説明

PWM電力変換器の並列運転装置および並列運転方法

【課題】デッドタイム補償後の遅延時間DTC_DLYおよび横流補償による遅延時間CCC_DLYをそれぞれ無くすこともできる。
【解決手段】デッドタイム補償部6は、PWM制御部4A,4BからのPWM指令(Gate)と相電圧(Vce1,Vce2)のオン・オフ時間の誤差時間を検出し、これら誤差時間を電圧指令値(Vcmd)と同じ単位のデッドタイム補償電圧(Vdtc)として変換し、これらを各インバータ1,2の次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各インバータの共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算する。横流制御部9は、各インバータ間の横流(Ic)を検出し、各インバータの共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値(Vccc)として求め、この横流補償値(Vccc)を横流(Ic)の値に応じて一方のPWM電圧指令値に加算し、他方のPWM電圧指令値から減算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWM電力変換器の並列運転装置および並列運転方法に係り、特に、PWM電力変換器間の横流補償と各PWM電力変換器のデッドタイム補償に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換器は半導体素子を主回路スイッチング素子としてインバータまたはコンバータに構成される。この電力変換器の大容量化手段として、複数台の電力変換器の出力を並列接続して各電力変換器を同期運転する方法がある(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
一般に、電力変換器の並列運転には出力電流を低下させる2つの要因が考えられる。一つ目の要因は横流の存在である。電力変換器の並列運転では出力を単に並列接続するだけでは電力変換器内部の素子の特性により、各装置の出力電流に不平衡が生じ、装置間に横流と呼ばれる循環電流が発生する。横流発生の原因として、配線インピーダンスの差、スイッチング素子のストレージタイムの差が考えられる。
【0004】
二つ目の要因はデッドタイムの存在である。電力変換器の上下アーム短絡を防ぐためにデッドタイム生成回路がある。デッドタイム生成回路は上下アームが短絡しないようにデッドタイムを付加してゲート信号を作成する。
【0005】
このようなデッドタイムを付加した電力変換器において、デッドタイムの存在が出力電流波形を歪ませる原因になる。従来の技術ではこの2つの要因を補償するために2つの補償回路を付加して電力変換器を並列運転している。
【0006】
図5は特許文献1に記載される電力変換器の並列運転装置を示す。同図は2台の3相PWMインバータに横流補償とデッドタイム補償を付加した場合であり、単線図で表記する。図5の中で信号線に3本の斜線がある意味は3相あることを意味している。インバータ1、インバータ2の直流入力は直流電圧源PNであり、これを並列に接続する。インバータ1、2の出力は相間リアクトルL_mutで接続し、L_mutの中間タップから負荷に接続する。インバータ1、インバータ2それぞれの出力電流をI1、I2とし、負荷に供給される出力電流はIoである。ここで、電流制御に使用する検出電流をIdetとする。また、横流IcはI1、I2の偏差で表される。下式にI1、I2、Io、Idet、Icの関係を示す。
【0007】
Io=I1+I2=Idet
Ic=I2−I1
電流制御部(ACR:Automatic Current Regulator)3は、両インバータに共通の電流指令値Icmdと両インバータの出力電流を平均した検出電流Idetの偏差を比例積分(PI)演算して両インバータ共通の電圧指令値Vcmdを生成する。PWM(Pulse Width Modulation)制御部4は、両インバータ共通の電圧指令値Vcmdとキャリア生成部5からの三角搬送波(キャリア:Carrier)を比較し、ゲート指令(PWM指令)Gateを生成する。
【0008】
デッドタイム補償部(DTC:Dead Time Compensation)6は、ゲート指令Gateと検出相電圧Vce1、Vce2とのオンタイムおよびオフタイムの誤差を検出し補償を行い、デッドタイム補償後のゲート指令Gate’を生成する。
【0009】
このデッドタイム補償演算には、インバータ1、インバータ2の検出相電圧V1、V2から、相電圧検出部(Vce)7が絶縁された検出相電圧Vce1、Vce2として出力する。インバータを2台並列接続するため、検出する誤差も2つの誤差(ゲート指令Gateと相電圧Vce1の誤差とゲート指令Gateと相電圧Vce2の誤差)があり、デッドタイム補償に使用する値は例えば2台のインバータの検出誤差の平均を取る。デッドタイム補償法の詳細は例えば特許文献3で提案されている。
【0010】
横流補償部(CCC:Cross Current Compensation)8は、ゲート指令Gate’に対する横流補償演算を行い、インバータ1のゲート指令Gate1’およびインバータ2のゲート指令Gate2’を生成する。横流制御部(Balance ACR)9は、電流I1、I2の偏差(横流値Ic)を比例積分(PI)演算して横流分として求め、この横流分を補償するための横流補償時間Tcccとして算出し、これを横流補償部8にフィードバックする。
