルマニウム化合物を有効成分としているものであるが、その投与方法については特に制限を受けることはなく、経口的、非経口的或いは局所的に投与することができる。
【0026】
剤形についても特に制限を受けることはなく、必要に応じ公知の担体等を併用して、錠剤、散剤或いはカプセル剤等の経口投与剤、又は、注射剤等の非経口剤、ローション又は軟膏等の局所適用剤に製剤されるものである。
【0027】
又、本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤における有機ゲルマニウム化合物の含有量は必要に応じ、例えば5‐500mg/l投与単位程度とすればよく、投与量としては、症状等に応じ、例えば0.1−100mg/Kg/日程度とすればよい。
【0028】
尚、本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤が効果を示す代表的症例に、うつ状態或いはうつ病がある。
【実施例】
【0029】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、これは本発明をなんら制限するものではない。
【0030】
本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤の調製
有機ゲルマニウム化合物{上記式(1)において、R乃至Rが水素原子、Xが水酸基である化合物}250mgをカプセル剤に製剤した。
【0031】
投与対象
POMSによりうつ状態或いはうつ病と診断された患者21名を対象とした。尚、これらの患者は、うつ状態或いはうつ病の通常治療の結果、十分な回復が得られておらず、本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤の投与期間中は、本発明の改善剤の投与以外、うつ病の通常治療その他の治療は投与前と同じで、変更はしないこととした。
【0032】
投与量及び投与期間
上記のようにして調製したPOMS評価による主観的精神状態の改善剤を1日3回、経口摂取させた。投与期間は6ヶ月とした。
【0033】
安全性の確認
投与期間中に、臨床症状、問診及び血液検査を行った。
【0034】
臨床効果の判定
本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤の投与前及び投与期間経過後に、各患者をPOMS{「日本語版POMSNo.850」(構成:横山和仁、荒木俊一、発行:金子書房)}により診断した。結果を図1乃至図6に示す。これらの図に示すとおり、投与後の「緊張−不安(T−A)」、「抑うつ−落ち込み(D)」、「怒り−敵意(A−H)」、「活気(V)」、「疲労(F)」、及び「混乱(C)」の各数値が、投与前に比較して有意に改善されている。
【0035】
尚、投与期間中、特記すべき副作用等は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤の投与前及び投与期間経過後における「緊張−不安(T−A)」の改善を示す図である。
【図2】本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤の投与前及び投与期間経過後における「抑うつ−落ち込み(D)」の改善を示す図である。
【図3】本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤の投与前及び投与期間経過後における「怒り−敵意(A−H)」の改善を示す図である。
【図4】本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤の投与前及び投与期間経過後における「活気(V)」の改善を示す図である。
【図5】本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤の投与前及び投与期間経過後における「疲労(F)」の改善を示す図である。
【図6】本発明のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤の投与前及び投与期間経過後における「混乱(C)」の改善を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、R乃至Rは水素原子又は同一或いは異なるメチル基、エチル基等の低級アルキル基又は置換若しくは無置換のフェニル基を、Xは水酸基、O−低級アルキル基、アミノ基又はOYで表される塩[Yはナトリウム、カリウム等の金属又はリゾチーム、塩基性アミノ酸等の塩基性基を有する化合物を示す]をそれぞれ示す)で表される有機ゲルマニウム化合物を有効成分とすることを特徴とするPOMS評価による主観的精神状態の改善剤。
【請求項2】
式(1)において、R乃至Rが水素原子、Xが水酸基である有機ゲルマニウム化合物を有効成分とする請求項1に記載のPOMS評価による主観的精神状態の改善剤。
【請求項3】
式(1)
【化2】

(式中、R乃至Rは水素原子又は同一或いは異なるメチル基、エチル基等の低級アルキル基又は置換若しくは無置換のフェニル基を、Xは水酸基、O−低級アルキル基、アミノ基又はOYで表される塩[Yはナトリウム、カリウム等の金属又はリゾチーム、塩基性アミノ酸等の塩基性基を有する化合物を示す]をそれぞれ示す)で表される有機ゲルマニウム化合物を有効成分とすることを特徴とするPOMS評価によるうつ病状態の改善剤。
【請求項4】
式(1)において、R乃至Rが水素原子、Xが水酸基である有機ゲルマニウム化合物を有効成分とする請求項3に記載のPOMS評価によるうつ病状態の改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−169146(P2008−169146A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3466(P2007−3466)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(391001860)株式会社浅井ゲルマニウム研究所 (4)
【Fターム(参考)】