【0011】
デッドタイム生成部(DT1、DT2)10、11は、ゲート指令Gate1’およびGate2’を入力とし、これらにデッドタイム期間Tdを付加したスイッチング指令G1_U、G1_L、G2_U、G2_Lを出力する。これら信号はインバータ1、2の各相および上下アーム別のスイッチング指令であり、インバータ1.2の各相の上下アームになるスイッチング素子間にデッドタイムを持たせてオン・オフ動作させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3185257号公報
【特許文献2】特開2004−15923号公報
【特許文献3】特許第3496943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図6に従来のデッドタイム補償と横流補償のタイムチャートを示す。図6において、従来のデッドタイム補償では、ゲート指令Gateと検出相電圧Vceとの誤差Vce_DLYを計測し、この計測誤差が小さくなるようにデッドタイム補償を行っている。補償後のゲート指令Gate’は補償によりゲート指令Gateに近づいた指令になっている。しかし、まだ、ゲート指令Gateと補償後のゲート指令Gate’とには遅延時間DTC_DLYが存在する。
【0014】
従来の横流補償では、デッドタイム補償と干渉させないようにするために横流補償遅延CCC_DLYが存在する。横流補償は横流補償遅延CCC_DLYを中心にパルスの幅を横流補償時間Tccc分増やしたり、減らしたりすることで実現する。
【0015】
なお、上記の誤差Vce_DLYは、ゲートGateの前縁での誤差と後縁での誤差で異なるが、図6および実施形態では説明簡略化のために同じものとして説明する。同様に、上記の遅延時間DTC_DLYは、相電圧Vce1とVce2が等しいものとして、以下では前縁と後縁で同じ遅延時間として説明する。さらに、横流補償時間Tcccも前縁と後縁で同じ補償時間として説明する。
【0016】
上記のデッドタイム補償および横流補償を行った結果、Gateの幅は大きく変化する場合がある。もし、Gate自体が細いパルス出力であった場合、デッドタイム生成時にパルス欠けが発生する可能性が高い。これより、従来の技術の補償では最小オンパルス時間の制限を長くする要因となり、細いパルスが出力できなくなり、結果的にインバータの最大出力の上限が低下する。
【0017】
また、デッドタイム補償および横流補償の二つの補償を行うことで、遅延時間がDTC_DLYとCCC_DLYを合計した遅延時間が発生する。特に、インバータを高応答で使用する場合、これらの遅延時間が無駄時間にとなり、応答速度の上限が制限される。
【0018】
本発明の目的は、デッドタイム補償後の遅延時間DTC_DLYおよび横流補償による遅延時間CCC_DLYをそれぞれ無くすこともできるPWM電力変換器の並列運転装置および並列運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記の課題を解決するため、並列PWM電力変換器の共通の電圧指令値に各PWM電力変換器のデッドタイム補償値の平均値を加算し、これに各PWM電力変換器別の横流補償値をそれぞれ加算してPWM電力変換器別の電圧指令値を生成するようにしたもので、以下の装置および方法を特徴とする。
【0020】
(装置の発明)
(1)複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器のデッドタイム補償手段を有して各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転装置であって、
前記デッドタイム補償手段は、各PWM電力変換器の相電圧(Vce)を検出する相電圧検出部と、各PWM電力変換器別のPWM制御部からのPWM指令(Gate)と前記相電圧(Vce)のオン時間の誤差時間を検出、およびPWM指令(Gate)と相電圧(Vce)のオフ時間の誤差時間を検出し、これら検出した誤差時間を各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位のデッドタイム補償電圧(Vdtc)としてそれぞれ変換し、これらデッドタイム補償電圧を各PWM電力変換器の次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算するデッドタイム補償部を備えたことを特徴とする。
【0021】
(2)複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器間の横流補償手段を有して各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転装置であって、
前記横流補償手段は、各PWM電力変換器間の横流(Ic)を検出し、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値(Vccc)として求め、この横流補償値(Vccc)を前記横流(Ic)の値に応じて一方のPWM電圧指令値に加算し、他方のPWM電圧指令値から減算する横流制御部を備えたことを特徴とする。
【0022】
(3)複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器間の横流補償手段と各PWM電力変換器のデッドタイム補償手段を有して各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転装置であって、
前記デッドタイム補償手段は、各PWM電力変換器の相電圧(Vce)を検出する相電圧検出部と、各PWM電力変換器別のPWM制御部からのPWM指令(Gate)と前記相電圧(Vce)のオン時間の誤差時間を検出、およびPWM指令(Gate)と相電圧(Vce)のオフ時間の誤差時間を検出し、これら検出した誤差時間を各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位のデッドタイム補償電圧(Vdtc)としてそれぞれ変換し、これらデッドタイム補償電圧を各PWM電力変換器の次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算するデッドタイム補償部を備え、
前記横流補償手段は、各PWM電力変換器間の横流(Ic)を検出し、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値(Vccc)として求め、この横流補償値(Vccc)を前記横流(Ic)の値に応じて一方のPWM電圧指令値に加算し、他方のPWM電圧指令値から減算する横流制御部を備えたことを特徴とする。
【0023】
(方法の発明)
(4)複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器のデッドタイム補償をして各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転方法であって、
前記デッドタイム補償は、相電圧検出部が各PWM電力変換器の相電圧(Vce)を検出し、デッドタイム補償部が、各PWM電力変換器別のPWM制御部からのPWM指令(Gate)と前記相電圧(Vce)のオン時間の誤差時間を検出、およびPWM指令(Gate)と相電圧(Vce)のオフ時間の誤差時間を検出し、これら検出した誤差時間を各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位のデッドタイム補償電圧(Vdtc)としてそれぞれ変換し、これらデッドタイム補償電圧を各PWM電力変換器の次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算することを特徴とする。
【0024】
(5)複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器間の横流補償をして各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転方法であって、
前記横流補償は、横流制御部が、各PWM電力変換器間の横流(Ic)を検出し、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値(Vccc)として求め、この横流補償値(Vccc)を前記横流(Ic)の値に応じて一方のPWM電圧指令値に加算し、他方のPWM電圧指令値から減算することを特徴とする。
【0025】
(6)複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器間の横流補償と各PWM電力変換器のデッドタイム補償をして各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転方法であって、
前記デッドタイム補償は、相電圧検出部が各PWM電力変換器の相電圧(Vce)を検出し、デッドタイム補償部が、各PWM電力変換器別のPWM制御部からのPWM指令(Gate)と前記相電圧(Vce)のオン時間の誤差時間を検出、およびPWM指令(Gate)と相電圧(Vce)のオフ時間の誤差時間を検出し、これら検出した誤差時間を各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位のデッドタイム補償電圧(Vdtc)としてそれぞれ変換し、これらデッドタイム補償電圧を各PWM電力変換器の次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算し、
前記横流補償は、横流制御部が、各PWM電力変換器間の横流(Ic)を検出し、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値(Vccc)として求め、この横流補償値(Vccc)を前記横流(Ic)の値に応じて一方のPWM電圧指令値に加算し、他方のPWM電圧指令値から減算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
以上のとおり、本発明によれば、並列PWM電力変換器の共通の電圧指令値に各PWM電力変換器のデッドタイム補償値の平均値を加算し、これに各PWM電力変換器別の横流補償値をそれぞれ加算してPWM電力変換器別の電圧指令値を生成するようにしたため、デッドタイム補償後の遅延時間DTC_DLYおよび横流補償による遅延時間CCC_DLYをそれぞれ無くすことができる。
【0027】
これら遅延時間DTC_DLYと遅延時間CCC_DLYを個々に無くすこと、および同時に無くすことにより、従来の個々の課題および両方の課題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態になるPWM電力変換器の並列運転装置の構成図。
【図2】本発明の実施形態になるデッドタイム補償のタイムチャート。
【図3】本発明の実施形態になる横流補償のタイムチャート。
【図4】従来と実施形態によるデッドタイム補償波形と横流補償波形図。
【図5】従来の電力変換器の並列運転装置の構成例を示す図。
【図6】従来のデッドタイム補償と横流補償のタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(1)装置の構成
図1は、本発明の実施形態になるPWM電力変換器の並列運転装置の構成を示す。同図は2台の3相PWMインバータに横流補償とデッドタイム補償を併用した場合であり、単線図で表記する。なお、同様の構成を3台以上のPWMインバータの並列運転装置に適用、さらには3台以上のPWM電力変換器の並列運転装置に適用することもできる。
【0030】
インバータ1、インバータ2の直流入力は直流電圧源PNであり、これを並列に接続する。インバータ1、2の出力は相間リアクトルL_mutで接続し、L_mutの中間タップから負荷に接続する。インバータ1、インバータ2それぞれの出力電流をI1、I2とし、負荷に供給される出力電流はIoである。ここで、電流制御に使用する検出電流をIdetとする。また、横流IcはI1、I2の偏差で表される。Idetは電流指令Icmdに追従するように電流制御を行う。電流制御部3は電圧指令値Vcmdを生成する。
【0031】
本実施形態のデッドタイム補償および横流補償は、デッドタイム生成によってパルス欠けを発生することを防止し、補償による遅延を最小にすることや、デッドタイム補償と横流補償を干渉させないために、PWM制御部からのゲート指令(PWM指令)に対するデッドタイム補償値、さらには横流補償値を加算するのではなく、並列インバータの共通の電圧指令値に各インバータのデッドタイム補償値の平均値を加算し、これに各インバータ別の横流補償値をそれぞれ加算してインバータ別の電圧指令値を生成する。よって、PWM制御部はインバータの並列台数分だけ設ける。本実施形態の場合、インバータは2台あるのでそれぞれのPWM制御部4A,4BをPWM1、PWM2とする。
【0032】
PWM1では電圧指令値Vcmd1’と三角搬送波Carrierを比較し、ゲート指令Gate1を生成し、同様にPWM2では電圧指令値Vcmd2’とCarrierを比較し、ゲート指令Gate2を生成する。デッドタイム生成部(DT1、DT2)10,11は、Gate1’およびGate2’を入力とし、デッドタイム期間Tdを有したスイッチング指令G1_U、G1_L、G2_U、G2_Lを出力する。これら信号はインバータ1、2の各相および上下アーム別のスイッチング指令であり、インバータ1.2の各相の上下アームになるスイッチング素子間にデッドタイムを持たせてオン・オフ動作させる。
【0033】
(2)デッドタイム補償
デッドタイム補償について説明する。図2にデッドタイム補償のタイムチャートを示す。ただし、図2は片方のインバータ1のタイムチャートのみを示す。まず、ゲート指令Gate1と検出相電圧Vce1のオンタイムとオフタイムの誤差Vce_DLY1を計測する。デッドタイム補償部(DTC)6は、誤差時間計測値をデッドタイム補償に使用するため、誤差時間計測値を電圧指令値Vcmd[p.u.]と同じ単位(電圧)に変換したデッドタイム補償電圧Vdtc1[p.u.]を得る。このデッドタイム補償電圧Vdtc1は、PWM制御のキャリア生成部5が生成するキャリア信号の片振幅を1[p.u.]、キャリア周波数Fc[Hz]とすると下式の演算で求められる。
【0034】
Vdtc1[p.u.]=2×Vce_DLY1[s]×2Fc[Hz]
同様に、デッドタイム補償部(DTC)6は、他方のインバータ2のゲート指令Gate2とオンタイムとオフタイムの誤差Vce2を検出し、デッドタイム補償電圧Vdtc2を求める。さらに、デッドタイム補償部(DTC)6は、インバータ2台分のVce_DLYが存在するので、それぞれのデッドタイム補償電圧Vdtc1,Vdtc2の平均をとり、それをデッドタイム補償電圧Vdtcとして出力する。
【0035】
デッドタイム補償部(DTC)6からのデッドタイム補償電圧Vdtcは、デッドタイム補償前のGate1と補償後の検出相電圧Vce1が一致するように、電圧指令値Vcmdに重畳させる。この重畳は、次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算するものであり、例えば、PWMキャリアが下降中はオンタイムのデッドタイム補償電圧Vdtcを加算し、PWMキャリアが上昇中はオフタイムのデッドタイム補償電圧Vdtcを減算する。これにより、デッドタイム補償前のGate1と補償後のVce1を一致させ、その誤差をほぼ零にしたデッドタイム補償が可能となる。
【0036】
以上のように、本実施形態によるデッドタイム補償により、デッドタイム補償前のゲート指令Gateとデッドタイム補償後の相電圧検出値Vceの誤差をほぼ零にすることができ、デッドタイム補償後の遅延時間DTC_DLYを無くすことができる。これに伴い、最小オンパルス時間の制限を小さくすることができ、より細いPWMパルスが出力可能になる。また、より細いPWMパルスが出力可能であれば、インバータなどの電力変換器の最大出力電圧を大きくすることができる。また、PWMインバータの無駄時間が小さくなることで、電流制御および周波数制御の応答が向上する。また、電圧指令にデッドタイム補償値を重畳しているため、デッドタイム生成時にパルス欠けが発生することはない。
【0037】
また、相電圧検出部7は、従来の機構と変化ないため、デッドタイム補償部6のみを変更することで済む。
【0038】
さらに、デッドタイム補償により、出力電流の6f成分を小さくすることができる。図4(a)は、インバータに誘導性負荷を接続した試験での従来装置における電流波形を示し、図4(b)は本実施形態によるデッドタイム補償を適用した場合の電流波形を示す。これら波形図から、本実施形態によるデッドタイム補償によって、図4(a)の波形と比較して図4(b)のように電流のひずみが低減していることが確認できた。
【0039】
(3)横流補償
横流補償について説明する。図3に横流補償のタイムチャート示す。ここで、図3は説明簡略化のためにデッドタイム補償電圧Vdtc=0の場合を示す。
【0040】
横流制御部(Balance ACR)9は、インバータ1、2の出力電流I1、I2の偏差(横流値Ic)を比例積分(PI)演算し、各PWMインバータの共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値Vcccとして求める。この横流補償値Vcccは、横流値Icが零になるように、デッドタイム補償後の電圧指令値Vcmd’に加算してインバータ1の電圧指令値Vcmd1’とし、デッドタイム補償後の電圧指令値Vcmd’から減算してインバータ2の電圧指令値Vcmd2’とする。これにより、2つのインバータ1,2の電圧は横流が発生しない方向に偏差が生まれるので、横流は小さくなる。
【0041】
以上までに説明したデッドタイム補償電圧Vdtcと横流補償電圧Vcccは、デッドタイム補償後電圧指令値Vcmd’、横流補償後電圧指令値Vcmd1’、Vcmd2’とは下式の関係になる。
【0042】
Vcmd’=Vcmd+Vdtc
Vcmd1’=Vcmd’+Vccc
Vcmd2’=Vcmd’+Vccc
以上のように、本実施形態による横流補償により、横流補償前のゲート指令Gate’と横流補償後のゲート指令Gate1’、Gate2’の遅延時間CCC_DLYをほぼ零にでき、この横流補償による遅延時間CCC_DLYを無くすことができる。これに伴い、最小オンパルス時間の制限を小さくなることができ、より細いPWMパルスが出力可能になる。また、より細いPWMパルスが出力可能であれば、インバータなどの電力変換器の最大出力電圧を大きくすることができる。また、PWMインバータの無駄時間が小さくなることで、電流制御および周波数制御の応答が向上する。また、電圧指令に横流補償値を重畳しているため、横流補償によりパルス欠けが発生することはない。また、横流制御部9は従来の機構と変化ないため、横流補償部8のみを変更することで済む。
【0043】
さらに、横流補償により、出力電流のひずみを小さくすることができる。図4(c)は本実施形態による横流補償を適用した場合の電流波形を示し、図4(a)の波形と比較して図4(c)のように電流のひずみが低減していることが確認できた。
【0044】
(4)デッドタイム補償と横流補償の併用
前記まではデッドタイム補償と横流補償を個別に適用した場合の作用効果を説明したが、デッドタイム補償と横流補償を同時に適用することで相乗効果を得ることができる。
【0045】
例えば、デッドタイム補償および横流補償を電圧指令に同時に重畳する場合は、各々の補償の非干渉化が可能になる。図4(d)は、図1の構成によるデッドタイム補償および横流補償を同時に適用した場合の電流波形を示し、デッドタイム補償および横流補償は互いに干渉せず、図4(b)、(c)の補償効果を有していることが確認できた。
【符号の説明】
【0046】
1、2 インバータ
3 電流制御部
4,4A,4B PWM制御部
5 キャリア生成部
6 デッドタイム補償部
7 相電圧検出部
8 横流補償部
9 横流制御部
10、11 デッドタイム生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器のデッドタイム補償手段を有して各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転装置であって、
前記デッドタイム補償手段は、各PWM電力変換器の相電圧(Vce)を検出する相電圧検出部と、各PWM電力変換器別のPWM制御部からのPWM指令(Gate)と前記相電圧(Vce)のオン時間の誤差時間を検出、およびPWM指令(Gate)と相電圧(Vce)のオフ時間の誤差時間を検出し、これら検出した誤差時間を各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位のデッドタイム補償電圧(Vdtc)としてそれぞれ変換し、これらデッドタイム補償電圧を各PWM電力変換器の次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算するデッドタイム補償部を備えたことを特徴とするPWM電力変換器の並列運転装置。
【請求項2】
複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器間の横流補償手段を有して各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転装置であって、
前記横流補償手段は、各PWM電力変換器間の横流(Ic)を検出し、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値(Vccc)として求め、この横流補償値(Vccc)を前記横流(Ic)の値に応じて一方のPWM電圧指令値に加算し、他方のPWM電圧指令値から減算する横流制御部を備えたことを特徴とするPWM電力変換器の並列運転装置。
【請求項3】
複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器間の横流補償手段と各PWM電力変換器のデッドタイム補償手段を有して各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転装置であって、
前記デッドタイム補償手段は、各PWM電力変換器の相電圧(Vce)を検出する相電圧検出部と、各PWM電力変換器別のPWM制御部からのPWM指令(Gate)と前記相電圧(Vce)のオン時間の誤差時間を検出、およびPWM指令(Gate)と相電圧(Vce)のオフ時間の誤差時間を検出し、これら検出した誤差時間を各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位のデッドタイム補償電圧(Vdtc)としてそれぞれ変換し、これらデッドタイム補償電圧を各PWM電力変換器の次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算するデッドタイム補償部を備え、
前記横流補償手段は、各PWM電力変換器間の横流(Ic)を検出し、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値(Vccc)として求め、この横流補償値(Vccc)を前記横流(Ic)の値に応じて一方のPWM電圧指令値に加算し、他方のPWM電圧指令値から減算する横流制御部を備えたことを特徴とするPWM電力変換器の並列運転装置。
【請求項4】
複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器のデッドタイム補償をして各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転方法であって、
前記デッドタイム補償は、相電圧検出部が各PWM電力変換器の相電圧(Vce)を検出し、デッドタイム補償部が、各PWM電力変換器別のPWM制御部からのPWM指令(Gate)と前記相電圧(Vce)のオン時間の誤差時間を検出、およびPWM指令(Gate)と相電圧(Vce)のオフ時間の誤差時間を検出し、これら検出した誤差時間を各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位のデッドタイム補償電圧(Vdtc)としてそれぞれ変換し、これらデッドタイム補償電圧を各PWM電力変換器の次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算することを特徴とするPWM電力変換器の並列運転方法。
【請求項5】
複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器間の横流補償をして各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転方法であって、
前記横流補償は、横流制御部が、各PWM電力変換器間の横流(Ic)を検出し、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値(Vccc)として求め、この横流補償値(Vccc)を前記横流(Ic)の値に応じて一方のPWM電圧指令値に加算し、他方のPWM電圧指令値から減算することを特徴とするPWM電力変換器の並列運転方法。
【請求項6】
複数台のPWM電力変換器の出力を並列接続し、各PWM電力変換器間の横流補償と各PWM電力変換器のデッドタイム補償をして各電力変換器を同期運転するPWM電力変換器の並列運転方法であって、
前記デッドタイム補償は、相電圧検出部が各PWM電力変換器の相電圧(Vce)を検出し、デッドタイム補償部が、各PWM電力変換器別のPWM制御部からのPWM指令(Gate)と前記相電圧(Vce)のオン時間の誤差時間を検出、およびPWM指令(Gate)と相電圧(Vce)のオフ時間の誤差時間を検出し、これら検出した誤差時間を各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位のデッドタイム補償電圧(Vdtc)としてそれぞれ変換し、これらデッドタイム補償電圧を各PWM電力変換器の次回のPWM制御のオン/オフの極性に応じて、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)に加減算し、
前記横流補償は、横流制御部が、各PWM電力変換器間の横流(Ic)を検出し、各PWM電力変換器の共通の電圧指令値(Vcmd)と同じ単位の横流補償値(Vccc)として求め、この横流補償値(Vccc)を前記横流(Ic)の値に応じて一方のPWM電圧指令値に加算し、他方のPWM電圧指令値から減算することを特徴とするPWM電力変換器の並列運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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